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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第34話 『フォーミュラ・リバイバル75』


なのはとフェイトはなんとかヘリへの救援に向かい、ヴィータとリインも地下組に対処。

はやての広域魔法による殲滅は……全力ではないと言ってもさすがのもので、なんとかガジェット大隊の上陸を防いでいた。

だが……通信経由で飛んできた情報に、怖気を走らされる羽目になって。


「ライズキー……だと……!」

「そんな馬鹿な。グリフィス、何かの勘違い……あぁ、この段階だと何も言えないわよね!」

『えぇ! しかも未来測定だか予測だか……そんな能力を出されたら、どう対応すればいいのか!』

「くそ……こちらの手続きが間に合っていれば!」


つい右膝に拳を叩きつけてしまう。

あれが……三提督の後押しもあって、なんとか使えそうな新戦力が間に合っていれば……恐らくは対抗できただろうに。


「……手続き? クロノ提督」

「……実は本局の先進技術開発センターで、数年前から新技術が開発されていたんです。ソーシャル・アドバンスド・ウィザードシステム――通称SAW。
エルトリア事変で見られたフォーミュラシステム……その根幹足るナノマシンの技術を参考に開発したものなのですが」

「ですが、フォーミュラは使用の危険性と、人体改造の側面が」

「なので身体強化やフォーミュラシステムの機構をあえてオミットしているんです。
……投与者はデバイス共々所属部隊のデータベースにて、二十四時間体制で状態観測。
負傷や戦闘による混乱、恐怖などに対して、脳内分泌物を操作することで万全のフォローを発揮します。
更に体内相互通信により、チーム戦ではメンバーと感覚すら共有し、その連携力を最大現強化も可能。
実際本局の一部部隊では実験運用がされて、相当な成果が出されていたのですが……」

「それを、六課でも投入しようと」

「この装備は使用者自身を直接強化するものではありません。
なのでライズキーという外装装備と組み合わせ、その運用データを獲得する……そういう目的で打診をしていたのですが」


SAWは今も言った通り、仲間同士の連携力を強化する……それを基本理念としたシステムだ。

確かにフォーミュラシステム……アクセラレイターや物質に干渉する能力は強力だが、使いこなすのは相当にハードルが高い。

身体強化に割り切って運用したなのはも、瀕死の重傷を負ったからな。あの件も鑑みつつ、数年に渡って研究が進んでいたらしい。


投与そのものが人体改造であり、使用することが命を縮めるような……そんなリスクを払い、チームをより盤石にする命綱として。

僕もアグスタの前後で、たまたま顔を合わせた高官から話を聞いて……それで導入できないかと打診していたんだが。


「もっと早くに……いや、僕がより頑張っていればよかった。
政治活動は苦手だなんだと言って、言い訳していた自分が恥ずかしい」


今この場で……今日の場で間に合わなかったこと。

結局戦線を広げに広げて、連携すら難しい形で部隊が分断されたこと。

なにより……そのツケをただの民間協力者に払わせて、一人素知らぬ顔を決め込もうとしていたこと。


その全てがとても恥ずかしく、拳をただ強く……強く握り込んでいた。


「リンディ提督がいない今、本局内での折衝や調整は僕の役割だというのに……!」

「……それでも、提督は艦船艦長で常駐しているわけでもありません。
難しいところがあるのは、我々も承知しています」

「それでも、もっとしっかりしなければならないと反省しています。
すぐにでも導入できるよう、急いで調整しなければ……」


もちろんこの場が無事に、なんとか解決した上での話だ。それすら他人事のように吐き捨てて、つい自己嫌悪で目を細めてしまう。


………………でも、こんなものじゃなかった。

僕達が味わう地獄は、僕達が背負うべき罪過は、もっと残酷なものだったんだ。




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――悲しいかな、僕は無力だった。

利は示せても、それを信じさせるだけの力が、根拠が示せない。そういう意味では立派に負けているし、手遅れだった。

そして今ここでこの子を逃がせば、本当に”核兵器を使用した狂人の仲間”としてその名が刻まれる。それでも僕達には止める手立てがないんだ。


……現場レベルで説得してなんとかなんて、最初から土台無理な話だった。それは、最初から分かっていた。

それでも核兵器のことをちらつかせれば……と思っていたけど、それも甘かった。


となれば、心を定めるしかない。


「抜くよ、アルト」


もう甘い対処はできない。


≪……仕方ありませんね≫


迷いも、憂いも、やるせなさも、怒りも全て受け止め、背負って、一歩を踏み出す。

殺すだけなら普通にやればいい。でも今回は生かした上での捕縛が基本。だから……札を切らせてもらう。


「やめて……あなたは、勝てない。未来が見える私に勝てるはずがない……だから」

「……まさか僕が、その手の能力者と戦ったこともないと?」

「え…………」


翼を生やし、剣を携えた悪魔の姿。セミグロスブラックとシャンパンゴールドに彩られたそれを……スイッチオン。


……あいにく、お前は勘違いしている。未来が見えるのも善し悪しなんだよ。

形ある未来は、既に切り崩せるものだ。今からそれを証明してやる。


「舐めるな」

≪ゼロシキ!≫

≪The song today is ”Out of Control”≫


アルトが流した音楽がこの空間を支配する中、直ぐさまトイフェルドライバーにオーソライズ。

……そこで虫が殴りかかってくるので、その爪を受け止め…………る寸前で身を翻す。

そのまま腕を取り投げ飛ばすと、虫は地面に叩きつけられる寸前に身を翻す……ので、着地寸前に右ミドルキック!


≪オーソライズ!≫


周囲の物質が次々分解され、SDのガンダムマルコシアスが生まれる。

それがルーテシアの放った魔力砲撃を、右手に持ったバスタードメイスで殴り潰す。

こちらも虫野郎が放った誘導弾を、左手で持ったアルトで断ち切った上で……右手を振りかぶり、≪マルコシアスライズキー≫展開。


迷いなく、それをドライバーに装填――!


≪プログライズ!≫

「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


そこでギンガさんが飛び出し、虫野郎の突撃に入り込む。また無茶をする……!

虫野郎は身を翻し回避するけど、そこへ踏み込み再び胴体部に蹴り。ちょっと大きめに吹き飛ばした上で、ルーテシアへ向き直って歩き出す。


そうして分解・粒子変換されたSDマルコシアスのパーツを装着していく。


無線接続の機動ブースターウィング≪クリング(刃)≫。

上部スロットには多目的マルチランチャーを備え、翼の下部には無骨なスラスターユニットも搭載している。

トイフェルライデゥングには追加スラスターを接続。


ジャケットはライズキーと同じ色の、和風装束……羽織袴となる。

そしてアルトを納刀……右半身で構え、だらりと下げた右手首をスナップ。


≪抜かねば太平! 抜いたら両断!
――ゼロシキマルコシアス!≫

――Nothing can't be beaten by my sword――
(特別意訳:我が太刀に断てぬものなし)


敵との距離は七十メートル……まぁ、問題ないか。

なにせ奴は、その後ろに動けもしない妖精を従えているんだから。


≪Saiha Mode≫


アルトを抜刀……伸長する柄と刃。

ぶ厚い斬艦刀と貸したアルトを、蜻蛉に構える。


≪ジガン、封印術式のサポートを≫

≪了解なの!≫


左手でライズキーを押し込み、フルドライブ発動――!


≪シップウジンライ! ――アクセルスタート!≫


今日三度目の瞬間フルドライブにより、沸き上がる魔力。更にジガンのカートリッジを四発ロード。

三発はスラスターに回し、もう一発は刃に纏わせる魔力とする。

纏わせる魔力は、焔と迅雷を入り交じらせた結合魔力。燃え上がる雷撃を鋭く研ぎ澄まし、アルトを蒼く染める。


そしてクリングとトイフェルライデゥング及び追加スラスターから、蒼い白い魔力の炎が吐き出された。

それが翼のように広がった瞬間……ただ前を見据える。


ただ一つの斬りたいものを……刃で捉え、断ち切れる可能性を見据える。

たった一欠片でも、たった一筋でも、見えた可能性をたぐり寄せる。


「やめてって、言っているのに……」


吹き上がる翼が奏でる轟音。それを合図にしたのか、虫野郎が飛び込む。クソガキも両手で魔力を集束させる。


「今だけはって、言っているのに……」


全てをそぎ落とせ。


「どうして……どうして……」


ただ一筋を……ただ一閃を……アイツに叩き込むだけでいい。

二の太刀はいらない。絡みつく罠も、糸も、全て置き去りにするほどに……!


