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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第45.6話 『神様達の日常/PART2』


魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020

第45.6話 『神様達の日常/PART2』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――しかしフェイトの阿呆……引き取りにきたのにまた仕事って。しかも外回りって。

まぁ仕方ないけどね。正規局員で隊長ともなれば、フラフラもできないわけで。でもこっちのスケジュールもあるから、手早くやってほしかったのが本音だ。

こうなったらもう、至極丁寧なレクチャーなどできない。実戦形式で根っこから鍛えないと。


ただ、そんな予定変更の算段も、吹き飛ぶ話が飛び出して……。


『でね……ゼスト・グランガイツの遺体、なんか本局の方がなくしちゃったらしいんだわ。あははははははー!』

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


緊急朝会で部隊長代理がとんでもない話をしてくれて……!

しかもそれが、あの放送の前! 一週間くらい前の話だよ! だから三提督も圧力じみたことをしたって!

ようはレジアス中将を例のパノプティコンプロジェクトやらで威圧して、その辺りを有耶無耶にしようっていう政治的判断だ!


で、その結果がご覧の有様らしくて……!


「………………やっぱ遺体は燃やしておくべきだった」

≪なんでそうしなかったんですか……。いや、私もその場にいましたけど≫

「あのときは燃えないゴミの日だったでしょうが……。
あぁ、でも……今度は不法投棄もやむなしか」

「なら凍結処理とかどうでしょうか。凍らせて永久凍土に埋めておくです」

≪「それでいこう」≫

≪な、なのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのー!≫


肩に乗ったリインともども、そう告げるしかなかった。

せめてきちんとした葬式くらいはと、手心を加えたのが間違っていた。


既にゼスト・グランガイツは、都合のいい虐殺マシンにすぎないのに……!


「恭文、駄目だよ! リイン曹長も落ち着いてください!
いや、その前に表現が怖い! 倫理的にも怖い!」

「そうよ! あとゴミの日は守りなさい!? 環境問題への小さな一歩として!」

「課長、曹長! 僕も缶とペットボトル、更に蓋はきちんと分けるべきだと思います! 一緒くたに燃やすのも、凍結で埋めるのも反対です!」

「プラスチック、燃やすと臭いですし! 身体にもよくありません! 星にも優しくありませんから!」

「くきゅー!」

「「じゃあ宇宙に放り出そう」」

「「「「まぁまぁまぁまぁ!」」」」


そんなフラグを立てつつも、午前中はヴィヴィオの相手をして……そして、お昼に機動六課隊舎の駐車場に移動。

というか、フェイトの高そうな車を目印に集合。そうして暑い日差しを浴びながら思うことは、ただ一つだった。


「ヴィヴィオ、やるようになった……」

「出会って五時間も経っていないのに、ライバル顔はどうなのかな!」

「はいはい五月蠅い、露出魔五月蠅い……」

「私は露出魔じゃないよー!」

「フェイトさん、説得力皆無ですよ……」

「そうですよ。隊舎でスリングショットになりましたし」

「あれは私が悪いの!? 罰ゲームなのに……いや、罰ゲームだから!? そうなのかな!」


午前中、ヴィヴィオには僕が付いて、それはもうゲーム三昧。

ヴィヴィオはおとなしめながらのも飲み込みがよく、僕も何度か逆転を許してしまった。


というか……あれはある種の才能というか、性格というか……。


「でもヴィヴィオ、恭文さんという対戦相手がいないと、寂しがるんじゃ」

「風海さんもいるから大丈夫だよ。一人マンカラも覚えたし」

「ふぇ!? え、でもあれ、二人で遊ぶゲームじゃ!」

「だから、一人で対戦の流れやら、打つ手をシミュレートするのよ。詰め将棋やチェスとかと同じ」

「ヴィヴィオ、なんてハイスペックなことを……!」

「どうも突きつめて考えるのが好きみたいだね。それに目で覚えるのも早い」

「目ですか?」

「試しにチェスも教えてみたら、すぐに駒の動きを理解したのよ。
理屈じゃなくて、僕が”どの駒をどう動かすか”で大まかに把握してた」


最初はちょっと難しいかなとも思ったんだけど、全然そんなことはなくて……あれには驚かされたと、エリオとキャロにはお手上げポーズを取る。


「そのうちおのれらの魔法も、見て覚えるんじゃないの?」

「そ、それは嬉しいような、気恥ずかしいような……」

「私達、まだ参考にされるほどハイレベルじゃないしね。むしろ毎日教わっている方」

「くきゅー!」

「いや、その前に私としては、ホイホイ真似されるのが怖いよ! せめてなのはに相談の上でー!」

≪ママは大変ですねぇ。そこまで心配が必要とか≫

「……私は、どうなんだろうね」


アルトの軽口に対して、フェイトが困り気味に目を細める。


「ヴィヴィオ、自分に特別優しくしてくれる人が、ママだって認識があるみたいだから。
……あ、でもなのははそこから一歩抜けているというか、踏み込んでいるというか」

「それ、横馬もって認識でOK?」

「そうだね……うん、いろいろ考えるところはあるみたい」

「……あの阿呆は」


つい吐き捨ててしまった。

あの子がどういう事情を抱えているにせよ、離れることが……どこかに引き取られることが確定しているなら、それは痛みを伴うもので。

もちろんその場所にホイホイと会いにも行けない。なのははそれでよくても、まだ小さいヴィヴィオは混乱する。


引取先には本当のママという形で受け入れられるだろうし、それで別のママが頻繁に出入りするのは、決していいことじゃない。

少なくとも……ヴィヴィオにその分別が付くまでには、数年必要だと思う。

そうしている間に横馬もいろいろあって、もしかしたら家庭ができるかもしれなくて。そうしたらヴィヴィオのことだけに構えない。


もちろん教導隊の仕事だってあるし……とはいえ、ここから飛び出した僕が余り言えないことなんだけど。


「……くきゅー」


するとフリードがばさばさと、僕の頭の上に乗っかり……どうしたのよ、おのれ。


「フリード、励ましているみたいです。なのはさんのことを心配しているから」

「別に心配なんてしてないよ。現場で揉められても嫌なだけだ」

「大丈夫です。課長のお心は分かっていますので」

「えぇ。それはもう僕達……蒼凪課長には一生付いていく所存ですので」

「持ち上げつつサラッと流すな! 分かってない! おのれらは何も分かってない!」

「まぁまぁ……それよりシャーリー、まだかな。暑いしもう車で待ってようか」

「それは駄目ですよ! 前にそうして、車のバッテリーを干上がらせたじゃないですか!」


するとキャロからとんでもない情報が……フェイト、やはりおのれは。


「ヤスフミもやめて! そのやっぱりって目はやめて! 私はドジとか天然とかじゃないの!」

「なにも言ってないでしょうが」

「目で語ってたよ! うん、違うよ……その、ちょっと失敗することは多いけど」

「「「………………」」」

「……って、三人とも引かないで! 仲良く後ずさらないでー!」

「――――すみません! お待たせしました!」


すると、そこでシャーリーが颯爽登場。大きめの鞄を抱え、日差しを避けるようにとたとたと走ってくる。


「あ、シャーリー! ちょうどよかった……私、ドジじゃないよね! 天然じゃないよね!」

「遅れた分、しっかり働かせてもらいますので! ……あ、運転は私がやるから、三人とも安心してね」

「「「ありがとうございます!」」」

「無視しないでー! というか、心から安堵しないでー!」


いやぁ、僕が運転しようかと思っていたんだけど、まさかシャーリーが頑張ってくれるとは。

それならば安心だと、僕達は意気揚々と車に乗り込む。


「ぅぅぅぅぅぅ……私、もっと頑張らないと。うん、評価は自分で取り返すものだよね」


なお、ガッツポーズしたどこぞの阿呆が不安をかき立てるけど、それについては目を伏せることにしました……しました!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七十五年(西暦二〇二〇年)八月十六日 午後〇時四十五分

機動六課隊舎・隊員寮付近



――今日は外に出て、ヴィヴィオと海を見ながら二人だけのランチ。

とはいえ日差しはそれなりなので、木陰でのんびりと……都心と違って風通しもいいから、これだけで十分涼しい。

今日のご飯は色とりどりのサンドイッチ。たまご、ハム&チーズ、照り焼きチキン……結構多めに持ってきたから、私も、ヴィヴィオも大満足のボリュームです。


「あむあむ……あむ……」

「美味しい?」

「ん……♪」

「あぁほら、付いてる」


ヴィヴィオの口元がソースで汚れていたので、ティッシュで軽く拭いてあげる。


「こぼさないでね」

「うん……あ、ママ、あーん」

「ん……あーん」


ヴィヴィオから照り焼きチキンのサンドを一口もらい、しっかり咀嚼……うん、肉の味がジューシー。

なによりヴィヴィオのこのちょっとした優しさが、とても……心に深く響いて。


「美味しい?」

「ん、美味しいよ」

「えへへへ…………ママ、それ」


すると笑っていたヴィヴィオが、脇にあったポットを見る。


「給湯室で作ったキャラメルミルクだよ」


それを開けて、近づけてあげると……ヴィヴィオが鼻をくすぐり、ぱぁっと笑う。


「あぁ……甘くていい匂いー」

「うん。このサンドイッチを全部食べたら、デザート代わりのお楽しみだよー」

「うんー。はむはむはむはむ……」

「でもこのサンドイッチ、ほんと美味しい……」

「たまご、トロトロ……ハムさんとチーズさん、ふわーって幸せ……」

「うん、幸せだ」


私もサンドイッチを一つ一つ食べていくと、海が揺れ、心地のよい風が吹き抜ける。

今が夏だと忘れそうになるくらいな、幸せな爽快感。ほんと……影の力って大きいよね!

