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頂き物の小説
第一話『不幸なるかな異邦人』



――この物語は一人の少年と少し特殊な少女と女神達による、どこにでもあるような日常を描いた物語である――



――古き鉄と呼ばれる固き信念をもつ少年と世界の外から来た異邦人――



――その2人が機動六課で繰り出す騒動、友情、恋。その始まりは唐突に突然に始まる――



――不幸の星の下に生まれたであろう古き鉄と異邦人に幸あれ――






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





第21管理外世界・ガルア。巨大な島そのものが要塞である城の中……




「クロノ、どうしたんだ?」




俺……ゴホン。私はウィンドウを開き通信をしていた。その相手は管理局に勤める友人のクロノ・ハラオウンだ




『急ですまない。頼みたい仕事があるんだが……』




私が拷も……しゅ、修行を受けている時に通信がきた。そのおかげで今休憩に入っている……というか、今日の修行は終わりにしてもらえたから助かった。と、そんなことより




「頼みたい仕事?」



『ああ。此度のテロ事件について既に聞いていると思う。鎮圧した部隊についても』




広域次元犯罪で指名手配されていたジェイル・スカリエッティが引き起こした……通称JS事件


あわや管理局崩壊の時、その危機的状況を覆す手立てになった奇跡の部隊が機動六課



JS事件の顛末は説明すると少々長くなるので割愛する


詳しく知りたいなら原作を見るか【とある魔導師と古き鉄の戦い】を見てくれ




で、話を戻すと。クロノの依頼はおそらく六課についてだろう




「それなりに詳しく知ってる。それで仕事ってなに?」



『君に六課へ出向して欲しい』



「戦力としては過剰って聞いてたけど何で私も?」




六課にいる戦闘が出来る魔導師のランクは他の部隊と比べると過剰という言葉が出るほど充実している



しかも通り名持ちがほとんどだ。エース・オブ・エースや夜天の王や閃光の女神が最たるものだろう……


私のような特殊な立場の存在を欲する程危機的状況でもないはず……大きな事件が終わった現在は特に




『そのことなんだが……』




私の疑問にクロノは困ったように教えてくれた。JS事件の最終局面でスターズ分隊の隊長と副隊長が重傷を負ったこと


その他に隊舎襲撃の時にも負傷者が多く出たとか……つまり六課は現在、データ上戦力は充実していても実際は大幅に低下している


しかも、管理局全体で組織改革を進めている影響でミッドチルダでは動かせる部隊が限られてるらしい


そこに大きめな事件が発生した時、JS事件を解決に導いた機動六課に任せれば大丈夫という流れになるかも……いや、なっているらしい


今のボロボロな六課では無茶振りだが、部隊のメンバーを考えればそんな状況でも解決しようと行動するのは目に見えている



クロノはその辺りのフォローのために私に六課へ来て欲しい、そういうことだ。ただ……




「いくらなんでも私一人で部隊そのものをフォローなんて難しいぞ?」




出来ないことはないが、目立ってしまうのがいただけない。聞くに、私が来る本当の理由は秘密にしなければならないし、出来るだけ自分の能力は知られたくない




『君の方の事情は承知している。六課のフォローももちろんだが、本命は恭文のフォローだ』



「え、もしかして恭文も六課に?」




クロノの言葉に軽く驚く。あの恭文が部隊に半年も常駐するのを許容するとは……



これはアレか?
事件フラグじゃなかろうか……いや、さすがに考えすぎか


でも、恭文も事件中に相当厄介な相手と戦ったって聞いてたけど……




『……はぁ。いったい君はどこから情報を得ているのか不思議で仕方がない』



「これくらい出来て当然……それにこっちに局員を副業にしてる人もいるんだから、情報が流れても然して不思議でもないよ」



『そういえばそうだったな……。なら、どう対処したのかも聞いているな?』




もちろん聞いたし、その相手のことも調べたさ……結果、頭を抱えたね


なんであんな凶悪犯罪者に狙われるのかと、恭文を思って泣きそうになったし


殺人云々に関しては、何も言わない。現場に居なかったからというのもあるが、恭文なら自分なりの答えをもって進み続けると信じてるから……




「そこもちゃんと聞いてる……で、保護責任者含むその他と荒れたってのもね」




これにクロノは表情を苦くする。その表情から察するにかなり酷かったみたいだな……




『そこも知られていたか……。もっとも、恭文が六課に出向するのに無関係でない分、話が早くなるか』




そこからクロノは詳しく話してくれた。恭文の六課出向は彼の母であるリンディ・ハラオウン主導で行われたこと


クロノが気付いた時には、既に根回しが完了していて止められなかったということを……せめて恭文が納得したら、という事は伝えたらしいが


そして、リンディの狙いがボロボロな六課のフォローを恭文にさせる事で局への理解を促して、ぶっちゃけると鉄をやめさせたいらしい




「……それほんと?」



『……ああ。僕に話が来たときに、な』



「なんというか……本人の考えとか夢なんて関係ないって感じね」




恭文の夢は型に嵌まるような形してないのに……それにルールに縛られている管理局じゃ恭文の夢は通せない


前は冗談で済ましてたけど、本気で勧誘してみようかな……?




『確かに局よりキュリオーテスの方が恭文に合ってるだろうな……』



「止めないんだ?」



『止める理由がない。福利厚生も局に劣らず充実しているし、対応の早さが局とは段違いだからな……。
何より、管理外世界での対応も柔軟と聞く……』




いや、そこまで褒められるような組織じゃないんだけど……福利厚生は局を参考にしてるし、管轄が局と比べて狭いから対応が早いだけ


管理外……そもそもキュリオーテスにはそんな概念無いしね。未発達であり魔法が無い世界って認識にしてるから魔法バレは自己責任にしてるだけだし



自己責任にする代わりに、訓練校の段階で魔法バレのデメリットは想定できるだけ細かく教えてる



そうでもしないと軽く見ちゃうから……改めて考えると規模が小さいからなんとかなってるだけだよね



局との大きな違いは、質量兵器も使ってるくらい……かな?



