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頂き物の小説
第38話「とある魔導師の人間になりたくないヨウカイ人間退治」



「………………どうでした?」

「ダメね……
 聞き込みはもちろん、サーチにも引っかからないわ」



 尋ねるなのはに、戻ってきたライカさんが答える……そっか、ダメだったか。



「そっちはどうなの?」

「こっちもダメです。
 街中の監視カメラの映像をチェックしていますけど、メルトダウンやスピードキングらしき人影は……」



 逆にライカさんが聞き返すけど、フェイトの答えも芳しくない……うん。僕らも総出で手伝ってチェックしたけど、あの溶解人間どもを見つけることはできなかった。



 おかげでサムダックさんは凹みに凹んでる……正直、見てられない。







 サリが人間とトランスフォーマーのハーフだとわかって、父親のサムダックさんと大ゲンカをやらかしたのがつい昨日の夕方のこと。



 で……そんなサリの正体を知ったのか、メルトダウンがスピードキングを率いてサリを襲撃。ジュンイチさんが念のために護衛につかせていたガスケットとアームバレットを一蹴して、どういうワケか一緒にいた万蟲姫ごとサリを拉致したのがそれから1時間ちょっと後のこと。







 そして……夜通し探し回って、“成果なし”という結果が出たのが、そろそろ夜も明けようかっていう今この時。







「あぁ、サリ……サリ……っ!」

「大丈夫です。
 サリさんは、私達で必ず救出しますから……」



 この状況に、誰よりも憔悴しているのはもちろんサムダックさん。はやてが励ましてるけど、どこまで効果があるか……



 やっぱり、一番の解決策はサリを見つけ出して奪還することなんだけど……肝心のサリの居所がわからなければどうようもない。



 しかも、こういう時に頼りになるジュンイチさんは行方不明。まぁ、独自にサリ達を探しに行ったんだろうけど、おかげで僕らはぶっちぎりで置き去り状態だ。











 ………………と、いうワケで、マスターコンボイ、何かいい手はない?











「とりあえず……今のところ大規模破壊の報せがないところを見ると、柾木ジュンイチも未だサリ・サムダックと万蟲姫を発見できてはいないはずだ」



 いや、その判断基準はどうなのさ……納得できちゃうけど。



「どの道、オレ達とは別で動いている以上、あの男はあてにできん。オレ達だけでどうにかするしかない。
 と言っても、オレ達にできることなど、結局のところ正攻法くらいしかないがな」

「セオリー通りに……ってこと?」



 聞き返すスバルに、マスターコンボイがうなずく……ま、結局はそこだよね。



「まずは連中がアジトにしそうな場所にある程度の目星をつけるところからだ。
 連中の思考、今までの行動、できることとできないこと……その辺りをすべて盛り込んで、連中がアジトにできそうな場所を絞り込む」

「でも、あのメルトダウンの行動パターンなんて、私には正直予想もつかないんだけど……」

「なぁに、心配するな。
 我に策有り、だ」



 フェイトに答えて、マスターコンボイはニヤリと笑みを浮かべて続けた。



「オレ達にわからないのなら……」











「わかるヤツに聞けばいい」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………と、いうワケで連絡した次第だ」

『やれやれ、朝も早くから何の話かと思えば……』



 マスターコンボイの言葉にため息をつくのは、ウィンドウ通信の向こうのスカリエッティ……そう。マスターコンボイの言った『わかるヤツ』っていうのは、スカリエッティのことだったワケだ。



『しかし、柾木ジュンイチとギンガ・ナカジマの問題が片づいたと思ったら今度はこれ……よくよく、キミ達は騒動に好かれていると見える』

「重々承知している」



 いや、承知されても困るんだけど。あっさり受け入れてないで少しは運命に抵抗とか反逆とかしようよ。



「なら、恭文は否定できるのか?」







 ………………できません。ごめんなさい。







「それで?
 元はヤツと同じ違法研究者だったんだ――貴様なら、ヤツの立ち回りにだいたいの予想は立てられると踏んだのだが」

『ふむ……そうだね。
 私ならこうする……という意見でよければ、コメントくらいはできるがね』

「それでもかまわん。
 正直、こちらは聞き込みも監視システムも空振りでな。追う側の視点だけでは手詰まり感が出てきている……追われる側の意見は貴重だ」

『やれやれ。なりふりかまってないね。
 もっとも、それがキミや蒼凪恭文、そして柾木ジュンイチに共通する強みではあるんだが……』

「能書きはいい。
 さっさと貴様の意見を言え」



 いや、マスターコンボイ。そんな急かしたら出てくるものも出てこないでしょ……まぁ、相手はスカリエッティだし、遠慮なんかする気になれないって気持ちはわかるんだけど。



 とにかく、マスターコンボイの言葉に、スカリエッティはしばらく考えて……



『……とにかく、基本中の基本は人目につかないことだ。
 と言っても、別に私が以前かまえていたアジトのように人の来ないような森の奥、というワケじゃない。街中にも人気のほとんどないような場所は少なからずあるし、人通りはあっても誰も気にも留めないような場所もないワケではない。
 “認識のエアポケット”とでも言えばいいか……そういった場所も、アジトとしては最適だ。
 いくらメルトダウンが目立つ容姿をしていると言っても、その程度ならごまかす手段などいくらでもあるのだからね』



 言って、スカリエッティが視線を向けたのはティアナだ。確かに、ティアナの幻術なんかは“ごまかす手段”の筆頭だね……メルトダウン達が使えれば、の話だけど。



 もちろん、当のメルトダウンにとっても自分が目立つ容姿をしていることは前提のはず。絶対に何かしらの対策はしてる……目撃情報からメルトダウンの足取りを追うのはやっぱりムリっぽいね。



「つまり、そういった“特に意識を向けられない場所”がアジトの候補として狙い目、ということか……」

『そう。
 例を挙げるなら、建てられてからだいぶ経っていて、すでにそこを通る人々にとっては「そこにあるのが当たり前」となっているような、そんな古い建造物などが今言った条件にあてはまるだろうね。
 ……あぁ、それと』

「まだ何かあるのか?」

『メルトダウンは私と同じ技術者型の次元犯罪者なのだろう? となれば、アジトは研究所でもある……
 研究機材を運び込むために大型車両を使うはずだ。そういった車両が出入りしても怪しまれないのが好ましいし……そもそも機材を動かすために、それなりの量のエネルギーを必要とするはずだ』



 なるほど。

 大型車両が出入りして、なおかつ大量のエネルギーを確保できる場所……っていうのも、アジトの場所の条件ってことか。



『まぁ、私が言えることなどそのくらいだ。
 ……しかし、キミ達が私に意見を求めてくるとは意外だったね』

「利用できるものなら何でも利用する……ただそれだけだ。
 貴様なら、その辺りのことはよくわかると思うがな……“JS事件”で最高評議会を利用し、また柾木ジュンイチに利用された貴様なら、な」

『フッ、耳が痛いねぇ。
 だがね……だったら、利用すべき人間は私などではないと思うのだがね』



 ………………? どういうこと?



