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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第20話 『謀略』


新暦七五年(西暦二〇二〇年)六月八日――第三七管理世界≪パーペチュアル≫

連邦保安局・中央本部 表玄関前



この世界……パーペチュアルは、いわゆる合衆国制を取っていて、その政治や司法を担うのが連邦議会。

管理局と共同で世界の治安維持を務めているのが、地元の警察機構となる連邦保安局。


パーペチュアルは元々精霊魔法や、気功……オーラを用いた武技が発達していて、そちらも技術保全の動きから研究が進んでいる。

精霊魔法っていうのは、異次元にいる高位存在に呪文を唱えて『あなたの力をお借りします』と言って発動する魔法のこと。

分類的には物理・補助・障害なんていうのがあるんだけど……現地語の呪文を覚えるのもややこしくて、実は現在の普及率はそこまで高くない。


ただ魔法や霊障のような事件が起こることもあるので、連邦保安局でも専門部隊は作り、対処している……というのが現状。

そんな中に赴任してきた私達GPOは、中央都市部から少し離れた港町≪シープクレスト≫に分署を構えた。

窓際とは侮ることなかれ。港町はいわゆる密輸やマフィアの出入り口にもなりやすいから、かなり重要度が高い防衛ポイント。


元々EMPも宇宙港や次元転送ポートがある関係で、港町と言える場所だったしね。そういうところの捜査は手慣れている関係から、そこに配属となった。

風光明媚でファンタジー色の強い街並みだけど、それでもどこかEMPに似た騒がしさもあって……そうして数か月が経った。


今日は長官のお付きで、保安局の中央本部に出勤。最近導入された新型車両でも片道一時間半の旅……結構きつめです。

軽く身体をほぐしながらも仕事は終了し、もう帰ろうかというところで……一つ気になるものを見つけた。


「シルビィ、ご苦労だったな。軽くみんなの土産でも……どうした」

「いえ、あのお花……」


本部の玄関横には、白いテントが立てられていた。

その下には木造のテーブルが備え付けられていたんだけど、そこにはまたたくさんの花。

よく見ると飲み物やお菓子類などもあるので、ここへ来てから不思議に思っていた。


「あぁ、あれか……」


メルビナ長官は少し困った顔をしながら、テントに近づく。その後を素早く追うと……。


「私も先ほど、打ち合わせで聞いたんだが……数日前、自殺者が出たそうだ」

「自殺!? え、でもここって保安局の本部ですよ!」

「だから大騒ぎになった」


思わず屋上……空を見上げるけど、さすがにここで自殺って……。


「何か恨み辛みが……事件性は」

「それも調査中らしいが、目立ったところはないようだ。
唯一分かっているのはそれが元保安局員で、優秀な方だったとのことだ……」

「だとしても、こんなところで自殺なんて……」

「優秀なればこそ、何か抱えていたのかもしれないな。
しかしこの花を見れば、いかにこの方が信頼を集めていたのかも分かる」


メルビナ長官の言う通りだった。花は……まぁ自殺から日が経っていないせいもあるけど、真新しく、手入れもされていた。

きっと話を知って、たくさんの人がここへ来ていた。それも……ほぼ毎日。


「……その信頼の中に、悩みなどを打ち明けられる者がいれば……こうはならなかったのだろうか」

「長官も気をつけないといけませんよ……。一人暮らしで恋人もいないし。だから白髪も……ほら」

「それは白髪ではない……! 私の飼い犬の毛だ」

「でも二匹とも、茶毛ですよね?」

「光の反射だ!」


そんな話をしながらも、花檀の前に立ち……私達は静かに手を合わせる。

茶化しはそこまでにして、静かに……ただ厳かに。




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


同時刻――第一管理世界≪ミッドチルダ≫首都港湾地区・第七倉庫街


機動六課の出張があったりしたけど、世界はおもいっきり平和です。

だからこそ――。


『――急げよ! ほらそこ、モタモタするな!』

『パーツを詰め込んだら、すぐ出港だ! いいな!』


ミッド港湾地区の外れ――その倉庫の表玄関に向かって、日産『ティアナ』で突撃。

その瞬間、術式を発動――。

車体全体の相対位置を、物質操作の応用で固定。


これは大流行しているさすおになWeb小説orアニメから思いついた魔法。それがまた、設定が細かくてねー。


とにかく一つのオブジェクトとなった車は、足下に発生したベルカ式魔法陣を通り、更に加速。

そのまま砲弾として、滑るように表玄関へ衝突――厚さ五センチ以上ある、金属製の扉を突き破りながら突撃。

車体も、フロントガラスも一切無傷なのは、相対位置の固定化ゆえ。いやー、楽しいねー。


「な……!」

「なんだぁ!?」


相対位置の固定化を解除しつつ、ブレーキを踏んで停止。

唖然(あぜん)とする悪党五十八人は気にせず、運転席から降りる。そのままドアに肘をかけ、お手上げポーズで笑う。


「お前……誰だ!」


そうか……サングラスにスーツ姿な、この僕に見入るのは仕方あるまい。何せカッコいいからね、僕って。


≪私達を知らない? 全く、常識のない連中ですねぇ≫

≪なのなのー≫

「問われて名乗るもおこがましいけど、知らないならば聞かせてあげよう。僕達は」

「……撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


気の短い奴らがデバイスを、又はAK47を構えたところで、術式発動。

地面がせり上がり、僕達の前面に横幅二十メートルほどの障壁が出現。

奴らの放った実体弾・魔力弾を、僕の代わりに受けてくれる。


「全く、気の短い奴らだね」

≪ほんとですよ。聞いておきながらキャンセルって≫


なので指を鳴らし、壁を更に物質変換――火花を走らせながら集束した壁は、ティアナの等身大模型となり、そのまま加速。

先ほどの突撃時に使った術式で、車型の砲弾と化して射出される。

更にFN Five-seveNを取り出し、逃げようとする奴らの足下へ牽制(けんせい)射撃。


更にロッド型デバイスを構え、砲撃態勢の魔導師にも一発お見舞い。

構築されていた魔力スフィアに弾丸が吸い込まれると、それは暴発。

紫色の爆発に飲まれ、奴の足が止まったところで……ティアナ(模型)が急接近。


推定オーバーSの魔導師は、足を砕かれながら吹き飛ばされる。

そして白目を剥きながら、数メートル下の地面に頭から落下。おー、痛そう。

それでも砲弾は止まらない……そう、人の盾などもはや無意味だった。


「お、おい……来るな! 来るなぁ!」

「げふ!」


そうして足止めを食らった奴らは、ティアナ(模型)によるひき逃げアタックを食らう。

合計十三人の体がはね飛ばし、足を踏みつぶしながら、ティアナ(模型)は奴らの荷物≪コンテナ≫に激突。

車体はひしゃげ、爆破・炎上。その炎に煽(あお)られ、全員がぼう然とする中、左指を鳴らし術式発動。


まずはティアナ(本体)を結界へと閉じ込め、安全確保。その上でFN Five-seveNで更に射撃。

前方にいるデバイス持ち三人の頭を撃ち抜き……いや、そこでオートバリアが発生。

それに意識を引き戻されたところで、もう遅い。弾丸に仕込んだ特殊術式が発動し、弾頭が膜状バリアに包まれる。


