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頂き物の小説
第3話『本気と全力は似ているようで違う…………見切れるか?』:2



私は今、六課の食堂で夕食をとってる。

 あの後、あそこから副隊長たちがいる場所まで戻るとスバルを抱えた蒼凪と合流。ついでなんで一緒に医務室へ行くことにした。

 そこで待っていたシャマルさんに診てもらった結果、私は特に異常なし。蹴られた腕も肩もやっぱりというか、問題はなかった。まぁジャケットの障壁で大分緩和されたはずだしね。

 本当ならプロテクションなりラウンドシールドなりで防ぐはずだったんだけど、間にあわなかった。それでも、咄嗟に腕で防御できたのは良かったと思う。うん、反射速度ちゃんと上がってるわ。

 気絶したスバルの方も異常はない。寝てるのは完全に魔力ダメージが原因なだけらしい。だからそのうち目を覚ますとのこと。

 まぁ、そうよね。私も見てたけど、思いっきり斬られてたものね。

 それから少しだけあいつとお話。うん、色々聞きたいことあったのよ。

 私はキサラギと模擬戦してたから直接は見てないけど、蒼凪は最後まで……あぁこういう言い方だと誤解するわね。最後以外、カートリッジを使わなかったらしい。

 ……そういえば、キサラギも使わなかったわね。うん、その辺は後で聞きだすとして、その時は蒼凪の方に聞いた。

 で、あいつはかなり渋々ながらもその理由を話してくれた。それでまぁ、何とか納得はした。

 それからキサラギと蒼凪、あとグースカ寝てるスバルを残して退室。何か大事な話があるとかで。

 それからしばらくして、キサラギが先に医務室から出てきた。色々と聞きたいことがあった私はエリオとキャロに断ってそれを待ってた。

 そこ、待ち伏せ言わない。……あってるけど。

 それで、現状に至るってわけよ。あ、なんで夕食一緒に食べてるのかというと、こいつが「すまん、腹減ったから飯食いながらでいいか?」とか言ってきたからよ。



「……過労?」

「イエス」



 私の聞き返しにカレーのじゃがいもを口に運びながらキサラギは答えた。



≪マスターはぁ、ここに来る二日前まで徹夜でヤスフミの書類を仕上げる手伝いをしたんだ〜。ただでさえ直前まで仕事してたのに、だよ? それで、過労が溜まっててしばらくは魔法を使った模擬戦とか、激しい練習は禁止っていわれちゃった〜≫



 キサラギの代わりに詳しい説明をしたのは、そいつの左手首に巻いてあるパングルの中心にはめられた紅い宝玉。

 ……ちょっとまって。これ、あのラムダってデバイスよね? ちょっとキャラ違いすぎじゃない? さっきはもっと、フェイト隊長のバルディッシュ以上に感情がなかったのに。

 なんでこんな小さい女の子っぽい喋り方?



「あー、それはちと理由不明。こいつ、戦闘になるとあんな感じになるんだけど普段はこんな感じなんだ。まぁあれだ。これも個性があっていいじゃないか」

≪ふふ〜♪ 個性個性〜♪≫



 ……いや、そういうもんで片づけられるものなの、これ? そういえば、あいつのデバイスもなんかかなり喋ってたわよね……



「まぁ、そういうわけで。言われると確かになんか身体がだるいような気がしないでもない。確かに、動きのキレも悪かったし」

「……よくそんな身体で私と模擬戦やれたわね」

「結構ギリギリらしいけどね。……うん、帰ったら即効寝るわ、俺」

「そうしなさい」



 ていうか、そんな状態のやつに負けたのよね、私……悔しいけど、こいつにはそれだけの実力があるってことか。

 模擬戦中も感じたけど、こいつは私たち以上にかなり実戦経験を積んでる。これまでなのはさんにかなりしごかれてきたけど、まだまだってことか。



「それと、聞きたいんだけど。あんた、カートリッジ使わなかったわよね」

「……あぁ」

「あんたもアイツと同じで、戒めとかで使わなかったってこと?」



 戒めっていうのは、さっきアイツから聞いたカートリッジを使わなかった理由だ。

 でも……こいつはなぜか、苦い顔をしてる。……まさか、あんたは手加減したんじゃないでしょうね?



《ティアナ、違うよ。マスターは、使わなかったんじゃないの》

「? 使わなかったじゃないなら、なんなの?」

「……使えないんだ」



 ……使えない?



「デバイスに入れてないってこと?」

「それもある。でも、その最大の原因は……」

≪マスターは、カートリッジと相性が悪いんだよ≫



 相性が……悪い? え、どういうこと?



「体質でね、どうにもカートリッジみたいな無理な魔力増強は身体に合わないんだ。ほら、あれって無理やり自分の放出魔力に加えてカートリッジの魔力を上乗せするだろ? その負担が、俺にはちょっとでかすぎるんだ」

≪一回使っただけでもリンカーコアにダメージが残ってしまうくらいに。これでもマスターは繊細だからねぇ〜≫

「これでもってなんだ」

「……そう、なんだ」



 確かに、カートリッジシステムは私たちの体に負担をかける。でも、それは普通の魔導師からすればほとんど微々たるもので、そこまで気にするものじゃない。

 現に、今ではミッド式ベルカ式、関係なくほとんどの魔導師がその機能を使っているくらいだから。私だって訓練生時代はカートリッジを使いたいから自作のアンカーガンを使ってたわけだし。訓練校の支給デバイスは、カートリッジついてないから。



「それで、ブースト魔法?」

「そういうこと。あれなら自分の魔力で、魔力強化に上乗せする形で効果を発揮できるからな。訓練すれば少ない魔力でカートリッジ一個分くらいは補えるし、自己ブーストにしても余計な負担はかからない。代わりに身体の方にくるけど、それくらいはなんとかできるくらいには鍛えてるしな。……つか、やっぱ見られてたか」

「そりゃね」



 しかし、そういうことか。これで種は割れたわね。

 ……でも。



「……悪かったわね。言いづらいこと聞いちゃって」

「別にいいさ。いずれ言わなきゃいけなかっただろうし。じゃないと俺まで質問攻めにされそうだ」



 それもそうね。特にエリオとキャロの勢いすごかったもの。……正直にいえば私もだけど。

 問題はスバルね。あの子、ちゃんと納得するのかしら。



「あっれ〜?ティア、ユウキと何やってるの?」



 ……すると、まるで狙ったかのようなタイミングで食堂にスバルが入ってきた。その後ろには、蒼凪と……あれ、フェイトさん!?




