頂き物の小説
『とある魔導師とピンクのお嫁さん』
「みんなで会ってきたらええんとちゃう?」
そんなはやての言葉を発端として、僕とスバル達の5人組は厚生施設へと足を運ぶことになった。いや、正確には足を運んだ、だね。今はその帰り道。僕ら以外に誰もいない海辺の道を、次のバス停まで歩いてるとこ。
うん…正直、色々とあったさ。
ディードにフラグをいつ立てたとキャロに怒られ、ルーテシアにお父さんと呼ばせるなんてとキャロに蔑まれ、メガーヌさんに誘惑されてだらしないとキャロに睨まれ、ギンガさんが不憫だとキャロに諭されて…
「よく考えたら、キャロが怒った理由って僕のせいじゃないものばかりだよね!?」
「なぎさん以外の誰に責任があるっていうの!?」
《つまり、あなたとしては他の人にフラグを立てる前に自分に立てろと―――》
「違うからね!?」
「ヤスフミ…私ね、応援はするけど10歳のキャロに手を出したら犯罪だと思うんだ。」
「出すわけないでしょうがっ!僕はフェイト一筋だよ!」
「あんた…いつまでもそれを言ってればいいってものじゃないのよ?」
「キャロ。フェイトさんに勝てるように…その、僕も応援するから。」
「エリオ君の優しさはね!もう、たまに罪だと思うんだ!なぎさんのフラグメイカーぐらい!」
「何でっ!?」
比較対象がおかしいよね、それっ!?おい、そこの年長者2人、どうしてうんうんと頷いている?それじゃ、僕の何かが罪だとでも言うのかっ!
「もうね!この際だから言うよ、エリオ君!」
「キャロ?」
「私が好きなのはねっ!」
「「ちょっ!?」」
《いや、ここで告白するつもりですか?》
「勇気あるね、キャロ!?」
これは、ひょっとして六課における二組目(一組目は狸と査察官)のカップル成立なのか!?どうなる、キャロの告白の―――っ!?この感じ!
「私は―――え?ま、魔力反応!?」
「全員、注意しなさい!」
「ティア、あそこ!」
スバルの指さした方向に浮かぶのは、僕のと似たような青白い魔法陣…あれは、転送魔法?
念のため、アルトをいつでもセットアップできるようして、エリオとスバルと並んで最前列に立つ。ティアナとキャロも警戒してる。
そして、魔法陣から出てきたのは…
「――――…ぇぇぇん…ふぇぇぇ…」
「…は?」
「こ、子供…?」
ピンク色の髪をした、小さな小さな女の子だった。何故か泣いてるけど。見たところ、5,6歳か…?
「え、あの、何なのこの子…?」
「ひっぐ…うくっ…ふぇ?」
あ、こっちに気づいた。涙も止まって…いや、むしろ笑顔になったじゃないのさ。明らかに警戒してる僕らを見てどうして笑顔に―――
「…あ…‘ママ’だー!」
空気が凍った。
…は?
ママ、って…何!?ママって何さ!?この場にいる女性はスバル達3人だけだよ!?キャロ、はさすがに無いから…
《ティアナさん、スバルさん。あなた達いつの間にあんな子を産んだんですか?》
「結婚してたんですか?」
「「してない!」」
「だって、あの子どう見てもこっちを見てママって言いましたよ?」
「何かの間違いでしょ。あたしかスバルが似てるとか。」
「ああ、なるほ―――」
「‘キャロママ’ー…わぁ、ママ、小さーい!」
空気が凍った、パート2。
「わ、私…?」
「ママ、私と変わんないんだねー!」
「え、何が…と言うか、何で私がママなのっ!?」
「ふぇ?だって、ママはママだよ?ママー。」
そういてキャロに甘えた表情で抱きつく女の子…自称、キャロの娘。
待て。待つんだ、僕。ここは少し落ち着こうじゃないのさ。転送魔法で突如としてやってきたこの子は、キャロを見てお母さんだと言った。
…駄目だ。情報が少なすぎて何も分からん。
「えーっと…どうしよう、ティア?」
「いや、あたしにどうしようって聞かれても…とりあえず六課で保護、かしら…?」
「キャロ…どうやって産んだの?」
《いや、さすがに無理でしょう。そもそも、父親は誰ですか。》
いや、さすがにそれを調べるのは本気で怖いよ、おもにフェイトの反応が!