それはオートバリアと相殺しながらも貫通。三人は頭に銃弾を受け、側転しながらこの世とお別れする。


……一時的に。今回は非殺傷設定のスタン弾だから、気絶しただけだよ。


というわけで、全力で走りつつ追撃――。

銃声が響き、スライドカバーが瞬間稼働。

マズルフラッシュが二度閃(ひらめ)くと、魔導師二人が倒れてしまう。


さっきひき逃げアタックを食らった奴らも含めて、魔導師組は全滅。残りは二十三人……一気に削れたねー。

一気に半数が戦闘不能にされ、奴らは混乱のままAKで牽制(けんせい)射撃。


「相手は一人だ! やれ……やれやれやれぇぇぇぇぇぇぇ!」


あとは左に走り、銃弾を置き去りに柱へと隠れる。でも、その間際に飛び込みながら連続射撃。

三人の腕と肩、胸元を貫き、戦闘不能へと追い込む。更に柱を始点にカーブして、改めて突撃。

射撃で牽制(けんせい)しつつ二人沈め、更に十時方向の最右翼にいた三人……銃声が響くたび、確実に一人は倒れていく。


「くそ、なんで当たらないんだ!」

「速ぇ……くそがぁ!」


当たり前だ。銃弾が飛ぶ距離と、弾丸が当てられる距離には差異がある。

ちゃんと射撃訓練をしないから、そういうことになるのよ。……そうして奴らに接近。

FN Five-seveNを仕舞(しま)い、アルトをセットアップ。


「鉄輝」

≪一人? ひどい勘違いですね≫


魔力で刃を打ち上げ、鉄輝とする。これで非殺傷設定は問題なし……とっとと潰す!


「一閃――!」


――右薙の斬り抜けで一人を切り捨て、奴らの左端から強襲。

袈裟・逆袈裟の斬撃を繰り返しつつ、一人、また一人と沈めていく。

蒼い鉄輝はボディアーマーすらも切り裂き、その意識と抵抗の芽を即座に両断。


放たれる弾丸ももはや、避ける必要がない。


全てを見切り。

乱撃で払い――。

最短距離を突き抜ける。


≪この街にも、この人にも、私がいますよ≫

≪ジガンもなのー!≫


五人倒したところで、二時方向へ走り射撃回避。

奴らの積み荷が二次爆発を起こす真横で、飛針を取り出し投てき。

四人の手元を撃ち抜き、銃を落とした上で加速。


刺突で一人の腹を薙(な)ぎ、そのまま二人目の右側から右薙の斬り抜け。

袈裟・刺突・右薙・逆袈裟・刺突――。

炎に煽(あお)られる中、最後の一人になるまで徹底蹂躙(じゅうりん)。


そして最後に残った、ひげ面スキンヘッドのリーダー格は、僕にAKを切り落とされ。


「飛天御剣流」


そのまま迸(ほとばし)る奴の視線から消えつつ、脇に回り込み。


「龍巻閃もどき!」


奴の右側から、回転しながらのカウンター。

右薙一閃により、背骨をへし折りながら近くの柱へ叩(たた)きつける。


「全員動くな」

≪元から動けませんよ≫

「足腰弱いなぁ、最近の若者は」

≪あなたも気をつけてくださいよ? ハーレム王として、お嫁さん達を満足させる使命が≫

「あ、はい……」

≪主様、業が深いのー≫

「嘘、だろ。質量兵器を使う上、こんな」


リーダー格が痛みに呻(うめ)きながら、こちらに振り向く。なのでFN Five-seveNを取り出し、十時方向に射撃。

積み荷の一つ――密輸されていた違法兵器に駆けよろうとした、別の一人を撃ち抜き倒す。


こっそり隠れていたみたいだけど、そんなんじゃあ甘いわ。


「荒っぽい……魔導師なんざ、聞いたことが……!?」

≪あ、察しましたね。その通りですよ≫

「よく分かったね。プレゼントをあげよう」


アルトを納刀した上で、FN Five-seveNのマガジンを入れ替え。


「まさか」

「まぁ遠慮せずに味わってよ」


その上でうだうだ喋(しゃべ)るリーダー格に、銃口を向け。


「古き……鉄……!?」


弾丸を一発たたき込む。そうして、この場はようやく静かになった。

さて……。


「コイツらが知っているといいんだけどね」

≪まぁ、チンピラみたいなものですし過度な期待はやめておきましょうか≫

「だね」


ガジェット、ラプター……最初に感じた匂いがどんどん色濃くなっていく。

ガジェット犯なら、本当に知っているかもしれない。アイアンサイズを、オーギュストを、その根本から変えた何者かを。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七五年(西暦二〇二〇)年六月九日

遺失物管理部≪機動六課≫隊舎・部隊長室



武器密輸に関わっていた賞金首をさっと片付け、僕の懐は飢えを知らない。

それなりの犠牲はあったけど、戦いとはいつだって虚(むな)しいものだ。なのに。


「このぉぉぉ…………大馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


なぜか朝一番ではやてに呼び出され、怒鳴られていた。

それは気にせず、応接用のソファーで新聞を読む……。


「あ、ふたば軒の株価が上がっているよ」

≪負け知らずですねぇ≫

「ブラックマーケットの取引現場を押さえた……だけならともかく、証拠品の一部を爆破ぁ!? アンタは何を考えているんよ!」

「誤解があるね。奴らが壊したんだよ」

「十数人を体当たりで再起不能にしたんやろ! というか訓練サボってまた勝手に捜査してぇ!
それに何くつろいでるんよ! 立てぇ! 立ってその二本の足で、クララみたいにうちの前にこんかい!」


(勝手に)煎れたインスタントコーヒーを飲み、ホッと一息。


≪というか、これはなんですか。アイツらは前々から私達が追っていたんですよ?
六課の仕事にも、あなたの仕事にも絡まないでしょ≫

「そうだよ。それがネギカモで出てくるから、プライベートを利用して捕まえただけなのに」

「訓練サボったやろぉ!」

「言ったでしょ。楽しく遊びたいんだって」

「蒼凪、お前……!」


同席していたシグナムさんも頭を抱えるほど、完璧な理論……我ながら恐ろしい。


「というかだな、奴らがロストロギアも扱っていて……」

「うん、知っています」

「……本局機動課……つーかフェイト隊長も前々から追ってたんよ!」

「うん、そうなの……そうなんだ、ヤスフミ!」


あ、ハラオウン執務官が必死に詰め寄って……でも僕は変わらず、新聞を読みながらコーヒーもぐいぐい……うーん、ダンディー。


「朝の一時を堪能しないで!? 他の機動課も面目丸つぶれだし……何より捜査なら私と一緒にって何度も言ってるよね!」

「異常な殺人鬼なんざ、信用できるわけないだろうが」


笑顔で無茶振りすると、ハラオウン執務官が顔面蒼白……うんうん、いい感じでフラグが折れているねー。よいことだ。


「私は、そんな」

「他人に理由があれば、平然と見捨てていい……それは立派に殺人鬼の思考でしょ」

「蒼凪、そこまでにしておけ」

「……シグナムさん、こうすればなんかもう、会話できない感じで……婚約者などなども有耶無耶にできるじゃないですか」

「そういう話をするなと何度も言ってきただろうが! また琴乃に来てもらうぞ!」

「やめてくださいよ! なんかあやつ……その、パワーアップしていて……!」

「お前がその調子だからだろうな……!」


コーヒーを飲みきり、カップをしっかり片付け……新聞も畳んでっと。立つ鳥跡を濁さずってねー。


「……なぁ、恭文……もう少しだけ考えなおさんか?」

「断る」

「即答するなぁ! ……スバル達と一緒に腰を据えてほしいんよ。
……確かに対策専門で、焦れったいことはある。でもスバル達も頑張っとる。
あれから……アンタへおんぶに抱っこやのうて……並んで、頼り頼られるようにって、必死なんよ」

