[携帯モード] [URL送信]

小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第50話 『その日、機動六課/PART5』


新暦七十五年(西暦二〇二〇年)九月十二日

スカリエッティ一味による中央本部襲撃の五分前――




『――――その隊舎に爆弾を仕掛けた』

「…………は…………!?」

『セラテックス爆弾……魔法やデバイスによるサーチもかいくぐれるよう、厳重にシールドもしてある。
起爆すれば、隊舎が丸ごと吹き飛ぶ代物だ』

「あなたは、何を言っているのですか! イタズラならすぐにやめなさい!」

『イタズラかどうか、すぐ分かる……』


電話はすぐに切れる……加工された音声で告げられた明らかな脅迫に対し、つい口元が歪む。

すぐにナンバーを控えようとするけど、非通知な上逆探知も許さないほど手短だった。うーん、実に完璧。


「あの、シャーリーさん……」

「……脅迫電話だ」

「ですよね……!」

「隊舎に、爆弾が仕掛けられている!」

「なんでこの状況でー!」


ロングアーチに直接繋がった電話のこととか、そういうのはすっ飛ばして……慌てて後ろへと振り向く。


「グリフィス!」

『こういう状況だ。念には念を入れた方がいいだろう。
……すぐに部隊員は隊舎を脱出! 近隣の部隊にも応援を頼もう!
ただしロングアーチは現場のサポートもあるため、移動用端末を持った上で対応を!』

「了解!」


隊舎内に響く緊急アラート。戦闘要員も、非戦闘要員も、誰も彼もが走る……走って走って、でも慌てて怪我をすることがないよう、慎重さも携える。

特に重要なヴィヴィオについては、風海さんとシャマルさんでしっかりガード。

外に出る以上どうなるかも分からないので、隊舎から距離を……できるだけ遠くへ離れ、市街に紛れ込むように移動する。


それにはこの私、シャリオ・フィニーノも付き添うことにして。


「ふぇ……なのはママ……フェイトママァ……」


ヴィヴィオはなぎ君からもらったボードゲームを……慌てて纏めた荷物を抱えて、不安げに瞳を揺らす。


「大丈夫よ、ヴィヴィオ。隊舎が危なくないって分かるまでの間だけだから」

「そうそう。……で、シャーリーちゃん……行く宛ては」

「それはもうバッチリ! ……とにかく飛ばしますよー!」


ハンドルを軽やかに動かし、公開意見陳述会絡みで行われている交通規制の合間をすり抜け、目的地に向かう。

目的地はミッド南部山岳地帯近くにある≪CW社・クライゼント工場≫。いざというときの手はずは整えていたってわけだ。


――――あとは、追撃を上手く避けられるかの勝負。さぁ、急ぐよ急ぐよー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ゴーサインはとうに出た。ヴィヴィオのやつはシャーリーに任せているが、後追いは必要だろう。

つーわけでヘリはストームレイダーの遠隔操作で一機適当に飛ばしつつ、俺は持ちだした車に乗り込む。


「ヴァイス陸曹、駄目ですよ!」


なのにアルトのアホが止めてくる……。


「ラグナのことはどうするんですか! シャーリーさんだって、ヴァイス陸曹は巻き込まないようにって言ってくれたんですよ!?
なぎ君も……まぁ、例の副業で完全アウトですけど……! というか、これで隊舎の中を探られたら」

「安心しろ。これに備えて施設は移行してる」

「いつの間に!」

「それにまぁ、気づかいについても感謝してるさ」


これはマジで命がかかった勝負になるからな。今の俺が行って、何ができるかって問題もあるが……だが、それでも。


「だがな……今行かなきゃ、そのラグナとも向き合えねぇんだ」

「ヴァイス陸曹……」

「……俺ぁよ、六課の中で頭を冷やしたかったんだよ。
いつまでも引きずって、踏み込んでくるアイツからも逃げる……馬鹿な頭をよ」


以前の合コンで……765プロの小鳥さんに言われちまったがな。一年部隊に常駐で、兄と離れてアイツも寂しいだろうにってよ。

だが、それすら気遣えなかったのが……アイツの目を潰した俺だ。再生治療で元に戻るとかじゃない。

俺がアイツを見るたび、あのときのことを思い出して、てめぇで怯えて、逃げちまうだけだ。


だからそんな弱い自分にケリを付けたくて……そのために飛び出したんだ。なのに……このまま、終わるだと?


「悪いがこのままじゃ終われねぇ。俺は俺の馬鹿にケリを付けなきゃならねぇんだ」

「……だったら、私も行きます」

「馬鹿を言うな。お前は出世頭なんだぞ」

「というか、私だけじゃありませんよ?」

『――――ヴァイス陸曹!』


そこで駐機スタッフがゾロゾロと……全く、コイツらはほんと。

揃いも揃って整列して、命令を待ってやがるし。だったら仕方ないかと……腹を括って、声を張り上げる。


「いいか! 六課は潰されるが、俺達はまだ目を瞑っちゃいねぇ!
ありったけの兵隊と資材をかき集めて、クライゼントの工場に引っ張ってこい!
それで万が一連中に捕まっても……死んでも口を割るな! それが俺達凡人の意地だ!」

『はい!』

「よし、行け!」


そうして四散する若い連中……それを見送ってから、アクセルを踏み込む。

ここで行かなきゃ変わらない。大切なものをなくして終わる。その気持ちを確かめながら、しっかりと――。




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここまでのあらすじ――恭文がやらかしました。完全にやらかしました。


『このアホがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「ごげぶ!?」


なので全員でまた跳び蹴り!

恭文は派手に転がり、ボーリングのピンみたいにウェンディ達に衝突! そのまま揉みくちゃになりながら倒れてくれる!


「……あー、ちょっとだけスッキリしたー」

「本当にちょっとだけなのが、悲しすぎるんですが……!」

「……また何するのよ!」


かと思ったら反省なしで起き上がったよ! 爽快感が台なしだよ!


「……私も、恭文が悪いって思うっス」

「大体繋がっちゃったしね……うん……」

「スパイがツッコむか!」

「ツッコむっスよ! スパイすらどん引きなやり口なんっスから!
というか私らに対してメタ張りすぎてて、怖い……いや、それ以前に距離が近い! 乙女の身体に気安く触れすぎっスよ!」

「文句は向こうに言ってよ! おのれら狙いで蹴り込んできたんだからさぁ!」

「恭文、ボク達に説得力がないことは、ボク達自身が一番承知している。
でも……スバル達がそうする気持ちも当然だから!」

「私達は、とんでもない人を敵に回していた――!」


ほらー! ウェンディとオットーも……ディードだって涙目で何度も頷いているし!

もうグダグダにもなるよ! それくらい今回のやり口はヒドいんだよ! いや、シャーリーさん達もだけどさ!


「アンタ……自首しなさい! この件が終わったら、すぐに自首しなさい! まだ執務官じゃないから弁護はできないけど!」

「そうっスね! それがいいと思うっスよ! もう一つ自分の罪を数えるべきっスよ!」

「僕達、嘆願書書きますから! 減刑されるようにいっぱい書きますから!」

「私も出所まで待っていますから! ほら、その頃には素敵なレディになっていますし!」

「くきゅー!」

「キャロはちょっとおかしいけど……でもつまりはそういうことなんだよ! ね!?」

「あぁ……大丈夫大丈夫」


いや、なんで手を振って笑えるの!? ウェンディ達から離れながら、そういうことかーって顔ができるの!?


「クロノさんやレジアス中将と手はずを整えていてね。あらかたのことは天災扱いで黙認される」

「権力乱用って最低じゃないのよ!」

「僕、言わなかったっけ? 上司って面倒事を押しつけるためだけに存在してるんだよ」

≪そうですよ。だから手に負えないことをがーっと押しつけて、なんとかしてもらっただけですよ≫

「聞いてないわよ! いや、ロスコ部隊長代理……というか、ドゥーエって奴は言ってたけどね! でもアンタ達も同じ考えとは知らなかったわよ!」

「余りに救いがないです……!」

「くきゅー!」


アアアア……あああぁぁあぁあぁぁあぁぁぁ! どうするのこれ! 前代未聞だよ!

管理局の施設に爆弾を設置したって……狂言を仕掛けるって! 事件解決という名目じゃあ絶対許されないよ!

しかもそれに対しての責任を、全部クロノさん達に押しつける構え!? 首だよ! その時点で首だよ!


SAWシステム導入やら預言阻止の件で負い目があると言っても……さすがにね!?


「………………」


というかギン姉が黙っているのが怖い! 黙ったまま頭を抱えているのが怖すぎる!


「きさ、まら……私を……」

「五月蠅い」

「ぐぼぎゃあ!?」

「チンク……姉……てめぇ、チンク姉に」

「だから五月蠅い」

「げばがああぁ!?」


しかも無言のまま、銀髪の子を殴り潰したよ! あとノーヴェの顔面を踏み砕いて、床になぎ倒したよ!

反撃の予兆すら察知して徹底して潰すって……相当お怒りだよ! ギン姉、そこまでエグいことはしなかったはずだし!


