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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第19話 『機動六課の出張/PART5』


くそ、やってくれる……! だから豆柴にも手伝わせたんだけど……いや、まだだ。

まだ楽しいゲームは終わっていない。懐から青いスマホを取りだす。

背部の≪フルボトルスロット≫に、≪ライオンフルボトル≫を装填。


そのまま軽く放り投げると、スマホ≪ビルドフォン≫は回転しながら二メートルほどに大型化。

ボトルスロットも兼ねたプロテクターから後輪がせり出し、ボディが二つ折りに変形。


≪ビルドチェンジ!≫


前輪やマフラー、カウル、ハンドルなどが一瞬で展開。差し込んだボトルをテイルノーズとした上で、青いマシンビルダーが僕達の前に降り立った。

ふふふふ……仮面ライダービルドのバイクだよ! 色違いだけどね!

ビルド本編を見てから、便利そうだから作っておいたんだ! なおデバイスの形状変換を応用したから、全くの破綻なし!


「バ、バイク……どうやったの!?」

「話は後」


オフロードタイプの車体に跨がり、更にマシンビルダーのフロントカウル内側……液晶コンソールをタッチ。


(あの速度、逃げた方向、更に海鳴の地形を鑑みて、”転移まで”潜伏できそうな場所をピックアップ――)


速度は圧倒的。殺したわけじゃないから迷彩もかかる。だけど”手がかり”はある。

追想し、共感し、想定し、そして実践する。

…………マップとにらめっこして数瞬……見えた答えをグラーフアイゼンに送る。


”ヴィータ、聞こえる!? 今から指定するエリアに広域結界を展開して!
聞き返しはなしで大至急! そっちに二人逃げた!”

”…………データは届いた……今から展開に入る!”

”お願い!”

”だが、二人ってなんだよ!”

”それも今から説明する!”


この位置で問題ないはずだ。あれはハラオウン執務官の真・ソニックとほぼ同速度。

でも瞬間移動ができるわけじゃない。確かに結界外には逃げられたけど、まだ……まだ手はある!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


窮地の私を救ってくれたのは……紛れもなく姉だった。

まぁ生まれた順番が違うだけの関係だけど。それはとても有り難いことで。


「全く……調子に乗るからだ、馬鹿者」

「で、でも助かりましたぁ……!」


そう言いながらも、震える手で……IS≪シルバーカーテン≫を展開。

トーレ姉様も機動を落としてくれたので、銀幕は問題なくかかり、私達は不可視の存在となる。


「…………聞いてくださいよ!
アイツ、平然と殺しにかかってぇ! しかもテロリストに人権がないとか……いででででで……!」

「怪我をしているのに喋るな。
というか……我々の立場を考えると、至極最もな発言だぞ」

「あれ…………?」

「むしろお前が非常識だ」

「あれ…………!?」


いや、確かにそうだけど……でも悔しいー! しかもこんな美女を捕まえて、メガネザルとか抜かしてくれたし!


「とにかくお遊びはここまでだ。ルーお嬢様も近くにいるし、安全な位置からミッドに戻るぞ」

「……は……はい……」

「活動は問題ないようだな」

「急所は、ギリギリ外れているので……その、抜いてもらえるとぉ」

「我慢しろ」


そんな無慈悲な……と思っていると、空に結界が展開される……!


「出血多量で機能停止にはなりたくないだろ」

「まだまだ、逃がしてくれる感じじゃない……!」


私達は見えていないのに……いえ、移動速度と方向から位置を推察した?

小虫程度の脳みそで、よくもまぁ……!


「……なんと愚かなことを」

「トーレ、姉様……」

「ただの人間が戦機の我々に勝てるはずがないと、どうして理解できないのか」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヘルメットのアプリを二回クリックすると、リアシート上部に内蔵されていたフルフェイスヘルメット二個が出現。

豆柴が慟哭する中、そのうち一個をほうり投げる。


「――!」

「こい!」


豆柴はハッとしながら受け取り、飛び乗る。

僕もヘルメットを装備。なおファルケがなくても問題はない……!

歯車型のパーツが組み込まれたフロントライト≪フロントギアライト≫は、サーマルセンサーやナイトビジョンなどを搭載していてね!


物陰に隠れた敵だろうとバッチリ捉える高性能! ぶっちゃけファルケより性能がいい!


「しっかり捕まっててよー!」

「うん!」


エンジンをかけ、歯車式のフロントカウルが軽く振動。

なぜか後ろから抱きついてきた豆柴は気にせず、ギアを入れ、アクセルを捻り……大至急加速!


『ヤスフミ……どうして指示を守ってくれなかったの!? 敵だからって……こんなの、間違っているよ!』

「はやて、犯人だけどさ……」

『ヤスフミ、聞いて!』

「逃げられた」

『いいからまず私の話を』

『ちょ、逃げられたってどういうことよ!』

『ふぇ!?』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『――――――しかもあの能力発動のテンプレートは……』

『…………戦闘機人、だよね』

「――――――!」


そのワードに、息を飲む羽目になった。

だってそれは……ナカジマ家にとって、因縁ある事件のキーワードで。

だからスバルも気づいて、困惑した表情を浮かべていた。


今なおスバルが、ギンガさんが、ゲンヤさんが……癒やせないでいる傷跡だったから。


「……すみませんでした!」


するとエリオとキャロが、画面のコイツとスバルに平服……。


「僕達がしっかり対応していれば……捕まえられたかもしれないのに!」

「ごめんなさい!」

「エリオ、キャロ……みんなは悪くないよ。ただヤスフミを心配していただけなんだから」

『悪いけど構っている暇はない!
……ヴィータ、H-7ポイントからおのれの結界に突入する! しっかり維持しててよ!』

『分かった!』

「それよりヤスフミ、どうして私達のこと、ちゃんと信じて待ってくれなかったの? そうすればきっと…………突入!?」


え、ちょっと待って。よく見たらなんか、風の音が入っていない?

というか…………今更だけどコイツら、なんかバイクに乗ってるんだけどぉ!


「……アンタ達……まだ追いかけるつもりなの!?」

『ざっつおーらい』

『というか追いかけてる! ヴィータ副隊長が逃亡した方向に、結界を張ってくれたから!』

「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」」


ちょっとちょっと……何を考えているのよぉ!

相手はオーバーSクラスで、フェイトさん張りの高速機動で逃げたって言うのに!




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


急げ急げ急げ……!


≪The song today is ”Must Be”≫


結界の中、エンジン音とサーチ用の音楽を響かせながら、無人の道路を走る。

カーブを曲がり、山間に入る道を根ざして全力疾走。

幸い海鳴は何度か来たことがあるから、土地勘はバッチリ! アイツらが山の方に逃げたってのもしっかり捉えている!


あとは相手にかけたプレッシャーで、どこまで目くらましができるかだ!


「……恭文、そのまま真っ直ぐ走って!」

「分かった!」

「ウィングロード!」


すると豆柴が魔法陣を展開し、ウイングロードを伸ばす。それに乗っかり、途中のビルや路地を飛び越えてうーん、これは気分がいい!


『ヤスフミ、スバルも戻ってきて! 二人だけなんて危険だよ!』

「却下だ! 今ここで追撃しなきゃ、いら立ち混じりに町を攻撃されかねない!」

『ヤスフミ!』

『恭文くん、指示に従いなさい! これは命令違反よ!』

『……シャマル、それも違うぞ。今指揮を執っているのは蒼凪だ』

『そうやで。ちゃんとやり取りしたやろ』

『そ、それは……でも!』


シャマルさんは甘いねぇ。すっかりハラオウン執務官に絆されて……まぁどうでもいいや。

今大事なのは、ここでショーが楽しめるかどうかってところだもの!


