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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第23話 『その幻影を撃ち抜け』

くそ……召喚師の野郎、こっちにまでガジェットを飛ばしてきやがる!


だから眼前に次々と現れる、ガジェット達を振り払い、何とかホテルを目指していた。

だがいつどこでどうなるか分からず、自然と速度が緩む。


『シグナムさん、ヴィータ、ザフィーラさん、これから撃破するガジェットには気をつけて。というか、あんまり構わないで目的地に急いで』

『はぁ!?』

『恭文くん……いい加減にして! どうしてちゃんと仲間を信じられないの!? それに今のあなたは』

『シャマル。……どういうことだ、蒼凪』

『……ジュエルシード内蔵型がぶつけられます』


進行方向上にIII型を突然出されたら、その時点で激突事故……そういう状況もあり得た。


『僕ならこの状況でぶつけます。突出していて、AMC装備を備えていない三人に……』

『スバル達もいるのにか』

『サーチャーからの情報によると、奴らは泥棒がやりたいみたいですからね。
ホテル間近でロストロギア同士の共振反応を起こしたくないというのが一つ。
ここでしっかり傷を負わせ、連携を分断するというのが一つ。
……今のフォワード達なら、ジュエルシードなしでもひねり潰せるというのが一つ』


アッサリ言ってくれるぜ、コイツ! あぁ、分かっているよ。でも……だからこそ!


「だがよぉ、ジュエルシードがフル活用される可能性だってあるだろ!」

『その可能性は一割未満だね』

「理由は!」

『核爆発未遂事件……内調の水橋達も仕掛けるべき舞台≪日韓親善試合≫と犠牲者≪そこに訪れたたくさんの人達≫を選んでいた。
言ったらあれだけど、ここで仕掛けるくらいなら中央の方を狙うよ』

『確かに……ヴィータちゃん、ライズキーの使用を! これ以上はもう!』

”駄目だ! マジで使われるなら……対応させられねぇぞ!”


なのでリインには、念話でストップをかける。アイツらに聞かれても、面倒だからな……!

そう言っている間にもう一体。アイゼンを右薙に振るい、俵型なI型三体は容赦なく払う。


”アイツの戦局予測は……アテになるけどよぉ! だったら余計にアタシ達だけで対処するんだ!”

”……そうだな。これ以上は近づけないようにすれば、問題はあるまい”

”でも、こっちももう限界です!”

”だから……すぐ戻るっつてんだろうが!”


そこで会話を切り上げ、速度を上げ……というか、マジで急がないとヤベぇ。


『とにかく、こっちは私達だけで大丈夫だから! 恭文くんもすぐゴーレムを解除して! 中のことに集中しなさい!』

『もう黙ってろよ。シャマルさんが無能なのは分かったからさぁ』

『恭文くん、お願い……ゴーレムは必要ないから! 私がなんとかする! 約束するから!』


アイツもぶち切れ寸前で、どんどん口が悪くなっているしよ! とにかくアタシ達がすぐ戻ることだ!

そうすれば状況も回復するし…………というところで、III型が出現。


「この……」


咄嗟(とっさ)にアイゼンで唐竹一閃――。

しかしIII型は両脇から出したベルトアームを使い、器用に防御。


その間にI型八体がこちらへ密集。AMFに取り込まれると面倒なので、急上昇で何とかう回する。

それでもしつこくついてくるので。


「アイゼン!」

≪Raketen form≫


カートリッジを一発ロードし、ラケーテンフォルムに形状変換。

ハンマーヘッド後部は推進剤噴射口。

前部は鋭いスパイクとなる。


そのまま噴射される炎に従い、身を一回転――追撃するIII型へ反転。

更に飛びかかる熱線とI型も払いながら、頭頂部目がけて一撃をたたき込む。


「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇ!」


III型のボディを捉え、そのままアイゼンを振り抜いた瞬間――。


「…………!?」


突如として空間が軋(きし)む。

それはIII型の爆発によって拡大し、アタシとアイゼンは衝撃に打ちのめされ、一気に数百メートルを吹き飛ぶ。


…………岩肌に叩(たた)きつけられながら滑り、派手に転がっていく。

その間に奴らの周囲にいたI型達は、一気に数十機が派手な爆発を起こした。


「アイゼン……大丈夫、か」

≪中破……機体保護のため、形状変換中止≫


無事のようだが、ダメージは免れないらしい。ハンマーフォルムに戻っちまった。

アタシの方も、ジャケットのおかげで何とか……軋(きし)む体。頭から流れる血を払いながら、何とか立ち上がる。

くそ、これじゃあまた遅れる……てーか今のなんだ! アイゼンがひび割れるほどの爆発……いや。


≪今のは空間振動……それも≫

「次元震……!」

≪はい≫


空間振動。アイゼンが言った通りだった。

現に爆発地点から数百メートル――アタシの足下までの地面が、大きく抉(えぐ)れていた。

岩肌はバターのように削られ、加工されたようなもの。ほんとアタシ、よく生きてるな……おい!


だが、これだとアイツの予測通りに……クソ、ほんとなんなんだよ!

人一倍好き勝手はする! 金勘定には五月蠅い! そんな奴に手綱握られて、アタシ達に戦えってか!?


「…………分かってるよ…………!」


アイツはそれができる努力をしてきたんだって! じゃなっきゃタイミングよくゴーレムとか出せねぇよ!


「これは、アタシ達のミスだ。でも……だからこそ――――」


でもよ……それなら……それなら余計に……!




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヤスフミが走ってからすぐ、空間が大きく揺らぐ。

それも連続で……過去に、覚えのあるものだった。


「な……!」

≪Sir!≫


慌ててマジックカードを拾い、思念で発動。

蒼い魔力光に包まれながら、壁にもたれ掛かってしまう。

荒く息を吐き、必死に……バルディッシュのカートリッジも一発ロード。


魔力をブーストさせて、結界を維持する。大丈夫……大丈夫だから。


ヤスフミの狙いは分かる。オークションの出品物が、陸路中心で運ばれたのは説明している。

だから駐車場……まだ開始時間じゃないし、会場に運び込まれているかも微妙。もちろんそれ以外の出品物も、お話した通り。


そうして走らせる思考で、がりがり削られていく魔力の消費に耐え忍ぶ。


(そうだ、大丈夫……)


何度も大丈夫と唱(とな)える。ヤスフミはちゃんと仕事をしている。私は……信じられる。

そうじゃなかったら、ティアナ達のフォロー用にゴーレムまで用意していない。


……きっと、いっぱい準備するために、昨日も集中していたんだ。

発達障害の典型症状でね咄嗟の判断……臨機応変な対応が難しいっていうのがあるの。だから電話対応とかが大変とか。

信じられないよね。今のヤスフミを見ていたら……だからいっぱい……そういう不器用なところがある分、私達よりずっと時間をかけて、歩いて、調べて……頑張って……!


ようやく分かってきた。さっき、太田先生って人から教わった下りもそうだよ。

そういう“万が一”に備えるために、あの子はいっぱい……自分なりの努力を積みかさねていて。

なのに、それを私……ちゃんと知ろうともせず……だったら、動画配信のお仕事だって、同じくらい頑張っているはずなのに。


……今更でも、信じたいって思ったの。

この通りすがりのお仕事一つ通すために、そこまで頑張る……そんなあの子のことを、ちゃんと信じたいって。

だから敵もきっと入ってくる……今の状況は、突入に持ってこいだもの。


でも…………。


『がぁ!』

『ぐ……!』


シグナムとザフィーラの声が通信網で響き、激しいノイズが後追いしてくる。

通信回戦も安定性を失い始める中、疲労はどんどん積み重なって。


『そんな……!』

「シャーリー……状況、報告」

『ジュエルシードです! 副隊長達が撃墜したガジェットを中心に、小規模次元震が!
……なぎ君が予測した通り、副隊長達を止めてきました!』


やっぱり、かぁ。私となのはが戦ったとき、真正面から食らったのと同じ……それが、三個連続?


『アホどもが……! フェイト、結界は!』

「まだ、大丈夫……でも……!」

『マズいですね……AMFで強度も弱くなっていますし、これ以上は』


私は、大丈夫じゃないかも。結界には座標固定も必要だし、次元震の影響でそこが揺らいでる。

それでも必死に……バルディッシュを支えにして、力を維持し続ける。私には今、それしか…………ううん、まだ……まだ……!