「なぎ君……なんで、私には相談してくれなかったのかな。
……夏休みずっと一緒にいたよね! ま、毎日朝昼晩と五回以上も頑張ってたのに!」

「いやぁ、僕もいろいろ考えたんだけど……敵方を混乱させつつ、ヴィヴィオも上手く攫うとなると、これしか思いつかなくてー」

「朗らかに言わないでー!」

「それにギンガさんも、フェイトも、一時的にでも六課に戻るでしょ? 心を読む能力者でもいたら面倒だし」

「その経験から語っている感じ、今すぐやめてもらっていいかな! 重たくて吐き気がするんだよ!」

「いや、その前に朝昼晩五回以上って、さすがに頑張りすぎじゃないですか……!?」

「ギン姉、パワフルだったんだ……!」


あ、つまり恭文はもう私の義兄というわけで……だったら余計に見過ごせないよ!

というかなに、その裏取引! もうどっちが悪党だか分からないくらいにやらかしてるんだけど!


「それよりギンガさん、会議場の方をお願い」

「それより!? それよりで済ませていいことなの!?」

「今はいいの」


恭文はそこでモニターの時計を……時間を気にし出す。

……って、そうだ! あんまり長々と話している余裕もなかった! リンディ提督……というか、会議場にいる人達が!


「それに、そろそろ向こうも撤退ってところだ」

「撤退!?」

「確かに……ウェンディさん達の寝返りも失敗して、戦闘機人五人がこちらに確保されて。
しかも本局駐留部隊があの有様としても、地上部隊の方が頑張っていますし」

「それにラプターの増援も来たしね」

「ラプターが!?」

「地上本部側のだ。
……レジアス中将が、内密に戦闘仕様のものを手配していたんだよ。予備選力としてね」

「レジアス中将……」


それ、かなりのグレーゾーンなのに……ううん、それでもってことか。実際それが功を奏したのが、今の状況で……つまり。


「だったら、ヴィータ副隊長は! 一人でゼスト・グランガイツと戦いに出て!」

「それも大丈夫。……ヴィータ、そっちはどう?」


そこで通信画面が展開。ヴィータ副隊長と……あ、なのはさんとフェイトさんも! 背景が外だから、やっぱり無事に脱出したんだ!


『……お前、絶対後で殴り潰す……!』

『なのはもだよ……!』

『私も、書くよ! 嘆願書を書くよ! これまで黙認って……さすがにどうなのかなぁ!』


そして揃ってお怒りだったー! それはそうだよね! どれだけあり得ないかは、敵方なウェンディ達もコレな時点でお察しだし!


「いきなり揃って殺意をまき散らさないでよ……」

『それだけのことをやらかしてるだろうが! せめて自覚をしろ、自覚を!』

「鷹山さん達をリスペクトしたんだよ」

『アッサリ答えるなぁ! がぁぁああぁああぁぁあぁぁあぁぁ! なんでてめぇはそう手段に頓着しねぇんだよ!』

「当たり前でしょうが。最低でも四年分のラグを取り戻そうと思ったら……そりゃあなりふり構ってなんていられない」


努力の話!? え、今努力の話をしているの!?

確かに後追いから追いつこうって主旨なら、分からなくはないけど……だとしても不正のレベルだからね、これ!


……でも、ここまで割り切って突っ走るからこそなのかなぁとも……いや、思わないね! やっぱりやり過ぎだし!


「で、外の方は。会議室にみんなを向かわせるのは、問題ないよね」

『……そっちは、大丈夫だ。ゼスト・グランガイツについても、ラプターの小隊が不意打ちで仕留めたからな。
例のアギトって子も、アタシで確保してる』

『廃棄都市部に出てきた、お下げの戦闘機人もだね……。瀕死の状態だから、武装解除した上で治療してる。
それと量産型オーギュスト……って言っていいのかなぁ。あれもあらかた片して、地上周辺の制空権も確保し直した』

『地上側のラプターが出てきたことで、一気に前提が崩れたからな。察しのいい前線指揮官が上手く下がらせたって感じだよな』

『だね。……だから、むしろ不安なのは中の方』


なのはさんが画面越しに、視線を外す。その先には……やっぱりウェンディ達がいて。


『外の方は私達や地上部隊の人達できっちり確保するから、みんなは会議場の安全確認をお願い』

「「「「「はい!」」」」」

「くきゅー!」

『だからヤスフミも、中で大丈夫だよ。外はなのはが言った通りだし……』

「いや、僕も外だ。……すかしっ屁が来るかもだしね」

『すかしっ屁?』


つまり、ここまで抵抗されて、すごすごと撤退するのが悔しくて……また何か攻撃をって話かな。


『ちょっと、恭文君……!』

『それってあの、予測してた……本当にくるの!? くるのかな!』

「フェイト、忘れた? 奴らは立場上預言についても知り得るんだ。
つまりこの事件は最初期から、預言という絵に合わせた形で進展している」

『私達が上手く抵抗したから、その絵合わせもズレている……だから、それを一発逆転で修正!?』


でも、ここで一発逆転できる札なんて………………ある。

一つあった。もうこのドタバタですっ飛ばしかけたけど、ちゃんとあったよ……!


『「「「「「――核兵器!」」」」」』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


最悪の状況だった。

虫けら達は我が物顔で抵抗し、勝利者を気取っていた。

いくら武装が使えたとしても……そうあざ笑っていたのに、それが愚かな勘違いだと私に突きつけてきた。


奴らが出してきたラプターが流れを作った。せっかくのオーギュスト達も壊滅させられて、ガジェットも残り僅か。

ノーヴェちゃん達との連絡も取れない。ディエチちゃんも。


『こちらセイン! ヤバいヤバいヤバいヤバい……ノーヴェ達も、チンク姉も捕まってる!』


……ちょっと訂正。セインちゃんからの報告で、あの子達がとんだ間抜けだと判明したわぁ。


「……どういうこと、かしら」

『分かんないよ! 私が見つけたときにはもう全部終わってて……』

「取り戻すのは」

『無理だと、思う……サンプルH-1がいるんだよ! アイツ、地面の中に潜ってても、居場所が分かるみたいだし!』

「それ以前にセインちゃん、片腕だったわよねぇ……」

『ごめん……!』

「……ほんと、使えないゴミばっか」

『え……ちょ、クア姉』


ぷちんと通信を断ち切り、鍵盤型コンソールを弾き鳴らす。

パイプオルガンのような打突音を響かせながら、笑う……。


「もう、いいわぁ」


予備施設にて作っていたカタパルトを起動……展開。

発射軌道、入力完了。到達点……中央本部上空。高度にして十キロ。

生体認証コード、入力完了……まぁ私のナノマシンから得られた生体データだし、ここは問題ないんだけどぉ。


シルバーカーテン、広域展開。以前海上から迫り来るガジェット師団を偽装したときのように、三十ほどのダミーを作っておく。

更に大気状態の影響、その誤差を修正――全ての設定完了。


「死になさい……虫けら達。でもただでは殺さないわぁ」


目の前に展開した発射ボタン。空間モニターの一部が隆起し、形作られたそれは、禍々しい血の色をしていた。


「あなた達には神に逆らった罰が待っている。……あなた達がそうまで守ろうとした同胞ともども、地獄の苦しみを味わいなさい」


それを右人差し指で、ゆっくりと突き入れる……。


「さぁ……これが」


――第50話


「神の裁きよぉ!」


『その日、機動六課/PART5』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


スバル達と別れて、外に出る。

地上本部三階のエントランスに足を付け、深呼吸……。


(無駄撃ちならお笑いぐさ。そうじゃないなら……それなりに責任はあるけど、まぁ)

≪――エブリバディドライブ!≫

(頑張ってみるか!)


トイフェルドライバーをエブリバディユニット接続状態で、腰にセット。

続けて取り出すのは、ブラストユーラヴェンと同型……というか、二つ目のネクストライズキー。


白色に流星が描かれたそれを、スイッチオン。それと同時にキーブレードが自動展開。


≪エブリバディ――ライジング!≫


キーからは聞き慣れた楓さんの声。


≪――Let’s give you power!≫


≪トイフェルドライバーゼロツー≫からは卯月の声。

その二つが混じり合い、辺りに響き渡る。


≪エブリバディ――ライジング!≫

≪――Let’s give you power!≫

≪エブリバディ――ライジング!≫

≪――Let’s give you power!≫

≪エブリバディ――ライジング!≫


周囲の床やフェンスが次々砕かれ、虹色の粒子となって僕達の周囲に舞い散る。


「リイン、予習はできているね」

【問題ないのです! 最高速でいくですよ!】

「OK……」


近くのガラスや床、天井の一部を次々と砕き、装備へと変換されていく。

ユーラヴェンは暗めの青がベースだったけど、こちらは対称的な白だった。


「なら行くよ!」


変身……っと、リインとユニゾン状態だしね。ここは……!


