頂き物の小説 第42話「とある提督(子)の反省、とある提督(親)の決断」 「……いやぁ、疲れたね」 「いや、そう言いながら楽しそうだったじゃないのさ」 ……時刻は夕方。 先日の恭文とジュンイチくんの“ピンチヒッター”のおかげで久々に休みが取れた美由希ちゃんとのお買い物ツアーも滞りなく終了して、臨時の我が家まで帰還の途中。ま、もうすぐなんだけどね。 いや、でも楽しかったなぁ。独身時代に戻ったみたいだよ〜。 「戻りたいの?」 「……まさか」 今回はちとやり合っちゃったけど、これくらいは昔からだしね。いや、昔よりはマシかな。 出会った頃は本当にすごかったしね。全然笑わないし話そうともしてくれないし…… 「うん、なら安心だ」 「あー、ごめん。心配かけてたね」 もしかして……そのために来てくれたのかな? だとしたら、悪いことしたなぁ。 「別にそれだけってワケじゃないよ。かわいい妹の様子も、ちょっと見ておきたかったしね。 ……ね、エイミィ」 「うん?」 「なのはのケガ……相当ヒドイの?」 ……え? いや、母さんやフェイトちゃんから聞いて知ってはいたよ。でも、なんですかその聞き方は。 だって、まるで知らなかったみたいに…… 「特別訓練の時のなのはを見るまではね。 まー、この間帰って来た時にも、変だなとは思ったけどね」 なのはちゃんは……! 家族にも言ってないってどういうことっ!? 「まぁ、心配かけたくなかったとかだと思うから、そこはいいよ。 昔からあの子、そういうところがあるから」 あー、そういえば言ってたね。 “JS事件”中、ジュンイチくんからその辺についてもしかられたって。 「うん。言ってた。 ……それで、どう?」 「……私も伝え聞いたくらいなんだけどね。後遺症みたいな感じで、ダメージが残ってるんだって。 ただ、ムチャしなければ完治はするものだし、今すぐどうこうって話じゃない。本人も、治す気満々だって」 「……そっか」 そうなのよ……そのまま、美由希ちゃんは黙った。何考えてるかなんて……推測するのは、野暮だよね。 それでも、私達は歩いていく。夕日が、さっきより少しだけ落ちている。 「あー、私も質問」 「うん?」 「恭文くん……美由希ちゃんから見て、大丈夫だったかな?」 進路の話をした時……ちと、真剣な話しちゃったから、心配ではある。 あれからけっこう時間が経っちゃってるけど……だからこそ気になる。こっちに心配しないよう平気を装っていたとしたら、そろそろそれが崩れ始める頃だから。 「うん、大丈夫。というか、話……したんでしょ?」 「うん、した。 結論も言われたよ。『ワガママ通す。忘れないで、その上で変わる』ってさ」 いやはや、私と義母さんの予測は外れたよ。二人は納得してくれると思ったんだけどなぁ。まさか、一刀両断するとは。 ……忘れていいものも、下ろしていいものも、自分達には何ひとつない……か。まったく、あの古き鉄達は。強いってのも考えものだよ。 「美由希ちゃん」 「うん?」 「綺麗事だよね」 「そうだね。綺麗事で、身勝手」 うん、綺麗事だ。組織って、そんなに甘くない。たださ…… 「そんなの、みんな同じだよね。恭文くん達だけじゃない」 「そう思う?」 「思うよ〜。私の周りはそういう人達多いし」 理想主義者と言ってしまえばそれまで。でも、それでいいじゃないのさ。 どこで戦っていても、一番賭けるのは誰でもない自分自身の時間。 だったら、身勝手でも、自分が一番信じられて、力を出せる理由で戦えばいいんだよ。 ……ま、ヘイハチさんの受け売りだけどね。 「まぁ、恭文はきっと大丈夫だよ。リインちゃんとアルトアイゼンもいるから。 あと、なのはも同じくだね」 「そう思う?」 「思う思う。なのは、ヴィヴィオちゃんのおかげでちょっと落ち着いてきてるし、ジュンイチくんもなんだかんだでなのはのブレーキになってくれてる……それがなのは以上に暴走してなのはの出番を奪っちゃう、っていうやり方なのはどうかと思うけど。 恭文も、ちゃんと自分の行きたい方向、探し始めてる」 ……うん、なら少しは安心かな? 「大丈夫、エイミィやリンディさんの言ったこと、伝わってるよ。その上で、自分達のやり方法を選んだ……それだけの話。 たださ……」 「うん?」 「恭文の天然フラグメイカーはそろそろ矯正した方がいいよ。なのはから話も聞いたけど、また増えてるし、ガチな子もいるみたいだし……」 ……アレはなんだろうね。フェイトちゃんが本命って公言してるからなんとかなってるだけだよね。 あ、私は立てられてないよ? うん、旦那様一筋だし。エイミィさん、意外と一途なのよ〜? 「あと、なのはもだよ……」 「なのはちゃん?」 ……あの、美由希ちゃん。なんでさっきのケガの話より表情が真剣になるの? 「だって、ジュンイチくんのことが気になってる感じなのに、本人からのアプローチとかまったくないみたいなんだよっ!? フェイトちゃんと恭文を見て、危機感を覚えたりとかもないみたいだし……」 あー、なのはちゃんは今までお仕事一筋だったしね。ヴィヴィオちゃんの子育てもあるだろうし。 そこにジュンイチくんとのアレコレが来て……自分でも気持ちの整理がついてないのかも。 アプローチだって、どうしたらいいかわからないだろうしね。なんたって、今までそういう経験なんかまったくなかっただろうし。 ジュンイチくんからのアプローチなんて期待するだけムダってもんだしね。 あの子はあの子で、一級フラグ建築士にして超一流の旗折職人だからなぁ…… というか、そもそもあの子、好きな人っていないのかな? そこからして心配だよ、私は。 「ね、ユーノは何してるの? 私、母さんと父さんになんて言えばいいんだろ……」 あー、やっぱりご両親も気にしていらっしゃいましたか。 「アレをそのまま報告するの? あぁ、こんなことなら、なのはがジュンイチくんと出会う前に恭文とくっつくように、けしかけておけばよかった……」 「……そこまでなの?」 