「聞いていなかったの? 僕達は楽しく遊びたいのよ。
今はその遊び相手に、ジェイル・スカリエッティやガジェット犯を選んでいるわけ」

「そやから、それは事件が起きたときの対応で」

「奴らが起こした事件の遺族やら関係者が多数いる中で?」

「それも対応していくから……!」

「何よりあのヒヨコどもがいなきゃ本領発揮できないとか、吐き気がしてごめんだし」


全く……何度も言っているだろうに。

仕方ないのでもう一度、指を九本立てる。


「僕は”これだけ”稼ぐために頑張るとも言ったでしょ」

「そやから…………って、待って! なんで数がまた増えとるん!?」

「……………………やっぱり、これくらいないと子どもとかできたとき、不安かなって…………」

「涙目になるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! つーか無理があるやろ! 一年で九億って!」

「だからスカリエッティは譲れないんだよ! 最悪でも小物をせっせと捕まえるんだよ! 僕のネオニート計画のためにね!」

「蒼凪、それは違うと言っただろう……!」


それでもやるしかない……やるしかないのだと、改めて指を鋭く立てる!

だって、さすがに……ね!? フィアッセさんやすずかさんとかは凄いお金持ちでもあるけど、それに頼り切りは駄目だと思うの!

僕だって、僕だって……そうだよ、ハーレムを突っ走るって決めた以上、頑張るんだから!


「……でもそれなら、手札を晒してよ」

「はい?」

「アンタ、何を掴んだんよ……!」

≪あららら……どうします?≫

「隠してもいいんだけどねぇ。とはいえ、ゲームを進めるためにはリスクも必要だ」


はやては大体察している。僕が何か掴んだ上で……とはいえ、後見人のことはまだだ。あれは切り札たり得る。

となると、不確定なのを前置きした上で……最小限に行くか。リスク云々とは言ったけど、まだそこまで無茶をする状況じゃない。


まぁ、上手く立ち回りますか……!


「でも……まだ実体を掴んでいない段階だ。絶対に本局とかには漏らさないで」

「分かった。シグナムも」

「承知しました。……それで、蒼凪」

「ラプターが民間に派遣されて……というのはおのれらも知っての通りだけど、その情報の取り扱いに不透明な部分がある」

「情報……不透明?」

「市街地に派遣中、見聞きして記録したものだよ。
で、計画の総称がPP……パノプティコンプロジェクトって言うみたい」

「は……!?」


はやてはそれだけで……名称だけで概要を察し、顔面蒼白となる。……さすがは本好き。パノプティコンについては知っているか。


「ちょ、それやと……あぁそうか……! 確かにそれなら」

「主、その……パノプティコンというのに聞き覚えが」

「あるもなにも、地球発祥の展望監視システムよ! それも最悪の発展系とも言われているやつ!」

「最悪……!?」

「最小の人数で、最大の囚人を……こういう形の監獄が、二百年ほど前に発案されたんです」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここからはかくかくしかじか……モニターを表示して、パノプティコンの図形を見ながら説明に入る。

この辺りは副会長とも話したところなので割愛させてもらうけど、ハラオウン執務官とシグナムさんも難色を示す程度には……ぶっ飛んでいた。


それで繰り返しになるけど、今回の一件……相当にヤバい。

例えば派遣システム利用者の個人情報やその所在なんかも、専用アプリの機能次第ではいつでも掴めるのよ。


……Exif(イグジフ)という、画像データに自動記録される撮影メモがある。

デジタルカメラやスマートフォンで撮影した場所や緯度なんかが、そこに刻まれる。

……そういう情報を、アプリを通して取得したらどうする。そのアプリを通して、ラプターを適切かつ便利に派遣しますよーって流れなら。


普通そういう情報は……地球なら個人情報保護法なんかで、きっちりガードされる。違反者は即刻処罰だ。

……でも、今回はその取り締まる側がやらかすかもしれない。それも合法的に。


「これが合法になるの!?」


するとハラオウン執務官はまた、ヒューマニズム全開で声を荒げて……。


「誰かも分からない人に監視されて……それが幸せだっていうの!?」

「幸せでしょうが、今なお」

「は――!?」

「割れ窓理論でもあるからなぁ。割れた窓……手つかずで管理が行き届いていないという証拠を逐一潰す『徹底管理』こそが治安維持の近道やって」

「SNSなんかで起きる炎上も、ネットを通し大多数の利用者を監視し合っている状況だからこそ生まれるものだしね」

「待て、蒼凪……つまり監視社会の下地というか、その構造自体は……もう既に」

「インターネット……SNSなどの発展により仕上がっています。
故に言い切れるんですよ。”監視者の存在が分かりにくい牢獄”には、確かに幸せがあると」


……少なくとも今の日本では、差し当たって大きな戦争や貧困もない。細々とした問題はあるけど、幸せの平均値はそれなりに高い。

それはミッドも変わらない。こっちの方がネットワーク技術も高い分、”監視社会”としての有り様は深いだろうしね。


だから、ハラオウン執務官の言うことは実にナンセンスでもあった。


「たとえば……シグナムさん、インターネットの広告ってありますよね。ランダムでこういう商品やアプリが出ますよーって宣伝してくれるやつ」

「よく見るな」

「それは閲覧者の履歴を参照に、興味がありそうな項目を自動でピックアップし、表示しているんです」

「なんだと……」

「同じ仕組みは通販サイトにもあります。購入または見たことがある商品の履歴を参照に、興味がありそうなものを出されるんです。
漫画とかなら同じ作者さんの別作品とか、違う作者さんだけど似たジャンルのお勧め作品とか」

「そういう履歴……行動が一部であろうと監視され、マーケティングに利用されているということか。
それならば、私が今驚いているのもとんだ時代遅れな話だが……」

「というか、というか…………どうしてもっと早く教えてくれなかったのかな!
……事実なら、ちゃんと本局からレジアス中将に追及してもらって……そうすれば捜査だって進むよね」


その言葉にはもう、深くため息しか出なかった。


「教えても追及そのものができないからだよ」

「ふぇ!?」

「……フェイトちゃん、当たり前やで。ラプターの派遣業務も、情報取り扱いもまだテーブルの上やんか」

「それも……戦闘機人のコピーと同じで、言い逃れされちゃうの!? まだ実行されていないから!」


実に当たり前のことなので、はやては苦々しく頷く。


「よく考えられていますね……。
これだけ綿密なシステムが絡むなら、CW社が協力を惜しまないのも……念押しで頷けます」

「そやな。それを一括で統治するとなれば、専任運営会社となったCW社の利幅はうなぎ登りや。
もちろん人型デバイスの運用データも吐き気がするほど集まって、今後の開発にも役立てられるやろうし……」

「なんにしても必死ってことだ。誰も彼もさ」

「ん……」


そうだね、これは悪法たり得る。そういう可能性を孕んだものだ。それは僕も否定しない。

ただ、レジアス中将……引いてはミッド地上がそこに至るまでの経緯も、一応理解はしていて。


「犯罪者による密輸や誘拐、略奪……地上はそういうところの舞台だからね。
にもかかわらず地上からも戦力や資金を吸い上げ、それに対しての保障も”同じ組織の仲間なのだから”で一蹴する。
そういうごろつき≪本局≫にくっつかれているって考えたら、そりゃあねぇ……」

