[携帯モード] [URL送信]

小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第45話 『ユートピアなど認めない』


部隊員として、局員として、身の回りについてはきっちり報告が義務づけられている。

……実は私、これが苦手で……マッハキャリバーに使ったカートリッジとかカウントしてもらって、それでなんとかって感じだった。

特に今日はティアもお出かけしているから……もう不安で不安でたまらなくて。


「な、何とか終わったぁ。でもカートリッジの使用数報告……毎度毎度面倒ー」


椅子にもたれ掛かり、大きくため息。……ティアがいたら『それはこっちの台詞(せりふ)だっつーの』とか言うんだろうなぁ。

まぁそんな疲れも、ご飯を食べて吹き飛ばそう! もうお昼だから、端末を落として、デスクから立ち上がって…………ん?


「…………」


スバルが見やるのは、オフィス内――隊長用のデスク。

なのはさんは開いた空間モニターを見やり、ぼんやりとしていた。


「なのはさん、どうしたんですか」


近づいてモニターを見やると、そこには……ヴィヴィオのパーソナルデータが入ってた。


「………………あ、ごめん」


私の声でハッとしたなのはさんは、それを慌てて閉じる。


「ついぼーっとしちゃって……そっか、もうお昼だっけ」

「はい」

「私は隊舎に戻ってヴィヴィオと食べるんだけど、スバルも一緒にどう?」

「はい! 是非!」


なのはさんも後片付けをしてから、二人してオフィスを出て……隊員寮までの短い道をゆったりと歩く。

夏だから気温は高めだけど、六課は海の近く。だから吹き抜ける風が気持ちよくて……実は結構お気に入りです。


しかもついさっきまで、通り雨が降っていてね。余計に空気が澄んだ感じがして……うーん、最高ー!


「ヴィヴィオ、アイナさんとザフィーラのガードで大丈夫そうですか?」

「なんとかね。最初の頃と違って、状態も落ち着いてきているから……」

「よかったー」

「それに風海さんもいるし、ほんと助かってる……!」

「風海さん、やっぱり慣れていますしね」


浮かぶ二つの月……左手には潮騒(しおさい)が生まれ、遠くに広がる首都の光景。

夏の風を受けながらその景色を見ていると、少し不安だった気持ちも、すぐ吹き飛んで。


「でもヴィヴィオって、この先どうなるんでしょうか。あの、事件が解決した後」

「……ちゃんと受け入れてくれる家庭がいれば、それが一番なんだけど」

「難しいですよね。やっぱり、普通と違う……から」

「そうだね……見つかるまで、時間がかかると思うんだ。……なので当面は、私が面倒を見ていけばいいかなって。
エリオやキャロにとっての、フェイト隊長みたいな――保護責任者って形にしておこうかなと」

「いいですね! ヴィヴィオ、喜びますよ!」

「うーん、喜ぶかなぁ」

「はい、きっと!」


それはきっといいことだ。ヴィヴィオ、なのはさんのこと大好きだし……うん、きっと喜ぶ。

以前の自分を思い出しながら、なのはさんの背中を押している間に、隊員寮へ到着。

それで、お部屋で出迎えてくれたヴィヴィオには、早速説明…………したんだけどー。


「……ん?」

「あぁ、やっぱり分からないかー」

「ん……!」


そっか……そうだよねー。六歳前後の子どもが、保護責任者って言われてもハテナマーク出まくるよ。

実際私だって……うん、だったら……だったら……そうだ!


「しばらくはなのはさんが、ヴィヴィオのママってことだよ」


笑顔でそう告げると、ヴィヴィオが目を見開いた。


「ママ……ママ」


それでヴィヴィオが嬉しそうにしたけど…………あ、マズいかも。

だって保護責任者で、引取先も探す形なら……ママにしちゃったら、お別れするときとかに大変だよ!


「あ、あの……それは、えっと……」

「……いいよ、ママで」


……するとなのはさんは、あっさり認めた。

私の動揺も見抜いたのか、笑顔で大丈夫と頷いてくれてから……ヴィヴィオに目線を合わせる。


「ヴィヴィオの本当のママが見つかるまで、なのはさんがママの代わり。ヴィヴィオは、それでもいい?」

「……ま……」

「ママ……」

「はい、ヴィヴィオ」

「うぅ……」


ママ――自分の帰れる場所、帰っていい場所。

家族がいて、優しく手、温かくて、幸せな場所。

それを見つけたヴィヴィオは、涙をこぼしながら……なのはさんに抱きつく。


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「あ……もう、どうして泣くのー? よしよし……大丈夫だよー」


…………そっかぁ。うん、そうなんだよね。答えならもう出ていたんだ。

なのはさんにとって、ヴィヴィオはただの保護児童じゃなくて、どこか特別な……思い入れをする何かがある子で。


だけどそれなら…………ううん、今は応援しよう。私はやっぱり、ヴィヴィオの気持ちが……ヴィヴィオには”これ”が必要だって分かるから。




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――私はエリオとキャロを伴って、廃棄都市部へ。

先日の件からまだ五日だし、現場検証は続いている。何しろもう、移動も絡めると本当に広範囲だから。

ただ108の方と上手く情報共有というか、合同捜査ができない感じで……なにか、勝手に証拠を隠されているというか。


やんわりとツツいても全く相手にしてくれなくて、実はかなり困っている。こちらの手数が少ないから、やり過ごされているというか。


それでも、何とかしなきゃいけないんだけど……。


「……フェイトさん」

「あ……エリオ? あの、怪我……まだ響くかな。それなら無理しないで」

「いえ、そうじゃなくて……事件捜査の方って、アコース査察官とかは進展しているんでしょうか」

「あ、うん……そっちもなんとかって感じみたい」


というわけで、調査資料をみんなに提示。一応捜査のお手伝いもしてくれているし、ちゃんと把握はってことだしね。


「まず犯人達への直接聴取は何とかできたんだ。……ヤスフミ直々にやらせるより、ずっと平和的に終わるって話したみたい」

「あぁ……お友達、でしたしね」

「そういうのを抜きにしても、ヤスフミってかなり荒っぽく尋問するみたいだから……」


下手をすれば止める間もなく拷問開始。そのままエンドまでいきかねない……さすがにオーリス三佐もそれは嫌だったみたい。


「それでまず、自首した犯人達がリンドバーグ一士を襲った犯人なのは間違いないんだって。というか……ヤスフミ達を襲ったアサシン達とも同僚だった」

「あの人達と……!? じゃあ!」

「核密輸にも関わっていた。ただアコース査察官いわく、また仲介経緯が違うみたいなんだ。
一度逮捕される分、相応の報酬が出所後に支払われる契約だったみたいで……でも」

「……フェイトさん、どうしたんですか」

「その人達も……捕まえたアサシン達も、やっぱりヒドい放射能汚染にかかっていたんだって。
もう通常の拘留が無理なほど悪化していて、大型の病院に収容されている」

「口封じも兼ねていたんでしょうか……」


キャロが言う通りだった。というか、私自身話を聞いてゾッとしている一人で……。


「というか私、ヤスフミに言ったんだ。次元世界での核問題も、ミッド生まれの私達もいるなら大丈夫じゃないかなーって。
……でも全然勘違いだった。私自身やっぱり専門外だし、近くにそういう危ないものがあっても、察知できるかというと……」

「やっぱり、無理ですよね……。僕とキャロもそういう話になって、やっぱり同じ結論で」

「……あ、でもそういう契約だったから、リンドバーグ一士が救われた部分もあるみたいなの」

「どういうことですか?」

「殺人未遂と殺人では、刑期にも差はあるってこと。それも……改めて調べて分かったんだけど、リンドバーグ一士は一度身元を名乗っているの。
その上で襲っているから、余計に口封じの問題が出ている」

