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頂き物の小説
第2話 『何事も最初が肝心。……なんだけど、なぁ』



「しっかし、こうやってみんなでここを歩くのも久しぶりよね」

「そうだね〜。なんか気持ちいいや〜」

「ゆりかご戦の後は事件の報告書の作成や後処理とかで、基本的にはアースラの中でしたし」

「部隊長もおっしゃってましたけど、やっと帰ってきましたね」



 そう口々に言うのは、私、スバル、それにキャロとエリオ。…………あの事件で壊滅した六課本部がやっと復旧した。

 事件解決から復旧作業が完了するまでの間、六課主要メンバーは次元航行艦・アースラにそのまま乗艦。

 それで、事件の事後処理を行いつつ生活していた。まぁ、アースラでの生活と業務は、特に不自由は無かったのよね。

 艦自体が長期間の次元航行での任務を目的として作られているだけあって、ちゃんとしてるもの。

 それでも、ここに戻ってきてなんだか嬉しいというか懐かしいというか落ち着くというか。

 とにかく、そんな感じだ。なんだか変だな。私、10歳の頃から寮暮らしで、根なし草も同然なのに。



「なんだか私、やっと帰るべき場所に帰ってきたって気がします」

「うん、その気持ち少し分かるよ。僕もなんだかここにいるとすごく落ちつく」



 どうやら、ライトニングの二人も同じ気持ちらしい。見てて、ちょっと微笑ましくなる。



「懐かしいのも落ち着くのもいいけど、気を抜いちゃだめよ? まだまだやる事は残ってるんだから」

「「はいっ!!」」



 ま、今日くらいは……よくないか。あり得ない奴が一人居るし。



「へへへ〜♪」

「なによ、なんかニヤニヤして」



 やっと復旧した機動六課の隊舎の廊下を、隊長陣を除いたフォワード陣で歩きながら色々と感慨深く話しているとそのうちの一人がずーっとにやけた顔をしている。

 私の隣りでニヤニヤしているのはスバル・ナカジマ。私の長年のパートナーになる。…………というか、なんでそんな表情になってるの?



「なんかさー、嬉しいな〜と思って」

「はぁ?」

「だって、隊舎も復活したし、こうしてみんな無事に帰ってこれたし、新しい人も来てくれたし、いいこと尽くめじゃない?」



 両手を大きく広げて、そう口にするスバルの言いたい事は、分かる。ただ…………なぁ。



「隊舎とみんなの無事は解るけど、最後の一つは正直微妙よ。アレはないわよアレは」



 言いながら思い出すのは今日の全体朝礼での一幕。

 今日から六課で仕事をする事になった一人の男。身長はスバルと同じくらいで細身の体型…………って、ちっちゃいわね。

 あと、女の子っぽい顔立ちで、栗色の髪と、黒い瞳をしたアイツ。年は私達と同じくらいよね? 正直そうは見えない。



「あれは、きっと私たちを和ませようとしてくれてたんだよ」

「いや、絶対違うから」



 それだけは断言出来る。あれは間違いなく素だ。

 てーかホントにそれでアレなら、色々と読み間違えてるから。



「ライトニングはどうよ。朝のアイツについて知ってることある?」



 アイツは、八神部隊長やなのはさん、フェイトさんの友達らしい。

 だから、二人……フェイトさんの保護児童ということになっているエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエは私達より詳しいかもしれないと思って聞いてみる。



「すみません、僕達も会った事があるわけじゃないんです」

「そうなの?」

「はい。いちおうフェイトさんから、一緒に暮らしている弟みたいな男の子が居るとは聞いていたんですけど」



 …………へ? 一緒にっ!? つまりそれは…………えぇっ!!



「あ、そういう意味ではなくてですね。なんでも海鳴の家の方に居候のようなことをしていたらしいんです」

「あぁ、なるほどね」



 この二人の保護者で、六課の隊長陣の一人でもあるフェイト・テスタロッサ・ハラオウンという人がいる。

 その人は、4年前まで、地球の海鳴という街で暮らしていた。その時に同居してたってことか。

 それで弟みたいだって言っていたのか。納得した。…………ってことは、アイツはハラオウン家の親族かなにかってわけ?

 でも、ファミリーネームが違うわよね。出身世界もなのはさん達と同じらしいし…………うーん。



「フェイトさんからは『前にも言ったけど、ちょっと変わっているけど、真っ直ぐでいい子だから、仲良くしてあげてね』とは言われてるんですけど」

「確かに、変わってはいるかもね」



 あの男については、事前になのはさん達から説明を受けている。なのはさんの友達で、あっちこっちの現場を渡り歩いている優秀なフリーの魔導師だと。

 名前は蒼凪恭文。年は私より一つ上。魔導師ランク、空戦A+とかだっけ。


 ――――魔導師には、能力を示すランクというものがある。

 陸戦・空戦・総合の三つの分類に、上から『SSS・SS・S・AAA・AA・A・B・C・D』と言った風に分けられる。

 あとは、0.5ランクを意味する『+』とか『−』が付いたり。


 まぁ、あくまでも目安みたいなものなんだけどね。

 ちなみに、私とスバル、エリオが陸戦B。キャロがCになる。

 で、新入りの空戦A+というのは、うちの隊長陣とまでいかなくても、なかなかに優秀な方になる。

 特に空戦…………飛行技能を持つ魔導師は、ある一定以上の技能や適性がないと、なれないの。なお、それが先天的なものか、訓練による後天的なものかは一切問わない

 とは言うものの、魔導師としての腕前は実際には見てないが正直微妙な感じがする。だって、アレだしね。



「そんなことないよっ! すっごく強いんだからっ!!」

「……アンタ、なんでそんなこと言い切れるのよ。つか、知り合いってわけじゃないんでしょ?」



 私の諦めも混じった発言は、胸を張って自身満々なうちの相方にあっさり否定された。

 …………また大きくなってる、私なんてまだまだなのに。



「だって、ギン姉から聞いてるんだもの」



 捕捉ね。ギン姉というのは、スバルの姉のギンガ・ナカジマさん。局で捜査官をしている人。スバルの魔導師の先生の一人で、優秀な陸戦魔導師でもある。…………あぁ、そういえば。



「ギンガさんの友達でもあるって言ってたわね」

「それで、事前に情報収集してたんですね」

「そうだよ。実力はギン姉の折り紙付き。性格はちょっと変わっててクセはあるけど、大丈夫だって、自信満々だったよ」



 あのギンガさんがそこまで言うんだから、実力はそれなりってことか。まぁ、そこは見てからよね。うん。



「でもね、ギン姉…………『会って仲良くなってからのお楽しみ』って言って、あんまり細かい事は教えてくれなかったの。
 あー、でも楽しみだな〜。ギン姉の話を聞いてたら、どんな感じか戦ってみたくなってさ。なのはさんたちに頼んで模擬戦組んでもらわないと」

