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頂き物の小説
第32話「とある魔導師達のそれぞれの答え探し」:2



「本当に……何もなかったのか?」

「う、うん……」







 昨夜、ギンガが帰ってきた。



 休みをとってデートに出かけた蒼凪を心配した柾木が尾行すると言い出している……そうスバルから聞いて、そんな柾木が何かしでかすのではないかと同行して……悪天候によって現地で柾木と一夜を明かしたギンガが、帰ってきたのだ。







 ………………正直、心中穏やかではなかった。



 何しろ、ギンガは柾木を好いている。その柾木と一夜を共にするとなれば……











 ………………そ、そうだ。私はギンガの身を心配しているんだっ!



 別に、その、柾木がギンガと……などと考えているワケではないっ!



 柾木は……そうっ、互いに高め合うライバルだっ! そうなんだっ!











 ともあれ、そんな私のイライラを一刻も早く解消すべく、皆の協力のもとマックスフリゲートに出勤してきたギンガを包囲し、何があったのか問い詰めたのだが……そうか。何もなかったのか。











 ………………と、それで終われればどれだけよかっただろう。







 だが……目の前で地の底まで沈んでいきそうなほどに落ち込んでいるギンガを前にしては、何もなかった安心感も簡単に吹き飛んでしまった。







「………………あー、チンク姉」



 わかっている、セイン。だからそんな手のつけようもなく絶望に満ちた顔をするんじゃない。







 安易に問い詰めてしまった自分の浅はかさを呪いながら、意を決してギンガに尋ねる。



「………………ギンガ」

「チンク……」

「一体何があった?
 お前がそこまで凹むなど、尋常なことではないぞ?」

「何も……なかったから……」



 やはり、原因は柾木にスルーされたことか……



 だが、それだけとも思えない。本当にそれだけなら………………他人事ではないが“いつものこと”だ。



 当然、考える。それ以上の“何か”があったと……



「ギンガ……本当に何もなかったかよ?」

「うん……
 本当に、何も……」



 私と同様の疑問を抱いたのだろう、ノーヴェが尋ねるが、やはりギンガの答えは変わることはなくて……











「なーるほどねー」











 上がった声は、私達の姉のもの。すなわち……







「クアットロ……?」

「わかったわよ。わかっちゃったわよ。
 この私の優秀な頭脳に、ピーンときちゃったのよねー♪」



 顔を上げたディエチの声に、クアットロは上機嫌に答える。

 そんなクアットロの姿に、私達は顔を見合わせて……











「さて、ギンガに何があったか、だが……」

「当のギンガが話してくれないんじゃ、どうしようもないわね……
 ドゥーエ、何か気づかない?」

「うーん、そうね……」







「ちょっとっ! 何で私スルーっ!?
 ウーノ姉様やドゥーエ姉様までひどいっ!」



 いや、そうは言うが……お前のそういう発言ほど不安をかき立てるものはないというか……







 まぁ……そこまで言うなら、聞かせてもらおうか。

 クアットロ、一体何に気づいた?



「ふふん、そこまで言うなら、教えてあげようかしら♪」



 ………………復活が早いな。



「それはそれ、これはこれ♪
 で、ギンガちゃんがどうして凹んでるかというとね……」











「何も“なさすぎた”から……でしょう?」











 メガーヌ殿……? それはどういうことですか?



「つまり……普段ならいざ知らず、解放的なリゾート地で、しかも不意討ち同然のお泊りデート。
 そこまで条件がそろっていながら、完璧なまでにスルーされちゃったもんだから……」

「カケラも意識してもらえない自分に、自身がなくなっちゃった……ってこと?」

「………………うん……」



 メガーヌ殿に続くクイント殿の問いに、ギンガが力なくうなずく……そうか。お二人の読みは正解か。











「私が最初に気づいたのにぃぃぃぃぃっ!」



『クアットロうるさい』











 見苦しく騒ぐ我らが四女は全員からの口撃で撃墜。



 しかし……あのバカが。ギンガに対してそこまで無反応だったのか……



「うん……
 嵐でレールウェイが止まって、ホテルで一泊することになって……
 期待、してなかったって言ったらウソになる……」







 ………………苛立つ心を、今はグッと押さえつける。



 そうだ。今は嫉妬する時ではない。



 私達を救おうと尽力してくれる、新しい“友”のために力になる時だ。







「けど……ジュンイチさん、本当にいつも通りで……
 本当に優しくて……私が不安にならないように、ずっと寄り添ってくれた……
 でも……それだけだった……
 本当に、ごく当然のように、私を……“妹”を守ってくれた……っ!」



 胸の内を言葉にしていくうちに、ギンガの周りの空気がさらに重いものへと変わっていく。



「私……ダメなのかな……?
 いつまで経っても、私はあの人の“妹”でしかいられないのかな……っ!?」







 ………………すまん。力になりたい気持ちが、いきなりくじけそうだ。



 正直、あの男の鈍感がそこまで徹底しているとは思わなかった。



 まさか、自分を好いている年頃の娘と一夜を共にしてもなお好意に気づかないとは……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 んー、まいったわね……



