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頂き物の小説
第28話「好きな子の前では、誰だってカッコつけたくなったりする」



「私が、この親善部隊のリーダーを務めるライオコンボイだ。
 短い間だが、よろしく頼む」



 途中、万蟲姫がバカやりに現れたりしたけれど、とりあえずガイア・サイバトロンのみなさんを六課に案内するという僕らの役目は無事終了。

 で、現在六課のみんなを相手にガイア・サイバトロンのみんなが自己紹介中。



 ……と言っても、今のライオコンボイの紹介でラストなんだけどね。





「……以上のみなさんが、今日から六課で研修となります。
 みんな、何かとフォローしてあげてな」

『はいっ!』



 ハインラッド……じゃない、はやての言葉に元気にうなずくのはもちろんスバル達フォワード陣。

 まぁ、スバル達にしてみれば、他所からの研修とはいえある意味では“後輩”ができたようなものだし、張り切る気持ちは……うん。まぁ、わからないでもないかな。



「これからよろしくお願いします、八神部隊長」

「こちらこそよろしく、ライオコンボイ」



 一方、ライオコンボイはといえば改めてはやてにあいさつ。はやても笑顔でうなずきながらライオコンボイの差し出してきた人さし指と握手を交わす。



「あと……そんな堅苦しく呼ばんでえぇから。
 はやて、でえぇよ」

「いや、しかし……」

「研修に来てる身とはいえ、ライオコンボイはチームリーダーやろ? 私と同じ部隊長なんやから、対等の立場やないの。
 ……まぁ、そんなマジメな話は抜きにしても、うちは基本そういう堅苦しいんは抜きにしてるし」

「はぁ……」

「それに、や。
 ライオコンボイのしゃべり、どうもさっきからムリしてるように感じるんよ。
 ひょっとして、普段はもっと砕けたしゃべりなんと違う? 肩の力抜いて、いつも通りで話してくれればえぇから」

「そうか?
 いや、助かる……あぁいう堅苦しいしゃべりは、どうも僕には合わないような気はしてたんだ」



 はやての言葉に安心したか、大きく息を吐いたライオコンボイがいくぶんリラックスした様子でそう答える……つか、ホントはボクっ子だったんだね、ライオコンボイ。



「まぁ、な……
 いろいろ事情込みでね。これでもトランスフォーマーとしてはかなりの若輩者なんだ」

「とにかく、そんな感じで気楽に話してくれればえぇからな。
 ほんなら、次にいくけど……」

「まったく、ようやく私の番?」



 最後にライオコンボイにそう告げて、はやてが視線を向けたのは、フェイト達が迎えに行っていたサムダック・システムズのスタッフ……という話の女の子。

 ……つか、まさか子供が来るとは思わなかった。いくらミッドの就労年齢が低いからって、プロジェクトひとつ任せるかね? 普通。



「えっと……私はサリ。サリ・サムダックです。
 今回のモニター依頼についてのスタッフとして、この部隊でお世話になります。
 ……っと、こんな感じかな? よろしくっ!」



 こちらはずいぶんと順応性が高いみたい。さっきのはやてとライオコンボイの話で“友達口調OK”と判断したか、いきなり途中から口調を砕いてきた。



 ……つか……サリ、か……



 僕と同じコトを考えたのか、全員の視線がそっちに向く……そう。あだ名が彼女の名前とモロかぶりなある人に。



「………………言いたいことはわかる。
 だが、そろってオレをガン見するのはやめろ」

「いや、だってねぇ……」

「どうしてもアンタとかぶっちゃうんだからしょうがないでしょうが」



 その“ある人”――サリさんがため息交じりに言うけど、まぁ、ジュンイチさんとヒロさんの言うとおり、付き合いの長い分、どうしてもサリさんがかぶっちゃうんだよね。



 で、ヒロさんがしばらく考えた末に出した打開策が……



「………………よし。
 サリ、アンタ改名しなさい」

「そしてヒロはなんでそこに解決策を求めるっ!?
 オレのはあだ名なんだから、お前らが呼び方変えれば済む話だろうがっ!」

「イヤよ。めんどくさい」



 ……ヒロさん、改名させるのはめんどくさくないんですね。



 まぁ、サリさんの言うとおりあだ名をなんとかすればいいとして……さて、どうするか……



「いや、やっさんは考えなくていい」

「って、なんでさ!?」

「やっさんのセンスはいろいろと微妙なんだよっ!
 頼むからお前はこういう話題で口をはさむなっ!」

「失礼なっ! 僕だってちゃんとしたのを考えるよっ!」



 そんなことを言われたら逆に引き下がれないじゃないのさっ! こうなったら絶対イイのを考えてやるっ!



 えぇと、えっと……











「………………サっちゃん」



「どうしてそこにたどり着くんだよお前はっ!
 あぁ、やっぱりお前に任せるべきじゃなかったっ!」



 失礼な。



「仕方ないな。
 ここはオレがビシッとしたのを考えてやろうじゃねぇの」



 続けてそう名乗りを上げたのはジュンイチさん。フンッ、お手並み拝見といこうじゃないのさ。



「そうだな……
 サリ兄の名前から考えて……」











「………………てっちゃん」



『何故』







 結局。



 呼び方は本名を呼ぶことで決着した。











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第28話「好きな子の前では、誰だってカッコつけたくなったりする」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 でもって……一晩経って翌日。ども、柾木あずさです。



「…………と、こんな感じですけど」

「へぇ、大したもんだ。
 どうですか? なのは隊長」

「うん。すごくいいね。
 いい動きをしてたよ」



 現在、我が愛しのヴァイスくんは現在絶賛雑談中。



 ……と言っても、相手はあたしじやない。

 なのはちゃんと一緒に……昨日来たエアラザーちゃんっていうトランスフォーマーの女の子と、空飛んでお仕事する人達同士で盛り上がってる。



 なんでも、エアラザーちゃんの空戦機動を見せてもらってたらしい。ヴァイスくんもなのはちゃんも、空を飛ぶ者として興味があって、だから空を飛ぶ航空機とかも少ない朝一番の時間帯を狙って、エアラザーちゃんの飛行テクニックを見せてもらってた、というワケ。





 ただ……そのエアラザーちゃん。マスターコンボイと同じでヒューマンフォームを設定してるんだけど、そのヒューマンフォームが、なんとカワイイ女の子。



 なので………………うん。正直おもしろくない。



 浮気とかじゃないとわかってはいるんだけど……話題に入っていけないおかげで、なんか仲間外れな感じ。







 ………………ん?





「むぅ…………」



 むむ、あそこでうなってる白いライオンはライオコンボイ……だよね?

 どうしたの? なんか難しい顔してうなっちゃって。



「あぁ、キミは柾木あずさ……だったね。
 実は……自分でもよくわからないんだけど、なんだかあの光景を見ていると妙に落ち着かないというか気に入らないというか……」



 言って、ライオコンボイが目で示したのは、あたしが見ていたのと同じ、談笑するヴァイスくん達。





 けど……どうしてアレを見てライオコンボイが機嫌悪くしちゃうのかな?



