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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第36話 『殺めるための刃』

炎の熱と、何かが焼け焦げたような匂い……それで、不愉快に意識を覚醒させられる。

それでもなんとか……なんとか気力を振り絞り、立ち上がって。


そんな様子なのは、他のみんなも同じだった。


「キャロ……ウェンディ、オットー……ギンガさん……」

「なんとか、大丈夫……です……」

「く、くきゅ……」

「ウェンディさん、ありがとうございます……」

「さすがに今のは、危なかった……」

「こういうのが、仕事でも……あるっスから……あたたたた……」


ウェンディの気の抜けた悲鳴で、自然と私達は表情を緩められて。

でも……そう安易に構えていられる状態でもなかった。


「リイン曹長も、大丈夫そうっスね……」

「はいです。でも……ヴィータちゃんが!」


すぐに倒れているヴィータ副隊長や、起き上がれなくなっているギンガさんを回収。二人を揃って寝かせ、リイン曹長が回復魔法をかける。

それにキャロも合わせる形で……そのおかげか、二人は身体を動かせないけど、なんとか……なんとか、目を開いてくれて。


「ギンガさん…………よかったぁ……!」

「頑丈さが、売りだから……だけど、完全にしてやられた……」

「……はい」

「ちく、しょお……なんで、アイツらが……フォーミュラなんざ……!」

「……ヴィータちゃんの失態なのですよ」

「リイン曹長」


リイン曹長がヴィータ副隊長に……さすがに見かねて、慌てて抑える。


……ヴィータ副隊長、ジャケットのおかげでなんとか無事だったけど……爆弾を零距離で起爆させられたのよ?

本来なら心停止していてもおかしくない。二人の回復魔法だけでバイタルを安定させられたのは、奇跡よ。


「ロングアーチからの警告ガン無視で……しかも核密輸に荷担したあの子をまんまと取り逃がした」


……………………そこで、そのワードを飲み込むのに…………数秒かかってしまった。


「核密輸って、あの……確かに言ってましたけど……え、あの……!」

「……本当、だよ」


私達の驚きと疑いを察したのか、ギンガさんが悔しげに漏らす。


「昨日……なぎ君がゼスト・グランガイツを追いかけている最中で、判明したことなんだ。
ほら、さっき見せたフィルムバッジ……あれを持たされて、何かを運んだって話を、情報屋としていたの」

「だから恭文さん、拷問までして聞きだそうと……!」

「私も、もっと強く言っておくべきだった……!
もし核兵器が発射できる状態で彼らに保有されているなら……ミッドの住民全てが人質に取られている! レリックなんかよりずっと脅威だよ!」


そんな……エグいことになっていたの? というか…………あぁ、そうか……アイツが必死になるのも当然だ!

だってアイツ、核爆発未遂事件ってとんでも事件に関わっているもの! その序盤で、一度回収した核爆弾を落としているもの!

そりゃあ必死になるわよ! ならないはずがないわよ! なんかあれで無期限の放浪に出されて大変だったーとか言ってたし!


「なのに無駄な説得でティアナ達まで危険に晒すなんて……死人が出ていてもおかしくなかったですよ!」

「……無駄じゃ、ねぇよ……」

「無駄だったのですよ!」

「無駄なんかじゃねぇっつってんだろうがぁ! アタシらだって、なのはとフェイトの声があったから!」

「リイン達局員を……六課の背後関係を信用できないって話なのですよ、あれは!」


……確かに、リイン曹長の言う通りだった。

あれは本当に、私達が……ヴィータ副隊長が何も分かってない。何もできるはずがないという顔だった。

でもどうしてそこまで? ううん、私達はその答えにもう触れている。アイツが触れている。


六課ほど後ろ盾がしっかりした部隊であろうと、それを踏みつぶせる権力があるのなら……現に、ゼスト隊の一件だって。

ううん、それなら伝説の三提督とやらは? それだって……相当に怪しいじゃない……!


「……リインもこれで、よく分かったのですよ。
今のやり方じゃ真相を暴くことはできないし、犯人への説得だって無意味なのです」

「だから、やる前から諦めるなよ! そんなの全部勘違いかもしれねぇだろ!」

「ヴィータ副隊長、駄目です! リイン曹長も、今は……」

「アタシらは……そうして、なのは達に……管理局に、救われたんだよ……!
意固地で馬鹿なアタシらを、何度も何度も……諦めずに……だったら、諦められるわけねぇだろ……」

「ヴィータ副隊長……」

「諦めたく、ねぇんだよ――!」


そうして自分が救われたから……道を開いてもらったから。ヴィータ副隊長は、だからこそ見過ごすことなんてできなかった。

それはきっと、アイツも、なのはさ達も、私達も……みんな同じはずなのに。動機は、目指す未来は同じはずなのに。


なのに私達は……どうして、こんなにバラバラ……って、言っている場合じゃなかった!


「……シャーリーさん、聞こえますか!? こちらスターズ03……ロングアーチ、応答どうぞ!」

『――こちらロングアーチ! ティアナ! みんな……大丈夫なの!?』

「はい……ただスバルと同じく、ヴィータ副隊長とギンガさんも動かせません。医療班も含めた救援をお願いします。
それで召喚師とユニゾンデバイス、強襲した戦闘機人も取り逃がしました。……すみません」

『……了解。ただ、警戒は厳にしておいて……というか、なぎ君達も襲撃されているの!』

「はぁ!?」

『エリオとディードが一蹴されて、シグナム副隊長達もバインド……今、なぎ君が斬り合ってる!』

「アイツ……またアサシンなわけ!?」


アイツは本当に、どんだけ恨みを買ってきたの!? そりゃあ裏社会で暴れまくればとも思うけど、執ようすぎるでしょ!


『……いや……そっちの方がマシだった……!』


頭を抱えたくなっていると、シャーリーさんから資料映像が送られてくる。

……えっと、なに? このちょい悪親父は。ちょっと好みのタイプではあるけど。


『結論から言うよ? ソイツ……下手をすればなぎ君より強い』

「は……!?」

『マスター級の剣術使いなんだよ!』


なによそれ……そんなのと、エンプティ寸前で斬り合っているの!? 運が悪いってレベルじゃないでしょうが!




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――壁際を走ると、回り込むあの男の影。

蜻蛉の構え……いや、それより引き気味の構えから放たれる袈裟斬りを、左側転で何とか回避する。

斬撃は壁を捉え、たった一瞬で二十メートル近い剣閃を刻み込む。それにゾッとしながらも鉄輝を打ち直し、平晴眼に構えながら飛び込む――!


壁から引き抜いた刃を利用し、放たれるコンクリの目つぶし。それを伏せて避けると、男は音もなく眼前に現れていた。

あの強化スーツらしきものの成果……いや、間違いなく身体能力と技量の問題だ!

打ち込まれた斬撃を左に交わし、直ぐさま胴体部へ三連続の刺突。しかし男は攻撃直後にも拘わらず、最小限の身の動きで全てを交わした。


スーツ表面にアルトの切っ先が絡む中、男の左切上一閃が襲う。

それを鼻先すれすれで下がって避けると、刃が翻り……すかさず納刀し、抜きの構え――!

そうして零距離で打ち込まれる二つの斬撃。それらは正面衝突し、せめぎ合い、交差しながら火花を……衝撃の爆発を起こす。


直ぐさま刃を返して二撃目……男も同じように刃を打ち込み、再び正面衝突。そうしてつばぜり合いとなった。


「あぁ、やはりか……」


右ミドルキックを後ろに飛びながら受けて、地面を転がりながら起き上がる。

こちらに跳躍しながら飛び込んでくるので、すぐ左に……背後にした壁へ走り込み、斬撃をやり過ごす。

更に壁を足場に跳躍――奴の胸元へ刺突を放つも、すれすれでかわされる。


刃の切っ先がボディスーツ表面を掠める中、反転して左ボディブロー。

金属質なスーツの手ごたえは重たいけど、確かに内臓を捉え、捻り潰す。

ただし反撃として奴も左拳で僕の顔面を撃ち抜いてきた。


……それが楽しくて、反転しながら奴の刺突を避け、お返しに顔面目がけて右ハイキック!

