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頂き物の小説
第41話「出番がないのが不幸な人がいる 出番がないのが(周りにとって)幸せな人もいる」



「こうして、直に向き合うのは初めてだな……万蟲姫」



 今、オレは柾木が今現在ねぐらにしているアジトに来ている。



 そう……目の前にいる、万蟲姫と話すために。



「だが……かつて瘴魔軍に身を置いた者として……瘴魔軍に終止符を打ったひとりとして、貴様とは一度話しておきたいと思っていた」

「フンッ、貴様と話すことなどないのじゃ。
 瘴魔を見捨てて人間についた裏切り者と聞いておるぞ」

「手厳しいな……まぁ、そう受け取られてもしょうがないことをしている自覚はあるがな。
 だが……ここにいるのがオレではなく蒼凪なら何でもベラベラ話すつもりだろう?」

「とーぜんじゃっ!
 わらわの未来の嫁じゃからなっ!」



 ………………ここまで惚れ込まれていることが、テスタロッサに懸想している蒼凪にとって果たして幸運なのか不幸なのか……



「………………何がおかしいのじゃ?」

「ん?」

「笑っておったぞ?」

「む……そうか?
 いや何、時代も変わったものだと思ってな」



 素直に答えると(蒼凪の人間関係的に)またややこしいことになりそうだったので、当たり障りのない答えを返す。



「貴様のような小娘が“王”に収まるとは、瘴魔のあり方もずいぶんと変わったものだ。
 オレのいた頃には、考えられなかったことだ」

「お主らの瘴魔軍は、ずいぶんなタヌキが“王”だったようじゃからの」

「ほぅ、あのオーバーゼロを『タヌキ』と言い切るか」



 まぁ……確かにタヌキだったワケだが、当時のオレと柾木が二人がかりで、しかもいくつもの偶然が運良く折り重なった末にようやく倒した相手を「タヌキ」の一言で一蹴されると、どうにも複雑なものがあるな。



「しかし、タヌキと言うなら貴様らもだろう。
 貴様らも、“蝿蜘苑ようちえん”の目的がどこにあるのか、一向に見えてこない。真の目的を巧妙に隠していたオーバーゼロのようにな」

「目的……?
 そんなのないのじゃ」

「………………何?」



 万蟲姫の言葉に、オレは思わず眉をひそめた。



「だって、“蝿蜘苑”はバラバラだった瘴魔獣達が身を守るために集まった、えっと……こみ、こみゅ……」

「ひょっとして……コミュニティ?」

「そう、それじゃっ!」



 ナイスフォローだ、ブイリュウ。



「そのコミュニティを作ったのが、瘴魔神将であるホーネットじゃ。
 わらわはその後で、“王”として迎え入れられたにすぎぬ」

「なるほどな……」



 瘴魔獣達の身を守るために作ったコミュニティ、か……

 なるほど。「瘴魔を守る」という、瘴魔神将の使命に忠実に動いているワケか。



「今回人間達に存在を示したのも、『人間になめられないために力を示すため』と言っておったぞ」

「まるで、ホーネットがすべてを仕切っているような言い方だな。
 貴様も瘴魔の“王”としてその一翼を担っているだろうに」

「んー、そうかもしれぬがの……
 しかし、わらわは『瘴魔を守るため』とか、そんな理由は“どうでもいい”しのぉ」



 ………………何?

 今……コイツは何と言った?



「待て、万蟲姫。
 では、貴様が“蝿蜘苑”にいるのは、瘴魔を守るためではないと言うのか?」

「んー……“守っている”のは、否定せぬがの……」



 オレに答え、万蟲姫はしばし考え、



「だって……かわいそうではないか」

「『かわいそう』……?」

「うむ。
 だって、瘴魔は人間の『怖い』とか『怒った』とか『許せない』とか……そんな感情がご飯なのじゃろう?」

「『ご飯』という表現に多少ツッコみたいものはあるが……まぁ、その通りだ」

「じゃから、瘴魔獣は人間を襲い、怖がらせて、怒らせる……
 けど、そんなのかわいそうなのじゃ。みんなから怖がられなきゃ、怒られなきゃ生きていけないなんて……
 あの子達は好きで怖がらせてるワケじゃないのじゃ。“蝿蜘苑”にいればよくわかるが、それ以外の時は普通に同族をいたわることのできる、そこいらの動物や人間と変わらない存在なのじゃ。
 お主は、瘴魔軍にいた頃そうは感じなかったのかえ?」

「いや……確かにそうだったが……」



 そう……だからこそオレは瘴魔を守るという瘴魔神将の使命に今でも誇りを持っているし、今も“Bネット”で瘴魔と人間の共存を模索している。

 だが、この万蟲姫の言い方は、まるで……



「だから、わらわがあの子達を守ってあげるのじゃ!
 嫌われるしか道のない瘴魔にも、わらわみたいな“友達”がいてもいいのではないかえ?」



 ……これは……まさか……



「………………そう、だな。
 貴様の意思はよくわかった」



 内心の動揺を何とか抑え込み、万蟲姫に対して答える。



「オレは共存、貴様らは抑止……道は違えど、共に瘴魔の未来を案じての行動のようだ。
 本来なら、敵対はしたくないのだがな」

「それは、管理局の出方次第じゃと思うがのぉ」

「確かに」



 とりあえず……最後に確かめてみるか。



「では、聞きたかった貴様の意思も確認できたし、オレは帰らせてもらう。
 …………あぁ、もうひとつだけいいか?」

「何じゃ?」

「貴様の二つ名だ。
 オレは“炎滅”、ホーネットは“貫撃”……貴様にもあるだろう?」

「ん? そんなのないのじゃ!
 “万蟲姫”という名も、ホーネットがわらわを“蝿蜘苑”に迎えた際につけてくれた“王”としての称号じゃしの」

「ほぅ、ではそれとは別に本名があると」

「当然じゃろう?
 まぁ、お主らに教えるつもりはないがの……恭文なら別じゃが」

「そうか。
 では、次は恭文に貴様の本名を聞きに来てもらうとするか」

「本当かえ!?
 恭文との結婚式をセッティングしてくれるのかえ!?」

「………………せめてその前にデートとプロポーズをはさめ」



 万蟲姫に答え、オレはブイリュウと共にリビングを出て……



「リンディ・ハラオウン。エイミィ・ハラオウン」



 そこで様子をうかがっていた二人に声をかけた。



「少し……話がある」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 正直……驚いた。



 彼女が……万蟲姫が、あんなにハッキリした意思をもって瘴魔に身を置いていたなんて……



 てっきり、私はホーネットに利用されて瘴魔に力を貸しているんだとばかり……



「まぁ……確かにな。
 普通に考えれば、リンディ・ハラオウンのその言い分の方が説得力がある」



 リビングから少し距離を置いた一室で、私達は今のイクトさんと万蟲姫の話し合いについて話していた。



 ただ……イクトさんの表情がどこか優れない。何か、気になることでも?



「あぁ……
 そもそも、今日万蟲姫に会いに来たのは、彼女の能力についてサムダック……あぁ、娘のサリの方だ。彼女から聞いたからだ」



 えっと……確か、自分の能力を他人に分け与えることで、相手の能力を限界を超えてブーストする力……だったかしら。



「そもそも、そこからして“瘴魔の能力としてはおかしいんだ”」

「どういうこと?」

「瘴魔の使う瘴魔力だけど……実は、気、霊力、魔力を束ねた統合型エネルギーっていう点はみんなの命の力である精霊力と同じなんだよ」



 聞き返すエイミィにはブイリュウくんが説明してくれた。



「けど、瘴魔に限らず“闇”に属する存在……オイラ達が“闇の種族ダーク・トライヴ”って呼んでいる存在の命の力は、みんなの精霊力とは位相がまるで正反対。対消滅する関係にある。
 だからこそ、みんなにとって、“命を奪う力”として作用する……それは、瘴魔にとっての精霊力についても同じだよ」

「私達にとって瘴魔力が“命を奪う力”として働くのと同じように、瘴魔にとっての精霊力は自分達の“命を奪う力”だってこと?」

「でも……イクトさん達瘴魔神将は、精霊力と瘴魔力、両方の力を持っているのよね?」

「確かにそうだが、オレ達が使うのはあくまで瘴魔力だ。
 オレ達にとって、自分達の精霊力は反発作用によって瘴魔力をブーストする、いわば起爆剤としての役割しかない……単独で出力するようなスキルは、そもそも持つ意味がない」



 えっと……つまり、どういうこと?