『蒼凪、捕まえられそうなのか』

「ギリギリですね! なのでシグナムさんは後詰め!
横馬はB-2ポイントから結界に入って! そっちに逃走しているはずだから!
ヴィータとリインは結界内の状態観測に徹して! 違和感があれば全員にすぐ報告!」

『了解した』

『『『了解(です!)!』』』

『だから、二人だけなんて駄目だよ! いいから戻って! 結界でまた閉じ込めたなら、陣形を整えて』

「結界突破能力持ち相手に、間に合うわけないだろ!」


そんなことも……まぁ分からないんだろうね! 甘さゆえに指揮官適性が全く見受けられないだろうし!

何より完全に無謀かと言われると、そうでもないんだよね……!


≪それに勝算はあります≫

「勝算!?」

≪戦闘機人の固有能力のIS≪インヒュレートスキル≫は確かに強力です。
でも基本一人に一つだけ……それも先天的なもので、発現するかどうかも割りとギャンブル≫


つまり一芸に秀でた≪ワンスキルホルダー≫だ。その手の特異能力特化型との相手は、去年散々やったから……というか、ドーパントで慣れっこだしねぇ!

あいにく人生の必須スキルだよ! それで僕相手に一芸を披露しておいて、おめおめ撤退or第二戦が通用すると思うのも大間違い!


≪だからこそ手札のほとんどは見えているんですよ≫

「……そうか! 電子戦と、それを助けたフェイトさん張りの高機動!」

『どうやって地球に来たかという疑問が残りますよね! つまり……もう一人いるかもしれない!』

『だったら余計に危険じゃない!』

「だからこそギリギリまで追い詰めるんだよ!
すかしっ屁のテロを防ぐためにも! 今後のゲームを有利にするためにも!」

『イカレてるし……!』

「なに言ってんだか!」


カーブするロードに合わせ、車体を傾けながら鋭く抜けていく――!


「こんな楽しい遊び、そうそうないっつーの!」

≪そういうことです≫


ほんと楽しいねぇ……ここで一気にケリを付けられるかどうか、その瀬戸際ってわけだ。


次元間転移は、個人でやるなら儀式魔法の領域! 機械的装置も、転送ポートみたいな大型なものが関の山!

というか、座標軸の安全な固定なども絡んで、相応に時間もかかる!


上手くいけば押さえられるし、最悪でも転移反応という証拠で追いかけることもできる!


「リイン、ヴィータ! 状態は!」

『光学映像で探査しているですけど……ああもう! やっぱり途中から迷彩をかけているです! ヴィータちゃんは』

『こっちもだ! 全然掴めねぇ! お前ら、下手すれば不意打ちを食らうぞ!』

「だから仕込み次第!」

『仕込み……?』

「じゃなかったら、こんな無駄会話に付き合わないって」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……ルーテシアお嬢様、申し訳ありませんが詠唱に入っていただけますか。すぐに追撃がきます」

「お、お願いしますぅ…………」


もうここは抵抗しても意味がない……というか説得力もないので、止まるしかなかった。

でもサンプルH-1……許すまじ! 今度会ったら、メガネザルというところだけは絶対撤回させて…………その瞬間だった。


背中が熱い。

指された痛みとは違う熱……それで苦悶の声を上げた瞬間、それは爆ぜた。


刃が身体をうちから抉り、散弾となって飛び散り……トーレ姉様を……そして私を深く貫く。


「「――――――――!」」


声にならない声を上げ、私達は姿を消すこともなく…………小汚い町の、小汚い山に落下。

幾つも枝葉を掠め、へし折り、全身がボロボロとなり、土まみれいなりながら転がって……。


「これは……ばく、だん……」

「はぁぁ…………あぁぁぁぁあ……へぁぁあぁあぁぁぁあ………………」

「ルーお嬢様……申し訳、ありません……救援を……転送、を……!」


いたい……痛い痛い痛い痛い……痛いぃぃぃぃぃ! 骨格フレームが、肉が抉れて……なんで、こんな目にぃ……!

わだひ……わだ、わだは、ただ……プチプチって……ゴミ虫を潰して、楽しもうとした……だけ、なのにぃ………………。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……予想よりやや左寄り……山道から外れた獣道の真上。

そこで小さな爆発と音が響いたのをチェック。


「ビンゴ……!」

『こちらもサーチャーでチェックできたです! 海鳴山岳地帯……F-4ポイントで爆発を視認!』

『アイゼンも掴んだ! 迷彩も解けて行動不能……てめ、なにしたんだよ!』

「こういうこともあろうかと、奴に突き刺したダガーには術式を仕込んだ。時限式で爆発するものをね」

≪いつものことですね≫

『おぉそうか! それなら…………っておい!』

「二人とも、容赦なさすぎない……!?」


全く……豆柴は甘いなぁ。それじゃあ彼氏もできないってのに。


「スバル、テロリストってのはね……物質を取り込み重機とかと合体する上、宇宙空間に飛ばしても平然と戻ってくる奴らなんだよ」

≪これくらいじゃ全然足りませんよねぇ≫

「そうそう」

「そんな常識みたいに言われてもぉ!」

『…………頼む……お前らは運が悪いだけだって認めてくれ。それは一般常識にしちゃ駄目なんだ……』


ヴィータが失礼なことを……まぁそれはさて置き、左手でマシンビルダーの液晶コンソールを操作。

フロントギアライトの光学センサーが稼働し、視界内にサブウィンドウを展開。そこで落下地点をズームアップ。

土煙が晴れていく中、見えるのは……例の眼鏡と、同型のタイツスーツを身につけた大柄女。


蒼髪に、金色の瞳。土汚れと血に塗れながらも、立ち上がっていた。眼鏡の方は……背中が抉れて、活動不能か。狙い通り……!


「それよりほら! 敵の映像だ! どっちも女! 大柄な方が高速移動持ち!」


フロントカウル内側のコンソールを操作して、自動走行モード発動。

一定速度で走る中、バランスを取りつつ……アルトの収納空間にしまっていた武装を取り出す。

メーター付きのグリップに、ドリルのような刃。そう、ビルドの武装≪ドリルクラッシャー≫!


もうね、デザインが最強にカッコよくてさー! デバイス技術の応用で作ったんだ!


「ドリル!?」


そんなドリル≪ドリスパイラルブレード≫を取り外し、柄部の接続装置≪コネクトランサー≫にブレード先端を差し込むようにセット。

ちょうどメガフォンのような形状とナルけど、これでガンモードの切り替えは完成!


≪でも蒼髪の方はまだ動けるっぽいですね……≫

「なんとかする! 豆柴!」

「OKー! 左に二十度方向転換!」

「よーそろー」


空の風をなびかせ、青い道の上をひた走しりつつカーブ。

道を真っ直ぐに伸ばし、ただ前に……ドリルクラッシャー・ガンモードを構え、起き上がろうとする蒼髪を狙う。

…………と思っていたら、こちらに飛来してくる無数の影。それも小さい小型のものだった。


ファルケでその形状を記録しつつ、左手にドリルクラッシャーを持ち替え、アクセルを捻って加速!


「豆柴、フィールド出力最大!」

「うん!」


術式詠唱――など、今回はする必要なし。

液晶コンソールをまたまた操作し、フロントギアライトの攻撃機能を起動!


「歯車ビーム!」

「…………なにそれ!」


歯車型パーツから放たれたのは、銀色の回転光刃。

更にドリルクラッシャーのトリガーを引くと、ドリル部が回転。その根元の銃口から加速光弾が連射――。


連射される刃と光弾の圧倒により、小さな襲撃者達は尽くが斬り裂かれ、または撃ち潰される。


その爆炎を突き抜け、奴らとの距離は残り二百メートルを切った。こちらに振り向く蒼髪に向けて更に術式詠唱――そして発動。

もちろんドリルクラッシャーでの加速光弾もけたたましく放つ。

なお、その狙いは蒼髪が二割……残り八割は、当然ながら眼鏡だ。


弾丸が一発、また一発と眼鏡の太股や尻を貫いたことで、蒼髪は咄嗟に眼鏡を庇い、両手首から黄色いフィンブレードを展開。

小羽祢のようなそれを大きく広げ、こちらの弾丸を尽く防御してくれる。


まぁ距離もそこそこ遠いから、半分近く外れちゃっているけど……でも問題ない。


≪Stinger Snipe≫


牽制射撃による目くらましで足が止まったその背後に、スナイプが木々をかいくぐり鋭く回り込む。

蒼髪は咄嗟に右へ回避しようとするも、それを見越した機動変更により……後頭部へ鋭く命中。


「……!」


距離が残り百メートルに迫りつつある中、蒼髪は……その頬に光条を掠めながら、目を見開く。

なぜなら殺傷設定オンで発動したからねぇ。頬を斬り裂く痛みと走る鮮血に、こっちの本気を察したようだ。


(アレを避けるか……!)


