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頂き物の小説
第43話「とある魔導師と祝福の風と暴君のクリスマスの過ごし方」




「………………あれ?」



 なんやかんやあってちょっと出遅れたお昼ご飯。昼休みのラッシュもいい加減はけてカウンターは閑散としてる……んだけど。



「……何ハッスルしてるんですか? ジュンイチさん」

「おぅ、恭文か」



 そう。もう注文する人なんかまばらなのに、なぜかジュンイチさんは厨房でフル回転してた。



「お前だって覚えてるだろ。
 オレとギンガが大ゲンカした一件」



 …………あぁ、そういうことか。



 ジュンイチさんの言葉で、思い出す……ジュンイチさんの鈍チンが原因でギンガさんと大もめしたあの一件。あれでみんなに迷惑をかけたお詫びに、みんなのリクエストに応えて手料理を一品ずつ振る舞うって話だったね。

 自分の分はもう終わったから、すっかり忘れてたよ。



 ………………ちなみに、僕が頼んだのは玉子焼き。

 たかが玉子焼きと侮るなかれ。玉子焼きっていうのはシンプルにして実に奥が深い。料理人の腕がロコツに出るのだ。

 ……はい。僕の料理の腕がまだまだジュンイチさんには及ばないって実感しました。

 料理についてはレパートリーが一番の取り得なジュンイチさんだけど、だからって味つけはダメってワケじゃないしね。そもそも味つけもある程度の腕がなきゃ、たくさんの料理の作り分けなんかできないんだし。







 で……そのことを思い出すと同時に、納得した。



 向こうのテーブルで、どーしてスバルやティアナ、こなたにヒロさんサリさんが注文もとらずに集合してるのか。







「………………はい、お待ち」







 そんなことを考えていたら、ジュンイチさんの支度が終わったみたいだ。両手のトレーに人数分の料理を乗せてやって来た。







 えっと……スバルがギガ盛りのアイスでティアナがナポリタン、こなたがカレーでヒロさんがチャーシュー麺か。







「えへへ……お兄ちゃんのアイス久しぶり!
 いっただっきまーすっ!」



 本当にうれしそうに、スバルがアイスの制圧に取りかかる。他のみんなもさっそく食べ始めて、ジュンイチさんの料理に舌鼓を打っていて……







「………………あのさ、ジュンイチ」







 口を開いたのは、料理を出された最後のひとり……サリさん。







「オレは、確かに地球の三大珍味を頼んだ」







 あぁ、頼んでましたね。トリュフ、フォアグラ、でもってキャビア……







「ここ最近ドタバタしてたのに、いつ材料を調達したのかは……まぁ、こうして調達してきてくれたワケだし、別にいいだろう」







 こないだなのは達を連れて修行しに帰った時……じゃ、ないだろうな。アレから日数経ってるし。ホント、いつ手配したんだろ、この人。







「ただ、な……
 その地球三大珍味が、だ……」





















「どうして、お茶漬けの具にされてるんだ?」





















 そう。



 一体いくらするのか、怖くて聞けないような高級食材の数々は、下ごしらえをしただけで無造作にどんぶり一杯のお茶漬けの中にぶち込まれていた。



 で、疑問に思うサリさんに対して、ジュンイチさんは……







「サリ兄は食材を指定しただけで、調理方法は指定してなかったからね」







 いけしゃーしゃーとそうのたまった。



「他にも山のようにオーダー入ってたんだぜ。余計な手間暇かけてられるか。
 どういう料理にしろ、なんて言われてないんなら、可能な限り簡素に仕上げるのは当たり前だろ」

「………………でも、その理屈で言ったら、“調理せずにそのまま出すのが一番”ってことにならない?」



 脇から口をはさむのはスバルだ……フッ、まだまだ甘いね。ジュンイチさんの真意がわからないと見える。



《簡単な話ですよ、スバルさん。
 ただそのまま出してしまったのでは、それを使って自分でまともな料理を作られてしまう可能性があります。
 だからこそのお茶漬け……可能な限り簡素に、そして確実に手を加えて出すことで、その逃げ道をふさいだ、というワケです》

「ぅわ、えげつなっ!」

「お前、そこまでやるかよ……」

「大変だったんだぜ……食材調達」



 こめかみに青筋を浮かべてサリさんが立ち上がる……けど、ジュンイチさんのその言葉に動きを止めた。



「元々が高級食材だからな。値段的にはオレの稼ぎならぜんぜん平気だけど、店頭での取扱量なんかたかが知れてる。狭き門にもほどがある。
 となると確実なのは市場で卸すことなんだけど、やっぱり高級食材だから一般の購入なんて敷居が高い高い。
 なじみの市場に声かけまくって、ムリ言ってキープしてもらって……ずいぶん迷惑をかけたもんさ」



 しみじみと告げるジュンイチさんの言葉にすっかり反撃の勢いを削がれて、サリさんはおとなしく座ってお茶漬けをすすり始めた。







 たぶん、世界で一番高価なお茶漬けだよ……たっぷり堪能するといいよ、うん。











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第43話「とある魔導師と祝福の風と暴君のクリスマスの過ごし方」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……そして、あっという間にイヴ……というか、その前日の夜。僕とフルサイズなリインは、本局の転送ポートから、ハラオウン家の方に向かった。