「神将が普通の生命体に“力”を流し込んでも、その“力”はあくまで瘴魔力……“毒”にしかなり得ない。
 瘴魔獣をその“力”でパワーアップさせるならまだしも、ハーフ・トランスフォーマーである……“闇の種族ダーク・トライヴ”ではないサリ・サムダックをパワーアップさせることなど、“瘴魔の能力としては絶対にあり得ない”」

「ち、ちょっと待って。
 それって、まさか……」

「だから、それを確かめたくて話を聞きに来たんだ」



 エイミィに答え、イクトさんは息をついた。



「まず……使命感についてだ。
 オレ達瘴魔神将はブレイカーと同じ転生系の能力者だ。
 ブレイカーが“闇の種族ダーク・トライヴ”から人間達を守るという使命を当然のこととしているようにオレ達瘴魔神将も瘴魔を守るという使命は前世の記憶から受け継がれ、当然のこととして受け入れられるもの……
 本能レベルで刷り込まれる使命感だ。万蟲姫のように別に理由ができたとしても、『どうでもいい』などという言葉は“瘴魔神将であるなら絶対に出てこない”」

「それに……二つ名もだよ。
 瘴魔神将の二つ名を持つ習慣も、使命感と同じで転生によって受け継がれる……瘴魔神将であるなら、“二つ名は絶対に持ってるはずなんだ”」

「それで……あなた達は、どう考えているのかしら?」

「つまり、だ……」





















「万蟲姫は、瘴魔神将ではないのかもしれない」











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第41話「出番がないのが不幸な人がいる 出番がないのが(周りにとって)幸せな人もいる」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……わたしが覚えてるのは、これで全部」

「そうか……」



 うん……ゴメンね、マスターコンボイ。わたしも全部自分でやってたワケじゃないから……



 今のわたしがあるのはマスターコンボイのおかげだから、力になってあげたかったけど……



「いや……とりあえず、どこから追っていけばいいか、選択肢をある程度絞れた。
 そういう意味では、十分力になってくれた」

「でも……あの時のことを聞いてどうするの?」

「それは……まぁ、今やっていることが形になればわかる」



 言って、マスターコンボイは持っていたメモをしまって、



「おそらく、お披露目の場には貴様もいるはずだ。
 だから、その時を楽しみにしていろ……」











「ヴィヴィオ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 フェイト達が、ジュンイチさん達の世界に修行に引きずられていってから数日が過ぎたある日。



「やっさん、お待たせ〜♪」



 ……フェイトやイクトさんとお茶を飲んでたら、いきなりやってきた人影が二つ。



 いきなりだよね、うん。



「あー、悪いな三人とも、ちょち失礼するぞ」

「あの、えっと……何か?」

「うん、あったの。やっさん、お待たせっ!」

「いや、何がっ!?」

「ヤスフミ、何かあったの?」

「蒼凪、この二人に何か頼んでいたのか?」



 残念ながら、さっぱり覚えがない。なんでヒロさんがウキウキ顔なのかもわからない。



「やっさん、アンタ、ホントに覚えてないの?」

「……え?」

「ほら、トゥデイとモトコンボ送った時に……送った時のアレだよアレっ!」











 ……………………………………あぁっ!











「そーだよ。アンタへの三つ目の誕生日プレゼントっ! アレが出来上がったんだよっ!」





















 ……さて、話がさっぱりな人もいると思うので、まずは回想です。ま、復習は必要ってことで。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……それは、なのはとスバル達と一緒に取った休みが明けてから、数日後のこと。六課隊舎に僕宛てに、あるものが送られてきた。







 それは……











「……で、何やコレ?」

「いや、『何やコレ』と言われましても、僕にはわからないし」

「わからんちゃうやろっ!? 自分宛てやでこれっ!
 どないするんやこれはっ!」





 はやてが、テンション高めにあるものを指さす。その先にあるものに、僕も呆然としている。

 つーか、ありえませんぜ旦那。これはないから。



 ……そんな僕達の目の前にあるのは、一台の車。その名は……トゥデイ。



 そう、さっきも言ったけど車である。なお、中身……エンジンやフレーム、各種部品は、ミッド基準に当てはめた最新式である。

 これが、突然僕宛てに送られてきた。というか、リボンまでかけられていた。





「……で、誰なの。こんなことしたの?」



 呆然な顔をしていうのは、皆様ご存知高町なのは。

 まぁ、ビックリするのは当然だよね。突然こんなの送られて来たんだし。



「僕の友達。開発局に勤めてるんだけど、またテスターしろって」



 よーするに、ヒロさんとサリさんだね。うん、また二人の仕業なんだ。つか、これはぶっ飛び過ぎてて僕もどーしたらいいのか。



「『また』?
 ……あぁ、あのデンバード作った人達と同じってこと?」

「デンバード……あぁ、マックスフリゲートに来ていた時に乗っていたアレか?」

「あぁ、ヒロ姉ちゃん達か」





 なのはとマスターコンボイ、ジュンイチさんの言葉にうなずく。そう、この車もヒロさん達の試作品なのだ。



 そして、これに付いていた手紙にはこのように書かれていた。







『やっさんへ。3ヶ月ほど遅くなったけど、誕生日おめでとう。

 ということで、またうちで作った試作品のテスターをお願いするね。メンテや維持なんかは、思いっきりうちを頼ってくれていいから。



 で、モノなんだけど、全部で三つ。



 やっさんは今年は“JS事件”でがんばったし、六課へ不幸にも出向になり、死出の旅路をいっちゃったし。それの祝いやら慰労やらも含めて大サービスだよ。



 ひとつは、そのトゥデイ。やっさんの好きな『逮○しちゃうぞ』仕様だよ。

 中身も最新式の車両に負けないくらいの性能だけど、外見もこだわったから、バッチリでしょー!

 あ、ニトロシステム(モドキね?)も搭載してるから。ただ、運転に慣れないうちは使わないように。絶対パワー持て余すから。

 それと、運転席側のドアのポケットには、改造モデルガン仕込んでるから。弾は自宅に送ってる。大量のペイント弾をね。

 使う機会があったら、有効に使って(ま、必要ないよね)。



 で、もうひとつは、後ろに搭載してるモトコンポ。これも『○捕しちゃうぞ』仕様ね。

 どっちも見かけによらずパワーあるから、気をつけてね。

 あ、デンバードと同じく、両方ともアルトアイゼンのコントロールで動かすことも可能だから。



 あとひとつは……ごめん。現在マリーちゃんと相談の上で作ってる最中。

 ただ、やっさんなら、いきなり渡されても間違いなく使いこなせるシロモノだから、期待してて。近日中に送るから。



 じゃ、その子達大事にしてあげてね〜♪』







 ……あの、何考えてるんですかあなた方?

 つーか『死出の旅路』って何っ!? あ、相変わらずワケのわからない……!