‘ギュッ…’
…いや、どうしてこのちびっ子は僕の手を楽しげに掴んじゃってるのさ?何?これ以上、何を言いたいのかなっ!?
「パパとママと一緒にお手々つないで帰るー。」
…空気が凍った、パート3。
「スバル。そこのロリコン野郎をボコボコにしてから捕まえるわよ。」
「うん。戻って厚生施設に放り込めばいいよね。」
「待て待て待て待てええええええええええっ!?お願いだから、待てって言ってんでしょうがっ!」
《マスター…あなたには失望しました。》
「おのれもかいっ!」
またかああああああああっ!また、僕をパパと呼ぶ子が増えたじゃないのさっ!?今回は見知らぬ子からだよ!そんなフラグを僕はいつ立てたっ!?
「こんな子、僕会ったことないんだけどっ!?」
「っ!…ふぇぇ…ぱ、パパ…どーしてそんなこというの…?」
「認知すらしないわけね、あんた…!」
「ヤスフミ。いくらヤスフミでも許せないよ!」
「僕も、捨てられたから分かる…ヤスフミの今の言葉は、最低だって!」
「エリオまでかっ!」
「キャロ!僕は、君のパートナーだから…!僕が!君の幸せを取り戻してみせる!行くよ!ストラーダ!」
「その台詞はこんな形で聞きたくなかったよ、エリオ君っ!?」
――――――――――――――――――――――――――――――――
「えーと、お名前聞かせてくれる?」
「ルチア・ルシエ…です。」
「パパとママは、誰?」
「ん!」
嬉しそうに、つないだままのキャロとあいつの手を掲げる女の子。それを見た隊長達の反応は…あたし達とほとんど変わらなかった。
『有罪やね。』
『フェイトちゃん、ハラオウン家に連絡とってもらえるかな?』
『今、コールしてるとこだよ、なのは。』
「待ってえええええええっ!?」
通信の向こうでなのはさん達が冷ややかすぎる視線を犯罪者へ向けていた。ちなみに、未成年者略取の容疑がかけられているこの男は、最近覚えたバインドでがんじがらめに拘束しておいた。
「ちょっと、落ち着こうよ、全員!?」
「そうですよ!どうして私となぎさんが子供なんて産まなきゃならないんですか!」
「ふぇっ!?…ひ、ひっぐ…ま、ママとパパ…ルチアのママとパパじゃ、ない、のっ…?」
「と、このように2人とも認知をしていません。」
『…ランスター陸士。その男の頭を一発撃ち抜きぃ。』
「やられたら死ぬわっ!」
『非殺傷設定や。問題ない…殺傷設定にしてもええレベルやけどな。』
『ヤスフミ…本当に、見損なったよ…!』
エリオのストラーダが冷徹にロリ野郎ののど元で止まった。穂先からバチバチと雷光が爆ぜているのが見える。
「ちょ、今チクッっていったよ、エリオ!?」
「僕は誓ったんだ…もう、僕のような子が…親に必要とされないような子が、少しでも減る世界を作るって…!その誓いのためなら、たとえヤスフミでもっ!」
《いや、本当にみなさん落ち着きましょうよ。》
取り上げたアルトアイゼンが、ふよふよと浮きながら割り込んできた。何よ、何かこの男に申し開くような部分があると?