あとは地形!? 地形が大事だよ! コンクリートジャングルならこうはいかなかった!


「そう言えば、恭文君とはどうだった? 勝てたかな」

「えっとね、何回か勝てたよ。あと、チェスとか……リバーシも教えてもらった」

「凄いね! チェスなんてできるようになったんだ!」

「駒の動き、見て覚えられたから……あとは一杯考えて、動かすの楽しくて」

「そっかー。チェスやリバーシはやっている人も多いし、できるとお友達も増えるよー。大会だってあるんだから」

「えへへへ……♪」


でもヴィヴィオの年で……それも動きを見ただけで覚えられるなんて。

……フェイトちゃんやエリオが言っていたっけ。ヴィヴィオは年齢や記憶喪失という状態にしては、言語や意識がハッキリしすぎている。

誰かしらの記憶を転写させられたせいじゃないかって……もっと言えば、プロジェクトFの技術。


「……」


一瞬そのせいなのかなとも思ったけど、そういう邪推は飲み込むことにした。

今大事なのは、ヴィヴィオがゲームを楽しんでいて……それで広がる可能性に、目を輝かせていることだから。


キッカケはどうだっていい。だって、子どもなんだから。未来を夢見る気持ちがあるなら……それはいいことだ。

……シャマルさんから聞いた、しゅごキャラの話から……うん、そういうことを一杯考えるようになった。


「あのね、ママ……」

「うん?」

「なのはママは、本当のママじゃないけど……本当のママより、大好きだよ」


…………その言葉は、本当に嬉しかった。

だけど、私は……私はそれを、否定しなきゃいけなくて。


「……ありがと、ヴィヴィオ」

「ん……♪」

「でもヴィヴィオ、本当のママのこと、まだ思い出せないんだよね。
だったら……そんなこと言っちゃ、本当のママが可哀相だよ?」

「んぅ……」

「ヴィヴィオの本当のママ、きっとどこかにいるんだし。いつか急に思い出すかもだし」


それでもできるだけ、ヴィヴィオの優しい気持ちが傷つかないように……萎縮しないように、言葉を選んで窘める。


「……どこかにいるのかな……本当のママ」

「いるよ、きっと」

「なのはママが、本当のママならいいのに……」

「そうだね。私も、そう思う……でも」


……私には仕事がある。困っている人を助けるお仕事が。自分で選んだ道がある。

それを通さないと困る人達がいる。特に今六課は、わりと危機的状況だし。残っている部隊員達の中でも不安は根付いている。

だから……だからとそういう話をしかけるけど、それはグッと飲み込み……ヴィヴィオには笑って返す。


「でもね、本当のママじゃなくても……一緒にご飯を食べたり、遊んだり……大好きなお友達にはなれるかもしれないよ?」

「お友達?」

「そう。なのはママだって、チェスできるんだよ? マンカラだってあのルールならなんとかなりそうだし。
……だから、本当のママじゃなくても……ヴィヴィオがいつか本当のママのところに帰っても、ヴィヴィオに困ったことがあったらすぐ助けに行くよ」

「……本当に?」

「本当の本当」


大人の都合じゃない……ヴィヴィオと繋がっていく意味があるって、そういう道もあるんだって未来を示す。

……それが難しい道だと分かっていても、今は……そう告げるしかなくて。


「……あ、ヴィヴィオ……ほら、サンドイッチ最後の一個だ」

「あ、うん……じゃあ、ママと半分こ」

「大丈夫だよー。ヴィヴィオが全部食べて」

「いいから……はい」


ヴィヴィオはサンドイッチを分けようとして……無理だと判断したのか、あーんと差し出してくる。


「あーん」

「ん、じゃあ……半分だけあーん」


はんぶんだけ食べさせてもらい、ヴィヴィオが残りをしっかり食べる。

そうして仲良く……同じ幸せを分け合って、私達は両手を合わせる。


「ご馳走様でした」

「ご馳走様でしたー」

「……じゃ、早速お楽しみなキャラメルミルク、いってみようか」

「わーい♪」


……どうしてなんだろう。

この頼りなくて、か弱い子のことが、どうしてここまで気に掛かるんだろう。

命を、身をさらけ出してでも守りたいもの……その全てで愛し抜きたいもの。


十年前、リインフォースさんが天へ昇る直前に触れていたもの。あの言葉と表情が、その覚悟が……最近よく思い出されて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今のところ、ミッド以外の世界は平穏を保っていた。ただ目立った事件やテロが起きていないという意味ではあるが。

やはり人々の間にも不安がまん延し、管理局の体制に疑問を上げる声が増している。これ以上悪化すれば、ヴェートル事件以上の被害も予想された。

僕も次元航行艦隊……その一隻を預かる身として、各世界の状態観測に精を出していた……というより、今はそれしかできなかった。


幸い敵の動きがある程度落ち着き、崩れた体勢を整える時間ができたので、ロッサやなのは達にある程度任せることはできたんだが……。


『――』


クラウディアのブリッジ……その艦長席の端末に着信音。

アドレスを見て安堵すら覚えつつ、通信を繋ぐと……画面の中にロッサが現れる。


「はい。クラウディア艦長、クロノ・ハラオウンです」

『クーロノー。調子はどう?』

「余りよくはないな……。各世界の状態も爆発の三歩……いや、二歩手前と言うべきか。……定時報告か?」

『いや、いつもの世間話だよ。
例のヴィヴィオについて、こっちでも引取先を一応当たってみたんだけど……』

「どうだった」

『駄目だね、掠りもしない。ユーノ先生にも伺ったりして、いろいろ聞いてみたんだけどさ』

「こちらも同じくだ……。まぁ仕方ないこととは思うがな」


命を……心を持つ一つの存在を受け入れ、その子の衣食住を、精神を満たし、愛情を賭けて、育てていくんだ。

飽きたからと玩具のように放り出すこともできない。少しイライラしているからといって八つ当たりしても、結局その子が不幸になる。

そういう責任を持つということだ。親は……もちろんペットや使い魔を受け入れても同じだ。


僕自身親になって……フェイトとアルフや、グレアムさんとリーゼ達を見て、いろいろ思う部分のあったところだ。

特に、エリオについてはな。あれは大人のエゴによって生み出され、そしてそのエゴで捨てられ、一度心を砕かれているから。


「普通の子どもでさえ早々見つかるものじゃないんだ。ましてや複雑な事情がある子となると……背負う責任だって相応に大きくなる」

『不幸な子どもは後を絶たない……とはいえ、それで引き受けることを義務化しても意味がないから、難しいよね』

「そうして行き場をなくした子どもの姿を、フェイトやキリエ、イリス……あのルーテシアという子でよく知っている。だから……」


だからやり切れない……そう言いかけたが、さすがに失言だったと思い止まる。

なぜならロッサもまた、その特殊な事情で行き場をなくしかけた一人だったからだ。


「……すまない。浅はかだった」

『…………あぁ、なんだ。僕のことか。
僕もまぁ不幸って言えば不幸な身の上だけど、今の人生は実に充実しているんだ。気を使われてもきょとんとするだけだよ?』

「……あぁ」

『グラシア家に拾われて、育ててもらって……家名と能力を捨てることなく、それなりの仕事に就けて。
今はこうして心許せる友人や、可愛い妹分がいる。
……悩みの種はその妹分が生意気かつ悪党なのと、おっかない教育係がすぐに暴力を振るうことくらいでね……まぁ、どっちも死にかけてるんだけど』

「あぁ……違いない」


とはいうもの、やはり僕は浅はかだったよ。勝手に気にして、勝手に落ち込んで、君に気づかわせた。

こういうところが僕の駄目なところだと、改めて刻み込もう。……ちゃんと、払うべき責任を。


『でさ、実はそれと同時進行で……一つ調べ物もしてたんだよ』


深く自重していると、ロッサが声をワントーン下げる。


「調べ物?」

『ヴィヴィオの遺伝データだよ。もしかしたら聖王家由来の誰かと適合するかなーってね。
カリムの近くにいた信頼できるスタッフと、シャマル先生にも協力してもらって、こっちのデータバンクを漁ってみた』

「……一応聞いておきたいんだが、なぜそう思ったんだ」

『ヘリへの撃墜行動やら、楓さんの直感話もあるけど……あの子の目だよ』

「目?」

『あの赤と翡翠のオッドアイと髪色は……聖王オリヴィエと同じものだ』


つまり、本当に直感的なもの……聖王のゆりかごや聖王核≪レリック≫の話も出たから、ヴィヴィオも聖王家由来ではないかと察したわけか。

だが聖王オリヴィエと同じで、この話をし出すということは……!


