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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第31話 『機動六課の休日/PART2』


新暦七五年(西暦二〇二〇年)七月二十九日・午後十一時四十七分

ハイドランド港・東倉庫街――



最初に剣を握り、人を斬ったのは十三のときだった。大した理由じゃない、どこにでもあるものだ。

治安の悪い街にも染まらず、気立てのいい少女がいた。逆境にもへこたれず、未来を夢見た強い少女だ。

それが、街を仕切るギャングの奴らに玩具にされて、生まれた意味などないと言わんばかりに踏みにじられ、その辺の路地に捨てられた。


そんな街で古びた剣術道場なんてやっていたところの息子が、感情任せに仇討ちをして、たまたま勝っちまった……それだけのことだ。

その少女のためでもなければ、正義のためでもなく、世直しなんて気高い思想があったわけでもない。

ただ自分に流され、選択した結果、相応の物を背負った……たったそれだけの話だ。


それから流れに流れ…………。


「……すまないな」


その結果がこの有様だった。自嘲しながら、目の前の老人に詫びを入れる。


「こういうのは好きじゃないんだが……貞淑さを示す必要があるんだよ」

「あ、あぁあぁぁ……あぁあぁぁぁぁ…………!」

「だがアンタも悪い。知ってるか? 深淵を覗き込むとき、深淵もまたそれを見ているんだ」

「あぁあぁぁぁぁ…………!」


ご老人が慌てて下がると、それと入れ替わるように二つの影が入り込む。


「……! 来てくれたか!」

「早く逃げろ」

「頼む!」


黒い背広を着た、スキンヘッドの黒人二人。ソイツらは左手に携えた銀色の鞘から、片刃の剣を抜く。

だが刀身は真っ直ぐで西洋剣。しかもあれは……例の部隊で、副隊長が持っていた奴だな。

あぁ……よくある著名人のレプリカか。つまらないものだと鼻で笑うと、奴らは不機嫌そうに刃を正眼に構える。


すると更に二人、三人……合計十三人の剣客が現れ、立ちはだかる。


「……ちゃんと備えは取ってくれていたか。そりゃ有り難い」


少しは楽しめればいいが……いや、無理か。

乱雑に伸びた髪をもう一度かきむしった上で、童子切を抜く。


≪Death Stream≫


四半世紀を経てなお研ぎ澄まされ続ける刃は、赤い火花を走らせながら蠢く。

そう、俺の魔力を纏い、より強靱な刃として……。


「少しだが、気まずさが晴れる」


二メートルほどの距離。相手は既に構えているが、なんの問題もない。

いつも通り注意を払いつつ、右半間で構えて…………身体を傾ける。


「GO……GOGOGO!」


――――二メートルほどの距離を、奴らが叫んでいる間に四歩程度で詰める。


まず右の奴に逆袈裟の一撃をくれてやり、肩から腰までを両断。

続けて左に身体を傾け……体重加重で崩れたバランスから足が自然と、滑るように動く。

そのままもう一人を、構えた刃ごと袈裟に一刀両断。


崩れ落ちる身体と走る鮮血を右薙に払いのけ、あのじいさんに目を向ける。

敵はまだ十一人いるが、目標を見失うのは素人。示現流でも≪カエルの目付≫って言うだろ?

