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頂き物の小説
第3話『本気と全力は似ているようで違う…………見切れるか?』:1



警備部の打ち合わせがようやく終わった。あぁ、なんか憂鬱だよ。うぅ、お姉ちゃん失格かも。

 せっかくヤスフミが六課に来た最初の一日なのに……どうせなら最初から居たかった。

 ほら、隊舎を案内したり、部隊の仕事だって楽しいんだよって伝えて……はぁ。


 はやてから昼間に来たメールだと、朝からやらかしたらしいし、落ち込んでたりしてないといいけど。

 でも、そこまで考えて心配ないと気付く。ヤスフミはああいう性格だし、多少のことでどうこうはならないよね。

 それにアルトアイゼンや、みんなも居るわけだし、うん、きっと大丈夫……な、はず。あれ、なんか余計心配になってきた。


 アルトアイゼン、ちょっとアレなんだよね。濃いというか、なんというか。

 というか、ヤスフミはこう……初対面の相手に対してキツイところがあるし。

 あぁ、エリオやキャロと上手くやってくれてるかな。そこ、かなり心配かも。


 とにかく、今は早く戻ろう。うん、もうお仕事は終わったんだし、全速力で戻ろう。





 魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝

 とある魔道師と機動六課の日常〜黒白の友〜

 第3話『本気と全力は似ているようで違う…………見切れるか?』





 ◆   ◆   ◆





「「「「セットアップッ!!」」」」



 偶然にも重なった四人の声が響くと同時、身体にバリアジャケットが構築されていく。

 バリアジャケット、つまり魔導師用の防護服ってことだ。ただ、それを纏う瞬間一瞬裸になるんだが……あれだ、ちゃんと規制入るから安心してほしい。

 黒いインナーが俺の上半身を纏い、下は黒いスラックスのようなズボン。

 更にインナーの上に、所々に黒い意匠やラインの入った薄いベージュの長袖ジャケットを羽織る。

 そして、両手には黒いガントレット。ただし左右でちょっと違いがある。

 右のガントレットは指貫がされていて、それぞれの指の第二関節から指先までは下地の白いグローブが見えている。左手の方は、完全に指の出てないもの。

 両足は革製のブーツで、脛辺りまであるいわゆる編み上げブーツみたいな感じだな。色は、ベージュ。

 以上が、俺の基本バリアジャケット。白と黒のツートンカラーが俺のトレードマークだ。まぁ、この辺は俺の髪にあわせてるのは言うまでもない。

 最後。服がなくなると同時に外されていたパングルが目の前に現れ、その姿を変えていく。

 それは、一振りの片刃の大剣……というより、大太刀か。柄から刀身まで合わせて150センチ位あり、身幅もそれにあった太さだ。

 刃は鈍い鉛色と銀色を放ち、鍔はない。柄は白塗りで、柄尻には今までパングルにはめられていた紅い宝石がはめ込まれる。

 あれだ、FF10のアーロンの武器を思い出してくれるといい。あれが一番近い。

 それを右手で取り、数回振りまわしてから柄を逆手で持って剣先を地面に突き刺した。

 ……これで準備は完了。これが、俺の戦うための姿。

 俺は基本的にこいつで接近戦を挑むタイプ。この時点で魔導師じゃねぇだろ、なんて突っ込みは無視する。それ言ったらヤスも違うしな。



「悪いな、ラムダ。さっそくあの馬鹿に巻き込まれたわ」

≪問題ありません、マスター≫



 今喋ったのは俺の相棒であるデバイス。AI搭載式のアームドデバイス、「ラムダ」。

 かなりでかいが一応は日本刀の形をしていて、この部分ではヤスとかぶってる。でも違うのは、ヤスが同多貫、いわゆる「斬馬刀」と呼ばれる刀でありまっとうな日本刀であるのに対して、俺はもう見た通りにでかい。多分、まともに日本刀にカテゴリーしたら怒られそうなくらいに。



≪現状、把握。蒼凪恭文との共闘確認。……訂正、それぞれ単独での戦闘へと移行確認≫



 機械的かつ感情のない、正しく機械音声でしかないその口頭確認。

 んー、やっぱデバイスモードになるとこうなるよなぁこいつ。なんでだろ。まぁ慣れたからいいけど。



「さて、こっちは準備いいけど。そっちはどうだ?」

「えぇ、こっちもオーケーよ」



 俺と対峙しているティアナもジャケットの構成は終えていた。

 手に持っているのは、銃型デバイス。……フルバック、いや、センターガードあたりか。



「ていうか、私少し驚いてるんだけど。ミッド式って言ってたくせに、なんでそんなデバイスなのよ」

「別にいいだろ? ミッド式が遠距離主体じゃないといけない理由はないんだし」



 言いながら俺はラムダを地面から抜く。そのままの勢いで手の中でくるりと一回転させてから、右の肩に担ぐように構える。ずしりと、右肩に重心がかかった。

 ……なんて軽口言ってるけど、内心ブルーだ。くそ、デバイスの形状からしてやっぱ射撃主体の遠距離タイプだろ、あれ。相性最悪じゃねぇか。



「それより、さっさと始めようか。楽しい楽しい模擬戦を――――さ!!」



 そんな内心をばれないように軽く言いながら、俺は地面をけった。

 彼我の距離は10メートルってところ。それなりにスピードに自信はあるけど、流石にこの距離を魔法なしで一瞬で埋めるのはちょっと厳しい。

 ので、ティアナが先に動く。俺に向けてクロスミラージュを二丁とも構え、そのまま発砲。ていうか連射だ。

 俺も接近してるから、両方がぶつかるのは一瞬後。それは、今から対処してたら絶対間にあわないタイミング。


 でも――それくらいは予想済み!