【「――大変身!」】


ヤスフミはキーブレードを、素早くドライバーに装填。

その瞬間、増設されたカバーが派手に展開。


≪≪ゼロツーライズ!≫≫


僕の周囲を回転していた武装が、鋭く突撃……次々と身体へと装着されていく。


右手にはフラウロスチェインのゲブリュルを改良した≪フライハイトゲブリュル(自由な咆哮)≫。

フルドレス両サイドには、折りたたみ式の≪スカーティングレールカノン≫二門。

その基部横には、ビームサーベル型武装≪サイファーブレード≫二本。なお、どっちも非殺傷設定可能です。


背中から翼のように添えられるのは、シュッペに翼が生えたような形状の≪フライハイトシュッペ(自由な鱗)≫二基。

なお、その翼も無線誘導兵器で≪シュヴァンツVer2.0 フライハイトシュヴァンツ≫という。


……まぁ悲しいことに、今回はこれらの装備……ほとんど使わないかもだけどね!


――Take off with free wings. And beat slap――
(特別翻訳:自由なる翼で飛び立て。そしてビートスラップだ)

≪≪――フリーダムライジング!
It's Never Over!≫≫


これが一つ目のネクストライズキー……ユーラヴェンは三つ目なんだよ。機能的に尖っているし。

フラウロスチェインとベリトクリエイターの能力を統合させた、僕なりの新しい基本形態だ。


『――――おい、聞こえてるか! こちら108のゲンヤ・ナカジマ……聞こえてるか! お前ら!』


それじゃあもういっちょ……というところで、ゲンヤさんから全体通信がかかる。

それもオープンチャンネル。もう残っているかどうかも怪しいけど、地上のみならず、本局駐留部隊も聞こえる公式回線。


『はい、聞こえています。ギンガ・ナカジマ陸曹です。部隊長、どうしましたか』

『…………ミサイルだ』


それは、絶望の声だった。


『弾道ミサイルがぶっ放されやがった! 中央はアレだが、それ以外の部隊で掴んだ! 今こっちに向かってる!』

「ミサイル……!」

『しかも……数は三十発だ』

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』


ち……やっぱりそうきたか! 仕方ないのでフリーダムライジングのスイッチを三回連続で押し込む。

鋭い電子音が繋がりながら響く中、ライズキーを押し込みセカンドドライブ!


≪――インパクトドライブ!≫

「こい、ミーティア!」


更に周囲の物質が砕け、取り込まれ、二又を形取る。

コーンスラスター二基に、多武装プラットフォームでもあるアーム。テールバインドには無数のミサイル。両側面にはビーム砲。

そう……ガンダムSEEDに出てくるミーティアモチーフだ! 核ミサイルを止めるなら、これくらいはね!


フライハイトゲブリュルを量子変換で仕舞い、フライハイトシュッペは翼を拡げるように上へと移動。

そうして背中から寄ってくるミーティアの間に入り込み、開かれたジョイントに腰を沈める。

しっかりとハーネスが絞められ、両手をウェポンアームのグリップに添えて……ボロボロのエントランスから静かに浮かび上がる。


――To a future that cannot be reached by strength or thought alone――
(特別翻訳:力だけでも、想いだけでも到達できない未来へ)

≪≪――リザルトミーティア!
You're the only One!≫≫


そう……ネクストライズキーには特殊コマンドを入力することで、フォートレス由来の大型武装が展開できる。

まぁ長々と使えるものじゃないから、本当に切り札なんだけど……あとは。


「束!」

『問題ないよ! 七月の出動で一度割れているネタだ!』

【……恭文さん、他にはいなかったですか? いや、今更ですけど】

「言うな! 今回については……まだ、まともだからぁ!」

【絶対何かやらかしてるですよね!】

「だから何も言うなぁ!」


オンラインで繋がっている束は、空間モニターを展開。

束が持っている携帯型ハイパーセンサーで捕らえられたそれらは、音速を超える勢いで、成層圏近くを飛んでいた。

中央本部を囲う形で次々と飛んでくるミサイルだけど、その姿が一つ、また一つと弾かれていく。


『というか、音速域で飛ぶ大型物体を偽装ってのは無理があるってー!
周囲の空気や雲の動き、発生するソニックムーブ……それらの余波をちょいちょいちょいっとすればー!』

【どうするのですか!?】

≪その辺り、感覚の人ですからねぇ……≫


そうして残ったのは、ミッド南部の森林地帯……そこから飛んでくる一発だけだった。


『これが本物だ! ナビゲートするから全速力で飛んで!』

「ありがと! リイン!」

【――ミーティア、テイクオフなのです!】


物質のリサイクル能力により形作られた、ミーティアのジェネレーターが走る……走り続ける。

コーンスラスターから粒子のような光を吐き出し、僕達はすくい上げるような軌道を描きながら加速。

一気にマッハの世界を突破し、通常では体感できない超高速飛行を続けていく。


でも……やっぱりナノマシンの出力ありきで組み立てた武装だから、魔力消費がキツい! 倍増バッテリーがありきでも、全開運動は十分が限度かも!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんとか会議室へのルートをひた走っている最中、ゲンヤさんから……って、そうか。後詰め的に各部隊も警戒していたのよね。

でもそれならよく無事だったと思うけど、そんな安堵も消し飛ばしてきたのが……奴らのすかしっ屁よ!

むしろ屁をこいた瞬間、ライターで火炎放射させられた気分だわ! 意味分からないけど、とにかく最低ってことよ!


「ゲンヤさん、発射地点は……それだけ数があったら、意味ないかぁ!」

『周囲を取り囲むように撃ちまくってやがるからな! だが、ほとんどが幻影だ! そこまでは分かってる!』

「例の、クアットロの能力ですか!」

『だが本体を絞りきる時間がねぇ! いや、それ以前に……高度十キロ以上の地点を飛んでやがるんだ! 対応できる魔導師がいねぇ!』

「高度十キロ………………ス、スバル……!」

「恭文が言っていたHANE≪高高度核爆発≫狙い!?」


どうするどうするどうするどうする……いや、もうどうしようもないんだけど!


「クア姉……!」

「ごめん、みんな……結局巻き添えにした」

「オットーさん、謝らないで……いえ、諦めないでください!」

「そうです! ……なのはさん、フェイトさん!」

『……フォーミュラがあれば、なんとかできたかもしれないけど……!』

『しかも、リミッター解除もなしじゃあ……だけど、ヤスフミがいる!』


…………そうだ。大事なことを忘れていた。


「……恭文さん、聞こえていますか! 返事をしてください!」


アイツは……こんなことを止めるために、それができるだけの札を用意してきたんだ。

そうしてきっと、アイツは声をあげるんだ。お前を止められるのは……ってね。


『――聞こえているよ! もう本命のミサイルは割り出してもらった! 接触まであと九十秒!』

「恭文さん……!」

「くきゅー♪」

『ほんと楽しい夏休みだったみたいだな! で、どうすんだよ!』

『ミサイルの弾頭部分だけを切断して、停止させます!』


……………………そう思っていたのに……希望があったのに……それが、がらがらと崩れ落ちる。


『……そんなこと、できるのか……?』

『大丈夫! ガンダムのオデッサ作戦編を見てシミュレートした!
クロスボーンガンダム無印も大好き! あ、ザブングルもチェックしました!』

『『『『もうおしまいだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』』』』

「「「「「「「「いやぁぁぁあぁぁああぁあぁぁあぁあぁあぁぁぁ!」」」」」」」」


というか、私達も絶望して崩れ落ちた……。


『いきなり諦めてんじゃないよ!』

「うっさい馬鹿ぁ! いいから黙ってよぉ! 最後のときをお祈りする時間くらいは与えてよぉ!」

「そ、そうだよ……まず両手を組んで、母さんを思い浮かべて……」

『縁起でもないからやめてもらえる!?』

「嫌だよ! というか、やりたくなる気持ちくらいは分かってよ! 私達、今回完全に恭文の被害者だからね!?」

『焼肉も奢るっつったでしょうが!』

「それで許される領域を遥かに飛び越えているからー!」


スバルの言う通りよ! これでアンタを信じて見上げろとか……無理無理無理無理! そんなの信頼じゃないわ! ただの精神崩壊よ!


『つーかアニメ参考に核ミサイル対処とか、頭が湧いてんだよ! テメェ、認めねぇからな! 俺をお父さんと呼びたきゃ、もっとまともな手段を考えろよ!』

「くきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!」

『もうなのはおうち帰りたいよぉ! というか……フェイトちゃん! ギンガ!』

『わ、私に言われても……篠ノ之博士も、何も教えてくれなかったしー! こんな無茶苦茶するとは思ってなかったしー!』

「私だって同じですよ! ちょっと、なぎ君……一旦ストップ! いや、もう止まれないとは思うんだけど! 無理だとは思うんだけど!」


それで何が一番絶望かって……この適当極まりすぎる作戦に! 全ての命運を握られていることよ!


『おのれら……せめてさ、僕とリインの心配とかしようよ』

「できるわけないよね! それ以上に心配しなきゃ問題が堂々と露出してるんだよ! それも連続で!」

「ほんとですよ! これも含めて説教ですから! 理不尽でも説教させてくださいお願いしますー!」

『エリオ、もう覚悟を決めるですよ。劇中では成功率百パーセントですし』

「それは創作物だからですよね!」

「リイン曹長も含めて、やっぱりあぶない魔導師だったんだ……!」


私、なんで核ミサイルを止める超常能力とか持ってないんだろ! 私、どうして空を飛べないんだろ!

