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頂き物の小説
第32話「とある魔導師達のそれぞれの答え探し」:1




 朝日がまぶしい。黄色に見えるんは気のせいやない……いや、もう太陽は昇りきってるんやけどな。







 まー、あれや。あれなんよ。もうあれがあれしてあれでな。辛い辛い。











 ……コメントするとカットなんよ。悪いんやけど察してくれると助かるわ。







 とにかく私は首都に戻ってきた。ロッサとは途中で会話少なげに別れた。

 現在は某ファーストフード店でマフィンかじっとる。

 そして、胸元には、青い宝石……よし。











「……なぁ、アルトアイゼン」

《……》



 返事がない。ただのしかばね……って、アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!



「何を華麗に無視しとるんやっ!? ほら、起きてるやろっ! さっさと返事しいっ!」

《さっさ》

「自分私を舐めとるやろっ!」

《……あんなあり得ない状況を私に見せておいて、よくそんなことが言えますね》











 う……







 ……そう、昨日の夜ありえへんことが起こった。







 嵐で帰れなくなって、同じ部屋に泊まることになったロッサと祝杯上げたんや。理由は恭文(orイクト)×フェイト成立の前祝い。

 いや、同じ部屋で泊まることになったっぽいし、これはもう恭文かイクトさんが男を見せて確定かなと。なお、私の英断。



 それで、なんやかんやとあって……







 気がついたら朝で、私ら……その……








 何が原因やったっけなぁ。えっと……







《あなたが『男女が同じ部屋に泊まっていたら、当然エロい事をする』……と言い出したからですよ》

「あぁ、そうやった。そしたらロッサが『そんなことない』って反論してきて……」

《そうして……アウトコースです。いや、これしか説明できないなんて、おかしいですけど》

「そうやな……どないしよ」



 テーブルに突っ伏す。いや、マジメにどないしよ。







 ……いや、大丈夫か。恭文達だって……やろうし。







《どうでしょ。マスターとフェイトさんですし》

「いや、でもさすがに……」

《それより、自分のことを考えたらどうですか?》











 ……そうやな。どないしようか。







 ハプニングでそうなるって、ラブコメではよくあるやん? ……キツいな。実際のところ。







 やっぱここは誰かに相談した方がえぇかな……ロッサには気にすることないなんて言うてしまったけど、ミスやった。











 …………………………………………………………どないしようか、マジで。







 フェイトちゃんに相談する? 一応同じ境遇やし……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……どうしようか。まさかこうなるとは思わなかった。







 いや、やめよう。こんな事を口にしても、最低なだけだ。







 はやてとそうなったことを……僕自身は後悔はない。うん、それはない。







 ただ、はやては……違うよね。『気にしない』とハッキリ言われてしまったし。







 確かに、その場の勢いでそうなる事は……ある。というか、なった。



 だけど、今回は抑えるべきだった。僕は男だ。男として、女性であるはやてを守らなくてはいけない。







 なのに、これだ……本当に最低だな、僕は。











 ただ……あの時。







 僕は………………………………











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第32話「とある魔導師達のそれぞれの答え探し」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








「……じゃあ、本当に何もなかったのね」



 えぇ、ありませんよ。そういういかがわしい事はひとかけらも。



「まぁ、そうだよね……うん、予測はしてた」

「エイミィさん、なんでそんなに呆れ顔なんですかっ!?」

「……お祝いじゃないの?」

「パパ、おめでとうじゃないの?」







 ……みんなの期待とは違うし、お祝いじゃないね。つか、こんな大げさに祝う事じゃないし。



 でも、なんで? いつものノリとは明らかに違うし……







「……鶏肉野郎」



 思考はその声で中断された。そちらを見ると……なんか不満そうな方々がいた。



「ヴィータちゃんの言う通りだ。オレ達の期待を裏切りやがって……」

「なぎさんのヘタレ」

「……現状維持なんだね。恭文、それはどうなのかな?」

「泣けるです……」

「蒼凪、またあのおでん屋に行くか。シグナムと、近所の火野殿や志葉殿と一緒にな」

「恭文くん、精密検査しましょうか。大丈夫、E○は治るのよ?」

「……アホかぁぁぁぁぁっ!」





 そう、僕は現在吊し上げに遭ってます。みなさん……カレルとリエラ以外ね。不満そうです。



 いいじゃん、何もなくたってっ! あって気まずくなるよりは数倍マシでしょうかっ!





