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頂き物の小説
第1話『始まりはいつも突然。運命を連れていく……勝手につれていくなぁ!!』


――これから語られる物語は、「鉄」の魂を受け継ぐ少年がある少女たちの「夢」に混ざり、なんやかんやと過ごす物語――
 ――そして、それに加えて一人の青年が偶然にも巻き込まれ、共に過ごす物語――





魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝

とある魔道師の機動六課の日常〜古き鉄と黒白の友〜

第1話『始まりはいつも突然。運命を連れていく……勝手につれていくなぁ!!』




  ◆   ◆




 ミッドチルダ地上本部。時空管理局「陸」の本拠地である建物、地上本部から出てくる一人の男。……まぁ俺のことだが。
 あー、やーっと帰ってこれた……ほかの世界で仕事してて、終わったから帰ろうと思ったら「ミッドチルダへは転送できません」だもんなぁ……くそ、予定外の出費だったぞ畜生。
 二週間くらい転送禁止だったからな……その間の宿泊費に食費その他もろもろ……あと借りてるアパートの先月分の家賃滞納になってるだろうし……はぁ、最悪だ……
 俺がこんな事態に陥ってしまったことにはわけがある。
 ――二週間前、つまり転送禁止食らう時点だな。ここミッドチルダでは文字通り世界を揺るがすような大事件が起こった。
 通称「JS事件」。俺も詳細なところは分かっていないが、向こうの世界でも流れたニュースによれば首謀者たる「ジェイル・スカリエッティ」が時空管理局に対して大喧嘩をしかけた、というのが分かりやすい説明。
 AMFを詰んだガジェットだとか、戦闘機人とかいう改造人間だとか、挙句「ゆりかご」とかいうどでかいロストロギアが出てくるやらの冗談抜き世界の危機みたいなもんだったらしい。
 で。その事件はとある一つの部隊の主だった活躍により解決。めでたしめでたし、ではあるもののその事件の後始末がこれまた大変だった。
 地上本部は襲撃されてまともに機能しないし、ガジェットの総攻撃で管理局の施設はいくつか破壊。それらの修繕や巻き添えになった民間人たちへのケアなどの対応に追われることになった。
 ――問題は、その地上本部襲撃。他世界への転送ポートは、この地上本部内にある。
 ……つまり、その襲撃の際に転送ポートがぶっ壊れたわけだ。
 その修復に事件解決から今までかかり、そして、今日! やっと!


「帰ってこれたぁぁぁぁぁぁぁ………!!!」


 嬉しさのあまり両手で思いっきりガッツポーズなんて取ってみる。くぅぅ、空に浮かぶ二つの月が懐かしい!!
 なんか周りから変な目で見られてる気がするけどきっと気のせいだ。
 ……さて、喜びに打ちひしがれるのはこれくらいにして。とっとと家に帰って大家さんに頭下げて滞納分の家賃払わないと……


「っと、その前に……」


 今まで切ってた端末を起動してピ、ポ、パ、と。ある男に通信を繋いで……を、繋がった繋がった。
 って、なんだ、あれ……


「おっす、ヤス。久しぶり」
『あー、うん。久しぶりだねユウキ』


 とりあえず最初に目に入った情景を気にしないことにして、俺は通信相手の男に普段通りに声をかけた。
 栗色の髪をしたどこか中性的な顔立ちをした男の子。……といっても今年17のはずなんだけどな。一見でそれを見抜ける奴はまずいない。だってどう見てもこいつ、よくて中等生くらいにしか見えないから。
 こいつは、俺の友人たる蒼凪恭文。まだ出会って数年程度の付き合いだけど、なんだかんだで色々と意気投合したりしてそれなりに仲がよかったりする。


『どうしたのさ、いきなり。第43管理世界で仕事してたんじゃなかったの?』
「あー、ちょっと前に終わったんだけど、ミッドには転送禁止でな……今やっと帰ってこれたんだよ」
『……なーる』


 至極納得顔をするヤス――恭文のことな? 俺はそう呼んでる――だけど、その顔には疲労が濃いように思う。証拠に言動に覇気がなく、目の下にはクマが見えるし、なぜか額にはハチマキ。お前はどこの受験生だ。
 ……まぁ、その理由はきっと「あれ」だろうなぁ……


「それよりよ……お前、なんぞそれ」


 俺が言う「それ」とは、今俺が開いた通信画面に映るヤスの周りを埋める何かの山、山、山。
 ……書類、か? いや、何をしたらそんな書類の山に埋もれることになる!?


『色々とあってね……うん、もうほんと色々と』
「色々ねぇ……どうせあれだろ? お前のことだから、例のJS事件に巻き込まれて挙句好き勝手やってその付けが回ってきたんだろ」
『うっさいわボケ!! あーそうですよ! ユウキの想像通りですが何か!?』
「マジかよ……!!」


 こいつの運のなさは相変わらず、か……いかん、ちょっと目頭熱い。


『で、何? 僕こんな状態だから時間ないんだけど』
「あー、それなんだけどな。確か今お前の故郷で電王の映画やってたろ?」


 電王というのは、こいつの故郷である第96管理世界「地球」のテレビで放送されている特撮ヒーロー番組のことだ。正式名称「仮面ライダー電王」。後の詳しい説明は、必要ないよな?


「それで俺も何とか帰ってこれたし、お前が暇なら一緒に見に行こうかと思ったんだけど……」


 実を言うと、俺も仮面ライダーは大好きだったりする。元凶はヤス。むしろ犯人はヤス。
 ヤスと出会ってからというものの、こいつのオタクっぷりに俺も毒されたってわけだ……あぁ、平成ライダー今のところ全部見てるよ。カブトが一番好きですが何か!?
 まぁそんなわけで、何とか上映期間には帰ってこれたからヤスの奴を誘っていこうと思ってたんだが……これはさすがに、なぁ?
 あ、ちなみに既にヤスが見ていた場合は問題ない。一度見てようと、誘えばこいつは絶対来るだろう。それくらいこいつのライダー好きっぷりはとんでもないからな。


『行く』
「……はい?」
『あと数日待って。そうすれば何とか片つくから。いや、片づけるから。そんで絶対さらば電王見てやるんだから……!! ていうか今までそのために頑張ってきたんだっての!!』


 ……おぉ、ヤスの目に火がついた。どうやらこいつもまだ見てなかったみたいだな、これは好都合。
 ……ふむ、そうだな。俺もやっと帰ってこれて機嫌がいいことだし。


「よし分かった。俺も手伝おう」
『……はい?』
「だから、俺も手伝うって。そうすりゃ、時間ももっと短縮できるだろ?」


 普段の俺なら、流石にそんな面倒なことは言わない。書類関係は苦手だしな。……今回の仕事の報告書は暇な間に書き上げたけどね。ははは、時間有り余ってたからねー。でもおかげでなんか疲れ取れた気しないけど。
 でも、さっき言ったように今日の俺は機嫌がいい。それに、やっぱ映画は一人で見るよか連れと一緒に見た方が楽しいしな。
 まぁそんなわけでそういう提案をしてやったわけだが……


『……ぐすっ』
「泣くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


 画面の向こう側で号泣してんじゃねーよ!! 男の涙なんぞみてもうれしかねぇ!!
 いや、だから女の涙はどうかって言われたら困るけど!