まあ、私の組織と局の違いの考察はまた今度で……出向の話を進めなくちゃ




「それで出向の話だけど勧誘OKなら引き受けるよ?」



『立場的に許可を出すわけにはいかないのでな……バレないようにしてくれると助かる』



「了解。あとは……」




私とクロノはこれからしばらく、私が六課に出向するために必要な事を色々と決めていく



重要なことだったり、関係が無さそうなモノも含めて。その中で、私が出向する日時も本決まりした



決まったからには私に出来ることを頑張りますか。恭文のフォローが最優先、次いで六課のフォローは適度にっと



あ、そうだ……三年越しの再会ついでにアレ、頼んでみよっと♪






魔法少女リリカルなのはStrikerS 異邦人クロス





とある魔導師と機動六課の日常〜異邦人・現地妻への道?〜





第一話『不幸なるかな異邦人』






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






戦艦アースラ……そこの艦長室に私はやって来た。恭文がクロノ他に与えられた書類の海に溺死しかけているだろう頃、一足先に配属する事になる




「失礼します。キュリオーテス第一支部第五部隊より参りました……嘱託魔導師のレイ・ヴィクトーリアです」



「いらっしゃい。はじめまして、機動六課部隊長の八神はやてです。よう来てくれはったなぁ」




ショートカットの茶髪にバッテン型の髪留めをした女性。八神はやてが備え付けの机に腕を乗せて出迎えてくれた。私は机の前で敬礼をする……ここはしっかりしないといけないし




「いえ。こちらとしても局の機動課で研修を許可して下さり助かりました」




私は軽く笑いながら礼を述べると、部隊長も朗らかに笑い返してきた




「そか、学べる所があればどんどん吸収しいや? 代わりに気になる所を指摘してくれると助かるわ」



「わかりました。部隊長、これからよろしくお願いします。それで仕事の確認をしたいのですが……」




私が勤務内容の確認に入ろうとすると、柔らかい雰囲気から凛とした雰囲気へ……この切り替えの良さに私は感心した


伊達にこの若さで部隊長を任されてはいないな。でも、微かに私を警戒してる……?


この態度からして……誰かに六課の現状を悟らせるなって言われてそうだな。クロノ以外の後見人の誰か……推測だけで決めるのは早計だし、この問題は忘れよう




「仕事の内容がわからな出来んわな。じゃあ説明しよか……まず、先日起きた事件に関する報告書作成が大半やな」




部隊長から聞かされた内容は当たり障りのない仕事ばかりだった。クロノから未だに高町なのはとヴィータは入院中と聞いていた……


一応、私は研修の名目で出向したため立場的に新人と同じだ。しかも、魔導師として来たため訓練も仕事に含まれている


が、肝心の教導官が入院していれば退院するまで訓練は中止……なぜ中止なのかを尋ねてみたが




「JS事件で六課の前線メンバー全員な……ちょいデバイスに無茶させたんよ。全員のデバイスがオーバーホールの最中なもんで訓練は中止っちゅうことや」




苦笑しながらこう言われた。それは色々と苦しいと私は思ったけど、部隊長の表情からして同じ思いらしい


だってねぇ……デバイスがなくても指導くらいはできるしね。訓練は何も模擬戦をしなくちゃいけないって決まりはないんだし


あ、そうそう。一応私の所属はスターズとライトニングとは別の分隊扱いみたい



でも、分隊名を考えてって言われても……それは普通予め考えておくものじゃないかな?


ま、これに関して私の出向が想定外だったみたいだから仕方ないけど


暫定だけど……アナザー1とでもしときますか




「いや、それは……」




私が暫定的な分隊名を告げると部隊長がブツブツと呟き始めた




「アナザー1って……ならこの娘……メイドで大剣使うんやろか」




って、メイドに大剣ってなに?
どっから出たのそれ?


私が訝しげに見ていると




「あ……暫定的にそれにするわ。暫定やから正式に決めたら教えてや? すぐに変えるから」




やや目を逸らしながら早口で捲し立ててきた……それに私は戸惑ったが、深くは聞かなかった


雰囲気的に聞いたらいけない感じがすごくしたから、ただそれだけよ


決して彼女の視線が胸に集中してて身の危険を感じたからじゃない!



と、とにかく!
勤務内容に関して六課の隊舎が復旧するまでは書類仕事のみ……訓練などは隊舎が復旧してからとのこと



それと、隊舎が復旧する予定日にもう一人局員が来る旨と、その局員は私が属する分隊に隊長として入ることも告げられた


どう考えても恭文のことだよね……ヤバイわ、急いで名前決めないと


流石に恭文でも分隊名になんとかタロスなんて付けないと思うけど、万が一もあるわよね


よし、話がもう終わりっぽいし自室で名前を考えなくちゃ!


私は丁寧に部隊長に退室する事を告げ、来た時に案内された部屋に向かう


あ、そういえば部隊長……私のこと見ても何も言わなかったな


髪の色変えて行った方がいいってクロノが助言してくれたおかげだな、うんうん






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「ふぅ……行ったようやな」


クロノくんから助っ人を呼んだって聞いた時は、まさかキュリオーテスからやとは思わんかった……


誰が来るかとか教えてくれんかったしな。でも、リンディさんからいきなり六課の現状を悟らせたらあかんって通信来たときはホンマにびっくりしたわ



その時にどこから来るか知ったんやけど



キュリオーテス……最近まで知られていなかった組織。管理局と同じく次元世界を管理……ちょお違うな


共存を進める警備組織やな……。今まで知られていなかったのが不思議なくらいしっかりとした組織やった


なぜ知られていなかったか……それは実に単純や。隠されていたからや


キュリオーテスっちゅう組織自らやない、今回の事件でお亡くなりなってもうた最高評議会が隠してたんや



まだ民間には流れてへんけど、局員には知らされた。皆驚いとったなぁ……うちも寝耳に水やったし


それから少し上が大変やった……資料からはかなりしっかりした組織で、魔導師戦力も充実しとる事が記されとった



信用が落ちたゆうのも関係あるんやろうけど、海も陸も万年人手不足や


お偉い方の結論は単純や、管理世界の一つとして管理局の管理下に入るよう通達やな……もちろん質量兵器なんかもあったら即撤廃するようしっかり要求したらしいわ


結果は……拒否。理由は自分達の世界は自分達で護れるゆう当たり前な主張や


ヴェートルと同じやな、ここは。ただ違うのは主張と実績が伴っとるゆうことやな


うちやないんやけど、知り合いの捜査官が調査したのを回してもらった。キュリオーテスがいつ発足したのかも書かれて、よう調べられたと思うで?