 あたしはヴァイスくんがなのはちゃんやエアラザーちゃんと話してるのにヤキモチ妬いちゃってるワケだけど、ライオコンボイはそういうワケじゃなさそうに思うんだけど。



 だって、なのはちゃんとはつい昨日知り合ったばっかりのはずだし、ヴァイスくん相手にそうなら、迷うことなく抹殺するし……







 ………………あ。







 そうだよ。そういうことじゃない。

 なのはちゃんは違う。ヴァイスくんはダメとなると、ライオコンボイがヤキモチ妬いちゃう相手なんて消去法でひとりしかいないワケで。







 つまり、ライオコンボイはエアラザーちゃんに対して……ふーん、そういうことなんだ。







「な、何だ?
 いきなり僕の顔を見てにやけたりして」



 さて、何でしょうかねー?





















「話は聞かせてもらったでっ!」





















「うん。仕事に戻ろうか、はやてちゃん」

「いきなり扱いが軽いっ!?」



 うん。それは仕方ないと思うんだよ。



 こういうタイミングではやてちゃんが出てきて、まともな方向に話が進んだためしがないし。



「人聞きの悪いこと言わんといてよ。
 これでも、ちゃんと部隊の子達の人間関係にはちゃんと気ぃ配っとるんよ?」

「その結果がいつぞやのティアちゃんの暴走やこないだの恭文くんのお休みの一件なんだけど」

「ゴメンナサイ」



 さすがに悪いとは思ってたらしい。土下座が実にスムーズかつ綺麗でした。



「………………まぁ、一応話くらいは聞いてあげるけど。
 それで? はやてちゃんは今の話を聞いてどうしたいのかな?」

「ふふん、よくぞ聞いてくれました、あずささんっ!
 ライオコンボイのお悩みを解決する手段、それはズバリ……六課名物の“アレ”やっ!」







 ………………ねぇ、はやてちゃん。

 “アレ”、いつの間に六課の名物になったのかな?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………前、いいかな?」

「あぁ、はい……って、ヤスフミ?」



 朝の食堂でフェイトを発見。ちょうどいいので、ちょっとだけ突撃してみた。



「ずいぶんと早いね……また泊まり?」

「ううん。昨夜はちゃんと家に帰ったよ。
 ただ、フェイトの様子、気になったから……朝食はこっちでって割り切って、早く来てみたの。
 と、いうワケで改めて……前、いいかな?」

「うん」



 フェイトのお許しも出たので、フェイトの正面の席へ。向かい合う形で、僕も食事をいただくことにする。

 けど……うん、よかった。



「何が?」

「フェイト……すっかり元通りだ」

「…………でも、ないかも……」



 僕の言葉に、フェイトの表情が曇る……え、まさかまだ立ち直ってなかった!? 僕、余計な地雷踏んじゃった!?



「あぁ、そうじゃないの。
 ただ……ジュンイチさんに言われたこと、今なら少しは考えてみてもいいかも、って思って……」



 そう答えると、フェイトは僕をまっすぐに見てきた。ちょっとドキドキしながら、僕もその視線を受け止める。



「ジュンイチさんに言われたの。
 私は、“昔のヤスフミ”のイメージでしか“今のヤスフミ”を見てない、って……
 本当にそうかな? 私……ちゃんと恭文のこと、見れてなかったのかな?」

「うん……少なくとも、そう僕が感じたこと、けっこうあった。
 あの頃のままの僕として見てる時が、今の僕のことを見てない時があって……不満だった。
 フェイトとは同年代の友達でもあるはずなのに、そういう風に話せないで、イライラしちゃう時、あった」



 そう……『あった』。『ある』じゃなくて。



 だって……フェイトは今、そのことを自覚しようとしてくれているから。

 そのことに、変わっていってほしいと期待を抱くことは、決して間違いではないと思う。

 だから……『あった』。



 だから……もうちょっとだけ、がんばってみる。



「あのね、フェイト。
 その……今度、またその辺りのこと、ちゃんと話したいな。
 時間作って、じっくり時間をかけて……ダメ、かな?」

「……ダメじゃない」



 フェイトは……うなずいてくれた。



「私、ヤスフミにそういうイヤな思いをさせてるなら、ちゃんと改善したいから。
 私も、話す。だから……ヤスフミも、話してほしい」



 ちゃんと僕を見て、そう言ってくれた。それが、すごくうれしかった。うん、すごく……



「うん、話すよ。
 今の僕のこと、もっとフェイトに知ってほしいから。
 誰でもない……フェイトに、知ってほしい」

「…………うん」



 もう……大丈夫かな? フェイト。

 変わっていこうとしてくれている。受け入れようとしてくれている……ちゃんと、今回の件でフェイトは変われてる。



 だからきっと……大丈b







『おい、恭文』







 ぅわぁっ!? マスターコンボイ!?



『ん? どうした? いきなりそんなに驚いて。
 …………おや、フェイト・T・高町も一緒だったか……ひょっとして、話のジャマをしてしまったか?』

「あぁ、そういうワケじゃないから。ちょっと驚いただけ」



 とりあえずそう答えておく。

 マスターコンボイのことだから、「話のジャマ」云々は本当に言葉そのままの意味だろうから。異性関係的なアレコレを踏まえたからかいとかそういう話では絶対にないと思うから。



「それで……何?」

『いきなりで悪いが……訓練場に来い。
 模擬戦をすることになった』







 ………………は? 模擬戦?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 で、訓練場に来てみたワケだけど……



「すまんな。
 ゴッドオンしてやりたいのだが……マスター要員がお前しかいなかった」

「いや……スバル達はどーしたのさ?」



 うん。別に僕じゃなくてもいいじゃないのさ。スバルでもティアナでもエリオでもキャロでも、マスターコンボイとゴッドオンできるゴッドマスターは僕以外にもいるんだからさ。



「ん」



 で、そんな僕の問いにマスターコンボイは視線である方向を指さした。当然僕もその視線の先に目を向けて――



「…………全員K.O.しちゃった。てへっ♪」

「なぜか違和感がまったくないのが非常にムカつくので茶目っ気タップリに自白するのやめてもらえませんか?」



 そこにはいい感じに焼け、トランスデバイスご一同に運搬されていくスバル達を背景に、乾いた笑いを浮かべるジュンイチさんがいたりするワケで。



「まったく、毎度のことですけど、ホント遠慮なく撃墜するんですから……
 こんな状態で事件が起きたらどうするんですか?」

「オレが代わりに出ればOKっ!」



 なのはの言葉に「えっへんっ!」と胸を張って答えるジュンイチさんだけど……いや、あなたの場合問題なのは、「撃墜しちゃったから代わりに出る」じゃなくて「代わりに出ればいいから撃墜しちゃえ」で撃墜にいくところだと思うんだ、うん。