「…………アイツの意思は確認しときなさいよ? 強引に話決めたら迷惑でしょうから」

「うん、もちろんっ!!」



 私の言葉に素直に返事をするスバル。……それを見て不安になるのはきっと間違いじゃないと思う。

 そして、脳裏を掠めるのはもう一人の新人メンバー。あの余りにもの登場をしたあいつのお陰で存在感が一気にかき消された、あいつとは違ってちゃんとした「男」と言っていい男。

 あっちの方は、特に聞いてない。ていうか詳しい人がいなかった。

 名前は、ユウキ・キサラギ。ランクはB-。それくらいしか私たちが持っている情報はない。まぁ見た目私たちより年上ってのは分かるけど。

 それはそれとして、今、私たちがどこへ向かっているかと言うと、デバイスルーム。デバイスマイスターのシャーリーさんに、訓練の再開前に私達のデバイスの調整と整備をしっかりとしておきたいと言われた。

 というわけでで一週間程前にシャーリーさんに、パートナー達を預けていた。

 そして、部屋の前に到着した。到着して、ウキウキしてるのが…………一人。



「マッハキャリバー元気かなぁ〜。なんかドキドキしてきちゃった」

「あんた、いくらなんでも大げさよ」



 とか言いながら部屋に入る。



「失礼しまーす」

「失礼するなら帰ってくださ〜い」

「す、すみません! 失礼しました!」



 そうして、私達は全員失礼しないためにデバイスルームから退出し…………って、ちょっと待った!!



「ちょっと邪魔するわよっ!!」



 再びデバイスルームに突撃する。そして居た。白黒の髪の男と、小さい男の子と、更に小さい小鬼が…………





魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝

とある魔導師と機動六課の日常〜古き鉄と黒白の友〜

第2話 『何事も最初が肝心。……なんだけど、なぁ』




 ◆   ◆   ◆




 ヤス、お前それはないわぁ……見ろ、リインの顔が般若面と化してるじゃないか。



「…………リイン、なんでそんな怖い顔で睨んでるのかな。ほら、可愛い顔が台無しだよ?」

「なに言ってるですかっ!? 怒っててもリインは可愛いんですっ!!」

「自意識過剰に磨きがかかってるねおいっ!!」

「というかっ! どこの世界にあんな事言って追い出す人がいますかっ!?」



 普通はいないな、普通は。だけどリイン、忘れるな。こいつは、普通じゃ、ない。



「え、吉本新喜劇でやってたよ? というか休みの日にいっしょに見たじゃないのさ。

 そしてユウキ、僕こそが世界のスタンダードなんだってば」

「…………お仕置きですーーー!!」

「いや、だって、てっきりシャーリーかと思って、本当にお客様とは思わな…………って、痛い痛いっ! 髪の毛引っ張るなぁぁぁぁっ!!」

「部隊を舐めるなですー! そんな事じゃ、みんなに総スカンされますよっ!?」



 お仕置きという名の二人のじゃれあいを少しはなれた位置から眺める。うん、眺めるだけだ。入ってきた少年少女らの困った視線が自然俺に説明を求めるようなものになっているけど、断固スルーさせていただく。



「あ、みんなどうしたの〜」

「あ、シャーリーさん」

「えっと、マッハキャリバーたちを受け取りにきたんですけど」

「あの有り様で」

「なんで、あの方がここにいるんですか?」



 所要で少し席をはずしていたシャーリー(愛称呼び捨ては許可をもらった)が戻ってきて、困惑していた子たちが一気に彼女に詰め寄る。それを聞き、更にヤスとリインのやりとりをして納得顔をした。



「あぁ、気にしなくていいよ」

「いや、そう言われましても…………気になりますって」

「さっき、ロングアーチに挨拶に来ててね。なぎ君のデバイスもちょっと見たかったし、ここに連れてきたの。私は今少しだけ出てたから」

「そうなんですか」

「まぁ、どうせなぎ君がなにかしたんでしょ。すぐに終わると思うから、入って入って」



 あぁ、やっぱり慣れてるなシャーリー。そして誰に対してもお前の認識はそうなってるんだなヤス。



「それじゃああの」

「お邪魔、します」



 おずおずと、彼女らはデバイスルームへと入室して各々のデバイスを受け取った。

 ……大丈夫かよ、こんなファーストコンタクトで。ふ、不安すぎる……




 ◆   ◆   ◆





 リインによるヤスに対してのお仕置きと言う名のじゃれあいが終了した後、俺たちは六課フォワード陣と対面した。恭文に対しての視線の大半が呆れとか、そういう類だったのはきっと気のせいじゃないと思う。

 そして、シャーリー先導である場所に移動していた。その間に、簡単な自己紹介をするのも忘れない。

 その場所は、食堂だ。朝昼晩、基本全部世話になるだろうからここは覚えておかないとな。

 ある「天の道を行き、総てを司る男」もこう言っていた。『おばあちゃんは言っていた。病は食から、「食」という字は、「人」を「良」くするから』、と。

 いや〜、この格言俺大好きなんだよな〜。やっぱあの人は最高だよ、うん。



「そういえば、蒼凪さん。シャーリーさんとリイン曹長とは知り合いなんですか?」

「親しいみたいですけど」

「うん。リインは魔導師成り立ての頃からの友達だし、シャーリーはフェイト経由でね。デバイスの事とかで相談に乗ってもらってるのよ。あと、オタク仲間」

「なるほど、納得しました」

「それで、キサラギさんはどうして来られたんですか? 蒼凪さんは、隊長がたからお話を伺ってたんですけど」

「基本こいつに巻き込まれて。こいつが依頼されたときに丁度通信越しに居合わせてね」

「そ、そうなんですか……」



 食事時の会話でそんなことを話す。話し掛けてきたのは、エリオとキャロと名乗った赤毛の男の子と桃色髪の女の子。

 ……ぬぅ、なんかやりづらい。ヤスの奴も、すごいやりづらそうだ。

 そんで助けを求めるようにリインに眼を向けるも、それに返ってくる反応はない。目に見えて、ヤスの肩が落ちた。



「うーん、みんなかたいなぁ」

「でも、初めて同士ですから」

「そうですね、これから遠慮が無くなっていきますか。というか、なぎ君相手にそんなことしてたら身が持たないですし」

「です」



 シャーリーとリインの会話だが、まるでヤスに対する遠慮がないな。わかるけど、ヤスのキャラ知ってると分かるけど。

 いや、まぁ、それはいいんだ。うん、それはいい。

 おかしいのは、今俺たちの目の前で起きている光景だ。

 大盛りとか特大盛りとか、そんなレベルでは決して無い、言うなればビックバン盛りと呼称してもいいだろうサイズに盛られも盛られたパスタやサラダ。早い話、俺たちが注文した食堂メニューだ。