まあ、かなり眉唾物なんやけどな……まず、キュリオーテスの本部から話そか



話すんやけど、うちは未だに信じられへん。なんせとんでもなく大きな島一つを使った城らしいんよ


しかも、サーチャーで中も調べようとしたんやけど何度やっても弾かれたらしい……


だから内部は不明や。それでも外観だけでも非常識やから、内装も同じくと思ってええやろ


次にいつ発足したかになるんやけど、今から30年くらい前に成立したっちゅう以外はなんも分からへんかった


これはある意味仕方ない。なんせ、その当時を知る人の殆どが組織の上層部に勤めとるのが大きい


その世界では常識やから詳しく聞き回ったりしたら確実に不振人物や……捜査官が補導なんてしゃれにならへんもん


しかも当時の記録も意図的に消されとるし、発足した年を調べれただけ御の字や


この調査結果から30年は世界を護ってたことが分かる。民間人もそれを知ってるから誇りにすら思うとる


そこでいきなり次元世界を認知しとるゆう理由だけで管理世界になれ、そんな要求に誰も納得するわけない


局の上層部にとっちゃ苛立たしい事態っちゅう訳や。他に苛立たせてる要因ゆうたら、キュリオーテスのトップが無視したことやな


返答はその世界の王2人……王様の言い分としては彼女達が出るまでもないらしい


上層部の連中は自分達、ひいては局を見下していると取った。このやり取りだけでJS事件が終わってから昨日までのことや


リンディさんから今日も交渉するとか聞いとるけど、多分平行線やな……


現状を悟らせるなゆう通信の時に、ヴィクトーリアさんを説得出来ないかゆうてたな……研修しにきた娘説得しても無理やと思うんやけど



とにかくや、キュリオーテスっちゅうのは謎な部分が多い要注意組織という認識が局での常識になっとる



まあ、そこでどうしてクロノ君がその組織の人間を派遣できたかっちゅう話になるんやけど



……そこをリンディさんが聞いたらしいんやけど、上層部に知り合いがいるゆうことしか話してもらえへんかったらしい



そこでどうして報告しなかったゆう話になったんやけど、接触したキュリオーテスの魔導師からの忠告があったらしいわ


接触したのは5年前、その頃既に最高評議会と接触済みだったらしくて、知られてないって事は何かしらある言われたらしいんよ



クロノ君とアイツが話し合って忠告に従うことにしたんやけど、結果的にそれは正解やったと思う



あ、アイツゆうんはうちらの友達や。そこはまたでええな……問題の最高評議会はJS事件の発端を作りよるし、裏付けをしとる最中やけど相当数の犯罪に手を出しとる事が確定らしい



もし正直に報告しとったら何かしてきたかもしれん。そう考えるとその魔導師には感謝や



リンディさんは納得出来んらしくてアイツにも聞くゆうてたけど、そこはクロノ君と一緒に止めた



今ゴタゴタしたらアイツ、今回の話引き受けずにマジ失踪するかもしれんしな



断るのはまだええんやけど、失踪するのだけはやめてほしい……フェイトちゃんに何て言ったらいいか分からへんもん


うちにとっても大事な友達やからな



謎の多い警備組織についてはおいおい判断してけばええとして、あの娘……ヴィクトーリアさんってよう見るとなのはちゃんにそっくりやったな



髪型と色と、もっと胸が小さかったらそのままやな……


うちの見立てやけどフェイトちゃんよりも大きいでアレ……是非とも触らせて欲しいわ


うし、組織云々は気にせず個人的に仲良ぉなろう……そんでスキンシップや!






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






さて、今私は艦内の廊下を進みながらある事に頭を悩ませてる……それは分隊名



一応、恭文も属すみたいだからしっかりと考えないと。いくつか候補考えて恭文に選んでもらおうかな……


うん、そうしよ!
候補は5つくらいでいいか、と考えていたのが不味かった




「うわっ!?」




ちょうど私が通路を曲がるとお腹に軽い衝撃、たたらを踏む音が聞こえた。私は咄嗟に転びそうになっている子供に手を伸ばし抱き締める形で転ぶのを阻止……危ない危ない



子供の肩に手を置きしっかりと立たせる




「君、大丈夫?」



「え、あ、はい……ありがとうございます」




私はしゃがみ子供……赤毛の少年に話しかける。転ぶのを阻止出来たけど足首とか捻ってるかなとちょっと心配したんだけど、大丈夫みたいでよかった


私は自然と笑顔で頷いていた。少年はやや顔を赤くして困惑している……多分、ぶつかった時に顔を強く打っちゃったからかな?


でも、困惑してる理由は……




「あの、六課にどういったご用件なんでしょうか……」




ああ、成程。確か六課は別名仲良し部隊って呼ばれてたっけ……大半が知り合いで構成されたのを揶揄して、だったわね



この反応を見るに六課の隊員ならある程度頭に入ってるみたいね……で、見知らぬ私を見て困惑していたと




「用事ならさっき終わったところよ。君はここの局員?」



「はい! ライトニング分隊所属エリオ・モンディアルです」



「エリオ君か。私はキュリオーテス所属の魔導師で明日から六課出向となるレイ・ヴィクトーリアよ……よろしくね」




背筋をピンっと伸ばして所属を名乗る、背伸びした様子に私は微笑ましくて笑みを深くした。だって可愛いから……



それに私の所属を理解した時の表情はちょっと間が抜けてるけど、この歳で顔が整ってるってだけでかなり可愛く感じるなんて……私、色々手遅れなんじゃなかろうか




「キュリオーテスって……もしかしてアノっ!?」



「どのキュリオーテスかは知らないけど、多分君が考え着いた方だと思うよ?」




一応、クロノから局で流れてるキュリオーテスの評価は聞いたけど……悪評ばかりだったからな


この子はどんな評価を聞いてるか……まあ、似たり寄ったりよね




「あの……その……」



「ん?」




でも、この態度はどう解釈すればいいのか……エリオ君、顔を赤くして俯きながらモジモジしてるのよ


何か聞きたいことがあるって分かるんだけど、そんなに恥ずかしがるような問題?




「うちの組織について知りたいことでもあるのかな?」




いつまでもこれじゃ話が進まないし、助け船を出すことにする……だって、私がエリオ君を虐めているように感じて、居たたまれないのよ




「それもあるんですが……その……」




むむ、違うのか。いや、それもって言うからには別の要因が?



さっきからチラチラとこっち見てる……ん?
どこ見てるんだろ……


私がエリオ君の視線を辿ってみると……ああ、成程ね。エリオ君もやっぱり男の子ってわけだ



視線を辿ると私の胸に行き着いた……私の服装は局の陸士用制服で、朝きっちりと着てきた


本来なら色気の“い”の字も無いんだけど、不良品だったのか新品なのに第一と第二ボタンがどっかにいっちゃってた


屈んでたのもあり、見事に素肌……胸をエリオ君に見せてたのよ。原因も分かって良かったんだけど……いつ取れた?