ようはカエルの目……一八〇度以上の視界を意識し、常に気を配れという話だ。


本当に見えなくてもいい。耳で聞いた音、気配の動き……そういうものを捉え、きちんと頭の中で整理しておく。

それができると……ほら、身体は自然と振り向き、背後に回り込んでいた一人を逆袈裟に斬り捨てる。

続いてもう一度真正面に振り向き、十一時・二時方向に続けて刺突。二人がかりで襲ってきた奴らの心臓を貫く。


崩れ落ちる身体を右足で蹴り飛ばし、続けて飛び込む四人にぶつける。

その間に走り、左脇を抜けながら跳躍――三メートルほどの距離を一瞬で詰めながら、至近距離で右跳び蹴り。

六人目の男……名前も、由来も知らぬ男。顔面を蹴り砕き、その首をへし折りながら交差。


手近な七人目がこちらへ振り向く前に着地し、鋭く平突き。刃は肋骨の合間を通り抜け、心臓をまたも的確に貫く。

直ぐさま抉り斬るように身を翻し……肉を容易く断ち切った童子切を笑いながら振り、十字方向に袈裟一閃。

飛び込んできた八人目をその斬撃ごと断ち切り、更に走って袈裟・逆袈裟と十人目まで首を落とす。


反撃も、先制もならないまま半数以上が倒されたことで、残り三人もさすがに焦る。

身構えながら下がり、距離を取るが……腰が引けているのはさすがに見過ごせない。

仕置きのように地面を逆風に斬り砕き、コンクリの破片を奴らにぶつける。奴らがオートバリアを発生させ、それを防いだところで……体を傾ける。


そうして地面を滑るように駆けて、駆けて、駆けて……十五メートルほどの距離を埋め、まず右端にいる奴へ袈裟の一閃。

発生し続けているオートバリアごと斬り捨てると、中央にいた男が顔を青ざめながら刺突。


それをスウェーで避け、すれすれの殺意を楽しみながら左薙一閃。腰から真っ二つにして、この世とお別れしてもらう。


「ひ……ひあぃああああああ!」


最後の一人は威勢よく声を上げ、レヴァンティンレプリカを振り下ろす……ので、右ハイキックで腕を蹴り上げる。

そんな剣閃じゃあ人は殺せないと印象づけた上で、跳ねる体を袈裟・逆袈裟と連続で斬り……鮮血のままに解体。


これでようやく本命に行けると、視界の端に捉えていた老体をしっかり見据える。

じいさんは必死に背を向けて逃げていた。こっちを見れば地獄が待っていると知っているかのように、真っ直ぐ前を見ていた。

それに対して思うところがないわけじゃあないが、問題はないと……童子切を鞘に納め、地面を走る。


足音を派手に響かせるようなこともなく、四十メートル近い距離を埋めていく。

これも変に地面を蹴る必要はない。体幹をあえて崩し、滑るように足を出していくだけでいい。

ただそれだけで、人間ってのは最小限・最効率・最大速度での全力疾走ができる。だからほら……スタートが違っても、じいさんの背中は目の前になる。


そこからは、せめてもの慈悲だった。

じいさんが振り向く前に……俺が迫り、死が確実なものになったと知る前に――。


抜いた童子切で、股下からまで真っ二つにするだけだった。


「……恨んでくれて構わないぞ、ご老体」


自嘲を続けながら、刃を逆袈裟に振るい……静かに納刀。


「流儀に反する、趣味じゃない……そんな言い訳を抱えながら、アンタを斬ったからな」


仕事は終わったのでその場から立ち去る。そうして一つ二つ、倉庫の角を曲がったところで……。


「……忠犬じゃないんだ。もうちょっとマシな尾行をしろよ」

「………………よく気づくものだな」


そうして倉庫の屋根から飛び降りてくるのは、青髪と……見慣れないピンク髪の女だった。まぁどっちも見慣れてはいないんだが。

しかしサーチャーもあるというのに、堂々と出てくるとは……あの優男、俺に土を付けただけあって、手が回るらしい。


「アンタ達が相当なのは認めるが、もうちょっと武術のイロハを理解しておいた方がいいな。
魔力がなくとも、突きつめれば術なんだよ」

「覚えておこう」

「で、そちらのお嬢さんは?」

「最近稼働開始したばかりの、七番セッテだ。私が教育係を任されている」

「初めまして、サンダーエッジ・ボルト……あなたの貞淑、トーレともどもしっかりと記録しました」

「そりゃどうも。だがその呼び名はやめてくれ? 三十も過ぎたおっさんにはキツい」


しかし機械的……感情抑制とやらによる調整が原因か。

これならあの木偶人形と何一つ変わらないというのに。まぁ、俺が知ったことじゃあないが。


「貴様も思っただろうが、セッテは稼働して間もなく、動作や判断能力にまだ幾ばくかの不安が残っている」


すると俺の思考を読んだのか、青髪……トーレは鋭い眼光をぶつけてくる。


「そこでお前には、セッテの教育係も担当してもらいたい」

「おいおい……子育ての経験はないぞ?」

「模擬戦の相手をしてくれるだけでいい。サンプルH-1への対抗策を整える意味でも、そのデータは貴重だ」

「意外だなぁ。お前さん方は”こういうの”を下に見ていると思っていたが」

「ドクターの言葉だ」

「……OK」


あの男は弱いが強い……ソイツが言ったことであるなら、問題ないと肩を竦める。


「…………セッテ、俺はそこまで優しくできないが、問題は」

「ありません。よろしくお願いします。サンダーエッジ……いえ」


俺が気に食わない呼び名を、わざわざ訂正するか。その愛らしい素直さには笑みを送っていた。


「……ボルトだ。それだけでいい」

「はい、ボルト」


妙な因果に絡め取られたが、なかなかに悪くはない気分だ。

あとは俺に宛がわれた獲物が、半端者じゃあないことを……祈るだけだが。




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


西暦七五年(西暦二〇二〇年)七月三十日午後十時二十三分

機動六課隊舎・部隊長室



せっかくのノンビリムードやし、満喫したかったけど……そうはいかんかった。

部隊長室に戻った途端、三佐から通信が届く――。


「それで三佐」

『――ハイドランド港で変死体が上がったそうだ。例のデバイスマイスターだ』

「死因は」

『真っ二つ』


うわぁ……そりゃまたキツい。というか、局の手は間に合わなかった……!


『だが……』


すると三佐が、急に歯切れが悪くなった。


『現場に魔力反応もないし、再開発地域でもサーチャーは多いところでな。それらしい記録も見当たらない。
だから犯人の姿もきっちり捉えられたんだが……』

「なにか、問題が?」

『まぁ見てくれや』


――三佐がサーチャーから得られた映像を送ってくれた。

港の一画……面倒そうな様子で、男が頭をかき、怯える老体に迫る。

身長は一八〇ほど。群青のボディスーツに、白い鞘に納められた日本刀を携えていた。


ボディスーツは筋肉のような隆起が刻まれており、色さえ違えば裸体のようにも見える。

その動き、足取りは無秩序に見えて、とても冷徹に得物を追い詰めていた。

そのたびに揺れる髪……黒い、ウェーブ髪。耳までの長さのそれは、乱雑にふたつわけにされていて。


口元には軽い無精ヒゲも見える。でも不潔というよりは、油断ならない……武人のような威厳を感じさせる。

その男は、口を開く。面倒だが仕方ないと……どこか慈悲も持った上で。


そこからはあれよあれよという間の一方的な斬り捨て――――そして男は老体を真っ二つになる。

男はつまらなそうに血を払い、刀を鞘に納める。

そうして悠々とその場を去っていくけど、その姿に、剣閃に寒気が走った。


だってあれは、うちにもよく見覚えのある構えで……!


「恭文の剣術……!?」

『……しかも鉄輝一閃だ』


画面の……限られた角度内やけど、剣閃や移動速度、雰囲気はそれに近いものがあった。

何よりあの、地面を這うようにしながら放つ抜刀術は……。


「あの、最後のって……確か!」

『抜き――薬丸自顕流の抜刀術。恭文が最も得意とする技だな』


甲冑着込んだ相手用の……防御が薄く、防ぎにくい股下からの抜刀切り上げ。

恭文はその小柄な体格ゆえ、武術で有利に働く筋力やウェイトには恵まれん。でも、その分小回りと速度、攻撃精度に全振りしとる。

抜きはそれを最大現生かせる技で、アイツもヘイハチさんからは『それを極めてみろ』って言われるくらいや。


それだけやのうて、あの魔力を刃にコーティングする運用術も……なんでや! アイツの友達か何かか!?


『……局のデータベースに照合してみたんだが、相当ヤバい奴だ』


その辺りのテータも送られてくる。

どれもこれも、サーチャーで取ったような画像ばっかやけど……でもこれ、なんや?

犯罪経歴とされるものもあるけど、そうやないのも相当数あった。


ヴァイゼンやらでマフィアを潰し回ったとか、違法組織と繋がっていた局高官を白昼堂々襲って、ぶち殺したとか!

オルセアみたいな内戦地域に出向いて、やっぱりテロリストやらを一人で潰して、犯罪者全員皆殺しって!


『サンダーエッジ・ボルト――本名ボルデント・サムイラ。
どこの組織にも付かず、あっちこっちの世界を刀一本で暴れ回り、表・裏問わず無法者達を次々斬り捨てた第二級重要捜索指定人物。
……ただ事件の犯人というよりは、悪党相手のドンパチについて事情聴取ってレベルだったがな」

「なんでそんなのが情報屋を! というか、刀一本ってことは……」

『少なくともお前さん達よりは資質に欠けてるよ。マジで恭文やヒロリス達に近い部類だ』


……三佐は暗にこう言うてた。

スカリエッティサイドに、それくらいの……マスター級たり得る増援が、入った可能性があると。


『コイツが出てきたのなら、さすがに恭文も手を焼いただろうがな……』


モニターのサブウィンドウに改めて映し出されるのは、ハイウェイ上の惨状。あっちこっちに破壊の痕跡があり、それが痛々しい。


「それでアイツは、青髪を……戦闘機人を…………というか三佐、昨日の場でアイツがいたでしょ! それで」

『嘘はお互い様……っと、そうそう。もう一つの嘘についても一応報告しておく』

「三佐、聞いてください! あれは嘘と…………もう一つ!?」

『最初に送った護送車は、全て囮だ』


そうして三佐はしてやったりと笑う……。


『襲撃も予測できたからな。今さっき、本命の車が下道を通って、中央にレリックとゼスト・グランガイツの遺体を護送完了した。
もう本局のラボに到着しているはずだ』


……胸の内が震えていると、こっちの据え置き端末に通信が届く。それも六課と連携している、本局ラボの部署……そこの責任者さんからや。


「ちょおすみません」


三佐に一旦断って、通信を繋ぐと……眼鏡をかけた、四十台くらいのおじさんが出てきて。


『お忙しい中失礼します、八神部隊長。
先ほど108の方から、刻印ナンバー十のレリックと、それを内包していたゼスト・グランガイツの遺体が届きました』

「ほんま、ですか……!」

『はい。これから調査に入りますので、報告はまた後日ということになりますが』

「わざわざご連絡、ありがとうございます。ほな、よろしくお願いします」


――――差し当たっての報告ということで、電話はすぐに終了。

三佐の通信に戻ると……うわぁ、してやったりって顔を滅茶苦茶しとるわ! つーかどや顔や!


『どうやら無事に届いたようだな』

「……はい」

『向こうさんも首都防衛隊に追い立てられている最中だからな。さすがに手が回らないわけだ。
あと、その首都防衛隊から一つ連絡が来た。例の赤毛のユニゾンデバイス、自分からアギトと名乗ったそうだ』

「……それは、恭文がアグスタで獲得した映像でも確認されてますね」

『それだけじゃねぇぞ。古き鉄……つまり恭文とアルトアイゼンをぶち殺すってよ』

「ああもう……!」


レリックを確保できたのは喜ばしいけど、そこで恨み辛みを買ってもうたんか!

しかもアイツはリインサイズの小さな子でも容赦せん! する理由がもはやないもん!

……拘置医療施設のような事件を、アイツがどれほど憎み、忌み嫌っているか……うちはよう知っとる。アイアンサイズの件でもそうやった。


そやから、それを止めるとなると……現場やと、ほんまにシグナムくらいしかできんっちゅうんに……!