『ほら、いるだろう?
 部外者の私などよりもっと事件に近くて、しかも私達よりも確実にメルトダウンを見つけ出せそうな男が』

「ひょっとして、ジュンイチさんのこと?
 だったら残念。何を思ったのか、ジュンイチさん、現在進行形で単独行動中でさ……」

『やれやれ、わかってないね』



 答えるジャックプライムに対して、スカリエッティはロコツにため息……うん、なんか偉そうでムカつく。



『私はね……「利用すべき人間」と言ったんだよ?』











 ………………あ。











「そういうことか……
 マスターコンボイ、スバル、でもって……あれ、スバル、こなたは?」

「こなた?
 さっきあたし達が帰ってるのと交代して、カイザーズのみんなは捜索に出たじゃない」



 あー、そうだった。こなた達が今は聞き込みに出てるんだっけ。



「まぁいいや。それならそれで、別に都合は悪くないし。
 ねぇ、今言った3人と……あとライカさんとジーナさん、イクトさん……このくらいか。
 このメンツに、ちょっとやってほしいことがあるんだけど……」

「ヤスフミ、何か思いついたの?」

「まぁね。
 スカリエッティ、ヒントありがと」



 礼を言って、通信を切る……うん。おかげで光明が見えた。



「ねぇ、どういうこと? ヤスフミ」

「スカリエッティの言ってた通りだよ」



 まだわかってないフェイトだけど……まぁ、アレだよ。



「いつもいつも、ジュンイチさんには利用されっぱなしだからさ……」











「たまには、僕らがジュンイチさんを利用してやろう、って話だよ」











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第38話「とある魔導師の人間になりたくないヨウカイ人間退治」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ちょっと! 出しなさい! 出しなさいってば!」



 力任せに扉を叩くけど、頑丈な扉はビクともしない。

 うーん……完全に拉致監禁コースだね……



「おまけになんか異様に熱いし……せめて空調くらいなんとかしてほしいわ」



 言って、振り返る――そこにいる、さらわれてきたもうひとりに声をかける。



「万蟲姫ちゃん、大丈夫?」

「なんのこれしきっ!
 この程度の暑さなどヘでもないわっ!」

「でも、ここ、すごく暑いし……」

「問題ないのじゃっ!
 ホーネット達とクーラーなしで過ごした今年の猛暑で慣れておるっ!」



 ………………ナニしてるの、ホーネットさんとやら。

 ファミレス通うお金があるなら、住んでるところにクーラーくらい入れてあげようよ。



「サリ殿こそ何を言うのじゃっ!
 クーラーなんかでお金を使ってしまったら、その分ファミレスでホットケーキが食べられなくなるではないかっ!」



 ……こちらのお姫様のご要望でしたか。



「そんなこと言わずに、次の夏までに何かしら用意しておいた方がいいよ?
 今年の猛暑は死者まで出てるんだから。熱中症をバカにしちゃいけないよ」

「しかしホットケーキが……」



 まだ言うかこの子は。



「あー、もうっ、わかったわよ。
 ここから出られたらクーラー買ってあげるし、ホットケーキだってごちそうしてあげるからっ!」

「それは本当かえ!?」

「もちろん」







 ………………パパのお金でね?







「わかったのじゃっ!
 では、そうと決まればさっそく脱出なのじゃっ!」

「そうしたいんだけどねぇ……
 この扉、すっごく頑丈で……」

「サリ殿のパワーでもムリなのかえ?」

「さっきまで殴ってたの、見たでしょ?
 トランスフォーマーとのハーフって言っても、トランスフォームもできないあたしのパワーなんてたかが知れてるし……」



 あー、思い出したら殴った手が痛くなってきちゃった。



「こういう時、どーんとパワーアップとかできれば楽なんだけどねー」

「そんなこと……」

「できるワケないよねー」





















「……でよいのかえ?」





















 ………………え?



 今……すごく不思議そうに聞き返された気がするんだけど?



「万蟲姫ちゃん……今、なんて?
 あたしのセリフが重なっちゃって、よく聞こえなかったんだけど」

「だから……パワーアップする程度のことでいいのかえ?」

「い、いや、『程度』って……
 パワーアップなんて、そんな簡単に……」

「ん」



 ため息をつくあたしだけど、そんなあたしに万蟲姫ちゃんが右手で触れて……って、何っ!?



 いきなり、パワーが……力がみなぎってくるっ!?



「ちょっ、万蟲姫ちゃん、何したの!?」

「『何』って……パワーアップじゃが?」



 すっごく当たり前っぽい感じで聞き返されたっ!?



「これがわらわの能力じゃ。
 今のサリ殿みたいに、わらわが触れた相手をすっごくパワーアップさせることができるのじゃ♪」



 え、えっと……すごく普通に言ってるけど……万蟲姫ちゃん、それ、ものすごくすごいことなんだけど……



「そうなのかえ?」

「そうだよっ!
 触れただけでパワーアップって……どれだけお手軽なのっ!?
 管理局なんかノドから心臓が出るほど欲しがる能力だよっ!?」

「そのせいなのじゃ……」



 あたしの言葉に、万蟲姫ちゃんのテンションが急に下がって……あ、しまった。



「そのせいで、いろんな組織から狙われて、親から疫病神扱いされた挙句に殺されかけたんじゃ……」

「………………ゴメン」



 あー、そうだった。能力のせいで親から殺されかけたんだっけ、この子。

 なんでもないふうに言ってたから気にしてないと思ってたけど……しっかり気にしてるじゃないの。あたしのバカ。



「……と、とにかく、これでパワーアップ完了じゃっ!
 さぁ、サリ殿っ!」

「うんっ!」



 ……そうだね。今は反省してる時じゃない。



 万蟲姫ちゃんのおかげで、全身から力がみなぎる……うん、これならっ!