《そもそも、ルチアさん…でしたか。あなたいくつなんですか?》
「え?5さい!」
パーを突き出してにこにこと笑うのは可愛いんだけど…つまり5年前だとキャロは5歳…ああ、確かにいくらなんでもあり得ないわね。倫理とかそれ以前の問題として、生物学的に。
「よし、じゃあ疑いは晴れたよね?晴れたよねぇっ!?」
『ちぇー、なんやつまらんなぁ。』
『あはははは…恭文君、大丈夫?』
「…おい、待て。まさか最初から分かってやってたの?」
『『うん。』』
「帰ったら覚えておきなよ、3人とも…!」
『ご、ごめんね、ヤスフミ…でも、はやての命令でね…?』
「本気でこちとら泣きそうだったんだけど!?」
「えーっと、じゃあヤスフミのキャロの子供じゃないんですか?」
「パパとママはパパとママだよ!」
「…いや、本気で何か心当たりないわけ、あんたら?」
『それに、確かにその子キャロにちょっと似てるよね?』
そう。疑いは晴れたとはいえ、確かに謎が解けたわけじゃない。年齢の関係で、確かに2人の無実は証明されたものの逆に言えば年齢の問題さえクリアならば納得してしまいそうなのよね…これはどういう――――って、え…?
‘ヴゥン…’
ま、また転送魔法っ!?
「ごめん、3人とも。ちょっと話は後で頼むわ。」
『もしもの時は、デバイスの使用を許可する。フェイト隊長はシグナム副隊長と一緒に出撃。なのは隊長はヴィータ副隊長と一緒に待機や。5人とも、気をつけてな。』
「今度はティアをママとか呼ぶ子が来たりして…」
「冗談じゃないわね。キャロ、エリオ、その子をお願い。」
「「了解。」」
そして、そこから現れたのは―――……
「る〜〜〜〜〜〜〜〜ち〜〜〜〜〜〜〜〜〜あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜…?」
「ひぃっ!?」
…え?何、このものすごく聞き覚えのある声は…?
目の前に現れたのはピンクの魔法陣。最初に見たルチアのものよりも、それはずっとあたし達がよく見ている魔法陣の色と同じ…?
「あなたって娘は〜〜〜〜〜〜〜ほんと〜〜〜〜〜〜〜〜にね〜〜〜〜〜〜?」
「あわわわわわわ…!」
見慣れた魔法陣の中から現れたのは、見慣れたピンクの髪に見慣れたバリアジャケット。違うのは、身長と顔立ち。けど、あたし達が毎日のように見ているものとほとんど変化はなくって…?
「少〜〜〜〜〜〜〜〜し、頭を冷やそうか〜〜〜〜〜〜〜〜?」
「ま、ままままままままま、‘ママ’…!」
そこにいたのはあたし達が知ってる召還少女が大人になった姿だった。
砂浜を踏みしめながら歩いている彼女の姿を、あたしは呆然と見送るしかなくて、同じように呆然としているキャロからルチアをひったくる。そして―――――
「ここまでしたお仕置きなんだから…倍でいくよ…?」
「ふぇえええええええええええええええ!」
‘パチーン!パチーン!パチーン!パチーン!パチーン………’
私達の見ている目の前で、ルチアはずいぶんと成長したキャロにお尻を何度も何度も叩かれ続けたのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
で、そんなお仕置きが終わった頃。フェイトとシグナムさんがお尻をひりひりさせてベソをかいているルチアに驚きながら飛んできた。
「本当に、ルチアがごめんなさいっ!」
「え、いや、その…」
「歯医者に行くのが嫌で、まさか時間転移までするなんて…!もう、ルチア!帰ったら、もっとお説教だからね!」
「ごべんなざいぃ〜…」
「は、歯医者!?」
「予約していたのに逃げ出して!このままだと、パパのアイスが食べれないでしょ!」
泣きじゃくりながらイヤイヤと頭を横に振るルチア、そしてその娘に優しくもしっかりとお説教をしている彼女の横顔は…どう見ても…!
「キャロ…?」
「あ、ごめんなさい。えーっと…初めまして、だろうけど、あえてこう言うね?久しぶり、昔のなぎさん達♪」
昔の!?そ、そう言えばさっき、時間転移がどうのこうのって…それじゃあ!?
「改めて自己紹介、っていうのも変だね。未来から来たキャロ・ル・ルシエ1等空佐です。」
「み、未来!?」
「うん。正確な時間は教えられないけど、ね。それにしても…こうして見ると、昔の私って小さいな〜。」
「え、え…あの、本当に私なんですか!?」
「うん、そうだよ。」
未来のキャロ…いや、そりゃデンライナーがあるぐらいなんだから、過去と未来を行き来する魔法が完成してもおかしくはないと思うけど…けど、まさか本当に…!