それができていたら、こんな……こんな……こんなクレイジー極まりない馬鹿に、命を握られる心配はなかったはずなのに!


兄さん、ごめんなさい! ティアナはもうすぐそっちへ行きます! 止めても止められなくても、多分ショック死的なサムシングで!


『恭文君……ちょ、蒼凪課長、待って! まず待って!』

『都合のいいときだけ課長扱いするなボケが!』

『ツッコまれるいわれはないよ! ツッコみたいのはこっちなんだよ!
というか、待って! お願いだから待ってぇ! 三百円あげるからぁ!』

『なのは、落ち着いて! 子どものお駄賃じゃないから! さすがに無理だから!
というか……え、本当にできるの!? 大丈夫なの!?』

『――――信じる気持ちが、奇跡を起こすのよ』

『『『『「「「「「「「「――――もうおしまいだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」」」」』』』』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「全く……友達甲斐のない奴らめ。こういうときは空を見上げて黙って信じるものでしょうが」

≪……主様、さすがにそれは逆ギレが過ぎると思うの≫

≪まぁまともな方法じゃないのは事実でしょ。あなたも眼を開くわけですし≫

「……まぁね」


……仕方ないから、お詫びだけはきっちりすることにするよ。33分探偵みたいに、豪勢にね。

しかし……闇色の空を突き抜けて、どんどん世界から隔絶された感覚がするのはどうしてか。


【……恭文さん】

「ん……」

【こんなに飛んだの、初めてなのですよ】

「だね。できれば楽しいフライトにしたかったけど……おう゛ぇえ」

【あの地獄を思い出すなです……!】


おっといけないいけない…………そろそろ見えてくる頃だし、集中しないとね。

というか、左目のファルケMk-Uにはきっちり捕らえられたよ。若干軌道を上気味に修正して……っと。


≪なのなのなのなの……光学望遠で視認できたの!≫

≪角度、上に二.三度修正……していますね。ぴったりです≫

「ジガン、アルト、その調子でシステムサポートをお願い。
リインは魔力を全開で回して。
束もハイパーセンサーとのリンクを」

≪≪了解(なの)!≫≫

【はいです!】

『もちもちだよー! ……大丈夫。やっくんが届かせるだけの可能性は……その兆しくらいは、束さん達が作るよ』


音速の風を切りながら……まぁまともに受けたら身体が辛いから、フィールドによりある程度は遮ってるんだけどさ。

それでも速度を上げながら、意識を集中させる。エンゲージのチャンスは一度切り……それも一瞬。


「感謝してる。物凄く」

『そういうのは成功させて、無事に帰ってきてからだよ。さぁ……奇跡を起こそうか!』

「オーライ――!」


型式番号を調べている暇もないし、それで意味があるかも不明。あとは本当にギャンブルだ。

だけど……勝ちの目はある。僕だけじゃ絶対に無理だった。そんなこと一人でできるほど、万能でもなかった。

だから、駒を揃えた。みんなもそれに協力してくれた。


かなり無茶な上いきなりな頼みだった。しかもブラック企業も真っ青な作業量だったのに、ドライバーも含めたデバイス調整を束はこなしてくれた。

束がいなきゃここまで装備を揃えることは不可能だった。それも文句の一つも言わず、笑いながら……マイペースに僕達を励ましながらさ。


そうして組み上げたハードを最大現使いこなすために、ジガンとアルトも全力を尽くしてくれている。

リインだってアドリブ多めな作戦過程なのに、いつも通りしっかり付いてきてくれている。


調整目的の模擬戦も、フェイトやギンガさんがそれはもう、笑えるくらいに相手してくれた。

お父さんとお母さん、ふーちゃんと歌織、楓さんも、技術的なことはなにもできないからって、食事とかそういうの……いっぱい助けてくれて。

卯月もそれなら……僕が笑顔を、その意味を忘れないようにって、エブリバディユニットに声を吹き込んでくれた。


もちろん僕が帰ってくる場所を、春香達や赤羽根さん、今西部長……みんなが守ってくれている。


「――!」


だから、止まらない……止まる理由がない。

無関係で目を背けてもいい世界のことで、それに首を突っ込んだ僕のために、みんなができることをって、支えてくれた。

今身体を押し上げる力は、ただの推力やエネルギーじゃない。みんなの気持ちが、僕の背中を押してくれている。


≪距離、六百……四百……三百……!≫


だから目を開け。

その瞳で未来を見据えろ。


≪二百≫

≪右ウェポンアーム、ビームソード起動……最大出力なの!≫

【鉄輝を打ち上げるですよ!】


生まれた刃を研ぎ澄まし。

それが切り開く未来を見据えろ。

自分の全力を、自分の全てを投射し、切り開ける未来を見つけ出せ。


≪百……≫


目の前にあるのは、ただの兵器じゃない。

人の命を、幸せを、それが紡ぐ日常をあざ笑い、踏みつける悪意だ。

それを当然とする奴のために、誰かの笑顔が奪われるなんて我慢ならない。


≪五十――マスター!≫

「フルドライブ」


だから刃を振るう。

ありったけを使い付くし、みんなの思いを研ぎ澄まし、ただ一つの一閃とする。

それが生み出す未来を、そこから切り開かれる可能性を信じ、見えた兆しに自分自身を投射する。


そうすれば……僕達に斬ろうと思って斬れないものなんて。


「――――鉄華一閃!」


この世には、何一つない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――――HANE。確か、高高度爆発とか言っていたかしら。

十キロ以上の地点で核爆発が起きると、強力な電磁パルスで百キロほどの半径……直径……どっちだったかしら。

とにかくそれくらい広大な範囲がEMP≪電磁パルス≫に晒され、電子機器に……生活や都市機能の根幹に大ダメージを与えるって攻撃よ。


そうして虫けら達は、原始時代に強制送還。獣の法則に則ってプチプチ殺し合う。

その混乱に乗じて、私が神の母としてゆりかごとともに浮上する。それが当初の計画だった。


でも肝腎の聖王のクローンを見失い……それでもまぁ、この一発だけでも嫌がらせには十分だと……撃ったのに…………。


「嘘でしょ……」


ミサイルに突撃する、大型のフォートレスユニット。サンプルH-1も無駄なことをするとあざ笑っていたら、光が走る。

右の馬鹿長いアームから走った刃が、ミサイルの弾頭を切り飛ばした。そうしてサンプルH-1と交差…………徐々に落下していく。

でも何も起こらない。ミサイルの全機能が……スラスターすら停止し、ただ落下する。


サンプルH-1は急ブレーキをかけるようにUターン。そこから両の刃を走らせ、加速……幾度も、幾度も、ミサイルと交差し、その全てを切り崩してしまう。


そうして数々の破片目がけて、距離を取りながらフィールド魔法を発動。

蒼いドーム状の歪みの中に破片を全て捕らえ、そのままゆっくりと……地面へ、降下して……!


「核弾頭を……起爆装置に属する部分のみを斬り裂き、停止させた……!? その上解体!?」


余りに異常だった。神の意志を……私の愉悦を踏みつぶすなんて。

慌てて起爆させようとしても、そんなのは無意味だった。……インスタントに起きるほど、核爆発は手順が単純ではなかったから。

でもあれは、確実に……ミッドの中心部で、その遥か上空で爆発するはずだった。


それが神としての第一歩。それが、私という存在の畏怖を、虫けら達に刻む……大切な一歩。

だから、抗う……それでも、それでも……せめて、あの糞虫だけは巻き添えにできると、必死に。


避難した再開発区域の一角で、ビルの屋上を何度も踏み締め、地団駄しながら……何度も、操作する。

なのに、答えてくれない。私の大事な武器が……用意した核弾頭は、何も……答えてくれない!

神なのに! これは神の……神の夢を叶える大事な偉業なのに! そのための力なのに!