 きっとできる……なぜだかそんな確信を感じながら、あたしは叫ぶ。





















「トランス、フォームッ!」





















 その瞬間――あたしの身体が“変わった”。



 全身の皮膚が、パネルがひっくり返るようにロボットの装甲に置き換わっていく。それと同時に、あたしの身体の中もいろんなものが動いているのがわかる。



 頭には、あたしの身体からあふれたエネルギーが物質変換。ヘルメットが装着される――さすがに顔まではトランスフォームしなかった。何気に女心がわかってるわね、あたしのシステム。







 トランスフォームしたことで、ますます身体にみなぎる力が上がってる……これならっ!







「いっくよぉっ!」



 とりあえず、力任せに扉をぶん殴る……ぅわ、さっきまではビクともしなかった扉が、まるで固定されていなかったみたいにあっさりぶっ飛んだ。



「よくやったのじゃっ! サリ殿っ!
 さぁ、ホットケーキのために脱出じゃっ!」

「いや、あたし達自身の安全のために脱出しようよっ!」



 扉が開いて、万蟲姫ちゃんが意気揚々と閉じ込められていた部屋を出て行く。で、あたしがその後に続いて……







 ビーッ! ビーッ!







 あー、そうだよねっ! こんなハデな脱出すれば警報くらいなるよねっ!



「急ごう、万蟲姫ちゃんっ!」

「心得たのじゃっ!」



 となれば、見つかる前におさらばだ。万蟲姫ちゃんと一緒に、とにかく通路を走っていく。



 道なんかわかんないけど……なんとかなるでしょっ!







 ………………つか、廊下もさっきの部屋同様にすごく暑い。一体ここはどこなんだろ……







「………………?
 サリ殿、あれ……」

「万蟲姫ちゃん……?」



 いきなり声を上げた万蟲姫ちゃんの言葉に、あたしは足を止めて彼女の指さした方を見る。



 それは、あたしも気になってた……右側に伸びる通路の先が、なんかすごく赤々と輝いている。それも、さっきから右側への通路を横切る度にそんな状態が続いてた。



「ひょっとして、外の明かりかの?」

「………………違うと思う」



 だって、あたしのトランスフォーマーとしてのセンサーが……そのうちのひとつ、温度センサーが、向こうからものすごい熱量を伝えてるから。



「とにかく行ってみるのじゃぁーっ!」

「あ、ちょっとっ!」



 そんなあたしにかまわず、万蟲姫ちゃんが明かりの見える方に駆けていってしまった。

 すっごく暑そうだし、なんかヤバそう。すぐに連れ戻そうとあたしも駆け出して――







「見つけたぁーっ!」







 げげっ! スピードキングっ!?



 ってことは、メルトダウンもすぐに来る……急がないとっ!



 あわてて万蟲姫ちゃんを追いかける。通路の出口で足を止めていた万蟲姫ちゃんに追いついて……











 ……って、コレ!?











 まず目に入ってきたのは、すごい音を立てながら動き回る機械の数々。



 どこかの工場かと思って下を見てみると、下の方には機械の間を、真っ赤に光るものが流れてる。





 ひょっとして、ここって……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「万蟲姫ちゃんがさらわれたって本当!?」

「ん。マヂネタ」



 アジト……いや、もう自宅扱いでいいか。家に戻ったオレを待っていたのは、エイミィからの質問攻めだった。

 なんでも、買い物の帰りにはぐれてしまったんだとか……あー、それで何の因果かサリちゃんと出くわして、一緒にさらわれちゃったのか。



「ゴメン、ジュンイチくん。
 私がしっかり見ていれば……」

「あぁ、気にしなくていいよ。
 別にエイミィには期待してないから」

「ちょっと!?」

「だって、オレですらアイツの手綱を握りきれてる自信ねぇんだもん。
 それをエイミィにどうにかしてもらおうってのは虫が良すぎるでしょうが」

「そ、それは……まぁ……
 けど、それにしたって言い方ってものが……」

「それをオレに期待する?」

「………………ゴメン」



 うし、勝った。



「いつの間に勝負になってたの……?」



 気にしなくてもいいですよ、リンディさん。







「って、それどころじゃないでしょ!
 どうするの、ジュンイチくん!?」

「ンなの、メルトダウンしばき倒して助けるに決まってるでしょうが」



 なんでそんなわかりきったことをわざわざ聞くかなぁ? エイミィの考えることはたまにわからない。



「いや、普通はそこで方法とかいろいろ悩むところだと思うんだけどね、私は……」

「え? 探して、突撃して、しばき倒して、連れ帰る……それこそわかりきった話でしょ?」



 そう。それだけのことをこれから実行する……ただそれだけの話だ。



「つまり……方法はあるんだね?」

「もちろん」

「合法的な?」







 ………………



 …………



 ……







「目をそらすな」



 そっぽを向いた顔をムリヤリ戻された。



「まったく……ジュンイチくん、違法捜査は感心しないわね」

「合法か非合法か……基準がないんでよ。
 何しろ、ミッドにはこれからすることに対する法律の枠組みってヤツがないんでね」



 ため息をつくリンディさんに答えると、オレはブイリュウに子供達の相手を任せて、本来の目的地……このアジトの地下に向かう。



「ジュンイチくん……?」

「地下には倉庫しかないんじゃ……?」

「つか、どーしてついてくるのかな? 二人してさぁ」



 そう。地下には食料庫と生活用品の備蓄庫だけ。



 ただ……それだけというワケでもない。



「こんなところに、万蟲姫ちゃん達を探す方法があるっていうの?」

「あぁ。あるよ……ここにね」



 エイミィに答えて、オレは足元を――コンクリートでもフローリングでもカーペットでもない、地面が、土がむき出しになっているそこをつま先でトントンと叩いてみせる。



 そう。この地下倉庫、オレがこのビルを建てた際、あえて廊下だけは地面をむき出しにしてある。



 ちゃんと意味があってそうしていたワケだけど……ようやくそれが活きる日が来たってワケだ。



「リンディさん、エイミィ。
 二人とも地球暮らしも長いんだ……“龍脈”って言葉に、聞き覚えないかな?」

「龍脈……?
 えっと、どこかで……」

「確か……風水の話をテレビでやっていた時に……」



 首をひねるエイミィのとなりで、リンディさんがより具体的に思い出してる……そう。その龍脈だ。



「わかりやすく言うなら、龍脈っていうのは星の“命”の力の通り道……この星の持つ“力”の通う、血管のようなものさ。
 地球の風水ではその流れを大地に住まう龍に例えてる……故に“龍”脈。
 そして、その流れがより地面に近い場所や、いくつもの龍脈の流れが合流するターミナルポイントでは、星の“力”がもれ出し、そこに生きる生命に様々な影響を与える。
 それが俗にいう“パワースポット”。宗教的な意味を持たされて“聖地”として扱われたりもするね。
 ミッドでオレ達の知ってる場所でそれにあたるのは、かつての地上中央本部とか、カリムのいるベルカ自治領の聖王教会、聖王医療院とかだ」