それが頭を弾き飛ばしたかと思うと、奴は僕の足を握って強引に振り上げ、背後の水路へと叩きつける。

それに息を飲み、肋が軋む感触……目を細めている間に、刃が無慈悲に付き下ろされる。


「お前は快楽を……人斬りを恐れていない」


……打ち込まれた刃の切っ先を、アルトの柄で防御。ギリギリと押し込まれるけど、その刃の峰を蹴り飛ばし、押し込みを解放。

水場で派手にブレイクダンスを決めながら起き上がり、そのまま奴の両足に右薙一閃――。

咄嗟に飛びのくも、確かに右足を捉えた。スーツ表面の耐刃装甲も斬り裂き、肉を捉えた感触がする。


それと同時に、奴も左手から小刀を取りだし投てき。下手に裂けるのは危険と判断し、左肩を向けてそのうち二本を受け止める。

肉が刃に食い込む感触に…………つい笑っていた。油断していれば、頭を貫かれて終わっていたからだ。


「なのになぜ、あんなふうに戦える」


そのまま後ろに飛ぶと、跳躍混じりに打ち込まれた唐竹一閃が、水路とその縁ごと両断していた。

その斬撃で左肩から腹までが浅く斬られ……それが嬉しくて、楽しくて……右手でアルトを持ったまま、突き刺さった小刀を抜き放ち、回転しながら投てき。

電撃魔力を纏わせ、貫通力を高めたそれは、容易く奴の刀によって弾かれる。


が、そのうち一本が右二の腕に突き刺さり……それと同時に、僕は懐に入り込む。

柄尻での刺突を左に避けると、左手が伸びて人差し指でのサミング。

それを瞳すれすれに……込められていた魔力で肌を浅く斬り裂かれながらも、脇を抜けるようにして左ボディブロー。


すぐさま肘鉄が頭に飛ぶけど、それを伏せながら足に力を貯めて…………跳躍!


「……飛天御剣流」


そのままアルトの峰に左手を上げ、飛び上がりながら一閃!


「龍翔」


奴ののど元目がけた斬撃……それを鼻先すれすれに回避してきたので、上昇しながら刃を返し、振り上げる。

奴は笑いながら対空技として刺突を放つので……。


「槌閃もどき!」


そこ目がけてアルトを袈裟一閃――! 斬撃と切っ先が衝突し、衝撃が弾ける。

お互い刃に魔力を纏わせた上での一撃。それゆえにそれぞれ吹き飛び、三メートルほどの距離を取って停止する。


「…………剣一本で、本当に何かが掴めると思っているのか?」

「僕の友達が言っていたよ。……男が口にするのは、愛のささやき一つで十分だってさ」

≪この人を鏡映しに使われるのも不愉快ですし……と言うか、絶対モテませんよ、コイツ≫

「同感。しかも愚痴る友達もいないときたもんだ」

「これは手厳しい……」


そうしてお互いに納刀。改めて鉄輝を打ち上げ、深呼吸――。

奴の太刀筋に動き、それに投げや掌打、目つぶしなんかもアリな戦い方は……いや、それも後か。

今言えるのは、奴が強敵で……最高に楽しいってことだけだ。


「「――――――!」」


傷の痛みなんてなんのその――お互いに最高速で踏み込む。

十、五、三――距離がどんどん縮まる。守りなんて考えない。避けることも考えない。

やることはただ一つ。相手より速く懐へ入り、相手より鋭く刃を打ち込むだけ。


そのギリギリのせめぎ合いが楽しくて、楽しくて、楽しくて……獣が、鎖を噛み砕く。

そこからの一歩はより強靱さを増した。鞘にかけた手も今か今かと震え、タイミングを計る。


コンマ一秒でも遅れたら、その時点で真っ向から断ち切られる。正しく生死を賭けた戦い。


でもそれゆえに……僕達はお互いが滾るのを感じた。

その衝動に従いながら、そして乗りこなす気概も持ちながら――刃は、抜き放たれた。


そうして僕達は、入れ替わるように交差、そして停止。


「……!」

≪なの!?≫


胸元を真一文字に斬られながらも、血が流れる――――。


「……っと」


でも大丈夫。すぐに踏ん張って、戦闘態勢を維持。

骨と臓器は無事。致命傷たり得ない……皮と肉の表面、袴の一部を斬られただけだ。

確かに痛い。痛いけど…………楽しくて、凄くて、笑っちゃうような鋭さだった。


そして奴は…………。


「……あぁ……マジか」


歓喜の声を上げながら、こちらに振り返る。

そうして左手でなぞる……またしたギリギリから、胸元まで届く傷を。血が流れる熱の道を。


「まだだ……」

「あぁ、まだだ……」


だから互いに笑ってまた……お互いを殺せる距離に、最高に楽しめる距離へ入り込む。


「「まだに決まっている――!」」


打ち込まれる袈裟の斬撃を伏せて避け……直ぐさま更に伏せながら回転。

薙ぐような追撃を背中すれすれにやり過ごしながら跳躍。飛び上がりながらの切りつけは首筋スレズレにやり過ごされるので、直ぐさま左回し蹴り。

奴の右腕をボディスーツごと捉え、そのまま全開で振り抜く……そして奴が頭から壁に叩きつけられると同時に、僕の右脇腹と左肩に小刀が突き刺さる。


その傷みと衝撃で転げ落ち、それでもすぐ起き上がり、小刀を抜きながら奴に投てき。

奴は壁から剥いでて、それを左拳で殴りつけながら避けた。


それでいい……だって僕はとっくに踏み込み、刺突を放っていたから。

それがコンクリの壁を派手に砕き、破片をまき散らす中、右頬に衝撃が走る。

蹴り飛ばされたと悟りながら踏ん張り、左手で鞘を取り出し奴の脇腹に右薙一閃。


確かに脇腹を……肋を砕いた感触が伝わる中、右肩に刺突を受け、鮮血が走る。


≪主様!≫


…………だから踏み込む。

迷いもなく、傷が深くなるのも構わず、笑って踏み込む。

直ぐさまアルトの鞘を順手に持ち替え、鉄輝を纏わせながら刺突。奴の心臓目がけて殺傷設定で打ち込む。


が、それと同時に奴は左ストレート…………鞘での鉄輝と掌打が交差し、お互いを捉えながら衝撃を生み出す。

そして僕達は血に塗れながら吹き飛び、コンクリートの地面を転がる。

でもすぐ血反吐を吐いて、笑う……それでも楽しくて、楽しくて……本気で楽しいままに笑う。


「あぁ……あそこで、頭突きか……。目を潰せるかと思ったんだが」


額が割れたのか、血が痛みと一緒に流れてくる。魔力を込めた打撃を真正面から受けたせいだ。

でも咄嗟だったから、拳は潰せなかった。奴の踏み込みで致命傷が阻まれた……刺突もすれすれで急所を外れている。


≪……あ、主様ぁ……!≫

≪まだできますよね≫

「当たり前でしょ」


刃が抜けた肩からは、小刀が抜けた箇所からは血が溢れるように流れるけど、その熱さえ心地いい。

だって……まだ戦える。まだ続きがある。まだ、こんな楽しい時間が続いていく。……お互いに致命傷は取れていないんだから。

だから無明に構え、笑って、笑って、笑って……このままもっと斬り合えたらと、果てしなく思い続ける。


「少しでも決断が遅れていたら、死んでいたのは俺の方……」

「それはこっちの台詞だよ。
お前は、怖いねぇ。こんなに怖いのはヴェートルの一件以来だ」

「俺も久方ぶりだ」


だからまだだ。これは仕事じゃない。仕事に徹する必要すらない。


「正真正銘の化け物を相手にするのは」


もうとっくに、私闘なんだから――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


…………やはり、こうなってしまったか……!