「分かってくれないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「――――!』


踏み込む――!


(そう……未来を予測されるのであれば、方法は幾つかある)


示現流では”三尺を二歩半で踏み込め”と言う。九十センチ近い距離を、たった二歩半でだ。

それは剣戟の打ち込みだけじゃない……相手との間合いすら、無意味にする踏み込みを手に入れろということだ。

飛ぶが如く、飛ぶが如く、飛ぶが如く……しかしてただ無策な突撃で終わってはいけない。


その足は的確に地面を捉え、身体を加速させると同時に、敵の罠をかいくぐる柔軟さがなくてはならない。


故に既に仕掛けられていた設置型バインドを。

虫が進行方向上に放った誘導弾を。

クソガキが迸らせた魔力砲撃を。


(こちらからあらゆる可能性をそぎ落とし、ただ一つの未来を導き出す)


その全てを置き去りにするほどに鋭く、速く、僕自身が稲妻と化す加速で、全ての距離を埋める。


(その上で……)


そうして、ただ渾身の一撃を叩き込む――!


「チェストォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――――!」

(結果だけ覆せばいい)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


こんなの、嫌なのに……そうだよ、私は悪い子だよ。私みたいな子を増やしても、お母さんを助けたい悪い子。

分かっているから、止めないで……お母さんを助けさせて。

それだけでいいからって、お願いしているのに……なのに、あの人は許してくれない。


私を、アギトを、ゼストを、お母さんを……死んで当然と、冷徹に刃を振るう。

それが許せなくて、それが……とても憎くて。

だから幾つもバインドを仕掛けた。だからガリューにも、あらゆるルートに弾丸をばら撒かせた。


もうやめて。

私は、あなたを嫌いになりたくない……傷付けたくないからって。

お願いするみたいに、いっぱい札をばら撒いた。


なのに……あの人はただ一直線に飛び込んでくる。その未来が見えた。

ううん、違う。いろんな可能性が、消えていく。

上から襲ってくる未来も、横や後ろから襲う未来も、転送魔法で引き寄せられる未来も消える。


ただ一つ、一直線に飛び込む未来しか見えない。

なのに……私達が張った罠の全てが、あの人を捉えられないの。何一つ、かすることすらできないの。


数十メートルという距離が開いているのに、一瞬で縮められる。

私の砲撃を撃っても、その前に構築スフィアごと斬り裂かれちゃう。

私の眼前にもバインドを展開したけど、駄目……魔力を込めた斬撃が術式に干渉し、力尽くで破砕する――!


そこで気づく。

あの人はただ速く走っているわけじゃないことに。

ただデバイスの力で、速く飛んでいるわけじゃないことに。


罠やカウンターの設置位置や発生タイミングを読み取り、それを……とんでもない速度ですり抜けている。あの大きくなったデバイスを抱えた状態で。

現に罠には、踏んだら即時発動する設置型転送魔法もある。でもそれすら置き去りにして、私に迫ってくるの。

周囲すら認識するのも難しい速度域で、自分の足で地面を踏み締め、走りながら……魔力の翼を吹きすさばせながら。


そうして、未来が閉ざされていく。

未来はちゃんと見えるのに……これしか見えない! 私が殺される未来しか見えない!

どうやっても覆せない! 斬撃を避けることも、防ぐこともできない! 私を守る罠が、私を守ってくれない!


ガリューも追いつけない! あの人も止められない!

どんな砲撃も、射撃も、こんな単純な攻撃を止める手立てになり得ない!

それで私も避けられない! 避ければアギトが……非殺傷設定かどうかも怪しい攻撃で、完全に殺される!


そんな未来が…………確定して、迫ってくる……!


「………………!」


蒼い刃……どこまでも硬くて、強くて、揺らがない刃。

恐ろしいけど、魅入られる刃。

最初に見たときから、凄いって……奇麗だなって、思っていた刃。


それが……あぁ、私を……斬り裂いて。

でも、それだけじゃない。


斬り裂かれたのは…………私の見えている世界…………そのものが…………。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あの未来予測なんてとんでもないチートが振りまかれて……どうしたのかと思ったら、それは起きた。

アイツはアルトアイゼンを巨大な刀……フェイトさんのザンバーみたいな姿に変えて、高く掲げながら突撃する。

翼のように噴射した魔力……その勢いを加味して、姿を消すように加速。


そして信じられないことが起こる。

ルーテシアが仕掛けたらしいバインドや転送魔法、魔力地雷の数々が、ただ空だけを戒め、貫く。

ガリューが追いすがるように放った弾丸も虚空を貫き、地面に衝突して同じように潰える。


そして……アイツはルーテシアを砲撃スフィアごと斬り裂く。

……ルーテシアの眼前に設置されていた、最後のトラップ≪バインドと設置型転送≫……それすら斬撃で打ち砕いて。


「烈華一閃――――」


翼やトイフェルライデゥングから魔力残滓がスチームのように吐き出される中、アイツが突き抜けた箇所から嵐の帯が生まれる。

ルーテシアのジャケットも……ライザーとライズキーごと両断されて、弾けて……後ろにいたアギトも胴体を斬られたように、ジャケットが引き裂かれる。

でも斬り裂かれていたのは二人だけじゃない。


地面も……抜刀したと思われる箇所から、数メートルに渡って、一直線に……!

そうして二人は見るも無惨な斬撃痕を刻まれながら、ドサリと地面に倒れた。


……ルーテシアの両眼は出血していた。

ひび割れたように血があふれ出し、見ているだけで苦しくなる。


≪――タイムアウト!≫


そしてアイツは、アルトアイゼンを日本刀モードに戻しながら納刀。

それと同時に、青白い光を放ちながら変身が解除。トイフェルドライバーがスチームを放ちながら、あのライズキーを排出する。


アイツは空いた右手でそれをキャッチし、平然と仕舞い込んで……更にルーテシアの腹から浮かび上がったレリックも、さっとキャッチする。


「あれ、フェイトさんがやって、恭文さんがトラップで完封した……!」

「くきゅー!?」

「ううん…………それ以上の精度と速度!?
でも、それを装備の補助があるとはいえ、今の魔力量とランクで出すなんて」


ごめん、意味が分からない……全くもって意味が分からない!


「それは当然だ」


なんでアイツは、この状況で平然とできるのよ!


「そこに在るのなら、神様だって殺してみせる――」


お願いだから許して! チートは専門じゃないのよ! 凡人だからぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


確かに未来測定は強力な能力だ。使い方次第では、自分の勝利以外の未来を殺す能力と言ってもいい。

知っている……本当に、自分のこととしてよく知っているよ。でも、だからこそ絶対条件があることも見落としていない。


それは自分が手持ちの技能や戦術で、相手の反撃を完全に封殺できること。

もし封殺が適わない場合、他の手段で対抗するしかないけど……それすらも適わなかったら?

しかも奴はわざわざ動けないユニゾンデバイスを庇った。能力・スキル的にフルバックで、僕とまともに打ち合える技量がないのにも関わらずだ。


だからこそ愚直なまでの突撃戦法を取って、自慢の刃を”抜いた”。

歳破モードを使ったのも、奴に回避という選択肢を潰させるため。よければユニゾンデバイスはその質量で文字通り粉砕される。


それでまず一つ、未来を殺す……あとは沖田総司のように、ただ速いだけではない超神速≪縮地≫の領域にたどり着けるかどうかだけ。

今回使ったゼロシキマルコシアスは、それを埋めるためのものだ。

機械的なシステムで押し上げてくれるスラスターの数々。その速度はエルトリア事変で観測されたアクセラレイターを凌駕する。


というか、して当然だ。それこそが本物の縮地なんだから。とはいえ今の僕の技術力と魔力量では、それを常時発動もできない。

最大持続時間は三十五秒。フルドライブ時には十秒。それ以上経過したら、安全のため変身が解除される。

他のライズキー三種と違う、それ自体が必殺技扱いとも言えるキーだ。


まだまだ調整が必要だと肝に銘じながら、レリックも完全封印を確かめた上で、仕舞い込む。


”主様……ジガンは感動したの! あんなやり方があったなんて!”