「結果は、どうなったんだ」

『……三百年前に存在していた、古代ベルカ時代の人物と遺伝データがピッタリ適合した。
その人物の名は≪オリヴィエ・ゼーゲブレヒト≫。言うまでもなくゆりかごの聖王だ』


予想通りの……余りに残酷な現実に、つい吐息が漏れてしまう。


「全部、繋がったわけか」

『既にオーリス三佐とも協力して、聖王のゆりかごが保管されていそうな場所の探索は始めている。そう遠くないうちに絞れるはずだよ。
ただクロノ、仮にゆりかご浮上前にスカリエッティ達やその黒幕を止められたとしても……』

「ゆりかごは放置できない……。解体や破壊などが適切なのだろうが」

『状態によってはそれも難しいだろうね。なにせ全長一キロ以上の戦船だし』


単純にロストロギアを解体できるかというのが一つ。

破壊するしかないとして、キロ単位のそれをどうやって壊すかというのが一つ。

そもそも状況からして、まさか丸出しで放置しているわけでもない。恐らく山脈なりに埋まった状態で保全されているのだろう。


つまり大規模な破壊や解体は、周囲の地形や地盤、自然環境に甚大な被害を与えかねない。


『実際を見てからの話にはなるけど、もしも地上での対処が無理な場合は……ヴィヴィオに協力してもらわなきゃいけない』

「だがそれをすれば、あの子は自分が普通の子どもではないと知ることに……! それに、伝承では聖王オリヴィエはそのままゆりかごの中で」

『保護責任者である高町教導官の許可も必要だしね。
しかもその辺りが周囲にバレると、聖王教会や本局、地上本部も相当に五月蠅くなる』

「特に聖王教会は、信仰対象の末えいが突如現れたわけだしな……。君に言うのは嫌みになってしまうが」

『そこは大丈夫。手伝ってくれたスタッフも余波を鑑みて、今のところは内密にって話で纏まったから』

「だが時間はない……」

『楓さんのアレじゃあないけど、ここまで情報が揃ってるんだ。そろそろ誰かしらが気づき始める。
ヴィヴィオが保護されたときに大まかなパーソナルデータは取られているから、参照するのも簡単だしね』


……つまり、今ヴィヴィオをただ『普通とは違うところのある子ども』として引取先を探すのは、実質不可能になった。

ゆりかごとヴィヴィオは一揃えの兵器……そう扱えてしまう存在なんだ。だからゆりかごを処分しないと、ヴィヴィオは自由に夢を描くこともできない。

あぁ、処分しかない。あんなものを管理局の戦力として登用するなど、さすがにあってはならないからな。それに保管場所も思い当たらない。


しかしヴィヴィオにも相応のリスクを背負わせる可能性が……それを何とかしても、宗教問題に絡め取られ、現人神のように扱われかねない。

一人の親として、大人として、さすがにそんな状況は避けたいものだが。


「その辺りの宗教問題は……発生しそうなのか」

『例のすっぱ抜きで、聖王教会にも批判が向けられているからね……。ここでゆりかごや聖遺物流失の問題が出たら倍プッシュ。
それを取り返すために、ヴィヴィオを聖王教会で育て、新たなシンボルに……そういう考えが強まっても不思議じゃない』

「それはなんとか止めたいな……」

『まぁそこも事件が解決してからって話にはなるから……今考えるべきは、六課隊舎のことだね。
ヴィヴィオがそれだけ重要なファクターなら、いつどう襲われても不思議じゃないよ』

「だがこの半月は平穏そのものだ」

『それなんだけどさ、人造魔導師は周囲の魔導師やデータを無意識収集して、能力にする機能があったよね。
成長加速のためにすり込んだ暗示というか……もしヴィヴィオに同じ暗示がかけられているなら』

「なのは達のデータを収集して、戦闘兵器として強化するため……!」

『だとしたら、あとは襲うタイミングだ』


さすがに年単位で解散までということはないだろう。となれば……。


「……一つ、あるな」

『あるね。恭文とも上手く相談して、対処しようか』

「大丈夫だろうか」

『天災なら仕方ない……でしょ?』

「そうだったな」


やっぱり僕に必要なのは覚悟だった。現場のことはある程度黙認して、その詰め腹を切る覚悟だ。

それについてはもう整えるしかないので、何も言わないが…………あぁ、もう一つあったな。


「……」

『どうしたの、クロノ』

「これをなのはとフェイトに伝えるべきかどうか、迷ってしまった。特になのはには……」

『それは、伝えておいた方がいいんじゃ…………伝えたら揉める感じ?』

「かなりな」


フェイトやエリオ達の話を聞いていると、彼女はヴィヴィオに……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七十五年(西暦二〇二〇年)八月十六日 午後四時十八分

首都クラナガン湾岸部 陸士第67部隊・捜査部



私から言いだした外回りだけど、その流れはあまり……よろしくなくて。


「――では、今度も相互連絡を密にしていくということで」

「えぇ。何か分かりましたら」

「失礼します」

「「「失礼します」」」


けんもほろろに最後の捜査部から出て……軽くため息。


「じゃあクラッドさん、またよろしくお願いします」

≪私達の方にも情報、たっぷり頼みますよ?≫

「えぇ。蒼凪さん達もお気を付けて。……なにせ最近のミッドは物騒ですし」


そして廊下の影に隠れて、頭を抱える……!

その間にも話は続いているのに。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――サリエルさん達と108のナカジマ三佐から伝言です。
やはり例のエアリス・ターミナル、相当怪しいようですよ」

「サリさん達も無事だったか……」

「歴戦のマスターコンビ、未ださび付かずって感じですね」


クラッドさん……元々顔見知りの人なんだけど、金色オールバックの頭を撫でて、困り気味に呟く。

そうして見やるのは、周囲で忙しなく働く同僚達。


「若い連中にも見習わせたいですよ」

「そりゃ駄目でしょ。僕達は結局まともじゃない……一時凌ぎはできても、先への維持ができないんですから」

「そう言ってくれると、十把一絡げな自分達にも意味があります」


そう……僕達はやっぱりまともじゃない。ヒーロー扱いされることも多いけど、それでも一番凄いのは、まともに頑張っている人達だ。

穏やかで当たり前に思える平穏を、それが下地となる経済や生活を、その流れを守り、先に繋いでいこうとするんだから。


「……とにかく108が中心となって、エアリス・ターミナルへの内偵も進んでいます。
オーリス三佐からも専従捜査班の独立戦力として、あなたへの協力を惜しまないようにと要請を受けています。なので何かあれば我々に頼っていただければ」

「ありがとうございます」

「ただ、本当に気をつけてください。どうも昼間、本部の方で爆発があったらしくて」

「あー、ここまで回ってきたところでも言ってましたよ。だから地上本部も今は出入り禁止になっているって」

≪これは明日にならないと帰れませんかねぇ……≫

「それも困るんだけどなぁ。つーか……どうやって本部に爆発物なんて」


そういう人達の頑張りや願いも、決して無駄じゃない……ちゃんと続いていくものだと、なんとか証明できればいいんだけど。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ほんと、どうしようかと打ち震えていると、ヤスフミもこちらにやってきた……。


「――――いやぁ、しかし地上の方はいろいろ進んでいるみたいだねぇ」

≪ホームグラウンドですからね。しかもレジアス中将や自分達がコケにされて、打倒本局に燃えていますし……って、フェイトさんはどうしたんですか≫

≪なのなの。次は中央本部に行かなきゃいけないの。しっかりするの≫


とりあえず、立ち上がって……みんなで一旦外に出た上で、大きく……大きく深呼吸をして……!


「……仕方ないって分かってくれるかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


なんで平然とできるの!? 私達には滅茶苦茶事務的なのに、ヤスフミに対してはあの調子って! しかも笑顔だったよ!? 私達には無表情なのに!

しかも私達がすぐ近くなのに切り替えてくるから、さすがに衝撃だよ! どこもかしこもこの調子だから倍プッシュってやつだよー!


