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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第39話 『勝利者などいない/PART1』


七月三十一日――早朝


結局108で一夜を過ごしたものの、早朝にちょっとお出かけ。

ギンガさん達にはバレないよう、近隣に止まっていた乗用車へ乗り込み、運転席にいる奴を見やる。

夏に黒尽(ず)くめで、あきれ顔の男を。……そう、僕のお友達で風見鶏です。


「全く、お前は……どうしてそう毎度毎度、面倒な奴らに絡まれるんだ」

「どうしてだろう。僕達がカッコ良すぎるから……というのは違うらしいんだよ」

≪あなたは知ってます?≫

「……お前とクロスフォード女史達が、ヘイハチ・トウゴウの弟子だからだ」

「あ、やっぱりそっちなんだ」

「ヘイハチ・トウゴウも英雄やら言われているが、実のところ特別な資質は一切持ち合わせていない。
瞬間・詠唱処理能力がない分、むしろお前より下と言っていいだろう」

「……だね」


マスター級は揃いも揃って、そこまで高い先天資質を持ち合わせていない。それはファーン先生も同じだ。

それでも持てる知恵と技術を使い尽くし、一騎当千のエースだろうと屠るのが達人なんだけどさ。


「ただその本人は、弟子と元相棒のお前達でも連絡が取りにくい」

「先生、携帯も持たない主義だから」

≪それでグランド・マスターの代わりに、この人やヒロリスさん達ですか? 節操がないですねぇ≫

「戦闘力の点で言っても、非現実的だからな。……特に危ないのはお前だぞ」


風見鶏、朝っぱらから睨(にら)まないでよ。状況に頭が痛いのは僕も同じだから。


「クロスフォード女史達と決定的に違う点……それは、お前がアルトアイゼンを受け継いだことだ」

「それは分かってる。まぁいつも通り楽しんでいくよ」

≪何せ三億がかかってますからね。アルトアイゼン教の布教ですよ、布教≫

「相変わらず馬鹿だな、お前ら……ほれ」


風見鶏からタブレットを渡され、ぽちぽちと入金手続き。


「でも僕としては、別の理由が気になってるよ」

「……なぜ機動六課――ハラオウン一派が、か」

「資料室のメリル・リンドバーグから教えてもらったけどさ……。
AMC装備開発の利権やら、六課設立の後押しやら……結構目にかけられているっぽい」

「メリル・リンドバーグ?」

「うん。……知り合いだっけ」

「……………………落ち着いて聞け」


え、どうしたのよ。いきなり……しかもまた表情が硬くなって。


「彼女は襲われた」


……………………一瞬、なんの冗談かと思った。

でも風見鶏がこんな冗談を吐くはずがない。だから言われたとおり……こみ上げるものをしっかりと飲み込み、問いかける。


≪なの……!? だ、だって……あの……≫

「ジガン。……どういうことよ」


本当に……六課へ戻る理由がなくなってしまった。

昨日の話が全部本当なら、メリルは機動六課に殺されたようなものだ。


それは変えられない。どう足掻いても…………変えようがない現実だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


仮眠室にいたら、父さんにたたき起こされた。

それもなぎ君や楓さんには内緒で。というか、私達まで冷静じゃなかったら駄目だからという、わけが分からない話だった。


でもすぐに意味を理解する。


「どういう、ことですか……リンドバーグ一士が襲われたって!」


………………余りのことで、足が……足が、震えてる……!

だって、なぎ君の友達なのに……それが……確かに、そうだ。私まで混乱してたら、なぎ君が……!


「昨日の夜九時頃……中央に向かう途中の第七サービスエリアで、男二人と女が揉めているという通報が入った。
これ自体は近くを通りがかったドライバーが入れたんだが、近くの警ら隊が来るまでに男達は逃亡。女は血だまりを作りながら倒れていた。
その後病院に搬送されたが、現在意識不明の重体。
……それがメリル・リンドバーグ一士だった」

「そんな……!」

「幸い発見が早かったから、そのまま失血死ってコースは避けられたがな」


昨日会って、話して……なのに、なのに……!


「ただよぉ、どうもそれ……怪しいんだよ」

「え……」

「そこの警ら隊に勤めている奴は、俺の古い知り合いでな。だからなんとか教えてもらったんだが……」


打ち震えていると、父さんが軽く頭をかく……。


「防犯カメラから分かったことだ。犯人達はリンドバーグ一士の近くに停車し、タイヤをチェックしながらガタガタと騒いだ。
それでリンドバーグ一士が車に近づいたところを、後ろからぶすりと刺してんだよ」

「……車のトラブルを装ったということでしょうか。それならまだ」

「問題はその後だ。確かにリンドバーグ一士の財布やら、ダッシュボードの小銭入れやら……車もかなり荒らされていた。
だがよぉ、残ったままなんだよ」

「なにがですか?」

「リンドバーグ一士が、護身用に……使用許可を取っていた拳銃が、ダッシュボードに」


……………………そこで、また冷たいものが背筋を通り抜ける。


「………………父さん……!?」

「お前達もその車に乗ったんだったな」

「はい……あれは、覆面車です! あの、他には!」

「リンドバーグ一士が持っていた仕事関係の書類、何枚か破られた跡があったそうだ」


…………それはあり得ないことだった。


車のトラブルを装い、リンドバーグ一士を襲った。一人乗りの車で、それが女性なら……うん、まだ分かる。狙いやすいと思うよ。

だけど、襲った後で……まず車の中やダッシュボードを見て、気づくはずだよ。彼女が局員だって。

しかも拳銃まであったんだよ? なのに、それには手つかず?


あり得ない……そんなの絶対あり得ないよ。

局員を殺害なんてことになれば、管理局も血眼で追い立てる。

自衛のために銃を奪うくらいはしてもいい。なのに……!


「拳銃放置はまだ分かる。
動揺していて、怖くなったとかならよ。
魔法能力者なら”そんなもの”と思うかもしれない」


父さんも話を聞いて同じものを感じたらしく、渋い顔だった。

だってこれは、母さんが死んだときにも……家族みんなで突きつけられたものだから。


「だが仕事関係の書類を、一部だけ破っていくのは説明できねぇ。
金銭に結び付くかどうか以前の問題として、それならファイルごと持っていくだろ」


それなら、ちゃんと中身を見て、これだって思ったものを破る……そういう冷静さがあったの! 混乱なんてしていない!

これだけで言い切れるよ! 犯人は間違いなく冷静だった! 冷静にそんな行動を取っていた!

だから突発的な事件なんかじゃない……全部故意に……狙いは、彼女が持っていた書類の方!


彼女は、明確に……その情報のために、命をゴミみたいに踏みにじられた――――!


「……お前らに資料を渡したのは、どうやら利用するってだけじゃあなかったらしいな」

「…………でも、リンドバーグ一士は……生きているんですよね」

「未だ予断を許さない状況だが……いや、それ以前の問題か」

「また襲われる可能性が高い……!」

「上手くその辺りを理由に、こっちで保護できりゃあいいんだが……」


なにか、感じていたってことなのかな。だから私達に……というより、信用できるなぎ君に資料を渡した。

しかもヒントまでくれて……それもよくよく考えたら、秘密警察の疑いすらある部隊の行動とは思えない。

でもリンドバーグ一士……約束、してたじゃないですか。なぎ君とご飯の約束を。


『――!』


……目頭が熱くなっていると、通信コールが届く。


「父さん……」

「サリエルから……しかも秘匿回線だと?」


父さんも気になりながら、通信を繋ぐ。私も脇に寄ると……少し焦った様子のサリエルさんが、画面にずいっと詰め寄って。


『三佐、ちょいとご無沙汰してます。……あぁ、よかった。ギンガちゃんもいたか』

「サリエルさん、ご無沙汰しています。それで、あの……」

『六課を探っていたメリル・リンドバーグ一士が襲われたんですが、その件は』

「知り合いがいたおかげでな。結構怪しい点があったってのも……」

『そのせいで資料室も大騒ぎですよ。……犯人が自首もしましたし』

「………………は?」


かと思ったらサリエルさんは、とんでもないことを言いだした……!