 ギンガがジュンイチとお泊りだって聞いて、今度こそは我が娘も恋の成就の大チャンス! と思ったんだけど……まさか惨敗して帰ってくるとは。







 追い討ちを覚悟で言わせてもらえば、ジュンイチは確かにギンガのことを“妹”としてしか見ていない。



 今回のお泊りは、その辺りの壁を打破できるいいチャンスだと思ったんだけど……







 母親的な立ち位置にいる私から見ても、ジュンイチは本当にみんなから好かれていると思う。

 ギンガはもちろん、チンクやウェンディもそうだろうし、最近ではあのエース・オブ・エースの高町なのはちゃんも……古い仲間内からも挙げるなら、ライカやジーナもまだジュンイチのことを想ってる。

 なのに、肝心のジュンイチがそのことに気づいてない。どれだけあの子達がアプローチをかけてもちっともあの子達の好意に気づかない。

 まさか、一緒の部屋で泊まることになってもまだ気づかないなんて……







 ただ……たまに思う。



 あの子は、気づいてないんじゃない。自分でも無意識のうちに、気づくことを拒絶してるんじゃないか、って……



 でなきゃ、あの病的なまでの鈍さが説明できない……たまにそんなことを思ったりすることがある。











 もちろん、それは私が勝手に抱いてる印象でしかない。真実である保証は一切ない。



 でも……もしそうだとしたら……それはとても、哀しいことだと思う。



 たとえ無意識でも、人に愛されることを拒絶しているあの子を、私達はなんとしても救ってあげなきゃならない。











 そして、それができるのは……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 隊舎に着くと、気づく。僕を見るみんなの目がおかしい。

 ……まさか予想通り? 何してるの風紀委員っ! しっかり隊舎の空気をまとめてっ!





 とにかく、デバイスルームへ向かう。アルトには、お留守番してもらってたしね。





 とにかく……入る。あ、ここは普通の空気だ。










「シャーリー、おはよ〜」

「あ、おはよ」

「おはようですー!」



 ……デバイスルームはひとりじゃなかった。リインがいた。なんで?



「あぁ、リイン曹長のバイタルチェックしてたから」

「納得した。あ、僕は出てた方がいい?」

「もう終わったから大丈夫ですよ」



 シャーリーもその言葉にうなずく……そいやさ、シャーリー。



「何かな?」

「いや、何かなじゃなくて、なんでそんなにつっけんどん? つか、目をあわせて」

「……なぎくんのヘタレ」





 お前もかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! つか、ヘタレじゃないからねっ!? 何言ってくれちゃってるの本当にっ!





「仕方ないですよ……」

「なんでっ!?」

「昨日、こっちも大変だったですから」



 ……後でフェイトの様子見に行こう。うん、絶対だ。

 あー、でもわかった。微妙な空気の正体が。まぁいいや。過ぎてるようなら、グリフィスさんやシグナムさんがシメていくでしょ。



「ま、そこはいいよ。フェイトさん的にそうなるのは、BADルートだったみたいだし」



 いいんかいっ! だったらツッコまないでよっ!



《仕方ないでしょう。これでようやくと考えていたのに、肩すかしなんですから》

「いーのよ、進展はしてるから……ただいま、アルト」

《おかえりなさい。マスター》





 その声は部屋の中央のデバイス用のメンテポッドから。そちらを見ると……いた。



 心をひとつにできる大事な相棒が。





「なぎくんがいない間にメンテはしておいたから、いつでもいけるよ?」

「お、シャーリー気が利くね。ありがと……バッチリ?」

「バッチリ」

「もうすこぶる快調ですよ〜」



 うん、ならよかった。まぁ、アルトは丈夫だしね。問題はないか。



《それではマスター》

「うん」










 シャーリーがポッドからアルトを取り出して、僕に手渡してくる。





 それを両手で受け取って、首にかける……うん、やっといつも通りだ。どーもらしくなかったんだよね。ちょっとシリアスだったし。










「……シャーリー」

「何?」

「どうして局員になろうと思ったの?」

「……え?」



 あの、シャリオさん? どうしてそんなにおもしろい顔をする。いや、我ながらいきなり過ぎると思うけど。

 だけど、我が悪友は、それでもちゃんと答えてくれた。



「……うーん、私は生活が安定してるからかな?」

「……そうなの?」

「まぁ、元々メカが好きで、局でデバイスマイスターの資格を取れば、そういうのに触れていけるしね。
 ……まぁ、こんな感じかな」



 ……こういうことなのかな。



「まぁ、アレだよなぎくん」

「うん?」

「誰も彼も、局のことを全部信じて仕事してるワケじゃないよ。少なくとも、私はそう」



 シャーリーの僕を見る目が強くなる。いつもは見せない真剣な瞳。



「ただ……その中でやってみたいことができた。だから、ここにいる。きっと、みんな同じだよ。それでいいんじゃないかな。
 組織の全部を信じる必要は、きっとない。むしろ利用してやるくらいの気持ちで、いいんだよ」

「……そうかな」

「そうだよ」










 ……我が悪友は、やっぱり鋭い。いろいろ見抜かれたらしい。





 とにかく、シャーリーにもう一度お礼を言って、僕とアルトとリインは、デバイスルームを後にした。




















 あー、しかしさアルト、リイン。










《はい?》

「……僕が局員になるって言ったら、どう思う?」

「恭文さん、どうしたですか? さっきから、変ですよ」

「あの……実はね」




















 全部ぶっちゃけました。昨日のことから何まで。そして……




















《「バカじゃないんですか?」》




















 …………………………………………よし。




















「即答っておかしくない!? つか、いきなり過ぎるからねそれっ! 僕、けっこう悩んでたんですけどっ!」

「バカなんだから仕方ないですよ。ね、アルトアイゼン」

《そうですよ。リインさんの言う通りです……あなた、なんで忘れてるんですか》



 忘れてる?



