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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第49話 『その日、機動六課/PART4』


嫌な予感がする。

”これ”を許しては、妹達のところへ……ドクターのところへは二度と帰れないという予感。

故に卑劣と知りながらも、相応の札を切らせてもらうことにした。


今回の現場管制を務めているクアットロに、素早く念話……!


”……クアットロ、聞こえているな! すぐ奴のデバイス機能を停止させろ!”

”今やってるわよぉ! でも無理……無理無理無理ぃ! アクセスそのものができない! 中身が丸々変わっちゃってるのぉ!”

”……ひと月近く六課を離れていたのは、このためか……!
ならば増援だ! ノーヴェ達を”

”そっちも連絡が取れないのよぉ! タイプゼロ・セカンドとFの遺産を捕まえる手はずだったのに……”


どういうことだ。

作戦が丸々バレているとしか思えん。それほどに奴らは、こちらの手際を見極め、的確に止めてくる。


”セインちゃん、聞こえる!? 今すぐチンクちゃんの救援に回ってあげて!
こっちも……妙な小バエに纏わり付かれて、手が回らないのぉ!”

”分かった! チンク姉、もうしばらく持ちこたえて!”

”助かる……!”


そうだ、何が何でも成功させる。ドクターの夢のために……妹達が笑って生きられる世界のために。

ゆえに聖戦……故に正義。それを姉が誇らなければ、妹達が迷い戸惑うのみ。

そうしてあの幼い子達に、世界の敵という罪を背負わせることなど、姉は決して認めない。


罪などない……姉達が勝てば、その正義を勝利によって示すことができれば……罪など、どこにも存在しない!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――変身!」


メタルクラスタジャスティスライズキーをドライバーに装填。更にメタルプレートを折りたたみ、スキャン部分も読み込んで三段階認証!


≪プログライズ!≫


閉じられたバックルが展開し、キーを読み込んでいく。


それに従い、荒ぶるメタルホッパー達がこちらに突撃……それを受け止めていく。

右腕を、両足を、胸元から両肩、背中を覆う金属装甲。更に額にはヘッドギアも装着。

私の戦闘機人モードを改めて発動すると、瞳と一緒に各部のスリットも金色に輝く。


同時にボロボロだったバリアジャケットも再構築され、黒色に変化……これで変身完了っと。


≪正義! 群体! 一致団結!
――メタルクラスタジャスティス!≫

――With a good heart, protect the free future――
(特別翻訳:正しき心で、自由なる未来を守り抜け)

「その姿は……」


私が身に纏ったバッタ……もとい≪ジャスティスセル≫の邪魔がなくなったことで、チンクは体制を立て直す。

だから、その驚きに満ちた瞳に……ここにはいないスバル達の気持ちも込めて、鋭く指差す。


≪The song today is ”REAL×EYEZ”≫


……あー、やっぱり音楽流れちゃうんだ。うん、ここはもう考えない。

なら、あれやらなきゃいけないんだよね。篠ノ之博士も推してたあれ……うぅ……恥ずかしいけど頑張る!


「……あなたを止められるのは、ただ一人」


とにかくありったけの決意を込め、左親指で自分を指差す。


「私だ!」

「馬鹿馬鹿しい……そんな、ヒーローごっこで!」


そこで次々と生まれる短剣。でも私は動かない……動く必要がない。

――胸部装甲を構築するメタルが分子レベルで分解……またバッタとなって飛び去っていくから。

それが鋭く、金属の杭のように再構築され、襲い来る短剣を爆風ごと撃ち貫く。


「だったら、あなたの目は節穴だね」

「まだまだ!」


そうして様々な角度から短剣が投てきされ、打ち込まれる。

だけどそれが射出し、私へ迫る前に……胸部や腕部、脚部……装着している装甲が同じように変化して、その全てを撃ち落としてくれる。


――このメタルクラスタジャスティスは、ゼロワンに出てくるメタルクラスタホッパーをなぎ君なりに再現実験した変身形態。


――メタルクラスタジャスティスは、精製した特殊金属を≪ジャスティスセル≫という小型ビットに変換。
それをブリッツキャリバーやドライバーの演算能力も駆使して、操作する……ただそれだけに特化したライズキーだよ――


フォーミュラの物質操作・変換能力をデバイスや私自身の演算でより高度に操作して、身に纏う特殊金属を精製。

それまた硬度や形状、その密度すらも操り、攻防に生かすってコンセプト……だったよね。

本来ならなぎ君みたいに、多武装とか発想の柔軟な子が使った方がいい武装なんだけど……だからリイン曹長もこういう形で作ったし。


でも、それを私のために譲ってくれた。本来のナノマシン形式が使えないからって、戦闘機人モードの出力を応用できるように、かなり苦労してね。

本当に、寝る間も惜しんで調整してくれて……またお礼をしないと。


――ジャスティスセルは、あくまでもギンガさんの戦闘をサポートするものと考えて。
使い方次第では腐らせるし、周囲にスバル達がいれば否応なしに巻き込む……今の僕には、これが限界だったから――


……限界だなんてとんでもない。

なぎ君は私の能力を拡張する形で、最高のプレゼントをくれた。


「く……ならば!」


だから、一気に並べ立てられた五十近い短剣にも対応できる。

動くことなく、なんの躊躇いもなく……ただ左手を上げるだけで。


「……ブリッツキャリバー」

≪――ロックオン完了≫

「施設爆破規模の数だ……これも防げるというのなら、やってみろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


――ジャスティスセル達が、短剣と同時に飛び出す……中間距離で短剣と衝突。メタルの杭となってそれを全て撃ち貫く。

そして発生する爆発。さすがに群体≪クラスタ≫もその衝撃と炎に煽られ、焼かれていく。

確かに今のままなら、私も爆風に巻き込まれて、ただじゃ済まないだろう。でも、忘れちゃいけない。


このクラスタ達は、今さっき……周囲の物質を変換した上で、私達が生み出したものだということを。


だから群体は現れる……また壁や床、近くの瓦礫などを次々砕き、それを糧としながら、セルが量産され、私の前に集まっていく。

それが爆風を……あの子の悪意を遮断する。焼かれていく仲間の灰を浴びながら、それを糧とし、支えるように爆風に抗う。

だから私の前には、ただ涼やかな風しか流れなかった。


……なぎ君が、セルの生産と操作能力に特化してくれたおかげだ。

ここにいろいろ武装の機能までつけ加えられていたら、私には間違いなく使いこなせなかった。

ひとまずは盾として……私の苦手レンジでもある中間距離を埋める刃として、使い方を限定したからこそできたことだった。


そうして押さえ込まれていた圧力が消えて……クラスタが壁を解除。私のアーマーとして再装着される。


「馬鹿な……」


そこには、無傷なあの子。爆発によって抉れ、焼け焦げた瓦礫の中で、あの子はぼう然としていた。

あの子を中心とした半径五十メートル……その真上の天井だけが砕け、空からあかね色が柔らかく差し込んでいた。


「この規模の爆発を、防ぐだと……! 貴様、何をした!」

「何をしたと思う?」


……それに対して、私は失笑していた。


「私もよく分からない」


いや、だって……本当に分からないの! 特撮モチーフの便利能力っていうのは分かるけど、さすがにね!?

なぎ君、どこでこんな滅茶苦茶な硬度の金属を精製できたんだろう! いや、むしろ篠ノ之博士に聞くべき!?


本当に不思議すぎて、実は足がブルブル震えてるよ! その手の分子力学……だっけ!? そういう話は専門外だし!


「で……爆発手品はこれで終わりかな」

「舐めるな……!」


するとあの子は髪を輝かせて、両手を開く。

周囲の物質がボコボコと音を立てて抉れたかと思うと、あの短剣が両手に生まれる。


(あぁ、やっぱりかぁ……!)


フォーミュラも仕込んでいるなら、そうくると思ったよ!

あの子の能力と相性抜群だもの! 実際腰のカトラスもそうして作った武装だし!