きっとエリオ君を転ばせないように抱き締めた時だね。ちょっとだけ強めに引っ張ったから


今ここでは直せないし、一先ず屈むのはやめますか




「見苦しいの見せちゃったか、ごめんね」



「いえ……その、すみません」




未だに顔は赤いまま。真面目だなぁ、この子




「君は気にしなくていいよ。私の不注意だし? で、何が聞きたいのかな?」




私はエリオ君の頭をポンポンと軽く二度叩いて笑顔を向ける。気にしなくてもいいってちゃんと伝わったかな?


ちょっと困ってるみたいだけど、笑ってることだし良しとしよう




「あ、じゃあ……貴女はどうしてキュリオーテスに所属してるんですか? 質量兵器とか平然と使ってる組織に」




ストレートに来たね……子供故か。でも、どう答えようか……まあ、アレしかないか




「どうしてって、護りたいモノを護れるから……かな?」



「え?」



「私の世界だとね、組織に所属すれば誰でも戦う力を得ることが出来る。魔法能力者なら魔法を、非魔法能力者なら魔法に頼らない力を」




リンカーコアの有る無いに関わらず、だね。キュリオーテスにいる魔導師の数はかなり少ない


部隊一つに2人居るか居ないかだから……。大部分は導師と呼ばれるリンカーコアを持たない人達




「でも、護りたいモノを護るって局でも出来ますよね?」



「確かに出来てる人は居るね。だけど私個人としては出来ないとしか言えないかな」



「……そんな」




あ〜、ショック受けてるね。まあ、ここは仕方ないかな。局員のほとんどが私の言葉を否定するのは分かりきってるし、実際その通りなんだよね


局員のほとんどが管理外世界に進んで入ろうとはしないんだから




「エリオ君はさ、管理外世界に知り合いっている?」



「え、はい……居ますけど」



「局のルールに管理外世界で起きた事件に魔法を使って介入はしてもいいって事になってないよね?」



「……はい」



「じゃあ、その知り合いが管理外世界で危険になったら……どうする?」



「それは……」



「助けれたとしてもルールを破った……助けた人に感謝されても局からはルール破りのダメ局員の評判がたつでしょうね」




エリオ君は何か言いたそうにするけど、言葉が出ずに俯いてしまった。否定したいけど否定出来ないってことかな……




「局ではそうでも、私が属している組織は違う……管理外世界とかで魔法の使用を制限してないからね。それにトップからある指令が下ってるの」



「あの……指令って?」




おずおずと顔を上げて聞いてくる。上目遣いの涙目っていう仕草で……ちょっとドキッとしちゃったじゃないさ




「『助けたいと思うなら助けなさい。自分だけで助けるのが無理なら遠慮なく組織を頼れ……待っている人のために命を粗末にするな』よ。
何事も人命優先って意味でもあるし、後悔するのもさせるのも駄目って意味もね」




尚、これ実際に行われてたりする。資源とか財源とか局と比べると雲泥の差がある、もちろん豊かなのはキュリオーテスの方ね


それに加えてトップを敵に回すとどうなるかってのが過去に汚職をした組員が実地で体験してくれたので、うちの組織には基本的に汚職に手を染めようなんてのは居ない


なんせ隠し通すの不可能だしね……トップは2人居るんだけど、どっちも気配だけで隠し事があるのか無いのか判断出来る


しかも、記憶を読み取る魔法も使えちゃうから隠し通すのは無理


それを大々的に宣言するし、間違ってないから、組織内では汚職=破滅ってのが通説


破滅するって分かりきってるのに手を出すほど人間はバカじゃない……けど、中には信じずに手を出す考え無しもいる


その場合、即バレて逮捕するから問題にすらならない上に、その通説が真実だと広めることになるから抑止になるのよね



という理由で、キュリオーテスは健全……なのか?
よく考えたら力で支配してるよね……まあ、良い方向に働いてるから結果オーライかな



末端、というか一般の組員のほとんどが人助けを生き甲斐にしてるせいか、局で言う管理外世界にも名前が知られてたりする


いわゆる都市伝説みたいな形で。中には協力者を作って、その世界での拠点として土地を提供してもらったりとか



最近だと行き過ぎた科学とか魔科学?


それらが暴走して世界が滅びるのを未然に防いだりと大きな成果を出したりもしてる……管理外って限定されてるんだけどね



科学が進んでも次元世界を認識出来ないってパターンも少なからず存在する。超科学=管理世界と必ずしもなる訳じゃないのよ


局はどうしても管理外に対しては消極的で、滅んだあとに介入してくる……管理外だから仕方ないなんて最低な言い訳だと私は思ってる




「私はね……『局員だから』とか『管理外だから』っていう理由で助けられる存在を見捨てたりはしたくない……。私は私として生きていく……そう決めてるからさ」



「自分が自分として……」



「そうだよ。キュリオーテスの一員だからというのも関係ない。助けたいから助ける……自分の心に嘘を吐くのは嫌だから」




我が儘だって言われたら否定出来ないけど、我が儘のどこが悪いのかな?



こうだからっていう理由で諦めてたんじゃ何も救えないし、護れない。我が儘だろうが何だろうが諦めないことが大切なんだ




「……エリオ君。私の考えは今話した通り、でも理解できないなら無理に理解しなくてもいいから……ただね」



「ただ……?」




私の言葉にエリオ君の瞳から戸惑いの色が見える……大方理解してとか言われると思ったかな?


でも、私はそんな事は言わない。理解できないのなら無理に理解する必要はないから……これはあくまでも私の考え


エリオ君も必ず同じ考えを持たないといけないっていうのは傲慢な押し付けだもの。エリオ君にはエリオ君だけの考えが、信念がある……それは絶対に他人から与えられるようなモノじゃない


ただ、これだけはお願い




「どんな状況でも諦めないで……ルールとか関係なしに自分がどうしたいのか、常に問いかけ続けて」



「自分がどうしたいか……問いかけ続ける?」



「うん……答えが一つしかないなんて、決めつけないで。結果なんて選択肢の積み重ねた内容によってどんな形にも変わるものだから……自分が後悔しないために、これしかないって言って諦めないで」