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


リンドバーグ一士が襲われた。謀殺にしか見えない方法で傷付けられ、生死の境をさ迷っている。

それだけならまだしも……。


『そのせいで資料室も大騒ぎですよ。……犯人が自首もしましたし』

「………………は?」


サリエルさんは、とんでもないことを言いだした……!


『今日の未明です。局員を刺したと、中央に……二人揃って。
犯行に使われたナイフも持っていたので、その場で中央の職員が緊急逮捕を』

「おいおい、そりゃ……いや、だが……あぁ、そうか……!」

「父さん……」

「警ら隊の知り合いも言ってたんだよ。現場の映像も残っているし、リンドバーグ一士が流した血の一部に、タイヤ痕が刻まれていたってよ。
そこまであれば捕まるのも時間の問題だし、それがまた疑問だったんだが」

「最初から、捕まることが前提のスケープゴートだった……!?」

『または代理出頭だな』


そうして、本当に罪を犯した人は悠々自適で笑っているということで……でもこれだけじゃなかった。

こんなもの、まだ序の口だった。


『その辺りの取り調べは、中央がやることになる。出頭したのもあそこだからな』

「私達じゃ管轄外だから、手出しができないんですか!? もちろん六課のみなさんも!」

『それで事件解決。リンドバーグ一士は不運に襲われただけの話で済む』

「でも、書類を奪ったことも……それも話が表に出なければ問題なし?」

『本局の……それも資料室の人間がミッドでコソコソ動き回っていたんだ。そういうもみ消しも十分にあり得る』


それはつまり、中央までグルの可能性があるということで……ううん、そういう問題じゃない。

ここまでの要素がありながら、これを”ありふれた事件”で終わらせるという、局員にあるまじき有り様だった。


『しかも、更に大騒ぎすることがある』

「まだ、なにか……?」

『朝一番で第七資料室に、レリック事件の捜査中止命令が下った』

「はぁ!?」

「……六課からの仕事引き継ぎはなしってことか!」

『表向きには”他に重要度の高い案件があるため、そちらを優先してほしい”という話になっていますけどね』


サリエルさんもウンザリという様子で吐き捨てる。それほどに強行的な命令だったのは、すぐに察することができた。


『その辺りで糸を引いていた他の機動課や高官にも、機動六課への協力を強化するよう内密に通達が下っています。
でも、実質強制ですよ。妨害工作に取られかねない根回しを見逃す対価にって話ですから』

「指示はどっからだ」

『本局の警備課長≪バレル・グランディ≫からです。
でも根っこはどこから来てるんだか……あの狸親父、上層部の腰ぎんちゃくで有名ですし』

「核兵器密輸の件も含めてか……!?」

『含めて、ですね』


――――管理局の……捜査をするお仕事と言っても、いろんなところがある。

フェイトさんがいた次元航行部隊のような、海の上の仕事もある。

広域次元犯罪を追う部署だけでも、窃盗や殺人、密輸など各分野に別れて捜査している。


その中でも警備課は、要人警護などを担当している。……こう言うとあれだけど、実際は思想犯や過激派なんかを相手取ることも多いそうなの。

ようはそういう要人に対して脅迫し、テロをしかける相手を逮捕ってことだね。でも、あぁ……そっか。

仕事内容としてはなぎ君から聞いていたものと近いから、連携を取っていたんだね。だからそういう形で”要請”をしたと。


だけど、これを素直に受け止めろと言う方が無理だよ。余りにタイミングがおかしい。


「……他の機動課、また顔が真っ赤だろ」

『そりゃそうですよ。本来門外漢なこっちもザワザワしていますし、しかも……』

「ちょっと、待ってください……だったら、本局の主力投入は!?
現時点で、機動六課だけで解決するのは不可能じゃないですか!
核兵器の話が眉唾でも、現にフォーミュラが!」

『……その辺りなんだが、主力投入は……あり得るかもしれない』

「え?」

『昨日連発した騒動やそれらの要因を受けて、SAWシステム導入部隊の投入も検討されているんだよ。六課はその先鋒だ』


――――それは、私達からすれば絶望に等しい状況だった。


「でも、レジアス中将が……」

『まぁ落としどころとしては、信用性がハッキリするまでは本局だけで……機動六課も含めた部隊だけで登用。
地上部隊はAMC装備でなんとかフォーミュラに対応ってところだろうな』

「だから先鋒……スバル達は、正真正銘使い捨て前提の猟犬にされている……!?」

『八神部隊長やクロノ提督達が望んだ通りのコースだ。
……三佐、この調子だと108にも協力強制が届くかもしれません。
もちろんスバルちゃん達の脱退もなしだ』

「黒幕がいるとして、一体何がしたいんだよ」

『……ヴェートル事件の再現、とか』


……それは、確かに妄想に近いものだった。


『あの事件で本局とヴェートル中央本部は何もできず、むしろ捜査妨害をするほどだった。
でもそれが間違いだと……管理局にはそれだけの力があるのだと証明できたら?
奴らと同等以上の脅威度を誇る犯罪者がいて、それを管理局の一部隊が中心となって制圧したら?』

「そんな実験が成立するんですか!? というか、それで自分達の悪事が暴かれる可能性もあるのに!」

『前に心理学の先生が言っていたよ。人間の意志決定は、育ってきた環境はもちろん、置かれた状況によっても決まる。
あのときのGPOややっさんみたいな状況に六課を置いて、そういう”英雄”を意図的に作り出せるのなら……』

「……!」


…………そこで、強く、強く……息を飲んでしまう。

だってそれは昨日、楓さんとなぎ君のなれ初めを思い出したとき、引っかかったものだから……!


「おいおい、そりゃ本当に妄想だぞ。しかも主力投入までしておいて」

「……あり得るかも、しれません」

「ギンガ?」

「現にスバルも、ティアも、六課に……あの場所に、仕事場以上の思い入れをしています!」


だってティアは昨日、言っていたもの。

六課のみんなと一緒にって。甘いかもしれないけど、そうしたいんだって。

それはどうして? 一体誰のせい? ティアの本当の気持ちだけど、何がキッカケ?


それを利用とする誰かがいないなんて、どうして言い切れるの……!?


『……やっさんも一年前、GPOやEMPをそんな場所に捉えていた。だがそれはある種の停滞とも言える。
だからシルビィちゃん達も、やっさんも、そこで留まらず新しい一歩を踏み出したんだ』

「でもあの子達は留まるしかない。留まりたいと思い続けて、周囲もそれをよしとする。
だからそれ以外から……六課以外の世界から、あの子達は隔絶される」

『そう考えると、八神部隊長とかが強行的なのも頷けるな。
ある意味ハラオウン一派が、その繰り返しで成立した組織だ』

「なんてこった……!」


それすら再現しようとしているなら……そうして都合よく真実をねじ曲げようとしているなら、それは余りにも恐ろしいことだ。

だって、その技術を使って……ううん、もしかしたら既にそうして、この社会が形作られている可能性だってあって。


『その”妄想”を除いたら……既にスカリエッティ一味を逮捕したときの流れが、隊長陣や法的担当者の間で決定しているとかだろうか』

「口封じの手はずは決まっているから、他の手が伸びるのは困るって話か……」

『現にラプターを殺すなとか、頭がおかしいとしか思えない判断も当然にしていましたからね……。
まぁそれについては、ヴィータ副隊長が独断行動で犯人を取り逃がした件とか、シャマル医務官を致し方なしとはいえ現場に出した件とかもありますけど』

「あぁ……そっちの処罰もされないってことか」

『なんにせよろくなものじゃないです。しかも八神部隊長やスバルちゃん達を説得しようとしても、逆に六課への信望を厚くさせかねない』

『現に蒼凪氏がルーテシア・アルピーノやアギトに対して試みた説得は、そういう結果を生み出しましたからね……』

「……否定を慰め、励まし、支えることによる周囲からの隔絶化ですよね。なぎ君もちょっと触れていました」


それならアギトやゼスト・グランガイツの偽者があそこまで偏執的なのも説明できるし、ティアナ達の状態だって……。

だから……やっぱり、あり得ちゃうんだよ。六課を、ハラオウン一派をそういう暗示にかけて、自分達の尖兵として取り込むやり口は……!