だからあの子はこちらに短剣八本を投げつけ……それをクラスタの壁で防ぐと、爆風に紛れて別の風が走り込む。

あの子は私の脇をアッサリと抜けて、その背後に……。


「金属を纏っているならちょうどいい」


そうしてあの子は私の背中に……纏っていた装甲に触れて。


「姉の力で、装甲諸共吹き飛べ! IS、ランブル」


――――その手が引き裂かれた。

あの子の能力を受けながらも分解し、突撃したジャスティスセルによって。


「な……!」

「……さすがに、その手は通用しないよ」


そしてジャスティスセルはイナゴの大群が如くあの子に食らいつき、その衣服を、肉を貪り……貪るように密集する。


「この、離せ……離せ……離せぇぇぇぇぇぇぇぇ! バリア……バリアァァァァァァ!」


あの子の意識的トリガーに従い、バリアは発生する。でも無意味……バリアは空くまで周囲にしか展開しない。

身体に纏わり付き、鼻や口を塞ぎ始めたジャスティスセルには、何一つ通用しない。


「あと、起爆はさせない方がいいよ?
……あなたがかけた能力、ちゃんと残っているから」

「――――!」

「でも大丈夫」


ライズキーを押し込み、瞬間フルドライブ――!


「宣言通りに終わらせる!」

≪メタルリボルバーインパクト!≫


あの子はもがく……もがいてもがいて、虫を払おうとする。触れて爆発も考えたみたい。

だけど無理……それ無理。全身を這い回る虫達はお互いが結合し、あの子の身体を閉じ込めるように縛っているから。

もう腰のカトラスにも手を伸ばせない。あのまま窒息死するのが待つ……それが正しい戦法なのだろう。


……だけど私は、左拳を構える。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ウィングロードをあの子の手前までかけて、一気に加速――!

それに合わせて、クラスタはまた一群を別に展開。円錐状のスフィアとなって展開していたバリアに突き刺さる。でもそれは殺すためじゃない。

生かして、間違いを突きつけて……そのために、邪魔な障壁が発生できないよう、私が突き抜けるための楔となってくれた。


「――――メタルリボルバー」


カートリッジも六発ロードし、込めた魔力を……スフィアに、あの子の土手っ腹に……そこまでの道のりを戒めるバリアに叩きつける。


「インパクト!」

「――――!」


スフィアは回転するようにしながら変形……私の拳と同化しながら、それ自体が巨大な拳となる。

それが込められた魔力と戦闘機人の力、更には彼女に纏わり付いたクラスタとも強く引き合い、内と外からバリアを破壊。






リ ボ ル バ ー イ ン パ ク ト



「ぁ…………」


そうしてようやく解放された彼女は、刺々しい拳から逃げることもできず、全身を撃ち抜かれる。


「……せい!」


そのまま拳を振り抜くと、メタルの爆風が弾け飛ぶ。

帯のように進んでいく銀の爆発。あの子は全身を引き裂かれながらも壁に叩きつけられ、砕き、叩きつけられ、砕き……。

それを繰り返しながらも二百メートル先……別のフロアに転がり、のたうち……停止した。


……それを見てようやく一息。クラスタ達をアーマーに戻した上で、ゆっくり……慎重にあの子へと近づいていく。


「ばか、な……」


あの子は意識も途切れる寸前で、力を地面に込めて……自爆することもできない。

ただぼう然と、信じられない様子で私を見上げるだけだった。


「こんな……ドクターの、我々の……夢…………が……聖戦、がぁ…………」

「……こんなことで叶えられる夢なんて、どこにもないんだよ」


本当に、嘆かわしい……ううん、純粋に悲しいと言うべきか。

この子のいる世界には、そんな当たり前のことを教えてくれる大人もいないのだと……私も、そうだったんだと、改めて刻み込む。


「夢は、顔も知らない誰かと繋がり、その人にも光を示すものだから。
……だからこれは、夢なんかじゃない」

「…………」


そしてあの子はがく然としながら、完全に気を失う。


「だから、もし機会があれば……いや、後だね」


きっちり拘束した上で、すぐに移動を開始する。増援を呼ばれているかもしれないし、距離を取って……それでなぎ君達と合流だ。




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ウェンディ達の裏切りに、更に増援追加。絶体絶命の危機に、スバルは戦闘機人としての力を発動。

そこに合わせる形で飛び込んできたのは……。


「スバル、よく吠えた」

「あ……」

「この際状況や力の差は問題じゃない。
……お前は精神的に、コイツらに勝ったんだ」


そう言ってきたのは、蒼い袴と銀色のスカートを翻すアイツだった……!


(そうか……ヴィータ副隊長を送り出したから、後を追ってきて!)

「恭文!」

≪迂闊ですねぇ……私達が援護に出ているのは知っていたでしょうに≫

「…………ディード、そのチビをやれぇ!」

≪ガードナー!≫


赤髪は叫ぶ。それこそが最大のダメージだと知っているかのように叫ぶ。

しかもスバルから奪ったキーをスイッチオンして、そのまま……いつの間にか取り付けていたライザーにセット。


だけど、ディードは動かない……というか、アイツも不敵に笑う。


「ディード、早くしろ!」


そうして二人は――あのワードを放つ。


「「変身!」」


その瞬間、リイン曹長は空色の光となり、かかっていたバインドやディードの刃から退避。

アイツはそれを静かに受け入れ、蒼と空色が混ざり合った螺旋の魔力を吐き出す。


「これって……」

「リインさんと、恭文さんが……」

「まさか、まさか……!」

「くきゅー!」

≪Eisen Foam≫


そうしてアイツの髪と瞳は空色となり、袴姿からバリアジャケットに変化する。

基本はリイン曹長のジャケットの色違い。蒼に染められたそれは、下だけ黒いスラックスになっている。

あとはアルトアイゼンに、ジガン、トイフェルライデゥング、眼帯っぽくなったファルケ……それら基本装備を纏い、魔力を羽根のように散らしながら融合完了。


そうだ。あれは……ユニゾンデバイスとの融合≪ユニゾン≫!


「リイン曹長、部隊長や副隊長達とするんじゃ!」

【そう……だからこれは想定外で奇跡の融合≪ドライブ≫。
リインと、アルトアイゼンと、恭文さんの三人で戦う……古き鉄の本当の姿なのです】

「まぁこんな雑魚相手に使うのももったいないけど、迷いが押し切られてもアレだったしねぇ……」

「……それがどうした!」


赤髪は驚きながらも、ライズキーのトリガーを引く。


「変身!」

≪フォーミュライズ!≫


強制解錠されたライズキー。それに伴い、周囲の床や天井がガタガタと分解され、赤髪を包むブラッドレッドのタイツスーツとなる。

その上から軽装のアーマーと、スバルが使いたがらなかった……CW社の手甲型装備≪ソードブレイカー≫を両手に装備する。


≪ナベリウスガードナー!
――Break Down≫


コイツら、本当に私達のキーでも変身できるんだ……! というかマズい! ソードブレイカーは接触したものを破砕する攻撃!

ようはスバルの振動破砕を技術的に再現したものよ! 対人・対物相手の破壊力は言わずもがな! あんなのに触れられたら、ひとたまりもない!


≪ChroStock Mode――Ignition≫


でもアイツは――なんの躊躇いもなく、二丁の銃を取り出し乱射。

ウェンディが自分に対して向けていた砲撃スフィアと、警告した赤髪の脳天をエネルギー弾でそれぞれ撃ち抜く。


砲撃スフィアはエネルギーの相互反応で派手に爆裂し……。

赤髪は咄嗟にバリアでガードしたけど、驚きの表情でアイツを見やる。


「てめ……いや、その前にディード! なにぐずぐずしてやがる!」

「…………」


罵られたディードは、何も答えない……いや、打ち震えるように剣閃を走らせた。


「あああああああああああ!」


私達を戒め続けるバインドを……ただそれだけを斬り裂いて、解放してくれた。

それに驚きながら振り返ると、ディードは……苦悶の表情を浮かべていて。


「ディード、なにしてんだ!」

「お前、姉妹なのに鈍いねぇ……」

「なんだと!」

「ディードが迷っていたことにも気づかないんだから」

【リインは気づいていたですよ。だから切れなかった……そのつもりにさえなれなかった】


まさかと想いもう一度ディードを見やる。

ディードは肯定するように、握りしめた刃をただ強く打ち振るわせて……。


「……私には、できません」

「ディード……」

「こんなことをされて……許すと! それでもなお本気で向き合おうとするこの人達を傷付けるなんて……できません!」


……そこで、心がひび割れる……その兆しが、刻まれた音が、小さく響く。


「てめぇ……戦闘機人としての使命を忘れやがったかぁ!」


赤髪が飛び出しかけたところで、アイツがグレネードを投てき。さすがに急停止したところで白煙が破裂する。


「殿は僕とリインが務める! ……シャンテ!」

「ほいほーい! エスコートは任せて!」


とか言いながら、ちっちゃいシスターが私達を引っ張ってくれて……え、時間稼ぎは!? 私達を避難させた後って感じ!?