 なぜそんな話をここでするのか……ちゃんとした理由があるんだよ、コレが。



「まさか……ジュンイチくん。
 ここも“そう”だというの?」



 気づいたエイミィのつぶやきに笑顔でうなずく――そう。このビルもまた、パワースポットの上に建ってるんだ。

 つか、ここがパワースポットだってわかったから、ここの土地を買収してアジトのビル建てたんだよね。



 他のアジトも基本は同じ……オレ達の地球はもちろん、なのは達の地球に用意してある拠点の数々も、みんなそういったパワースポットを選んでる。オレ達の地球の、オレの実家もそうだ。



「さっきも話したけど、龍脈っていうのはこの星のすみずみまで行き渡っている……血管みたいにね。
 その龍脈を介して、サリちゃんや万蟲姫の“力”を探る」

「そんなことができるの?」

「魔法とか精霊術とかよりも、気功の分野になるんだけどね」



 リンディさんに答えて、オレはむき出しの地面に左手を押し当てた。



 意識を集中させて、地面の中を流れる“力”を感じ取る……そして、その流れにオレ自身の“力”を乗せ、流していく。



 龍脈の“力”の流れに伴い、オレの意識が広く拡散していくのがわかる。あとは、この意識の広がりの先にサリちゃん達がいれば……





















 …………………………っ!





















「見つけたっ!」

「本当!?」

「どこにいるの!?」

「ちょっと待って! 今地図にマーキングすっから!」



 エイミィやリンディさんが口々に声を上げるけど、口で答えるくらいなら図で示した方が早い。すぐにウィンドウを展開して、気配のあった場所をマーキングする。



「クラナガンを離れて、北東に38km先……ここだ」

「ここって……!?」



 オレのマーキングしたポイント、そこが何なのかを示す地図記号を見て、リンディさんが目を見開いて驚いてる……まぁ、気持ちはわかるけど。



 ただ……合理的な場所ではあるんだけどね。







 人の出入りのあまりない場所。



 大型車両が出入りしても怪しまれない場所。



 研究のための機材の動力が容易に確保できる場所。







 それらの条件を満たすそこは……











 ミッドチルダ郊外の、地下製鉄所だった。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 そっか……ここだったら、人の出入りは従業員だけ。そこさえごまかしてしまえば侵入なんて簡単だ。



 何より、今万蟲姫ちゃんにダラダラと汗を流させてる熱量は製鉄のために出る副産物。再利用とかもされていないから、それを利用すればアジトの動力を確保するのも簡単にできる。







 トランスフォームして演算能力も上がったあたしのシステムが冷静にそう分析してるけど……







「逃げんなっ!」

「ぅひゃあっ!?」







 正直それどころじゃない。あたし達を捕まえようとしたスピードキングのタックルを、万蟲姫ちゃんをお姫様抱っこしてかわして……ぅわ、顔面から機械に激突した。痛そー……







 えー……と、いうワケで、現在スピードキングと追いかけっこ中です。







 いや……スピードキングだけじゃないか。



「トランスフォームしたか……ますますもって興味深いっ!」







 そう。メルトダウンも追いついてきた……放たれた溶解液があたし達の行く先の通路を溶かしてしまったのを、あたしは力いっぱいジャンプして飛び越える。

 万蟲姫ちゃんを抱えて飛び越えられるか心配だったけど……トランスフォームしたあたしのパワーなら余裕だった。万蟲姫ちゃん、軽いしね。







 けど……その万蟲姫ちゃんは現在暑さでグロッキー状態。こりゃ、脱出まで時間はかけられないな……







「………………って、ぅわぁっ!?」







 ……とか考えていたら、いきなり上から製鉄所の機械が崩れ落ちてきた。それが目の前の通路をふさいでしまう。



 よく見たら、機械の連結部分がドロドロに溶けている……メルトダウンの仕業ね。







「これでもう逃げられんぞ」

「ケッ、手間かけさせやがって」







 そして後ろにはメルトダウンとスピードキング……逃げ場、完全に奪われちゃった。







「こんなにハデに壊しちゃっていいの? メルトダウンさん。
 許可もらってここにアジト作ってたワケじゃないんでしょ?」

「だからこそ遠慮なく壊せるというものだ。
 ここがダメになっても、また別の場所にアジトを作ればいい」







 あたしのイヤミもあっさり受け流して、メルトダウンがこっちに近づいてくる……さすがに、もうダメかn











「………………ん……」











 あきらめかけたあたしの腕の中で、製鉄所内の暑さにやられてグロッキーの万蟲姫ちゃんが身をよじる――そうだ。この子もいたんだ。



 あたしがここでまた捕まっちゃったら、またこの子も……











 ………………冗談じゃない。











 この子はあたしを励ましてくれた。またパパに会いたいって思わせてくれた。ここを脱出するための力をあたしにくれた。







 それなのに……勝手にギブアップして監禁され直し、って、そんなのないよね。











「悪いけど……そこから先は通行止めよっ!」











 空いてる右手から放ったエネルギー弾は、メルトダウンの頭上の機械、その支えになってる鉄柱に命中した。さっきメルトダウンが別の機材を落とした衝撃でもろくなっていたそれはあっさり崩壊。メルトダウンを何トンもありそうな大きな機械が踏みつぶす。







「残念ね。あたしはもう、そう簡単に捕まったりはしないわよっ!」







 すぐに機械がジュウジュウと音を立てて溶け始める――けど、そんなのは今までの流れを考えればむしろ予想通り。無事だったメルトダウンに対して、あたしは力いっぱい宣言する。