「そこまでだよ。特にお母さんが」 あはは……あり得る。 あの夫婦、出会いはちょっとバイオレンスがあったらしいけど、基本的には超恋愛結婚だったらしいから。 頭を抱え始めた美由希ちゃんをなだめながら、歩いていくと……あれ? ビルの正面玄関に、人影を見つけた。 私より高い身長の黒髪の男性。どこか緊張した面持ちなのは、気のせいじゃない。 まったく……やっとってワケ? 「エイミィ」 「うん、ちょっと行ってくる」 私は足音を殺して、そっと背後から近づく。まずは……驚かせて待たされた憂さ晴らしを。 「何をしている?」 声は振り返らず、私へと飛んできた。少しだけ、呆れたような感じなのは、気のせいじゃない……かわいくない。 「いきなり失礼な」 「心を読まないでくれる? というか、かわいくないのは事実でしょ」 「当然だ。僕を今いくつだと思っている?」 「年齢は関係ないね。昔からそうだったし」 うん、基本はかわいくない。たまにムカついたくらいに。 「ちょっとは恭文くんを見習ったら? 恭文くんはこういう時はかわいいよ〜」 「アレと一緒にするなっ! ……その、アレだ」 「うん?」 「待たせて……すまない。それに、悪かった」 振り返って、私に男性はそう言ってきた。頭を、下げながら。 なので……私はこう返す。 「いーよ。私は……あなたがちゃんと来てくれただけで、うれしいよ」 甘いよね、きっと。でもまぁ……年上女房は、包容力が大事ですから。 「エイミィ……」 「まーとにかく……次は義母さんだよ。私みたいにはうまくいかないから、覚悟した方がいいよ〜?」 「……そうだな。気を引きしめていくことにする」 …………さて、愛しい旦那様? 我が家での地位をちゃんと取り戻せるように、がんばってね。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ……いや、なんていうかさ。私、空気か背景だよね。 こう、二人の周りが桃色なんだよ。絶対領域? 固有結界? ……結婚っていいかも。でも、相手いないしなぁ。 あ、もしかして……なのはより私の方が危機感覚えなきゃいけないのっ!? とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 とある魔導師と守護者と機動六課の日常 第42話「とある提督(子)の反省、とある提督(親)の決断」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「そっか……クロノ、ようやく来たのか。 アジトじゃなくてこっちに帰ってこいって言うから何かと思えば……」 「いいじゃないのさ。 せっかくの家族仲直りの瞬間なんだから、部外者はいない方が……ね?」 「そうじゃなくて、こっちに呼ぶにしても理由を教えろ、って話だよ。 お前、連絡してきた時『こっちに来い』だけだったろうが」 ブイリュウに答えて、ため息まじりにソファに腰かける……こまめに掃除しておいて正解だったね。カレルやリエラをほこりっぽいところに連れてくるワケにはいかないしな。 ここはいつも使ってるアジトとは別にクラナガンにかまえていたアジト。もちろん、例によってビル一件丸ごと買い取った。 成金呼ばわりすることなかれ。だって、そのくらいして完全に私物化しなきゃ、“仕事”で使う機材その他を持ち込めないし、設置のための徹底的なリフォームだってできやしない。武器庫なんてもっての外だしね。 ……それはともかく、現在、当面の自宅として使ってるアジトにはクロノがリンディさんに土下座しに来ているらしくって、それで空気を読んだブイリュウは子供達を連れてこっちのアジトに退避してたんだ。さらにオレが向こうに乱入しないように呼び寄せる念の入れよう。 まったく……そんなことしなくても、クロノの気配くらい読めるんだ。気づいたら気づいたで、ちゃんと空気くらい読むっつーの。 「いや……空気を読んだ結果、家出の原因を作ったクロノさんにオシオキするために突撃しそうだからこっちに呼んだんだよ」 なんか勝手なこと言ってやがる。失礼な。 「やらないの?」 「やるに決まってるだろ」 「いや、ジュンイチくん、それはダメでしょ……」 いいんだよ。空気を読んだ結果やるべきことができなくなるようなら、オレはあえて空気を読まんっ! つか…… 「オレはむしろ、どーして美由希ちゃんまでここにいてへーぜんと口はさんできてるのかを問いただしたいんだけど? 空気読んでその場を離れるにしても、なのはんトコなり恭也さんトコなり行って兄妹、姉妹水入らずしてこればいいじゃないのさ」 「いや、恭ちゃんだって知佳さんとシグナムさんがいるし、なのははヴィヴィオちゃんとコミュニケーションでしょ? そっちに行くにしても、なんかジャマかなーって」 「ウチならいいのかよ?」 「というか、ブイリュウくんが連れてきたんだけど?」 「ブぅイぃリュぅウぅ〜」 「だ、だって、門前払いなんかできないよ、ジュンイチと違って!」 「いや、オレだってしないけどさ……せめて自分から招くのはやめようよ。 一応独身男性のねぐらだぜ? ここ」 うん。そこはちゃんと一線引いとかないとダメだろ。 もしそれでいらんウワサが立って、美由希ちゃんの恋愛戦線に異常が生じても責任取れないんだからさ。ただでさえもう適齢期的にピン 「余計な発言は身を滅ぼすよ、ジュンイチくん」 「…………………………すでに滅びかかってます……」 しばき倒されて床に突っ伏し、血の海に沈んだ状態で美由希ちゃんに答える……くそっ、木刀とはいえ、本気で容赦ないし。 ちなみに、ホントは流血してなかったりする。血の海は幻術で作ったニセモノ。 ……こらそこ、スキルのムダ使いとか言うな。こういう演出は必要なのよ。 ……つか、美由希ちゃんだって射抜の零距離発動ってナニさ。牙突零式も真っ青だよ。二代目斉藤一を名乗れるって。 