いい反射神経なので、最高に楽しくなってしまう。でも逃がさない……そのまま釘付けにした上で、クロスレンジに。


「………………………………!」


そこで、嫌な予感が走り、全力急ブレーキ。

更にフロントカウルを太股で挟み、持ち上げるように体重稼働。

それにより後輪が持ち上がり、ジャックナイフ――!


車体が急停止する中、次々とこちらに光弾が飛んで来た。


『…………恭文さん!』


直ぐさま身とアクセルを捻り、前輪を軸に回転――。

そのままドリルクラッシャーのトリガーを引き、紫の光弾を寸前で次々と撃ち落とす。


更に最後に飛んで来た弾丸は、後輪の回転でかき消すように粉砕。


「ひゃああああああああ!?」


その爆炎を払うように、車体は残り五十メートルというところで一回転して完全停止……とは行かなかった。

弾丸の余波でウィングロードが破砕し、僕達は地表へと勢いよく投げ出される。


「ああああああああああああ!?」

「捕まってろ!」


咄嗟にマシンビルダーから飛び降り、豆柴を背負いながら両足に魔力を纏わせる。

そのまま虚空を踏み締め、滑りながらドリルクラッシャー・ガンモードを乱射。

まだまだ放たれていた弾丸を撃ち抜きながら、更にスティンガーを再び眼鏡に射出。


反撃に移ろうとしていた蒼髪は、眼鏡をカバーしフィンでスティンガーを両断。

蒼の粒子が舞い散る中、その足がしっかり止まる。


……さて、今のがテレポーターの攻撃なら、詠唱が止まった可能性大。

眼鏡は役立たず。蒼髪は負傷して本領発揮も難しい。あとは眼鏡への攻撃を交え、足を止めつつ立ち回って……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


コイツ、容赦なくクアットロを殺しにかかっている……! 私がカバーするのも見越した上で!

クアットロはもちろんこの程度では死なないが、それも知った上で攻撃されるのは厄介だ。

奴も戦闘機人システムについては知っている。それはつまり、”蘇生できないほどの傷を負わせることもできる”ということだ。


今クアットロを殺されるのは困る。クアットロのIS≪シルバーカーテン≫は、ドクターの計画にも必要な鍵だ。


(……まさか、それも私の反応から見越しているというのか……!?)


局の魔導師などとは根っこから違う。我々を本気で、殺してもいいと……なんの問題もないと思っている。

万全の体勢なら、こんな人間如きに我々戦機が負ける理由もないというのに……!


えぇい、言っても仕方ない! ここは時間を稼いで。


”トーレ、大丈夫……動かないで”


だがルーテシアお嬢様の声が届く。更に私達の足元にテンプレート展開……。


”今のはガリューの攻撃……だから、間に合った”


そうして私達は一瞬で光に包まれ、この未発達な世界から姿を消す。

たかだか人間にここまで追い詰められた屈辱を抱え……苦虫を噛みつぶしながら。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さぁこれでゲームは振り出し……と思っていたけど、僕の読みは甘かった。


奴らが横たわる場所に、”十字の魔法陣”が展開。

ディープパープルの輝きがゆっくりと回る中、その姿が消失。魔法陣も後を追うように消え去った。


「くそ……!」


ドリルクラッシャーを仕舞いながら、つい苦い顔をしてしまう。

豆柴は新しいウイングロードを展開したので、その上に下ろしておく。


『強力な転送魔法の反応……目標ロスト!』

「こっちも目の前でやられた。大丈夫、アルトとスバルともども無事だ」

≪リインさん、追跡はどうですか≫

『駄目です! 次元間転送なのは分かるですけど、それ以上は!』

「しかしあの速度……いや、問題はそこじゃないね」

「そうだよ! あの魔法テンプレートって……!」


なるほど、さっき襲ってきた小さいのも……一応確認はするか。


「アルト」

≪記録映像は撮れていますよ≫


アルトが展開したモニターを確認。

……映っていたのは、レドームのような身体に手足を持った……小さな虫だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


どうやら、アイツとスバルは寸前で取り逃がしたらしい。転送の……本当にギリギリのタイミングに間に合わなくて。

アイツは地面に降りて、倒れたバイクを……というか、バイクが変化したらしいスマホを拾い上げ、軽く土を払う。


『まぁ敵の情報をかなり仕入れられたのは、喜ばしいですけど……捕まえたかったですね』

『ナイフを抜かれないって賭けには勝てたしね』

『あ、そうだよね! 抜かれてたら駄目だったよ!?』

『そこも予測済み。……まぁ、抜かなかったことで冷静な脳筋ってのは分かったけどさ』

『これで高速移動持ちに、こちらの術式を察知するほどの慎重さや能力……治癒技術などがないのも判明しました。
かといって無謀でもない。まぁあの状況で、”助けに入っていけるだけの能力と自信”があるなら当然ですけど』

「アンタ、抜かれる心配もないって分かってたの……!?」

『ざっつおーらい・ぱーとつー!』


あー、そっか! 救助隊の仕事やら、訓練校の実習でも教わったわ!

身体に刺さった刃物や破片を下手に抜くと、周囲の血管や組織を更に傷つけ、出血多量を引き起こすってね!

だからそういうときは刺さったものをあえて抜かず、その周囲を縛り上げるなりして、出血量を極力抑えて運搬が基本なの。


だから高速移動持ちも冷静に対応して、逃亡を優先したんだろうけど……でもねぇ!

そこを狙っての殺傷トラップは性悪すぎるでしょ! コイツ、やっぱり少し手段を選んだ方がいいと思うわ!


『けど、やっぱりテレポーターかよ……!』

『ただのテレポーターじゃない』

『どういうことだ』


更に映像が送られてきた。それは転送魔法が発動したときのもので……四角形の、輝くテンプレートが映っていて……!

というか、他にも……なんか小さな虫みたいなのが飛んでいるのとか、光の弾で攻撃されるのも……!


「ちょっと、これ……!」

『……召喚魔法か!』

『そっちのは小型の召喚獣……虫タイプのと契約している奴だ。
光弾は恐らくまた別の奴が攻撃している。詠唱中の自衛も兼ねているね』

「キャロ、召喚ってそんなことまでできるの!?」

「……優秀な召喚魔導師であればあるほど、転送魔法の達人と考えてください」

『ここにはいない存在を引き寄せる魔法だからね。むしろ通じていなきゃアウトってわけだ』

「そういう、ことか……!」


かなり荒っぽい手は使ったけど、それでも……ああもう! そうよそうよ……コイツの指示通りよ!

ラプターの動きを考えれば、背後の存在がいるのは明白!

その捜索も兼ねて、戦力を分散! ベテランに面倒なのは任せて、私達は遊撃に回るべきだった!


しかも陸戦魔導師の小回りなら、細かい路地裏とかも探査しやすい! 相手がジャミング持ちなら余計によ!