『とにかく戦闘機人の残骸だが……ここは緊急連絡した通りだ』

「破片程度なら出てきた……でしたよね」


というか破片って……一体何をしたんよ……! 幾ら犯人かて、そんな。


『証拠になるかどうかは怪しいが、それも本局のマリエル技官に届ける手はずになっている』

「そう、ですか……。それで恭文は」

『同伴していたギンガと現場から離れて、休憩中だ。
……だが八神、犯人へ無駄に説得やら試みるのは改めた方がいいぞ。
六課の捜査情報が漏れている以上、例え説得されても”六課だけには”って状況も考えられるからな』


……そんなのない。

そんなの、あり得るはずがない……! だって機動六課は、うちらの夢の部隊で!

それやのに……どうして、こんな……!


「それでも……恭文は、戻してください……」

『八神』

「お願い、します……ちゃんと、やりますから……」


そうや、できる。できるできるできる……そのために、四年も準備したんやから。


「スパイとか、許さんで……みんな一緒に、頑張れるように……」

『そりゃ無理だろ。そもそも恭文については、七月末から非常勤勤務にシフトする契約だったんだろう?
アイツの学業や進路関係の保障……その条件の一つとしてよ』

「それも、この状況ですから……親御さんにも説明して、常駐継続で納得してもらいます……!
進学は、確かにできんかもしれんけど……でも、若いんやし一年くらい寄り道してもえぇやないですか。
何よりその分機動六課で、こっちでキャリアが詰めます。それはアイツのためにもなるはずです」

『それを決めるのはテメェじゃねぇだろ』

「何より今恭文が六課から離れることは、マイナスにしかならんのです。スバル達ともえぇチームになってる途中なんですから」

『そのスバル達は引き上げさせるっつっただろうが。
何より核兵器の件も絡めたら、お前さんのとこだけで全部どうにかできるわけがない』

「そやからそれも、全部なんとかします!」


流れが速すぎる……レリックの動きからは察してはいた。でもそれすら飛び越えていく。


「お願い、します……」


しかも……フェイトちゃんに言ったことは嘘やない。スバル達と恭文は、えぇチームになれる。実力差云々は関係ない。

それすら、守れんのか? それすら……信じてもらえるようには、できんのか?


「お願い、します――!」


そんなことない……そんなことないって。三佐には頭を下げ続ける。

それしかできんから、それをいっぱい……許してくれるまで、何度でもこうし続ける。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


朝日は昇り切り、ミッドの街は平穏な日常を描く。

まぁお尋ね者の俺にとっては動きにくい時間だが、そういうのも悪くはない。

それに今は、首輪付きの身でもある。その絡みで誤魔化しようはいろいろあって、おかげで退屈もしなかった。


そんな街の一角でハンバーガーをぱくつきながら、ついほくそ笑む。


「……あの規模の爆発を斬るか……それも肉体強化や妙な変身もなしで、あの大剣で」


携帯端末で見るのは、ハイウェイで起こっていた楽しいドンパチの様子。最後の爆発は少し妙だったが、それについてはどうでもいい。

あぁ、どうでもいい。アレすら剣一本で斬り抜けられる腕前……それを見せてもらったからな。


「よく分かった。コイツが刃を抜くことを恐れて…………いや、違うか」


我ながら過小評価だと笑って、軽く首を振る。


「それが、どれだけ重たいことかを知っている……そういうことだな」


活人剣(かつにんけん)には責任が伴う。漫画やらアニメやらでよくやる、敵を生かしたまま制するってのは本質じゃあない。

一殺多生――今存在する一つの悪を殺すことで、たくさんの命を守る。

本来は忌むべき……振るうべきではない武力にも、それを高める意味がある。柳生新陰流の創始者……柳生宗矩ってじいさんが出した奇麗事だ。


そして示現流ではこうも教えられる。抜かば太平、抜いたら一刀両断……ようは抜いたら最後、必ず斬れって戒めだ。


「分かるぞ。だからお前は、まず妙な変身を使う……自分の剣を抜くとき、それは人を殺す覚悟を定めたときだからだ」


命だけの問題じゃあない。ソイツが行く道を、その信念を、それが導く未来を殺す覚悟だ。

自分の剣がそれを成し得る凶器であり、自分の剣術がそのための殺人術だと知っているからだ。

最初はそれを恐れているのかとも思った。だが違う。コイツは人を殺すことを恐れてなどいない。


現に目の前で人一人が爆死しても、揺らいですらいない。悼みこそすれど、その信念を掠めてもいない。


「だがいい……あぁ、いいぞ」


その剣には快楽を求める心がある。そしてその快楽の質は、恐らく俺に近い。

現にあの青髪じゃあ心は弾んでいなかった。あの程度じゃあ足りないと来たもんだ。


「……因果な流れから世話になったが、あぁ、悪くない……悪くないぞ」


お前となら、最高の斬り合いができる。その確信がある。


「旅の終着点……かどうかを見極めるには十分か」


だから笑って、ハンバーガーを全て食べ尽くす。これからの戦いに備えて……しっかりとだ。


(…………もう一つ、余計な因果も背負っちまったからな)


そのためにも今は、道化を演じるさ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


六課の駐機場入り口で、日陰に入りながらネット検索――。

ハイウェイの件が気になったので、道路情報を調べたけど……問題なし。

渋滞も局所的だし、これからの行き先には引っかからない様子。


それに安堵(あんど)し、ジャケットに携帯を仕舞(しま)い込んだ。


そうして脇で整備されている、赤いスポーツバイクを見やる。

ちょっとちょっと、これって最新型よね。しかもかなり高いやつだって出てる。


ヴァイス陸曹の私物らしいけど、乗り心地良さそう……並列二気筒って試したことがないし。


「ヴァイス陸曹」

「なんだー」


陸曹は私の脇で、赤い車体をいじいじ。これを貸してもらえるなんて、ちょっと申し訳ないような。


「これ、本当に貸してもらっても……かなり高いですよね」


そう、とても気軽に言われてしまった。それがネット検索に繋(つな)がり、今おののいているわけで。


「安心しろ、保険契約はきちんとしてる。プロテクターは」

「自前のオートバリアです。FI4000」

「結構いいもん使ってるじゃねぇか。お前の給料じゃあ高いだろ」

「その分サポートはしっかりしてますから」

「こっちも似たようなもんだ」


それには自嘲しか返せない。……命を守る道具に、糸目は付けない――訓練校に入ってから教わったことよ。


「そういやよ、時々お前らの訓練を見てるが……お前は大分変わったな」

「そうですか?」

「前はシングルでも、コンビでも、チームでも、動きが全部同じ。
臨機応変さに欠けてたんだが……最近は大分、センターガードらしい動きになったじゃないか」

「まぁ、ありとあらゆる努力はすると決めたので」

「そりゃそうか。できなきゃ罰ゲーム三昧だ」

「それです」


タイヤの圧力を確かめていた、ヴァイス陸曹に断言。

そんな陸曹と入れ替わり、バイクに跨(また)がり……あぁ、足はべったりなんだ。ツアラータイプなせいかな。

それでアクセルを捻(ひね)り、計器類の調子もチェック。


……ただ二気筒のエンジン音だけが、私達の間で響く。それが妙に気まずくて……一つ聞いてみた。


「あの……これ、前から疑問だったんですけど」

「なんだ?」

「ヴァイス陸曹、魔導師経験がありますよね」

「あぁ……俺は武装隊の出だからな。新人相手に説教できる程度には、鍛えてたんだよ。
ただどっちかっていうとヘリの方が好きでな」


……そう言いながら、どうして顔を背けるんだろう。しかもそのヘリがあるのとは違う方向に。


「それで今は、空も飛べるヘリパイロットってわけだ」

「そうですか……」

「んなことより、とっとと行ってやれ」


ヴァイス陸曹はキーを投げつけてくるので、素早くキャッチ。

それをキャッチしてから、入れ替わりでバイクに乗り込み。


「スバルの奴、待ってんだろ?」

「はい。……あ、お土産何がいいですか?」

「そうだなぁ……インスタントでどんな恋愛ができたか、土産話を聞かせてくれよ。摘まみにするからよ」

「了解です」


一応礼をした上で、その上でアクセルを捻(ひね)り、ゆっくりと走りだす。

並列二気筒のエンジン音を相棒に、ヴァイス陸曹に……どこか寂しげだった顔に、背を向けて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