「私は斉藤さんより近藤さんの方が渋くていいと思うんだけど……」 「『銀魂』じゃ変態ストーカーゴリラだけど?」 「それは言わないでっ!」 ……本気でイヤみたいだね。気持ちはわかるけど。 にしても、またアニメであいつらの暴走が始まったのか……いや、そこはいい。 「……でも、ジュンイチくんってそういうとこ、妙に身持ちが硬いよね」 「当たり前だよ。 そういうところだからこそ、ちゃんと一線引いておかないと」 「リンディさんとはキスしたクセに」 「そこでそれを持ち出すかよ…… つか、キスしたっつーより、キスされたって方が正しいんだけど?」 「まぁ、ジュンイチくんからするとは思えないし」 「確かにそうだけどさぁ、改めて他人から言われるとムカつくぞオイ」 オレだって恋愛とか興味ないワケじゃないんだぜ? ただ、相手がいないからそういうことにならないだけで。 「いや、そんなこと……ううん、なんでもない」 ………………? 「まぁ、いいや。 とにかく、結論としては泊まってくんだろ? だったら、ちょっとカレルとリエラ、向こうのアジトに送ってってくれる? 解決したら後は家族のコミュニケーションタイムなんだから、二人もいなきゃダメでしょ――美由希ちゃんが帰ってくるまでには、部屋の支度しとくから」 「うん。ありがと」 美由希ちゃんの答えを背に受けて、空き部屋に向かう……さて、リンディさん達の方はうまくいったかね……? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……母さん、すまなかった」 おー、クロノくんが頭下げてる。で、義母さんは……憮然としてるね。 「何がどうすまなかったのか、ぜひ聞かせてほしいわね」 ……義母さん、もしかしてけっこう怒ってた? 表情がきつめだし。 「無神経だった」 「そうね」 「自分の母親が女性だということを、完全に忘れていた……もっと言いようがあったのではないかと、ずっと後悔していた」 ウソ……じゃないな。うん、その場の勢いで飛び出す言葉じゃない。 「その考えに至ったのは、どうして?」 「……エイミィが家を出たと気づいた時からです」 「ずいぶん遅いわね」 「自分でもそう思います。ただ……」 ただ? 「あの時、痛感しました。そして恥じました。自分の行動は、家族を……自分の帰るべき場所をないがしろにする行動だったと。 母さんだけのことじゃない。エイミィと話している時もそうです。エイミィはどうしてこうなったかを言ってくれたのに、聞こうともしてませんでした」 ……そうだね。クロノくん、母さんを連れ戻すことだけ考えてて、どうしてこうなったのか、考えようともしなかった。 「母さん、お願いします。帰ってきて……くれませんか? 僕が、帰るべき場所は、あの家で、母さんはそこに必要なんです」 「なら、ここに帰ってくればいいでしょう?」 いや、義母さんっ!? ここジュンイチくんの家ですからっ! さすがにこれ以上の占拠はアウトですよっ! まぁ、あの子だったら平然とここを私達に明け渡して他のアジトに移り住みそうだけれどもっ! 「ま、それは冗談よ……そうね、許してもいいけど。条件があるわ」 「はい……」 「あの水着、着てもいいかしら?」 「……はい、着てください。その……素敵だとは思いましたから」 ……あ、ちょっと顔赤い。むむ、これは後でお話かな 「そう、ありがとう……それでエイミィ、あなたはいいの?」 「あー、そうですね。ちゃんと反省はしてるし、いいかなと……」 ま、これでしてなかったら、追い出すつもりだったけどね。 「……二人とも、ありがとう。そして……本当にすまなかった」 「……いいわよ別に。だって、私達は家族なんですもの」 「そーだよ。時々はこういうこともあるって」 時々はケンカだってする。だけど、それでもつながっていける。うん、家族って、そういうものだと、私は思うよ。 とにかく、これにて一件落着、ってことでいいのかな…… 「でもね」 ……って、あれ? 義母さん、まだ何かあるの? 「あるの。 あのね、クロノ。仲直りした直後にこういうことを頼むのは、ちょっとアレなんだけど……」 「もうしばらく……ここに残っちゃ……ダメかしら?」 ……………… ………… …… 『…………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ジュンイチさんちでそんな話になってるなんて、当然六課にいる僕らは知らないワケで。 で、今何をしているかというと…… 「……うーん、けっこう資格関係って大きいよね」 「そうだね。補佐官資格も大きいけど、他も取ってみたらどうかな」 「……通信関係取れたら大きいよね。ほら、アルトさんだってそうだし」 「前線での通信管制能力……うん、大きいかも。 ……って、イクトさん、どうかしましたか?」 「………………オレが取れそうな資格がない」 「あぁ……管理局は何をやるにも端末とか絡んできますからね。 “Bネット”は違うんですか?」 「そうだな。 “Bネット”の事務業務はアナログな部分が多い……でなきゃオレが仕事できないからな」 「アンタのせいかいっ!」 今日も今日とて、フェイトやイクトさんと雑談中。 なお、本日の議題は資格関係。局もバカじゃない。能力のない人間を雇うワケがないから。 ……いや、僕の場合、いろんな意味でその辺のアピールについては問題はないんだけど。 ………………主にいろいろやらかしてるせいで。 とはいえ、管理局の仕事は魔法だけでやってるワケじゃない、当然だけど。 なので、魔法関係以外でも資格とかそういうのがあると、この先いろいろと便利かなーと、今してるのはそんなお話。 ………………戦闘以外はへっぽこスキルだらけのイクトさんは頭抱えてるけど。 でもこの人も、特定のスキルだけがぶっちぎりでマイナス方向に振り切れてるだけで、それ以外はいたって普通かぶっちぎりに優秀か、なんだよね。 