 で、簡単なクリスマスパーティーをやった。

 ……というか、本気でパパは修正しよう。そんな事を思う一夜を過ごして、朝一番で出かける。



 うぅ、また双子コンビに泣かれてしまった。本当にちょっとだけだったしな。







 二人……いや、三人だけで、ゆっくりと雪に包まれた街を歩いていく。



 吐く息は白く、空気の冷たさを間接的に伝えていた。







「リイン、大丈夫?」

「大丈夫ですよ。手を……つないでますし」

「そうだね。すごく……暖かい」





 つないだ手の暖かさが心まで暖めてくれる……それに二人で心を委ねつつ、どこか足早に雪の街を歩いていく。



 景色が変化する。市街地のそれから、木々が多くなる。歩く道も、少しだけ坂になる。

 そうして、二人で少しだけ息を荒くしながら、目的地に到着した。







「……真っ白です」

「うん、真っ白だ」







 そこは、海鳴の街が一望出来る高台。木のフェンスのすぐ側に備えつけられている木のベンチに、二人で積もった雪を払って、ちょこんと座る。

 だって、急ぎ足で来たから、ちょっと疲れたし。



 そうして見る。海鳴の景色じゃなくて、高台の方を。自分達の足跡が、ゆっくりと降りしきる雪で消えかけていくのがわかる。



「というか、リイン」

「はい?」

「なんで腕に組みついてるの?」



 座りながら、僕の右側に座ったリインによって、腕が占領されていた。



「こうすると、暖かくて幸せだからですよ」

「……そっか」

「でも、ちょこっとお別れですね」



 そう言って、腕を話した。そして、背筋をピンと立てる。



「きちんとしないと、いけませんから」

「……そうだね」



 僕もそれに倣う。そして、息を吐いて呼吸を整える。



「んじゃ……」

「はい」











 僕達は、ゆっくりと立ち上がって、瞳を閉じる。そして、語りかける。ううん、届くように願いながら、言葉をつむぐ。







 それは、口から言葉にはならない。思念通話のようなものにもならない。







 それは心からそのまま送るものだから……これでいいの。きっと、届いてるから。







 ……今年も来ました。というか、すみません。一日早いですよね。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今年も……来たよ。







 ………………まぁ、命日にも来てるから、そんなに久しぶりって感じでもないけどさ。











 誰に言うでもなく、心の中でだけ言葉にするオレの前にあるのは、よく見てみないとわからない程度に盛り上がった土の山。







 この下に……“彼女”が眠ってる。







 そう。お墓なんだ――俗に“土まんじゅう”とも言われる、墓石も墓標もない、簡素な埋葬だけのお墓。











 故人に語りかけるなんて、キャラじゃないってことは重々承知だ。



 いつまでも縛られちゃいけないってことも……わかってる。







 でも……必要だと思うから。











 オレがオレで……柾木ジュンイチである上で、“あの事件”は絶対に避けては通れない過去だから。





 そして……“彼女”はオレにとってとても大切な人で……





















 その「大切な人」を殺したのが……“オレ”だから。





















 だから……毎年、命日とクリスマスだけはここに来る。







 近況報告と……永遠に果たすことができなくなった、クリスマスパーティーの約束のために。











 そして……“あの事件”を忘れないために。







 あんなことを二度と繰り返させちゃいけない。そのために戦い抜く……その決意を、改めて自分に刻み込むために。











 改めて目を閉じ、心の中で言葉を紡ぐ。











 今年は、いろいろとでっかい報告が多くて大変だよ。



 でも……まぁ、元気でやってるからさ、大丈夫。







 オレはオレとして、これからも戦っていく。



 “あの事件”に縛られてる……それは否定しない。つか、できない。



 けど……それならせめて、“あの事件”を繰り返させないために、縛られよう。



 前に進むために……みんなの“これから”を切り拓くために、縛られよう。







 それが……こんな身体になって、アンタを殺して……ガキのクセして復讐鬼に成り果てた血みどろの生き方の果てに、オレなりに選んだ償いの道だから。







 だから……見届けてくれ。





















 ………………レム。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……じゃあ、みなさんも、アイツとリイン曹長が何してるかわからないんですか?」

「あぁ。バカ弟子もリインも、ぜってー教えてくれないんだよ……これ頼む」

「はい。
 ……どこへ行くかとかもですよね?」



 大事な部下と書類を片しながら、世間話だ。



 イヴってことで、コイツら、今日は午後からオフだからな。さすがに遠出はマズイけど……市街地へのクリスマスデートくらいはいいだろうってことだ。







 ………………デートかただ遊びに出るだけか、明暗ハッキリ出そうで明日がちょっと怖かったりするのは内緒だ。







 まぁ、そんなワケで、今日中に済ませなきゃならない書類をみんなでやっつけている最中なワケだ。







 で……今話題に上がってるのは、今日一日丸々オフな馬鹿弟子と八神家の末っ子について。



 ……ま、実を言うと、アイツらがどこ行ってるかはだいたい予想はついてるんだけどな。







「まぁ、アレだよアレ。お前も知っての通り、ムチャクチャ仲いいからよ。いろいろあるんだよ」

「……そうですね。
 あ、これ仕上がったんで、チェックお願いします」

「おう、ありがとな。
 で……スバル」

「はい?」

「ジュンイチのヤツはどうなんだよ?
 アイツも、毎年この日はいなくなるよな?」

「そうなんですよねー。
 こればっかりは、あたし達にも教えてくれないんですよ」

「お前にもか……
 あずさ……お前はさすがに知ってるだろ? 教えられないのかよ?」

「うん、そうだね。
 お兄ちゃんが話そうとしない以上、あたしの口からは……ね。
 ごめんね、ヴィータちゃん」

「あー、いいよ。
 少なくとも……アイツにとってそうとう重要なことだってのは、今の話でわかったからさ」



 アイツ、完全に逃げ場がなくならない限り自分のことぜってー話さねぇからなー。しかもその時起きてる事態に関わる部分だけだし。







 ホント、バカやってるフリしていろいろ背負いすぎなんだよ。あの暴君様はさ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………もろもろの報告を終えて、目を開ける。