 それが見る見る間に――――消えていく。その光景に俺とヤスは唖然としてしまった。



「…………なんだこれ?」



 ヤスが呆然とした声を出す。気持ちは分かる。俺は口にしないまでもこくこくと同じ意見だという意思を表しておいた。



「あんまり気にしないほうがいいですよ?」

「スバルもエリオも、いつもこれくらい食べるから」

「なん……だと……?」

「この量をいつも完食?」



 ポカーンとした表情を浮かべる俺たちに、補足を入れてくれたリインとシャーリーに、俺は信じられず、ヤスは二人に質問をした。

 ――これを、完食しているのかと。答えは違う所から帰ってきた。



「当たり前じゃないですか」

「ご飯は残すのはいけないことだって、フェイトさんから教わりましたから」



 あぁ、そうだよな。食事を粗末にするのは決していけないこと……っつっても限度があるだろオイィ!?



「まてまてっ! あなた方はあれかっ!! 胃袋が七つあるどっかの犬顔の宇宙人っ!?」

「もしくはあれだろ、身体がゴム人間だったりするのかお前ら!?」



 それくらいの存在じゃないとありえないから、絶対ありえないから! 大事なことなので二度言いましたがなにか!?



「蒼凪と、キサラギ…………だっけ? 気持ちは解るけど、気にしたら負けよ」

「大丈夫です。時がたてば、あなたにもこの光景が普通のものに見えてくるはずですから」

「…………あなた達も苦労しているんだね」

「ごめん、俺泣いていい?」



 心底疲れた声を出したのはティアナ・ランスターとキャロ・ル・ルシエ。それに俺たちは主に同情とかで色々垂れ流しそうになったり。

 こんな話をしている間にも、どんどん皿の上のパスタ&サラダは質量を減らしていく。原因は青髪の女の子と赤毛の男の子。

 ……やめよう。これ以上気にしたら、胃に何も入らなくなる。



「そういやリイン、この四人の教導担当って、なのはと師匠って聞いてるんだけど」

「そうです〜。スバル達は、なのはさん達が鍛えて育てている子達なんですよ〜」



 気持ちを切り替えるためだろう、ヤスがリインに聞いた。俺は口にパスタを放りながら話を聞くことに徹することにする。



「ということは…………ゆりかごやらスカリエッティのアジトやらで救出作業を行ったのって、この子達かな?」

「うん、スバル達だよ」

「なるほど、それで納得できたよ。…………噂は色々と聞いてるよ〜。なのはと師匠が手塩にかけて育てている未来のストライカー達が居るって」



 あぁ、なるほど。そういう手でコミュニケーションとるつもりか。言うなれば飴だな、おだてて話しやすくする。

 だけどこれは本当の話で、奇跡の部隊である機動六課の事を話すときに必ず出てくる事。

 ゆりかご内やスカリエッティのアジトに閉じ込められた歴戦のエース達。

 それを救出したのは、まだ年端も行かない少年少女達だったと。

 いやしかし、こんな子たちがねぇ。今の俺ならまだしも、この子ら、特に小さい二人くらいの時だったら絶対に無理だろうな。



「いえ、そんな」

「私たちなんてまだまだで」



 そう謙遜するのは、一組の男の子と女の子。

 桃色のセミロングになりかけな髪の女の子は、さっきのキャロ・ル・ルシエ。で、赤髪で堅苦しい印象の男の子の方は、エリオ・モンディアル。俺が今比例に出した二人だ。

 年のころは10歳前後ほど、か。……こんな子がガジェットとかいう機械兵器相手に一歩も引かずに戦い抜いたっていうんだろ? おいおい教導担当、どんだけしごいてんだよ。



「なに言ってるですか。恭文さんだって同じくらいの時には魔導師やってたですよ?」

「あー、そうだね。人の事は言えないや」

「いや、忘れるなよ」

「なかなかに面白い子が入ってきたと、当時のリンディ提督やレティ提督は喜んでたって、フェイトさんから聞いたけど?」

「「そうなんですかっ!?」」



 おー、ちびっ子コンビが凄い勢いで食いついた。その息の合いっぷりはお兄さんびっくりだ。



「えっと、年は18って言ってたわよね。そうすると、魔導師暦7、8年…………私たちよりずっと先輩じゃない」

「あーでも、経験だけあるって話で、なのは達みたいにすごいわけでもなんでもないから。それを言ったら、ユウキだってそうじゃない」



 うが、そこでそう振るかお前っ。



「そうなんですか?」

「あー、まぁ、な。つっても俺もヤス同様、そんなでもないよ」

「キサラギ君に関しては私も分からないけど、なぎ君に至ってはそんなことないと思うけどね〜。だって、色々噂立ってるじゃない」

『噂?』



 なんだ? こいつに噂が立つのは珍しくないけど、シャーリーの言い方には何やら気になる含みが混ざったように思えるんだけど。



「そう、あるのっ! ある人曰く…………なのマタっ!! あ、なのはさんも寝ているなぎ君は起こさないようにまたいで通る位に強いって意味ね」

『えぇぇぇぇっ!!』

「…………シャーリー」

「なに?」



 ベシっ!!



「うん、フカシこくのやめようか。あんまり過ぎるとデコピンするよ?」

「い、今したよね? 相変わらず容赦ないなぁ」

「当たり前じゃぼけっ! あれかっ!? 2話目でこの話終わらせる気だったんでしょっ!! お願いだからその中途半端なパクリはやめてっ! 権利関係は怖くて痛くてそして強いんだよっ!!」