『恭文、どうしよう! 指示……指示できる!? できれば具体的に!』

『……キャロ、取り付いているガジェットの排除……できるだけ迅速に!』

『だから待ちなさい! それは許可できないって言ったじゃない!』

『スバルとティアナは隠れながらでいいから、リボルバーシュートと射撃で威嚇! 舞衣姫は一番前に出て、避けた奴から潰していく!』

『恭文くん!』


それでヤスフミ、普通に指示できるんだ。ゴーレム越しに向こうの状況も見ているから?

ううん、それだけじゃない。物凄く手慣れている……一体どこで、こんな技能を。


『了解!』

『了解! でも射線に飛び込むんじゃないわよ! 加減できないんだから!』

『こちらも了解です!』

『スバル! キャロ!』


もうシャマルさんの声をガン無視している。それだけで分かる……スバルも、キャロ達も、同じように限界なんだ。


『……恭文さん、なら僕もキャロの方に……火線から外れたものなら、なんとか!』

『後ろに気をつけて、足を絶対に止めないこと! 全員そっちまでは手が回らない!』

『了解です!』

『みんな、指示に従って! 現場指揮官は私なの! 恭文くんじゃないから!
お願い……ヴィータちゃん達も、みんなを守るために頑張っているだけなの! だから!』

『………………だったら具体的に指示してくださいよ!
私達はどう持ちこたえればいいんですか!』


スバルの必死な声にも、シャマルさんは何も答えない……答えられない。

訓練通りにと言いたくても、まだここまで苛烈なことをしていないから……!


『…………サーチャーの方を確認したけど、例の妖精が場を離れた!
フェイト、いつ突入されるかも分からないから、マジで気合いを入れて!』

「うん……!」

『エリオ、キャロ、間接的にでもフェイトと連係プレイだ!』

『『頑張ります!』』


何かがひび割れていく……その音が怖い。でもそれに構っている暇も、私達にはなくて。

胸の奥に走る鋭い熱は、一旦なかったことにして……ひたすらに力を込め続ける。


脆くなった結界……今ならいつ、どう突入されてもおかしくない。だから、それがないように……必死に……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「クソが……!」


いろんないら立ちを抱えながらも、足に力を入れて飛び上がる……それで今度こそ、一直線に……アイツらのところに……!


「やべぇ……やべぇぞ、おい」


もう分かる……小規模と言えど次元震が連発したことで、空間が揺らいでやがる。

これじゃあ転送魔法は使えない……はずなのに、またガジェット達が現れてきた。


「おいおい、どうなってんだよ!」


慌てて走り出し、II型のミサイル乱舞を回避……背後で起こる爆発。

それに煽(あお)られながらも吹き飛び、不格好だが飛行再開。

吹き飛ばされた分を取り戻すため、必死に飛んでいく。


「まともじゃねぇぞ! 座標軸指定ができないだろ!」

≪高度な光学サポートを受けているかと≫

「向こうのロングアーチ≪スカリエッティ≫か!」


くそ……詠唱速度は平均的なのが救いか。

アイツの瞬間転送なら、飛行中のアタシ達を捉えるのも楽勝だ。

そうだ。こちらの移動速度と、向こうの詠唱・予測速度にはズレがある。


でもそれだってかなりギリギリ。だからこそ、足を止めるために嫌がらせしてるんだろうが。

ホテルの近くでジュエルシード機とか、そういうのはないはずだ。

奴らの目的がレリックなら、それと相互反応を起こし、爆発する手は取らないだろ。


だから、戻りさえすれば形勢逆転できる。むしろヤバいのは、今アタシ達が取り囲まれること。

キャロとみんなには悪いが、もう少しだけ我慢してもらう。本当にもう少しだけ……ちょっとだけでいい。


「シグナム、ザフィーラ! 絶対足を止めるな! 相手に引きずり込まれるぞ!」

『……あぁ!』

『承知、している!』

「スターズ02から、フォワードへ! もう一度言う……もう少しだけ時間をくれ!
全員シャマルの指示で防衛に徹しろ! いいか、現場を預かっているのはシャマルだ! それを忘れるな!」

『えぇ……えぇ! みんな、混乱しているのは分かるわ! でもちゃんと仲間を信じて!
それは恭文くんもよ! これ以上現場をかき乱さないで! ゴーレムもすぐに解除して、中のことに集中して!
それじゃあラプターも生かして捕らえられないじゃない! そんなのは間違っているの!』

『…………いい加減に頭を冷やせ!』


……………………シャマルの必死な声も、アタシの叫びも、アイツにとっては意味がなかった。


『残念ながらおのれらの気遣いがこの状況を読んだ! それは取り返せない!
つーか……取りかえそうとする時点で勝つことを諦めているんだよ!』

「なん、だとぉ……!」

『ミスはした! みんなも危険にさらしている! でもそれでいいじゃないのさ!
……大事なのは、その上でどうやって勝つかを考えることだ』

「アタシらが、本気で」

『だったらどうやって勝つか言えるはずだろうが!』


…………あぁ、ほんとそうだ……その通りだ。

どうやって守る。どうやって助ける。どうやってどうやって……それが全て……尽く否定されていく。当然だ。勝とうとすらしていなかったんだから。


……目の奥でも、胸の奥でも熱が走る。こんなに張り裂けるような思いをしたのは……久しぶりだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


念話通信で馬鹿どもを罵倒しつつストレス解消………………の振り。

通信傍受の可能性もあるからね。これで相手の思考を混乱させられれば御の字だ。

そうじゃないなら……まぁそんなことは知らない。僕の管轄外だ。


とにかく最短距離で、六課交戦位置の裏手に出られるのは、ここ――ホテル・アグスタの駐車場。


「アルト」

≪……次元震の影響、半端ないですね。空間(ここ)まで揺らいでいます≫

「でも最小限……運び込まれたロストロギアへの影響はない」

≪計算され尽くしていますね。……でも楽しんでいるでしょ≫

「どんどん敵の形が見えてきたしね」


非常階段から地下三階へと入り、予感に従い周囲を確認。

……両脇で車が横並びに停車する中、鋭い殺気を感知。というか、右から破砕音が聴こえた。


更に辺りを見やると、倒れている警備員数名……ち、やっぱりか。


”ヤ……ヤスフミ”


反射的に前へ跳んで、トイフェルライデゥングを翻しながらも転がり、振り返って殺気の位置を確認。

……黒い影がそこにいた。それは右腕から反り返った、一本爪を突き出し、地面を穿(うが)つ。

避けられたことに驚くような、そんな仕草でこちらを見る。でも、その視線はすぐ別の物に移る。


それは両手で構えられた、FN Five-seveNから放たれた弾丸。合計四発のそれが、奴に命中。

ただし、直撃は取れていない。全てが鋭く動かす右腕――その爪によって、たやすく弾(はじ)かれていた。


”侵入、された……敵がいる! 駐車場!”


黒い巨体は一メートル八十ほどで、四つの瞳に紫マフラー。

全体的に虫を思わせるフォルムで、背中には薄い羽根も見える。でもヒーローチックでもあった。

更にそいつは左手にあるものを抱えていた。それは黒いケースのような……だから術式詠唱。


奴が再び踏み込んで、右ストレート。突き出される爪を左スウェーで避けると、右バックブロー。

その間に、奴の左腕から黒いケースが消失。驚いた様子を浮かべ、その視線が一瞬腕に向く。

爪は下がって回避すると、『殴り飛ばした』ケースを左手でキャッチ。そのままアルトに収納する。


更にFN Five-seveNを仕舞(しま)い、P90を取り出し連射。分速900発・初速715m/sのバーストに襲われる。

……まぁ紫のバリアで全て防がれるんだけどね! でもこれで足は止ま……らない。

奴は弾丸をバリアで防ぎつつ、地面を蹴って突撃。更に周囲に魔力弾四つを生成・発射。


でも弾丸は生成した瞬間に撃墜され、奴は両脇で連続発生した爆発に飲まれる。

そうして勢いが下がったところで、右スウェーで突撃を回避。

背後を狙い、更に射撃――またもオートバリアで防がれるのも構わず、そのまま牽制(けんせい)を続ける。


”うん、知ってた”

”え!? ……う、うん! アルトアイゼンからデータが届いた!
でもこれ……人型!? サーチャーの映像には出てなかったよね!”

”そして僕の友達でもない。……死体だけでも証拠になるよね”

”容赦なし!?”