 ◆   ◆   ◆




「…………あぁ、でも美味しい」



 そんな歓喜の声を上げるのは、一人の男の子。

 こういう時は、本当に嬉しさと幸せに満ちた表情を私に見せてくれる。

 私はこっちが本当のヤスフミだと思う。だから、六課の中でもこれで居て欲しい。

 ハードボイルドであることは、きっと誰も望んでないから。というか、もったいないよ。

 せっかく一つの居場所を作れるかも知れないのに、頑なになってそれが出来ないなんて。



「昼間も思ったけど、六課のご飯ってレベル高いなぁ」

「でしょ? 私が六課に来て、本当によかったって思ってることの一つなんだ〜♪」

「ヤスフミ、スバルも、そんなに慌てて食べたらダメだよ。身体に悪いよ?
 ……ほら、特にスバルは起きたばっかりなんだから」

「……はい」



 私とヤスフミとスバルは、食堂に移動して夕食を美味しくいただいていた。食堂に行くと、ヤスフミと一緒に出向してくれたキサラギさんと、ティアが一緒に食事をしていた。せっかくなので、一緒にご飯を食べることにする。

 そして、ご飯を食べながら、今日の話を聞いている。私がリクエストしたんだ。

 あ、キサラギさんとはもう初めましての挨拶は済ませた。さっきだけど。

 うん、普通に「よろしくお願いします」って。それと「いつもヤスフミがお世話になってます」とも。

 私、ヤスフミのお姉ちゃんだし。こういうところはちゃんとしないと。



「でも、ヤスフミすごいね」

「ん、なにが?」

「だって、移動の最中にみんなにいっぱい話し掛けられてた。
 たった一日なのに、もう六課に馴染んでるみたい」



 それは嬉しい。……歓迎会の意味、きっと有ったんだよね。

 はやてにお説教したの、早計だったかな。でも……まぁいいか。



「そうかな? 初日に色々とやらかした問題児だから、すぐ覚えられただけだよ」



 言いながら、サラダのレタスをパクリ。……うーん、まだお仕事モードが完全に外れてないなぁ。

 やっぱり今日会ったばかりのスバルとティアの前だからかな。これが二人っきりなら、完全に姉弟になるのに。



「というか、メンバーの大半顔見知りだよ?」

「そうなの?」



 スバルも、ヤスフミと同じようにサラダを食べながらそう聞いてきた。

 ……そういえばそうだったね。あぁ、そういうのもあるのか。



「そうだよ」



 ……ロングアーチだと、ヤスフミはグリフィスとシャーリーとは私達と同じタイミングで知り合ってる。

 ルキノはアースラでの仕事の時に仲良くなったもの。六課は、ヤスフミを知っている人が意外と多い。



「他の人も、フリーの仕事の時に顔合わせてる人が多いみたいだから」

≪初対面なのは、スバルさん達フォワード陣と、アルトさんとヴァイスさんに整備員の方々くらいでしょ≫

「……なるほど」



 こんな会話をしつつも、ヤスフミは色んな事を話してくれた。まず、朝礼で壇上から転げ落ちたこと。

 ……そんなことしたんだね。なんていうか、うん、変わってないよ。やっぱり疲れてたのかな。

 そうしてその後やってきたシャマルさんにザフィーラ、リインと挨拶。

 リイン先導で隊舎の見学+挨拶回りツアーに出た事。そうして挨拶回りをしつつ隊舎を見学。

 ロングアーチやバックヤード。それに、スバル達前線メンバーと話す。

 それで、六課の雰囲気がとてもいいものだと思ってくれたこと。

 そして、スバルと模擬戦の約束をしたら、ほんとに今日やるハメになってしまった事。

 それをアルトアイゼンに『迂闊すぎる』と、怒られた事を話してくれた。



「確かにちょっと迂闊だったかもね。スバルは、こうと決めたら一直線ですごく押しが強いから」



 みんなも、ヤスフミがどれくらい強くなっているか気になっていたから、余計にマズかったね。



「ご迷惑おかけしました」

≪先ほどの発言を聞くに、本心から思っているかどうかは疑わしいですが≫

「わ、わかってるからそんなこと言わないでよー!!」

「まぁ、押しが強いのは戦ってみてよく分かった。
 なんというか、スバルは間違いなくフロントアタッカー向きだわ」

「ティアナも、状況判断の解析と咄嗟の機転。センターガードに必要な素質十分だったな」

「ま、ありがと」

「で、どうだった? スバルと戦ってみて。……というか、今日一日六課を回ってみて」



 正直に言うと、ヤスフミがもし六課を気に入ってくれなかったらというのが、ずっと気になっていた。

 私の言葉に、ヤスフミが少しだけ考える様子を見せる。そして、口を開いた。



「まぁ、上手くやってくよ。仕事だもの。顔見知りが多いって点では、やりやすいだろうし」

≪そうですね、仕事ですしね≫

「そっか」



 ……うぅ、やっぱりお仕事モード入っちゃってるなぁ。ヤスフミは、基本的に優しい子。

 なのに、いつもこれなの。お仕事中や戦闘中は、基本的にそれ用のキャラになっちゃう。

 さっきヤスフミが言ってた『ハードボイルド』キャラって言うのかな。うん、そんなキャラになる。

 親しい人の前では大丈夫なの。でも、スバルみたいな初対面の子の前ではこれ。

 こう……強がっているというか冷めたフリをしてるというか、そんな感じ。

 こういうのも、通りすがりになりやすい嘱託の仕事を長く続けてる要因の一つだったりする。

 出来ればここも改善して欲しいな。私の知ってるホントのヤスフミは、すごくいい子なのに。



「きっとすぐに馴染めるよ。六課は、ヤスフミにとって大事な居場所になると思うな。ほら、私達も居るし」

「まぁ、適当にやってく。てーか、解散まで半年切ってる部隊を居場所にしても、無意味でしょ」



 ……また冷めたキャラになってる。ほら、スバルもどう言っていいか分からなくて困ってるし。ティアもため息ついてるし。

 ……なんかキサラギさんは賛同顔。仲いいみたいだし、同じような考えなのかな。

 うん、もったいない。こういうのは、すごくもったいないよ。このキャラを装うだけでも、色々損してると思う。



「あー、それとね」

「うん?」

「スバルと戦ってみて、なのはや師匠達がすっごく気持ちを込めてフォワード陣を育てているってのは、よく分かった。
 ……真面目に話すと、戒め外さなきゃ勝てるかどうか解んなかったしね。やっぱまだまだだわ。くそ、マジで反省だし」

「……あの人は色んな意味で別格だから、比べちゃだめだよ」

「まぁ、鬼か修羅の類なんじゃないかって疑問に思う時あるしね」



 ごめん、そこは私も。こう……次元が違うというかなんというか。



≪未だ目指すべき高みは遠くにあるということです。頑張っていきましょう≫

「そうだね」

「……ねぇ、恭文」



 私達が話していると、スバルが少しだけ真剣な表情で話し掛けてきた。……どうしたのかな?