「しかもテロについては、去年は最悪例も見せつけられたからなぁ……」

「アイアンサイズ……なら、あの件で計画が一時停止した結果、より最悪な形での普及に発展したのか」

「その可能性が高いです。で、問題は……それすらデッドコピーの出現で危うくなっていること」

「そやからある種の政治的思想か……」


はやては合点がいってくれたようで、背をデスクに預けながら大きくため息。


「そういう監視社会の有り様を否定する意味でも、喧嘩を売ってきた。
でもそれやったら、なんでネームプレートを……いや、スカリエッティみたいな犯罪者が一番辛くなるんは、まぁ分かるんやけど」

「それ以前の問題だよ、はやて」

≪えぇ。それはもう大問題ですよ。……なにせこれが行動を起こす根幹なら、一犯罪者が中央の極秘プロジェクトを掴んでいるということなんですから≫

「……やっぱり管理局上層部との繋がり……司法取引に近いものがあったんかな。それならまだ」

「なんにしても、スカリエッティの実在……最悪でもガジェットを動かしている気配くらいは掴まないと、話にならない」

「この間のメガネザル達だけやと……さすがに弱いかー! 根っこが分からんとなぁ!」


つまるところ、奴らが出てきたら……同情の余地などなくぶちのめして、吐かせるのが手っ取り早いってことだ。

いいねいいね、こういうシンプルなゲームは好み……なのでつい拳をバキバキと鳴らす。


「うわぁ……コイツ、また無茶苦茶するつもりや」

「ここまで縮こまった盤面を動かすんだ。無茶苦茶じゃなくてどうするのよ。
……とはいえ……」

≪どう、嵐を巻き起こすかですね。それも考えないと≫

「うん」


だったらこうしちゃいられないと、踵を返して部隊長室のドアに。


「ヤスフミ、待って! それも……あの、やっぱりちゃんと捜査して……本局や108と連携して!」

「そっちの情報はアテにならないとも言ったでしょ」

「一人でなんて無理だよ! だって……相手は権力者なんだよ!?」

≪失礼な。この人には私がいるでしょ。……それに≫

「権力に歯向かうのは楽しいのよ。もうハマってるし」

「……それはえぇけど……せめて、≪ホテル・アグスタ≫の方は」

「ちゃんとするから安心していいよ」


そのまま部屋を出ながら、改めて思考…………攻めの一手が必要だ。

今のまま待ち受けているだけじゃ、ただの傍観者。確実に被害が大きくなる。

相手の動きを、動揺を、判断を引き出す一手。そのために必要なのは……使えそうなものはある。


ちょうど出張が終わってから、六課宛に届いた任務依頼がある。


第20話


それを活用すれば……!


『謀略』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あのアホはほんま……」

「主はやて……」

「はやて、どうしよう! あの、ちゃんと説得して止めないと……」

「無駄よ。ああなったら止まらんし、三佐からも釘を刺されとるから」

「だからそれも、頑張って」

「そうしてリンディさんも追い詰めるんか、また」

「………………」


フェイトちゃんはまた……ここまで有用なことができていない分、焦ってもいるみたいやなぁ。

リンディさんもカウンセリング結果が……実は結構、芳しくなかった。恭文達に言うてたんは、ある意味カバーストーリーで……。


――依存?――


それは、出張のとき……アルフさんから念話で聞いたこと。


――お医者さんから、はっきり断言されたよ。仕事……管理局の存在に依存傾向が見られるって。
去年の失敗や、フェイトやみんなへの悪評……そういうものを取り返そうとするのが?
それが逆に……局の道理とか、そういうものを神格化する後押しになっているって――

――それは……!――

――うん……休職が必要だって言われる状態だった――


今、ハラオウン家はその調整中。リンディさんは納得せんで、結構揉めとるけどな。

それに伴って、フェイトちゃんもしばらく……リンディさんに、仕事の話とかはせんように命じられとる。


フェイトちゃんがリンディさんを擁護し、守ろうとする……それが依存を強める要因になり得るからや。

……自分の娘にそこまで心配をかけている……だったら、それを取り返さなきゃいけないって図式でな。


「私、母さんの力になりたかった……母さんを、母さんが説いた正義を、信じてほしかっただけなの」

「知っとる」

「それが、逆に母さんを追い詰めて……利用されるような隙も作って、大切な仕事も奪っていた……!?
だったら私、どうすればよかったのかな。母さんは、私の……大切な……」

「それでも一つ言えることがあるで。……その行動は”信仰者”の有様や」


そう、それもまた信仰……そやからフェイトちゃんはやっぱり逆効果なことをしていて。

そう告げるとフェイトちゃんは悲しげに俯き、涙を浮かべる。


「……主はやて」

「難しいもんやなぁ、人間の心って」

「えぇ、本当に……」


そこも踏まえると…………うん、六課は体制的にボロボロ! やっぱ捜査とか自分でできる状況じゃないんよ!

対策部隊としても致命的やし……かと言って無茶したら、レジアス中将の餌食や。


ラプターの裏の裏も分かっていない以上、六課が地上から消えるのも致命的すぎる。なんにしても生殺し状態やった。


「極論になりますが……テスタロッサやハラオウン提督達を六課から配置変更するのは」

「シグナム……!?」

「だから極論だと言った」


でも、それほどの英断が必要。シグナムは厳しく認識していて……。


「その場合、必然的に六課の活動も……後ろ盾からガタガタやからなぁ。地上部隊と機動課の中継ぎすらできんことになるよ。
しかも、ネックなのが”ハラオウン家だけとは限らない”という点」

「確かに……闇の書事件のこともありますし」


そう……フェイトちゃん達を切り捨ててどうにかなるわけやないんよ。

六課が邪魔で、こういう手を使うなら……うちらや所属している部隊員かて攻撃対象。何をされるか分かったもんやない。


でもそれならという疑問もやっぱり頭をもたげて……。


「そやけど、分からんなぁ。それやったらほんま、なんで設立前に……うち一人ひょいっと攫うだけで、全部瓦解よ?」

「それは我々としても笑えない状況ですが……主、敵も一枚岩ではないと考えられませんか?
何らかの目的で我らを利用しようとする奴らと、こうしたいたぶりを楽しみたい奴……少なくとも二通りの派閥があるなどは」

「それもあり得るなぁ。つまりうちらはソイツらの手札を引っぺがさんと、まともにゲームもできないわけや」

「……今は、時期を待つしかない」

「身を守りつつな。
……捜査の手は他に預けてもうたけど、六課という”核”があることは……決して無意味とちゃうよ」


そうや、捜査の手は進んでいる。少しずつでも……確実に、前に走っている。


「うちらが利用されとるんやったら、捜査を進めるのはチキンレースでもある」

「こちらに有利な情報……それすらも餌というのなら、逆に利用して引きずり出そうと」

「かなり土壇場の……ギリギリの勝負になるけどな」


ブレーキを踏むタイミングが早ければ、うちらは利用され尽くし……暗部に骨までしゃぶられる。

遅すぎてもアウトやけどな。その場合、部隊員諸共地獄行きや。


「アイツもとっくにそこを見越して、動いているはずや」

「ヤスフミが……!?」

「だから鷹山さん達もああ言うてたんよ」

「だけど、それは……」

「アイツらは答えを出している……あの場でも言うた通りな」


悪い言い方をすれば、仲良しこよし……ただ受け身で事件を待ち受けるだけでは、勝負に負ける。

冷徹かつ冷酷にそう判断して、スバル達とのチームから……六課から降りようとしているんよ。それは間違いない。


……後悔はしとる。

フェイトちゃんがここまで心乱してしているのも、結局はうちのせいや。

恭文が六課に不信感を持っているのも、それゆえにスバル達との連携を拒むのも、うちのせいや。


でも……それでも……今は飲み込んで、加速させていくしかない。

その罪を背負うのも、きちんと勝利を掴んで……そうせんと無理な話やし……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――――――その日は、少し曇り空で……そんな中、エリオと恭文君に模擬戦してもらうことにした。