「……と、いうワケで、今六課にいるゴッドマスターの中で、オレとゴッドオンできて現在模擬戦が可能なのは貴様だけ、というワケだ。
 泉こなたを地球から呼びつけるワケにもいかんしな……柾木ジュンイチならやりそうだが」

「失礼な。
 オレだって相手の都合はちゃんと考慮するさ……ちゃんと問い合わせた上で呼びつけるし」

「それは問い合わせるだけで結局問答無用で呼びつけるってことだよな!?」



 ……うん。だいたい事情はわかった。

 よーするに、ジュンイチさんがバカやらかしたおかげで僕に話が回ってきた、と……



 となると……僕の答えは決まってる。



「とりあえず、報酬はジュンイチさんの晩ご飯おごりということで」

「了解した」

「ちょっと待て! なんで第三者のオレのおごりが報酬なんだよっ!?」



 ほほぉ、「なんで」と聞きますか。



「そもそもジュンイチさんがスバル達を全員医務室送りになんかするから、僕がこういうことになってんでしょぅがっ!
 それがなかったらスバル達がやってたんでしょ!? だったら悪いのはジュンイチさんじゃないのさっ!」

「あー、やっさん、それ違うよ」



 はい?

 ヒロさん、「違う」って、どういうこと?



「ジュンイチがスバルちゃんしばき倒さなくても、この模擬戦でのマスターコンボイの相方はやっさんに頼もうと思ってたのよ。
 ウワサに聞くマスターコンボイとのゴッドオン、見せてもらいたくってさ」



 ………………ん?

 あれ? 僕、ヒロさん達にマスターコンボイとのゴッドオンのこと話したっけ?



 不思議に思う僕の視界のすみで、ジュンイチさんがぷいと視線をそらして……まさかこの人、バラしやがった!?



「まぁ、そこはいいじゃねぇか。
 元々ジンがゴッドマスターやってるおかげで、ヒロ姉ちゃん達も予備知識はあるんだしさ」

「とにかく、ジュンイチからやっさんもゴッドマスターになったっていうのは聞いてたからさ。
 姉弟子としては、そこんトコちゃんと見ておきたかったからね」



 ほうほう。「姉弟子として」ですか……



「………………カウントから外されたね、“兄弟子”さん」

「いいさ。いつものことだ」



 ため息まじりにジュンイチさんに答えるサリさん改めサリエルさん……うん。やっぱ今さら本名呼びは違和感バリバリだなぁ。



「やっぱりさ、今からでも“サっちゃん”でいいじゃないのさ」

「いやいや、ここはオレの考えた“てっちゃん”で」

「よし。呼び名の話題はいい加減に切り上げろ。でもってジュンイチ、なんでオレの名前からそーゆーあだ名に行きつくんだよ?
 何より早く準備してやれ。相手がお待ちかねだ」



 僕らのやり取りにツッコみつつ、サリ……エルさんが視線で示したのは、すでに廃棄都市にセッティングされたフィールドの中央に陣取っている対戦相手。



 ………………あー、今さらだけどやっぱり気になるんで聞いておきたいんですけど。







 なんでライオコンボイが対戦相手なのさっ!? いきなりお互いの前線メンバー頂上決戦っ!?



「知るかよ。
 いきなりはやてがマッチメイクしやがったんだよ……『前線メンバー同士、実力を知っておくのは互いにとって大切だから』とか言ってさ」



 そう説明してくれたのはジュンイチさん……だけど……



「………………言いたいことはわかる。
 確かに、何か裏がありそうだな」

「あぁ。
 アイツが仕組んだにしては、マッチメイクの理由が真っ当すぎる。
 あのタヌキが、ンな理由で模擬戦なんか組むワケがねぇ」



「………………まったく信用ないのな、おたくの部隊長」

「あ、あはは……」



 後ろでサリ……エルさんとなのはが話しているのは、とりあえず無視しておく。



「まぁ、お前らはさっさとライオコンボイのトコに行ってやれ。待ちわびてんぞ。
 はやてのことは、オレがなんとかしとくからさ」

「りょーかい。
 …………あ、ジュンイチさん」



 ジュンイチさんを呼び止め、僕はそんなジュンイチさんに自分の財布を投げ渡す。



 その理由は――



「もしこの模擬戦で賭けをやってるようなら、その財布の中身全部賭けといて。
 もちろん――僕の勝ちで」

「はいはい」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さて……と、お待たせ」

「いや、気にしないでくれ。
 いきなりのことだ。そちらにも都合はあるだろう」



 訓練場の外で何か話していたようだが……おそらくそれはこの模擬戦についての説明だろう。それも終わり、ヒューマンフォームのマスターコンボイと共にやってきた蒼凪恭文に、僕は軽く手を挙げてそう答える。



「………………さて。
 僕は今すぐにでも始められるが……そちらもそのままスタートか?
 それとも、ゴッドオンした状態から始めたいか?」

「ま、僕らとしてはこのままでもいいんだけどね……」

「ギャラリーのリクエストが、ゴッドオンしたオレ達らしいのでな。
 最初から、全開でいかせてもらうっ!」



 いきなりの話でもめていたのかと思えば、意外に二人ともやる気のようだ。僕に答えるなり、それぞれに待機状態のデバイスをかまえ、



「セットアップ!」

「オメガ!」

《Human Form, Mode release.》



 恭文がバリアジャケットを装着、マスターコンボイもヒューマンフォームへの変身を解除してロボットモードに、本来の自分の姿へと戻る。



 そして――



『ゴッド――オンっ!』



 咆哮と同時、二人の身体が光に包まれる――その光が消えた時、恭文の姿は消え、そこにはマスターコンボイひとりだけが佇んでいた。



 …………いや、正確には少し違う。



 恭文がゴッドオンによって一体化、装甲の元々グレーだった部分が真っ青に染まったマスターコンボイが、そこに佇んでいた。



「さぁ……始めようか」



 そう告げる声は恭文のもの――双剣となったマスターコンボイのデバイス、オメガの一方を腰に留め、もう一方の切っ先をこちらに向ける。

 準備は万端、ということか……ならっ!



「そうだな。
 さっそく……始めようかっ!」



 その言葉を合図に、僕は力いっぱい地を蹴った。一気に最大速力まで加速して、二人との距離を詰めていく。



 待ちかまえる恭文とマスターコンボイに向け、すれ違いざまに右ライオンクローを振るい――衝撃音と共に伝わってくる手ごたえは、直撃にしては硬いもの。



 ガードされた。この程度の突撃では、やはり対応されるか……だがっ!



「そうこなくては……やりがいがないっ!」



 こちらの攻撃は止まらない。すぐに反転、こちらへと向き直った二人に向けて再度しかけるっ!