「戒めって……なに? ひょっとしてカートリッジ使わなかったことと関係が有るの」



 私は、小さく息を飲んだ。もしかしてスバルには説明してないのかな。

 あぁ、そっか。さっきまで寝てたから無理だったんだよね。今気づいたよ。



「ヤスフミ、ひょっとしてスバルには」

「うん、眠ってたからまだ話してない。まぁあれだよスバル、分からないならググろうか」

「「「ググろうってなにっ!?」」」



 とりあえず私は、ヤスフミに『ちゃんと説明するように』と言った。

 あと、念話で『ちゃんとお仕事用キャラは外して?』とも言った。……返事は無かった。



「うんとねスバル、僕には、戦い方を教えてくれた先生が二人居るの」



 その他にもヤスフミに力を貸してくれた人達は居るけど、基本的に先生となって居るのは二人だけだね。



「一人は……もう知ってるよね」

「うん、ヴィータ副隊長だよね」

「そうだよ。それでね」



 ……そう、ヤスフミには二人の師匠が居る。一人は、私達の友達のヴィータ。

 そして、恭文が先生と言ったあの人。

 ヴィータは、ベルカ式魔法を用いての魔法戦の技術全般を。

 あの人は、刀での高度な近接戦闘技術。

 それにヤスフミパートナーのアームドデバイス・アルトアイゼンをヤスフミに託した。

 二人とも、ヤスフミに想いを込めて、自身が培ってきた戦闘技術を叩き込んでくれた。

 そうして出来上がったのが……一撃必殺を具現化した今の戦い方。

 あと、二人がこう、相手に対して口先で精神攻撃をしながら戦うのは、あの人の影響。

 一種のハードボイルドキャラというか、そういう部分も多分同じく。

 正直、アレはやめた方がいいと思う。そんなことしなくても、ヤスフミもアルトアイゼンも強いのに。

 ハードボイルドキャラも同じくだよ。さっきも言ったけど、色々損してる部分多いよ。

 それで戒めというのは、あの人がヤスフミに課した一つの修行方法になる。

 アルトアイゼンには、一応私のバルディッシュのように形状変換の機能が備わっている。

 そして、カートリッジに関しても、ジガンスクードがある。

 でも、あの人は恭文とアルトアイゼンに、それらを安易に使う事を禁じた。

 確かに、それらの機能は強力ではある。でも……なんだよね。

 私もついつい頼りがちで、少し耳の痛いところ。



「『強力な力に安易に頼れば、それは自身を強くする伸びしろを殺す可能性がある。だが、安易でなければ問題ないので、その時を見極める目と感覚を養うべし』」



 ようするに、便利な機能に頼り過ぎちゃうと、機能有りきでしか強くなれないということだね。

 あははは、やっぱり耳が痛いよ。なんだかんだで私達、リミットブレイクとかのスペック勝負になってるもの。



「それが、師匠達……というより、僕の剣の先生からの教えなんだ」

「それが戒め? ねぇ、恭文、その教え少し無茶苦茶じゃないの」

「どうして?」

「だって、そんなことして、もしどうにもならなくなったら」



 うん、まず普通はそこを心配する。でも、心配なかったりする。



「その時は……というか、そうなる前に遠慮なくカートリッジなり形状変換なり使う。スバルにやったみたいにね」

「でも、カートリッジや形状変換って、局で言うと、エース級の魔導師クラスだと普通のことだよ。
 それに対しても基本的には使わないようにするって……やっぱり危ないよ。実戦でもそうなの?」

「うん」



 ……うん、実戦でもそうなんだよね。



≪そうしなければ修行になりませんので≫



 もちろん、ヤスフミもアルトアイゼンも、それに拘り過ぎてどうにもならなくなるまではやらない。

 二人とも息はピッタリだし、状況判断も私やなのは以上にしっかりしてる。

 だから、どっちかが無理だと判断したら、すぐに外して戦える。

 なんというか……二人とも強かというか、ちゃっかりしているの。

 私達はそういう所を信用して、スバルが『危ない』と言った修行法を公認している。

 それに、『絶対に泣かせるようなことはしない』って約束してくれているから。

 ヤスフミ、自分からした約束は絶対に守る。それはもう、ありったけで守ってくれるの。

 アルトアイゼンも、そのために自分のありったけの力を貸してくれている。

 まぁ、泣かせないというだけであって、今日みたいに二人してやりすぎちゃうことはあるけど。

 というか、出来ればすぐにでも外キャラは外して欲しいよ。だけど、それは絶対約束してくれないの。

 つまり、出来ないと思ってる。……そんな事、ないのに。

 六課は……部隊は、ヤスフミが思ってるより優しい場所なのにな。



「というか、その人はそれで戦えるの?」

「スバル、その人はヤスフミと同じ戒めをつけた状態でもすっごく強いの。
 少なくとも、全力全開の私となのはの相手を同時に出来るくらいに」



 私がそう言うと、スバルと一緒に話を聞いていたティアの表情が驚きに満ちたものに変わる。

 あれ……? キサラギさんは何かを思い出すように溜息ついて……もしかして、あの人のこと知ってるの?