「キャロ、今何歳なの?」
「秘密だよ、スバルさん。」
「じゃあ、聞きたいことがあるんだけど!」
「答えられることならいいですよ?」
「そのルチアって子、本当にヤスフミとキャロの子なの?」
何を聞くのさ、スバルウウウウウウウウウウウウ!?もしも肯定なんてされたら、僕は明日からどうすりゃいいのよ!?ロリコンのレッテルを貼られながら生きていかなきゃいけないなんて嫌なんだよっ!
「ふふふふふ…なぎさん、今自分がロリコンって呼ばれるかなって思ってるでしょ?」
「ぐ…!」
「安心して。そんな心配いらないよ、なぎさん。」
え…そ、それじゃあ!
「なぎさんと私が付き合うのは、六課解散して5年も後だったから。」
空気が凍った、クライマックス的に。
一緒にいたフェイトがバルディッシュに手をかけて、シグナムさんがレヴァンティンを鞘から引き抜くのを感じながら、僕は全く動けなかった。
5年後…?
つまり、15歳になったキャロと、僕が…恋人になるってこと…!?
「あ、そっか。これ夢だよね。うん、ほーら、起きるぞ僕ー!」
「ちなみに、告白は私から。でも、プロポーズはなぎさんからだったよ。」
「聞ーこーえーなーいー!」
「それなりに成長してたから、ロリコンなんて呼ばれなかったし。安心していいよ、なぎさん…ううん、あ・な・た?」
「嘘だあああああああああああああああ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――
「僕は…僕は、フェイト一筋で…キャロは、違う…ロリコン…ロリコンじゃない…」
目の前で地面に両手両膝をついているのは、壊れてしまったヤスフミ。
それにしても確かに2人は仲が良いとは思ってたけど…まさか、5年後なんて…!
「キャロが15歳ってことは、今のあたしと同じだから…犯罪ってことはないよ、ヤスフミ?」
≪では、スバルさん。たとえば、あなたが5年後にエリオさんに手を出しても問題ないと言えますか?≫
「…ヤスフミ、施設に戻ろう?そして、ちゃんとギン姉に厚生してもらおう?」
「うん、そうだね…」
「いや、落ち着きなさいよ、あんた達…」
落ち込んでいるヤスフミは、スバルとティアナが一生懸命励ましている…のかな、あれは?えっと、未来のキャロは何を…?
「なぎさんは私のお兄さんってだけなんだよ、エリオ君!?」
「いいんじゃないかな?ヤスフミなら、きっとキャロを幸せにしてくれると思うよ。」
「エリオ君、段々とフェイトさんに似てきたよねっ!」
「そうだよ。だから、私は5年後になぎさんと一緒になったんだから。」
「むしろ、どうしてなぎさんなのかが気になるよ!」
「うーん…放っておけなかったからかな?」
ああ、何となくそれは分かる気がするよ、キャロ。それにしても、ヤスフミとキャロが…結婚して、子供まで…はっ!ひょっとして、私って未来のヤスフミにお母さんとか呼ばれるの!?家族になるのは嬉しいけど、それはさすがに…!
「ど、どうしよう…どうすれば…?」
「テスタロッサ、顔が真っ青だぞ。」
「え、あ、いえ…大丈夫です…」
「お前…審査中というの、嘘ではないか?」
はっ!そうだ!審査…審査中だよ。キャロに手を出すなんて減点対象だよ。うん。これは、ヤスフミにチャンスを与えるためにも、ちょっとキャロと距離を置いてもらったほうがいいよね。
「とりあえず、ヤスフミにキャロとの関係をもう一度見直してもらって…」
「…もはや全く聞いていないな。…ふむ、ところでキャロ。あー、未来の方だ。」
「はい、どうしました?」
「いや、一つ気になることがあってな。お前と蒼凪が結婚したということは…未来のテスタロッサは蒼凪の想いに応えなかったのか?」
「「っ!」」
そうだ!つまり、私は何かあってヤスフミの告白を断ったんだよね!?何があったの!ヤスフミ、何をしたの!?