なのに、それから妹やその親友を引きはがすこともできない。それが今の私達だった。


「まぁ話は分かったが、お前も気をつけろよ? ヒロリスともども、まず間違いなく目を付けられてる。
……お前の”妄想”が正しいなら、余計にだ」

『全力で注意しますよ。でも、俺らより三佐の方が』

「上手くやるさ。そのための立場だからな」

『……なら、それができたらまたナイターなりで楽しく飲むってことで』

「おう」


そうして通信は足早に終わり……私はただ、余りの驚愕で打ち震えるしかなくて……。


「ギンガ、お前も予定通り……あぁいや、話を聞いてからだったな。
だが姿を眩ませる準備だけはしておけ」

「父さん……」

「いざとなったら実力行使でいい。後のことは……恭文のお袋さん達も含めて、なんとかする。心配するな」

「……分かりました」

「資料もそのまま持ってろ。だが絶対なくすんじゃねぇぞ」

「そんなこと、しません……」


また浮かんでいた涙を払い……持ってきていたあの資料を、強く……強く抱き締める。


「命と一緒に、守り抜きます――!」


リンドバーグ一士、雪辱が晴らせるかどうかは……今は、分かりません。

だけど、それでも約束させてください。一人の人間として、捜査官として……全力を尽くすと。


私はあなたの痛みを、物取り強盗なんて嘘に塗れさせたくないから……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


どう考えても謀殺にしか思えない方法で、一人の捜査官が殺されかけた。というか、いつ殺されるかも分からない。

更に六課を後押しするような圧力が走り、全てが加速していく。

……これで確定だ。


メリルは明確に、機動六課の背後関係を調べて……そして消されたんだ。


「………………やってくれやがった……!」


拳を握り、左手で軽くドアを叩く。……本当はガラスを砕きたいほどにいら立っていたけど、人の車だし……ここは踏ん張る。


「随分親しかったようだな」

「素敵なオパーイなんだ」

「……そこは、魂に変換していいよな?」

≪シニカルで、しかし正義感も内包していて……いい女性なのに≫

≪なのぉ……≫


……メリル、約束したのに……ご飯を食べに行くってさぁ。

いや……おのれはしぶとい奴だ。だったら約束が守られる状況くらいは、僕が整える。


「……風見鶏、追加料金は払うから、依頼を受けてくれないかな」

「リンドバーグ一士の身辺保護だな」

「それと警備課長の調査だ」


この状況で、馬鹿みたいに首をもたげてくれたんだ。当然逃がすわけがないじゃない。


「今すぐに……死に神の鎌にも頼んでくれていい。
手段を選ばず、奴らから知っていることを根こそぎ吐かせろ――――!」

≪主様……≫

「百万二百万じゃ済まないぞ。それに彼女が耐えきれなかった場合も責任は持てない」

「さすがにそこで文句は言わないよ」


そこは大丈夫と、あえて……あえて笑ってやる。


「了解した。……実を言うとこちらもそれが狙いでな。既に彼女の周囲にはアイシアやソラについてもらっている」

「アイシアさんはともかく、ソラ君も?」

「警備課長の方も今洗っているところだ。さすがに時間がかかりそうだがな」

「まぁ、何かあったら黒幕連中に『お前を追っているぞー』って知らせるようなものだしね。うん、そこも納得する」


アイシアさんというのは、風見鶏の恋人。もはや夫婦同然だよ。

それでソラ君は……次期風見鶏として、すくすく育てられている小さなアサシン。少なくともエリオ達よりは腕も立つ。


二人とも風見鶏の仕事をちょこちょこ手伝ってはいるんだけど、まさかこの状況で動いてくれるとは……。


「なので料金は」

「相場通りでいいよ」

「……そうだな」


風見鶏に端末を一旦返すと、必要な入力金額を再設定。

なのでもう一度受け取り、その金額を……二千万近い金を迷いなく振り込み。


「これは、覚悟の問題だ」

「うん」


それが終わると死に神の鎌に……十二宮の名を宿すアサシン達にも連絡。


「俺だ。蒼凪から追加の依頼が来た。……依頼内容は三つ。
襲われたメリル・リンドバーグ一士の身辺警護。
彼女を狙うであろう不届き者を捕らえ、手段を問わず持ちうる全ての情報を吐かせること。
そして本局捜査部・警備課長≪バレル・グランディ≫の身辺調査と、二つ目と同じくあらゆる情報を吐かせること。
既に依頼料は振り込まれている。難しい依頼ではあるが、各自迅速な対応を望む」


その端的なメッセージで取り引きは終了。風見鶏はやや疲れた様子でため息を吐く。


「依頼を受けておいてなんだが、局員をアサシンが秘密裏に護衛というのも……世も末だな」

「それを言えば、その局の民間協力者がそんな依頼をする時点でアウトだ」

≪しかも警備課長も潰せーって話もしましたからねぇ。まともなやり方じゃありませんよ≫

「……思えばハラオウン親子や八神二佐も、そういう”まともじゃない”現状を変えたかった……最初はそのはずだったんだがな」

「それを言えばレジアス中将だって同じだ」


あいにく僕達は理解している。これがまともじゃないし、本来あるべき正しい形じゃないって。

でも僕達は結局僕達の意志で、勝手で、そういう暴れ方をしている。いろんな失敗を繰り返しながらさ。


だからこそ、まともな手段と道筋を作ろうとする人には、相応に敬意を見せるべき……なんだけどね、本来は。


「例えば六課の査察絡みだ。確かに今人員整理やシフト変更が行われれば致命的だろう。
だがそこで三提督の権力を使ってしまえば、それはまともじゃない手段を肯定する。
彼女達が正すべきだった悪を肯定し、それと同一化することになるんだ」

「それは昨日のはやて達からも散々感じたよ」

≪とにかく信じろ、何とかする、みんなを守る……オウム返しみたいに喚くだけでしたからねぇ≫

「機動六課の面々に良識があるなら、ここで部隊を閉じるのが当然なんだがな……」

「そりゃ無理だ。間違いなく危ない橋を渡しにいく」

「せめて、自覚だけは持っていたいものだがな……」

「常々自分に言い聞かせないとねぇ……」


妙に自重しながら、揃って車を降りる。

風見鶏はトランクの鍵を開け……。


「ほれ、持っていけ」


大量のデバイス製作用資材と工具、電子部品をを見せてくる。

わぁ、これを隠しながら家に持って帰るのは大変だぞー。


「また大量に用意してくれちゃってー」

「お前の注文だろうが。……だがなんとかできるのか」

「……世界一アテにしたくない女にも、手伝ってもらうからね。うん……なんとか、する」

「…………よく分からないが、頑張れ」


風見鶏、お願いだから励まさないで。肩を叩かないで。

その『やっぱり夏は鬼門だったか』って顔をしないで。こう…………泣きたくなるから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――同時刻

ミッドチルダ市内≪ゲイズ家邸宅≫ 応接室



核密輸の捜査やフォーミュラへの対策……中央を預かるトップとしては、極めて重たい話になってきた。

とはいえ止まってもいられない。蒼凪嘱託魔導師のアドバイスも受けて、一つ考えを纏めていた。

こちらも六課のような専従捜査班を編成し、スカリエッティ一味の動きを追う。もちろん核攻撃の危険性についても、対策を考えていく。


そのためには本局との協力体制も……父をどう説得するかが問題だったので、それに頭を痛めていたところ。


『――というわけだから、SAWシステム導入部隊の駐留を許しちゃもらえないかねぇ。
AMC装備についても……まぁ全域は難しいけど、それでもできるだけ多くの部隊で使えるようにする』