”倒れた警備員さん達もいる。早めに状態を確かめないと……”

”ヤスフミ……”


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……ヤスフミがまた……と思っていたら、ちゃんと理由があった。

倒れた警備員さん達……きっと、その人達の容体を心配している。手傷を負わされているだけならまだいいけど、もっと深い怪我だったらって。

だから迷わない。優先順位を……手を伸ばす順番をきっちり決めて、やり通す。


トリアージ……命のタグ。救助活動でもそうだけど、武装局員の現場では常に必要な判断力だ。

私はその辺り、クロノからもだめ出しされるくらい苦手だった。みんな助けたい……助けられたらって考えて、甘さで判断ミスをするって。


――きちんと手が伸びる範囲を、できる仕事の物量を、それをこなす速度を考えてタグ付けするんだ。
……そういう判断を冷徹にできなければ、プロとは言えないな――


そんなクロノの言葉が、今更胸に突き刺さっている。ヤスフミはちゃんとそれを見極め、行動しているから。

この間もそうだった。対人戦に慣れている自分なら、ロストロギアを含めても大丈夫だって。

今回フルバックに徹しているのだって、その方が”より多く手を伸ばせるから”で……。


私、ちゃんと……ヤスフミのこと、信じてあげたことがあるのかな。

信じてほしい、信じられたいと思うばかりで……ちゃんと、信じて……認めたこと、あるのかな。

もしないなら、私は…………あれ、待って。


そう言えばヤスフミ、並列処理は苦手なんだよね。だから多弾生成や術式の同時制御もできないし……だったら、今って……!


”あ、あの……魔法を使って戦えるの!? 変身して、アルトアイゼン達もサポートしているなら”

”無理”


すると、とてもアッサリとした返しが飛んで来て……背筋が凍り付く。


”リミッターをかけているせいもあるけど、並列処理は苦手だからねぇ”

”そんな……というか、リミッターあのままだったの!?”

”いい修行になるから”

”馬鹿なの!?”


そうか、だから……だからなんだ! シャマルさん、ヤスフミには中のことに集中をーって散々言っていたの、このせいなんだ! かけた張本人だから!

それにゴーレムを崩せとも言っていたよね! この状況で! ああああああ……だったら、相当無茶してるよぉ!


幾ら何でも、魔法なしで召喚獣とだなんて! 召喚師のブーストだってあるだろうし。


”でも大丈夫”


だけどヤスフミは、なんの問題もないと……鋭く言い放つ。


"なんのためにリインを引っ張ったと思っているのよ"

”ぁ……!”


そうか、そうだよね。結界の作戦を言い出したのもヤスフミだし、これが突発的トラブルであるはずがない。

だからそれに対応できるように、援護力も高くて、連携も取りやすいリインを……!


”なにより…………魔法なしでの殺し合いは、むしろ専門だ”

「――!?」


あは、あははははあはは……………………あの、ヤスフミ? なんか、火が付いているというかー。

というか、怖いよ! なんか念話越しでもゾッとしたし!


第23話


な、なにか……凄いことにならなければいいんだけどー!


『その幻影を撃ち抜け』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


魔法なしで喧嘩かぁ。うん、大丈夫……それは実に普通のことだ。

その気構えも、準備も、ウンザリするくらい仕掛けてきた。これくらいなら軽く切り抜けてやる。


「……アルト、舞衣姫の動作パターンはC-6から9で対応。ジガンもサポートと近距離対応は任せた」

≪了解です≫

≪なのなのなのー!≫

「……さて」


一呼吸で飛びかかってきた虫野郎。その右爪をスウェーで避けつつ、左腕で脇に逸らす。

そこに腕力はいらない。ただ力の流れを読み、それを流してやるだけでいい。

脇を人外の速度が突き抜ける中、添えるように右掌底。虫野郎の顔面を撃ち抜き、突撃を停止させる。


『――!?』


そのまま懐へ入り、股間を右蹴り上げで強打。

鉄板入りのつま先をめり込むくらいに打ち上げた上で、反撃の左フックに対処。


「……よっと!」


左腕の外側を掴み、捻りあげながら胴体をがら空きとして……足をかけながら左掌底!

右足による引っかけで虫野郎は踏ん張ることができず、そのままコンクリの地面に頭から打ち付けられる!


よろめきながらも直ぐさま身を反転させ、虫野郎は起き上がりながら右爪で刺突。

両腕をクロスさせ、これも力の流れを意識して脇に逸らし……そのままみぞおちへ左エルボー。

動きが止まったところで側頭部を殴り、頭を下げた上で右掌打――顎を跳ね上げて、胴体を蹴り飛ばす。


虫野郎は吹き飛びながらも反転。素早く魔力弾を……海鳴で見たものと同型のものを四発生成し、打ち出そうとする。

でもその前にFN Five-seveNを抜き出し、構えながら発砲。放たれた四発の弾丸は、正確に魔力弾を撃ち抜き、爆散させる。


その爆発が虫野郎を包んだところで、十一時方向へ転がり、瞬間的な刺突を回避。

虫野郎はそのまま地面を蹴り、壁を蹴り……周囲を次々と跳躍。

こちらをかき乱そうとするけど、ちょーっと甘い。美由希さんや恭也さん達に比べたら、素人レベルの動きだった。


「……あのさぁ……」


だから捉えられる。床を蹴り砕く破裂音や、風の流れには惑わされない。

攻撃に映るその一瞬……殺気が鋭くなる瞬間を捉えればいい。


……誘うようにFN Five-seveNをしまった瞬間、”それ”は訪れた。それも分かりやすく背後からだ。

うんうん、そうじゃなくちゃ……わざわざ誘った意味がない。あんまりコイツに構ってもいられないしね。


「……!」


故に背後からの跳び蹴りを、時計回りに回転しながらすり抜ける。

奴の足が床を撃ち抜き、砕いたところで……左指に魔力を纏わせ、のど元を握って引き寄せる。

大きな術式運用はフェイトに言った通りできない。でも、魔力を纏わせ、凶器とすることはできる。


「まさかそれで、攻撃のつもりなの?」

「――――――!?」


喉仏に指を突き立て潰した上で、今度は右手に魔力を纏わせながら、虫野郎の右側に回り込み……胸元に掌打。

クレイモアの要領で魔力を爆発させながら、奴をコンクリの地面に打ち付ける。

そうして奴が転がったところで、右足でスタンプキック。顔面を踏みつけ、後頭部もおまけに打ち付けておく。


奴は後頭部からも紫の血を流しながら、転がり……必死に起き上がって、こちらを睨み付けてくる。


≪あ、主様……アイツ、召喚師にブーストされているの! それで大丈夫なの!?≫

「得意フィールドだもの」


路上喧嘩で、実地で勉強したことだ。地面は身近にある最大の凶器。

硬いコンクリに、受け身もなしで打ち付けられる。それだけでも相当なダメージが身体に加わる。もちろん頭なんて強打しようものならお陀仏だ。

そこに加えて、戦い始めるようになってから各種戦闘術も教わった。魔法に頼らず、こういう奴らとの相手もできるようにね。


……特にテロリスト相手は屋内戦も多くなる。CQCのような近接戦闘技術は必須だった。

だからこの程度じゃあ相手にならない。僕をこの領域で殺したかったら、恭也さん達クラスを連れてくることだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


通信画面ごしにヤスフミの様子を見ているけど……えっと、召喚獣は強化も使っているよね。

それで相手にならないってどういうことなの? 真っ向から殴り合っているのに……あの、柔道なのかな。

こう、投げたりすることが多いし、それでやり過ごしている感じなんだけど。


でも、それで召喚獣もよろめいている。つまり……それだけ威力があるってことなの?