 あー、怖いねぇー。でもお前の発言も十分あれだよ。

 そして周りほったらかしの二人のうちデコピン食らったシャーリーはというと、何故か感慨深げだ。



「なんというか、そのツッコミも久しぶりだなぁ〜。私はなんか嬉しくなってくるよ」

「うん、それはいいんだけど本当にやめてね? いや、お願いだからさ」

「まぁでも、優秀なのは間違いないから。私も色々見てたし。…………私達の輪の中では、ちょっと変わり者だけどね」

「シャーリー、失礼な事を言うな。僕は世界のスタンダードだよ」

「ヤス、それはない。お前がスタンダードだと世界は大変なことになる」

「ユウキ……分かり合えないって辛いよね。ほら、もっと世界を見つめなおしてみなよ?」

「俺が悪いみたいに言うな!!」



 シャーリーとヤスのやり取りに混じった俺も加えて、それを見るフォワード四人は…………あぁいかん、呆気に取られてる。

 まぁでもすまん、慣れてくれ。ヤスはこういうやつで、シャーリーとヤスもいっつもこんな感じだろうから。



「…………あの、蒼凪さん」



 俺が色々と心の中で謝ったりしていると、ナカジマがヤスに声をかけた。なぜか神妙な顔で。



「はい、なんですかナカジマさん」

「あ、私の事はスバルでいいです。敬語じゃなくても大丈夫ですから」

「そうなの? …………なら、僕のことも恭文って呼び捨てでいいよ。敬語も無し」

「いいんですか?」



 ヤスは即頷いた。まぁ、こいつは敬語で呼ばれるのをあまり好かないからな。



「あ、キサラギさんも。蒼凪……じゃなくって、恭文みたいに、呼び捨て敬語なしでも」

「ん、そうか? じゃあ遠慮なく。あぁ、俺もヤス同様以下略、でいいから。俺もユウキでいいし」

「い、以下略って……」



 ナカジマ……じゃない、スバルか。スバルが苦笑するが気にしない。ていうか、今まで心の中じゃ既に呼び捨てだったからな。



「で、話は何?」

「うんと…………恭文って、私のこと知らない?」

「…………はい?」



 …………おおぅ。すごいな、スバル。これってあれだろ? ナンパの常套句ってやつだろ?

 見かけによらずアグレッシブな子なんだなぁ。



「ほらリイン、だから僕の言った通りでしょ? 自宅警備員の方が、いいかも知れないと思うことになるって」

「スバル…………また濃いアプローチしますね」

「違いますからっ!! …………いや、だから、私のこと…………ギン姉から聞いてない?」

「聞いてるよ。というか、写真も見せてもらってるし」



 コンスメスープ啜りながらサラッと答えた恭文に周りが固まった。特にスバルが。



「えぇっ!? だ、だってさっきまで普通だったしっ!!」

「当然でしょ。スバルと会うのは初めてなんだから。距離感測ってたのよ」



 ギン姉って……あぁ、たまにヤスの話に出てたこっちで知り合った女の子のことか。

 確か、フルネームはギンガ・ナカジマ、だったかな。



「でも、スバルがギンガさんの妹…………うん、納得したわ」



 で、このスバルはそのギンガって子の妹、と……なるほどね。で、ヤスは納得できる要素が分かっているようでしきりに頷いてる。



「大食いなとことか?」

「あと、妙に距離感が近いというか、強引というか…………そんな感じがひしひしと」



 ランスターの言葉に同意するヤス。……あぁ、そうか。君、この子に振り回されてるんだな。

 ちなみに言っておく。今振り回してるのは、お前だ。

 あれ、なんだろう。今シャーリーと非常にシンパシった気がしたぞ?



「それでね、一つ質問があるんだけど」

「なに?」



 とてつもなく目をキラキラ輝かせるスバル。余りにも身を乗り出しすぎてるのは気のせいじゃないな。



「うんとね、恭文は魔法はどんなの使ってるの? 具体的な戦闘スタイルは? デバイスは?」



 更にずいずいと恭文へと身を乗り出す青い子。

 ……なるほど、距離感近くて強引、ね。納得したわ。



「というかさ、ギンガさんから聞いてないの?」

「ギン姉は、細かいことは教えてくれなかったの。フロントアタッカーということだけしか」

「なるほど」



 へぇ、そのギンガって子、こいつのことちゃんと理解してるな。こいつ、自分の手札知られるのは極端に嫌がるし。



「秘密」



 そして、スバルに対して出した恭文の答えはその一言。ただし、左手の人差し指を縦に唇に当てながら。

 それに俺以外は全員ずっこけた。俺は、まぁ苦笑、だな。



「えー、なんで? いいじゃん教えてよ〜」

「と言われましても、そんなに一度に聞かれても答えられません」

「じゃあじゃあ、一つずつでいいからさ。ね?」



 ほんと、気になったことがあったらとことんって感じだなこの子。んー、俺に話が振られませんように。

 さて、こういわれて恭文はどう答える?



「…………上から75・55・76」

「ぶふっ」



 そうくるかっ! 予想外すぎて軽く噴出しちまったよ!!

 ……あー、俺が悪かった、だからそんな痛い目で俺を見るのやめてくれランスター!!



「それスリーサイズだよね!? 誰もそんなこと聞いてないしっ! というか、私より細っ!!」

「そなの? ちなみにスバルはいくつかな」

「えっと、上からはちじゅ…………って、なに言わせるのっ!!」

「だって、僕が答えたんだからスバルだって答えなくちゃ不公平でしょ?」



 そこで等価交換とか言うのやめろよ、お前。



「あ、なるほど…………って、なんでそうなるのー! てか、なんでそんなに細いのっ!?」

「知りたい?」

「うんっ!!」



 頭をブンブン振り、頷くスバル。……そんなに知りたいのか。いや、その辺必死だね女の子。



「ヒミツ」

「どうしてっ!?」

「男は秘密というヴェールを纏う事で素敵になるのですよスバルさん。…………というか、そこは察して。いや、本当にお願いしますから」

「……あ、うん。その……ごめん」



 その辺はこいつの身長が伸びない理由とか色々関係してくるからなぁ、上手く答えられないだろ。

 ……違うか。答えたくないんだな。



「ユウキ、今失礼なこと考えなかった?」

「気のせいだ」



 相変わらずこのネタに関しての鋭さは異常だなお前……



「スバル、なんでそこまで僕の戦い方に興味があるのよ?」

「ギン姉から色々話を聞いてね。それに、恭文フロントアタッカーなんだよね? 私もそうだし」

「…………スバル、フロントアタッカーなの?」



 ヤスが聞くと、スバルは頷いた。

 フロントアタッカーってのはチームを組んだ時のポジションの話だ。敵に突っ込んで攻撃と防御能力を生かして防衛ラインを守る、最前線での「生存能力」を問われるポジションだ。

 で、スバルがここまで気にするのは恭文と同じポジションだから、と。なるほどね。同じポジションの人の戦い方を見るのは、参考になるだろうしな。



「でしょ? だから、どんな風なのかなって思ってたんだけど」

「うん、それなら納得だわ。とは言っても…………そんな面白いとこはないよ?