蒼凪は笑う。笑って、笑って……その覇気で、留まることをしらない歓喜で、周囲の壁を、流れる水路の水を揺らす。


それを見てシスター・シャッハも青ざめ、必死に声を上げていた。


「恭文さん、駄目です! バインドを解いてください! 我々と協力して鎮圧を!」

「……無駄です。聞こえてなどいない」

「殺人剣など、現代の魔導師が振るうべきものではありません!
正義のために、人を活かす刃を! 活人剣を振るうことこそ王道です!
……恭文さん、聞いてください! 恭文さん!」


蒼凪は完全に火が付いた。剣術家として、目の前の強い男を倒したい……その上を行きたいと願ってしまった。

私もバトルマニアだなんだと言われているが、蒼凪はまた一本線が切れている。

自分より強い者と戦い、命を奪うことすら厭わぬ形で白黒を付ける……その快楽を恐れていないのだから。


だから”怖い”と表する。命の危険を、結んだ絆を、背負う約束を果たせず死ぬ……この男に負けて死ぬことが怖いと評する。


(……蒼凪の本質は、やはり人ではない)


だがその何割かは、楽しんでいた。


(肩に刃を受けたとき、奴は踏み込んだ。痛みを、死を恐れながらも、笑いながら踏み込んだ。
その踏み込みは、その有り様は、人にはできない。”それ”を勝利のために、百の戦いで実践する気構えなど、人の精神性では実行できない)


それほどに自分を追い詰める技に、研ぎ澄まされた刃に心が震えていた。


(ヴィータ達には感情を交えない人斬りと言ったが、それはあくまでも自制が効いている間の話だ。そのタガが外れたときの奴は)


だから蒼凪は笑う。ふだんの様子がフェイクだと言わんばかりに……獣の顔で、笑い続ける。


(人ならざる獣……闘争の神。三面六臂の修羅……!)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「しかし解せないねぇ……こんな楽しい戦いができるのに、剣一本で云々なんて悩んでやがるのか」

「お前は悩まないのか? ヴェートルの英雄」

「悩むよ。でも……そもそも僕の手だけで救える世界は”軽い”」


確かに運が悪くて、妙に大事なところの決戦やらでドンパチすることもあった。だけど、それで世界を救ったなんて言うつもりは一度もない。

完全に、僕一人で、剣術一本で救えたことなんてない……救えたものがあるとしたら、それは本当に小さなもので。


それで悩んだこともある。だけどそんなとき……いろんな縁で知り合った、エルメロイII世という奴がこう言った。


”世界とはなんだ”

「別の友達が教えてくれたよ。世界は人種も、言語も、考えも、外見も、生き方すら違う生命体が、大地と共棲する有様だ。
その重さは、一人の人間の働き……または犠牲でどうにかなるレベルではないし、あってはならない。
仮にそれを成したのが全能の神であっても、途端に世界は重さをなくし、滅びへの道を進む」

「だがお前は救ったはずだ。その世界を」

「ただ僕自身の……それも一時の荒波を乗り越えたにすぎない。問題はその後だ。
……世界を救ったソイツはどうする。ソイツの視野で、感覚で、世界を運営でもするの?
無数の多様性をたった一つの視野で制御する……その善悪を定め、賞罰を与え、訓練するの?」

「…………」


僕は同じように話をされたとき、それを歪だと感じた。

無論今の世界に問題点がないとは言わないけど、それでも上手くはやっている方だよ。

世界の根底……多様性を守るという意味では。ただ一人の人間だけですくい上げられるほど、軽くはないという意味では。


……うん、そうだね。忘れがちだけど……だけど大事なことだ。

次元世界至高の存在足る僕であろうと、残念ながらその制限からは外れられない。


だから刻む。そうして戒める。今できることは、最低でも二人分……もとい、三人分だってね。


「いつだって一人の人間に救い出せるのは、その手が届いて、掴めるものだけだ。しかもそれすらままならない方が多い。
……救いたいものがそれ以上の大きさなら、それに見合うだけの手の数が必要だなんだよ。
奇麗事などではなく、それが道理……摂理なんだよ」

「ならお前は、なぜ嘱託でいる。普通に偉くなり、その手を増やせばいいだけだろう」

「決まっているじゃない」


そう、決まっている。何度も何度も、確かめるように問いかけて……疑って、そうして何度も何度も、自分に突きつけてきたから。


「僕達は、僕達の戦いを続けたいだけだ――!」

≪えぇ……だから、シンプルに行きましょうよ≫

「……OK」


奴は笑って、得物を振り上げる。


「お前が見込んだ通りの……それ以上の男でよかった」


それは蜻蛉…………いや、蜻蛉よりやや引き気味の構えだ。

刃を担ぐような姿勢で、腰を落とし気味にこちらを見据える。


「これで本気が出せる――――!」


……あの構えは…………ちょっと、まさか…………いや、これでいい。

僕も笑って、アルトを袈裟に払い……。


「それはこっちの台詞だ」


静かに納刀。右手をスナップさせて、右半間に構える。

あの技、内容は予測できる。ならばそれより速く、鋭く――――最高に楽しくなって、今か今かとにじり寄っていると。


「…………烈風一迅!」


このタイミングで光が走る。

横目で捉えたのは、シャッハさんがバインドを物質透過魔法で抜け出した姿で……!


(この馬鹿が……!)


今日一番の怖気を感じている間に、シャッハさんは左のヴィンデルシャフトを振りかぶる。


………………ここでは、救いが三つあった。

一つ、シャッハさんとは知らない仲でもなかったゆえ、僕には対処する余裕があった。

それは僕自身の集中力を乱したという意味では悪手打ち。だけどそれでも、自分の身”だけは”守る余裕があった。


二つ、シャッハさんは陸戦AAAの猛者であり、ベルカ式の教会騎士。

だけど本当の意味での殺人剣を振るったことがない……振るう必要がない近代魔導師でもあった。


そして三つ…………この男が、生粋の殺人剣であったこと。


「ち……」


――――シャッハさんはカートリッジを二発ロードし、左のヴィンデルシャフトを回転させながら一閃。

でも奴はそれを容易く伏せて避けて、腕を取って直ぐさま一本背負い――そのとき鮮血が走る。


「あぁああぁあぁぁあぁぁぁ!」


アイツ、自分の刃を肩に担いで、シャッハさんの腕を決めて……折りながら斬りやがった。

シャッハさんは血を流しながら転がり……痛みに呻いた顔で奴を見上げる。

幸いヴィンデルシャフトがストッパーになったらしく、腕は両断されていない。辛うじて繋がっている。


だけどあれじゃあ、もう勝ち目そのものがない……!


「…………剣道の類いで、俺達の間に入り込むなよ」

「まだです……それに、私の剣技は剣道では、ない。古代ベルカ由来の……騎士の」

「だが人を殺したことはない」

「黙りなさい! 騎士として振るうべきは活人剣! 命を奪う剣など論外!」

「……いるんだよなぁ。活人剣の本質を知らず、殺さない言い訳にしている馬鹿が」


――――そこでバキンと音が響く。

今度はシグナムさんが炎を滾らせ、レヴァンティンを両手で構える……って。


「シグナムさん、来るな!」


止められるタイミング……いや、無理だ! 飛行魔法を応用した突撃……もう零距離に入る!


(この人、最初からタイミングを計っていたな!)


こうなったら、もう後は…………。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


蒼凪の声を無視し、カートリッジを三発ロード。左に振りかぶったレヴァンティンを、より強く握りしめる。

刃から滾る炎……それを目にしながらも奴は笑って、楽しげに刀を正眼に構えた。


「紫電……一閃!」


業火を纏った魔剣……それを奴の刃に撃ち合わせるように振るう。

だが、私の剣は空を切る。奴はすれすれでそれを見切り、笑いながらこちらに刺突。

咄嗟に両足で地面を噛み締め、身を逸らして回避。頬すれすれに突き出された刀が薙がれるので頭を下げる。


そのままの間合いを維持しつつ、刃を返して右切上・逆袈裟・左薙……だがどれもこれもすれすれで回避される。

それでも意を決して刺突。すると奴も刺突……それも刀の柄尻でだ。レヴァンティンの切っ先と奴の柄尻が衝突し、火花を散らす。


(カートリッジを使った様子もなく、私の一撃を……こんな箇所で捌いただと……!)