少し悩みながらも隊舎玄関に出て、スバルをお見送り……。

なおスバルは黒のサマージャケットにスパッツという、ラフな出(い)で立ち。

それでバイクに乗ってやってきたティアナは、ハーフヘルメットにゴーグル、ジャケットとグローブという重装備。夏の姿とは思えない。


「スバル、ちゃんとグローブとプロテクターも装備すること。一応市街地なんだから」

「分かってるってー。
……じゃあなのはさん、行ってきます。お土産、何がいいですか?」

「嬉(うれ)しいけど、そんなに気を使わなくても……楽しんでくれればいいよ?
良識的に……とても良識的に……二人だけの時間を、嫌ってほどに……!」

「…………なのはさん、祈りを捧げないでもらえますか? なんだか呪われているみたいで」

「だってぇ!」

「しかも否定すらしないし!」


だってぇ! なのははこれで、ティアナとスバルはこれからインスタントに……いやぁぁぁぁぁぁぁ!

これで本当にエターナルラブ掴んじゃったら、なのははもう生きていけない! 恋愛弱者として……負け犬として這いつくばるしかない!


「まぁ分かりました。土産は私達のメイクラブがどれだけ凄かったかを聞かせるということで」

「やめてー! なのはの心が壊れるから!」

「でも私はともかく……ティアはいいの? ほらほら、恭文が」

「アイツとはそんな関係じゃないわよ! あれよ……アンタ達が言うセフレよ、セフレ!」

「「あ、はい…………」」


どうしよう、やっぱり彼ピッピとかの話はアウトだったかもしれない。

しかも今セフレって……セックスフレンドってぇ! それで逆ナンのために町に繰り出すって、完全にふしだらな青春だよ!

でもツッコめない! 私とスバルも、それはどうかと思ったけどツッコめない!


だって…………目が血走っているもの! 余りに必死すぎるもの! そこでセフレについてツツいたら、一体どうなることか!


「と、とにかくだよ。運転は気をつけてね? オートバリアもあるとはいえ、いろんな……ね!? いろんな事故の方法があるから!」

「そうですよね! ぶつけられたり、煽られたり……ティア、運転は上手いけど、久々なんだし注意しないと!」

「前の部隊じゃ毎日乗っていたけど、借り物のバイクだし……うん、そこはちゃんとしないと」

「「そうそう!」」


よかった! なんとか取り直せた! これで休日モード再開だー!


「じゃあ、行ってきます」

「行ってきます、なのはさん!」

「うん、行ってらっしゃい………………そして二人だけで帰ってきますように……絶対なにもありませんように……!」

「だから、呪わないでくれますか?」

「だってぇ!」


そんなことがありながらも、バイクで走っていく二人を見送り……手を振ってから、なのはも隊舎の中へ。

……と思っていたら、浮かない表情のフェイトちゃんと遭遇。


「あ、エリオ達もお出かけ?」

「さっき、二人でね。
でも……キャッシュカードを渡すの、どうして駄目なんだろ」

「馬鹿じゃないの!?」

「なのはまでヒドいー!」

「ヒドくないよ!」


あぁ、フェイトちゃんはどんどん天然がヒドくなっていく! というか過保護!? 過保護なのかな、これは!

その辺りをどう言い聞かせよう……考えながらも廊下を歩いていると。


「よう」


曲がり角からシグナムさんとヴィータちゃんが出てきて、手を挙げながら近づいてきた。


「シグナム」

「ヴィータちゃんー! シグナムさんも聞いて! フェイトちゃんが馬鹿なの!」

「なのは!?」

「エリオ達に、キャッシュカードを渡そうとしたみたいで! 暗証番号も込みで!」

「………………いちいちうっせぇなぁ。
コイツの脳みそがファミコンレベルなのは、もうどうしようもねぇだろ」

「………………ヴィータ、それはさすがに言い過ぎだ。
幾らテスタロッサでも、PlayStation……だったか? あれくらいはある……はず」

「コイツじゃポリゴンなんて出せねぇよ」

「二人までヒドい! ふぇー!」


ヒドくないよ、フェイトちゃん? キャッシュカードって時点で、揃(そろ)って表情が変わったもの。

それもすっごく嫌そうに……副隊長なシグナムさんまでって辺りで、察してほしいです。


「てーかそっちは任せた」

「いやいや、任されても……あ、そっか。もうお出かけの時間だよね」

「予定通り108部隊に行ってくるよ」


そう、実は副隊長二人もお出かけです。


「ナカジマ三佐も交えて、合同捜査本部の打ち合わせ……だったんだけどな」

「……やっぱりスバル達の扱い絡みで、なしになりそう?」

「それも含めて話してくるよ。
向こうへの戦技指導もあるから、結構遅くなるかも……デバイスのことは」

「そっちはシャーリーとリインがやってくれるから、大丈夫だよ」

「シグナムさんは打ち合わせが終わり次第、聖王教会ですよね」

「クロノ提督も地上へ降りられているそうだ。というか」


……シグナムさんが頭を抱え始めた。

その原因については、もはや問いかける必要もなくて……。


「恭文君のことですか?」

「それもあるが……第八資料室の、メリル・リンドバーグという者が六課の周囲をうろついているらしい」

「………………第八資料室……!」


それって例の、強行部隊だよね! まだ六課をぐいぐい責め立てる感じだったんだ……!


「捜査関係が全く動いていないせいもあるが、何とかその辺りも調整したいそうでな」

「でも、フェイトちゃんが外回りとかに動くと……」

「蒼凪捜査課長よりはマシだろう。少なくとも血の雨は降らない」

「それを言われると弱いですけど!」

「つーかあの馬鹿……捜査課長を名乗りながら裏組織殲滅って、あり得ねぇだろ! 捜査じゃなくてアイツがテロリストだろ!」

「ふぇ、ふぇ…………」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


私とオットー、ディードは三人で姉妹水入らずの時間を過ごす。

ただ、のんきに遊ぶ気分にはさすがになれず……繁華街の一角に座り込み、のんびりと街並みを見ていた。

ほんと、ちょっとイラってくるくらいに騒がしく、普通通りの街を……流れていくたくさんの声と、笑顔を。


”……トーレ姉様が、破れるなんて”

”そうっスね……。ナンバーズ随一の実力者だったのに”

”それでも、古き鉄には……準マスター級には敵わなかった”


ほんと馬鹿っスよ。こんなところで倒されて、得がある状況でもないっていうのに。

これだから脳筋姉は……ううん、そうじゃないっスね。

改めて突きつけられたっス。六課と……古き鉄と事を構えるのが、一体どういうことか。


もちろんゼスト・グランガイツだって……元々ストライカー級っスよ? それすら歯牙にかけず、瞬殺って……!


”……恭文さんは、この平穏な日常を……人々の笑顔を傷付ける者には、容赦をしない人です”


なんだかんだで天使扱いから、距離も近いディードがそう呟く。


”私達が疎まれ、死を当然とする形で攻撃されるのも、当然なのでしょう”

”……そうだね。だけど、ボク達にだって……ドクターから託された夢がある。
それはボク達のような存在が、こうやって表だって生きられる世界だ”

”楽しくどーんと暴れられれば、それは最高っスよね。最高だった……はずなのに……”


そこでちらつくのは、街の光景……そして雛見沢でのいろんなこと。

私達が疎み、否定するべきだと考えた世界だけど、それでも平穏と笑顔を持って、生きている人達がたくさんいて。

それを踏みにじり、私らだけが笑える世界を作るのが、理想で究極だった……はずなのに。


”……私ら、殺されて当然のこと……しているんっスかね……”

”ウェンディ……”

”そりゃあ、私らだって誰かしら殺すことになるっス。ドクターが必要だと思ったの以外は……それに疑問は抱いてなかったっス。
だって、そうすれば楽しい世界が来るから。だけど、だけど、だけど……!”