”そうでもないよ。……生体接続されていた関係か、視力まで奪い去った”

”なの!?”

”測定した未来を網膜で映し出していた関係でしょうね。とはいえ、これ以上の加減は難しい……割り切るしかありませんよ”

”そうする。で……ライズキーやライザーを見てどう思う?”


一旦こっちも柱の陰に隠れ、マジックカード五枚で魔力を回復……それでようやく、生まれていた疲労感が多少和らぐ。


虫野郎も宿主が意識喪失して、一時的に動きが止まった。

というより、未来測定を元に動いていたのがパーになったから、混乱しているって言った方が正しいね。


あとはガンマン女が撤退してくれると嬉しいけど……!


”そうなの、それもあったの! あれは六課でしか使っていないものなの!”

”つまり、データが流れているんですよ。スカリエッティサイドに……もちろんこの人のことも”

”未来測定レベルに達していたのは、間違いなくそのせいだね”


ようは僕について詳細なデータがあったから、あそこまで暴れられたのよ。恐らくは副会長が教えてくれた流れで手に入れたものだ。

今のも瞬殺に見えて、かなりヤバかった……。一旦仕切り直しのタイミングが取れなかったら、そのまま撤退に追い込まれていたよ。

まぁ僕としては完全近接・剣術戦闘使用のライズキー≪ゼロシキマルコシアス≫の実地テストができて嬉しくはあったけどさぁ。


となれば、やっぱりコイツらに加減はできないし……六課を安住の地にするのもアウトってわけだ。


(少なくとも、札は隠さないとね……)


アルトの代わりに予備刀を取りだし、魔法を発動……そして詠唱完了。

ルーテシア・アルピーノとアギトを折り重なるように引き寄せる。


…………そのとき、ルーテシアの懐からあるものが落ちてきた。

透明なネームプレート……奴の身体に一つ細工を施してから、確認する。


「………………」


それは、ゼスト・グランガイツのものと違って透明だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


唖然とさせられた。

ロングアーチから届いた戦闘映像には、ただただ唖然とさせられた。

蒼凪の奴……結局非殺傷設定は守っているようだが、中々にヒヤヒヤさせる。


だがそれ以上に、あの剣閃と踏み込みは……新しいライズキーの力だけではない。


「騎士シグナム……!」

「……えぇ」


シスター・シャッハと廃棄都市部の一角……ビルの屋上で足を止めてしまっていた。

それほどに……剣士の我々から見ると、蒼凪の打ち込みは凄まじかった。一瞬……本当にごく僅か、ヘイハチ殿の姿が見えたくらいだ。


「あれがヘイハチ殿から受け継いだ剣術の極意……その一端。
示現流の理に従い、裂帛の気合いの元ただ一太刀で勝負を決める……」

「あの装備も、恭文さんの動きをより鋭くはします。でもその根底にあるのは、やはり本人の技術と気持ち。
斬ると定めたものを、ただひたすらに睨み、全身全霊をそこへ投射し……そうして初めて成せる打ち込み。
そして敵との距離を零とする足と見切りの精度」


そうしてシスター・シャッハは身震い。ジャケットがノースリーブなせいではない。

剣士として、改めてその力強さに畏怖を抱いている。


「ただの人斬りでは成せない……恭文さん、よくあそこまで……!」

「えぇ……」


どうやら殺すというのも、単なる脅しだったようだ。あの子の身体が無事なのがそれを示している。

だがそれは明確に未来を示してもいた。……それは、何とかすくい取ってやらなくては………………そう、思っていた。


だが蒼凪はそこで止まらなかった。


「ん……?」


転送魔法でユニゾンデバイスとルーテシアを引き寄せたかと思うと、右手で刃をくるりと逆手に持ち替えて……。


「おい、蒼凪……!」

「待ちなさい! あなたはなにを」


こんなところで、何を言っても無駄だった。アイツは……躊躇いなく刃を、振り下ろして。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヤバい、どっかの漫画の世界だ。そりゃあレナパンとも打ち合えるわ。だってチートだもの。誰も彼もチートだもの。

でも私はチートじゃないし、どうしようと……一瞬でも怖じ気ついたところ、アイツが動く。


転送魔法が発動。その足下にルーテシアとアギトが……アイツは何かを拾い上げ、更にルーテシアの両手を掴む。

そうして何かを抜き出し、懐に仕舞ったかと思うと、あの子達の胸元に刃を突き立てた。


「が……!?」

「ひがああぁあぁぁぁぁぁあ!」


二人は団子みたいに串刺しにされて、目を見開く。

揃って奪われていた意識が一気に覚醒すると同時に……きんと、音が響いた。


≪――Stardust Falldown≫


アイツやルーテシア達の周囲から、蒼い魔力が少しずつ集まっていく。

流れ星……そう、小さな流れ星が、幾つも……少しずつ、少しずつ…………!


「が……あぁあぁ……あぁああぁぁあ……!?」

「あ、あ、あ、あああ、あ、ああ、あ、ああ、、あ、ああ……」


いや、アンタ……何しているのよ。

その子達、もがき苦しんでいるじゃない……! なに冷静に、刃を突き立てたままでいるのよ!


「なぎ君、何しているの!?」

「答えるまでもない……と言いたいところだけど、教えてあげる。……禁呪だ」

「禁呪……!?」

「アンタ……くそ!」


答えを出したのは、あのガンマン女だった。

アイツへまた射撃を…………いや、引き金をかけた指が止まった。止められてしまった。


アイツの周囲で渦巻く、尋常じゃない流星雨の……魔力の嵐に飲まれて。


「…………正気なの!? その子の身体から魔力を集束するって!」

「魔力、集束…………集束魔法≪ブレイカー≫!?」


そこでゾッとさせられる。というか、一気に……以前勉強したデータが頭の中で引き出されていく。

集束魔法……修得難易度オーバーSの高位魔法。空気中に存在する魔力を一点に集め、砲撃なりで撃ち出す。

これは普通に存在している魔力素だけじゃなくて、戦闘などの余波によってまき散らされたものも集め、火力に変換できる。


たとえ魔力が枯渇状態にあっても、撃ち出すためのトリガー分だけで発動できる。

ただ集束にはかなりの魔力制御能力が必要だし、チャージに時間もかかる必殺技扱いなんだけど。


それを……人の身体から集める……!?


「肉体に楔となる刃を打ち込み、そこに魔法生物や人体の魔力を”無理矢理に引き寄せる”」

「あぁあぁあぁ!」

「ああぁあぁぁあぁぁぁあ……あぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!」

「集束が加速したが最後、死ぬほどの痛みが全身に走り、抵抗は不可避。
更に内燃機関足るリンカーコアにも多大な負担がかかり、甚大なダメージが入る。
これを試した魔法生物については、もう魔力を使うことはできなくなったよ」

「「あぁああぁああぁあぁぁあああぁぁぁぁぁ!」」

「くそ……!」


そこでエリオが見ていられないと飛び出しかけるけど。


「邪魔をするのはいいけど、集束途中の魔力が暴発したら……コイツら、どうなるかなぁ」

「……!」


でも、アイツの言葉で足が止まる。止まってしまう……もう話しているだけで、大分魔力が集まっていた。

ルーテシア達も悲鳴を上げることすらできず、目から血の涙を流し……びくんびくんと、人形みたいに黙って震えるだけで。


「……ほんと、最悪ね……! 命を奪わず、ただ魔導師として殺すって!」


ボンテージ女の言う通りだった。これじゃああの子はもう、自分の力で母親を助けるなんて……絶対にできない。

少なくとも普通の魔導師として戦うのは……しかも私達は、それを止められない。

止めればアイツは、躊躇いなく魔力を暴発させる。そのために、予備の刀で突き立てているから!