 まぁいいや。ツッコむと疲れるのは目に見えてる。それに……誕生日プレゼントだしね。やっぱりありがたく思わないと。

 ありがとうございます。この子達、大事にしますね。







「アンタ、免許持ってるよな?」

「うん」



 バイクの免許と一緒に取った。けっこう大変だったなぁ。

 つか、学科のテストが難しくてさ……本番以外で合格点取ったことなかったもの。



「なら、今日は仕事はえぇから、このまま帰り?
 ……あー、でも車の置き場ないか」

「問題ない。その辺りは解消済みらしいから」



 追記で、マンションの駐車場を使っていいと書いてあった。さすがメゾン・ド・クロスフォードのオーナーだよ。



「……ねぇ恭文くん、その友達って何者? 手際よすぎるよ」

「そういう人達なんだよ」

《そうですね。そういう人達ですよ》

「そうだな。そういう人達だな」

「ワケわかんないよそれっ!」







 疑問いっぱいな顔をしているはやてとなのははさておき、僕は帰ることになった。



 ただし……どういうワケかお客さんも連れて。







「うわー、カッコいいねこれっ!」

「そーね、ミッドじゃなかなか見ないデザインだし。でも、白と黒のツートンがいい感じね」

「本当ですね。こう、アニメのみたい」



 …………ギク。



「えっと、恭文、コレ……なんて読むの?」

《『けいしちょう』ですよ。エリオさん》

「でも、ランプがついてるなんて……珍しいね。こういうタイプの車なの、なぎさん?」

「うん、こういうタイプなんだよ」



 うん、珍しいと思うよ。普通の車にはついてないし。

 つーか……ミニパトだし。警備車両だし。コレを乗れってのはけっこう辛いんだけど、みんなの反応を見るに、ミッドでは大丈夫なのかな?

 奇異な目で見られる可能性が低いのは、うれしい。意外と地球の文化って、知られているようで知られてないんだよね。



 みんなが知らないだけという可能性もあるけど。もしくは……知らないフリ? みんな優しいから、触れないようにしてくれてるのかも。



「でもアンタ、またいきなり車もらうっておかしいわよ」

「それにこのデザイン……うん、ネタ元のわかるオイラとしては非常にツッコみたいものがあるんだけど。
 いくら好きだからって、これは……デンバードとは次元が違うでしょ」

「……そう思うよ。でも、一応テスターなんだよ? 完全に僕のじゃないし」

「あの、僕達もホントに乗せてもらっていいの?」

《かまいません。時間も少し空いてますし、ドライブでもしようかと思いましたから》

「なら、お言葉に甘えようかな。あ、なぎさんの家に行ってもいい?」



 ふむ……早めに帰せば大丈夫か。エリオとキャロはまだ家に上げてないし、いい機会か。



「なら、少しだけドライブして、家でご飯食べようか」

『おーっ!』

「きゅくるー♪」



 ……みんな、そんなに来たかったの? なんか瞳ランランだし。というかスバル、尻尾を振るな。いや、ないんだけど、見えるから。



「……アンタ、今から作る気?」

「……デリバリーでいいかな? 家の兵糧が尽きちゃうし」

「それが正解ね。もちろん、食べた分だけ払いでいいから」

「ありがと」



 そう、ステエキフブである。



「その説明やめなさいよっ!」







 ……スバル、ティアナ、エリオ、キャロと、フリードにブイリュウである。

 みんな、車の話を聞いて乗りたいと言い出したのだ。なお、部隊長やらなのはの許可は取得済み。





「というワケで、ホラホラ。早く乗って」





 スバル、エリオ、キャロ、フリードはバックシート。助手席のシートを前に動かして、そこに入るようにして乗る(トゥデイは2ドア)。

 で、ティアナがブイリュウを抱きかかえるようにして助手席。僕も乗り込んで、シートを調整して……



 うん、いい感じかな?



《マスター、すぐにでも動けます。まぁ、慣れるまでは私がサポートしますから》

「……アンタ、免許取ってから運転してないの?」

「いや、仕事で何回かはある。でも久し振りだし、初めて乗る車だしね」

「納得した。そういうところに気を遣ってくれるところとかも含めてね。
 まぁ、あわてなくていいから。最悪アルトアイゼンに任せられるんでしょ?」



 確かに、事故ったら意味ないしな。ダメな場合はアルトに任せることにしよう。



「そうだね。ムリしなくていいから、安全運転でお願い」

「きゅくー」

「うん、そのつもり。じゃあアルト、お願いね」

《了解です》







 そんな話をしながらも、僕達は出発した。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 外回りを終えて、隊舎に帰ってきた直後の私は、その光景に目を奪われていた。







 だって、エリオとキャロが……ミニパトに乗っていたんだから。







 それだけで、私の頭は思考は止まる。そして数秒の時を経て、沸騰する。フル回転する。











 ミニパトに乗る→エリオとキャロがミニパトに乗る→どうしてミニパトに乗る?→何かしたから→何をした?→悪い事→犯罪→犯罪をしたらどうして乗る?→犯罪だから=連行される。











 私は走り出した。だって、ワケがわからないからっ!







 どうしてミッドにミニパトがっ! ……ひょっとして、広域次元犯罪っ!?







 だけど、ミニパトは無情にも走っていく。

 お願い、止まってー! 必死に叫ぶ……いや、そうしようとしたけど、声が出ない。

 こうしている間にも、ミニパトが隊舎の外へと進んでいく。







 どうして? 今朝出かける時は、みんな普通だったのにっ! なんで、どうしてっ!?







 ……こうなったら、ムリにでも止めるっ!

 私は、全速力で走り出した。さすがに攻撃魔法は使えない。だけど私には、この足があるっ!







 私は何っ!?……私はフェイト・T・高町っ!











 速さなら……誰にも負けないっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ギアチェンジよしっと。

 うん、久々だけど問題ない。というか、乗りやすいなコレ。気に入っちゃったよ〜。



「ふーん、意外と普通なのね」

「まぁ、僕ひとりじゃないしね」



 どこか感心感心という顔のティアナに、いつになくマジメに返事する。

 ……事故とかに巻き込みたくないし。



「うんうん。ジュンイチとは偉い違いだよ。
 ジュンイチ、人乗せてても平気で慣性ドリフトかますし」

「いや、アレと比べられても困るよ。
 僕、Gがななめ後ろから来るなんてあの人の運転以外で体験したことないよ? ジェットコースターを凌駕するって、アレ」



 なんて言いながらも、車は隊舎の外へ出て、公道を走る。制限速度はきっちり守りつつ、楽しくドライブである。











《……なんですかあれ》

「どったのアルト?」

《後ろを見てください》



 その言葉に、バックシートのエリオとキャロ、フリードにスバルが振り向く。そして、固まる。



「……なにあれ?」

「なんで……しょう」

「というか、すごいスピードです」



 は? いや、意味わからないし。

 僕と同じ事を思ったのか、ティアナが窓を開けて、ブイリュウと一緒に後ろを見る。そして、固まった。



「……なにしてるのよ、あのひと」

「……ほんと、なにしてるんだろ……」

「あー、ティアナ。僕は止まった方がいいのかな?」

「アンタ、何かした?」

「意味わからないしっ!」

《何もしてませんけどね。とにかく、止まる前に、見た方がいいと思います》



 そこまで言うと、僕の前に小さなモニターが現れた。そして……固まった。







 映ったのは、車の後ろの光景。その中になぜか存在するひとりの女性。

 必死な形相で、煙なんて上げながら、僕達を追いかけている姿が見えたから。







 というか……フェイトっ!?







 そう、フェイトだった。よくもまぁあのパンプスで走れるものだと思うくらいの速度でこちらに迫って……というか、追いついてきてるっ!?

 車の後ろを映しているモニターからフェイトの姿が消えた。そして……横に殺気。







 やばい、オーバーSに背後取られたのと同じくらいイヤな感じがする。つーか速度上げたいっ!