 でも……うん、信じられないよね。

 実際に模擬戦をするまで私も同じだったから、気持ちはすごく分かるよ。

 でも、本当のことなんだ。……ヤスフミのもう一人の師匠は、私達もよく知っている人物。

 元教導隊出身で、今は局の仕事を引退。あちらこちらの世界を放浪しての武者修行の旅に出ている。

 性格は飄々としたつかみ所のない人なんだけど、戦闘となるとそれを感じさせないくらいの強さを見せる。

 うん、あの人もヤスフミと同じで普段と戦ってる時やお仕事中とでは空気が変わる。

 その温度差が激しくて、最初はなのは共々ついて行けなかった。すごく戸惑ったの。

 そしてあの人は、ヤスフミと同じ戒めを自らに課している。

 術者自身と信頼できるデバイスの能力がちゃんとしていれば、それだけでどんな相手でも渡り合える。

 そんな自分の教えが口先ではないことを、戦いの中で証明するために。

 ……『言ったことの責任は通す。場合によっては命を賭けてでもやる』。

 ……あの人が、ヤスフミに対して幾度となく言った言葉。

 そして、あの人はそれを実際の行動として通そうとしている。

 なんというか、ヤスフミはあの人の影響を強く受けている。

 いい所も悪い所も含めて。剣士としてだけではなく……人生の師と言っていいのかもしれない。

 まぁ、あんまり見習って欲しくない所までそうなっちゃってるのは……ちょっと心配。外キャラの事とかもそうだね。

 少し話が逸れたけど、スバルに言った通り、色々な機能や魔法を使わなくてもとても強い。

 私やなのはも、全力を出しても勝てるかどうか分からないくらいに。

 ……ごめんなさい、嘘つきました。勝てません、はい。

 二人がかりでも……勝てません。

 カートリッジと形状変換無しなのに。

 なのははエクシード、私は真・ソニックフォームの状態なのに……勝てません。

 完全に動きを見切られるんです。こっちが攻撃しても、全部受け止められるんです。

 というか、私達の攻撃が当たらないんです。

 それだけじゃなくて、ライオットザンバーであの人の斬撃を受けるんです。

 すると、受けたところから刀身が真っ二つにされて、そのまま墜とされるんです。

 ……もう、泣きたい。私、オーバーSとかだけど、もしかして全然弱いのかな。



「なんか……信じられないです。だ、だってなのはさんもフェイトさんも、すごく強いのに」

「上には上が居るって事だよ。てーか、なのは達は別に最強キャラでもなんでもないでょ。
 ただ普通の人より魔力が高くて、魔法が上手く使えるってだけ。あとは19歳の女の子よ?」



 ヤスフミ、それは色々と違うんじゃないかな。……まぁ、上には上が居るってのは同意だけど。



「あ、ひょっとして、恭文が模擬戦の途中で言ってた『スターライトブレイカーを一刀両断する人』って」

「うん、ヤスフミの先生のことだね。私となのはがタッグで挑んだときに、それをやられてね」

「そんな人、いるんですね……」

「……あの爺さん、そこまでか……」



 あの光景は、今でも忘れられない。本当に……凄かったから。



「あの時は僕もびびったよ。まさかそんな真似が出来るとは思ってなかったから」



 私も思ってなかったよ。あぁ、なのはがしばらく自信喪失してたよね。あれ斬られちゃうんだもの。



≪と言いますか、その場に居た人間全員がドン引きでした。いやぁ、その時のギャラリーの様子を録画出来ていれば、是非お見せしたかったです≫

「……アルトアイゼン、それは趣味が悪いと思うよ?」

「あ、それ見たい」

≪ラムダも〜≫

「キサラギさんもラムダも何でノるの!?」



 私やなのはは……すっごく必死だったのに。



「信じられない」

「なんでそう思うのさ? 教導隊でもトップクラスのレベルだったら、普通のデバイスでそれくらいは出来るよ」



 ただ、ヤスフミは当然のように『……SLBは斬れないよ?』と付け加える。

 ヤスフミ、そこは大事だよ。うん、すごく大事。



「現にフェイトとなのはも昔、先生と教導隊で同期だったファーン先生って人にボロ負けしたって言うし」



 ……はい、負けました。本当に派手に。



「学長にっ!?」



 ……うん。思いっきり、負けたね。能力的なことで言えば私達の方が上なのに、完敗だった。



「なんだ、ファーン先生のことは知ってるんだ」

「だって、私とティアの出身校の学長だよ?」

「あー、なるほど。納得したわ」



 そして、ファーン先生があの人と同期で、仲がよかったというのを知ったのは大分後だった。

 もちろん、あの人ほど無茶じゃないけど。



≪あの方も負けず劣らず経験豊富で強いですからね。あなた、勝てたことありました?≫

「……ない。つか、分かってるんだから聞かないで」

≪マスターもないよねぇ〜≫

「うっさい黙れ、そこで暴露する必要ないよなっ!?」



 私も……実はなかったりする。うぅ、ヤスフミじゃないけど、修行が足りないんだ。

 もしかして真・ソニックやライオットやカートリッジに頼り切ってて、伸びしろ殺してるのかな。

 殺さなければ、私……もっと強くなれるのかも。強くなったら、もうあんなことないのかも。

 ……22話から24話までずっと緊縛プレイなんて、私はもう嫌だもの。



「まぁ、スバルの言うことも分かるよ? 今や敵方も含めて、カートリッジや形状変換は主流。強力なのは間違いない」



 うん、そうなの。今話に出た機能は、エース級と呼ばれている人達の間では、普通になっている。

 だからそれをあえて封印して戦うなんていうのは、このご時世では古臭くてまともじゃないと思われても仕方ないのかも知れない。

 ……でも、ティアの表情が少し曇ったのが気になった……どうしたんだろう? なんでかチラリとキサラギさんをのぞき見るし。



「だけど……それでも、そこまでしてでも追いかける価値のある人だって思うんだ」



 そこまで言うと、ヤスフミはホットミルクを取って一口すする。……あ、幸せそうな顔になった。

 そんな表情をすぐに真剣なものに切り替えて、スバルへ話を続ける。



「その持論を口先だけじゃなくて、自分でもしっかりとした形で実践している。デバイスの特殊な機能や、強大な魔力やレアスキルなんてなくても、ここまで強くなれるってことを」

「そこは、私も同意見なんだ。口先だけじゃないの。ヤスフミの先生は、ちゃんと行動でそれを示してる」

「うんうん、そうでしょ? そのレベルだって半端じゃないんだもの。僕から見たら、どこに文句をつける要素があるのか分かんないよ」



 ヤスフミが、楽しそうに瞳を輝かせながらそう口にする。……変わってないね。あの人に対しての憧れは。

 でも、温度差やハードボイルドキャラはやっぱり外して欲しい。そういうので引いちゃう人間も、部隊や局の中では多いもの。



「そう……なんだ。恭文にとっては、その人の戦い方と強さは目標なんだね。だから、戒めを背負ってるんだ」

「うん。というかさ、なんかムカつくじゃない? 僕、元々フルドライブやリミットブレイクみたいなスペック勝負に走るの嫌いなの」



 ウィンナーをパクリと食べて、モグモグとしっかり50回以上咀嚼してからヤスフミは飲み込む。

 それで、話を続ける。……ちょっとだけ楽しそうに。外キャラ、少し外れたと胸を撫で下ろした。



「魔法があるから、カートリッジがあるから、フルドライブやリミットブレイクみたいな機能があるから強いなんてさ。自分の限界自分で決めてるみたいで、腹立つの。人間は、どこまでだって強くなれるって先生が教えてくれたのに」

≪ようするに、そういう機能に頼るのが悪いということではなく、それ有りきなのが嫌ということですね≫

「ヤス、アルトアイゼン。お前らいいこと言った」

≪さっすが〜♪≫

「あははは、そっか。……あれ、なんか突き刺さるな。私、何かが小さく突き刺さったんだけど」

「気のせいでしょ」



 ごめんヤスフミ、それは気のせいじゃないよ。スバルだけじゃなくて、私も突き刺さったから。

 ただ、ヤスフミがこう言う理由も分かるの。ヤスフミの魔力資質は、平均レベルだから。

 例えばエクセリオンみたいなフルドライブや、私のライオットザンバーみたいなリミットブレイクがあるよね?