 来年も必ず来る。オレがオレとして、戦い抜いた上で……そう改めて心に誓いながら。







 そして……







「………………何? 後つけてきたワケ?」

「開口一番、ずいぶんね」

「失礼しちゃいますね」







 振り向きもせずにかけた声に、二人が答える……ライカとジーナだ。



 二人も、ここのことは知ってるしね。つか、ブレイカーズのみんなやイクト……10年前の“瘴魔大戦”で戦った主要メンバーはみんな知ってる。唯一の例外はこういうことに一切興味を示さないブレードだけ。







 ………………うん。みんな10年前に“オレ”に殺されかけてるからね。さすがに話さざるを得ないと判断した親父や母さんがバラしたんだ。







 って言っても、オレが毎年命日だけじゃなくてイヴにも墓参りに来てるってのは、知らないと思ってたんだけど……







「残念。
 割と最初から知ってたわよ?」

「え? マヂ?」

「げきまぢ」

「ジュンイチさんの過去、私達も知ってるんですよ。当然……レムさんのことも。
 それでジュンイチさんが毎年イヴに決まって姿を消す……となれば、だいたい想像はつきますよ」



 ………………そっか。

 勘づかれないように動いてたつもりだったんだけどな……



「いや、ムリでしょ。
 どこ行ったかはごまかせても、いなくなること自体はごまかしようがないんだから」

「くそっ、やはりパーマンのコピー人形の再現に全力を尽くしておくべきだったか」

「………………なんで考えつく対策がそれなんですか……」



 ジーナがなんか呆れてるけど……いいんだよ。アレはその存在を知る者ならば誰もが一度は憧れるロマンの結晶なんだから。



「……たいていの人にとっては、自分の代わりに面倒ごとを押しつけようとする怠惰の結晶な気がするけど」



 ライカまでそういうコトを言うのか。

 アジアの某大国の作ったパチモンガンダムにブチキレて、「あんなモノを作る連中と同じ民族の血が4分の1でも自分に流れてるのが恥ずかしい」って流暢な広東語で抗議電話かましてたお前ならわかってくれると思ったんだけど。



「………………まぁ、いいや。
 で? 二人はオレを追っかけてきたワケ?」

「んー、それもあるけどさ……」

「せっかく来たんですし、私達もお参りしてきます」

「りょーかい。
 なら……お前らのことだから車で来てるだろ? 停めてある場所教えろよ。待ってるから」

「ん。ありがと」



 そして、ジーナから車を停めてある場所を聞いて、そちらに向かおうと歩き出して――











「………………で、六課のみんなには教えないの?」











 ライカの言葉に、その足を止めた。



「なんか、ナカジマ家のみなさんも知らないみたいじゃない。
 意外ね。アンタなら、少なくともクイントさんやゲンヤさんには教えてると思ってたんだけど」

「知らずにすむなら、それでいいだろ。
 自分の家族の殺人遍歴なんかさ」



 そう……少なくともあの人達が知っているのは“オレの身に起きたこと”だけ。“オレのしてきたこと”は、最低限しかあの人達にも教えてない。

 あの人達なら気にしないであろうことは容易に想像がつくけれど……それでも、やっぱり話しづらいものがあるんだよ。



 つか……お前らだって10年前に“オレ”に殺されかけたあの一件がなかったら、今でも知らないままだったと思うぞ?







 話す必要に迫られなかったら、10年経っても話せない……我ながらチキンだよね、まったく。







「それでも……やっぱり、教えてほしいと思います。
 自分達の大切な、“家族”のことなんですから」

「わかってるよ。
 わかってるし、オレだって話しておかなきゃいけないと思う……けど、話す踏ん切りがつかないんだよ」







 ………………ホント、情けないったらありゃしない。



 事情を知ってるコイツらにはこういう話もすんなりできるのに、いざクイントさん達の前に出ると言葉が出なくなるんだから困ったものだ……うん、かなりシャレにならないレベルで。







 …………あー、ダメだ。完っ全にクイントさん達の優しさに甘えてるよ、オレ。







「まぁ、少なくとも親世代組は、アンタが殺しをやってきたってことは多分気づいてる。
 早いうちに覚悟を決めて、さっさと話しておくことをオススメするわ……今なら“JS事件”のアレコレで悪役臭プンプンさせてるんだから、傷は浅いと思うわよ」

「あぁ。できることならそうするよ。
 じゃ、さっさと墓参り済ませてこいよ。待ってるからさ」



 ライカに答えて、さっさと車に向かう……オレのバイク、ゲイルにも車の場所のデータは送っておいたから、オートドライヴで向かっているはずだ。







 ………………『さっさと話せ』、か……



 わかっちゃいるんだけど……







 できることなら、また10年前みたいに「暴走した結果話さざるを得なくなる」なんて事態だけは、避けたいんだけどね……







 ………………考えれば考えるほどヤバイ気がしてきた。



 いい加減に全部ばらしてスッキリしようぜ。話す意気地のないチキンなオレよ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……しばらくの時をかけて、語りかけは終わった。







 やっぱ、センチメンタルかな。でも……いいか。決して無意味じゃない。







 そして、ゆっくりと目を……











「アンタら何してるんや?」











 …………………………え?







 ゆっくりと目を開けかけていた所に、声がかかった。それに驚きつつ、目を開けると……えぇっ!?











「はやて……?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……ここ最近ゴタゴタしたしな。気持ちの整理をつけるために、一日早いけど、ここへ来た。







 あの子……リインフォースが還っていった空が見渡せる、この場所に。







 久々に来たんやけど……まさか恭文達がいるとは。











「なんや、もしかして毎年これか?」

「あー、まーね」

「秘密にしてたかったんですけど……」

「まったく、アンタらは……」







 ま、えぇか。薄々勘づいてはいたしな。







「……んじゃはやて、僕達もう行くから」

「え?」

「ひとりの方がいいんじゃないの?」

「そうやな……
 ホンマ悪いけど、それで頼めるか?」







 私がそう言うと、二人はそのまま立って、歩き出した。







「僕達はこのまま適当にしてるから、何かあったら連絡してね」

「それじゃあはやてちゃん、また後でです〜」











 そう言うた二人に手を振って、そのまま見送る。残されたのは、私だけ。吐く息の白さを見て、改めて寒さを実感する。







 さて……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



《……マスター》







 それは、僕の思考に直接届いた声。というか、何?