 使ってる魔法も近代ベルカ式の比較的単純な物だし。…………そういや、スバルも近代ベルカだよね」

「そうだよ、シューティングアーツ」

「ギンガさんから教わってたんだよね」

「うんっ!!」



 恭文の言葉にスバルは嬉しそうに答えた。大好きなんだなぁお姉ちゃんのこと。

 さて、今出た「ベルカ式」についてだが、これは俺たちが使う魔法の術式の一つだ。

 主に近接戦を主に置いた魔法形態で、その実力は一対一での戦いで最大限発揮される。つってもどうしてもその辺は個人差あるけどな。

 で、更にベルカ式には「古代ベルカ式」と「近代ベルカ式」に分かれたものがある。

 古代ベルカ式は何百年も前に存在した古代ベルカ文明の「騎士」たちが使用したもので、近代ベルカ式はそれにミッド式をあわせたもの。

 いうなれば、より凡庸化されたものって感じかな。

 もうひとつは「ミッド式」。正式名称「ミッドチルダ式」。これは言うまでもなく、ここミッドチルダが発祥の魔法形態。

 ベルカ式と真反対で、近接主体の個人戦を得意とはせず、中・遠距離主体の集団戦を主とした術式だ。詳しく言えば、魔力の使用でさまざまな事象を操るのが得意。

 そんで、ヤスとスバルは近代ベルカ式ってことだな。



「僕は、普通よ? 普通の近接アタッカー。そんな大したレベルじゃない」

「でも、さっきのシャーリーさんの話だと」

「そんなの大半はホラだから。つか、みんなの方が凄いでしょ。
 だって、ナンバーズやらガジェットやらとやりあってなんだかんだで勝ってるんだし」



 普通、ねぇ……こいつの実力を知っている俺からすれば、こいつは充分「普通」に収まらないことは知ってる。まぁでも、ヤスの言も一理あるんだよな。

 論より証拠。噂より実証。なの○タはちょっとどうかとも思うが、そんな適当な噂よりも純然たる事実の方が上なのは確かだ。



「そっちはどうなの?」

「……あ、俺か?」

「他に誰がいるのよ。ていうか、私もスバルみたいに呼び捨てでいいわ」



 それまた助かる。ていうか、ここで俺に話が振られるとは正直思ってなかったな……



「俺も普通だと思うけどねぇ。魔力資質も高いわけでもないし、術式もミッド式だし」



 いや、普通じゃないでしょなんて視線をヤスから感じるが気にせずぱくりと、適当に巻き取ったパスタを口にほうばる。てか、俺はマジで普通だぞ? お前みたいにニアレアスキルとかもってないし。

 まぁでも、変わってるといえば変わってる、か?

 ……うん、ほんとここの食堂の料理は美味いな。これなら毎日ここで食ってもいい。ていうか、食うことになるだろうけど。



「あの、ベルカ式ということは、蒼凪さんは騎士なんですか?」



 同じくパスタを一口食べて幸せそうな顔をしているヤスに、スバルに次いで食いついたのはエリオ・モンディアル。この年で一端の前線メンバーなんだから、ほんと驚きだ。

 ……しかし、ヤス。なんでそんな苦い顔だ?



「エリオで大丈夫ですよ?」



 あぁ、そりゃどうも。

 では訂正して、もといエリオ。ヤスに問う彼の眼は、何やら燃えているように見える。



「いや、僕はベルカ式使うけど、師匠達と違って騎士の称号は取ってないのよ」



 騎士、というのはベルカ式を扱う魔導師が名乗る呼称のことだ。

 とはいえ、万人がそうというわけじゃないらしい。俺も何人かベルカ式の知り合い入るけど、騎士って名乗る人はそこまでいない。



「そうなの?」

「うん。なんというか、ガラじゃないしね。というか、僕は魔導師…………魔法使いの方が好みなの。ほら、響きがこっちの方がかっこいいもの。だから騎士は、師匠達に任せてる」

「ふーん、そうなんだ。…………ね、実は一つお願いがあるんだ。私、模擬戦やりたいんだけど」

「スバルと? いいよ〜」



 ……おい、また軽く約束したな。さっきまでの対応とは大違いだな。



「いいの?」

「待って、なぜ確認するの?」

「だって、なんか急に素直に答えたし。さっきは『秘密』ってはぐらかしたのに」

「…………あぁ、そっか。いやだなぁスバル。いじめて欲しかったならそうだっていってくれ」

「怒るよ?」



 よし、ヤス謝れ。今のスバルの単色瞳とその握られた右拳が俺は凄く怖い。

 ヤスも怖かったのか、素直に頭を下げていた。



「でも、なんで急に素直に?」

「別に大した理由じゃないよ? 僕も腕がなまるのは嫌だし、定期的な模擬戦はむしろ歓迎ってだけ」



 確かに、表向きな理由は人手不足の事務整理ってことだし、仕事内容もそっちが多くなるだろう。となると、どうしても訓練が疎かになりかねない。

 となれば、ヤスの言うように定期的に模擬戦をするのはいいことだと思う。

 ……まぁ、こいつの場合それだけが理由じゃないだろうけど。



「ホントに?」

「ホントだよ」

「そっか。恭文、ありがとっ!!」



 あっはっはっは。スバル、とんでもなく嬉しそうだなぁー。お兄さん、君に尻尾が生えている幻覚が見えるぞー? しかもブンブン振りまくってる。



「まぁ……あれよ、諦めなさい。スバルに興味持たれた時点で、こうなるのは決定事項だから」



 言葉通り、加えて何処か疲れた表情を浮かべるランスター、もといティアナ。

 ――そしてヤス、そこでリゲインはグッジョブ。あれ、思いのほか効くんだよな。



「飲まないわよ。……あと、あんたも私のことはティアナでいいわよ」

「思考を読むのはやめない?」

「あ、私もキャロで大丈夫ですから」

「うん、そんなに僕の考えてることは分かりやすいのかな?…………いや、答えなくていい。もう分かったから」



 こういうときのお前は、結構分かりやすいよな。うん、決して主人公によくある「モノローグが読まれる」なんてことでは決してないぞ?



「まぁでも…………さっきも言ったけど、同じポジションの人間の戦い方を見るのは楽しいし、実際にやってみるのも面白い。
 だから、スバルと模擬戦するのは、得られる部分も多いはず。しかし、スバルもシグナムさんと同じ人種だったのか。うん、仲良く出来そう」

「どういうこと?」

「だから、戦うのが大好きなバトルマニア」

「違うよー! 私は、戦う事自体は好きでもなんでもないよっ!?」

「嘘だッ! そういうことを本気で思ってる人間はね、初対面の人間と模擬戦やることになったってそこまで嬉しそうな顔はしないんだよっ!!」



 そうだな……普通はしないよな。俺が知る限り、同じような反応をする人は全員恭文の言うように「バトルマニア」だ。

 周りを見れば、他のみんなも『うんうん』と全力で頷く始末。



「別に、そういう訳じゃないんだけどなぁ」

「じゃあ、どういうわけなの?」

「うんとね、さっきも言ったけど、ギン姉から色々と聞いてたの。

 それで、どんな感じがすっごく気になってて」

「…………納得した」



 するのか……いや、分かるけど。すっごく分かるけど。

 あぁー落ち着けヤス。漏れてる、なんか黒い思考が漏れてるっ。



「ね、それでいつする? 私は今日この後すぐでも大丈夫」

「まてまて、身を乗り出すのやめないっ!? お願いだから落ち着いてっ!! …………いくらなんでも、教導官の許可無しでいきなりやるわけにはいかないでしょ」



 そりゃ、そうだよなぁ。教導に何も言わずに勝手に模擬戦は、さすがに拙いだろ。

 というか、それはそれで問題……になる、のか?



