小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第51話 『裁かれるとき』
――その瞬間だった。
防護服すら無意味な一撃が、背中から私を…………襲って…………。
「ぁ…………?」
私はこの中では、一番高いところにいた。
なのに、背中から容易く銃撃を受けて……火花を迸らせながら、縁にもたれ掛かる。
「なに、これ……どこから……どうして……!?」
すると今度は、縁に火花が走る。
それだけで細い鉄骨は砕け、私は……崩れ落ちる縁ごと、落下して…………。
「あああああああああああ!?」
慌てて飛行能力を発動……でも、撃たれたせいで、意識が……力も定まらなくて……必要ギリギリの減速しかできず、地面に叩きつけられる。
それでも骨が折れることもなく、なんとか……もがくくらいは、できて……できた、けど…………。
「なに……これ、なんなの……なん、なのぉ……!」
『……クアットロ、ウェンディは自爆しないよ』
そこでまた別の声…………映っていたのは、例の……機動六課の、部隊長代理で……。
でも、ECMは……まだこの周囲だけは、発生していない? 穴が……ある……!?
『姉妹の手で葬られるなど、余りに不憫だもの』
「アンタは……そうかぁ、アンタが……全部ぅ……!」
『……かなり危うい作戦だったわ』
「え……」
そこで、声色が変わる。
男から女に……それも、かなり聞き覚えのある声に。
『機動六課がSAWシステムに囚われる……それは私達的には望む結果だけど、あなたの暴走を止めることができなくなるかもしれない。
だからドクターは悩み、ウーノや私と相談した。……そうして私達は、あえてその損益を飲み込むことにした』
「まさか、アンタは……あなたは……!」
『思っていたよりもシステムの管制がザルで助かった……そう言うべきかしら。
……まぁ実体は老人達による管理局の戦力制御だから、ある意味当たり前だけど』
「どうして、ですかぁ……だって、あなたは……」
『ザルな方が、管理者の不正には都合がいいときもある』
「ドゥーエ、姉様……!」
そこで……ようやく闇の中で、ドゥーエ姉様が笑う。
笑いながら、私達と同型のタイツスーツと……金色の長い髪を、晒して……!
『あなたの教育係として、相応の始末を請け負っただけよ。
でも本当に助かった。あなたが秘密裏に雇った彼、話が分かる人だったもの』
『嬉しいねぇ。なら今晩は一緒にどうかな』
『悪いけど私、自分より強い男にしか興味がないの。
……麻薬になんて頼らず、強くなれる男にしかね』
『うわぁ……とんだサディストだよ、アンタ。容易くそこに触れてくるか』
「なんで……なんでですかぁ! ドゥーエ姉様ぁ!」
『……申し開きにしては、随分温いわね』
そこでドゥーエ姉様の目が、冷徹に鋭くなる。
私の大好きな……敵に対して向ける、残酷な瞳。
それを、妹である私が……尊敬していたドゥーエ姉様に向けられているのが、本当に辛くて、悲しくて……。
だってこれはまるで……罪人を処刑しようとしているような。
だったらおかしい。これは、おかしすぎる。
「…………何が、いけないと言うんですかぁ……!」
必死に……体を起こして、声を上げる。
幸い、撃ってきたのは、スタン弾らしい……体なら動く……なんとか、動く……!
あとは這いずって……影に、隠れて…………なのに、ボロボロなビルの柱……それも私の真上に弾痕が刻まれる。
「ひ……!?」
慌てて立ち上がり、走る……走る……だけどちゅんちゅんと鳥が鳴くみたいな音が響いて、左足が弾け飛ぶ。
「ぎゃあ!」
強化骨格もへし折らんばかりの衝撃に、私の身体はなぎ倒される。
幸い、足はくっついてた。だけど……スタン弾で、なぶり殺しにしてきている?
いや、それ以前の問題に……ここは、開けているとはいえ……一階で、屋内よ!? 一体どこから撃ってるの!?
『何がいけない……その続きは? クアットロ』
「に…………人間は、夢のために努力をするでしょう!? ドクターだってだからこの祭りを起こした!」
だからズルズルと這いずり……必死に、起き上がって……奥へ奥へと逃げていく。
そうして適当なドアを蹴破り、机の影に隠れて……こそ泥みたいに、必死に……裏口から、別の路地に、出て……!
「私は私の夢を叶えるため、努力しただけ! それの、なにが駄目だと言うんですか!」
『我々の努力は、正当ではない……その自覚は持つべきだったわね』
「勝てば、いいじゃないですかぁ! 現に私は勝ちかけていた! サンプルH-1が邪魔をしなければ……だから……私は、間違っていない!」
『そうでしょうね……あなたの中だけでは』
なぜなの……神になりたかった。神になれるはずだった。
なのに、その夢が踏みにじられる。それも一番敬愛し、目標にしていた人から。
こんな残酷な運命があるの? ただ夢を見ていただけで……そのために、虫けらを踏み散らしただけで!
そんな理不尽があっていいはずないじゃない! 間違っている……こんなの、間違っているのよぉ!
魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix
とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020
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機動六課は終わる……彼女達の夢は、一つの結末を迎える。それは拭えない。
受け入れて、糧にして進む気持ちが必要……それは私と父も同じだと、噛み締めていると……。
「さて、どうするかな……。これがTOKYO WARの模倣だとするなら、あの飛行船の撃墜はアウトだ」
「……えぇ。攻撃なりを受けた瞬間に墜落する流れでしょうし、中継電波を止めても落ちる仕様にされているはずです。
TOKYO WARの件は抜きにしても、戦略的にそうした方がいろいろお得だ」
≪でもただの模倣じゃない可能性もありますよ? 一定時間経過すると自動で墜落するとか……≫
「魔法の発動を検知して落ちるとか、一隻になにかあったら連動とかもあるね」
「……なら、コイツが役に立つかもしれないね」
そこでヒロリス・クロスフォードが取り出したのは、一枚のデータディスクだった。
「エアリス・ターミナルの方を家捜しして見つけた。なにかの暗号コードみたいなんだ」
「……解除コード?」
≪多分な。外部からも制御不可能なスタンドアロン兵器とか、ナンセンスすぎるしよ≫
「じゃあそれがあれば、ECMを止められるんですか!?」
「解析が必要だけどね。それにどうやって向こうの回線に割り込んで、これを送信するかって問題もある」
≪下手をすれば不正アクセスした途端、墜落ってのもあり得るからなぁ……≫
そう言いながらも、彼らはある種の確信を持っているようだった。切り札のように、そのディスクを仕舞い込む。
「オーリス三佐、一応聞くけど、地上の方で美味しく対処ってのは」
「今すぐ動くのはほぼ無理ですね。それについては本局も同じです。
既に本局・主要世界の地上本部が共同で、アップされたデータの検証作業に入っていますから……それに最高評議会の所在も捜索中です」
「完全に内部告発の図式かぁ。もうデータの削除とか言っても遅いよね」
「SNSに凄まじい勢いで拡散されましたから。
それに我々もひとまずは、地上の治安維持を優先しなくては……市民による暴動も考えられますし」
「つまりスカリエッティの脅迫云々は関係なく、今すぐ追い立てるのは難しい……」
「そうそう、それに絡んでもう一つ報告が。
こう言ってはあれですが……幸か不幸か、SAWシステムの”誤作動”は駐留部隊のみに留まっていたそうです」
「他の部隊は無事なんですね! よか…………よくない!」
「えぇ、ナカジマ二士が気づいた通りです」
もちろん他の被害がなかったこと自体は、喜ぶべきことなのだろう。
……でも彼らにSAWシステムが……本局が保有する戦力の大半が掌握され、身動き一つ取れないのは確かだった。
それに、八月に本局で起きた不具合もある。一度本局は、そのシステムから洗い直さないといけない……!