どんと……何かが爆発したような音が響く。だがそれだけ……それだけなんだ。

どれだけ押し込んでも、奴にはダメージ一つ入った様子もない……。


「軽いな……」

「……!?」

「確かにこれでは、目の前のもの一つが手一杯か」


軽いだと。私の斬撃を……ゾッとしていると、奴はレヴァンティンを捌き袈裟・逆袈裟の連撃。

それを下がりながら捌くと、飛び込みつばぜり合い……と思ったら、腕を取られて投げられる。

慌てて自分から飛び、真向かいに着地。素早く蹴り飛ばして、奴の身体を払う。


だが、私の蹴りは奴の右足で防がれる。魔力強化も賭けた蹴りが、容易く止められた。


「童子切」

≪了解≫


次の瞬間、奴の刀とレヴァンティンに火花が走り、突如私達の手元から射出される。


(電撃変換を応用した電磁レール形成……しま)


そう思っている間に、私の左頬に鋭く拳が叩きつけられる。

更にシールド展開する暇もなくボディブローを連続で食らい、呻いたところで左目に指が迫り…………視界が奪われた。

奴の右中指で、眼球が潰されたと理解したのは…………尋常じゃない熱が目に走った後だった。


「があぁあぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁああ!」

「騎士シグナム!」


そのまま指を入れたまま強引に脇へ投げられ、更に腹を蹴り飛ばされる。

そうして床を転がり、反吐を吐きながらなんとか五メートルほどのところで停止……。


「お前も偽の活人剣に惑わされている口か?」


奴は落ちてきた自分のデバイスをキャッチし、私のレヴァンティンも放り投げてくる。

もう用はないと言わんばかりに……いや、何かを期待するように、また……笑いながら……!


「どういう、意味だ……」

「その剣は快楽を知っているはずだ」

「なに……!」

「思い出したらどうだ。人を斬る楽しさを……快楽を受け入れない限り、俺には勝てないぞ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


火を見るより明らかだった。シグナムさんでは、コイツには勝てない……その公算が高かった。

でもそれは、シグナムさんが弱いという意味じゃない。むしろこの中では一番の戦闘経験と技量、魔法資質を持っているからこその隙。

それでも力押しが成り立つのであればと思っていたけど、やっぱり甘かった。あの柄尻での防御がいい例だ。


単なる防御じゃない。裂帛の気合いで打ち込んだそれで、魔力強化込みの攻撃を止めた……破砕浸透系の技法。御神流の通にも通ずる技だ。

しかもそれで加勢もできなかった。だからシャッハさんも、悔しげに腕を押さえて止まっていた。


≪主様、加勢するの! さすがにこれは≫

≪……無理なんですよ、ジガン≫

≪なの!?≫

「シグナムさんも、まだ臨戦態勢だからね……!」


魔法を用いた実戦剣術……その一流を誇る剣客同士が撃ち合っているんだ。

入り込めない……入り込むことができない。今ようやく動きが止まった今なお、何も終わっていない。

二人の覇気が……殺意が作り出す”異界”。それを不用意な介入で乱せば、どんなしっぺ返しが襲うか分からない。


あの男が自爆するならいい。だけどそれでシグナムさんが致命傷を負う可能性もある。もちろん僕が死ぬ可能性もある。

ゆえに入り込めない。ううん、入り込んではいけない。

さっきだってそういう状況だった。だからシグナムさんも、バインド破壊のタイミングを計っていた。


……シャッハさんが突撃できたのは、ひとえに剣客として……人斬りとしての格が低かったと言うしかない。

でも僕には無理だ。これはもう、決着が付くまで見届けるしかない……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


………………立ち上がり、再びレヴァンティンを鞘に納め…………カートリッジを素早くロード。


「…………断る」


蒼凪も手出しを……そのタイミングを計りかねている。

あぁ、そうだ。それでいい。さすがにシスター・シャッハのあれは、無謀が過ぎたからな……。

そしてお前はこの状況で、同じ轍を踏まない。ふだんであればそういうギャンブルをよしとしない男なのは、私がよく知っていた。


それは、冷徹だが……よいことだ。おかげで私も意地が通せる。


「というより、お前は勘違いしているな……」

「なに……」

「その快楽を記憶し、引きずることすらできなかったんだよ……私達は」

「……」


そう、それは私達の限界でもある。闇の書を守る守護騎士としての使命……これまで積み重ねた数々の戦いと経験、その中で得た感傷。

そのほとんどを、明確に覚えているわけではない。初代リインフォースが我々を気づかい、記憶を調整してくれてもいたからな。

だから、ない……ないんだ。そもそも私には、蒼凪やコイツのように、その快楽をよしとするだけの経験が”ない”。


それでもこの身に、この存在に刻まれているものはあるだろうが、それだけだ。明確に意識して、はき出せるものは……何もない。

だから”殺人剣の勝負”では、私は決して勝てない。どう足掻いても勝てない。それは最初から分かっていた。


だが……いや、だからこそ……!


「今の私の剣は、ただ一人の主に預けている。その上で積み重ねたものが私の理だ。ゆえに……」


余裕のお手上げポーズとため息……しかし隙だらけ。

それを見ながら、鞘の中で魔力をチャージする。足下のベルカ魔法陣が回転し、魔力を集束。


「その理を持って、相手をしよう」


レヴァンティンのカートリッジも三発ロード。蒼凪ではないが、鞘の中で魔力を燃やし、凝縮し、レヴァンティンに力を宿していく。

……残念ながら、私には鉄輝は使えない。短期間で真似られたエリオには軽く嫉妬をしたくらいだ。

その私が奴の刃と打ち合うのならば、燃え上がるしかない。その上で奴の斬撃ごと斬り伏せる。


もうできるかどうかではない、やるだけ……ただそれだけの問題だ。


「……いいだろう」


奴は刃を振り上げる。蜻蛉の構え……いや、それよりも後ろへ引き気味の左半間。

あそこからの打ち込みで勝負を付けるというのか。だが、あれは……いや、迷うな。今はそんな場合ではない。


「今の無礼、その理と覚悟を受け止めることで許してもらいたい」

「蒼凪が疑問に思うのも分かるな。その腕で、その心根で……なぜスカリエッティにつく……!」

「一宿一飯の恩義というやつだ。お前達が気にすることじゃあない」

「……承知した」


もはや問答は無用。ゆえに私も、改めて炎を……心を研ぎ澄ます。


(…………確かに、私では勝てないかもしれない)


その差は分かっている。奴は殺人剣を肯定し、私は否定しているからだ。


(だが何かを引き出すことはできるやもしれん)


だが蒼凪ならば…………損な役回りだが、命を賭ける価値はある。


(今の蒼凪は万全ではない。それを受け止めきれない可能性もある。ならば……!)

「――――!」


そうして奴へと……奴がその剣技で張り巡らせている結界へと、飛び込んでいく。

一足飛びで踏み込める距離。決して逃がしはしない。そしてもう捌かれることがないよう、渾身の力と速度を持って、奴と対峙する。

刀を右に担ぐように構える奴と……蜻蛉の構えよりやや後ろ気味に引きながら、私を見据える奴と。


「――童子切」


技の冴えは見事だ。相当な場数をくぐり抜けたのが分かる。

だが……今度こそ、その刀ごと断ち切る! 殺人剣ではなく、主はやてに寄り添い、積み重ねてきた私の刃で!