「せあぁ!!」



 確かに打たれてから対処してたら間にあわないが、それより前に対処してれば話は別だ。走り出すと同時に振りかぶっていたラムダを、思いっきり左に薙ぐ。

 元々長大なラムダの刀身が、発砲されたオレンジの弾丸を斬り裂く。誘導弾も混じってたかもだが、発砲して即座にぶっ壊したんだ。軌道を変える余裕もなかったようで、ラムダの一閃から逃れた弾丸はなかった。

 目の前で斬り裂かれた弾丸が炸裂し、爆発。目の前を爆煙が覆った瞬間に、大きく跳躍。

 爆煙を飛び越えた先には、今まさにその場から退避しようとしていたティアナの姿。

 ――逃がさねぇよ、っと!



≪上空!≫

「っ!!」



 クロスミラージュの警告に俺に気づいたティアナがその場を俺から見て右に飛び退く。直後、落下しながらの俺の一閃が今までティアナがいた場所を素通りし、空を切る。



「まだまだぁっ!!」

「なっ、切り返しが早い――!!」



 避けられてすぐに刃を返し、右薙ぎ。タイミングは虚をつく形で申し分なかったが、ティアナは咄嗟にクロスミラージュを盾にして防いだ。

 防いで、そのまま吹っ飛ぶ。……うまいな、俺の力を利用したのに加えて、自分から飛んで距離を取りやがった。

 それでティアナは5メートルほど距離を取ることに成功した。

 でも、そこはまだ俺の射程圏内――!!


 最初同様に俺は地面を蹴り、一気に距離を詰める。今度は、ティアナに射撃の時間を与えないほどの速度で。いや、速度は一緒だが距離が近いからな。マジで一足で距離をなくすことができた。

 ティアナの顔が驚いたように見える。予想以上に俺が早かったからだろう。

 そんなティアナに俺は右肩にかついでいた刀を素早く振り下ろす。いちいち振り上げる動作がいらないから、かなり早い。



「く、ぅ……! ていうかあんた、ガードウィング――!?」



 ギリギリで、ティアナは俺の剣を受け止めた。……銃身からオレンジ色の魔力刃、なるほど、いいデバイスじゃないの。

 でも流石にラムダの一撃がきついのか、ティアナの顔に苦悶が浮かぶのが見える。見た目通りそれなりの重さあるからな、こいつ。

 ていうか、ティアナが間違えるのも無理はない。どうみてもこのごっついの持ってれば、スピードタイプとは思わないわな。――それ狙ってるところもあるんだけどね。

 なんとかティアナが俺の剣を弾いてそのまま下がろうとする。でも、逃がさない!!

 そう思って弾かれてすぐに踏み込もうとしたけど、ダメだった。俺の目の前に、オレンジの弾丸が迫っていたから。くそ、あのタイミングで撃つかよっ。

 それを咄嗟に身体をひねってかわす。それをちらりとだけ目で追うと、かわした弾丸がすぐさま反転して更に俺を狙ってきた。……くそ、誘導弾か。



「邪魔!!」



 それを振り向きながらラムダを振るって斬る。これくらいなら、俺でなくてもできる芸当だ。ヤスならもっと綺麗に斬れる。

 斬られた魔力弾が炸裂し、その爆風を身に浴びながらもダメージはない。バリアジャケットがこの程度は無効化してくれる。

 それからすぐにティアナの方を見ると……げ、なんか十発以上の魔力弾が精製されてる。



「クロスファイア…………シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥト!!」



 その魔力弾全てが螺旋を描きながら一つにまとまって……やばいやばい! あれ結構威力高そうだぞ!? 俺の防御魔法なんかじゃ割れるのが目に見えるくらいに!!

 おまけによけても分散しておっかけてきそうだしなぁ……あーったく。

 開始早々のピンチに内心舌打ちしながら、即効で札の一つを切ることにする。



≪Boost up.SLASH≫



 俺の刀が赤にしては濃い、いうなれば「紅」に染まる。それを確認することなく、俺は迫りくる魔力弾を――斬る!!