「なので更迭対称については、機動六課以外にもSAWシステムの監査チームも入っています」
「なら、マリーさん……マリエル技官も!」
「彼女は厳しく調べられる筆頭です。なにせシステムの安全性を人一倍訴えていた一人ですから」
「そんな……! マリーさんは、私達のためにって……みんなに信じてもらえるようにって、頑張っていただけなのに」
「それでも責任はあるということです」
ナカジマ二士とは個人的な付き合いもあるようだし、思うところがあるのは致し方ないだろう。
しかし、それでもこの状況を見過ごし、止めることが適わなかった……だけならまだよかった。
問題は彼女や監査チームがシステムの全容を把握していないにも拘わらず、安全の烙印を押したことにある。
あれで艦隊出動を後押しされた節もあるし、駐留部隊も意気揚々と飛び込んだ。それは残念ながら、彼女達がよしとした殺戮だった。
……その罪はきっと、父がゼスト隊の全滅を防げなかったことに近い。
「……となると、そもそもゆりかごを浮上させる……ヴィヴィオを一度引き渡して、その上で奪取って非道作戦は使えないか」
「それを非道と言ってくれたことに、なのはは心から安堵するよ……!」
「まぁ非道だよな。ゆりかごに乗せたら、ヴィヴィオちゃんにどういう影響があるか分からない。
……でだ、ECMが本格展開する前に、金剛に資料を漁ってもらったんだが」
サリエル・エグザが空間モニターを展開する。
どうも型番から機種を割り出したらしく、黒い大型の機械が映像として出された。
「ECM……電子対抗手段というやつだが、妨害の手法は主に四つ。
通信信号に対する妨害を行う≪信号方式≫。
出されている信号より強力な出力を放射し、ジャミングする≪攻撃方式≫。
戦闘機などに妨害装置を搭載し、レーダーなどの探知を阻害する≪位置関係≫。
ミサイルなどの誘導用に使われる兵器≪デコイ≫。
今回は通信設備から送られてる電波を拡散・放射するタイプだ。攻撃方式に近い」
≪クラナガンは再開発区域や廃棄都市部も含めると、かなり広域なエリアです。それを三機だけで賄うのは事実上不可能。
更に大本の電波が発信できる区域もかなり限られます。大型のパラボラアンテナ……それに代わるような通信設備が必要ですので≫
「それをこの厳戒態勢で、クラナガン首都内に作るのは事実上不可能だ。
しかもその範囲は、中央本部から径三十キロ以内の位置に限られるし、移動する飛行船のルートによっても左右される。
……で、篠ノ之博士からも提供されたミサイルの発射コースや、例の幻影が展開された位置などを踏まえ、マップを見てみたところ」
彼は更にモニターを展開。表示された地図の、ミッド南東……大きめな森林地帯を指す。
「ここが怪しい」
「……アコース査察官と調べていた地帯ですね。ゆりかごの秘匿条件にも合致します」
「ひとまずこの辺りに目星をつけつつ、やっさん達が捕まえた戦闘機人達も尋問ってのが……まぁ妥当なコースですね」
「あとは即行勝負……相手にそんな手を取らせず、混乱のうちにアジトを掌握する。
もちろんECMの解除コード打ち込みも含めて、飛行船も掌握すると」
「エリオ、おのれも大分使えるようになってきたじゃないのさ……」
「なのはさんもそうですし、恭文さんと魅音さん達のご教授があればこそです!」
「え、待って……なのは、そんな教授はしていない。多分していない……!」
……高町教導官が凄まじい狼狽をしている。私はなかなかによい動きだと思ったのだが、何か問題があったのだろうか。
「でもやっぱりリスキーですよね」
「ただ、流れは見えてきた」
「はい。実働的な制圧人員……あとはシステム的な制圧人員を用意すること。
少なくともスカリエッティ達が、すぐに墜落なんて真似ができない程度の……大きな混乱をもたらせるプロフェッショナル」
「なのでオーリスさん、ウェンディ達も適当に引っ張っても」
「構いません」
「……自分で言っておいてなんですけど、大丈夫ですか? なんだったら一人だけでもいいですけど」
「機動六課もそうですし、我々も下手に動くことはできません。
ですがこの状況でテロリストの要求を飲むこともできず、法規的な処置を待っている暇もない」
そう続けて……少し自重気味にため息を吐く。
地上本部のトップを補佐する身としては、極めて認めたくないことではあるが……!
「実に情けなく、そして腹立たしいことですが……この街の命運は、あなたという”個人戦力”の一勝利に委ねられています」
「……起爆剤としての、仕事ですね」
「えぇ。彼という起爆剤を持ってして、我々は正義の火を掲げ、大きく燃やすことができます」
この停滞を打ち砕くための、大きな火種が必要だった。
しかし市民の安全を考えれば、むやみやたらに隊を動かすことはできない。
魔法による対処の手はずは整えられるだろうが、それでも万が一を考えると……もちろん次元航行艦墜落や、本部襲撃の被害確認もある。
「ただし我々も手をこまねくわけにはいきません。被害確認と首都圏の治安維持、及び体制立て直しに早くて二日……。
つまり明後日の明朝七時には、飛行船及びスカリエッティ一味への対処を開始すると思われます。
仮に我々が手出しをしなくても、本局が動くでしょう」
≪なら、それまでにぱぱっと解決すればいいわけですね≫
「……まぁ何とかしましょ。僕ももうすぐ進路相談があるし……あ、それにTrySailのライブも! 次の週末だからねー!」
「…………はい?」
「…………なんか、地球で活躍している声優さんのユニット……だそうです……」
「恭文……というか、恭文がお世話になっている人達ともども、ファンらしくて……はい……」
「……そうでしたか」
……どうやら相当に熱を入れているらしい。しかしこの状況で……いや、慌てふためくだけで解決できる問題ではない。
むしろそういう日常の尊さを知るからこそ、彼らは強いのかもしれない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あと二日……もし本局がこれ以上強制介入したら、本当にどういう状況になるか予測が付かない。
しかもそれで、解決してみせるとかヤスフミ……曰ったんだよ!? 一体どういうことなのかな!
でも……多分なのは達も、雛見沢でのことを思い出していた。
――やすっちは我が部の起爆剤なんだよ――
……私達は停滞している。それを強いられている。そうして生まれた淀みを払うためには、堰を砕くしかない。
それでまずは一手……それができるのが起爆剤で、ヤスフミとアルトアイゼンの強さだって……魅音ちゃんが言ってたんだ。
みんなが関わった大変な事件でも、まずヤスフミが突破口を開いて……その熱を、勢いをみんなが広げ、勝利に導くって図式だった。
だったら……まず私が進みたい道は。
「でも、あの……黙認って、大丈夫なんですか……!?」
いろいろ考えていると、ティアナが恐る恐る挙手し、オーリス三佐に質問……。
「コイツが随分当てにしてたみたいなんですけど」
「えぇ。それにどうせ今回は、特例に特例を重ねているんです。
今更一つ二つ増えようと問題ありません」
「いや、それも怖い話ですけど……」
「そういう意味では、我々はまた反省し、身を正さなくてはいけません。……まぁ、私と中将は」
「だから、待って……待ちなさい!」
でも……そこで母さんが、我慢ならないと立ち上がり、叫ぶ。
「そんな必要はないわ! 言ったじゃない! 機動六課として……局の一員として戦い、解決すればいいと! そんな方法は間違っている!」
「……リンディ提督、私が言うのもあれですが……引き際を弁えるべきかと」
「地上の人間は黙っていなさい! みんな、落ち着いて……なにか、なにか手があるはずよ!
クロノとも、警備課長とも連携して……三提督のシンパだった方々にも協力してもらって!」
「そうそう……今回の命令を主導で出したのは、その三提督のシンパだった方々です」
ふぇ……!? え、じゃあ……後見人の味方だった人達が、こぞって敵になっていると!?