「仕方ないでしょうが……おのれら、揃って嫌われ者なんだから」

「はっきり言わないでー!」

「おのれについてはシステム導入推進派だったでしょうが。それで被害者面はどうなのよ」

「ぐ……!」


いや、でも私としては上手く仲裁を……それも駄目!? 駄目だよねー! だって真っ暗だもの!

あの放送だって、私達は見ていて凍り付いたんだよ!? ロスコ部隊長代理は……。


――あははははははははははは! やりおった! やってくれおった!――


……なんて大笑いしていたけど! その結果がご覧の有様だよ!


「ただ恭文さん、フェイトさんの言うことも分かりますよ?」

「政治の問題が、私達ヒラにしわ寄せというのは……フェイトさんだって管理職ではありませんし」

「戦線から遠退くと楽観主義が現実に取って代わるってことだ。
そして最高意志決定の場では、現実なるものはしばしば存在しない……戦争に負けているときは特にそうだ」

「……後見人や上層部は、そもそも現実を見ていない……夢の中にいるようなものってことですか?」

「TOKYO WARでもそんな話が出ていたよ」


――私達は中央に向けて、車に乗り込み移動開始。なお運転はシャーリーが……私は、ハンドルに触らせてすらもらえない。私の車なのに。


「荒川さんって人が……柘植が所属していた組織の仲間だった人がさ、言ってたんだよ。
不正義の平和と戦争の差はそう明確なものじゃないってさ」

「不正義の平和、ですか……」


車は街を走る。あっちこっちで武装局員や特殊車両が駐留し、街を見張る……厳戒態勢だけど、日常を刻む街を。

その光景はどこか他人事にも見えてしまった。私達は車という世界の中で、現実から隔離されているようで。


「この世界も地球と大して変わらない。今でも内戦はどこかで続いているし、核の問題だって上手く隠されてた。
でもそういう嘘も経済活動の一つとして行い、制御しているのが平和の中身……戦争への恐怖に基づく、なりふり構わぬ平和。
正当な対価を余所の誰かに支払わせ、そのことから目を逸らし続ける不正義の平和」

「……それでも、戦争に正義があっても……それが正しいこととは僕には思えません」

「後藤さんもそう言ってたよ。……そうしたら荒川さんが、その正義の戦争と不正義の平和の差について触れてさ。
端に”戦争でない”という消極的で空虚な平和は、いずれ実体としての戦争によって埋め合わされる……そう思ったことはないかと」

「たとえ平和でも、それはある種の夢……幻想のようなもので、現実で踏み荒らされるってことですか?」

「現に誰もがモニター越しにいて、その成果だけはしっかり受け取り知らんぷり。ある意味神様みたいなもんだ。
しかも何もできない神様……そんな神様に現実を知らしめようとしたのが、TOKYO WARという事件だった」


それはヤスフミも……ううん、もっと強烈に見えていたのだろう。

それでも人は走って、いろんな流れは血液のように進み続ける。止まれば街そのものが、経済という社会という基盤が死ぬ。だから必死に走っている。

……でもそれは、戦争という現実から……その欺瞞を他人事として、誰かにツケを払わせているがゆえではないかと、痛烈に批判していた。


ううん、それは……多分その、荒川さんの言葉で。


「神様かぁ……実はね、ちょうどロスコ部隊長代理とアルト達がそんな話をしてたんだよ。
機動六課も対策部隊で基本待ちの姿勢だから、街の状況や駐留部隊の苦労も他人事だなーって」

「僕も最近……というかこの街の様子を見て、あのときのことをよく思い出すよ」

「なら、ヤスフミは? それでも特車二課第二小隊の人達と戦ったんだよね」


だったらヤスフミは、たとえ拙くても……幼くても、答えを出して”正義の戦争”を打ち破ろうと、そう決意したことになる。

だから気になって問いかけたら……。


「それについては内緒」

「ふぇ!?」


なんかズルい逃げ方をしてきたんだけど! 一体どういうことかな!


「まぁ言ってもいいんだけど……」


助手席に座るヤスフミが見やるのは、私の隣……神妙な顔で街を見るエリオとキャロ、フリードだった。


「二人はまた考えたいみたいだしね」

「そう、ですね。結局、それでも平和が踏みにじられるのは嫌だとか……そんなことしか言えないかもしれないですけど」

「でも、私達は”現実”にいます。ううん、いたいと思うし、それから逃げたくないとも……思うんです」

「くきゅ!」

「……そっか」

「エリオ、キャロ……」


それで二人とも、また街を見やる。

この光景を忘れないように。自分を神様たらしめるフィルターを砕こうと、必死に……真剣に。

それは成長。それは二人が甘えた子どもから抜け出しつつある兆候。


二人にはもっと、子どもらしい安全な生活をって……そう考えていたから、それは少しだけ心配。

でも、それなら……。


「だったら、私も……話したいな。まぁこれから地球には向かっちゃうけど」

「フェイトさん」

「もちろん、二人が頑張っていることとか、頑張りたい理由とか……私自身の気持ちも含めて、ちゃんとね」

「「はい!」」

「くきゅるー♪」


二人の頑張りたいって気持ちを……この街に住む人間として向き合いたいという気持ちを、大切にするために。

それで私達なりに、”奇跡”を起こすために。


「よし、だったら中央へ向かう前に、ちょっと寄り道しちゃいますか。ちょうどエリキャロもオフシフトですし」

「寄り道って……シャーリー」

「アルトが教えてくれたんですよ。二人も大好きな卵料理の美味しい店が、行きがけにあるって」

「あ、それはいいかも。じゃあ、ちょっと早い夕飯を食べて、元気を出してって感じに」

「「はい!」」


まずは以前ヤスフミが教えてくれた通り、言葉と気持ちを交わして、考えていきたいと思います。

……私だって今回は無茶をするし、心配も……一杯かけちゃうしね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


同時刻――機動六課隊舎 食堂


現在、機動六課は比較的暇を持てあましていた。でもそんな中、衝撃が駆け抜ける。

そのためバックヤードやロングアーチ、フォワード……立場の違いは抜きに、食堂は食事時を前にして騒がしくなっていた。


「一、二、三、四……い、石は……なくなりました……!」

「はい、じゃあヴィヴィオの石は、全部ゴールに……」


ウェンディが最後の種石をゴールに運んだことで、ヴィヴィオは……溜め込んでいた十数個の種石を自分のゴールに。

その数は倍近く見えるけど、一応数えていくと……ふむふむ。


「……やっぱりヴィヴィオの勝ちだ」

「ありがとうございましたー」

「ありがとうございました。
……悔しいっスー! また負けたっスー!」

「凄いねヴィヴィオ! もう六連勝だよ!」

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

「えへへ……♪」


はい……恭文君が持ち込んだボードゲームです。


最初ヴィヴィオは、詰めマンカラで渋く時間を潰していた。それはもう集中して、楽しげだった。

ただ余りに……六才児としては余りに渋い過ごし方なので、私も今日の仕事をぱぱっと終わらせ、一緒に遊ぶことにした。

それで盛り上がっていたら、同じく手が空いたスバル達がやって来て、一緒にやり始めた。


そうしたらあれよあれよという間に、この状況は仕上がっていた。

場所を隊員寮から食堂に移し、手すきのみんなが興味を示して参加して、更に加熱した結果が……これだよ!


「でもこのゲームは……シンプルですがよくできている」

「雛見沢でもいろいろやらせてもらいましたが、ゲームは奥が深いです」

「そう言えばディード、ブラックジャックにハマっていたっけ」

「カウンティングの要素には世界が引っ繰り返る思いだったから」


なお、熱が入っているのは、基本的に冷静なオットーやディードも同じだった。

ヴィヴィオの隣で、即席のボードを作ってプレイングしているんだよ……!

基本的に四十八個の石と、それを分ける四つの穴、ゴールの大穴二つがあれば、どこでもできるゲームだしね。準備は楽だった。


なお、他のみんなもそれに習い、あっちこっちの卓でプレイしていて……。


「四番目のポケットから、一、二、三、四、五……」

「ちょ、ヴィータちゃん! 待った! それはちょっと待った!」

「部隊長代理がなに情けないこと言ってるんですか……。つーかヴィータちゃんとか今まで言ったことないでしょ」

「だから待った!」

「それで待つわけねーですよ。つーか待ったらパワハラだ」

「ぐぐ! それを言われると弱い……」


部隊長とヴィータちゃんは待っただなんだと楽しげに石を動かし……って、補足が必要か。

ロスコ部隊長代理は目が悪いから、石の数とかを触って、記憶して……普通にプレイしているの。ヴィータちゃんも手伝いつつね。

でもよくできるなぁと思うよ。杖なしで普通に歩き回っているのもそうだけど、やっぱり凄い人だ。


「く……シャマルさん、石の動かし方が嫌らしいですぜ」

「これでも最後衛だもの。これくらいは……できなきゃ、いけないのに……私、勉強し直そう……!」

「アグスタのことで反省するのはいいですが、後にしてもらえますか? 飯がかかってますんで」


シャマルさんとヴァイス君も……って、飯がかかっている!? 賭け事でもしているのかな! 後でちょっと問い詰めないと!