『仕方ないんですよ。何せ事件が終わってこっち、ずっとこんな感じですから』
「……アルトアイゼンか? お前も久しぶりだなぁ」
『えぇ、お久しぶりですユウキ・キサラギさん』


 姿を見せずに声だけ割り込んできたこいつはアルトアイゼン。ヤスの相棒であるデバイスだ。
 待機形態は青い宝石の形をしたペンダントなんだけど、画面の中にその姿はない。まぁ映らないところでヤスのサポートしてるんだろ。


「てか、なぜわざわざフルネーム?」
『あなたがなかなか自己紹介しないからですよ。読者の方がこま……りませんね。えぇ、この物語の真・主人公たる私アルトアイゼンの名前さえ知っていただけていれば』
「お前はほんと相変わらずだなおい!!」
『それに主人公は僕だよ!!』
「てめぇはそっちかよ!!」


 あぁもう、ほんといつも通りだなこいつら!! いろんな意味で安心したよ!! それにこの話じゃ主役は俺だ!!


『やれやれ、これだから元・主人公と偽・主人公は……』
『「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁ!! ていうか元(偽)ってなんだコラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」』


 ……まぁ、なんだ。思いのほか元気で安心したよ。色々と腹たつが、この主従はこうじゃないと。
 さて、とりあえず手伝いは決定っと。家に帰って大家さんに頭下げて、荷物の整理して、んで空っぽの冷蔵庫を埋めるために買い物に……


『はーい、恭文君、元気にしてるかしら』


 そんなことを考えていた俺の耳に入ってきたのは、女性の声。それはまだ切っていなかったヤスとの通信のさらに奥……つまり、画面の向こうにさらに画面が開かれそこから聞こえてきている。早い話、ヤスへの通信を俺の通信が拾ってるってことだ。
 そこに映っているのは、翠の髪をした妙齢の女性。……え、だれ? ていうか制服が提督とかそれ以上なんですけど。


『あら、通信中だった?』
『……えぇ、思いっきり。それで無理やり割り込むって……』
『なら要件は手短に』
『無視ですか!? ていうか僕見た目通りすっごい忙しいんですけど!?』


 うおーい、先に話してた俺無視っすか。しかもヤスの主張まで無視って……いや、真面目に誰。ヤスが提督以上で仲の良い人って……
 あっ!? もしかして、この人がヤスの母親代わりっていう、あのハラオウン総務統括官!?
 うえぇ……なんか嫌な予感。


「あー、なんか大事な要件らしいから俺はこの辺で……」
『いえ、少し待ってもらえないかしら? えーと……ユウキ・キサラギさん』


 ――おいおいおいおい、ちょっと待て。なんでこの人、俺の名前を知ってる!?


「ヤス!?」
『いや、僕は何も……ていうか、リアルタイムで調べてるでしょ、リンディさん』


 マジですか!? マルチタスクったって程度があるだろうよ!! くそ、流石オーバーランクSの総務統括官ってことかよ!!


『それで――』


 俺はそこでプツリと通信を切った。
 ……うん、俺は何も見なかった、何も聞かなかった。それでいいじゃないか。きっとそれがジャスティスなんだよ。さーて、とっとと帰って買い物いこうっと。
 ――しかし、そうは問屋がおろさないのが現実ってやつだな……はぁ。




 ◆   ◆   ◆




 現在、新暦75年10月。そんで時間は朝早く、とだけ言っておく。
 場所はミッドの首都クラナガンから離れた湾岸地区にある、とてもでかい建物の前。


「ここ、か……」
「そうだね」


 俺の隣に並んで同じようにその建物――機動六課隊舎を見るのは俺よりもだいぶ背が低い男の子。言うまでもなく、俺の友人であるヤスこと蒼凪恭文だ。


「……なぁ、なんで俺はこんなところにいるんだ?」
「ユウキ、今更だよ今更」
「元はと言えばお前のせいなんですけどねぇ!?」


 そう、俺がなぜこんな場所にいるかというと、すべての始まりは二週間前のあの通信だ。
 あの時ヤスに通信してきた女性は、やはりリンディ・ハラオウン総務統括官だった。そんであの人は、ヤスに一つの依頼をしてきた。
 その内容は、この機動六課への出向命令だ。
 機動六課――これは例の「JS事件」を語るにおいてはずすことなど不可能なほど重要な単語であり部隊名。
 曰く――JS事件を解決に導いた「奇跡の部隊」だと。
 部隊長を始め六課のフォワード陣を担う隊長副隊長陣は誰もかれも一度は聞いたことのある有名な魔導師騎士。バックヤードを含めた他の人員も皆将来有望な才能を持ったものばかり。
 まぁもともと「機動課」ってのはロストロギアみたいな危険な代物を主に相手にする部隊だから、分からないでもないんだけどな。
 そんな未来のエリートばかりの寄せ集めの部隊であるがゆえ、それを実績にして表わした。ミッドチルダをガチで救うって方向でな。
 そして今回。ヤスにその奇跡の部隊への出向命令が出た。
 これが、二週間前の話。
 ――それは、いい。ハラオウン総務統括官はヤスの母親代わりだし? 機動六課にも知り合いは多いと聞く。何よりヤスは事務仕事も優秀で、腕も立つ。おまけに魔導師ランクもA+だし、めんどくさい戦力保有制限にも何とか引っかからない。だから、こいつが呼ばれる理由は分かる。
 そう、俺が知りたいのはこの次。
 なんで、その出向命令が俺にまで出てるのかって話ですよ!! いやマジでいみわかんないしっ!!
 ……話は例の日の翌日。家に帰る前に買い物して、大家さんに謝って家賃入れて、夕飯作ってちょっとゲームしてから眠った後。朝日が昇ってすぐに、この糞チビから通信があった。
 要件は、例の依頼に関して俺にも話があると。それで、本局のハラオウン総務統括官の部屋まで来いと。
 行きたくなかったけど行ったさ。理由? このバカの報復が怖かったからだよ。こいつは肉体的より精神的な報復が大の得意だからな、後から「見捨てた……」とかそらもう留守電に永遠と入れられたりしたら俺の髪は一週間で真っ白くなるだろう。
 で、そこで言われた内容は本編の一話を見てくれ。あれのテンプレに俺がいると思ってくれればいい。
 言うまでもなく、最初は断った。こちとらやっとこっちに帰ってこれたばかりで、向こう一ヶ月何もしたくなかったのだ。
 でもダメだった……あぁダメだったよ! 今の六課の実態とか聞かされたら断るに断れねーじゃねぇか!! 断ったら俺最低な人間だよチクショウ!!
 そんなこんなで、俺とヤスはなし崩し的に機動六課へ出向が決まった。
 その間の期間、二週間。それは同時に、約束通りにヤスの書類を手伝う期間でもあった。
 ったく、何が数日で片づける、だよ……思いっきりおわらなかったじゃねぇか。
 ていうか、なんで書類を片付ける端からどんどん増えるんだよ!! いみわかんねぇ!!