《はやてさん、少し様子が……》







 おかしかったね。うん、いつもと違う空気出してた。



 つか……ここんとこずっとだよね。具体的には、今月の頭から。







《……実は、原因がひとつ思い当たります》







 奇遇だね、僕もだよ。後で答え合わせしようか。







《了解しました》







 あー、また問題発生? つか、なんでまた……











「……恭文さん」

「うん?」

「なにお話したですか?」

「うーん、いろいろ」



 痛くなりかけた思考を一旦外して、リインとの会話に集中する。



「というか、リインは?」

「……いろいろですよ」

《マスターと同じですね》

「元祖ヒロインですから♪」

「いや、それ関係なくないっ!?」











 ……僕とリインは毎年、クリスマスにはあそこへ行く。



 10年前、みんなを守るため、空に還っていった……初代リインフォースさんに顔を見せて、近況を報告するために。







 いや、仕方ないのよ。お墓があるワケでもなんでもないし、報告やらなんやらしようと思うと、これしか思いつかない。

 故人への語りかけなんてセンチメンタルかも知れないけど……必要なんだよ。きっとね。







 で、名前を受け継ぎ、妹とも言えるリインだけじゃなくて僕もそうしてるのには……理由がある。







 まー、あれだよ。間違いなく引く話ではあるから、今まで言いにくかったんだけど……。











 僕、そのお姉さんに会ったかもしれないのよ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 話は8年前。僕が事件に巻き込まれて、魔導師になってすぐの頃。

 その事件中に遭遇したオーバーSの違法魔導師との戦闘で、生死の境をさまよった。

 以前、六課に来てすぐの頃に話したあの一件だ。







 ……実は、アレにはスバル達には話してない部分がある。




















「……それでヤスフミ」

「うん」



 目が覚めて、やっと落ち着いた時、フェイトが来た。



「ちょっと聞きたいことがあるの」

「聞きたいこと?」

「……ヤスフミ、あの時、魔法使ったよね?」



 ……フェイトの言ってることがさっぱりだった。だって、魔法戦闘で魔法使うのは当たり前だったから。



「あ、ゴメン。わかりにくかったよね。
 ……最後に使った魔法、覚えてる?」

「……うん」



 うっすらとだけどね。ボロボロで、意識もうろうとしてたから。



「あの魔法、どうしたの?」

「え?」

「どうやって覚えたの? というか、どうして……集束系なんて使えるのっ!?」



 ………………………………はい? 集束……なんですかそれ。



「あー、待って。お願いだから待ってっ! つーか顔近いからっ!」

「あ、ごめん……」

「えっと……フェイト、まず僕から質問。いいね?」

「あ、うん」

「……………………………………………………集束系って、何?」





















「……えっと、まとめると……集束系、スターライトってのは、周囲の魔力を一点にかき集めて……というか利用して、それを攻撃に転用する術と……」

「そうだよ。だから、ボロボロのヤスフミでも使えたの。発動のトリガー分の魔力さえあれば、この魔法は使えるから」



 ……納得した。



「でもヤスフミ……本当に知らなかったの?」

「……うん」



 そう、そんな術があるなんて、知らなかった。先生や師匠にも、教わってない。



「あのね、ヤスフミ」

「なに?」

「正直に言ってほしい。隠れて練習してたよね?」



 ……はい?



「スターライトは、制御難易度はSクラス以上。習得するのも大変だし、習得してからも、地道な訓練が必要。
 練習もしてなくて、知識もない人間が、ポンっと使えるものじゃないの」



 そこまでだったんだ……ん、ちょっと待ってっ!



 そんなトンデモ魔法を……僕は使ったって言うのっ!?



「あの、怒られるとか考えてる?
 ……大丈夫だよ、そうなっても私も一緒に謝るから」

「……フェイト、ごめん」

「やっぱり隠れて練習してたんだね……」



 うん、残念ながら……



「してないから」

「……え?」

「僕の現状がありえないのは、よくわかった。でも、本当に知らなかったし、練習もしてないの」



 つか、僕も混乱してる。なんでこんなワケのわからないことにっ!?

 フェイトが本気でワケのわからないと言わんばかりの顔してるし。いや、僕も同じだよ?



 でも困った。あの時、意識もうろうだったし、どういう形で使おうと思った……の……か……

 思い出せない。そう言おうとした。でも、言えなかった。だって、思い出したから。



 でも……いや、そんなはずは……

 でも、星の光……スターライト……

 それに行き着いた瞬間、寒気が走った。身体の震えが抑えきれない。







 いや……まさか、そんなはず……







「……ヤスフミ、どうしたの? というか、顔色悪いよ」

「いや……なんでもない」

「なんでもないことない。
 ……もしかして、何かあるの?」



 何もないとは言えなかった。だって、怖過ぎて、ひとりで抱えきれないと思ったから。



「……あの、凄まじくドン引きする話なんだ」

「え?」

「ただ……それしか思いつかなくて……」

「ヤスフミ、まずちゃんと話して? じゃないと、わからないよ」







 ……僕は手にかけた。パンドラの箱に。







「……スターライトを使う前、一回倒れて、意識が切れたの」

「うん」

「その時に夢を見て……女の人が出てきた」



 思い出せる。なんで今まで忘れてたんだと言うくらいに。そこだけは、もうろうとしていた意識の中でハッキリと思い出せる。

 その女の人は、ある二つのものを、ボロボロで、はいつくばっている僕に手渡してきた。



「……何を渡されたの?」

「……“星の光”と、“鉄と風を結びつける力”。そう言ってた」



 瞬間、フェイトの表情が驚きに満ちた。そりゃそうだよ。いくらなんでも、あり得ないもの。

 だって、もしそうなら……だよ?