「まぁ……確かにな。つか、ようやくだな」

「えぇ、ようやくノーダメバリアは解除できました」

「長かったわね。うん、本当に……」

「シャマルさん、お願いだから泣くのはやめて」



 僕も泣いたけどさ。

 ある意味、そうなるより快挙じゃない? いや、自分で言うと説得力ないんだけど。



「……やっさん」



 ……サリさん、どーしたんですかそんな真剣に。











「高級レストランでピアノフォームを弾くなよ……」













 あ、なんか崩れ落ちた。つーかまてまてっ!



「『これでいいか』ってスタッフさんやらに確認は取りつつ弾きましたよっ!?」



 当然である。前回も言ったけど、ちょこっと弾いてこういう感じで大丈夫かと念入りに確認した。それはもう念入りに。

 フェイトもいるのに、無許可でそこまでチャレンジなことをするワケがない。全部の工程はすべて前段階でキッチリしてるに決まっている。

 まぁ、唯一の例外がイクトさんの提案のもと、子供達がスタッフの人達を押し切ったシンケンジャーなワケだけども。



「つか、そういうところでも大丈夫なアレンジ方法教えたの、サリさんですよねっ!?
 実際やって彼女落としたとか言ってたじゃないですかっ!」

「あんなのホラに決まってるだろうがっ! 実際は引かれたわっ!」





















 ………………は?





















「…………ドウイウコトデスカ?」

「いや、やっさんのやる気を促すために事実の脚しょ」







 その瞬間、サリさんが吹き飛んだ。というか、蹴って吹き飛ばした。







「……何すんだお前っ!?」

「それはこっちのセリフだっ! 何とんでもないフカシ吹いてるっ!?
 思わず鳥肌立ったし血の気が引いたでしょうがっ!」







 ……怖っ! マジメに怖っ! 一歩間違ってたらイクトさん巻き込んでBAD ENDじゃないかよっ!



 僕らがすさまじく奇跡的なバランスで昨日を越えた事を、今さらながら認識したよっ!







「まさか本気でやるとは思わなかったんだよっ!
 お前ら“TPO”って知ってるっ!? 場を考えろよ場をっ!」

「それは僕が言ったことでしょっ!? しっかりとした完成度で文句言わせなければOKって言ってたでしょうがっ!」











 そう。戸惑う僕にサリさんはそう言った。それだけじゃない。こうも言ってた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『お前は馬鹿かっ!? 音楽に国境なしっ! 素晴らしい演奏に、曲の出地は関係ないっ!
 いや、出地どうこうだけで判断する奴は二流以下だっ! ついでに判断させる弾き手も三流以下だっ!』








 ……サリさんの言葉は、そんないろんなものにケンカを売った発言から始まった。







『そもそも音楽とはなんだっ!? そうっ! “音”を“楽”しむことだっ!
 確かに場に合ったチョイスは必要だろう。しかしっ! それだけでは足りないっ! 足りるはずがないっ!』








 ……その時いたのは、カリムさんと僕。で、僕はなぜか殴られて倒れてた。








『なぜならっ! 場に合う曲を弾くだけでは音楽は完成しないからだっ! ただ弾くだけならば、音源をスピーカーから流せばいいだけの話になるっ!
 お前はそれでいいのかっ!? いいや、よくないっ! いいワケがないっ!
 お前がやることは場に合う曲を弾くことじゃない。曲にっ! ピアノを通じて魂を込める事なんだよっ!』








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……サリエル殿、やはりあの方の弟子なのですね」

「ですです……」

「そう言いながら、みんなでオレを呆れた目で見るのはやめてくれないかなっ!?」

「……まだあります」

「まだあるのっ!?」











 そう、まだある。サリさんの固有結界は……すごかったのだ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『この場合、楽しむという言葉は、気持ちを込めるという意味に変換してくれ。
 そう、ディスクや音源を使用するならともかく、人間が生で弾く場合、音と言う情報に付与されるものがある。
 それは……心っ! 魂だっ!
 演奏者が自らの魂を込めるからこそ、音楽は人を魅了するんだ。それを……アニメ関係だからダメ? 場を考えろ? TPOだとっ!?
 貴様っ! それでもピアニストかっ!? 歯を喰いしばれっ! 腐りきった性根を修正してやるっ!』