「だから自然と手を抜いていたと……なら、核の行方は」

「それは、今までの情報と変わらずなんだ。ルーテシアちゃんの召喚魔法で楽々次元間渡航をしていたから、やっぱり核密輸の自覚そのものがなくて。
ただヤスフミが先日確保したデバイスの方から、ある程度の座標は絞れてね。次元航行艦隊とも協力して裏付けの真っ最中」


私達としては、ひとまずその動き待ちって感じになっている。もちろんミッドでの捜査を進めつつなんだけどね。


(……あとは、リンドバーグ一士が奪われた資料か)


エアリス・ターミナルってところを調べていたみたいなんだ。そこの資料が奪い取られたのも、アコース査察官の査察で分かった。

それで犯人達はそこの小間使いで、取り引きを持ちかけたのも……その辺りもアコース査察官が中心で調べるみたい。

そっちはミッド地上のことだし、ナカジマ三佐と協力してなんとかって思っていたんだけど……六課は目立ちすぎるから邪魔って、はっきり言われちゃって。


正直、凄くもどかしい。そこがハッキリすれば……ヤスフミだけじゃない。他の地上部隊だってもっと協力的になってくれるかもしれないのに。


「まぁ、私達はとにかく地上の方だよ」

「フェイトさんは駄目ですよ」

「ふぇ!?」

「修行とナノマシンの対処が必要ですよね」


内心いらいらしていると、エリオがキャロと一緒に、私を見上げて笑ってきて。


「だから行ってきてください」

「エリオ……」

「僕達はやっぱりただの一部隊員で、子どもだけど……それでもできるだけの努力はしていきます。勝つために、全力全開で」

「それでルーテシアちゃん達を負かして、罰ゲームかな。
うん、そうして今度は……こんな怖い戦いじゃない、楽しいゲームをみんなで続ける」


それは、雛見沢で……部活を通して、みんなが魅音ちゃん達から教えてもらったことだった。

北条家の村八分などで問題も多かった雛見沢。その煽りを一番受けていた沙都子ちゃんと悟史君を少しでも守るために、魅音ちゃんが考えた部活。

学校の中にいられて、大人達の面倒な諍いから逃げられて、子ども達だけで楽しく笑い合えるゲームの部活。


だから、部活の定番ゲームはババ抜きじゃなくてジジ抜きだった。

余ってしまう厄災を押しつけ合う儀式ではなく、あえて最初は一枚だけを抜き取り、足りないピースを探すゲームにした。

そうしてゲームが終わったら、抜き取っていた一枚を合わせれば……そこには仲間はずれのカードなんてない、奇麗な世界が生まれる。


いつか雛見沢もそうなればと、魅音ちゃんがかけたお呪い。エリオとキャロ、本当に感動したらしくて、夢中になって話してくれたんだ。

しかもそうして、ちゃんとその世界を掴み取った……それだけの努力をしてきたから、魅音ちゃん達部活メンバーも見上げる星になっていて。


(……そっか)


私は、ちゃんと考えなきゃいけないんだね。私達が始めたのはきっとババ抜きで……だけど、それをジジ抜きで終わらせるための努力が必要で。

この子達が前を見て、そのための道筋を考えてくれているのに……私が甘えていたら、本当に駄目だよね。


「ルーテシアちゃんも雛見沢に連れていけたらなぁ」

「なんだか、物凄く大暴れしそうだよね。実際僕達、好き勝手されちゃっているし」

「でもここから逆転だってできるよ。きっと」

『でけぇ夢だなぁ。……だがまぁ、管理局員として通すべき筋があるのは忘れるなよ?』

「もちろんです! その上で小ずるく全力に、我を通しますから!」

「それを超えてこそのありとあらゆる努力です!」

「くきゅー!」

「……そうだね」


捜査活動関係や、SAWシステム導入のことはある。だけど……私ももっと強くならないと。


「きっとできるよ」


鋭い刃として……全てを断ち切る雷光として。だから、”ホーネット”も取り戻すんだ。

……それくらいしなきゃ、始めたゲームのルールなんて変えられない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――――我ながら、軍事アナリストとしては行きすぎた発言が多かったと思う。まぁそれも下調べしたせいだけど。


「まぁ安全は確保できたし、よしとしようか」


一人の人間として、テロリストによる核発射を……その可能性を見過ごすことも嫌だったし、今回についてはヤスフミもいる。

六課の人間は信用できなくても、あの子なら……あの子は、引き金を引くべきときを誤らないし、迷わない。


それに頼るのもまぁ、私が人でなしたる所以だけど……今のところはとてもアテになる存在だった。

……とはいえ警戒は必要だけど。


「ランスター二士、可哀相……本当に可哀相だった」


さすたにいたたまれなくて、ぽつりと吐き出す。


「目の前で”自分達が思うよりよい結果のために死ね”……そう言われていたのに、アレだものなぁ」


あの子の目は歪んでもいなかった。ただ真っ直ぐに私を批難し、怒りすら持っていた。

仲間を……大事な仲間を傷付けられたことが許せなくて。それが部隊長達だけの傲慢だと断ずることが許せなくて。

それは違う。”みんな”の意志だ。自分達が望んだ結末だ。だから決して悪いことじゃないって、誇ってすらいた。


その真っ直ぐさが逆に怖くて……でもその倍くらいに、悲しかった。

一体どういう洗脳術を施せば、あんな状態になるのか。あれじゃあまともにアドバイスしても対応してくれるとは思えない。


容易に想像できる。現場で犯人に同情して、説得なりを試みて……最優先に通すべき筋を違える様が。

自分が世界の平和と安全を預かる一員だということをさて置き、安っぽい同情心で仕事を放棄する。

実際それを彼らは何度も繰り返している。わざわざそんな胃の痛い状況に関わる必要はない。


そうすると私が肩入れすべきはオーリス三佐達中央の方か。さすがにこっちは問題ないだろうし。


「……面倒だなぁ」


本局の長い廊下を歩きながら、ついため息。


「あの子は、一体いつになったら理解できるのだろうか」


……核兵器を保有するテロリストがいるということと、それを使用する意味は、相当に重い……ううん、それ以前の問題か。

あの子が必死に奇麗事を信じる姿を、ヤスフミがどういう目で見ていたか……きっと気づいていなかった。

あの奇麗な瞳が、とても悲しげに潤んで……あの子は噂されているような、非道な人間じゃない。


私は一年前、そういう姿を何度も見てきた。ううん、彼だけじゃないか。

それはあのとき、事件に関わったみんなが持っていたものだったから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


部隊長代理とランスター二士も帰路についた。それを見送り、僕は誰もいないブリッジの艦長席に。

現在クラウディアは補給と整備点検中だからな。みんな休憩中というわけだ。


……ただ、こちらはのんびりというわけにはいかなくて。


「でも預言のデメリットか……」


今はちょうど、恭文が会議前に言っていた件を聞いていたところで……。


「これは家族として、僕も考えるべき話だね」

「ロッサ……」

「積み重ねた結果、部外者で一般人の楓さんがヒントを掴める程度には定まった。
それに魔術協会とのパイプもある恭文が、危惧を訴えた。その辺りは多少鑑みるべきじゃないかな」