「恭文さん、やめてください! そこまですることはないじゃないですか!」

「……エリオ、召喚師のパートナーを務めるなら、もうちょい勉強しといた方がいいよ」

「は……!?」

「……オーバーロードした召喚獣……ですね……」


キャロが震えながら見やるのは、打ち震えながら停止したガリューだった。


「ルーテシアちゃんの意識がなくなっても、暴走したラインはそのままだから……一時的にでも魔力をシャットダウンしないと、今度は召喚獣諸共……!」

「下手をすれば魔力を溜め込んだ爆弾になる」

「そんな……だって、今は!」

「混乱状態にあるだけだよ! それが収まればまた暴走する!」

「……レリックによるブーストも込みだからね。これくらいしないと多分止められない」


アイツはそう言って刃を抜き……集束を、中断した?

その上で左手を伸ばし、あのユニゾンデバイスを掴み……ごきりと、嫌な音が響くまで握り潰す。

突き刺さった針ごと握りつぶし、身体をより抉って……なんつうエグい……!


「いぎゃああぁああぁぁぁぁ! あああぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「騒ぐな。ルーテシアを殺すぞ」


アイツが冷淡に告げると、ユニゾンデバイスが悲鳴を止める……。


「それが嫌なら答えろ。
お前達がスポンサーに頼まれて運んだコンテナは……そこに積まれた核はどこに向かった」


コンテナ? え、ちょっと……それって、さっき言っていた!


「なんで……だあぁあぁ……」

「この子が核兵器使用の片棒を担いでもいいのか」

「アタシらは、何も……悪いことなんて、してねぇ……! アタシらは、ただ……」

「心がない、母親を助けたかった……そんな言い訳が成り立つレベルじゃない」

「うる…………せぇ…………」

「一発でも撃たれたら、本当に後戻りできないぞ――!」

「アタシらは、誰も……お前みたいに! 罪もない奴を傷付けちゃいねぇ!」


そこでアギトが魔法を発動しかけた瞬間、アイツの目がゾッとした冷たさを放ち…………その小さな体躯を放り投げた。

そして……集束砲が集まりきった刃で、その腹を再び射貫いた。


「が……ああぁあぁぁぁ!?」

「……どの口で言ってんだ、お前」


集束魔力の熱に晒され、アギトの身体から煙が放たれる。肉が焼けて、解けるような匂いもし始める。


「あぁああぁぁあ…………あああああああああ! あああああああああ!」


アギトの魔法は構築途中で消失。

あの子はもがきながら、太い刃を両手で触る……でもそれも魔力に焼かれて、一気に吹き飛んだ。


「いがぁあぁぁあっぁぁあぁぁあぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!」


まさか、禁呪で集束しているの……!? アイツが反省なしだから……なんの迷いもなく!


「もうお前達は殺しているだろうが。それでこれから、もっと殺そうとしているだろうが」

「い……いあが……がいがああ、いがぁぁああぁあぁぁ…………」

「ちょっと、アンタ」

「それが…………お前達のせいで生まれた痛みが! 罪ですらないと言いやがるのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


…………でも、止められなかった。

アイツの怒りは当然のものだった。決して許してはならないものだった。


私には分かる。だって……その罪で、兄さんは…………。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


意識が、戻ったと思ったら……今度は痛みが……信じられない、痛みが……襲ってきていた。

もう、声を上げることもできない。そんな余裕すらもない。それに見えない……何も、見えない……。

それでも分かることはある。身体の中から、魔力が引きずり出される。リンカーコアがそれで軋み、震え、潰されるように歪む。


神経が一ミリずつ剥がされ、斬られ、捻られ……いたぶられるような感覚。なんでこんなことになったのかも理解できない。

ううん、理解する思考力すら、痛みが、奪って…………でも、それが唐突になくなった。


「…………ち」


そこで感じたのは…………私やアギトを守ろうと、傷つきながらも飛び込んでくるガリューの気配と。


「ぁ……」

「オーバーロードへの対処が先か」


放り投げられたように、声が遠くなっていく……アギトの感覚だけ、だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうして、アイツは刃を振りかぶり……。


『――――――――!』


襲いかかってきていた虫とアギト目がけて、刃を翻し、逆風に振るう。

そして空間に……蒼い剣閃が、刻まれて…………。


「……スターダストフォールダウン」


剣閃から溢れるように、極光が走る。

それは虫とアギトを塵に返すように飲み込み、天へ突き抜け……その前には全ての障害が無意味だった。

天井も、幾つかあるであろう回想や障壁も……その一切合切を幾つも、幾つも貫き……ついには空すらも穿つ。


その衝撃に……差し込む太陽光に目を細めながらも、アイツを見やる。

それに対して何一つ揺らがず……ただそこに立ち続けるアイツを。

振り切った刃は砕け散っていた。アイツはそれを一応鞘に戻し、コートの内側に仕舞い込む。


そしてルーテシアは瞳から光を失い、口からも血を垂れ流しながら……やはり人形を連想させるように、横たわっていて。

……召喚獣はズタボロになりながら倒れ、その脇に裸体のユニゾンデバイスが落ちてきて……そのまま、頭から地面に激突。


首を変な方向に曲げて、血を流しながら……ビクビクと、震えていた。


「おい、なに寝てんだ」


かと思うとアイツは左手で銃を取り出し発砲――それだけで、ユニゾンデバイスの左足がちぎれ飛んだ。


「ぎゃあああああああああ!」

「質問は続いている。答えろ……それとも本当に、ルーテシアを痛めつけなきゃ気が済まないか」

≪分かっているでしょう? もう自分のリンカーコアが……魔法能力がズタズタなのは。あなたはただのお人形として蹂躙されるしかない。
……それを、ルーテシアにも適応していいのかというお話です≫

「アンタ……ちょっと落ち着きなさいよ! 気持ちは分かるけど」

「黙ってろ」

「――!」


アイツの睨み付けで、声が出なくなった。たったそれだけで……心が底から震え、縮み上がり、口をパクパクさせることしかできなかった。


「あ……ああぁああぁぁ……あぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁ…………」

「答えろ。じゃなきゃ今度はルーテシアを撃つ」

「あぁああぁぁあぁぁあぁ…………や、やめ……やめ…………て…………」

「お前達はそう言って逃げ惑う人達を……拘置医療施設の職員を、一人でも見逃してあげた?」

「――――!」

「なら、それがお前の未来だ」


だからユニゾンデバイスも絶望で打ち震える。

自分の望む答えを引き出せと……ただそれだけが生きている意味だと突きつけられて、涙を流し震えている。


(なんでよ……なんで、そこまで……!)


そうしてアイツが、トリガーを引きかけた瞬間……。


「ちぃ!」


黒いボンテージが走り……転送した。

そうしてアイツの背後を取るけど、すぐに対応され……アルトアイゼンを抜刀したアイツと、つばぜり合いが発生する。


差し込む日の光が、アイツとボンテージの横顔を照らして……。


「……邪魔をするなよ」


アイツは斬撃を払うと、左手の銃を連射。ガンマンは素早く下がりながら、それを両手の銃で次々と払いのける。


≪まさかあなた一人で、この人数に対抗すると? さすがにそれは不用心でしょ≫

「悪いけどそれが契約でね!
しかもアンタ、集束魔法を無駄撃ちして、限界一歩手前じゃない!」


そこで女の言葉にハッとさせられる。

そうだ、集束魔法は利点だらけだけど、それに見合う弱点もある。

相当な魔力制御能力が必要なことと、身体にかかる負担……あの年で小学生にしか見えないアイツがぶっ放したら、それは……!