 さぁ……六課の隊長格も一目置くというその実力、見せてもらおうかっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 …………へぇ。

 けっこう鋭い打ち込み、入れてくるじゃないのさ。



【そうだな。
 さて……それがわかったところで、どうしたものか】

「そんなの決まってるよ」



 そう……決まってる。そこに変更はない。



「ただ、思い切りブッ飛ばす……それだけだよ」

【だなっ!】



 マスターコンボイの答えと同時、こっちから仕掛ける――地を蹴り、間合いを詰めると共にアルトの宿るオメガを、胴を狙う感じで水平に振るう。



 ただ、敵もさるもの。ライオコンボイは真上に飛んで僕の斬撃をかわし、さらにそこから蹴りで僕の顔面を狙ってくる。



 その蹴りを上半身をひねってギリギリ回避――けど、まだ追撃があった。空中で全身をひるがえして勢いをつけた回し蹴りが、僕らの胸を捉え、ブッ飛ばす!



 マスターコンボイの装甲のおかげでダメージこそないけど、直撃を受けた僕らとライオコンボイの間の距離が開く――くそっ、また仕切り直しか。



「で……どう見る? マスターコンボイ」

【スピードもかなりのものだが……厄介なのはそれよりもヤツ自身のバランス感覚だな。
 飛べないクセして、空中での体勢維持が恐ろしく安定している……さっきの空中連続蹴りもその産物だ】



 だろうね。

 うかつに着地際を狙いに行くと、手痛いカウンターが待ってるってことか……



【そういうことだ。
 だが……】

「だね」



 けど、だからって引っ込むつもりなんか毛頭ない。再び地を蹴り、もう一度オメガで斬りかかる。

 今度は横薙ぎではなく袈裟斬り。サイドステップでかわしたライオコンボイが右のライオンクローでカウンターを狙ってくるけど……残念でしたっ!



【遅いっ!】



 そちらにはマスターコンボイがもう一振りのオメガで対応した。斬撃をかわされた僕の死角から迫ったライオコンボイのカウンターを、僕に代わって受け止める。



「何っ!?」

「悪いね。
 確かに速いし、ちょっとやりにくいけど……」

【残念ながら……貴様並みに速いヤツらには不自由してないんでなっ!】



 そう。たった一度カウンターをもらっただけで僕らが対応できた理由はそこ。

 確かにライオコンボイは速いけど、我らが六課のスピードスター、フェイトに比べればまだまだ。と、いうワケで、フェイトのスピードに慣れっこの僕らにしてみれば、対応できないほどの速さじゃないワケだ。



【スピードと身のこなしだけで、このオレ達をどうにかできると思われるのは心外だ。
 他に打てる手があるのなら、さっさと打たなければ、あっという間に撃墜だぞ】

《当然ながら、こちらもまだまだこの程度ではありませんからね。
 油断していると……置いていかれますよ?》

《そういうこった!
 私とアルトアイゼン姉様の力を見せてやるっ!》



 マスターコンボイやアルト、オメガもノッてきたみたいだし……そろそろギアを上げていこうかっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 うんうん。ライオコンボイ、がんばっとるなー。



「そうだね。
 カッコイイところを見せてもらわないと、この場をセッティングした意味がないもんね」



 となりで満足そうにうなずくのはあずささん……はい。話をしたらきっちり協力してくださいました。



「せやけど、ある意味もったいないことしたわ。
 よくよく考えてみれば、こんなゴールデンカード、賭けの対象にしたらがっぽりともうけられたのに」

「何だ、賭けとかやってないの?」

「やってへんよー。
 元々この模擬戦、ライオコンボイのために企画したんやし」

「ライオコンボイの?」

「せやでー。
 どっかの誰かと違って自分の気持ちに気づき始めて悶々としてるライオコンボイのために、私達が一肌脱いであげたワケ……で……」











 ………………うん。











「ジュンイチさんっ!?」

「お兄ちゃんっ!?」

「よっ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 もう何度目になるか、爪と刃が交錯し、火花を散らす――すれちがいざまに互いの一撃をぶつけ合い、僕らとライオコンボイは間合いを測りながら対峙する。



 うーん……さすが。フェイトよりは遅いって言っても僕らよりは確実に速いからなー、そう簡単には捉えられないか。

 向こうも、僕らの反応が間に合うおかげで未だ有効打は入れられずにいるけど……うん、なんかじれったい。



「どうしようか? マスターコンボイ」

【勝ちたいのなら、攻め方を変えて、さっさと決めるべきだ】



 尋ねる僕に、マスターコンボイは迷うことなくそう答えた。



【こいつの動き……まだ荒削りでムダが多い状態のクセに、それでもこちらの動きについてこれている。そうとうなものだぞ。
 これで生まれてまだ10年経っていないというのは、ハッキリ言って異常だ。いい師やいい実戦経験に恵まれたとしても、生後10年ではこうはならない】

「それってつまり……どういうこと?」

《正真正銘、天才ということですか……》

【それ以外に、的確な表現は思いつかないな】



 …………まぢですか。



【まぁ、実際にヤツが天才かどうかは別にしても……気づいているか? 徐々にこちらの動きに対応し始めていることに。
 このまま時間をかければ、間違いなく手がつけられなくなる……それもかなり早い段階で】



 そうなる前に、こっちの全力で一気に決める……ってこと?



【そういうことだ。
 “天才は初太刀で殺す。それが鉄則”……以前読んだマンガのセリフだが、今の状況がまさにそれだ。ヤツがこちらに対応できない今のうちに、全力で叩く】



 ………………マスターコンボイ、福本伸行とか読むんだね。今度『カイジ』貸そうか?



【いや、『カイジ』はすでに最新連載分まで読破している。
 借りるなら『黒沢』か。書店で探してもなかなか見つからないのだが……持っているか?】

「あ、ジュンイチさんが持ってるよ。交渉したら?」

【そうしよう】



 …………さて、プライベートなお話はこのくらいにして、と……



 意識を切り換え、僕らはライオコンボイへと視線を戻す。



 マスターコンボイの言ってたことは薄々僕も感じてた。

 なんとなく、攻撃も防御も、こっちの動きに対する対応が鋭くなってきてるなー、と。



 だから……このまま続けたら手がつけられなくなる、というのは、割と同感。



 つーワケで……瞬殺の提案は了承っ! 一気に叩くよっ!



【放つなら砲撃か、そこからの連携だ!
 相手にこちらの技を学習する余裕を与えるな!】

「りょーかいっ!
 アルト!」

《わかってますっ!》



《Icicle Cannon》



 そうと決まれば早速行動。僕らの放った砲撃が、ライオコンボイへと襲いかかり――





















 弾かれた。





















 ちょっ、何、今の!?

 今、どー見ても直撃前に吹き飛ばされたよね!? しかもライオコンボイ、何もしてなかったしっ!

 一体、何が……











「………………ひあ、かむず、あ、にゅう、ちゃれんじゃあ」











 ………………はい?



 何か今、巻き起こった水蒸気の中から、ものすごく聞き覚えのある声が聞こえたんだけど……







「ま、早い話……オレも混ぜてもらおうかな?」







 ちょっ、暴君参戦――――――っ!?