 そういう機能を使うと、魔力消費も当然のようにいつもより増えるの。

 でも、魔力量が私やスバル、エリオやティアより下のヤスフミは、この手の機能に頼れない。

 ……頼りたくても、頼れないの。使ったらすぐに魔力が尽きるのは明白だから。

 そういうのも、ヤスフミの言う『スペック勝負』嫌いに拍車をかけてる。なんだか、少し辛い。

 お姉さんとしては、そういうのちゃんと分かってあげたいのに……無理かなとか、思ってる。

 私はそれに頼れる人間だから。頼ってなんとか出来る人間だから……違うのかなって、ちょっとだけ。



「でもさ、先生もそうだけど、師匠にはまだ一回も勝てないんだよね。うぅ、だめだ。僕も全然だめだ。結局今回も、カートリッジでスペック勝負に走ったし」

「あの人に関して私もだよ。でも、いつか勝てるように頑張らないとね」



 というか、いくらなんでも甘く見過ぎ。試合の様子見せてもらったけど、本当に手札完全封印だったもの。

 あんな状態でヤスフミがスバルに勝ったら、私達隊長陣は全員揃って反省会議になっちゃうよ。



「……だね」



 すごく楽しそうに、だけど、少しだけ悔しそうな顔をしつつ、ヤスフミがウィンナーをまたパクリ。

 ……今度はご飯が美味しくて幸せそうな顔になってる。良かった。外キャラ外れ始めてる。



”外れてないよ。僕は仕事場ではハードボイルド通すの”

”どうして考えてる事が分かったのっ!?”



 今度はむすっとした顔になりながら、サラダをパクリと食べてる。

 でも、一口進むごとにまた幸せで楽しそうな顔を見せてくれる。

 ……一緒にお食事は、正解だったかな。ちょっとずつだけど、力が抜けてる。

 だから、表情が変わる。私は、なんだか嬉しい気持ちでそれを見つめていた。



「あ、フェイト、トマト好きでしょ? あげるね」

「ダメだよ。好き嫌いしちゃ」



 そんなヤスフミにも、苦手な物がある。それは……生トマト。

 生のトマトが、ヤスフミは嫌いな食べ物なんだ。出会った頃からずっと。



「……スバル〜♪ 疲れてる時にはトマトがいいそうなんだよ」

「ちゃんと自分で食べる。というか、疲れてるのは恭文でしょ? 私やフェイトさんに押し付けないの」

「う〜……ティアナ〜」

「自分で食べなさい」

「えぇ〜……ユウキー」

「あ、もらえるんならもら―――いや、冗談だからそんな睨むなよフェイト執務官……というわけで、自分で食え」

「うぅ、裏切り者……」



 満面の笑みでサラダに入っていたミニトマトをあげようとするヤスフミを、私達は静止する。

 そんな空気を読まずにふざけてもらおうとしたキサラギさんはちょっと睨むと、すぐにやめてくれた。

 表情は変わっても、昔から生のトマトを食べられないところは変わらないんだよね。



「……食べなきゃだめ?」

「ダメだよ。そんなんじゃ、エリオやキャロ達に笑われちゃうよ?」

「フェイト、保護者としてそれはどうなの? 人を指差して笑う人間に、子ども達を育てていいのかな」

「そういう言い方をされると、私は反論出来ないけどそれでもだめっ! というか、理論武装で誤魔化すのやめないっ!?」



 でも……あぁ、そうかも。よ、よし。

 保護者として、二人がそういう事をしない子になるように頑張ろうっと。



「そうだよ恭文。食べられないと、その先生みたいに強くなれないよ?」

「先生はセロリ嫌いだけど」

「そうなのっ!?」

「ヤスフミ、嘘つかないのっ! あの人セロリを生で美味しそうに食べたよねっ!?」



 結局、ヤスフミは『うぬぅ』と唸りながら、意を決してトマトをパクリと食べる。



「丸呑みしないで、よく噛まないとね」

「……ほへん。ほへあえははんへんひえ」



 涙目になりながら、トマトを飲み込むヤスフミ。すぐにホットミルクを飲んで口直ししてる。

 知ってはいたけど、まだダメなんだね。うーん、ここも改善したいなぁ。



「当たり前だよー。あの、生のトマトの水っぽい風味がなんとも言えず……うぅ、思い出すのも嫌だ」

「そんな落ち込まなくても……。ほら、私のポテト少しあげるから元気だして?」

「え? いいのっ!? フェイトありがとうー!!」



 ……………………そんなに辛かったんだ。ヤスフミ、多分今はハードボイルドキャラじゃないよ?