《まぁ、バカなマスターにもわかるように話すとしますか》

「ですです。本当にバカな恭文さんにも、わかるように話すですよ」





 こ、こひつらは……





《……私はそうなったとしても、いつも通りに行くだけですよ。いつものノリで、いつも通りです》

「リインも同じくです。恭文さんと、アルトアイゼンと三人で、いつも通りです」



 ……そっか。



《そうですよ。そして、あなたとて同じです》

「そう思う?」

《思います。どこにいようと、あなたはあなたなんですから。
 バカで、性悪で、ワガママでウソツキでヘタレで天然フラグメイカーで……》

「その上、いつもムチャして、みんなに心配かけまくって、運もなくて、こうと決めたらやたらと強情で……」



 ちょっとっ!?



《そして、私がマスターと認めた人です》



 その言葉に胸が震えた……そうだ。僕はあの時……アルトに認められたんだ。



「私も同じですよ……大事な、本当に大事な人です。恭文さんは、私に“今”をくれた人ですから」

「アルト……リイン……」





 バカ。それは……僕だって同じだよ。二人に……そっか。

 僕、忘れてた。忘れちゃいけないと思う理由、忘れてた。



 前にスバルに話したように、戒めている部分もある。でも、それだけじゃない。

 あの時、僕は……リインやアルトと出会えて、始められたんだ。今に繋がる時間を。今を、守りたいと思うようになったんだ。

 でも、あの時のことをどれかひとつでも忘れるのは……大事なパートナー達との時間も、一緒に忘れることになるんだ。





《……思い出しましたか?》

「うん、思い出した。なんか……ダメだね」

《その通りですよ》

「恭文さん」



 リインが、真っ直ぐに僕を見る。どこか優しくて、強い瞳で。



「恭文さんは、忘れたいのですか? あの時の事覚えてるのは、ずっと持っているのは、辛いですか?」



 さっきまではわからなかった。だけど、今ならわかる。だから、リインの言葉にこう返す。



「軽くは、ないね。でも、忘れたくない。絶対に」



 ……これなんだ。僕は……これが答えなんだ。



「戒めるだけじゃない。重いだけじゃないんだ。だって、あの時の時間のすべては、今に繋がっている。それを忘れる事も、置いていく事も、絶対にしたくない」

「私も、同じですよ」



 『恭文さんと同じです』。そう言って、リインは更に言葉を続ける。



「リンディさん達の言うことは……きっと、本当です。
 でも、私もそのためにあの時のこと、忘れて、なかったことになんて、したくありません。
 あの時の時間は、私の……恭文さんとの今に繋がっていますから。だから、ワガママ通しちゃいましょう?」

「ワガママ?」

「忘れないで、変わっていけばいいですよ。きっとできます」



 リインのそう言いながら浮かべた笑顔に、心が……決まった。あんなに揺らいでいた心の動揺が、動きを止めた。



《……それでも忘れそうになったら、私達が思い出させてあげます。重いのなら、共に背負います。
 私達は、そのためにあなたと一緒にいますから》

「恭文さん、本当に忘れん坊さんですね。恭文さんは、ひとりじゃないですよ?
 アルトアイゼンも、私もいます。だから、迷わないでください。恭文さんの答えはもう、出ているはずです」





 ……そうだね、きっと迷ってた。うん、ダメだ。





「そうだね。とっくに出てた……でも、いいのかな」

《いいんですよ。私達が選んで、私達が生きる時間です。私達のやり方で幸せにならないでどうするんですか。
 それに、今日までの記憶はすべて、必要であり、幸せなんです。クラジャンの歌詞にもあるではありませんか》

「私達の今と、今までの時間のすべては、誰がなんと言おうと、幸せだと思える未来につながっています。絶対に、絶対です。
 忘れてつながる未来なんて、私達には必要ありません。それをこれから、証明していきましょう。大丈夫、私達なら、きっとできます」