 ……あの時、なんでぶっ飛ばされたんだろ。改めて考えるとワケわからないし。







『もう一度言うっ! 出地など関係ないっ!
 そしてカン違いするなっ! 好きな曲ばかりを弾けと言っているワケでもないっ!
 必要最低限なチョイスはしなくてはいけない。ただ好きな曲を弾くだけでは、それは押しつけになる。それはプロの仕事ではないっ!
 その場合どうするか? ……答えはひとつっ! そう、アレンジだっ!』








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……なんつうか、洗脳ですか?」

「なぎさんに精神操作の魔法を使ってたとか」

「そんなことしてないからなっ!?」

「……で、折り返して」

「これでようやく半分なのっ!?」











 そう、折り返して、固有結界はまだ続く。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




『一件激しい曲が、演奏する楽器やテンポを変えただけでとても雰囲気のいい曲になるだろう。そう、アレンジだっ!
 新しい可能性を、その手で作り出すっ! それこそがアレンジの理念っ! 場に合わないなら、まず合う可能性を探すことが先決だろう。
 ……もちろん、
版権をぶっちぎらない程度にっ!』








 この時、あわてて付け加えた時点で気づくべきだった。いや、もう遅いけど。








『何度も言うようだが、好き勝手をやれと言っているワケではない。ただっ! くだらない常識で自らの音楽の可能性を狭めるなと言っているんだっ!
 お前はそんな器じゃないだろっ!? 貴様っ! 「電王」のピアノマンの回を見ていないのかっ!』








 僕は首を横に振る。もはや主旨がさっぱりだけど、そんなの関係ない。言葉に込められた熱が、僕を、カリムさんを貫く。







『見ているなら話は早い……あれこそがお前の目指すべき姿だ』







 ……いや、本気で振り返るとワケがわからない。僕、なんでこれで納得したっ!?

 僕だけじゃなくて、カリムさんも説得されかけてるし。








『弾く曲がどうかなど関係ないっ! そんな戯言は聞き流せっ! あれこそが真なる音楽っ! 真に弾き手の想いがこもった音は、万人を魅了するっ!
 そんな音楽をその指で、その心で奏でたいとは思わないかっ! 自らの魂のすべてを叩きつけてだっ!
 そんな常識を飛び越える演奏がしたいとは思わないのかっ!?』








 ……なんで僕はちょこっと涙目なんだろう。どうしてカリムさんは『目から鱗が落ちました』的な顔してるんだろ。

 改めて考えると本気でワケがわからないしっ!








『お前ならできるっ! いや、お前にしかできないっ! 何ものにも捕らわれない本当の音楽というものを、世間様に教えてやれっ!
 やっさんっ! お前は今からピアノマンになるんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……恭文」

「お願い、言わないで」

「なんでそれで説得されちゃうのっ!? おかしいよっ! 僕、今相当回数ツッコんだよっ!」



 ……なんでだろうね。こう……サリさんの勢いがすごくてつい。



「……だって、こう言わなきゃやっさんは納得しないだろっ!
 別にオレと同じ目に合えばいいとか考えてたりしたワケじゃないぞっ!? それは2割程度だっ!」

「何げに無視できない割合じゃないのさっ! どんだけ最低な思考してるんですかアンタっ!」







 いや、確かに文句は言わせませんでしたよ? えぇ、まったく。あの言葉に感動して、必死に練習し続けた甲斐は確かにありましたよ。



 でも怖いわっ! 振り返ると本気で怖いわっ! おかげでこっちは危うくイクトさんを道連れに、「自滅」という名の谷底にノーロープバンジーするところだったんだよっ!?



 つか、常識や規律ぶっちぎって目的達成する人がそんなホラ吹くなっ!