「ジュンイチさん!?
 いきなり何してんのさっ!?」

「いやね……首謀者はやてから話を聞いて、こっちの方がいいかな、って」



 僕の問いかけに対して、ジュンイチさんは笑いながらそう答える……待て待て、はやてと話した結果ってどういうこと!?



「『これから一緒に戦うんだから、お互いの実力を知っておいた方がいいだろう』って話、尋問したところどうやらマジ話らしくってね。
 けどね……だったらさ、重要なのは“どっちが強いか”じゃなくて、“お互いジャマし合わずに連携できるか”だと思うんだ」

「それで、共通の敵として乱入、か……?」



 尋ねるライオコンボイに対しても、ジュンイチさんは笑顔でうなずいて……



“……というのは、表向きの話”



 え? 念話? ってことは、僕にだけの話ってこと?



“どーもな、この模擬戦、本当のところはライオコンボイにエアラザーの前でいいカッコさせてやろう、ってことで企画されたらしいんだよね”



 はぁ? 何それっ!?



 いいカッコ云々、ってことは、ライオコンボイってひょっとしてエアラザーのこと……いや、そこは今はいい。



 それってつまり、僕らはライオコンボイにいいカッコさせるためのかませ犬にさせられたってことだよねっ!? 何考えてんのさ、あのタヌキっ!



“まぁ待て。
 怒る気持ちはわかるけど……だからこその乱入だ”



 ……はい? どういうこと?



“要するに、だ。オレがかませ犬を引き受けてやるって言ってんの。
 ライオコンボイに対しても……そして、お前に対しても、な”



 ちょっ、僕も、って……



“お前だって、フェイトに対していいトコ見せたいだろ。
 アイツがボロ負けしたオレといい勝負ができれば、少しは今のお前ってヤツを見直してくれるんじゃないのか?”



 うーん……言いたいことはわかるんだけど……



“なんか、「それだけできるならやっぱり局に入って」云々って話になりそうな気がするんだけど”

“それはないんじゃないか?
 スパイクの一件で、アイツも何かしら思うところはあったみたいだし”



 そう……かも。

 さっき、フェイトと話してて僕もそんな印象を感じた。





 大丈夫……なのかな?



“もちろん、オレだってヴィヴィオや医務室のスバルにいいトコ見せてやりたいからな。
 気合入れてかかってこないと、いいトコ見せるどころの話じゃなくなるぜ!”

「………………上等だよ」



 ジュンイチさんの言葉に、僕は声に出してそう答える。



「僕らを相手に勝てると思われてるなんて、ずいぶんとなめてくれるじゃないのさ。
 だったら思いっきりブッ飛ばしてあげるよ――いくよ、アルト、マスターコンボイ、オメガ!
 でもって…………ライオコンボイもっ!」

《はいっ!》

【おぅっ!】

《合点承知っ!》

「あぁっ!」



 そして僕らはジュンイチさんに向けて走り出す。いっくぞぉぉぉぉぉっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぅわぁ……」



 正直……それしか出てこなかった。



 だって……本当に「すごい」と思ったから。



 これが……



「これが……トランスフォーマー同士の戦い……」

「サリちゃんは、トランスフォーマーが戦うのを見るのは初めて?」

「一応、テレビとかでは……」



 そう尋ねるのは、この部隊の医官だっていうシャマルさん……うん。トランスフォーマー同士が戦うのを見たことがないワケじゃない。



 けど……それはテレビでのトランスフォーマーによる格闘技の試合だったり、どこかの世界の内戦を止めるために出動した局所属のトランスフォーマーが戦うニュース映像だったり……全部映像越しでしかなかった。昨日、この部隊の人達が出動した時だって、映像で見てただけだし。



 だから、生で見たのはこれが初めて。



 さっき、魔導師の戦闘も見せてもらったけど、やっぱり映像で見るのとはぜんぜん違う。



 こんなのを、局の人達は毎日やってるんだ……



 今もまた、青いトランスフォーマーの振るった剣を対戦相手の魔導師……じゃなくて能力者の人がかわして、そこから飛ばされた余波が後ろの廃ビルを真っ二つにする。







 そういえば、あのトランスフォーマーもすごいよね。

 魔導師の子が合体……っていうか一体化して戦ってるし、そもそも普段は人間に変身してるし。



 あのトランスフォーマー、なんて名前でしたっけ?



「あぁ、マスターコンボイね。ゴッドオン……一体化してるのが蒼凪恭文くん。
 あと、さっきまで対戦してたトランスフォーマーはライオコンボイで、今戦ってる、さっきスバル達を返り討ちにした黒い服の能力者の人が柾木ジュンイチさん」



 シャマルさんが他の人達も紹介してくれるけど……わたしの興味は最初からひとりだけ。







 マスターコンボイ、か……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 まったく、ジュンイチさんはまたあんな……



 言いたいことはわかるんだけど、どうしてそんな事を荒っぽい方へ荒っぽい方へと持っていきたがるんだろう……







 でも……ヤスフミ達、いい感じでテンション上がってきたみたい。



 ああなったら、ヤスフミとアルトアイゼンはそう簡単には墜とせない。増してや今はマスターコンボイやオメガの力もあるし、ライオコンボイとも協力してる……





 ………………うん。私達も負けてられないよ、ジャックプライム。



「そうだね。
 恭文達には負けられない。実力はもちろん……出番的にもっ!
 なんでフェイトのパートナーなのに昨日のお出かけで置き去り喰らってるのさっ! おかしいでしょ、どう考えてもっ!」



 ………………ゴメン。



「…………どう見る? ヒロリス・クロスフォード」

「うん。いい感じ。
 なかなかやるね、やっさん達……“JS事件”で暴れてた時よりもさらに腕を上げてるっぽいね」



 それはそうと、当然のことながらヤスフミ達とライオコンボイの模擬戦を観戦、評価しているのは私達だけじゃない。尋ねるイクトさんに対して、ヒロリスさんは迷うことなく即答する。



「やはりか……
 オレ自身、模擬戦の度に動きが良くなっているようには感じていたが……」

「だろうね。
 きっと、スバルちゃん達の存在が大きいんだよ。いい刺激になってるんじゃないかな?」

「スバル達……ですか?」



 その言葉に、なのはの肩がビクリと震える……うん。ヒロリスさん達を前にすごく緊張してる。エリオやキャロに聞いたところによると、一昨日、私とジュンイチさんの模擬戦の後で対面した時からずっとこの調子なんだそうだ。



 けど……まぁ、しょうがないかな? 聞いたところによると、元教導隊って……しかもジュンイチさんよりも強いって話だから。嘱託とはいえ教導隊の現役のなのはにとっては大先輩にあたるってことだね。



「……なぜそこでスバル達が出てくる?
 さっき柾木に総出で撃墜されたばかりではないか」

「アイツと比べる方が間違ってるでしょうが」

「確かにそうだな」



 イクトさん……そこは納得するところなんですか?