「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 右手だけじゃなく、柄に左手も添えての真っ向唐竹割り。

 俺の刃と弾丸が衝突し――弾丸は真っ二つに斬り裂かれて爆散した……

 つか、くぅ……砲撃並、とまではいかないけどやっぱ結構な威力だったぞおい……よくヤスは砲撃斬りとか、あんな簡単にこなすよな。

 さて、一つピンチは去った。射撃主は……



≪目標、ロスト≫

「やっぱりか」



 ラムダの淡々とした報告と、実際に目にした光景を見て呟く。実際、ティアナの姿は俺の前から消えていたのだから。

 あーもう、こうなる前に終わらせたかったんだよ……こうなるとどうやっても俺がジリ貧になってしまうからな。

 さーて、ピンチは変わらず……どうするかな。




 ◆   ◆   ◆




 全く……驚きの連続ね。

 私は今、さっきの場所からは離れた廃ビルの中にいる。クロスファイアを撃ってすぐ、アンカーによって移動し、それから更に見つからないようにここまで移動してきたのだ。

 その際に見たのは、あいつが私のクロスファイアを防ぐでもよけるでもなく、斬って対処するところ。まさかそんな風に防がれるとは思ってなかったわ。

 その時、一瞬だけど見えたのはあいつの刀身が赤……っていうには濃い感じで染まっていたこと。ヴィータ副隊長の色に似てたかな。ただ魔力強化しただけじゃないわね。シグナム副隊長の紫電一閃みたいなことしたのかしら……

 まぁ、そこはいい。今問題にすべきはそこではない。

 考えるべきは、あいつへの対処法。

 最初はミッド式と聞いていたから私やなのはさんと同じセンターガード、ないしキャロのようなフルバック系統の魔導師と思っていた。でもふたを開けてみれば、刀を持って近接戦を仕掛ける前衛タイプ。それもスピードを生かした、エリオのようなガードウィングタイプよ。

 てか、詐欺よ詐欺。あんなごつい刀……よね? 見た目的に。あんなのもっててあのスピードってなによ。おまけに一撃も見た目通りにかなり重い。ダガ―モードで防いだ時、腕しびれたし。あれ、連続で受けたらアウトね。

 さて、となると……うん、なんだかんだ言っても基本行動はそう変わりない。

 私はそもそも、近接戦は得意じゃない。さっきみたいにダガ―モードは搭載してるけど、あれだってああいう状況のためのもので実際に近接戦を仕掛けるためのものじゃない。

 ……よし。



「クロスミラージュ、あいつはどうしてる?」

≪……先ほどの場所から移動していないようです≫



 ……余裕のつもりかしら。それならそれでいいわ、その余裕が、油断が命取りって教えてやるんだから。



「そう。なら、このまま一気に行くわよ」



 ……私だって、ただ闇雲になのはさんたちの訓練を受けてきたわけじゃないのよ。





 ◆   ◆   ◆





「さて……蒼凪とスバル、キサラギとティアナ……双方始まったが、どうみる、ヴィータ?」

「まぁバカ弟子とスバルの方は真っ向勝負。分かりやすいからみてりゃ分かるが……問題はもう一方、ティアナとキサラギって奴だな。バカ弟子、スバル、ティアナに関しちゃアタシ達は知ってるけど、あの白黒の奴はわかんないかんな。なんともいえねーよ」

「ふむ。資料でミッド式だということは聞いていたが、それでまさかアームドデバイスとは思わなかったな」

「そうだな。同じ射撃タイプと思ったからティアナにぶつけたけど……まぁでも、これはこれでいい経験だろ」

「あぁ。……それにあのスピード。魔法を使わずとも瞬発力もなかなかか。おまけにブースト魔法とは、面白い戦い方をする。ふふ、成程、これは腕が鳴るな」

「……ほどほどにしてやれよ。さーて、どうくる? あいつの友達ってんだ、このままティアナに翻弄されっぱなし、なんてことはねーだろ?」





 ◆   ◆   ◆





「キサラギさん、フロントアタッカー……ううん、あのスピードはガードウィングだったんだ」

「私、センターガードとかその辺りだと思ってた……」

「僕もだよ。……魔法を使わずにあんなに速く動けるなんて……すごい」

「ティアさん、大丈夫かな」

「大丈夫だよキャロ。ティアさんは、あれくらいじゃやられないよ」





 ◆   ◆   ◆





 ふぅむ……あちらさんからの動きはなし……と。



「どう思う、ラムダ」

≪……思考提示。行動のチャージ、および戦略の準備≫



 まぁ、そんなところだよな……どうしようか。

 ラムダにサーチかけてもらって、即効つぶしに行くのがいいんだろうけど……そう簡単に行かせてくれるわけもないよなぁ。

 となると、向こうが行動を起こしたところを逆にたたくのが手っ取り早い……それはそれで怖いよなぁ。

 だって、「あいつ」の教え子だろ? それだけで警戒するに値するよほんと。

 いやほんと、どうするか……



≪……マスター≫

「なんだ? 動きがあったか?」

≪否定。疑問提示。……マスターの行動が不明≫



 なにって……ストレッチ? いや、なーんかさっき軽く動いたときとか、あのクロスファイアとかいう魔法を斬ったときとかどうも感覚が鈍いんだよ。

 油が切れたっていうか……微妙に歯車がくるってる感じ? 微妙な違和感程度なんだけど、その微妙さが気になるって言うか、そんな感じ。



≪理解……安否確認≫

「あー大丈夫、そんな深刻なもんじゃないから。それよか、警戒を続けてくれ」

≪了解。――――警告。反応感知≫



 ――来たか。そう思うと同時に、俺は今いた場所から飛びずさる。直後、今まで俺がいた場所にオレンジの魔力弾が衝突した。

 それだけじゃない。今のを皮切りに、一気に誘導弾が襲ってくる。

 くそ、やっぱ時間を与えすぎたか……ラムダ、ティアナは!?