「……正直失望しておりますぞ、ミゼット提督。あなたは英雄としての後光をよしとはしなかったお方だ」

『それは言わないでおくれよ。私も下からせっつかれている身でねぇ』


朝一番で……我々にミゼット提督直々のご連絡があった。

そしてスカリエッティ一味によるテロ事件を迅速解決するため、本局の新システム導入部隊と、AMC装備の提供を打診された。

ただしそれと引き替えに、一つ条件を出されてはいるが。


「それこそご冗談でしょう。でなければ、機動六課のような鈴を付けるはずがない」

『……でも実際、アンタが嫌っている預言通りの状況が起きてもいる』

「確かに……」

「オーリス」

「中将、蒼凪嘱託魔導師からも彼らの行動の危険性が改めて提示されています」


彼から早速……後日と言っていたのに、早速送られてきた報告書をモニターに表示。

それを中将の前に置くと、通常はソファーに腰掛けながら、渋い顔でそれを見やる。


「公開意見陳述会やSealingの調印式は元より、去年の事件を受けて、市民は管理局による治安維持の信頼性に疑問を持っています。
その根幹の一つが『本局と各地上本部との軋轢』ですので、それを解消するPR作戦としても悪くはない提案かと」

「だが例のシステムは信用できるのか」

『そちらは本局技術部と先進技術開発センターが共同でしっかり監督していく。
テストも……まぁ急ピッチではあるが、きちんと段階を踏んで実用に値するレベルだからね。心配ないよ』

「ミゼット提督、失礼ですが誤解を招く発言は控えるべきかと」

『どういう意味かね』

「SAWシステムの根幹は、異世界エルトリアから持ち込まれたフォーミュラシステム……それを今回スカリエッティ一味が盗用しているのも、既に把握しています。
無論あなた達が重用している機動六課が独自開発した、ライズキーも含めてのことです」

「なに……!」


中将もさすがに我慢がならないと視線を厳しくすると、ミゼット提督は大きくため息。


『……それも、恭文からの報告だね』

「えぇ」

『だから、その点も含めての監督なんだ。納得はしてくれないかね』

「でしたら最初に、全てを提示するべきかと」

「全くだ……! そんなに可愛いのですか。あの元犯罪者の集団が」

『彼女達はきちんと罪を償っているよ。その言い方は』

「それでも罪人は罪人だ」

「中将」


……中将のお気持ちも分かる。しかしその水掛け論は非効率と諫めると、中将は不機嫌そうに鼻息を漏らした。

さて、こうなると……レポートで事情を把握している私が、上手く纏めるしかないか。


「――ミゼット提督、まずシステムの信頼性や一味による盗用経緯がハッキリしない限り、ミッド地上部隊への導入は決して認められません。
ですがその他の提案や、機動六課という部隊の残留はこちらとしても意味が出てきました。
まずは詳細な資料を送って頂けますでしょうか。その上で中将達と相談し、一両日中には結論を出したいと思います。
中将、問題はあるでしょうか」

「……いいだろう」

『分かったよ。なら機動六課への査察も』

「そちらは予定通り執り行います」

『それも、示しだけならなんとかならないかね……』

「そちらについては、システムの根幹を隠していたペナルティーと考えていただきたいものです。
もちろん彼女達にこの取り引きについて教えることも禁じます。そうでなくては意味がありません」


元犯罪者集団をハラハラさせる程度はしないと、こちらも収まりが付かない。無論私と中将だけの問題ではない。

暗にそう告げると、ミゼット提督は諦めた様子で首肯。


『……全て了解したよ。でも……恭文との契約は継続するのかい?』

「無論です。あなた方六課を見張る鎖として、彼は十二分に機能してくれていますので。
更に言えば……今回の件を鑑みて、専従捜査班の編成を始めるところです」

「オーリス、それは」

「今朝ご提案しようと思っていたところなんです。
……彼にはそちらにも協力してもらう予定です。
なので”ミッド地上の戦力”である彼に、システムの投与は決して許可できません」

『それも、上手く折り合えないかね……。その専従捜査班と六課の目的も同じなら、あの子はそれらを繋ぐ楔になる。
何よりアンタ達に偏重することは、あの子が六課の中で培った縁故を潰しかねないんだよ』

「失礼を重ねてしまって申し訳ありませんが……なんのご冗談でしょうか。
ここまで事態を悪化させたのは、紛れもなくあなた方のはずです」


……我ながら暴言だとも思う。

しかしそうやって六課に彼を縛り付けられるのは、我々としても望むところではなかった。


「なによりこれは彼にも打診し、了承をいただいた案件です」

『なんだって』

「彼は八神部隊長達の判断に、ヒドく不満を持っているようでしたよ?
システムの信頼性も立証できないというのに、それを絆だなんだと感情論で誤魔化す有様に。
……それを部隊員にも強いて、ある種の洗脳を施している有様に」

『そんな言い方はないよ。なによりはやて達はそんな子じゃ』

「どうしてそう言い切れるのですか。部隊に足を運んでもいないあなたが……こんな事態に巻き込まれた若者達に、頭一つ下げていないあなたが」

『……』


そう……これまた暗に言っている。

一つは彼自身が、機動六課を信頼できず、こちらに保護に近いものを求めているという事実。

一つは準マスター級で戦闘での切り札足る彼が、システムの悪用により戦えなくなる事態を避けるための保険。

一つは専従捜査班の情報が、システムを通じ本局に把握されることは許せないという警告。


特に三つ目は至極当然のことだ。そのようなシステムを導入する時点で、機動六課も、本局の駐留部隊も信頼が全く置けない。

だから彼もまた自分の身を守るため、我々を利用してくれている。我々も彼の能力を評価し、利用している。

それは決して健康的な関係ではないかもしれないが、私達にとってはなんの問題もなかった。


お互い、事情はどうあれ得をし合う……利益を提供し合えるというのは、この社会の大前提だからだ。


「なのでこれらの約束が破られた場合、我々にはあなた方に相応の報復を行う手段がある……それを忘れないでいただきたい」

『……そうやってなんでもかんでも強引に取りまとめるやり方は、敵を作るだけだよ。もうちょっと私らを信頼してもらえないかねぇ』

「ミゼット提督、答えてください。条件を飲みますか? それとも……」

『分かった……それも飲もう』


提督は諦めた様子で息を吐き、こちらに敗北宣言。

軽く中将を見やると、自分は問題なしと頷きが返ってきた。


「では早急に、駐留部隊やAMC装備の提供概要を送ってもらえますか。それがなくては会議もできませんので」

『あぁ、すぐ送るよ。
……ただね、オーリス三佐……レジィ坊や、一つだけ覚えておいてほしいんだよ』

「なんでしょう」

『あの子達の言葉は甘くて、身勝手に聞こえるかもしれない。だけどね……真剣なんだよ。
自分達もそんな優しさに救われたからと、全力を出しているだけなんだよ。見ているものは違うかもしれないけど、アンタ達と同じさ』