「ごめん……」


だから、自然と謝ってた。右手で頭を押さえて、猛省しまくりで首を振って……。


「アンタの言う通りだった。私、自分のことしか考えてなかった……!」

『あとの祭りだ。……これで逃がした奴らが誰かしら殺したら、それは僕達が殺したも同然』


また軽く言ってくれる……ううん、でもこれは嫌みじゃない。私が背負うべきことだった。


『まぁ安心しなよ』

「あの、ヤスフミ……待って。それは違うよ」

『おのれや僕達だけじゃなくて、管理局に所属する全ての人間が一緒に背負ってくれる』

「ふぇ!?」

『そういう“手遅れ”なのも覚悟でやる仕事だもの』

「……そう、みたいね」


それでまぁ、大丈夫だと。覚悟はいるけど……それでも手遅れなことを止める意味はあると告げてくれる。

……それはみんなで背負うものだからと、嫌がりもせず……だからつい、ため息交じりに笑っていた。


「それは、改めて決めるわ。救助隊出身だし」

『だったねぇ。……でも、正直早めになんとかしないと……被害が大きくなりかねない』

「それこそ生死を問わず?」

「あの、待って……」

『ただの光学迷彩じゃない。サーチャーの複合サーチまで誤魔化していたしね。
電子戦にここまで特化しているとなれば、施設が攻撃された場合もほぼほぼ無力化……。
そのうえ詠唱速度にも長けた転送魔法のエキスパートがいるとなれば……嫌なパズルだ』

「だから……話を聞いて! 六課にいる間は……ううん、これからもそういうのは駄目だよ!
ちゃんと、戦っている相手にも耳を課向ける勇気を持って! そうして、名前で呼び合えたら……きっと」

『…………だったら、スカリエッティとも分かり合えるんだろうな』


………………それは立派な疑問点だった。


「まって、それは」

『まさか“あの男は違う”とでも言うつもり?
おのれが局員だというのなら、アイツがなんであろうとそうして当然だよ』

「…………」


特にスカリエッティは、プレシア・テスタロッサとも繋がりがある因縁の相手。

それにすら手を伸ばせなければ、フェイトさんは矛盾している。

ただ都合よく奇麗事を言っているだけだと……だから、言ってほしかった。そのつもりだって、言ってほしかった。


相手は誰かなんて関係ない。自分はそうすると決めたからって…………でも。


「だったら……だったらヤスフミは……!」

『僕は六歳のとき、幼なじみの一人がガイアメモリ絡みの陰謀に巻き込まれて、敵になったし……殺し合ったよ』

「え……!?」

『ウィザードメモリもそのときに手に入れたものだっつったでしょうが。
でも僕は一切迷わなかった。裁くのは僕じゃないし、最悪殺すことになったらそれは僕の身勝手で未熟だってね』

「…………」

『でもお前は違うらしいね。
他人に理由があれば殺してもいいって思える異常者だ』

「……!」

『恭文くん、やめて! フェイトちゃんはそんな子じゃ』

『だったら身内のかばい立てなんかに頼らず、答えれば済む話だろうが――!』


そこまで言われたら、止めようとしたシャマルさんも、私達も何一つ言えない。

フェイトさんが違うのだと、そう話せばいい。でも……。


「……………………」


フェイトさんは、言いよどんでしまった。

答えることを躊躇ってしまっていた。違うとも言えず、そうだとも言えず。


『……ほんと中途半端な奴』


だからアイツはまた舌打ちして……。


『僕はお前みたいな奴を知っているよ。鳴海荘吉って言うんだけどねぇ』

『……恭文、そこまで』


……すると、そこで琴乃の声が……そっか。見かねて止めに来てくれたんだ。


『いら立つのは分かるよ。でも駄目。そんなの八つ当たりだ』

『……どっちがよ』

『それでも引いて。もう十分だから』

『……』

『お願い』

『……はやて、スバル達への説教もいらないから、たっぷり労ってあげて』

「え……」


かと思っていたら……アイツは、私達については庇ってきて……。


『というか、仕事としては十分に果たしているでしょうが。
みんなはロストロギアなどなどをきちんと対処する。僕は四人だけじゃあ難しいものをなんとかする。……そうだよね』

『あぁ……うん、そうやな。ドタバタしてもうたけど、アンタに依頼した通りや』

『向こうが四人を狙ってきていたから、結局僕の指示は無意味だったしね……。
そこは不手際だったし、また対策を考えようか』

『……ん、そうやな』

「恭文さん……!」

「くきゅー!」

「なら……このまま、私が素敵なレディになったら、約束は守ってくれるんですね! よかったー!」

『あ、うん…………』


あれ、キャロの安堵がおかしい! というかそれって朝に言っていた……アンタ、キャロとは話した方がいいわよ! さすがに怖いから!


『あ、あのね……キャロ、それは、また改めて……話し合おうか。
おのれはまだ小さいし、いろんな出会いもあるから。僕もそれをね、そういう約束で縛るのは嫌なんだ』

「分かりました。ならその辺りは常時、気持ちも含めて確認し合うということで」

『あ、はい……!』

『だから言ったのに……!』

『琴乃ぉ……!』

『むしろ感謝しようか。フェイトさんにここまで言っておいて、好感度に陰りがないんだし』

「それはもう、全く!」

「くきゅー」


いや、ほんとそうよね! でも話し合おうとするだけいいわ! それでキャロを弄ぶ心配もないから……ほんとねぇ!


『それよりほら、落下ポイントの保全や証拠品集めを』

『了解……ヴィータ達が付くまでに、上手くやっておく』

『お、おう……あの、頑張れよ?』

『うん……!』


そうして通信終了……というか、琴乃が強い……! 話進めて、纏めちゃったし。


『……琴乃ちゃんがアイドルやなかったら、専属補佐官として引っ張るところなんやけどなぁ……!』

『えぇ。蒼凪の制御もしっかりできるようですし。……さっきは助かったぞ』

『いえ。……ただ、フェイトさんが答えられなかったことは、ちゃんと考えるべきだと思います』

『……蒼凪が一番嫌うことだからな』

「…………私の、せいなの?」

「フェイトさん……」


そしてフェイトさんは、動くこともできず……瞳に涙を浮かべる。


「うん、私の……せいだよね……。
だって、言えなかった……スカリエッティが相手でも変わらないって……言えなかった……!」

『フェイトちゃん……』

「私、本当に……どうして……!」


……私達も何一つ言えなかった。

というか、突きつけられた。本当に改めてよ。

奇麗事を言うのは簡単だけど、だったら自分は貫けるのかって……でも、ちょっと待って。


アイツ、六歳で幼なじみとか言っていたわよね。……どういうことよ! そこだけちょっと、ちゃんと聞きたいかも!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


豆柴のウイングロードで、近くに降りて……ビルドフォンも状態チェック。


「恭文、それって」

「問題ない。衝撃吸収素材でできているもの」


画面割れ一つないのを豆柴に見せた上で、少し歩いて……落下ポイント周辺。


トラップなどがないのを確認した上で、モニターを展開。

ファルケ越しに確認にしていた映像を、もう一度……転送される前後だ。


…………この魔法陣は、やっぱり……キャロのものと近いけど、差異が見受けられる。ベルカ式ベース?