事務仕事だってアナログなら僕らの中の誰よりもできる人だし……うん。つくづくへっぽこスキルに泣かされてる人だね。 《マスター達の場合、戦闘バカな傾向が強いですしね。仮にフェイトさんの補佐官になった場合……あ、それでいいかもしれませんね。 そもそも、それ以外で勝てないでしょう》 「……言わないで。確かにいろいろ負けてるけど、言わないで」 渉外・事務・デバイス整備関係に強いシャーリーに、捜査官として動くであろうティアナ。 イクトさんだって、アナログ限定なら僕より優秀で…… ……くそぅ。勝ち目あるのスバルだけじゃないか。 「でも、それでも資格取得は考えていいと思う。スキルアップは大事だもの」 「……あ、それなら取りたいのが」 「なに?」 「デバイスマイスターの資格」 ………………ざわっ……ざわっ…… 《……フェイトさんもイクトさんも、福本伸行エフェクト付けて不安そうな顔するのはやめてあげてください。 いや、わかりますよ? とんでもないのを作りそうとか思いますし》 「どういう意味かな? アルトさんや」 「…………………………あー……蒼凪?」 「あ、あの……なんで?」 「だからっ! なんでフェイトはちょっと涙目なのっ! イクトさんは頬が引きつってるのっ! 二人して顔が青ざめてるって、おかしくないっ!?」 《いや、ムリありませんから。 本気で杭打ち機とかヒートホーンとか、アレとかコレとか作りたいと思ってるのかと考えると、私のか弱いハートがビクビクなんですよ》 「いや、どこがか弱いのっ!?」 《すべてです》 「自意識過剰だねおいっ! そして即答かいっ! どんだけ自分に自信持ってるっ!? どうしてそうなるのかぜひとも詳しく聞きたいんですけどっ!」 《あなたより私の方が人気があるからに決まっているでしょ? 本家『とまと』を見てごらんなさい》 「うっさいバカっ! つーか人気と本家『とまと』の話を今ここでするなっ!」 「まぁまぁ……でも、どうして?」 《きっと、杭打ち機を作りたくて……》 アルトがなおも好き勝手言ってるけど、その“理由”っていうのは…… 「……取ったら、自分でアルトのメンテしたり、何かあってもすぐに応急修理してあげられるかな……と」 《………………え?》 「……そうなの?」 「うん。ヒロさん達も、開発局に入ってから、アメイジアや金剛にはそうしてるって言うし、僕も資格取るならやってみたいなと……」 今みたいになんだかんだ言い合う間柄でも……うん、相棒だから。やっぱりそういうところは自分の手でしてあげたいのよ。 《マスター》 「うん?」 《ありがとうございます》 「……うん」 「なら、AAAの試験が終わったら……勉強してみようか」 「そうだね。優秀な先生が、ちょうどゴロゴロしてるワケだし。 ………………で、イクトさんはなんで頭抱えて凹んでる?」 「……瘴魔軍時代、愛機の整備は完全に人任せだった……」 いや……それは多分正解ですから。 「でも、やっぱりうらやましいな」 「どーして?」 「だって、ヤスフミとアルトアイゼン、本当につながっているから。いっぱいコミュニケーションできるし」 《……まぁ、あれですよ。この人バカですし、ちゃんと話さないとダメなんですよ》 「そんな理由っ!? もうちょっといい言い方してよっ!」 《やれやれ……わかってないですね。 そんなこと言ってもつまらないじゃないですか》 「断言するなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 《主に私がっ!》 「だからなんで断言するっ! それもさっきよりも力を込めてっ! そして『私が』って何さっ!?」 なお、なぜかフェイトとイクトさんが優しい顔で笑っているのは、気のせいとしておこうか、うん。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「ち、ちょっと、義母さん!? ここに残るって……どういうこと!?」 突然の「ここに残る」宣言に、私もクロノくんも目を丸くするしかない……でも、本当にどうして…… ………………ハッ、まさかっ!? 「義母さん、ひょっとして……子供達の目がなくなったところでジュンイチくんをモノにしようとっ!?」 「も…………っ!? エイミィ、一体どういうことだ!?」 どうもこうも……あ、そっか。クロノくんには義母さんがジュンイチくんからフラグ立てられたって言ってなかったっけ。 「そ、そそそ、そんなつもりはないわよっ! うんっ! ないからっ!」 一方で義母さんも顔を真っ赤にして大あわて……うん。説得力がないにもほどがあるね。 「そうか……母さんもなのか…… …………ヴェロッサの予感が的中したか」 クロノくんもクロノくんで頭抱えてるし……まぁ、気持ちはわかるけど。私まで頭抱えたら話進まなくなるからやらないけど。 今はまず、義母さんをなんとかして阻止することを考えないと。このままだと、展開次第ではジュンイチくんをお義父さんと呼ばなきゃならなくなるかも知れないから。 …………いやね、別にジュンイチくんが嫌いってワケじゃないよ? でも、今まで友達か手のかかる弟分として付き合ってきた相手がいきなり義理のお父さんっていうのは、いろいろと気まずいと思うのよ。 ジュンイチくんの鈍感なら大丈夫と信じたいけど、戦闘関係ならともかく日常での駆け引きにおいては義母さんの方が上手だからなぁ。好意を自覚させる前にとりあえず結婚に持ち込んで……なんてこともあるいは…… 「だから、そういうことじゃないからっ!」 「じゃあ……何を思って?」 とにかく話を進める私の言葉に、義母さんはコホンと咳払いして、 「あの子……万蟲姫ちゃんのことよ」 あ……………… そっか……そっちのことを忘れてた。 先日の対面で、イクトさんから指摘されたことを思い出す。 あの子が……実は瘴魔神将じゃないのかもしれない、って…… 「そのこともあるけど……あの子が自分の意思で瘴魔にいるってわかっちゃったのが、ちょっと、ね……」 「義母さん的には、納得できない?」 