 不思議だ。ひとりだったら、きっとリンディさんの言うようにしてた。でも……



「きっと、すごく傲慢で、図々しいよ? いろんな人から大ブーイングだ」

《そう言いたいヤツには、言わせておけばいいんですよ》

「ですです。私達は、私達のノリで行けばいいんです」





 アルトがいる。リインがいる。それだけで、怖いものがなくなる。どんな状況も、変えていけると、心から信じられる。そのための力も溢れてくる。



 リンディさん、エイミィさん、ごめん。忘れることはできません。ワガママ、通します。

 僕達にとって、今日までの記憶はすべて必要で、幸せなんです。誰がなんと言おうと、絶対に。

 その中で忘れていいことなんて、下ろしていいことなんて、何も……ないんです。





「……僕、変わるかも知れないよ? それでも、忘れるくらいに」

《言ったでしょう? 思い出させると。それに、そんな事ができるほど、あなた器用じゃないでしょ》

「言い切ったね」

「当然です。どれだけ一緒にいると思っているですか?」



 ……そっか。なら、よかった。うん、よかった……のかな。



「アルト、リイン」

《なんでしょう》

「……これからも、僕と一緒に戦ってくれる?」

《もちろんです。
 というか……私達は約束したはずですよ? 『決してひとりでは戦わせない』と。その約束に期限を決めた覚えはありません》

「そうですよ。それに私は、“蒼天を行く祝福の風”であると同時に、“古き鉄”……あなたの、一部ですから。
 だから、守ります。私の総てで、あなたの総てを。絶対に」



 ……うん、そうだね。ひとりじゃない。だから……いつも通りだ。



「わかった。んじゃ、こっからはいつものノリで行こうか。
 めんどいのはもうおしまい。僕達は僕達のノリで、僕達の時間を生きる。楽しく、ヘラヘラと、傲慢にね」

《「はいっ!」》



 それが罪だって言うなら、背負うさ。それでも、やらなきゃいけない。

 忘れたら、なかったことにしたら、あきらめたら、ダメなんだ。それで得られる未来なんて、僕達にはいらない。



「それで……」

《ここからが私達の時間であり、私達にしかできないクライマックスです。いいですね?》

「もちろんっ!」

「やるですよ〜♪」








 少しだけ、足取りが軽くなったのは、気のせいじゃない……そうだよね。





 どこにいようと、僕は僕なんだ。だったら、始めてみよう。





 今までと違う道になっても、変わっても、変わらないものを持ち続けていられる。そして、何もあきらめないで、掴んでいける新しい僕を。





 ……あの人の言うような、守るべきものを守る騎士としての自分を。

 僕の守りたいものも、背負う……いや、大事に持っていたいものも、何も……変わらなかったから。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……そうして、午前の業務を終えてご飯をいただいてから、訓練の時間になった。訓練場へと、トレーニングウェアに着替えてから、歩いていく。







 ……で、スバルっ!











「何?」

「なんで僕をそんな微妙な目で見ているっ!?」

《いや、原因などひとつでしょう》



 ……あー、呼び出し食らうかな? でも、僕もフェイトもなんにもなかったとしか言い様がないし。



「恭文、E○って治るんだよ?」



 ゴスっ!



「いたいよー!」

「違うわボケっ! ……あと、マスターコンボイもティアナもエリオもキャロもフリードも他人のフリしないでっ!
 そこのトランスデバイス一同っ! お前らもだよっ!」

「きゅくー!」

《……仕方ないと言っていますが》



 仕方なくないからねっ!? あー、ヒドい。マジメにヒドイから。



「まぁ……あれだよ。エリオ達から聞いたけど……」

「うん?」

「よかったね。ちょっとだけでも進展して」



 ……ありがと。



「でも、これからだよ。後は恭文次第なんだからっ!」

「もち。ハッピーエンド目指してがんばろうじゃないのさ」











 ……うん、これからだ。気合い入れよう。







 とにかく、みんなで訓練場を目指す。すると……あれ?







 なのはにフェイト、ジュンイチさんにイクトさん、師匠にシグナムさんに……あれ?







 僕達とは色違いの訓練着を着た人が、二人いる。

 ひとりは170前後の白髪二つのおさげ。

 もうひとりは黒髪ざんばらで180前後。







 なんか、そろいもそろって楽しげに……えぇっ!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「まー、アレだよフェイトちゃん。昨日も言ったけど、やっさんがアホやってダメだと思ったら見捨てていいから。
 さすがにうちらもそこまでは面倒見切れないしさぁ」



 いえ、あの……



「そーそー。それくらいシビアじゃないと、いい男は捕まえられないし、育たないよ。あ、厳しすぎてもアウトかな。
 現にヒロがそれでいき……なぁ、首筋にアメイジア突きつけるのはやめないか? ちょっと死の匂いを感じるからさ」

《いやサリ、お前が悪いと思うぜ?》

《迂濶過ぎます、主》





 ……あの、今一瞬過ぎてどうやってこの位置関係になるのか見えなかったんですけどっ! やっぱり、すごい……



 でも……厳しくか。うん、しっかり見ていくんだから、必要だよね。







「……何やってるんですか二人とも」







 その声は私のよく知っているもの。そちらを見ると……ヤスフミがいた。訓練着姿でスバル達も。

 うん、みんな来たんだ。それなら……



「やっさん、悪いけど助けて。鬼がいる……」

「……すみません、その鬼は止められません。目が怖いし」







 あはは……





















「さて、それでは訓練に入る前に、みなさんに紹介する方達がいます」







 ヤスフミ達から少し遅れてライオコンボイ達ガイア・サイバトロンのみんなが到着。



 整列したみんなを前になのはがそう言うと、一歩前に出てきたのは……あの二人。







「あー、みんなおはよ〜。もう自己紹介するまでもないと思うけど、ヒロリス・クロスフォードです。で、サリエル」

《ホワイっ!? 待ってくれよ姉御っ! オレのことを忘れてるぜっ!》



 その声は、ヒロさんの両手の中指から聞こえる。そこには二つの指輪。

 金のリングに丸いラベンダー色の宝石が付いている。そう、この子がヒロさんのデバイス。名前は……



「もうちょっとちゃんと紹介しろよっ! ……あー、サリエル・エグザです。で、こっちが」



 サリさん……じゃなかった、サリエルさん、そこは流すんですかっ!?