「それと警備課長も逮捕されました」
「え……!?」
「彼が最高評議会と繋がり、数々の不正に関わっていた証拠が”突如として”判明したんです。
その中にはエアリス・ターミナルのこともありますし……そちらを利用し、メリル・リンドバーグ一士の謀殺を指示したこともあります。
更にその命令が最高評議会から来たことも、取り調べの結果吐いたようです」
「そんなの、六課には……私達には関係ないでしょう! だから私達への拘束も不当よ! 私達は何も知らなかったんだから!」
「それが組織内で通ると思っているのですか?」
「言い訳じゃない! 真実よ!」
「あなたも長というのなら、腹を決めなさい」
……母さんはまた崩れ落ちる。
私達の立場を……仕事を、何一つ守れないという後悔に苛まれて、頭を抱え泣き叫ぶ。
「ああぁあぁあ……嘘よ、嘘よ…………いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「リンディさん……」
「エリオ君」
「…………」
「母さん……」
……私は、やっぱり無力だ。母さんには何もできない……ううん、答えなら分かっている。
私が母さんにできることは、きっと……ちゃんと走り抜けた後で、伝えるべき言葉で。
「……オパーイが、泣いている」
すると、ヤスフミは同情したかのように呟いて…………いや、ちょっと待って……!?
「あの、ヤスフミ……オパーイの話はやめようよ。ね? 今は真面目な……オーリス三佐もいるんだし」
「……そちらなら心配なく。私も褒めていただきましたので」
『それはもうとんだ失礼なことをぉ!』
「やっさん、頭を下げろ! 今すぐ下げろ! せめてそれだけはちゃんとするぞ!」
「ちょ、痛い! こら、頭を抑えつけるな! 無理矢理謝らせようとするなー!」
「いいから下げろ! というかお前、ほんと馬鹿じゃないのか!」
「いや、でもやっさんは真面目に魂感じているから。エロいことを考えるサリとは違うから。
……現に私のオパーイも素敵だーって言ってきたしね!」
「混乱を広げるな! つーかそこは女性としてツッコめよ!」
サリさんの言う通りでしょ! ヒロさんも黙って! まさかそんな……あり得ないからね!?
本当にセクハラだよ! というか、なんでそこを堂々と言っちゃうのかなー!
「……恭文、まさかと思うっスけど……ドゥーエ姉のことに気づいたの、ドゥーエ姉がいいオパーイ持っているからっスか?」
すると、ウェンディからまさかの援護射撃……いや、まだ拘束はされてるんだけど。
……それでも全員がまさかと、ヤスフミを見やると……。
「あ、うん。素敵なオパーイの気配があったから、なんかおかしいなーって」
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
まさかのまさかだったぁ! だから全員、おののきながら腰を抜かす!
「そう言えばアンタ……通信越しでロスコ部隊長代理を見て、首傾げまくりで……嘘でしょお! どんだけ鋭敏なセンサーしてるのよ!」
「あ……でも分かるかも! 私もロスコ部隊長代理を見ていて、時々こう、何か変だなーって気持ちに」
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
「分かるな馬鹿ぁ! というか通じ合うなぁ!」
なんでスバルまで理解できてるのー!? オパーイ好きってみんなそうなの!? そうなのかなー!
「エリオ君も、いずれはこの領域に……!?」
「ないよ!? 無理だからね、僕には!」
「でも、男の人ってみんなこうじゃ……サリエルさんも覚えがあるようだったし」
「この超常現象の覚えはないからな!? 一般的な興味って範囲だからな!?
やっさんとスバルちゃんはそれを軽々と飛び越えてるんだよ!」
「「いやぁ、それほどでも……」」
「褒めてないんだよ! ……まぁ、ともかくだ」
さすがにあり得ない混乱だと、サリエルさんは軽くせき払い……それでみんな、なんとか立ち直って……。
「オーリス三佐、それなら八神部隊長や騎士カリムは……治りかけとはいえ、けが人ですよ?」
「状況が状況ですし、そもそも彼女達がいる医療施設への連絡も難しいです。
なので護衛人員に事情説明を任せ、まずは事態の収拾から……というのが本局の判断になります」
「なら、やっぱさくっと終わらせるか」
「……だね。アジトの場所も、やっさんのオパーイセンサーでなんとかなりそうだし」
≪それはならないかと思いますが……お伴します、主、ヒロリス女史≫
≪ほれほれ、ボーイもオパーイセンサーをみょんみょんさせなくていいから、集中するぞー≫
アメイジア、そのセンサーに頼る前提のジョーク、怖すぎるのでやめてもらって……って、そうじゃないよ!
今さらっと、飛び出す気構え満々だよ!? サリさん達、正規局員で……部署も内勤中心なのに!
「じゃあおのれら、囮にした詫びは焼肉食べ放題ってことにしておくから、ちゃんと事情聴取は受けるように」
「そんな……危険ですよ!」
≪あなた達は正規局員ですしね。首を賭けてまで暴れることはないでしょ≫
「そうじゃないよ! いや、私やエリオ君が言うのもおこがましいけど……恭文さんも合わせてたった三人って!
敵方の戦闘機人は少なくなったけど、ロビン・ナイチンゲールや……あのサンダーエッジ・ボルトもいるのに!」
「というか、正規局員なのはサリエルさん達もですよね。今回のだって違法捜査すれすれ……というか、多分ぶっちぎりでアウトでしょうし……!」
さすがにどうなのかとキャロやティアナが止めに入るけど……。
「「……」」
ヒロさんとサリさんは、容易く笑い飛ばす。ヤスフミがいつもやってるみたいに、問題ない……何も問題ないって。
「まぁ、そっちも何とかなるさ。幸い気楽な独り身で、蓄えもあるしな」
「なにより、ここで行かなきゃもっと大切なものを失う」
「……メガーヌさん、ですか?」
「いいや。……私が私であるために、必要なものだよ」
≪それに四人じゃねぇしな。俺や金剛、姉ちゃんに妹分もいる≫
≪そうなの! それに篠ノ之博士も……主様の協力者もいるの!≫
≪五人いれば核爆発も止められるそうですしね。まぁ何とかなるでしょう≫
……あぁ、これは敵わないなぁ。
歴戦の勇士……スケールが大きな悪と戦ってきた人達特有の、強さというか、大胆不敵さというか。
そういう大きさを感じ取って、キャロも、ティアナも……感化されたように顔を見合わせ。
「……しゃあないか。アタシとなのははリンディ提督と出頭する」
「ヴィータ副隊長……!」
「お前もそれでいいよな、なのは」
「いいよ。フェイトちゃんは……って、聞くまでもないか」
「ごめん……ちょっと、行ってくるね」
「駄目よ、フェイト……お願いだから。私が、絶対、なんとか……!」
「それは、関係ありません。……私が止まれないんです」
今ここで何もしないことは、私自身納得できないから。
だからいい……大事な仕事だけど、それを賭けることになってもいい。
せめてその最後の仕事くらい、思い描いたように……正義の味方を張ろうと思う。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
フェイトちゃん、多分自分では気づいてないんだろうなー。恭文君という起爆剤に感化されていることに。
うん、感化されてるよ。正義のために……社会やその根底である平穏や、幸せ……笑顔を守るために、手段を選ばず戦い抜く。
そういう無茶苦茶で、あり得ないような正義の味方に看過されて、火が付いちゃってる。
……なにより、ヴィヴィオを……”みんな”を道具のように利用するスカリエッティには、私自身腸煮えくり返っているしね。
それはきっとみんな同じ。だから……あえて隊長失格なことを言う。
「スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、フリード……後はどうするか、みんなが自分で決めていいよ。
私達は上手く時間を稼ぐから……もちろんディードとギンガもね」
「なのはさん……」
「クビを……大事なものを賭ける行動になる。時間はないけど、ちゃんと考えて決めていい」