「なによ、これ……あり得ない……こんなの、あり得ない! なにより、人間業じゃ……人間のできることじゃない!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――そう、人間業じゃない」


中央に近い高層ビルの一角……その縁に座りながら、足をバタバタ。

混乱もなんとか落ち着いて、ミサイルも……あぁ、やっくんはまた派手に解体したねー。

魔法でゆっくりと降りてきて、破片を中央の中庭に置いたよ。あとでちゃんと汚染検査とかしておかないとなぁ。


まぁ大丈夫だけどね。バリア関係もIS技術を生かして、きっちり見直したし。


「だけど可能性はゼロじゃなかった……だから奇跡を、その未来を確定できた」


そんなやっくんに慌てて駆け寄ってくるのが、キンキンちゃんやサイドポニーちゃんにロリっ子ちゃん。


『お、みんなー! 見てくれた!? 僕達の超ファインプレーを』

『黙れ馬鹿タレがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

『トータルテンボス!?』


なお、さすがにやり過ぎた部分が多大にあるので、まずはハンマーでどつかれるけど。

やっくんは意味不明な悲鳴を上げながら、派手に地面を転がって……その様子を空間モニターで見ながら、つい笑っちゃう。


「……もう閉じているね。奇麗な目なんだけどなー」


やっくんの目は黒色だった。でも……さっきミサイルを見据えていたとき、蒼の浄眼だった。


「やっくんの目は、特別製なんだよね。
未来を測定し、望む形を引き寄せる……そのための道筋を見定める魔眼。
誘拐され、家庭が壊され……その絶望が生み出した、やっくんを王様たらしめるための力」


それは束さんが、ISを作った動機にとても近い。

束さんも厳格なお父さん達の在り方とか、自分が女であることとか……いろいろ面倒くさくなって、全部ぶっ壊す翼が欲しくなって。

自由に、どこまでも……宇宙ですら飛んで、束さんの天才さでも理解できない何かがある世界。それを目指すためのISだった。


……まぁ、その前にいろいろ面白いものが近くにあるんだーって気づいたから、そこまで乱暴なことはしなかったけどね。

でもだからこそと言うべきか……束さんが年も離れたやっくんにラブラブなのは、そこが理由だったりする。


――やっくんの目は、それがやっくんの手で……やっくんの行動で実現する可能性がある限り、それが”どれほどにか細い可能性であっても”確定させる。

それ以外の未来を、その行動で両断することでね。

そりゃあ彼らが作った模倣品じゃあ太刀打ちできないよ。能力を使うまでもないのが悲しいところだ。


ただまぁ、そう考えると超絶的に凄い能力……世界を支配しうるように見えるけど、欠点も多い。


一つ、やっくん自身の力では”どう足掻いても実現不可能な未来”は引き寄せることができない。

二つ、実現可能というだけで、やっくんに襲いかかる負荷やダメージは度外視している場合がある。実現してもやっくんが死亡というコースもあり得るんだ。

三つ、視界に映らないもの……やっくんの視覚範囲外にあるものは、能力の対象外。あくまでも目の前のことだけが範囲なわけだ。


四つ、やっくんの目はどういうわけか、斬撃を打ち込むときのみその力を発揮できる。

つまり敵を斬り伏せる以外では、なんの役にも立たない。自分の思い通りに人を誘導することもできないんだ。


そして五つ……そうして確定させた未来は、実はとても脆くもある。

未来は形がなく、無数だからこそ無敵。それがたった一つに絞られたら、覆されたときのしっぺ返しはとんでもない。

束さんはそっち関係だと門外漢なんだけど、どうも……あるらしいんだよね。そういう未来も殺しうる伝説級の魔眼が。


だからやっくんも基本的に眼の力は使わない。頼ってばかりじゃ強くなれないからって、きっちりかけている……最大最後の戒め。

それを開いたときに見えるのは、蒼穹……天を穿つ刃。運命すらも、時の法則すらも、それを操る神すらも叩き潰す可能性の眼。


「だけど……ん、これでいいよね」


ちょっと思ってしまった。それを戒めているのは枷で、世界に遠慮しているんじゃないか。

やっくんが全力を出せる場がなくて、つまらないんじゃないかって。


でも違う。そうじゃない……そうじゃないんだよね。やっくんの答えは。


「束さんはこの瞳を……この力を、自分じゃない誰かのために使えるやっくんだから、大好きになったんだ」


だから、罪を数えていこう。そうして世界をもっと好きになっていこう。

思い通りにならない、地団駄を踏みそうになる世界だけど……きっとそれは。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――同時刻

ミッドチルダ郊外≪エアリス・ターミナル≫メイン飛行場



中央が混乱している最中……私とサリは、例のエアリス・ターミナルに入り込んでいた。

どうも例の荷物やらなんやらが気になってねぇ。周囲を調べてもラチが明かないし、中央に目がいっている隙に乗り込もうって寸法だったんだよ。

というか、例の飛行船が三機揃って、離陸準備に入っていてさぁ。この厳戒態勢でだよ? さすがにあり得ないでしょ。


なのでいつも通りに無茶苦茶をした結果が……。


「ごべば!」

「……温いなぁ……」


この死屍累々……いや、事情聴取のためみんな生かしてはいるけどね。

とにかくサリも最後の一人をバサッと斬り倒し、金剛を逆袈裟に振るい残心――。


私もセキュリティルームの扉をアメイジアで斬り裂いて、ズカズカと中に入る。


「現役時代の頃なら、もっと手強い奴が多かったんだが」

「悪党も平和ボケでとんとんって? あんま笑えないけどねぇ」

「確かな。……っと、お前は触るなよ!? 電子レンジでたまごを爆発させる奴だろ!」

「たまごじゃないから大丈夫でしょ……。というか、私は特殊車両開発部の?」

「……主任」

「アンタは?」

「……副主任……!」

「よろしい」


というわけで、仕事で手慣れた感じに端末を立ち上げ、ポチポチと……あとはサリ特製のハッキングツールをコネクタにくっつけて、オートメーションだよ。

するとすると……おぉおぉ出てきた出てきた。輸送にかこつけた密輸の記録映像やらがびっちりと。


「今更だけどさぁ、こういうのは記録に残さない方がいいんじゃないのかねぇ」

「記録に残して管理しなきゃ、きりきり働けないわけだ。
……なにせ本社だけでも入り込んでいた武装要員は、百名を超えていたからな」

「その労力をもっと真面目に……っと、あったよあったよ……!」

≪あぁ。核密輸の記録だ≫


しかもきっちりと核燃料って銘打っているしさー。一体なにを考えているんだか。

それに参加した人員も……ルーテシア・アルピーノ、アギト、ゼスト・グランガイツ……うん、名前までちゃんと記録してる。

しかも参加した奴らの名前には、幾つか見覚えのあるものがあって……。


≪……この左から三番目と七番目は、メリル・リンドバーグ一士を襲撃した男達ですね。
右の二番目からは、蒼凪氏と機動六課が確保したアサシン達です≫

「これでバッチリだな。とりあえず108辺りに連絡して、違法な武装集団だったって感じで捕まえてもらうか」

「でもサリ、ここの根元が」

「そこも調べてからだ。あとは外に止まっていた飛行船を潰せば……」

「そうだそうだ、それもあった」


さすがにそこから潰すのも怖かった。中身が核爆弾とかなら、私らまでお陀仏だしさぁ。

……一瞬、鷹山のおじさん達ややっさんみたいに斬り抜けられるかとも思ったけど、そこはあえてスルーしておく。というか、私はそこまで化け物じゃない。


「ヒロ、中身だ中身」

「分かってるって。えーっと、最新の履歴を参照に、荷物の中身を…………」


キーボードとマウスでサラサラと操作。すると……おぉ、出てきたよ。

というか、やっぱり例の核と一緒に運ばれた感じか。とすると中身は相当に物騒な…………!?


『輸入物ナンバー48:XFL-357(神経性攻撃ガス)』

「…………サリ……」

「……戦地でも使用が禁止されている……危険度の高い毒ガスじゃねぇか……!
しかもこの下! この下ぁ!」

『輸入物ナンバー49:T1Z-EXPERT(最新鋭ECM装置)』

「ECM!?」

「マジでTOKYO WARの再現じゃないか!」

≪おいおいおいおい……ということは……!≫


そこで、ぶろろろろろと……プロペラとエンジン音が混ざり合ったような、聞き慣れない音が響く。


≪主……ヒロリス女史! 飛行船が!≫

「「――!」」


慌てて立ち上がり、死屍累々を適当に踏みつけながら外に飛び出す。

すると……飛行船三機が、飛び立っていた。

人も乗っていないはずの飛行船が……それもちゃんと確認したはずの飛行船が、空高くに、消えていって……。


「わぁ……飛んでったよ……」

≪一体どこまで飛んでいくんだろうなぁ≫

「そのまま成層圏を突破して、宇宙に消えてしまえばいいのに……」

≪主、そんな場合ではないかと……!≫

「だよなぁ! どうするどうするどうする……」

「そ、そうだ! やっさん! やっさん……蒼凪課長に、全部押しつけよう!」

「だな! 俺達、主任ズだし! 課長より下だし! 課長が上に決まってるもんな! 上司は面倒事を押しつけるために存在しているって、蒼凪課長も言ってたしな!」

≪いや、ボーイは民間協力者だろ……つーか言ってる場合じゃねぇよ! これヤバいってぇ!≫


分かってるよ! とにかく地上本部の方に行って、やっさんとナカジマ三佐に直接話さないと!

もしあれを異物としてどこかが撃ち落とすことになれば……とんでもないことになる!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


もう絶望して、泣き崩れたい気分だった。だけど止まってもいられなくて……それがもう腹立たしくて!