「フェイトさん、長距離航海でずっと帰って来れなかったんですよ。」
「それで?」
「そこを狙って、奪いました。」
「「「「奪ったの!?」」」」
「なぎさんが悪いんだよ?辛いときに…、いつも無自覚に優しい言葉をかけて、どんどんフラグを立てちゃうんだから。」
ありうるっ!ヤスフミなら、きっと年頃になったキャロのフラグを乱立することぐらい簡単だよ!そして、最近のすっかりヤスフミ…というか、アルトアイゼンの影響を受けてるキャロなら…!
「なぎさんが、私の誕生日にプロポーズしてくれなかったら、押し倒すしかないかなーって思ってたんだよね。」
「何をしようとしてるの、未来の私!?」
「フェイトさんとの一騎打ちは大変だったよ。」
「一騎打ち!?」
「ちなみに、なぎさんはルーちゃんの白天王と一騎打ちだから、頑張ってね?」
「死ぬわっ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――
うああああああああああ…僕が、キャロと結婚するだなんて…!僕の今までの10年は何だったんだ…!しかも、よりによってキャロ!?まずいなんてもんじゃないよ!間違いなく、帰ったらガチな会議が待ってるじゃないのさ!
「ところで、大キャロ。」
「いや、大キャロって。あんたもうちょっとマシなネーミングセンスを…!」
「どうしました、スバルさん?」
「いいの、それで!?」
「ティアさん。私、なぎさんと結婚したんですよ?」
「…納得だわ。」
どういうことさっ!あれか!僕のネーミングセンスが無いとでも言いたいのか!?
「ルチアの名前を仮面ライダーの名前から取ろうとしたり…ルチアったら、女の子なのにヒーローものの方が大好きだし…」
「でんおー、好きだよ?」
「面白くても、もうちょっと女の子らしくしてって言ってるの。」
「ぶー!」
ああ、確かに僕の娘ならきっと洗脳するよ。平成ライダーシリーズを頑張って制覇させたりするだろうさ!つまり、やっぱり僕は…!僕はあっ!
「不幸だっ…!」
「それ、色々とまずいから止めなさい!」
「私の方が不幸だよっ!どーしてなぎさんなの!?」
「後数年したらよく分かるよ、過去の私。」
「分かりたくもないよ、そんなの!」
「つーか、キャロに手を出してしまう自分が一番嫌だあああああああああああ!」
「なぎさんは、お兄さんで、オモチャで、仲間だけどそういうのじゃないのにぃっ!」
「今はね。ほら、私、綺麗になったと思いませんか、フェイトさん?」
「え、あ、それは…うん。」
「過去のなぎさんだって、そう思うよね?」
「う…」
た、確かに…。親代わりのフェイトや、身近にいたであろうスバル達とも違う、しっかりしてそうで、どこか儚げな魅力を持った女性だと思う。スタイルだって、それなりに出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んで。顔だって、今のキャロが大人びた感じであるけど、とても整っているとは―――は!
「なぎさんったら、じろじろと見ちゃって。フェイトさんが怒ってるよ?」
「ヤスフミ…そういったのは、駄目だと思うよ。」
「いや、これは意見を聞かれたから確認してただけで―――」
「「本当に?」」
「…すいません。ちょっと、見とれました…」
「ありがと、過去のなぎさん。」
「…減点だよ、ヤスフミ…」
《墓穴を掘る形になりましたね…ああ、グランドマスターに何と言えばいいんでしょう。》
「止めてええええええっ!?お願いだからトドメをさすようなことはしないでっ!?」
フェイトと残念な結果になっただけでもアウトコースなのに、キャロと結婚して子供まで産むことになったとか、あの人達に知られたら想像できる地獄が天国に思えるほどの何かを味わうに決まってるんだよ!
どうにか!どうにかしないとっ!?