「特にティアナは、執務官志望のフォロー……駄目になっているしよ。だから本当に、慎重に」
「――――だったら、僕は行かせてもらいます!」
即断でそう返してきたのは、エリオだった。それも今まで見たことがないような、決意の表情で……。
「ウェンディさん達を……他の妹やお姉さん達も、あんな場所からすくい上げたい! そのためには止まりたくないんです!」
「エリオ……」
「なにより……もらった気持ちがあります」
そこでエリオが取り出したのは……あれ、ゼロシキマルコシアスだ。
あぁ、そっか。恭文君……エリオ達が戦うときのために、準備してくれてたんだ。
「僕は、これでも騎士の端くれです! その気持ちに応えられない自分にはなりたくない!」
「……余計なことをするんじゃなかった」
「まぁまぁ。エリオ君も……もちろん私とスバルさん達も嬉しかったですから」
やっぱり駄目だったと後悔する恭文君を笑いながら、キャロもベリトクリエイターを取りだし、ぎゅっと握る。
「それにルーテシアちゃんにも、罪を償わせなくちゃ」
「くきゅー!」
「うん……召喚師対決に持ち込むなら、私達が行かないとね」
「キャロ……」
「なにより私達は、いろんな意味で可能性の固まりだし」
「だね……!」
局員じゃなくなっても問題がない。失って惜しいものもない……エリオとキャロは少し困り気味に笑って、強がりを見せてくれる。
「なので、スバルさんとティアさんは待っていてください」
「……私も行くわよ」
「あの、それはさすがに」
「そうですよ! フォローは駄目になったと言っても、古巣の部隊に戻る予定もあるんですから!」
「ああもう、皆まで言わなくていいわよ……!」
ティアも困り果てながら、頭をかきむしる……。
もう片方の手に握られていたのは、フラウロスチェインだった。
「……アイツはアンタ達の父親なのよね。なのに……娘を泣かせるとか。一発殴ってやらなきゃ気が済まない」
「ティアナ……」
「結局、私達はまともな役人にはなれないんだ。
うん、仕方ない……これは仕方ない。だったら正義の味方、張るしかないよ」
「あんまり、なぎ君のことをどうこう言えなかったってことだよね。これからは頭が痛いなぁ」
スバルの手には、バルバトスブレイカー。それでギンガの手には……ちょ、メタルクラスタホッパー!? なんて危険物を真似ちゃったのかな!
「スバル、アンタがやらかすのは……それにギンガさんも」
「キャロには皆まで言うなーって返していたのに、それはヒドいと思うな」
「そうそう! なにより……私が強くなりたかったのは、こんなとき、泣いている人達を助けるためだから」
それでスバルは、右拳をぎゅっと握る。夢を……確信を確かめるように。
「なのはさんが、私にその可能性を示してくれたんです。
……戦闘機人で、人とは違う力に怯えていた私に……まず、一歩を踏み出す勇気をくれた」
「スバル……」
「私、なのはさんと出会えて……本当によかった」
そうして……ちょ、ちょっと照れくさいけど、私のことを、笑顔で見上げてきて。
「だから助けにいきます! こんなことも止められるように……全力全開! 最短距離を最速で!」
「……うん」
「……というわけでー」
スバル達はにこーっと笑いながら、恭文君に向き直って……。
「「「「「蒼凪課長、よろしくお願いします!」」」」」
「くきゅー!」
「おのれら、また都合のいいときだけ課長扱いで……! しかもギンガさんまで!」
それはもう、気持ちのいいお辞儀をかましてくれた。
そのときの恭文君の顔ったらもう、苦々しいやら嬉しそうやら……もう今まで好き勝手された溜飲が吹き飛ぶくらい面白くて。
「はいはい、やっさん……お前の負けだ」
≪いいではありませんか。……馬鹿騒ぎに、嘘への従順も、部隊という器も必要ないのですから≫
「この馬鹿どもが……! 言っておくけど、退職金までは面倒見ないからね!? 焼肉食べ放題が限界だから!」
「十分です!」
「ま、そのときは転職の景気づけと祝勝祝いで、ぱーっといきましょうか」
……希望は昇る。
「……うし、ならあたしもついていくよ! 幻術でのサポートなら任せて!」
「助かります、シャンテさん!」
「シャンテでいいよー。エリオもそうだし、キャロも同い年なんだからさ」
「「はい!」」
「じゃあ、リインも恭文さんと一緒なのですよー♪」
絶望ばっかりに見えるけど、光は……確かに見える。
「本当は恭文さんとリイン、アルトアイゼンだけでも十分なのですけどねー」
≪まぁいいじゃないですか。賑やかしくらいは認めましょうよ≫
「言ってくれるねー! でも、賑やかしだろうとただでは終わらないから!」
「僕達だって、ど派手に花火を上げてみせます!」
「全く……ほんと馬鹿ばっか」
恭文君は魔導書型のデバイスを取りだし、術式発動――ウェンディとオットー、チンクとノーヴェって子を光に変えていく。
「これは……」
「ちょい閉じ込めさせてもらうよ。さすがに拘束しながら四人も運べない」
「……一応言っておくっスけど、私とオットーは……記憶、弄られているっスよ? アジトの場所とかは」
「大丈夫大丈夫ー。おのれらは他二人を脅す材料に使えるし」
「だと思ったっスよ! でも覚悟しておくっスよ!? ギャグ的に仕返ししてやるっスから! ちゃんと……罪を償って、絶対にっス!」
「だね……! うん、ボクも賛成」
そんな憎まれ口を叩きながら、みんなは魔導書に……夜天の書のコピーデバイスの中へと消える。
……フェイトちゃんが前に、リインフォースさんの中に取り込まれたのに近い術式だね。本の中に構築した空間へ、一時人を閉じ込める。
でもまさか、こういうものまで用意していたとか……一体どれだけ準備がいいのか。
「じゃあ横馬、ヴィータ、時間稼ぎはよろしくね」
「焼肉は奢ってもらうからねー」
「アタシもまた別に奢るんだからな? 高いやつ行くぞ、高いやつ……つーかオーリス三佐にも奢っておけ」
「……そうですね。では、父と一緒にということで」
「……はい」
そうしてみんなはゾロゾロと、部屋から出ていく。それを見送って……小さく一息。
「さて……!」
私達も戦おう。その希望がちゃんと守られるように……今の私達だから、大人の私達だからできる戦いを始める。
……きっと以前のリンディさんやクロノ君達も、こんな気持ちで……私達を見送ってくれていたんだと、胸に刻みながら。
だから、この件が終わったらちゃんと話そう。喧嘩もしちゃったけど、それでもちゃんと話し合おう。
「……いい若者達ですね」
「オーリス三佐……」
「六課の裏はともかくとして、彼らがその中でよい経験をしてきたのは分かります。
……そんな彼らが報われる道は、守らねばなりません」
「……私も、そう思います」
「それがアタシらの、六課での……最後の仕事だな」
「うん」
「そして私と父の、最後の仕事でもあります」
私達の夢は、でこぼこで……ちゃんとした形では叶わなかったかもしれない。
「さすがにこれだけやっておいて、その黙認まで許した我々が痛みもなしでは、各所の重役達が黙ってはいないでしょう」
「じゃあアンタ、クビ覚悟でアイツらやアタシ達に……!」
「……実感がしたかったのかもしれません。
我々のしていることは、正義を通す一手であり……彼らのような若者を支えるものだという実感が」
だけど……ちゃんと、新しい何かを残せたはずだよーって。恭文君はきっと、またそっぽ向いちゃうんだろうけどね。
「…………駄目よ…………」
…………そう、だけど……だった。
だけどリンディさんは、何一つ納得していなくて……通信機を取って、なにか連絡をし始める。
「リンディさん?」
「――あなた達、なにを言っているの……聞いて! 話を……ちょっと、ねぇ!」
「おい、アンタ……何してるんだよ」
「…………私の命令に従い、フェイト達を……逃亡した部隊員を、拘束するって……!」
「何してんだ!」
「知らない! というか、いきなり連絡が来て……それで、それで……!」
思わず詰め寄る私達だけど、すぐにおかしいと察する。
そもそもECMのせいで、通常通信はできないんだよ? それでリンディさんは保護してから、私達とずっと一緒にいた。
それがどうして、そんな連絡をして……というか、それに対しての応答がなんで都合よく、今届くのかな……!