「でも、ヴィヴィオにこんな特技が……いや、言っていることおかしいですけど」


ティアは驚くやら呆れるやらで、またスバルとゲームを始めて、笑うヴィヴィオに注視する。


「その辺り、なのははちょっと反省してるんだ」

「反省ですか?」

「こういうふうに、ヴィヴィオが好きなこととか、楽しいこととか……遊んで一緒に探そうとしていなかったから」

「それは、なのはさんもお仕事がありますし……というか、そのお仕事で手間をかけまくっているのが私達なわけですし」

「ん……だから、考えるんだ。あの子にはそれができる……温かい居場所と家族のところへ、送ってあげたいなって」

「なのはさん……」

「今の状態も、決して健康的で正常とは言えないしね」


多分恭文君もその辺りを予測して、ゲームを持ち込んできたんだよ。ここが陸の孤島でもあるから。

……まぁ昼間、サンドイッチを食べていたときにも思ったけど、私には仕事がある。責任もある。

あの子を引き取るとしたら、それなりの調整だって必要だよ。今まで通り好き勝手も難しい。


アイナさんみたいなハウスキーパーに頼りつつになるだろうけど、それでもヴィヴィオに寂しい思いだってさせる。

もちろん……家で何かあったとき、いの一番に駆けつけるのも難しくなる。病気とか、事故とか……事件とか。

そう考えていくと、私があの子のママになるって、相当無茶なんだよね。決して奇麗事や、一時の感情でやっていいことじゃない。


あの子が私といて、私を選んで後悔するのも嫌だし……って、おかしいよね。まるで私、あの子と家族になりたがっているみたいで。


「……まぁでも、今のところは安定していますし、それはいいことですよね」


ティアは何か察したらしいけど、あえて深くはツッコまず……ひとまず、ヴィヴィオが楽しそうで何よりと纏めてくれた。

正直その素っ気なさが……そう見えるくらいの気づかいが、とても心地よくて。


「それにマンカラ、ですっけ? それを教えたのも……特別な道具とかいらないですし」

「そこはもう、感心しています。あのボードだってやりやすいーってだけだし」

「アイツ、なんでそういうところは気が利くのに、私達に対してはアレなのよ……!」

「それについてははやてちゃんや後見人の人達に、相当ムカついたからだよ……。あの中継を仕立てた時点でよく分かるよね」

「完全にすり潰す覚悟でしたしね……! オーリス三佐も引っ張り出したし!」

「あの子はね、基本的に悪党なんだよ……!」


まぁいろいろ気づかってもらってあれだけど、そこの評価は変わらないよ!

普通あり得ないからね!? 提督や将校クラスとの会議を中継に持ち込んで、堂々と恫喝するとか!

というか、あれくらいできなきゃヴェートルの英雄とか言われる活躍はできないのかな! 核爆弾とか止められないのかな!


だとしたらなのは、まともじゃない役人にはなれないって自負できるよ! そこまでぶっ飛べるものは内にないもの!


「……あれ、なのはちゃんとティアナちゃんはやらないの? マンカラ」

≪もうみんな盛り上がってますよー≫


すると風海さんと海月が、脇から……って、海月もプレイしているの!?

魔法能力をデバイス側から発動して、石を動かして……また器用なことをしているなー!


「あ……ついヴィヴィオの様子に魅入って。今日始めたばかりとは思えなくて」

「ゲームもそうだけど、それを通してみんなに関われるのが嬉しいんだよ」

≪みんなとお友達になれる感じなんですよね。ヴィヴィオちゃん、いい笑顔です≫

「……はい。それはもう……」


だから……その笑顔を守れるように、全力を尽くしてって、そう思う気持ちは変わらなくて。

いろいろ難しいところのある子だけど、幸せになってほしい。あの笑顔がずっと曇らない、そんな道に進んでほしい。


それが今の、切なる願いだった。


「…………ん、ちょっと待った」

「だから待ちは……って、通信ですか」

「本局の警備部からだ。
はい、カーティス・ロスコですが………………はぁ!?」


……いろいろ決意を固めていると、ロスコ部隊長代理が慌てて席から立ち上がる。


「レオーネ相談役が、亡くなった!?」

『――!?』


そして機動六課は、また嵐に飛び込む……飛び込むしか、ない状況に陥った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


シャーリーが教えてくれたお店までもう少しというところで、隊舎から通信が届く。

そうしたらその内容が……! 一旦車を脇道に止めて、詳しく事情を聞いてみる。


「アルト、どういうこと!? レオーネ相談役が亡くなったって!」

『先ほど、本局警備部からロスコ部隊長代理宛てに連絡があったんです!
どうも相談役はレジアス中将や六課……つまり私達と話すため、内密に地上入りしていたらしくて!
でも地上本部の地下駐車場から外に出ようとしたところで、突然乗っていた車が爆発して……そのまま、運転手もろとも」

「車が爆発……!? ヤ、ヤスフミ!」

「……地上本部でテロが起きたって下りか。じゃあ爆弾かなにかで?」

『それも現在調査中! とにかく爆発で遺体もなにもあったもんじゃなくて……地上本部も監視カメラやら渡航履歴から、ようやく判別したらしいの!』

「それで出入り禁止かぁ……。私達は入れるかどうか微妙かなぁ、これ」


シャーリーもハンドルにもたれ掛かり、やや疲れた顔で漏らす。……と同時に、ヤスフミを心配そうに見てきて。

あぁ、そうだよね。ヤスフミは顔なじみでもあって……それが、明らかに事件を疑われるやり口で殺されて。


「なぎ君……」

「あんま落ち込んでいる暇もないよ。その辺りは墓参りに行ったらやる」

「……そうだね。このままミッドに閉じ込められると、いろんな予定がパーだ」

「アサガオの観察日記も付けているし、毎朝のラジオ体操も頑張っているし……」

「恭文さん、本当にやってたんですか……!」

「夏を満喫していますね。宣言通り」


エリオ、キャロ、そこは感心するところじゃないよ! というか高校生ってそれはアリなの!?


「仕方ない……フェイトさん、個人転送でぱぱっと向かっちゃいましょう。許可はこちらで上手く取るので」

「それで、大丈夫かな」

「この話が伝わる前だった……つまりはそういうことです」

「うん……」


そういう悪辣さも必要と後押しされるも、つい困り気味に俯いてしまう。

やっぱり……当初予定していたものや、描いていたものとは大分違うなって。


「というわけでアルト」

『大丈夫です。そう仰ると思って、この通信は私の個人端末からかけてますし』

「ありがと」

「でもエリオ、キャロ、ごめんね。これだとご飯が……」

「なら、祝勝会でどーんと食べる感じに」

「デザートも山盛りにしましょう!」

「くきゅー!」

「うん……それも、約束だ」


こうして私とヤスフミは、その場でエリオ達と別れて……コッソリ首都の外へ移動。

その上でミッドから出ていく。予定通りに……予定外に。


レオーネ相談役という重鎮が倒れたことで、ミッドは、管理局は、更に混沌としていくのに。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


西暦二〇二〇年(新暦七十五年)八月十九日

東京都豊島区≪池袋≫ 蒼凪家付近



レオーネ相談役の一件は気になるけど、それでもまずは装備調整から。

夏休みもあと十日ほどだから、急いで準備しないと……というか、私のせいで急ぐことにー!

ただ……それもクロノやアコース査察官が整えてくれた上、篠ノ之博士という凄い人により迅速に終わって。


六課に入る絡みでデチューンされたバルディッシュ……その真の姿は≪ホーネット≫。

私はストライクカノンのような質量兵器を使う技量はない。というか、不安が大きくて迷ってしまう。

だからこそシグナムにもアドバイスをもらって、魔法で戦いを制する……そういう気概と鍛錬は積んできた。今のバルディッシュはその集大成。


元の姿に戻ったバルディッシュは今までよりワンサイズ大きめで、白の装飾も混じるカラフルボディ。

今回は片刃のブリッツセイバーを構え、フォーミュラ用の調整を施したバリアジャケット≪ブレイズX≫を身に纏う。

このジャケットは魔力バッテリーを備えて、万が一のときにはバリアを発生させる防御機構付き。


それだけなら以前のバージョンと同じなんだけど……その辺りのテストもしなきゃいけないと思いながら、池袋の空で佇む。


「――変身」

≪CrossBorn Foam≫


目の前にいるのは、同じく新調した装備をセットアップするヤスフミで……。


トイフェルライデゥングは色を銀色に改め、ちょっと大型化した……というか、面積が広くなった?