でも、地面に投げられているだけなのに……確かに痛いだろうけど、それだけでなんて。


(……これも、魔法に頼らない戦闘技術に精通しているから?)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


召喚獣はさすがにしぶといけど、それでも動きは大分鈍っている。

そりゃそうだ。脳も揺れているし、それが回復するのにも幾分かかる。あとはそこまでに攻められるか。


……飛び込みながらの右ストレートを伏せて避け、腕を取った上で一本背負い。

容赦なく地面に叩きつけた上で、更に腕を捻り上げ……振り回しながら、近くの柱目がけてぶつける。

正面衝突したところで、後頭部目がけて掌打。今度は奴の顔面がコンクリの破片に塗れ、血を流す。


「――――――」


苦し紛れに腕を振るってくるので、逆らわずに解放。奴が振り向き触手を鋭く展開。

こちらも後ろに飛びながら再びFN Five-seveNを取りだし連射――その触手八本を撃ち抜いた上で、胴体部にも数発叩き込む。

ただこちらは魔力フィールドで全て防がれたけど……そこが狙い目。


FN Five-seveNを仕舞い、新しい銃器を取り出す。

……そのフォルムは、余りにシンプルだった。

木造のストック、中折れ式の金属製バレル・トリガー。

全長は四四四ミリメートル、重量一七〇〇。弾の装填・排莢すらも、手で行う方式。


奴がまだ、オートバリアを展開しているところを狙って……。


「――――」


その銃を右手で構え、撃鉄――そしてトリガーを引く。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


サンプルH-1は、質量兵器を持ってガリューと相対していた。

その姿には怒りしかこみ上げてこない。


「ふざけてやがる……! 魔導師のくせに、本気で銃を使うのかよ!」


あんなの、アングラにいる犯罪者orニア犯罪者な奴らと同じじゃねぇか!


「しかも変な……ぶん投げる小手先の技まで使いやがって!
……だがそんなもん、通用しねぇ!」


ガリューはルールーが、お母さんから受け継いだ召喚獣!

ガリューだって、お母さんを目覚めさせるために、本気で頑張ってきたんだ!

その志の前じゃあ、お前みたいな邪道魔導師はゴミ同然よぉ!


「ガリュー、全力でやっちまえ!」


影から応援しつつ見守っていると、奴は新しい銃を取り出す。

へ、そのへんてこ銃が通用しないから……か? 馬鹿らしい。

アタシだって知ってるぜ。拳銃ってのより、機関銃の方が強いんだろ。


撃てる弾の数も多いし、威力だってある。なのに今更……。


だがその銃は、まるで大砲みたいな音を出す。


硝煙は霧のように立ちこめ、衝撃も空間一杯に広がりながら、弾が飛んだ。

それは展開し、機関銃の弾を弾(はじ)いていた、ガリューのバリアをアッサリ貫通。その右胸を貫き、突撃を停止させた。


いや、貫いたんじゃない……あれは、粉砕だ。

弾丸が命中した途端、その威力で肉が外殻ごと弾(はじ)け飛んだ。


「な……!」


ガリューの胸には、ぽっかりと空(あ)いた……十五センチはある穴。

更に奴はの銃を仕舞(しま)い、そんなガリューへ踏み込む。しかもその手には、あの小手から取り出されたダガー。

ガリューは咄嗟(とっさ)に飛び上がり、放たれた右薙の斬撃を回避。


でもその速度は、見る影もないほど劣っている。間違いなく、あの銃弾を受けたせいだ。


……振り返りながら奴から離れている間に、アイツはダガーを左手に持ったまま、銃を取り出し連射。

ガリューはバリアでそれを防ぐが……苦しげに呻き、膝をついちまう。


「……何だよ、アレ」


戦慄するしかなかった……。


「拳銃の弾だぞ……今のがもし、頭に命中していたら……!」


アイツ、ガリューを殺すつもりだ……! なんの迷いも見せず! なんの対話も試みることなく!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今撃った銃は、トンプソン・G2コンテンダー。四十年以上前に開発された、狩猟用シングルショットピストルの後継機だよ。

ただしその威力は、拳銃の領域を遥(はる)かに超えている。この銃が主に使うのは、弾速も高く高威力なライフル弾。

更に銃身と銃床の交換だけで、多種多様の弾に対応可能。


僕が使うのもカスタマイズした結果、30-06スプリングフィールド弾という大口径の弾丸を使用可能としている。

……まぁその分反動制御はお察しだけど。今のだって、頭を狙ったのに外しているし。


でも利用方法は多い。今のはオートバリアの強度を、FN Five-seveNの射撃で固定化させた上での不意打ち。

スプリングフィールド弾は、その大きさ・威力ともに、FN Five-seveNの使用弾薬より遥かに強力。

あれが本気の防御なら防げただろうけど、銃器だって舐めた上じゃあ無理だ。


それにシンプルな銃器だからこそ、『魔法具』としての利用方法も多いのよ。それじゃあ。


≪The music today is ”さぁ、実験を始めようか”≫


アルトが流した、大音量の音楽――音は反響しまくり、虫が一瞬顔をしかめる。でも僕はテンションマックス。


「…………」


……奴は不利を悟ったのか、立ち上がりながら踵(きびす)を返す。そのまま走り、昇降口へ向かう。

それは許さないと僕も走り、近くの車を蹴り上がりながら壁に飛んで……それを足場にしながら少し走り、更に跳躍。

そのまま左手のダガーを投てきすると、奴はギリギリでそれを見切り、急停止して回避。


昇降口から離れてもらったところで先回りして着地して、ジャケットの裏側から小太刀を取りだし、抜刀。


”リイン、出番だ”

”姿は隠しておいてくださいね”

”はいです!”


順手持ちにした右の小太刀で、踏み込みながら唐竹一閃。

ダークヒーローもどきは左に転がり、血を流しながらも斬撃回避。

逃げられないと悟ったのか、呻(うめ)きながらも右爪を振るう。


素早くそれを下に避け、スライディング――どこからともなく飛んで来た氷の短剣とすれ違う。

ダークヒーローもどきは八本の短剣をそれぞれ背中に受け、その甲殻がひび割れる。

それでも止まることなく振り返ってくるので、その鈍くなった腕を取り、一気に肘を決める……肩口ごと捻(ひね)る。


胸元に空(あ)いた穴……その傷口がねじれ、肉体を構成する繊維の一本一本が引きちぎられる。

いや、その傷口には、損傷を制止するように力が注ぎ込まれていた。


ふむ……相当優秀な召喚師らしいね。まぁ甘いけど。


「――――」


奴が痛みに耐えかね叫んだところで、そのまま一本背負い。当然……相手の肘で自分の刀を挟み、引き切りつつだ。

アルトと同じレアメタル製の刃は、鋭く肉を、血を、骨を断ちきり、肘から下とお別れしてもらう。


「御神流……枝葉落としもどき」


悪いねぇ……御神流の歩法や技は、恭也さんや美由希さんとの研修中に幾つか盗ませてもらったのよ。


「――――――!」


奴は投げられた勢いでそのまま是中から地面に叩きつけられ、四つの目を見開き悲鳴……。

リインが突き立てた短剣≪フリジットダガー≫も深く肉へ食い込み、臓器を貫く。

そのまま首を……いや、無理か。すぐさま後ろへ跳んで、左手で飛針を取りだし四本連射。


奴がノーモーションで生成・発射された、同じ数の誘導弾を撃ち抜き爆散させる。


「……!?」


それ故に……射出したシュヴァンツブレードに腹を射貫かれ、今度は胃と肋を同時に潰される。

そう、魔法は使えない……でもイメージインターフェースで動くシュヴァンツブレードなら……!


「肝に銘じておくんだね、召喚師」

「――――――――――!」

「お前も、お前の召喚獣も……生かしておく理由がない」


奴がシュヴァンツブレードを払い、起き上がり逃げようとするので……地面を踏み砕きながら先回り。

僕を払おうとする左腕に対し、伏せて避けながら……小太刀で袈裟一閃。

引き切りにより腕の肘から下を再び両断。そのまま交差し得物を奪ってから、小太刀を一旦上へと放り投げる。


すぐさま腹を蹴り飛ばし、またまた飛んで来た短剣にぶつける。

今度の短剣は次々と衝突しながらも破裂し、魔力ダメージを与えつつ、周囲に冷気を漂わせる。

それに奴が戸惑った顔をしたところで、側頭部を掴み、壁に叩きつける……何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……。