「……スカリエッティの野郎か!」
「……こちらの動きを読んでいた……マズいですね。今の状況では連絡が」
「恭文君……!」
逃げ切ることを期待するしかない……うん、大丈夫だよね。
なにせそういう無茶苦茶に慣れっこな、あぶない魔導師がいるんだもの! もう信じるしかないよ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――――サリさんとヒロさん……他の馬鹿どもと一緒に廊下を歩き出した瞬間、周囲の気配が騒がしくなる。
なので予定変更で、転送魔法を連続発動。かなりの大人数だけど、それでも一気に中央本部を抜け、市街地へと紛れ込み……全力疾走!
「やっさん、こっちだ!」
現在僕達は夜の繁華街を必死に走っていた。あの放送があってから、街全体が騒がしい。それは確かだ。
でも……さすがに話がぶっ飛び過ぎている上、ECMの関係で緊急速報なんかもできない。
「なんだよこれ……くそ、いつになったら繋がるんだよ!」
「管理局はなにしてるんだ!?」
「もう最悪なんだけどー! 今日デートだったのに!」
だから街の人達は足を止め、通じない携帯を片手にいら立つばかり。
それもある意味おかしい話だ。中央本部が襲撃されたばかりな上、軌道上から次元航行艦が墜落もしたのに。
でもどうやら、その被害も首都圏には及んでいなかったようで。ここもある意味戦地から離れた、モニター越しの世界だった。
そんな中を走っていると……それはまぁ目立つよね。
……だから僕達の後ろから、人混みを抜けて……聖王教会と本局武装隊のセッションが突撃してくる!
「待て……投降しろ!」
「リンディ・ハラオウン提督直々の御命令だ! 大人しく従え!」
平然と言ってくれるねー。町の人々に誤解されないよう、情報を流布したいところだけど……今は我慢!
とにかく人波をかき分け、裏路地へ入り込み、十数人に及ぶ追跡隊を振り切る。
「あはあはああはあははあ………………なんでいきなり逃亡犯扱いになってるのよぉ! つーかリンディ提督のアホがー!」
「ティア、落ち着いて! それよりダッシュ! ダッシュだからー!」
「ほ、本当にごめんなさい!」
「だから休むようにって言ったのにー!」
「ふぇ、ふぇ……母さんの馬鹿ー!」
あぁ、フェイトとエリオ、キャロもまた心苦しげにして! でも仕方ないよね! さすがにこれは予想外にも程がある!
しかも……。
(サリさん)
(今は言わない方がいいな。混乱する)
(サリに賛成。とにかく逃げ切る方に集中だよ)
(はい)
そもそもリンディ提督には、連絡する暇すらないしね。間違いなくこっちの行動を予測して、人を動かした奴がいる。
まぁ十中八九スカリエッティだと思うけど、その議論をしている暇もはやっぱりなかった。
ここはヒロさんが言うように、逃亡に集中だ……!
≪しかし……鷹山さん達と走り回ったときを思い出しますね≫
「だね! あのときも楽しかったなー!」
「その余裕、ちょっと真似できそうもないです! というかあれ、システム導入部隊の人じゃないんですか!?」
「入れてない奴だけを選んだんでしょ! 怪しいってのは散々言ってきたしね!」
「だったら余計に最低なんですけど!」
「なぎ君、どうしよう! さすがにこの人数で纏まって動いてたら、目立って仕方ないよ!」
「二手に別れよう!」
このまま進めば、T字路に入るしね。実にちょうどよかった……なので手早く指示!
「ギンガさんはスバルとエリキャロ、リイン、フェイトを連れて右に! 僕達は左に!
合流ポイントは、繁華街を抜けた先……F4区画の三車線道路!」
「OK! でも気をつけてね!」
「そっちも!」
T字路に入ったところで……ギンガさん達と勢いよく散開!
僕とサリさん、ヒロさんは、ディードとシャンテ、ティアナを引っ張り路地を走る……走る走る走る!
「しっかし教会騎士まで巻き込むとか! あっちはシャッハの部下だよ!? 見覚えがあるし!」
「というかあたしの先輩だよ! なのに……あ、やば」
≪真正面からも来るぞ、姉御!≫
≪ECMの絡みで我々のサーチも弱いですが……光学映像で探知≫
「分かってる!」
というわけで僕達は、ラブホテルの裏目がけて揃(そろ)ってキック。
壁を蹴り破り、部屋の内部へ突入。即座にブレイクハウトで、壁を修復――。
「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
なおベッドの上でコミュニケーション中な男女がいるけど問題なし。サリさんが即座にシャンテの目を塞いだから。
「あ、あの……」
「はい、ディードも駄目!」
なのでディードの目は僕が塞ぐ! ちょっと背伸びするけど……これは許して!
「え、あの……ごめんなさい! なんか、ごめんなさい! すぐ出ていきますのでー!」
「はいはいごめんよ! 後は楽しんでねー!」
「……ヒロさん、ティアナ、この二人は不倫だよ。ほら、指輪と持ち物の差が」
「アンタも冷静に観察するなぁ! というか楽しませてあげるわよ! とっとと出ていくことでね!」
「ねー、どうして隠すのー。見えないー」
「君にはまだ早い!」
「……それは、私もでしょうか」
「そうだよディード! 天使にも早い!」
そのままラブホテルの中を走り、再び大通りへ出た。
「ねぇ、どっち行くのよ……どっち!」
「こっち!」
「本当に手慣れていますね……」
「二度と使うことがないスキルだと思ってたけどね!」
とりあえず……中央本部から離れる方向で!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あははははは……あはははははははははは! もう滅茶苦茶! これはもうクビ覚悟くらい当然になるかなー!
とにかく走って走って走って……人並みをかき分け、私達は大通りのガードレールを跳び越え、車道を走る。
目立つことこの上ないけど、今は車の動きも止まっているし……何よりこっちが近道!
「ふぇ……ふぇ……ふぇ…………! こんなこと、ヤスフミや鷹山さん達もしてたの!? 嘘だよね! 嘘だよねー!」
「でも僕、なんだかこう……だんだんと楽しくなってきました!」
「私もです! もうなんでもこいって感じ!」
「くきゅー♪」
「エリオとキャロがすっごく大人にー! というか見習ってる! 早速見習っちゃってるよー!」
「これは危ない遊びを教えてるですねぇ……」
「あの、リイン曹長……一応教えている側なんですよ? 曹長も」
スバル、冷静にツッコみしているところ悪いけど、そっちも笑顔だからね! この状況を楽しむって、我が妹ながら図太いよ!
「というか、スバルも笑ってるじゃないですか……」
「ほんとだよ! お姉ちゃん的にもビックリ!」
「あははは……でも、うん! エリオ達の言う通りなんだよ!
やりたいようにやってやれーって感じで、凄く燃えて……ギン姉、前!」
「うん!」
前から回り込んでくる武装隊の影……だから車の動きを見た上で、一気に大型車道を横断!