それでもコートの上から、腰に装着するのは代わらずだし。



あ、でも……左胸にアーマーが。心臓を守るためかな。クリスタルが……どうしてか骸骨なのが不吉だけど。


「――――えっと、本当に初手で撃っていいの?」

「結界はしっかり張ったから問題なし。こっちもちょうど仕上がったジガンをテストしたいからね」

≪なのなの! ジガンは頑張るの!≫


それでお互い、新調した愛機の性能テストのため、夜の空に浮かんで……でもジガン、小型化したような。

四つの穴も空いているし、大型のカートリッジスロットも外れている。あれは一体。


「……分かった」

≪Blast Javelin≫


ブリッツセイバーのバルディッシュは、私の手の内で形状変換。

両手でも、片手でも使える片刃剣は、一瞬でその得が新調。両刃の槍に変化した。

足下に魔法陣を展開し、カートリッジを三発ロード。ホーネットジャベリンの切っ先を中心に魔力スフィアを凝縮。


その周囲に展開した環状魔法陣がターゲッティングと魔力制御をサポート。しっかり……真正面に狙いを定めた上で。


「ファイア!」


意識でトリガーを引き、砲撃を放射――闇色を突き抜ける私の色。

それに対してヤスフミは、両手をかざすように構えて……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


改修したジガンは、今一つ出番がなかった形状変換やら、暗器の仕込みは排除した。

カートリッジもギンガさんのリボルバーナックルと同口径のリボルバー式に変更。

それもこれも、防御の中心となる”盾”部分に重きを置いたから。手首外側の可動軸を中心に、ジガンのシールド部分が稼働。


それはメリケンサックのように拳の前に来て、中心部に埋め込まれたクリスタルを輝かせる。


「――ジガンスクード・リストゥエール、ゲシュマイディッヒモード」

≪なの!≫


クリスタルを中心に生まれるのは、光の波。

二機のシールドから広がった波は繋がり、交差し、僕の前面をドーム状に守る壁となる。

本来であれば僕の魔力出力で、フェイトレベルの砲撃をまともに防ぐことは不可能だ。だからこそ剣戟や速度、魔法テクニックでの対処が必要となる。


……でもそれは、単純な力比べに限ってしまえばという話だった。


「――!」


蒼い光の波に砲撃が着弾……いや、触れる直前で一瞬留まり、砲撃として固められた魔力が分散する。

放射された魔力が突き抜けようとするたび、光波が波打つ。分散した雷撃達は無数の雨となって、放物線を描きながら次々と街に着弾する。


……結界の中じゃなかったら、大惨事だけどね!


「な……!」


砲撃を放ったフェイトも驚き、更に魔力を注ぐ……でも無意味……全くの無意味!

結局フェイトはこちらの守りを崩せず、ただ結界内の建造物を無数に破砕しただけで、ジャベリンとなったバルディッシュを下ろした。


「束」

『魔力消費、予想圏内。ジガンちゃんの状態も異常なし。
これなら施設爆発規模の砲撃もなんとかなるよー』

「一分以内に終われば、でしょ? ……やっぱ逸らしているだけだし、常時これでOKにはできないな」

『もちろんそれはね。魔力消費もちょっと大きいし……それに今のも、予想より弾が逸れていない』

「電撃魔力の関係だね。展開した磁場が乱された」

『だから使いどころが肝腎だ』


――新しくなったジガンには、ガントレットとしての通常防御に加えて三つのモードを搭載している。


ジガンのサポートで効率よく防御魔法を展開する≪マギーモード≫。

シールド部分の稼働を生かし、ブランドマーカーとして攻撃に使用する≪マーカーモード≫。

そして今使った……光波シールド表面に発生させた磁場で、攻撃を歪曲させて逸らす≪ゲシュマイディッヒモード≫。


ゲシュマイディッヒモードは、ガンダムSEEDに出てきたフォビドゥンガンダムの防御システムがモチーフ。

魔法で再現できないか前々から実験していてね。それをデバイスの処理も絡めて、より強固にしたのがこれだ。

ゲシュマイディッヒモード使用中は、見ての通りエネルギーや実弾による射撃攻撃も……もちろん近接攻撃も逸らせる。そこは実戦で実証済みだ。


僕がフロントアタッカーとして、味方を守る側になる場合の盾。そこに得意な複合装備としての能力も持たせたのが、新しいジガンだ。


……とはいえ、このゲシュマイディッヒモードも万全じゃない。

システム的にサポートされているとはいえ、魔力消費は通常の防御魔法より大きくなる。リミッターがかかった状態じゃ十五回くらいしか使えない。

次に連続稼働は魔力消費以前にジガンへの負担が大きい。特に排熱関係が問題で、四十秒が限界。


それで一番の問題は……あくまでも科学的原理に基づいた防御方法だから、それを無視してくる攻撃には無力ということ。

特に霊的な存在……しゅごキャラやサーヴァントみたいな存在には、そもそも磁場なんかで捕らえられないしね。

そうそう、今のテストで、電撃系攻撃への受け止め方にはまた一工夫必要ってのが出たか。


もちろん僕の戦闘スタイルとの相性もあるし……だからあんまり頼りすぎもアウト。あくまでも選択肢の一つってのは忘れないようにしないとね。


(とはいえ、今回についてはバリバリにメタれるんだけどさぁ)

「私の砲撃を……リミッターありとはいえ、まともに受けられるの……!? どうやって」

「企業秘密ってやつだ」

≪ChroStock Mode――Ignition≫


次はアルトの番。

アルトは上下二連の大型ハンドガンとして、僕の両手に収まってくれる。

これも新形態……というか、元々搭載していた奥の手でねぇ。


≪どうも、新しい私です≫

「次はこっちから行くよ……アルトアイゼン・ロイヒデン!」


クロストックアルトを素早く構え、魔力弾を乱射――。

フェイトは素早く反応し、左に回避。直ぐさま右のアルトを振るい、自動変形。

銃身が真ん中から中折れし、先端部はハンドガードが如く拳の前に来る。そのまま開いた銃身内部から、量子変換された鋼色の刃が展開。


それを素早く背中に回し、背後からの斬撃を受け止め流す。

フェイトはバルディッシュをブリッツセイバーに戻し、こちらの背中を斬り裂こうとしていた……でもさすがに遅い遅い。


「変形武器……!?」

「あえて封印していたのは、そっちだけじゃないってことだ」


驚いている余裕はないと、左のアルトを向けて、フェイトの胴体に弾丸連射。

フェイトは下がりながら幅色の魔力刃を盾にして、弾丸を全てガード。


そうして視界が防がれている間に、改修したトイフェルライデゥング……もとい≪フルドレス≫の右サイド前面の装甲をパージ。

長方形方のそれから折りたたまれていたクローが飛び出すので、右ソードアルトを掴ませた上で鋭く投てき――。


フェイトはそれを切り払い、こちらに最高速で踏み込んでくる。一瞬で間合いを詰める動きに対し、左のジガンでゲシュマイディッヒモードを展開。

普通に避けるのも問題はないんだけど、今回はテストも込みだからね。きっちり使用データを取っておかないと……。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ゲシュマイディッヒモードにより生まれた光波……それは片刃の魔力刃を捕らえ……斬り裂かれた。

仕方ないのでジガン本体で受け止め、フリーになった右手を握り締め、ジガンもマーカーモードに展開。


「さっきの逸らす攻撃、近接なら問題ないみたいだね!」

「本来は問題アリだったんだけどねぇ。おのれ、電撃魔力使うのやめてくれない?」

「無茶言わないで!?」


……そう話を逸らしたところで、胸部のハートアーマー……そこに埋め込まれた骸骨型クリスタル≪リストゥエールコア≫にエネルギーを収束。

これはジガンに埋め込まれているものと同じで、心臓などの急所を保護するための装備なんだ。ただ、これについてはまた幅があって……!