 ちなみに、現在時速は50前後出してます。僕が、恐怖におののきながら……いや、みんな、僕の窓の方を見ておののいてるんだけど……。







 とにかく、横を見ると……金色の夜叉がいた。





















「……ヤスフミ、これは、どういうことなの」

「いや、さっき説明した通りだから……」

「作り話ならもうちょっと上手くしてっ! いくらなんでも、いきなり車が送られてきたなんて、信じられないよっ!」



 いや、それが真実だし。それ以外に言いようがないから。



「どうして……どうしてっ! エリオとキャロを連行しようとしたのっ!? 正直に答えてっ!」

「だーかーらっ! 違うって言ってるじゃないのさっ!」

「エリオとキャロが何かしたのっ!? もしそうだとしてもこれは酷いよっ!
 ヤスフミ、エリオ達と仲良くなっていきたいって言ったの、ウソだったのっ!? ねぇ、そうなのっ!?」

「お願いだから……僕の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」











 そして、街へ出る一本道の道路の上で、口論すること一時間。



 スバル達が、なのはとはやてを呼んでくれたので、一緒になだめつつ説得して、やっと納得してもらった。

 そして、ドライブはここで終了となったのは言うまでもないだろう。

 つーか、できる空気じゃないし。もう真っ暗になってたし。











「うぅ……ごめん、エリオ、キャロ」

「あ、いえ。その……」

「私達は大丈夫ですから」



 うん、微笑ましい光景だね……でっ!



「フェイト、僕にはないの?」

「……ヤスフミもごめん」



 うん、まぁいいけどさ。



「というか、紛らわしいよっ!」

「どこがっ!?」

《まぁ、仕方ないですね》











本日の教訓:プライベートでミニパトに乗るのはやめましょう。こうなります。



 なお、この話をヒロさん達にしたところ……。











『あーはははははははははっ! もうダメっ! アレかっ! うちらを笑い殺したいのっ!?』

「……もしもし? そんなに楽しいですかこんちくしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





















 大笑いされました。











 何なんだよこれっ!? 僕が何かしたかおいっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……回想はおわ……り……です。あぁっ! 恥ずかしいよっ! 私いったい何やってるのっ!?







「大丈夫だよフェイトちゃん」



 ヒロさんが優しく私の肩をポンと叩いてくれた。



「そうだよ。気にする必要はないぞ?」



 サリさんも同じく……なんだろう、この優しさがすごく



『うちらは面白かったからっ!』

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」







 突き刺さったっ! 何かが私の心に突き刺さったよっ!







「フェ、フェイト落ち着いてっ! ヒロさん達も余計なこと言わないでっ! つーかなんでトドメ刺してるっ!?」



 は、恥ずかしい……穴があったら入りたいよ。



「やっさん、ブレイクハウトで作ってやりなよ」

「そーだよ、こういうので男の器量は決まってくるんだ」

「そういう話じゃないからっ!」

「そうだぞ、二人とも。
 墓穴というものは自ら掘る物ではないか」

「イクトさんもそういう話じゃないからっ!」

「何をっ!?
 人間、自分の墓穴くらい自分で掘れずにどうするっ!?
 自分で掘るのが怖いのかっ!? いったい誰に掘ってもらうつもりだっ!?」

「イクトさんはまず、何気にただの穴から墓穴にクラスチェンジしてることに気づきましょうかっ!
 はぁ……まぁ、いいや。話戻しましょ。
 つか、それで……なんですか?」

《ようするに、最後のプレゼントが出来たという話ですよね》



 うん、そうだよね。マリーさんと協力して作ってた……デバイスだったよね。



「うん。で……それがこれっ!」



 そうしてヒロさんが出したのは、長方形のケース。ヤスフミがそれを大事に受け取って、開けると……え?



「……これ」

「マジックカード……だよね?」



 マジックカード。ヤスフミが数年前に開発した個人装備。あれ、でもこれ……ちょっと違う。

 ヤスフミのカードは全部銀色だけど、これは銀に青の縁取りがされてて、カードの装飾も……。



「ふふふ、気づいた?
 そうっ! これはやっさんのマジックカードの改良型なんだよっ!」

『改良型っ!?』

「まぁ、“一枚につき、ひとつの形の魔法を一度だけ”っていう基本ラインは変わってないんだけど。
 でも、今までより貯蔵できるデータと魔力容量が上がってる……あくまでも、多少だけどね。
 ……改良型っていうより、バージョンアップ版だな、これ。“Ver1.2”って感じ?」

《でも、よく改良できましたね。マスターもマリエルさんも、相当苦労して形にしたのに》



 うん、覚えてる。ヤスフミ、すごく苦労してたから。どうしても安定した形にならないって言って。



「まぁ、これからのアンタには必要だと思ってね。
 ……どう、気に入った?」

「あの……気に入ったっていうか、ビックリしたっていうか、驚いたっていうか……」



 ヤスフミ、とまどってる。うん、これは予想してなかったしね。



 ……よし。



“ヤスフミ”



 念話をつなげる。相手は当然、ヤスフミ。



“そんなにビックリしなくていいんだよ?
 ……うれしいんだよね”

“……うん”

“なら、それをちゃんと言わないと”

“……そーだね。うん、言わなきゃ”



 そして、ヤスフミはまっすぐに二人を見て、ペコリとお辞儀した。



「ヒロさん、サリさん、ありがとうございました」

「あー、いいっていいって。でも、マリーちゃんにも言っておいてね? 反応、期待してたから」

「はは……了解です」



 ……ヤスフミ、本当にいい友達を持ったよね。うん、感謝しないとダメだよ。

 でも、新型マジックカードか。どんな感じか気になる。ヤスフミの新しい力になるワケだし。



「うし。それじゃあ、早速明日から試していくぞ。
 大丈夫だとは思うけど、一応練習しとかないとな」

「はいっ!」

「ヤスフミ、私も付き合うね」

「そうだな。どんな仕上がりか気になるところだしな」

「うん、よろしくね。フェイト、イクトさん」



 そんなことを話していると……



「あぁ、いたいた。恭文くーん」

「恭文、そろそろ行くけど、準備は大丈夫か?」

「あぁ、うん、大丈夫」



 やってきたのはなのはとジュンイチさん……うん。二人はこれから、ちょっとヤスフミとお出かけ。



 三人が向かうのは、管理局本局。なのはは、教導隊オフィスに顔を出して、解散後……そう、六課の解散後の教導スケジュールの打ち合わせ。







 そして、ヤスフミとジュンイチさんは……ピンチヒッターだって。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……と、いうワケで、今日もなのは達がいないので、あたしが訓練を仕切りまーす」



 整列したオレ達を前にして元気に手を挙げるのはやはりアリシア・T・高町だ……訓練が始まれば貴様も“Bネット”組から教わる立場だというのに偉そうに。



「はい、マスターコンボイうっさい。
 とにかく、今日は“気”のコントロール訓練の続きね。
 今日の課題は“気”と魔力の使い分け。目標としては、それぞれ別々に、同時に出せるくらいにはなってほしいかな……ジーナさんはスバル達の指導、お願いします。
 フェイトとシグナム、ヴィータは、引き続きライカさんの指導でデバイスなしでの飛行訓練ね」

「わかっている」

「まだ安定して飛べねぇしな」



 シグナム・高町とヴィータ・ハラオウンが答え、フェイト・T・高町と共にライカ・グラン・光凰院の元に向かう。



「マスターコンボイは、とりあえず魔力との使い分けは後回し。
 いよいよ飛行訓練だよ――あずささんから教わってね」

「あー、いーなー、マスターコンボイさん」

「マスターコンボイは年明けの試験までに飛べるようにならなきゃいけないもの。多少予定を前倒しにしなくちゃ間に合わないの。
 その点、スバル達は急ぐ理由はないからね。まずは飛ぶために必要な“力”のコントロールをきっちり身につけてからだよ」