止まっている車も軽くジャンプで飛び越え、影に隠れながらまた別の細道に入る!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
人混みに紛れて、サーチャーもぎりぎり誤魔化(ごまか)しつつ……端末で束に通信。
「束……聞こえる!? 束!」
『………………ああ……っくん…………』
「束!」
『よし……調整、完了! やっくん、聞こえてる!?』
「よかったー!」
念のためECM対策も整えておいてよかった! まぁ通信の信号出力を強めて、妨害を無理矢理弾くって方法だけどね!
「束、リンディ・ハラオウン提督子飼いの奴らで制圧に来た! 今市街地を逃げているところ!」
『合流ポイントは! ギンギンちゃん達とは別れてるよね!』
「F4区画の三車線道路!」
『OKー! うまく対応するよ!』
「お願い!」
よし、これで大抵のことは……なんとかなるといいなー。もう何があってもおかしくないけど、それでも頑張ろう。
≪しかしやってくれましたねぇ。……捕まったら、嘱託資格はく奪くらいありますかね≫
「まぁそれは覚悟の上だけど、パーティーを楽しみ尽くした上じゃないとねぇ……!」
「ここで捕まったらほんと台なしだしな! 俺達なんて懲戒免職だぞ……退職金がパーだぞ! 今の見込みなら四千万は!」
「その上二十万以上の年金も……やってくれるじゃないのさ!」
「そこは何とかなるとか、大事なものがあるとか言ってませんでした……!?」
「それはそれ! ――こうなったらもう」
年金、もらえるのはいつのことだろう。でも僕達の意見は統一された。
全速力で走りながら、あのヘタレドクターどもに対して、ただただ怒りを燃やす。
「「「もう……地獄に落とすしかない!」」」
「圧が強いんだけど! というか金のことで一致団結しすぎだしー!」
「お金は、大事なのですね……」
≪その前に走ってください!≫
≪逃げろ……逃げろ逃げろ逃げろぉ!≫
金剛とアメイジアに言われるまでもなく、逃走継続――すると大通りを奴らの仲間が封鎖してきた。
なので左に走り、再び裏路地へ……残念ながらこの街のことなら、僕達は隅々まで知り尽くしている。
「動くな! 抵抗すればこのまま撃つ!」
とか言っていると、正面から教会騎士のみなさんが登場。
術式詠唱――展開しつつ。
「あ、手が滑ったー!」
「恭文!?」
催眠グレネードを投てき――。
馬鹿なことに足を止めた奴らは、僕が展開したAMF(完全キャンセル状態)に取り込まれ、魔法能力を一時喪失。
そのまま爆発するグレネードとガスに捕らわれながら、路地裏で眠りについた。
その様子を見ながら、バーの裏口に入って退避。
「アンタ、馬鹿じゃないの!? あんな滑り方だけはしないでしょ!」
「おのれ、鷹山さん達とツッコミが被ってる……」
「被るに決まっているじゃない! こんな馬鹿な真似を見せられたら、誰だって絶望するわよ!」
「しかもAMFできっちり仕留めるのが悪質です……!」
そのままドタバタと店内を抜け――――。
「失礼しました!」
「ちょ、なんだアンタ達!」
「失礼したと言っている! あ、これチップね!」
チップもマスターに渡した上で退店。今度は右に走り……ち、邪魔者が再登場だ。
「止まれ! 我々は」
本局武装隊の奴らが迫ってくるので、ヒロさんとシャンテが疾駆。
「「あ、足が滑ったー!」」
「え……!」
「ヒロー!」
「シャンテー!」
二人はそのまま跳び蹴り……もとい、足を滑らせ、一団のリーダー格を蹴り飛ばし、他の奴らもなぎ倒す。
仕方ないので僕とサリさんも腹を決め、追撃――。
「あ、腰が滑ったー!」
「あ、指が滑ったー!」
≪どんな滑り方だ、おい!≫
「どうしてそうなるのよぉ!」
サリさんは腰が滑っての右フック、僕は指が滑っての手刀――。
さすがに町中で市民も入り乱れる中、弾丸とかぶっ放すのも……ねぇ。
「……すみません、拳が滑りました」
「ディード、アンタまでぇぇぇぇぇぇぇ!」
そしてディードが残っていた一人の顔面に右ストレート。
こうして邪魔な奴らを排除し、先を急ぐ……。
「悲しい事故って、多発するものですね」
「そうだね」
「やべ……つい乗っちまったが、後で叱られるだろ!」
「あたし、十歳にして牢獄(ろうごく)入り!? さすがに嫌だー!」
あぁ、サリさんとシャンテが絶望して……でも大丈夫! 心配ない!
「「でぇじょうぶだ、全部リンディ提督のせいにすればいい」」
「「それだぁ!」」
「なにもよくないでしょうがぁ! ホント……アンタ達はどうなってるのよ!」
「私達は本当に、とんでもない人達を敵に回してしまった……!」
「乗っかったアンタに言う権利はないのよ!」
なお、理不尽とは言うことなかれ……実際これで駄目押しして、六課はがちで潰そうって流れだろうし。
偽装したって証拠もこの状況じゃあ残ってないだろうし……まぁ、ピノくらいは奢ってあげようと思う。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
幸い向こうもECMの絡みで、通信やサーチャーによる連携・探査ができない様子。それに市街も今は混乱しているしね。
だから原始的な走り回りだけで、なんとか……上手く誤魔化せているんだけど……!
「いやしかし、こういうのも久しぶりでワクワクなのですよー♪ きっと恭文さんも楽しんでいるのです」
「ふぇぇぇ……私、その領域には到達できないかもぉ。ちょっと後悔し始めてるし」
「でも、大下さん達も癖になるって言っていたのは分かります!」
「権力は従うものでもなく、利用するものでもなく、叩き潰すもの……だね! エリオ君!」
「そういうこと!」
「二人がやっぱりどんどん大人にー!」
「誰の背中を見て育っているのかなぁ……!」
二人の将来がそこはかとなく不安になっていると、後ろから追加のお仲間達が……というか、凄い足音が響いてくるし!
「……って、みんな、速度を上げて! なんかいっぱい来てるー!」
「ギン姉、どうしよう! 攻撃したら追いつかれ……る以前の問題かぁ!」
「市街地だもの! 市民のみなさんに迷惑をかけるのはなし!」
とか言っていると、魔力反応――周囲から人影が消え、空は幾何学色に包まれる。
そうして残るのは追撃部隊と私達だけ……クソ、結界を張られた!
「結界……!?」
「どうしましょう、これ!」
「お前達! 今すぐ抵抗をやめ、速やかに投降しろ!」
空から強襲して、デバイスを構え……砲撃を準備する武装局員の方々……だったんだけど。
「……甘いのですよ」
リイン曹長が私の肩に乗っかり、右手で術式を展開。二時方向のビル上に氷柱が栄えたかと思うと、結界が破壊される。
(結界の支点を一瞬で見抜いて、破壊した……!? それも数百メートルという距離を!)
幾何学色の空が、静寂が雑踏によって壊れる中で痛感する。
この人もなんだかんだで、歴戦のエース……なぎ君が心を一つにする古き鉄の一角なのだと。
「え……」
「なに、あれ……」
厳戒態勢の中でも、都市群の日常を止めることはできなかった。ここは戦線から隔絶された別世界でもあったから。
だから、そんな中で現実が突きつけられた場合、一体どうなるか……そこが問題だった。
本当は誰もが不安を抱いていた。駐留部隊の派遣やらなんやらが起きてから、戦争という非日常を恐れていた。
だからそれは、ちょっとしたことで起爆する。
……自分達に対して、砲撃魔法を撃とうとする【テロリスト】なら、起爆剤としては十分だった。
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
場は悲鳴と同時に混乱。すぐさま魔導師から離れようと、人々がUターン。津波のように襲ってくる。
「砲撃……局の魔導師が、攻撃してきたぞ!」
「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「お……落ち着いてください! 冷静に! 我々は本局武装隊のものです! 犯罪者を追って……!」
「道を空けてください! 空けて……空けろぉ! 貴様ら、分かっているのか!