「「……」」

『私らは、きっと分かり合えるよ。今は遠い未来でも……いつか、きっと』


――――そうして通信が切られる。中将は最後の言葉が引っかかったのか、不愉快そうに鼻を鳴らした。


「下らん……ミゼット提督ともあろうものが、ついに耄碌したか」

「……中将」

「分かっている。……資料が届き次第、急ぎ取りまとめるぞ。
その後は各地上部隊に通達しろ。本件で獲得した情報は、駐留部隊及び機動六課との共有を一切禁ずるとな」


それをなぜかなど、聞くまでもない。機動六課がザル状態なのは、昨日の一件だけでも十二分に証明されている。

更にシステムの管理化に置かれた部隊に、貴重な捜査情報を提供すればどうなるか…………っと、そうだ。それで一つ報告があった。


「それともう一つ……本局資料室の捜査官が昨晩、車上荒らしを騙った何者かに襲われました」

「……車上荒らしを騙った?」

「犯人は既に出頭していますが、ただの車上荒らしについては不審点が幾つか……。
その捜査官はどうも、機動六課の背後関係を洗っていたようです」

「オーリス、その犯人達への取り調べは、我々の管理下で念入りに行う。
多少手荒にしても構わん、知っていることを全て吐かせろ」

「捜査官は現在首都病院にて集中治療中ですが、護衛などは」

「付けておけ。恩を売るのにもちょうどいい」

「了解しました」


……これでまた、針が一つ動く。

我々が想定しない形ではあるが、戻らない針が、確かな音を立てて動く――。


第39話


窓から空を見ると、ミッドの月二つが……それを両断するように横切る飛行船が、朝の空を彩っていた。


『勝利者などいない/PART1』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七十五年(西暦二〇二〇年)七月三十一日 午前十時二十八分。

ミッドチルダ北部・ベルカ自治領≪聖王教会≫本部付近



アニタさんとカルタスさんに脇を取られつつ、聖王教会へ移動。

それでサリさんから、車内に通信がかかってきて……。


「――エアリス・ターミナル?」

『ゼスト・グランガイツ達の足取りを追ってみたんだが、奴ら……定期的にそこへ出入りしてたんだよ』


今朝ギンガさんとゲンヤさんに連絡して、その直後だったから……まぁ僕達もビックリして。


『ほれ、最近飛行船広告を出している会社があるだろ』

「あぁ……首都の方で飛んでいるやつですね。でもよく分かりましたね」

『お前は現場で暴れすぎなの』

「そう言えば、私も捜査活動中に見た覚えが……」

『それで洗ってみたら、レイラ・セキュリティ・コーポレーションってとこと繋がりがある公然(フロント)企業だ。
元々倒産寸前だったが、数年前にそこから経営者を送り込み、広告会社として立て直し。
更につい最近、ヴァイゼン製の飛行船を三機購入している。
そこからミッドでは比較的珍しい、飛行船による広域広告事業を展開しているって形だ』

『……どうもその会社を、メリル・リンドバーグ一士も調べていたようなのです』


……金剛が待機状態で放った一言により、僕とギンガさん達も納得する。


『サーチャーの履歴にも残っていたし、税務署やなんかで金の流れも見ていた。それもここ最近の話だ』

「そう言えば、リンドバーグ一士が六課と接触してからひと月以上経っていますよね。
それ自体が面倒な話なら、すぐに手を打たれても……って、さらっと怖い話をしないでくれますか!?」

『証拠は残してないよ。安心しろ』

「安心できませんから!」

『それより問題なのは、一週間ほど前……相当大きい買物をしている。
こっちではまだ掴みきれていないが、同じものを三つ。
相当な額をオルセアなどに代表される内戦地域に送っている』

「広告会社が、内戦地域で買物を? それも飛行船と同じ三つって……」

「……それをカバーに、核兵器を運び込んだってことですか?」

『下手をすれば、別のものも一緒にだ』


………………そこで、あの冬の寒さと強烈な怖気がリピート。


「あ…………!」


一瞬で血の気が引き、移動する車内で強く身震いする。

ちょっと、まさか……いや、でもここで真似る理由は?


ある、大ありだ。その理由なら、悲しいことにたんまりある。


≪ちょっと、まさか……≫

≪なの……?≫

『そうだ。まぁ、やっさんにとってはトラウマの一つだろうが……』


サリさんも察してくれたのか、こめかみを軽くグリグリ……。


「あの、トラウマって……」

「……毒ガスだよ」

「「毒ガス!?」」

「あ、そう言えば……新宿で飛行船が墜落して、ガス被害があったって! あの、資料で見たよ!」

「TOKYO WARで、柘植達が取ってきた手だ」


……柘植も元々所属していた”組織”のフロント企業を使って、飛行船と毒ガスを用意してきた。


「それを決起直前、東京の都市部へと浮上させたの。
飛行船に手出しをしてきたら、毒ガス諸共市街地に墜落する……」


だから地球人の楓さんも表情を曇らせる。

楓さん自身は当時学生で、地元≪和歌山県≫にいた。だから直接テロの被害を受けたわけじゃない。


ただそれでも、東京という日本の中枢が断絶され、日本中が混乱に陥っていたから……そのとき起きていたことも、記憶には鮮烈に焼き付けられていて。


「もちろん飛行船を操作している通信装置を破壊でもしたら、やっぱり墜落する。
……楽々十万人単位の市民を人質に取れる手だったのよね。資料で見ただけだけど」

≪私達、その浮上を止められなかったんですよ……。
結果一台は警視庁の一部部隊が勇み足により墜落。ギンガさんが言う形で無害なガスを放出しました≫

「いや、無害なガスなら被害はでないんじゃ」

≪出たんですよ。混乱した自衛隊の発砲とかで……それに、そのときの飛行船には本物のボンベも積まれていた。
あとは東京全体を包むECMについても、その飛行船が中継基地として機能していました≫