「決めたんだ。絶対にパパのところに帰るって……
 それに、この子も……万蟲姫も……あたしの友達も、絶対に守るんだからっ!」







「心がけだけは一人前だな」







 あたしの切ったタンカも何のその。自分を押しつぶしていた機械を溶かして脱出したメルトダウンが、あたしに向かってさらに一歩踏み出してくる。







「だが、現実は残酷だ。
 お前は何の抵抗もできず、再びオレに捕まるだけだ」



「やってごらんなさいよ!
 昨日みたいにはいかないんだからねっ!」







 メルトダウンに言い返して、あたしは万蟲姫ちゃんをしっかり抱きかかえながら右手をかまえて――





















「いいねぇ。よく吼えた」





















 その言葉と同時――火柱が吹き上がった。あたしとメルトダウンの間の通路を焼き尽くして、二人の間で壁みたいな感じで燃え盛る。







「そういうの、嫌いじゃないぜ、オレは」







 言って、その炎の壁の中から出てきたのは……







「ま、とりあえず……お前は今の宣言を達成することだけを考えな。
 コイツは……」





















「オレがまとめて、叩きつぶす」





















 専用のアーマー……“装重甲メタル・ブレスト”を装着した、ジュンイチさんだった。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『ジュンイチさんが製鉄所に突入しました。
 精霊力反応の増大具合から考えて、メルトダウンとの交戦状態に入ったと思われます!』

「ん。了解」



 ロングアーチのルキノさんからの通信に、フェイトがうなずく……現在、フェイトを隊長とした僕ら救出チームは、ヴァイスさんとスプラングに運んでもらい、ジュンイチさんの突入した製鉄所に向けて移動中。



 なお、今回はリインにも来てもらってる……相手が相手だ。リインとのユニゾン、必要になるかもしれない。



「けど……さすがジュンイチさんです。
 こんな短時間でサリさんの居場所を見つけ出すなんて」

「ね? スバル達に気配を追っていてもらって正解だったでしょ?」



 感心するリインに僕が答えて、貢献したスバルやこなたはちょっと照れ気味。



 そう……普通に探していたんじゃらちが明かないと判断した僕らは、通常の捜査を続ける一方でイクトさん達やスバル達に
頼んで、ジュンイチさんの位置をずっとトレースしていてもらったのだ。



 イクトさん達“Bネット”組はもちろん、スバル達も、ジュンイチさん達みたく離れたところにいる相手の“力”の気配を感じ取れるからね。トレースしていてもらえば、あの人が動けばすぐにわかる。



 そしてこの状況を考えれば、ジュンイチさんが大きく動きを見せた時――それは、サリ達の居場所を突き止めた時のはずだ。







 そして、そんな僕らの予想の通りにジュンイチさんは動いた。どうやったのかは知らないけど、サリ達の居場所を特定。メルトダウンがアジトにしていたと思われる製鉄所にカチ込みかましてくれた。



 で、僕らもそんなジュンイチさんの動きを追って製鉄所へ……スカリエッティの言ったとおり、“ジュンイチさんを利用して”サリの居場所を突き止めたワケだ。







「けど、さすがにジュンイチさんの突入までには間に合わなかったね……」

「そこはしょうがないよ。あの人は一度動き始めるとホント行動が速いし」

《とりあえず、見つけられないまま気づいたら終わってた……なんてことにならなかっただけマシと思っておきましょうか》







 ジュンイチさん、シリアス下だととにかく僕らに負担をかけないように、自分で全部片づける方向で動くからなー。今アルトが言った『気づいたら〜』のたとえが冗談ではなくホントに起こり得るからシャレにならない。







「そうだね。
 とにかく今は現場到着が第一……だよね」

「そういうこと。
 ヴァイスさん。あとどのくらいですか!?」

「だいたい5分ってとこだなっ!
 フォワード陣はそろそろ降下準備しとけっ!」

『了解っ!』

「リインもがんばるですよーっ!」



 ヴァイスさんの答えにスバル達が、リインが気合を入れる……よし、いくかっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「フンッ、柾木ジュンイチか……」



 いきなり乱入して、あたし達を守ってくれたのはジュンイチさん……だけど、メルトダウンはなんか余裕。

 ジュンイチさん、すっごく強いのに……なんて言うか、負けると思ってない、って感じ。



「あー、そりゃそうだろうよ。
 サリちゃんは知らないだろうけどさ……今まではなんとか絡め手で撃退してきたけど、実質コイツ相手にまともなダメージなんて与えたことないし」

「えぇっ!?」



 ジュンイチさんの攻撃でもダメージにならないって……あ、そっか。

 メルトダウンの身体にはあたしのエネルギー弾も効かなかったし、バラバラに飛び散ってもまた集まって復活できる。

 それに、あの溶解液でできた身体じゃ殴るなんて論外だし……攻撃の類がまったく効かないんだ。



「そういうことだ。
 今までそいつは、蒼凪恭文やフェイト・T・高町の協力でなんとかオレを撃退してきたにすぎん。
 たったひとりでこのオレに勝ったことは、実は一度もないんだ」

「事実なだけに反論できないねー」



 ジュンイチさんが憎まれ口を叩くのにかまわず、メルトダウンはジュンイチさんに向けて踏み出して……





















「………………“今までは”」





















「………………っ」



 不意に、ジュンイチさんがニヤリと笑って付け加える……その言葉に、初めてメルトダウンが動きを止めた。



「………………どういう意味だ?」

「どういうも何も……今までさんざん苦労させられてきたんだぜ。対策のひとつくらい立てるだろ、フツー」



 尋ねるメルトダウンに答えて、ジュンイチさんは空中でメルトダウンに向けてかまえて、



「そういうことだ。
 今度こそひとりで片付けさせてもらうぜ……主にオレのプライドのためにっ!」



 ちょっ!? プライドよりもあたし達を助けるために戦ってーっ!



 そんなツッコミの声を上げる間もなく、ジュンイチさんがメルトダウンに突っ込む……って、ウソ、接近戦!?



「バカめっ!
 オレに打撃戦など……手足を解かされるだけだっ!」

「そいつぁ……どうかなっ!?」



 余裕のメルトダウンに言い返して、ジュンイチさんが思いっきり回し蹴り。メルトダウンを捉えて……







「ぐわぁっ!?」







 飛び散ったのは……メルトダウンの身体を構成する溶解液だった。



 しかも……蹴ったジュンイチさんの足はなんともない感じだ。でも、どうして……!?