「…スバル、僕のこと…ギンガさんのとこに連れて行ってくれるかな…」
「うん…大丈夫だよ、ヤスフミ。きっと、ギン姉なら厚生してくれるよ。」
《もしくは、5年後に管理外世界へ逃亡するという手もありますね。》
「私が他の誰かと付き合えばいいと思うよ!ねぇ、エリオ君!」
「え?うーん…でも、ヤスフミよりも仲良い男の人っていたっけ…?」
「エリオ君、実は私のこと嫌いだよねっ!」
「そんなことない!キャロのことは大切に思ってるよ!」
「パートナーとして?」
「もちろん!僕達、兄妹みたいなものじゃないか!」
「エリオ君の馬鹿ああああああああああっ!」
「なんでべしっ!?」
ライトニング部隊副隊長直伝、シグナムパンチがエリオの顔面にめり込んだ。そのままゴロゴロと地面を転がるエリオ…
ああ、確かにあれじゃ、エリオとキャロは無理かも…つまり、キャロはエリオを諦めて、そして僕は―――…
「フェイト、執務官なら僕を逮捕できるよね…フェイトになら、捕まっても良いって思うんだ…」
「ヤスフミ…!大丈夫!私と、一緒に頑張っていこう!」
「シグナム副隊長!私をっ…私を、鍛え直してください!どんな鈍感な人が相手でも、諦めないだけの強さを持てるようにつ…!」
「ああ、キャロ…お前ならやれるさ…私と、お前なら…」
「が、頑張って!昔のパパとママ!」
「「応援しないでっ!?」」
――――――――――――――――――――――――――――――――
「昔のなぎさん、そんなに私と結婚するの嫌?」
「嫌っていうか想像できないんだよ!そしてしたくない!」
「夜はあんなに激し「何を言ってるんだああああああああっ!」」
「ヤスフミ…大丈夫、ちゃんと直していこう…?」
「その目はっ!その目は止めてぇ!?」
「もう、仕方ないなぁ。」
苦笑混じりでため息をつくキャロ。うう…正直、美人だよね。スタイルは負けてないと思うけど、多分、今の私より年上だからかすごく優しげな雰囲気が…こ、これが母親なのかなっ!?
「あのね、昔のなぎさん…私とルチアが使った時間転移だけど…これ、あんまり正確じゃないの。」
「…へ?」
「より詳しく言うと…私のいる未来と、今のなぎさんたちがいる時間がつながるかどうかは分からないってこと。」
ということは…キャロとヤスフミが結婚した未来は、私達が今いる時代の確定した未来じゃない…?
「…つまり…僕がキャロと結婚するかどうかは…」
「これからのなぎさん次第じゃないかな?」
「頑張って、昔のパパ!」
「「頑張らないから!」」
…良かった…ヤスフミは、キャロと結婚するから私と結ばれないってわけじゃないんだ…本当に良かった。でも、相手がキャロなんて未来の可能性が消えたわけじゃないんだよね!
うん、これから少しずつヤスフミの好みを誘導していかなきゃ。
「キャロ、帰ったら早速作戦会議だよ!」
「そうだね、なぎさん!こんな未来、何としても回避しなきゃ!」
「あ、過去の私。それはきっとフラグだよ?」
《ああ、密室ですしね。2人きりだと何があってもおかしくないですよ。》
「ヤスフミ。キャロはまだ10歳だから、もう少し待ってあげて欲しいんだ。」
「エリオ君、もうさっきから最低だよね!?」
「ヤスフミ、そういうのは…その、審査に響くんだから、ね?」
「違うから!僕はただ、未来を回避したいだけだから!?」
「ちなみに、審査審査とフェイトさんが言い続けてくれたおかげで、私はなぎさんと結婚できたんです。だから、ありがとうございます。」
嘘っ!?で、でも、だって審査中なのは事実なんだよ!途中で止めるわけにはいかないし…や、やっぱり一刻も早く審査を終えなきゃいけないんだ!うん、明日から…いや、今日からもっとヤスフミと仲良くなるようにしよう!