「ちょ、アンタ……」

「話は後! とにかく急いで!」

「は、はい!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


スバル達は逃げる……いや、恭文はそこであえて踏み込んできていた。

だから慌ててボードを構えて、弾丸を連射。でも捕らえられない……この煙幕の中、こっちの射撃を容赦なくすり抜けてきてる!


「くそ、ちゃちい目くらましを!」


ノーヴェもガンナックルを……変身してもなお残っている元来装備の機構を生かし、黄色い弾丸を乱射。

でもそれは虚空を捕らえるばかり……。


「いや、これは……ちゃちくないっスよ……!」


サーチや各種反応…………駄目だ、全く映らない! この煙幕、やっぱりただの物理兵器じゃない!

戦闘機人のシステムを理解した上で、質量兵器を調整している! 協力者は……ギンガ・ナカジマか!


「出てこい! てめぇが妙な抵抗をしなきゃ、トーレ姉だって死ななかった! お嬢とアギトだって傷つかなかった!
アタシがこの手でぶち殺して、その罪を……てめぇという悪を精算してやろうってんだ! 大人しく出てきやがれぇ!」


だから、ノーヴェは背中から蹴り飛ばされ、地面になぎ倒される。


「が……!?」

「ならお前らが散々ぶち殺した罪は、どう精算するつもりだ」

「――!」


ノーヴェの背後に影……慌てて速射弾を放つけど、それは白煙を揺らめかせるだけ。適当な壁に激突する。


「そこか……逃げるんじゃねぇぞ……」

「本局の駐留部隊は」

「ぶち壊してやるからよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


ノーヴェが振り返り両手を伸ばす。でもそれは、ただ空を切るだけだった。

恭文は飛び上がりながら、両手の刃を……アルトアイゼンの新形態を鉄輝に染め上げながら、唐竹双閃。

フォーミュラの変身により構築された、特殊装甲やタイツスーツを容易く貫き……ノーヴェの両腕から力がなくなる。


「が……!?」


非殺傷設定を遵守しつつ、ノーヴェの装甲を抜いた……かと思うと、恭文は躊躇いなく刺突。

ノーヴェが装備していたライザーを、ライズキーごと抉り……中から刃を翻して両断。それによりノーヴェは変身を解除される。


「軌道上に待機していた艦隊のスタッフは」

「このぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


それでもノーヴェは両腕を振り回し、回転しながら右回し蹴り。

今度は左の刃が左薙に振るわれ、ノーヴェの足を容易く潰す。


「この地上本部の人達は」


一本足になったノーヴェは、それでもとエアライナーを展開。恭文に牽制しようとするけど……恭文は白煙の中で唐竹一閃。

エアライナーごと、ノーヴェに残された左足を断ち切り……ノーヴェは一時的にでもだるま状態にされながら、地面に倒れ込んだ。


「な……あああぁああぁあ…………」

「今までお前達の起こした事件に関わり、傷ついてきた人達は」

【リインも是非聞いておきたいですよ。一体どういう腹づもりで、こんな馬鹿なことができるのか……】

「まぁ”これ”を制御できていないスカリエッティもアレだけどねぇ」


恭文は罪を……私らのために生まれた痛みを列挙しながら、崩れ落ちようとするノーヴェの目目がけて右薙一閃。

ノーヴェから視界を奪った……それだけは、白煙の間から見えていて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


腕が容易く断ち切られた。くっついているだけで、スタン設定のせいか全く……なんの感覚もない。

ガンナックルと……タイプゼロ・セカンドから奪った装備も切り飛ばされて、更に足も潰されて……。

アタシは情けなく、ウジ虫みたいに地面へ這いつくばり、屈辱に塗れていた。


(違う、こんなの……こんなの、想定してねぇ……)


まず……アタシは、アタシの王様になる奴がどういう奴で、それが本当に信頼できる奴かどうか確かめたかった。

それだけじゃなくて、妹や姉達を……お嬢達を傷付けたコイツに、戦機としての強さを、正義を知らしめる。そのために訓練だってしてきた。

なのに、全く相手にならねぇ……歯牙にすらかけてもらえねぇ。まるで邪魔な羽虫を潰すみたいに、奪った必殺武器を掠らせてももらえねぇ。


しかもフォーミュライザーで身につけた特殊素材の装甲も……幾ら魔法が完全に消せないからって、容易くぶち壊された。

なんでだ……コイツはリミッターもかけて、アタシより弱い身体と力しかねぇんだぞ。

これじゃあ駄目だ。コイツは悪だ。コイツはアタシより弱いから悪なんだ。


だったらこんなことは間違いだ。コイツがむごたらしく死ななきゃ……アタシが弱くて、悪ってことになるじゃねぇか――!


(そんなことは、許されねぇ……)


必死に……芋虫みたいにみっともなくても、なんとか、強引に立ち上がる……。


(アタシ達は、正義だ。アタシ達を踏みつける全て……全てをぶち壊す、聖戦なんだ。チンク姉だって、そう言ってたんだ。
だったら、アタシ達は正しい、正しい、正しい、正しい、正しい、正しい、正しい、正しい――)


何度も何度も言い聞かせる。この怖い現実がぶち壊れるようにと、何度も言い聞かせる……そうして、力を振り絞って……。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


もう駄目だ! 余りに予定外のことが起きすぎている! ここで引かなきゃ、間違いなく……。


「お前らのお遊びで……たった数分で、一体何百人死んだと思ってやがる」

「ノーヴェ、逃げるっス!」

「うる……せぇ…………」


でもノーヴェは反論してしまった。

恭文はそれすら視野に入れての誘いだったのに、ノーヴェは踏み込んだ。

私らと違って外の世界も知らず、戦闘訓練も身内とだけしかしていないから……だから、単純に踏み込んだ。


「アタシらは戦機……アタシらは、姉妹とドクターのために戦う兵器……そうだ、アタシらの方が強い! お前らは弱い! だから……」


だからノーヴェは自分の身体をエアライナーに乗せて……牙をむき出す。

ただ一つ残された口で……恭文ののど元を食いちぎろうとして。


「弱いてめぇらが……弱いくせにアタシらを踏みつけてきたてめぇらが、悪に決まってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


でもそれすら無意味だった。


「――!」

「ふざけるな」


気づくと恭文は、ノーヴェの顎をエアライナーごと……あのナックルガードでぶち抜いていた。

顎がライトイエローの道と一緒に粉砕され、身体を打ち上げながら、頭蓋の中で脳をミキシング。


数百……数千という振動により、ノーヴェの視界は、意識は、一瞬途切れる。


「この宇宙のどこにも……こんなことを正当化できる道理は、存在しないんだよ!」

「…………く……くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


それを払うように……距離を取らせるように、弾丸を連射――!


「撃つな!」


でも恭文は素早く一喝。それでトリガーを引く意識そのものが停止させられる。

……恭文は、スカートの一部を射出していた。シザーアンカーらしきそれがノーヴェの身体を掴み、振り回し始めた。

それは私の弾丸を潰すための盾として、容赦なく利用される。そういう……警告だった……!


「ノーヴェ……!」

「まぁ殺してもいいんだけど、スバルやエリオ達の気持ちもあるからね」


恭文はそう言いながらノーヴェを振り回す。壁や天井にその顔面を叩きつけ、落ち着け、潰すようにこすりながら……そうして、私の脇へと投げ捨てた。

ノーヴェは脳天から壁へ激突し、埋まり……そのまま動かなくなって。


「さ、どうする?」

「本当に性悪っスね……! ノーヴェが駄目ならオットー! それが駄目ならって図式っスか!」

「先に人質を取ってきたのは、お前達だろ」

≪更にはスパイの件が……いえ、それ以前ですか。
これで六課は確実に終わりですからねぇ≫

「――」


その言葉に反論できなくなっている間に、恭文はアンカーを外し、スカートまで引き戻す。


「よっと」


そうしてまたグレネードを投てきする。

破裂したそれが、完全に部屋を白煙に包んで……最悪っス。


(視覚や機能に頼らない探知能力……気配を読める恭文は動けても、私は無理! このままじゃ本当に……!)