 とにかく、自分の胸元から下げていた十字架……いや、十字の槍の形をしたペンダントをみんなに見せる。



《みなさん初めまして。私はインテリジェントデバイスの金剛と申します。主共々、お見知りおきを》

《あ、オレはアームドデバイスのアメイジアだっ! ガール達、よろしくなっ!》

「あ、はい。よろしく……」

「お願い……します」



 ……みんな、呆気に取られてるね。うん、わかるよ。私達も同じだったから。



「あー、みんなどうしてそんなに驚いてるの? よくしゃべるデバイスなら、アルト見てるでしょ」

「……いや、同じようなのが存在してることに驚いてるのよ。それも2機も」







 とにかく、話は進んでいく。いや、二人となのはが進める。







「お二人は、今日からみんなの訓練を手伝ってくれることになりました」

「お二人とも相当な実力者だ。しっかりと学んでいけ」

『はいっ!』



 みんな、元気よく返事を返す……うん、いつも通りだ。



「それでは、お二人とも何かあれば」

「あー、じゃあ一言だけ……うちらがやるのは、あくまでも手伝いなんだ。
 みんなの教導担当は、なのはちゃんとヴィータちゃんだから。みんながやることも、進むべき方向も、変わったりしない。そこの所は忘れないように」

「オレも同じく。あと、オレはカウンセラーとかの医療スキル持ちだから、そっち方面からもサポートさせてもらう。とにかくみんな、これからよろしく」

『よろしくお願いしますっ!』











 ……昨日のことは昨日として、日常は進んでいく。私も、イクトさんも、ヤスフミも。みんなも。







 考えることは多いけど、しっかりしていこう。私は準備を始めたみんなを見ながら、そう心に決めた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……疲れました」

「な、なんか訓練が激しくなってる……」

「アンタ……なんで私らと一緒にヘバってるのよ……」

「だって……あれはキツい」

「私……限界です」

「きゅく……」







 いや、覚悟はしてた。でも……アレはヒドい。なんで僕とやってた時より激しいのっ!?



 現在、食堂目指してみんなでフラフラしながら歩いています。あー、お空が暗い。あ、フリードは飛んでるね。







「まぁ、仕方ないかもね。
 トランスフォーマーの僕らですら、この有様なんだから……」

「もうヘトヘトじゃん……
 早くメシにしよーじゃん。肉食いてー」

「オイラはチーズ……」







 …………で、フラフラなのは僕らだけじゃない。ライオコンボイ達もすっかりへばってる。



 つか、主に本日初訓練の我が兄弟子、姉弟子が張り切りすぎたせいなんだけど。

 今日の訓練が午後だけだったからいいようなものの……いや、それを見越してたからこその、あの密度か。







「恭文から話は聞いてたし、覚悟はしてたけど……」

「ごめん、予想より密度濃かった」

《そうとう張り切ってましたね。ものすごく楽しそうでしたし》



 食堂へフラフラしながら到着。あー、でもよかったかも。



「どうしてよ?」

「一気にいつものノリに戻れた気がする」

「なるほど、納得だわ」







 とか話しながら、カウンターに向かって……いや、あの。







「ん? どうかした?」







 戸惑う僕に問いかける声――うん。軽く混乱してて答えかねてる。

 で、それはスバル達や、その後ろに並ぶライオコンボイ達も一緒。僕も人のことは言えないけど、みんなポカーンと口を開けて呆然としてる……ライオコンボイはフェイスガードのせいでよくわかんないけど。







「なんだよ、元気ないなー。
 せっかく体力がしっかり回復するように、腕によりをかけて晩メシの用意してやったのに」

「いやいやいやいやっ! そういう問題じゃないからっ!」



 そんな僕らの態度が不満だったらしい。口を尖らせてのその言葉に、僕はあわてて待ったをかける。



 うん。だってありえないから。



 だって……











「なんでついさっきまで訓練場で僕らをしばいてたジュンイチさんがへーぜんと厨房に立ってるんですかっ!
 しかもMyエプロンとMy三角巾完全装備の“パーフェクト主夫モード”でっ!」

「いや、今言った通り、お前らの回復の助けになればと思って、先回りしてメシ作ってたんだけど……
 ……あれ? ひょっとしてお前ら、オレが少し早めに抜けたの、気づいてなかった?」







 ………………ごめんなさい。そんなことに気づけるような余裕はありませんでした。







「やれやれ……どんな時でも周囲の気配を把握しておくのは、戦闘職としては必須だぞ?
 たとえば……」











「そこでつまみ食いをしようとしてるバカペンギンをしばき倒せるよう……にっ!」







 焼き魚をくすねようとしたブレイクが蹴り飛ばされた。





















 ………………まぁ、なんやかんやで驚かされたけど、ジュンイチさんも僕らのために作ってくれたんだし、そこは感謝しなくちゃね。



 そんなワケで、ジュンイチさん特製のパスタ(ビックバン盛り)を受け取る。ティアナは小皿。エリオはサラダ。スバルはパン。キャロはフライドチキン。

 ライオコンボイ達も、それぞれに自分達の好物を受け取ってる。量的にはみんな僕の受け取ったビッグバン盛りと同じくらい……もちろん、パスタ以外も全部ジュンイチさんの手作りだ。

 さすがにこの短時間で全部を一から作れるはずもなく、一部は“事前に”家で作って持ち込んできたものを暖めたらしいけど……ってことは、この人こうなるのを読んでたんかい。