 そうか……いよいよ飛び方を教われるのか。スバルが何やらうらやましがっているが、まぁ、アリシア・T・高町の言い分にも一理ある。ここはガマンしてもらうとしよう。



「じゃ、それぞれ分かれて、訓練開始だよ」



 それじゃ……やるかっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「よっ、とっ、ほっ……」



 っとと……くそっ、まだフラフラしやがる。



 デバイスなしだと、飛行魔法ってこんなに難しいとは思わなかった。今回の訓練でしみじみ実感したぜ。



「そうね。
 ただ浮けばいいってもんじゃない。姿勢を維持するためにバランスもとらなきゃいけないし、それを維持したまま飛ぶための推進力をコントロールしなくちゃいけない。やることは多いわよー」



 空中でなんとか姿勢を保ってるあたしのとなりまで上昇してきて、ライカがそう説明する――さすがはベテランっつーか、ちっともバランス乱れてねぇな。



「その気になれば、ヴィータ達だってこのレベルにはたどり着くわよ。
 …………もっとも、その時は飛行補助の仕事を奪われたグラーフアイゼンがヘソ曲げるのは必至でしょうけど」

「あー……」



 アイゼンのヤツ、自分のデバイスとしての働きにプライド持ってやがるからなー。確かに仕事減らされたらヘソ曲げそうだ。



「気難しい子よね、グラーフアイゼンって」

「“伯爵”を二つ名に冠してるのはダテじゃねぇってことだよ」



 ライカがなんか苦笑してる……まぁ、一緒に戦う相棒デバイスの話なので、軽くフォローしてやる。







 とにかく、今はこっちの訓練に集中だ。けっこう高くまで上がってきてるし、ここでバランス崩してまっ逆さまなんてまっぴらd





















「――――――危ないっ!」





















 ――――――へ?











 いきなりの声に我に返った瞬間、目の前で爆発――って、落ちるっ!?







 今のショックで“力”の集中が切れた。バランスを保てなくなって、あたしは落っこち――ない?







 ……って、ライカが拾ってくれたのか……サンキュな。











 ………………ただ、つかむなら足じゃなくて手をつかんでほしかった。おかげで現在進行形で逆さ吊りだぜ。











「ぜいたく言わないでよ。
 ヴィータを狙った攻撃を吹っ飛ばした後、すぐ拾いにいったんだからさ」

「って、攻撃!?」







 見ると、ライカはあたしを左手で支えて、空いている右手には彼女の“装重甲メタル・ブレスト”の固有兵装、大型ライフルの“カイザーブロウニング”が握られてる。どうもそいつでの射撃でその攻撃とやらを吹っ飛ばしたみたいだけど……今はそんなことはどーでもいいっ!



「おいおい……どこのドイツだ!? いきなり仕掛けてきやがったのはっ!
 あたしを狙うたぁ、いい度胸じゃねぇかっ! 誰だか知らねぇけど、売られたケンカは買うぞコラ!」



 少なくとも、あたしを狙って攻撃されたってことは間違いないんだ。シグナムのセリフじゃねぇけど、挑まれた勝負から逃げるなんざ騎士のすることじゃねぇっ!



 けど……あたしの言葉に、ライカはなぜかため息をついた。え? なんで?



「そのセリフ……撃ってきた相手を見てもまだ言えればいいけどね……」

「え? え??」



 何だよ、そのリアクション。

 まさか、誰が攻撃してきたかわかったのか?



「まぁね……
 とぉ〜ってもよく知ってる相手の攻撃だったわよ、今の」



 よく知ってる相手……?



 もったいぶらずに教えろよ。ディセプティコンか? ホーネットの野郎か?



 それとも別のヤツ……? けど、他にあたしらをわざわざ直接狙ってくるような相手なんて……





















 ………………あ。





















 いるじゃねぇか。



 わざわざあたしらを狙って、問答無用で襲ってきそうなヤツが……











 ………………身内に。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「何だ!?」



 それはまさに突然だった。



 上空で飛行訓練をしていたヴィータを狙った、突然の攻撃……ライカが防いでくれたようだが、一体誰が……



「ハッ、どこの誰だろうが関係ねぇよ!」

「オレ達が勢ぞろいしてる時に攻めてくるなんて、いい度胸してるじゃんっ!
 返り討ちにしてやろうぜ、ライオコンボイ!」



 相手を見定めようとする僕と違って、ブレイクやチータスはすでにやる気満々だ。それぞれに武器をかまえて――











「いいねぇ! そういうのっ!」











 その言葉と同時――轟音と共に目の前の地面が吹き飛んだ。



 当然――そこにいたチータス達も一緒に宙を舞う。







 一体何が――そう思うよりも早く、舞い上がった土煙の中に人影が現れた。



 瞬間、自分の中で閃いた何かに促されて両手のライオンクローをかまえる。直後、両腕に伝わってくるのは尋常じゃない威力の衝撃。



 だけど、それで終わりじゃなかった。腹に衝撃を受けて吹っ飛ばされる――蹴られた!?







「ライオコンボイ!」

「問題ないっ!」



 エアラザーに答えて、すぐに受け身を取って立ち上がる――何者かは知らないけど、コイツ……強い!



 未だ周囲は土煙が立ち込めていて相手の姿が捉えられない――左っ!?







 ビーストトランスフォーマーの特権、動物的直感に従って、左から襲いかかってきた斬撃をかわす。そのまま襲撃者向けて――ライオンクローで一撃っ!





















「はい、そこまで」





















 止められた。











 僕のライオンクローが。そして――相手の攻撃も。











 まっすぐな二振りの刃――パートナーデバイス、アメイジアをかまえたヒロリスによって。











「そのくらいにしておきなさい。
 まぁ、気持ちはわからないでもないけど……不意討ちでブッ飛ばしてもつまんないでしょうが」



「………………チッ」







 ヒロリスの言葉に、相手の舌打ちがもれる――土煙の向こうで、相手が刃を引いたのがわかった。







 だから僕もライオンクローを収める。そうしている間に土煙が晴れていって――











『ブレード(さん)!?』











 現れた襲撃者の姿に、六課のみんなが声をそろえて驚く――あの、知り合い?







「えっと……ライオコンボイ。
 前に話したでしょ? 鷲悟さん達と同じブレイカーで、相手が強いと見たら誰彼かまわず攻撃を仕掛けるバトルジャンキーがいるって」







 メイルの言葉で思い出した。確かにそんな話を聞いたことがあったな……ジンのグチの中で。







「やっさんがアギトから連絡もらって、あらかじめ来るって聞いてたけど……思ってたよりは日数かかったわね。
 どっか寄り道してた?」

「おぅ。
 道中、強そうなヤツらを何人か見かけてな。殺し合ってあそんできた」



 ヒロリスの言葉に、彼は実にあっさりと答える……あの、今果てしなく物騒なルビの振り方がされた気がするんたが。



「ライオコンボイ、気にしてはダメですよ」



 ダメなのか? ライラ。



「えぇ。
 この人……ブレードさんがこうなのはいつものことですから」



 いや……それはそれで、かなり不安なんだが。







「…………てて……」

「ひどいめにあったじゃん……」







 あぁ、ブレイクにチータス、無事だったか。







「無事じゃねぇよ。
 このヤロー、よくもやってくれたなっ!」

「やろうってぇなら相手になるじゃんっ!」



「………………へぇ」



 ムキになるブレイク達の言葉に――ブレードの口元がそれはもううれしそうに歪んだのが見えた。







 なるほど……確かに戦うことが大好きなようだな。







「おもしれぇ。オレとやろうってか。
 オレを楽しませられるくらいには強いんだろうな、お前らぶっ!?」



「だから、やめなさいって」







 さっそく二人と戦おうとしたブレードの頭をヒロリスが張り飛ばした。







「つか、アンタちゃんと“あいさつ”してきたんでしょうね?
 後回しになんかしたら、“あの子”泣くわよ?」







 は? “あいさつ”? “あの子”?



 ヒロリス、一体何の話を……





















「ブレードさんっ!」





















 それは、まさに突然だった。



 ブレードの目の前に魔法陣が現れたかと思ったら、そこから飛び出してきた人物がブレードに思い切り抱きついたんだ。







 あー、えっと……



 いきなりどうしたんですか? シャマル先生?