それで動けず、ひとまず壁に背を当て待ちの姿勢……それしかできなかった。

でもその瞬間、蒼い歪みに身体が囚われる。そうして眼前に、恭文が現れて……!


(引き寄せられた……!? これは)


終わった。

完全にしてやられた。

機動力を生かした短期決戦と強襲力は、恭文が持つ一番強いところ。


それは分かっていたのに、フォーミュライザーもあるからと……SAWシステムもあるからと、油断していたのが私達で。

それでスバル達を制圧したと、そう思い込もうとしていたのが私達で。

スバルも私達と同じ戦闘機人で、あれくらいのことはできるのに……なのに……!


「……歯を食いしばれ」


恭文は冷たい目で……私に、あの紋を…………そう思っていたら、甲高い音が響いた。


「え…………」


……自分が頬を、強くはたかれたのだと気づいたのは……数秒後だった。

痛烈な痛みを……赤く晴れたであろう左頬を押さえながら、恭文を見やる。


「お前のオパーイが……泣いているよ」


………………って、この期に及んでオパーイ魂理論っスかぁぁぁぁぁぁぁぁ!?


「まぁ泣いているのは、顔も同じだけどね」

「え……」

「そんな顔して戦われちゃ、面倒なだけだ」


……そうして気づく。

やっと気づく。間抜けなことに、今気づかされる。


「…………」


私はずっと、泣いていたんだと。

だからスバルは、あんなことを……私達を許すなんてことを、言ってくれたのだと。


「なんでっスか……」


それに気づかされた恨み辛みも込みで、恭文を睨み付ける……。


「だって、恭文は!」

「そうだね。お前達は選んだ」

「そうっス! 私は……私達は”コレ”をよしとした! もうどこにも引き返せない!」


ドゥーエ姉は、自分達を助けに来てくれただけじゃなかった。その罪の重さを理解した上で、踏み込めるかどうかを考えろと……警告に来たんだ。

それで私は、踏み込んだ。姉として、オットーとディードを助けたいから……危険を消し去りたいから。


そうして……自分の家族以外のみんなを! 死んでもいいって……私達に踏みつけられて当然のゴミとして扱った!

後悔してる! そんな道しか選べなかったことを! 絶望してる! そんな可能性しか家族に示せない自分に!

その可能性にすら至らないほど幼く、世界を知らない家族に……何もできない自分に……!


だったら、なんで……なんで……!


「それでも……お前には義務があるはずだ」

「義務!? 償う義務っスか! こんなことをして、償い切れるわけが」

「違う。……伝える義務だ」

「――!」


でも……恭文はそんなこと分かっていた。

だからノーヴェも殺さないで止めてくれた。私が誤射しないようにと止めてくれた。


「お前にも、ディードにも、オットーにも、家族に伝える義務がある。
お前達が見知ったものを……感じたものを伝えて、一緒に考える権利がある」

「だったら、恭文は許せるんっスか……! そうして幸せになることを、許せるって……許されるって言うんっスか!」

「理不尽が許されるときなんて永遠に来ない。お前達は一生、その問いかけに苦しみ続けるんだ」

「…………なんっスか、それ……」


それでも……心が、砕かれる音がした。


「なんなんっスか、それは――!」


私達は忘れることも、許されるというゴールに到達することもできない。

だけど……義務を、権利を放棄することもできない。本当に幸せを望むのなら、それを受け入れた上で進むしかない。

そんなエールを受けては、もう戦えない。私は戦えない。この人達と……この優しい世界と戦えない。


そんなことはできないのだと、涙をこぼし……膝を突き、両手を差し出す。

……その気持ちに嘘を吐くことで、妹達を傷付けた……私の罪を、裁いてほしいと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あの……シャンテちゃんに引っ張られて、更には幻影で時間稼ぎ……の必要はなかった。

恭文はノーヴェっていう子と、意識を取り戻したオットー……それにウェンディを連れて戻ってきた。

ただし三人にはしっかりとした手錠と、バインドをかけた上で。


「しかしおのれら……隙だらけにも程があるでしょうが。ああいうときは殺気を感じた瞬間に攻撃だよ」

「いや、どこの常識よそれ!」

「恭文さん、助かりました! いや、まずスバルさん……スバル課長ー!」

「私達、スバル課長に一生ついていきます!」

「ちょ、課長は荷が重い! せめて班長! 班長ー!」

「おのれら、僕に一生ついていくって言ってたのに……課長寂しい」

「タイミング的に仕方ないでしょうが……で」


そこでティアの視線が厳しくなって……いや、当然だ! だってほら、話さなきゃいけないことがあって!


「どういうことよ! システムが入ってないって!」

「その説明は後だ」

「はぁ!?」

「……とっとと出てこいよ。不意打ちできるほど器用でもないでしょうが」


そこで恭文が、右側の通路を……その影を見やる。

……そこで私も気づく。確かに……その辺りに、人の息づかいがあることに……!


『……!』


私達は揃って身構え、後ずさりながらもフォーメーションを組む。

……そうしてのそりと……黒いスーツ姿で、筋肉隆々な男が出てきた。


「さすがは古き鉄……この程度では隠れたことにもなりませんか」

「アンタ、確か……ムール・ランドリー!」

「自分のような三下を覚えていただけるとは、光栄です」

「オットーやウェンディの反応から追っかけてきたか」

「……ボク達は分かりやすいマーカーでもあったと?」

「爆弾が仕込まれているって話だったしねぇ。そりゃそうなるでしょ」

「ではお嬢さん、坊ちゃん方は下がっていただきたい」


……そこで気づく。あの人は殺気なんて出してない。

ただ私やティア……それに何より、エリオ達に慈愛の視線を向けていて。


「またこういう形で介入してくる蒼凪さんを、三下なりに上手く仕留める……それが自分の仕事なんで」

「そんな話が聞けると思ってるんですか……!?
というか、僕達にそこまで気遣えるような人が、なんで麻薬や犯罪なんかに手を染めるんですか!」

「シスター・シャッハのことだってそうです! 傷はなんとか塞いでも、まだ危篤状態で……本当に死ぬかもしれないのに!」

「……そうしなきゃ生きられない奴らもいるんです」


そこで銃声が響く。ムール・ランドリーは額を撃ち抜かれるけど……走った血も、穿たれた肉や頭蓋もすぐに再生する。

そうして細長い弾頭を吐き出し、問題ないと首をゴキゴキ鳴らして……口を開く。


その舌にはもう、例の麻薬があって……!


「親からの愛も、家族の温もりも知らない奴らです。本来マフィアってのは、そういう奴らの居場所になっていた。
その行動の善し悪しはともかく、そこで初めて人の繋がりを覚える人間もいるんです。
……自分がいない間に、その家族を潰されました。こんな麻薬を作って、実験台にしてくれたクアットロさんに。
そしてそれを追って、組織ごと潰してくれた蒼凪さんやナカジマ陸曹、108に」

「それは……!」

「自分は家族のために戦っていますが、それを正義だと言うつもりはありません。
……ただ、絶対に引けないものだという自負があるだけです」

『…………』


その言葉に、エリオも、キャロも、私達も何も言えなかった……。

だって、気持ちが分かるもの。私達は本当に運良く、良識的で、強く優しい人達に救われて、そのおかげでここにいて。

でもそうじゃなかったら、きっと……そういう想いはあって。そんな道を辿ったのがあの人や、その家族で。


だから痛感していた。この人の心を折ることはできない。それは、私達が戦う理由と……同じだから……!


「そうだね、そういうのなら僕も分からなくはないよ。僕だって家族がぶっ壊れて……先生がいなかったら、お前らみたいになっていたと思う」


恭文は構えた銃を懐に仕舞い、どこからともなく剣を取り出す。

それは黒塗りの鞘に、四角い鍔の……アルトアイゼンじゃ、ない?