「今後の運用に備えた特殊事例としてか……」

『まぁヴェロッサさんの場合、サボり癖の方が先だと思いますけどねぇ。
カリムさんだけじゃなくて、僕まで査察部の部長さんに愚痴られるんですから』

「それは仕事上必要なサボタージュだって。
……え、駄目かな? やっぱり許されない感じ?」

「……駄目だと思うぞ? それは」


民間協力者で部外者の恭文にまで愚痴るのは、余りにおかしいだろ……! 一体どうしてそうなった。


『僕も心が旅人仲間ですからねぇ。どうしたらヴェロッサさんのその辺りが治るかって頼られたんですよ。あとはヒロさん達にも』

「心を読むな……!」

『顔に書いていれば読めますって』

「で、お前はなんと答えたんだ」

『馬鹿は死ぬまで治らないと』

「いや、ヒドすぎない!?」

「いや、むしろ説得力は有り余っているな……。
これは騎士カリムが復帰されるまでの間、僕もしっかりしなくては」

「そ、それよりほら! 六課だよ! 部隊データを改めて見てみたけど……はやては部下に恵まれている」


話を逸らしたな、ロッサ……まぁ、いいか。この辺りのツッコミはまたじっくりすればいい。


「……確かにな。ランスター二士も話以上にいい子だった」

「まぁだからこそ余計に……というか、僕達は悪い大人だったなと突きつけられたけど。
……特にはやては……恭文との間が拗れまくったからね。こんなことならもっと早くに約束を守らせるべきだった」

「…………その辺りを強制するのは完全にセクハラだろうが……!」


……とはいうものの、僕もロッサと同じ意見だった。

六課ならば……なのは達がいるのならばと思っていた自分が、どれだけ浅はかだったのかと


現実はそれすら視野に入れて、最悪な形で進んでいるのにだ。


『で、システム投与は本当に実行するんですか?』

「……あれから各所に打診したが、撤回は無理だった。
六課と今回の部隊駐留による試験運用により、その正否を見定める構えらしい」

『本当に馬鹿なことを……下手をすればナノマシンだけじゃありませんよ?
システム運用に際してのプログラムやホストコンピュータに触れた端末全てが、ある種の支配下に置かれる可能性だってある』

「おい……そこまで話が広がるのか……!?」

『いわゆる共通規格に悪意が潜んでいた場合のリスクは、地球だとHOS事件で有名になりましたからね』

「あぁ……レイバーOSで問題になったあれか」


そうだった。それも特車二課第二小隊が主導で解決した事件……伝説の一つだったな。

それに恭文も近代の忍者資格持ちとして、その手のOSやプログラム、コンピュータ関係の勉強も重ねている。ならば当然持つべき危惧か……。


『HOSの時だと不可視属性ファイル……まぁいわゆるウィルスなんですけど、これがHOSに接触した端末に名前を変え、ありとあらゆる手段で潜伏します。
そのプログラムにより、レイバーの鋭敏なセンサーが捉えた高周波を引き金に暴走するって寸法です』

「……できれば監査でその辺りも判明してくれると嬉しいんだが……」

『今回はHOS事件のときと違って、人や設備も相当増員されていますからね。
……クロノさん、監査チームとはまた別に、プログラムやホストコンピュータを専門家に調べさせるのは、やっぱり』

「それも難しいな。仕様にもあるとおり本局を中心とした閉鎖≪クローズド≫システムだ。
そのため本局内部でも接触できる端末や場所は限られている。もちろん部隊が離反目的で改ざんできないよう、クリアランスも設けられている。
その専門家がスカリエッティ一味の関係者というリスクもあるし、上も相当に警戒しているんだ」

『まぁ、そうですよね……僕でもそうする。誰でもそうする』

「……本当に、この状況をよしとした自分が腹立たしいよ」


ロッサは目を細め、画面の中を……そこに移るはやてのプロフィール画像を見つめる。


「あの子はやっぱり生き急いでいるよ。背負った罪過が、それを”罪じゃないなんてありえない”と断ずる強さが、はやてを削り続けている」

「初代リインフォースを助けられなかったこと、か」


誰が悪いわけでもない……全員が全力を尽くした。彼女の死は、冷酷に言うなら必然だった。

彼女が、夜天の書が引きずり続けた異常を改善できる人間が、どこにもいなかったんだ。

それと同時に……それだけの道筋を見つけられる人間も、その余裕を持った人間も……だ。


僕達がそれを突きつけられたのは、皮肉にも恭文と知り合ってからのことだった。


「だが、それは僕達の罪でもある。瞬間詠唱・処理能力の持ち主なら道筋を作れるなんて、誰も考えつかなかったからな」

『ん……? どういうことですか、それ』

「そう言えば、お前には話してなかったか。……防衛プログラムを破壊し、夜天の書……リインフォースやはやては死の運命から解放された。
だがそれもあくまで一時凌ぎ。時期にプログラムが復活し、より凶悪な形で侵食が始まる可能性もあった。
だからその前に……術式で夜天の書そのものを分解。管制人格であるリインフォースもそのまま天に昇ったわけだが……」

「君の登場で、少し事情が変わったんだよ。……瞬間詠唱・処理能力を用い、夜天の書を安全な形で作り替えられたかもってね」

『……普通の方法では』

「無理だった。なにせ夜天の書は改変されすぎて、元の姿を失っていたからな。
それでも、リインサイズのユニゾンデバイスとしてならって……そんな可能性もあったんだ。
……だから、はやてだけが重荷に感じることはないはずなんだ。僕や母さん、なのは、フェイト……みんなそれぞれに至らない部分はあった」


だけどあの子は……あぁ、そうだな。考えてみれば実に当然のことだ。なぜはやてがここまでシステム導入に、みんなを守ることに躍起なのか。

……傷となっていた別れに、塩が塗り込まれたせいだ。それではやては、より生き急ぐようになった。

その能力を持つ恭文が、危機に陥ったリインを助けたから余計にだ。


だから自分も……そういう焦燥感があった。それも、気づいてはいたのだが……。


「生き方は変えられなくても、それですり切れないくらいには息抜きも、必要なんだけどね」

『その結果があの同人趣味ですからねぇ。きっと一生止まりませんよ』

「いや、心が旅人のお前には言われたくはないぞ……!」

「かと言って今旅人になるのも難しい。……はやてはこのゲームを始めた一人として、それだけは絶対許せない」

「なら僕にできることは、同じように逃げないことか……」

『――!』


そこで着信音が響く。

それも技術開発部のマリーからだった。なのでそれを繋ぐと……。


『クロノ提督、お忙しいところ失礼します。マリエル・アテンザ技官です……って、恭文くん? アコース査察官も』

「大丈夫だ。ちょうどプライベートで……システムのことを話していてな」

『だったらこちらもちょうどよかったです。……監査の方ですが、途中経過の段階ですがご報告を。
やはりシステム関係に大きな問題は見られません。導入部隊はどこも順調で、実績も上げていますし』

「では、はやてやフェイト、なのは達に起きた異常は」

『そちらも調査は続けていますが、とりあえずナノマシンがおかしくなったというような記録は取れませんでした。
確かに脳内分泌物の異常分泌やデバイスへのハッキングはありましたけど、また別系統の能力ですね』


それは安心の結論だった。それならばシステム導入についても安全の……はずなんだが。


『ただ念のため、先進技術開発センターの方でシステムのアップデートを行います。
三人に投入するシステム用のナノマシンが古い方の活動を抑制もしますので、もう同じことは起こりません。
……だから恭文くんも、安心して戻ってくれていいから。なにかあっても、私達技術スタッフできちんと対応するし』

「マリエル技官、それについては僕の方で予備選力扱いにすると決定した」

『でもクロノ提督、はやてちゃんは』

「はやてのための部隊じゃない。もちろん……僕や君のための部隊でもない」

『……』


本当に今更だが、それを突きつける……マリエル技官にじゃない。自分自身に突きつける。


「というかマリエル技官、SAWシステムの監査は……クリアランス的にはどの段階まで調べられたんですか」

『それは……問題ありません。こちらもかなり高いレベルまで確認ができましたから』

「つまり、それ以上のレベルで干渉できる”誰か”がいれば、この結果はいつどう覆ってもおかしくない」

『だから、それもあり得ません! そうなればそれこそミゼット提督や最高評議会クラスの方々だけなんです!
それを外部の……それもスカリエッティ達みたいなテロリストが干渉するなんて!』