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


裂帛の気合いを込め、抜刀……奴との距離はもう五〇センチもない。

あとはお互いの技、どちらが冴えているかの勝負だった。


そう、だからこそ………………私は赤い雷撃に射貫かれる。


「…………斬馬」


レヴァンティンの鯉口を斬り、刃を抜き放つ……抜き放っていた暇だった。

目の前を赤い残光が走ったかと思うと、右二の腕から先の感覚が突如消失。

灼熱のような痛みが肩から胸元、腰までに深く走り…………私の足は、止まっていた。


「ぁあぁああぁ………………!?」


そして私は情けなく………………吹き出す血と一緒に意識を手放し、倒れるしかなかった。

だが、成果は残せた……引き出すことは、できた。それは……無駄には……なら…………な……………………。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


シグナムさんより速く抜き放たれた刃は、その右腕を両断した。

右腕とレヴァンティンが天井へと弾け飛ぶ中、シグナムさんの肩から胸、腹……腰までが一直線に割かれ、鮮血を走らせる。

奴はその血を浴びながら、斬撃によって停止させられたシグナムさんをただじっと、見続けていた。


そのまま崩れ落ちるシグナムさんを……ただ、ジッと。

そうして動かない……シグナムさんはぴくりとも動かない。ただ骸のように、意識を奪われた。


「騎士シグナム!」

「…………やっぱりか」

「古代ベルカの騎士……闇の書の防衛プログラム、その一角。
伝え聞く戦乱を生き抜いた剣士と聞いて、期待していたんだが……いや、それは期待外れだったんだが」


アイツは刃を逆袈裟に振るい、血を払い……僕に苦笑しながら向き直る。


「それでもいい女だった。生きていたら、楽しい仕合だったと伝えておいてくれ」

「黙りな、さい……殺人剣の卑劣感がぁ!」


慌てて左手をかざし、シャッハさんに空間固定形のバインドをかける。

膝立ち状態のシャッハさんは、信じられない様子でこっちを見て……。


「恭文さん、何を!」

「興が冷めることをするなよ――ぶち殺すぞ」

「――!?」


ちょっと、シャッハさん……そこでガタガタ震えるのはあり得ないわ。

人がせっかく、楽しく斬り合っていたのを邪魔して、なおかつピーチクパーチク騒ぐんだもの。


そりゃあ、その声を命と共に奪われたって、文句は言えないでしょ。


「あぁ、それがいい。
嘘っぱちの活人剣やら……人を守る剣やらを斬り伏せても、まず俺が楽しめない」

「だろうね……」


…………魔法資質や戦闘経験では、確かにシグナムさんが上だろう。シャッハさんもいい線はいくと思う。

だけど、技の冴えが違う。明らかに二人より一段階……いや、三段階ほど上を行っている。

しかも、今の構えはやっぱり…………あぁそうだ。コイツに対抗するなら、僕も本気の本気を出すしかない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……本当に、驚くべき剣客がいたものだ。

あの体格で、真っ向から俺と斬り合うんだからな。それも戦いで消耗し尽くした後でだ。

いや、むしろ余計な選択肢がそぎ落とされて、今が万全と言うべきか。そこの二人とは手ごたえから違っていた。


………………剣術において、腕力は威力、体格や重量は突進力に直結する。

だが子どもと言って差し支えないアイツでは、そのどちらも不利。それなのに俺と対等に渡り合った。

いや、上回ってきたと言っていいだろう。はっきり言えばさっきの抜刀術勝負、俺の負けだ。


体格の問題はリーチにも繋がる。……俺の方が、アイツより速く刃は届くんだぞ。

アイツは俺より鋭く踏み込まなければ、まずその刃を届かせることすらできなかった。

その分命を死に晒すことにもなる。俺よりもずっと速く、アイツは死に飛び込んだんだ。


なのに結果はどうだ。お互い”まだまだ皮一枚を斬っただけ”だが、その前提を置くと丸々評価が変わってくる。

その不利を知りながら、俺より速く抜き放ち、刃を届かせた。例え刹那の差だったとしてもだ。

そして俺の剣はそれに恐れを成し、皮一枚しか切れなかった……そんな怯えたものにされちまったわけだ。


奴は痛みを、死を恐れていないのか? いや、恐れていたとしても、それでも踏み込む覚悟があるということか。

勝利のために、百の実践をこなし、百の勝利を獲得する。その有り様は人ではない……鬼か修羅の類いだ。


実際奴が横やり前に出していた覇気はそれだ。胸が透くほどの……人ならざる覇気。

剣の限界を認め、一人の限界を認め、それでもなお抗うように自らを高める。見ほれるほどの強さだ。


なら俺はどうする? ビビって逃げちまうか?

化け物の相手は、化け物にしかできないだろう。

コイツが言うように、俺は迷って日和みた。だから諦めるか?


…………いや…………そんなことはしない。


「……!」


化け物ならこっちにもいるからだ。

あぁ、だから斬り合いたい……このまま、死ぬまで……徹底的に、満足するまで。

殺したいわけじゃない。むしろ殺すには惜しいとすら思っている。だがそれでも俺達は斬り合う。


そこに生まれる快楽に嘘はつけない。俺達はもう、出会ってしまったからだ。

俺達はもう……この決着を付けない限り、前には進めない。


自分か相手、どちらが強いかを、きっちり証明しない限りは――!


”…………ちょっとー! おっちゃん! 大丈夫!?”


そう、思っていたんだがなぁ……。あの水色髪の、生きのいい嬢ちゃんに水を差される。


”ちらっと見てるけど、相当ヤバいんだけど! 死にかけなんだけど!”

”ここからが楽しいところだ。俺に構わず…………とは言えないか”


そうだ、俺には託されたものがある。遺されたものがある。

守る義理立てもない約束だが、まだ死ねない……ここでは死ねない。そのリスクを冒せない。


全く面倒なものを背負ったものだと、急に頭が冷めてしまった。


”……上手く誤魔化すから、助けてくれ”

”あいよ!”


……だが次は……次こそは、最後まで――――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……よかったよ。コイツも化け物だ。人ならざる者を飼っている。

だから僕にも怯え竦む様子はない。むしろ笑って、刃を握る……振るってくる。


「じゃあ、続きをやろうか。幸いこれ以上邪魔は入らない」

「そう、したかったんだがな……」


すると自分を隔絶するように、赤いカーテンを周囲に揺らめかせ始めて。

……FN Five-seveNを左手で取りだし連続発砲。でも弾丸をすり抜けるかのように、カーテンは波打ち揺れるだけ。完全にやり過ごされている。


「……空間歪曲型の結界魔法?」

『とある奴らからのパクリだ。気にするな。
済まないが勝負は預かりとさせてもらいたい。娘がミルクを待って泣いているそうでな』

≪ベビーシッターくらい雇っておきましょうよ……。どんだけ野生児に育てたいんですか≫

「まぁいいや。お前、名前は」

『ボルトと覚えてくれればいい。……それじゃ、チャオ』


そうしてカーテンに吸い込まれながら、奴は……奴だけが、この場から姿を消した。

でもボルト……ボルト……そこで一つ思い当たる。


「…………まさか、サンダーエッジ・ボルト?」

≪それって、ゲンヤさんが連絡してきたアウトローの! 主様!≫

≪どうやら名前負けはしないようですね。何よりですよ≫


アルトと一緒に納得しながら、両手をパンと合わせ、自分の身体に手を当て術式発動――。

折れた骨、傷ついた筋繊維、その周囲を分解し、再構築。


「――!」


痛みと血反吐を吐き出しながら、ふらつきながらも生まれていた傷を全て塞ぎ治し……倒れることなくしっかりと踏ん張る。


≪主様!?≫

≪ちょっと、無茶しないでくださいよ。本来なら入院ものですよ?≫

「シグナムさん達の治療があるんだ。多少は踏ん張るよ」


僕はそこまで高位の回復魔法は使えないし、自分の傷くらいは塞いでおかないと。


「というかさ、その前に……なんていうか」

≪あぁ、アレもありましたねぇ≫


――第36話



「え…………ちょ、待って。待って……おかしいおかしい! なんであたし、置いてけぼりを食らっているのよぉ!」

「アイツ、先生と同じで細かいことに拘らないタイプだ……!」

≪女にもモテそうにないところがそっくりですしね≫

≪な、なのぉ……≫


『殺めるための刃』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんとか……スタンを引きずりながら立ち上がり、なのはが向かった方を見やる。

だけど逃げられたみたいで、なのはは悔しげにレイジングハートを握り締めていた。

まぁヘリは無事だったけど………………知らない人のおかげで!