「あぁ、どうしてオレの周りにはマトモじゃないのばかりがいるんだよ。本気でそれでなんとかするって、おかしすぎるだろ……」

「アンタが言うなっ!」



 なんか失礼なことを言い出したし。



「……って、違う。こんな話じゃなかった」

「じゃあ何が言いたかったんですか……」



 そしていきなりテンションが変わった。というか戻った。



「ここまでだからな」

「はい?」

「オレ達にできるのはここまで。そう言ったんだ。後は、フェイトちゃんとお前が決めていく事だ。
 もうフェイトちゃんは“今”のお前を見ている。ここから導き出される結果は、全部お前次第だし、お前の責任だ」

「……はい」











 他のみんなも、同じくらしい。表情がサリさんと同じだし。







 つまり、これでダメならそれはフェイトどうこうじゃない。僕の問題ということ。

 ここからは、みんなは味方でも敵でもない。ある意味審判だ。レッドカードものなら、遠慮なく退場させられる。







 ……それで、いい。一番変えたくて、変えられなかったことは、覆せたんだから。







 子供扱いしないで、スルーしないで、ちゃんと見てくれる。ずっと……ずっと……そうしてほしかったから。

 やっと、ちゃんとぶつかれるんだ。そしてそれはつまり、答えが出るということ。覚悟は、決めてた。







 ……まぁ、ダメだったら、多分泣く。でも、引きずりはしない。ううん、したくない。







 もう、今までとは違うんだから。見てくれた上でダメなら、納得しなきゃね。











「ま、がんばれ。サリさんの言う通り、ここからはお前次第だからよ。
 アタシらは本当にマズイって思わない限りは、フォローしねぇから」

「それで充分です……一番の願いは、叶いましたから」







 一応進展はあったから、いいのさ。







「……うん、なら硬い話はここまでにして、みんなで美味しくご飯にするか。せっかくのごちそうが冷めるしな」

「はい」











 そして、その後はみんなで楽しくご飯を食べた。それはもう楽しく騒ぎながら。







 ……とは言え……だよな。どうしたもんか。







 フェイトやイクトさんとのことじゃない……新しい自分、どうやって始めればいいか、考えてる。







 忘れたくないことがある。絶対に忘れたくない事が。



 僕が僕でいるために、絶対に必要な記憶と時間。



 その記憶と時間があるから、僕は守りたいものを、壊したいものを、見失わないですむ。迷わないで戦える。







 ……それでも、時々間違えちゃうし、取りこぼしちゃうけどね。







 たとえ持っていることで、誰かを傷つけても、遠ざけることになっても、消しちゃいけない記憶。







 つか、それでどうこうなる覚悟なら、とうに決めている。



 だって、僕は……弱い。だからきっと、組織やコミュニティにそれを預けたら、忘れる。



 今の気持ちも、重さも、その存在さえも。それだけは、それだけは絶対にイヤで……







 だから今までは嘱託でいた。局員として戦ったら、きっと忘れる。今までは、そう思っていた。











 でも……











 フェイトの言う通り、そうならない道、あるのかな?



 局の中にいても、自分として、大事な時間と記憶。何ひとつ忘れたり、捨てたりしない道が。







 もし、もしも……そんな道があるなら、僕は……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「何も……ないですから……」