「分かってないねぇ。その方が修行になるだろ」

「ほんとイカれてるわね!」

「じゃあ幾らで寝返る」

『ちょっとぉ!?』


なに平然と買収しにかかっているのよ!

分かってる!? ソイツはアサシン! アンタを殺しに来ているの! それでOKなわけないでしょ!


「おあいにく様!」


ガンマン女は一旦下がり、アイツを引きつけるように弾丸を乱射。それが切り払われている間に、別の通路を背にする。

……ほらー! やっぱり通用しないし!


「金の問題じゃないのよ、今回はね!」


更に何かの術式を発動したのか……アイツと私達を隔てるように、地面から壁が生まれ始めた。

ううん、それだけじゃない……結界だ。結界が展開されて、私達も閉じ込められた……!


”ディード!”

”大丈夫……壁の外に入れました! エリオさんも一緒です”

”ならそのままフォロー! でもAMF弾丸には気をつけて!”

””はい!””

『ロングアーチ01から、スターズ03へ!』


クロスミラージュとライオットライザーをしっかり握り直し……呼吸を整える。

そうしてタイミングを計っていく。いや、そんな余裕はない。


ガリューは確かに消滅した。だけど……足音は、確かに響いていて。


『ティアナ、ちょっとストップ! そっちにラプター五体と……新しいガジェットが向かっている!
もうすぐヴィータ副隊長達も到着するから、上手く持ちこたえて!』

『あと三分だけ待て! 最短距離で』

「……間に合いません」

≪ラプター達の突入まで、あと十五秒≫

『マジかぁ!』

「問題もありません」


ライオットライザーをバックルに戻し、ライズキーのスイッチをプッシュ。

そのままショットライザーのトリガーを引く。


「このままクライマックスだもの」

≪シューティング! ――スターズコメット!≫


すぐにもう一度ショットライザーを取りだし、クロスミラージュと交差させながら構える。

すると銃口二つの周囲に弾丸が二十発展開。それが渦を巻くように集束して……!


≪十、九、八、≪七、六≫


クロスミラージュが律儀にカウントしてくれる。既にサーチでも敵の動体はしっかり掴み、ロックオンもしている。

それにガンマン女の方も、不利を悟って別の通路へと逃げ込んでくれた。というか、アイツがバーサーカーで追い込んだ。


それにはまぁ、一応……感謝しつつも。


≪五、四、三≫

「クロスブラスト――」

≪二、一……≫

「ファイア!」

≪〇≫


衝撃とともに放たれた弾丸達が一つの流星となり、通路から一気呵成に飛び出してきたラプターとガジェットの混合部隊を襲う。

防御すら無意味な鋭さでその急所を一つ、また一つと撃ち抜き、あっという間に通路の前には屍の山。


それらは崩れ落ちながら爆炎へと変わり……全ての反応が消えたのを見届けてから、静かに息を吐く。


≪全目標、撃墜完了。……お見事です≫

「アンタがサポートしてくれたおかげよ。あとは……訓練の成果」


……なのはさん達が鍛えてくれなかったら、ここまで……ちゃんとできなかったと思う。普通に虫に倒されていたわよ。

手ごたえはあった。私は強くなってる。ちょっとずつで、焦れったい速度だけど……楽しさも忘れず、進んでいる。

そこにはやっぱり、なのはさんの……六課の中で生まれたものが、ちゃんとあって。


それをアイツとも……分かち合えたらと思うのは、やっぱり贅沢、なのかな。


そうして悩んでいる間に、全ては決着していた。


「――――おりゃああぁぁぁぁぁぁぁ!」


そこで轟音が響く。

空調用の大型通風口を突き抜け、ヴィータ副隊長とリイン曹長が現場に突撃。

身を翻し、グラーフアイゼンでの右薙一閃――最後の障壁をぶち破って、現場へと突入する。


「待たせ……あら」


でも現場の状況を見て、呆(ほう)けてしまった。

もう召喚師とユニゾンデバイス、ガリューは鎮圧されていたから。もちろんラプターもね。


「……遅刻の常習犯ですね。今度私も遅刻するんでよろしく」

「ヴィータちゃん、言われてるですよ」

「………………お、おう」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本当に腹立たしい……おかげで否応なく五度目の見逃しを行うことになったよ。ダビデ王だって四度目が限界だったのにさぁ。


「……さて」


そんな感傷をグッと飲み込み、誘われていると知りながらも、別の路地へ追撃開始。

それはそうだ。ここじゃあシュヴァンツブレードなんかは使いにくい。クロスレンジの射撃戦で圧倒するつもりだろうね。

なのでまずはジガンのカートリッジを再装填。手首内側のスロットにマガジン型のリーダーを差し込み、大型カートリッジを次々入れていく。


それが終わってから深呼吸――FN Five-seveNを閉まって、アルトを納刀した上で走る……走る走る走る!

もうライズキーで変身できるほどの魔力は残っていないからね! ここからは本当に加減なしだ!


「「恭文さん!」」


するとディードが飛んで……というか、エリオに抱きつきながら、ストラーダですっ飛んできたぁ!?


「馬鹿! ここは僕一人でいい!」

「なら不意打ちに備えた盾と考えてください!」

「ディード!」

「僕も同じくでいいです! 指示をください!」


そう言いながら二人は速度を殺すことなく地面に降りて、僕の隣に………………ああもう……ここで振り払えないのが僕の悪いクセ。


「そうです。私達が、あなたを……放っておけないんです」


というか、天使に心配そうな顔をされたら……もう何も言えないよ!


「全く…………アルト!」

≪The song today is ”Out of Control”≫


アルトがかける音楽に、魔力を通わせる。それも極微弱……今の残量でも支障がないレベルだ。

なお曲はリピート……もうちょっと派手にいきたいしね!


「…………これに意味は……あるのですね、はい」

「あはははは……」

「能力リミッター」


更に術式を走らせ、かけられたリミッターを視覚化する。

両手足首に浮かぶ環状魔法陣。それを術式で解いていって……。


「解除時間一時間に設定! ――限定解除!」


その魔法陣ばパリンと音を立ててくだけ、弾け飛ぶ。

……その瞬間、ガス欠寸前だった魔力が、押さえ込まれていた出力が一気に解放。

全回復とはいかないけど、それでも地下へもう一〜二回はドンパチできるだけの力が戻ってきた。


(よし、これなら……!)


転送魔法で近くの壁を飛び越え、接近してきた女……それが放つ弾丸を壁を駆け上がりながら避けて、アルトを抜刀。

蜻蛉の構えから唐竹の打ち込みを払うと、奴はそれを防御……が、その衝撃から二丁拳銃が奴の頭頂部へ激突。


「が……!」


めり込まんばかりの衝撃を受けながら、女は外壁にぶつかりながら吹き飛んでいく。その間に着地ーっと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっと……今のは何よ! 防御したのに、それごと潰しにかかった!?

いや、そういうレベルじゃない! 危うくポチと太郎が頭蓋にめり込みかけた! 接触箇所がヒドく内出血を起こしているのが分かる!

咄嗟にフィールドで防御を固めていなかったら、どうなっていたか!


あれは魔法の出力や腕力どうこうじゃない!

打ち込みに込められた気合いと鋭さ……肉体と精神、技術を鍛え上げたからこそ打ち込める”秘術”!

アイツと違って出力頼みで戦うタイプじゃないのは知っていたけど、ここまでなんて!