「とりあえず、今日は帰ってから一緒に晩ご飯を―――それと―――あれとか―――」
「…フェイトさんが今すぐに自分の審査を終了すればいいだけと思うのは、あたしだけかしらね。」
「いや、私も同感だ。」
「シグナム副隊長、どうにかなりませんか、あれ…?」
「10年もの間、ヤスフミの気持ちに気づかなかった女だぞ…自分の気持ちに気づくのも、いつになることやら…」
――――――――――――――――――――――――――――――――
「それじゃ、迷惑かけてすみませんでした。ほら、ルチアもごめんなさいは?」
「ごめんなさい。」
「過去のなぎさんも、どうなるか分からないけど頑張ってね?」
「あー…それに、僕はどう答えりゃいいのさ…?」
時計の歯車のようなデザインの魔法陣。その上に立っている親子とのお別れの時間がこつこつと迫ってきていた。魔法陣に描かれた二本の針が重なったら、転移するらしい。
「私の未来だと、みんな出世してなかなか会えなくて…今日は、嬉しかったです。」
「そっちの私達によろしくねー。」
「気をつけて帰んなさいよ?」
「はい!」
針がかちかちと、少しずつ狭まってきて…重なった。
「あ、昔のなぎさん。」
「へ?」
「これは私の希望だけどね…こっちのなぎさんも、未来のなぎさんのように私のこと好きになってくれると、嬉しいな。」
光が魔法陣からせり上がって、少しずつその中に2人が消えていく。小さなルチアは、もう全く見えない。ただ少し、成長したキャロの顔だけがまだ見えていて―――
「だって、私…なぎさんのことは未来も過去も独り占めしたいから…ね。」
――――そんな笑顔を最期に残して、消えていった…
うわ、やばい…最期のキャロの顔、めちゃめちゃ綺麗だったんですけど…!なんか、周りにいるティアナ達まで顔を真っ赤にするほどじゃないのさっ!
「…手強いライバルになりそうだな、テスタロッサ…」
「キャロ、すごく綺麗だったね。」
「ヤスフミ。あのキャロなら手を出しても私、応援するよ。」
「まあ、何て言うか…元気出しなさい。」
「きゅっくるー」
ああ!みんなの視線が!視線がいつもと違って、あの未来を許容する目になっている!?
「その、ヤスフミ…あのキャロなら、私も祝福できると思うんだ…」
「フェイトまでそんなこと言うのは止めてえええええっ!?」
《久しぶりの善意の攻撃だけあって、ダメージ大きそうですね。》
「なぎさん…そんなに、私を攻略したいの…?」
「おのれまで言うか!おのれまで言うのかっ!?」
「蒼凪…その、なんだ。シャマル達には知られないようにな。」
シャマルさん、並びに僕の現地妻を自称するほかの人達に知られたら…!駄目だ、僕の何かが想像することを拒否している。
「どうか皆さん、このことは是非とも内密にお願いいたします。」
「「「土下座!?」」」
――――――――――――――――――――――――――――――――
結局のところ。
アイツが必死になって口止めしたにも関わらず、部隊への報告として全て話さなければいけなくなって、部隊長やなのはさんから冷たい視線を向けられた後に、鉄の系譜の2人からは根性を叩きなおすと地獄の特訓。
さらに、顛末を聞きつけたシャマルさんが
『そっちの趣味だったのね…大丈夫よ、ヤスフミ君。私がその嗜好を矯正してあげるからっ!』
と言って、あいつの部屋へと走り去っていった。その後、男声で女の子のような黄色い悲鳴が聞こえてきたから、まあ結果は押して知るべし…よね。
そして、最も不安だったリイン曹長はというと───
「キミに誓いをー、僕は夢をー♪」
「リイン、何だかご機嫌だね…?」
「はいです!こんなに嬉しいことはないですよ〜!」
「嬉しいって…何が?」
「ヤスフミさんの好みは、リインやキャロのような体型だったんですね!」
「違うんだあああああああああああああああああああ!!」
その嘆きの慟哭は、六課中に響きわたることになったという。
────機動六課 スターズ隊所属 ティアナ・ランスターの手記より───
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