「ところがどっこいというやつでしてね。その彼らクラスが動いていないと隠せないもの≪聖王のゆりかご≫が捜査線上に上がっている状況です。
……クロノ、査察官としても進言するけど、SAWシステムの信頼性は底辺だ」

『アコース査察官は、私達の言うことが……監査チームの努力が、信じられないと仰りたいんですか……!?』

「はっきり申し上げれば。もちろん……この期に及んで”自分達の権限”を監査に利用しないミゼット提督達も」


気づくのが遅かった。省みるのが遅かった。僕達ならそれを守れる……正しい判断を示せると驕った結果が、この有様だ。

…………僕達がやりたかったことは、こんなことじゃなかったはずなのに……どうして。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


同時刻――本局先進技術開発センター 第十三電算室


――うんうん、やっくんもいい感じで話を盛り上げ、引きつけてくれているねー。

でも……そっか。好きの反対は無関心だしね。本気であの子達諸共見限っているなら、感情を露わにするはずがない。束さんにも覚えがあるし。


まぁそれはともかく、変装した上で入り込んだ電算室にて、キーボードをカタカタ……うんうん、”関所の偽造”は順調に進んでいるねー。

あとは束さん特製のハッキングツールを使えば、とりあえず覗き見程度はできるってもんだ。


「やっぱり睨んだ通り、ここからなら問題なかったよー。
いやー、我ながらやっぱし天才……って程じゃないか」


SAWシステムはその性格上、外部からは決して干渉できない閉鎖システムとして設計されている。それは盗み見た仕様書通りだ。

でもね、スタンドアロンで勝手しちゃうだけだと、問題が起きたときに対処できない。だからそこへ入る関所はちゃんと作られている。

そのうちの一つがここ、先進技術開発センター。あとはシステム監査のため、本局技術開発部にも一時的に門戸が開かれているね。


こっちについては、例の眼鏡てん……まぁいいかー。とにかくあの眼鏡ちゃんも監査に加わる関係だ。


「しかし……このシステム、かなり念入りにセキュリティがかけられているなぁ」


関所の偽造……外部からのアクセス権限のねつ造。そのデータ作成待ちの間、退屈でつい椅子ごとくるくるーくるくるー。


「クリアランスは七つ。現場で監督できるのはそのうち二つまでで、警備課長やら総務統括官やらでも五つが限度。
で、その五つ辺りで監査チームもストップ。あとは本当に……トップレベルの人間だけしか触れられないと来たもんだ。
そんなシステムの最高クリアランスを突破するには、生体データが三名分必要。
その上登録者が生きていて、なおかつ正常な状態かどうかも定期的に認証されるってー」


だから束さんでも、覗き見が限界……そこから全体の動きを見張って、探るのが限界。

なにせその登録者が誰なのかもさっぱりなんだから。しかも三名だよ、三名!


まぁ、だからこそ……真っ黒くなるんだけどね。


「でもさぁ……その正体も分からない三名に組織の全戦力を統括されるって、怖くない?」


現場が到達できないのは分かる。システムの悪用や離反を防ぐためだ。

それを統括する管理職でも駄目なのも、まぁ分かる。権力が大きい分、不正もやりたい放題だからね。


だけど結局最後は人間……まぁターミネーターみたいなことになってもアレだし、それも分からなくはないけど。


「……そう言えばエアリス・ターミナルってところが持ちだした飛行船やら、運んだのも三つだったよね
それに伝説の三提督とかいう人達に、最高評議会……三、三、三……三かぁ」


……それは、ちょっとした思いつき。

でも試してみたいことでもあった。

何より束さんは、こういう好奇心にはめっぽう弱く……椅子を止めて、胸を寄せるようにガッツポーズ。


「……よし」

『――!』


きっちり偽造アクセス権も完成したので、キーが入ったメモリを抜き去り、ハッキングツールも使い捨てのものに入れ替え。

その上で……最高アクセス権認証画面に進む。本来なら専用の端末なりできちんと調べるんだけど、今回は適当に用意したものを使う。

そう……例の幼なじみトリオちゃん達の髪の毛! やっくんがこういうこともあろうかとって、コッソリかすめ取っておいたものだよ!


それをー、生体探査装置(束さん製作)にかけてー、なんか生きているかのように上手ーくデータを偽造してー。

え、なんでできるのかってー? それはね……束さんが細胞レベルで天才だからさー! にゃはははははははー!


「では……ぽちっとな!」


――その瞬間だった。

画面が一時停止し、ぷつっと真っ暗になる。


――UTOPIA.――


そんな文字が表示される……それも、画面一杯に。


――UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.
UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.
UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.
UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.
UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.
UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.
UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.
UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.
UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.
UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.――

「え、なにこれ……」


それも画面は一つじゃない……ここだけじゃない。

あっちこっちから刑法の音が鳴り響く。まるで、福音を告げるかのようにその音は……どこか神々しかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その異変は突然だった。

マリエル技官も衝撃と悲しみの涙を止め、画面内で混乱に陥る。


『なにこれ……!』

『UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.
UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.
UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.
UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.
UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.UTOPIA.』


ユートピア……理想郷というワードが、ズラズラと並び続ける。それが、それだけが、あらゆる場所のシステムを支配し続けて。


『先進技術開発センターから!? 詳細な発信源は……不明!?
だったら、一旦こちらとのリンクも切って! このままだと他の部署にも異常が広がる!』

「……マリエル技官、それはクラウディアも」

『お願いします!』

「分かった。残っているスタッフと僕の方で対応する」

「でも、これは一体……」

『クロノさん、六課の方も大丈夫なんですよね。やり取り絡みでライン繋ぎっぱとかは』

「それも含めて確認しておく。じゃあ恭文……本当に、すまないが」

『クロノさん、仮に……台風で六課や中央に破砕が起こったとしても、それは仕方ないことだと思いませんか?』


すると、恭文が不思議なことを……いや、これは明確な確認だった。

僕達にそのつもりがあるのかと……本当にその覚悟があるのかと、問いかけていて。


『なにせ台風……天災なんですから』

『恭文くん? あの、一体何を』

「……それは当然のことだろう。天災で責任を問うべきは、事前対策を組んだ管理職側にある』

『なら問題ありません。高垣楓さん及び周囲のガードに戻ります』

「あぁ、頼むぞ」


だから……その腹はもう決まっていると、そう返すと、恭文は笑いながら通信を切る。

画面内でマリエル技官は、ダイヤのような煌めきをこぼし、呻りを上げる。


『クロノ提督、まさか、今の……!』

「……これから先六課や中央でなにか起こっても、全て天災……偶然によるものだってしらばっくれるわけだ。
で、それで誤魔化せないようならクロノやミゼット提督達に詰め腹を切らせると」

「もちろんはやても含めてだ」

『そんなの駄目です! そうならないように、みんなで……チームとして協力していくべきなのに!』

「そうやって追うべき咎と責任から逃げていたのが今までの僕達だ。
……そのしっぺ返しがきたと考えれば、安いものさ」

『私は……そんなに、難しいことをお願いしているんでしょうか……』

「マリエル技官」

『嘘じゃない……スバル達のこともあるから、全力を尽くす。嘘じゃない……嘘じゃないのに……!』


……それはもう遅い……遅すぎるんだ。

だから僕は、ミゼット提督達にも突きつけようと思う。


人でなしとして……堂々と、泥にまみれて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――束は走った。それはもう走れメロスか束かという勢いで走った。

そうしてなんとか地球に戻り、僕の部屋へやってきて……。


「あははははー♪ ちょっと深入りしすぎちゃったよー」

「このお馬鹿!」


とりあえずハリセンで一発どついて、しっかりお仕置き……! つーかビビったっつーの! いきなりシステム関係で大混乱だし!