「……テスタロッサ、そこはもうわかった。だから安心してくれ」



 ……テスタロッサ、その涙目はやめてくれ。いや、我々が原因なんだが。

 しかし蒼凪は……いや、だからこそらしいのか。







 現在は談話室でテスタロッサと茶を飲んでいる。私が蒼凪仕込みの淹れ方で淹れた。

 茶葉を湯に通してから、揺らさずにじっくり待つ。飲んでくれる相手の笑顔を考えながら、ゆっくりとだ。

 これだけで、ずいぶんと味が良くなるのだから不思議だな。まぁ、それはさておき……







「それで、相談とはなんだ?」



 恋愛事……ではないな。第一、そんな話をするなら私には相談しないだろう。



「はい。実は……」





















「……なるほど」

「はい……」



 蒼凪を補佐官にか。また英断を……



「だが、そこまで気を遣う必要はないのではないか? 蒼凪ならば、ひとりでもなんとかなるだろう」



 実際、現在もどうにかなっている。局員になり、部隊に正式に入ったとしても、問題は……



「……怖いんです」

「怖い?」

「ヤスフミ、あの人に似ていますから」







 それだけでテスタロッサが何を危惧しているのかを理解した。







 ……蒼凪の師、ヘイハチ・トウゴウという人間は局員ではあった。しかし……その枠に縛られる人間ではなかった。

 自分がそうしたいと思えば、局の命令や常識など、無視して進む。今もそうだ。



 そして蒼凪も……



「万が一を考えて、ヤスフミに来てはもらいました……今の所は大丈夫ですけど」



 そう……ディセプティコンもその他の連中も、暗躍こそすれ表立っての行動自体は遭遇戦や小競り合い程度のおとなしいものだ。我々が総出で、全力で当たらなければならないほどの事態が起きているワケではない。

 おかげで、何かあった場合のために来てもらった蒼凪に負担を強いることもなく日々が過ぎているが……これからもそうだという保証はない。



「もし、何かが起きて局や組織……私達の動きと自分の動きが大きく食い違えば、間違いなく飛び出します。アルトアイゼンと一緒に」

「……そうだな」

「それだけじゃなくて……その、昨日……というか、最近、改めて気づいたんです」







 気づいた?







「ヤスフミ、すごく危ういんです」







 表情は重く、何かを恐れた色が見えるのは気のせいではない。



 しかし、ここまでになるとは。一体、何がそんなに気になる。







「どういうことだ?」

「守りたいものがあって、壊したいものがある。頑なでも、結果として自分の想いを押しつけることになっても、絶対に忘れたくない記憶と時間がある。
 それは理解……できました。ヤスフミにとってそれが必要なものであることも」



 理解『している』ではなく、『できた』……か。やはり、変化はあったのだな。



「でも、ヤスフミ……それを一番に考え過ぎているんです。
 こう、そう考えていることで、人から疎まれたり、自分の今の居場所をなくすことになることに、恐怖を感じていないようで……」







 ……アイツは迷わない。そして止まらない。心の中に通すべきものが、しっかりと存在しているからだ。



 そして、それ故にアイツはそれを通すのにジャマだと判断すれば、遠慮なくそれを振り切り、対価を差し出す。

 その状況で一番対価にされやすく、雨風に晒されるのは……アイツに対する信頼や、アイツの立場だ。







「もっと言うと……『自分の気持ちを通したら、人に嫌われても、居場所をなくしても仕方ない』。そう考えている部分が見えました。
 そういうのを覚悟していると言えばいいんでしょうか。もしかしたら、自分は殺して……奪った人間だから、仕方ないと考えているんじゃないかなと」