「貴様……何をした!?」

「蹴った」







 尋ねるメルトダウンに、ジュンイチさんが答える……いや、メルトダウンは溶解液でできた自分の身体をどうやって蹴ったのか、って聞いてるんだろうけど……



「簡単な話だよ」



 ジュンイチさんが答えると、その右足のつま先あたりが炎に包まれる……ジュンイチさんが自分の能力で起こした炎だ。



「オレは確かにメルトダウンを蹴った。
 ただし……“オレの炎で乾燥した部分を”ね」

「何………………っ!?」

「それも、乾燥させた部分を蹴り砕かないように、つま先でひっかけてぶん投げるような感じでね……そうすれば、乾いた部分がスコップの役割を果たして、周囲の溶解液をすくって、まき散らしてくれる。
 あとはそれを繰り返せば、お前の身体を構成している溶解液はどんどんその量を減らしていくってワケだ」



 うめくメルトダウンにジュンイチさんが答えるけど……あの、メルトダウンの身体って、バラバラに飛び散ってもすぐ集まって再生しちゃうんだけど……



「それってさぁ……あんなトコまで飛び散った分も戻ってこれるの?」



 そんなあたしに答えて、ジュンイチさんが指さしたのは通路の外側……飛び散って、離れたところの機械にかかった溶解液がジュウジュウと機械を溶かしている。



 そっか。確かにアレは戻ってこれない……って、ジュンイチさん、まさか狙って!?



「そういうこと。
 この作戦をやるのに、ここの立地条件はまさに理想的だ。
 飛び散った分ははるか下まで落っこちるか、空間を隔てた向こう側の機械にかかっちまって事実上戻ってこれない。
 ……それにっ!」



 言うと同時、ジュンイチさんは振り向いて――炎を放った。



 それも、今まで六課の訓練で撃ってたのとは比べ物にならないくらいに大きなヤツを、だ――目の前の空間を埋め尽くすくらいの勢いで、後ろに回り込んでいたスピードキングを吹っ飛ばすっ!







「な、何だ、その火力はっ!?
 今までの戦いでは、本気ではなかったというか!?」

「んにゃ?
 今までだって本気だったさ……ただ、ここでの本気は、よそでの本気とはレベルが違うってだけの話さ」







 メルトダウンにとっても、今ジュンイチさんが見せた火力は意外だったみたい。驚いて声を上げるけど、そんなメルトダウンにもジュンイチさんは笑顔で答える。







「これが、ここが理想的な立地条件であるもうひとつ理由さ。
 ここは製鉄所。当然鉄を溶かすための溶鉱炉があって、このすんげぇ暑さはそれが原因。
 お前はその熱をアジトの動力に利用してたみたいだけど……利用できるのは、お前だけじゃない」

「………………っ!
 まさか、貴様……!?」

「ん。その『まさか』でたぶん正解。
 オレの能力属性は“炎”……ただし、直接炎を操るワケじゃない。
 熱エネルギーを制御することで炎を燃やし、コントロールする――“熱エネルギー制御”。それがオレの炎の根源さ。
 そのオレに、こんな場所での戦闘を許すなんて……『さぁ、どうぞ最大火力でブッ飛ばしてください』って言ってるようなものだぜっ!」







 言うと同時に、また炎をブッ放す――巻き起こった炎の渦が、メルトダウンの表面の溶解液を一瞬でかわかして、吹き飛ばしていく。







「ずぁりゃあっ!」







 さらに、耐えるメルトダウンの目の前に飛び込んでさっきの炎の蹴り。さらにメルトダウンの溶解液を削り取って、しかもその蹴りを立て続けにお見舞いしていく。







「そらそら、どうしたっ!
 このまま身体の全部を削り取られたいか!?」

「この、若造が……なめるなぁっ!」







 ジュンイチさんの言葉にメルトダウンが言い返して……それは起こった。







 いきなりメルトダウンの身体が大きく広がった――まるで粘土をつぶして広げたみたいに薄っぺらになったメルトダウンが、ジュンイチさんの蹴りをかわしたんだ。







 しかも、それで終わりじゃない。そのままジュンイチさんに覆いかぶさるようにして――





















「ぐぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」





















 ウソ……ジュンイチさんが突き出してた右足に食いついたっ!?



 しかも、ジュンイチさんのあの苦しそうな顔……まさか、ジュンイチさんの足を溶かしてる!?







「油断したなっ!
 さぁ、このまま全身を溶かしてやるっ!」

「誰……がっ!」







 言い返して、ジュンイチさんが至近距離から炎で一撃。メルトダウンが離れるけど……











「………………ジュンイチさんっ! 足が……っ!」











 メルトダウンに食いつかれた右足は……ももの途中から先がなくなっていた。







「あのヤロー……やってくれるぜ。
 足先から溶かすよりも、食いついた端から強く溶かしていくことで、オレの足を食いちぎりやがった」

「って、それどころじゃないですよっ!
 痛くないんですか!?」

「不幸中の幸いってヤツかね……コイツの酸が神経までつぶしてくれたみたいだ。おかげで痛みどころか触っても何も感じねぇや」



 あたしに答えて、ジュンイチさんは残った腿をパンッ、と叩いてみせるけど……



「フンッ、痛みはないとしても、その足ではまともに戦えまい。
 調子に乗って何度も同じ攻撃を繰り返すからだ、バカめ」

「やれやれ、返す言葉もないねぇ」



 メルトダウンに答えて、ジュンイチさんは空中でバランスを保ちながら苦笑する。



「あぁ〜あ、今度こそ勝てると思ったのにねぇ……」











「結局、“ひとりじゃ”勝てなかったか」











 ………………え?



 意味深なその一言の意味を聞こうとした瞬間――上の方でものすごい音がした。



 見ると、爆発が起きていて、崩れた機械の数々がこっちに……落ちてくるぅぅぅぅぅっ!?







「危ないっ!」



 けど、あたし達は無事だった……突然飛び込んできた誰かが、あたしと万蟲姫を抱えて離れてくれたおかげで……って!?



「フェイトさん!?」

「やっぱりサリさんだったね。
 そんな格好だったから、最初はわからなかったよ」



 ………………あ、そっか。まだトランスフォームしたままだったっけ。



 とにかく、あたしを助けてくれたフェイトさんが、飛んでいく先の通路で待っていたジャックプライムにあたし達を引き渡してくれる。



 っていうか、二人が来たってことは、上の爆発って……











「ジュンイチさんっ!」











 やっぱり……恭文っ!