そんな怒りに突き動かされながら、ロスコ部隊長代理……もといドゥーエとリンディ提督が入った会議用フロアに接近。

照明の落ちた廊下をひた走り、ウェンディ達も引きずって、なんとかそこの玄関を見つけた。


ただそれは、強引にこじ開けられた後で……。


「失礼します!」


かなり大きめなホールと言うべきすり鉢状の部屋。

その中に飛び込むと、ザワザワとした高官達の視線が一斉に突き刺さる。

それにちょっとおののきながら……でも血の臭いや戦闘の気配がない部屋に安堵しながら、一歩踏み出す。


「救援が遅れて申し訳ありません! 我々は本局古代遺物管理部、機動六課の者です!
犯人一味の一部を確保したところ、この会議場付近に一味の仲間が潜伏しているとの情報を得ました!」

「みなさん、お怪我などしている人はいませんか!? しばらくここは私達で確保しますので!」

「そうでしたか……。この非常時での救援、心より感謝します」


すると近くにいた四十代くらいのひげ面なおじ様が、丁寧に近づいてくる。みんなはザワザワしているのに。


”……ティア、ドゥーエのことを真っ正直に言わなくて正解だったね”

”アイツみたいな腹芸も慣れてきそうで、ちょっと怖いわ”

”あははははー! でもそれは慣れなきゃ駄目だと思うよ? ランスター執務官”

”予定ってのを付けなさいよ……”


いや、でもスバルの言う通りだった。私達は機動六課で、その部隊長がスパイですーなんて馬鹿正直に言ったら、頭がおかしいと思われるもの。

あるていど曖昧にして、その上で処置した方が手っ取り早いわ。そうじゃないと……。


「こちらはけが人などもありません。有志の方々がドアをこじ開けて、助けを呼びに向かったところで……あなた方の部隊長も一緒だったはずです」

「ロスコ部隊長代理が……?」

「えぇ。行き違ったのでしょうか……。心配されていた様子でしたし、呼び戻せればいいのですが」

「……そうですか……」


体よく脱出したってところかしら。となると……リンディ提督についても。


「――――エリオ、キャロ!」


よかった……無事だったか! すり鉢状の席から立ち上がって、一番下まで降りて……こちらに駆け寄ってくる。

でもこの人、本当にクロノ提督のお母さんなの? シワとかないし、肌艶も三十代……いや、それより下……!?

しかもあのバストよ! あのトップ九十オーバーは間違いないバストは……一体どうしてこうなったの!? 格差を感じる……感じている場合じゃないか!


一応……スバルとギンガさんともども敬礼すると、リンディ提督は敬礼を返し、エリキャロの前でしゃがみ込むJ。


「よかった……本当に、無事でよかった……! ならフェイトは……なのはさんも」


……そこでリンディ提督は気づく。

縛り上げられた状態で、扉の影に座っているウェンディ達の姿を。

というか、一人は顔面を潰され、一人は恐怖でガタガタ震えているのよね……主にギンガさんのせいで!


いや、ギンガさんをそこまで切れさせたアイツのせいか! やっぱり自首を勧めないと!


「ちょっと……何をしているの。彼女達は」

”――ウェンディさん達は、スカリエッティ側の戦闘機人です”


そこでエリオが……辛さを隠そうともせず、念話を送る。


「は……え……!?」

”スパイとして送り込まれたんです! リンディさんは騙されていたんですよ!”

”それは、私達もですけど……ただウェンディさん達もいろいろ事情が込み入っているみたいで、逮捕というよりは保護扱いで引きずってきたんです”

「そんな、馬鹿な……だって、それじゃあ……」

「……機動六課は、これでおしまいですよ」


初対面で不躾だけど、そう告げるしかなかった。


「もちろんあなたもです。……リンディ・ハラオウン提督」


これが、私達の終わり。騒がしさを増す会議場はさて置く形で、リンディ提督は停止し、静まりかえる。

美しい目尻と瞳を揺らし、顔から血の気を完全に引いて……ただ自分の行ったその末路を想像し、停止し続ける。


『――――さて諸君、我々のもてなしは気に入ってくれたかな』


……でも、止まっている暇はなかった。

会議場の巨大モニターに、いきなり……あの男の顔が映し出されて。

青い髪、金色の瞳、白衣姿……フェイトさんじゃなくても執ように追いかけたくなるような、ねちっこい瞳。


そう、アイツは……!


「ジェイル、スカリエッティ……!」

『これが我々の保有する戦力だ。まぁまだまだ未熟な部分もあるが、君達が欲するセカンドセーフティーにふさわしいとは思わないかね?』

「こんな虐殺を仕掛けておいて、よくいけしゃあしゃあと……って、あれ?」

「エリオも、気づいた?」

「はい……」


スバル、エリオ、アンタ達はなにを……いや、私も気づいたわ。


『……』


コイツ、右手で何かにぎにぎしてる! ポッケの中でにぎにぎしてる!

アイツが言ってた、緊張を解すアクション!? ちょっとなによ……台なしすぎるでしょ! 悪党らしく堂々としてなさいよ!


『もしこれらが欲しいという方がいれば、連絡をしてくれ』

「いや、そんな……通販番組みたいなことを言われても」

「電話番号とか教えてくれるとでも……!?」

『連絡先は最高評議会が知っているからね』


あ、なるほど。最高評議会に問い合わせれば…………って、ちょっと待って……!


『私は彼らが保有するアルハザードの超技術……そこから生み出された人造生命体だ。
コードネームは無限の欲望≪アンリミテッド・デザイア≫。その知性と技術、生涯は管理局という組織の発展にのみ費やされることを運命づけられた』

「なら、最高評議会が……管理局トップが」

「スカリエッティのスポンサー……!? というか、それならクイントさんやゼスト隊の仇も、管理局そのものになるじゃない!」

『そして彼らは浄化を意味するフェブルオーコードという洗脳コードを使い、自分達の都合に合わせて、組織を動かし続けた。
SAWシステムはその発展系。管理局の戦力を、彼らが直接意のままに操るためのシステムさ。
ヴェートル事件での体たらくを受けて、その必要性があると随分派手に推進していたようだねぇ』

「嘘……嘘よ……。こんなの、でたらめよ! あなた達も聞いちゃ駄目! ちゃんと私達を……私達の声だけを聞いて!」


リンディ提督が動き出したことは喜ばしい。でも、その声は私達には届かない。


『もちろん証拠もある。そちらはフェブルオーコードの解除方法とともに、ネットにて公開したから是非見てほしい』


そう言いながらアイツはサブモニターを展開。確かにそれらしい証拠映像や、資料が立て続けに流れていって……。


『連絡についても、それらの証拠が本物だと検証してくれて構わない。ただ……それまで無用な戦いが発生しても困ってしまうのでね。
なので少し、手を打たせてもらった』

「手……?」

『エアリス・ターミナルという会社がある。最高評議会が情報統制に利用していた公然企業だ。
彼らは違法な武装集団でもあり、その一角がミッドへの核密輸……及びに本局資料室のメリル・リンドバーグ一士を襲った。
言うなれば、彼らは最高評議会の尖兵だ。そんな彼らをこちらからの情報操作で利用し、あるものを飛ばしてもらった』


そこで画面に映し出されるのは、三機の飛行船だった。

それを見て、猛烈に嫌な予感が走る。


『この飛行船は現在、三機でクラナガン上空を周回している。
もしも君達に何らかの抵抗があれば、この飛行船は都市部や住宅街へと墜落する。
……中には大量の毒ガスとECMが詰め込んでいる。毒ガスの名前はXFL-357――致死性の神経ガスだ』

「BC兵器による攻撃……!? エリオ君!」

「TOKYO WARで、柘植一派が仕掛けたものの模倣! じゃあ……」

『そう……私は今、十数万に及ぶクラナガンの住民を人質に取っている』


予感は的中した。

今コイツがしているのは宣戦布告であり、同時に……降伏宣言だった。


『本来ならこんな乱暴な手を取りたくはなかったが、私も腹を括らなければならない状況に来ているのでね。
……この状況の撤回条件はただ一つ。聖王家の末えいをこちらに引き渡すことだ。
君達が英断を下し、世界のために今どうするべきか……それを正しく判断してくれるよう、心から願う』


――――その言葉を最後に、通信は切れる。


「――」

「――!?」

「――!」

「――!」


再び誰もがざわつき、動揺する。過去の模倣すら覆せない管理局だと、示すことになると恐れる。

いや、それ以前の問題だった。これは管理局トップが起こした犯罪の告発であり、その威信を揺らがせる重大な……。


「ティア……」

「アンタ達のお父さん、いろんな意味で大物だわ……!」

「……こんな、大胆な性格じゃなかったはずっスけどねぇ……」

「……きっと、変わったんだ」


オットーとウェンディは、涙を浮かべていた。


「ボク達が……クアットロが、そしてこの戦いが、ドクターを変えた……」


…………私は、またうじうじ迷っていたのかもしれない。普通の局員ならって……凡人だからって。

でもそんなのはもう意味がなかった。私の気持ちは定まっていた。それを突きつけられた。

どんな事情があれ、親や家族のためにって……命を張ったこの子達に、こんな嘆きを、涙を浮かばせたんだ。


だったらそれは……そのツケは、払わなきゃいけないって、心が燃えていたから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


EMP……電磁パルス攻撃は、ヤスフミが独自に用意した手段で何とか止められた。

それに残存していたラプターやガジェット、オーギュスト・クロエのコピーを排除し、中央は落ち着きを取り戻した。

ただ郊外は……機動艦隊の一部が大気圏突入の上で墜落し、甚大な被害をもたらしているらしい。


それも、ECMの関係で確かめられないんだけど……いや、その前に毒ガスか! ヤスフミを自首させる前に、投降しなきゃいけないはめになるなんてー!