 そうして、フラフラしながらも食事だけは守ろうと必死にテーブルを目指す。





「………………あ、ジュンイチさんにリンディさんの近況聞いとくの忘れた」

「そういえば、今お兄ちゃんちにいるんだっけ?」

「そ。
 まったく、我が家族ながら何やってるのか……」



 うん。今やスバル達にもリンディさん達の家出のことはバレてる……エリキャロに対して口をすべらせたフェイトが原因なのは言うまでもない。







 ……しかし、どうしてこうも次々と問題が起こるのか。もう収拾つける自信、ないんだけど。







「そういやアンタ、姪っ子甥っ子に『パパ』って呼ばれてるんだって?」







 テーブルに着いたので、各自大事な食料を慎重にテーブルに置く。というか、並べる。



 そんな時、ティアナからこう言われた。ちょっと動揺してパスタの皿が揺れた……エリオ、キャロ?



「え? 違う違うっ!」

「わたし達は何もっ!」



 だとすると……他にそのことを知ってるのは二人しかいない。



「あはは……話しちゃった」

「黙っていた方がよかったですか?」



 やっぱりメイルとライラか。

 いや、いいけどさ。知られた所でどうこうって話じゃないし。



「……恭文。なんて言うかさ、どうしてそうなの?」

「僕が聞きたい……」

《アレに関しては、不幸な偶然の産物としか言い様がないですしね》





 まーそこはいいじゃないのさ。今はご飯だ。



 とにかく僕達は、席に座って両手を合わせる。





《それではみなさんご一緒に。せーのっ!》

『いただきます(じゃん)っ!』

「きゅくー♪」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『……ホンマに何もなかったん?』

『うん、何も。その、すごく気遣ってくれたから』




















 ……聞かなければよかった。私はフェイトちゃんにこの間の一件を突っ込んだ。帰ってきた返事が……これや。





 書類の処理をしつつ、思考はどこか虚ろなもんを辿ってる。らしくないと思ったりもする。つか、なーんで事件も起きてへんのにこないにシリアスなんやろ。

 ……ロッサは、なんで私と……そうなったんやろうな。いや、本人に聞くしかないんやけど。





 ただ、怖い。





 もし……一夜の関係っちゅうヤツのつもりやったらと考えると、怖い。





 別に、そういう風に思ってたワケでもないんやけどなぁ。

 近い距離にいるお兄さん言う感じで、なんでも気楽に話せて……





 なんか、ダメやな。





 なんで、こないに……!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………むぅ……



 蒼凪達は食事をすませ、隊舎へ引き上げていった。







 …………そう。蒼凪もだ。なんでも、明日の朝練に参加するために今夜はこちらに泊まりだとか。







 そしてオレは……皆の引き上げたオフィスでひとり考え事の真っ最中だ。







 考えるのは今後のこと。



 オレの今後、そして……蒼凪や、テスタロッサとの今後のこと。







 先日……蒼凪はオレに、自分やテスタロッサのそばにいてほしいと言ってくれた。

 まぁ、理由については素直にうなずきかねるものではあったが……正直、どんな形であれ必要とされているのは悪い気分ではない。







 だが……問題は、オレがヤツらのそばにいて、何ができるか、ということだ。







 テスタロッサは執務官を目指している。そして蒼凪はその補佐官に誘われている。

 執務官ということは、その職務は事件捜査が中心。鉄火場はその中の仮定のひとつ、というケースが主になるだろう。

 そして、捜査が中心となると……











 ………………オレ、むしろ足引っ張るんじゃないか?











 別に、捜査が苦手というワケではない。そのあたりのスキルも、“Bネット”で活動する中で、この六課での活動の中でそれなりに学んできた。



 だが……捜査が中心になるということは、それに伴う報告などで事務仕事の割合がどうしても多くなる。そして現代の事務仕事において書類仕事は端末を使うのが当然であり必然。







 ………………今ですら端末を再三フリーズさせるオレには、正直荷が重いんだ、うん。







 いかん……このままでは戻ってきたところでたまの戦闘くらいしかやることがないぞっ!? しかもその後の報告でまた足を引っ張ることになるっ!



 何か考えなければ。オレのできること。オレのとるべき道を……っ!











「………………あれ、イクト……?」











 光凰院か……今あがりか?



「うん。食事も終わって、隊舎に戻るとこ。
 そういうイクトはどうしたのよ? なんか進路に悩む高校三年生みたいな顔しちゃっ……って、あれ? なんでそこで泣き崩れるのっ!? あたし何か地雷踏んだっ!?」



 気にするな。お前が悪いワケではない……だが、ひとつ聞かせろ。











 先日の蒼凪といい……オレは、そんなに思考が顔からダダモレなのか?





















「………………つまり、フェイトだけじゃなくて、恭文からも誘われたんだ。
 けど、自分のスキルじゃ二人やその周りのみんなの足を引っ張りそうで、どうしたものか、と……」



 ………………あれ? どうしてオレは洗いざらい光凰院に話してるんだ? いつの間に?



 気づけば、光凰院はオレのとなりのデスク(日ごろからあまり使われていないシグナムのデスクだ)のイスに腰かけ、オレと向き合っての面談の形が出来上がっていた。







 ……本気でワケがわからん。光凰院がさも当然のようにこの形に持っていったものだから、違和感をまったく感じることのないままにここまで来てしまった気がするぞ?