 というか、これは結果的に良かったかも。さっきよりずっと、お仕事用のキャラが外れてる。



「じゃあ、私のウィンナーも一本あげるね」

「あぁ、なんでだろう? スバルが女神に見える」

「……大げさだよ」

「やっすいなお前」

「ほんとね……」



 私からポテトを、そしてスバルからウィンナーを受け取ると、幸せそうにそれをかみ締める。

 これから、どうなるんだろう? ……きっと楽しくなるよね。そうに決まっている。



「ヤスフミ」

「ん、どしたのフェイト?」



 ウィンナーを食べ終えて、今はポテトを堪能中のヤスフミに話しかける。

 私、笑顔だ。自分でも分かるの。楽しくて、嬉しくて……期待で笑ってる。

 大事な……すっごく大事な、弟みたいな男の子が来てくれたことが嬉しいんだ。

 それで、色々変わっていく予感で、胸が一杯になってるの。



「これから色々大変かもしれないけど」

「うん?」

「一緒に頑張ろうね。ヤスフミ」

「……まぁ、適当にやってくよ」



 ちょっとツンとした感じでそう答えたヤスフミを見て、私は苦笑する。スバルとティアも……同じ。



「もう、そうやってまたお仕事用のキャラになる。もっと普段通りにして欲しいな」

「嫌。僕はここに仕事しに来たんだもの。別に仲好し小好しするためじゃないし」

「そうかも知れないけど、きっと色んな事が変わっていくよ。……絶対、変わっていくから」



 食事はこんな感じで楽しく終わった。だけど……後でお兄ちゃんに連絡取らないと。

 ヤスフミやアルトアイゼンから、二人に、この二週間の間に振った仕事の内容や量を聞いた。

 けど、いくらなんでも多すぎるよ。出向だってわかってたはずなのに……キサラギさんだって、ヤスフミを手伝ってくれて同じ過労って診断されたらしいし……ホント、仕方ないなぁ。



 クロノ、少し……頭冷やそうか?





 ◆   ◆   ◆





 しっかし、色々と振り返るとホントに色んな事があったよね。なんかちかれた……。



≪確かに、濃い初出勤ではありましたね。でも、明日からも六課での日々は続きます。しっかり休んで、明日からも頑張りましょう≫

「へいほーい、頑張るとしましょー」

≪マスターもがんばってねぇ〜。ラムダもがんばるっ!≫

「はいはい、わーってるよ。期待してるぜ?」

≪うんっ!≫



 僕とアルト、そしてユウキにラムダは、フェイト達の夕飯を終えると、すぐに帰路についた。

 なお、僕達はフェイト達と違って自宅からの通勤組です。

 食事が終わった頃には、既に夜の八時を越えていた。

 だけど、疲れた身体に鞭を打って、こうして歩いているわけです。

 ……あのね、『人生は666ページの本』って言葉があるのよ。

 今日の体験をページに書き綴ると何ページくらいになるんだろうね?

 30はいきそうな感じがするんだけど。それくらいに、今日と言う日は濃厚だった。



≪多すぎでしょう、それは。せいぜい、4ページ程度ですね?いや、ひょっとしたら1ページ未満かもしれませんね≫



 マジですか。……だとしたら、人生ってのは果てしなく長いね。

 これで埋まらないのは、おかしいって。



「なぁヤスー。お前のとこのマンション、どっか空きないか? 俺のとこのアパートからここまで遠すぎる……バイクで2時間とか、来る時はいいけど帰りがきつい……」

≪だらしないよマスタ〜≫

≪そうですね、貧弱すぎですよ貴方≫

「うっさいな、疲れるもんは疲れるんだよ」



 あーそうだね、確かにユウキのアパートからは遠いからねぇ。地上本部からは近いんだけど。



「んー、分かった。ヒロさんに聞いておくよ」

「悪い、頼むわ。あー、これで朝もうちょっと寝られる……」



 ふわぁぁ、と大きな欠伸をするユウキ。んー、ユウキも僕と同じく過労って言われてたしなぁ。

 ……うん、心の中でごめんなさい。結局電王見に行けなかったしね……



「……でも、ほんとに色んな事があったよね。それで、きっと楽しい一日だった。きっと、これからずっとこんな感じだよ」

「フェイト、それ本気で言ってる? てゆうか、ずっとだとダメじゃん」

「そ、そうだね。ずっとは困るよね。それだと毎日模擬戦だし」

「そうそう」



 ここは、隊舎の敷地内の歩道。フェイトが、僕達のことを敷地の入り口まで見送ると言った。

 別に大丈夫って言ったんだけどなぁ。てか、帰りは夜道一人じゃないのさ。ユウキとは途中で別れるし。それはどうなのよ。



「何言ってるの? 過労の状態で模擬戦するような無茶な人を、放っておいたりなんで出来るわけないよ」

「……それに関してはもう言わないでください。お願いします」



 もうシャマルさんだけで充分なんです。うん、真面目に充分。

 ……はやて達は苦笑して『大丈夫だから』って言ってくれたけど、ほんとに勘弁して。

 疲れた表情でそう口にする僕を見て、フェイトがニコニコと笑う。

 この笑顔で、気分が癒されるから不思議だよ。……うん、不思議。



「あと、夜道は大丈夫だよ。ここは隊舎の敷地内なんだし」

「一度襲撃されて、壊滅してるけどね」

「そ、そこは言わないで?」



 少しだけ、僕は表情を崩す。困ったような顔のフェイトが可愛くて、楽しくなる。

 うぅ、フェイトをいじめるのは楽しいなぁ。反応がすっごく可愛いの。

 あとユウキ、なにその「鬼畜め」とかいう目。失礼な、僕はただ困るフェイトの可愛さを堪能したいだけだよ。



「でもヤスフミ、スバルとちょこっとでも仲良くなれてよかったね」

「……ギンガさんから、相当言われてるしね。多少はいい顔しないと」

「もう、またそういうこと言う。もうお仕事モードは外して欲しいな。というか、ギンガとは仲良いんだよね」

「うん。……仲良いのに、お見舞いにも行けないと来たもんだよ」



 ギンガさんは現在、JS事件で大怪我をした影響で本局の医療施設で入院している。

 なので、ついついため息を吐くのよ。……この調子だと、退院前に顔合わせるのは無理かなぁ。



「ごめんね。クロノには私からもちょっと話しておくよ」

「話してもどうにもならないでしょ。てーか、上下関係はどうしたのよ」

「それでもだよ。……ヤスフミ、何気にお疲れモードだし」

「大丈夫だよ。きっちりやることはやる。そのためにここに来たんだもの。……それでフェイト、今日は顔見せなかったあのバカの調子、どう?」



 ここには事情を知ってる人しかいないから、こういう話も出来る。なお、フェイトも僕も周りを警戒してる。……ていうかユウキ、なんでいきなり肩がびくってなったの?

 してるから、念話に切り替わるのよ。切り替わって……話す。



”また詳しく話すけど、あまり良くない。相当無茶したから”

”あれだっけ。六課で保護した女の子、助けたんだよね”



 JS事件中、六課である女の子を保護した。……ということだけしか、知らないけど。

 詳しくは、本編の『とある魔導師の戦い』をご覧下さい。……いやいや、これ何の宣伝っ!?