「でもね……その家族を、居場所を守るために無関係な誰かを傷付けることは罪だ。罪じゃないはずがないんだよ」

「あなたも事件に首を突っ込んで、無関係だった俺やロビンさんの家族を傷付けた……何人かは殺し、再起不能にもしてくれた」

「だから言ってるんじゃないのさ」

「……!」

「そうだ、僕にも罪がある」


恭文は私達から離れる。


「そんな形でしか止められなかった未熟さ――。
そうしてお前やロビン・ナイチンゲールの心と命に、重たい影を落とした――。
その上で自分を優先して、今もこうしてお前達の命を踏みつけようとしている――。
他にもいろいろあるけど……僕は数えよう。それらの罪を数えよう」

【リインも数えるですよ。ずっと一緒なのですから】

「うん……ずっと一緒だ。そうだよね、ショウタロス」


知らない誰かの名前を呟いている間に、右に十数歩歩く。

それからあの……見たことがない刀を抜いて、半身に構える。


【「さぁ――」】


それも普通の正眼とかじゃない。左半身を向けて、刀の柄を引き……刃を顔に沿うようにした。切っ先は真っ直ぐ、あのムール・ランドリーに向いていて。


【「お前達の罪を、数えろ!」】

「ふ……」


あの人は笑った。とても嬉しそうに……納得がいったと言わんばかりに笑った。


「蒼凪さん、あなたは本当に……優しい人だ」

「さっき不意打ちした男に言う言葉じゃないねぇ」

「あなたも仕事だった。使命だった。なのに俺の家族を傷付けたことを、殺したことを”罪”だと……忘れてはいけないものだと言ってくれた。
……感謝します。その優しさに……そしてこんな逆恨みに対してすら、真正面から向き合ってくれる強さに」

「優しいって意味なら、おのれの方が過ぎていると思うけどねぇ。
……シャッハさんを殺すつもりなら、頭を潰すのが手っ取り早かった。
それに僕が合流する前からいたのに、何一つ手出しをしなかっただろ」

「え……!」

≪あなた達、デバイスとかの機能に頼りすぎなんですよ……≫


そのデバイスに言われることじゃないよ! でも、そうだ……この人の腕前なら、私達なんて容易く潰せる。

なのにそうしなかった。ただ、恭文を……恭文だけをと。


「……それはただ、自分が甘いだけですよ」

「だったら僕も甘いってことだ」


……そうして、二人は一緒に笑う。

一瞬……ほんの一瞬でも、二人は友達になれる。分かり合えるんじゃないかって、そう思えた笑いだった。


「「――!」」


…………でもそれは、一瞬で散らされる。

恭文は構えを研ぎ澄まし、ムールさんは両の拳を構え、ボクシングスタイル。

お互いに相手を一撃で屠る。そういう覚悟のもとに動いていて……私達が入り込めないほどの覇気をぶつけ、せめぎ合う。


だから素直に感嘆する。ユニゾンしているとはいえ、その領域に入り込めるリイン曹長に……!


「スバル、動くんじゃないわよ」

「分かってる……ウェンディとオットーも、駄目だよ!? 今動いたら、本当にどうなるか分からないから!」

「何もしやしないっスよ……! そこまでKYじゃないっス」

「同じく……」


これは、もう無理だ。


「これはもう、入り込めない」

「だけど、最後まで見届けましょう」

「うん!」


エリオの言う通りだった。私達には止めることも、別の解決手段を提示することもできない。

それにしては道を突き抜けすぎた。お互いに生き方を、想いを譲ることもできない。

そんな、不器用な姿がどこか悲しくて……だけど、どこか鮮烈に残る強さを持っていて。


……勝負は一瞬で付けられる。

人間の身体を豆腐みたいに引き裂く怪力と、刃すら通さない強靱な肌。

本来なら同じ麻薬でも使わない限りは勝てない相手だ。それくらいなら私でも分かる。


でも、恭文はたとえピンキリの下側だとしても、達人≪マスター≫の領域にいる魔導師。

それは単純に魔法能力だけの話じゃない。その技術が……突きつめた武術自体もまた、恭文が使う魔法だから。

それに恭文は言っていた。この人相手なら瞬殺できると。それは最初、この人が弱いせいかとも思った。


……それは勘違いだと、今は理解できるけど。

今見て分かった。この人も強い……鍛え上げられた肉体は、相応の努力を持って形作られたものだ。

そんな人を倒すのなら、恭文もまた必殺の刃を取り出さなきゃいけない。ただそれだけの話だった。


だから一撃……だから一触即発。

外法に手を出してでも、高めに高めた力が勝つか。

人を捨てるレベルで鍛え抜いて、研ぎ澄まし続けた技が勝つか。


「――起動(イグニッション)」


恭文の身体に蒼い光が迸る。でもそれは、普通の魔力じゃない。

いつもの魔法より違う波動が全身を走り、むき出しになった腕に幾何学模様が迸る。


「……」


あの人も拳を握り、身構える。

その一撃を受けて、その上で反撃する構えだ。AAAクラスのシスターシャッハですら傷付けることすらできないのなら、確かに可能かもしれない。

いや、それだけじゃない。恭文が飛び込んでくるのが分かっているから、攻撃が入るすれすれに、あの拳で押し潰すつもりだ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――――抜刀した乞食清光から学び、共感し、追想し、そして模倣していく。

刻み込まれた技術を……桜色の羽織が似合うその背中を追いかけるように、取り込むように。

それこそが僕の得意とする魔術≪憑依経験(インストール)≫。


投影魔術……魔力でコピー品を作るという使い勝手の悪い魔術から着装を得て、その構築工程を増やしたことがきっかけだった。

魔力から作る贋作は、側だけを似せたガラクタ。それも世界の法則的にずっと残り得るものじゃない。

わざわざ魔力を消費してそんなことをするなら、どこかで本物を持ってきた方が速い……実に当然のことだ。


だけどそこに可能性も感じた。物質変換だけでは到達できない高みを垣間見た。

故に突きつめた……通常の投影よりも行程を多くし、より詳細にイメージする。ただ単純なことを、赴くままに。

しかもそれはただ模倣品を作るだけに留まらなかった。武具に込められた想いや経験……それを読み取り、僕もまた取り込み模倣することができる。


この乞食清光を……”現存する宝具”を使っていたのは、かの沖田総司。元々は縮地もここから得たものだった。

今それが必要だった。模倣故に僕の技もまだ、三歩手前が限界だけど……それでも必要だった。

でなければ命を削ってでも、鋼よりも強い肉体を手に入れ、目的を達しようとする男に失礼だ。


迷いはある。でもお互いに譲れないものがある。あとはその背負い方だけ。

だからその迷いも受け止め、飲み込み……一歩を踏み出す。

迷いは捨てるべきなのだろう。戸惑いは払うべきなのだろう。でもそうはしない……それでは意味がない。


それらを飲み込み、受け止め、その上で踏み出す一歩。

背負うからこそ踏み出せる一歩。

一人じゃない……リインと、アルトと、ジガンと一緒だから踏み出せる一歩。


ずっと一緒だと……いつか描いた理想郷だった、小さな子達との約束。それを守り続けるための一歩。


僕が目指す強さは……その階は、その一歩に存在している。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二人の覇気が、殺気がせめぎ合う。じりじりと……汗が流れ、それが頬を、顎を伝い落ちる。

……それが地面で破裂した……そんな、音として聞き取れる何かが響いた瞬間だった。

数瞬、数秒、数分……あるいは数十分。そんな真っさらな静寂を打ち破るように、足音が響く。


【「一歩音超え」】


たった一度の音鳴り。


【「二歩無間」】


たったそれだけで……恭文は二十メートル近くあった距離を【消し飛ばした】。

魔法も使っていないのに……ただ一度踏み込んだだけなのに。一瞬であの人の懐に入り込んだ。

あの人も驚き目を見開く。でも腕は……プログラムされたみたいに、すぐ反応する。


懐の恭文を抱きかかえ、そのまま押し潰すように動いていく。

もう恭文に逃げ場はない。転送魔法でも使わない限りは本当に……だけど、恭文はただ前だけを見て、刃を突き出す。


【「三歩絶刀!」】


そして……光が三つ、同時に煌めいた。


【「――無明」】


恭文はバリアジャケットを……トイフェルライデゥングを揺らしながら、地面へと滑るように着地。


【「三段突き」】


たった一突きで、強化された肉体を真っ二つに貫いてしまった。

そしてあの人の胸から上は、自分を抱き締めるようにしながら落下する。

腹から下はそのままバタリと倒れ、血を垂れ流す。



……それ以外の箇所は、消し飛んでいた。

文字通り……肉体そのものが、刃を受けた瞬間に、血肉と一緒に消し飛ばされて……!