「じゃあ……ヒロリスさん的には、スバル達はどんな感じなんですか?」



 恐る恐る尋ねるなのはに対して、ヒロリスさんは……



「いい感じだね」



 まさに即答だった。



「まぁ、ティアナちゃんとエリオくん、だっけ……ジュンイチの挑発にあっさりと乗っちゃってたのは、まぁ若さゆえのなんちゃらで仕方ないとして……それでも、完成度は現時点でもかなりのものだよ。
 みんないい子みたいだし、私は気に入ったよ。いやぁ、もう10歳若かったら、チーム組みたかったのになぁ」

「…………ありがとう、ございます……っ!」



 あ、なのはがなんだか感激してる。シャーリー、なだめてるね。

 というか、この方の評価は、教導隊メンバーからすると、そこまでなんだね。



「ただよ……気になるところがなかったワケじゃないけど」



 その瞬間、なのはの身体がこわばり……って、なのは落ち着いてっ! どうして身体が震えまくっているのっ!?





「……あー、ヒロリス・クロスフォード。コイツなのはは無視で。
 シャマルがいるし、倒れてもすぐに対処できるだろう」

「それもそうだね」



 た、倒れること前提ですか……?



「……まぁ、気になるって言っても、ここがダメっていうのじゃないのよ」

「はい……?」

「あの、それはどういうことですか?」

「なんていうか、もうちょっと完成の形を高めにしてみてもいいんじゃないかという話なの。
 そうだな。例をあげると……ティアナちゃんと、エリオくんだね」



 それは……さっきの模擬戦で、ジュンイチさんの挑発に乗っちゃったこと……ですね?



「ん、正解。
 さすが、ジュンイチにその類の手で叩きつぶされただけあるね。理解が早い」



 あ、あの……その件は私としても反省点が多いので、できれば引き合いに出さないでもらえると……



「けど……言いたいことはわかるでしょう?」



 ………………はい。



「私がジュンイチさんにやられたように……みんな、精神面からの揺さぶりに少し弱いところがある。
 今回は模擬戦だったからいいけど、今後実際にそういう魔導師と対峙することになったら……かなり、危険。そういうことですよね?」

「そう。
 その辺の攻撃に対する対策が、あまりなってない感じはするかな?
 そこは、変えていくべきだと思った」

「…………具体的には?」

「具体的には……」





 その瞬間、場が静まり返る。そして、ヒロリスさんが口を開いた。





















「現状維持でいいんじゃないの?」





















 ………………え?



「ど、どういうことですか? ヒロリスさん。
 みんなの精神攻撃に弱いところを直さなきゃならないのに“現状維持”って……」

「あぁ、言い方が悪かったね。
 目指す方向性は今のまま、現状維持でいい。そう言ってるの」

「と、言いますと?」

「要するにだよ。なのはちゃんやヴィータちゃんが、今まであの子達に教えている方向性はそのまま。
 ただ、さっきも言ったけど、卒業時の完成系を、少しだけ高くするんだよ。で、隊長陣もいい機会だから、メンタルトレーニングしていくの」



 あ、なるほど。だからこその現状維持か。



「あくまでやるのはあの子達……そして、アンタ達だ。
 何をされても、自分が一番信じられる理由で、止まらずに戦えるように、今よりももう少しだけ、心を鍛えればいいんだよ。
 スバルちゃん達がジュンイチとやり合ってるのを見て、それは確信に変わったかな。
 もう一度言うね? アンタ達はアンタ達だ。私やサリ……サリエル、やっさんと同じである必要なんてないよ。
 もちろん、ジュンイチとだってね」

「ヒロリスさん……」



 ……そう。そうだね。

 スバル達は、私達とは違う。私達も、スバル達とは違う。



 そして……ジュンイチさんも、私達とは違う。



 それで、よかったんだ。



「……つまり、ヒロリスさんの意見をまとめると、私達も含めて、最低でも一度は、徹底したメンタルトレーニングが必要……ですか?」

「そうだね。さっきも言ったけど、方向性は今のままで。
 何を言われても、揺らがずに、自分の中にあるもの、信じられるようにするべきだと思う」



 そう答えて、ヒロリスさんはなのはへと向き直って、



「そうすれば、大丈夫。
 アンタ達はもちろん、あの子達も、どこへだって飛んでいける……なのはちゃん」





 なのはの視線も、ヒロリスさんに向く。その目は、少しだけ緊張の色が見えた。そんななのはを安心させるように、ヒロリスさんが笑う。





「アンタ、自信持っていい。あんな真っ直ぐに進める子達、局の魔導師の中でもそうそういないよ。
 そんな子達の先生になれたこと。指導できたこと。誇りに思いな?」

「……はい。ありがとうございます……!」





 ……なのは、泣き出した。ヒロリスさんって、なにげにすごい人なんだね。





「でよ、こっからは少しマジメな話ね?
 ……現状で、今言ったようなことってできる?」



 それは、なのはに対しての言葉。

 けど……これは私にだってわかる。



 答えは……ノーだ。



「やっぱ、手が回らないか」

「……はい」





 そう、現状でも一杯一杯だったりする。なのはとヴィータがメインで教えてるけど、それだって技量が中心。

 メンタルトレーニングを、今以上に含めて。それも、隊長陣も交えて……は、かなり厳しい。



 ジュンイチさんならできないこともないけど……“やられた”経験から言わせてもらうと、正直な話“アレ”をスバル達にも、というのは抵抗がある。

 まぁ、ジュンイチさんも私の時みたいな“荒療治”じゃなくて“訓練”としてなら、あそこまでひどくはやらないだろうけど。スバル達が相手、というのもあるし。



 けど……それに対するヒロリスさんの答えは、そんな私達の予想の斜め上を行くものだった。



「それなら問題ないよ?」

「え?」

「優秀な教導官を、なのはちゃんとヴィータちゃんの補佐につけるから」

『えぇぇぇぇぇっ!?』



 ……あ、なんだかまたイヤな……というか、騒動の予感が。



「あ、あの、補佐って……」

「やっさんやジュンイチからのプライベート話とかで、人手が足りないのは読めてたの。で、現場に話さず動くのは悪いとは思ったけど、うちらの方で、手配しちゃった♪」

「いや、でも……それはっ!!」

「安心して。今言ったように、補佐だから。しかも、経験は豊富よ?」



 ……それって、ひょっとして……



「そうだよ。私とサリ……エルも、六課に出向する。で、教導手伝うから。
 隊長陣のメンタル面、うちらが面倒見ようじゃないのさっ!」



『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』









「そらそらそらぁっ! お前らの力はそんなもんかぁっ!?」

「あぁ、もうっ!
 周りに無差別に炎ばらまくんじゃないよっ! 近づけやしないっ!」

【まったく、うっとうしいっ!
 恭文、アイシクルキャノンは!?】

「さっき吹っ飛ばされたの見たでしょ!? 僕の魔法の凍気じゃ、あの人の熱量にはかなわないよっ!
 ライオコンボイ! そっちに回り込んでっ!」

「了解っ!
 考案したての新必殺技改め、対横暴乱入者用奥義トルネードクロー! くらえぇぇぇぇぇっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………とりあえず、模擬戦は『“黒き暴君”を相手によくがんばったよ僕達』な感じで終わった。