「……そうだな、あの方や柾木と同じく、アイツはそういった所がある」











 そう、テスタロッサの言うように、アイツは自らの風評や自分の立ち位置を軽視する傾向が見られる。私も気づいてはいた。



 ただ、今まではアイツがちゃんとその状況毎に判断して、覚悟を決めている様子だったからこそ、何も言わなかったのだがな。







 それにだ、それは決して間違いではない。

 自分を通す……行動するということは、自分を他者に押しつけていくこととも言える。他者のためと言おうと、それは変わらない。







 そう、他者に何も押しつけない者など、存在しない。私とて同じだ。







 もし、自分は何も押しつけてはいないと、その相手の事を思い行動していると言うなら、それは幻想であり錯覚であり、エゴだ。

 他者に干渉するという事はそういう事だと……まぁ、今のは受け売りだがな。実際はそこまでドライではないと思う。







 だが、蒼凪はそれ故に、テスタロッサの言うように考えている。

 ……例え、それ故に居場所を持てず、孤独になったとしてもだ。

 アイツにとって、人を殺めた記憶はそれほどに重い。その中で見据えた戦う意義もだ。その覚悟をしてでも、背負わなければならない。

 組織に預けて、楽になることなど、できないのだろう。その記憶とて、蒼凪にとっては必要なものなのだからな。





 だが、蒼凪の現状が、テスタロッサは疑問なワケか。











「局員になる必要は……ないんです。ずっと嘱託でもかまいません。ただ……」

「蒼凪に、今いる場所を捨てて当然のものとは、見てほしくないと」

「……はい。立場や状況に固執しろとは言いません。ただ、もう少しだけ大事にしてほしいんです。
 でも、どれだけ考えてもどうしたらいいのかわからなくて……」



 納得した。とは言え……いや、答えなどひとつしかないんだがな。テスタロッサにとってはそうだ。



「それで、お前はそれを一緒に考えることにしたワケだ。側にいれば、最悪そうなりかけても力になることはできると」

「……約束しましたから。少しずつでいい、新しい私達を始めたいんです。何より、私は……イヤです」

「例え、押しつけで現実を見ていないとしても、そう言いたいのか?」

「しても、です」



 テスタロッサは、迷いなく言い切った。



「ヤスフミの今までが間違っているなんて、言うつもりはありません。ただ、それが全部で、絶対じゃない……という風に、できれば……と……
 結局、また押しつけかもしれないんですけど」

「それは蒼凪とて同じだ。問題はなかろう」



 若さ故だと思ってしまう私は、きっとダメなのだろう……若さが足りないのだろうか。うん。今度のオフにでも知佳に相談するとしよう。この手の話題で恭也は役に立たん。



「……蒼凪には話したのか?」



 テスタロッサはうなずいた……蒼凪は相当苦い顔をしていただろうな。



「してました……『やっぱり局に入ってほしいからそう言う』。そんな表情をしてました。
 そして言われました。私の望むようには、きっとなれないと」

「……そうか」



 確かにテスタロッサは何回か話していたしな。そう思うのはムリはない。



「でも、うなずいてくれました。先のことを、一緒に考えていくことだけは、なんとか」

「……よかったな」

「はい……あ、それと相談事なんですけど」







 そう言えばそうだったな。すっかり忘れていた。



 しかし、話し出すとここまで止まらないとは。昨日の一件が、テスタロッサ達にとっていい傾向になっている証拠か?







「……あの、シグナム」

「どうした、改まって」

「また……話を聞いてもらっていいですか? 私ひとりだと、煮詰まっちゃいそうで。今も、ちょっとこんがらがってますし……」











 こ、コイツはっ……!



 まさかそれを言うためだけにわざわざここに連れてきたのかっ!?







 そんな私の思考が伝わったのか、申しわけなさげにうなずくテスタロッサの頭はくしゃくしゃにしてやった。







 これからしばらくはコイツの話に付き合うことになるんだ。これくらいは許してほしい。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………さて。

 光凰院、ハイングラム、あずさ……少しは頭に上った血は下がったか?



「……えぇ、おかげさまでね」

「いい加減気分も落ち着いてきたところですね」

「うんうん。もう大丈夫だよ」







 そうかそうか。それはよかった。



 それなら、オレも貴様らを簀巻きにして中庭の木に逆さ吊りにした甲斐があったというものだ。







「イヤミで言ってんのよこっちはっ!
 いい加減下ろしなさいってのっ!」

「というか、血が下がるどころか上がってきて……っ!」

「さすがに辛いから、そろそろ許してくれませんかなー? とか思っちゃったりしてるんですけど」

「ふむ」







 確かに、これ以上やっても仕置きにはならんか……三人を吊り下げているロープに炎一閃。ロープが焼き切れたことで彼女達が解放され――直後に響いた、つぶれたような三つの悲鳴は無視しておく。







「あたた……
 ……けど、ホントに何もなかったワケ?」

「………………もう一度吊るすぞ?」

「確認よ、確認っ! いちいちロープ持ち出さないでよっ!」

「それで……本当に、“そういうこと”は何もなかったんですね?」

「なかったと言っている。
 まぁ……オレ達の関係が変化したことだけは、確かだがな……」



 言ってから……気づいた。

 今のは明らかに失言だったと。



 なぜなら……







『そこんとこを、もーちょっと詳しくっ!』







 この3バカを、もう一度吊るす必要性を再燃させてしまったからだ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………またやっているのか。



 炎皇寺往人によって、ライカ・グラン・光凰院とジーナ・ハイングラム、柾木あずさの3名が再び逆さ吊りにされるその光景を廊下の窓から見下ろし、オレは思わずため息をついた。