「なによ、あれ……!」

「見えなかった……ただの、突きのはずなのに……」

「くきゅ……!」

「――お見事…………」


恭文は……あの人の賞賛を背中で受けながら、刃を逆袈裟に払って納刀。


「それはこっちの台詞だ」


そこで恭文の二の腕が……背中側の生地が浅く裂ける。小さく、ピリッと……それは柔らかな肌も同じだった。


「ガン待ち戦法だった上に縮地も未完成とはいえ、こっちの踏み込みを見切って……微かにでも捕らえるんだから」

「縮地……では、今の突きは……」

「かの沖田総司が得意としていた三段突きだ。
これは”同一箇所に、全く同じタイミングで三発の突きを内包する”。
その矛盾が局所的に事象崩壊現象を引き起こし、ありとあらゆるものを破壊する一撃になるわけだ」

「……なるほど…………自分の肉体に対して、絶対破壊を……振りかざしてきたと……」

「相性ゲーは得意でね」


いや、なにそのチート! というか事象崩壊現象ってなに!? あとそれを魔法なしでできていたって恐ろしすぎるんだけど!

確かに武術も術とか言ったけど、想定外すぎるよ! 御神流もなんか凄そうだし……地球の剣術そのものがチートなのかな!


「実にいい……土産話が……でき、ました……」


……でも、ツッコむ暇はなかった。

あの人はとても満足そうに笑っていたから。負けたのに……これから死ぬのに。

本当に、幸せそうに……焦がれるように、恭文を見ていて。


「自分達の命は……安いものかも……しれません、が…………だが、それでも…………」

「……安い命なんてどこにもないよ」

「本当に、優しい…………方だ……」

「優しさじゃない。効率の問題だ」


だから恭文も否定する。

あの人の有り様でも、生き方でもなく……たった一つの、小さな勘違いを。


「クロスボーンガンダムDUSTって漫画があってね……そこの登場人物が言っていたよ。
……一人のパン屋がいたとして、彼が三十年で三百二十八万五千斤のパンを焼いたとする。
でもその彼がいなくなれば、それだけのパンが……数多の飢えを満たした彼の仕事が丸々消える。それはとんでもない損失だ」

「…………」

「お前がその口で言ったことだ。自分達は居場所で、家族でもあったと。
……だから、お前の命も安くなんてない」


…………あぁ、そうか……。


「…………ありがとう……ございます……」


恭文はやっぱり、なんとも思ってないんじゃない。ただ割り切っているだけ……ただ、重たいものを背負うだけだと、割り切っているだけ。

自分が奪った命も、貴いものだと……そんな可能性を秘めたものだと刻んでいるだけ。

忘れないように、逃げ出さないように、止まらないように……だからあの人も笑う。


軽くない……自分は軽くなんてない。たとえそれが傷だとしても、呪(のろ)いだとしても、そう信じてくれる恭文を……希望を見つけたから笑う。


「忘れないで……背負って、もらえるのなら……自分は、それだけで…………」


そうしてあの人は笑いながら、全ての鼓動を止めた。

ううん、とっくに止まっていた……ただほんの少しだけ、神様が罰を与えたんだと思う。


「……忘れようがないでしょうが。おのれみたいな甘ったるい奴」


……そうして恭文はもう一度息を吐いて、こっちに近づいてくる……。


「恭文さん……」

「場所、移動しようか。長居する状況でもない」

「……はい」

「……そうね。それに……邪魔するのも、なんだか可哀相だわ」


……ごめんなさい。ちゃんと……お墓にも埋めてあげられなくて。

でも、必ず……必ず後でちゃんとします。地上本部の人達にも協力してもらいます。


――第49話


それが、あなたの甘さに救われた私達の……せめてものお返しだから。



『その日、機動六課/PART4』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――恭文と一緒に、ウェンディ達を引っ張って地上本部の地上近くまで移動。

例のドンブラ粉がいつ来るかも分からないし、割りとビクビクしながら……でも、そのおかげか集中はきちんとできていて。


「それでアンタ、どういうことよ……システムを入れてないってのは」

「そ、そうだよ! ……また、誰か襲ってこないよね! 大丈夫だよね! 話していいよね!」

「本来なら現場で立ち話も厳禁だけど……まぁサクッと結論から言うよ?」

「うん!」


よかった! 恭文もこれなら今回こそ大丈夫…………言っていて凄く情けなくなった。

余り使わなかったナベリウスガードナーの供養も含め、もっと頑張ろうと思った瞬間だった。


「おのれらに入れたのは栄養剤だ」


ただ、そんな反省を吹き飛ばしたのが、恭文の明かした事実で……って、はぁ!?


『…………栄養剤!?』

「突貫でダミーの観測データを作って、システムにぶち込んでたんだよ」

≪生体データの観測さえできればいいわけですしね。
マッハキャリバー達からその辺りを計測し、送信していたんですよ≫

「ようは生体反応の常時認証だし、どうなるかとも思ったんだけどね? シャーリー達が頑張ってくれたのよ」


アルトアイゼンに頷きながら、恭文はマッハキャリバー達を返してくれる。

……一度手放してしまった相棒には、ごめんと言いながら……しっかりと首にかけ直して。


「だから六課ははやて以外、奴らの干渉を受けない……全くだ」

【なのはさんもフェイトさんともども秘密裏に、ナノマシンを抜いていましたからね。こっちも結構無茶してたので、大変だったですよ】

「で、でも私達……システム入れてから、動きがよくなって! なんか通じ合ってるーって感じで!」

「ですよね、リインさん! なのはさん達もそうですし、あの……シャーリーさんやリインさんも、私達がよくなってるって!」

【あぁ、それは……そうなのですけど……】


あれ、リイン曹長がめっちゃやりにくそうに顔を逸らして……いや、姿は見えないの。でもイメージできる声色だったというか。


「そうらしいね。プラシーボ効果全開だったって」


というか、恭文もそれに乗っかった。


「確かそれ、アシムレイトの説明で…………って、ちょっと……!」

【つまりはそういうことなのです】

「「「「ただの思い込みぃ!?」」」」

「マジっスか……! じゃあじゃあ、私は……オットーは!?」

「というか、私も……」

「おのれらも似たような形でダミー仕様だったけど、その手の効率上昇はなかったね。
……スパイ絡みでSAWシステムの本性を知っていたからじゃないの?」

「確かに、そう言われると……」


あぁそっか! 私達は何だかんだで受け入れる姿勢だったけど……ウェンディ達はまた視点が違うから!

いや、だとしても……だとしてもだよ!? 思い込みでパワーアップって……!


≪シャーリーさん達、半分呆れていたそうですよ? あまりにあなた達の動きがよくなったから……≫

「……スバル達、そこまでだったの? いや、ボクも……確かに凄いものだとは思っていたんだけど」

「でもでも、あり得るっスよ! アシムレイトがあの有様なら、スバル達だって」

「やめてぇ! もうやめてぇ!」


つい頭を……というか、みんなで恥ずかしさの余りのたうち回る! というかもう、そうするしかないよね!


「じゃあなによそれ! 思い込みで分かったような顔していたの!? 恥ずかし過ぎるでしょうがぁ!」

「私もです!」

「ど、どんな敵も一撃必倒とか言っていた自分が恥ずかしい……!」

「あ、更に言うと……今おのれらが持っているレイジングハートとバルディッシュもダミーだから」

「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」


かと思ったら、更にボールが……慌ててレイジングハートを取り出すけど、恭文はその通りと頷くだけだった。


「二人のデバイスも、僕が先んじて預かってたんだよ。
で、その二人も僕が脱出させたから、この救援の意味そのものがない」

「平然と言わないでもらえるかな! だったら私達、とんだピエロなんだけど! 完全に囮扱いなんだけど!」

「だからさすがに見過ごせないし、外も切り上げて追いかけてきたんだって……。リインもついているとはいえ、不安だったし」

「だから平然としないでよ! というかそれ、フェイトさん達も知っていたってこと!? 騙してくれていたってこと!?」

「敵を騙すにはまず味方からって言うでしょうが。
……結果的にウェンディも引っ込みが付かなくなった。
スカリエッティ達も決起の初手で重要戦力を多数確保され、計算が狂って大事故。
なので結果オーライって感じに」


とか言ってくるので、全員で恭文に跳び蹴りー! ついでにリイン曹長も中にいるし、問題なし!