「ユウキ、ほんともう今更だから……もう覚悟きめるっきゃないんだよ、うん。まぁあの提督と統括官はいつか絶対報復するけどね……」
「ヤス、その時は俺も呼べ。全力でそれを手伝う」
「おっけー」
≪貴方達、せめて隊舎に入るまでにはその黒い笑み収めてくださいよ?≫


 そんなアルトアイゼンの突っ込みは俺とヤスの耳には届かなかった。




 ◆   ◆   ◆




「…………やっと、帰ってきました」


 ここは、時空管理局所属・機動六課隊舎のロビー。
 部隊員は、前線もロングアーチもバックヤードも、みんな並んで整列しとる。
 うちはそれを見て、泣きそうになる。でも、今は我慢や。


「あの襲撃事件から2ヶ月が経ちました」


 隊舎は丸焼け、人員は怪我しまくり。そして、攫われた人間まで出た。
 マジで、負け戦やったなぁ。ほんま……辛かった、なぁ。


「今日、私たちはようやく自分たちの居場所に帰ってくる事が出来ました。

 この2ヶ月の間、アースラに乗り込んでくれていたクルーを始め、みなさんには本当に苦労をかけました」


 あの事件で隊舎が壊滅してから早2ヶ月。ようやく隊舎は復旧して元通りになってくれた。
 だけど、全部が全部元通りゆうわけやなかった。例えば、前線メンバーや。
 なのはちゃんとヴィータはゆりかご内部での戦闘が原因でまだ本調子やない。二人とも、相当無茶したしな。
 完治するのにも、時間がかかるやろうというのは、シャマルの談や。
 ヴァイス君やザフィーラ、ロングアーチやバックヤードのスタッフも負傷。
 ほんまやったら、ここに来て通常業務するだけでも厳しい人間も、多い。
 でも、みんな来てくれた。…………ありがとう。ほんまにありがとうな。


「私のような未熟者にここまでついて来てくれた事。ただただ感謝する他ありません。

 ほんとに……今日ここに来てくれて、ありがとうございます」


 そんな訳で、機動六課はまだまだ完全復活には程遠い状況や。
 でも、リンディさんのおかげで人を借りる事が出来た。
 うちとうちの子達になのはちゃん、それにフェイトちゃんの昔からの友達。
 ちゅうか、幼なじみやな。嘱託として、あちこちの現場を渡り歩いてきた優秀な魔導師。
 実力はうちらがよく知っとる。もう8年の付き合いや。あんなことからこんなことまでよう知っとる。
 アイツが居てくれたら、うちらは相当に楽になる。長年の友達でやり口や性格は熟知しとるもん。
 そのために、うちら隊長陣とも連携も取り易い。あと、気持ち的にも楽になれるしな。
 …………まぁ、事件中はアイツも大変な目に遭ってたわけやし、呼ぶことに躊躇いが無かったわけやない。
 ただ、緊急事態やし、どうしても手段を選べなかった。今回の一件で、アイツはほぼノーダメージやったのも大きい。
 ただし…………精神関係と、後処理以外な?
 嬉しいのは、うちらの現状を聞いて、休みも返上で準備して来てくれたっちゅうことや。
 まぁ、返上させられたと言うのが正解かもしれん。ただ、最後は自分で決断してくれたそうや。
 アイツは、ホンマに嫌やったら雲隠れしてでも拒否ろうとする奴やから、それは本当に嬉しかった。
 自分の後始末かてまだ済んでなかった言うに……ほんまに、ありがとうな。
 それと、アイツにだけ感謝するわけにはいかん。なぜかというと、もう一人おるからや。
 そっちはうちらはおうたことのない知らん人なんやけど、なんやアイツの知り合いらしい。つっても、リンディさんからの資料は見とるし、さっき挨拶にもきてくれたんやけど。
 アイツと同じく嘱託で、そっちはいうなればアイツに巻き込まれたようなもの。なんや別の仕事が終わったばかりやったらしいんやけど……それでも、事情を聴いてうちらに手を貸してくれることになった。
 ほんま、二人とも感謝や……ありがとうな。


「さて、湿っぽいのはここまでにしましょう。…………実は、今日という日を祝うように、めでたい話があります。

 今日から、この機動六課で私達の新しい仲間として、一緒に仕事をしてくれる方がおります。では、こちらに」


 うちがそう言うと、後ろに控えていた彼は緊張しながら壇上に上がる。…………アンタでも、緊張するんやな。
 襟の立った陸士制服が映える。アイツは持ってへんかったから、うちがプレゼントしたものや。卸し立てやから綺麗やなぁ〜。
 …………一応、いつも着ているアンダーウェアがいいと言ってたんやけど、当然却下した。
 これからはうちらの同僚なわけやし、そこはちゃんとせなあかん。
 まぁ…………あれや。確かにアンダーウェアの方がかっこいいと思うで?
 特にあれや、青色なんてあんまないし、そこはうちもマジで思う。
 でもな、『地上部隊の制服……ダサいもん』とか言うのはやめとき? いや、ほんまにや。
 うちも、海とか空とかのと見比べるとたまに思うけど。
 なんていうか、色合い……がな? こう……アレやし。組織改革、ここからやないかと思うもん。
 それはさておきや。2ヶ月ぶりくらいに会ったけど、ホンマにアレや。

 

 『男子、三日会わざればかつ目して見よ』とはよく言うたもんや。
 ほんのちょっと会わん間になかなかにいい男に成長し……とらんなぁ。
 全く…………しとらんっ! 誰やっ!? こんな適当な格言言うたアホはっ!?
 三日どころか、数年単位でも全く変わってへんでアイツっ!!
 結構長い付き合いやけど、昔から全然変わってへんしっ!!
 主に身長や。髪の長さは普通やけど、体型は小柄な女の子で通るで?
 顔立ちもそんな感じやし。あぁ、声も同じやな、3オクターブ出るし。
 つかあの身長…………下手すると、うちより小さいんやないか?
 それに対して、もう一人。こっちは特に緊張した風もなく壇上に上がる。
 身長は、まぁ成人男性の平均くらいの身長で髪は男にしちゃ長い。なんせシグナムみたいにポニテにしとるからな。といっても、あそこまで長くないけど。せいぜいほどいたら肩超える程度ちゃうかな?
 ちゅうか、あれは地毛か? なんやところどころにメッシュみたいに黒毛の中に白髪まじっとるモノクロカラーなんやけど……


「…………と」


ドタン


『え?』


 …………あ、アイツがコケタ。考えた事、伝わったんやろうか? …………一瞬の痛い沈黙が、場を支配する。
 その後、それでも、なんとかヨロヨロと起き上がって、挨拶しようとする。あー、そないに早足で前に行こうとしたら危ないで?