「そんなことは気にしなくていいのよ。
 問題はあんたがこのままじゃ役立たずだってことでしょうが」

「ぐぅ………………っ!」



 落ち着けオレ。少なくともここで光凰院を焼き払うのは筋違いだ。



「そんな難しい顔しないの。
 少なくとも……あたしはいい傾向だと思ってるのよ?」

「何………………?」

「だって……少なくとも、こないだまでのイクトだったら、そんなことは考えなかったと思うから」



 そう……なのか?



「そうよ。
 アンタは、10年前からずっと、戦い続けることしか考えてなかった。
 “瘴魔大戦”を生き残った神将のひとりとして……あんな戦いを、二度と繰り返させないために」

「そんなことは……」

「あるでしょ?
 だから……あんたは独立機動部隊にいる。ジュンイチが好き勝手するために作ったチームに便乗して、自分の信念を貫いて、戦い続けることを選んだ」



 ………………否定、できなかった。



 蒼凪にも見抜かれていたことだ……オレは神将として世界の敵に回った“罪”を、今でも背負い続けている。

 だから、オレは光凰院の言う通り、あの“瘴魔大戦”を繰り返さないために戦い続けることを選んだ……



「そんなアンタが、戦い以外の道を考えるようになった……
 六課でみんなと一緒にいる間に、アンタも変わってきてる……“戦士”として生きてきたアンタが、“人”としての生き方を考え始めてる」



 そう言うと、光凰院は立ち上がった。オレの肩をポンと叩いて、



「アンタの悩み……答えはあげられないけど、答えを出す方法なら教えて上げられるわよ?」

「本当かっ!?」

「食いつきすぎでしょ。どんだけ悩んでたのよアンタわ。
 ……まぁ、いいわ。とにかく、あたしに言えるのはひとつだけ」



 そう言って、光凰院が示した“方法”は……







「アンタが選んだ道は、アンタひとりで歩く道だったりするワケ?」











 …………………………











「………………蒼凪に相談してくる」

「ん。よろしい」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………それはまた……」

「難しい問題だね……」



 一部始終を話してくれて……恥ずかしさやら情けなさやらですっかり凹んでしまったイクトさんを前に、僕とフェイトは苦笑すらできない。自分の頬がひきつってるのがハッキリとわかる。



 ………………うん。フェイトもいるの。約束してた『さらば電王』の主題歌のディスクを渡してたところにイクトさんが来た。



 イクトさんとしては僕だけに相談したかったみたい……うん。フェイトに知られるのは恥ずかしかったんだと思う。僕だって同じ立場だったらフェイトには知られたくないと思うだろうから。

 けど、フェイトもいる時に来ちゃったのがこの人の運の尽き。フェイトにガッツリ知られたイクトさん、今現在テンション8割減といったところかな?



「でも、そんなに気にすることもないんじゃ……
 私は、イクトさんがいてくれてすごく助かってますし」

「そ、そうか……?」

《えぇ、そうですね》



 なんとか元気づけようとするフェイトの言葉に顔を上げたイクトさんに答えるのは、もちろん僕の胸元の我が相棒。



《そしてその分書類仕事やプライベート方面で同じくらい迷惑をかけていますが。
 世話になっている分と迷惑をかけられている分とでプラスマイナスゼロ、といったところですか》

「うがぁぁぁぁぁっ!」

「おのれは何を追い討ちかけとるかっ!
 ただでさえイクトさんそうとう煮詰まってるのに、これ以上トドメ刺してどーすんのさっ!?」



 あー、もうっ。イクトさんますます凹んじゃったじゃないのさ。



《何言ってるんですか。
 この人、マスター達と同じ道を歩いていくと決めたんでしょう? そのクセしてマスター達に相談もしないでひとりで抱え込んだりして。
 まったく、なんで私の周りの男どもはこうして人間関係がダメダメなんでしょうかねぇ?》



 うん。確かにそれは僕達が悪いと思うよ?



 けどね……半分くらいはお前がその毒舌で余計な波風を立てるからだと思う僕は間違ってるのかなっ!?







 アルトの「ツッコミ」という名の“追い討ち”で、イクトさんのテンションは8割減から9割減にランクダウン……あー、まぁ、なんだ。







「確かに、今のままだと………………うん、フォローは必須だと思うよ?」



 ………………さらに9分減。トータル9割9分のマイナス。もう1%しか残ってないや。



「け、けどさっ! それでもやりようなんかいくらでもあるんだしっ!
 実際、書類仕事だって端末使うからダメなんであって、手書きだとグリフィスさんもビックリなくらい完璧じゃないのさっ!」

「私達も一緒に考えますから、なんとかする方法、三人で見つけましょう。ねっ!?」

「………………手伝ってくれるのか?」







 ………………イクトさん、自分の苦手分野の話になると別人かと思うくらいに弱気になりますよね。







「もちろんだよ。
 一緒にやっていこう、って決めたでしょうが……だってら、ダメなところも一緒に直していこうじゃないのさ」

「そうですよっ! 私達にも力にならせてくださいっ!」

「だが、それでは世話になりっぱなしになってしまう……
 いつもいつも言われていればさすがに自覚がなくとも思い知る……オレには、できないことや問題となるスキルが多すぎる」