これだとはやてが私達のリミッターを解除したの、無駄撃ちだったよ! というか、というかというか……というか……!


「な、なのは……あれって……!」

『フォーミュラシステム、だね。多分あの黒い動物やら足が一杯な装備も……』

≪ヴァリアントコア……それによる武装精製の応用。
その運用思想は武装単体というより、フォートレスに近いものもあるようですが≫

「……今の、六課じゃ……私達じゃ…………」

『いよいよ、きな臭さが本格発動って感じだね』

『……こちら、スターズ02』


そこでモニターが展開。地下の薄暗い空間で、ヴィータは悔しげに目を細めていた。


『ヴィータ副隊長、無理しないでください!』

『大丈夫だ。……すまねぇ……アタシのミスだ。
戦闘機人の横やりで、召喚師達に逃げられた』

「……もう一人出たの!?」

『ドンブラ粉みてぇに、地面を潜る奴だ。それどころか、フォーミュラまで使ってきやがった……!』

「そっちも!?」

『そっちも……おい、それじゃあ』

『ヘリを狙撃した観測手……海鳴で見た眼鏡の子ともう一人も、フォーミュラを使ってきたよ』

『なんだと……!』


最悪だ。ガジェットは倒したし、あの子も守られた。でも被疑者は捕まえられず。


『ヴィータ…………ふざけんじゃねぇぞてめぇ! 逃げろって警告したのに、下らない説得に構っているから!』


あぁ、ヤスフミがお怒りになってぇ! そうだよね、鎮圧したのはヤスフミだしね! でも落ち着いて…………じゃない!

というかヤスフミ、あの……血が! 袴もあっちこっち傷だらけで、肩や脇腹にも刺し傷っぽいものが!


『下らないだと……って、おい! お前、なんだよその怪我!』

『もう直した』

『そんな軽さで済ませていい状態じゃないだろ! つーかシグナム達はどうした!』

『そのシグナムさんが一番の重傷だ』

『なんだと!』


――――――その言葉で、通信ラインの全員が停止させられる。

というか全員って……シグナムやシスター・シャッハも!? それにエリオも!


『ロングアーチ、映像は届いているよね。見ての通りかなりヤバい……すぐ医療班を送って』


そうして見せられたものは…………右腕を中程から失い、片目を抉られ、深い切り傷を身体に刻まれたシグナムだった。

血を流し、身動きすらしない。呼吸もしているように見えず……はっきり言えば、斬殺死体にしか……見えなくて……!


『シグナム!』

『エリオ君! ……恭文さん、これって襲ってきたっていうマスター級の……』

『サンダーエッジ・ボルトだ』


……ちょっと、待って。シグナムも、シスター・シャッハもいたんだよ? 二人ともエース級って言って差し支えないんだよ?

ヤスフミだって準マスター級で、剣術については……悔しいけど、私は全然、本気を引き出すことすらできないし。


なのに、そのヤスフミがいても、ここまでやられる相手なの……!?


『はやて、闇の書の守護騎士には再生プログラムってのがあったはずだよね。そっちからの治療は』

『ヴィータも含めてもうやっとる! でも……ごめん。そのプログラム、よう動かんものになってて……』

『――こちらロングアーチ! なぎ君、今ヴァイス陸曹のヘリを向かわせてる!
シャマルさんが来るまで、なんとか応急処置をお願い! 自分の分も含めてだよ!? 見るからに重傷なんだから!』

『そっちはもう直したって言ったでしょ。それより追跡は』

『地上のと合わせて、逃亡したそれぞれの反応も追跡中だよ! もうちょっと時間をちょうだい!』

『だったらこれを』


そこでヤスフミが出してきたデータは……これ、電子機器の電波波長?


『こういうこともあろうかと、ルーテシアの服に発信器を仕込んどいた。
直接集束で魔力エンプティも起こしたし、連続転送もできる状態じゃない。なんとかうまく追って』

『助かるよ! アルト、ルキノ、このデータも参考に広域スキャン! 徹底的にいくよ!』

『『はい!』』

『……ならあとは、情報のすり合わせか』

『だったら、まずこっちからでいいかしら』


混乱していると、ティアナが恐る恐る右手を挙げる。


『例の、核の問題じゃないんだけど、実は――』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


転送魔法ってすばらしい。そう感じながらも、全員無事にアジトへと戻ってきた。

えぇ、すばらしいのよ? それが使えないからこそ、大切さを理解するの。文明社会への警鐘を聞きまくったから……!

しかもアジト近くにきたところで、ルーテシアお嬢様に発信器が取り付けられていたことが判明。それも破棄して慌てて逃げ込む有様だった。


…………フォーミュラで楽しくアイツらを弄んだというのに、その気分も台なしにされていた。

今日出たうちのレリック一個と、ルーテシアお嬢様に埋め込んでいた一個も奪われたしね! あぁ、やっぱり大損害かも!


「でも危なかったよー。アイツら、やっぱ油断ならないね。発信器まで仕掛けてたとか」

「だけど貴重な弾を二つも使わせたんだし、痛み分けとも言えるわよぉ。それに……貞淑さも立証できた」


そう言いながら脇を見やる。……剣豪気取りで楽しげなおじ様を。


「それは何よりだ。俺としても獲物の歯ごたえがありそうで満足だしな」

「できればそのまま、プチッと斬り殺してほしかったんですけどぉ? そのご立派そうな刀で」

「いやぁ……あそこから斬り合ったら、それこそどうなるか分からなかった。むしろ命拾いしたかもしれん」

「なんで? だって魔力もガス欠寸前だし、楽勝……なわけないか。おっちゃんあっちこっちボロボロだもの」

「あぁ。……あれは、手負いになってからの方が恐ろしい」


…………よく分からない言い訳。手負いならそのままプチっと殺せるはずなのに……ねぇ。


「まぁ、恐ろしい奴なのは分かっているけどさ……。
トーレ姉だけじゃなくて、スポンサーが引っ張り出した殺し屋連中、全員返り討ちって……」

「それも一日も経(た)たず……傷一つ負わないで。
……絶対に……許さない……!」


ディエチちゃん、また感情的になってぇ。でも……仕方ないわよね。

だってトーレ姉様はアイツに殺され、ルーテシアお嬢様も痛めつけられたんですものぉ。


……視力まで奪われた状態なんだから。


「トーレ姉を殺した上に、こんなに小さいルーお嬢様やアギトさんまで……傷付けて……! しかもお嬢様は目まで見えなくなって!」

「そうだよそうだよ! クア姉、どうなっているの!?」

「私も分からないわよぉ! ヴァサゴスナッチャーで生体接続していた影響としか……」

「やっぱりアイツは悪魔だ! 生きていちゃいけない奴だ!
だから、大丈夫……チャンスがあれば、私が吹き飛ばす」

「それは違うなぁ、お嬢さん」

「……どういう意味?」

「トーレは自爆した」


内心あざ笑っていたら……このクソ親父……!

そういう余計なことを言わないでほしいんだけど? ほらぁ、優しいディエチちゃんがぼう然としちゃったじゃない。

というか、他のみんなも…………いや、それ以前の問題だった。


アイツはアレを見ていた……それを証明するように、そのときの映像までモニターで出してきて!