「まずは教導担当のなのはなり、ヴィータ師匠の許可をちゃんと取ってくる事。許可さえあれば、教導官権限で仕事の方は何とかなると思うし、僕は身体さえ温めれば今日でも動ける」

「わかった。じゃあ、絶対に許可取ってくるから、そうしたら必ず相手してね」

「いいよ〜。約束するからいつでも来なさい。むしろ待ってるから。あと、許可が出ないようなら僕からもお願いする。双方の意志なら、納得してくれるだろうし」

「いいの? ……あの、えっと……ありがと」

「どういたしまして」



 そうして、二人の模擬戦はやることに決定した。いや、それは別段いいんだけどなぁ……



「ヤス、いいのか……? お前徹夜明けだろ?」

「あー、流石に今日すぐに許可は出ないでしょ。早くても明日とかその辺だって」



 ……ま、そうだよな。教導官たちが考えるこの子らの育成メニューとかあるだろうし、それに幾らなんでも着任して即模擬戦なんてさせないだろ。

 俺は浮かんだ不安をそう思って払拭しながら、ヤスに約束をしてもらって嬉しそうな青髪の女の子を筆頭にした、今日から一緒に働くことになるフォワード陣の少年少女を見た。

 その後は、みんなでワイワイ言いながら食事を終了。後片付けをしっかりとする。

 オフィスでデスクワークに入るという四人とシャーリーを見送り、再び隊舎見学+挨拶回りツアーを再開した。

 そして、この後事件は起こる。というか、起こってしまったというか……

 これだけは言っておこう。

 ――この事件は、このバカのせいで起こったといっても、過言ではないと。



「勝手に人のせいにしないでくれないかな!?」

「どう見てもお前のせいだよ!! このバカが!!」




 ◆   ◆   ◆




 時刻は既に夕方。ミッドの湾岸部に設営されている六課隊舎は、当然海に近い。

 ここ、六課所有の陸戦演習スペースに関して言えば、海上に設置されているくらい。

 海沿いから見る夕焼けは実に感動的で、見ているだけで胸が切なくなるような美しさを放つ。

 放ちながらも、太陽はゆっくりと地平線へと沈んでいこうとしている。

 もうあと10数分もしないうちに、空は漆黒の闇へと色を変えて、人々を眠りに誘う。

 …………我ながら、詩人だ。でも、疲れるからこういう表現はもうやめようっと。

 で、そんな時間になぜ僕がここにいるかというと、別に夕日を見るためでもない。

 そして、見学ツアーのコースというわけでもない。……原因は目の前の女の子。



「恭文、約束通りヴィータ副隊長の許可を取り付けたよっ! 私は全力で行くから、恭文も全力で来てっ!!」

「……まぁ、アンタ達も諦めなさいよ。普通にこの子、聞かないから」

「……ヤス、やっぱりお前のせいだって。ほら、素直に謝っとけって、俺に」

「うっさいわボケっ! 僕だって予想外だよっ!!」



 白のシャツに厚手のズボン。なお、訓練用の服装。

 そんな格好をして気合充分なスバルとなんか申し訳なさそうなティアナを見て、僕とユウキは頭を抱えていた。

 なお、僕も同じ格好。…………あの後、リインに六課の駐機場に案内された。

 ちょうどそこに居たシグナムさんとヘリパイロットのヴァイスさん、それにロングアーチスタッフのアルトさんや整備員の方たちに挨拶。

 ……ここまでは平和だった。だけど、突然ヴィータ師匠からのここへの呼び出しがかかった。これが悪夢の始まりだった。

 なお、師匠は、病院の定期検診に行ってた。……どうりで姿を見かけないと思ったよ。

 で、行ってみると既に着替えてそこに居たスバルから自分の予備のトレーニング服を渡された。

 ユウキの分はなかったので(サイズ的な意味で)、仕方なく着てた上着を脱いで嘱託のインナーに着替えていた。ていうか着替えさせられていた。

 スバルのはサイズは同じだったけど、胸がブカブカだったよ。それで成長具合とかが、色々分かった。

 その場で着替えて(というか、着替えさせられました)スバルに促されて、一緒に軽くウォーミングアップ。


 で、それが完了すると次の段階へレッツラゴー。シャーリーと師匠が、素早く動く。

 海上の無機質な六角形のパネルが敷き詰められた平面状のスペースが、変化を始めた。

 一瞬で廃墟の市街地へと姿を変えた。ここで模擬戦を始めると言われたのだ。


 ……なんですかこれっ!? 改めて考えると訳わかんないしっ! てーか状況に流されまくってるよ僕っ!!



「…………悪いスバル。ちょぉぉぉぉっと待ってもらえるかな?」

「なんで?」 

「いや、これなに?」

「え? 模擬戦」



 うわ、さも当然って言わんばかりの顔で言ってきたよあの豆柴。つか、肝心な所が伝わってない。



「なんでいきなり模擬戦?」

「だって、恭文は『教導官の許可さえ得られればいつでも相手になる』って約束したよね。…………嘘だったの?」



 あぁ、もう。頼むからそんな泣きそうな顔はやめてー! 罪悪感が沸いてくるからっ!!

 そして、極端過ぎるわボケがっ! アレかっ!! おのれの辞書には、白と黒しかないわけっ!?



「違う違う、そうじゃないよ。……そうだね、約束したよね」



 こんなにすぐにやることになるとは思わなかったけどね。



「でしょっ!? だから、やろうよ模擬戦っ!!」



 うわぁ、マジで白と黒しか無いんだ。あのねスバル、人生にはグレーゾーンって必要なのよ?