「ヴィクトーリアさんも問いかけ続けてるんですか?」



「もちろん。私だって迷ったり躊躇ったりはするもの……そんな時には必ず問いかけるわ。今、私がどうしたいのかって……そこで何もせずに後悔したくないから」




仕方ないって諦めて、何もしなかった時……私は後悔に押し潰されそうになった事がある。もし私が行動してたら、そんな考えや自責の念……どんなに拭っても聞こえ続ける幻聴



あれは冗談抜きで辛かった……そんな辛い経験は無い方がいい、けど現実はそう甘くない


どんな状況でも、それに陥る可能性がある。だから、後悔しないよう常に問いかけ続けるしかない……大切なモノを失ってから気付いたんじゃ遅すぎるもの


出来るなら私のような後悔はして欲しくないかな、特にこの歳の子ならね



昔に思いを馳せながらも彼に微笑みかける。そんな私の頬に柔らかい物が触れた




「……え?」



「あの……涙が、その……」




その感触にやや目を見開く。少し背伸びしたエリオ君がハンカチを当ててくれている……突然の行動に驚いた私に彼は恥ずかしそうにしながら涙を流していた事を教えてくれた




「ごめんね。少し昔を思いだしてたから……ハンカチ、ありがと」



「いえ……」




あ〜、やっぱり引き摺ってるか……完全に私の落ち度だから余計にって自己分析出来るんだけど感情面はどうしようもないか



でも今は切り替えないと。だって心配げに見上げてくる男の子に、歳上としてこれ以上心配かけさせられないしね


つまらない意地でしかないけど、初対面だし……ってうっかり長く語っちゃったわね。今さらだけど恥ずかしくなってきた


恥ずかしくなって、ついエリオ君から視線を外して頬を掻く……どうしよう、ちょっと空気重い?


こう、しんみり?
エリオ君をチラっと見ると、アレよ。触れちゃいけない所を触れちゃったって感じで落ち込んでるの、かな?



私がどうやって空気を変えようか考えていると




「あの、キュリオーテスでどんな訓練をしてるか……聞いてもいいですか?」



「え、あ……別にいいよ」




躊躇いがちに別の話題を出すエリオ君……これは気を使ってくれたのよね。歳上として少し情けなく感じるけど、ここはエリオ君に甘えさせてもらいますか……




「じゃあ廊下で立ち話もなんだし、談話室に行こうか。案内してくれる?」



「はい!」




元気よく返事をしてくれるエリオ君を先頭にして談話室に向かった。そこで一時間ちょっとの間、それなりに楽しく談笑できたと思う


談笑が終わる頃には、私は『エリオ』と呼び捨てに、エリオは『レイさん』と名前で呼び合う仲になった


来て早々仲良くなるなんて幸先がいいかな……でも、やっぱりエリオが聞いていた噂は悪評だったし、気を緩めずに頑張りますか


何せ、明日から本格的な仕事なんだから。でも、エリオとはまた色々と話す約束と模擬戦の約束をした。エリオと話す事も楽しみではあるけど、ついどう戦おうか考えてしまう自分に気付き我知らず笑みが漏れた






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






夕食の時間、僕は夕方に会ったレイさんを食堂で探した……けど見当たらない


キャロとティアさんとスバルさんと一緒に来たから、それなりに遅い時間だ。もう、帰っちゃったかな?

もう少し聞きたかったんだけど……




「エリオ君、どうしたの?」



「そうね、誰かを探してるみたいだけど……誰探してんの?」



「え〜、ティアは鈍いなぁ。フェイトさんに決まってるよ!」



「一言……多いっ!!」



「わぁぁぁっ!? そう言いながら顔掴むのやめてよぉぉっ!?」




僕は思いの外熱心に探していたみたいで、キャロとティアさんは気になったみたい



でも、ティアさん……スバルさんの顔から手を外してあげませんか?


あの、ミシミシ言ってる気がするんですけど……




「大丈夫、ちゃんと加減してるから。で、誰を探してるのよ?」



「そうだよ、エリオ君。スバルさんの言う通りフェイトさんを探してたの?」




スルーするんだね、キャロ……。でも、スバルさんの力なら力ずくで外せるし、それをしないって事は楽しんでるんだよね



なら、僕も気にしないとこう




「フェイトさんじゃないよ。ティアさんは聞いてませんか? 明日六課に出向してくる人がいるって話」



「あ〜、エリオが部屋に戻った時に聞いてるわよ」



「確かキュリオーテスからでしたよね?」



「そうそう。噂程度しか知らないから、どんな組織か知らないけどね」




僕が居ない時に発表があったのか……。発表を聞いてたらレイさんに会えなかったし、結果的によかったかな




「で、それがどうしたのよ? まさか、出向してくる人を探してるわけ?」



「エリオ君、明日出向してくるって言ってたから居ないんじゃないかな?」



「もう荷物を部屋に入れてるって言ってたから、もしかしたらまた会えるかなって思ったんだ」




あ、その時に夕食を一緒にしないか聞けば良かったかな?


うぅ、失敗したなぁ




「エリオ君、あの……その口振りだと会ったの?」



「うん。仕事が終わったあと廊下でね」



「ねぇねぇどんな人だった? 何話したの?」




キャロが控えめに会ったのかと訪ねてきたので僕は頷いて、何時会ったのか伝えると。ティアさんの拘束を外したスバルさんが眼を輝かせて僕の両肩を掴みながら聞いてくる


あの、肩が痛いんですけど……




「えっと、とても優しくて綺麗な人でしたよ。聞いたのは……キュリオーテスでの訓練や任務についてですね……ッ!?」



「あ〜、こらスバル。エリオが痛がってるんだから放してあげなさい」




僕が痛みに表情を歪めると、ティアさんがスバルさんの頭を叩いて肩から手を外させてくれた


ティアさん、助かりました




「ああ、いいのよ。で、どんな話したのかじっくり聞かせてもらうから。私も興味あるのよ」


「そこは私もかな。噂とかは聞いてるんですけど、どれも嘘っぽくて」




あはは、その嘘っぽい噂信じて聞いた身としては耳が痛いんだけど……そこは話さなくてもいいよね?




「え〜、嘘っぽくないと思うけどなぁ〜」



「あんたね……魔導師全員が龍に乗ってるとかあり得ないでしょうが」



「それに非魔法能力者の人達が空を飛べるなんて無理だと思うな」




そ、そんな噂もあるんだ……訓練内容聞いた限りだとティアさんが聞いた噂は嘘だと思うな


キャロのは……うーん、どうなんだろう?

非魔法能力者については軽く聞いただけだから嘘か本当か判断できないな




「う〜ん、キャロの聞いた噂は分からないけど、ティアさんが聞いた噂は嘘だと思いますよ」



「やっぱりか……。私としてはキャロが聞いた噂もデマだと思うんだけど……ま、いいわ。今はどんな話を聞いたかじっくり教えてもらうからね、覚悟してなさい」



「そうですね。それと、綺麗な人ってことは女の人だよね? どんな人なのか教えてね」




えと、そのあと僕はティアさん達に話すことになる。レイさんと会って、話して感じたこと


キュリオーテスの訓練から事件の対応の仕方などを


でも、レイさんの姿とかを熱心に聞いてくるキャロが少し怖かったな

なんというか迫力がすごくて、ティアさんが頬を引き攣らせてたなぁ


多分、僕もだけど……






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






疲れた……。今日って仕事ないよね?