「というか、なぎ君……これって」

「ギンガさん、バレなきゃ犯罪じゃないんだよ?」

「それ多分私達が一番言っちゃいけない台詞ー!」

「あ、そこは大丈夫! 足が付くようなことは一切していないから!」

「あなたも反省してくれますか!? そのせいで本局の技術区画、大混乱なんですよね!」

「いやぁ、混乱したのはむしろ束さんだってー」


束は叩かれた箇所を軽く撫でながら、笑って僕のベッドに腰掛ける。


「ほら、やっくんが掠めてくれた……例の幼なじみトリオ? その遺伝情報を入力したんだよ」

「はぁ!?」

「最初は生きているように偽装したのがバレたのかなーって思ったんだけど、ちょっと違うね。多分”仕様”だ」

「……束、話が前後するけど、どうしてそんなことになったの」

「システムの最高アクセス権限には、やっぱり生体認証が必要だった。
それも三人の生きたデータを、継続的に入力しなくちゃいけない」

「また三つ……って、待ってください! それじゃあ」

「だから収穫はあった。やっくん、例の監査結果は一切信用できないよ?
なにせその三人以外はみーんな……誰一人システムのプロテクトを破れないんだから」


それは収穫っていうのかなぁ。むしろみんなが表面だけかすめ取って、大丈夫だー、信じてーって言っていると証明されたのに。


「……マリエルさんも悪党の側に回ったか」

「マリーさんが?」

「通信でヴェロッサさんがツッコんだら、認めたのよ。
自分達……つまり監査チームは、システムの全てを調べられていない。
束も引っかかった最高クリアランス辺りは、ノータッチだってさ」

「そんなものを、スバル達に投与していいって……本当にそう言ったの!? 母さんとも友達だったあの人が!」

≪まぁそれでも現場や後見人レベルで何とかできる部分は、きっちり調べられたーって自負があるんでしょ。
しかも相手は局高官のスポンサーが疑われるとはいえ、外部のテロリストですし≫

「なら、聖王のゆりかご絡みでどうこうは……あぁ、これも無理だよね!
これについても当たりを付けた段階だし!」

「それにアクセスできるであろうミゼットさん達も、そこは手を貸していないみたいだしね。……容疑者候補なのに」


それがどれだけピエロで悪辣かは、もはや言うまでもないレベルだった。

もちろん……三人の異変がナノマシン絡みじゃないという結論も、現時点で全く信用度がない。ヴェロッサさんが言った通りだもの。


「本局武装隊の四割……戦力にして数万だっけ?
それだけの人達や運用する設備は、あんなヤバいプログラムを仕込んだもので動かされているってわけだ。
しかもシステムが公表されることで、その範囲はより爆発的に広がるしねー」

「あの、篠ノ之博士がそれを破るのも」

「できたらこんなポカしないってー。まぁそれを確かめるためでもあったけどさ。
なにより戦力制御の最高判断が、たった三人だけで決められるっていうのも……あー、そこじゃないかー。
その三人の情報が、仕様書にも、現場にも……監督側にも一切公表されていないのがあり得ないよ」

「本来ならそこはハッキリさせておくべきところだしね。じゃないと問題が起こったときの落としどころが見つからない」

「でも、だったら……どうしてスカリエッティ達は!? なのはさん達のデータもなかったんだよね!」

「あー、それなんだけどね……あったよ」


束が画面を展開する。

そこにはなのは、フェイト、はやてのバイオメトリクス情報を……今なお記し続けている画面が……!


「通常のシステム範囲からは外れているから、気づけなかったんだろうね。
束さんも最高アクセス権がどこかなーって探して、ついでに見つけたくらいだし」

≪それは、ある種の特別扱いってことですか≫

「それだね。これは束さんの所感だけどさ……やっぱりスポンサーとスカリエッティ一味の間、結構拗れてるんだよ。
もしナノマシンの操作で”勝手に”デバイスの非殺傷設定が解除されるだけでも、猟犬としての役割を果たせるわけでしょ?」

「でも、その邪魔をしているのがスカリエッティ達の動き……だけど、システムは閉鎖状態で、最高アクセス権限獲得もその条件なんですよね。
それでどうやって、その特別扱いのなのはさん達に干渉を……」

「その三人を確保している……認証が取れて、なおかつそれを偽装できる立ち位置にいる。そう考えるのが自然だろうね。
……そうなるとやっぱり、例の三提督とかが怪しいよねー。それに最高評議会っていうのもだ」

「現にミゼットさん達は顔役として、システムを推進している流れだしね。
……でも」


……いや、思考を硬直化させるな。本当にまだ、何も分かっていない状況なんだ。


「あとやっくん、今回の騒ぎどうこうは抜きに、勘のいい奴はそろそろ騒ぎ始めるよ?
導入反対派が情報戦略として、マスコミにリークするって可能性もあるし」

≪スカリエッティ一味がそれをやっても効果覿面ですね。なにせエアリス・ターミナルのこともあります≫

「とにかく束さんは、システムの方を詳しく調べてみるよ。
最高アクセス権限以外のとこも、まだまだ見られそうだし」

「お願い。しかし……本当になんつうものを」


まぁ僕がまともじゃないのは知っているけどさぁ。だとしてもこれを素直に受け入れるのもアウトでしょ。

それもシステムを預かるマリエルさんまで……まぁクロノさんの立場もあるし、それしか言えないんだろうけどさぁ。


……そうしている間に、戦線は広がっていくというのに。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


日々は静かに続く――いろいろな問題はあるけど、それも必ず解決してみせる。

でもそんな中、変化が一つ。


「そう、なのはがママになってくれたんだ」

「うん」


なのはが改めて、ヴィヴィオの保護責任者となった日の夜――。

仕事終わりに、ヴィヴィオが私に報告をくれた。まぁ、知ってはいたんだけど。


「でもね、実はフェイトさんも、ちょっとだけヴィヴィオのママになったんだ」

「……ママ?」

「後見人って言ってね、なのはママとヴィヴィオを見守る役目があるの」


そう言いつつ、なのはと一緒にベッドへ座り込む。


……エリオとキャロで言うなら、母さんの立ち位置と言いますか。

一応、そういうのをちゃんとしないと、保護責任は持てないから。

それも私達なら大丈夫……もう、子どもじゃない。組織の中で頑張って、みんなから認められてきた。


だけど、それだけじゃ足りないものもあって……。


「ん……なのはママと、フェイトママ」

「ん」

「そうだよ」


なのはと一緒に、ヴィヴィオの両手を取る。それできょとんとして、首も傾(かし)げていたヴィヴィオが。


「……ママ」

「「はい、ヴィヴィオ」」


明るく……嬉(うれ)しそうに笑った。そのまま飛び込んでくるので、なのはと一緒に受け止める。

……本当に、覚悟を決めよう。私は私の戦いを……雪辱(リベンジ)を果たす。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七十五年(西暦二〇二〇年)八月八日――。

ミッドチルダ全域に向けて、緊急放送が行われた。


『――ミッドチルダとその周辺世界で暮らしているみなさんへ。管理局本局及びミッドチルダ中央本部からの緊急放送をお送りします。
今近くにご家族や友人とおられる方は、お手数ですができるだけ一緒に……この放送を見ていただけるよう、ご協力をお願いします』


その放送に出ていたのは、本局のミゼット・クローベル本局幕議長。

ラルゴ・キール武装隊栄誉元帥。

レオーネ・フィルス法務顧問相談役。

そしてミッドチルダ中央本部を預かる、レジアス中将だった。


最初に口火を切ったのは、ミゼット本局幕議長……みんな、ついミゼット提督って読んじゃうけどね? 本来はそういう役職なんだよ。


『みなさんもご存じの通り、最近ミッドチルダでは凶悪なテロ事件が多発しています。
違法研究者として第一級捜索指名手配を受けているジェイル・スカリエッティと彼らの仲間が、そのテロの首謀者と考えられています。
その事態……及び、去年のアイアンサイズ事件での反省点を鑑みて、我々本局は予想しうる最悪の事態に備えるべきと判断。
新機軸の連携システム導入部隊をミッドチルダ地上に派遣し、中央の捜査・防衛活動に協力することを決定しました』