「……この二つの……力は、僕がずっと望んでいた、理不尽で、許すことも、認めることもできない、そんな今を覆す切り札……そう言ってた」







 そして、言われた。力を渡す。その代わりに約束しろと。

 小さき風……リインを、僕がいなくなるなんて理由で決して泣かせない。ただそれだけを約束してほしいと。





 もう、僕の時間は僕だけのものじゃない。僕の時間は、リインとつながった。だから、勝手に、永遠にいなくなる事など認められない。

 僕がいなくなれば、少なくとも、リインは悲しむ。そして苦しみ……泣くことになる。

 共にいた時間は、出会った記憶は、後悔につながる。そんな思いを、リインに絶対にさせるなと……







 それで、僕は……そうだ。その言葉にうなずいた。そして、絶対にそんな理由では泣かせない。そう口にした。







 僕にたくさんの笑顔と、“幸せな今”をくれた、大事で、大好きな、あの小さな女の子との時間を、記憶を、後悔なんかにさせたくなかったから。







 ……そう言ったらあの人、本当に幸せと言い切れるのかって、聞いてきた。







 だから、言い切れると答えた。






 リインが僕の目の前に突然現れて、そこから始まった時間のすべてが、苦しいことも、辛いことも、そういうのを全部含めて、幸せだと。

 リインと出会えた事は、絶対に間違いなんかじゃない。誰が何と言おうと、絶対に。







 それだけじゃない。リインを守ると約束した。力になると、自分に誓った。まだ、それを守り抜いてない。まだ、何も終わってない。







 だから……戦う。そして、勝つ。







 ……あの時、何ひとつ守れなかった約束を、破ってしまった誓いを、今度こそ守り抜きたい。僕が、そうしたいから。







 そこまで話したら、その女性は満足そうに笑って……言ってくれた。







 ……ならば、立ち上がって……お前の許せない、理不尽な今を覆せ。この力は、そのための力だ。







 そう、言ってくれたんだ……とても優しく、暖かな声で。











「……ヤスフミ」

「わかってる。こんなの、ありえない。
 ……でも、他に思い当たらないの」



 うん、ドン引きだよね。でも、僕はもっと引いてるのよ? 僕より引いてるヤツはいないでしょ。

 だって、もしそうなら……いろんなモノをぶっちぎってるから。できるなら、僕のとっさの思いつきであってほしい。

 そうだ。アレは、それが形になっただけで、実際は僕のアドリブ。上手くいったのは、僕の魔力コントロール能力のおかげで……



「そ、そうだよねっ! ヤスフミ、魔力運用は私と同じくらい上手だしねっ! まさか……そんなねっ!」

「そうだよねっ! うん、きっと僕の能力のおかげだよねっ! そうに違いないよねっ!?」



 二人でムリヤリテンションを上げようとする。だって、背筋が寒いもの。つーか空気が寒い。



「あ、でもその女の人って、どんな人だったの?」

「え、なんでそこ聞くっ!?」

「だって、その状況で出てきたってことは、もしかしたらヤスフミの理想像かも知れないでしょ?」



 あ、そういう考え方もあるか。えっとね……



「まず……目は髪で見えなかったんだけど……」











 ……覚えている限りの特徴を口にした瞬間、フェイトの顔が真っ青になったのは、言うまでもないだろう。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……何度も言うけど、この話で一番引いたのは僕だからね? つーか僕以外の人間に引いたやら萎えたやら言われたくないし、言う権利はない。







 だって……ヘタすればそのままだよっ!? この時は本気で怖かったんだよっ!