≪検索――反応増大。5……8……12……≫

「はぁ!? 待て待て、なんだそれ!?」



 つい声を荒げてしまったが……周りを見て納得してしまった。

 俺の周りの廃ビル群。そのところどころに、ティアナの姿が見える。

 そう、ところどころに。そんなあり得ないことが、実際に起こっている。

 ――これ、幻術魔法か……? また渋いとこついてきますねぇ!!



「こなくそ――――!!」



 ラムダをぶんまわして向かってくる弾丸を切り裂いていく。主に左右に振ることで長身のラムダによってほとんどがかき消され、または爆散するもののそれでも対処が間にあわない。

 ので、俺自身もかわしながらラムダを振るっていくんだけど……


 ……無理! いや、ラムダで消してるのほとんど幻影だし、さっき掠ったのは本物だし、これはマジで無理!!


 てなわけで、俺は判断を切り替えて一時撤退することにする。くっそ、こういうときにヤスのクレイモアとかがうらやましい。あんなの、あいつの能力がなけりゃ使えないっての。

 そんなないものねだりをしても仕方がない。ラムダの警告を基に当たりそうな魔力弾をよけたり斬ったりしながら逃げ回る。

 時にビルの影に隠れ、時にティアナの姿に突っ込み幻影をかき消し、ラムダを盾にして魔力弾を防いだりと頑張って。あぁ、もう頑張ったよ。ていうか幻影消すの疲れる。主に精神的に。

 その中で気づいたことがひとつ。ティアナたちの動きには法則性があること。

 それは――



「やっぱ、誘導か」

「その通りよ」



 周囲がビル群で取り囲まれながらも、今までよりも開けた一帯にたどり着いた。俺には隠れるところなんて、全くない。

 声が聞こえると同時に、周囲にティアナ'sが現れる。地面にいるのとビルの二階や三階から見える姿すべてを合わせると、大体二十弱か……?

 くそ、思いっきり全方位囲まれたし。



「クロスファイアを斬ったのは驚いたけど……流石にこれは防げないでしょう!!」



 叫んだ直後、周りのティアナから一斉に魔力弾が放たれた。地面から放った奴、そして高い所にいる奴と別れて上下から襲う魔力の雨となる。

 確かにこれは、俺には防ぎきれない。防御魔法を張ったとしても、きっと耐えきれないだろう。

 ――やっぱ時間与えすぎた。これは流石に拙い……けど。



「舐めんなっ!!」

≪Boost up.ACCEL≫



 身体全身を紅い魔力が覆う。俺の動きの全てが通常以上に「加速」し、俺は行動を開始した。

 俺に殺到するオレンジの魔力弾。それを視界にとらえ――回避行動。

 真下以外から迫る弾丸を、高速で、最小限の動きでかわす。視覚で脅威を捉え、今までの経験からくる感覚で凶弾を感じ取る。

 防げないなら、全てかわす。ただ、それだけのこと。

 スウェー、ダッキング、ステップ、時にはラムダを盾にして。

 豪雨のように襲い来る弾丸を、紙一重で避け続ける。

 ところどころ掠り、小さい痛みが走るけど無視。それを気にした瞬間、俺の身体は弾丸の嵐に飲み込まれる。

 俺から外れて地面や対面のビルにぶつかり爆散する魔力弾の隙間から、驚いた声が漏れ聞こえたように思う。幻聴かもしれないけど。

 そして、長いようで恐らくは数秒とかからなかった弾丸の嵐を――俺は乗り切った。

 紙一重で避け続けた結果としてバリアジャケットはそれなりにボロボロだが、直接ダメージはない。



「ふぅ……よし、なんとか凌いだ――」

≪後頭部!!≫

「――っとぉっ!?」



 ラムダの警告と同時に、振り向きながら開いた左腕で裏拳を放つ。俺の左手のガントレットとオレンジの魔力弾がぶつかりあう。その間には薄い紅の幕……ギリギリ局所プロテクションを張ること成功した。

 そのまま強引に腕を振り切る。弾かれたオレンジの魔力弾はそのまま突き進み、隣のビルの一角にぶつかって爆散。

 全て対処した後の硬直ないし隙を狙って、かよ。……あ、あっぶねぇ、今のはマジやばかった。つか、ほんと油断も何もしてくれないわけね。いや分かってるねほんと。

 でも、今ので仕留められなかったのは残念。今ので、大体分かった!



「そっちか!」



 背後、周りのティアナ'sのさらに奥にある廃ビルの三階の窓。そこにいるのもティアナだ。

 だけど、今の射撃角から見て本物! 誘導弾で軌跡を変えている可能性はあるけど……



≪魔力反応確定≫

「よし!」



 ラムダの検索の結果、あれが本物ってのは断定した!