撮影中のスタジオ……346プロ内のスタジオなんだけど、そこで楓さんをガードしている最中の話だった。

さすがに空間モニターは開けないから、放送は携帯端末にてチェック。なおイヤホンはしっかり着用して、音はシャットアウト。


『更に本局にて開発中のAMC装備についても、最優先でミッドチルダ各部隊に支給します。
これは現状のミッドチルダ中央の警察力のみでは、予想される最悪の事態に対応できないという判断に基づくものであり……』

『……!』


あ、レジアス中将の視線が厳しくなって……でもミゼットさんやラルゴさん、レオーネさんは一切揺らがない。

アドリブでサラッと、喧嘩もできない状況で政治的に威圧して、主導権を握るつもりか。また汚い手を……。


『現在配備予定部隊は、本局武装隊第一師団普通科連隊、同第三十一普通科連隊、同三十二普通科連隊。
同第一特科連隊、同特殊車両運用科連隊、同第一飛行隊――』

「なぎ君……!」

「AMFや戦闘機人、フォーミュラ、核密輸については伏せた上で、かぁ。まぁ事件の報道としては及第点か」

≪公表しても市民が混乱するだけですしね≫

「いや、そういう問題!? あんなこと、堂々と緊急放送で言われたら……!」

「でも実際問題、それが難しいのも事実だ。……これでまた、タガが外れた」


……そこで思い出すのは、あの冬の日……TOKYO WARの最中、自衛隊の治安出動が決定したときのこと。

柘植の同志でもあった荒川さんが、後藤さんへのホットラインで言っていたことだ。


――聞いて貰うさ。ここからが本題なんだ。政府は自分達のことは棚に上げて、ここまで事態を悪化させた警察を逆恨みしている。頼るに値せずってな。
で、シナリオは変えずに主役を交替することにしたってわけだ――


本局の判断も……ミゼットさん達やはやての判断もそれに近い。


――舞台はミスキャストで一杯。誰もその役を望んじゃいないのにな。
素敵な話じゃないか。これが俺達の文民統制≪シビリアンコントロール≫ってやつさ――


あのときは、本当にただ行く末を見ているしかできなかった。僕も結局子どもだったから。

でも今は……今なら、違う答えを出せると…………いいなー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やってくれる……! ミゼット提督達が我々に対してよい印象を持っていないのは知っている。

強行的な姿勢を和らげるようにと度々進言してきたこともあるし、それは知っていて当然だ。先日の取り引きだけではない。

だが堂々と、この緊急放送で……中央だけでは事態に対応できないと、そう宣言してくれるとは。


「……先ほどのはどういう意味ですかな、ご老体」


緊急放送が終わった後、さすがに中将も怒りを露わにする。


「それについては私もお聞きしたいところです」


私もそれを見かね、スタジオの脇から慌てて飛び出し、父を制するように追撃……。


「仮に中央に事件へ対応できないとしても、それはあなた方本局の行動にも問題があったと記憶していますが。
なのにその責任の是非を差し置いた上での発言は、あまりに無配慮かと」

「……オーリス三佐……レジィ坊やもだけど、もうそういうのはやめにしようよ」

「は?」

「確かに本局にも悪いところがあった。でも、アンタ達にだって黒いところはあるはずだよ? パノプティコンプロジェクトとかね」


……そこまで知ってのことか。だとすると、これを機会に……我々の権限や武力に枷を付けるつもりか。

そうして父が……仲間達が気づいた平穏を、その手柄を奪い取るつもりか……!


「ミゼットの言う通りだ。……確かに遺恨を乗り越えることは難しいかもしれない。
だが、怒りや憎しみに囚われ閉じこもっても、未来を開くことはできん」

「この状況も、君達が忌ま忌ましく思っている機動六課も、結局は君達自身の自業自得だ。
君達の怒りが……失うことへの恐怖が、更なる疑いと弾圧を招いたにすぎん」

「キール元帥、レオーネ相談役……よくもまぁ、そのような戯言を口にできたものですな。耄碌されたのなら大人しく引退してはどうですかな」

「レジアス……」

「今回の件、あなた方も容疑者候補であるはずですぞ。
そのあなた方がシステムの全容を全て明かせたと言って、誰が信じられるか」


さすがに私も腹に耐えかねていると、父は憮然としながら立ち上がる。


「メリル・リンドバーグ一士のことも、そうやって謀殺したのでしょう」

「私らはそんなこと、しちゃいないよ」

「信じられるものか! 現に貴様らの悪巧みで、我々地上の戦力は理不尽に命を賭けさせられている!
蒼凪恭文が一計を案じなければ、巻き込まれた六課部隊員にも何も言わず、使い潰すつもりだったのだろう!」

「レジアス中将、言葉が過ぎるぞ。元々の原因は君達ミッド中央が強行的だったからこそ」

「では六課を作ったのは誰だ!
そこに部隊員を招き入れたのは!
自分の師を、その娘を巻き込んだのは!
それをよしとし、影で後押ししたのは!」

「…………」

「そう、貴様らだ! 貴様らが地上の平和を……我々の命を軽んじる人でなしだからだ!」


父はキール元帥の制止をはね除け、いら立ちながら彼らに背を向ける。


「貴様らがそういう考えならば、もう私も手段を選ばん! 相応の制裁は覚悟しておくことだ!」

「本当に……もう黙っていただけますか? あなたが人でなしなのは承知していますので」


さすがに黙っていられず、去っていく父は尻目に……彼らに暴言をぶつける。


「……ならば、せめて行動でその疑いを払わせてほしい。
我々も……機動六課もリンドバーグ一士の事件を調査する。
システム監査も継続して、専門チームで行うと約束しよう。それで」

「最重要容疑者という自覚を持っていただけませんか?
あなた方の行動は、その全てが証拠隠滅に他ならない」

「だから……本当に、私らは何もしてないんだよ……。
事件についての調査にも手を貸せず、ただ疑われるだけで……それでどうしろって言うんだい」

「死んでください」


だから、はっきりと言う。


「私は……父はあなた達を許さない。許す理由がもはやない。
あなた達のせいで、ゼストさんはあのように貶められた」

「オーリス、話を聞いておくれ。それも、本当に違う……違うんだよ……!」

「いいから……恥を感じる心があるなら! 我々に死んで詫びろと言っている!」


これ以上会話をしても無駄だと、彼らに背を向けて私も歩き出す。


なにせやることは満杯なのだから。……彼らに……そして聖王教会に、六課に対しての報復もあるのだから。

伝説の三提督……機動六課。あなた達には、私達に撃たれる故がある。ゼストさんのことで……そして今のことだけでその理由ができた。

その上で吐き散らかした融和とやらができるのであれば、やってみるといい。


当然、それも踏みつけるだけだが。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七十五年(西暦二〇二〇年) 八月十日――本局駐留部隊はミッド地上へと派遣開始。

短い調整期間の間に定められた滞在部隊にて、ミッド首都を中心に防衛体制を敷いた。

哨戒用の大型車両が走り回り、空では魔導師部隊が警戒飛行を続けている。


首都のあっちこっちに武装した局員が多数配置される。更に地上部隊にも、ストライクカノンなどのAMC装備が支給。

それを装備した地元局員も、警戒を厳に通常勤務をこなす。


でも、それでも……街は日常を描いていた。

通勤のレールウェイは相変わらず込み込みで、人々は往来し、小さな子どもは物珍しい車両や魔導師達に手を振り、笑顔で応援。

仕事を、学業を、生活を止めることはない。最初は生まれていた小さな違和感も、すぐに人々は受け入れていった。


そうして人々は”それ”に身を委ねる。これが平穏だと……これが日常だと、笑いながら。

……でも、その均衡はあっという間に崩れた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七十五年(西暦二〇二〇年)八月十三日