「いーのいーの。好きにさせてあげなさい」







 って、ヒロリス……?







「シャマル先生、ブレードにベタ惚れなのよ。
 でも、ブレードって見ての通りのバトルマニアの風来坊だからさ……いつもは絶賛遠距離恋愛中なんだから」







 あぁ、なるほど。



 久々に出会った好きな人を相手に、抑えが利かなくなっているワケか。



 シャマル先生に視線を戻してみれば、ブレードに抱きついたまま、その胸元にうれしそうに、本当にうれしそうにほお擦りしている……なるほど。確かにベタ惚れだ。







「あぁなったらしばらく戻ってこないから。
 ブレードもブレードで、シャマル先生があぁなってる間は振りほどくワケにもいかずに暴れられないから……そうね、あと1時間は安全ね」







 ……その話を聞いて、きっとみんなが思ったに違いない。











 シャマル先生。



 あと1時間とか言わないで、もうずっと甘えていてください、と……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ミッド地上の中央本部から転送ポートで本局へ。着いてからなのはと別れた後、僕とジュンイチさんはある場所へ向かっていた。



 あー、でも……けっこう久しぶりだね。



《そうですね。しかし……相変わらず忙しそうですね》

「年中戦場だしね」

「どっかの提督なひよっこのおかげでなー」



 とにかく、着いた……入り口は、近代的な本局の内装とは合わないシックな色合いの木目の扉。



 そこのインターホン……というか、警備端末のスイッチを押す。聞こえてきたのは、女性の声。



『はい、こちら無限書庫です』

「ども、嘱託魔導師の蒼凪恭文です」

「民間協力者の柾木ジュンイチでーす。書庫の手伝いに来ましたー」

『あぁ、二人ともっ! 待ってましたよっ! とにかく、中へ』



 そして、扉が開く。僕はその中に飛び出す。

 そこは、それまでと違う無重力の世界。そして、上から下まで。360度本の数々。



 ここは、時空管理局が誇る超巨大データベース“無限書庫”。次元世界の知識と歴史の総てが存在しているとも言われている場所。



「恭文くんっ! ジュンイチさんっ!」



 聞こえてきたのは、僕のよく知る男の人の声。それは上の方から……おぉ、また……すごいなぁ。目の下のクマとか。



「ユーノ先生っ!」



 金色の長髪を後ろでひとつにまとめて、局の制服ではなく、スーツ姿の男性。

 そう、この人がユーノ・スクライア。無限書庫の司書長さんだ。



「久しぶりっ!」

「ぅわ、すげぇクマっ!?」

「一体何徹したんですかっ!?」

《おめでとうございますっ!》

《祝っ! 『とまコン』初登場っ!》





















 ……瞬間、場が凍りついた。え、なんでっ!?





















「えっと……アルトアイゼン? 蜃気楼?」

「アルト、空気読みなよ。ここはクマをツッコむところだって。ほら、ユーノ先生ポカンとしてるし」

「蜃気楼も少し黙れ。その発言はいろいろとヤバい」

「そういう話じゃないよねこれっ! というか、キミ達いきなり何言ってるのっ!?」

《いや、まずはそこではないかと。ヘタをすれば最終回まで出番なしだったんですから》

《というか、そのテの予備軍が何人いると思ってるんですか。
 そんな連中の吹き溜まりからの脱出に成功したというだけでも快挙ではありませんか》



 ……あ、なるほど。



「確かにお前らの言う通りだな」

「二人とも、それで納得しちゃうのっ!?」

《当然でしょう》

「断言しないでっ! なんか悲しくなってくるからねっ!?」

「ユーノ……先生……! よかったで……すね……!」

「今夜はお祝いだな。
 出席はできないが……花束くらいなら、なんとか用意してやるから……っ!」

「お願いっ! 泣くのも止めてほしいんだけどなっ!?
 いやっ! 確かにこのまま楽屋生活のまま『とまコン』終わっちゃうのかなとか思ってたけどっ!」





 まー、それはそれとして。





「僕らは何すりゃいいんですか」

「ま、いつものことだとは思うけどな」

「相変わらず切り替えが速いねっ! 速すぎてついていけないよっ!」

『足りないよりマシだ(です)っ!』

「そういうことじゃないからっ!
 ……とにかく、さっそくで悪いんだけど、これをお願い」







 僕の前に開いたウィンドウには……これ、かなりありますね。



 えっと、裁判記録に魔法史に“古代遺物ロストロギア”の鑑定用資料……それも大量。







「まず、これを一気にお願い。発掘は、司書のみんなに任せちゃっていいから」



 またムチャを……これを一気にって、普通にやったら、検索魔法の容量がバカみたいに重くなるのに。つまり、まともに動かなくなるのだ。

 まぁ……



「わかりました。んじゃ、さっそく……始めます」

「うん、お願い」





 僕やジュンイチさんには、プログラム容量なんて関係ないんだけど。



 この量なら、魔力も大丈夫だね。ジュンイチさんとの二人がかりだし、切れかけても、ユーノ先生なり、回復魔法のカード使えばいいでしょ。

 そんな思考を巡らせつつも、足元に青いベルカ式魔法陣が生まれる。



 そうして発動するのは、検索魔法。書庫に存在しているこれらの資料の在り処を、これで探し出す。

 そう、無限書庫とは……それほどに巨大で、広大なのだ。



 そしてジュンイチさんも右手で書架に触れる――こちらは持ち前の人外スキルのひとつ。データベースに意識の一部を送り込んで直接データに干渉する能力“情報体侵入能力データ・インベイション”を発動。

 “書庫”という形態をとってはいるけど、さっきも言ったとおりここの本質は“データベース”。だからジュンイチさんのこの能力も存分にその力を発揮できるというワケだ。



「アルト、サポートお願いね」

《了解しました》

「蜃気楼、データリンク開始。
 見つけた資料の場所の伝達はお前に一任する」

《お任せください》

「んじゃ、やるか、恭文っ!」

「さぁ、一気にいくよっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……瞬間術式詠唱・処理能力。



 その名の通り、魔法プログラムの術式詠唱や処理を、一瞬で行う能力だ。その速度は、デバイスの自動詠唱などよりも、圧倒的に速い。



 本来、魔法プログラムの詠唱速度や処理は、使用する魔力量やプログラムの容量の大きさに比例して、遅くなる。

 だけど、この能力を保有する人間はその限りじゃない。

 わかりやすく言うと、普通の術者なら詠唱や発動にすごく時間のかかる魔法でも、一瞬でプログラムの詠唱と処理を終えて、発動させることが出来る。



 そして、それに比例というか副産物というか能力の一部というか……この能力の保有者は例外なく、極めて高い魔力運用の技術が先天的に備わっている。

 これも瞬間的な詠唱・処理を可能とする要因になる。詠唱・処理だけじゃなくて、魔力のコントロールもしっかりやらなきゃ、魔法って使えないしね。



 まぁ、瞬間発動が可能というだけで、消費魔力やなんかは変わらないんだけど。あくまでも、たいていの術式は即時詠唱・発動が可能ってだけで。



 あと、スターライトのような周囲の魔力を集める……とか、そういう術式は、即時発動できない。さすがに一瞬で魔力の集束なんてできないから。

 そういうことも手伝って、局ではレアスキルには認定されていない。少し珍しい能力という程度の扱いの能力だったりする。







 そして、恭文くんはその珍しい能力の保有者。彼の能力は、この無限書庫では非常に重宝する。



 普通では何回かに分けて、慎重に探す必要のある量の探し物でも、恭文くんなら一回で検索できる(彼の魔力量のキャパシティに収まる範囲で)。

 そのため、恭文くんに資料検索を任せると、それに取られる時間が大きく短縮できる。

 ヒットしたものを探して、取り出す必要はあるけど、それは恭文くんに任せた分、手の空いた人間がやればいい。

 なお、こちらも手数が増えて、結果的にスピードアップにつながる。







 そしてジュンイチさん……彼はいろいろあった結果普通の人間の身体じゃない。

 後天的に遺伝子を操作され、自己進化能力なんてものを得てしまった結果、様々な特殊能力を持っている――そのひとつが、“情報”へ意識を侵入させる“情報体侵入能力データ・インベイション”。



 この能力を使用した時、ジュンイチさんはどんなスーパーコンピュータもかなわない超高度情報端末も同然になる。

 当然だ。制御しているのはジュンイチさんの頭脳。元々並の人間の脳ですら、処理能力“だけで”比べるなら既存のスーパーコンピュータなんてメじゃない能力を誇っているんだから。そんなもので制御されたシステムに、既存のコンピュータがかなうはずもない。

 そして、そんなジュンイチさんが、恭文くんと一緒になって検索をかけたらどうなるか……







 そう……恭文くん&ジュンイチさんという超高速の検索エンジンの力を借りれば……三徹した上にまた徹夜……なんて悪夢は、避けることができるっ!