”うん。今日居なかったのも、その子と一緒に検査入院だったんだ。

また明日の昼くらいには戻ってくるらしいけど”

”そっか。……全く、これだからスペック勝負に走るバカは嫌いなんだよ。魔力出力上げれば、何でも出来るとか思ってやがるし”

”うぅ、耳が痛いです。私も真・ソニック使ったりしたから”

”フェイトはまだ大丈夫よ? 真・ソニック、消耗は激しいけど後遺ダメージとか無いじゃん”



 この辺り、フェイトのパートナーデバイスであるバルディッシュの尽力が大きい。

 バルディッシュがフェイトの体調や魔力の状態を鑑みて、しっかりとフォームをコントロールしてるから。



”でも……真・ソニックはやめない?”

”それはその……スペック勝負と言われたら正直反論出来ないけど、でも私の速度を活かすために”

”あぁ、違う違う”



 真・ソニックは、フェイトのリミットブレイク用のフォーム。

 バリアジャケットの装甲を極限まで薄くして、機動性を高めてるの。

 フェイトは、高速機動が得意な魔導師。そのためにこのフォームなの。

 正直、性能どうこう消耗どうこうで文句言うつもりはない。むしろ、かっこいいとさえ思う。



”僕が言ってるのはデザインだよ。……だって、水着じゃん”



 ただ、デザインが……薄着なの。ボディライン丸出しだし、ちょっとお尻見えてるし。

 今年20歳になるのに、それはアウトだと思う。だから、僕はこう言うのだ。家族としては……ねぇ?



”違うよっ! どこが水着なのっ!? ただ装甲が薄いだけだよっ!!”

”なんで自覚ないのっ!? 装甲どころか生地が薄めじゃないのさっ! フェイト、露出高過ぎっ!!”



 あぁぁぁぁぁぁぁっ! マジで自覚持ってっ!? あれは目に毒だからっ! すっごい毒なんだからっ!!



”てーか、僕だけじゃないのよっ!? クロノさんやリンディさんにアルフさんとエイミィさんだって、同じなんだからっ!!”

”嘘だよっ!!”

”嘘じゃないよっ! 今度みんなに聞いてみなっ!? みんな同じこと言うからっ!!”



 後日、フェイトは本当に聞いた。そして、涙目で『……ヤスフミの言う通りだった』と言われた。

 それから2年ほど、フェイトは真・ソニックに変わる新フォームについて、悩み続けることになる。

 装甲を薄くしないと、スピードが出ない。でも、薄くするとジャケットまで薄着になる。

 そんなジレンマで悩みに悩み続けるけど……それはまた、別の話である。



「というか、そう言うヤスフミはどうなの? 私だけダメ出しなんて、ズルイよ」

「僕?」



 フェイトが、念話から普通の声の会話に切り替えて、聞いてきた。



「うん。フルドライブやリミットブレイクは無理としても、新フォームとか考えないのかな。ほら、ずっと同じジャケットだし、装備や形状変換も基本的に同じだし」



 始まって3話目で何をとんでもない話してるんだろ。フラグ立つの、早過ぎでしょうが。

 ただ、そう思いながらも僕は歩を進めつつ、答える事にする。実は、考えてるのがあるのよ。



「うーん、実はあるんだ。ジャケットはまぁ、今のが気に入ってるからいいの。ただ、アルトの形状変換で搭載したいものがある」

「あ、そうなんだね。ねぇ、どんなの?」

「7本の剣」

「剣?」

「うん。えっとね、FF7ACって言うフルCGの映像作品があるのよ。で、その主人公のクラウドが、合体剣って言うのを使うの」



 簡潔に説明した。ファースト剣と呼ばれるものをベースに、長剣3本と短剣2本が合体していくと。

 で、全部が合体すると、大きめのバスターソードになる。それも含めて7本の剣ですよ。

 6本の剣は背中の大型ホルダーに収納して、それをしっかりと背負って行動。

 状況に応じて、ホルダーから取り出して斬りつける……って、感じ?



「おま……え、マジで? あれ作るつもりなのか?」

「そ。映像見てて、剣を分離させて瞬間的に二刀流にしたり、合体させて剣の重さを増したりしてたの。こういうのならフルドライブとかリミットブレイクとかに関係ない感じで、作れるかなーと」

「なるほど。それは全部実体剣なのかな」

「うん。あと、これなら魔法なしとか有りきじゃないし、戒めに接触する部分も少ないかなーってさ。こう、やっぱり魔力や魔法有りきなフォームって考えられないの」



 というか、僕じゃあ活用出来ないもの。僕の魔力量は、フェイトやスバルより下。実を言えばユウキよりもだよ。ちょっとだけだけど。

 当然のように最大出力も負けてる。だから、それを活かした戦い方は出来ない。



「なるほど。……それなら、AMF内部でも変わらずに対処出来るね。私のライオットやザンバーみたいに、それで威力が変動する心配もない」

「あ、そっか。バルディッシュのモードは魔力刃使うから」



 AMFというのは、アンチ・マギリング・フィールドの略。簡単に言えば、このフィールドの中では魔法が使いにくくなる。

 というか、対策を整えた魔法じゃないと魔法を構築する魔力結合が解除されて、無効化されるのだ。



「うん。スカリエッティのアジトで、やっぱり威力や魔力消費量に影響が出ちゃったから」



 フェイトはJS事件の最終局面で、主犯であるスカリエッティのアジトに乗り込んで、逮捕したの。

 その時、アジトにはAMFが高いレベルで発生してたから……それでなんだね。



「でも、それだと変則的な七刀流だよ? 使いこなせるのかな」

「そこは要練習だろうね。でも、使いこなせばきっと強い。少なくとも、AMFの影響は出ないもの。斬るのに魔力使わなければね」

「確かにそうだね」



 ……映像見て、かっこよかったしなぁ。後半のハイウェイでのバイクチェイス中とかは特に。

 空中に居る時に双方向から攻撃が来て、短剣を分離させるの。

 それを左手に取って、攻撃を受け止める。受け止めてから、身を回転させて敵を斬る。

 アレはかっこいいのよ。使いこなすの難しそうだけど、それでもよ。

 なを、ユウキも同じくあのシーンは大好きだそうです。だよねー、あのシーンはいいよね〜。

 よし、絶対いつか再現しよう。うん、絶対だ。



「ヤスフミとアルトアイゼンの形状変換は、やっぱりそういう方向なんだね。通常モードもそうだけど、ハイブレードモードも同じだし」

「そうだね。僕には魔法資質に任せた力押しは、無理だもの。それに頼らない戦い方も出来ると言うのが、目指すところだね」

「その代わり、扱いは難しめ……なんだよね。ヤスフミのフィジカルでの技量がちゃんとしてることが、前提だから」



 あー、そうなるのか。魔法なしでの戦闘も視野に入れてるから、当然だけどさ。

 魔法が無かったらなまくら刀になるんじゃ、搭載する意味もないもの。



「なら、シャーリーに相談してみようか。ほら、丁度ここに居るんだし」

「あー、そうだね。……でも、解散するまでに仕上がるかなぁ。お昼に色々話聞いたけど、通常業務の状態でもシャーリー忙しいんでしょ?」

「…………そう言えばそうだね。シャーリーって、ヤスフミも知ってるけど色々出来るでしょ? そのおかげでロングアーチでも通信主任で、私達のデバイスの整備も請け負ってるし」