 俺に見つかったことに気づいたか、ティアナはすぐに身を翻してビルの奥へ。

 逃がすか!



≪Boost up.ACCEL≫



 ラムダの詠唱と同時に再び俺の身体を紅い魔力が包み、それを感じて俺は走り出す。


 ――今のアクセル、そして最初に俺が使った魔法はブースト系の魔法だ。

 最初に使ったのはスラッシュ。斬撃の威力増加させる。

 そしてさっきと今使ったアクセルは、俺自身の「速度」を一時的に上げるものだ。

 元々俺は「当たれば終わる」から、防御魔法に難があるのでどうしても攻撃はかわす必要性があった。そのための魔法だ。

 とはいえ、少し使いどころが難しい魔法でもある。

 それは、この魔法は俺の「身体の速度」は上がっても「認識の速度」は上がらないからだ。

 つまり、身体はすごく早く動けるんだけど、俺の視界認識がそれに追いつかないってこと。あれだ、ジェットコースター乗ってると思ってくれ。周りの風景なんぞほっとんど見えないだろ?

 ファイズのアクセルフォームやカブトのクロックアップみたく、いくら早く動いても自分からすればいつもと同じ視界で周りがスローで動いてるように見える、というわけにはいかないのだ。このあたりはまぁ、他の高速起動魔法も似たようなもんだと思う。

 まぁ当然それをできるだけ克服するために特訓してそれなりに「認識」できるようにはなってるんだけどね。今回だって、一応は弾丸全部見切れてたし。

 そんなわけで、用途としてはこういう多方面からの攻撃に対する対処や、相手の翻弄や移動、並びにとどめのフルボッコくらいにしか使えないし使わない。

 ……まぁ、正直言えば疲れるんだ、この魔法。魔法で速くなっても、結局動くのは俺自身なんだから。効果が切れた後の反動がぶり帰ってくるのはいたしかたない。


 俺の戦術は、魔力強化に加えてこういった要所要所でブースト魔法を使う。

 元々ブースト魔法は、フルバックなどの後衛ポジションの魔導師が行うものだ。前衛の人間なら、一々自分でそんなことをしなくても普通に魔力強化すればいいし、最近ならカートリッジ機能を使えばそれで済む。

 なら、なんで俺は一々こんなことをするのか……それは、またあとで話すとしよう。



「シッ!」



 魔力強化とブースト・アクセルの効果で5秒とかからずビルに到着した俺は、勢いそのまま跳躍、一度二階の窓枠で足をかけてもう一度跳躍し、三階の窓があった場所から中へ侵入。


 ――瞬間、俺に迫っていた魔力弾をラムダで斬りはらう。


 斬られた魔力弾は俺の左右を通り抜けて背後で爆散。その奥、壁を背にしてこちらに銃口を向けたティアナがいる。



≪Flash move≫



 同じ加速でも移動のみに特化した魔法をかけ、次弾が放たれる前にティアナに接近。そして――ラムダを袈裟に斬りぬいた。


 ティアナは――揺らめいて、その姿を消した。


 勢いのままラムダを振りぬき、剣先が床に食い込む。そのままの勢いを利用して俺は地面を蹴った。

 直後、今まで俺がいた場所をオレンジの魔弾が通り、自分からラムダにぶつかって勝手に爆散。ラムダに傷はない。

 握った柄を支点に宙返りをし、足を壁につけて「着地」。そのまま、驚愕の気配を察知。それは――



≪10時方向。柱の陰より射撃≫

「分かってるっ!」



 今の俺の向きから左前方。その先にある太い柱の陰に、いる!



≪逃走反応≫

「逃がすか、よっ!」



 足裏に魔力を流してそれを接着面とし、壁を地面と見立てる。……ナルトとかがチャクラでやってるあれだ。いや、やってみると意外に難しいんだこれが。練習しといてよかったと今初めて思ったよ。

 さて、そんな足場とかした壁を踏ん張りながら剣先が刺さったままのラムダを、勢いよく振りあげる。



「紅破刃!!」



 刀身には真紅の魔力。それが切り上げと同時に魔力刃として放たれ、地面を抉りながら突き進み柱に激突。轟音を立てて柱は粉砕され、粉じんが舞った。

 やったか……? なんて生存フラグ、たてるまでもなくティアナは無事だろうことはわかる。ので、俺は壁を蹴ってその粉塵に飛びこむ。流石に視界が悪いが、奥に影が映った。

 それに向けて、下から切り上げの一閃を叩き込む!