なんでこんな疲れたんだろ……。私は今、部屋でベッドにうつ伏せで寝てる



部隊長に挨拶したりは大したことなかったし、エリオとは疲れよりも楽しさが勝ってたし



やっぱり、そのあとが原因だよねぇ……。疲れの根源、というか元凶は天然を爆発させたフェイト



髪型と髪の色が違うのになのはと間違えるし……顔が似てるから仕方ないのかも知れないけど、さ


私の言うこと中々信じてもらえず、無理やりどこかに連れていかれそうになったっけ……


あれはビックリした。いきなりバインドで身動き封じて引っ張るんだから……部隊長に助けを求めても罰は当たらないと思う



なんとか部隊長に誤解を解いてもらえたけど、次はフェイトが謝り出して宥めるのが疲れた



その時の縁というか、この小さな騒動がキッカケでお互いが名前で呼び合うことになってしまった……


なんでそんな事になったかというと、間違えたお詫びがしたいって譲らなかったからだね



別に気にしてないって伝えたんだけど、頑固で……はぁ


なんとかお互いに名前を呼び捨てにする事をお詫びとして認めさせる事が出来た……かなり疲れた



なんで初日ですらないのに疲れ果てないといけないのかな?


こんなんでやってけるか不安になる……まあ、なんとかなるかな


さて、このまま寝たいけど……やることやりますか



私は事前に送っておいた衣服が詰めてある鞄を探す。部屋に入ってベッドに直行したから場所を確認してなかったから


入口の隅に大きめの鞄が立て掛けてあり、側の机の上に赤黒い宝玉のネックレスが納めてあるケースも見つけた




「あ、届いてたんだ。荷物の前に異常ないか調べるか」




あのネックレスについた宝玉が私のパートナーデバイス。一緒に六課に来るはずだったんだけど……六課に向かう前に無理やり取られたんだよね、上司に


あの人の事だから絶対に何か細工してるに決まってるし、土壇場で想定外な機能なんてあったら……ヤメだ、あの時の悪夢を思い出してしまう



私はのそりと起き上がり、ケースを取って中から取り出す。空間モニターを表示させ、スリープ状態のデバイスを起動させる




≪………おはようございます、マスター≫



「うん、おはよ。調子はどう、何か変わってる所はあるかなブレイク?」



≪少々お待ちを…………異常は見受けられませんが、バリアジャケットが変更されております≫



「え゛っ!?」




バ、バリアジャケットの変更ぉぉぉっ!?