”……私達は、そうして殺される側の誰かを……その痛みや、そこから生まれる怨嗟を、考えたことはなかった”


どうしよう。


”命令だから、私達が『楽しくなるため』だから……痛みを生み出し、それを当然とする側なのにも拘わらず”

”……それでも、ボク達は……ドクターの戦闘機人だ。命令を果たすのが使命……そのために生まれてきた”

”……だから、なんの覚悟も……目の前で生み出した痛みすら背負わない”

”ディード”

”それで……本当に、望む世界は得られるのでしょうか”


こんなのは、全然楽しくない。

私が想像していた世界は、もっと気楽で、王様みたいに好き勝手できて、笑えて……なのに。


「ウェンディ、オットー、ディード」


……そこで、後ろからかかった声にビクッとする。慌てて振り返ると、そこにはヤスフミと……タイプゼロ・ファースト≪ギンガ・ナカジマ≫が……!


「恭文、さん……!」

「よかった……悪いんだけどさ、ちょっと手伝ってほしいことがあるのよ」

「な、なんっスか。藪から棒に」

「結論から言うよ。ハイウェイで暴れてくれた青髪……奴は、クアットロって奴に自爆させられた」


…………そこで、ゾッとさせられるものを突きつけられる。

それは想像だにしていない未来だった。


そしてこれもまた、私らにとって……大事なターニングポイントでもあって。


「――自爆……させ、られた……!?」

「どういうことですか、それは……!」

「……事実だよ。青髪の戦闘機人は驚いていたの。
クアットロという名前を呼びながら……それも助けを求めながら」


そこでギンガ・ナカジマが見せてくれた映像は……確かに、クア姉の名前と……助けを求め、爆散するトーレ姉の姿が……!


「初対面で……挨拶も抜きでいきなりごめんね。108のギンガ・ナカジマ……スバルの姉です。
実はあなた達がちょうど近くにいるって、リイン曹長達から聞いて」

「なら、恭文は……」

「なぎ君は殺してなんていない。ノックアウトしただけ……なのに……!」

「この調子だと、今後出てくる戦闘機人も同じように……自爆装置を仕込まれている可能性が高い」


そこでまた、ゾッと……いや、もはや停止だ。呼吸が……心臓が、身体のいろんな活動が止められるような息苦しさを覚えた。


「悪いんだけどさ、資料は纏めたから……おのれらから六課に伝えてほしいのよ」

「ボク達から? でも恭文は」

「僕が報告に行くと、戻ってこいって五月蠅いでしょ……。
それに108の部隊長であるゲンヤさん……スバルとギンガさんのお父さんは、今はやてとちょっとやり合っててね」


その辺りで表立って、堂々と情報提供ができない……108もそのつもりがない。

かと言って自分が情報提供したとバレると、今度はその108とも更に揉めてしまう。


だからと…………恭文は暗にそう告げて、両手人差し指を軽くぶつけ合う。


「まぁお休みが終わって、帰ってからでいいから。そこは頼めるかな」

「あ……そういうことなら、了解っス」


なんとか……何とか必死に笑顔を取り戻し、大丈夫だと笑う……笑って、みせる。


「でも、早めに顔は出した方がいいっスよ? フェイトさんもオロオロしてるし、ティアナなんて毎日イライラ……お通じも止まり気味らしいっスから」

「アイツらは僕の彼女か……。一日百回くらい着信履歴を残してるんだけど?」

「……それはもはやストーカーだよ」

「それくらい思っていることっスよー。このこのー」


笑って、笑って、笑って…………冷静な胸の奥で、恐怖と混乱を必死に飲み込もうとして……嗚咽を漏らし続けていた。

トーレ姉が自爆させられた? しかもやったのはクアットロ……どういう、ことっスか。


”ウェンディ……!”

”なんで本格活動前に、わざわざ貴重な戦力を減らすっスか……”

”なによりドクターがそんなこと、許可するはずがない”


計画が変わった!? いや、それとも元々そのつもりだった……!?

クア姉ははっきり言えば、裏で何を考えているか分からないタイプだ。やりそうかどうかって言われたら……やりそうだと言うしかない。

だけどそれでも、姉妹を……自分の姉を、容易く? 恭文達が嘘を言っている様子もない。


だったら、私やオットー、ディードは…………私らの、命は――――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


副会長と別れた後、どうしても気になって……シャーリーとリインに協力してもらってね。後を追いかけた結果がこの有様だ。


……三人とも、滅茶苦茶動揺しているねぇ。声をかける前から暗かったけど、それがより色濃くなった感じだ。

まるで、自分がこれから自爆させられる……そういう危機感を抱いたかのようだ。


”……なぎ君”

”さすがに名前や出自だけで、スパイなんて言うつもりはないよ”


心苦しそうなギンガさんには、問題ないと念話を送っておく。


……ウェンディ(十一)、オットー(八)、ディード(十二)も、イタリア語で数字を表す名前だ。

更に武井仁も……数字に置き換えると≪612≫になる。実はフェラーリが出している車には≪スカリエッティ612≫って車種があってね。

そこを作ったところの関係者も≪セルジオ・スカリエッティ≫って言うんだ。セルジオ……みんなのミドルネームだ。


さすがにここまで偶然が続くと、疑念を抱くなという言う方が無理だ。だからこそ……。


”ただ、疑わず手を打たないほどお人よしでもない”

”……そうだった。なぎ君ってヒドい子だったよね”

”今ごろ気づいたの?”

”じゃあ、仮にこの子達がスパイとして……捜査情報とかも全部流したのかな”

”どうだろうね。さすがに事がデカすぎるようにも感じるし、面倒だとも思う”


何より……あぁ、そうだね。何より図式を改めて見たら、一つ爆弾があるわけで。


”何より、コイツらがスパイだったという事実だけで、六課は活動停止になるよ”

”それを引き込んだのがリンディ提督だから?”

”トップが黒ければ、そりゃあ配下の連中もって図式だよ。
……それもよくよく考えたら、アンチ行動なんだよね”

”ん……”

”でもディードがスパイだったら、僕は泣く……いや、ディードは天使だ。
ならその天使に罪を犯させた奴こそ悪だ! 僕はその悪を許さない!”

”さすがにどうかと思うよ!? 罪は等しくあるから! 天使とか関係ないから!”


ギンガさん、分かってるって。さすがにそんなこと、本気で言わないって。

……できれば危惧で終わってほしいけど、ウェンディ達が本気で怪しいのも事実だ。だから冷徹に楔は打ち込ませてもらう。


もちろん敵に回っても変わらない。そのときは、全力で打ち倒す――――ただ。


「……青髪はね、クアットロって名前を呼びながら、助けも求めていた。今言った通りね?」


その前に、僕は三人に伝えるべき言葉がある。だから隣にひょいっと座らせてもらう。


「信じられる? 局の車両を襲って、こっちをぶち殺そうとしてきた奴が命乞いだ。
まぁそれ自体には別に同情する余地もないよ。最初に”それ”をよしとしたのは奴らだ」

「……厳しいっスね」

「厳しくもなるさ。車両に乗っている局員を、抵抗も許さずに次々襲ったんだ。下手したら大事故でそのまま死んでいたもの」


やっぱり暗くなるウェンディには、淡々とそう告げる。…………だけど。


「でも……そこまでした奴が、情けなく助けを求めるって状況は相当に異常だ。
まずそれだけで、アイツにとってクアットロ……ナンバーズというチームの身内が、自分を自爆させたことが予想外すぎたと理解できる」

「……それはクアットロの独断で、チーム全体の意向ではない……そう読み取っているのかな。恭文は」

「そんなところだ。そしてそのチームに所属する奴らは、もれなく自爆の可能性が付きまとう。
たとえスバルやエリオ達辺りが説得しようとしても、分かり合った瞬間諸共爆発って可能性がね」

「…………それでも……だとしても……あの、例えばの話ッスよ!?
こう、世界をよくするとか……世界の悪いところをぶっ壊して、新しく作り直すとか! そんな立派な考えで動いていたら!」

「それを本気で思っているとしたら、凄まじい大馬鹿だよ。スカリエッティ一味は」


……この街を見やる。騒がしく、どこか乱雑で、魔法至上主義がまかり通っていて……どこか歪な街を。

だけど、その歪さにも負けず、歩き続ける人達を。


「……どうして、そう言い切れるっスか? だって……間違っていることをぶっ壊せば、それは素晴らしいことじゃないっスか!」

「それはなのはの教導が答えを示しているよ」

「なのはさんの、教導が?」

「模擬戦やら訓練やらで間違え失敗するたびに、それをなかったことにして〇からやり直したら……いつおのれらは強くなれるの?
全て完璧にできる自分に生まれ変わることを繰り返したとして、”それ”は一体いつ訪れるの?」


僕の問いかけに、ウェンディは答えられない。ううん、答えられるはずがない。

だってそれは、完全に……人知を超えた神の領域。更に自分という不完全な存在の否定だもの。


「なにより…………それなら間違え、失敗するおのれらは、その時点で必要ないんじゃないかな」

「それ…………は…………」

「…………世界も、同じということでしょうか。
間違いを世界の有り様ごと壊すのではなく、それのみを正す道……それこそが、世界そのものが強くなる方法だと」

「焦れったい上に面倒な話だけどね。……だけどね、覚えておくといいよ。
そのやり方は、まず明日を潰すやり方だ。壊す側も、壊される側も、袋小路に閉じ込められる」

「恭文さん……」

「明日が欲しいなら、まず今日を……昨日を受け入れるんだ」


この街の平和は本物だ。確かにいろんな問題も孕んでいるけど、それは間違いない。

……そうして改めて刻む。今ここで、僕が絶対に違えてはいけない筋を……胸一杯に。

それで……ウェンディ達とは、こういう話をできるだけ、いっぱいしようとも。


今ならまだ、手が届くから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


突然のお休み……スバルさんは御実家へ、ティアさんも一人旅をするとかで別行動。

それで僕とキャロはレールウェイの最寄り駅にきていた。

ただ、なんだろう。二人して疲れ気味についため息。


まだ出かけて三十分も経(た)っていないのに。


「フェイトさん、クレジットカードって……!」

「やっぱり、僕達はもっとしっかりしよう。スバルさんとティアさんが引っ張ってくれたように」

「私達はチームだものね」

「うん」


人の信頼を掴(つか)む――その難しさは、僕達の経験もあってよく知ってる。

でも忘れていたのかも。フェイトさんを信じようと思ったとき、本当に怖かったこととか。

……だから迷いはない。まずは僕達からだ……仲間として、後輩として……クレジットカードという脅威に立ち向かう……!


決意するのはそこまでにして、携帯を取り出し予定確認。


「えっと、シャーリーさんが組んでくれた今日のプランは」

「うん」

「まずはレールウェイでサードアベニューまで出る。
市街地を二人で散歩、食事や会話等を楽しんで」

「食事はなるべく、雰囲気がよくて会話が弾みそうな場所で? な、何だか難しいね」

「うん……でもシャーリーさん」

――成功を祈ってるよ!――

「……って、笑顔で言ってたよね」


言ってたね。デバイス整備で忙しいのに、すっごい笑みで……ガッツポーズで。

……そのガッツポーズで、とても嫌な予感がした。フェイトさんがほら……アレだから。


「よし、まずは一つ一つクリアしていこうよ」

「そうだね。もしかしたら分隊員としてしっかりするためのオリエンテーションかもだし」


というわけでキャロをリードして……まぁ一応、二か月お兄さんらしいので。その分僕がガードしないと。

予定通りの車両へ乗り込み、ボックス型の座席へ座る。

流れる外の景色を新鮮に思いながら、キャロと二人会話……会話。


なんだろう、無駄にドキドキする。

ただ当たり前かなとも思っているわけで。

……僕達、任務以外は隊舎に缶詰だからなぁ。


朝から晩まで訓練して、鍛えに鍛えぬいて。だからこその開放感で、新鮮みなのかも。


「そう言えばキャロ、契約龍はもう一体いるんだよね」

「うん。ヴォルテールっていう、黒くておっきな……えっと、アニメのロボットみたいに大きな感じ。あの、ガンダムとか」

「ロボットみたいに!?」

「体はメカメカしくないんだけどね」


ロボットみたい……ガンダムについては、特別保護施設の仲間と一緒に見たことがある。

思いっきり質量兵器だったけど、こう……足だけでも大人分くらいの高さがある。

そんな大きな龍がいるなんて。世界って僕が知らないだけで、不思議なことがたくさんなんだなぁ。


「フリードは私が卵から育てた子だけど、ヴォルテールはアルザスに単体生息する希少古代種――真竜クラス。
とっても長生きでね、アルザスにとっては大地の守護竜なんだ。エリオ君、そういう信仰については」

「研修中に勉強したよ。……希少古代種のような長命で、現代科学でも生体や行動様式を把握できない未知なる生物。
そう言った生物を身近に暮らしている部族は、彼らを『信仰対象』として崇(あが)めている。アルザスの竜部族もその一つ、だよね」

「正解。私のファミリーネーム【ル・ルシエ】はその部族名でね。一応私もそこの巫女(みこ)だったんだ。
だから私がヴォルテールを呼び出すというよりも、困ったときに助けてもらっている感じかな。……本当に困ったときだけ」

「巨大メカサイズ、だものね。……じゃあ挨拶するのも難しい感じかぁ。あ、でもアルザスにはいるんだよね」

「うん。フェイトさんに保護されてからも、何度か会いに行ったよ。六課入隊が決まったときも」


信仰対象と言っても、守護竜はれっきとした生物。

ちゃんと科学的にも存在が認識されている。

そう考えるととても気楽だなぁとか、つい思ってしまった。


でもそれなら……遠い景色を見やり、まだ知らないアルザスに思いを馳(は)せる。


「会いに行きたいなぁ。一応分隊ではコンビだし、フリードみたいに挨拶できたらって考えてたんだ」

「そうだね、今度長いお休みとかが取れたら、一緒にいこうよ。
それでね、フリードもエリオ君のこと、本当の友達だと思ってるみたいだから」

「それは嬉(うれ)しいな」

「ヴォルテールともきっと仲良くできると思うな」

「それは……ドキドキするなぁ」


巨大メカサイズの竜と仲良く……一体何が起こるんだろうと胸を高鳴らせる。でもいいなぁ、休日って。

こういう時間、訓練漬けの毎日じゃあなかなかできないから。

……いや、休憩時間とかにもっと頑張るべきなのかも。うん、そうだそうだ。きっとそうだ。


最初、ティアさん達にも言われたわけだし……ようは場所じゃなくて、気持ちだよね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文さんはアルトアイゼンと派手に暴れて……うー、パーティーに乗り遅れてるのですー。

不満に思いながらも、デバイスルームでシャーリーとお仕事……みんなのリミッター解除、それにアップデートなのです。


「リイン、もう六課とか辞めたいです」

「あと八か月ほどなので、頑張ってください……!
とにかく、マッハキャリバー達のリミッター解除は終了っと」

「アップデートは、まずプランを練るだけ……ですよね」

「内部構造から弄(いじ)りたいんですよ。だからセカンドモードの訓練データも交えて、後々ですね。……でも、ティアナとスバルはどうするべきか」

「あぁ、それもあったですね……。
今のうちにテントウムシのサンバ、練習するですか?」

「気が早すぎますよ!」


まぁ確かに……余りにインスタント過ぎて、早期離婚を予測するレベルなのです。

やっぱりリインと恭文さんみたいに、じっくり愛を育てるのが吉なのです♪

……まぁじっくりすぎて、そろそろ完熟を過ぎかけているので……リインとしてはぱぱーっと決めたくなる時期なのですが。


「そう言えばなぎ君、六課には……もう戻ってこないでしょうね」

「リインも隙を見て出ていく予定ですしね」

「ちょっと、リイン曹長!?」

「置いてけぼりはゴメンなのですよ」


そう、だから……ポッドの一つに近づき、コンソールを叩く。

……そこにあるのは、蒼色の狼が描かれたライズキー。それも狼部分はラメ入りクリアパーツでとても奇麗なのです。


「……もちろん、やられっぱなしなのもです」


きっとこれは必要になる。だから今のうちに準備して、完成させておかないと。

それも資料室に邪魔されないよう、内密に……だったらここでの調整も今日でストップなのです。

弄っていた痕跡は全て消して、あとは自室で……恭文さん、待っていてくださいね。


リイン達は間違いなく、真相に近づいています。だから……リインも……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


デパートへ向かう途中、妙な音を聞きつけた。


ゴリっというか、ゴトっというか……雑踏の中、僅かに見つけた違和感。

足を止め周囲の確認。雑踏の中じゃない……音は、薄暗い路地の中から。


「エリオ君」

「キャロ、今変な音が聴こえなかった?」

「ううん、何も」


聞き間違え……ううん、違う。ゆっくりと路地裏に入っていくと。


「エリオ君、そっちはデパートじゃ……え」


キャロも暗い路地の中、うごめく姿を見てハッとする。

僕達のほぼ百メートル先……小さな女の子が倒れていた。

ボロボロの服、ブラウンの長い髪は薄汚れていて、左手には鎖を巻きつけていた。


その先にあるものは……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……六課はわりとじり貧な感じになりました。

なのでフェイトちゃんのアホにも説教しつつ、昨日と今朝の状況についても改めて教えておく。

…………もう、いろいろ最悪ってことをな!


「もう最悪や。しかも恭文のやつも……」

「……なにかあった?」

「恭文を狙って、誰かが殺し屋を雇ってるらしい」

「殺し屋!?」

「最低でも三十人程度は」

「「程度!?」」

「まぁ一時間足らずの間に、尽く地獄へ送られたけど」

「「もう!?」」


驚く二人には、また大きくため息を吐いて答える。


「それがもう……笑うしかないんよ。アイツが反撃したのは、最初の五人だけ。
あとはちょっと立ち止まるなり、落とし物を見つけるなり、伏せるなり……そうしたタイミングで突撃した結果、回避され自爆や。
もう、むしろアイツが疫病神≪ヒトコロスイッチ≫やで? 狙っただけで即死亡やから」

「うわぁ……!」

「そ、それでヤスフミは……怪我(けが)、ないの!?」

「あるわけないやろ。今言った通りの状況で」


むしろ怪我(けが)する要素が、どこにあるのかと聞きたい。でも、なんでや。

このタイミングでいきなり……まさかと思うけど、スカリエッティが……それなら、核は……!


「でな、夕べ緊急で話したやろ? 核密輸の疑いが出てきているって」

「あぁ……召喚師の子も絡んで、だったよね。そっちも何か続報が?」

「……恭文を襲ってきたアサシン達が、例のフィルムバッジを持っていたらしい。それも真っ黒なのをや」

「ふぇ……!?」

「生かして捕まえられた連中にはこっぴどく脅して、聞き出したところ……かなり粗悪な廃棄施設で、ポリタンクに入れられた核燃料を運ばされたらしい」

「はぁ!? ちょ、待って……はやてちゃん! ポリタンクってなに!」

「多分……ちゃんと専用の容器やとは思うけど、そこまで細かい見分けは付かんかったんやろ」


もう最悪やった。そもそもそんな廃棄施設があること事態信じられんのに……。


「でも、どうするの!? しかもスバルとティアナを引き取らせろって、三佐も言ってきてるんだよね!」

「それも、何とかする。恭文もこのまま常駐継続を、お父さん達にお願いしたし」

「それで納得してくれたの!? ガンプラ塾のことだってあるのに!」

「………………人の息子を浪人させるつもりなのかって怒鳴られて…………本局に正式な抗議をするって、断言された。
でも、大丈夫やから。恭文は、今は六課にいることが正しいんやから。アイツやったら一年浪人したって、どうにかなるよ。
うん、きっと分かってもらう。スバル達と五人で、チームとして対処してもらえば」

「……はやてちゃん……ううん、八神部隊長、なにがあったんですか」


なのはちゃんが厳しくうちに、問いかけてくる。明確な疑いを隠そうともせずに。

…………それで、自分に言い聞かせるような言葉を鋭く止める。


「現在の編成に問題がないとは言いません。
でも完全に捜査から手を引く形に留まるなら、まだスバル達は……」

「そやから、大丈夫…………明日後見人のみなさんと直接話して、方針を決めることになっとるんよ。
恭文本人もそれで説得すれば、何とかなる……ううん、絶対なんとかするから」

「あ……さっき、言っていたのだよね」

「…………分かった。ならあとは」


……でもそこで、端末からアラームが響く。


「あれ、これ……全体通信?」

『――こちらライトニング04! 緊急事態につき、現場状況を報告します!』

「キャロ、どうしたのかな」

『サードアベニューF23の路地裏にて、レリックと思(おぼ)しきケースを発見!』

「「「はぁ!?」」」


……サードアベニューの路地裏!? しかも……慌てて端末を立ち上げ、通信画面展開。

私服姿のエリキャロ……その脇に寝ている女の子をチェック。

GPSで住所もチェックすると……ちょ! ここやと繁華街のど真ん中やないか!


『ケースを持っていたらしい、六歳前後の女の子が一人! 女の子は意識不明です!』

「女の子ぉ!?」

『はい! 指示をお願いします!』

「……なのはちゃん!」


なのはちゃんは空間モニターを展開し、スバルとティアに指示だし。


「スバル、ティア……ごめん! お休みは中断!」

「二人もすぐ六課に戻って」


こうして、六課はまた慌ただしく動き出す。


「持ち場を離れいていた子は、全員戻って!
女の子も、レリックも、安全確実かつ迅速に確保するよ!」


しがらみも、枷も今は忘れ……ただ目の前のことに一直線に。

そこだけは絶対に譲れん。うちは、そのためにこの場所を作ったんやから。


『え、無理です』


するとティアナから、あっ気なく拒否の声。え、なんで……いや、聞くまでもない!

なんかティアナの音声に混じって、車の音がたくさん聞こえる。クラクションも多数混じってくる。


「ティア、まさか…………待って待って! ボーイハントは後だよ! 緊急事態だよ!?」

「なのは、違うよ! ほら、なんか……クラクションが! 車の音がー!」

「にゃにゃ!?」

『今、エルセア地方行きのハイウェイ八十四号線なんですけど……その』


端末のコンソールを叩(たた)いて、ティアナの状況を映し出す。

するとティアナの前後は……びっしり、車が詰まっていて。


『大渋滞なんです!』

「「えぇぇぇぇぇぇ!」」

『四十六号線のドンパチと、この先で起きた玉突き事故の影響で……ちょっと、にっちもさっちも』

「ちょ、どうして!? ボーイハントは!」

『その予定だったんですけど、私の母さんと、ティアの兄さんの墓参り……しておこうかって話になって。
それでちょっと寄り道しようとしたら…………ご覧の有様なんです!』

「そんなー! ほら、バイクならすり抜けができるよね! それで」

『……それをやろうとした馬鹿どもがすっころんだ結果、更にカオスなことになっているんです』

「完全に泥沼やな! えーっと、その位置やと」


慌ててGPSでチェック。結構かっ飛ばしていたのか、クラナガンから百キロ以上離れていた。……つまり。


『無事に降りて戻るとしても、二時間はかかると思います』

「アウトォォォォォォォォ!」

「うん、シャマルさんに行ってもらおうか! はやてちゃん、転送魔法の使用許可!」

「それしかないか……! ティアナ、その場でちょお待ってて! すぐ使用許可を取って、バイクごと回収するから!」

『すみません』

「えぇよ。遠慮なく利用してくれれば」

『空も飛べなくてすみません。凡人ですみません……!』


サラッと攻撃してきた…………あ、ちゃう! なんかめっちゃ涙声や! 情けなさで打ち震えとる!


『フェイトさんみたいに、飛んで駆けつけられなくて……ほんとすみません……!
物質透過魔法ですり抜けもできなくて、本当にすみません……!
すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません……』

「ティア、落ち着いて! 分かる! 気持ちは分かる! あれだけ大口叩いて渋滞ロスとか、泣きたくなる気持ちは分かる! でも今は落ち着いてぇ!」

『殺してやる……殺してやる……夜なら、夜だったら……なんとかなるのに……!』

「どんな勘定の上で殺意を持ったの!?」

『そうだよ! と、とにかく……救援お願いしますー! もうティアの精神が持たないー!』

「わ、分かった! ならあの、一旦側道によって……ね!? 止まって、待ってて! 必ずすぐ回収するから!」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


聖王教会、騎士カリムの執務室――部隊運営絡みでも話が必要だったのだが、そこは無事に終了。

やや緊張した空気を抜くかのように、出された紅茶を静かに頂く。


「それにしても、あなたの制服姿は珍しいですね。クロノ提督」

「いえいえ……制服が似合わないというのは、友人ばかりか妻からも言われていまして」

「そんな。いつもの防護服姿と同じく、凛々(りり)しくていらっしゃいますよ」

「ありがとうございます、騎士カリム」

「……ただ」


ただ……そう続け、騎士カリムは表情を曇らせる。


「申し訳ありません」

「と言いますと……ネクタイでも歪(ゆが)んでいますか?」

「そうではなくて、六課やはやて……隊長達への評価が、芳(かんば)しくない御様子なので。カバーもできず、あなた達を矢面に立たせてしまって」

「……それならご心配なく。ミスもありましたし、厳しく叱られただけですので」

「……恭文君一人に劣る部隊……そう言われたのにですか?」


笑って誤魔化(ごまか)そうとしたが、内容は全て知っているらしい。隠しても無駄だと、ついため息を漏らしてしまう。


「……我々六課が求められるのは、現状維持ではなく【現状打破】。ホテル・アグスタの際、それを成せませんでした」

「えぇ」

「六課本来の目的からすれば、それは勘違いとも言えるのですが……実働部隊として甘かったのも事実です。
特に問題視されたのが……母さんがヴェートル事件後、恭文やGPOから正当評価を奪いながら、自分はそれを成していると嘯いたことで」

「それに……闇の書事件の余波、ですね。今回守護騎士達が問題を起こしたことで、それに拍車をかけている」

「……正直、ショックでした」


母さんだって苦しんでいた。組織の都合との板挟みにされて……それを、同じ組織の人間が更に踏みにじるんだ。

余りに慈悲がなくて、本当に嘆かわしかった。しかも今のままでは六課の本懐を、想定通りに遂げることもできない。

せめて捜査関係を……フェイト達でも問題ないと、そういう後押しがあれば……!


「――失礼します」


そこで入ってきたのはシグナムとシスター・シャッハ。そうか、もうそんな時間だったか。


「あぁシグナム、合同捜査本部の方は」

「そちらは滞りなく」

「こちらは六課の運営面について、話をしているところだよ。
……妙な影もあったようだからな」

「はい……」

「しかしなんと無礼な……! 何でしたら私が六課へ赴き、非才の身ではありますがそのメリル一士に説法を」

「駄目よ、シャッハ。空気を読みなさい」

「騎士カリム!? いや、しかし」

「私達にはそれを通せるだけの力がないわ」


騎士カリムがこちらを見やるので、その通りと頷(うなず)く。

……無論シスター・シャッハの気持ちは嬉しい。六課でメリル一士がした発言は、余りに一方的だろう。問題発言と訴えてもいい。

…………だが、それを誤解として拭う手立てがない。ラプターの出現から、静かに……そして確実に、六課の行動領域は狭められている。


しかも実際にホテル・アグスタやら、海鳴の出張やらで問題点も出ているんだ。その改善もままならないなら……これは、仕方のないことだ。


「……では、今後我々はどのように動けば……ナカジマ三佐の通達もありますし」

「その辺りの話もこれからするところだったのよ。あなた達も同席、お願いね」

「「心得ました」」


そこで画面展開――これは機動六課の部隊章? しかもかけてきたのは。


「直接通信……はやてから?」


――第31話


できれば穏やかな話で終わってほしい……そう思ったが、長年培った勘が告げていた。これは、嵐の幕開けだと。


『機動六課の休日/PART2』


(第32話へ続く)








あとがき


恭文「というわけで、新キャラ登場。これくらいしないととある魔導師と古き鉄の戦いVer2016と差異が出せないのは内緒だぞ!?」

あむ「ねぇ、もしかしてトーレの枠が」


(どがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!)


恭文「さて、いよいよヴィヴィオ出現。果たして最後まで生き残れるか!」

あむ「さすがにそれは台なしじゃん! それより……恭文! 逆バニーの件、マジで説教だから!」

恭文「なんでだぁ! 僕は何一つしてないんだよ!」

あむ「スカサハ様達がやってたらしいじゃん! 噂流されてる時点で事実じゃん!」

恭文「理不尽かぁ! つーかそれならおのれのクール&スパイシーだって事実だろうが!」

あむ「がふ!」


(すっかりヒドインの真・魔法少女も、そんな頃があったのだった)


あむ「ヒドインって言うなー! げふ……げふぅ……」

恭文「…………あむ、病院に行こうか」

あむ「いきなり心配しすぎだし! というかアンタのせいじゃん!」

恭文「僕は何も悪くねぇ! 全部機動六課が悪いんだ!」

あむ「それも理不尽じゃん!」


(というわけで、長い一日はここからが本番です。
本日のED:AAA『Blood on Fire』)


あむ「でもどういうこと……!? アンタと戦い方が同じってことは、示現流!? ヘイハチさんの弟子って感じじゃなさそうだし!」

恭文「いや、あれは示現流ともまた違う………………タイ捨流だ!」

あむ「タイ捨流!? え、なにかなそれ!」

恭文「示現流の流祖が学んでいた剣術だよ! もっと言えば大まかなベース!
タイ捨流は実戦剣術として、斬撃以外に目つぶしや蹴りも交えて戦うのよ!
しかもその源流は柳生でお馴染みな新陰流! ドリフターズの妖怪首置いてけも使うアレだ!」

あむ「そんなのがあるんだ……!」

古鉄≪pixiv大百科によると、小説的にも剣戟でよくある間合いの読み合いとかではなく、アクションできるからよく使われるーみたいなことが書いてましたね≫

あむ「その説明はメタいし!」

恭文「タイ捨流に目を付けるとは……これまでの勉強が身を結んできたね、作者!」

あむ「そうじゃん! 新しい息吹ってやつだよね、これ!」

作者(………………どうしよう。タイ捨流の構えや動きがまだ把握できていないから、示現流ベースな我流っぽい感じに書いたとは言えない……言える空気じゃない!)


(おしまい)




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あきゅろす。
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