「ぎゃぶ!?」

【……まぁ、こうなるですよね】

「そうですよ! できるわけないですよ! 返してください! 私達の信頼を! 純情を!
というか……もう素敵なレディになる前に責任を取っちゃってください!」

「キャロ、それは先輩としても止めるからね!? 犯罪だからね!?」

「そうよ! というか、ふざけんじゃないわよ! 発案者は誰!? 多分アンタなんだろうけど!」

「違うよ! シャーリーとシャマルさんだよ! 僕はむしろ事後に聞かされた被害者なんだよ!」

「同調した分際でよく被害者ぶれるわね! 謝りなさいよ! ガチ被害者な私達に!」

「というか、最悪っス……! 完全に手の平の上で踊らされていたとかぁ! 部活メンバーとしてもあるまじきミスっスー!」


ほらー! ウェンディももう……なんか立場がグダグダだけど、滅茶苦茶のたうち回ってるし!

というか、衝撃が大きいよ! 余りに大きいよ! 六課の裏事情よりこっちの方が気になるんだけど! というか、なのはさんー!


「まぁそこはシャーリーさん達はもちろん、フェイトさん達にもきっちり説教するとして……でも、僕はちょっと嬉しいです」


そうそう、嬉しい……え、嬉しいの!? この状況でエリオは……どうしてか笑い出して。


「だね」


それに同意して、恭文もその頭を優しく撫でてあげる。


「おのれら、システムなしでもそれなりってことだもの」

「はい!」

「……なによ、そのお為ごかしは」

「ホントにねー」

「でも、反論できないですよね。それでその中には……」


キャロの言葉に同意するみたいに、私達が見やるのは……やっぱりウェンディ達だった。

それでディードは、ツインブレイズを悔しげに握って……砕けんばかりに、握り締めて。


「恭文、実はギン姉が」

「そっちは予定通りの別行動。ギンガさんは動力炉を押さえに行ったんだけど……」

「ギン姉もグルかー!」

「そろそろ合流予定だよ」

「え!? ということは……」

「押さえに行ったところ、五番……チンクって戦闘機人と遭遇・打破。
今は引きずりながらこっちに来てる」

「チンク姉が……! ナンバーズの中でも腕利きっスよ!? ギンガでどうやって」

「初見殺しとメタ張りまくりって感じ?」


恭文が底意地悪く笑うと、ウェンディがまたぎったんばったん……あははは、いつもの調子に戻って、ちょっと嬉しいかも。

……ウェンディ達が……スカリエッティが行った理不尽を許すわけじゃない。でも、それでも……やり直せる道もないのは、寂しいって思うから。


「なので今のうちに……おのれらにはこれを」


そこで恭文が、マッハキャリバー達に続くみたいにあるものを……って。


「これ……恭文の」


バルバトスブレイカー、フラウロスチェイン、ゼロシキマルコシアス、ベリトクリエイター……恭文が使っていた四種のライズキーだった。


「あの、私のキーを壊しちゃったのとかは、気にしなくていいから! そこはもう、上手くやるし!」

「そうじゃない。……今までのライズキーは、デバイスともどもシステムダウンされる恐れがあるからね。
なのでバルバトスブレイカー達は調整して、その辺りの対策プログラムが入れてある」

「え……!」

≪エリオ君に渡したゼロシキマルコシアスも、出力を下げて、長時間変身できるようにしてあるの! しっかり暴れるの!≫

「あれを、長時間……あ、いえ! 調整なんて、そんな!」

「アンタ、これを準備するために……!」


……恭文、六課から完全に抜けたとか、見限ったとか……やっぱり、そういうわけじゃなかったんだ。

私達のために、自分用の……資材を投げ打って作った装備を調整してくれるなんて。それも自分用の新装備を準備する時間だって必要だったのに。


恭文の気持ちがこもったキーを、私も、ティアも、エリオとキャロも……しっかりと受け止め、抱き締める。


「――ありがと、恭文! これ、借りるだけ……大事に使って、ちゃんと返すから!」

「当然だ。さすがにただであげるとかあり得ないし」

「私、蒼凪課長にも一生付いていきますので! 素敵なレディになりますのでー!」

「キャロ、それはちょっと落ち着こう? いや、ほんとに……!」

「で、ディードにはこれ」


それで恭文は……ディードに言葉で飾り立てる必要はないと、一枚のライズキーと、赤色のライザーを渡してあげる。

ただしそのライザーは、銃じゃなくて短剣型。色もツインブレイズに合わせてか赤色だった。


恭文は右手を……ツインブレイズを握ったままの手を解いて、強引に持たせる。


「ドリームバエル――おのれのツインブレイズを強化運用するためのキーだ。
こっちはライオットフォーススラッシュライザー。おのれなら銃より剣の方がいいと思って」

「どうして、ですか……。だって私は……あなたは、疑っていたはずです! それなのに」

「天使ディードが変身するところ、見てみたくて!」

『こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

【やっぱり巨乳がいいですか……! というか、バエルってソロモン七二柱のトップなのですよ!? そこにあてがう時点でえこひいきなのです!】

「大丈夫大丈夫! 今回使う機会がなくても、出所したら……ね!? もう遠慮なく使ってくれていいから! それだけで僕は満足だから!」

「恭文、将来を見越しすぎて怖いから……ちょっと落ち着こうか! ね!? あと不謹慎すぎ!」


シャンテの言う通りだよ! ほんと……天使扱いで可愛がりすぎだからぁ!

見てよ、ディードも目を丸くしてるよ! こんなことがあり得ていいのかって顔で打ち震えているよ!


「嘘です……私は、天使なんかじゃ、ありません……。
こんなこと……本当に天使がいるとしら、やるはずありません……!」

「そうですよね! うん、これはディードさんが正しい! 恭文さんが悪いですよ!」

「えー」

「まぁそこについてはエリオに大賛成なんだけど……それでもアンタは、納得できない何かがあったんでしょ?」


ディードはキーを手放しかける……でも、ティアがそこで改めて手を伸ばして、ぎゅっと握りしめた。

それに驚いたディードがティアを……私達を見てきて。だから、大丈夫だよーって笑ってあげる。


「でもそれで辛い思いをさせたのは私達だから……一緒に戦えなんて言わない。
……それも含めて、アンタのやりたいようにやってくれていいから」

「ティアナ……」

「ウェンディも、オットーもそれは同じ。
ひとまずここでドガンってのはないのよね」

「……なんとか、処置はできたので」

「え、ちょっと待って。処置って……どうやって?」

「ロスコ部隊長代理でしょ」

「え……!?」


まさか、部隊長代理が……するとウェンディ達も、困り気味に頷いて。


「さすがに名前がふざけすぎだわ。クロスボーンガンダムに出てくるキャラなのよ?」

「……らしいっスね。あれは二番のドゥーエ姉っス」

「変身能力があるって言ってた……! なら、リンディさんが!」

「今、ロスコ部隊長代理と一緒なんです! このままだとどうなるか!」

「――なぎ君!」


……と思っていたら、左側の通路からローラー音が響く。

そこから走り込んできたのは、チェーンバインドを抱え、見慣れないヘッドギアやアーマー……それにトイフェルドライバーを装備したギン姉で!

しかもしかも、バインドの先には……戦闘機人!? 銀色髪で、エリオ達と同い年くらいの子だ!


……こんな小さな子も、ルーテシアちゃんみたいに加わっているなんて…………!