しかもなんでよ……リミッター解除だけの問題じゃない。さっきよりずっと動きが速くなっている。

迷いがない……殺意に、剣を振るうことに、命を背負うことに、一切の迷いがない。


これは本気の本気でかからないと、声も上げられずにすり潰される……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ディード、全力で走って!」

「了解!」

「エリオは後ろを任せる! チャンスがあれば転送で挟み撃ちだ!
……AMF弾丸があるから、とにかく動き回って狙わせるな! いいね!」

「――――はい!」


あの女は……ち、生きてやがるな。頭から出血はしているけど、動きが引っかかった。


『ディード、エリオ! 恭文も……そのままでいいから聞いて!』

「オットー……はい、聞こえています」

『そちらにラプターと……未確認の反応が近づいている! 人型だけど注意を!』


……その対処の前に、脇道から出てきたベレー帽・迷彩服の男からだ。

ソイツが向けてきたAKに、左手で小刀を投てき。それは銃口を塞ぐように突き刺さり……次の瞬間暴発。

奴の両手が破砕した銃と一緒に引き裂かれたところで、射線外から飛び込み袈裟一閃。


鎖骨から股関節までを奇麗に斬り裂き、回転しながら右ハイキック。

五十メートル先のスキンヘッド・青竜刀持ちの男にぶつける。

高速移動魔法で接近しかけた奴は、不意を突かれながらも唐竹一閃。


青竜刀で迷彩服を真っ二つにしたところで、目を見開く。


「この馬鹿どもが……」


…………もうそこには僕がいるからだ。

平突きで心臓を抉り、刃を引きながら連続突き。

二人、三人と仕留めた上で、背後に回っていた一人へ左薙一閃。


胴体から真っ二つにすると、奴らは揃って通路に倒れ、血の海を作る。


「もっと余裕のあるときに出てこい」


……そのとき、奴らの脇からあるものが滑り落ちる。

それはルーテシアも持っていたフィルムバッジ。それを拾い上げ、すぐに仕舞い込む。


”ちょっとあなた、これは……”

”やってくれたね……”

「ラプターと連携を取っているのですか……!?」


ディードは驚きながらも、背後から迫っていた別のラプターに対処していた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


エリオが先行し、ストラーダでブースト……打ち込まれた砲撃を飛び越えながら、ラプターの合間に入り込み回転する。

その瞬間、ストラーダのカートリッジが一発ロード。刃を軸に魔力が……雷撃の鉄輝が鋭く構築されて。


「…………雷輝繚乱!」


それがラプターの首や胴体を真っ二つに断ち切り、エリオは水路に着地しながら脱兎。その爆発から退避する。

……キーの力に頼らず、強化骨格の肉体を容易く……しかも一気呵成に断ち切るか。


「……よくもまぁ、そこまで真似られたものだ」

「いろいろ、盗ませてもらいましたから!」

「生意気な」


なんだか変な気分になりながらも、ディードを見やる。……ディードもなかなかにいい腕をしていた。

突撃しながら砲撃を放つより速く、右手の赤い刃≪ツインブレイズの片割れ≫で刺突。

ただし、絶対的に距離が足りない……そう思っていたら、エネルギー状の刃は伸長。


翻りながら伸びる刃が構築スフィアを貫き、爆散させる。ストライクカノンごと壊れたところで、左手のツインブレイズが続く。

ラプターは首元を貫かれ、ディードの翻りとともに首を断ち切られ……そのまま崩れ落ちた。


……これは、僕も負けていられないね。本当に……本当に不本意だけどさ。


「……さて」


……後ろから女のAMF弾丸が飛ぶ。

それもアルトでのなぎ払いで全て払いつつ、ディードと一緒に走り……二十メートル先の、左の脇道へと入る。


……カートリッジをロードして、術式発動……!


”エリオ、転送するよ! 目の前の奴をぶった切れ!”

”はい!”


待ち受けていたのは、ライフルもちの小男。……が、その意識は背後に現れたエリオが、雷輝による袈裟一閃で容易く断ち切る。


”僕とスイッチ!”


指示しながらエリオと交差し……脇道の出口に入りかけていた、別の男目がけて左手で小刀を連続投てき。

首元、胸、脇腹を的確に撃ち抜き、仕留めておく。

続けて倒れゆくソイツを押しのけ、飛んできたきたラプター五体も…………そこでしっかりとチェックする。


今倒した男達から、あのネームプレートがこぼれ落ち……水路に落ちていく様を。


「アホが」


またまたカートリッジをロード……やっぱりこれは腹立たしい! とはいえエリオ達のサポートには必要だし……くそがぁぁぁぁぁぁぁぁ!


”エリオ、スイッチ! 援護するからさっきの要領で行け!”

”了解!”

≪Sonic Move≫

≪Stinger Phalanx≫


奴らは狭い通路で、大人数で密集して……だからジガンから取りだし、連続投てきした十六発ののダガーに圧倒され、動きが止まる。

もちろんそれはオートバリアやストライクカノンのガードにより容易く防がれる。でもそれでいい……目くらましができればいい。


その弾幕を抜け、エリオがソニックムーブで突貫。刃そのものとなり、ラプター達を貫いて爆散させてくれる。

……あとは気配を読んで……。


”ディード、後ろ任せた!”

”了解です”


ディードが周り込み、ガンマン女の連続射撃を全て切り払ってくれる。。

その間に僕達はまた走り、脇道からメインの大型通路に抜けて……。

振り返りながらもダガーや小刀を次々投てきして、奴を威嚇する。


なのに……そこで眼前に現れる、あの女。

気配で察知していたので、慌てることなく対処。

向けられる二つの銃口――その下からすくい上げるように一閃。


銃身を切り落とす一撃により、女の攻撃はキャンセル。

……いや、女は跳ね上がった腕を鋭く翻し、虚空で魔力を集束させ、素早く跳躍。


そうして左右交互の六連撃た放たれる――。

それは三日月を思わせるほど鋭く、敵でなければ見ほれるほど美しいものだった。

しかし今は戦い……命のやり取りを、食らい合いをしている最中。


見とれることなく、アルトを正眼に構えて――疾駆。


「飛天御剣流――」


そのまま真っ向から、こちらも連撃を放つ。


「九頭」


――壱(唐竹)・弐(袈裟)・参(左薙)・四(左切上)・伍(逆風)・陸(右切上)・漆(右薙)・捌(逆袈裟)・玖(刺突)!



「龍閃もどき!」


るろうに剣心で使われた剣術……先生に教えてもらったんだ。天翔龍閃も、先生は撃てるんだよ。

そして九頭龍閃は、唐竹・袈裟・左薙・左切上・逆風・右切上・右薙・逆袈裟・刺突の九連撃を同時に放つ回避・防御も不可能な必殺攻撃。

ゆえに女は連撃を弾かれ、腕や腹、足を斬られながら衝撃で大きく吹き飛ぶ。


「が……!」


咄嗟にフィールド魔法で防御を固めたらしく、致命傷たり得ない。しかしそれでも値に塗れ、奴は派手に地面を転がった。


「だから……なんで魔法なしの方が強いのよ!」


お返しと言わんばかりに放たれる弾丸。それを見切り、射線をかいくぐりながら十メートル近い距離を再び埋める。

そこで女が右肩でタックルしてくるので、僕も対抗……ぶつかり合いながらも、僕達は地面を踏み砕く。

走る衝撃、相手から受ける圧力。全てを払いながら、突き抜けようと足掻(あが)く。


”エリオ!”

「――――!」


そんな僕を飛び越えながら、エリオがストラーダでブースト刺突。

女は体勢を立て直しながらそれを……スルリと、スウェーで回避する。それも楽しげに笑いなんがらだ。


即座に詠唱――。アルトをアイツに袈裟へと打ち込み……防御したところでそれを発動!


≪Break Impulse≫


しかし奴は術式発動寸前に転送。

押し込み切れないと判断して、即座にエリオをカバーしながら、背後へ振り返り……いや。


僕が対処する前に、ディードがカバー。ツインブレイズを縦横無尽に振るい、弾丸を尽く打ち払った。


「あら……」

「……既にその弾丸の速度は見切りました」

「ディード、ナイス!」


これはなかなか……さすがは天使だと感心しながら、左手で飛針を取り出す。

ディードはステップで僕に射線を開けてくれるので、容赦なく全力投てき。


アイツは両手の銃でそれを払いながらも、電撃魔力を纏わせ……そこが狙いだと踏み込む……。


”ディード、天井近くまで飛んで!”

”……こう、でしょうか”


それはディードのジャンプを合図に、右薙から始まる十連撃。

まずは一発目――僕の一メートル手前。

不可視の斬撃波。金剛石さえ打ち砕く≪秘剣・飛飯綱≫。


アルトだけじゃなくて、ゲブリュルでも撃てるように絶賛練習中な奥の手だ。


”ナイス!”