二人ともタイプ的には似ているし、エリオにとっても勉強になるから……と思っていたら。


「いきま」


恭文君はエリオの初動……それが調子を刻んだ瞬間、地面を蹴り砕きながら消失。

背後に回り込み、蒼い斬撃で左側頭部を斬り裂いた。


「――――!?」

「よかったよ」


エリオはそのまま吹き飛び、地面を転がって意識喪失。

刃は……逆刃刀モードで、きちんと非殺傷設定状態。魔力打撃による一撃だった。

だけど、それでもエリオを一瞬で……! リミッターがかかって、同じランクなのに。


ううん、そう言う問題じゃなかった。


「戦いの場で挨拶するような甘ちゃんで」

「…………あの……恭文君……!?」


さすがに見かねて、みんなと慌てて駆け寄りながら一声かける……というかイエローカード! イエローカードだよ!


「これも訓練なんだけどなぁ! 実戦形式でどつき回していたんじゃ駄目なの! エリオにも勉強になるように……ね!?」

「時間外労働はごめんだって言ったでしょうが」

「言ってないよ!? というかまだお昼前だよ!?」

「午前六時から勤務だから」

「あの呼び出しから勤務開始ぃ!?」

「つーか僕の練習にならないのよ」


うわぁ、言い切ってくれたよ……! 確かに実力差はあるけど。


「すみま……せん……」


それでエリオもショックを受けて、起き上がりながら打ち震えていた。

ここまで……ここまで差があるのかって、本気で悔しそうに……。


「別に謝らなくていいよ。求めている速さは今の八倍だし」

「はい……ん!?」

『………………八倍!?』


ちょ、それ……自分が八倍ってこと!? いや、縮地の完成を目指しているならそれくらいは…………。


「そう、それくらいなんだよね……。だから、今のもきっと防がれた」


でもそうじゃなかった。むしろそうなら……まだよかった。


「ううん、初動から止められた。
もっと速く、もっと深く、動きを読んで、こちらが初手から封殺する形で」

「恭文君、あの」

「こんなのじゃ駄目だ。足りない……全く足りない。
もっと速く、もっと鋭く……もっと殺意のある攻撃だったんだ」

≪私の方でVRシミュレーションはできますけど、まだまだですか≫

「それは助かっているよ。だけど違う……殺意が、意志が、圧倒的に足りない」


……恭文君、私達を見ていない。

明らかに別の誰かを……知っている誰かを追いかけている。

ううん、また戦いたがっている……殺し合いになっても、刃を交えたがっている。


そうすることで、自分がもっと強くなれるから。強くなったと確認できるから……。


「ちょっと、アンタ……」

「……」


だから恭文君は右手をスナップ……私達に背を向けて、近くの木に向き合い、軽くしゃがみ込む。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……あの速さを思い出す。

単純に動きが速いってだけじゃない。こちらの反射……人間の限界点を超越した速度。

そうだ、人間には限界点がある。〇.二秒……行動を起こすまでの僅かなラグ。奴は感覚を倍加させることで、それを超越した。


だから本当に、初手は何もできなかった。ただ防いで、凌いで……それすら三十秒も持たなかった。

倍加された感覚によって痛覚などのダメージも増大していて、その欠点を突けたからなんとか勝てただけだ。

異能も、今まで鍛え上げた剣術も、容易く覆された。それを裏技で覆して、仕事は通せた。だけど……!


「…………」


左手に取り出すのは乞食清光。それをアルトと一緒に腰へセットし……右手をスナップ。


「起動(イグニッション)」

「あの、恭文君」


全身に走る魔術回路に魔力を流し込む。

隆起した回路が熱を帯び、その鼓動が肌の下からうっすらと浮かび上がる。

その上で腰に添えた乞食清光……かの沖田総司が使った刀に接続≪コネクト≫。


そう、使い込まれた武具には記憶がある。特にこの乞食清光は特別な品でね。


そこに……鈍く輝く刃の奥底に刻まれた戦いの記憶を、刃が生まれ、ここに至るまdねお全てを追想し――。

共感し――。

羨望し――。

想像し――。


全てに……余すことなく、その記憶の一片も取り込むように呼吸。

深く、深く、深く……ただ一点……あのとき超えられなかった速さを、意志を眼前に捕らえながら。


「だから……アンタ、こっち向きなさいよ!」


地面を蹴り砕き、アルトを抜刀――。

剣閃を走らせながら、木々と交差し、僕は空間を飛び越える。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ティアナの声が合図だった。恭文君が”消えた”。

完全に、この場から……地面を蹴り砕いた音のみを残し、ティアナの伸ばした手は虚空をからぶるだけ。


「え……」


そして、ズドンと……重い音が響く。

慌ててあの木を……恭文君が見ていた木を見やると、信じられないことが起きていた。

シミュレーターによって生成された贋作だけど、質量なんかは本物同様。なのに、そんな木が容易く両断されていた。


しかも地面へ雪崩込むように落ちた途端、幾つもの分割線が幹に刻まれ……木はがらがらと崩れていく。

そんな木に振り返りながら、恭文君は……私達から離れて、ゾッとするほど冷たい目でそれを見下ろしていた。

あの目は、ふだんとは全然違う。完全に……殺気を、人を殺すための剣を……振るう目だった。


「ち……まだまだか」


圧倒的な速度……今まで見せていた速さが児戯に見えるほどの鋭さ。

それでも、足りないと……こんなものじゃ足りないと、恭文君はアルトアイゼンを逆袈裟に振るい、鞘に納める。


それから取り出していた日本刀を、どこかへと……というか、あの刀は。


≪な、なの……主様、もしかして今のが≫

「まだまだ贋作だ。本物ならあと〇.〇八秒も軽く超えられる」

「あの、恭文さん……」

「仕方ない、準備を急ぐよ」

≪……アレですか?≫

「うまくいけば解決手段になる」


全く……本当に話を聞いていない。エリオが声をかけたのに、全く。

ティアも振り切られたように、伸びた手をそのままにしているのに…………全く……!


「…………恭文君!」


それが怖くて……私達を見ていないことが、亀裂を生み出しそうに感じて。

慌てて駆け寄ろうとすると、恭文君がアルトアイゼンを待機状態に戻して……ちょ、恭文君……とたとたと歩き出さないで!


「恭文君、どこ行くの!?」

「調べ物と一緒に、調達するものができた。
あ、明日の出発時間には必ず戻るから」

「ちょ、さすがに勝手が過ぎるよ!? というか、何か実験ってことかな!」

「≪ホテル・アグスタ≫を下見してくるのよ」

「「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」」


ホテル・アグスタって……明日、護衛任務が入っている予定の!?

いや、恭文君もはやてちゃんのお願いで、まずはそこまではで……参加するのは確定している! でも、だからってどうして今ー!