「ギン姉!」

「ギンガさん! よくご無事で……」

「みんなの方こそ……」


状況説明の必要はなかった。ギン姉は縛られたウェンディ達を見て、あらかたの状況に納得してくれたから。


「……大変だったね」

「……スバルさんや恭文さんがいなかったら、完全に終わってました」

「でもみんな、それなら事情は聞いているんだよね」

「私達が思い込みの激しいピエロだったって辺りから、まるっと……!」

「フェイトさんにも、シャーリーさんにも話し合いが必要です……! もちろんギンガさんにもですよ! 心配してたのに!」

「それについては本当にごめん! お詫びはきちんとするから! みんなもその覚悟だから!
ただ……今は移動しようか。この子も無力化したとはいえ、やっぱり危険はあるし」

「それなら、会議室の方です! あの……ロスコ部隊長代理が、二番のドゥーエという戦闘機人らしいんです! それが今、リンディさんと一緒に!」


エリオの悲鳴に近い声で、ギン姉もまさかという顔をする。対して恭文は……妙に渋い表情で。


「……ギンガさん、悪いけどそっちはスバル達となんとかして。僕は外の方に行く」

「分かった……っと、そうだ。
実はここへ来るまでに、六課に連絡したんだけど……通信が繋がらないの」

「え……」

「会議場の方も同じ。多分……動力炉を守り切れなかったせいだと思う」

「いや、それならさっきまでルキノさん達と」


ティアが改めて、六課に通信をかける……。


「こちらスターズ04……ロングアーチ、応答願います。こちらスターズ04……」

「あぁ、みんな爆弾が仕掛けられたから避難してるよ」

「は……!?」

「爆弾!? この状況でですか!」

「そうそう。おのれらへの通信は、移動用端末ごしだったから……さっきの通信履歴から直接返信しないと」

「あぁ、そうなのね。だったらそれは先に……」


そこで、私達に電流が走る――。


「いやいや、ちょっと待って!」

「そ、そうだよ! 爆弾……爆弾……!?」


あれれ、なんだろう。すっごく嫌なことを思い出したんだけど。

確かあの、鷹山さんと、大下さんの武勇伝の一つに……!


「「あ……!」」


エリオとキャロも……思い出すよね! ほら、六課の出張でお話したときだもの! そりゃあ思い出すよ!


「あの、なぎ君……ヴィヴィオについても保護の手はずを考えるとか、言ってたけど……まさか……!」


しかも、グルだったはずのギン姉ですら知らない!? さすがにあり得ないんだけど!


「……」


恭文は笑う。ただ楽しげに……とっても楽しげに笑う。

だけどそれは、とても雄弁に語っていた。私達はそれだけで全てを理解した。


やらかした……完璧にやらかしたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


(第50話へ続く)








あとがき

恭文「んぐ……やっぱり銀座 篝の鶏白湯は美味しい。しかもそれを池袋の地下道で食べられるというのが乙」

ヒカリ(しゅごキャラ)「ちょっとしたアングラな名店感があるよな。こういう時期じゃなければ行列必至なんだが……ずるずる」

志保「……大盛りを普通盛りに間違えられたんですけど」

恭文「レアだね」

古鉄≪レアですね。SSRですよ≫

志保「そんなガチャみたいに言われても……!」


(なお。池袋店です)


志保「でも、確かにこのラーメンは……濃厚だけどどんどん飲めるスープですし、具材も面白いですよね。
季節の野菜とか言っていましたけど、ミニトマトやヤングコーン……それにちゃんと野菜の美味しさが、スープにも合っていて……そう言えばトマトって」

恭文「ここのなら、鶏白湯スープと一緒に食べれば大丈夫。……次来たときは絶対冷やしにしよう」

志保「夏の間にまた、ですね」


(――なぜ恭文と志保が池袋にいるかというと、二十五日出荷のHGBD:R ウォドムポッドを買いにきたのだ。
なお、本日は六月二十六日。仮に売っていなくても、池袋の美味しいお店を食べ歩きしようという魂胆なのである)


恭文「というわけで、西口と東口のビックカメラを見つつ、最近ヤマダ電機本館に移転したガンダムコーナーにやってきたけど……」

志保「……かなり広々としていますね。というか、他のプラモなんかも置いてあるし、普通のデパートワンフロアって感じが」

恭文「まぁ半分はゲームや玩具関係だけど……それでもこのお店自体が広いからね。駅地下とも繋がっているし。
……それより志保、RG クロスボーンガンダムX1が二千円だよ! RG νガンダムも四千円だよ! どっちも五百円以上値引されてる!」

志保「目的を忘れないでください……! それよりほら、ウォドムポッドが……って、二〇七〇円? なんでRG クロスボーンの方が安いの」

恭文「やっぱり大きさじゃない? ウォドムポッド、HGサイズでもターンエーやνガンダム(フィンファンネル除く)より大きいし」

志保「そう言えばクロスボーン、十五メートル級でしたね」

恭文「でも移転しても、ちゃんと奇麗に立て積みだよー。
……RG フォースインパルスと一緒に」

志保「またRG……って、三千円……結構しますね。というか出ていたんですか」

恭文「今年の四月二十五日にね」

志保「わりと最近!?」

恭文「コロナ騒ぎの渦中だったからね……。印象が薄かったのも仕方ない。
ただほら、インパルスはシルエットとかの付属品も覆いから」

志保「そうでした……シルエットが意外と大きいんですよね。
……そう言えば恭文さん、同人版のガンプラバトル選手権ではインパルスも使っていて」

恭文「合体換装ギミックの活用は実に楽しかった……」


(今度はRGバージョンでやりたいです。いや、描写的に変化はないんだけど)


恭文「RGもとまかので扱ったときからまた変わったしねー。
最近はポロリも控えめで、アドバンスドMSジョイントは最小限に、KPSフレームが多く使われるようになったし」

志保「……だったら私も……いえ、今日は食べ歩きもあるし、さすがにこれも買うと予算オーバーだから……また後日に」

恭文「そういうときに限って、再販待ちになるんだよ……」

志保「経験を語らないでください……!」


(――お買い上げ、ありがとうございましたー)


志保「……無事に買えましたね」

恭文「作るの楽しみだねー」

志保「でも……さっきの篝もそうですけど、冷やしラーメンの限定を出すところが多いですよね」

恭文「大体今ごろから三十度越えするのが、基本になってきたしね……」

ヒカリ(しゅごキャラ)「冷やしラーメンはいいぞ……。何倍でも食べられる」

恭文「確かにねぇ。サッパリ系でひんやりできるし、冷やし中華ともまた違うし」

シオン「……お姉様は食べ過ぎだとも思いますが」

ショウタロス「それで腹壊してただろ、去年よぉ」

志保「……なら、ちょっと暑いですけど……歩いて、いろんなお店を見ていきますか?」

恭文「そうしようそうしよう。きっといい出会いがあるよ」

志保「だといいんですけど」


(そうして東口……サンシャインの方に。……それを尾行する影二つ)


フェイト(ふぇ……ふぇ……ま、待ってー! そっちはあの、ホテルとかがある方だよ! さすがに大人すぎないかな!)

タマモ(奥様、お静かに! 気づかれてしまいますから! 御主人様の気配探知能力、ご存じでしょう!?)

フェイト(でもあの、ホテルがあるの! ご宿泊、ご休憩っていうのが普通に! それは、早すぎると思うんだ!)

タマモ(なんでご存じなんでしょう、奥様……)


(その後、結局気づかれて四人で食べ歩きしたとかなんとか。
本日のED:北沢志保(CV:雨宮天)『絵本』)


古鉄(Ver2020)≪ここでとまと豆知識……もしもの日常Ver2020でのマスターもやっぱりゆかなさんが大好き。
ただ、世代が元祖本編より下になった関係か、ゆかなさんルートを開きたいとか言うよりは、ただただ憧れ続けるレジェンドとなっています。
その代わり自分と年が近い世代……雨宮天さんや伊藤未来さん、佐倉綾音さんに目が向いているようです≫

あむ「そう言えば、ゆかなさんルートなら頑張るとかいう狂ったことは言っていない……はず……!」

唯世「いや、それでもそっちの蒼凪君より七歳とか上の方々ばかりなんだけど……」

恭文(Ver2020)「早見沙織さんもいいよ! 歌がもう凄くて凄くて! ライブ行って感動したもの!」

あむ「落ち着けぇ! つーか鼻息が荒い! その圧力ファンの感情超えてるから!」

恭文(Ver2020)「確かに……よし、ご時世もご時世だし、お地蔵様的な感じにいこうっと」

あむ「あれ、なんか素直だ!」

唯世「いや、でもほら……やっぱり時勢が時勢だもの。さすがの蒼凪君でも気をつけるよ」


(おしまい)



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