斬撃時に生み出した空気の断層により、かまいたちが発生。それが得意げな女に迫り、その体を切り裂く。

その時間まで、あと三メートル……そこで女の表情が変わる。


「……!」


あと二メートルで防御の動きを見せ。

あと一メートルでそれは完璧なものとなる。

一秒に満たない進軍――その間に飛飯綱な見切られ、銃身で防御される。


弾(はじ)かれた真空はその軌道を乱され、跳ね上がる。

女は右へ顔を逸(そ)らした――その瞬間。


「ぐ――」


女の左肩から鮮血が走る。跳ね上げられた真空波が……ダイヤモンドすら斬り裂く斬撃が、確かに柔らかな体を捉えた。

その痛みに構わず、女はバリア系魔法を瞬間展開。

それで残りの斬撃波を受け止め……切れるわけがない。


女も一撃を食らったことで、それを理解していた。

だから乱す……この狭い空間の、空気そのものを。

二撃目を受け止めた瞬間、バリアを自ら爆破。


リアクティブアーマーの如(ごと)く、爆破によって攻撃の衝撃を殺す応用――僕も習得している技だ。

その勢いにより、形成されていた真空波が揺らぎ、威力を劇的に弱めてしまう。

よって三撃目からは、再展開したシールド系魔法によって、全て弾(はじ)かれ霧散する。


その判断力に感嘆としながらも、転送で引き寄せ。

――いや、女は後ろに跳んで、僕の転送範囲から退避。

そのまま数度バク転しながら、こちらへ牽制(けんせい)射撃を行う。


転送魔法で別の道に退避した上で、三人で全力ダッシュ。


「……恭文さん……」

「……おかしい。幾ら何でも手慣れすぎている」

「えぇ。あなたの手の内……転送も交えた戦闘スタイルを、完全に熟知しています」

「というか、僕達も……ですよね」


初めて戦うのに、そうじゃない感覚なんだよ。何なの、この違和感は……。


「本当に、お知り合いでは……」

「あんな美人で素敵なオパーイの持ち主、一度見たら忘れないって」

「……まずオパーイに入るんですね、やっぱり……!」

「でもお父様と……」

「だったら余計に………………」


……そこで一つ引っかかりを覚える。


≪……手が読まれる……あなたのことをよく知っている≫

≪お姉様?≫

「でも非魔法戦闘では僕に遅れを取っている」


さっきの九頭龍閃だってそうだ。防御でデコをぶつけたのだってそうだ。奴は”魔法戦だけは”僕に拮抗できると言える。


≪見方を変えれば、あなたと同じ戦い方が……魔法戦ができる相手。それでも、条件は成り立ちますよね≫

「そう、なるよね」


でも僕の魔法や戦い方は、まぁ瞬間詠唱・処理能力も大きいわけで。

それに頼り切るつもりはないけど、生かすやり方も幾つか構築はしている。


つまり、つまり……つまり…………!


「アイツ、まさか……!」


いや、それなら納得ができる。でも……それもこれも後だ!


こちらに弾丸を放つ女。

急停止・方向転換のコンボでそれをすり抜けつつ、スライディング。

頭上にAMF弾丸をやり過ごしつつ、跳躍し、振り返りながらジガンのダガーを射出。


手首裏のスロットから飛び出した柄を掴み、刃の展開と同じタイミングで投てき――!

初速七一五m/sで飛び出す刃……それに慌てて、奴は別の角に逃げ込んでいった。


(……転送魔法による退避も、射程距離的にはどっこいどっこい。
こちらの攻撃を真正面から受けても、動けるだけの耐久力。
そしてAMF弾丸のアンブロッカブル能力と、通常を超える詠唱速度)


見れば見るほど、あの男の顔がちらつく。

…………仇を討ってくれるような娘がいるなら、最初から言ってほしかったよ。


となると……いや、早計は禁止だ。ここはロングアーチとも連携しよう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヴィータ副隊長とリイン曹長は、召喚獣やあの子達を改めて拘束。レリックもきっちり封印処置を施した。……一つの仕掛けを施した上で。

更に最低限の……生命維持に差し障らない程度の治療を施し、事情聴取開始。

迎えの車両が来るまでは、このままらしい。まぁ廃棄都市部のど真ん中だからなぁ。引きずるのも大変か。


(あとは……アイツらへの救援だけど)


いや、分かってる。スバルも怪我(けが)しているし、屋内戦じゃあ危険度も大きい。

なによりあの機動力に今から追いつくのは無理よ。ほんと、悔しいけどね……!


……まぁ、エリオもディードと一緒に向かっちゃったっぽいし、そこは……任せましょうか。


「…………ルーテシア、お前はメガーヌ・アルピーノの娘なんだな。
で、母親のデバイスやら召喚獣を受け継ぎ、母親を助けようとしている」

「あのヴィータ副隊長、その話は私達や恭文さんがしていたので……」

「茶々入れてんじゃねぇ! ……正直に話せ。
事と次第によっちゃあ、管理局は必ず助けてくれる。それは絶対に」

『ヴィータ副隊長! みんなも、そこからすぐに移動して!』


いきなりなに!? なんか通信が……シャーリーさんの声が!


「なんだよシャーリー! 今犯人の尋問中だぞ!」

『それは108の救援部隊と合流してからにしてください! ――ヴィータ副隊長、彼女は核密輸に関わった重要参考人でもあるんです!
もしかしたら救援を送る可能性もあります! それも拘置医療施設の一件で、脱走を手引きしたような……移動系能力者が!』

「それ、なぎ君も言っていた……!』

『そのなぎ君からの提案を受けて、ロングアーチが揃って合意した!
なので事情聴取や説得などは後にして、すぐ脱出を! こちらでナビゲートします!』

「……だったら心配するな。けが人もいるし無理には動かせねぇ……その分アタシが注意しておくから」

「ヴィータちゃん、なに言っているですか!」

「そうですよ! あの、スバルとユニゾンデバイスは私が抱えていきますから、それで」

「大丈夫だっつてんだろ!」


ヴィータ副隊長は浮つく私達を一喝――相当いら立ったのか、副隊長は通信をシャットダウンする。


「ちょ、ヴィータ副隊長!」

「お前らも指示に従え!」

「でも、シャーリーさん……というかロングアーチの指示が!」

「それより……今はコイツと向き合って、ちゃんと話さなきゃいけねぇ」

「ヴィータ副隊長!」

「目も潰された子どもなんだぞ! このまま犯罪者として捕まえて、牢屋にぶち込んで……それでいいわけねぇだろ!」


過去の、いろんな事件の経験からってことか。その言葉が重たくて、私達も口を挟めなくなる。


「……ルーテシア、お前のお母さんは……スカリエッティはどこだ。
アタシらが出向いて、邪魔する奴らは全員ぶちのめして……必ず助ける」

「お願い……ドクターなら、お母さんとアギトを助けられる。
十一番のレリックがあれば、私も心を取り戻せる……だから」

「大丈夫だ。少なくともアタシ達の周りは、悪いことを企む奴なんていねぇ」

「………………」

「管理局は、お前みたいな困った子どもを放置するほど冷たい組織じゃない。
いや、アタシが……この鉄槌の騎士ヴィータが、必ず助けてやる。嘘じゃねぇ、約束だ」


もうあの子は、何も答えない……でも、ヴィータ副隊長の言葉は届いたようで、その表情は確かに変わっていた。

それはとても苦いものを、噛み締めるような顔で……正直な話、私には引き出せないものだ。


「……ティアさん、恭文さんとエリオ君達は……このままで」


もう口を挟めないと、キャロが話を変えてくる。それもやっぱり……心配よね、そうよねー。


「それなら問題ありません」

「オットー……あ、そっか。サポートしているっスよね! なにか快進撃っぽい感じっスか!」

「少し違います。……シグナム副隊長、今はどちらに」

『……こちらライトニング02。地下水路に入ったところだ』


そこで今まで沈黙していたシグナム副隊長が、声を上げる。

あれ、でも聖王教会で会議していたから、参加は難しいって……あぁ、全速力で来てくれたんだ!