本局・ミゼット本局幕議長執務室



……私らは、奇麗事を言っているんだろう。現実に押し潰されそうになりながら、抗ってきた子達には届かない言葉なんだろう。

だがそれでも、ちゃんと伝えたかった。信じ合いたいと……新しい芽に、理想を託していく勇気も必要なんだと。

潔白をその行動で、言葉で証明したいと、そう思って……ラルゴも、レオーネも、あえて辛言をぶつけたんだ。


今までは立場上見守るのが限界だった。でも、もうそれじゃあ駄目だと判断したから踏み込んだ。

はやて達の言葉はともかく、付き合いの長い私達ならと……だけど、その結果があの有様だった。

レジィ坊やオーリスの心は、私達が想像しているよりずっと閉じていた。


「……ゼスト・グランガイツのことまで、私らのせいだと疑われていたなんて……」

『……それに恭文もだ。投与を受け、六課フォワードとしての協力を要請しようとしても……通信が全く繋がらん』


既に駐留部隊はミッドで仕事を始めている。六課でもシステム導入は終わり、部隊員達の訓練もよりハードになっている。

そんな中に加わり、チームの一員として……仲良くなった子達と一緒に、事件に対処し、成長してほしい。

そんなはやての願いすら、あの子は踏みにじっているんだ。しかも、そう指摘することすら……悪とされていて。


『はやても同じらしい。完全に好き勝手をする構えだ。
こうなれば現場に人員を送り……いや、駄目か』

「そりゃ駄目だよ。無言で脅しているからねぇ……強引にやるなら、騒ぎ散らすってさ。
……やっぱり、リンドバーグ一士の一件を何とかしないと駄目かねぇ」

『……そうだな。地上に察知されないよう、上手く捜査を進めよう』

『それで我々の潔白を証明できれば、六課もより動きやすくなるはずだ』


なら信頼できる人員を揃え、今のうちに……もちろん局の不正に対応するための内偵メンバーも揃える。

とにかく万全の布陣を、全力で整えるんだ。それで…………と思っていたら、通信が届く。


しかもこれは。


「……クロノ提督?」


一体どうしたのかと思いながら、通信を繋ぐと……血相を変えたあの子が出てきて。


『ミゼット提督、大変です!』

「どうしたんだい、藪から棒に」

『騎士カリムの預言やSAWシステムの詳細について、情報が漏れたんです!』

「…………は……?」

『『――!?』』

『今回の事件について預言されていて、それも機動六課やミゼット提督達もご存じだったとも!
既に局関連の報道やネットでの評判は大荒れです!』

「どういう、ことだい……!」


なんでだ……まさか、例の中継で?

いや、違う。どこかさび付いていた勘が明確に違うと……そうじゃないと告げていた。

この土壇場で、こんな真似を……機動六課とその関係者がダメージを受けるやり方をするのは……!


「…………レジアス、中将……」


なんてことだ。騎士カリムの安否絡みもあるのに。


「……そこまで、なのかい」


ぼう然とするしかなかった。


「そこまで……私ら”人でなし”の言葉が、態度が気に食わなかったのかい」


確かに、強く言いすぎたかもしれない。だけどアンタやオーリスのためを思って、本気で伝えたんだ。それは嘘じゃない。


「嘘じゃ……なかったんだよ……!」


なのに……それすらもう、嘘っぱちだと踏みつけられて……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


人々は裏切り者≪ユダ≫を見つけた。その名は機動六課……そしてそれを支える後見人達。

だから六課は、世界から隔絶されていく。

全てを踏みにじった悪として……その根源として。


西暦二〇二〇年(新暦七十五年) 八月十七日
東京都内・たるきビル 765プロ事務所



駐留開始から一週間……変わらないけど変わってしまった街の様子を見た上で、また地球に戻り……765プロを訪れていた。

一応みんなも僕の関係者だしね。楓さんと同じくガード対象なんだけど……そんなのをすっ飛ばす勢いで、ソファーにぐでーっとする。


一応今日は、みんなにお願いもあったのになー。


「……そんなに、ヤバい感じなのか? 例のミッドチルダ」

「ぢゅ……!」

「TOKYO WARやヴェートル事件の再来だよ。
どこにどうスカリエッティの仲間が入っているかサッパリだし、その上情報操作で本局駐留部隊と六課はミッドの敵だ」

≪でもまさか、ここまで堂々とすっぱ抜くとは思いませんでしたよ。
よっぽどミゼットさん達が腹に据えかねたんでしょうね≫

≪ジガンもアホ過ぎて絶句したの……。しかもゼスト・グランガイツのこともあるのに≫


どうもそれすらすっ飛ばしていたらしいからねぇ。

パノプティコンプロジェクトのことをツツいて、何とか今後の運営も見直させてーって感じだったんだろうけど。本当にアホ過ぎるわ。


≪おかげで本局も大混乱。六課の特別扱い……えこひいきが完全な形で露呈したから、そっちからも針のむしろなの。
もちろん入院中のカリムさんにも批判殺到。聖王教会もてんやわんや……一部ではカリムさんのせいで事件が起きたって話も出ているの≫

「そんなのアリなのか!? だって、預言で人助けしてたんだろ!?」

「それがあり得るんだよね……。というか響、忘れた? 僕は元々異能・オカルト事件が専門の忍者だよ」

「じゃあ、そっち関係からも問題ありって感じか? 魔法とか関係なく」

「そういう能力は専門的には未来視って言うんだけど、種別としては大きく分けて二つ。
過去と現在を見る予測か、未来を見る測定だ」


たとえば例のヴァサゴスナッチャーは、過去のデータ……この場合は獲得していた僕達のデータから起こりうる出来事を演算し、未来を予測するタイプ。

あれは生体接続により、疑似的にそういう能力を再現したものだから僕が予測した未来を壊したことで、反動も生まれた。

まぁこれはクロノさん達にも話したけど……戦闘機人達の”異能”も、破壊することで何らかの障害を引き起こす可能性はある。場合によっては殺すかもね。


……っと、話が逸れたね。


「カリムさんの能力は現在のデータを元に、高度な演算を行っている。それも個人の認識できる状況を大きく超えた、広い範囲の話だ」

「なら、測定っていうのは? 予測とは違うんだよな」

「そっちは未来そのものを見る。
未来に起こりうる出来事を一つの解答としてのぞき見て、そこに至る過程も獲得する。
あとはその過程通りに行動すれば、自分が望んだ未来を引き寄せられるわけだ。
……逆を言えば”望んだ未来以外を殺す”他殺一生の能力とも言えるけどね』

「望んだ未来を!?」

「面妖な……そのようなことが本当に」

「その手の能力には多少縁があってね。実際に前例もあるよ。
人によってはある種の直感……啓示として受け取る場合もあるし」


貴音も、響も……みんなも信じがたいようだけど、これでも専門家。なので資格証をぐいぐい出すと、なぜか引き気味に納得する。


「で、そんな未来視には一つ注意することがある。
未来は形がなく、よく分からないこそ無敵……でも占いや予知を繰り返し、その可能性を一つに狭めると」


そこでヒモを一本を取り出し、さっと結び目を作る。


「”絶対に避けられない未来”ができ上がる。
結び目が作られたヒモ……それを構築する線維一本一本が、どう足掻いてもその目を避けられないようにね」

「予測でも積み重ねたら、測定になるってことか……!?」

「カリムさんの場合に限り、そのリスクがとんでもなく高くなる。
……そもそも個人が認識できる状況は、世界からすればとても小さいものだ。
仮に未来を予測しても確定的じゃない。予測した当人の行動や、”認識できていない不確定要素”により改変される場合がほとんどだ」