「恭文……」

「……召喚師がいるとなると……いろいろ考えられるところが出てくるね」

「……そうだね。というか、テロの観点から考えると……やっぱり危険なの?」

「僕自身テレポーターだからね。そりゃあもう……機動六課隊舎内で言えば、寮とか駐機場とか、オフィスにガジェットを飛ばしてどっかんどっかん」

「それは怖いよ……!」

「それよりも電子戦の眼鏡を殺れなかったのがキツい」


ISが先天性……能力ガチャだっていうなら、あの手の奴は率先して排除しておきたかった。

なお非道とは言うことなかれ。それにより生み出される甚大な被害を想像したら……もうね。


「ただの迷彩能力ならまだいいけど、シャマルさんとクラールヴィントのセンサーをくぐり抜けるとなるとね……」

≪実質、中央本部クラスのセキュリティでも捉えられるかどうか……そんな脅威度ですよ≫

≪そこまでなの……!?≫

≪情報を制するものが戦いを制する。ならばネットワーク社会において、電子戦に特化したバックヤードは魔法使いそのものですよ≫

「実際僕とアルトも、そっち側から敵を締め上げたことが何度もあるしね。
……だからこそ逃がしたツケもデカくなる」

「……そうだね。その気持ち……少しだけ分かる」


改めて周囲を見渡す。

だけどぱっと見では闇の中。ただ遠目に、海鳴の夜景が見えるだけで……。


「私とティアも、救助隊で……手が足りなくて助けられなかった人、それなりにいるから」

「……僕も反省しているよ」

「え……」

「あの場所に長くいすぎたってね。……変になれ合うから、こういうときに鈍る」


さて、問題の落下ポイントは……うむ、派手に出血のあとも見られるね。

とりあえず閉鎖結界を半径五〇〇メートルほどに張って、現場保全ーっと。ヴィータの結界はあるけど、念押しでね。


本当はこのまま調査といきたいけど、僕もロストロギアを持ち歩いているしね。

一旦あっちに戻って、完全封印も改めてやっておかないと……気が重いけどねぇ。


「それは、絶対に違う! 私達が……というか恭文は、私達のことも守って、ロストロギアだって任せてくれて!」

「それでもおのれらのことを、そんなに信じてないよ」

≪そこはお互い様ですし、余り言えませんよねぇ≫

「だから、まず私から信じる!」


……って、豆柴! くっつくな! つーか顔が近い近い! 詰め寄りすぎ!


「私は今、そう決めた!」

「スバル……」

「だから、利用したいなら利用してくれていい! 私達が……私が勝手に恭文を信じる!」

「……」

「…………こんなことで誰かを傷付けられたくない……そこだけは私達、絶対に同じだって思うから」

「………………最悪だ」


つい調査を止めて、頭を抱えてしまう。というか、この直球ボールは……やっぱりギンガさんの妹ってことかぁ!

でも更に最悪なのは、それに絆されて……蹲ってしまうほどに、心が震えている自分で。


「僕は今日という日を、一生後悔する」

≪桐生戦兎さんですか?≫

≪なのなの……鷹山さんの言う通りなの。直球勝負が主様には一番効果的なの≫

「だったら嬉しいけど……私も今回のこと、おかしいって思うんだ」


豆柴、普通に話を進めるな……! それじゃあ僕が馬鹿みたいでしょうが!


「だって今まで、犯人と思われる人達って……全く姿を見せてなかったんだよ? 幾らジャミングしていたからって……」

「……確かにね。つーかあの程度の戦力じゃあ、ここで六課を打倒ーなんて流れでもない」

「だから、戦力を確かめる感じ……」

≪それよりスバルさん、あなた……自分の身の上は分かっているでしょ。どうするんですか≫

「……結構グラついてる。追いかけたいって気持ちはあるけど、局員としては…………うん、局員としてはって気持ちは……ブレてないけど」

「……まぁそうやって苦しみ抜くといいさ。半端にやると後悔するから」

「ん、ありがと」


なんでお礼を言うんだ。完全に嫌みなのに……!


≪でも私達、ぼやぼやしている場合じゃありませんね≫

「だね。徹底的にやらないと」

≪長瀬補佐官にまた絞られるの。あの子は主様でも勝てないの≫

「それを言うな……! 六課を辞めてやるーって脅しもできなかったし!」

≪なの!?≫

「んが!?」


……ちょっと、豆柴……なんでズッコけるのよ。結界をかけているとはいえ現場保全の最中だよ?


「こうなってくると、六課の任務にはある程度関わっていくのが効率的だ。想像以上に手出ししてきそうだしね」

≪でもそれでヒューマニズムを振りまかれても面倒でしょ? むしろここで揉めてくれてよかったんですけど……琴乃さんには勝てませんねぇ≫

「恭文ぃ……アルトアイゼンェ……。
というか、返して!? 私の気持ちを今すぐ返して!」

「まぁまぁ……後日、ハーゲンダッツのデカいのをプレゼントするから」

「それは買収って言うんだよ!?」

「よく分かってるじゃない」

「せめて否定して!?」


そうだ、もうぼーっとしている暇はない。足がかりがようやく……見えてきたかもしれないんだ。


≪とはいえ、のんきに常駐も出来ませんよ。……こっちにも主犯格が本格介入したとなれば、ご母堂様達や風花さん達もいろいろ危ないですしねぇ≫

≪なの……!? じゃ、じゃあ……≫

≪えぇ、さっきのは脅しですよ。無論美由希さん達も視野に入っている≫

「ついでに、ハラオウン提督達もね」


そのために、貴重な高校三年生の時間を賭けているんだ。ついでに今後の人生設計もね。


「でも舐められっぱなしでは済まさない」

≪えぇ、脅したのはこちらも同じですし≫

≪それって……≫

≪爆弾ダガーですよ。メッセージ内容は……≫


――第19話


「”今度の獲物も、しまつする”」

≪”性格:過激 弱点:美人”≫

≪なの!?≫

≪「……ちゃんと合わせてよ!」≫

「あははははははははは」


『機動六課の出張/PART5』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


結構苦戦するかなぁと思うとったけど、そうでもなく……新人達はさっくりとロストロギアを封印。

ほぼほぼ無傷で、上出来…………のはずやったんやけどなぁ! なに、この大混乱!


『――新人達、入隊当時とは別人でしたよね』


コテージ……というか指揮所に戻っていたうちに、シャマルも困り気味に告げてきた。


『……あぁ。だから四人だけでも封印は可能だった』

『そこに加えて恭文くんともちゃんとチーム、できて…………できるはずなのに……』


あぁ、シャマル……滅茶苦茶怒鳴りつけられたから、すっかり萎縮して。


『私、ただ……そうして、同じ目標に向かって……ほしかった、だけなのに……フェイトちゃんだって……』

『あぁ、それは……アタシ達も分かっている。でも……アイツは、なんであそこまで割り切れるんだよ……』

『……先ほど触れた幼なじみ……美澄苺花や、鳴海荘吉氏のことがあったからな』

『そうだそうだ。その鳴海ってなんだよ』

『諸事情から二十年以上前から十二年前まで、メモリ事件に対応していた私立探偵だ。
……ただし犯人を秘密裏に殺害する、違法な私刑人としてな』

『なんだと……!』


……その辺りはいろいろ難しい話やった。というか、シャマルも知っているはずなんやけどなぁ……。


「……実は仮面ライダーというのは、作られた偶像なんです。
その実情は恭文や……『警察関係者』による超法規的治安活動」

『琴乃……あぁいや、お前もいろいろ知っていたクチか』

「そしてそれは、鳴海荘吉という私刑人をアンチテーゼとしているんです。
メモリ犯罪者だからと殺していくことは、いずれ街を……世界をしぼませるだけだし、どうして犯罪に至ってしまったかも解明して、改善できないから」

『そしてそのイメージ戦略は正しかった。だから風都では仮面ライダーが……魔法使いがヒーローとして見上げられているんだ』

『なら、そのライダーと一緒に戦う魔法使いっていうのは……あぁいや、ウィザードだしな……!』

「……まぁ、琴乃ちゃんが優しく仲裁してくれたし、始末書云々―って話にはせんよ。気分よく帰ろうか」


恭文もそれでスバル達は頑張ったーって言うとるくらいやからなぁ。その顔は立てたいんよ。……アイツ、本気でフェイトちゃんをくびり殺すほどに腹が立っていたようやし。


『はやて、始末書はやめとけ……説得力がねぇから』

『……風呂の件で、アレだったからな……』

「し!」


ただうちも、泣き始めたシャマルより気になることがあって…………というか、みんなもか。


「でも実際、恭文って……六課に必要ですよね」

「まぁ、いろいろ大変そうな琴乃ちゃんや星見プロのみなさんには……申し訳ないけどな」

『対テロリスト相手で有効なのは、犯人一味を追い詰めたことでも証明されたしなぁ……』

「あ、別にそれは大丈夫です。……恭文もスバル達のこと、可愛がっているみたいですし」

『……やっぱりか?』

「メモリを使ったのがいい証拠です。……あの姿なら、銃弾程度じゃ傷一つ付きませんし」

『そういうことだったのかよ!』


そう……正直な話、あの追撃は見事やった。まぁスバルのフォローもあればこそやけど、姿見まできっちり捉えたからなぁ。

それにな、なのはちゃんに先回りするように言った位置……マジで逃走経路の先やったんよ。

なんというか、テロリストの思考をトレースしとるんかな。悪党の側に立つアイツやからこその特殊能力とも言える。


…………ただ。


「まぁ……その積みかさねは、涙ものですけど」

「それは、言わんとこうか……!」

『アイアンサイズのことを出されると、あれでも足りないくらいだからな……!』


その辺りができるようになった積み重ねが、余りに酷くて涙ものやった……!