『蒼凪とも連絡を取って、聖王教会のシスター・シャッハと挟み撃ちにする予定だ。お前達はそのままレリックと被疑者の確保を。
すぐに108の大隊も合流し、支援してくれる手はずだ』

「了解です。ただアンノウンの能力は」

『ロングアーチからも報告を受けている。十分に注意する』

「それも了解です。……お願いします、シグナム副隊長」

『任せろ。後詰めくらいはこなしてみせる』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


廃棄都市部には、荒野のように風が吹く。埃っぽくてついぺぺーってしちゃうけど、それも無意味。次から次に吹き荒れるもの。

なのでまぁ、その辺りはしっかり我慢するとして……ここからは大事な大事なお仕事よぉ。


地下で派手にいろーんなことが動いている間に、きっちり準備しないとぉ。


「ディエチちゃん、ちゃんと見えてるぅ?」

「見えてるよ。空気も奇麗だし、遮蔽物も少ない……本当に、見えすぎってレベルでよく見えてる」


私達の目は人間のそれと違い、より力強く遠くを見据える。

ディエチちゃんの目には、ひ弱なヘリが目の前にあるがごとく映ってるはずよぉ。


「そうそうディエチちゃん、念のために”これ”……使っておきましょうかぁ」


そう言いながら取り出すバックルに刻まれている刻印は≪FORMULAISER≫。

……まぁ、名前なんてどうだっていいんだけどね。

大事なのはこれが玩具で、私達がお人形相手に遊ぶのに使えるってことよぉ。


「……チクッとするの、好きじゃないんだけどなぁ」

「ふふふ、意外とお子ちゃまなのねぇ」


そう言いながらもディエチちゃんは、私と同じようにフォーミュライザーを取りだし、腰の前にセット。

展開したベルト……そこに刻まれた注入口≪フォーミュラスティング≫が、タイツスーツ越しに私達へ突き刺さる。


「ん……!」

「あぁん……♪」


注がれていく……力が、その源が、身体に注がれていくわぁ。その感覚はとっても麻薬的……少しの痛みも吹き飛ぶくらいの快楽よぉ。

ディエチちゃんはやっぱり辛そうだけど、それは気にせず……私達は黒いライズキーを取りだし、スイッチオン。


≪イリュージョン!≫

≪ウォークライ!≫


それをサクッと、ライザーにセットして……下らないけど、言わなきゃいけないのよねぇ。意趣返しでもあるから。


「へーんしーん」

「……変身」


トリガーを引き、ライズキーを強制解錠。


≪フォーミュライズ!≫


その瞬間ビル屋上の床が……手すりが、ぼろぼろの給水塔が分解され、私達の装備として再構築されていく。

ルーテシアお嬢様へ渡したような、意図的な欠陥品ではない……正真正銘のライザー。その力によって。


(あぁ、これはこれでとても気分がいいわぁ。まるで神にでもなったみたいな……か・い・か・ん♪)


そう、これは六課の隊長達が使っていたフォーミュラ……ヴァリアントシステムと同じようにと言うべきかしら。

体内のナノマシンで物質のエレメントに干渉。そうして物質を分解し、武装などに再構築≪リサイクル≫するすごーい力。

でもぉ、私達って欲張りだから……単なる武器じゃちょーっと足りないのよね。なので作っちゃうの……私達専用の装備≪ヴァリアントギア≫を。


更には本局で開発されているSAWシステムの原理も取り入れた。

これで私達は戦闘機人由来の能力と合わせて、完璧な連携能力を手にしたわけよぉ。


≪イリュージョンアンドラス!
――――Break Down≫


――私には、背中に球体上のバックパックが装着される。そこからは無線接続で六本の腕が生えてくれるわ。

これが私の専用装備……マンティス。その力は……今回は発揮されないだろうけど、一応ねぇ。


≪ウォークライアイム!
――――Break Down≫


ディエチちゃんは、私よりかなり大型。

その脇に全長二メートルほどの、黒い豹みたいなロボが出現する。

ディエチちゃんは無言のまま跳躍し、そのロボの背中に……開いた搭乗席に、武装≪イメーカスカノン≫を匍匐状態で構えながら搭乗。


そして背中のハッチが一つ、また一つと閉じられ、ディエチちゃんは砲塔を備えた獣そのものとなった。

これがディエチちゃんのヴァリアントギア≪クライング≫。こっちも本来なら必要ないだろうけど、それでも念のため……ね。


『……ふぅ……』

「あぁぁん…………♪」


辺りは穴ぼこだらけだけど、準備は終了。


第34話


さぁ……神のいたずらが始まるわよぉ。虫けらども、楽しくおかしく踊ってね〜♪


『フォーミュラ・リバイバル75』


(第35話へ続く)








あとがき

恭文「というわけで、出てきたゼロシキマルコシアス! と言っても説明できる要素はほとんどなくて……」

あむ『アクセルフォーム?』

恭文「ノリはそんな感じ」


(そしてスターダストフォールダウンは、読者アイディアとなります。アイディア、ありがとうございます)


あむ『相変わらずエグいんだけど! アンタの必殺技!』

恭文「エグいのはマダマ一味の方だって……見てよ、冒頭でフォーミュラ応用の新システムについて話したら、向こうもフォーミュラを使ってきたんだよ?
まるで即墜ち漫画の如き扱いだよ。赤っ恥ってレベルじゃあないよ」

あむ『そりゃそうだけどさ! ……でも、FLってコレのことだったんだ』

恭文「フォーミュライザー……だからRじゃなくてL。ルーに渡されていたのは、本当に劣化版なんだよ」


(戦闘機人由来の頑強な身体に経験学習の共用。
SAWシステムによる体内環境整備と感覚共有。
更にフォーミュラシステムを発展させた外殻装備≪ギア≫
もしもの日常Ver2020の戦闘機人はてんこ盛りで行く予定です)


恭文「もちろんここまで派手に盗用されているということは、六課にも影響はあって……つまり次回以降地獄」

あむ『完全に疫病神じゃん……!』

恭文「まぁそんな六課のことはさて置き……あむ、明日はいよいよフェイトと伊織の誕生日だよ」

あむ『うん、知ってた』


(そう、五月五日は水瀬伊織とフェイト(とまと設定)の誕生日です)


恭文「ただ昨今の情勢を鑑みて、またオンライン誕生会にするしかないわけで……ただ、卯月のときは凄く大変だったでしょ? 環達もだけどさぁ」

あむ『あぁ、うん……さすがにね。
というか、あたしとアンタも今現在オンラインであとがき雑談だし』


(現在それぞれの自宅から、Skypeでお話しています)


恭文「だから今回は、RGBN≪リアル・ガンプラバトル・ネクサスオンライン≫内でやろうかと思います」

あむ『イースター社がアプリスクの技術を応用して作った、リアルで遊べるGBNだね! もちろん原作再現されまくり!』

恭文「説明台詞ありがとう!」

あむ『でもアプリスクじゃなくていいの?』

恭文「フェイトがフェイトチャレンジで新しいガンプラを作っているから、そのテストもしたいってさ」

あむ『……大丈夫なの、それ』

恭文「多分」


(今年も閃光の女神はいつも通りです。
本日のED:Nothing's Carved In Stone『Out of Control』)


恭文「地獄だよー地獄だよー。みんな揃って地獄だよー」

あむ『とんでもない歌をうたうなー! いや、確かにもう悪い予感しかしないけど!』

古鉄≪なおヴァリアントギアについては、メタルギアなどのボスを参考にしています。能力関係が出てくるのはこれからなので、今はざっくりと≫

あむ『どうやって倒していくの、これ……!』

恭文「麻酔銃でヘッドショットかな? もちろんギミックを解きつつ」

あむ『そこまで参考にするなぁ!』


(おしまい)



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あきゅろす。
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