眼球が潰れようと、顔面が砕けようと、構わずに十数度叩きつけ、壁の一部が紫に染まるまで…………。


「………………」


それでも背中から触手が飛び出しかけていたので、手を離し、倒れかけた奴の首目がけて右ハイキック。


「――!?」


首がイビツに曲がり、また倒れかけたところで左手刀……からのサミング。奴の左目二つを爪で抉り潰し、視界を完全に奪う。

そのまま強引に左手を振るい、地面になぎ倒す。そうして後頭部を地面へと全力で叩きつける。


奴の脳が再び衝撃と痛みで混濁したところで、指を引き抜き……もう一度首目がけてスタンプキック。


人型である以上、基本の弱点も人間と同じ。故に奴は頭蓋を更に打ち付けられ、痛みと混乱のままに意識が混濁する。

その隙を塗って左指を引き抜き、落ちてきた小太刀を取り……奴の胸に突き立てる。


「……………………………………! ……。…………………………」


…………虫野郎はそこで、ようやくその動きを止めた。

いや、まだぴくぴく震えているけどねぇ。だからFN Five-seveNを取りだし、カートリッジ変更……追撃で八発の弾丸を身体に叩き込む。


にしても……。


≪こ、殺してないの……?≫

「術者から肉体強化の魔法がかけられてるね」

≪元気ですねぇ。大穴が空(あ)いているって言うのに≫


さっき腕を捻(ひね)ったとき、気づいたよ。傷口にまた別の魔力が発生して、それを糧に高速再生が始まっていた。

あとは威力ゆえに、弾頭も貫通しているしね。その結果、逆にダメージも抑えられているんだよ。


「でも無駄だ」

――凍てつく足枷≪フリーレンフェッセルン≫――


空色のベルカ式魔法陣が展開。それがダークヒーローもどきの真下で回転……周囲の水分を操作・瞬間凍結。

凍結させるための水分や冷気をダガー射出で補っていたので、瞬く間にその身体は凍結拘束される。もちろん強度も申し分ない。


「こいつはおまけだ」


懐からもマジックカード数枚を取りだし、離れながら投てき。その周囲にばら撒かれたカードから、空間を揺らすエフェクトが発生。

カードに閉じ込めていたのは……実はAMF。一個だけならともかく、局所的に連鎖発生したことで濃度が急上昇。


結果ダークヒーローもどきは氷漬けとなったまま、術者からのサポートを断ち切られ、完全に力を失った。自力での脱出も不可能だよ。

なお、リインの氷はこれじゃあ消えない。魔法で既に発生している、自然効果だからね。


「しっかし……水橋達って今更だけど、根性だけはあったんだねぇ」

≪言えてますね≫


そう、脆すぎる。

オーギュスト・クロエが見せた、脆(もろ)くもしがみつくような儚(はかな)き速度もない。

水橋や柘植行人が見せたような行動力も……それに伴う意志もない。


コイツのはただ速く、ただ鋭いだけの俊足にすぎない――。だったら潰せて当然だ。

僕が目指すのは、もっともっと高い極みなんだから。


≪それについては……≫

「うん」


いろんな感傷はさっと振り払い、倒れている人達の状態確認と、向こうの状況に集中。これで転送魔法による回収もできなくなったしね。

………………ひとまずは。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


もう少し、もう少し……それが何時なのかも分からず、爆撃の中逃げ惑っていた。

そんな中、また響く『もう少し』。それで頭の中が、どんどん沸騰してきて。


「……副隊長、まだですか! もう私達……がぁ!」


スバルが左肩に熱線を食らう。

それでもマッハキャリバーで必死に退避……何とか追撃を逃れ、新しい木に隠れる。


そのカバーに入った舞衣姫が、髪で迫ってきたラプターを袈裟一閃――胴体部を容易く両断する。

でも、そうして囲み突撃する四体のラプター。舞衣姫は回避できずに、ストライクカノンによって串刺しにされる。


「スバル!」

「恭文さん!」

「大丈夫……なのはさんが守ってくれた。なのはさん由来のバリアジャケットが」


そのヤンデレアイズはやめて! アンタ、いちいち愛が重いのよ! というか状況を分かってない!


「そうだ、私達にはなのはさん達がついてる。ここにはいなくても……だから!」

「落ち着け馬鹿! 飛び出そうとするなぁ!」


ヤバい、スバルの馬鹿も錯乱気味だ! いや、そういうことにしておこう! これがデフォだなんて信じたくない!


『こっちは問題ない』


あぁ、そっちはゴーレムだし……って、そういう問題じゃなかった。


『ジガン』

『あ……近接対応、開始なの!』


舞衣姫は和服を鋭い杭に変換。そのまま奴らに突き立て、吹き飛ばし……ハリネズミのような格好に変形した。

ラプター達は地面を転がりながら次々爆散。杭を出した当人は、あっという間に元の姿になる。


…………って、なんでコイツのゴーレムはいちいちエグいことをしていくのよ!


『ギリギリでコアは避けられた。……それに召喚獣も取り押さえたよ』

「マジ!?」

『マジマジ。コイツ、水橋より根性なしだったもの』


核爆発未遂事件の犯人と比べるって、どういう基準よ! ソイツは魔法能力者だったの!?


「じゃあ救援とかは」

『まだ無理だ。例の妖精が近くにいるだろうし、コイツにやられた負傷者もいる』

「時間稼ぎは継続か……!」

『――――くそ……どけよ! 邪魔すんじゃねぇ!』

『ザフィーラ、大丈夫か!』

『問題ない……!』


通信網も大混乱。副隊長達の怒声が絶え間なく響いてくる。

てーか、どうするのよ。シャマルさんもコイツが怒鳴りつけてから静かだし……しかもラプター達は、舞衣姫から距離を取り始めた。

そうして下がりつつ速射砲を連射。舞衣姫もスラロームで滑るようにすり抜け、髪を翻す。


伸びた髪に着弾した砲撃……爆発によって、髪が途中からちぎれる。

でも舞衣姫はバク転……自分目がけて飛んできた砲撃を避け、着地した途端に地面を砕き、取り込む。

そうして砕け、ちぎれ飛んだ髪を再生させる。


……コイツにゴーレムを使わせるの、かなりヤバいことだと思った瞬間だった。


「どうしよう! 離れて狙い撃ちにするつもりだよ!」

『ヴィータ! 予想到着時刻! できるだけ詳しく正確に!』

『あと五分……!』

『仕方ない……舞衣姫、フォルムチェンジ! クーガーで行く!』

「へ?」


すると舞衣姫は大きく跳躍……一気に虚空でその姿を変化させる。

それは背中のジョイント越しに、二本の大砲を備えた……大型の狼で……!


『…………レールカートリッジ、ディスチャージャースモークセット』


そして、狼の砲門に火花が走る。

いや、それは両足に備えられた三門の砲門も同じくだった。


というか、ちょっと待って……遠隔操作で細かい弾頭の製造・セッティングまでやっているの!? もはやゴーレム操作の領域を超えているじゃない!


『ファイア!』


耳をつんざく砲声が火花とともに走り、木々すら引き裂きながら一直線に飛ぶ。

もちろん斜線上にいたガジェット十数体と、ラプター三体を潰し、吹き飛ばしつつ……!


「……って、何よそれ!」

『戦闘形態を変化させたのよ』


そしてクーガーとやらは右にダッシュ。

そのままジグザグに走り、残っていたラプターの砲撃をすれすれで回避。


『スモーク投射』


そして右足の砲門から、砲弾二発が軽い音とともに飛び出し、煙幕を辺りに展開。

ラプターもそれに包まれ動きが止まる中……奴だけは、鋭く眼光を滾らせて。


『ウィングブレード!』


狼がラプターの脇を飛び越えたと思ったら、畳まれていたらしい翼を……鋭い刃を展開。

それが超振動を起こしながらラプターの腹を捕らえ、そのまま両断……機械の血肉が、血管がちぎれ飛ぶ中、クーガーは鋭く反転しながら着地する。


そうして十時・二時・三時・九時・八時・十二時と煙の中を飛び交い、ガジェットとラプターを次々闇討ちしていく……!


『近接機動戦闘用の舞衣姫(まいひめ)。砲撃戦闘用のクーガー……あ、今のはレールキャノンね?』

「危なっかしいもんをゴーレムごしにぶっ放すんじゃないわよ!」


…………あああ……言っている間になんかまた、火花を走らせて…………ズドンって音が響くー!

というかコイツ、なんでこう自由なのよ! もっと違う突きつめ方はなかったわけ!?