「カリムさんの預言が、世界規模の情報収集……そこからの演算になるからだな!
その時点で認識できる規模が段違いだから、覆すにも相当なパワーがいる!」

「……響、よくついていけるね。美希ちょっとちんぷんかんぷんなの」

「まぁラノベで未来改変とかの話はよくあるから……うん、それでなんとか」

「ぢゅー」


おぉそうだった。響って実はインドア派で、編み物や読書(ラノベ)とかが大好きなんだよ。

そこに加えて動物達の世話もあるから……その動物達もみんな可愛いんだー。今度紹介しよう。


≪本来なら詩文形式での書き出しと、解読の難解さでとんとんのはずなんですけどねぇ。難しいものですよ≫

「……美希はやっぱりちんぷんかんぷんだけど、その……カリム、さん?
その人には凄く残酷だっていうのは分かるかな。
それで人助けもしてきたのに、全部含めて悪く言われちゃうなんて……」

「だとしても知っておくべきことだ。本気で力と向き合うのならね」

「なんでプロデューサーは、そこまで言い切れるのかな。やっぱり友達が巻き込まれたから?」

「違う。……僕も」


そう言いながら右手を掲げ、魔力を出してみる。まぁ、戒めるためにすぐ握り潰すんだけど。


「先生から突きつけられたクチだからね」

≪この人、荒れていた時期に……無意識的に魔法を使っていたんですよ。
身体強化や防御フィールドで、大人と殴り合いもしていて……≫

「……後悔、しているのかな」

「自覚せずに振るうのは嫌だなって思っただけだ」

「じゃあ恭文くん、そのカリムさんもだけど、なのはちゃん達も……例えば事件捜査とかは」

「事件捜査どころか活動自体が無理ですよ。そもそも余所と連携できないんですから」

「どうして、こんなことに……合コンのときとかはみんな楽しそうだったのに」


雛見沢での合コン事件により、なのはやはやて達とも知り合った小鳥さんは、少し悲しげに視線を落として……。


「僕も大反省ですよ。もっと早くにその仲良しをぶち壊しておくべきだった」

「えぇ…………って、それもどうかと思うわよ!?」

「だってそうしておいたら、傷が浅く済んだでしょ?」

「せめて傷つかない方向でー!」

「まぁ言いたいことは分かるけどね」


シャルルを撫でながら、伊織が左隣に座ってため息……それも深く、自重するようなため息だった。


「で、アンタはどうするのよ」

「まぁ予想された状況がヒドくなっただけだ。プラン変更は特にない」

≪クロノさんもようやく腹を括ってくれましたからね≫

「まぁ止めようとしてもどうせ無駄だろうし、何も言わないけど……」

「むしろ僕が言う立場だしね。おのれらもちゃんと気をつけといてよ?」

「だからアンタもここまで説明してくれているしね。……そっちはお父様達にも相談しているし、アンタは余波が広がる前にカタを付ければいい」

「ありがと」

「プロデューサー……やっぱり、戦うんですかぁ……?」


すると雪歩が心配そうにこっちを見て……まぁ心配するなとは言えなくて、つい苦笑して頷く。


「だって、お話を聞く限り……相当、危ない感じに……」

「そうして法を守るために法を破ることを恐れ、全部見過ごしても……僕達はやっぱり犯罪者だ。
だったらどっちがいいかって話だよ」

≪でも損な戦いですよ。
レジアス中将達もパノプティコンプロジェクトについては放棄するしかない。
無論ミゼット提督達も、はやてさん達も、局を追われる程度の痛みは払うでしょう。
管理局の威信も地に落ちるでしょうし……もしかしたら奴が決起を企んだ瞬間から、勝負は付いていたのかもしれません≫

「我ながら警察官や役人には向いていない性分だと思うよ」

「プロデューサー……」

「まぁそんな泣きそうな顔はしなくていいよ。ちゃんとここにも帰ってくるし……それに」


――第45話


「戦力なら、あるよ」


『ユートピアなど認めない』


(第46話へ続く)







あとがき

恭文「というわけで……今回もいろいろ調査したり、交渉したり、状況が悪化したりで大混乱!
もうこのまま公開意見陳述会編に入っても問題ない形に……ようやくここまできたぞ……!」

古鉄≪果たして敵方はどう倒していくのか。新キャラ達のいろんなフラグは処理できるのか。
ところであれですか。ルーミンさんとのアバンチュール話はまだですか≫

恭文「いきなりすぎるわボケ! それにほら、それより……ラスベガスだよ!」


(そう……またまた出てきたラスベガス(仮)。
FGOでは水着剣豪イベントが復刻しました。しかも二十九日まで! たっぷりだよ!)


恭文「まぁ状況が状況だし、イベント長めは仕方ない。あとは……PU2か……!」

古鉄≪あぁ……あなた、去年はラムダリリスさんをスルーしたから。おかげでメルトさんがとても不機嫌になって≫

メルトリリス「ねぇ、約束したわよね……復刻したら引くと。宝具レベル5になるまで引くと。
今度はあのシンフォギア混じりなクソステアサシンではなく、私単独ピックアップのときに引きまくると」

恭文「ちょっと待て! 宝具レベル5は言ってない! 引くとは言ったけど、それは違う!」

メルトリリス「なにを言っているのよ。この私を引くということは、最高のものを目指して当然でしょ?」


(蒼凪荘のメルトさん、いろいろ待たされてウズウズです)


恭文「というか、お願い……一枚だけで許して……」

メルトリリス「駄目よ。ランサー枠が多いなんて言い訳も許さないから」

恭文「そっちじゃなくてぇ!」

メルトリリス「じゃあなによ」

恭文「…………アルトリア・ルーラー、宝具レベル3……だよね」

メルトリリス「…………あ」


(そう……実は去年のピックアップ、狙いだった沖田さん(アサシン)より出まくったのがアルトリア・ルーラー。
結局宝具レベル3になり、いろいろ困ってしまったのだ)


恭文「今年もまた同じ流れになったら、あの特殊素材が……十個集まらないと意味がないのに……!」

メルトリリス「……ならそれくらい引きなさい。私は構わないから」

恭文「さすがにそんな余裕はぁ! 今年の夏もあるのに!」

メルトリリス「大丈夫、アンタならできるわ。ほら、ぽいぽいぽいでボイジャーを出しまくった女もいるじゃない」

恭文「高橋李依さんの話はやめろぉ!」


(さすがに家族持ちでモヤシ生活はどうかと思う、蒼い古き鉄だった。
本日のED:ハクア starring 早見沙織『dis-』)


パッションリップ「……お母さんやメルトも水着になったし、私も……頑張りたいなぁ」

メルトリリス「いや、リップが水着になると……全身モザイクじゃない」

パッションリップ「モザイク!?」

メルトリリス「CCCから服装を変えられたのを忘れたの?」

パッションリップ「だから、そうならないように! お洒落で可愛い感じで!」

恭文「ふむ……なら僕がデザインしよう!」

パッションリップ「え!」

恭文「まぁまずはイラストに起こすところからだね。リップの意見も踏まえて、いろいろ探してみよう」

パッションリップ「はい! なら私、頑張ります! 卯月ちゃんじゃないけど、頑張ります!」

白ぱんにゃ「うりゅー♪」(リップの肩に乗っかり、楽しそうにすりすり)

メルトリリス「……楽しそうね。私にはそんなことしなかったくせに……一年スルーしたくせに」

古鉄≪ヤキモチですか?≫

メルトリリス「違うわよ。余りに愚かな判断だと呆れているの」(ぷい)


(おしまい)





[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!