「…………」

「だからトラウマ、か」


アミタさんも絶句し、運転中のカルタスさんと視線を合わせるしかなかった。

まぁこれはあくまでも事例だけど、どうも引っかかる……いや、落ち着け。

これで思考を硬直化させるのはよろしくない。まず確定しているのはなに。


この企業を探り始めた途端メリルがああなったこと。そしてそれ相応の怪しさがエアリス・ターミナルにあることだ。


『なのでこっちは俺とヒロで探ってみる。恐らく”系列会社”も複数あるだろうしな』

「あの、それなら私達が」

『証拠もないのに、堂々と聞き込むつもりか? それはいろいろ問題だろ』

「……調べるにしても、足がかりを掴む……掴めたと装う必要があるんですね」

『表向きは奇麗なものだからな。なのでどうしても追いたきゃ、昨日とっ捕まえたアサシン達の足取りから洗ってみろ。
恐らくは調べられるだけの線が出てくるはずだ』

「……分かりました」


確かにルーテシア達と行動を共にしていたなら……僕も同意見だと、ギンガさんには首肯を返しておく。


「でも気をつけてください」

『当然だ。というか、それはギンガちゃんとやっさんもだろ』

「えぇ。なので私と一緒にしばらくドロンです」

「そうそう…………楓さんー!?」

『オッサンでも言わないぞ、それ……!』

「……楓さん、ですから」


サリさんに呆れられながらも、通信終了。

……これでしばらくは連絡も取れないね。だけど……ううん、二人なら大丈夫と信じよう。


≪でも、広告会社なんてなんに使うの……?≫

「使い道はあるよ。いわゆる情報操作もそうだし、こういう”密輸”紛いの手もね」

「だけど、飛行船で三つって……偶然なのかな。TOKYO WARに関わっていたなぎ君もいるなら、すぐ連想されちゃうし」

「実際サリさんもそれで連絡してきたっぽいしね。……ただまぁ、そこは柔軟にいこうか。結局まだ分からないことだらけなんだし」

「……だね。それで、ひとまずは聖王教会での会議……カルタスさん」

「もうすぐ着くぞ。俺達は車内で様子を窺っているから、いざというときはすぐ逃げ込んでこい」

「もちろん楓さんもですよ? そこはもう、108で全力ガードしますから」

「ありがとうございます。アニタさん」


――――そして十分も経たずに聖王教会に到着。

すぐに受付を済ませ、裏口に向かうと。


「あ……ヤスフミ!」

「ギンガ、楓さん、こっちなのですよー」


フェイトとリイン、たぬきと魔王……それに風海さんがいた。……改めて見るとヒドい取り合わせだ。


――今日僕達がここに来たのは、機動六課の方針について話し合う会議があるから。そこにお呼ばれしたんだよ。

それで六課設立の事情とかを明かして、いろいろと引き込みたいらしい。なので条件を幾つか付けた。


一つ、未成年である僕の保護者代理として、楓さんと風海さんが参加すること。

一つ、多忙なゲンヤさんに代わり、ギンガさんが代理出席すること。

一つ、機動六課及び108、更に僕とふーちゃん達の家に中継を結ぶこと。


条件が飲めない場合、一切の話し合いはせず、あっちこっちに六課の非道を訴えかけると説得した結果、今日の場が成立した。

ゆえにはやてはその目を必死に……縋るように僕へと向けるわけで。


「――カルタスさん、アニタも御苦労様。
ヤンチャしなかったか? コイツ」

「大人しいものでしたよ。人を騙して人質扱いする部隊長と違って」

「………………!」

「えぇ、本当に。それで言い訳ばかりする人でなしとは大違いですよ。
クロノ提督とか、クソみたいにヒドかったそうですし」

「人間の風上にも置けないな。なにせ自分の部下を実験台にして、絆だなんだと曰うクズ野郎どもなんだから」


はやて、そんな打ち震えるのはおかしくない? おのれ、昨日散々否定されてきたっていうのに……覚悟がないなぁ。


「あ、あの……カルタスさん、アニタさんも、そんな言い方は。
はやてとクロノもただ」

「「死に晒せ! この(ぴー!)が! お前の(ぴーぴーぴーぴー)なんだよぉ!」」

「ふぇぇぇぇ!?」

「じゃああとは頼みます。アニタ」

「はい。では失礼します」

「あ……! あの、ちょお」


二人は敬礼し、僕の脇から退避。触れることもなく、すぐさま姿を消した。

そして嫌みをぶつけられたはやては俯き、ぼう然と……残念ながらいい気味だねぇ。


「恭文くん……ごめん! 私、しばらく六課に残るから! 風花には上手く言っておいて!」


…………かと思ったら、風海さんがいきなり両手をパンと合わせて、偉いことを言いだした。

それで少し考え……納得する。


「そうか、洗脳されたんですね。じゃあ痛みを伴って解除しましょう」

「違う違う!」

「恭文君、痛みを生み出す前にちょっと待って! というか、それはなのはのせいなの!」

「大丈夫だよ、横馬。僕は忍者として拷問の講習も受けている。
手練れの教官にも『もう十分だから! もうそれ死んじゃうから!』と泣き叫ばれたくらいだ」

「なんでその経歴を褒め称えられたかのように説明できるのかな!
というか、そうじゃなくて……昨日保護した子だよ。
ヴィヴィオって言うんだけど、六課で預かる感じになりそうなの」


え、なにそれ。僕があり得ないだろうなーって思っていたことが現実に?

まさかと思ってリインと風海さんを見ると、困った様子で頷きが返ってきた。


「実は今朝、聖王教会の医療施設で逃走騒ぎを起こしたですよ。
まぁ実際は母親を探して、ベッドから抜け出していただけなのですけど……なのはさん、それを見つけて相手をしたら、懐かれちゃったです」

「寂しくて不安だからなのか、離れたら大泣きするし、凄く大変だったんだよ……。
風海さんに宥めてもらって、なんとかこっちには来られたんだけど」

「……つまり、風海さんはそれが見過ごせないから、そのヴィヴィオの相手をしてあげようと」

「そんな感じ!」

「アホかぁ!」


さすがにあり得なくて、ハリセンで風海さんの頭をバシーン! ……この人はまたぁ!

いや、僕が荒れていたときのことを気にしてくれているのは分かるけど、だとしてもね!?


「そもそも天瞳流の方はどうするんですか! ミカヤだって怒るでしょ!」

「あの、ヤスフミも落ち着いて? 実はね、事件捜査のこともなんとかなりそうなんだ。だから」

「チンピラカルトの筆頭は黙ってろ!」

「ふぇー!?」

「つーかなんでいい匂いさせてんだよ……風呂には半年入るなっつっただろうが!」

「無理だよ! そんなの絶対無理だから! 生活できなくなるからー!」


えぇい、やかましい! それくらいおのれは罪深いんだよ! シャーリーの怒りようを見れば分かるでしょうが!


「第一六課に縛られたら、ぱーっとオパーイパブに行けないでしょうが」

『こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


お手上げポーズで先を急ぐ。ギンガさんも伴って……さっきから厳しい表情で無言だけどね!


「……なぎ君、友達として……将来の妻として話があります。オパーイパブに通っているのかな?」

「なに勝手に婚約しているの!?」

「するよ! やるしかないよ! だってなぎ君には全部見られているんだから……!」

「あ、そうでしたね……」

「リインも話があるですよ。なに言ってくれているですか……!」


かと思ったら……あ、やめて! 二人してそのつや消しアイズはやめて! レナを思い出す!


「……恭文くん、私も妻として話があるわ。夫婦のことですもの」

「私もだよ! え、なに……そんなに風花を泣かせたいの!? それは姉として許せないなぁ!」


というか、楓さんと風海さんが一番怖い!

楓さんに至っては、オッドアイの色彩がハッキリ見える! それくらい威圧感が……なんで!? どうして!


「いや、だって……先生にね、凄い勧められたのよ。僕は絶対気に入るだろうから、十八歳になったら行ってみようって」

「「あの人はぁ!」」

「キャバクラよりお勧めらしいよ? 心を開いている感じがするってさ」

「恭文君、多分それ悪い大人への誘いだよ! ヘイハチさんの言うことだけどとりあえず無視しよう!? 彼女持ちなんだし!」

「なん、だと……!」


悪い大人……そのワードが信じられず、まさかと首を振る。


「え、待って待って。オパーイパブっていうのは……素敵なオパーイの女性がお酌してくれるところだよね。
それでどれだけオパーイを見ても、俗世と違って誰も怒らないんだよね。先生はそう言っていて」

「恭文さん、正気なのですか!」

「違う! 全然違う! なのはだって知っているよ!? はやてちゃんだって知っているよ!?」

「そうそう……! じゃあ、そこも歩きながら説明するから……ね? まずは、私達の話を、冷静に聞いてほしいの」

「はぁ……」


――――楓さんに宥められながら、ひとまず移動開始。

そうして聞いた話は…………な、なに……なに……なんだってぇぇぇぇぇぇ!

そうか、だからふーちゃんが先生を殴ってたんだ! 変なことを教えるなって、泣きながらマウントポジションでどつき回してたんだ! 謎は全て解けた!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ふらつきながらも目指すのは、カリムさんの執務室。何度か訪れたので、場所はすぐ分かる。

さぁ、急げ急げ……こっちも余り時間がない。何せこの後は、楽しい修行が待っている!

それで、オパーイパブという夢は……過去の一ページとして刻むんだ。


…………だから、だから……泣きたい気持ちは抑えて……!


”リイン……”


まぁそれはそうと……気持ちを切り替えるために、一つリインにお願い。


”……恭文さん、ガチで信じ込んでいたのはもう何も言わないですけど……それならリインが頑張るですよ?”

”ごめんなさい。謹んでご遠慮いたします”

”なぜ即行で断るですか!”

”当たり前でしょうが! それより例の……ヴィヴィオ?
その子の危険性については絶対触れないで”


……どうやらイカサマを仕掛ける余裕はできそうだから。


”……作戦は”

”ちゃんと話すよ。ギンガさんも承知済みだけど……基本口外禁止で。
こっちもレジアス中将達には漏らさない。絶対にだ”

”了解です。ならザフィーラも……あぁ、巻き込めないですね”

”ザフィーラさん?”