『でもさぁ、ぶっ放すしかないと思うよ? ……キャロ、ガジェットの転送排除は』

『エリオ君のおかげで、拮抗はしています! だけどちょっと油断したら……!』

「そりゃあそうか! …………副隊長、いつまで待っていればいいんですか!?」

『もう少しっつっただろうが!』

「時間を示してくださいよ! それくらいできるでしょ!?」

『………………うるせぇ! いいから上司の命令くらいちゃんと聞きやがれ!』


その言いぐさがあんまりで……………………糸が切れてしまった。


「………………今、なんつったのよ」

『あ!?』

「もう一度言いなさいよ……ぶっ殺してあげるから!」

『――――!?』


――そうして思い出すのは、その上司に見捨てられた人。

死んだ後ですら、誹謗(ひぼう)中傷をぶつけられたあの人。

信頼していたのに……反論すらできない状況で、その最後の仕事すら貶(おとし)められた。


あの……殺してやりたいほど憎んだ奴と、ヴィータ副隊長の顔が被って。


「もういい……コイツの言う通りだって、よく分かった」


放たれる光弾……それに対し魔力弾で牽制(けんせい)すると、その十倍もの攻撃が跳ね返ってくる。

エリオも、キャロも一旦動きが止まり、それをカバーするクーガーも木々にかくれる。スバルも飛び出せない状況。


頬や腕に熱線が掠(かす)める中、感情のままに叫んで鼓舞。


「平気な顔して嘘を吐いたり、逃げたり……見捨てたりする奴が、仲間であるはずがないのよ……!」

『おい、ティアナ……何言ってんだよ! 落ち着けよ! すぐ行くって言ってるだろうが!』

「人を初っぱなから猟犬扱いしているくせに、今声をかけてくれるアイツの方が……よっぽど仲間よ。
ほんと、最悪……アンタ達みたいなクズな上司にだけは会わないようにって、注意して生きていたのにね!」

『……ティアナァ!』


ううん、一番励ましたいのは自分自身なのかも。

まだ夢の途中……まだ、死ぬわけにはいかない。

こんなところで止まるわけにはいかない。


それでこの子達や民間人を見殺しにするのも、絶対に嫌だ。

全部の重圧がのしかかって……滅茶苦茶ににのしかかって。

それでも、押しつぶされまいと必死に叫ぶ。もう、それしかできなかった。


『シグナム、ヴィータ、ここは我が引き受ける! 先に行け!』


喧嘩(けんか)しても意味がないのに……叫ぶしかなかった。

敵の悪意は……ううん、殺意は衝突している間も、降り注ぎ続けているのに。


『……ティアナ、蒼凪、お前達の言う通りだ……だから落ち着け。あと少しだけでいい、我らに時間をくれ』

「もう知らない」

『ティアナ!』


もう駄目だ、隊長達はアテにならない。


どうする、どうする。エリオとスバルでかく乱しつつ攻撃……却下。

副隊長達でさえ、操作されたガジェットには手を焼いている。

二人だけを……ゴーレムだけを突撃させても、普通のコンビネーションでは対処しきれない。


なら副隊長達を待つ……やっぱり却下。

ラプターだけじゃない。ガジェット達の数もまた十、二十と増えている。

じゃあ……もう、やるしかない。


このままじゃスバルも、エリオも、キャロも……もちろんシャマルさん達だって危ない。

かなりの無茶(むちゃ)になる。きっと後で怒られる……でも、その無茶(むちゃ)で道が切り開けるなら……!


「というわけでティアナ・ランスター……今から独断行動に出ます!」

『ティアナ!? 待って、何をするつもりなの!』

『おいやめろ! アイゼン、カートリッジフルロード! 全部速度に回せ!』


射線の中、スバルと目を合わせる。スバルはそれだけで全てを察し、真剣な顔でしっかり頷(うなず)いてくれた。


「エリオ、キャロ、センターに下がって! 私とスバルのツートップでいく!
アンタもそれで、二人のガードをお願い!」

「「……はい!」」

『……おのれ、何をするつもりよ』

「……コイツ、悪魔なのよね」


動きもしない……開きもしないキーを掴んで、強引に引っ張る……引っ張り続ける……!


「…………って、ティア!?」

『おのれ、まさか……』

「契約してやるわよ……対価なら幾らでも払ってやるわよ! だからよこしなさい、全部……アンタの全てを!」


腹立たしい……全てが腹立たしい。

結局アテにできなかった上司も。

何だかんだ言いながら、甘ったるいアイツのことも。


それに頼るしかない自分のことも。


なにより……背中を預け合ったのに、それすら嘘になりそうなことも。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『ティアナ……待って! 落ち着いて! さすがにそれは無理だよ!』

「いいから開け……開け……開け…………」


怒りよ……力になれ。

奇麗事なんて貫けなくていい。手を汚す覚悟も、無理矢理にでも飲み込んでやる。


だから…………アイツ一人に! この場にはいないアイツ一人に頼って生き残るなんていう……情けない格好だけは、させないでよ!

私は……私はこの手で! 一緒に戦う仲間くらいは守れるように……強くなりたいのよ!


「開けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


込め続ける力。

一歩間違えれば、キーを砕きかねない激情。


でも、それでも…………悪魔はほほ笑んでくれた。

確かに……火花を走らせながら、頑なだった鍵が開いて……。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


両手を広げながら、力任せにキーが開く。

その瞬間、衝撃を背中に受けて吹き飛ぶも……すぐに……地面を転がりながら起き上がる。

派手に木を砕き、人を撃ってくれたガジェットとラプター達を睨み……背中と頭から血を流しながら……キーをしっかり握る。


「ティア……!?」

『ゴリラだ……!』


キーのスイッチをプッシュ。


≪シューティング!≫


そのまま……ショットライザーをセットアップ。銃身後部からキーを差し込んだ。


『ゴリライズだ!』

≪オープンライズ!≫


もう開いてるけどね……! とにかくクロスミラージュを左手に持ち替え、右手でライザーを取りだし……熱線が飛び交う中、奴らに銃口を向ける。


≪Standby Ready――Standby Ready――Standby Ready――Standby Ready――Standby Ready――Standby Ready――≫

「……できてるわよ」


小うるさい待機音を黙らせるため、トリガーを引く。


≪ショットライズ!≫


放たれるのは変革の弾丸――。

それは迫るガジェット達を弾き飛ばし、こちらに反転。そのままクロスミラージュで袈裟に払いのける!


≪オセシューティング!≫


分解された弾丸は、金属装甲も含んだコートに早変わり……私の身体に装着される。

更にクロスミラージュのカートリッジが腰には大量設置。左目には射撃補正用のモノクルも装備。


――What penetrates you now is not a phantom――
(特別意訳:今お前を貫くものは、幻ではない)


えぇ、そうよ。幻なんかじゃない。

私は賭けに勝った。少なくとも……これくらいの無茶は通せる。それだけの力は示せるってことよ。


「――スバル、クロスシフトA! ただし二十……ううん、カウント開始後五秒で全速離脱!」

「え……わ、分かった!」


スバルはシールドを展開し、熱戦を防ぎつつ前に出る。ただし蜂の巣にならないよう、大きくう回しつつの動き。


”いいわね、絶対に……退避時間は守って! それで絶対に踏み込みすぎない!”

”え”

”復唱!”

”退避時間は守る! 踏み込みすぎない! 了解しました!”


ウイングロードも絡め、空を走り始めたスバルにガジェット達の三分の一が引きつけられる。……大きく深呼吸し。


「クロスミラージュ、カートリッジフルロード!」


スバルのおかげで攻撃の手が緩まったので、反時計回りに一回転。銃口を向け、魔力弾丸を大量生成。

十、二十、三十……どんどん数を増やすヴァリアブルシュート達。これなら、AMFでもちゃんと届いてくれる。

その代わり限界を軽く超えたカートリッジロードに、体の奥で熱にも似た痛みが生まれ…………ない。


そうだ、悪魔のおかげだ。きちんと制御はできる……でも、ハッタリ込みでちょっとだけ仕掛けを施して……!


”スバル、軽く驚かせるかもしれないけど”

”信じるよ、ティアのこと! ううん……信じてるから!”

”……馬鹿”


その返答に感謝しながら、二つの銃口を奴らに向ける。

贅沢は言わない。十秒……十秒だけでいい。謙虚に予定より減らした、ほんの一瞬でいい。


『ティアナ、やめて! 今のティアナじゃ四発ロードなんて……それじゃあ制御しきれるわけがない!』

「それが狙いです」

『え……!?』


副隊長達もこない、隊長達も出られない。

それ以前の問題として、私達だけじゃコイツらを足止めすらできない。

それで諦めて、このままなぶり殺しにされていろと?


そんなの、ごめんよ……!