「あわわっ!!」


ドーンッ!!


『…………え?』


 案の定、前に行き過ぎて、壇上から足を踏み外して落ちた。
 こんな日に、なんつう縁起の悪い落ち方するんや。いや、そういう問題やないか。
 みんなそれを見て、どうしたらええんかわからん顔しとる。
 いや、シャーリーとルキノ…………グリフィス君は笑っとるな。
 あー、シグナムは睨んどる。シャマルは…………そのキラキラ目はやめような。
 うん、マジで怖いから。それで、ザフィーラはいつも通りやし。
 リインは、やれやれって顔しとる。まぁ、凄く嬉しそうやけど。アイツが来るのを、一番喜んでたしな。
 なんとも相変わらずやなぁ。変わらんってどういうことや。ま、だからこその古き鉄か。
 しばらくシリアス続きやったし、バカ騒ぎのひとつやふたつは期待してるで、恭文。
 というか……ありがとな。来てくれて、ほんまありがと。うち、マジで嬉しかったんやから。




 ◆   ◆   ◆




 期待してるでじゃないよこのチビタヌキっ!!
 うぅ、みなさんの視線がチクチク痛いんですけど。
 もっと言うと、オレンジとピンクの視線が痛い。


 話が話だったから、引き受けて出向してきたけど、しょっぱなから大ポカやらかすし・・・これから先、一体どうなるのっ!? すっごく不安なんですけどっ!!




 ◆   ◆   ◆




 く、くくく……さ、さすがヤス、まさかしょっぱなからやらかすとは思ってなかったわ。
 本当なら腹抱えて大爆笑したいところだけど、流石にこの場に漂う空気がそれを許してくれそうにない。
 でも……く、くくくくっ。うあー! 笑いをこらえるのってこんなにつらいのか! 初めて知ったわマジでっ!!
 あー、早く終わってくれー! で早く思いっきり笑わせてくれー!!




 ◆   ◆   ◆




「あっはははははは!! あはははは、ははは! ひ、ひぃ〜! は、腹いてぇ〜!!」
「笑いすぎじゃコラァァァァァァ!!」


 朝礼が終わって解散が命じられてすぐ、俺はもう即効で笑いをこらえるのをやめた。おかげで俺らのあいさつは有耶無耶のまま終わってしまったが、問題はないだろう。きっと、多分。
 で、そんな中ヤスの奴はとっとと逃げる準備。ま、あれだけのことをしでかせば逃げたくもなるだろうよ。
 でも……


「……どこへ行くつもりだ、蒼凪」


 それをよしとしない人が、ここにいる。
 ピンクの長い髪をポニーテールにした凛々しい顔立ちをした女性だ。……第一印象、クール&ビューティってところかね。
 ヤスの背後にいつの間にか立ちふさがっており、その肩には隊長の印たる金属プレートが付けられていた。


「いや、その……ちょっとトイレに」
「……ここもトイレはあるぞ?」
「嫌だなぁシグナムさん、まるで僕が逃げようとしてるみたいな言い方しないで下さいよ」


 いや、思いっきり逃げる気満々じゃねぇか。
 しかし、ふーん? ヤスの知り合いか。シグナム、ねぇ。
 あー、そういえば統括官が言ってたな。ここはヤスの知り合いが多いって。この人もその一人ってわけか。


「そうか、それはすまなかった。それで、どこへ行こうとしていた」
「何一つ悪いと思ってませんよね、アンタっ!! …………僕はただ、トイレに行こうとしただけですよ」


 何処のだ、何処の。


「残念ながら、君の行動は予測済みですよ」
「そうそう。きっとなぎ君のことだから……」
「『自宅のですが』……とか、考えてたでしょ?」


 更になんか増えた。紫の髪のイケメンメガネ男が一人、同じく紫の短髪少女が一人に茶髪ロングのメガネ少女が一人。計3人。
 口ぶりからこの子らもヤスの知り合いか。……部隊長含め既に5人。確かに多いな、知り合い。
 ちなみにちょっと失礼な言い方をしてしまったのは許してほしい。マジでだれかわかんないから。


「……とにかく、帰ることは許さん」
「いや、だから僕はただトイレに行きたいだけで」
「グリフィス、シャーリー、ルキノ。すまないが蒼凪を部隊長室まで連行してくれ」
『はいっ!!』
「無視ってわりとヒドくないですかっ!? そして連行ってなんですかっ!!」
「シャーリー、ルキノ」


 きつい声に素晴らしく息の合った連携でヤスの両腕をがっちりと捕獲する少女二人。……なるほど、既にヤスの対処法についても経験から察せるくらい付き合いは長いらしい。
 しかしまぁ、なんともうらやまし……くないな。うん、全くうらやましくない。いうなればあれだ、今のヤスは某グレイだ。俺からすれば。


「これで大丈夫かと思われます」
「上出来だ。蒼凪、両手に花で楽しいだろう。そのまま部隊長に挨拶してこい」
「え? ……あの、二人ともそんなにガンガン進まないでっ! ユウキ、お願いだから見てないで助けてー!!」


 ははは、何をおっしゃるうさぎさん。俺のような無力な人間に何ができる。


「はくじょうものー! ……くそっ、シャーリーっ!!」
「なに?」
「ガンダムVSガンダムの新型PSP同梱版で手を打たない?」
「………………………………………………………………………………………………………………打たない」
「シャーリーさんっ!? なんで揺らいでるんですかっ!!」
「ルキノさん、元々シャーリーはこういう子だから。仕方ない、そこに年末に発売されるFFの……」
「なぎ君も買収しようとしないっ! シャーリーさんも本気で考えて込まないでくださいよっ!!」


 そんな騒がしくしながらも、ヤスはずるずると連行されていった。んー、あのシャーリーって子面白いな。ていうかヤスと同種か、オタクって意味で。
 そんな時、俺の横からため息がひとつ。


「全く、あいつはいつまでも変わらんな……」
「まぁある意味それがあいつのいいところだからなぁ」


 なんて、彼女のぼやきに何となく反応しちまった。しかもタメ口。……俺、あんま敬語って得意じゃないのよ。言うのも言われるのも。おかげで昔から周りから「生意気」、って目をつけられるんだけどな。
 まぁ特に気にしないからいいんだけど。