いや、もうそこは気にしない方向で……気にしていたら、うちらの精神が持たんし。


「でも……琴乃ちゃんはほんまにそれで」

「……恭文のそういう情を利用しないことが、絶対条件ですけど」

「……」

「というか、八神さんなら分かっていますよね。
恭文は人より難しいことがあるぶん、そういう気持ちが重くなりがちだから」

「ん……それはな」

「もちろんそれは、相手の全部を受け入れる優しさや温かさだけど……それが反転したとき、どんな形で爆発するか分からない。
……私達も風花さんや舞宙さんから、注意してほしいと言われていました」

『爆発……』

『キレさせるとヤバいということだ……』


そう……実は恭文、本気でぶち切れさせるとかなりヤバい。喚き散らして暴れるとかとちゃう。

そっちの方がマシやった。恭文、障害特性の関係でそういう感情が声とか表情に出にくいんよ。更にそういう思い入れや情もこだわりが強くなりがちな分、比例して深くなりがち。

それもあって、アイツが“キレた”と周囲が気づくときには、もはや殺害行為すら辞さないレベルで拗らせている場合があるんよ……!


『薬丸自顕流には“熱した鉄瓶であれ”という言葉があるが、蒼凪はそれを地で行く。
平時と変わらない状態で、胸の内に怒りや憎悪をぎらぎらとたぎらせ、実行動に移していくんだ』

『……それ……風花絡みで聞いたことがあるなぁ……!』

「その風花ちゃんよりヤバいキレ方なのが、やっちゃんなんだよ……」

「俺達もどん引きさせられたもんなぁ……」


すると鷹山さんと大下さん、フィアッセさんがすっと入ってきて……。


「なのではやてちゃん……アイツは課長。蒼凪課長ってことにしておこうよ」

「課長!?」

「あ、うん……それは効果的かも」

「琴乃ちゃん!?」

「恭文、体調の問題もあって役職的な働きが難しいですから。そういうの憧れているみたいなんです」

「マジかー!」

「スバル達に理解ある先輩風で吹かせているのも、もしかしたらそのせいかも……」

「そうそう! もうね、蒼凪課長は気っぷがいいから。俺達もそうやっておだてて、いろいろやってもらったから」


いやいや……大下さんの方がずっと年上でしょ! アラフィフでしょ! それでなにやらかしたんですか!


「ま、その分かなり無茶振りされるけどね。一生着いていくとか言っちゃ駄目だよ? 僕達みたいに後悔するから」

「鷹山さん!?というか、それやったらアカンでしょ! というか六課の課長はうちー! 部隊長やからー!」

「……ま、はやてちゃんが課長っていうなら頑張ろうか。
腰をどっしり構えて……この大馬鹿者ぉーってね」

「俺達も散々やられたよ。近藤課長っていう頑固者相手にな」

「…………はい」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで――長いようで短い日帰りの出張は、こうして終わりを告げた。

わりと深夜到着にはなるんだけど、それならばと早々に戻ることになってしまって。


「――よし、忘れ物やコテージの掃除は大丈夫っと。
一同、現地協力者に礼!」

『ありがとうございました!』

「どういたしまして。でも……なのは達だけじゃなくて、アンタ達も泊まっていけばいいのにー」

「にゃははは……そうしたいところだけど、さすがに危険物を持ったままは、ねぇ」


なのはさんも苦笑しながら、抱えたケース……封印されたロストロギアを見やる。

まぁ、これで起きたら復活していたとか、さすがに笑えないしね。早々に届けるのは仕方ないのよ。


……ただまぁ、お別れの空気って感じじゃないんだけど……一人無駄に殺気立っているし。


「あの、恭文君……」

「なに……僕の手柄を奪ったら、はやてが描いたエロ同人誌を流しまくるよ? おのれがドMでいろいろされちゃうやつ」

「いろんな意味で棘だらけだからやめて!? というか殺気立ちすぎて怖いから!」

「そやそや! うちにも飛び火しとるやんか! というか無断転載は人としてアウトや!」

「だとしてもはやてにだけは言われたくでしょ! だって知り合い題材の同人誌……というかアンタ、まだ懲りてなかったの!?」

「クソがクソがクソがクソがクソがクソが……クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
あそこまで追い詰めながら取り逃がすなんて!」

「なぎ君も落ち着いてー!」


コイツは犯人をみすみす取り逃がしたって、頭を抱えて……というか地面をゴロゴロしないでよ! 子どもじゃないんだから!


「……イヤーワーム、発症しちゃっているなぁ」


すると琴乃が苦笑気味に……あぁ、あれか! 嫌な記憶が連鎖的に、ループして思い出されるってやつ!

それも発達障害の典型症状なのよ! え、それでこの有様!? だったら余計にツッコみ辛い!


「……よし決めた。もうここからは戦争だ」


やめてよ……真顔で言うの、ほんとやめてよ。あと突然冷静にならないで。それも合わせて怖いのよ……!


「僕も完全に準備不足だ! 戦争だ……戦争の準備が必要だ――!」


ちょっと……ゆらりと立ち上がって、拳を鳴らさないでよ! というか、やっぱり目が怖い!


≪弾に当たろうとしない奴に備えて、武装を用意する必要がありますね。あの場だと……ガトリングとか≫

「いいねー! 僕達の前を横切る奴は地獄行きってね!」

「……恭文、とりあえずほら、自分で言ったことを思いだそうか。そこは生かして捕まえようよ」

「吐かないって経験で分かっているから、問題なし!」

「大ありだからね!? ……ああもう、ほんと補佐官資格取ってよかった! じゃなかったら口出しできなかったし!」


どんな経験……いや、分かっている! 今まで散々聞いてきたものね! でもさすがに即断がすぎるわよ! 琴乃が頭抱えているんだから、そこは配慮してあげなさいy!


「でも琴乃、経験で語れるんだよ! ストリートファイターを浸食兵器にされたときと、全く同じ流れだし!
今度は見敵必殺≪サーチ・アンド・デストロイ≫――サーチ・アンド・デストロイだ!」

「まぁまぁ! 未来は経験を覆すかもしれないよ!?」

「恭文さん、そこは臨機応変にいきましょう!」

「くきゅ!」

「そうですよ! 相手に同情しろとは言いませんから! ただ即断はやめましょう!」

「嫌だ嫌だ嫌だー! 今度こそ獲物を始末したいんだー!」

≪そうですよ。ようやく盛り上がって来たんですから、邪魔しないでください≫

「「「まぁまぁ!」」」


なんなのコイツ! どんだけ捕まえられなかったのが悔しいの!? それでまたじたばたしてるしー!


「…………確かにこれは、普通にお泊まりって空気じゃないわよね」

「なぎ君、執念深いから……」

「ただまぁ、お姉さん的には分かるなー。私もそういうミスをして、悔しいーって思ったことが何回か……」

「私も実は……」


しかも美由希さんとエイミィさんが重たい! え、やっぱりそういうのって…………私も経験するかもだし、覚悟を決めよう。


「……まぁ……恭文の執念深さが常軌を逸しているのは事実だけど」


ちょっと!? 美由希さん、なにとんでもないことを言い出しているんですか! しかも常軌を逸しているって!