 それにマスターコンボイもいる……スバルさんやロードナックル、それに昨日遊びに来ていた泉さんを先頭にしたフォワードのみんなも一緒に、ジュンイチさんの周りに次々に飛び降りてくる。







「やれやれ……お早いお着きだことで。
 もーちっと遅くてもよかったのに」

「いつもいつも、ジュンイチさんにばっかりいいところを持っていかれるのもね……って、足ぃぃぃぃぃっ!?」

『えぇぇぇぇぇっ!?』



 ジュンイチさんに答えた恭文が、ジュンイチさんの右足がないのに気づいて絶叫。他のみんなも驚いて……うん、普通はそうなるよね。



「ちょっ、どうしちゃったの!? お兄ちゃん、その足!?」

「んー……食われた」



 スバルさんの質問にもあっさりと答える……うん、そんなのん気に答えられる話じゃないと思うんだよね、あたしは。



「何落ち着いてるんですかっ! すっごい重傷なんですよっ!?
 スバル、クロ! 早くジュンイチさんを安全なところへ運ぶですっ!」

「うんっ!」

「合点だ!」



 そんなジュンイチさんにツッコんだリインちゃんの言葉にスバルさんやロードナックル……今の人格はクロくんの方みたいだけど、とにかく二人がうなずく……けど、







「あー、その必要はないよ」







 だから、ジュンイチさんはもーちょっとあわててーっ! 自分の右足なくなっちゃってるんだよ!?



 その上メルトダウンもまだ健在で……どう考えたってそんな身体でそこにいたら危ないよっ!







「いや、もう心配ねーし。
 だって……」











「そろそろ“詰みチェックメイト”だから」











 ………………え?



 ジュンイチさん、それって……







「………………ぐっ!?」







 って、メルトダウン……?



 なんか、いきなり苦しみ始めて……あれ? 溶解液、流れ落ちてる……?



 溶解液がどんどんメルトダウンの足元に流れ落ちて、溶かしてできた穴から下へと滴り落ちていく。

 そうして、流れ落ちた後には……え?







 まさか、アレ……肉体? 液体の身体じゃなくて?



 やっぱり人間じゃない、ゴリラっぽいけど全身がウロコに覆われた感じのモンスターの姿だけど……間違いない。ちゃんとした肉体だ。







「バカな……っ!?
 何だ!? この身体は!?」

「オレの足だよ……原因は」







 驚いてるのはみんな同じだ。スバルさん達も、恭文やマスターコンボイも……そしてメルトダウンもだ。とまどっている本人に、ジュンイチさんがそう答える。







「オレの身体の一部を、しかも“生体核バイオ・コア”ごと取り込んだんだ……タダですむワケがねぇだろうが。
 お前が飲み込んだオレの右足は、溶かされてなんかいなかったんだよ――再生を繰り返すことでお前の酸に溶かされないように抵抗を続ける一方で、足の中に残されていたオレの“生体核バイオ・コア”がお前の身体を解析。酸に対する耐性をつけつつ、逆にお前の身体をいじりにかかったんだよ」







 えっと……どういうこと?







「あー、本人に無許可で言ってもいいかどうか、ちょっと判断に困るんだけど……実はジュンイチさんも、人間じゃないんだよ」



 疑問に思ったあたしに答えてくれたのは、フェイトさんからあたしを預かったジャックプライムだった。



「ジュンイチさんは、出身世界で後天的に遺伝子をいじくられた“遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”。
 その身体のあちこちには“生体核バイオ・コア”っていう中枢器官があって、それは“今でもジュンイチさんの身体を強化し続けてる”んだよ」



 なるほど。

 そんな器官を身体の中に取り込んじゃったもんだから、メルトダウンの身体も強化されて……って!?



「それって、つまりメルトダウンがパワーアップしちゃったってことじゃないの!?」

「………………あ」



 ジャックプライムも気づいてなかったみたい。あたしに言われて思わず声を上げるけど……



「心配いらないよ」



 答えたのはジュンイチさん……今さらだけど、かなり離れてるのに、よくあたしの声が聞こえるね。あたしでさえ、聴覚センサーの感度を限界まで上げてようやくだっていうのに。



「確かにメルトダウンは強化されちまったけどさ……元々が溶解液以外はてんで大したことのないへっぽこだったんだ。強化の度合いなんてたかが知れてる。
 それに……」











「一番厄介な溶解液ボディがなくなっちゃえば、思う存分しばき放題っ!」











 ジュンイチさんの言葉に続く形で、恭文が飛び込む――思い切り叩きつけられたアルトアイゼンの一撃で、メルトダウンがブッ飛ばされる。







「そういうことだ。
 恭文。もう遠慮の必要はねぇ……思う存分、ブッ飛ばしてやんなっ!」

「りょーかいっ!
 リインっ!」

「はいですっ!」



 ジュンイチさん答えた恭文に呼ばれて、飛んできたのはリインちゃん……って、リインちゃんも戦うつもり!?



「あー、久々にやるんだ、アレ」



 『アレ』………………?



 ジャックプライム、二人は一体何を……?



「まぁ、見ていればわかるよ」



 言われて、あたしは視線を戻す。そんなあたしの視線の先で、恭文とリインちゃんは手と手を合わせて……叫ぶ。





『ユニゾン・インっ!』











 その瞬間、恭文とリインちゃんの身体を青い魔力の光が包み込む。



 そして、リインちゃんの身体が消えて……ううん、違う。



 トランスフォーマーとしてのあたしのセンサーが、恭文とリインちゃんの反応が重なっていくのを示している。







 あれって、まさか……!?



 初めて見た。アレが……











「ユニゾンデバイスとの、ユニゾン……」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『ユニゾン・インっ!』







 その瞬間、僕とリインの身体を青い魔力の光が包み込む。







 そして、リインは僕の中へと入る……そう、入るのだ。







 それから、バリアジャケットが変化する――僕と、リインと、アルトの力と心がひとつになった、僕ら“古き鉄”の最強の姿に。







「いくよ。リインっ! アルトっ!」

【はいですっ!】

《さぁ、上げていきましょうかっ!》







 元気に言葉を交わして、足場を蹴る――狙いはもちろん、メルトダウン!