「さぁ……」


クロスミラージュを振り上げ、バツの字に交差させながら一気にトリガーを引く。


「狙い撃つわよ!」


荒ぶる制御魔力とプログラム、限界を超えた演算処理――でもその限界は、オセシューティングのおかげで伸びている。

だから確信を持って、弾丸を次々放つことができた。


一世一代というには、余りに無謀な賭け。

それでも……それでも仲間を守りたいから、中にいる人達を守りたいから、全力で打って出た。


≪Count――Start≫


クロスミラージュにスバルへの通信を任せ、ひたすらにトリガーを引く。

いつもより荒っぽい弾丸はガジェット達へ届き、そして撃ち抜く。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ティアが時間稼ぎのため、攻勢に出る。私も……かなり怖いけど、全力で踏み込む。

マッハキャリバーはウイングロード上を鋭く走り、ガジェット達の熱光線と爆撃が、こちらへと集中する。

や、やっぱり……五秒以上は無理かも。すぐ後ろで熱が、幾つも生まれて、通り過ぎていく。


それでも頑張るんだ。ティアは、驚かせるかもって……これが無茶だってちゃんと分かった上で撃っている。

それで私のこと、信じてくれている。その信頼に応える……ちゃんと、無事に笑って……ううん、それだけじゃない!


私達が頑張らなかったら、誰も助けられない。

エリオも、キャロも、中にいるお客さん達も……それは絶対に嫌だ!


あの日に決めたんだ、強くなるって! そうして、壊れそうな命を救う!


「行くよ、マッハキャリバー!」

≪All Right≫


だから速度を上げ、火線に飛び込んでいく。鋭く、深く……ティアの役に立てるよう、全力全開で!

さぁ、撃ち抜けるものなら撃ち抜いてみろ! 私のバリアジャケットは、なのはさんの物を参考とした特別仕様!

私が今振るう拳は、ギン姉が教えてくれて……そしてなのはさんが鍛えてくれた、シューティングアーツ!


それらが守ってくれているから、踏み込める……もう使えるものはなんでも使ってやるんだから!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


≪10・9・8≫


大丈夫……コントロールはできる。

スバルはあと三秒で退避コース。あとは私に攻撃が集中するだろうけど、キャロへの転送指示もある。


≪7・6・5≫


エリオもちゃんと、兄妹同然なキャロをガードしてくれる。アイツだって今は誤射の危険があるから、攻撃を控え守りに入っている。


……そうよ、私がやっているのは結局…………単なる嫌がらせ。

嵐のような弾丸も、こんなしんどい思いをしているのも、副隊長達がくるまでの時間稼ぎにすぎない。

撃って出なかったら、こんな不意打ちじゃなかったら、ガジェットの向こうにいる奴へ一泡吹かせることもできない。


≪4≫


それが情けなくなりながらも、弾丸のうち一発があらぬ方向へ飛ぶ。それはガジェット達をすり抜けあっさり地面に墜落。

でも…………万が一は予想していたから、仕込んでいた保険が自動発動していた。


≪3・2≫


そんな弾丸が一発、また一発と増えていき……制御、できなくなっている。


(ズルじゃあこの程度か……! でも!)


そうして残り二秒……でもそこで目に入ったのは、スバル。

スバルは急速離脱しているなら、本来いるはずのない場所にいた。

そして、逸(そ)れた弾丸の一発がスバルのところへ近づいていく。


…………ごめん、しくったわ。


≪1≫


一度切れた糸を繋(つな)ぎ直そうとしても、もう遅い。

私の弾丸は、ランスターの弾丸は真っすぐスバルへ飛び……そして。


「……この、馬鹿がぁ!」


弾丸は叩かれ…………塵のように消失する。


「な……!」


そう、あの弾丸は幻影……というか後半からぶっ放したのは、全て幻影。

制御できなくなる可能性も考えて、プログラムを途中から切り替えていたのよ。確実に……きちんと制御できる五秒の圧倒。

そして、それを“目くらまし”として、現実のものと思わせる“十五秒の幻”。それが私の目的だった。


だからヴィータ副隊長は戸惑い、停止したスバルと私を見やって……。


「…………ティアナ……この、どアホが! 無茶した上、味方撃ってどうする!」


…………なにそれ。

ある感情がわき上がってくる。

どす黒いそれは、もう爆発を止められない。


既に点火はされた。私達の命を軽んじた……アイツらによって。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


アイツらのところへ全速力で向かっていたら、スバルに弾丸が一発……しかも、ティアナがぶっ放したもんだった。

本当にそれは偶然だった。ザフィーラやシグナムが、アタシを先行させてくれなかったら……間違いなく、スバルはお陀仏(だぶつ)だった。


…………その弾丸が実弾なら。

分かってる。アイツは……アイツは……だが……それでもよぉ!


「ヴィータ、副隊長」

「テメェもだ、スバル! なんで止めなかった!」


アイツがこんな無茶(むちゃ)したのは、アタシ達のせいだ。

アタシ達がちゃんと、アイツらを守りきれなかったからだ。


なのに理不尽に叫び、叱る。隊長なんてやるもんじゃないとか思いながら。


「なんでアタシ達を待たなかった!」

「あの、ティアは私達のために」

「…………もういい。あとはアタシ一人でやる。
お前ら……すっこんでろ!」

「…………それはこっちの台詞です」


するとスバルはウィングロードの踵を返し、すっと地面に降りていく。


「ティア、もっとやるよ! 今度は……さすがにビックリするから、あんな無茶なしで!」

「おい、待て! 命令してんだろうが!」

「えぇ、そうね……やりましょうか」

「てめぇら、いい加減に」

「――――――」


そしてティアナはアタシを、とても冷たい目で見上げた。それで一気に鳥肌が立つ。

……その目には怒りと、不信感と……いろいろな感情がごちゃまぜになった、どす黒い目だった。


――アンタが、それを言うの?――


アイツは無言のまま、失望をぶつけてくる。


――私達の助けを無視して、見殺しにした……アンタが――


それが溜(た)まらなく怖くて、すぐに逃げたかった。


――スバルやエリオ達の信頼を裏切った、アンタ達が――


分かってる……分かってるんだよ。だが、聞いてくれよ……守ろうとした。

お前達がちゃんと飛べるまで、守らなきゃって、そう思ってただけだ。

アタシだけじゃない。ザフィーラも、シグナムも、シャマルも……!


――殺してやるのに――


だが視線は、無言のまま放たれる圧力は止まらない。

……近づいてくるガジェット達を殴り飛ばせても。

放たれる熱線をシールド魔法で防御しても。


それらは決して止まらない。ティアナはあたしに……いいや。


――私に力があったら、アンタ達全員……今すぐ、殺してやるのに……!――


アタシ達全員に、明確な殺意を向けていた。


傷だらけになって、必死に飛んだことも。

アイゼンがぼろぼろになっていることも。

アイツにとっては、関係のない話らしい――。


「おい、ティア」


それどころか、銃口が向けられ、弾丸が放たれる。


「ナ……!?」


それが頬を掠め……赤い熱が流れる。

なんの容赦も、なんの躊躇いもなく、殺傷設定の弾丸が掠めたから。


「…………………………」


…………痛みと混乱で止まっている間に、アイツらはまた動き出す。

ティアナが弾丸を淡々と生成し、スバルが飛び込んで殴る……。


「……スバルさん、ティアさん!」

「……アンタ達」

「ホテル周りのガジェットはなんとか排除できました!
……私達もいきます! フリード、フルスペック!」

「くきゅー!」


エリオもスバルをサポートするように飛び込んで、キャロもフリードを龍魂召喚……ブラストフレアを辺りに撃ちまくる。


「おい…………」


そう声を漏らしても、誰も聞いていない。


「いい加減にしろよ……命令を聞けよ! すっこんでろっつったろうがぁ! なぁ……おい!」

『みんな……あの、落ち着いて! ヴィータちゃんの話を聞いて! ねぇ……ねぇってば!』

『――まだ分からないの?』


すると、下から恭文の声……って、そうか! ゴーレム操作してんだよな!