我々は本局の英雄、リンディ・ハラオウン提督の命令で動いているんだぞ!」
混乱する状況の中、私達は紛れるようにしながら、また別の脇道へと入り込む。
彼らを振り払い、更にパニック状態の大通りから何とか抜け出し…………。
「これでリンディさんの名前は、更に落ちていく……スケープゴートとしては十分なのですよ」
「リイン、さすがに言ってることが冷たいよー!」
「じゃあ他にどう言えばいいですか!?」
「それはそうだけどー!」
あぁ、リイン曹長も混乱していたんですね! それはそうですよね! 生まれたときからの知り合いなんですし!
「――――リンディ提督だと! GPOと古き鉄から手柄を奪おうとした、最低な尻軽じゃないかぁ!」
あれ……なに、このゼスト・グランガイツの声は……。
「尻軽提督に、一体何をされたら砲撃なんて撃ってくるんだ!」
「きっといい思いをさせられたんだぜ! 外見だけならむせるような美人だからな! あの尻軽提督!」
というか幾つも、幾つも、幾つも響いて……。
「おい……なんだぁ今のはぁ! 誰だぁ! どこの誰だぁ!」
「リンディ提督を侮辱する者は許さん! 貴様ら全員逮捕だぁぁぁぁぁぁぁ!」
「こっちだ……尻軽の体に引きつけられ、正義を見失った愚か者どもが!」
「いたぞ……絶対に逃がすな! 捕まえろぉ!」
そうして武装隊は、あらぬ方向へと逃げて……また結界を発動した。私達とは、全然違う方向なのに。
”――――ギンガさん……こっ……ち!”
この声……そっか! あのECMじゃ、念話までは完全封印できない! いや、ノイズが混じっているから、距離が近いせい!?
だから慌てて周囲を見て……左側の道から、手を振る人影をチェック。直ぐさまそこへ……なぎ君達の方へと走る。
「なぎ君!」
「ティア、ヒロリスさん達も無事でよかったー! ……でも今のは」
「あたしの分身で陽動したの」
「……凄い詐欺だけどね……!」
「言ってる場合じゃないよ! さ、目的地まではもうすぐだ!」
「ふぇ……シャンテちゃんも盛り上がってるー! ギンガー!」
「……これが、若さなんですよ」
そんなことしか言えない私を許してほしい。でもみんな無事だったのには、ちょっと安心しながらもまた全力疾走……!
だけどこの人数を、どうやって拾うつもりなんだろ。大型の車とかは目立つんじゃ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――しかし、中央もECMの範囲内だっていうのに、よく私らを捕まえようとできたもんだ。やっぱり念話?」
「そっちも距離次第って感じだけどな……っと、ここだここ!」
あの大通りから八百メートルほど離れ、更に再開発区域の手前。
――そこで足を止めると、軽快なエンジン音とともに走ってくる……蒼と白のストライブ模様。
鋼糸が張られた窓に、厳つい防弾ガラスとボディ。それには、とても見覚えがあって……!
「あ、やっくんー! ギンギンちゃん達も乗って乗って!」
『護送車ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
そう……なぜか護送車≪中型バス≫を飛ばしてきたのは、警ら服の束だった……!
「束……他になかったの!?」
「なかったから許してよー! それより……ほれほれ!」
「そうですね、贅沢を言ってる場合じゃありません!」
「急ぎましょう、課長!」
「エリオ、キャロ……おのれら三日も経ってないのに、なんだかたくましくなって」
「悪い熱に浮かされてるだけじゃない……!」
「――――――ま……待てぇ!」
僕達が車に乗り込むと、しつこく追撃してきた武装隊連中はぼろぼろの状態で出現。
護送車の背後……二百メートルほどの位置から走り込んできた。
放たれてくる【殺傷設定】の魔力弾をすり抜け、再度展開される結界も僕が術式干渉で破壊……!
「ちょっとちょっと……アイツら、平然と殺傷設定でぶっ放してきたよ!」
≪Slug Form≫
そう言いながら、ヒロさんがアメイジアをセットアップ――。
右手の中に生まれたのは、大型のリボルバー銃。
形状は銀色で、装弾数は六発。
銃底には、紫色の丸い宝石が埋め込まれている。
これがアメイジアの遠距離攻撃用モード【スラッグフォルム】。
「なら加減はなしで」
≪ChroStock Mode――Ignition≫
僕もクロストックアルトを展開し、まずはソードモードで……最後部の窓を格子ごと全て切り落とす。
パラパラと部品がまき散らされ、フレア代わりに弾丸達を相殺し、破裂させている間に、両のクロストックアルトをガンモードに変形。
「……フリード、ブラストフレア」
「くきゅー!」
更にキャロも僕達に並ぶように最後部座席へと伏せて、フリードは火球をチャージ。
「ちょ、アンタ達……!」
「まさか……」
そうして狙うのは、砲撃をチャージし始めた奴らだ。
≪半径五百メートルに民間人なし……やっちまえ、姉御! ボーイ! ピンクガール!≫
そして銃声と砲声が響く――。
アメイジアとアルトから乱射された、蒼と白の魔力弾七十六発が――。
フリードの口から連射された、火球二十四発が――。
奴らの構築された砲撃スフィアを、放射前に尽く撃墜・爆発。奴らはそれに煽(あお)られ、揃(そろ)って派手に吹き飛んでいく。
そうして生まれた爆炎を、奴らごと置き去りにした。
「…………マジでぶっ放したしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「はははははははは! これはもう言い訳できないね、ティア!」
「笑ってんじゃないわよ! せめて絶望してよぉ!」
……が、今後は眼前に十八人の魔導師出現。それには前の座席にいたサリさんが対処。
僕達と同じように、魔力スフィアを狙った精密射撃――。
車外に構築された合計十八発のそれらを、サリさんの弾丸は次々撃ち抜き、誘爆させる。
「やっさん!」
合図とともにブレイクハウト発動。車の足下に物質変換を施し、簡易的なカタパルトを作る。
束はアクセル全開……。
「みんな、しっかり捕まっててよ!」
『え……』
最大速度でカタパルトを走り抜け、大きく跳躍。
吹き飛ぶ邪魔者達……護送車はその頭上すれすれを飛び越えていく。
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』
こちらは驚くギンガさんやフェイト達に構わず、再度術式発動――護送車全体に軽く浮遊魔法をかけ、そのまま安全確実に着地する。
……そうして合計六十四名の馬鹿どもとは、ようやくさようなら。大丈夫、運が良ければ生きている……それに安どしつつ、束にお礼。
「ありがと、束……でもこれ、ほんとどこから用意してきた!?」
「例のナカジマ三佐が貸してくれたんだよ! もちろんシステム関係は調整しているから、追尾されない!」
「父さんが……よかったぁ。どこからか盗んできたのかと……!」
「さすがにそこまではしない……っと、初対面の子もいるけど、自己紹介は悪いけど後にしてね! 今は飛ばすから!」
「は、はい……でもどこに」
「レジアス中将達の気づかい通りだ」
さすがに不安を漏らすエリオには、問題なしと頷いておく。
「ミッド南部山岳地帯近くにある≪CW社・クライゼント工場≫……そこでライズキーやデバイスの最終調整をして、一気に仕掛けるよ」
「……はい!」
シャーリーと風海さん、シャマルさんにヴィヴィオもいるから、あとは本当に……ちらりとダッシュボードの埋め込み式時計を見やる。
時刻は夜の八時過ぎ。作戦開始の理想時刻まで……あと三十時間あるかどうかってところか。
「――泣いても笑っても、ここが最終局面……絶対に上手く乗り越えてやる……!」
「だね……」
「あぁ、やるぞ」
そうだ、そうして……そうして僕達は!