≪……Sir!≫


バルディッシュがエネルギー変化を悟ったけど、もう遅い。

リストゥエールコアは、その骸骨の瞳を中心に強烈に発光。至近距離でフェイトの目を焼き、その視界を、その思考を一瞬でも奪い去る。


「……!?」


ジガン表面の穴≪スロット≫から蒼い魔力を放出。

それは研ぎ澄まされながら十字の紋となるので、フェイトの刃を流しながら土手っ腹にボディブロー。


≪Defenser≫


フェイトは下がりながらもバリアで防御……が、鉄輝同様に研ぎ澄まされたブランドマーカーは、そのシールドを容易く貫き、抉る。

バリアジャケットから展開した別のバリアによってマーカー自体は防がれるけど、そのまま殴り飛ばして距離を取らせる。

続けてリストゥエールコアに再度エネルギーを収束線至近距離のショートバスターとして放ち、物理バリアを撃ち抜き更に下がらせる。


とはいえこれで砕けるほど軽いものじゃなかった。まぁこっちとしては安心だけどさぁ。


「え、撃たれた!? 今のなに! まだ目が……というかこれはアリなのー!?」


そのまま右のジガンを元の位置に戻し、展開したままの”ワイヤー”を掴み、引き戻しながら右に振るう。


≪……Sir!≫

「え……!」


本来ならシュヴァンツブレードと同じ特殊粘性合金製のワイヤーなので、わざわざ手で掴んで動かす必要はない。

しかし魔力を伝達させ、刃を打ち上げるのであれば……その軌道を変則的に変えるのであれば話は別。


振り回される右のクロストックアルトは、その刃に鉄輝を纏わせ……。


「鉄輝一閃」


フェイトのジャケットが展開したバリアを、空間そのものを両断する。

フェイトは咄嗟に刀身でアルトを捌き、なんとか上へと跳ね上げる。

……そこを狙ってフルドレス後部のシュヴァンツブレードを射出。


退避コースを左アルトで乱れ撃つと、シュヴァンツブレードは雷鳴のような呻りを上げながら、フェイトの右下から迫る。

フェイトは視界を徐々に取り戻したのか、咄嗟に飛び上がって回避。更に自分の周囲にプラズマランサーを八発展開。


「プラズマランサー……ファイア!」


これも回避して…………駄目なんだよなー! 一応多弾生成の弾丸への対処も、データを取らないと!

仕方ないので左腕でゲシュマイディッヒモードを展開――射出されたランサーは全て逸らして、脇に飛ばす。


「――ターン!」


でもプラズマランサーについては、射出後の方向転換が可能。


(ランサーのみならず、誘導弾の類いにも言えることだ。気をつけておかないと……)


僕を取り囲むようにランサーが再射出。


≪Sonic Move≫


その上でフェイトが、再び最大加速で飛び込んでくる。いつぞやの模擬戦よりもずっと鋭く、そして強く。


(……当人は気づいてないんだろうなぁ)


母親のためだなんだと面倒を背負い込んだ上で戦ったから、足が引っ張られていたって。

この馬鹿は刃と同じだ。抜き身で、ただ馬鹿みたいに研ぎ澄まして、突っ走っている方が強い。

これなら予定していたプランもいけるかもしれない。そう考えながらも、打ち込まれた斬撃を左のゲシュマイディッヒモードで受け止める。


ただし止めるのは魔力刃じゃない。それは無理だとさっき証明されたからね。

あえて一歩踏み込み、大型の鍔を……バルディッシュそのものを光波で受け止め、脇に逸らす。

フェイトと僕は一瞬で交差。しかし刃が返ってくるので、バク転しながら回避――。


≪……魔力刃で頭を切り裂かれる可能性もあったのに、踏み込みますか≫

「それができるから、ヤスフミは強いんだよ……!」


フェイト目がけてシュヴァンツブレードを射出。まぁそっちは見切られているから、容易く切り払われるんだけど。

でも右のアンカーは……接続したままのアルトはまだ生きている。


「でも、私だって!」

「……その前に下だね」


――シュヴァンツブレードをオートで引き戻しながら、アンカーを……展開したワイヤーを逆風に振るう。


「……!」


フェイトはゾッとした様子でシールドを重層的に展開。クロストックアルトはそれを一枚、二枚と斬り裂き……三枚目でその切っ先が噛まれた。

三枚目についてはただの防御ではなく、接触したものを捕らえるバインド系防御だ。


(やっぱり割り切った方が強い……だから)


右足に魔力を収束させ、そのまま駆け出す。

更に右アンカーのワイヤーを引き戻し、その勢いを加速させる。刃を噛んだシールドによって、アンカーではなく僕の身体が引き戻されたからだ。

フェイトが次の行動に出るより速く、左のクロストックアルトで牽制射撃をしながら、右足に魔力を収束。


ワイヤーが展開した箇所にバインド等はない。あるならワイヤーの動きに反応し、とっくに発動している。

シールド魔法を新たに展開するのも無理。それもワイヤーの存在が邪魔をする。

そしてランサーによる妨害もできない。八発の方向転換で、この速度の僕を狙い撃つのは不可能。


――つまり。


≪Sir!≫

「しま……!」

「ビートスラップ!」


アンカーのお尻を蹴り飛ばし、強引にシールドを、零距離で発生した物理バリアすらも両断する。

元々鉄輝により貫通はしていた。ゆえに生まれた破砕だった。


そうしてそのままフェイトを穿ち交差……とはいかなかったか。


「ち……」


咄嗟に身を逸らして回避してきたし。脇腹を浅く斬り裂かれながら、フェイトは驚きの表情でこちらへ振り向く。

僕も手足に魔力を纏わせ、虚空を滑るようにして停止。右のクロストックアルトをアンカーから外し、アンカー本体もフルドレスに戻しておく。


「おかえり」

≪半身ですが戻りました。……でもまだまだ多武装の使いこなしが甘いですねぇ。武装テストという言い訳は通用しませんよ?≫

「すぐに慣れるよ」


まぁどうなることかと思っていたら、この腕前だしねぇ。これならことが動くまでの間、退屈はせずに済みそうだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


≪Sir、申し訳ありません≫

「大丈夫だよ。非殺傷設定だし……ヤスフミも加減した上でのことだから。
……でも」


正直ゾッとしっぱなしだよ。あれだけギミックを詰め込んだ武装を、こうも使いこなせるんだから。


「例の……マーキュリーレヴ? それやライズキーの使いこなしで分かってはいたけど、やっぱり凄いね」

≪多武装の同時運用……そのために必要な思考は、それ自体が立派なスキルですから≫


普通たくさんの武器があると、強いとか凄いって思っちゃうよね。でも実際は違うんだよ。


――人間が一つの機構≪システム≫に割り当てられる作業量≪リソース≫は限られているし、手の数も、考える頭の数も同じです――


そこで思い出すのは、小さい頃のこと……プレシア母さんの使い魔だったリニスが、私とアルフにしてくれた青空授業。

あのときは強力なデバイスがたくさんあったら、強いんじゃないかーって話をしていて。


――だからいくら強力な武装≪デバイス≫がたくさんあっても、それを同時に動かせる限界数が少なかったら意味がない。
もっと言ってしまえば……数の有利を取るということは、質の不利を取るということです――

――ん……百パーで使いこなせなかったら、結局その質で上な敵に勝てないってことか?――

――はい、アルフは正解です。……だからこそ魔法戦では、自分の得意なことをどれだけぶつけられるか……そこが基礎となります――

――でもリニス、私達魔導師にはマルチタスクもあるし、なんとかなりそうな感じが……――

――それ、実は非効率だっていうのが最近の学説なんですよ――

――そうなの!?――

――実際戦場でものを言うのは、やっぱり得意なことですからね――


だから私も、自分速度や電撃変換の魔法を……ファーン先生の教えもあって、突きつめてきた。それは実戦を引いたアルフも同じかな。

でも……。


――ただ、そうですね……もし数の有利と同時に、質の有利も取ることが可能だとしたら――

――リニス?――

――天性の才能か……そうでなければ――

「尋常じゃない努力を積み重ねて、それを得意なことにしたか……」


最初は遊びから始まったことでも、ヤスフミはそれを得意なことにして、武器として戦ってきている。

……悔しいけど、私にその真似はできない。私は一つのことを、全力でぶつけるだけだから。

だからもっと……もっと飛び込んでいこう。時間がないから、一秒でも無駄にしなようにせめぎ合おう。


(みんなのために……ううん、結局私のためになっちゃうのかな)


自重しながらも笑ってバルディッシュを振りかぶり、もう一度突撃する。

今度はヤスフミも踏み込んで……お互いに愛機をぶつけ合う。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新しいアルトアイゼンとジガンの調子、かなりいいみたい。改善点の洗い出しもできているから、見ている私や篠ノ之博士も一安心。