 粉じんと一緒に斬り裂かれる影。今の剣風によって粉じんが少し晴れ――その先に一瞬オレンジが見えて反射的に動く。

 斬りあげた剣を即座に刃を返し、流れようとする慣性を無理やり殺して頭上からの唐竹割りへとつなげる。

 切り上げから斬り下しへの二段攻撃。そう珍しくもない連携をもって、影と更にその陰から迫っていた魔弾を斬り裂く。

 魔力弾を斬った感触を手にしたまま、軽く陥没するくらい地面を蹴って粉じんを抜ける。そこには――驚愕した顔のティアナ。



「おらぁぁ!!」



 地面を蹴った勢いをそのまま、俺はそのティアナの側頭部に向けて右足の飛び回し蹴りを叩き込んだ。

 ティアナは咄嗟にしゃがんで俺の蹴りを回避。そのまま俺に向けてクロスミラージュの銃口を向けるが、僅か遅い。

 かわされた回し蹴りの勢いをそのまま、左足での後ろ回し蹴りの威力に変える。追撃が来るとは思わなかったのか、驚いた顔をしながらもすんでのところで顔面に迫る俺の脚を腕で防御した。

 けど、元々かわすためにしゃがんだ状態だ。そんな体勢の悪い状態で、回転による威力の乗った俺の蹴りをティアナは受け止めきれなかった。

 腕が弾かれ、たたらを踏んでバランスを崩す。そこを狙って――とどめの、踵落とし。

 ティアナの左肩に、突き刺さる。手加減込みなので骨を砕いたりなんてことにはならないが、それでもかなりのクリーンヒットしたのは間違いない。手ごたえで分かる。



「ぁ、づっ……!」



 ――そう、手ごたえが、ある。幻影ではなくちゃんと本物だったことに軽く安堵し、着地しながら膝をついて左肩を抑えたティアナに向けてラムダを突き付けた。



「王手」

「……ぅ、く……最後の、防がれるとは思ってなかったわ」



 痛みのせいか少し涙目のティアナは悔しそうに言った。

 今の発言を敗北宣言とみなして、俺はラムダを右肩にかつぐ。……流石に「甘い!」とか言って撃ってくることはしないか。いや、そこが少しだけ怖かったりしたんだけど。



「まぁ、居場所がばれてそのままでいるわけないと思ってたしな。
 最初に魔力弾を撃って俺を焦らせて、本物と幻影の区別をつけさせなくする。で、本物と思って幻影を斬った俺の隙をついてとどめの一発……てところか。あれ、スタン効果とかつけてたろ? 後頭部にあたれば、一発で意識飛ばされそうな感じで」

「……正解よ。はぁ、完全に読まれてたか」



 悔しそうに言うけどな……俺は結構やばかったぞ? まさかいきなりブースト、それもアクセルを使うことになるとは思ってなかったしな。あれ、俺のとっておきの一つだぞ?

 さっきも、あの状況で咄嗟とはいえカウンターを狙ってくるんだもんな。最後だって、正直に言えば最初のけりで終わると思ってたのにあそこでかわすとは……いやほんと、一瞬でも気抜いたら俺がやばかったって。

 まぁ向こうが俺の情報を何も持ってなかったから勝てたようなもんだな。次やったら……どうだろ。ちょっと自信ないかもしれん。

 とりあえず……あー、大丈夫か? 思いっきり踵入れちまったけど。



「まぁ、ジャケットの障壁もあるしそこまでじゃないわよ。かなり痛かったけど」

「悪かったな、幻影か本物か確かめたかったんだ」

「分かってるわよ」



 そうか、それは良かった。にしても……あ゛ー疲れたー。ただでさえなんか違和感あったのにアクセルまで使ったから、すっげー疲れた。やっぱなーんか調子悪いなぁ。

 ので、ラムダを待機状態に戻して座り込む。これで初めて、ティアナと目線が同じになった。



『そっちは終わったか? ……どっちが勝ったんだ?』



 その時、唐突に開いたモニター。そこにいたのは、さっき話した赤毛の女の子だ。これでもティアナ達の上官らしい。



「ヴィータ副隊長。……すみません、私の負けです」

『そうか……いや、気にすんな。それよか、怪我はないか?』

「はい、一応は」

「ヴィータ。ヤスたちのほうはどうなってる?」



 上官を呼び捨てにされてティアナが睨んでくるけど気にしない。



『あいつらは……そろそろ終わりそうだな。自分で見てみろよ。アイゼン経由していいからよ』

「そうか。あー、ティアナ。悪いけど……」

「分かってるわよ」

「サンキュ」



 ティアナのクロスミラージュに、ヴィータのデバイスを経由してモニターデータを送ってもらう。俺、ヴィータのアドレス知らないし。ていうかまだモニター越しでしか会ってないし。いや、ティアナ達のも知らないけどね。

 俺とティアナの目の前の空中にモニターが開く。そこに映るのは、蒼い少年と青い少女が対峙する姿。

 そして、少年が持つ刀は、蒼く、鋭く研ぎ澄まされている。

 ――決めろよ、ヤス。




 ◆   ◆   ◆




「…………鉄輝」



 青い翼が、再びその羽を広げる。先ほどよりも強く、大きく。辺りに羽を散らせたかと思うと……飛び出した。

 ……全ては一瞬の事だった。飛び出した僕はスバルに接近。

 拳を僕にたいして打ち込もうとしている彼女に対して、アルトを左から打ち込み……そのまま斬り抜ける。

 夜の闇に染まり切りつつある世界を斬り裂くように、刃は閃光を生み出した。



「一閃っ!!」



 夜空に生まれた一筋の青い閃光が、夜の闇を……そしてスバルを、横一文字に斬り裂いた。

 スバルは、その直後にバランスを崩して乗っていたウィングロードから落下。

 結構なスピードで地上に……って、マズイマズイっ!!