 ……ところが、アウトコースはまだあった。この後に判明した、僕とリインのユニゾン能力だ。







 本来は想定されていないリインとのユニゾン。だけど、それでもはやてや師匠、シグナムさんより高い相性値と能力を叩き出した。

 それも、非常に安定した形で……なんだよ。







 ……そう、たしかに僕の中にはあった。風と鉄を結びつける力が。







 ただ、僕の見た夢が原因かどうかはわからない。





 スターライトも、本当に思いつきだったかも知れない。



 ……本気で痛みと出血で意識もうろうで、覚えてないんだけど。



 実際、僕がその時使ったのは、なのはのスターライトと、比べられないようなもんだったしね。







 リインとのユニゾンだって、元々の可能性がある。それまで試したこと、一度もないし。

 で、夢の中のあの人も……その時一番仲の良かったリインの姿から、構築(妄想とも言う)したのかも知れない。

 話を聞いてると、本当にリインの大人Ver.って感じだしね。まぁ、はやてがそういう形でリインを産み出したからだけど。







 そう、今話したことは、本当にいろんな偶然が積み重なった結果かも知れないのだ。いや、むしろその公算は非常に大きい。

 ……というか、現実的に考えるならこっちが正解でしょ。







 ただ、僕とリインは素直にもらった力だと、思うことにした。

 僕がそう思えるようになったのは、初めてユニゾンした時かな。その後、リインと話をした。







 リインは、そう思いたいと言った。理屈じゃない。この力は、初代リインフォースさんが、今も自分達を見守ってくれていて……だから、くれたんだと。

 そう思いたいし、そう信じてたい。真相がわからないなら、自分にとっての真実はそれにしたい……そうまっすぐに言い切った。







 で、僕もそこに乗っかることにした。これも、理屈じゃないな。あの夢が、どうしてもただの幻覚に思えなかったから。



 ……もちろん、怖くはあったよ? それでも、疑い半分だったんだけど、その時のリインを見ていたら、それでいいんじゃないかと思えるようになった。







 ……うん、理由があるのよ? 怖いのを吹き飛ばすようなのが。







 初めてユニゾンした時に、感じた……ううん、ユニゾンする度にいつも感じる。とても暖かいものを。







 リインと、身体も、命も、心も、そこから生まれる思いもひとつになる。

 それに、アルトがいる。ひとりじゃない。三人で戦う。それだけで怖いものがなくなる。どんな理不尽も覆せる。どんな状況でも、今を、未来を信じられる。

 そして、自分達の中から、そのための力があふれてくる。

 魔力とか、そういうのじゃない。もっと強くて、暖かい力が。







 ……そうだ、それを感じた時、僕にとってこの力が大事な物になったからだ。リインも同じだしね。







 だから、それでいいんじゃないかと思えるようになった。



 ……なのはやフェイト達は、未だに信じられないって顔だけど。











「……まぁ、普通はそうですよ」

《私も同じくですけどね》

「でも……なんだよね」



 それでも、毎年ここに来る。

 もらった力……それと引き換えに交わした、大事な約束を守れていると、三人で報告するために。

 本当だったら……必要かなと。



「リイン」

「はい?」

「また、来年も来ようね」



 何があっても、笑顔で乗りきって、元気な姿を見せに行く……やっぱ変な話かな。



「はい、必ず来ましょう。
 ……その時には、勝利報告できるといいですね」

「そーだね。うん、がんばるよ」

《その前に、やらなければいけない事がありますよ。いろいろと》



 ……うん、ちゃんと話さないとね。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……それで、キミは向こうに戻らないのかい?」

『戻れればいいんだがな、そうもいかない。
 ……これで、恭文にまた差を』



 ……あぁ、彼はキミの子ども達のパパだったよね。



『昨日も何やらすごかったらしい。アイツがサクッとケーキを作ったら、子ども達はまるでヒーローでも見るような眼差しを向けていたとか』



 へ、へぇ……



『それの出来映えが素晴らしかったのか、また株が急上昇したらしい……』



 あの、クロノ? 歯軋りしてる音が聞こえてるんだけど。



『焼きそばではダメなのか? 子どもにはケーキなのかっ!? 糖分かっ! 糖分がそんなに良いのかっ!
なぜ……なぜ僕は「おじさん」扱いなんだ……!』

「そ、そんなに悔しかったのかい?」

『一晩いる間に一度も「パパ」とも「お父さん」とも呼ばれない。
 これを実の父親として、悔しく思わないでどうする』

「……うん、そうだよね。その通りだと思うよ」





 ……これ、相談し辛いな。というか、妙な殺気が怖いよ。



 とは言え、カリムやシャッハはアウトだ。僕はまだ死にたくない。







 『自分は気にしない。だから、僕も気にするな。年頃の男女がそうなってしまっただけ』……か。







 はやて、それ……痛かったよ。すごくね。あんな風にさっぱりと割り切られたら、僕は何も言えないじゃないのさ。



 いっそ、責任を取れとか言われた方が、楽だったよ。







『……ロッサ、僕はアイツが嫌いなワケじゃないんだ。ただ……ただ……!』

「あぁ、わかってるから落ち着いて。というか、泣かないでよ」










 ……泣きたいのは、僕の方なんだよ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……よーし、ヴィヴィオちゃん、ホクトちゃん。鳥さんのお腹に、さっきの野菜を詰め込んでいこうか」

「はいっ! ……んしょ」

「っと、次は……」





 むむ、意外と手際がいいな。これは二人とも料理上手ないい子になるぞ〜。





「サリエルさん、なんというか……すみません」

「あぁ、いいっていいって。料理は好きだし、子供の笑顔のためなら、ちょっとはがんばらないとね。それが大人の仕事ってヤツだよ。
 ……二人とも、どう? 楽しいかな」

「はいっ!」

「すっごく楽しいよっ!」

「うん、いい返事だ」



 ……現在、オレ達はみんなで料理中。具体的にはローストチキンを仕込んでる。

 ヴィヴィオちゃんが食べてみたいって言い出してね。オレがサンタとして、提供することにした。

 ただ、普通にやったんじゃおもしろくない。せっかくだから、自分で作ったという想い出を提供することにした。







 ……けどさ、これって『パパ』であるジュンイチの仕事だと思うんだけどなー。



 だが、残念ながらアイツの姿はここにはない。“絶対に外せない用事”とやらで出かけていて、さっき連絡してきた時にはこっちに帰ってくる途中だって言ってた。







 ………………オレがヴィヴィオちゃん達とローストチキン作ってるって聞いて血相変えてた。まぁ、『パパ』の役どころを奪っちまったワケだし、帰ってきたアイツに一発くらいなら殴られてやることにしよう。二発目以降はやり返すけど。











 ………………で、だ。











「そこの二人は何をしている?」

「え? 鶏の腹の中に具を詰めるんスよね?」

「いや、そこはいい。
 オレが言いたいのは、その“具”についてだ」

「えっと……問題はないと思うがのう?
 高麗人参にもち米、干しナツメ、栗、松の実にニンニク……」

「最初の高麗人参の時点で何かに気づけっ!
 明らかに具材のチョイスがおかしいんだよ。そいつぁサムゲタンのレシピだっ!」



 つか、万蟲姫ちゃんもウェンディもどこからそんな食材を……いや、ここなら普通にそろってそうだな。







 さて、万蟲姫ちゃんはともかく、ウェンディがいる時点で気づいた人も多いだろう。



 そう。ここは六課ではなくマックスフリゲート。スカリエッティ以下“JS事件”の末に更生プログラムを受けることになった面々が収容されているジュンイチの私有艦だ。戦艦一隻私有してるって時点で何かがおかしい気もするけど、アイツの場合気にしちゃダメだ。



 で……なんでわざわざここまで来てロースチキンを作ってるのかっていうと……まぁ、想像はつくだろうけど、ナカジマ家の面々が今年はここでクリスマスパーティーをやることになったんだ。そのための料理を、現在艦内の厨房にみんな集まって作ってる最中、と。