「む、お前は……あぁ、蒼凪と共に来た……確か、」
「ユウキ・キサラギだよ」
「あぁ、そうだ。キサラギ、お前もあいつと一緒に行ってくれ。部隊長が話があるそうだ。私は別件の用事があるので、これでな」


 そう言って、シグナムは背を向けた。……うーん、後ろ姿に隙が見当たらない。流石隊長組ってわけか。
 っと、突っ立ってる場合じゃないな。俺も部隊長室行かないと。
 てか、八神部隊長か……さっき挨拶した限りじゃ真面目そうな人だったけど……あのヤスの友人だ、本性はどんな中身やら。




 ◆   ◆   ◆




 連行されるヤスの後について数分。ヤスと俺は二人で例の八神部隊長と机を挟んで対面している。わけだが……


「いやぁ、いきなりやらかしてくれたなぁ〜。やっぱ恭文に来てもらって正解やったわ。これから楽しくなりそうやなぁ」
「…………八神部隊長、お願いします。頼むから、あの悪夢の時間をこれ以上思い出させるなぁぁぁぁっ!!」


 ……ですよねー。やっぱヤスの知り合いが、何も言わないとは思ってなかったさ。
 そしてヤスの悲痛な叫び声が、こいつの精神的ダメージの量を物語っている。
 ……うん、まぁ気持ちはわかるさ。もしもあれを俺が起こしていたらと思うときっと胃に穴が開くこと間違いなしだ。
 しかし、現実それを引き起こしたのはこいつで、悶えているのもこいつ。
 ……つか、目閉じてる? ……あぁ、現実から逃げる気か。


「でも、それはただの現実逃避や」
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「あっはははははははははは!!」
「そこもわらうんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 そうはい神埼ってか……? なかなか容赦ないな部隊長。
 そして二度目のヤスの悲鳴。……うん、ごめん、耐えられなかったよ。つらいよね、思い出し笑いって。


「すみません部隊長。今日はこのまま帰って自宅警備員のバイトに勤しみたいんですがよろしいでしょうか?」
「あかんで♪」
「大丈夫ですよ。ほんの半年ほど行ってくるだけですから、マグロ漁船よりは短期間ですよ。うぅ…」
「あぁもう、別に泣くことないやろ? うちは面白かったし、大丈夫や。あれで自分は愛すべきキャラとして認識されたはずや」
「……そう思うなら、お願い。僕と目を合わせて。なんで微妙に合わないの? 僕の髪とか耳とか見てるよね」

 ……うーん、俺の存在半分忘れられてるんじゃなかろうか。そう思えるくらいにこの二人の漫才もどきは息がぴったりだ。
 まぁ、いいけど。見てる分には面白いから。


「相変わらずわがままやなぁ。そんなんやと彼女できへんで?」
「いや、別に欲しくないし」
「嘘つき。フェイトちゃんにゾッコンLOVEやし、もうちょいがんばらんと」


 あー……そうだった、そうだったね。うん。俺も一応本人からその話は聞いてる。
 こいつ、蒼凪恭文はある一人の女性に恋をしている。相手の名前は、フェイト・T・ハラオウン執務官。俺でさえ名前を知っているくらい管理局じゃ有名人。
 で、その実ヤスとは姉弟みたいな関係らしい。
 その女性に、ヤスは絶賛片思い中。――――その期間、なんと八年。
 八年だぞ八年。八年前つったら俺がまだ……やめだ。このたとえはなしだ。
 まぁ、そんな長い間ヤスはずっと片思いをしているわけだ。しかし、泣けるのはそのことに相手側がまるで気づいていないということだ。
 どれだけアプローチしても、どれだけストレートにいってもスルー……まぁそのタイミングのほとんどが鉄火場ってのがどうかと思うが……それでも普通ならなんらかの結果くらい出てもおかしくない年数だ。
 しかし――結果は今の通り。これを聞いた時、俺は泣いた。マジで泣いた。飯おごるくらいには憐憫した。


「待て待て19歳っ! 絶対年齢詐称してるでしょっ!? いつの時代の言い回しだよそれっ!! なんで平成じゃなくて昭和の匂いがするのっ!? おかしいでしょうがっ!!」
「そないなこと気にしたらあかんよ。つか、それを抜いても前にうちが遊びに行った時に、あんな所にあんな本が――」


 ん……? ヤスの顔が引きつった? なんかあったのか?


「マッテ。その話はやめにしませんか?」
「えぇやんか。恭文かて男の子なわけやし、うちは別に軽蔑したりせぇへんよ? というか、一緒にその手の動じん読み漁った仲やんか。何を今さら……」


 うおーい部隊長。なんかよーわからんが、その辺にしとけー。殺気が、殺気がするからー。


「聞こえなかったかな? その話は、やめに、しようって言ってるんだけど」
「……なぁ。久しぶりに会ったんやから、そんな怖い目で睨むのはやめてな。うち、これでもか弱い女の子よ?」
「やかましい。僕の中でお前は女性の欄に入ってないのよ。つーかたった今除外した」
「自分酷いなっ!!」
「酷くなんかないわっ! ことある事にチクチクからかいやがってっ!! さっきの事で僕がどんだけヒドイ目に遭ったと思ってるんだよっ!?」


 おーおー、ヤスの熱の入れようが半端ないな。
 ……まぁ、うん。さっきからの会話の端端からの流れで何となく読める。ヤス、お前ってやつは(ほろり)


「そんなことする暇があったら、あのワーカーホリックな砲撃魔導師を見習って仕事しろ仕事っ! 仕事に溺れろっ!! もちろん倒れない程度にっ! 倒れられたら僕が困るからっ! つか、そんな余計なこと考えるからチビタヌキなんて言われるんだよっ!!」


 ……お前も優しいのか優しくないのか、心配してるのかしてないのかよく分からん罵倒をするなおい。


「そういう事言う? せやったら、出向祝いにフェイトちゃんのドキドキスクリーンショットをプレゼントしようかと思ってたんやけど、やめと」
「嫌だなぁ。ほんの出会い頭の小粋なジョークじゃないですか八神部隊長。私は貴女ほど素敵な女性と出会った覚えはありませんよ。タヌキなんてとんでもないっ! 誰ですか、そんなこと言ったの? 信じられませんよ。そいつの神経を疑いますね〜。あ、ユウキが言ったの? ひどいなぁ、初対面でそんなこと言うなんて」


 ――唐突に、ヤスは手のひら反しやがった。
 ていうかちょっとまてぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 何いきなり人に罪をなしつけてんだてめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!


「まさに貴女は現代のジャンヌ・ダルクっ! ミロのヴィーナスっ! 小野小町か楊貴妃か、さてはクレオパトラかっ!! もう、こうして貴女の前で立っているだけで胸の鼓動が切なく高鳴っているんですよ?」


 なんじゃその口説き文句は!? ていうかそこまでか、そこまでほしいのかスクリーンショット!! 人に罪かぶらせてまでほしいんですかコラッ!!