「そう……なのかしら…… 実は……私にもよくわからないの」 『よくわからない』って……なんて言うか、義母さんにしては珍しいことで。 「最初は、ホーネットにそういう風に説得されていて、だから……ってことも考えたわ。 でも……瘴魔にいた頃のことを話すあの子、すごく楽しそうじゃない。 少なくとも……あの子にとって、瘴魔は間違いなく“居場所”だった。 そう考えたら……」 「そこから離そうと考えていた自分が、揺らぎましたか……」 あ、クロノくんもいつの間にか復活して提督モードだ。その言葉に、義母さんがうなずく。 「瘴魔は人間にとって害となる存在。だから万蟲姫ちゃんをそんな中にはおいておけない……そう思ってた。 私だって、一緒に暮らす中であの子が本当にいい子だっていうことはわかってるわ。だから、なおさらそう思ってたんだけど…… あの子の見てきた、私達の見ていないところでの瘴魔の様子を見ていたら、どうしてもそう割り切れなくなって……」 「……ジュンイチさんが、前に言ってました。 『瘴魔だから倒す、という考え方は、人を襲うから熊を絶滅させると言っているのと同じだ』と……」 そ、それはまた…… 相変わらず、暴論覚悟でド直球ストレートな物言いだよね、あの子も…… 「しかし、事実でもある。 悪いのは“瘴魔”ではなく“人を襲う瘴魔”……それが、あの人の考え方だ」 「“瘴魔だから悪”なのではなく、あくまで“悪事を行なうから悪”なのね……」 クロノくんの言葉に、義母さんはしばらく考えて、 「私はただ、瘴魔だから人を襲うのは当たり前だと思っていた……でも、そうじゃなかった。 人を襲うというその一面しか、私は見ていなかった……万蟲姫ちゃんが見たような、私の見ていない一面を、見ようともしていなかった…… ……ちょうど、今回の一件について状況ばかりを見て、どうしてそうなったのかを見ようとしていなかったクロノみたいにね」 「耳が痛いですね……」 「でも……クロノは見ていなかったものに目を向けた。 だったら……私も見なくちゃいけないと思うの」 苦笑するクロノくんに義母さんが笑いながら答える……それで、義母さんの提案に話が戻るワケですか。 「えぇ。 万蟲姫ちゃんのことを、私はもっと知りたい。 ……ううん。知らなければならないと思う。 あの子のためにも……そして私自身のためにも」 「だからここに残りたい……と」 クロノくんの問いかけに義母さんがうなずく……まぁ、そういうことならしょうがないよね。 「エイミィ。貴方はどうするの?」 「んー、私もあの子のことはけっこう気に入ってますからね。一緒にいてあげたいのはやまやまですけど……」 いつまでも海鳴の家の方を空にはしておけないしね。今のところ、アルフがたまに来て掃除してくれてるらしいけど、いつまでも頼ってはいられないし。 「最終的にどうするかはさておき、一旦戻ります。 あ、もちろん、戻ってこれるようなら戻ってきますから」 うん。私だって、あの子のことは放っておけない。 繰り返しになるけど、そのくらいにはあの子のことは気に入ってるから。 「母さん、あの子のこと……よろしくお願いしますね」 「えぇ。 任せておいて」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「そっか……ひとまず解決したんだ」 「うん。そうみたい」 「そうか。 それは何よりだ」 届いたメールについて、フェイトやイクトさんと話してる……そう。解決したとメールが来たのだ。 明日には地球に戻るらしい……ただし、若夫婦と子供達だけ。リンディさんは万蟲姫のアレコレに絡んで当分はジュンイチさんちに残留だとか。 ジュンイチさんに止められてるのにやっぱりケンカするつもりなのか……とか思ってたけど、なんでも、万蟲姫に対して歩み寄りの姿勢を見せてるらしい。 何があったのかは知らないけど……うん。いい傾向かも。 「にしても、今日はクロノさんも一緒にお泊まりか……本気でジュンイチさんちを別荘にするつもりじゃないだろうね?」 なお、休みをとってエイミィさんと遊びに来ていた美由希さんは自分がおジャマと感じたらしくて、ジュンイチさん達にくっついて別のアジトに退避したとか。 ……ジュンイチさん、フラグ立ててくれないかな? そうすれば僕は晴れて解放されるのに。 「さすがにそれは……でも、ヤスフミは行かなくていいの?」 「そうだぞ。 貴様も、ハラオウン家の一員であることは間違いなかろうに……」 「ん。行かない。 だって、クロノさんが双子コンビとのコミュニケーションで四苦八苦してるのは目に浮かぶもん」 そこで僕がいてみなさいよ。どう考えてもうちのお兄さんは凹むでしょ。 「それもそうだね……でも、良かったね」 ……あー、そうだね。 「……ヤスフミ?」 「うん……」 なんだろ。こう……アレなんだよね。ジュンイチさんへの負担がようやく解消されたのはうれしいよ? でも…… 「寂しい?」 「……かも」 こういうの、感じたことないんだけどなぁ。船に乗ってても部隊で寝泊まりしてても、帰れると決まった時は……うれしかったのになぁ。 「……うん、きっといいことだよ」 「そうかな?」 「そうだよ、きっと……ここに、ヤスフミが自分の居場所を、見つけ始めてるのかなと、思う」 居場所……ね。 「だとしたら、バカだよね」 お茶を一口。その暖かさと程よい苦味に、心が落ち着く。 うん、バカだよね。あと3ヶ月とかそこらで、ここはなくなる。なのに、居場所を見つけても…… 「バカなんかじゃないよ」 「……フェイト」 というか、ちょっと怒ってる? 「時間や時期なんて、問題じゃないよ。今まで気づけなかったことに気づけた。感じることができた。 ヤスフミが今感じている気持ちは、バカなんかじゃない……そんなこと、言ったらダメだよ」 「……ごめん」 「謝らなくていいよ。