……アイツの大砲は物質の再変換により、ガトリング砲になっていた。


『お前らは見限られたんだよ』

『「――――!」』


アタシ達は間抜けだった。

そんなことを……こんな、分かり切ったものを、今言われなきゃ分からないんだから。


『……ヴィータ、一旦下がって』

「でも」

『僕も後でみんなと話してみるから……今は刺激しないで』

「……分かった……!」


それで甘えちまった。コイツだってアタシらにムカついているだろうに、それでも気遣ってくれることに……情けなく、逃げちまって。


『エリオ、スバル、散開! ティアナ、キャロ、上と横は任せた!』

「了解です!」

「……確か、こうだったわよね!」


……がらがらと、崩れ落ちる音が響く。


「アンタ達を止められるのはただ一つ…………私達よ!」


今まで培った何かが……がらがらと……つまらなく拘った……ただそれだけで……いとも簡単に……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


腹立たしさ混じりでライズキーのスイッチを押し、そのままショットライザーのトリガーを引く。


≪シューティング! ――スターズコメット!≫


左手で器用にショットライザーを取りだし、クロスミラージュと交差させながら構える。

すると銃口二つの周囲に弾丸が二十発展開。それが渦を巻くように集束して……!


『クリエイト! ――イマジネーションバースト!』


エリオが走り、引きつけ……足を止めていたラプター。

スバルが叩き、吹き飛ばし、同じ位置に下がっていたガジェット。

更に空から爆撃のため、反転した数少ないII型達。


アイツが、キャロが、私が……それぞれ違う方向に狙いを定め、鋭くトリガーを引く。


『――マルチロックオンバースト』

「ブラストフレア」

「クロスブラスト――」

『「「ファイア!」」』


放たれた散弾がラプター達をカノンごと撃ち抜き、蜂の巣とし――。

フル出力の火炎放射がガジェット達を焼き払い――。

衝撃とともに放たれた弾丸達が一つの流星となり、空へ昇りながらII型達を次々と引き裂いていく――。


そうして、目の前に爆発の帯が幾つも……幾つも生まれて、ようやくこの場は片付いた。

どうやらホテルに取り付いていた奴らもさっきの無茶バーストで上手く引きつけられて……ううん、違うか。

……一種のビックリ玉的な動きで、召喚師の操作も甘くなっていた。それでなんとかなったって感じかな。


「…………やりました」

「そうね。でも……」

「いいんです。気持ちは同じですから」

「僕も、さすがに腹が立ちましたから」

「そうそう! こうなったらみんな同じだよ!」


コイツらは、もう……! 人が反論したいところで、どうしてまた……でも……その気持ちは有り難くて。

だけどちょっと申し訳ない気持ちも混ざりながら……本当に小さく、駆け寄ってくるみんなにお礼を告げた。


「それに、恭文も……」

『別にいいよ。おかげで予備策突入だしねぇ……!』

「予備策?」

『泥棒との追いかけっこだ』


……それだけでよく分かる。ガジェットやラプター以外……例の妖精もどきも含め、追撃が可能な状況なんだと。

たとえ小さくても、コイツはそれを諦めない。そういう奴だって……よく分かった。


(第24話へ続く)










あとがき

ティアナ「………………なんでゴリライズさせたの! 言え! 言いなさい!」

恭文「それは、おのれがゴリラだぁら……」

ティアナ「うっさい馬鹿ぁ!」


(ツンデレガンナー、StSから十三年目にしてゴリラとして再臨。
というか、早々に蒼い古き鉄を締め上げています)


恭文「まぁまぁ、ゴリラナ……落ち着いて」

ティアナ「ティアナよ! テ・ィ・ア・ナ!」

古鉄≪というわけで、いろいろ大荒れですが……ベリトクリエイターについてのアイディアです。前回は見せていませんでしたしね≫



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ベリトクリエイター

ファルケによる情報解析と、ゴーレムマイスターとしての操作能力を最大現発揮するフルバックスタイル。

創成するゴーレムは人くらいのサイズとし、そのパワーを精密かつ綿密に叩きつけることをコンセプトとしている。

これは魔力量に優れない恭文では、大型ゴーレムの長時間稼働が難しいことも起因している。


更にこの形態ではフォーミュラとの相乗効果もあり、物質変換≪ブレイクハウト≫の能力が最大現拡張。

本来は不可能だった他者の肉体などを変換・再生するなどの変則治療も可能としている。(ただし死ぬほど痛い)



・スレッドユニット

宝輪型のブーストデバイス。名前の由来はドイツ語の糸・接続。

内部にはゴーレム用の触媒を収納しており、宝輪に備え付けられた曲玉一つ一つがゴーレム操作の補助用コアユニットとなっている。

ただし恭文が術式の並行処理を苦手とするため、ゴーレム操作中はあまり高度な魔法が使用できず、スレッドユニットも直接戦闘に特化した形態ではない。


それゆえにピンポイントで狙われ、単独戦闘などを仕掛けられると脆いという欠点がある。

その欠点を補うため、後述のシュヴァンツベリトや銃器、アルトアイゼンなどによる自衛。またはチームメンバーとの連携が必須となる。

元ネタは舞-HiMEの主人公≪鴇羽舞衣≫が使用するエレメント。



・シュヴァンツベリト

シュヴァンツブレードの色変え(ベリト)Ver。機能的にはシュヴァンツブレードと同じ。

ベリトクリエイター時には不足しがちな直接戦闘力を補うだけではなく、物質変換の遠隔練成をサポートする重要パーツとなっている。



・舞衣姫

和服にオレンジ髪のツインテールという姿の女性型ゴーレム。

伸縮自在なツインテールを刃に、柔らかきもう二つの手に変え、縦横無尽に戦う近接高機動型。

更に人間サイズで構築し、ネフィリムフィストの長所を最大活用するため、四肢を使った肉弾戦も得意。


ゴーレムということで通常の破砕攻撃にも強く、破損してもコアさえ無事であれば周辺の物質を糧に、瞬間再生もできる。


元ネタはスクライドの絶影、それと鴇羽舞衣。


・クーガー

銀色のボディに青い瞳の狼ロボ型ゴーレム。足を止めての砲撃戦を得意とする。

背部の武装は物質の変換・再構築により換装される。(フォーミュラのヴァリアントコアシステムを応用している)

更に敵に接近されたときに備え、両太股外側に多目的ディスチャージャー、両脇腹にウィング型振動ブレード、四肢にも振動クローを搭載。


狼型のため、地上限定なら移動力も高い。元ネタは舞-HiMEの玖珂なつきとそのチャイルド≪デュラン≫、更にZOIDSのコマンドウルフ、シャドーフォックス。


・カグツチ(今回は未登場)

薄紫のボディにタービン内臓の尾を持つ火竜。全長八メートル。元ネタは舞-HiMEに出てきたチャイルド≪カグツチ≫。

舞衣姫、クーガーでは対応しにくい空中戦及び大型敵対応用ゴーレム。武装は口から放射するプラズマレーザー。

恭文の魔力量では長時間の運用ができない上コンセプト崩壊しているのだが『それでも大型ゴーレムは夢!』として準備された。


※変身音

≪クリエイト!≫
≪想像バースト! 創成ファイア!
――ベリトクリエイター!≫
――Draw freely and jump out of your heart――
(特別意訳:自由に描き、心から飛び出せ)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


古鉄≪今回見てもらった通り、使い方次第では広範囲の戦局支配が可能です。
まぁゴーレムフル活用中は、銃や刀剣でのフィジカル戦闘が基本となりますけど≫

恭文「そしてオセシューティングは、ティアナの得意技≪射撃と幻影≫をより拡張する形の追加装備。
それもあったから無茶が無茶にならず、自分で予防できたわけだけど……」

ティアナ「いや、それ以前にアンタが悪辣なんだけど! ぶち切れたのも盗聴された場合の対策とか!」

恭文「計算してやると効果的でしょ?」

ティアナ「ほんと最悪だし! しかもバレンタインが終わった直後に人をゴリラ扱いとか!
……いいわよ。だったら……私がゴリラじゃないって、実地で確かめてもらうから」

恭文「へ?」

ティアナ「私も覚悟を決めているってことよ……この馬鹿」


(というわけで、ほぼほぼ必殺技扱いのライズキー。果たして次の出番はいつか! そろそろ敵も本領発揮しないとヤバいぞ!
本日のED:BLUE ENCOUNT『VS』)


ティアナ「例えば……この胸よ。アンタが言う通り、フェイトさんより大きくなったし……よく見てくるじゃない? これはゴリラじゃないと思うのよね」

恭文「見てないし!」

ティアナ「見てるわよ! Vividのときも乳首券とか散々言っていたし!」

恭文「だから見てないー!」

ティアナ「アンタ、ほんと自覚がないのね!」


(おしまい)






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