「ヤスフミ、待って! それなら私も付き合うよ! 訓練だって一緒に」

「フェイトさん。…………アンタにとって、”それ”はそんなに大事なの?」


そんな恭文君の背中を睨み付けて、そう声をかけたのは、ティアナだった。


「それなりに仲良くなったエリオ達のことも振り切って……フェイトさんまでコケにしまくって」


あの、ティアナ……お話中申し訳ないけど、恭文君がどんどん遠くに……!


「それでも……って、ちょっとは止まりなさいよ! 振り返れ! 足を止めろぉ!」


恭文君は何一つ返すことなく、平然と地面を蹴り砕いてこの場から消失。

あははははは……怖い。ティアナを見るのが怖い……怖い……!


「あ、あの……ティア」

「…………なのはさん、訓練……しましょう」

「ティアさん……」

「なによ……分かってるわよ。
今の私は、私達は……肩を並べられるわけじゃないって。
あんな速度……支えてあげられるほど、強くないって」


…………恭文君に念話を送ってみる。まぁ、完全にシャットアウトされてるんだけど。


「勉強だってしてなかったし、アンタに比べると甘ちゃんだし。
そもそもアンタ、調べたいことがあって……六課は利用しているだけって、散々言ってたしね。
それで、面倒臭いツンデレとか言ってさ。慣れ親しんだふうに……変に、心を許した私達が悪い……えぇ、悪いに決まっているわよ」

「ティア、落ち着いて。あの、また後で話して」

「アンタにとって私達は、本当に……通りすがった程度なんだって……分かってたわよ!」


もちろん分かっているよ。恭文君は最初からこうするつもりだったって。

確かめたいことがあって、そのために六課が利用できると考えただけ。仲間になるつもりなんて最初からなかった。

だからなのはも、からかいながら……実はみんなには暗に言ってた。そういう気構えも必要だよーって。


だけど、それでもね……足りなかったみたいなんだ。


「だけど……それでもさ……!」


みんな、悲しそうだよ?

恭文君が一緒に戦ってくれなくて……どんなふうになりたいのかすら、話してくれなくて。

それじゃあ力になりたくても、応援したくても、どうしたらいいか分からないって……悲しそうにしている。


なにより私自身が、寂しくて……少し悲しく感じている。

少しずつでも歩み寄れて……違っていたけど、一緒に進めていたって……そう感じたのが、嘘だったみたいで。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


同時刻――時空管理局・本局

リンディ・ハラオウン総務統括官 執務室




エイミィやアルフは心配してくれるけど、仕事を放り出すわけにもいかない。お医者さんにもきちんと話をしている。

私は六課の後見人として……仕事を通し、去年のミスを取り返す必要もあるのだと。

そうしなければ、フェイトが……なのはさん達が……だから引けない、引くことはできないと、何度も念じながらペンを動かす。


……すると、執務室に、チャイムが鳴り響く。

慌てて涙を拭いて、声を整え……外にいるであろう誰かに応対。


「…………はい…………」

『お忙しいところ失礼いたします〜。私、スコット提督の紹介でお約束していた、武井仁と申しますが〜』


むいに……あぁ、そうだった。顔なじみの方なんだけど、なんとか……六課の支援をより強固にできないかと、相談していたんだ。

なので改めて涙を払い、もう一度声を整えて……。


「はい、えぇ……どうぞ」

『失礼しますぅ〜』


青い本局制服を纏って入ってきたのは、外側に跳ねたブラウンヘアーの女の子。フェイトよりちょっと年下かしら。

すっと切れ長な瞳で、ニコニコしながらもお辞儀。


「初めまして。武井仁・S・四菜(むいに・セルジオ・よつな)と言います〜」


……なかなかに長いというか、呼びにくい名前ね。いえ、失礼なことを思ってしまったけど。

ただ気になるのが、首や腕に軽い……包帯を巻いていて。


「こちらこそ初めまして。リンディ・ハラオウン提督です。
…………あの」

「あぁ、みっともないところを……最近趣味のアウトドアで、軽く転げちゃいましてぇ」

「そうだったの。こちらこそごめんなさい」

「いえ〜。それですね、お約束していた件ですが……ことがことなので、メールでのお返事も失礼とのことで」


彼女が恭しく出してきたタブレットを受け取り、スイッチを入れ確認……。


「こちらを……」


そこに映るのは、赤髪アップの子と、栗髪ロング・赤目の女の子と……ショートの男の子?

あ、いえ。プロフィールでは女性になっているわね。というか、ロングの子と双子……。


確かに切れ長な瞳や、顔立ちも似ているわね。


「えっと、武井仁・S・ウェンディさんと、武井仁・S・ディードさん、それに武井仁・S・オットーさん」

「はい、私の妹達なんですぅ」

「えっと……みんなランクはBランク。ウェンディさんは陸戦ランクだけど複合兵装でもあるボードで、サーフィンみたいに空戦も可能……」

「はいー。こっちのディードちゃんは二刀流……武装隊風に言えば空戦フロントアタッカーです〜。
オットーちゃんは逆にフルバック。電子戦の方を得意とするので、提督のご要望にも近いかと〜」

「確かに、このプロフィールなら……」


実際に資料映像もあるし、各種資格もバッチリ。

……六課はラプターの件も絡んで、明らかに手が足りていない。だけど、これなら……!


「でも……本当に大丈夫なのかしら。こんな中途半端な時期に、これだけ優秀な子達を……しかも妹さん達をお借りして」

「とんでもない! ……実は……この子達とは、血のつながりがないんです」

「え……」

「戦闘機人、ご存じですよね? 縁あって非合法組織から……。
それでもいろいろ難しい事情があったので、実は私達的にもとーっても助かっちゃってるんです〜」

「そうだったの……」


人と違う身体だから……人と違う力を持つから。そういう難しさは、フェイトのことだけじゃなくて、これまでの仕事で何度も痛感してきた。

そういうことなら、まぁこちらの都合で利用もするけど、できるだけ力になりたいとも思っていて……。


「分かりました。そういうことなら、こちらでも全力でサポートしていきます。幸い隊長陣はそういう事情にも理解が深い子達だから」

「ありがとうございます〜」

「ただ、あなたも聞いている通り、かなり厳しい状況なの。
だから……念押しになってしまうけど、本当に私達で」

「はい〜。あの子達もそれは理解した上で……自分達の力を生かしたいと言っていますので」

「……ありがとう。今言ったことは、私の名にかけて守っていくから。それは、絶対に」

「……はい」


…………これで、機動六課も多少動きやすくなる。最高の形で支援ができたと思う。

戦力がきっちり調っていれば……これ以上ないくらいに潤っていれば、ラプターの扱いについても理想を通せるもの。

それで、少しでも……失ったものを取り戻せる。そうよ、今は止まってなんていられない。


もう一度信じてもらうために……私は。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ああもう、なんて表現すればいいのかしらぁ。

もうね、どうしようもないほど……お・ば・さ・ん♪ 魅力的なところなんて、あの身体だけじゃない。

そんなにサンプルH-1を懐柔したいなら、あの身体で朝昼晩と搾り取ってあげればいいのにぃ。


まぁそれはそれとして……用済みなスコット提督には、私のラボで軽い実験台になってもらってぇ。

代わりにラプターの一つでも送れば問題ないでしょ。独身貴族だし、どうせ誰も気づかないわぁ。


「〜♪」


鼻歌交じりで本局から出て、地上本部へ。適当な裏路地に入り、そっと地面に引きずり込まれる。

そうして地下道へ降り立った私……その前に現れるのは、かわいい妹のセインちゃん。

水色ボブロングで、こう…………。


「セインちゃん、リンディ提督の爪の垢でも飲ませてもらったらぁ? そうしたらそのBカップも成長するわよ」

「よし、殺そう」

「ちょっと待ってぇ! 私、まだけが人! というか蘇生したてぇ!」

「だとしても許せるかぁ! ただひたすらに喧嘩を振りまいただけでしょうが!」


セインちゃん、拳を握らないで!? さすがに今は死ぬ! まだ蘇生したてなんだから! 本当に思いやりだったんだからぁ!


「全く……で、首尾は?」

「もうバッチリすぎて怖いくらい〜♪ 三人揃って機動六課に入隊よぉ」

「でもよくできたよねー。いくらあのおばさんが水面下で打診していたからってさぁ」

「そこはほら、ラプターや私達のことがいろいろバレたおかげよぉ。
……地球の方にもちょっかいを出したから、連中も脅威度を相当高く見積もったのよぉ」


”例の予言”に対応するのが機動六課のお仕事だけどぉ、現状だと中々に対応が厳しい。


「というか、サンプルH-1に好き勝手されまくっているしぃ?」

「クア姉とトーレ姉が、揃って手玉にも取られたしねー」

「問題はそこ……なのよねぇ。腹立たしいことに」

「マジ!?」

「サンプルH-1が面倒臭いのは、魔法や管理局のやり方に依存していないところよぉ。
もっと言えば……魔法や管理局システムとは違う側面から、戦闘や事件捜査を進められる」

「あー、そういや足跡でいろいろバレちゃったんだっけ? ルーお嬢様の年齢とか、姿見」

「……さすがに甘く見ていたと言うしかないわね」


だから虫タイプの召喚師で外見年齢十歳……そういう扱いで、指名手配もされている状況なのよ。もちろん私達もね?

まぁ私やトーレ姉様はともかく、騎士ゼストと自由行動しているルーテシアお嬢様は、ちょーっと厳しくなる感じで……実は困っているところで。


「ただまぁ、甘く見ていたのは本局も同じ。
幾ら対テロアドバイザーって名目があっても、一部隊の主導権を民間協力者に握られっぱなしは……体裁もよくない。
実際機動課の方では出張でゴタゴタした件で、六課の再編成を訴える声もあるくらいよぉ」

「あ、だから戦力層を厚くして、力押しでなんとかしようと」

「あの頭に角砂糖が詰まったおばさん提督は、そう考えているみたいねぇ。
それがあれば、ラプターみたいなお人形を生かして止める……局の理想通りに戦うこともできると」


そこでまぁ、つい……嘲笑を浮かべてしまう。


「”教え込まれた通りに”」


……まぁ、そこは別にいいわね。あんな頭がおかしいおばさん、私にはどうでもいいしぃ?


「だから今回のことも、三提督が水面下で筋が通るよう、手を回しているのよ。他の機動課にはまたいろいろ言われるでしょうけどぉ〜」

「でもさ、戦闘機人ってところ、明かしてよかったの」

「まぁ隠して処置するのは簡単だけどぉ……むしろ同情を買った方がやりやすいと思ってぇ」

「相変わらず性悪な……」

「その性悪のお仲間なのよぉ、セインちゃんも」

「へいへい、共犯者なのは重々承知していますよー」


セインちゃんは地下道をすたすたと歩く。それについていくと……セインちゃんはまだ疑問があるらしく、軽く頭をかき始めた。


「じゃあ、一番重要なとこ……なんでわざわざスパイを? 情報ならクア姉のISで……ついでにあの提督も使えるでしょ」

「ん……そうなんだけどぉ、どうせなら絶望する様が見たいじゃない?
味方から撃たれて、混乱のままに朽ちていく表情とか……最高よぉ」

「ほんと性悪!」

「むしろ恨んでいると言ってほしいわねぇ。……サンプルH-1に、散々やられたし……!」

「でもさ、アイツってモテるんでしょ? 三人揃ってハーレムとかなったらどうするの?」

「……………………だ、大丈夫よぉ……そんな、ねぇ」


いやいや、まさかそんな……あぁ、でもディードちゃんとオットーちゃんは冷静だけど、感情に揺らぎもあるしぃ!

ウェンディちゃんはセインちゃんと同じで調子に乗りやすいしぃ! いっそ感情封印……それもスパイとしてはアウトよねぇ!

特に今回は最後発なディードちゃんとオットーちゃんの最終教育……その手間をスキップする意味もあるんだから!


「よ、よし……姉として……テロリストの先輩として言い聞かせましょ!
むしろフラグは立てられるのではなく、立てて籠絡しちゃえーって!」

「それ、同じことじゃない?」

「……そう?」

「そう。というか、それなら手本を示して……クア姉が入隊して、フラグをどんと!」

「お断りよぉ! 私の理想は身長一八〇のダンディーなおじ様だもの!」

「うわ、初耳……そして意外……!」


……正直に言えば、私も不安はある。ただ六課……というより、サンプルH-1のやり口は想定以上に強烈。

それを間近で監視する役割も必要というのが、ドクターとウーノ姉様の判断で。私もそれには賛成……というか、反対できる要素がなかった。


……腹立たしいことに、負け犬には発言権がないということよ! まぁ見てらっしゃい! すぐに汚名挽回してあげるから!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七五年(西暦二〇二〇年)六月十日

ミッド上空・六課ヘリ内



アイツが賞金でほくほくーとか言って笑顔な中、六課に新たな任務が下った。

それは先日の出張任務終了直後、フェイトさんと八神部隊長宛てに……機動課から贈られた依頼で。


「本日の目的地は郊外にある≪ホテル・アグスタ≫。
そこで行われる、骨董美術品を扱ったオークションの警備だよ」


そんなヘリの中、副隊長なフェイトさんが私達に軽く状況説明。


「先日のスライムみたいに、取り引き可能なロストロギアが幾つも出品される予定でなぁ。
その反応を誤認したガジェットやラプターが出てくるかもしれん。そやからうちらが警備に回されることになった」

「この手のオークションだと、密輸取り引きの隠れみのにされる場合もありますし……結構油断できないのですよ……」

「だから本局機動課がわざわざと……」

「前日の夜からシグナム副隊長とヴィータ副隊長を筆頭に、交代部隊が数名警備に回ってくれとる。
私らはそれを引き継ぎ、オークション終了まできっちり護衛ってのが流れや」


……らしくもなく緊張してしまう。

だって、ラプターって……あれが出ることも視野に入っているんだから。


いや、当たり前だ。もう奴らがテーブルに出した札なんだから。どう使ってくるか分かったもんじゃない。


「私と八神部隊長、フェイト分隊長、恭文君は内部警備に回るから、外はフォワードと副隊長達、シャマル先生、ザフィーラの担当。
外の現場管制はフルバックで広域探査もできるシャマル先生が、しっかり腰を据えてやるから……指示には従ってね。ロングアーチもいるし」