「……自分、プライドないな。つか何気に酷いな」
「フェイトと自分のプライド、あと友情。どれが大事かって言われたら、僕はフェイトを選ぶよ」


 ……全く迷うことなく言い切りやがった。……いや、いいけど。もうこいつがそういう奴だって知ってるから。
 部隊長もため息を吐きつつ、ヤスに握られていた手を離す。まぁ、流石にあきれただろうな。


「まあ、ちょっとだけえぇ気分になれたから許したるわ」


 えぇー……あんなのでなれるんかい。


「お望み通り、選りすぐりのをメールで送付しとくわ。楽しみにしとき」
「……恩に着るよ」
「まー、それはそれとして、冗談抜きで自宅警備員はホントにやめた方がいいと思うで? フェイトちゃんやなのはちゃんが悲しむよ。二人とも今日はおらへんけど、恭文が六課に出向してくるって聞いて、やっぱり嬉しそうやったもん」
「そなの?」


 ――ギクッ
 ヤスがきょとんとした顔をした時、俺は同時に頬が引きつるのを感じた。


「………そうなんだ、二人がそんなことを。あぁ、なのはは別にいいけどフェイトが……!」
「……相変わらずなのはちゃんに対する扱いがひどいな」
「気のせいだよ。だって、リリカルなのはの中でなのははこういう扱いがデフォでしょ?」
「うん、それは絶対勘違いやな」


 そんな俺に気づかずヤスはそんなことを言う。
 ……そうだよなぁ、あいつもここにいるんだよなぁ。統括官の話で既に聞いてたから知ってたけど……はぁ。
 てか、それでもその言い方はどうかと。メメタァ!


「まぁ、あれやで。あんまやり過ぎたらあかんよ? それと……多分、なのはちゃんは大事な友達と会えるのが嬉しいんやと思うし」


 ていうか、こいつ「あいつ」とも知り合い……ていうか大事な友達って。
 まぁでも、そうだよな。部隊長と友人ってことは、自然そのコミュニティと仲良くなるってことだし。その中に「あれ」がいるなら、それはきっと自然なことだ。


「あー、そうだよね。あの横馬は予想してた。で、フェイトは……」
「フェイトちゃんは自分の家族が来るのが嬉しいってとこやろうな。つか、覚悟しといた方がえぇよ?」
「なんで?」
「『いい機会だから、部隊の仕事を覚えて、局に入る気になってくれればいいな』……とか言うてたし」


 ……うわ、それは俺とヤスにとっちゃ最大に言われたくないものの一つだぞおい。
 つか、無理だろ。JS事件直後だぞ? あれ、局の不正が原因だぞ? それを知ってて局入りしたいやつとかいるのか?


「……マジですか。僕にそんな気は無いのに」
「マジや。ま、家族として心配なんよ。アンタの気持ちは分かるけど、少しは理解したり?」
「……だね。あー、またゴタゴタするのかな。よし、覚悟はしておこう」
「まぁ、それはヴィータやシグナム達もそうやし、うちも嬉しかったよ。……来てくれてありがとな」


 そう言って、いきなり頭を下げる八神部隊長。それにヤスは……ていうか俺も、ちょっと心苦しい感じで見る。
 うん、ちょっとね。一度本気で断ろうとしたからね。


「…………別にいいよ。めんどくなったら、全部放り出すつもりだし」


 ……ヤス、ちっとやりづらそうだな。まぁいきなりこんな殊勝な態度取られたら戸惑うか。
 しかもさっきの理由でちょっと心苦しいだろうし。


「うん、それでえぇ。アンタ、そういう冷たい奴やし」


 で、しっかり見抜いている部隊長がここに。


「そっちのキサラギ君もや。聞いたら別の仕事終わってすぐ来てくれたみたいやし……うん、ほんまありがとう」
「いやまぁ……気にすんな。ヤスにだけ任せるのも心もとなかったしな」
「ユウキ、それどういう意味さ」


 どういう意味も何もそういう意味だ。……まぁ半分照れ隠しと心苦しさから出た言葉だ、あまり気にしないでくれ。


「あと、もううちの事はいつもどおり『はやて』でかまわんで。恭文に八神部隊長なんて言われたら、なにか気持ち悪くてかなわんわ〜」
「どういう意味だよ」
「そういう意味や。まぁ、これからよろしくな恭文」


 ヤスに手が差し出された。それに対し、ヤスはこう返した。


「こちらこそ、よろしく。はやて」


 そう言って、ヤスも同じように手を差し出し、硬く握手する。
 それはもしかしたら、こいつなりの決意だったのかもしれない。


「あんたも、うちのことは『はやて』でええからね。まぁこいつばりにフリーやとちっと困るんやけど」
「あぁ、そこは安心していい。こいつほどフリーダムな奴はそういないよ。あと、俺もユウキでいいよ」
「二人とも、後でじっくり話そうか? 僕はナチュラルだよ? 世界のデフォだよ?」


 それは絶対錯覚以外の何物でもないからな。お前がナチュラルだと、世界はきっと崩壊する。コーディネイターでも困るけどな。


「あはは、あんたもこいつのことよーわかっとるみたいやな。……うん、あんたとは仲良くできそうや。これからよろしくな、ユウキ君」
「俺の方こそ。よろしく、はやて部隊長」


 俺の方も、はやてと固い握手を交わす。なんだかんだ言いながら結局は受けた依頼だ、文句はあろうと完遂することへの決意を、ここに表わした。
 そう、この瞬間から、俺とヤスの機動六課の生活は、始まる―――――
 ……でも、なんだろうな。こう、絶対静かに、トラブルもなく終わりそうな気が全くしないんだよな。
 まぁヤスと一緒って時点でそれは確定事項だしな……
 ほら、なんか頭の中で変なナレーションしてるっぽいしさぁ。あれは大概すぐに何か起こるフラグだぞ?


「違うですっ! なに失礼なナレーションつけてるですかっ!?」
「そうよっ! みんなあなたが来るのを楽しみにしてたのにっ!!」
「蒼凪、相変わらずだな」
「……いきなり前フリも無く出てきて、揃いも揃って地の文に突っ込まないで下さい」


 ほら来た。ヤスの言うように唐突に表れたのは、なんか妖精みたいな少女と金髪をセミロングにした女性。
 それと……青い犬?