でも、そういうのはなし。いい?」 「うん」 なんか、また居心地の悪い気持ちを感じて……茶をすする。こういうところが、子供なのかね。うん、そうか。 「あ、そうだ……ヤスフミ」 「うん?」 「ヒロさん達が、また打ち合わせするから、時間空けておいてほしいって。 あと、マスターコンボイにも伝えておいてほしいって」 あ、そうだね。アレも進めないと。書庫の手伝いの報酬として、参考資料はいろいろ調達してきたしね。 ま、ちと照れ臭くはあるけど……せっかくだし、いいの作るぞ〜。 「だが……テスタロッサ、お前はいいのか?」 「はい?」 ………………と思ってたのに、そこに口をはさんでくるのはイクトさん。 ただ……僕じゃなくて、フェイトに。一体何? 「忘れたか? 六課の試験ラッシュの最先陣は、年末に行なわれるテスタロッサの執務官試験だぞ」 ………………あ。 そうだった。 ノーダメバリア解除で浮かれて、今やってるアレコレに集中して……そのことをすっかり忘れてた。 そうだよ。フェイトだって試験前で大変なのに、こんな…… 「だ、大丈夫だよ、ヤスフミ。 ちゃんと自分で勉強してるし……今やってる事だって、その役に立ってる。 迷惑なんて事は絶対にない……だから、ね?」 「でも、フェイト、前に試験落ちてるし……」 そう……落ちてる。 具体的には横馬が墜ちたあの時……ちょうどその時期に執務官試験を受けようとしていたフェイトは、なのはの撃墜に動揺して見事に落ちた。 その後、なのはのリハビリやら六課設立のアレコレやらでうやむやになって……“JS事件”も終わってようやく試験に専念できるって状況だったのに…… 「……大丈夫だよ」 ヒザの上で握りしめた僕の手を、フェイトの手が優しく包み込む。 「今度こそ、合格してみせるから……だから、大丈夫。 だって……ヤスフミだけじゃない。スバル達の試験だってある。 最初に試験を受ける私がつまずいてちゃ、弾みがつかないもの」 言って、フェイトは微笑んでみせる……本当に、大丈夫? 「うん。 絶対に合格して、みんなにつなげてみせる。 だから、ヤスフミも自分の試験に集中して……ね?」 「………………うん」 なんというか……ますます落ちられなくなったかも。 フェイトの話じゃないけど、フェイトがせっかく合格して弾みをつけてくれても、そのバトンを受け取る僕がつまずいてたらカッコがつかないでしょ。 試験のスケジュール的に、フェイトの次は僕だから。フェイトから受け取ったバトンを、今度は僕がスバル達につなげなくちゃいけないんだ。 「そうだね。 じゃあ、がんばるのはお互い様……だね」 「うん」 「当然、オレも全力でお前達を鍛えよう。 オレ達全員の力で、テスタロッサも、蒼凪も、絶対に合格してみせるぞ」 『はいっ!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「…………で、オレにも一枚かめ、と?」 『そゆコト』 ジャリどもを送って帰ってきた美由希ちゃんを加え、みんなで晩ご飯。 えぇ、オレが作りましたとも。美由希ちゃんに料理なんてさせてたまるか。 シャマルやうちのあずさと三人で“殺人料理三巨頭”を形成してる人間なんぞ台所に立たせられるワケないだろ。つか、なんでアイツらはレシピ通りに作ってもアレなんだろうね? レシピを間違えて失敗するスバルやティアナの方がなんぼかマシだ。 まぁ、それはともかく、食事も、その後片づけも終わって、さぁプライベートタイムだー、ってところに通信が入った。 相手の名前はアリス・スノウレイド。 恭文の友達にして元オレの実家の居候、ジン・フレイホーク……ソイツの保護者だった人の妹さんだ。ジンにとっては……義理の叔母さん? 『誰がおばさんよ、誰が。 アンタとはひとつしか違わないでしょーが』 「そうだな。 26のオレよりひとつ年上だもんな」 『そうやって実年齢推測できる発言は慎めっつってんでしょうがっ!』 ウィンドウの向こうでわめいてるけど……うん、とりあえずスルー。 だって……今聞かされた“用件”の方がはるかに重要だから。 なんでも、ジンのヤツがいろいろとハッスルした結果、アイツのデバイス、バルゴラがAIユニットを残してブッ壊れちまったらしい。 そして……修理のついでにパワーアップさせちゃおう!ってことで、オレに声をかけてきたらしい。 「で……アイデアはあるの?」 『まぁね。 レイオの協力で教導隊の書類棚に眠ってた廃棄案をしこたまいただいてきた』 ………………だんだんと話が見えてきた。 「つまり……オレにその廃棄案の中から使えるアイデアを抽出して、ひとつのプランにまとめ上げろ、と?」 『だって、そういうの得意でしょ? あ、実際の製作は私達の方でやるから』 アリスの言葉に、オレはしばし考える。 ……そーいや、恭文もフェイトやイクトを中心に、ヒロ姉ちゃんやサリ兄、マスターコンボイとかも巻き込んでアレやコレやと作ってるみたいだな……こないだヴィータやシグナムにも声かけてたっけ。 ………………正直、カヤの外にされてちょっと凹んだのは内緒だ。 けど……おかげでオレの手は今空いてる。こっちを引き受けても、ぜんぜん余裕なくらいには。 ……なら……別にいいかな? べっ、別に、恭文に仲間外れにされた腹いせとかじゃないんだからねっ!……ツンデレ風に言ってみました。 「OK。引き受けた。 廃棄案のデータ、すぐこっちに回してくれ。 ……あ、オレの方でも抱えてる廃棄案の中からも、使えそうなのがあったら盛り込んでいいかな?」 『もちろん』 よしよし。ますますやる気が出てくるってもんだぜ。 蜃気楼を作る時に没った案、かたっぱしから盛り込んでやろうじゃないのさ。 「で……オレはアイデアまとめるだけでいいの? メインプランナーを引き受ける身としては、設計図までは手がけた方がいいかなー、と思うんだけど」 『やってくれるって言うなら……うん、お願い。 …………あ、それともうひとつ頼みたいことがあったんだ。 ジュンイチの蜃気楼って、コピーデバイスを作れるよね?』 「うん」 『それって……バルゴラも?』 「もちろん」 今まで実戦でコピーバルゴラを使ったことはないけれど……うん。作れるんだ。 だって、バルゴラのデータ、元々持ってたし。 『だったらさ……実は、今度そっちに見学に行く子達の引率ってことで、ジンも近々そっちに行くのよ。 六課の宿舎を借りて滞在、って話になってて……あ、はやてちゃんの方には昼間のうちに連絡したから、明日には部隊の方で連絡が回ると思うわよ』 「で……オレにどうしろと?」 『バルゴラのパワーアップが終わるまで、ジンの訓練、見てあげてくれない? ジュンイチだったらバルゴラのコピーを貸してあげられるでしょ?』 「そういうことね。 りょーかい。そっちも引き受けるよ」 蜃気楼はデータさえ十分にそろっていれば、理論上どんなものでも作り出せる。 その能力を駆使すれば、アリスの言うように“今のバルゴラ”のコピーを使ってジンが修行を継続することもできるし……オレが設計を手がけることになった“新しいバルゴラ”の試作版だって作れる。それをジンに実際に試してもらうのも悪くないかもしれないな。 そういう意味でも、オレは今のジンの修行を見てやる上で最適の人材ってワケだ。 そして……それから、さらに二、三打ち合わせをした上で通信を終えた。 ………………そっか。ジンも来るのか…… もう年の瀬も近いっていうのに、慌しいことだね。12月が「師も走るほど忙しい」ってことで“師走”と名づけられたのはダテじゃないってか。 でも、アイツらもアイツらで、なんかゴタゴタ抱えてんだよなー…… ………………イヤな予感しかしないのは、オレの気のせい? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そして翌日。僕達が早速アレコレ試したり、なのはが飛行訓練(デバイスなし)で相変わらずペットボトルロケットっぽいブッ飛びっぷりを披露したり、ヒロさんと美由希さんが楽しく組み手をやったり、それに触発されて乱入しようとしたブレードさんをみんなで全力で止めたりした午前と午後を過ごしたところで……隊舎にお客様が来た。 「……というワケで、お世話になりました」 「……さっそくなんですね」 「まー、いつまでも占拠してるワケにはいかないしね。 ……あ、ジュンイチくん。家の方はきれいにしておいたからね」 「オレは別に、居座られたままでもかまわねぇけど……ま、ガキどもにはよくないか。海鳴にゃ友達だっているだろうし」 ……そう、家を占拠してた家族達の内、若夫婦一家です。これから海鳴へ戻るとか。 “クロノさん、良かったですね” “……あぁ。お前にも、苦労をかけてすまなかったな” “別にいーですよ。それを言えば僕やジュンイチさんの方がいろいろとやらかして……” 「ごめーんっ! おまたせー!」 そう言いながら、こちらへ走ってきたのは……美由希さん。その周りには、フェイトとなのはとヒロさん達。 そう、美由希さんもクロノさん達に便乗して帰還なのだ。僕らのお手伝いでオフが取れたって言っても、そんなに休めるほど無限書庫はヒマじゃないしね。 ……まぁ、厚生ににらまれて強制的に休暇を消化させられるような状態からは脱却できた、ってことで……とりあえず成果はあったと思っておこう、うん。 なおキツイようなら、また手伝いに行けばいいし。 「あー、大丈夫だよ。楽しく話してるとこだったし」 「パパ、それじゃあ……またね」 「今度は、お家に帰ってきてね? わたし達、パパのこと待ってるからっ!」 ……あの、もしもし? アダルトなみなさん、どうして僕から目を逸らすの? 「……ゴメン、がんばったんだけど、ムリだった」 エイミィさんの一言で、すべてを察した。 そ、そうですか……あぁ、クロノさんと目を合わせられない。 「やっさん……アンタなんでもありだね」 「もうアレだろ。実はハーレム作る気満々だろっ!?」 「そんなワケないからっ!」 『あははは……』 とにかく、仲睦まじくハラオウン家の若夫婦一家と、美由希さんは…… 「それじゃあ、みんなまたねー! あ、ヒロリスさんとサリエルさんも、また組み手しましょうねーっ!」 「うん、必ずーっ!」 「今度は勝ちますからー!」 ……負けたの、悔しかったんですね。 『パパー! またねー!』 「うん、またねー!」 その言葉に、みんなで手を振りつつ見送る。 ……笑顔で、それに返してくれながら、海鳴の家族達は帰っていった。 ……そこでようやく実感する。ひとつの事件が解決したと。 「……ヤスフミ、お疲れさま」 「……別に疲れてないよ。負担を背負ってくれたのはジュンイチさんだし、まだリンディさんが残ってるし。 でもま、これでようやく一段落って感じ」 「かれこれ一ヶ月、あいつらをかくまった柾木ジュンイチに気を遣いっぱなしだったからな」 隊舎の中へ全員で入りながら、フェイトやマスターコンボイとそんな話をする……うん、それくらいだわ。 まだリンディさんはジュンイチさんちに居残りだけど……理由がまともになっただけ良しとしておく。 ……いや、むしろシリアスルート突入? イクトさんの話が本当なら、万蟲姫は瘴魔神将じゃないってことで……だとすると、どうして“蝿蜘苑”に迎えられたのか、ってことになる。 万蟲姫の能力を利用するために迎えた……とかならまだマシだろう。家を出ざるを得なかった万蟲姫をホーネットが保護した、って話だと……ある意味、そこから引き離そうとする僕らの方が悪者みたいな感じになってくる。 厄介なことに、ならなきゃいいんだけどね…… 「そだ、やっさん。ヴィータちゃんから聞いたけど、アンタとリインちゃん、クリスマスに休み取るんだって?」 ヒロさんのその言葉に、僕はうなずく。 ……うん、取ります。ちょっと二人でヤボ用なのだ。 ………………そーいや、ジュンイチさんもイヴは休むって言ってたっけ。 「……デートか?」 「ま、そんなとこです」 大事なパートナーとの大事な時間。うん、必要なことなのです。 「……フェイトちゃん、これ放っておいていいの?」 「そうだよ。元祖ヒロインは強敵だぞ? 確かに共存共栄はできるけど、油断してたらアウトだろ」 「なんで私に話を振るんですかっ!? というか、意味がわかりませんからっ! え、えっと……問題ありません。というか……」 「恭文くんとリインがクリスマスにお休みを取るの、いつもの事ですから」 そう、毎年僕達は、この日だけは休みを取る。本当なら2、3日前から戻って、翠屋の手伝いもするんだけど、今回は日帰り。 さすがに試験前ってのもあるし、仕事やら訓練のレポート作成で時間が…… しかも、イヴだし。クリスマス本番じゃないし。いや、仕方ないんだけどね。 「なに、あの異常なまでのラブラブっぷりはそこが原因?」 「そんなとこです」 「……フェイトちゃん、これは負けてらんないな。もっとがんばらないと」 「そうだよ。いろいろ気づいた時には手遅れの可能性があるよ?」 「だから何で私なんですかっ!?」 ……フェイトとヒロさん達が楽しく話してるのを横で聞きながら……考えていた。 今年は、報告することが多そうだなと。 (第43話へ続く) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ おまけ 「………………あれ? マスターコンボイ、どうしたの?」 「泉こなたか。 いや、回ってきた回覧を見ていたんだが……」 「あぁ、ジン達が来るんだってね?」 そう。“JS事件”後の祝勝会で顔を合わせたジン・フレイホーク……ライオコンボイ達の地元である惑星ガイアに出向いていたヤツらが、この六課にやってくるらしい。 と言っても、ライオコンボイ達のような研修というワケではない。 なんでも、向こうに新たにやってきた移民達の内、子供達の代表をミッドに招待。その滞在の間の宿として六課の宿舎を提供したらしいのだ。 そして、ジン・フレイホークやその仲間達が引率と護衛のために共に来る、と…… 「ライオコンボイ。この『移民』とやらについて詳しく聞いているか?」 「あぁ。僕らがこっちに来てから現れたらしいから、直接の面識はないんだけどね。 とりあえず、先発して到着したという子とは通信で話したが、なかなかいい子だったぞ」 尋ねるオレにはライオコンボイが答える……まぁ、貴様の印象としてはそうだろうがな…… 「何か不安なことでも?」 「来るヤツらの名簿……ここを見ろ」 「えっと……“ベクターメガトロン”……?」 「あぁ……確か、僕らがこっちに来てから向こうに加わったメンバーだね」 横からライオコンボイが口をはさんでくるが……そんなことは正直どうでもいい。 「で……それがどうかしたの?」 「忘れたのか? 泉こなた。 オレの“本来の名前”を」 そう……オレは転生したから名を変えたワケではない。 オレの進む道……オレの在り方を改めたことから、それに伴ってコンボイの名を名乗ったにすぎない。 そんなオレの、本来の名前は…… 「本来のオレの名は、マスター“メガトロン”。 “コンボイ”の名ではあるまいし、まさかオレの他にも最初の破壊大帝たる“メガトロン”の名を受け継ぐ者がいたとはな。 それに肩書きは“超越大帝”……スカリエッティのところのマグマトロンと重複しているのは偶然としても、“超越”とはずいぶんと自信家だことだ」 そんなヤツが六課に来る……ずいぶんとおもしろそうな話じゃないか。 ベクターメガトロン……頼むから、期待外れのザコであってくれるなよ? (本当におしまい) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 次回予告っ! クロノ「とりあえずは信用して残してきたけど……母さんに万蟲姫を任せて、大丈夫かな……?」 エイミィ「まぁ、大丈夫じゃない? 局の正義に訴えて……っていうならともかく、今の義母さんはひとりの人間として万蟲姫ちゃんと向き合おうとしてるんだし」 クロノ「まぁ、それはそうなんだが…… ………………万蟲姫が、あの“リンディ茶”の犠牲になりはしないかと……」 エイミィ「………………だ、大丈夫だよ…………………………たぶん」 第43話「とある魔導師と祝福の風と暴君のクリスマスの過ごし方」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あとがき オメガ《さて、とりあえず“ハラオウン家の乱”が終息した第42話です》 Mコンボイ「やれやれ、ようやく片づいたか……」 オメガ《もっとも、万蟲姫との絡みでミス・リンディは柾木家残留ですけど。 これ、ひょっとしなくても黒リンディの降臨回避フラグですか?》 Mコンボイ「そう……なのか……? 万蟲姫との交流の結果によっては、そういうことになるだろうが……」 オメガ《この調子で万蟲姫の周辺事情も丸く収まったとすれば、まずそうなると思いますよ。 ………………チッ、つまらないですね》 Mコンボイ「おいっ!?」 オメガ《冗談ですよ。 別に、ミス・リンディなんて局至上主義で暴走した挙句見捨てられてしまうのがお似合いだなんて思ってませんよ?》 Mコンボイ「本音がダダモレなんだが……」 オメガ《だって、本家『とまと』も拍手も黒リンディはいぢめられてなんぼじゃないですか。 時流に乗るなら、ここはうちもいぢめるところでしょうに》 Mコンボイ「むしろ時流に逆らうクチだろ、うちの作者は……」 オメガ《そうなんですよね……まぁ、それはそれでおもしろくはあるんですけど。 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》 Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |