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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第32話 『機動六課の休日/PART3』


私のラボは、ふだんなら娘達のけん騒で満たされている。しかし現在、またまた起きた不測の事態に大慌て。

聖王の鍵とレリック、その両方が機動六課に発見されたようだ。盤面は、我らの苦境を示す……か。


「……むしろ都合がいいかもしれないね、あの子は六課の手に収まっても」

『えぇー! それでいいんですかぁ、ドクター!』

「聖王の鍵はいろいろと特殊な子だ。そう言えば分かるだろう?」


納得いかない様子のクアットロには、肩を竦(すく)めて答える。

……しかし、彼女が外に出ていてくれてよかったよ。おかげでいろいろと手が伸ばしやすいが……よし。


「だがレリックまで取られるのは辛(つら)いね。……君とルーテシアにお願いしようか」

『大丈夫ですかぁ? 騎士ゼストも潰され、ガリューも治療こそ完了したものの、この間メタメタにやられちゃったわけでぇ……。
しかも今付いているアギトについては、サンプルH-1どころか六課のちびっ子達にも勝てないでしょうしぃ』

「レリックは彼女の探しものにも絡むところだ」

「むしろ声をかけないと、今後に差し障ると……では」


ウーノは鍵盤型コンソールを展開し、まるで音を奏でるように操作。それに応じて通信モニターが展開。


『何、ウーノ』

「お疲れのところ失礼します、ルーテシアお嬢様。実はサードアベニュー近辺でレリックが発見されました」

「既に機動六課も動いていてね。娘達と一緒に確保を頼みたいんだが」

『……分かった』

「大丈夫かい。今日も派手に暴れた直後だが」

『死んだトーレやゼストよりはマシ。……詳しい場所を教えて』


では本日の第二ラウンドといこうか。まぁ彼は来ないだろうが……来ないよな、さすがに。




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


天使の罪……ならばディードは堕天使と呼ぶべきではないか。

そんなことを言ってギンガさんにどつかれながらも三人と別れて、ギンガさんと更に移動開始。

その途中、ギンガさんの指示で行き先変更。ミッド首都中心地近くのトンネルにやってきた。


更に服も蒼色の袴に着替えて……え、なんで袴かって? 気分です。


「あの、ギンガさん」

「何?」

「なんか、圧が強い……というか近い。凄く近い」

「…………だって、離れると不安で」

「恋人じゃないでしょ」

「そうだね……私達、セフレみたいなものだよね。車中泊をしただけだし」

「わーい、僕とギンガさんは恋人だぞー。お前ら、羨ましいだろー。こんな素敵なオパーイを持つ人が彼女なんだぞー」

「手の平替えしすぎて、愛も冷めそうだよ! むしろセフレの方がマシだったかなとすら思っているよ!」


ギンガさん、そんな……やめてよ。全年齢小説でセフレセフレって……小さなお子様の教育に悪いでしょ。


「あ、そうそう……セフレと言えば、スバルとなのはから変なメールが」

「メール?」

「ティアナのアホが、僕をセフレだと抜かしていたから……責任を取れとかなんとか」

「なぎ君……!」

「多分、今のギンガさんにだけはツッコむ権利がないと思うよ?」

「それはね!?」


全く……あのアホにはちょっと説教をしなくては。僕だって言いたいことはあるんだよ。


「でもさ、あの馬鹿……一日二百回も電話をかけてくるんだよ? もはやストーカーだよ」

「ティア……思い詰めちゃう方だったかぁ。
でもさ、なぎ君もこう、そろそろね? 後悔に苛まれてほしいかなとは」

「いきなりなによ」

「お願いだから自覚して! あれからなぎ君を狙って、一体何人返り討ちにあったと!? 三十人だよ、三十人!」

≪……そうだったの! あれは悪夢的記録なの!≫


そう……出立の準備を整えていたところでも、襲撃は起こった。

そうして本日の収入としては、一気に五千万という大金になりました。

でもさぁ、奴らも不思議なんだよ。刺殺・爆破・轢き逃げ・狙撃――いろいろ試してるのよ。


でも僕がちょーっと方向転換するだけで、揃(そろ)って自爆してさ。何、ギャグ? 命を賭けてギャグをしてるの?


「しかもなぎ君がちょっと方向転換しただけで、次々自爆して……言いたくなるからね!
お願いだから、もうちょっと落ち着いて行動してよ! フィアッセさんとも結婚が控えているんだし!」

「だから……僕達がカッコよすぎるせいであって、悪いことは何もしていないって決着したでしょ」

「全くしていないよ!?」

「僕の邪魔をするギンガさんなんて、石を投げられてしまえばいいのに」

「不幸を願わないでー! というか、言っておくけど、今不幸なのはなぎ君だからね!? 息するように襲われてるんだから!」


不幸を願ってほしくないなら、願われないような生き方をしてほしい。そう思う僕は悪いのだろうか。

……そこで足下に、バナナを見つける。


「……なんでバナナ?」


そう思いながら伏せると、背後に殺気――それは僕の頭上を飛び越え、なぜかトンネル天井へと衝突。

しかもわざわざ照明に突っ込んだ結果、感電。体がビクビクと震えながら、ナイフ型デバイスを落としてしまう。


「……またなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「かわいそうに……」


それを避けると、今度は黒いものがひらひらと……それをキャッチすると、見覚えのあるフィルムバッジだった。


「誰のせいで、こんな」

「自分のせいとは一欠片(かけら)も思わないんだ!」

「いずれにせよ先は短かったよ。”この有様”だもの」

「フィルムバッジ……じゃあ、また……というか、待って待って。さすがにおかしい……おかしいよ……!
なぎ君を狙ってきたアサシンの大半が、フィルムバッジを持っている!? どういう偶然かな!」

「確かにね……」


まぁこの処理も、ギンガさんに任せるとしよう。落ちたバナナとバッジを持ちながら、前を目指して歩き出す。


「ちょ、行かないで! どうするの、これ!」

「ついででいいから、弔ってあげてよ」

「もう十分弔ったよ!」


ここは距離にすれば二百メートルほど。現場はその中間みたい。

今トンネルの中を照らすのは、備えつけられているライトだけ。つまりは少々薄暗い。

もちろんそんな中、ライトの一つに突っ込んだアホがいるので、余計に暗くなるわけで。


「あぁもう……これは、本当に失踪沙汰だよぉ。私、絶対離れないようにしよう」

「そうだね、もう彼女だしね。セフレの時代を超えて彼女になったしね」

「その時代は忘れてぇ! 実行動はなかったからぁ!」


それは無理だとお手上げポーズを取ると、なぜかギンガさんが視線を泳がせる。


「やれやれ、今日も低血圧でいら立っているのか」

「自分のせいだとは考えられないかなぁ……!」

「僕の辞書に『自分のせい』という言葉はないけど」

≪私の辞書にもありませんね≫

「なんて最低な辞書なの!」

≪さすがは主様とお姉様なの! そこに痺れる憧れるの!≫

「憧れないで!」


とりあえず足を止めて周囲を見渡す。


ここはトンネル内だけど、カーブもないストレートど真ん中。

あちらこちらに食料品が散乱していた。


「……もったいないなぁ」

「それはそうだけど、クイックリーすぎるよ!?」


バナナはこんなことのために、木からもぎ取られたわけじゃないってのに。

あれ、バナナ……なるほど。これは落ちたものの一部と。


それでトラックが派手に転覆してる。もう一度言うけど、真っすぐな道のど真ん中でだよ。

スリップしそうな痕跡もない。例えばオイルが撒(ま)かれているとか、季節的にないけど凍結してるとか……これは何。


「運ばれてた荷物も缶詰めや野菜に肉、果物……全部普通の食料品ばかりだね」

≪えぇ。襲撃というのも少し考え辛(づら)いですけど≫

「それでギンガさん、見てもらいたいものは」

「い、一応私が主導なんだけど……」

「あのー、すみませんー。この辺りに変なものはありませんかー」

「見切らないで!? 返事! まだ返事してないー!」


ギンガさんは放置して、現場検証をしていた職員さんの一人に話しかける。

お兄さんは現在移動中……僕も後を追うように近づく。


「運転手はなんて言ってるんです」

「なんでも突然攻撃を受けたそうです。そのショックで錯乱していて……話にならないんです」

「可哀想(かわいそう)に」

「ちょ、私ー! 捜査の主導は私ー!」


これを……攻撃ねぇ。今のところ、犯人は相当腹を空(す)かせていたとしか。

あとは運転手が狙いで攻撃とか? 嫌がらせ程度なら、殺さなかったのも分かるけどさ。


「さすがに荷物のために襲撃は、考え辛(づら)いです。恐らくですが」

「ここにはないだけで、何か別のものを輸送していた。だから攻撃された?」

「えぇ。運転手には落ち着いてから事情聴取する予定ですが、知らない可能性もあるんですよね」


職員さんの見解は当然だった。例えば何かの荷物に偽装されて、知らず知らずとかね。

そういう運の悪い人なだけかもしれないから、あんまり犯人扱いも駄目ってことなのよ。

でも逆に知っていた可能性もあるので、それなりに厳しく取り調べされると思われる。


「というかですね、それらしいものが現場に残ってまして」

「なんでしょう」

「アレなんです」


お兄さんが十時方向を見る。そこにあったのは真ん中に大きい穴ができてる、灰色の金属の俵型おにぎり。

しかも何個もある。当然ながらそれは食べ物じゃない。

てゆうか、僕とギンガさんがよく知ってる、自律行動型の機械兵器だった。


名前はガジェットI型――。


ジェイル・スカリエッティが作っている、レリックを狙って出てくる盗人(ぬすっと)ロボ。


「……ギンガさん」

「あれだよ。でも朝に暴れたばかりで、こんな……」

「暴れそこなった奴が、自律行動で飛びかかった? でもそうなると、狙いは……」

「……レリック」


この間のレールウェイにも紛れ込んでたし、あり得るとは思う。

問題があるとすれば、ガジェットが大破していること。これは誰の仕業?


「じゃあ撃破したのは誰。通りがかりのヒーロー?」

「それも不明……ですよね」

「えぇ。そこも含めて事情聴取中です。それと、もう一つ」


職員の人が僕達をトラックの脇に案内。


「ナカジマ陸曹に御連絡してから、見つかった品なんですが」


そこには六角形の大型ボックスが、開かれた状態で置かれていた。なお色は真っ黒。


≪……これ、生体ポッドじゃないですか?≫

「う、うん。私も見たことがある」


生体ポッドとはその名の通り、生物を運ぶ入れ物。ただし運ぶ生物は箱同様、普通じゃない。

これは裏でよく流通してるタイプの入れ物だね。


入れるのはフェイトのような、人工的に生み出された生命体が主。

モルモット体を外部に移送する際に、この手のアイテムを使うのよ。

普通はアニメとかによくある、液体が詰まった透明ポッドとかに入れてることが多い。


そのままの移送は手間もかかるし、事故の危険性も高い。だからこの手のアイテムを使う。

キャパも狭いし『保管』こそ一時的な形でしかできないけど、その分強度は頑丈にして移送専用にしてる。

この大きさだと、五〜六歳の女の子が入る程度の大きさかな。


……ガジェットに生体ポッドか。それも今朝暴れて、すぐにこれ。


「……アルト」

≪長い一日になりそうですねぇ≫?

≪ジガン、気合いを入れ直すの!≫


この直後、ギンガさん宛てに108から緊急連絡が来た。……辛(つら)いぜベイビー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本来なら六課は二十四時間勤務。とはいえ”二十四時間ぶっ続けで働いてください”ということではないんだ。

いわゆるフルタイム(八時間勤務・一時間お昼休み)を主体として、それ以外の休憩時間もきちんと確保する。

ただしそれは、隊舎から最低でも一時間……または三十分以内に戻れる位置にいることが条件。


だから外回り以外では町の方に行けないし、なのは達も駄目なの。

六課だと……最寄りのターミナルまで、歩きだと三十分くらいかかるから。

それから外れているのは通勤組……それも前線の仕事に絡まないメンバーだけ。あとは民間協力者であるヤスフミだね。


だから今日のお休みは、そういう時間制限は抜きで出したんだ。それもあってスバルとティアナも、お墓参りを組み込めた。

なのに…………うぅ、次は必ず……きっちり休めるように、お休みを出すんだから。


そう決意しつつ、なのはとリインを連れて、現場に到着。


「エリオ、キャロ」

「フェイトさん! ……あ、お疲れ様です!」

「「「「お疲れ様です!」」」」


あ、ウェンディとディード、オットーも揃ってる。三人とも私服姿で……。


「三人も合流できたんだ」

「たまたま近くで遊んでいたそうで……」

「もう凄い勢いで飛び込んでくれました」

「フットワークの軽さが売りっスからねー」

「くきゅー!」

「フリード!」

「くきゅー♪」


そうそう……フリードも連れてきたので、しっかり送り出す。

フリードは私達の脇からキャロへと駆け寄り、すりすり。


……それで改めて、女の子とレリックケースに近づく。


「これ、爆発とかは」

「大丈夫です。私が封印処理を行ったので……この子も治療魔法をかけましたから、今すぐどうこうは」

「脈拍も安定しています。ただかなり衰弱してる上、長い距離を歩いたようなので」

「そっちはシャマルさんが到着してから、かな」

「了解です。でも渋滞……恐ろしい」

「道路情報は重要なんだね、エリオ君」


い、いいのかな……それはまた違うような。


(とにかく……うん、次のお休みが取れるようにするのも含めて、もっと頑張ろう)


そう決意し、ガッツポーズ。


「……ガッツポーズはやめてください!」

「ふぇ!?」

「そうですよ! フェイトさん、自覚してください……だから事件が起きるんですよ!?
ティアさんだって渋滞に巻き込まれて……! 彼氏を作るとあんなに気張っていたのに!」

「くきゅー!」

「二人ともヒドいよー!」


え、何! 私のせいでこの状況なの!? 渋滞もそのせいなの!? でもガッツポーズをしただけなのにー!


「なのはー! リインー!」

「フェイトちゃん……さ、お日様に向かって謝ろうか」

「その大きな胸を、リインに譲ってから地獄へ落ちるです」

「どういうこと!?」

「それでですね、問題は」


エリオが話を進めた!? 私の戸惑いは……誰か、受け止めてくれない……ぐす。


「これなんです」


涙ぐんでいると、エリオがレリックケースを取り出す。

……鎖に戒められたそれには、尻尾みたいに余った鎖が垂れ下がっていた。


「ケースは鎖ごと、女の子の足に絡みついてたんですけど」

「長さがケースに合ってないね。こんなに垂れていたら、運ぶとき邪魔じゃ」

「……」

「エリオ?」

「フェイトさん、お願いします……二十分でいいので、喋(しゃべ)らないでください」

「どうして!?」


あれ、怒ってる!? 青筋が立ってないかな! でも私、おかしいことは何もー!


「フェイトさん、マジっスか……!」

「さすがにそれは……」


あれ、ウェンディとディードがどん引きしてる! すっごく距離を取って、ひそひそと……。


「よしよし……君達も、頑張ろうか……」


オットーも二人を慰めないで! いくらなんでもこの空気を認めた行動はひどくないかな!

だって、私、ガッツポーズしただけで……え、なに!? なにかな! ふぇぇぇぇぇぇ! ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


エリオ、頑張って……! というかフェイトちゃん、これでよく執務官になれたなぁ!

無理だよ、恭文君も信じられないよ! なのはも無理だよ! もしかしてあの合格発表とか、全部幻覚だったのかとも思うよ!


「ふむ……もう一個あるですか」

「――! そ、そうなんです! さすがはリイン曹長!」

「フェイトさんとは大違いです! まさしくシャーロック・ホームズです!」

「くきゅー♪」

「ふぇ!? え、そうなの……ただ余ってるだけじゃないの!?」

「…………そこまでの大推理をした覚えがないので、さすがに心苦しいのですよ」


女の子の左足首から続く鎖――その先にはレリックのケース。

それもがっちり縛り付けられていた。

でも問題は、鎖にその先があること……余りじゃないよ?


しかも鎖の先は結わえられていて、ちょうどレリックのケースが収まるサイズだった。


「彼女が移動中、水路内に落とした……エリオ、ロングアーチには」

「先ほど連絡しました。今調べてもらっていますけど」

「ならまずは現場保持なのです。スバル達ももうすぐくるですし」

「……おまたせー!」


まずはスバルがきたらしい。かなり急いでいたようで、もうゼーゼーと息が漏れまくり。

更に後ろからティアとシャマルさんが駆け寄ってきた。ティアナはなのは達の顔を見ず、脇を抜けてエリオ達の前へ。


「状況は……なるほど。レリックは二個あって、今はロングアーチの調査待ちね」


一を見て十が分かってる!? どうしよう、ティアナの方がベテラン捜査官っぽい!


「で……馬に蹴ってほしい奴はどこ?」


かと思ったら殺気がぁ! ヤバい、今日のティアナはあぶない魔導師だ! 怒りで周囲が見えていない!


「さすがの私も、意識不明の幼女を馬のケツに差し出す趣味はないのよね……」

「「ティ、ティアさんが怖い……!」」

「くきゅ……!」

「ティ、ティア……落ち着いて!? それは出ていない! 今のところ出ていない! それが最上! それがベリーハッピー! OK!?」

「………………って、なのはさん!? フェイトさん達もいつの間に!」

『本当に見えてなかった!?』


ヤバい、まさかガチで視野狭窄とは思わなかった!

というか目が本当に怖い! つや消しアイズだもの! 鬼になったレナちゃんみたいだもの!


「ま、まぁティアは私が落ち着けるので……シャマル先生」

「……まずはこの子の治療ね。エリオ、キャロ、ありがとう。あとは私が」

「お願いします」


シャマルさんの治療が済むまでは、私達が周囲のガード。

現場保持しつつ、眠ったままのあの子をちらちらと見てしまう。

でも許して。状況が余りにおかしくて、軽く混乱してるの。


一体何が起こってるの。恭文君もだけど……一度、方針を纏(まと)めた方がいいかも。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


どうしてこうなった……! ただレリックが見つかるだけならいい。

それが町中で、女の子のセットとは。


はやても困惑しているだろうが、僕達も開いた口が全く塞がらない。

幸いなのは事故などが起きる前に、一つ確保できたことか。


「――見つかったレリックは、ちゃんと確保できているのよね。事故による爆発や、ガジェットが出る心配もない」

『問題はもう一個の方……しかもそれらを、小さな女の子が持っていたってのは。
ガジェットや召喚師なりが出てきたら、市街地付近での戦闘になる。なるべく迅速に片付けなあかん』

「近隣の部隊にはもう」

『市街地と海岸線の部隊には連絡したよ。……奥の手を出すのも、考えとかんと』

「そうならないことを祈るがな」


恭文も今回は関わらないだろう。何せ今朝暴れたばかりだ。

……なら、ここからは僕達の仕事だ。


「それにはやて」

『機動六課が嘱託魔導師一人に、劣るものではない――ううん、そこはえぇか。
実際現場対応するたび、部隊員が問題を起こしとるし……そろそろ、なんとかせんとな』

「そういうことだ」


……資料室の介入は、本当に問題だ。それは六課の意義を通す妨げになるからだ。

とはいえその辺りについては、三提督のお力を借りる他ないだろう。僕達に今求められるのは、その材料作り。

機動六課のメンバーがライトスタッフであり、実験部隊としても不可欠な存在だと示す。それができなければ……。


「それと、恭文は六課に戻す。改めて局員待遇の民間協力者という形で、こちらの仕事に従事させるんだ。
無論単独での捜査活動も打ち切り、全てこちらに任せてもらう」

「クロノ提督……それは」

「……さすがに現状は見過ごせないでしょう?」

『うん……それについては、うちも同じ気持ちなんよ』

「だよなぁ……!」


なにせ今日だけで三十人弱……一体なにをどうやったら、そんなに狙われるんだ!

地球のご家族やご友人達の安全もあるし、さすがに……な!? 局員としては見過ごせないんだよ! お願いだからそこは察してほしい!


『でも、恭文だけとちゃうんよ。スバルとティアナも……ナカジマ三佐が』

「三提督のことも知られていたんだったな」

『そや。しかもそれをゼスト・グランガイツも知っていて、情報屋が口封じされたということは……』

「……恭文が初期から提唱していた、局内部の不正……高官とスカリエッティ一味との癒着。それが事実上証明されたわけだ」

『そうやなかったら、こない迅速に潰すはずがないよ。
……多分やけど殺し屋を雇ったの、その高官とちゃうかな。
実際恭文のせいで、スカリエッティ一味の実在がどんどん暴かれとるし』

「そういう意味でも、保護は必要と……確かにそれは」


騎士カリムは納得してくれたようだが……その表情は決して明るくない。


「でも当人が納得するかしら。なによりハラオウンという派閥が強引に彼を取り込めば、また批判の対象に……」

「後者については、この際飲み込むしかないと思います。
それで恭文については……幼なじみやご家族の安全を優先する形にします。
僕の方からも人員を送り、周辺をしっかりガード。それを条件にすれば」

『それやとアカンやろ。黒幕の手先が送り込まれたら、その時点でアウトや』

「もちろん人員は厳選する。問題ない」


あとは恭文の方も……局には頼らない形で彼女達のガードを手配しているようだが、これもこちらの邪魔になる。

ちゃんと僕達を信頼し、そちらの手を引かせなくてはいけない。それも説得しなくては……。


『いっそ予言のことを……いや、アカンな。アイツはこういう話を一番嫌う』

「……なら、こちらで預かるわ」

「騎士カリム、それは」

「いいんです。ちょうど紹介したかった子もいますし」

「紹介?」

「はやて、それでいいかしら」

『まぁカリムのとこなら安心はできるけど……絶対暴れるし』

「知ってるわよ。それでもう慣れっこ」


騎士カリムは恐らく、ヒロリスさんのことを言っている。だから有無を言わさず、話を纏(まと)めてしまった。


『……ううん。やっぱり……六課でちゃんと預かるよ』


そう思っていたら、はやては決意の表情で首を振る。


「はやて、それは」

『ナカジマ三佐にももう一度ちゃんと話す。
スバルも、ティアナも、もう六課に必要なメンバーやってな』

「それこそ絶対納得しないわよ……。それに核兵器のことが事実なら」

『それでもここにはもう、アイツを仲間やと信じている子達がいる。
そんなみんなと一緒に戦うことが、無意味やとは思いたくないんよ……』

「……騎士カリム、彼の説得は私にも任せてもらえないでしょうか」


黙って控えていたシスター・シャッハを見やり、騎士カリムは表情を厳しくする。


「シャッハ、あなたまで……いえ、今は議論している時間もないわね。
シグナム、あなたは向こうに戻ってちょうだい」


その話もまた後で……そう騎士カリムが告げると、二人は一気に身を正す。


「シャッハ、彼女を最速で送ってあげて。場合によってはお手伝いを」

「……了解しました」

「クロノ提督、騎士カリム、お気遣い感謝します。それでは失礼しました」

「あぁ……頼んだぞ」


……今は事件のことに集中しよう。この状況も上手(うま)くクリアすれば、また一歩前進できる。

大丈夫だ……ここに至るまで、四年もの時間をかけた。必ず上手くいく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


シャマルさんの診察は終了――。

例の子は改めて治癒魔法をかけられ、その寝顔も少し穏やかになった。


「ん……バイタルは安定している。深い怪我(けが)もないし、これならちゃんとした施設で治療すればすぐ目覚める」

「よかった」


その様子には、エリオ達も安堵(あんど)。ただ……ティアナ一人だけが、厳しい表情であの子を見ていて。


「ケースとこの子はヘリで搬送するから、みんなは現場調査をお願い」

『はい!』

「なのはちゃん、悪いんだけどこの子をヘリまで運んでもらっても……私は機材もあるから」

「大丈夫です」


シャマルさんに言われるがまま、女の子を抱き上げ……フェイトちゃんとリインを連れて移動開始。


『ロングアーチ01から前線各員へ』


でもそこで、シャーリーの声が響く。


『地下水路にガジェットの編隊……数機ずつの編成で、くま無く捜索を始めています。
更に海上方面にもII型の大隊が出現。十二機一個グループが複数』

「なら、海上は私となのはで。シャマルさん、リイン、この子のことをお願いします」

「えぇ」

「みんなもお願い!」

「「「「「「はい!」」」」」」


そこでスバル達は返事……ただ、ティアは考え込むような表情で。


「ティア?」

「あ……すみません。ギンガさんから仕事絡みで念話が」

「ギンガから……え、これに絡んで!?」

「はい」


あれれー!? どういうことかな! 朝のことかな! それとも……よし、連絡を取ろう!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


しかし動きが速い……エリオ達があの子を見つけていなかったら、完全に出遅れていたわ。


「シャーリー、地下の方、正確な数は分からないか!」

「十六、二十……どんどん増えてるよ!」


そこで隣のグリフィス君がうちを見やる。ん、ちょう待ってなー。考えてるとこやし。


「海上の方も同じくやし、また大量投入やなぁ。まぁ空はなのはちゃん達に任せるしかないけど」

『――スターズ02からロングアーチへ。こちらスターズ02』


そこでヴィータが通信をかけてきた。

今やと確か、108のみなさんに戦技指導しとったはずやけど。


『海上で演習中だったんだが、ナカジマ三佐が許可をくれた。今108のスタッフと現場に向かってる』

「ロングアーチからスターズ02へ。え……アンタが戦技指導しとった人達も!?」

『協力体制は固めていたから、そこは問題なくって感じだ。
……あと、今朝の礼ができるならって張り切ってやがる』


そうやったー! 108の人達、ざっくばらんやからなぁ。

てーか公僕がリベンジって……まぁ、ガジェット相手なら問題ないか。


「過剰攻撃は禁止やからな」

『分かってる。それともう一人』

『――こちら108所属、ギンガ・ナカジマ陸曹です』

「ギンガ! え、アンタもか!」

『別件の捜査中だったんですが、そちらの事例とも関係がありそうで……参加してもよろしいでしょうか』


この件と関係がありそうな、別件捜査?

……いや、そこで迷ってる余裕はないか。言った通り市街地付近の戦闘や。

迅速かつ的確に片付けられるなら、戦力は多い方がえぇ。


ナカジマ三佐には後でお礼を言っておかんと。


「ありがとな。ほなヴィータはリインと合流して、海上の南西方向を制圧。なのはちゃんとフェイトちゃんは北西部から」

『了解!』

「ヘリはヴァイス君とシャマルに任せてえぇか」

『お任せあれ!』

「ギンガは地下でスバル達と合流。その道すがら別件の方も聞かせてな」

『はい! あ、それと』


さて、最初の布陣はこんなもん……あれ、それと? ギンガが申し訳なさげに付け加えてきた。


『…………実はなぎ君も一緒なんです』

「おぉ、そうか! こっちでも連絡が取れんで、心配しとったんよ! で、今は」

『ちょうど今、三十八人目の自爆者が……』


まだラッキーマン状態やったんか! てーか誕生日近辺はほんま運が悪いな! アイツ、絶対前世で悪いことしとるで!


『どうしましょう。このまま現場に連れていくと、凄いことになりそうな……』

「かといって一人で帰せんやろ……。一度こっちで保護する話で纏まったから、そのまま連れてきて」

『分かりました』

『待て、ギンガさん! それはいろいろ予定が違うでしょ!』

『仕方ないよ! だって……ね!? 今一人にはできないから!』

『一人の方がマシだよ! 僕があの穀潰しどもにどんだけ迷惑をかけられてきたと!?』


あはははは……堂々と言ってくれたで! 穀潰しと! いや、否定できる要素あんまないけどな!?


『とくにシャマルさんー! 聞こえていますねー! 命令違反上等のシャマルさんー!
テロリストは殺して当然だという常識もないシャマルさんー!
ほら、返事しろー! 人間以下の有り様でも返事くらいできるはずだぞー!』

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

『やめてあげて!? 現地妻ズに誘われている身として辛いの!』

「そやそや! つーか通信で痴話喧嘩するなぁ! お願いやから仕事に集中してぇ!」

「……部隊長、いいんですか?」


グリフィス君もさすがに表情を厳しくして、こちらを見やる……というか、シャーリー達もやな。


「なし崩し的に保護するなら、これが一番やろ」

「なぎ君、納得しないと思いますよ……? ウキウキで夏休みの予定も立てていましたし」

「……今回は納得させる。
スバル達のこともあるからな」


てーか殺し屋ホイホイ≪ヒトコロスイッチ≫状態やし、今回くらいは納得してほしい。

やっぱり、六課での捜査は難しくなるかもしれん。何か起こったときの備えとして、みんなと一緒に戦うことしかできないかもしれん。

そやけど、それでも……アンタの力を、存在をみんなが必要としとる。それに応えて、一緒に戦うことは無駄とちゃうはずや。


そうやって、うちは信じたい。……スバル達を見ていると……どうしても、な。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……アホな通信ログは、私の記憶から消し去ることにした。


「さて……みんな、お休みが全く足りない気持ちは分かるわ。
でもその憤りは! 全てお仕事で燃やし尽くしましょう!」

「「「はい!」」」

「……ティアナ、燃えているっスねぇ」

「というか気合いが違います……」

「ボク達も見習おう」


というわけで、全員でデバイスを取りだし……。


「行くわよ!」

『了解!』


セットアップした上で、地下水路へ突入!


更にレミントンM870を取り出し、装弾を確認――。

更にM16、コルト・ガバメント、グレネード各種と確認……よし、問題なし!


「ティ、ティア……それ」

「念のためよ」


――M1911【コルト・ガバメント】。

地球では百年近いの歴史を持ちながら、とんでもないカスタム度を誇る名作拳銃らしい。


四十五口径。

使用弾薬は45ACP弾。

装弾数七発。


自動拳銃ではあるけど、シングルアクションゆえの高い動作性も魅力。

シンプルで使いやすく、威力もあるというから……ただ、古い機構ゆえの注意も必要。

そういう意味でも、質量兵器の危険性を勉強できる、いい逸材だった。


――M16自動小銃。

ゴルゴ13って漫画にも出てくる、有名な銃。


口径は5.56mm。

使用弾薬【5.56x45mm NATO弾】。

装弾数は……私のタイプだと三十発。


――レミントンM870。

ポンプアクション式の散弾銃……え、地球の銃器ばっかり?


仕方ないのよ。本当はヴェートルの銃器が欲しかったんだけど、所有審査が大変そうで。

それよりは手間がかからなかった。えぇ、それだけのことよ。


別に……鷹山さんがガバメントを持っていて、かっこよかったとか――

ゴルゴ13は兄さんも好きだったとか――。

そのアニメ版、ゴルゴの声優さんが舘ひろしさんだったとか――。


そういうのは、一切関係ないんだから!


「今回は今までと違って、ガチに屋内戦だもの。AMFの濃度も高くなるし、サブアームは必要」

「いや、そっちじゃなくて……大丈夫!? 腹いせでドンパチとか駄目だよ!? 怪我の元だよ!?」

「さ、行きましょうか」

「ティア、それは今回使わないで!? 一生のお願いだから……ほんとお願いだからー!」


スバルは気にせず、進行方向上へ走る。クロスミラージュを改めて装備し、みんなの先を行く。

通路の真ん中に水が走り、空調も効いているから、さほど臭くはない。でも……狭い。


(やっぱり屋内で密集状態のガジェットに取り囲まれたら……!)


伊達にねぇ、前回の出張から一か月も経っているわけじゃないのよ。

私だってもっと強くなるし、視野も広げたい。だから……マジで取りました! 銃器類のインストラクター資格!

それはスバルも滅茶苦茶お祝いしてくれていたはずなのに、なんでこんなにごたつくのか……。


「ティアさん、どうしてギンガさんが」

「くきゅー?」

「キャロも止めて!? 今回だけだから! 今日だけだからぁ! 今日の先っぽだけだからぁ!」

「まぁまぁ、落ち着くっスよ。……ティアナ」

「ギンガさん、事故現場の検証中だったのよ。
それが私達の移動ルートに被っていたんで、渋滞などには気をつけるようにって」

「そうなの!? でも私には……」

「私がライダーだったからよ。
……ギンガさん、聞こえますか?」


もうラインは繋(つな)いでるはず。通信回線に声を載せる。


『うん、聞こえるよ。ティア……でも、本当にぶっ飛ばしてるみたいだね』

「ギンガさんの隣にいる奴に、女の沽券を馬鹿にされまくったせいですよ。
……それで」

『……ティアに説明した通り、事故現場の検証だったんだ。
内容は食料・飲料を運ぶトラックの横転。運転手は、誰かに襲われたと証言して』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


地下……まさかお気に入りの袴で入ることになるとは思わなかったよ。まぁそれでも問題はないんだけどさぁ。


(しかしこれは……まぁいいや。修行と思うことにしよう)


まずはあのスカポンタンどもとの合流が最優先。

だからギンガさんも、ブリッツキャリバーは待機状態で走っているわけで。

音がするからね……うるさいからね! シューティングアーツ! 隠密(おんみつ)機動ができないって何よ!


「でもそこで、こんなものを見つけたんです」


走りながらギンガさんは、例の資料映像を送る。検証現場で見つけたポッドだ。


『コレ……生体ポッドやな』

「はい。サイズとしては、五〜六歳くらいの子どもが入る物です。
これが落ちていた現場には、ガジェットの残骸がありました」

『そっか。それでティアに先んじて連絡を』

「ガジェットを見かけているかもと考えて。ティア」

『いえ。迂回ルートを取っていたので……』

『私も同じだよ、ギン姉! そういう気配は全く!』


さっきの念話、妹分への安否確認だけじゃ…………あれ、通信回線?

…………まずい!


「私は最近起きた事件で、これと非常によく似た物を見ています。……恐らくですが」

”ギンガさん、そこまで!”


走りながらも念話でギンガさんを一喝。びっくりしたギンガさんは足を止め、目をぱちくり。


”なぎ君、どうしたの突然!”

”この通信、シャマルさんも聞いてるんだよね”


それだけ言うとギンガさんがハッとした顔になった。


「…………シャマルさん、その子に聞こえないよう、回線を切り替えてください」

『あ……えぇ、分かったわ。
……よし、これで大丈夫よ』


それにホッとしていると、前方に気配――。


百メートルほど前の曲がり角から、ぞろぞろとガジェットI型が出てきた。

その数は十体ほどなので、躊躇(ためら)いなく突撃――腰に携えたアルトを抜刀。

戦闘の一体を逆風に斬り裂いた上で、走りながら袈裟・右薙と連撃。


三体を仕留めた上で一団の背後を取り、更に袈裟・逆袈裟・右薙・左薙と打ち込み、平突き。

八体目の胴体を貫いた上で、中から抉るように回転斬り。時計回りに走る斬撃により残り二体はワイヤーアームや他機体の爆発後と断ち切られる。


「なぎ君、駄目だよ! さすがに生身は危ないから! ジャケットを装備して!」

「そんな無駄魔力はない」

「無駄!?」

「それより話の続き」


ギンガさんはまだ通信中だし、ここは僕が前衛だ。……軽く湿り気味な床を跳躍……ブーツでしっかりと踏み締めて走り出す。

影から出てくるI型の横っ面を平突きで撃ち抜きつつ、道を開く。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ギンガさんの気づかいに感心しつつ、クロスミラージュで速射弾を連射。

密集するガジェット達は、躊躇(ためら)いなくAMFを展開――そうしてかき消される私の弾丸。


それも多重弾殻射撃≪ヴァリアブルシュート≫がよ。

本来なら膜状バリアがAMFと相殺。本命の弾丸が突破していくのに。

フィールドに到達した途端、バリアごと霧散した。


「やっぱり」


今度はコルト・ガバメントを取り出し、七発連射。

ただし一発一発が、魔法も込められる特別仕様。

放たれた弾丸はマズルフラッシュを置き去りに、虚空を切り裂きながら加速。


弾丸に込めた加速術式は、物質操作魔法に近い。

弾丸の加速は飽くまでも、魔法により発生した影響。

それゆえにAMFでは無効化されず、奴らのボディを、その動力部を撃ち抜いて爆散。


「ティ、ティア……今撃ったの」

「魔法の方なら、ヴァリアブルシュートよ」

「じゃあ完全キャンセル化……予測通り、狭いところはAMFが強い!」

「だから言ったでしょ」


これはスバルも、エリオも近づけない。なのでコルト・ガバメントのマガジンを入れ替え、前衛を務める。


「念のためって」

「くきゅ……!」

「うん、それはね!? でも今のティア、やっぱ目が血走ってて怖いんだよー!」

「アンタも似たようなもんでしょ」

「嘘!」

「……スバル、嘘ではありません。その……来たとき、凄い勢いだったので」


ほら、オットーも証言してくれている。この子は素直だから信用できるわよー。

しかし……スバルもこれじゃあ出せないからなぁ。奥の手を切るか、ライズキーを開くしかないけど、それも今は無理か。


「そうそう……アンタ、去年限定アイスの入手に付き合ったときも、一生のお願いって」


とにかくガジェットの残骸を払い、曲がり角に一旦身を隠し、様子を窺(うかが)う。


「言ってたわよね」

「う!」

「その前の年も……更に前の年も。アンタ、一生が何個あるのよ」

「……スバル、自覚しましょう。もう誰かに願う権利が存在しないと」

「ディード!?」

「あなたの命は、一個でしょう?」

「は、はい……」


ディードの純粋ツッコミにより、スバルが撃沈。でも恐ろしい……平然と将来性まで奪ってくるって!

とにかくガジェット……ゾロゾロきてるわね。こっちに熱線をブッパしてるし。


「熱いお出迎えっスねぇ!」


ウェンディもライディングボードを構え、砲弾を連続発射。でも牽制にもならず、舌打ち気味に身を隠した。

そう……自らが構えた盾に。それは熱線を尽く弾き、道の中央で私達を守ってくれる。


「ティアナ!」

「ありがと!」


そのお言葉に甘え、ウェンディの背後まで前進。その上で影から出て、トリガーを何度も引く。

熱線をかいくぐるように、また一体……一体とガジェットを撃ち抜いていって。


「クロスミラージュ、サーチは」

≪問題ありません≫

「ならそのままで。出番は少なめだけど」


また一旦ウェンディの影に隠れる。

次はM16に持ち替え……飛び出し、トリガーを引く。


「恨まないでよ!」

≪Yes Sir≫


トリガーを引き、弾丸が放たれるたび、一機……また一機と撃ち落とす。

デバイスとは違う反動、火薬の匂い、硝煙、手ごたえ……その一つ一つがまだ慣れない。

正直に言っていい? ……私だって怖い。クロスミラージュで何とかなるなら、そっちの方がいい。


でも、これでいい。怖い方が、慣れで馬鹿をやらなくて済む。


『ティア、大丈夫!?』

「何とかしますよ。それよりギンガさん、その生体用ポッドって」

『……人造魔導師計画の素体培養器ね。前の仕事で、似たようなのを見たことが』

『はい。問題の子は人造魔導師の素体として、生み出されたのではないでしょうか』


言っている間にマガジン二つを撃ち切り、道を開く。


「GO!」


ウェンディとスバル達を先導し、予定ルートへとひた走る。


「あの、人造魔導師って」

「くきゅ?」


あぁ、キャロは知らないのか……。


≪………………≫


説明前に影から出てきたガジェット三機を撃ち倒し、その残骸を強化魔法込みで蹴り飛ばす。


更に術式を発動――。

蜂の巣状態な残骸は、キックを合図に超加速。

二百メートルほど奥にいる、ガジェットIII型に正面衝突。


さすがにそれで破壊はされないけど、あの一つ目がひび割れ、装甲に確かな亀裂が生まれた。

そこを狙い、M16で弾丸連射――内部機構を破壊され、III型が派手に爆発・炎上する。


「……ティア、今のは」


スバルは前に出ながら、リボルバーシュート――。

突きだした右拳、回転するタービンから衝撃波が生まれ、III型の残骸と炎がはじけ飛ぶ。

それは後続のI型数機へ衝突するも、衝撃波だけがAMFによってかき消され…………ない。


あれはあくまでも術式により生まれたエフェクト。故にAMFの対象外だった。

それは十体のガジェット達を捻り、ピンボールのように吹き飛ばして衝突させる。

それが壁や残骸にもカンカンと音を立てて当たる中、スバルとスイッチ。M16で十体のガジェットを撃ち抜き、鎮圧する。


「III型はデカすぎて、密集できないみたいね」

「逆にI型が怖い」

「そういうこと」


スバルも納得させつつ、私達は走る――残骸を、炎を払い、出てくるガジェット達を撃ち抜きつつ、先へと進む。


「キャロ、人造魔導師が分からないのよね」

「はい」

「クローンなどの技術で人工的に産み出された子を、素体として作り出される『生体兵器』よ。
素体に投薬や機械部品などを埋め込むなどして、後天的に高い魔力を持たせた存在」

「そんなのが……って、待ってください! 確かあの……ルーテシアちゃんやゼスト・グランガイツも、レリックが埋め込まれているって!」

「そうね。スカリエッティが人体実験の一種で作った……レリックウェポンとでも言うべき存在なのかも」

「今朝出現したっていう戦闘機人も、その一種と言えばそうなるっスよ……」


スバルのことは気にせず、そう補足……咄嗟(とっさ)に横道へ入り込み、III型のベルトアームを回避。


「ただ非人道的で違法な上、今の技術でも無理があってね。
コストも割高だから、スカリエッティみたいなイカれた奴しかやらないんだけど」

「ティア、今度は私が!」

≪却下です。III型の背後にI型が≫

「う……!」


マッハキャリバーの進言により、止まるスバル。


「な、なら……III型ごと殴り飛ばして!」

「却下。I型にくっつかれたら、途端にAMFがリンクするわよ」

「やっぱり接近戦アウトかぁ!」

「恭文さんみたいに、魔力に頼らなくて済む技量があれば……いえ、これも無礼ですけど!」


そうね、アイツも十年……それに近い時間を戦って、身につけたものだもの。一朝一夕にできることじゃない。

だからそれはない物ねだりと考え、エリオは思考変更。どうすれば勝てるか……手持ちのもので役立つものはなにか。


…………そうして一番に答えを出したのは、皮肉にもそんなエリオじゃなかった。


「なら」


それに合わせ、キャロが右手をかざす。


「こういうのはどうでしょう」

「キャロ?」


キャロは右手をかざし、手の平に魔法陣展開。

壁の一部を魔法で切り出し、杭(くい)とした上で射出――。

一気に音速域へ到達し、III型へと命中。


そのボディを貫通しつつ、背後にいたI型二十機をなぎ倒し、爆散させていく。

更に杭(くい)を一つ、二つと生成・射出を繰り返し、進行方向上を蜂の巣にする。


「ティ、ティアー!」

「落ち着け馬鹿! キャロ、アンタいつの間に」

「元々覚えていたんです。凶悪な大型生物用に」

「狩猟用……よね」

「はい」

「くきゅー」

「……なかなかに大胆です」


オットーの言う通りだった。でも同時に納得もしていた。

だから杭(くい)……っていうか、銛(もり)なのよ。


キャロ、やっぱ図太いわ。この子……一体どんな大人になっていくんだろう。


「というか僕達、もしかして」

「出番なし、かな」

「私も同じく、ですね……」

「今の主役は私達ってことよ。あとはバックヤードのオットー」

「えぇ。通信や探査はボクにお任せを」


オットーは前線戦闘力こそ低いけど、状況探査や情報整理……そういう仕事が得意だった。

最高峰で電子戦も担当できて、ある程度の自衛能力も持つ。言うならフォワードのシャマル先生。


おかげで私も、安心して前を見られるんだけど……。


「ギンガさん、ひとまず南西のF-94区画を目指してください。
ただI型は密集し、AMFの完全キャンセル状態を保っています。接近戦及び魔力オンリーの攻撃は避けてください」

『分かった。えっと、そっちは……本当に大丈夫、なんだよね』

「悪魔に頼り切りもつまらないですし、上手くやります」


軽く返しつつキャロとオットーを見やると、自信満々に頷いてきた。

それに笑みを返しつつ、横道から出て……更に速度を上げる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ティアは心配してくれたけど、問題なかった……だって、なぎ君がいるから。

質量兵器を扱う点もだけど、なぎ君は物質変換≪ブレイクハウト≫が使える希少術者。

そしてこの屋内でなら、なぎ君が素材とできるものは多い。その……はずなんだけど……!


「――!」


なぎ君は袴姿のまま、アルトアイゼンで連撃。ガジェットからの熱線をかいくぐり、そのボディを次々と両断する。

III型がゴロゴロと回転して出てきて、道を塞いでも意に介さない。突き出されるベルトアームを飛び越え、それを足場にして伝うように迫り跳躍――。


「チェストォォォォォォォォォォォォォ!」


裂帛の気合いとともに、そのボディを……防御のためかざされたベルトアームを、魔法なしで容易く両断。

分かたれたボディを突き抜け、爆炎を背に進んでいく。

さすがに危ないので、私もブリッツキャリバーをセットアップ。熱線をシールド魔法で弾いて、なぎ君に追いつく……表現おかしいけどね!


というか、本当に魔法関係なしでこの機動力って! 地球の忍者さん、みんなこうなのかな!


「ギンガさん、話は終わったの!?」

「なんとかね! でもなぎ君、やっぱり魔法なしは危ないよ!」

「仕方ないでしょうが! 魔力がないんだから!」

「だとしてもだよ!?」


それでバリアジャケットも装備しないなんて…………いや、ちょっと待って。

魔力がないって……今、とんでもないことを言わなかった!?


「え、待って……ないって、どうして」

「フルドライブを二回も使ったから! おかげでカートリッジなしだとドライバーも使えない!」

≪現在の魔力残量は、全開時の三分の一。ご飯で回復も邪魔されましたからねぇ……。やっぱり二.五ランクの魔力リミッターはキツいですか≫

≪なの……!?≫

「ちょ、待って! それをどうして」

「……言う前に引っ張り込んだの、誰?」

「私だったぁ!」


あぁ、そうだそうだ! そうだったぁ! これなら六課と合流した方が早いと思って……!


「つーかギンガさん、本気なの!? 六課後見人に伝説の三提督がいるって話が出たばかりでしょうが! コイツら信用できないよ!」

「ちょ、なぎ君!」

『恭文、何言うてんのよ!』

「……もう公開情報だろうが」


袴姿で走りながら、なぎ君が冷徹に言い切る。

というか、あの……その話を、この場で出すということは……!


『なぎ君、どういうこと!? 伝説の三提督って!』

『シャーリー、気にせんでえぇから! 今のは』

「昨日、ゼスト・グランガイツの偽者とブラックマーケットの情報屋が話してたんだよ!
そして情報屋はこう言っていた! それを知りながら六課設立を、どうしてゼスト・グランガイツ達のスポンサーは見過ごしたのかってね!」

「……108もそのブラックマーケットをガサ入れした関係で、情報を得たんです。
なぎ君も顔なじみの情報通に裏付けを取って……それで、うちの部隊長が軽くお怒りに」

『あぁ……スバル達の絡みがあるから』

「それです……!」


なぎ君、本当に最悪だよ! 全体通信がオープンになっている状況で、その話をするんだから!

しかも情報漏洩の類いじゃない! そうなると六課の背後関係はやっぱり暗いし、私達が信用して行動を共にするのも問題が出る!

何より……裏の情報屋にも広まっていることを、部隊員が知らないっていうのも問題だよ! 現場で混乱が生まれる可能性だってある!


まぁその混乱を、わざわざ自分から生み出すのは本当に、どうかとは思うんだけどね!


『その話はえぇやんか! それに、絶対悪いことやないって約束する!
部隊員のみんなも、ちゃんと守れるように頑張る! そやから』

「そういう台詞は、スバルやティアナを人質に取る前に言うべきだったね」

『そないなことしてないやろ!』

「してるんだよ――!」

『――!?』


なぎ君はそう言いながら速度を上げる。


「だからゲンヤさんからも見限られてんだろうが!」


次の一団が放つ熱線を、壁を伝って走りながら抜けるために。

というか、普通に、魔法なしで壁を走るってどうなのかなぁ! 見ていてギョッとするよ!


そうして左の壁を数メートル走り、跳躍――なぎ君は蜻蛉の構えを取りながら、ガジェットI型八体の背後目がけて飛びかかる。


「きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」


まずは着地しながらの袈裟一閃で一体。そうして守りに入ることも考えず・袈裟・逆袈裟の斬り抜けで三体を仕留める。


(示現流は剛剣って言うけど、本当にとんでもないなぁ……!)


示現流の攻撃は、そもそもガードもできないらしい。

地球に侍がいた時代にそれをやって、”自分の刀や鍔が”頭蓋にめり込んで絶命した人もいたとか。

稽古である立ち木打ちは朝に三千、夕に八千をこなす。そうして培われる剣筋があるからこそ、それだけのことができる。


……人間の頭蓋に、金属をめり込ませて殺すような剣だよ? それも魔法なしで……単純な打ち込み一つでだよ。

それだけで雷光が走るような速度で刃を打ち込めるし、そんな破壊力を叩き出せる。それを追及したのが示現流。


だったら特殊合金でできたガジェットと言えど、ただで済むはずがないんだよね……!


「ギンガさん!」


なぎ君はそのままこちらに戻るようにして、反応したガジェットを引きつけてくれる。

なのでカートリッジを一発ロードしながら、左のリボルバーナックルを引いて……!


「リボルバーシュート!」


なぎ君に熱線やワイヤーアームを放つ四体に、衝撃波を突き出す。

タービンの回転を加速させるように放たれた渦。それが通路内を満たし、引き裂きながら直進。

魔法によって生み出された効果≪エフェクト≫により、ガジェット四体は囚われ……ボディをひしゃげながら爆散する。


それに安堵して一息吐くと、なぎ君は滑るように私の隣で停止。そうして目を閉じる――――。


「……三時方向から八体、十時方向から十二体……進行方向でそれぞれエンゲージするね。先に三時方向のを横から叩いていこう」

≪ナビゲートは任せてください≫

≪なの!≫

「ガジェットの気配も読めるんだ……」

「さすがに慣れる」

「でも、なぎ君……今のは」

「僕も同罪だしね」


……あぁ、そういうことか。


裏付けを取っていたとはいえ、私や父さん、スバル達にもこのことを黙っていた。

だからこれは、なぎ君なりの償いというか、筋の通し方。それはとても不器用な優しさだった。

スバルと私も、ティアも、そういう”嘘”に大事な人を踏みにじられたから……だから、そんなことがないようにって。


…………こういうところが……ん、諦め切れない理由に、なっちゃうんだけどなぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


…………なんで、こうなってもうたんや……!


「……部隊長、これはきちんとした説明が必要かと思いますが」

「グリフィス君……!」

「部隊長がどういう意図であろうと、108からすればスバル達は人質扱いも同然です」

「それも、ちゃんと話して納得してもらう。スバル達の将来にも繋がるように頑張る……それで」

「何より口封じをされた情報屋が、そんなことを言っていたのなら……六課はその体制から疑わしくなるでしょう……!」


グリフィス君も、シャーリー達も疑いを向けてくる。あり得ないと……あり得てはいけないと。

地下では銃器や物質操作の銛(もり)で、派手にドンパチしているのにや。


「――ライトニング01、スターズ01、共にニグループ目を撃破!」

「スターズ02、リイン曹長と108大隊も一グループ目を撃破! 順調です!」

『恭文くん、こちらシャマル! ……それならリミッターを解除して! 恭文くんが自分で解除できるよう設定しているから!』


そしてシャマルがそこで、通信を通じて…………って、そうか! それなら魔力不足は解消されるし。


『え、嫌だ』

『「嫌だ!?」』

『少なくとも今は嫌だ』

『そんなこと言っている場合!?』

『……嫌な予感はしているんですよね』

『え…………』


そこでシャマルが止まってまう。


……コイツは運が悪いせいで、ニュータイプ的に勘のえぇときがある。

それで感じとってるんよ。リミッター解除によって生まれる余剰……それが必要になる状況が、来るかもしれないと。

それを今使い尽くしたら、状況的にどうにもならなくなる。そやからって…………しかも腹立たしいのが、その勘がよう当たることよ。


そやからシャマルも止まった……実際六課の出動はいつも一筋縄じゃいかんし、気を引き締める必要があるのも事実やから。


『というか、ヴァイスさんとシャマルさんこそ気を張っておいてください。特にカーゴ内に、変な虫が入り込む可能性もある』

『……今朝の、輸送車襲撃のこと?』

『こっちは必要なら、勝手にリミッターを解除します。心配いりません』

『…………分かったわ。あと、はやてちゃんのことは』

『シャマルさん……みんながはやての家族なのと同じように、ゲンヤさんとギンガさんもスバルとティアナの家族なんですよ』

『…………』

『つまりはそういうことです』


…………そやから、なんでよ。


……絶対に、嘘にせん。それは六課を作ると決めたときに誓ったこと。クロノ君も、カリムさんも、リンディさんも同意してくれた。

確かに全部は話せん。でもその分、みんなが未来を繋げるように……六課にきてよかったと思えるように、全力を尽くす。

その気持ちは嘘やない。嘘になんて絶対にしない。それやのに……それすら、信じてくれない。


どうしたらえぇんよ。努力を示す機会すら与えてくれんのなら、なにもできないやんか。

せめて、その機会が欲しい……そう望むことは、そんなに悪いことなんか……!?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヴィータちゃんと空で合流して、ガジェットをちぎっては投げ、ちぎっては投げ……。

なんとか陸地へ近づけさせることもなく対応して、手ごたえバッチリなのです。


ただ……通信関係が、恭文さんのぶん投げた話で大混乱。まぁ確かに、状況的に公開情報なのですけど。


「あのやろ……! はやてが悪意ありきでそんなことしたと思ってんのか!? ふざけんなよ!」

「ヴィータちゃん、そう疑われても仕方ないのですよ……」

「リイン!」

「恭文さんが言っていたじゃないですか。……家族なのですよ、スバルとギンガ達も」

「ぐ……!」


グラーフアイゼンを担ぎ、荒ぶるヴィータちゃんにそう告げると……口惜しそうに黙ってしまう。

でも、それが答え。結局リイン達がはやてちゃんなら……そう思う気持ちは感情論。家族だから庇い立てしているにすぎないのです。

そして同じ感情論が優先されるのなら、ギンガやゲンヤさんの言うことだって優先されて然るべきなのです。


結局水掛け論……こうなってしまっては、解決方法は一つしかない。


「……だから、はやてが釈明するしかねぇってわけか。でも……それをここでバラすかぁ!?」

「リイン的にはいいタイミングだと思うですよ? いずれスバル達には知られそうですし」

「納得いかねぇ……! つーかこれだと」

≪…………新しい反応接近中≫


――どうやら休憩時間は終わりらしいです。

沿岸から新しい機影が見えてきたですよ。肉眼でもハッキリ映っているです。


≪数、二十……三十……四十……いえ、これは……!≫

「なんだよ、おい……!」

「です……!?」


それは、雷雲のように空を埋め尽くすものだった。

十や百なんて数じゃない。どう見ても、千単位の群体だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



……そしてそれは、まず空から起こった。


「……ん!? な、何これ!」


そこでルキノが驚きの声。なんやろうと思ってモニターを見て、ぞっとした。


『スターズ01からロングアーチへ! 増援出現……確認! で、でも何これ!』

『中隊……ううん、大隊クラスが幾つも!』

『スターズ02からロングアーチへ! こっちも出てきやがった! ……このぉ!』

『んな……! はやてちゃん、幻影なのです! 実機の中に幻影が混じっているのです!』


モニターに映る鉄機反応は、百や二百どころの騒ぎやなかった。

地図を埋め尽くさんばかりの数……なんや、これは。

しかも幻影!? なのはちゃん達がこう言うてるってことは、目視でもちゃんと確認できる!


ただの目くらましやハッキングとはちゃうって事か!


「こちらロングアーチ00! リイン、実機と幻影が混じってるってのは間違いないんやな!」

『はいです!』

『スターズ01からロングアーチへ! こっちも同じくだよ!
レイジングハート達も見分けがつかないって! そちらで解析は無理かな!』

「駄目……駄目です! レーダーにはどれも実機と! シャーリーさん!」

「波形チェック……こっちも駄目! 誤認じゃない、問題出ません!」

「なぎ君、聴こえる!? ちょっと知恵を貸して!」


あっさり恭文に頼ったぁ!? シャーリー、ロングアーチ主任としてどうなんよ! いや、分かるけどな!

アイツの電子戦能力ならこういうんも、もしかしたら解決できるかもやし!


「ちょっとデータを回すから、意見を聞かせて!
レイジングハート、アルトアイゼン宛てに今の計測データを送って!」

『了解しました』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ガジェット達の襲撃は落ち着いたと思ったら、状況が大きく動く。

光学映像とレーダー、その両面でII型の大隊が……ミッドの海上を埋め尽くしていて。


『幻影らしいんだけど、こっちのサーチでは実機としか出なくて! レイジングハートさんとバルディッシュも……リイン曹長達も同じ!』

「……メガネザルのIS≪インヒュレートスキル≫か」

『……海鳴の出張でやられたやつ!』

「横馬、目視はできてるんだよね」

『それはもうバッチリ! 恭文君、何か対処方とか思いつかない!?』

「気配察知で見分ければいいでしょ」


その余りに無慈悲な無茶振りに、ついズッコける……というか画面内のなのはさん達も同じだった。


『『は…………!?』』

「大丈夫……実体を掴むことは難しくない。
気配や空気の流れはそのままだから、僕も初見で見抜けた」

「なぎ君、やめてあげて! フェイトさん達には無理だよ!」

「は……?」

『首を傾げないで!? ヤスフミ、お願いだからもっとこう、誰にでもできる感じで』

「……おのれら、民間協力者ですらできることをできないの? 隊長なのに」

『ふぇー!』


本気で信じられない様子を浮かべないで!? 分かる! 言いたいことは分かる! だけどこれは仕方ないよ!


「だったらもう、一気になぎ払うしかないけど」

『それだよ! そういうのをなのは達は欲しかったの!』

「でも能力限定≪リミッター≫があるでしょ」

『『「あ……!」』』


それができるのなら、お二人や副隊長はとっくにやっている。

つまり現状で、そんな手は取れない……私も局員だけど、なんて面倒な。


「なので気配で見抜け。今すぐに、全力で」

「なぎ君ー!」

『『だからそれは無理ー!』』


私達のツッコミを余所に…………どんどん、最悪の可能性が実体を帯びていく。


――第32話


それは局員として、スバルの姉として、あり得てほしくないものなのに。


『機動六課の休日/PART3』


(第33話へ続く)








あとがき


武蔵(FGO)「………………」


(剣豪武蔵ちゃん、GP-羅刹を持ってじーっとアニメ鑑賞中)


武蔵(FGO)「……恭文くん、この……ニナって人は、どうして自分の元彼に気づかなかったの?」

恭文「……いろいろあったんだよ」

武蔵(FGO)「でも元彼よ!? 私だったら気づくわよ!? 現に私、恭文くんは絶対に見間違えないし!」

恭文「だから、いろいろあったんだよ……!」

武蔵(FGO)「だって恭文くん、まず私の胸を見るし!」

恭文「見てないよ!」

武蔵(FGO)「見てる! すっごい奇麗だなーってたくさん見てくる!
今だって見ています! おかげで私の鼓動は、気恥ずかしいやら嬉しいやらでさっきから高鳴りっぱなしです!」

恭文「本当に見ていないのにー!」


(現在、蒼い古き鉄と一緒にガンダム0083を鑑賞中です。GP-羅刹から興味を持ったらしい)


アイム(ゴーカイ)「…………やはり、ですか。わたくしは……そういった視線を感じたことがないのですけど」

恭文「アイム!?」

武蔵(FGO)「え、どうしたの? また急に」

アイム(ゴーカイ)「ゴーカイジャーがYouTube東映特撮チャンネルで配信スタートしましたので、みなさんと一緒に見ようかと。
あ、マーベラスさん達ももうすぐ来ます。卯月さんのお誕生日も近いですし」

恭文「そうだった!」


(そう、いよいよ豪快な海賊達が一週間に二話ずつ配信です)


アイム(ゴーカイ)「それより恭文さんです。やはり大きい人が好きなのですね」

恭文「そういうのはないからー!」

武蔵(FGO)「いや、アイムちゃんはそれ以上に素敵なところがたくさんあるじゃない! 黒髪ロングも貴重だし!
あぁ……静香ちゃんや段蔵ちゃんもよかったけど、アイムちゃんもやっぱり好み! お姉さん、ぎゅーって独り占めしたくなります!」

アイム(ゴーカイ)「…………恭文さん、武蔵さんはその……やはり、なんと言いますか」

恭文「アイム、それ以上いけない」

アイム(ゴーカイ)「では、恭文さんがわたくしを独り占めして、守っていただく形で」

恭文「あ、うん。そういうことなら頑張るよ」

武蔵(FGO)「駄目ぇ! それだと私がアイムちゃんと仲良くできないー!」

恭文「はいはい、落ち着こうねー! 静香と遊べるようにセッティングしてあげるから、それで満足しようねー!」

アイム(ゴーカイ)「恭文さん、プロデューサーとしてそれは大丈夫ですか?」

恭文「大丈夫だ、問題ない。恋愛は自由だもの」


(一方その頃……最上家では)


静香(情勢的に自宅待機が続いている最中)「…………!? な、なに……今の、妙な悪寒は。まるで宮本さんやネロ皇帝に迫られたときのような」


(というわけで、ゴーカイジャーも一緒に見る蒼凪家であった。
本日のED:松原剛志(Project.R)『海賊戦隊ゴーカイジャー』)


武蔵(FGO)「でもGP01とか02とか、もったいないわよねー。結局記録抹消って……」

アイム(ゴーカイ)「あぁ、それなら消えていませんよ」

武蔵(FGO)「え、そうなの!? でもEDだと」

アイム(ゴーカイ)「表だって口にはできなくなりましたけど、動かしたデータは開発元に残っていたそうです。
GP02のバインダーなども、Zガンダムに出てくるリック・ディアスに生かされたとか」

恭文「最近だとGP01Fbの運用データが、ゲルググの改造機に使われたーって描写も出てきたし、その因子はそれなりに残っているのよ」

武蔵(FGO)「わぁ……そういうふうに繋がってるんだ。面白いかも」


(おしまい)





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あきゅろす。
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