「マスターコンボイ」







 ………………何だ? サリ・サムダック。



「いや、こんなところで何してるのかなー、って」

「ん」



 無言で中庭を指さす――そこに広がる光景をオレのとなりから見下ろして、ようやくサリ・サムダックは納得したようだ。



「あれって……その、アレでしょ?
 イクトさんが、フェイトさんや恭文と朝帰りしたーって」

「そういうことだ。
 まったく、何をやっているのやら……」



 本当に、何であんなにエキサイトしているのやら……うん、オレにはよくわからん。



 オレにわかるのは、せいぜい今回の外出で恭文達3人の関係に変化があったことぐらいで……











 ………………変化、か……











 自らが心の中でつぶやいた、その一言に、オレの中の何かが反応するのがわかった。







 ………………いや、違う。“何か”ではない。







「アイツらは……変わっている……変わり始めている……
 ならば……」











 これは……











「オレは……?」











 “焦り”だ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……夜。来てくれたみんなにお礼を言いつつ見送ってから数時間。







 本日はお泊りとなった双子が早々に眠った後……僕は、お姉さんとお母さんに人生相談をしていた。





















「……局にっ!?」



 やけに驚くエイミィさんの言葉にうなずく。というか、リンディさんまでビックリ顔。



「それはまたどうして? いえ、フェイトと話をして、ひとつの可能性として、本気で考えようとしてるのはわかるわ。でも……いきなり過ぎない?」



 ……そう思います。



 けど……



「今見ているものだけじゃ足りないんです」







 結局、僕が通したいものは、変わらなかった。

 ワガママで、身勝手で、傲慢だとも思う。でも、変わらなかった。



 今を守りたい気持ちと、過去を忘れたくない気持ちは、何も変わらなかった。







「だけど、それでも迷っていたんです。それがどうしてか、自分でもわからなくて……
 でも、昨日フェイトと話して、わかったんです。まだ……足りないんだと」

「だから、今までは敬遠してた局員としての道も、見てみることにしたと……」

「そう、です」





 ……正直、合わないとは思う。きっと簡単じゃない。



 だけど、このままじゃ前に進めない。嘱託をするにしても、ちゃんと考えなきゃいけないんだ。







「……正直、あなたが局員というのは……難しいと思うわよ?」



 でしょうね。自分でも思います。



「あなたは、管理局を信じてはくれないでしょう? 人を信じているだけであって」

「……はい」

「まー、休業中の身だけど、それでも局員として言わせていただくとですよ。そういう子はどこにいても厄介だろうね。
 局員になるって、局の正義に背中預けるのと同じだからさ。そういうのを少しでも信じられないと、辛いと思うな」







 ですよね。うん、わかってた。でも、そうすると……







「あと……それ絡みで言いたいことがあります」



 え?

 リンディさんとエイミィさんの表情が厳しくなった……なんだろ。



「……あなた、もういいのよ」

「……何がですか?」

「過去に縛られなくても、いいの」



 縛られてるつもり……はない。ただ、忘れたくないんだ。



「でも、恭文くんがそのためにあきらめているのは、見てられないかな」

「あきらめては」

「いるよね……今の居場所にずっといること、あきらめてる。居場所を、大事にしてない」



 反論できなかった。その通りだから。きっと、エイミィさんや……フェイトの言う通りだ。



「……あのね、フェイトちゃんがずっと恭文くんを子供扱いしてたの、それが原因じゃないかな」



 ……え?