「…………あ」


かと思ったら、コイツ……ハッとして起き上がったんだけど。それも急に冷静な顔で!


「でもその前に……横馬とトオル課長の引き合わせはあるからなぁ。そこはちゃんとしないと」

「…………あ、ちゃんとしてくれるんだ! よかった……忘れられているかと思ったよ!」

「”あぶまど、嘘吐かない”って言ったでしょ」

「「あぶでかも、嘘吐かない」」

「にゃにゃ!?」


鷹山さん達も乗ってきたぁ!? いやいや、待って……マジでなんの略称なの!? まずそこを説明して!?


「……というか、せっかくだし合コンにする?」

「合コン!? と、というとあの……その日ベッドインしたい相手を見つけるために行うという、伝説のぉ!」

『ぶ!』

「なのは、アンタァ……!」

「……おのれがどんだけ恋愛関係にアレなのか、改めて分かったよ」


ちょ、コイツすら引いているんだけど! 確かにあれな発言ではあったけど、なのはさんが可哀相だからやめてあげて!

というか……。


「ねぇ、アンタ……いいの!? 彼女いるのよね! 合コンって!」

「……この有様で二人っきりにさせる方が不安だって」

「それはそうなんだけどね!?」

「もちろんふーちゃんにも、舞宙さん達にも……琴乃にも話すよ。
僕はあくまで幹事兼付き添いで、場を回すだけだってさぁ」

「……琴乃」

「まぁ、それなら……というか、合コンと言ったってそんな、いきなりいやらしい感じにはならないよね? なのはさんだって未成年だし」

「お酒も入らないしねー。だから普通に食事会で、わいわいやる感じがいいかなーと」


あぁ、それならまだ……うん、いいかもしれない。少なくともお持ち帰りであーれーとなる図は見えない。


「なので男は僕、トオル課長、鷹山さん、大下さんの四人で参加するから、あと三人女性を引っ張ってくれば完成だ」

「え……あの、恭文君、それだと紹介は」

「今言った通り。
……僕達は恋愛初心者なおのれが上手くいくよう、合コンする体で盛り上げるから」


そのとき、なのはさんに電流が走る――――。


「適当にね……おのれとトオル課長が楽しく遊べるよう、サポートするから。
それが上手く行けば大人のラピュタで大人のパルスを発射だよ。もう大船に乗ったつもりでいなよ」

「恭文君……!」


いや、大人のラピュタで大人のパルスってなに!? ツッコんでも幸せな答えは出そうにないから、口は閉ざしておくけど!


「……恭文、その大人のラピュタで大人のパルスを発射する下り、ひとまず私で練習しようか」

「え……!?」

「できないの? 彼女なのに……というか、彼女の私にできないことを、なのはさんにさせるつもりなのかな?」

「……琴乃と僕はもうしていることだよ」

「そっか。……またそれも追加で尋問だから。覚悟しておいて」

「あ、はい」


それで琴乃から説教されているじゃないのよ! というか今の怖! どう転んでも地獄行きじゃない! これが恋愛力か!


「まぁ蒼凪は琴乃にしっかり説教してもらうとして……合コンか! 悪くないな、ユージ!」

「だね! なのはちゃんをサポートしつつ、お目当ての子に一直線! いいねいいね……蒼凪課長、成長したじゃないのー!」

「課長とお呼びぃ!」

「「「課長ー!」」」


ちょ、なのはさんまで課長呼ばわり!? というかどんだけ合コンに夢を見ているのよ! 鷹山さん達も五十代なのに!


「……でも、他三人って……」

「問題ない……僕に秘策ありだ」

「お任せします、課長ー!」

「なのはぁ……お姉ちゃんは悲しいよぉ」

「というわけで……なのは、またすぐ帰ってくるよ! 恋のエース・オブ・エースになるために!」

「あ、はい……」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


もう大混乱よ……! というかなのはさん、本当に大丈夫かしら! 私まで親みたいに心配し始めたんだけど!


「あの、私も……今度は本当にプライベートで来て、みなさんの街を見てみたいです!」


それでスバルが、取り直すように明るく振る舞って……というか、ホント許して!


なのはさんがもうがっつきすぎて、顔見知りが全員引き気味なの!

取り直すしかないのよ! 課長はそこまでやってくれないみたいだし!?


「あら、スバルは嬉しいこと言ってくれるわねー。
じゃあそのときは、またいろいろ案内して……いっぱい遊びましょうね」

「はい、必ず!」

「はやてちゃんも、気をつけてね。それで今度はいっぱい」

「もちろんや!


……故郷、かぁ。やっぱり特別なのよね、みなさんにとっても。

ただ、それとは違う約束も結ばれていて……具体的には大下さんとエリオの間で。


「じゃあエリオ、風邪引くなよー。歯も磨けよー」

「はい! 大下さんもありがとうございました!」

「でさ、今度の休みはやっぱ横浜にしない!? いいとこたくさんあるんだから、ハマは!」

「なら、フェイトさん達とも相談の上で……」

「私は賛成です! お二人の街も、港町なんですよね! すっごく興味があります!」


横浜……だっけ。いろんな事件の舞台ってだけじゃなくて、ドラマとか……観光スポットとしても有名どころらしい。

そんな未知の街を想像して、エリオ達は笑って……大下さんは、そんな二人の頭を優しく撫でていた。


「ユージ、悪い遊び場には連れて行くなよ?」

「分かってる分かってる。で……やっちゃんもさぁ、こらえ性をもうちょっとつけて、温かく見守ろうよ」

「さっきも好き勝手していたからなぁ……」

「大下さん、鷹山さん、合コンにかこつけて女性を紹介します。今回は前置きなしで」

「「一生着いていきます、課長!」」

「買収して反論を封じるなよ! この馬鹿がぁ!」


ヴィータ副隊長、落ち着いてください! いや、イライラするのは分かりますよ!? 揃って即答だったし!


「あ、でも僕のツテで出せるのは二人なので……今度の合コンに参加してもらって、それで話してみてーって感じに」

「問題ない問題ない! というか誰! マジで誰だ……蒼凪ぃ!」

「一人は才華さんです」

「…………あのさ、才華には忍者の男、紹介していたよね?」

「いい感じでお友達化しちゃって、最近また寂しそうなんですよ……。
それでもう一人は、765プロの事務員さんですよ」

「なんだと」

「ちょっと恭文……小鳥さんを紹介するの!?」

「婚期を相当焦っているんだよ……。なので丁寧に相手してあげてください」


で、アイツはスマホで画像を……私も覗き込んで、驚愕した。

………………緑髪ボブロングで、スタイルはフェイトさんにも負けていない。なに……この滅茶苦茶穏やかな美人は!

というか琴乃も知って……いるかぁ! 765プロの人なら、そりゃあ顔くらい合わせたこともあるでしょ!


「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」

「え、待って……事務員さんなの!? この美人さんが!」

「音無小鳥さん……765プロ社長が若い頃にプロデュースしていた、元アイドルさんなんだよ。
今は引退して、独立した社長についていく形で事務員なんだけど」

「あぁあぁあぁあぁ……アイドルさんなら、この風貌も納得かも!」

「……ユージ!」

「待て、タカ……一応聞くぞ。年齢は」

「今年で二十九歳です」

「「よっし!」」


へぇ、三十代間近かぁ。まぁそれなら……年の差はあるけど、まだよくある範囲だし納得ができてしまう。


「というわけで、お願いしますね」

「「了解です! 課長!」」

「それと横馬もちょっと気張らないと……小鳥さんは本当にいい人だから。
下手をすればトオル課長の興味も取られて、あぶれる羽目になるから」

「が、頑張るよ! 全力全開で!」

「あとは……そうだ、フィアッセさんとの結婚も含めると、やっぱり六億くらいは……」

『六億!?』

「あぁ……なのは達は気軽に接しているけど、世界的歌姫だしね」


思わず全員でギョッとするけど、世界的歌姫という立場を考えれば当然だった。

……マジで有名な人らしいし! こんな気さくに、私みたいな虫けらが話していい相手じゃないのよ!