「「「――TrySailのライブに行くんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
「……って、サリエルさん達もファンだったの!? 例の声優さん達!」
「まぁな! 鷹山さん達と一緒に行く予定だったんだよ! だからすげー楽しみ……生ナンス(夏川椎菜さん)!」
「私はもちょ(麻倉ももさん)が……昔のカリムに似てるんだよねぇ」
「あの、固有名詞を出して置いてけぼりにしないでもらえますか!? というか分かってます!? 私達、完全に逃亡犯なんですよ!」
「僕も生雨宮天さん、楽しみ……」
「アンタはなんでここまでやっておいて、ライブに行けると思ってるのよ! いいから自首しなさいよ!」
なお、大下さんと鷹山さんは基本全員だけど……あえて言うなら、大下さんが麻倉ももさん、鷹山さんは雨宮天さん推しです。
だから頑張るぞー! 生きる意志は……未来を望む心は、何よりも強いってね!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――同時刻
ミッド南部 CW社クライゼント工場
中央もドタバタしている中、なんとかクライゼント工場に到着する。
それで既に来ていたフィニーノ補佐官やグランセニック陸曹……更にヴィヴィオ達の安全を確認。
スカリエッティの手も伸びていないことを確認した上で、会議室に補佐官を伴い入っていく。
「それでアコース査察官、本局の方は……」
「それはもう大騒ぎだよ。ウェンディとオットー、ディードの三人がスカリエッティのスパイだというのも、既に伝わっていたようだしね」
「……今まで機動六課を後押ししていたもの……無理を通していたものが、そのまま牙を剥くように調整していた」
「ゆりかごについても見抜かれていたし、念には念を入れたってことかな。
……ただ、それによって得られた自白で、分かったことも幾つかある」
席に座って、空間モニターを展開。そうして彼女に見せるのは、僕の内偵により得られた……ある秘密結社のデータ。
「……次世代兵器研究会?」
「先進技術開発センター内での新装備開発を表とするなら、こちらは裏……戦闘機人や人造魔導師などの技術開発を支援していた有志組織。
もっと言えば、最高評議会が保有していた公然企業の一つであり、賄賂の中継地だよ」
「つまり、組織の運営実態そのものは飾りで、所属メンバーが裏金を手に入れるためのシステム。でもそれを、どうして最高評議会が」
そう言いかけたものの、フィニーノ補佐官は察しがいい。すぐに首を振ってため息。
「暗部に取り込むなら、金の力が手っ取り早いか……!」
「例の警備課長も、エアリス・ターミナルの関係者もここに関わっている。
実はこれ自体は裏金や汚職の温床として、前々から査察部と資料室でその存在を疑われていてね。調べは進んでいたんだけど……」
「つまりリンドバーグ一士は、そこに触れて……」
「消されかけたわけだ。ちなみにこの情報……今見せているものは僕の独自調査だけど、話自体は本局で広まっている。
……その辺り、一体どこから提供されたと思う?」
「どこって……その査察部や資料室じゃないとすると」
「GPO。その筆頭スポンサーであるエニオ・マクガーレン……GPO長官≪メルビナ・マクガーレン≫の実父だ」
そこでフィニーノ補佐官が、嫌そうに顔を歪める。
「今回の件、かなり最初期から彼らの監視下にあったらしいんだよ。
まぁパーペチュアルやヴェートルにも飛び火しかねない話だし、警戒していたと言えるけどね」
「その警戒の結果、独自に調査をして……最高評議会による汚職を掴んだ」
「その可能性の一つをね。次世代兵器研究会はヴェートルの兵器群を調べてもいたらしくて、そこからバレたわけだ。
……それで、GPOは本局に進言をしてきた。もし四十八時間以内にミッドの状況が回復しないようであれば、パーペチュアル分署のランサー達を派遣すると」
「それは、なぎ君も喜びそうですけど……」
「世界的には大問題だ」
まぁこんな正規の任務でもなく、文字通りのウェットワークに飛び込んでおいて、こう言うのもあれなんだけど……。
ただ、今この段階で、堂々とGPOが名乗りを上げ、事件を解決するのは、情勢的にもかなりマズい。
「あくまでもGPOは、善意の協力を申し出ただけだ。
そういう体は守っている……実際にその通りかもしれない。
現実問題として、今の本局には介入する力もないしね」
「だけどそれでスカリエッティ達が逮捕されたら、管理局の面目は本当に丸つぶれ……その存在意義すら失う。
それはGPOの方も分かっていますよね」
「それでも申し出たってことは……そういうなりふりを構っていられないと判断したのか、去年の件が腹立たしかったのか。
またはこれで管理局そのものを乗っ取り、GPOを拡大ーなんて考えているかもしれない」
「それは非現実的すぎると思いますけど……」
「現場はともかくという話だ。
なんにせよそうなれば……」
――第51話
「この世界は、旧暦の時代からやり直すことになる」
『裁かれるとき』
(第51話へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、駄目押しの策略と追撃を振り切り、いよいよ決戦開始の合図。
Ver2016のドタバタを大人数で繰り返しつつ……というかGPOが……メルビナさんのお父さんが!」
(なお、この辺り誤解も含まれていたりなかったり)
恭文「どっち!? ……で、今日は七夕。篠ノ之箒の誕生日……おめでとうー!」
(赤西瑛梨華、桃井あずきの誕生日でもあります)
束「箒ちゃんも束さんと一緒に御奉仕するから、期待しててね……やっくん♪」
(げんこつ!)
束「痛いー! やっくんがぶったー!」
恭文「一夏がいるでしょ……!」
束「だって振られたよね!」
恭文「話の中ではね! でもまだまだ……まだチャンスはあるから! それを姉が踏みつぶしちゃ駄目だから!」
(応援姿勢を示す蒼い古き鉄だった)
静香「……相変わらず騒がしい人達ですね。七夕くらいシットリと過ごせないんですか?」(浴衣姿で)
恭文「うどんアイドル」
静香「静香です! それは名前じゃなくて、私が目指すべき頂きです!」
束「いっそ香川県に移住するのはどうかなー。ゲームはできないけど」
(現実は地獄だぜ)
静香「というわけで恭文さん、七夕には素麺とかき揚げもいいですけど、うどんもありですよね。私、丹精込めて打っていますので」
恭文「……おのれはどこへ向かおうとしているのよ」
静香「ありがサンキューで散々からかわれた憂さを晴らしたいんです……!」
束「あー、ライブでやらかしたやつか。一挙放送でまた盛り上がってトレンド入りだっけ?」
恭文「静香、よかったね。春香がやらかしたゆうパックのあれみたいに、きっとアニメ化されるよ」
静香「やめてもらっていいですか!? アニメ化決定の話が出たところで、その話をされたら……本当にありそうじゃないですか!」
(きっと最終回のいいタイミングでやってくれることだろう。
本日のED:雨宮天『奏』)
静香「まぁそれはそうと……恭文さん、恭文さんが貸してくれたジョジョのアニメ、全部見ました」
恭文「お、もうか。一部から五部まで話数もあったのに……」
静香「それがつい一気見して……私、少年漫画の勢いとか熱さ、嫌いじゃないみたいです」
恭文「よかったー。ジョジョはわりと濃いめだから、どうなるかと思ってたんだけど」
静香「私、クレイジー・ダイヤモンド……いいなぁって。恭文さんも似たような能力が使えますし」
恭文「僕のブレイクハウト、あそこまで万能じゃないけど……いや、待て。実は隠していたとかなら」
静香「さらっと設定変換しないでください……!」
志保「……あれ、どうして静香にはあんな名作を……というかいつの間に」
(おしまい)
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