 一応、訓練場を壊さずに済んだだけでももうけもの、かな? 師匠に怒られずに済んだし。



 ………………まぁ、それでもジュンイチさんにブッ飛ばされたことには変わりないワケで。

 結局、模擬戦の後は一日医務室のベッドのお世話になるハメになった……ここ数日バタバタしててロクに休めなかった僕の休養、って意味合いもあったんだけど。休ませてくれたシャマルさんにはつくづく感謝だね。







 で……夕方、現在家に帰る途中なんだけど……この人達と一緒です。





「恭文、電王の劇場版のディスクある? 『俺 誕生っ!』っていうの」

「もちろんあるよ。じゃあ、それも一緒に貸してあげるね」

「えへへ、ありがとね〜」

「じゃあ、あとで一緒に見ようか。ヴィヴィオ」

「うん♪ あ、副隊長も見る?」

「そーだな。仕事は明日に回しても問題はないし……一緒に見るか」

「うん。
 ママと、副隊長と、ヴィヴィオで楽しくみようね〜」





 そう、高町親子です。そして師匠です。帰ろうとしたら捕まったのですよ。



 前に貸したディスクの続きが見たいということで、ヴィヴィオを真ん中にして、親子みたいに手を繋いで僕の家を目指している最中。

 師匠は、なのはのとなりをテクテク歩いてる。



 なお、ジュンイチさんがいないのは先に帰ったから。昨日のスパイクの一件についての、仲介してくれた組合ギルドへの報告がまだなんだそうだ。

 間が悪いパパさんだね。それがなきゃ、ジュンイチさんがディスクを貸してヴィヴィオに対して点数稼げたのに。



「うー、なのはママ、続き気になるねー♪ 」

「え? ……あぁ、そうだね。帰ったら、ヴィータちゃんと3人で楽しく見ようね」

「うん♪」

「何、なのはも見てるの?」



 見てるというのは、仮面ライダー電王である……師匠はともかく、ワーカーホリックレディのくせに生意気な。



「生意気って何っ!? 私だってちゃんと休んでるよっ!」

「……この間、本局の人事部の人に休みのことで連絡したんだよ」



 いつぞやのフェイト達との休み、せっかくなので溜まった有休を消費させてもらったのだ。

 で、その辺りの話をするために、人事部へかけたんだけど……



「ついでに、なのはの名前出したら、通信の向こうでパニック起こされたんだけど?」

《それで、なんとかなだめて聞き出したら……あなた、ひどいことになってますね》



 有休代休が溜まりに溜まって……充分に2〜3年は働かなくても給与がもらえる状態ってどういうことさ?

 ケガ治せるじゃないの。というか、給料泥棒になれるよそれは。



「にゃ、にゃははは……」

「コイツ、前にも泣きつかれて、休暇取ったことあったんだけど……それでもそこまでなのか?」

「そこまでですよ。正直、その休みを今すぐ取れば、電王なんてすぐに全話見られますよ。
 とにかくだよなのは。美由希さん達みたいに強制執行で休みを取らされないうちに、自主的に一日でもいいから有休を取ることをお勧めする」

「はい……あの、それで電王なんだけど」



 それで片づけられると思ってるのかこの横馬は。

 そんな僕の視線を痛く感じつつも、なのはは話を進めようとする。



「私もヴィヴィオに付き合う形で見たんだけど……おもしろいんだよね。なんか、久々にハマちゃったのっ!」

「ほう、そりゃよかった。友好の氏が増えるのは単純にうれしいし」

「なのはママ、ウラタロス見て顔赤くするんだよー」



 あぁ、あんな風に口説かれたいのか。よし、ジュンイチさんとユーノ先生に教えることにする。







 そんな話をしつつ、僕達は家に到着。カギを使って、ドアを開けて……部屋の中に入る。



「おかえりなさい。ご飯もうすぐできるから、待っててちょうだいね」

「あぁ、そうします。なのはー、ヴィヴィオー、あがっちゃっていいよー」

「はーい。おじゃましまーす」

「しまーす♪」

「ジャマするぞー」



 いやぁ、自宅帰ったとたんにご飯ができてるって、すごい幸せだったんだねぇ。改めて気づいたよ。



「そうだね。いつもは恭文くんひとりだけだ……し……」



 うん、なのはも気づいたか。表情を見るに師匠も同じか。よし、それじゃあ一緒に行くよ。せーのっ!







『リンディさんっ!?』







「はーい♪」

「リンディさん、こんばんはっ!」

「はい、こんばんはヴィヴィオ」



 そう、なんでだかリンディさんがいた。いや、そうとしかいいようがない。僕の留守中に勝手に上がり込んでいたのだ。



「しかも、なんでこんなに本格クッキングしてるんですかっ!?」

「……ぐすっ! 聞いてちょうだい。クロノが……クロノがぁぁぁぁぁっ!」

「抱きつくなぁぁぁぁぁっ!」





 あー、一体何があったのさ……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……反対されたと」

「えぇ。思いっきり」



 とりあえず、ご飯を食べながら事情を聞くことにした……リンディさんがここに来たのは、実に簡単な理由だった。



 年末に、リンディさんとは昔からの友達である、本局の人事部に所属するレティ・ロウランという女性との旅行に行く予定だったそうだ。

 だけど……それをクロノさんに反対されたのだ。



 曰く、自分の買って来た水着を見て、崩れ落ちたとか。



 『頼むから、年を考えてくれ年を』とか。



 『というより、僕の気持ちを考えてもらえないでしょうか? 自分の母親がそんな派手な水着を着てたら居心地が悪いですよ』と言われたとか。



 要するに、水着がイヤな感じだったんですねクロノさん。つーかそればっかりじゃないですか。







「恭文くんなら、『僕の目の保養ができるから大丈夫ですよっ!』って言って認めてくれる。
 なのに、兄であるあなたはどうしてそんなに器量が狭いのとか言って説得したの。だけど……納得してくれなくて」

「うん、まず僕も納得しませんよ。つーか、人をなんだと思ってますかっ!?」

「まぁまぁ。それで……」



 まぁ、ここにいる時点で決定事項ですけど、つまり……



「……やっちゃった♪」

「『やっちゃった♪』じゃないからっ!」



 そう、リンディさんは家出してきたのだ。



 『疲れました。しばらく実家に帰らせていただきます。PS:お風呂上りに耳掃除をすると、湿っている』



 ……こんな書置きだけを遺して、僕の家に来たのだ。

 よし、ツッコみたいところがある。



「まず……アンタどこの聖徳大○だよっ! そして、いつから、ここはリンディさんの実家になりましたっ!?」

「あら、追っ手を振り切るためのミスリードよ。問題ないわ」

「大有りですからっ! そのミスリードに僕を巻き込まないでっ!
 つか、クロノさんやフェイトに聞かれたらどうすればいいんですか。絶対に聞いてきますよっ!?」

「誤魔化しておいてくれるかしら」



 僕を巻き込んで押しつけるつもり満々っ!?