「恭文くんの、いつの間にフラっといなくなっちゃいそうな所を見て、ずっと不安だったんだよ。
 自分と似ている所もあるし、ヘイハチさんがまさにそれだから、余計に」

「私もそう思うわ。もし、本気でフェイトさんとの時間がほしいと思うなら、そこは直すべきよ。
 でないと、きっと互いに不幸になるだけだわ」



 そう、かな。ううん、きっと……そうなんだ。



「……もちろん、あなたがそう考えてしまう理由はわかるわ。ね、ひとつ聞かせて?」

「はい」

「命を奪ったという事実は、そんなに重いもの?」



 僕はうなずいた。重い、すごく。重くて重くて、キツい。



「なら、忘れてもいいんじゃないかしら」

「できません」

「それはなんで? ……やっぱり、忘れられないのかな」

「違います……忘れたく、ないんです」



 うん、そうだ。忘れたくない。なかったことにもできない。



「……どうして?」

「どうしてと言われましても……」

「正直ね、理解できないのよ。
 あなたは、そうするから失うものがある。信じられないものがある。それは、哀しいことなのよ?」



 何も言えない。だって、間違いではないから。



「……忘れることが美徳だと言うつもりはないわ。でも、決して罪ではない。
 あなた……十分がんばったと思う。だから、もういいのよ。
 もう、下ろしましょう? それでもあなたはきっと……幸せになれるわ」











 そう言われた瞬間、どう返事をしていいかわからなくて……うつむいた。

 変わらなきゃいけない。本当に守りたいなら。







 ……僕のやることは。





















「……リンディさん、エイミィさん」

「何かしら?」

「すみません、すぐには決められません……一番話さなきゃいけない子達に、まだ話していないんです」

「……そうね。あなたが生き方を変えるなら、あの子達にちゃんと話さないとね。でも、きっとそれでいいと言ってくれると思うわ」

「前に進むためだもん。きっと……許してくれるよ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………確認します。
 ほんっ、とーに、何もなかったんですね?」

「ねぇよ」



 改めて尋ねる私に、ジュンイチさんはため息まじりにそう答える……まぁ、私がしつこく聞きすぎたせいなんだけど。



「………………本当に、それが原因だと思ってるのか? なのは」

「え? 違うんですか?」

「違うも何も……」



 首をかしげて聞き返す私に、ジュンイチさんはため息をついて――











「朝一番出勤してくるなり訓練場に引っ張り出されて、砲撃の雨と共に尋問されれば疲れもするだろうがっ!」











 ………………えっと、別に、そういうつもりはなかったんだけど……あれ? なんでこうなったのかな?







 確か、訓練場に来てもらったのは人目につかないところで話がしたかったからで……あれれ?



 それから……どうしたんだっけ?



《マスターがジュンイチさんに昨日のことを聞いていたところ、「何もなかった」という彼の返事がどうしても納得できなくて……》

《「どうしてもホントのことを聞かせてもらうんだから」って、私達まで総動員して砲撃の雨アラレ》



 答えたのは私の長年のパートナー、レイジングハートとパワードデバイスのプリムラ……うん、ゴメン。思い出した。



「つか、お前はそもそも何を期待してんだよ?
 オレがギンガに手を出さなかったのがそんなに不満なのかよ?」



 いや、そういうワケじゃ……

 というか、私はジュンイチさんがギンガに手を出すのを期待してたワケじゃ……むしろそうなったんじゃないか、って不安で……











 ………………あれ? どうして私、不安になってたんだっけ?











「………………まぁ、いいや。
 とにかく、お前らが思ってたようなことはねぇよ」



 首をかしげる私だけど、ジュンイチさんは気にしないでさっきの答えを繰り返す。



「むしろ、そうなると思う理由がわからねぇよ。
 そもそも、ギンガはオレの義妹だぞ?」











 ……あの、ジュンイチさん。



 それ……本気で言ってます?











「ん? 本気だけど?」











 ………………ゴメン、ギンガ。勝手な思い込みで突っ走ったりして。



 今私が感じているのと同じ絶望を、きっとギンガも感じてたんだね。







 というか……ジュンイチさん、そこまでですか。



 一緒の部屋でお泊りして、それでもまったく異性として意識してもらえなかった、って……あのフェイトちゃんですら、恭文くんやイクトさんと一晩お泊りになって進展できたっていうのに……







 これは私もそうとう気合を入れなくちゃ振り向いてもらえな……って、違う違うっ! 私とジュンイチさんはそういうのじゃないからっ!







 私とジュンイチさんは……そう! ヴィヴィオのママとパパなんだからっ! それだけなんだからっ!







《マスター。それはもう「それだけ」で済まされるような関係ではありません》

《ジュンイチさんもジュンイチさんなら、なの姉もなの姉だよねー》







 ………………うん、レイジングハートもプリムラも少し黙ろうか。









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