 ……いや、あのね? 僕らもこれ以上はさすがにイヤなんだよ。福利厚生ってちゃんとしないといけないし……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………ふぅっ、たんのーしました。
 ブレードさん分、補充完了です♪」



 あれからタップリ1時間半……訓練はとりあえず切り上げた。



 いやもう、ブレードはともかくシャマル先生が甘々な空気をまき散らすもんだから、とてもじゃないけど訓練やってられる空気じゃないって。



 ともかく、ずっとブレードに甘えていたシャマル先生はようやく満足げな表情でブレードを解放した。



「いったいオレから何を補充したんだ、お前……」

「それはもう、女の子的に大切なものをいろいろと」



 呆れるブレードにシャマル先生が答える……うん。なんかすごくムカつく。



「奇遇だな、ヒロ。オレもだ」

「ん? ヒロさんもサリさんも、不機嫌そうな顔しちゃって、どったの?
 ………………あぁ、二人ともあんな感じにラブラブやる相手がいないかりゃべぶばぁっ!?」



 失礼なことをぬかしたネズミは一瞬にして宙を舞う……まったく、失礼なヤツだね。



「で?
 アンタはそもそも何しに六課に来たワケ?
 まさか、シャマルとラブラブやりに来たとでも?」

「バカ言え。
 ンなワケあるか」



 気を取り直して尋ねるけど、返ってきたのはそっけない返事……ナニその態度。相手がいるからって余裕のつもりかコラーっ!



「落ち着け、クロスフォード。話が進まん」



 えぇい、放せ、イクト! コイツだけはブッ飛ばすーっ!



「だから落ち着け。
 それに……用件ならアギトが連絡を入れてくれた時に教えてくれただろう」







 あ………………忘れてた。







 確か……ジュンイチにケンカ売ってるヤツらが、情報を欲しがってブレードのところに来たんだってね。







「あぁ。
 途中で逃げられて、結局ケリをつけ損なってな……柾木を狙ってるんだから、アイツにくっついて動いてりゃ、また向こうから現れるだろうってな」

「クロスフォーマー……ですね?」

「そう。そいつら」



 聞き返すフェイトちゃんにブレードが答える……あれ? でも、そいつらの動きを追って、ジュンイチがネットワークに監視網張り巡らせてたんじゃなかったっけ?



「の、はずだったんですけどねー。
 ちっともヒットしなくて、どういうことかと思ってたけど、ようやく合点がいきました。オンラインじゃなくて直接聞き込みに回ってたとは……」



 首をかしげる私にはライカちゃんが答える――なるほど。向こうもバカじゃないってか。



 まぁ……あくまでも狙いはジュンイチとやっさん、フェイトちゃんだし、いずれは出てくるはず。それを見越して六課で待ち伏せ……と考えたブレードの判断は悪くない。











 そう……悪くないけど……











「で……連中が出てくるまでは?」

「ん?
 そんなの、お前ら相手に暴れるあそぶに決まってんだろ」

「帰れっ!」



 私に答えるブレードにライカちゃんがツッコんだ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……二人とも、大丈夫? ゴメンね、ちょっと飛ばしてもらっちゃって」

《問題ありません。久しぶりで少し疲れただけみたいですから》

「あと……お腹空きました。もうペコペコですよ……あぁ、ポテトサラダがおいしい」

「オレもだ。
 あー、ケーキがうまい……」







 さて、お昼なので食堂に来ました……でもユーノ先生、お願いですから。



『でも、キミが頑張ってくれたお陰で、みんなのお昼休みは確保できたよ……うぅ、何週間ぶりだろ、食堂使うの』



 ……とか言うのはやめてください。泣くのもやめてください。イヤ過ぎますから。







「あぁ、いたいた。
 ユーノくん、それに恭文にジュンイチくんも」







 突然聞こえた聞き覚えのある声。なので――











「………………あのさ、恭文。
 私の声を聞くなりイスを楯に防御態勢取らないでくれる? さすがにちょっと傷つくんだけど」

「だって、防御しないと美由希さん抱きついてくるじゃないですか」

「当たり前じゃない」

「当たり前じゃないからっ!」







 ………………はい。無限書庫が誇る武闘派司書、副司書長の高町美由希さんのご登場です。







「あれ、美由希ちゃん。
 そーいや誰かいないなー、と思ってたけど……何、外出てたの?」

「うん、ちょっと補給課の方に、補充を頼んでた消耗品の受け取りに」



 そしてジュンイチさんは動じてないね……いや、すっかり慣れちゃうくらい毎回似たようなやり取りやってるのは僕らなんだけど。



「で、今さっき戻ってきたんだけど、恭文達が食堂でお昼だって聞いたから、一緒に……って、何? ジュンイチくん、私の顔ジロジロ見て」

「あぁ、失礼。
 いやね、ユーノはクマがすごかったのに、美由希ちゃんはないなー、って」

「うん。
 ユーノくん、私達女性組はどれだけ忙しくてもちゃんと寝かせてくれるから」



 ユーノ先生、紳士だからね……なのに、ホント報われてないよね。



「それで男性陣が不眠の限界に挑戦してれば世話ねぇだろうに……
 つかさ、ユーノ……オレ、前にレリスさんが書庫の環境改善に働きかけてくれてるって聞いてたんだけど」

「えぇ。
 私財を投げ打って、検索補助用のデバイスをみんなの分まで作ってくれたんですけど……」

《それであれ……ですか?》

「そうだよ、蜃気楼。
 仕事の能率が上がった分、評判も上がっちゃってね……最近はクロノ以外からもムチャ振りが過ぎる資料請求が。
 うん……むしろクロノひとりにムチャ振りされてた頃の方がマシだったよ」



 ジュンイチさんとのやり取りに口をはさんだ蜃気楼にユーノ先生が答える……うん、優秀だってことは、それが知れ渡るってことは、いいことばっかりじゃないよね、ホント。



「そうだよね……
 もうあり得ないよ。おかげで発掘にも行けないし」



 なんかわかった。なーんで出番がないのか。



 簡単な話だ。仕事、仕事で無限書庫から出ることすら叶わなかったんだ、この人。

 ワーカーホリックって、罪だよ、うん。



「なのはとも会えないしさ……」

《……そうでしたね》



 あー、これ辛い。なんか黒いオーラ出してきたし。美由希さんもご愁傷様とばかりに苦笑してるし。



 そして、横馬が誰にホの字か知ってるだけにさらに辛い。



「時に先生、最近の横馬との付き合いはいかに?」

「えっと……」



 あの、ユーノ先生? なんで考え込む?