”さすがに仕事があるから、なのはさん達がつきっきりは無理なのです。
それでザフィーラや寮長のアイナさんをガードに回そうって話も出ていて……風海さんも基本はそのお手伝いなのですよ”

”六課の協力者として戦闘に回すことはしない”

”まぁ今の状況だと、信用ゼロなのですけど……”


リインは忌ま忌ましいと言わんばかりに、はやての背中を見つめる。

必死で、余裕がなく……眉間に皺を寄せたアホ狸を。


”ただ、本局の警備課長を中心として、六課を支援する流れができているのは確かなのですよ”

”そうして誰が敵か味方かも分からず、ある種の硬直状態に陥るわけですか”

”まぁ上手くやるしかないでしょ。……コイツらのお守りなんて絶対嫌だし”


頭を軽く痛めながらも、木目の奇麗なドアを開き。


「失礼します」


一声かけた上で入室……カリムさんとクロノさんが、話通りそこにいた。

しかもクロノさんに至っては、局の制服姿だった。


「お初にお目にかかります。
……陸士108部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹です」

「初めまして。今回は恭文くんの保護者代理な高垣楓です」

「初めまして。同じくで……嘱託魔導師の豊川風海です」

「初めまして。聖王教会のカリム・グラシアです」


カリムさんは僕の姿を見つけて、安心した様子で笑ってくれる。


「恭文君、元気そうね。……心配していたのよ? 無茶苦茶やらかしていたから」

「カリムさん……オパーイパブがどういう店か、知っていましたか」

「えぇ、それは一般常識的に………………はい…………!?」

「僕は、さっきまで知りませんでした……あははは、そんな馬鹿な。なんという場所がこの世にあったんだ」

≪よかったですね。あと十三時間足らずで出入り自由ですよ。それで器を広げましょう≫

「だからやめいっつーの! つーかそれは忘れんか!」


はやてにグラグラと揺らされるので、額にデコピンを入れておく。


「がふ!?」

「……おのれ、だからなんで友達面ができるの?」

「まぁまぁ……でもそれなら、妻の一人として相談に乗るわ。だから落ち着いて」

「カリムさん……!」

「なぎ君、受け入れないで!? 今重要な布石が打たれているから! 見過ごしちゃいけないものが刻まれているから!
と言うか……楓さんだけじゃないってぇ!」

「ギンガが言う権利はないのですよ! さらっとリインを出し抜いて婚約者扱いとか!」

「……”カリム”さん、しっ”かり無”駄なく押してくるのね。強敵だわ」



あぁ、またブリザードが……室内なのに嵐が、冷たい嵐が吹き荒れる。

というか今日も楓さん、全開だなぁ。相変わらずフルパワーだなぁ。


「あの、恭文くん……」

「風海さん、これが……高垣楓さんです」

「そんな堂々と言われても……!」

「とにかく立ち話もなんですから、こちらへ」


カリムさんに案内されて、なのは達も窓際のテーブルセットへ移動。


「クロノ提督、少しお久しぶりです」

「あぁ、フェイト執務官も。元気そうで何よりだ」


そしてフェイトとクロノさんは、敬礼&役職込みの挨拶……面倒な奴らめ。


「まぁ今日は顔見知り同士の話し合いでもありますし、余り堅苦しくならないようにいきましょうか」


それを見かねてカリムさんもフォローするほどだった。

……とっても素敵なワードをつけ加えてくれた上でね! 既に中継はされているというのに!


「それで恭文も………………一体しょっぱなから何をぶち込んでるんだ!」

「組織の都合に、勝手に、僕の友達やメシバナ仲間を巻き込んでくれたせいじゃないですか?」

「今は絶対違うだろ!
……おい、顔を背けるな! このまま押しつけるな!
そんなの責任の取りようがないぞ! 全部トウゴウ先生に言え!」

「クロノさん、敵と分かり合うとか、何度失敗しても声をかけようとか、そういう下らない行動を慎めないなら、やっぱり六課から引きますから。
……テロリストには容赦なんていらないんです。更生がしたいなら、拘置所にぶち込んでからにしてください」

「いきなり真面目な話に戻るな! だから……それもなのは達を信じ、ついてきてほしい。レジアス中将との依頼ももう断るんだ」

「これだからハラオウン家は……こっちは生活と人生がかかってるんだよ」

「金の問題じゃない。お前が六課の仲間として、付けるべきケジメの話だ」


そう言ってくるのは分かったので、大きくため息…………とても、大きくため息を吐く。


「クロノさん、忘れていませんか? この様子は機動六課はもちろん、108や蒼凪家、豊川家にも中継されていることを」

「だから言っているんだ。……確かに、僕達も完璧なやり方をしているとは言いがたいかもしれない。
だが信頼に応えるだけの用意はある。お前が、六課の中で培った絆を、大事にできるくらいの用意はな」

「尽くしていたら、そんな間抜けなことは言えないよ」

「なんだと」

「その辺りはミゼット提督とレジアス中将との間で、話が纏まっているんだよ」


というわけで、通信モニターを開いてぽちぽち……忙しいところだけど、サプライズゲストに登場してもらいましょうか。


「今後中央で作られる専従捜査班に僕も協力するから、六課の方とは縁を切っていいってね」

「馬鹿を言うな。そんな話は」

『事実です』


そこで出てくるのは、オーリス三佐……さすがにクロノさんもギョッとし、目を見開く。


『通信越しで失礼します。ミッドチルダ地上本部に勤務する、オーリス・ゲイズ三佐です』

「なんやて!」

「待て……恭文、どういうことだ! これは、六課の話し合いだぞ!」

『おかしいことを仰りますね。機動六課には既に、査察の通達をしていたはずですが。
なにより必要性も存在します。我々中央は本局からのSAWシステム導入部隊駐留を許可したのですから』

「は……!?」

『それもミゼット提督から聞いていないのですか?』


呆れたと言わんばかりのオーリス三佐は、嘲笑混じりのため息を吐く。


『今朝ほど、ミゼット提督ご自身から我々に提案がありました。
スカリエッティ一味によるテロ行為を重く鑑みて、本局からSAWシステム導入部隊を送り込みたいと。
更にその部隊と同様の……最新鋭のAMC装備も、一部の地上部隊に支給するとも』

「その提案を、あなた方は受けたというのですか……」

『相応の条件は出しました。
そのうちの一つが、古き鉄――蒼凪嘱託魔導師を中央で設立する専従捜査班の民間協力者として招き入れること。
更に六課で導入予定のSAWシステムを、地上部隊の関係者……もちろん彼にも投与しないことです』

「んなアホな! 恭文は六課のフォワードメンバーですよ! そないなこと部隊長として許可できません!」

『おかしいことを仰りますね。そもそもあなた方が彼の学業保障を蔑ろにしなければ……数々のアドバイスを無視し、状況を悪化させなければ済んだ話では』

「そやかて、それは恭文がひと月近く独断行動をして……それで殺し屋にも狙われて!」

『その証拠はどこですか』

「――!」


……おやおや、クロノさん……なんでガタガタ震え出すのかなー。

どうしたのかなー。まるで怖い映画のワンシーンを思い出したような感じになっちゃって。


『仮にそれが原因だとしても、それはあなた方の監督が不十分だったからこそ起きた不始末ではありませんか?
彼は未成年で、その監督責任もまた所属部隊にあったはずです。違いますか、八神二佐』

「それは……!」

『更に蒼凪嘱託魔導師からも進言がありました。
パワーハラスメント……いえ、上層部からの洗脳に近い言動が数々発生していると。
今回他所と同様に中継を繋がせていただくのは、その辺りを見定める抜き打ち検査と思っていただければ』

「そのような許可はできない! これは、六課の機密に対する重大な侵害だ!」

『ならば堂々と話を進めればよいだけでしょう。我々が侵害しているというのであれば、それだけであなた方の疑いは晴らせるというものです』


あれあれ、みんなどうしたのかなー? なんで忌ま忌ましそうに僕を見やるのかなー。

おかしいなぁ、オーリス三佐の言う通りじゃないのさ。堂々としていればいいのよ……堂々とね。


「……オーリス三佐、聖王教会のカリム・グラシアです。
仰りたいことは分かりますが、これは余りにも」

『ご安心を。あなたのレアスキルと設立の背景事情については、こちらでもある程度把握していますので』

「いえ、そういうことではなくて……恭文君も駄目よ。
はやても、クロノ提督も、あなたともちゃんと話し合いたいとこの場を用意して」

「スバル達を人質に取り……その言い訳に僕や他の部隊員達を利用し、ゲンヤさんやギンガさん達家族を泣かせているのに?
笑わせるにも程がありますねぇ。そもそも権力にすねかじって、上から殴りつけてきたのはそっちでしょ」