 僕は、すぐにアルトを待機モードに戻して、アクセル・フィンを羽ばたかせて一気にスバルに接近。抱きとめる。

 ただ、タイミング的にギリギリだったので、こう……お姫様抱っことかじゃなくて、ホントにハグする感じで。

 スバルを抱いてから、空中で急停止。僕の周囲に、魔力光が、羽の形で夜空に舞い散る。

 でも、その光景に感歎とは出来なかった。こう……なんというか……ねぇ?

 初対面の女の子にハグしちゃったので、ちょっとこう、心臓の鼓動が……!!

 身長が同じくらいだから、顔がすっごい近い。つか、意外とボリュームがこう……どーんってあるの。



『随分と楽しそうだな』



 その時、聞こえたのは僕のよく知る声。

 戦いの場に現れた空間モニターに映るのは、ヴィータ師匠の顔。それを見て、思わず動揺する。



「そんなんじゃありませんよ。これでミンチにでもなられたら、困るだけです。やましい理由なんて、ないし」

『……とりあえず落ち着け。大丈夫、理論武装しなくてもアタシはちゃんと分かってるから』

「……それならいいんですけど」

『大丈夫だ。セクハラは重罪だけど、罪が軽くなるようにいい弁護士紹介してやるから。あ、差し入れももっていってやるよ。お前の好きなあそこの芋ようかんをな』

「アンタ一体何が分かってるつもりっ!?」



 ちょっと師匠っ!? なに一つ理解してないじゃないですかっ! 僕、マジでそういう感情ないしっ!!



『冗談だ。……それより、スバルはどうだ?』



 そこで、ようやく抱きとめているスバルの様子に気付く。……うん、気を失ってる。



『気ぃ失ってるようなら、これで勝負ありだな』

「……僕の勝ちって事で大丈夫ですか?」

『あぁ、問題ねぇよ。……また腕上げたな。見ててハラハラしたけど、中々だったぞ』



 ははは、いつもは手厳しい師匠からそう言ってもらえると嬉しいですよ。



「でも…………戒め、外しちゃいました。やっぱまだまだです」



 ここしばらく、頑張ってたんだけどなぁ。うん、まだまだか。



『ま、しゃあねぇだろ。中々じいちゃんみたいにはいかないってことだ。てゆうか、それで勝たれるとここまでスバルを鍛えてきた、アタシやなのはの立場が無いだろうが』

「無くていいんじゃないですか? 僕が楽ですし」

『ふざけてんじゃねぇっ! このバカ弟子がっ!!』



 きゃー! やっぱり怒られたー!!



『あ、それとスバルとティアナ達には戒めの事、ちゃんと説明しとけよ? そうじゃないと後でうるさいからな。つーか、口先で相手惑わすのはやめとけ。いや、本当に。お前らがそれやるとシャレ効いてねぇから』

「うぃ、了解です。……やっぱだめですか?」

『味方内でケンカしたくなきゃな。敵ならいいけど』

「ならそれで。僕は気にしませんし」

『アタシらがよくねぇに決まってんだろっ! お前、どんだけ他人に心開いてねぇんだよっ!!』



 冗談ですよ。ちゃーんと分かってますから。とにかく、今はやることやろうっと。

 恋人同士でも無いのに空中でハグは、アウトである。相手が気を失っているなら余計にアウト。

 なので、近くのビルの屋上までその状態で降りていって、スバルを一端そこで下ろす。

 なんというか、さっきも少し思ったけど、こんな細いんだね。

 それであの力が出せるんだから、恐ろしいというかなんというか……よっと。

 僕は、スバルを背中におぶって、そこからゆっくりと立ち上がる。

 これなら、ギリギリ……かな?



『おーいヤス、お疲れさん』



 突然師匠のモニターの隣にもう一個モニターが開く。そこにいるのは、別の場所でティアナとやりあってたはずのユウキだ。

 ……また元気そうだね。てことは?