「狼だ」


 あ、すまん。


「恭文さんがいけないんですよっ!! せっかく久しぶりに会ったのにいきなりこれですかっ!? ……ひどいです」

「頼むからそんな恨めしい目で見ないでよ。僕が悪かったからさ」
「反省してますか?」
「もちろん、海よりも深く」


 ……部隊長改めはやて……んー、やっぱ呼び捨てはまずいか……? ……まいいか。
 はやては反省してないだろって目でヤスを見てる。うん、俺もそう思う。


「なら、許してあげるです。気を取り直して……恭文さん、ようこそです〜〜♪」


 そんなはやてと俺には全く気にせず、その子はヤスの胸に抱きついた。
 なるほど、ね。この子がヤスの言ってた子か。


「うん、久しぶりだね。リイン」


 ヤスはそう言って、その子を優しく抱きしめる。
 ……うん、このシーンだけ見るとなんかすごくいい絵ではあるよな。


「シャマルさん、ザフィーラさんも久しぶりです」
「お久しぶり、恭文くん」
「元気そうで安心したぞ」


 順々にヤスに言った後、一人と一匹は俺に向き直る。


「それとキサラギさんでしたね。はじめまして、シャマルと言います」
「ザフィーラだ」
「リインはリインフォースUっていうです。よろしくです〜♪」
「ん、もう知ってるっぽいけど、ユウキ・キサラギだ。ユウキでいいから、こちらこそよろしく」


 そのまま自己紹介されたので、俺も普段通りに反した。……リインって妖精少女はヤスとハグしたまんまだけどな。


「あら、イヤだ。恭文くんったら、少し会わない間にずいぶん上手になって。…うん、いいわよ。あなたがその気なら、私はいつだって受け止めるわっ!!」


 ……おーけー。このお姉さんは何を読み取った? いきなりぶっ飛んだこと言いだしたぞ。
 おまけになんか、『次元世界でナンバーワンの呼び声も高い、自意識過剰な変なお姉さん』……なんてセリフを勝手にてれぱしったぜ?


「ひどーいっ!」
「それはこっちのセリフだよっ! なにしょっぱなから色んな事をぶっちぎってるのっ!? おかしいでしょうがっ!!」

「なに言ってるのっ!? あなたの主治医兼現ち」

「その呼称はお願いだから、今すぐ次元の狭間に捨て去れぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 ……あぁ、そういうことか。この人もヤスにフラグを建てられた一人なんだな、分かります。
 どうにもこの蒼凪恭文というちびすけは、無自覚にどこかしこでフラグを建てたりする。
 それなのに、なんで本命には建てない? いみわかんないんだけど。
 ……違うか、建てないんじゃなくて「建たない」のか。じゃなけりゃ8年なんて……やばい、不憫すぎる。
 ふとザフィーラを見ると、ため息を吐いている……苦労してるんだな。


「そうよ。私……本当に心配で……」
「だからといって蒼凪に抱きつこうとするのはやめろ」
「あら、いいじゃ…って、なんで恭文くんも逃げるのっ!?」


 身の危険でも感じたんだろ。俺でも逃げるぞ今のは。


「……というかザフィーラさん」
「なんだ?」
「元気そうってのはこっちのセリフですよ。リンディさんからみんなズタボロだって聞いてたんで」


 ――そうだった。統括官から聞いた話じゃ、噂ほど六課は完勝したわけじゃない。
 隊舎は一度焼け落とされ、けが人も多数。死にかけた人間もいるほどだ。目の前の彼女たちも、そのはずだ。
 ていうか、それ聞いたから来たんだけどな。そこまで聞かされてそれでも「嫌です」なんて言えるほど俺は人間腐ってない……と思う。
 つか、その辺り見越して俺にも説明したよなあの人。その辺どう考えても機密事項に近いだろ。それ聞いて断るとか無理だろ!! あの時の綺麗だけど黒い笑みを今でも思い出すぞ俺は!!
 ……まぁ、その辺はいい。もう終わったことだし。
 事件解決から約二カ月。あれから時間はそれなりに立っているとはいえ、思った以上に元気そうだ。


「そうね……日常生活には問題ないレベルには、みんな回復してるわ。ただ……」
「我やヴィータ、そして高町など一部の人間は戦闘となると、まだ本調子でいけないのが現状だ」
「……そうですか」
「……せやな。リンディさんから聞いとるとは思うけど、今の六課主要メンバーの……と言うよりは、隊長陣の大半はこんな感じや」


 おいおい、予想以上に拙い状態だな……まぁ幸いなのは全員が全員じゃないってところか。つっても、隊長陣がこれじゃあ他の隊員への負担がでかい、か……
 得意じゃないけど、その辺合わせてサポートする感じが主な仕事になりそうだな。


「万が一に備えて、恭文とユウキ君には休み返上で来てもらっとるし、残り半年近く、何がなんでもなんとかしていかないとあかん」
「はいですっ!!」
「恭文くん、ユウキさん、あなた方にはそういう事情で来て貰っているわけだけど、もちろんあなた方に全てを押し付けるようなことはしないわ」
「もし何か起こったとき、我らにお前達の力を貸してほしい。頼みたい事はそれだけだ」
「別に構いませんよ。そのためにここに来たわけですしね。……ただしっ! なんにも起こんなかったら、定期的な休みはきちんともらいますからねっ!?」
「こだわるところはそこなんですね」
「本当に変わってないな…」


 本当にな。俺と出会ったときからもこんなんだからな、こいつ。


「一応、右に同じくかな。初対面の奴らばっかりだけど、一応今日からおれもここの一員だ。何かあれば言ってくれ」


 ついでというか、流石にこれくらいは言っとかないとまずいだろうな。俺はヤスと違ってここに知り合いなんてほとんどいないけど、なんだかんだで「ここにいる」んだ。
 なら、俺に出来ることは最大限やる。ただし、無茶しない程度にな。
 無茶するのは隣のやつの得意分野だからな。


「あと、休みは俺もちゃんとよろしく」
「それはもちろんや。リンディさんからも恭文にストライキとか起こされたくなかったら、そこはちゃんとするように言われてるしな」
「……あの人、僕のことをなんだと思っているんだろう……」
「可愛い問題児ってところかしら?」
「蒼凪なら実際ありえるしな」
「です……」


 あー、するする。こいつは絶対する。


「まぁ……ストライキ起こせるなら起こしたかったけどさ」
『えっ!?』
「……さらば電王、見に行けなかった」
 それを聞いて俺も落ち込んだ。
 そう、なんだよな……約束通りにヤスの手伝いで必死に増え続ける書類を片付けてどうにか一日休みが取れたのに、それをヤスの知り合いという真っ黒い提督が……追加の書類を送ってきやがった!!
 あれがなかったら『さらば電王』、見に行けたのに……!!
 昨日? 転送ポートの使用許可が取れなくてダメだったよ! おかげでぐっすり眠れましたよ本当にありがとうございました!!