 シャーリーは、元々執務官であるフェイトの補佐官。フェイトと一緒に、そのまま六課に出向って感じなの。

 そして、何気に才女なのよ。デバイスマイスターの資格があるから、デバイスの整備も出来る。

 それでフェイトの補佐官として渉外活動や事務関係に現場でのオペレーション活動も出来る。

 それでそれで、何気にすごい女なのに高飛車な所がなく、フレンドリーで誰とでもすぐに友達になれる。

 ……シャーリー、やっぱすごい。というか、普通に非戦闘要員では一番仕事量多いんじゃ。



「……他の友達の技術者に頼った方がいいかな。さすがに今の状況でシャーリー頼るの、ちょっと躊躇うよ」

「でも、シャーリーは頼ってくれなかったらきっと膨れるよ?」

「そうだね。そして、すっごい楽しそうな顔で引き受けてくれるよね」



 それが、シャーリー……シャリオ・フィニーノという人間なのよ。

 デバイスマイスターの資格取ったのも、元々そういうの好きだかららしいし。



「それで、仕事量増えるんだよね。……だめだ、やっぱだめだ」



 歩きながら、右手で顔に手を当てる。これで倒れられたら、普通に困る。

 僕も困るし、六課メンバーも困る。よし、シャーリーに頼むのはナシだ。



「うし、他に当てがあるからちょっと頼んでみる。フェイト、シャーリーにはこの事内緒ね?」

「あの、そこまでしなくていいんじゃないかな。シャーリーも仕事量はちゃんと考えるだろうし」

「これでなんかあっても、僕や六課メンバーが困るでしょ。ただでさえ仕事溜まりに溜まってるのよ? シャーリーも何気に無理する方ではあるんだし、負担かけたくないのよ」

「……そっか」



 あの、フェイトさん? なんでそんな嬉しそうな顔するのよ。てゆうか、普通にニコニコする話じゃないでしょ。



「ヤスフミ、ちゃんとシャーリーや六課の事考えてるんだね。うん、安心した」

「別に。これで色々文句言われても嫌ってだけの話」

「もう、またそういう事言う。もうちょっとだけ、素直になって欲しいな」

「あいにく、僕はずっと素直よ」



 ……なんて話している間に、隊舎敷地の玄関まで来た。なんか、話してるとあっという間だ。

 フェイトとは、ここでお別れ。ミッド特有の二つの月は空で白く輝きながら、僕達を見下ろしてる。



「それじゃあヤスフミ、また明日ね。……というか、これからよろしくね。

 あの、本当に……一緒に、頑張りたいの。だって私達、友達で仲間で……家族、なんだから」



 僕は、フェイトの実家であるハラオウン家にずっとお世話になってる。だから、フェイトは僕を『家族』と言う。

 友達で仲間で……まぁ、片思いしてる身としては色々複雑ではある。でも、それでもなの。



「分かってる」



 それでも、僕は笑顔で応える。今は僕とフェイトだけ……じゃないけど、まぁ色々と察してくれてるらしいユウキは何も言わずにそっぽなんて向いてくれてるので……満面の笑みで、フェイトの気持ちに応える。



「一緒に、頑張ろうか。仲好し小好しするつもりはないけど、それでもさ」

「……うん。それじゃあお休み、ヤスフミ」

「うん。お休み、フェイト」



 ―――――こうして、六課でのお仕事初日は終わりを告げた。ただ、僕はまだ終わらない。

 だって、スバルから借りた訓練着を洗濯しないといけないもの。一応ね、持って来てるの。

 スバルは大丈夫って言ってたけど、ちゃんとしたかったの。借りたわけだし、そこはね。

 でも……機動六課、か。まぁいいか。僕はどうせ通りすがりだし、4月には解散する部隊だ。

 それまではきっちりやるだけ。僕は僕の仕事を、道理を通すだけ。

 心は熱く、頭はクールに。そして、どこまでもハードボイルドにね。



≪何カッコつけてるんですか≫

「気にしないで。てか、今までなんで黙ってたの?」

≪大事な二人だけの時間に茶々を入れるほど、私はKYじゃありませんよ≫

「ユウキとラムダいたけど」

≪そうでしたね。貴方たち空気読んでどっか行っててくださいよ≫

「≪今頃!? ていうか無茶言うなー!!≫」

≪あぁ、それと≫

「≪無視っ!?≫」

「なにさ」



 次のアルトの声が、少し小さなものになった。というか、トーンが落ちた。……完全スルーされてユウキとラムダがうるさかったけど、僕もスルー。うん、今はシリアスな場面なのよ?



≪色々思うところはあるでしょうけど、漏らしちゃいけませんよ? 最初から居なかった私達には、言う権利がありません≫

「――――――分かってるよ。でも、またなんかあるようなら遠慮なく言ってやる」

≪それでいいでしょ。だって私達、結局巻き込まれてるんですから≫

「そうだね。それで、自分で選んで飛び込んだ。なんつうか、バカだよねー」

≪今更ですよ≫



 家路を急ぎながら、僕は空を見上げる。見上げて映るのは、二つの白い月。

 その色を見ながら、決意を固める。飛び込んだなら、通すだけだと……強く。



≪マスター、歩いて帰るのぉ〜? 歩きだと家まで三時間半くらいかかるよぉ〜?≫

「……すまん、ヤス。今日は、ていうか今日も泊めてくれ」

≪レールウェイ使えばいいじゃないですか≫

「≪…………そういえばっ!?≫」

≪いつも使わないから記憶から消えてたんですね、分かります。ていうかアホですね≫

≪わーい、マスターアホー♪≫

「うっさいわボケッ!! ていうかお前もアホ呼ばわりされてんだぞおいっ!?」



 …………あぁもうっ!! せっかくかっこよく決めたのに台無しじゃないのさっ!!?



(第4話へ続く)






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