 そういうのを許容することが、大人になることだと僕はちょっと思うんだ。



「うん、やるのは構わないんだけどさ」



 何かが色々と間違っているような気が、しないでもないけど。

 ……よし、スバルの発言に関しては気にしない方向で行こう。気にしたらきっと負けだ。

 きっと、あれなんだよ。やっぱりこの子、ちょっとだけ電波なんだ(失礼)。



「あーそれとさ、さっきから気になってたんだけどアレはなに?」



 そう言って、僕は指を指す。方角は隊舎の方。そこには、人数にすると数十人というギャラリーがひしめいている。

 フォワードの残り二人に、はやてにリイン、グリフィスさんにルキノさん、ついでにシャーリー。

 さっきまで一緒にいたアルトさんとヴァイスさん、ライトニング分隊副隊長のシグナムさんにシャマルさんとザフィーラさん。

 あとは……バックヤードスタッフの人たちに、駐機場に居た整備員の人たちかあれは?

 ちなみに、整備員の人達はみんな気が良くていい感じの人たちだった。……女性には、縁が無さそうだったけど。

 とにかく、結構な人数がこの演習スペースに視線を集めている。

 というか、ここからでも楽々視認出来るくらいの大型モニター立ち上げてるし。



「みんな、恭文とユウキと戦うって言ったら、応援してくれるってっ!!」

「あぁ、応援……ですか」



 どことなく、宴会というかお祭り騒ぎなノリが感じられるのは気のせいではないと思う。

 ……もしかしなくても、あいつら……楽しんでやがるっ!?

 頼むから仕事してよエリート部隊っ! なんで復活初日にこんなお祭り騒ぎを傍観してるんだよっ!?


 つーか止めてよっ! 具体的に言うとシグナム副隊長にグリフィス部隊長補佐っ!!

 ……そうそう、そうだよあなた方だよっ! 今僕と目が合ったおのれら二人だよっ!!

 部隊長がアテにならないのは分かってるから、おのれらしかいないのよっ!!


 ……流されたっ!? なんか『諦めろ』ってオーラ出されたしっ!!



『うし、それじゃあそろそろ始めるぞ。四人とも準備しろ』

「はいっ!!」

「はい」

「えぇー……」

「師匠」



 いきなり発動した空間モニターに映る顔は、僕の魔法戦闘の先生。

 そして、機動六課スターズ分隊の副隊長。ヴィータ師匠だ。

 まぁ、無慈悲にもこの模擬戦の許可を出した人物と言える。

 お願い師匠。もう師匠しか居ないんです。色々と手遅れな気がするんです。

 でも、きっとそれは気のせいですよねっ!? もうなんでもいいから助けてっ! 怪我の事黙ってたのは、もう何も言わないからー!!



『バカ弟子、いきなりで悪いが諦めろ。つーかお前が悪い』



 師匠まで毒されてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 更にあんたまで言うか!?



「つか、なんでそうなります!? か弱い子羊いじめて、なにが楽しいんですかっ!!」

『うっせぇバカタレっ! つか、お前らはか弱くもなければ子羊でもねーだろっ!!』

「師匠よりはか弱いですよ」

『よし、もうお前地獄へ行けっ! つーか、アタシが叩き落としてやるっ!!

 ……どーしてもこうなる理由が分からないなら、教えてやるよ』



 ほう、だったら教えてもらいましょうか。僕が何したって言うんですか? 何もしてないでしょ。基本的に頑張っただけだし。



『スバルに、アタシやなのはの許可さえあれば、別に今日でも構わないって言ったそうだな?』

「えぇ。言いましたけど、それがなにか?」

『アイツ、普段はちっとばかし気が弱いクセして、こうと決めたら異常に押しが強いんだよ。
 アタシが何言っても今すぐやりたいって聞きやしなかったぞ?』

「…………マジですか?」



 副隊長……というか、直属の上司である師匠の話をいっさいがっさい押し切って、ここにまで持ち込んだっていうの?

 待って待ってっ! どんだけ押しが強いんだよスバルっ!?

 いや、あのギンガさんの妹なんだから、ひょっとして当然だったりする?



『そうだ。…………ったく、こっちは検査帰りだってのに、アイツの相手に模擬戦の準備でむちゃくちゃ疲れたぞ?』



 すみません。知らなかったとは言え苦労かけしました。スバルの方を見ると、笑顔でガッツポーズなどかましてるし。

 だぁぁぁぁっ! 余計なこと言わなきゃよかったぁぁぁぁっ!! てか、シャーリーもリインも、知ってたはずなんだからそういう事は早く言ってよっ!!



「……ほら、やっぱりお前のせいじゃないか。謝れ、全俺に謝れ」

「だが断る! ……と言いますか、師匠。この話、聞かされた時から気になってたんですけど」

『なんだ?』

「どうしてそんな『してやったり』って言わんばかりの悪い顔してるんですか」



 僕の問い掛けに、師匠は遠慮なく答える。さすがは師匠。とっても大人だから、僕の欲しかった答えを。



『気のせいだ』



 …………くれなかった。



「いや、気のせいじゃないでしょっ!? 今、頬が明らかに緩んだしっ!!」

『……ま、正直に言うとだ。アタシとしてもお前とスバル達をやらせたかったからな」



 あぁ、そういうことですか。で、スバルからいい感じで話が来たから、ここでやっちゃおうと。

 うん、僕の都合とか完全無視なのがアレだけどもう慣れた。本当に慣れたから。

 とにかく、こうなったらやるしかないか。約束はしてるわけだし、それはちゃんと守らないと。



『そういうこった。それに、お前だってこないだまでがしがしやってたろ』



 やってましたねぇ。非常にめんどい感じでがしがしと。



『師匠としてはそういうの抜きにしても、その中でどれだけ腕上げたか気になるんだよ。

 つーわけだから見せてくれよ。期待してるからな?』

「…………まぁ、師匠の期待に応えられるかどうかは分かりませんけど、スバルとは約束しましたから。
 それはきっちりとやらせてもらいます。あ、それと一つ確認です」

『なんだ?』



 …………一応ね。敵ってわけじゃないから、確認。



「いつものノリでいいんですよね?」

『かまわねーぞ。ま、簡単にはいかねーとは思うがな』



 また楽しそうに笑う師匠を見て、僕は気を引き締めることにした。

 …………相当自信ありげってどういうことだろ。なんにしても、油断は禁物かな。



「それだけ聞ければ充分です。んじゃま、行って来ます」

『おう、キバっていけよ』

「まて、まて、まて」



 空間モニターが消える直前、今まで黙っていたユウキが待ったをかけた。

 ……なにさ、ユウキ。ここまできてまだごねるのは空気読めてないよ?