「メールしたり」



 うん。



「メールの返事書いたり」



 うんうん。



「メールしたり」



 ……うん。



「メールの返事書いたり」



 ………………………………



「メールしたりメールの返事書いたりメールしたりメールの返事書いたりメールしたりメールの返事書いたりメールしたりメールの返事書いたり……」



 ……………………………………………………ダメじゃないかよこの人はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!



 つーか悪化してるっ!? 間違いなく悪化してるよっ! そりゃジュンイチさんになのはを盗られるよっ!



「あなた何やってますっ!? なんでメールでしか交流してないんですかっ! どんだけデジタルな関係に終始してるんですかっ!
 なんでリアルタイム通信とか送ってないんですかっ! どうせならそっちで顔見て話してくださいよっ!」

「だってっ! 通信したら迷惑かもしれないだろっ!?」



 力いっぱい力説したっ!? つか、本格的にダメな人じゃないのさっ! 発言がすでに20歳間近の人間から出ているとは思えないしっ!



《今日び、そんなことは初等部の子供も言いませんよ……》

「大丈夫、なのはと僕の間にはしっかりとした絆が……」

「しっかりしてないからっ! 回線の使用料金滞納したらあっさり切れる絆ですよそれっ!
 つーかなんてメル友っ!? いやもうメル友ですよそれっ!」

「いいじゃないか別にっ! 返事はちゃんと来てるんだしっ!」



 ……いや、なんつうか……来年20歳でそれはアウトでしょ。



「えー、ちなみに返事が来るのが徐々に遅くなってるとか、なんか文面が適当になってるとかは?」



 まぁ、今言ったのは、相手がメールを迷惑に思ってる危険サインなんだけど……ユーノ先生は首を横に振った。

 まぁ、横馬に限ってそれはないか。砲撃バカに見えて、そういうところはしっかりしてるしね、なのはって。



「大体、キミは人の事を言えるの?」

「というと?」

「フェイトとはどうなってるのさ。まぁ……アレだとは思うけど」



 ……アレ、もしかして知らない? なんか、本気で気の毒そうな顔してるし。



「まぁ、アレだよ。頑張ってね」

《いや、それはむしろあなたですから。というか、マスターに負けてますよ?》

「……え?」

《本気で知らなかったんですね》



 ……劇薬だよね。まぁ……がんばろう。



「えっと、実はですね……」





















 ……あー、ユーノ先生? そろそろ元気出してもらえますかね。











「……ね、世界なんてこんなはずじゃなかったことばかりだよね」

「なんですかいきなりっ!」

《そんなにショックですか》



 うーん、完全にダウナー入ってしまった。



 ちなみに、なのはとジュンイチさんのアレコレについては話してない……いや、話したところでとなりの鈍感暴君が全力否定して、話がややこしくなるだけだから。







 つまり……僕とフェイトのことを話しただけでコレ。



 ジュンイチさん達のこと、むしろ話さなくて正解だよ……僕らの話だけでコレじゃ、このことを知ったらどこまで凹むか……








 つか、どーしよーかコレ。







「でも、どうしよう……」

「そ、そうですね……」



 あー、アドバイスできない。何しろなのはを奪った張本人(無自覚)がとなりにいるからなぁ。



 でもなぁ、「じっくりやってください」とか言ったら、メル友どころか元旦に年賀状貰っただけで安心しそうだし……



「ね、恭文くん」

「ほい?」

「キミは……どうやってあの天然スルーを打破したワケ?」



 いや、僕っていうか……人々頼りと気づいて、ちと落ち込む。うむぅ、ダメだなぁ。



《まぁ……アレですよ。他力本願だったんです》

「うん、そうだよね。
 他力本願だったよね」

「他力本願だったなー」

「うっさいよ外野っ!」



 自分でもわかってるから言うなっ!







 とかやってたら……ジュンイチさんが口を開いた。



「あのさぁ……ユーノ」

「うん?」

「そんなになのはと距離詰めたいなら、デートでもしたらいいんじゃね?」



 ………………危うく顔面からテーブルに突っ伏すところだった。



 こ、この人わ……自分がユーノ先生の恋路の最大の壁だって、間違いなくわかってないからなぁ……



「……断られないかな?」



 そしてこっちはどんだけチキンハートなんだよおいっ! というかこの人となのはって、10年来の友達だよねっ!?



「……じゃあ、隊舎にでも来ればいいじゃないですか。それなら大丈夫でしょ」



 とにかく、ユーノ先生に必要なのはアナログ的な交流。メールのようなデジタルじゃ、どんどん退化する一方である。



「理由は?」



 当然のように聞いてきたっ!? それくらい考えてくださいよ司書長っ!



「うーん、僕に自分の書庫の本を貸す約束をしてるんですよ。それで、たまたま時間が取れて、昔馴染み達の顔を見るのも兼ねてひょっこりと……」

「……うん、それでいこう」

《即決ですか》



 いいじゃないのさ、うれしそうだし。とりあえず、メンチカツを一口……なんつうか、ここまでだったとは。



 まぁ……うん。応援はしておこう。



 かなり出遅れてるとは思うけど……まだ決着がついたワケじゃないんだからさ。



「ありがとうっ! これでなんとかなりそうな気がしてきたよっ!」

「あはは……よかったですね」











 この時、僕もユーノ先生も、美由希さんもジュンイチさんも気づいてなかった。ただひとり、アルトだけが気づいていた。



 この理論には、大きな穴があることを。





















《……休み、確保できるんですかね?》







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……このままはあかん。





 どうにもならん。





 ちゃんと決着……つけんとあかん。





 まぁ、アレや。そういうんも後になれば……笑い話になるやろ。とにかく、決着や。





 私は、端末を立ち上げる。とにかく話や。しっかりしてこ。




















『……もしもし?』

「あ……ロッサ。私や」





















(第42話へ続く)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!

ライカ「あー、もう。とうとうブレードまできちゃったじゃないの……
 よりによってみんなの試験が目前のこの慌しい時期に……」

ブレード「オレに言わせりゃ、試験対策なんかする意味の方がわかんねぇよ」

ライカ「そりゃ、受けないアンタはそうかもしれないけどさ……」

ブレード「そうじゃなくてよぉ、要するに戦闘能力のランク付けなんだろ?
 だったら、さっさと試験官をぶった斬っちまえばそれで解決だろうが」

ライカ「そーゆーのがダメだって言ってるのよっ!」





第42話「とある提督(子)の反省、とある提督(親)の決断」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《さて、作者が『レッツゴー仮面ライダー』を見に行く時間を作るため非常にハッスルして書き上げた第41話です》

Mコンボイ「あぁ、その甲斐あって無事初日・初回に見に行けたようだが……どうだったんだ?」

オメガ《若干数名の敵幹部に『この給料泥棒がっ!』と叫びたくなったとか》

Mコンボイ「………………は?」

オメガ《まぁ、映画についてはそのくらいにして、本編ですが》

Mコンボイ「………………とりあえず……ユーノ・スクライアは幸が薄いということでいいのか?」

オメガ《出番のなさに涙している間に思い人を掠め取られたようなものですからねぇ……
 まぁ、本家『とまと』でも“あぁ”だったワケですし、来るべき時が早まるだけ……と言えない事もないんですけど》

Mコンボイ「その一方で、ブレードがついに六課に合流してしまったワケだが……
 とりあえず、サブタイトルの後者は明らかにコイツのことだな」

オメガ《確かに、彼にはおとなしく楽屋に引っ込んでいてもらった方がボス達的には平和で何より、ですからね》

Mコンボイ「サリ・サムダックの問題が片づいたと思ったら、今度はヤツがクロスフォーマーの暗躍というオマケつきでやってくる……
 まったく、よくよくトラブルに好かれたものだな、機動六課も」

オメガ《それでも守るつもりなのでしょう?》

Mコンボイ「当然だ(即答)」

オメガ《はいはい。ボスはいつだってそうでしたね。
 ……さて、そんなこんなで、ボスが久々にツンデレぶりを見せつけてくれたところで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)





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