「……アルト、クロノさんとの回線すぐに開いて。連絡して引き取ってもらおう」

「あぁ、待ってー! それだけは、それだけはやめてー!」



 なんか、腰に抱きついて、柔らかくて大きいものが触れてるけど気にしてはいけない。簡単だ。そんなマネをすれば、僕の命が危ないっ!

 つーか、腕利きの提督の追撃から守りきれと? ムリに決まってるでしょうがこんちくしょうっ!



「うーん、いいんじゃないの? 私達も協力するし」

「いや、止めろよ……つか、『私達』ってことは、アタシも協力するのかおいっ!」

「しないでっ! むしろ止めてっ!」

「だって、クロノくんの言い方ひどいし。女の子は、いつまで経っても女の子なんだよ? ねー、ヴィヴィオ」

「うんっ!」



 6歳児が何をぬかすか。つーか、なのはもヴィヴィオも忘れている。すっごく大事なことを。



「実際に匿うの僕なんですけど?」

「酷いわ恭文くん、私のことがジャマなのね」

「ジャマとは言ってませんよ。ただ、早く帰ってほしいなと思ってるだけで」

「恭文くん、それ同じことだからっ! あぁ、泣かないでくださいよリンディさん……」

「だって、だって……恭文くんまでそんn







 ごすっ。







 鈍い音はリンディさんの背後から。で……リンディさん、動きを止めたまま静かに崩れ落ち……襟首つかまれて床とのキスだけは回避。



 つか……いきなりの登場ですね、ジュンイチさん。



「いやさ……前にお前に借りてたゲーム、借りっぱなしになってたの思い出して返しに来たんだけど……あ。はい、そのゲーム」

「うん」



 気を取り直してジュンイチさんが差し出してきたゲームのディスクを受け取る……『ス○ロボZ』、ないと思ったらジュンイチさんトコ行ってたのか。



「で、来てみたらリンディさんがいるじゃねぇか。
 とりあえず、なんか泣き崩れて話が進まないようだったから黙らせたんだけど……マズかった?」

「ううん。ぐっじょぶ」



 そして、リンディさんが目を回しているので、僕がリンディさんから聞いた話を説明。で……ジュンイチさんはため息をついた。



「何考えてんだ、この人は……
 ……わかった。とりあえずこのバカ統括官はうちで隔離しとくから」

「いいの? ジュンイチさん」

「いいも悪いも、お前んトコ置いとくワケにはいかないだろ。
 忘れたか? お前、年明けに試験だろうが」



 あー、ランク試験か。そういえばそんなのもあったね。



「かといって、他のヤツらもアウトだろうしな。
 フォワード陣も恭文同様ランク試験が待ってるし、フェイトだってランク試験の前に執務官試験だろう?」



 確かに。

 となると、妥当なのは試験を控えてなくて、ある程度行動に自由のきくジュンイチさんのところ、か……



「そういうこと。
 まぁ、ウチならクロノの追求もある程度は流せるしな」

「帰ってもらうっていう選択肢はないんですね」

「それはお互いの主張を聞いてからだな。
 “一方だけ聞いて沙汰するな”って言葉もあるしな……とりあえずはクロノの方の主張も聞いてみんと、どう動くかなんか決められないよ」



 なのはに答えて、ジュンイチさんはため息まじりに師匠に念押し。



「ヴィータ、とりあえずエイミィにだけは居場所、それとなく教えといてくれないか? 多分お前のとこにも問い合わせは来るだろ」

「お、おぅ……」







 そんな感じで、リンディさんはジュンイチさんのところに。



 で……なのはや僕、師匠も黙っていることを約束させられた。



 もちろん、クロノさんがリンディさんが家出したのを知って黙っているはずはない。

 当然のように僕も尋問なども受けることになるのだけど……それはまた、別の話とさせてもらう。










 ……なんだろ、これ?





















(第29話へ続く)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!

ライオコンボイ「…………恭文」

恭文「何? ライオコンボイ」

ライオコンボイ「あの柾木ジュンイチという男はいつもあんな感じなのか?
 いきなり模擬戦に乱入してきたり……」

恭文「あー、うん。そんな感じ。
 いつもいつも気分で動く人だからねー。何度迷惑をかけられたことか」

ジュンイチ「えっへんっ!」

恭文「ほめてないよこっちはっ!
 むしろけなしてるんだよっ! 何ほめられて誇らしいみたいに胸張ってんのさっ!?」





第29話「世の中は平和に見えてもどこかで争いは起きている」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《…………と、いうワケで、いろいろあった出来事が最後のインパクトで軒並みキレイに吹っ飛んだ28話です》

Mコンボイ「あぁ、リンディ・ハラオウンの蒼凪家襲撃か。
 本家準拠の展開とはいえ、恭文も不憫な……」

オメガ《まぁ、ミスタ・恭文の不幸は、拍手でも様々な方が改善を試みてことごとく返り討ちになったほどすさまじいものですし、そこは仕方ないかと。
 もっとも、『とまコン』ではミス・リンディはミスタ・ジュンイチが引き受ける形になりましたが》

Mコンボイ「………………余計に事態がカオス化するきっかけにしか思えないのは気のせいか?
 確か彼女は、本家だとバリバリの本局信奉者だろう? それがアンチ管理局の権化とも言える柾木ジュンイチのところに転がり込むなど……」

オメガ《そこは大丈夫なんじゃないですか?
 とりあえず、『とまコン』の彼女は以前からミスタ・ジュンイチと知り合いですからね、少しはそういうのにも理解があるキャラクターになってますから、これで二人がぶつかる、という事態は避けられるかと。
 まぁ、ぶつかったらぶつかったで、またミスタ・恭文が巻き込まれて不幸になるだけでしょうし》

Mコンボイ「いや、オレはまさにそれを心配してるんだが!?」

オメガ《ですが、ぶつかる展開になったら間違いなく巻き込まれますよ、彼は。
 だって、彼って何だかんだ言いながら、知り合いに厄介事を押し付けてそのまま放置できる人柄ではないじゃないですか。
 間違いなく、様子を見に行きますよ。それも二人がぶつかっているまさにそのタイミングで》

Mコンボイ「………………何ひとつとして否定できんな」

オメガ《でしょう?
 ですから、もうこの件に関してミスタ・ジュンイチとミス・リンディがぶつからないように祈るのみですよ》

Mコンボイ「……つくづくはた迷惑な二人だな」

オメガ《それこそ今さらな気もしますけどね。
 では、本日はこの辺でお開きということで》

Mコンボイ「次回も読んでもらえるとありがたい」





(おしまい)







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