「「「「はい!」」」」

「まぁ事件概要についてはこんな感じかな。何か質問、あるかな」

「はい」

「何かな、エリオ」

「中での警備が必要なのは分かるんですけど、どうしてそこに部隊長や隊長達が……あ、オークションの来場客に見えないですよね」


エリオは苦笑しながら自分の背丈を見た。それに倣うように、隣のキャロも自分の頭頂部に左手をチョコンと乗せる。

まぁ、アンタ達はねぇ。ただ疑問に関しては妥当だった。ほら、普通強い人を外に置くだろうし。


「そういや説明してなかったな。……犯人が中に入る言うことは、当然外で警備する関係者の目をくぐるか、打破するかせんとアカン。
でも外には副隊長達とアンタ達がいる」

「その場合……中に侵入できるとしたら、スキル内容はともかくそれなりの実力者になる?
本当に来たときのため、僕達ではなく隊長達が中なんですね」

「あそこにいて、オークション関係者を安心させるのも仕事なんよ」


肩書きと立場ってことかぁ。こういうとき、ネームドバリューは武器にもなるってわけね。……これも情報戦か。


「正直なのはやはやてちゃんは、屋内戦は専門じゃないし、シグナムさん達に代わりたいんだけどねぇ……。
でもホテルのスタッフやオークション主催者さん達、去年の騒動絡みで管理局そのものを嫌ってるようなんだよ」

「だからうちらがそれくらい力を入れてるーってアピールしておかないと、警備に差し支えるってわけよ」

「………………じゃあ、次の質問ー」


そこでアイツが……半笑いで……血走った目で手を挙げる。


「シャマルさんを殺しても罪にならないよね? うん、ありがとう。じゃあ殺すわ」

『ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

「なんでよ」


え、ちょっと待って! コイツなんなの! 疑問に思ってないんだけど! この異常な流れを何一つ。


「美由希さんが子作りだけでもとか言いだしたの、シャマルさんの影響らしいしねぇ……!」

『えぇ!?』


え、ちょっと待って。あれが……シャマルさんの!? さすがにあり得なくて、全員でシャマルさんをガン見。


≪えぇ、私のログにもありますよ。なんか……結婚とかは求めていなくて、時々恋人にしてくれるだけで十分とか≫

≪だったら自分もって感じで言っていたの。ジガンのログにもあるの≫

「シャマルさんェ……!」

「だ、だってそれは……私もいろいろあるのでー!」

「シャマルさん、じゃあ結婚式を挙げましょうか」

「え!?」

「ベッドの上で、チャペルの代わりに(ぴー)を打ち鳴らし、ライスシャワーの代わりに(ぴーぴーぴー)ですよ」


アンタは朝っぱらから、なにとんでもない下ネタを言っているのぉ!? ちょ、やめてよ! ちびっ子達もいるんだから!


「それがシャマルさんと美由希さんにとっての……結婚式ですよ。そういうことでしょ? 言いたいことって」

「………………そ、それは……それは嫌ぁ! 夢がないわよ! 台なしよぉ!」

「いいじゃないですか、遠慮せずに挙げましょうよ。そうしたら僕も許せる気がする」

「どういう誘い方や! ……いや、でも今回はアンタが正しい!」

「ですよねー! ……シャマルさん、本当にそういうことですよ!? ぶっちゃけるとそういうことですよ!?
完全に恭文の(ぴーぴーぴーぴー)で(ぴーぴー)ということなんですから!」

「違うの! シャマル先生、もっと大人で、ムーディーで……夢のある方向を求めていたのぉ! それだけだったのぉ!」

「「夢などあるわけがない!」」


うわぁ、スバルと八神部隊長、凄いシンクロ……でもとんでもない単語を連呼しないでよ!

一体どこからそんな知識を……彼氏!? いたらしい彼氏から!?


「全く……シャマルは相変わらず駄目駄目なのです。
その点リインは、心の結婚はしたので大丈夫なのですよー♪」

「リインちゃんに先を越された!?」

≪なお美由希さんも先を越す形ですよ。今の身も蓋もない表現をぶつけられて、さすがに猛省しましたから≫

≪士郎お父さんと桃子お母さんにも説教されて、ガチで花嫁狙いに行く覚悟なの。シャマルさん、甘さに流されている間に出遅れたの≫

「そんなー!」

「でも心の結婚…………恭文君、リインとは……その……!」

「海鳴で、楽しくお泊まりデート……なお健全に」


あぁあぁ……フィアッセさん達といた間のことか。それでリイン曹長はご機嫌と……。


「というか恭文さん、フェイトさんには言及しないのですか?」

「だって……ハラオウン執務官は脳みその代わりに藻が浮いた水が詰まっているから。もう仕方ないよ」

「ですね」

「どんな哀れまれ方!? というか、入っていないよ! ちゃんと脳みそがあるからー!」

「嘘をつけ……歩くたびにチャプチャプって音がするよ。後は藻の匂いがあっちこっちから」

「え、嘘! しないよね……しないよね! 磯臭いのとかないよね!」


フェイトさん、必死に頭を揺らさないでください! 匂いも嗅がなくていいですから!

というか絶対嘘でしょ! 人間としてそんな状態、間違いなく死亡状態……というか死んでしまえって宣言しているでしょ!


「それより、はやて……」

「なんよ……というか、エロ狸報酬もマジ頑張るから、フェイトちゃんをあんまからかうのは」

「おのれ、隠し事をしているでしょ」

「――――!」


コイツ、好き勝手した挙げ句早々に喧嘩を…………って、隠し事!?

しかもなによ……八神部隊長、マジっぽいんだけど! 顔が青ざめているし!


(第21話へ続く)





あとがき

恭文「というわけで……実は間に19.5話があるけど、本編を進めるためにもこちらから。
同人版崩壊ルートでもやったトラップが仕掛けられる中、六課は果たしてどうなるのか。崩壊ルートは避けられるのか。運命のホテル・アグスタが始まります」

古鉄≪これによりティアナさんは暴走し、ライバル事務所へ入り……オーバーマスターをうたうわけですね≫


(『物語が変わっているじゃないのよ!』
『というかそれ、美希のことだよね! でも貴音と響もうたってたんだよ!? この間の感謝祭では玲音と詩歌も一緒!』)


恭文「でもホテル・アグスタは楽しいよー。トラブルとドンパチを詰め込める闇鍋だよー」

フェイト「詰め込んじゃ駄目だよ!? こう、平穏無事に終わってもいいと思うんだ!」

恭文「捜査が進展しないでしょ……」

フェイト「メタいよ!?」

古鉄≪いつものことですよ。……しかしもう二月……バレンタインデーももうすぐですね≫

恭文「だね。僕も今年の準備に入らなくては……」

フェイト「私もだね。うん、りんちゃんやジャンヌ達に負けないように、絞っていくんだから」

りん(アイマス)「なんの! あたしが一番を狙うんだから!」

響(アイマス)「それは駄目だぞぉ! や、恭文とは……自分が……」

恭文「落ち着け!? まずチョコから入ってよ!」


(古き鉄のバレンタインデーは、お世話になった人とかに贈り物をする日です。
本日のED:『草加が何か企むときのBGM』)


恭文「ディードが出るぞー! 出番が増えるぞー! クアットロ、殺すのは最後にしてやろう」

クアットロ「全然嬉しくないんだけどぉ!?」

ディード「恭文さん、このときから私は大人なので……大人として、扱っていただいて問題ありません」

セイン「いや、問題大ありだから。というかそこに至る経緯がないでしょ!」

恭文「ドンパチが必要ということか……しかし、ディードを傷付けるようなことはぁ!」(そう言いながらスタンガンなどを大量用意)

セイン「武装準備しながらそんなこと言うなぁ! 悪魔なの!? やっぱり悪魔なの!?」

恭文「それは横馬」

なのは「悪魔じゃないよ! いや、A'sでは認めたけど!」


(おしまい)






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