「すぐにそのデータ出してっ!」



≪………こちらです≫




空間モニターが一つ立ち上がり、記録された私の写真を台座に設定されているバリアジャケットが装着されている


そこに映し出されていたのは……




「………フリフリの……ドレス?」




黒と白が絶妙に組み合わされたフリルが豊富に使われたドレスのような服……俗に言う【ゴシックアンドロリータ】と呼ばれる種類だった


ドレスと表現したが、よくよく見ればワンピースだとわかる。分類するなら【ゴスロリ風ワンピース】と言ったところか……


だが、はっきり言おう……断じて私の趣味じゃない!
さっき思い出したくない悪夢と言ったが、その時もバリアジャケットが変えられていた


その時よりかはマシな格好だけど、人前で着たくないのは変わらない



しかも、前と違って見る人は多数居るのだ……考えるだけで顔の熱さが上がる。これは絶対に顔が赤くなってる



それに動き辛そうなのがいただけない……本来のバリアジャケットは長ズボンだから余計にそう思ってしまう



私は当然変更しようとした。が、変えようとした寸前に嫌な予感がして動きを止める




「……ねぇ、ブレイク?」



≪なんでしょうか?≫



「バリアジャケットを変更した場合……何かある?」



≪……不明です。その代わり音声ファイルを発見しました……開きますか?≫




音声ファイル……開けと、開かずに変更したら後悔すると私の勘が告げてくる。私は過去、自分の勘に何度も救われているから




「お願い」




少々情けなくはあるが、私は勘に従い音声ファイルを開ける意思を示す




≪それでは……≫




宝玉が数度明滅すると……




『レイ、この記録を聞いてるって事は確認したみたいね』




女性の声が流れる。この声にもちろん聞き覚えがある……私の上司の声だ




『もうわかってると思うけど、バリアジャケットの変更をしたのは私だ。わざわざレイに似合うように考えた自信作よ、ちゃんと使ってね』




まだ続きがある。本当は今にもやめたいが、嫌な予感がまだ消えない




『あんたの事だから変えようとか思ってるのは予測してる。その為に忠告よ。もし、無理やり変更したら別の衣装に変わるだけ……例えば、前回よりも露出が激しいモノとかね』



「なっ!?」




前よりもっ!?
それ何の冗談……いや、あの人ならやりかねない




『もう手遅れかも知れないけど、忠告はしたから。そうそう、変わる衣装だけど数着設定してるから私としては全部着て欲しいかな』




冗談じゃない。あの人の事だから絶対に露出多めな服ばかりなはず……それにしては初期のバリアジャケットの露出が少なめなのが気になるけど




『最後に上司からの命令よ。バリアジャケットは必ず着ること。それともう一つ、写真と動画を必ず送ること。さもないと仕事増やすから♪ またね』



≪以上です≫




……………ジャケット無しとかしたらマジで仕事増やしてくるな。そこまでして私を辱しめたいのか、あの人は




「他のデータは出せる?」



≪圧縮されており詳細はわかりません。解凍いたしますか?≫



「……いや、そのままで」




どんなのがあるか確認したかったけど、解凍した途端変更にでもなりそうだし、まだマシな現状を維持ってところかな……はぁ



出来るだけ模擬戦は断ろう、簡単な訓練ならバリアジャケット必要ないし……


模擬戦するとしても、人目を無くすよう心掛けなくちゃ……
気付かれない類いの結界は必須ね



なんで、こんな苦労背負わなくちゃいけないんだろ……不幸だ






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






バリアジャケットの変更という不運もあったが、私は翌日普通に部隊長の手により直々に紹介された


と言っても、問題なく受け入れられるはずもなく……


色々と飛び交う噂が原因で、大抵が私を遠巻きに見るくらいだ。中には嫌悪の眼差しもあったなぁ



そんな中……




「レイさん、一緒に昼食どうですか?」




エリオは普通に話しかけて来る。出会い方がよかったのか、笑顔で昼食を誘ってくれた


そして、周囲に気付かれないように視線を走らせると困惑している局員が多数見受けられる



興味深く見てくるのも数人居るが、大部分は困惑しながらも不審げにしている


この先私が受け入れられるのは無いかもしれないと、内心頭がいたい


とにかく、エリオに返事をしないと




「うん、いいよ。2人で?」




一応確認。明らかに扉の前でエリオを待っている3人がいるけど、彼女らは私のこと知らないしね




「いえ、あと3人と1匹とです」



「なら、扉の前の子達かな?」




私がそう言うと、エリオは扉を見てから私に向かって頷いた




「そっか。なら自己紹介しないとね……今から行くんでしょ?」



「はい」




私はエリオを伴って扉の前の3人と1匹の許に向かう。そこで軽い自己紹介を終えたあとにオフィスを出た

食堂へ向かう道すがら私が所属する組織について彼女達からの質問を一つずつ答えながら歩いていく


突拍子のない質問……というか噂の確認が多かったかな。デマが9割で、真実が1割って具合に



もっとも、昨日エリオが聞いてきた質量兵器の噂の確認はなかったな

単純にその噂は知らないだけだろうけど、聞かれなくてよかったよ


必要だと説明してもすぐに納得出来ないだろうし、そう何度もエリオにしたみたいに資料見せるわけにもいかないから助かった



それから噂は出尽くしたのか、話題が自然と世間話に移行した……特にアイス屋などのスイーツ関連に。それからはクラナガンにあるアイス屋やクレープ屋を教えてもらったり、逆に私が前までいた世界でのオススメのお店を話したりと中々に話が弾んだ






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






私は昼食を終えた後、エリオ達と別れた。理由は簡単……仕事終わらせちゃったのよね


なんせ、回ってくる仕事がJS事件での隊舎襲撃時に失った機材の目録や隊舎修復にかかる諸々の費用などの整理と、今回の事件とは深く関わりのないものばかり



戦闘記録関係は見せてもくれなかった……まあ、部外者であるから仕方ないんだけど



でも、事件が発生した時に私だけ蚊帳の外に置かれるんじゃないかと心配になる


研修という形式でも部隊に属しているのだからそれは無いと思う……けど、そんな心配をしてしまうほど私の立場は希薄だ



もっとも、事件から遠ざけられたとしても首を突っ込んじゃえばいいんだし、情報は密に集めておかないと


無責任かなって少し思わないでもないけど……六課のフォローは二の次で、本命は恭文のフォローだしね。それが果たせないなら局の命令は無視よ



現状の懸念事項はひとまず脇に置いといて。今、私が何をしているかというと……




『レイ、久しぶり。通信なんて珍しいじゃないのさ』


≪お久しぶりです、レイさん。それと我が妹よ≫


≪いつ貴女の妹になりましたか……しかし、相変わらずですねアルトアイゼン≫




恭文とアルトアイゼンに通信をかけたのよ。もちろん、盗聴対策は万全にして、ね♪




「うん、久しぶり2人とも。ちょうど近くにいるし、伝えたいことがあったしね」




私が六課に出向してること、多分知らないだろうし、私が久々に恭文と話したいのもある




『なに、何か……』



≪ついに貴女も現地妻入りを決意したんですか?≫



「へ……?」




現地妻?
え、恭文にそんなのあるのっ!?




『おのれはいきなり何を……』



≪だってあなた、レイさんにフラグたててるじゃないですか……レイさんも満更でもない感じでしたし、レオナさんから聞きましたよ。レイさんの男性の好みにマスターがぴったりらしいじゃないですか≫




なに教えてるのかな、あの人はっ!?
フラグ云々は見当がつかないけど、男の好みについて話した覚えが……ってまさか、あの時の?


妙に具体的に聞いてきたと思ったらそういうことっ!?
というか、私驚きましたって言い方やめてくれないかな?




『いや、僕はフェイトが……』



「それはわかってるから頬を赤くしながら申し訳なさそうにしないで。
それに私がどういった存在か2人とも知ってるでしょ?」




私の言葉に2人は納得……




≪でも引きずられるとレオナさんから聞いてますよ?≫




アルトアイゼンがしてなかった……あの人がどこまで細かく教えてるか今度問い詰めよう、うん




「確かに引きずられるけど……ってこんな話するために通信したんじゃないよっ!!」



『そうだよね、それでなにかな?』




ふぅ、危ない危ない……。変な風に逸れて迷走するところだった




≪もう終わらせちゃうんですか? つまりませんね、もっと私を楽しませてくださいよ≫



≪アルトアイゼン、貴女という人は……≫




アルトアイゼンはブレイクに任せて、本題に入らないと。恭文もアルトアイゼンはひとまず放置するみたいだし



それから私は恭文に六課へ研修という名目で出向した事を伝えた。普通に驚いてくれて通信した甲斐がある




『クロノさんも気にしてくれるんなら減らしてくれたって……』




まあ、そう言う気持ちもわかるけどね。だって通信画面から覗く紙の量が異常だもん。私だってあんな量処理したことないよ



その後、伝えるべき事柄を伝え終えると私は恭文と軽く雑談してから通信を終えた


軽くだけど久々に話せて楽しかった。


ちょっと上司に問い詰めたいことができたけど有意義な時間で、恭文と一緒に仕事できる日が待ち遠しくなったよ


私は備え付けのベッドに身を沈み込ませながら、時間を確認するために空間モニターを出した後、通信をした時間を思い出していた



通信をしたのはおやつ時、今はもうじき夕飯を食べ始めても不思議じゃない時間だ



思いの外長く話してたと私は軽く苦笑する。恭文も大変だろうに、長話に付き合ってくれたのだから人が好すぎると心配する傍ら、どこかこそばゆく嬉しいと感じている自分にアルトアイゼンの言うとおりなのかとつい思ってしまう



現地妻になるつもりはないし、言うとおりだと思ったのは好意を抱いているかだけど。だとしても、いいとこ友人としてだよね


この先、私が恭文に恋愛感情を向けない、とは自分のことだけど全く予想できない。だから、絶対に無いとは言い切れないけど言葉にすることはまずないでしょうね



中途半端な存在である私をそういった目で見れるほど恭文は私のことを知らないわけじゃない。見ることができないほど、知っているから


でも、もしも……




「……ってやめやめ、何考えてるんだか」




まったく、なんで私が恭文に惚れる前提で考えてるんだろ。確かに好みのタイプと言えなくもないけど、私にとってのそれは許容範囲だって意味なのに



まあ、今日は夕飯をさっさと食べて寝ちゃいますか……でも、現地妻って単語が出るってことはもう居るんだよね?