 で、ヴィヴィオちゃんの『パパ』であるジュンイチはこっちのメンツでもある……ってな流れで、なのはちゃん達がこっちにお呼ばれして、さっき話した事情によってオレも……ってワケだ。



 ちなみに発案はスバルちゃん。今は向こうでギンガちゃん達と一緒に仲良く料理の修行中だ。







 で、「お呼ばれ」したのはなのはちゃんとヴィヴィオちゃんだけじゃない。万蟲姫がいるのは見ての通りだし、リンディ提督も別のグループ料理を指導してる。



 そして――この子達も。







「サリエルさん……恭文と同じで料理上手なんですね。手際が凄く自然で……」

「男の美味い料理ってのは、モテ要素だぞ少年。
 やっさんだって、魔導師としてだけじゃなく、そういうところをがんばったから、現状に結びついたんだ」

「なるほど……というか」

「……なぎさんの話を持ち出すと、説得力がありますね」







 そりゃそうだ。アイツはオレの中で生ける伝説だしな……エリオくんとキャロちゃんのとなりのフェイトちゃんが真っ赤だけど、気にしてはいけない。







 ………………向こうのテーブルでヒロと談笑してるメガーヌ女史が何やらやる気のオーラを発し始めたことも、気にしてはいけない。つか、こっちは気にしたらオレ達の尊厳的な意味で危ない気がする。







 つか、やっさんも罪作りな。なーんでイヴにフェイトちゃんとラブラブしないで、リインちゃんにいっちゃうんだ? おかげでフェイトちゃん、今イクトが独占状態だぞ……いや、本人が独占しようとしてないけどさ。



 ま、いいか。その辺りは……







《主》



 オレの思考を止めたのは、相棒の声。



 ……あれ、なーんかイヤな予感が。



《アルトアイゼンからの緊急メッセージが届いています》

「……内容は」

《ヒロリス女史も連れた上ですぐに来い》

「地獄へ落ちろと伝えてくれ」



 まったく、やっさんのパートナーになってから、ふてぶてしさが倍増してないか? いや、やっさんがあぁいうふざけた奴だし、わかるけd



《ですが主。断った場合は以前ジュンイチ殿をヒロリス女史の入っている露天風呂に投げ込んだ犯人が主だということをバラすとPSがついていましたが》

「どこ行けばいいってっ!? つーか転送魔法使うから座標送ってこいって返事してくれっ!」





















 ……そして、ローストチキンをみんなに頼み、ヴィヴィオちゃんに平謝りしつつ全速力で向かった先は、クラナガン市街のファミリーレストラン。







 おいおい、なんでここ? つか、騒がしいな。







 そしてさらに……







「………………あれ? ヒロ姉ちゃんにサリ兄……?」

「って、ジュンイチ!?」

「お前も呼ばれたのか?」







 ジュンイチまでいた。



 コイツまで呼び出すなんて、一体何が……











《……姉御、入らない方がいいと思うぜ? 音感センサーに、とんでもないのを捉えちまった》

「でも、逃げたらあの性悪デバイス、何やるかわかんないんだよ」

「そうだな、アイツはやる。そういうヤツだよ」

《姉御もサリも、ねーちゃんにいろいろネタ握られてるしな……》



 悲しいことに、オレ達とアルトアイゼンには、上下関係がないようであるんだよ。修行時代にヘイハチ先生と散々バカやってたおかげでな。



「くそ、本気でやっさんと組んでから、エゲツなさがパワーアップしてないか?」

「奇遇だね。私も同じこと考えてた」

《相乗効果というものでしょう》

《ボーイとねーちゃん、似た者同士だしな》







 金剛とアメイジアの素晴らしい補足はそれとして、店内に入ったオレ達は、その瞬間に凄まじいものを聞いてしまった。











「……もうやってまえばえぇやろっ!」

「はやて、声大きいからっ!」



 ……オレ達が頭を抱えつつ、その声の発生源へと向かう。すると、いた。



「なんでアンタはそうなんやっ! 私は……私は……!」



 ……出来上がってるとしか思えない部隊長がひとり。つか、ファミレスで酒瓶抱えるのはやめてほしい。



「恭文さん、なに話してるですかー? というか、はやてちゃん真っ赤ですー!」

「リインは聞かなくていいんだよっ!?」

《……10歳ですしね》











 いろんなものに配慮するために、リインちゃんの耳を両手で押さえながら、部隊長の話を必死で聞いていたやっさんの姿があった。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……あの、八神部隊長。飲み過ぎですから」

「いーんですっ! 飲みたいんですからっ!」

「あー、はやて。飲むのは勝手だけど、吐かないでよ?」







 現在、朝までやってる居酒屋に場所を移して、恭文とサリ兄ははやての酒の相手をしている。

 リインは、ヒロ姉ちゃんに送ってもらった。当然、これは内緒にすることが決定している。つーか話せるワケがない。



 ……くそっ、ヴィヴィオとホクトの初めてのクリスマスに同席し損なったっ! なんでこーなるんだよっ!