「なんて、ことなの……」


母さんは空いていた会議室に入り込むなり、テーブルを強打する。


「……俺ら、無駄足で助かった……って言える状況じゃないよなぁ!」

「だね! つーかECMがあると、部隊間の連携も難しいし……!」

「いや、でもマジで助かってますよ。アタシらと地上も妙な飛行船が飛んでるんで、どうしようかって話していたところでしたし」

「下手をすれば宣戦布告前に、現場判断でーって可能性もあったしね……。うん、だからヴィータちゃんが言ってた感じで」


ただ……私もそうだし、慌てて合流してきたヒロさん達も同じ気持ちではあった。

完全に中央のドンパチも目くらまし。向こうにクラナガン掌握の時間を与えただけになっちゃったから。


「……それについても、あなたにお任せするしかないようですね」


そこで入ってきたのは、オーリス三佐だった。でも今日の騒動で相当お疲れなのか、以前拝見したときより……やつれた印象で。


「オーリス三佐!」

「ミッド地上も損害の確認に時間が取られますし……本局は機動六課の部隊員と隊長陣、及び後見人の更迭を決定しましたから」


――でも、それもやむなしと思うほどの情報が、私達に投げかけられて。


「更迭……!?」

「というか、本局と連絡が取れたんですか!? ECMは!」

「通信機器はともかく、今回展開されたECMでは転送などの装置も無事でした。
なのでこちらからメッセンジャーを送り、その報告を受け取ったんです。……結構手間ですけどね」


そう言いながらタブレットを取りだし、私達にモニターを展開。

これ、電子物だけど、正式な通知書だ。それも機動六課部隊員全員に……!


「部隊員どころか、部隊長までスパイだった件もありますし、SAWシステムの”誤作動”に絡んだ話もあります。致し方ないかと」

「待ちなさい……そんなことは、認められません」


でも母さんは……それは違うと、立ち上がり首を振る。そうして厳しい視線をオーリス三佐やヤスフミに向けていて。


「恭文君……クロスフォードさん達も、機動六課の一員として戦いなさい。
そして恭文君も局員として、私達の仲間として働き、世界のためにその力を振るうの。
……これは命令よ。あなた達には従う義務がある」

「更迭されている奴に言われてもなぁ……」

「ねぇ? 命令する権利そのものがないよね」

「狂ってますよね、コイツ。……最高のオパーイなのに……先生も自分のエクスカリバーを突き立てたいとか言ってたのに」

「「よし、やっさんだけ協力しようか」」

「なんでだぁ! 嫌ですよ! 僕は九億稼ぐんですから!」

「あの……義理とはいえ娘と家族の前で、そういう会話をするのはやめてもらっていいですか!? というかシリアス! シリアスだからー!」


というか、ヘイハチさんそんなこと言ってたの!? エクスカリバーって……あの、分かるよ! でも変態だよ! そんなの駄目ー!


「まぁ恭文さんはいつも通りとして……リンディさん、やめてください」

「大丈夫よ、エリオ……私が、あなた達を守るから。失ったものもちゃんと」

「誰かを犠牲にしてまで、手柄や栄誉なんてほしくありません!」

「エリオ……!」

「リンディさんは、それも分からないくらい疲れてるんです。
だから、駄目です……落ち着いてもう一度ちゃんと考えられるようになるまで、休んでください。
じゃないと本当に、大切なものもなくしちゃいますから」

「キャロまで……なんで、あなた達までロスコ部隊長代理みたいな……そのドゥーエって戦闘機人みたいなことを言うの……!?」

「……それはきっと。ロスコ部隊長代理が……ドゥーエさんが、潔い人だからです。騙していたとかそういうこととは、関係なく」


……本来なら怒り嘆き、憎むべきなのかもしれない。だけど私達は誰も、そんな気持ちになれなかった。

ロスコ部隊長代理として一緒にいたドゥーエさんの言葉が、その対応が全部嘘だったとは思えないから。

いや、嘘は吐いているんだけど……でも、ウェンディ達を助けるため、一人で敵地に乗り込むような人だよ?


そんな人が本当にあくどくて、憎むべき存在なのかと言われると……迷ってしまう部分があった。


「……どう、して…………」


そして母さんは涙をこぼし、膝から崩れ落ちる。それを見て、とても胸が痛くなって……。


「……どうしようかこれ。房中術の講習だと、絶好の籠絡タイミングなんだけど」

「アンタ、それやったらマジでぶん殴るから……!」

「そうだよ! というか、愛がないとか駄目だからね!?」

「僕がやるんじゃないよ。誰かほら、適当な精力強い男を宛がうんだよ。
実際三十年くらい前、とある組が跡目争いで揉めたとき、残された妻にそういうハニトラを仕掛けて勝ち残ったって話が」

「そういう心配!? というか……怖!」

「なら……恭文さん、そうなる前にリンディさんを籠絡して、幸せにしてください」

「なるほど、その手があったか!」

「「いやいやいやいや!」」


……あの……楽しそうなところ悪いけど、やっぱりシリアスしてくれないのかな! それともそうしないと辛いの!? そういう話なのかな!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


爪を何度も噛む。噛んで噛んで……噛み締めまくって。そうして軽くちぎれかかるのも構わないと思っていたところで、朗報が飛ぶ。


「ドクター……いえ、スタンドプレーは感心できませんけど、お見事ですぅ♪
これなら聖王のクローンを引き渡すしかないですよねぇ。なにせ虫けらのすることですしぃ」


ふふふ、心配して損したわぁ。核ミサイルを潰して得意げだったかもしれないけど……本当にお・ば・か・さ・ん♪

そんなものぉ、どうだっていいのよぉ? 聖王のゆりかごに比べれば線香花火みたいなものだしぃ。


「じゃあ虫けら達の無駄な努力はさて置いて、とっととアジトに」


その瞬間だった。

防護服すら無意味な一撃が、背中から私を…………襲って…………。


「ぁ…………?」


私はこの中では、一番高いところにいた。

なのに、背中から容易く銃撃を受けて……火花を迸らせながら、縁にもたれ掛かる。


「なに、これ……どこから……どうして……!?」


すると今度は、縁に火花が走る。

それだけで細い鉄骨は砕け、私は……崩れ落ちる縁ごと、落下して…………。


(第51話へ続く)






あとがき


恭文「というわけで、中央本部襲撃編はこれにて終了。
次回は最終決戦に向けてのインターバルと……いよいよ精算のときを迎えたクアットロがどうなるか」


(どうしようかなぁ。あえて幸せになれるルートへ進み、変化した分過去の苦しみにもがき血反吐を吐く展開もアリだし……うーん)


恭文「……ニコニコしながらブドウジュースを揺らすわけだね。アリだ」

あむ「馬鹿じゃん!? というかほら、それより……」

恭文「そうだね。今日はナターリアの誕生日だよ! 明日(6/30)は多田李衣菜の誕生日だよ!
なので……まぁまだオンラインではあるんだけど、しっかり誕生会もするよー!」


(おめでとう!)


あむ「いや、そっちもあるけどさ!」

恭文「分かってるって。じゃあ今回出てきた新要素の設定をご紹介ー」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※フリーダムライジング

起動音≪ライジング!≫

変身音
――Take off with free wings. And beat slap――
(特別翻訳:自由なる翼で飛び立て。そしてビートスラップだ)

≪≪――フリーダムライジング!
It's Never Over!≫≫


一対多をコンセプトとしつつ、機動戦闘に対応できる汎用性を備えた新形態。モチーフはストライクフリーダムとアメイジングストライクフリーダム。

エブリバディドライバー(エブリバディユニットセット時)の基本形態その一。(ブラストユーラヴェンはその三)

予めプログラムしていた形でセットアップ。周囲の物質を流用しつつ、コアに量子変換されていた武装も装着される。

その能力はフラウロスチェイン、更にクリエイトベリトを統合したものとなっている。


・武装

・フライハイトゲブリュル(自由な咆哮)

フラウロスのゲブリュルを改修したバージョンアップ版。

頑強な作りも、威力関係も変わらないが、その最大の特徴はフライハイトシュヴァンツ(後述)との連携機構にある。

エクレールショットを応用したフィールドを、ビットを軸に展開。

それとゲブリュルの射撃を組み合わせることにより、威力向上に限らない様々な応用が可能となった。

(例:エクレールによる連鎖爆発を応用したリフレクターショット。
ビットを追加バレル代わりに放つ砲撃の強化版。
強化版の砲撃を放ちながら、ゲブリュルを振るうことにより巨大なビームサーベルのように空間制圧を行うなどなど)