「分かってるよ。でも言わせろ。……その事情だと俺とティアナは関係ないよな!?」



 確かに、今の師匠の言い分だとユウキがティアナと模擬戦をする理由はない。

 ……でもね、ユウキ。さっきも言ったけど、今更それを言うのはもはや無意味だよ。



『お前が、あれだろ? バカ弟子と一緒に来たって嘱託魔導師。ついでだからお前の実力も見ておきたいんだよ。ていうかいきなりタメ口か……』

「悪いな、俺そういうスタンスなんだ。ていうかついでで巻き込むんじゃねぇ!? ティアナだって迷惑―――」

『してるか?』



 師匠に言われてユウキがティアナの方を見ると……



「頑張ろうね、ティアっ!」

「あー、はいはい……あんたのことだからこうなるとは思ってたわよ。まぁ、あたしも向こうの実力見てみたいしね」



 すっごいやる気な少女と、それなりにやる気な少女がいた。

 ていうか、ティアナは止めると思ってたのに。これは僕もちょっとびっくりだ。



「……くそう。分かってたよ、分かってたさ。やればいいんだろやれば……」

『その通りだ。ま、頑張ってくれ』



 そして、空間モニターが消える。残るのは、夕暮れ時の独特な空気。

 …………あんま待たせてもあれだよね。そして、僕はスバルの方に向きながら気持ちを切り替える。

 そう、戦うための気持ちに。今日出会ったばかりだけど、中々に面白い友達候補との約束を守るために。

 全く…………こっちは休み無しだというのに。まぁ仕方ないか。

 ちらっと横を見れば、ユウキは一度溜息を大きく着いてから、すぐにその顔つきを変えた。



「ユウキ、ティアナの方お願い」

「……やっぱ、そうなるよな。ま、仕方ないか……ヘマ扱くなよ?」

「そっちこそ」



 互いに目を向けることなく、拳どおしを軽くぶつける。そのあとユウキはティアナに目線で合図して、揃って僕とスバルから離れた。



「もう、大丈夫かな?」



 自分の方に向き直った僕を見ながら、彼女は笑顔でそう言葉をかける。



「いや、ごめんね待たせちゃって。でも、もう大丈夫。ここからは…………エンジンかけていくから」



 僕もそれに笑顔で応える。というか、苦笑い?

 …………昼間の食事の時と同じだけど、それは違う。どこか不思議な感じが辺りに漂っている。



「そっか。なら、よかった」



 そう言って、スバルが懐から取り出したのは、青空を思わせるような色合いの六角形のクリスタル。

 なるほど、あれがスバルのパートナーってわけか。



「そうだよ。私の大事な相棒。…………でもそれは、恭文だって同じでしょ?」

「まぁね」



 大事な相棒っていうか、なんていうか…………ねぇ?

 僕もそれに釣られるように、首からかけていた相棒を取り出す。

 丸い、球体状の宝石。形状はなのはのレイジングハートとほぼ同じ。

 色はスバルのパートナーと同じ青色。

 でも、この子の色はスバルのパートナーよりも深い青色になっている。

 青空というよりも、深い海の色を思わせる青さだ。

 それを前にかざす。そして叫ぶ。スバルも一緒に、この戦いの始まりを。




「マッハキャリバーッ!」

「アルトアイゼンッ!」

「クロスミラージュッ!」

「ラムダッ!」


「「「「セットアップッ!!」」」」




 …………こうして、僕とスバルの戦いは始まった。結果がどうなるかなんてわかんない。

 ただ、どっちが勝ったとしても、この戦いが無茶苦茶楽しくなりそうな予感はしていた。

 つーか、せっかくだし楽しむよっ! じゃなきゃ、来た意味ないしっ!!




 ◆   ◆   ◆




「悪い、待たせたな」

「別に、そこまで待ってないわ。ていうかこっちも悪いわね、うちの突撃バカが」



 ヤスとスバルからそれなりに離れ互い干渉がないだろう位置まで来てから一度謝っておく。いろいろとごねちまったからな、全く。年上として情けないと思うけど、流石にこの理不尽さは文句を言ってもしょうがないだろう。

 それでもちゃんと理解してくれてそう言ってくれるティアナは実にイイ女だと思う。お兄さん泣きそうですよ。

 ティアナが何処からか一枚のカードを取り出す。白を基調として、中心にオレンジの「コア」がついている。



「それが、おまえのデバイスか?」

「えぇ。あんたは?」

「こいつだ」



 同じく、俺は左手を顔の前に持っていく。そこの手首には、シルバーパングルの腕輪。その中心に、赤い宝玉が埋め込まれている。

 それは普通の赤よりも濃い……いうなれば、紅と呼ぶべき色。

 同時に、ニッと笑って俺たちは声をそろえて叫んだ。




「マッハキャリバーッ!」

「アルトアイゼンッ!」

「ストラーダッ!」

「ラムダッ!」


「「「「セットアップッ!!」」」」」




 全くの偶然だが、向こうの二人とも俺たちの声は重なった。まぁ、それはいい。

 ヤスはきっと楽しむつもり満々なんだろうな。あいつバトルマニアだし。

 でも、今回だけは同意。

 ――これが、俺のこの場所での最初の戦い。

 この大切な第一歩。つまらなく終わらせるなんて、願い下げだからな……さぁて、飛ばしていきますか!!



(第3話へ続く)


あとがき


ユウキ「まず最初に、第一話作者が改行変換がどう反映されるか理解してなかったので少々読みづらい形式になったことを代わりに謝っておく。悪かったな」

ミスX≪ごめんなさーい。多分今回はちゃんとなってると思うので〜なってなかったら……どうしよう?≫

ユウキ「安心しろ、俺がぶっとばしておく。で『今度から気をつけろ』と言い聞かせておく」

ミスX≪は〜い≫

ユウキ「さて、第二話終わったわけだが……あーもう、やっぱり面倒なことに……つかこれどう見てもヤスのせいだよなぁ!?」

ミスX≪マスター、終わったことに怒ってもしょうがないよ。ていうかヤスフミナイス〜♪これでミスXが活躍できる〜♪≫

ユウキ「そこかよっ!? ……まぁ、いい。俺もなんだかんだで身体動かせるのは楽しみだしな」

ミスX≪うんうん。というわけで、次回は気合入れていこう〜!≫

ユウキ「りょーかい。……あ、それと前回言い忘れてたんだが、この話は基本本家改訂版の方で進めさせてもらう予定だ。まぁ一話見れば大体分かると思うけど」

ミスX≪あ、そうだねー。作者曰く、『ドキたま等本家更新中のSSが改訂版基準で書かれているので、それに合わせた』とのことです〜≫

ユウキ「……そこまで続くかどうかすら分からないくせに、あの馬鹿は……」

(何か奥でぐさっとぶっといものが心臓に突き刺さる音)

ミスX≪あ、なんか刺さった≫

ユウキ「ほっとけ。では今回はこれくらい。次回はそれなりに頑張ろうと思うユウキ・キサラギと」

ミスX≪やったー! 次で出れるー! と、すっごく楽しみなミスXでしたー!≫
(おわり)




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