「恭文はいい腕をしている。殺さないが抵抗もできない……そういう際を見極めノックアウトしたからな」

「なにこれ……私達に、こんな機能なんてないよ!?」

「そうだよ! いや、だけどこれは……確かに、サンプルH-1の仕業じゃない。むしろ驚いて、退避している」

「悪いがそっちは任せる。俺は奴から託された仕事をこなさなきゃあいかん」

「仕事……って、そっか。おっちゃん、セッテの教育係を……トーレ姉に……」

「女の遺言だ。聞かないわけにもいくまい」


迂闊だった……どうせ戦うことにしか頭にない脳筋だと思っていたら……どうする、どうする……。

サンプルH-1も生きているし、状況次第では私がやらかしたということもバレかねない。

下手をすれば私は姉殺しによって凍結。夢を叶えるどころじゃなくなる。


……まぁ、それは死ぬ気で頑張ってなんとかしましょうか。ようはドクター達に情報が伝わらなければいいんだからぁ。

とにかく、今は平静を装って…………。


「その辺りも、お任せされた通りに調べてみるしないわねぇ。ドクター達には私からも話してみるからぁ」

「うん……お願い、クアットロ」

「あとは……ルーテシアお嬢様、大丈夫ですよぉ。その傷も、すぐドクターが治してくれますからぁ」

「ん……」


しかし……アサシン攻撃、セインちゃんじゃないけど本当に無駄だったわねぇ。

損害額にして十兆ってところかしらぁ。公的資金を殺し屋の仲介業者に流しに流した結果がそれって……とんだ無能よねぇ。


……まぁ、こっちもその依頼を傘に着て、ちょーっと好き勝手できたから……お互い様だけど。


それにルーお嬢様も、騎士ゼストも、アギトさんも騙せた。

誰も……誰一人、私がお嬢様やアサシン達に”アレ”を運ばせたなんて思わないでしょうねぇ。

もちろんいろいろ甘々なドクターにも、尊敬するウーノお姉様達にも、自堕落な妹達にも内緒の話。


万が一の保険……回収したジュエルシードすら目隠しにする、禁断の毒。

…………ふふふふ♪


(あぁ、でも使うことになったら、どこに撃っちゃおうかしら……)


それを考えると……そうして生まれる悲鳴を想像すると、絶頂しそうなほど高鳴ってしまう。

ふふふ、爆発して、虫けらを焼き殺すときを待っていてねぇ? か・く・だ・ん・と・う……さん♪


「……っと、そうだ。レリックも確認しておかないと」


セインちゃんが持っていたケースを、近くの台へ置く。

そうして人差し指でケース外周にすーっとなぞり、同時に小型バーナー発生。

火花にも見える小さな炎でケースの封印を焼き切り、開ける状態とする。


うふふ、まぁ今回はこれで我慢しましょ。

レリックも、もちろん聖王の器もいずれ全て……私達の手に入るもの。


「それじゃあ御開帳ー♪」

「ルーテシアお嬢様が探しているナンバーだといいね」

「………………うん」


セインちゃんが開けるのと同時に、私も方針決定……でも同時だったのは、それだけじゃなかった。

ケースを開けた途端、走ったのは衝撃――別に、爆弾が爆発したとかじゃない。

ケースは、空だったの。鎮座しているはずのレリックは、どこにもなくてぇ……。


「……………………あれぇ!?」

「ちょっと、どういうことよぉ……セインちゃん!」

「まさか、どこかに落としたの?」

「いやいや、さすがにないでしょ! ケースはずっと閉じてたんだから!」


まぁそうよね。開いて確認する暇も…………確認!?

まさかと思い、思わず唇を噛んでしまう……!


「セインちゃん……サーチはしたのよねぇ」

「もちろん!」

「映像を見せてちょうだい! 今すぐ!」

「わ……分かった!」


セインちゃんはサーチ映像を展開。あの場にいた全員を、サーモグラフィー的に……魔力反応やらを見ている複合映像なんだけど。

確かにケースにも魔力反応がある。それも例の奴らより強く、局所的な赤い反応よ。


「…………ほう」


するとおじ様が口元の髭を撫でながら、愉しげに笑う。……一発で気づくというのがムカつくわ。


「もうちょっと注意するべきだったな」

「え、なに! おっちゃん何か分かったの!?」

「よく見ろ。それらしい反応が……二つだ」


そう、反応はある。でもね、同じように強い反応が、もう一つあるの。


「ケースと……この、ぽっこり可愛い帽子」

「…………ぁああぁぁあぁぁ…………!」


それはつまり……この私が、化かし合いであんなゴミどもに負けたという話で……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ようやくこっちのターンがきた。まぁアイツのことは心配だけど、とりあえずは解説。


「――副隊長とリイン曹長があの子をとっちめている間に、ぱぱっと準備したんです」


キャロが帽子を外すと、そこには黄色いお花が咲いていた。

それに副隊長達が目をぱちくりさせるわけで。


「ただ私の幻術、知っての通り物理衝撃に弱いので。それでバックスのキャロに持っていてもらったんです」

「……あの必殺技の撃ち合いでもバレなかったのは、本当にラッキーでした。というかもう、ウェンディさんのおかげです!」

「くきゅー♪」

「いやいや……なんか、私も意識してなかったっスから! というかファインプレーはティアナとキャロっスよ!」

「じゃ、じゃあギンガがケースを持っていたのは!」

「…………はっきり言えば囮(おとり)です。あくまでも念のためだったんですけど」


右の指をぱちんと鳴らすと、花は一瞬で弾(はじ)け消失。代わりにレリックが現れた。


「やっぱり備えって大事なんですね」

「なるほどですねー!」

「ははは……はははははははは…………」


なおサーチしても、中身が分かるはずもない。密輸用に対策されたケースだしね、そこを利用したのよ。

……今後、自分が開ける番になったら気をつけよう。そう誓った瞬間だった。


「……でも副隊長、さっきのはいただけませんよ」


キャロがレリックを持ち直す中、さすがに見かねてお小言。それで副隊長も、苦しげに呻きだして……。


「まぁ、止めきれなかった私が言うのもあれですけど……」

「……すまねぇ」


ヴィータ副隊長もその意味を、その重さを噛み締めながら、静かに謝ってくれる。

だから私達は大丈夫と首を振って…………でもそんなヴィータ副隊長に、厳しい視線を送る人がいて。


「あの、ギンガ」

「スバルも、ティアナも、六課から引かせていただきます。なぎ君についても当面は108で預かりますので」

「待ってくれ! それは」

「あなた達を信用する理由が、もうありません――!」

「ギンガさん」


…………そこでギンガさんが、視線で私を制してくる。

絶対に許せない……絶対に認められないと、強い視線で。

そしてその視線を敵意に変えて、ヴィータ副隊長を睨み続ける。


なんの容赦も、慈悲も、赦しも、言い訳も許さず……ただ、壊れることを願うように。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


召喚師とユニゾンデバイスらしき女の子、及び眼鏡二つおさげと一つ結びには逃げられた。

でもスバルとエリオ、ディードを除くフォワード、隊長陣、ヴァイス君とシャマルさん、もちろんあの子も無事。レリックもちゃんと確保できた。

それは一応、喜ばしいことで。スバル達も”ここ”へ搬送されたし、すぐに目が覚める。


幸いなことに急所は外れていて、マリーさんも駆けつけてくれたから。

もちろん初期処置が手早く、的確だったせいもあるけど。ただ一週間は絶対安静を言い渡された。


……同時に寒気がしっぱなしでもある。知り合いだからって、加減は一切しない。

それだけ召喚者――ルーテシア達の気持ちが強いってことかも。お母さんを助けたいそうだし。


そうしてばたばたして、時刻は午後四時五十八分――ここは聖王教会の医療施設【聖王医療院】。

私はあの子やスバル達に付き添い、その検査と治療を見届けた。それも……一応は終了。


……え、恭文君? シャマルさんに治療されたら、シャーリーやグリフィス君と話したいことがあるからって、隊舎に戻ったそうだよ!

なにこれ、どういうこと!? 自由!? 自由なのかな!? クレイジーはフリーダムなのかな!?