『ま、なんとか勝てたよ。こっちはそっちよりもっと穏便に』



 モニターがずれると、今度はティアナが映る。確かに怪我した様子もなければ気絶もしてない。

 へぇ、やるじゃん。あんだけ嫌がってたくせに。



『思いっきり蹴られたけどね』

『気絶してハグよかマシだろ。しかし、ヤス……役得か?』

「うっさいボケッ!! 事故だよ事故!!」

『またまたぁ。実はちゃっかりたのしんでぐはぁっ!?』



 いきなり画面からユウキが消えた。その直前になんか鈍い音がして女の子の腕が高速でふるわれたのが見えたけど……あれだ、自業自得だよね。



「あー、師匠。シャマルさんいますよね?今からそっち連れてくんで、少し診てもらえるかどうか聞いてください」



 その画面はスルーして開きっぱなしの師匠の画面の方に言う。

 加減せずにぶった斬ったんで、ちょっと心配なのよ。

 非殺傷設定で斬ったから大丈夫だとは思うけど、思いっきりやったからなぁ。

 威力設定はアルトが責任もってちゃんとやってくれてたので、大丈夫だとは思う。

 あとは……お嫁にいけないとか、責任取ってとか言い出さないことを願うばかりである。



≪おめでとうございます≫

「はい、お前黙れっ!? つーか本当にそうなったら色々とアウトだよっ!!」

『ホントだよ。……で、シャマルには今伝えた。それなら、医務室に直接そのまま運んでくれるとありがたいそうだ』



 遠慮なくこき使う気かい。まぁ、いいけどさ。どっちみちそのつもりだったし。



『あと、お前も診ておきたいって言ってる』

「了解です。すぐに向かいます」

『キサラギとティアナもな。ついでに診ておくってよ』

『了解しました』

『い、てて……りょーかい』



 そこまで言うと空間モニターが消える。スバル背負いながら辺りを見回すと、もう真っ暗。遠くの方に、首都のネオンが見える。

 …………長い一日だったなぁ。まぁ、なんとか終わってよかったよかった。……ここから、半年かぁ。



「さて、アルト」



 さらば電王も観られないし、部隊なんて性に合わないのは、これでもう決定だよなぁ。

 来て一日目でこんなことする奴、きっと居ないもん。てゆうか、居たらビックリだよ。

 ……はぁ。まぁ、いいか。自分で決めた事だし、適当に通すか。放置も無理だしさぁ。

 とりあえず、僕は毎日この調子が続かない事を祈るよ。続いたら、いくらなんでも神経へし折れる。



≪はい≫



 ただ、いい憂さ晴らしと気分転換にはなった。戦うの、楽しいしね。そういう意味では、スバルにも後でお礼言わないと。

 これ、体育会系の歓迎会と考えれば、決してナシなわけではないし。ただ、色々ぶっ飛び過ぎなだけでさ。



「戻りながら反省会、しようか」

≪今やらないと、暇が無さそうですしね≫



 そうして、僕達はゆっくりと……いや、スバル乗せてるし、慎重にね。

 とにかく、スバルを背負いながら安全確実に、演習スペースを後にした。

 これが、今日と言う日に起きた一大イベントの終わり。

 あとは、シャマル先生の診療が怖いなぁ。何にも言われなきゃいいんだけど。


 ……………………機動六課、か。





 ◆   ◆   ◆





 ――――私が隊舎に到着すると、もう日は沈みきっていた。結構時間かかっちゃったな。

 ヤスフミ、もう夕飯食べたかな? もしまだなら一緒に食べて、色々話したいな。

 ここ半年、本当に色々あったから。うん、本当に色々あった。私もそうだし、ヤスフミにも。

 あ、エリオとキャロとも仲良くしてくれてるといいんだけど。初対面だし、ちょっと心配。

 そんな事を思って隊舎に入ると、目についた人影がある。

 ピンクのポニーテールに、凛々しさを感じさせる表情。

 …………シグナムが、向こうから歩いて来た。



「シグナム」



 なので当然、私は声をかける。



「あぁ、テスタロッサ」



 シグナムは私の声に気付くとこちらを見て、呼びかけに応えてくれた。



「今戻ってきたところか?」

「えぇ。それであの、ヤスフミ……今どうしてますか?」

「医務室だ」



 ……………………え?



「医務室?」

「そうだ」

「あの……怪我とか病気の時に、行く場所?」

「そうだ」

「シャマルさんの城?」

「そうだ」



 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! い、医務室っ!? いったいなにがどうしたっていうのっ!!



「少し事情があって、先ほどまでスバルと模擬戦を行っていてな」

「模擬戦っ!?」

「それで、今は二人一緒に事後検査だ。しかし、なかなかいい勝負だった。

 アイツも腕をまた上げたと、感心してしまった」



 シグナムのその言葉に、私は言葉を失うしかなかった。

 というかシグナム、論点はそこなんですかっ!? なんでそんなに嬉しそうなんですかっ!!

 ……なんでっ! まず、どうしていきなり模擬戦なんて話になるのっ!!


 そ、そうだよっ! はやてやみんなは止めなかったのっ!?



「あの、それで大丈夫なんですか?」



 主にスバルが。ヤスフミ、全く加減しないから。



「あぁ。問題ない。特にどこかを怪我したという事もない」



 そのシグナムの言葉に、一応は胸を撫で下ろす。……よかった。



「ただ、蒼凪の方が少しな」

「え?」

「詳しくはシャマルから聞くといい。ロビーでみんな集まって話を聞いているから、お前も行ってこい」

「あ、はい」



 一体どうしたんだろ? ……ひょっとして、模擬戦でなにか怪我をしたとかっ!?



「そう心配そうな顔をするな。それほど重い話ではない」

「そうですか?」

「そうだ。それではテスタロッサ、また後でな」

「はい、シグナム」



 そうして、私は、みんなが居るロビーの方へと、足早に向かった。

 でも……初日でこれなんて、これからどうなるんだろ。






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あきゅろす。
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