 ………………自覚、なかったんですね。



「まぁ、その辺はイクトさんにできることで、僕らの足りてないところを直してくれればお互い様、でしょ?
 ね? フェイト」

「うん。
 少なくとも、イクトさんは私達よりも強い……私達を鍛えてくれる、強くしてくれるのも、十分私達のためですよ?」

「しかし、それでは今やっていることの延長だ……お前達はそれでいいのか?」



 なおも渋るイクトさんに対して、フェイトと二人でうなずく……まぁ、恋敵に対して塩を送りすぎな気もするけど、そこは今ツッコむところじゃないでしょ。



「僕らみんなで、強くなっていこう」

「そして……私達みんなで、変わっていきましょう。
 私達なら、きっとできますよ」

「………………そうだな」











 ……うん、強くなろう。そして、変わっていこう。きっとできる、うん。





















「……あ、それなら」

「……何?」

「ひとつ、思いついたことがある。
 蒼凪……せっかくだからやってみるか? テスタロッサも手伝ってくれると助かる……というかお前の意見がぜひ欲しい」

「いや、まずは何をやるのか教えてくださいよ」










 ……この時のイクトさんの思いつきが、AAA試験での僕の窮地を救うことになるとは、この時、知るよしもなかった。





















(第33話へ続く)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



おまけ……というか新たなる爆弾?







 ………………はやての様子がおかしい。







 表面上は取り立てて違いがあるワケではない。注意深く観察しなければわからない程度の違いだが……明らかについ先日までとは様子が違う。



 おそらく、気づいているのはパートナートランスフォーマーであるオレくらいか……この程度の違和感では、おそらく毎日職場で顔をつき合わせているグリフィスですら気づいてはいまい。







 はやてがこういう状態の時は、間違いなく、何かについて悩んでいる時だ。



 こうなると、こいつはこっちに心配をかけまいと抱え込むところがあるからな……また問題を引きずって、厄介なことにならなければいいのだが。







 こんな時に限って、他の守護騎士連中は夜勤シフトで隊舎に泊まりだ。つまり今夜の八神家ははやてとオレ、そしてリインだけということだ。これでは誰にも相談できやしない。



 いずれにせよ、時機を見て、それとなく聞いてみた方がいいか……





















 ピンポーンっ!











 ………………ん? 何だ?







「はいはーい」

「あぁ、いい。オレが出る」







 洗い物をしていたはやてがキッチンを離れようとするのを止め、オレは玄関に向かう。



 しかし、こんな時間に一体誰が……



「はい。どなたですか……」





















「うむっ、苦しゅうないっ!」





















 ………………は?











 この時、間の抜けた声を上げてしまったオレを一体誰が責められるだろうか。



 何しろ、玄関の扉を開けたオレの前……ではなく足元にいたのは……





















「故あって宿がないっ!
 しばらく泊めてたもれっ!」





















 万蟲姫だったのだから。





















(本当におしまい)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!

ジュンイチ「うーん、お前らのこれからの進路かぁ……
 なんかこういうのを考えてると、ガキの頃の将来の夢とか思い出すな」

恭文「ジュンイチさんは子供の頃どんな夢とか持ってたんですか?」

ジュンイチ「我こそ最強っ!」

イクト「………………まぁ、貴様らしいと言えばらしいが……」

ジュンイチ「そーゆーイクトはどうだったのさ?」

イクト「………………侍」

恭文「………………イクトさん……」

イクト「いいじゃないか! 侍好きだったんだよっ! 今でも好きだけどっ!
 というかっ! 幼稚園の頃に“必殺仕事人”を挙げた作者よりマシだろうがっ!」





(※実話です)





第33話「どれだけゴチャゴチャしていても、たいてい一歩くらいは踏み出せる」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《……さて、見ての通りまだまだ本家『とまと』準拠の話は続きます。作者も「オリジナルルートに入れないっ!?」と人知れず頭を抱えた第32話です》

Mコンボイ「とはいえ、後の展開に関わってくる以上は飛ばすワケにもいかない、か……」

オメガ《そうなんですよね。
 まぁ、現クール中にやっておきたいイベントはそろそろ片づきますし、それが済んだらオリジナル展開に戻れるでしょう》

Mコンボイ「そして次のクールに入ればまた本家準拠のイベントに入って……今の状況が繰り返されるワケだな?」

オメガ《ぅわー、限りなく現実味がありますね、その予測。
 まぁ、私としては「楽なんだけどこんな本家頼りでいいのか自分っ!」と自己嫌悪にのた打ち回る作者を見るのはたまらない楽しみではあるんですけど》

Mコンボイ「本家『とまと』では恭文達が拍手世界で転がってるが、こっちでは作者がリアルで転がってるからなぁ……
 おかげで作業自体は楽なのに、いちいち転がって作業の手を止めるものだから、所要時間が一から作っているオリジナル話とさして変わらないというオチが」

オメガ《自己嫌悪に陥るくらいなら最初から全編オリジナルで書けばいいのに》

Mコンボイ「『本家が好きで始めたシリーズなのにその本家をないがしろにできるかっ!』だそうだ」

オメガ《……まぁ、本人が納得しているのならいいんですけど。
 では、今週はここまで。また次回お会いしましょう!》

Mコンボイ「本家の展開の通りだと、次回は“アレ”か……
 久々に、暴れられそうだな」

オメガ《えぇ、そうですね……私が》

Mコンボイ「いや、暴れるのはオレもだからなっ!?」





(おしまい)






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あきゅろす。
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