「……ねぇあなた、あれってクロスボーンガンダムよね……」

「……恭文、好きだからねぇ」

「うちの副長が言ってたのよ。あの子に向いているのは海賊じゃないかって……ゴーカイジャーとかも好きだったし」

「言いたいことは分かるけど、副長って言うのはやめようか……!」


というかあの、お母さん? お父さん? 一緒に見ているのはいいんですけど……というか私達がリビングを借りているせいですし。

でも、副長ってなんですか。お母さんは確か、バイクメーカーの企画部長さんですよね。副長って言う役職はないような。


「でもなぎ君、また器用な……」

「複合武装の使い分けは、もうやっくんの十八番だからねー。おかげでいいデータが取れてるよー!」

「でも、二人とも楽しそう……」


やっぱり居候を続けている楓さんが、日本酒をグビグビ飲みながら楽しげに呟く。

……確かに二人とも、笑って斬り合ってる。最初のときとは大違いだよ。フェイトさんもあれから動きが鋭くなっているようだし。


「まぁ二人が一段落したら、次はギンギンちゃんだから。相手は束さんがするよ」

「だ、大丈夫でしょうか……。私の”これ”、かなり物騒ですし」

「ちゃんと防護策は整えるってー。それにやっくんや金髪ちゃんを連続で動かしても、いいデータが取れないもの」

「まぁ、休憩は必要ですしね」

「つまり、あとはギンギンちゃんの気持ち次第ってことだ」

「……はい」


両手でずっと持ったままの、銀色のライズキーを見やる。


通常のライズキーより大型で、折りたたみ式の……羽根のような部分があるんだ。えっと、認証プレート≪メタルライザー≫だっけ。

そこに金色で、銀色のバッタが幾つも……幾つも描かれていて。ぶっちゃけ怖い。

あ、変身するときにはこれを折りたたむ≪メタルライズ≫も含めて、三段階認証になるらしい。一段階増える理由がよく分からないけど。


「……」


なぎ君が……というか元々リイン曹長が準備していたものを、私用に調整してくれたもの。

正直使うのをちょっと迷ってる。概要だけでもかなり物騒だし……でも、怖がってばかりもいられないよね。


「私も、強くならないと」


キーの起動スイッチ≪ライズスターター≫を親指で押してみる。


≪エブリバディ――ジャスティス!≫


正義かぁ。ほんと重たいというかなんというか……でも、頑張ろう。

迷って何もせずに止まって、後悔するのは嫌だから。


(――本編へ続く)




あとがき

恭文「というわけで、先に四十六話から出しましたが、隙間話のPARTUです。そしてパワーアップしたアルト達がちょこっと先出し」

古鉄≪バルディッシュについてもツテを使ってデチューン解除。しかしジガンがまた変化しましたね……≫

恭文「癖は強くなったけどねー。というわけで設定をどうぞー」



◆◆◆◆◆


クロスボーンフォーム≪CrossBorn Foam≫


恭文の新ジャケット……というより、改修したアルトアイゼン達による基本装備。

元ネタは言わずと知れたクロスボーンガンダムと、クロスボーンガンダムDUSTの英字読み


※アルトアイゼン・ロイヒテン(輝く古き鉄)

敵からのデバイスハッキング、または使用不能状況へ追い込まれることへの対策として、アルトアイゼンとジガンも独自に改修を施した。

アルトアイゼンについては基本は変わらず、ヴァリアントシステム発動時の遠隔操作端末としての機能強化と、六課入りする前に外していたモード復活に留めている。


・クロストックモード(読者アイディア)
≪ChroStock Mode――Ignition≫

上下二連の大型ハンドガン形態。状況に応じて中折れして、接続部から刀身が量子変換。片刃の刃が展開する。

基本二刀流で運用する、アルトアイゼンの新形態。元ネタはクロスボーンガンダムX0のバタフライバスター



※ジガンスクード・リストゥエール(巨大な光の盾)

敵からのデバイスハッキング、または使用不能状況へ追い込まれることへの対策として、改修を施した。

形状は余り変わっていないように見えるが、可動アームによりシールド部分が稼働。

防御範囲を広げるのみならず、ナックルガードとして展開し、光波エネルギーを突き立てること≪ブランドマーカー≫も可能。攻防一体のデバイスとなった。

その代わり形状変換や内臓武器≪ダガー≫は排し、カートリッジはリボルバーナックルと同型のものに変更。
(小型六発装填のシリンダー。手首近くの内臓スロットに装填する)。

素の頑強さをより高めつつ使用の幅を広げ、更にジガン表面に光波シールドを発生させる機能を追加した。


光波シールドには三つのタイプがある。

・ジガンのサポートで効率よく防御魔法を展開する≪マギーモード≫。

・ブランドマーカーとして攻撃に使用する≪マーカーモード≫。

・光波シールド表面に発生させた磁場で、攻撃を歪曲させて逸らす≪ゲシュマイディッヒモード≫。


マーカーモード以外の光波はそれぞれ別方向に構えることも、接続する形で防御範囲を広げることも可能。

機動力を重視する戦い方も多い恭文に合わせた形で、特にゲシュマイディッヒモードについては、その運用方法には様々な可能性が秘められている。

(ゲシュマイディッヒモードは光波シールド→磁場フィールドという二重構造で受け止め発動するので、消費エネルギーはそれなりに大きい。
その分実弾、魔力、エネルギーとほとんどの攻撃に対処できるため、恭文の弱点だった防御能力を相当に高めることができる。
ただしシステム的にサポートされているとはいえ、魔力消費は通常の防御魔法より大きくなる。リミッターがかかった状態じゃ十五回くらいしか使えない。

次に連続稼働は魔力消費以前にジガンへの負担が大きい。特に排熱関係が問題で、四十秒が限界。
それで一番の問題は……あくまでも科学的原理に基づいた防御方法なので、それを無視してくる攻撃には無力ということ。
特に霊的な存在……しゅごキャラやサーヴァントみたいな存在には、そもそも磁場なんかでは捕らえられない。

そしてフェイトのような電撃系能力者の攻撃は、展開した磁場が乱されるためまた別の工夫が必要となる)



※ファルケVer2.0

左目のみに装着する眼帯型として、小型化されたファルケ。

アルトアイゼンとジガン、もちろん恭文の処理能力とも連携し、SEED劇中のようなマルチロックオンシステムを発動できる。


※フルドレス

トイフェルライディングの外装を調整したバージョンアップ版。

各装甲をメンテ性向上も兼ねてユニット化したため、より柔軟かつしなやかな機動補正が可能となっている。


※シザーアンカー

フルドレス両横前面にセットされている隠し武装。

敵の捕縛、急速退避、武装を掴んでの三次元的攻撃など、多岐に亘る運用を可能とする。

またシュヴァンツブレードと同じ特殊粘性合金製ワイヤーで接続されているため、射出後の軌道操作も容易。


※シュヴァンツブレード

使い勝手のいい基本装備として、フルドレスの後部にセットされる。

ただし根幹システムはハッキングなどの対策のため幾つか変更を加えられており、その制御はよりピーキーな形となった。


※リストゥエールコア×1

胸部のハートアーマー中心に装着されるクリスタル型光波発生装置。形状は骸骨。

本来は緊急時に急所を保護するのが目的だが、機能を応用して攻撃やかく乱などにも使える。

(クリスタルを持続時間ゼロ・最大光量で発光させて、至近距離の目くらまし。
またはノーモーションで胸部からエネルギー砲撃を放つ。
前者はガンダムAGE-2ダークハウンドの戦法で、前者はストライクフリーダムで言うカリドゥス複相ビーム砲のような使い方)


◆◆◆◆◆



古鉄≪近接戦闘に割り振りつつ、多数の選択肢で圧倒するセッティングですか。なお、これはあくまでもベーシックなジャケット姿というのが基本で≫

恭文「ライズキーとドライバーを使った変身はまた別のがあるんだよね。この上から追加する感じだけど」

古鉄≪その辺りも四十七話とか四十八話以降ですね。
……というわけで六月も後半……本格的に梅雨入りで、雨がたっぷりです≫

白ぱんにゃ「うりゅ……」

ドラグブラッカー「くぅくぅー」


(ふわふわお姉さんと蒼凪荘のみらーもんすたぁ、雨降りな空を見上げちょっと寂しそう)


カルノリュータス「カルカル……カルカル……」

カスモシールドン「カスカスカス……!」


(そして蒼凪荘の爆竜達は、五目並べに夢中。なお碁石は器用に爪で挟んで打っています)


恭文「よし、家で……みんなで楽しく遊ぼうか」

白ぱんにゃ「うりゅ!」

ドラグブラッカー「くうー♪」


(梅雨は梅雨で、楽しい過ごし方があるのです。
本日のED:PENGUIN RESEARCH『ジョーカーに宜しく』)


あむ「まだまだ外出には注意が必要な中、更に雨……引きこもれと!」

刑部姫「姫の時代が来たってことだよ! リモート最高ー!」

恭文「出勤時間って無駄だしねぇ……」

静香「いや、プロデューサーとしてそういうことは言わないでください……! しかもシアターまでは徒歩十五分なのに」

あむ「……実はあたしもそれ、ちょっと思ってた」

静香「あむちゃん!?」

あむ「だってさ、満員電車とかリモートが発達したら解除できるよ? 三密とかの問題も解除できるし」

静香「あぁ……そういう意味なのね。なら分からなくはないけど」

あむ「まぁお仕事によっては難しいんだろうけどさ。でも、ちょっとこう……考えちゃって」


(おしまい)





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