「僕達はそんなことをしていない! そんなつもりもない! 頼むから信じてくれ!」

「そういう立場にあるんだよ、お前達はとっくに……まずそれを自覚し、下らない妄言をこれ以上吐き出さないと約束しろ。
じゃなきゃ帰るぞ」

『もちろんその場合、査察にも重大な影響を与えます。どうぞご承知を』


僕が本気だと察して、クロノさんが顔面蒼白。……このためのオパーイパブ導入だよ。ようは勢いが大事ってわけだ。

あいにくこっちは話し合いなんてするつもりはない。徹底的に踏みにじり、蹂躙し、コイツらには負け犬となってもらわなきゃいけない。


……じゃなきゃ、ギンガさんやゲンヤさん達が余りに不憫だからね。


「ほら、とっとと返事をしろ。僕に帰ってほしいなら、そのままでもいいけど。
でもぉ……既に中継は始まっているし、堂々と恥を晒すのはどうかと思うよ?」

≪えぇ、晒しますね。話し合いすらできない小物だと……そうなったら六課、分裂ですかねぇ≫

「いいねいいねー。それはそれで楽しい結果だ。じゃあそういうことで」

「待て!」


だから、クロノさんはこう告げるしかない…………。


「………………分かった……」

「どうしたのよ……なんでそんなに不満そうなの?」


そんなふうに答える意味が分からなくて、つい小首を傾げてしまう。


「そもそもお前らが悪いんじゃないのさ。なのに、”なんで自分達が”って顔をできるのよ」

「恭文……!」

「クロノ。……ヤスフミも駄目だよ。
それにこんな、権力に頼って潰しにかかるような真似、フェアじゃないと思うな」

「フェイトは本当に話を聞かないねぇ。
これは、コイツらが、僕達にやってきたことを返しているだけだよ」

「だから、それも……許してあげてほしい。憎んだり、嫌って傷付けるんじゃなくて、もっと分かり合える道を一緒に探そうよ。
だから二人も頑張ってる。この中継だって無茶苦茶なのに、責任だって背負うのに、全部OKしてくれたんだよ?」

「え、なんでそれを、とても大変だったーって顔で言えるの? 実に当たり前のことじゃない」

「――!?」


うーん、フェイトはなにか勘違いしているなぁ。僕達、話し合いのために来たわけじゃないのに。

僕達はただ、八つ当たりをしたいだけなのに――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……ヤスフミは断言した。

私の庇い立てが、とても無様だと……無意味で理解する価値もないと、笑いながら。


「仲間なら隠し事なんてなしでしょ? なのにそれをして、信頼を失いかけてさぁ。
だから僕達が気を利かせて、名誉挽回の機会を作ってあげた。なのに礼の一つも言わない奴らに、なんでおのれは叱責一つ送らないのよ」

「ふぇ……!?」


なんかいきなり恩を着せてきたんだけど! だから当たり前なの!? だから悪いことになるの!?

というか、中継でそんなこと言ったら……本当に、クロノ達が悪いことに!


「というかおのれ、正気なの?」

「あの、だから……落ち着こうよ。ちゃんと、分かり合う形で離して」

「エリオとキャロも、純粋な気持ちを利用されて、巻き込まれたのに」


でも……そこで出た言葉に、胸が鋭く射貫かれる。


「それは…………」


分かっている。分かっている……分かっている。

私は二人のことも巻き添えにした。私が分隊長で近くにいればなんて言って、調子に乗って……それが今更怖くなっている。

私には今、二人を守る力もない。フォーミュラのせいで、いつ二人に……昨日みたいに刃を向けるかも分からない。


なにより二人の家族として、腹も立てないのかって言われたら……そうだよ、腹立たしいよ……!

だけど、だけど、だけど、だけど、だけど……。


「それでも、はやても、クロノも、大事な友達で家族だから。
その家族が頑張るっていうのに、なんで……信じてあげちゃ駄目なのかな。
嘘を嘘じゃなくなるように、頑張ることだってできるかもしれないよ?」

「無駄だよ。もうコイツらは悪意在りきでしか六課を動かせない」

「そんなことない……!
オーリス三佐も、もうやめてください。査察なら後日、きちんとした形で受けます。だから」

『それは困りますね。……私も是非、説得されてみたいので』

「お願いします。私達はただ、ヤスフミに……みんなに、分かってほしいだけなんです!」

「フェイトちゃん……」

「……じゃあ、どうすれば……いいのかな」


なのはに制されても止まらない。悲しい気持ちが止まらない……。


「どうすれば私達のこと……もう一度、信じてくれるのかな!
私は、ヤスフミも一緒に……六課で、この事件を追いたいの!
我がままで、理屈に沿ってないのは分かってる! 感情論だって分かってる!
だけど、だけど……今みたいに、ただ傷付け合うのは絶対嫌だから!
私は、みんなに仲良くしてほしいの! 手を取り合って、笑い合ってほしいの!」

「おのれ、なにを言っているの?」

「だから、教えて! どうしたら、私達を信じてくれるのかな! どうしたら、スバル達と一緒に頑張りたいって思ってくれるのかな!
どうしたら、どうしたら……私達のこと、許して……くれるのかな――!」

「今日はおのれらを徹底的に貶めて、一方的にありとあらゆる有利な条件を絞り取る作戦なんだよ」


――――そして私は……私達は派手に崩れ落ちる。


「というか、おのれらと一緒にいたら夏休みを満喫できないでしょうが。馬鹿じゃないの?」


余りに全力全開なことをアッサリと言い切られて、衝撃から崩れ落ちる。

というか、というか…………そういうことを堂々と言わないでぇ! ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!


(第40話へ続く)






あとがき

恭文「というわけで、どこかの世界線の巴さんみたいな方法で殺されかけたメリル。でもいつどう転んでもおかしくない状態」

あむ「それに飛行船って…………あぁ、でもここから核を密輸したなら、足がかりが!」

恭文「なおカットシーンが二話ほどあるので、また隙間話的に掲載します」


(一話はアニメでもやっていたヴィヴィオとの出会い……Ver2016でもやったところなので、カットしました)


恭文「その分話を進めたかったしねー。……でもあむ、ついに出たよ……ウィンダムとインフィニットジャスティス!」

あむ「だからってアンタは買いすぎ……! でもウィンダム、カッコいいよね」

恭文「僕は両腕をストライクガンダムに変えて、ちょっとカスタマイズした!」

あむ「あ、あたしはI.W.S.P.を付けた!」

恭文「あれもカッコいいよねー。ストライカーパックは夢が広がる」


(こうなるとスカイグラスパーが欲しい)


あむ「それにインフィニットジャスティスも……まぁややこしいけどジャスティスナイト素体だから、かっちりして動きやすいしさ」

恭文「ポリキャップレスキットではあるんだけど、あんまり気にならないのは嬉しいよね。
それに今回はファトゥムだよ! あれがボリュームあるんだよなぁ……」

あむ「……でもアンタは使うの禁止だから」

恭文「なんで!?」

あむ「当たり前じゃん! アンタがインフィニットジャスティスとか使ったら……!」

恭文「どうなるっていうのよ! アメイジングストライクフリーダムに対抗して、インフィニットジャスティスガンダムゴーストとか考えているのに!」

あむ「だとしてもだよ!」


(現:魔法少女は想像したらしい。
多数の近接選択肢で無双しまくる蒼い古き鉄を。
本日のED:T.M.Revolution『vestige-ヴェスティージ-ー』)


あむ「でもミッド地上に本局の部隊が駐留って……」

恭文「……TOKYO WARを思い出す」

あむ「いや、でも……決起するようなのが混じっていないなら、まだなんとか」

恭文「だといいんだけどね」


(おしまい)




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あきゅろす。
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