いったい誰なんだろ……






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





私が配属されてから2週間。未だに他の局員とは打ち解けてないが、エリオ経由でフォワード陣とフェイト経由でシャーリーと仲良くなった



この2週間、特に事件もなく平穏に過ごせた……そして、今日ようやく恭文が配属される日でもあり、ミッド地上の六課の隊舎が復旧した日となった



今、私は六課に配属されている多くの局員に混ざって整列をしている




「…………やっと、帰ってきました」




部隊長が壇上に立ち、整列する局員達を見渡しながら……




「あの襲撃事件から2ヶ月が経ちました」




私には計り知れない感情を籠めて言葉を紡いでいく




「今日、私達はようやく自分達の居場所に帰ってくる事が出来ました。この2ヶ月の間、アースラに乗り込んでくれていたクルーを始め、皆さんには本当に苦労をかけました」




周囲にいる者達の中に感極まって泣いている局員もいる




「私のような未熟者にここまでついて来てくれた事。ただただ感謝する他ありません。ほんとに………今日ここに来てくれて、ありがとうございます」




壇上に立つ部隊長は本当に嬉しそうに笑う。それを見て私はこの部隊が彼女にとって本当に大切な場所なのだと感じ取れた




「さて、湿っぽいのはここまでにしましょう。…………実は、今日という日を祝うように、めでたい話があります。
今日から、この機動六課で私達の新しい仲間として、一緒に仕事をしてくれる方がおります。では、こちらに」




それを最後に部隊長が壇上の隅に控える。壇上の裏から陸士制服に身を包んだ一人の少年が歩み出てきた


ゆっくりと壇上に、って……




『え?』




こけたっ!?
壇上にあがる階段に足をひっかけたのか受け身も取らず転けた


なんでそんな所で転けちゃうのよ……。なんとか立ち上がった恭文は早足で前に行こうとする


いや、そんな早足だと危な……




「あわわっ!」




私の危惧した通り、恭文は転けた、というか落ちた……盛大な音をたてて




『……………え?』




……縁起悪いったら無い。それにこの雰囲気の中で自己紹介するのよね?


私だったら嫌すぎる……


でも、まあ……これから楽しくなるのかな。恭文と一緒の職場なんて初めてだけど、彼と過ごした時間はハチャメチャではあったけど楽しかったという気持ちを忘れたことはない


私はこれからのことに想いを巡らし楽しみにしつつ、やや不安に思いながら、いつのまにか笑っているのに気付いた



……これが恭文クオリティか、と呟くと先程まで感じていた不安が消えていく感覚に苦笑を溢した




(第二話に続く)



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



あとがき


レイ「見てる人がいるか心配ですが、皆さんお久しぶりです」



(お久しぶりです。byルミナ)



レイ「前回の作品とは違い女性として戻って来たレイです。そして……」


ブレイク≪前作のラミアに代わりマスターのパートナーとしてレギュラーとなったブレイクカリヴァー・バーストです。
以後、ブレイクとお呼びください≫


レイ「今回、一話目だと言うのに新しい単語が出て参りました」


ブレイク≪マスターの現在の設定と含めて紹介したいと思います。どうぞ≫






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





名前:レイ・ヴィクトーリア


性別:女性


年齢:19歳


髪の色:明るめの紫(本来は栗色)


髪型:膝裏まで伸びる長髪を首裏で紐で結ぶだけ(ユーノと同じ髪型)。たまにシグナムと同じようにポニーテールにする


瞳の色:『高町なのは』と同じ


顔立ち:『高町なのは』に似ているが、レイの方がやや目つきがきつい


スタイル:胸以外の体型は『高町なのは』とそんなに変わらないが、鍛えられているためやや細く感じる。身長は『高町なのは』と同じ。ただし、胸はフェイトより大きい



職業:キュリオーテス第一支部第五部隊隊長

機動六課アナザー(仮)分隊所属


魔導師ランク:陸戦AA(飛行魔法が使えるが事情あり)



声のイメージ:日笠陽子
(例:けいおん!の澪)
注:あくまでルミナのイメージです



性格:基本的にはめんどくさがりで怠け癖がある困った人物


睡眠欲が他者より特に強く、休日は予定または約束がない限り寝て過ごすのでまず会えない


常に自分のペースを崩さず流されないため、周囲から我が道を征く唯我独尊タイプと思われがち


ただ、実際は“自分の在り方”をしっかり理解している。要するに不器用なだけ


何気に年下の世話を焼いてしまう、ややお節介じみた所があるが自覚無し



魔力光:闇紅色。黒く濁った紅色



魔法資質:集束技術、誘導弾の制御力などミッド系魔導師としてかなり優秀。魔力量も膨大でエースクラス



戦闘スタイル:相手の戦闘スタイルに合わせた戦いをする。基本は相手が苦手な間合いを見つけ、相手の苦手な間合いで戦う

ただ、たまに相手の得意な間合いでわざと戦う悪癖がある。本人は遠中近と距離を問わないオールラウンダー。その中でも近接戦闘が得意



好きなもの:甘い物、和食、風呂、料理



嫌いなもの:トマト、炭酸系飲料



趣味:睡眠、アニメや漫画、ゲーム、ハッキング



座右の銘:人生楽しまなきゃ損





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



【単語】


『キュリオーテス』
ある辺境世界で30年前に設立された警備組織。管理局で定められた管理外世界を中心に活動している


本部がある世界で、キュリオーテスのトップ達は「神」と呼ばれ絶対的に崇拝されている



『第21管理外世界・ガルア』
中心部に巨大な湖がある一つの大きな大陸の世界

湖にはキュリオーテスの本部となる巨大な城があり、そこから東西にわずか2万キロ離れた地に王政を布いている国がある


キュリオーテスが設立して20年足らずで、中世ヨーロッパくらいだったガルアがミッドチルダに並ぶほどの科学力をもつに至った世界


今のこの世界の政治は、2国に議会制を導入し、議員は国民から差別なく選ばれている

が、キュリオーテスのトップには議会や王を超えた決定権が与えられている






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





レイ「以上となります。ブレイクの設定に関しては次回に回します……最後の二つは必要ないかもしれませんでしたが」


ブレイク≪もしかしたら物語の舞台になるかも知れないのですから、今のうち設定晒した方が後々楽、と作者が言ってましたので≫


レイ「どんな話になるか想像つかない……けど、嫌な予感がする」


(当たらずとも遠からず……)


レイ「……はぁ、まあ次回の予告にいきます。ブレイク、頼む」


ブレイク≪はい、次回のタイトルは『古き鉄と祝福の風の隊舎見学……ときどきハプニング』をお送りします≫


レイ「ぜひ、また見てください」






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