「大丈夫大丈夫っ! うち、SSランクやしっ!」







 まったく関係ないとはツッコむことなかれ。ツッコんだ瞬間に酒を飲まされる。オレや恭文は大丈夫でもサリ兄がそろそろヤバイ。

 ……いくら恭文がザルでどんだけ飲んでもOKなヤツとは言え、相手がコレではひとりで相手なんか精神的にムリ。オレとサリ兄も付き合うことにした。







 恭文としては、オレをはやてのひとまずの鎮圧要員として呼んだみたいなんだけど、はやてがわめている内容を聞く限り相当煮詰まってる。これをムリに抑え込むのはかえってマズイと判断して、さっさとぶちまけていただくことにしたワケだ。



 ………………酔っ払いの直撃をもらうのは、オレじゃないしね。







 まぁ、ここはサリ兄の馴染みだって話だし、なにかやらかしても多少なら問題は……



「……なぁ、私……ダメやな。ホンマにダメや」

「……いや、ダメじゃないからね?」

《その通りです。だから突っ伏して泣くのはやめてください》



 ……あかん。完全にいろんなものをぶっちぎってる。テンションの落差がひどすぎる。



 つか……オレ達の知らないところでえらいことになってたんだな。



 ヴェロッサのヤツ、軽薄そうに見えてもそういうことをするタイプとは思えなかったんだけど。







 ……これ、ヘタに誰かに相談できないなー。カリムとシャッハに知られたら、その時点でヴェロッサの処刑が確定する。



 ヒロ姉ちゃんは別の意味でアウト。あの人、こういうのに耐性あるようでないから。なんでメガーヌさんの親友やってられるのか、不思議なくらいに耐性ないから。

 具体例を挙げると、以前修行でヘイハチのじっちゃんにノされたオレが、気絶してる間にヒロ姉ちゃんの入ってた女子風呂に放り込まれた事件があったんだけど、それから一ヶ月くらい顔合わせるだけで逃げ出した……投げ込まれた時のオレがどういう格好だったかは今の流れで察してくれ。うん。



 そして八神家に知られてもアウトだ。はやて至上主義のアイツらがこんなことを知ったら絶対に暴走する。具体的にはハンマーと蛇腹剣が舞い踊る地獄の祭典。

 ジンがバルゴラと離れてるのが不幸中の幸いだ。アイツがキレてもバルゴラがいなきゃ……いや、まだレオー持ってるか。いずれにせよ主力武器がないならまだ安心だ。キレることには変わりないけど。







 ………………よし、解決までは絶対内緒だ。いずれ話さなきゃならないのは確かだけど、未解決な上に状況がこんがらがっている今の段階じゃ、アイツらの誰が知っても真っ赤な豪雨が降り注ぐことになる。







「……ごめん、私」

「……なに?」

「京都行ってくるわ」

《どうしてですか》

「吐きそうやから」



 ………………………………まてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!



「京都までもつかバカっ! ほら、早くトイレにっ!」

「……うち、もうゴールして」

「あと3分我慢してっ! いや、お願いだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」











 ……よし。











「待てコラ」



 腰を上げたオレの肩を、サリ兄がガッシリと捕まえる……いや、何?



「それはこっちのセリフだ。
 お前、いきなり立ち上がってどこ行くつもりだ?」

「いや何、ちょっと外にはやての酔い止めの薬を買いに……」



 うん。だから、この肩をつかんだ手を離してくれるかな? そうすればオレは速やかに――



「やかましいっ! 前にオレ達が宴会やって酔いつぶれた時も平然と見捨てやがったお前が今さらンな殊勝なことするワケがねぇだろっ!
 逃げる気マンマンなのがバレバレなんだよっ!」

「ちぃっ! 気づかれたかっ!」

「『気づかれたかっ!』じゃねぇよっ!
 自分だけ逃げようったってそうはいかねぇぞっ! てめぇもきっちり付き合いやがれっ!」

「えぇいっ、放せっ!
 ヴィヴィオとホクトが待ってんだぁぁぁぁぁっ!」











 …………………………結局。











 逃げ切れなかったオレは、恭文やサリ兄と一緒に一晩中はやてのグチに付き合わされるハメになった。



 神様……オレ、何かした?





















 ………………あ、神様ユニクロンブッ飛ばしたか。





















(第44話へ続く)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



おまけ







「そういえばスバル」

「ん? 何? ギン姉」

「こなた達がご家族とクリスマスを過ごすために帰ったのはいいとして……マスターコンボイは呼ばなくてよかったの?
 それにティアも……」

「あー、そのことか。
 ほら、せっかくのクリスマスだし、あの二人は……ね?」

「あぁ……なるほど」

「でしょ?
 恭文はあたしのこと『空気読めてない』って言うけど、こういう気遣いだってできるんだから」

「そういうことを自分で言わなきゃ、本当に空気読めてたんだろうけどなー」

「ノーヴェまでひどいっ!?」





















(本当におしまい)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!

クイント「さて、ホクトは初めてのクリスマスよね?
 サンタさんのプレゼント、楽しみだね」

ホクト「えー? 違うよ。
 クリスマスのプレゼントはパパがくれるんだよ?」

クイント「え………………?」

ジュンイチ「はっ! どこの馬の骨とも知れない不法侵入ジジに手柄横取りされてたまっかいっ!」

クイント「相変わらず大人げないわね、ホントっ!」





第44話「クリスマスの本番は25日。だけどのんびりできない人達もいる」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《さて……本家『とまと』との差異をつけたいのにあまりつけられなかったクリスマスな第43話です》

Mコンボイ「作者、また頭抱えてたな……
 前に本家準拠な時期があった時にも同じように頭を抱えていただろうに……」

オメガ《作者としてはもっと省ける部分は省きたいらしいんですけどね。
 ただ、この『とまコン』の掲載形態がそれを許さない、と》

Mコンボイ「………………というと?」

オメガ《ほら、この『とまコン』って、タイミングをずらして作者サイトにも掲載しているじゃないですか。
 こちらだけで連載しているのであれば、「本家『とまと』を読めばわかるんだし」としてある程度イベントを省くことも可能になるのですが……》

Mコンボイ「作者のサイトに掲載することを考えると、そうもいかない、か……」

オメガ《作者のサイトでしか読んでない人は当然本家『とまと』は読んでいないワケですからね。
 そういった人達へのフォローを考えると、本家『とまと』のイベントをこっちでもやる場合あまり文面を省いて描けない、と》

Mコンボイ「また難儀なことだな」

オメガ《まぁ、こんな執筆形態を選んだ作者の自業自得ということで、彼には存分に苦しんでいただきましょう。
 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)





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