「ちぃっ!」



 とりあえず、自分の身体が変わったショックからは立ち直ったみたいだ。カウンターでも狙ったのか、メルトダウンが腕に生まれた鋭い爪を繰り出してくる。



 ……だけど、甘いっ!







「っ、せぇいっ!」







 気合一閃。爪をかいくぐって懐へ。すれ違いざまにアルトを思い切り叩き込むっ!



 まるで野球のスイングみたいに打ち込んだアルトの衝撃で、メルトダウンがまっすぐ後方にブッ飛んだ。そのまま足場の上をバウンドしながら転がっていく……チッ、センターゴロか。







 でも……さすがはジュンイチさんの“生体核バイオ・コア”で強化されただけのことはある。平然と起き上がってきた。



 なので、こっちも遠慮なく追い討ち……リイン、お願い。







【はいですっ! フリジットダガーッ!】







 僕の周りに、20から30ほどの青い短剣。そして、その前段階として、ジガンからカートリッジが1発消費された。

 これは、リインのオリジナル魔法。フリジットダガー。氷結属性持ちの魔力の短剣を飛ばす術――それを、メルトダウンに向けて一斉に飛ばす。



 全身のウロコでガード、動きを止めたメルトダウンに向けて突撃して、顔を上げたメルトダウンにライダーキック。思いっきり靴底をその顔面に叩きつける。







 そして……蹴りの間に準備を終えた次の魔法。







《Icicle Cannon》







 直後、放たれた真っ白な閃光がメルトダウンを直撃。またまた豪快に吹っ飛ばす。



 ……つか、前は厄介な溶解液に気を取られてたけど……コイツ、あの溶解液がなかったら割とショボイ?







《というか、明らかにダメダメでしょう。
 あっさりと私達に攻め込まれた上に反応も満足にできていませんし》

【こんな情けない人に今まで苦労させられていたんですね、恭文さん達】







 二人もそう思うか……まぁ、あんな身体になっちゃう前はただの科学者だったんだし、素人なのはある意味当然なんだけどさ。







「まぁ……だからどうってこともないんだけどね」

《ですね。
 こんなザコをいたぶったところでおもしろくありませんし》

【さっさとやっつけて、サリちゃん達と凱旋ですっ!】



「なめるなぁぁぁぁぁっ!」







 軽口を叩く僕らに怒ったか、メルトダウンが全身のウロコを手裏剣みたく飛ばしてくる……遅い遅いっ! そんなのが今の僕らに届くはずがないでしょうがっ!



 今の僕らには、「一心同体」という言葉すら生ぬるい。文字通りひとつとなった僕らの力が……未来をつかむ、僕ら三人の想いの力が、そんな出来損ないの力に負けるはずがないんだよっ!







 メルトダウンにターンは回すつもりはない。ずっと僕らのターンで……次が最後、ラストターンだっ!







 アルトを鞘に収めて、かまえる……集中、意識を限界まで研ぎ澄ませる。



 そう……集中だ。斬ろうと思って斬れないものなんか、僕らの前には存在しない。







 すべてを、この一閃に注ぎ込む……メルトダウンに台無しにされようとしてるサリの今を、この一閃で覆すために。











「氷花……っ!」











 ジガンから、カートリッジを3発消費。



 僕を狙って、メルトダウンが両手の鋭い爪で斬りかかってくる……未だ鞘に収められたアルトに宿るのは、絶対零度の凍れる刃。







 そして僕は飛び出す。メルトダウンの爪をかいくぐり、懐へ――掠めた爪がこめかみの辺りを浅く切ったのを感じながら……刃を抜き放つっ!











「一閃っ!」











 渾身の一撃が、メルトダウンの身体を覆うウロコの壁を難なく粉砕する――刃と一緒に叩き込まれた凍気に全身を凍りつかせながら、メルトダウンは轟音と共に壁に叩き込まれた。



 プルプルと震えながら上げられていた顔が、ガクリと落ちる――うん。終わったみたい。







【ですね。
 まぁ、当然ですけど】

《当然ですね》







 アルトやリインも、すっきりした感じでうなずいて……





















「むしろオーバーキルだろ、お前ら」











 ………………ジュンイチさんには言われたくないやい。





















(第39話へ続く)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!

サリ「ちょっとーっ! せっかくトランスフォームしたのに、あたしの活躍ってこれだけ!?」

恭文「いや……そんなこと言っても、サリだって素人なんだし、あくまで戦闘要員は僕らであって……」

サリ「そんなの気にしなくていいのっ!
 あたしだって、せっかくトランスフォームしたんだから、カッコよく戦いたかったのにぃーっ!」

マスターコンボイ「そんな貴様には柾木ジュンイチとのエキシビジョンマッチをプレゼント」

ジュンイチ「望むところだっ! 片足だろうが負けねぇぞっ!」

サリ「あなたはむしろ安静にしていようよっ!」





第39話「とある親子の仲直りと再出発」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《さて、ミス・サリのトランスフォームにミスタ・ジュンイチの人外パワー、そして何気に『とまコン』では今まで描かれていなかったミスタ・恭文とミス・リインのユニゾンでの戦闘シーンと、見所満載でお送りした第38話でした》

Mコンボイ「そうか……恭文とリインフォースUのユニゾンは、今までは『できる』という事実とユニゾンのシーンが描かれただけで、その戦いぶりは今まで描かれていなかったんだな」

オメガ《本家『とまと』でその辺が描かれた聖王教会への出稽古での戦闘シーンは、『とまコン』では丸まるカットでしたからね。
 そしてミス・サリのトランスフォーム。原作では物語のキーとなるアイテムの力を借りてのトランスフォーム能力獲得でしたが、こちらでは万蟲姫の能力によるパワーアップとなりました。
 で、ミスタ・ジュンイチの人外パワー……は、いいとして》

Mコンボイ「あの男が規格外なのは、今に始まった話じゃないからな。いつものトンデモスキルのお披露目、くらいの扱いだろ」

オメガ《そういうことです。
 ともあれ、今回で鉄火場は終了。次回は戦いの後始末と、メルトダウンの横槍で進展が止まっていたサムダック親子の関係修復のお話です》

Mコンボイ「同時に第3クールの締めくくりか……
 ………………結局、ガイア・サイバトロンは活躍らしい活躍をしていないが」

オメガ《彼らは第4クールまで続投だからいいんですよ。
 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)






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