『――時空管理局本局・広報室からの発表では、質量戦略兵器削減条約≪Sealing.actV≫の調印式は予定通り、十月に行われる予定とのことです』


――――ロビーに響くのは、付けっぱなしのテレビ。ちょうど夕方のニュースをやっているところだった。


(Sealing……質量兵器削減条約かぁ。本当に、そろそろなんだよね)

『既に発表されている、管理世界ヴェートルからの中央本部撤退。さらにオルセアなどの内戦地域での兵器流通の問題……。
今回の調印はそれらの観点から、専門家はもちろん、各世界の市民の注目度も高くなっています。
更には九月にミッド中央本部で行われる公開意見陳述会の結果も、その行く末を左右すると思われ――』


……そんなニュースも適当に聞き流しつつ、六課のフェイトちゃんへ遠距離念話を続ける。


”――というわけで検査は無事に終了。例の子は眠ったままだけど、スバル達はすぐ回復するって。
ただシグナムさんとヴィータちゃんはしばらく入院決定。どっちも死んでおかしくない状況だったし”

”そう……でも、ひとまずは安心だね”

”もろもろのことはこちらのみなさんに任せて、私もヘリへ戻るよ。フェイトちゃん、そっちは”

”…………ヤスフミ、本来なら入院して当然の怪我なのに、平然と動き回ってる……! というか言った通り、シャーリーと何か話しているの!
でもね、六課に戻るつもりはないんだって! 課長じゃないから! レジアス中将との依頼もあるからって!”

”二重契約は問題ありって教えてあげて……!”

”問題ないのぉ! 契約項目から問題ないようになっているのぉ! グリフィスも頭抱えていたからぁ!”

”本当に悪魔なの!?”


もう間違いない! こういう状況にも備えて、準備していたんだよ! かなり初期段階から、機動六課については疑いがあったみたいだしね!

最悪の場合第三者に依頼主となってもらって、それで好き勝手動くつもりだったんだよ!

お金のために……というか、自分のために全力過ぎて怖いよ! やっぱりこれが雛見沢魂なのかなぁ!


(でも……)


ここまでの状況にしたのは、なのは達であり……はやてちゃんだ。


私は知っている。あの子が本当はとても優しくて、甘くて……奇麗事を通せるなら、それが一番いいって思っている子だって、知っている。

だけどそのために、自分や犯人とは無関係で、ただ平穏に生きている人達を踏みにじることは許せない。

たとえ矛盾を孕んでも、たとえ犯罪に走るしかない人達の命や痛みを踏みにじっても、そこだけは絶対に譲れない。


じゃなかったら、犯人を逃がした後に生まれた被害は、自分達が当然にしたもの……なんて、言うはずがないもの。

そんなあの子にとって今、機動六課は……自分の戦いを通せる場所ではない。そう結論が出されようとしていた。


……捜査課長でもなくなったしね。


”他にはなにかあるかな”

”あ、うん……確保していたアサシン達は、被爆の可能性を伝えて……中央の拘置医療施設に運ばれたよ。
あの、ゼスト・グランガイツ達が脱走したのとは、別の……第二棟だね”

”お話、聞けたの?”

”……ヤスフミがレジアス中将の依頼を受けた関係で、そっち経由からって感じだけどね。
それでね、取り急ぎだけど検査してもらったけど、結果が出るのはしばらくかかりそう。……だけど”

”だけど?”

”やっぱり……どこかの内戦地域に出向いて、そこの廃棄場で作業したって”


……これで確定……というか念押し? つい目頭が熱くなって、足を止めてしまう。


”ここは、108が捕まえたアサシン達と変わらずだよ。本来の暗殺依頼の他に……コンテナを運ぶ仕事を頼まれた。
そのときの主導はルーテシア・アルピーノで、他はその手伝いって感じになっているよ”

”……どんな感じで?”

”他の世界……詳細は不明だけど、とにかく廃棄場みたいなところで、着の身着のままで作業したんだって。
あとは……なにか、倉庫に置きっぱだったミサイルっぽいものとか”


そのとき、電流が走る。


――完全に捨て駒扱いだった。

それだけでスポンサーとやらにとってアサシン達の命が……年端もない子どもやゼスト・グランガイツ達の存在がどれだけ軽いか、察することができる。

そんな扱いをあの小さな子も受けていたのかと思ったら、また目頭が熱くなってきて……って、そういうレベルじゃないよ!


”……核弾頭を置きっぱ”

”な、なのかなぁ……”

”核燃料をポリタンクにそのまま”

”みたい、だね……”

”そんな地獄があり得ていいの……!?”

”ヤスフミは頭を抱えてまたおげーってしていたから、多分…………あり得るんじゃ、ないかなぁ…………!”


……嫌だ。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

あり得ないあり得ないあり得ない……そんなの絶対あり得ない! というか良識的に信じたくない!


この世はそこまで地獄じゃなかった……なかったはずなんだよ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


(第37話へ続く)







あとがき


恭文「……というわけで、決着は付かず、介入したシグナムさんは瀕死の重傷。シャッハさんは腕がちぎれかけてとさんざんな状況。
それでも……それでも当初の目的を果たし、六課はなんとか休日だった一日を終えて、インターミッションに入ります。
なお今回、カットシーンがそこそこありまして……次回は36.5話としてそちらを掲載予定です」

卯月「……でも私の出番、ありません」

恭文「……無茶言わないで…………って、卯月!?」

卯月「はい! 熱風疾風島村です♪ そしてメイドな私です♪」


(今日はメイド服な島村さん、サイバスターに乗ってやってきたらしい)


恭文「……ソーシャルディスタンス!」

卯月「ソーシャルディスタンス破りです!」

恭文「ソーシャルディスタンス破り破り!」

卯月「ソーシャルディスタンス破り破り破りです!」

古鉄≪……その打ち返し、延々続けるつもりですか?≫


(でも楽しいよね)


卯月「いいんです! だって……グラブルとデレマスが今日からコラボ!
イベントストーリーを進めれば、SSRなnew generations……ようするに私と凛ちゃん、未央ちゃんですね!
そして楓さんも入手できます! だから楓さんもやる気満々です!」

楓「ソーシャルディスタンス破りー」

恭文「ご時世的にアウトなので乗らないでください!」


(いろいろ緩和されたけど、まだまだだしね)


卯月「だからカレンさん達にも負けません! ……やっぱり恭文さん、カレンさんのこと好きで……視線が、熱いですし」

楓「そうね。私にもあんな熱烈な視線、向けてくれたことはないわ」

恭文「なんの話!? というか、前にも言ったでしょ! 僕は見守りたいんだよ! カレンとルルーシュ、C.C.様は見守り隊なんだよ!」

カレン「いや、だって……相変わらず胸、見てくるし……視線キラキラなの感じまくりだし。
……本当に大きいのが好きなのね。しかもいやらしい感じが一切ゼロってどういう奇跡よ」

恭文「見てないー!」

カレン「見ているから! もうね、大丈夫よ! アンタの気持ちは十二分に伝わったから! そんな否定しなくても大丈夫だから!」

恭文「なんで励まされているの!? そもそも僕はそういう……フェチじゃないから!」

卯月「いいえ、恭文さんは巨乳フェチです!」

恭文「言い切るなぁ!」

卯月「そして私は恭文さんフェチ……つまりフェチップルです!」

恭文「それはフェチじゃない!」

卯月「だから……恭文さんもよそ見できないくらい、最高の笑顔とパワーをお届けしますね?」

恭文「パワー!?」

卯月「SSRのパワーです」

楓「パワーをぱわーんと大放出するわね。……キレがいまいちだったかしら」

恭文「レアリティの話を持ちだすなぁ! 生々しいから!」


(島村さんは失念していた。この場合レアリティよりスキルの方が大事だということに……。
本日のED:PENGUIN RESEARCH『キリフダ』)


卯月「そう言えば恭文さん、HGUCでディキトゥスが出ますよ! 木星帝国のモビルスーツが初のガンプラ化です!」

恭文「……正直全く予想していなかった。出るならバタラとかファントムかなーって。ファントムならSD関係で出ているし」

カレン「……このでかい手になるのって、なんか凄いわね。かなり強いの?」

恭文「滅茶苦茶強い。しかも二機揃って完璧に連携して、超機動で動くから手に負えない……」

卯月「決戦は手に汗握る戦いでした……」


(おしまい)




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あきゅろす。
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