・スカーティングレールカノン×2

フルドレスの両サイドスカートにセットされるレール砲二門。

ノーモーションで発砲可能であり、弾頭もヴァリアントシステムの物質操作で補充可能。非殺傷設定のスタン弾も精製できる。


・サイファーブレード×2

スカーティングレールカノン基部の横にセットされたビームサーベル型武装。こちらも非殺傷設定が可能。

射撃戦中心となるフリーダムライジングではセーフティウェポンという側面も強いが、必要があれがゲブリュルを収納し、二刀流での高機動戦闘も行う。


・フライハイトシュッペ(自由な鱗)×2

フラウロスで採用しているシュッペを改修した無線誘導式複合兵装ユニット。

無線接続されたそれは恭文の空戦・防御能力を飛躍的に上げるのみならず、フライハイトシュヴァンツ(後述)の生産・充電プラットフォームとしても機能。

更にジガンの外装と接続することで、フライハイトシュッペ・ドゥロ≪自由な硬き鱗≫となり、強力なシールドナックルとして運用できる。
その特性を応用し、ゲブリュルにエクレールショットを付与。砲撃やそのほかの攻撃と絡めたトリッキーな戦法も実現できる。


・シュヴァンツVer2.0≪フライハイトシュヴァンツ≫

フライハイトシュッペの両翼として搭載された、無線誘導兵器。

有線接続のシュヴァンツブレードと違い無線式かつ複数のため、より縦横無尽のオールレンジ攻撃を可能とする。

(UCのファンネルやビットというよりは、クスィーのファンネルミサイルやダブルオークアンタのソードビットやAGE-FXのCファンネル的運用を行う。
実体ブレードのため、複数枚重ねてのシールド的防御や、内蔵式グリップの展開によりダガーとしても使える)

敵によって破壊された場合でもヴァリアントシステム≪物質のリサイクル能力≫により、新しい刃を精製できる。




※リザルトミーティア


起動音≪インパクトドライブ!≫

変身音

――To a future that cannot be reached by strength or thought alone――
(特別翻訳:力だけでも、想いだけでも到達できない未来へ)

≪≪――リザルトミーティア!
You're the only One!≫≫


≪フリーダムライジングネクストライズキー≫のセカンドモード。
(変身した状態で、ライズキーのスイッチを三回連続でプッシュ。ドライバーに押し込むことで発動)

CW社が開発したフォートレスを始祖とする多武装プラットフォーム。元ネタはガンダムSEEDのミーティア。



胴体部の間へ入り込むようにしながら乗り込み、背中からジョイントに接続。

両手で操作用ハンドグリップを保持し、運用する。


ガジェットやラプターはもちろん”それ以外の集団戦力”が出た場合に備え、一対多数での殲滅・突破戦を想定し、準備したもの。

発動時は周囲の物質を分解する形で取り込み、形成される。そのため内部の弾薬も同じ形で補充可能であり、ライズキーを破壊しない限りは再生可能。

更にこの状態でのアクセラレイターも可能で、使いようによっては一個師団の瞬時殲滅も可能となる。


ただしその稼働にはナノマシンにより生成されたエネルギーと魔力、及びコアに内蔵され、発動時に装備される大型バッテリーを使用する。

最長運用時間は一時間と制限がついており、使いどころを見極める必要がある。

(もしもの日常Ver2020本編ではナノマシンも使えないため、アクセラレイターも封印状態となり、稼働時間も更に短くなっている)


・武装(ネーミングは元ネタミーティアを踏襲。というか、名前を付け直す時間すらなかった)

9.37cm高エネルギー収束火線砲
両側面に備えるビーム砲。主に連射力で威力を発揮するが、威力も十分。

6cmエリナケウス 対艦ミサイル発射管
9.37cm火線砲と併設される22連装×2基と、テールスタビライザー上部に備える3連装×3基からなる対艦ミサイル。
広範囲の標的を同時攻撃可能。エリナケウスとはラテン語で「ハリネズミ」の意味。

ウェポンアーム
ミーティア本基とフレームで繋がりMS側で操る武装モジュール。

6cmエリナケウス 対艦ミサイル発射管
アームの根本付近に12連装×2基で備える同名ミサイル。

12cm高エネルギー収束火線砲
アーム先端中央に備える大口径ビーム砲。魔力バッテリーによる恩恵もあって、その威力は戦艦装甲すら撃ち抜く。

MA-X200 ビームソード
アーム先端の上下に分かれた発生器から出力される、大型のビームサーベル。伸ばした中程で融合した刀身は戦艦の装甲をも一刀両断する威力を持つ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あむ「いや、戦艦ってなに! 大きさがモビルスーツと違うじゃん!」

恭文「イデオンソードに射程限界はないんだよ?」

あむ「怖すぎるやつだからね、それ!」


(イデは……発動しません)


あむ「でさ、ナターリアさんとりんさんが食べたカラシビ? 相当ヤバいの?」

恭文「ヤバいって……美味しさが?」

あむ「美味しさというか、中毒性……!?」


(現・魔法少女が見やるのは、陶酔した状態で揺れるりんとナターリア)


ナターリア「カラシビ、カラシビ……あああああああ……ナターリア、明日もイクヨ」

りん(アイマス)「そりゃそうだよぉ。毎日行っちゃうもんだよぉ。パクチーどっさりが美味いんだよなぁ……」

りん(アイマス)・ナターリア「「鬼増しパクチー全盛りー!」」

恭文「……ニューウェーブ系から生まれた辛うまなラーメンとしては、かなりの成功株だよ。海外に支店も出しているしね。
単純に辛いだけじゃなくて、ベースとしての味噌ラーメンもハイレベルだし、パクチーも含めて、具材も合っているしさ」

あむ「でも増しって……鬼増しって……」

恭文「唐辛子の辛さと、山椒の痺れ……それで味覚が麻痺しかけたところで見える世界があるのよ」

あむ「なに、その怖い話! ラーメンの話だよね! というか味覚麻痺はヤバいじゃん!」


(というわけで、長くなってしまったもしもの日常Ver2020もあと十話とかで……終わるといいなー。もうちょっといくかなー)
本日のED:Mrs. GREEN APPLE『インフェルノ』)


・ナターリア達の誕生日前日

志保(……フェイトさん達に邪魔されて行けなかったけど、シビカラの鬼金棒? そこに一人でやってきた。
恭文さん、ここの前を通りがかったとき『志保にはまだ早い』って子ども扱いして……。
確かに辛いところで有名らしいけど、極端な辛さにしなければ問題ないのに。そうよ、私だって……)

店員「はい――特製カラシビ味噌ラーメンですね! 辛さはどうしましょう!」

志保「えっと、両方増しで」

志保(…………って、私やらかした……! 控えめって言おうとしたのに、つい。
いえ、落ち着いて……落ち着くのよ志保。鬼じゃないんだし、そこまで極端じゃないはず。
むしろ増しを食べたら、恭文さんだって私を子ども扱いしないだろうし……)

店員「はい、お待たせしました! 特製カラシビ味噌ラーメンです!」

志保「ありがとうございます」

志保(…………あれ、想像以上に真っ赤……というか香りで、なんだか頭が熱くなってくるような。
いえ、とにかく……いただきましょう。これを食べきって、私だって楽勝ですってところを見せるんだから)

志保「……いただきます」

志保(両手を合わせて、麺をたぐって…………って、これ辛! いや、当たり前だけど……そっちは当たり前だけど、なんか違う!
びびって……舌がびびって! 山椒!? そう言えば山椒をここまでメインで食べる料理とか見たことないかも!
辛い、痺れる、辛い、痺れる……微妙に痺れが時間差で来るのが辛い! 増したせい!? 普通ならまだ大丈夫なの!?
というかこれ、食べきれ……いや、待って。箸休めにもやしやヤングコーンを合間に挟んでいけば……)

志保「……!?」

志保(……あ、なにこれ。
舌がびりびり痺れて、麻痺しちゃってる感じなのに……美味しい。スープもよく丁寧に作られた味噌だって分かる。
もやしも無味じゃない。甘い……野菜の甘さが感じられる。ヤングコーンなんてスイーツみたい。
それに麺も、小麦が……小麦の味がする! 私、麺を食べてここまで鋭敏に小麦を感じたの、初めてかも!
これは、なに……なんなの。私は一体、何を食べているの――!?)


(……そして、誕生日当日)

志保「カラシビカラシビカラシビ……今度はパクチーも試して……増しで、増しで……カラシビ……」

あむ「……恭文、志保さんがなんかおかしい。というかもしかして志保さんも食べに行ったの!?」

恭文「……カラシビの向こう側を知ってしまったか」

あむ「向こう側!?」

恭文「辛さと痺れで舌の感覚が麻痺するように感じるんだけど、実は逆。
そのためにスープや具材の味をクリアに堪能するゾーンがあるのよ」

あむ「あ……それ、なんかちょっと分かるかも。カレーとかで辛かったりすると、お米の甘さとか感じ取れるし」

恭文「それがある種の陶酔を呼び起こすんだよ。……だから志保には、葉っぱと粉の世界は早いと言ったのに」

あむ「言い方ヤバいよ!?」

恭文「大丈夫。小泉さんって女子高生の友達もそんな感じに表現してた」

あむ「誰それ!」


(おしまい)




[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!