「……あぁ、自分ら好きやったな。てかユウキ君も好きなんかい」
「主にこいつのせいでね」
「……なるほど」
「ね、提督潰しても罪にならないよね? ジャスティスだよね?」

「お願いやからそれはやめてーなっ! 間違いなく罪になるからなっ!? ジャスティスちゃうからっ!!」
「嘘だッ!!」
「嘘ちゃうからッ! なんでいきなりひぐらしっ!? そしてちょっと涙目やめてくれんかなっ!! ……とにかく、休みは善処していくし、さらば電王もディスクが出たらプレゼントするから、元気出してくれへんかな?」


 ――ヤスの発言に心から賛同しながら、頷くのを見ていた。
 いやほんと、今思い出してもあれはないって。
 確かヤスが言うには、知り合いの「無限書庫」の司書長にも似たような感じで資料請求してるらしいし……あの提督、血も涙もねぇのか。


「はやて」
「なんや?」
「通常版とディレクターズカット版、両方ね? もちろん、初回限定。あと、劇場公開記念のイベントDVDも」
「自分何気に要求レベル高いなっ! てーか、それやったらクロノ君に要求せんかっ!?」


 はやて、甘い。既に要求しているんだよ。
 ヤス、流石にそれはやりすぎ。


「……それはそうと、三人はどないしたん?」
「はいですっ! フフフッ!!」


 はやての言葉にリインがニヤニヤと笑いだした。……おーいそこな妖精さんは、ちょっと怖いよー?


「恭文さん、ユウキさん! あなた方を生まれ変わった機動六課隊舎見学ツアーにご招待に来たです〜♪」
「「「…………はい?」」」


 あ、三人で声はもった。つか……なにそれ?
 自信満々に胸を張るリイン。もしかしたら、結構前から企画してたのかもなぁこれ。
 で、なしてヤスは即効睨まれてるんだ?


「まぁ、確かに部隊で仕事するなら必要やしなぁ。うし、アンタらここはもうえぇから行って来てえぇで」
「そして英断だねオイっ!!」
「いや、必要なのは分かるんだけどな……おいおいに慣れていくっていうのは?」
「出来れば、早急に慣れてくれると助かるんよ。結構仕事溜まってるしなぁ」


 そこまでか。……俺、少し不安になってきたぞ。いきなりこれって、少し、なぁ?
 まぁ言っててもしょうがない。今は、この妖精のご好意――まぁ主にヤスに対してだが――に甘えさせてもらうとしよう。


「了解。んじゃリイン、お願いね」
「はーいです」


 ――ん? そこの二人も同行するのか?


「いいえ、私たちは違うわよ」
「別の用件だ」
「別の?」
「恭文さんとユウキさんへの挨拶ですよ」


 リインがそこまで言うと、シャマルさんとザフィーラが俺と恭文の方を向いて、柔らかい表情でこう切り出した。


「恭文くん、ユウキ君、機動六課へようこそ。あなたたちを新しい仲間として歓迎します。そして、来てくれてありがとう」
「蒼凪もキサラギもまさか休みを返上してまで来てくれるとは思わなかったぞ。感謝する。これから色々とあるとは思うが、なにかあればいつでも言ってくれ。必ずや我らが力になる」
「…………こちらこそ、また面倒かけるとは思いますがよろしくおねがいします」
「……同じく。これから、よろしく」


 そうして、まず最初の挨拶を無事に済ませた。
 俺とヤスは、はやて達に見送られリイン先導のもと、機動六課隊舎見学+挨拶参りツアーへと向かうこととなった。


「リイン」
「はいです?」
「これからよろしくね。で、もしなにかあったら…………頑張ろうか」
「…………もちろんです。リイン達が力を合わせれば、どんな理不尽も、きっと覆していけるですよ」
「うん」
 で、まぁ、恭文と祝福の風の妖精さんがいい雰囲気なのは突っ込みどころじゃあないだろうな。そこらへんは気にせず、二人の一歩後ろをついていくことにしよう。



(第2話へ続く)


あとがき
ユウキ「さて、とうとう始まってしまった『とある魔導師と機動六課の日常〜古き鉄と黒白の友〜』。黒白は「こくびゃく」と呼んでもらえると助かる。その第一話だったが……まぁ、仕方ないといえば仕方ないんだが、ほぼテンプレまんまだよな」

≪開始部分はしょうがないよねぇ〜。ていうか三次創作って時点ですでに≫

ユウキ「よし、それ以上は黙れ! ……ごほん、あー、俺がこの話の主人公のユウキ・キサラギだ。断じて『偽』なんかじゃねぇ」

≪はぁい♪ ネタバレになるので自己紹介すらできない……えーと、ふふふ、私がミスXだ!≫

ユウキ「いや意味わかんねぇ!?」

ミスX≪それじゃーマスターの紹介―!≫

ユウキ「スルーかよ!?」



名前:ユウキ・キサラギ

年齢:21歳(なのはたちより二つ上)

性別:男

身長:173cm

体重:痩せてもなく太ってもなく

体型:服で分からないけど少し筋肉質

髪の色:黒髪をメインにメッシュのように白髪が混ざる。完全地毛

髪型:男にしては長めで肩甲骨くらいまではある。普段は邪魔なので小さいポニテ

瞳の色:グレー(灰色)

顔立ち:それなりに整ってはいるが、普通の域を出ない程度

職業:管理局所属の嘱託魔導師

魔導師ランク:陸戦魔導師、ランクB-

声のイメージ:杉山紀彰(イメージとしてはFateの衛宮士郎)

性格:誰にでも同じような態度を取り、敬語が苦手。なので基本目上相手だろうがタメ口をきいてしまう。それなりに面倒くさがりで、髪が長いのも切るのが面倒という理由。一人称は『俺』



ミスX≪以上、マスターの紹介でした! ……なんか、杉山さんボイスって格好良すぎじゃない?≫

ユウキ「うっせぇ悪いかっ! ……あーでも、実は最初別の人を思ってたらしいんだけど……書いてるうちにイメージがわかなくなってきたらしい。で、気づけば衛宮士郎と同じ声になっていたとか。主に突っ込みとかだな、この辺はBLEACHの石田雨竜あたりが近いかもしれない」

ミスX≪へぇー。ね、ね、ミスXはー?≫

ユウキ「お前は三話登場予定だからその時な」

ミスX≪えぇ〜≫

ユウキ「登場すらしてない奴をどう紹介しろというんだ、お前は」

ミスX≪あ、そっか。それはそれとして〜、マスター、次回は?≫

ユウキ「この続き、フォワード陣登場から最初の模擬戦直前までだな。またテンプレに近くなるけど、勘弁してほしい。悪いのはうちの作者の腕が悪いからだ」

ミスX≪ばっさり切った―! さてさて、そんな感じで始まりましたこのお話、今回のお相手は早く登場したいミスXと≫

ユウキ「これからの展開が面倒すぎるのでどうしようかと思うユウキ・キサラギでした」

ミスX≪あ、マスター敬語。いきなり設定無視はどうかと思うよ?≫

ユウキ「ここくらいいいだろ!? ていうかこれ敬語に入るのか?」

(おわり)




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