「その場合、蒼凪ともどもやっぱ大々的にパレード? もはや国を挙げてのどんちゃん騒ぎ!?」

「スクール出身の歌姫達が、煌びやかに出席してぇ!
タカ、どうする! そんな美人達とお近づきになれるチャンスだぞ!」

「そのためにも出し物だよな! どうする……何をやる!?
テントウムシのサンバじゃ駄目だぞ! なにせプロなんだから!」

「タカ、うどん打つとかどう!? 得意の腰捌きでくいくいと!」

「いいね! うどんなんて打ったことないけど!」

「いやいや、結婚式の出し物にうどんを打つとか、前代未聞過ぎますよぉ……!」


こ、この二人はまた……取らぬ狸の皮算用どころじゃない広がり方しているんだけど! というかエリオ、よくツッコめるわね! さすがは男の子!


「逆に新しくて人気者になれる可能性……あるんでしょうか」

「キャロ、それは絶対ないから。むしろ白い目で見られるわよ。粉も舞い散って汚いし」

「でもティア、よく考えて……歌姫だけじゃなくて、素敵な男性と知り合えるかもしれないよ!?」

「…………それがあったわね! あ、でもその場合出し物がやっぱり……何がいいかしら」

「瓦割りならできるよ、私!」

「私も射的……射的なら!」

「お前らも乗っかるなよ……!」


あぁ、夢が広がるわねー! なにせ恋愛も頑張るって決めたばかりだし……よし、これでいこく!


「アンタ、二週間以内に結婚しなさい!」

「そうだな、蒼凪! いや……蒼凪課長!」

「俺達の未来のためにも、どうか!」

「無茶苦茶言うな! おのれら、式場の予約って基本一年先まで埋まっているって知ってる!?」

「「「「え!?」」」」

「僕は知っているよ! 前に式場で仕事があったとき、いろいろ教えられたからね!」

「恭文さん、そんなことまでしていたんですか……!」

「あと、婚約指輪や結婚指輪も基本オーダーメイド! 三か月はかかるんだから! 僕は舞宙さんと一緒に買いに行って、大恥かいたから分かっている!」

『えぇ!?』


え、そうなの!? ちょっと、それは知らなかったんだけど! ほら、私達だけじゃなくて、部隊長や美由希さん達もざわざわしているわよ!


「恭文、待って! でもほら、宝石店でずらーっと」

「あれはサンプル!」

「サンプル!?」

≪……その手のエンゲージリングは、初めてはめる人がオーナーっていう定説があって……少なくともどこかで、誰がはめてきたかも分からないものは使わないんですよ。
だからサイズやら装飾なども含めて、全てオーダーメイド。そりゃあ時間もかかるってもんです≫

「し、知らなかった……じゃあ二週間で結婚式なんて無理じゃない! 指輪もなしで、どうやって誓いのキスまで進むの!?」

「ほんとそうよね! でもやばいやばいやばい……こんな調子じゃ彼氏もほど遠い!」

「私達、まずそういう常識を調べるところからだね……! 恭文も大恥かいたっていうし」

「あ、そこまで豪華な式は考えていないから」


するとフィアッセさんが右手を振って苦笑気味に……。


「式場も……うちのスクールでやれればいいなーって考えていますし。
……恭文くんと出会った場所だし、ママのお墓がある場所だもの。
イリアには一年前から相談もしているので、いつでも挙式できるよー」

「あぁ、それは安心…………………………は?」

「披露宴とかも、身内だけでわいわいって形にして……あとは恭文くんのご両親にも改めて挨拶だよね。
あ、挨拶の料亭はもう決めているの。来月中旬……会計で揉めるのも嫌なので私持ちということにしておくね。
それと新居についてはどうしようかなーって考えているところで……恭文くんが高校を卒業するまでしばらくあるし、家を買うのも速すぎるかなと。
……あ、いらないと言えば婚約指輪も大丈夫かな? どうせすぐに籍を入れるし、それなら新居や今後の生活に回したいなって。
これはレイナちゃんっていうモデルさんが教えてくれたんだけど、なんでも常識だそうだよー。
それで子作りについても、できれば毎日……私も三十代だから早めに赤ちゃんが欲しくて」


………………なんか凄いまくし立ててきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「……恭文君、フィアッセさんとはちゃんと話し合った方がいいよ!
この調子だと老後の資産運用まで決定されているから!」

「うん……でも、実はすっごく楽に感じてるんだ」

「早速駄目夫にー!」

「お、おれの天使が積極的……きゅぅぅぅぅぅぅぅ……」

「ユージ!」

「大下さんー!」


あれ、大下さんが泡を吹いて……ファンだったんだ! 天使とか言っていたし!


「あの、もしかして……そうだったんですか!? 片思いだったんですか!?」

「いや、ただのファンだったから大丈夫!」

「でも倒れていますよ!?」

「ユージ、しっかりしろ! フィアッセさんがお前の天使であったことなんざ一秒もなかっただろ! 蒼凪の天使だったんだよ! もちょと同じだ!」

「あじゃあじゃあぁあぁあぁぁ…………」

「鷹山さん、駄目です! それは鬼過ぎますー! あともちょって誰ですか! まだ誰かいるんですか!」


エリオの言う通りなのでやめてあげてください! その通告は死刑宣告だから!

ほら、なんかエリオに支えられながらびくんびくんしてるしー! というか……。


「ねぇ、アンタ」

「ガードのときとか、弟みたいによくしてくれているだけだよ。ただ大下さんはそれ以上を望んでいる」

「救えないわね!」

「あ、でも結婚までのいろいろなイベントはきっちりしたいから、あとでカレンダーをスマホで同期しておいてねー」

「はい……というか僕も残るので、みんなを見送ったらすぐに」

「それもそっかー」


それでアイツは、フィアッセさんに全力ハグを受けて……それに妙なイライラを感じるのは、まぁさて置き。

……今、引っかかることを言ったんだけど!


「……って、こっちに残るの?」

「現場周辺を調べておきたくて……というか」

「……私を、一旦星見の寮まで送る手はずもあるので」

≪あとはすずかさん達のガード……フィアッセさんも、エリスさんがくるまでは付いてないと≫

「……そこは派遣された局員やPSAに任せて、我らとともに……とはいかないか。なにせラプターの襲撃があったばかりだ」


さすがにシグナム副隊長も表情が厳しい。とはいえ、関係者が狙われることも考えたら……そりゃあなぁ……!


「お前には騎士カリムへの報告も含め、幾つか頼みたい仕事があったんだが」

「あとで纏めて……こっちでできる範囲のことは送ってもらえますか? 戻るまでに途中経過も報告しつつ、仕上げますから」

「分かった。ただまぁ、琴乃のことは言った以上エスコートすることだ。補佐官なのだからな」

「あ、はい……! じゃあ美由希さん」

「こっちも気をつけておくよ」

「お願いします」


アイツは背を向けて……スタスタと歩き出す。


≪さて……少しでも手がかりを見つけないと、ですね≫

「つーかこんな楽しい遊び、人に譲れるわけがないっつーの」

「……仕事は忘れるなよ……!?」

「分かっていますってー」

「それじゃあみなさん、今日はお世話になりました」

「……蒼凪のことは頼むぞ」

「はい」


琴乃もお辞儀して、それを追いかけて……。


「琴乃ちゃん、またねー! あ、今度ライブ見に行くから!」

「うん……楽しみにしている!」


それでスバルは元気よく手を振って、それを見送って……ほんと仲良しね! 私もすっかり名前呼びだけど、そのコミュ力は見習えないわ!


「……なら俺達も付き合うか。ユージ」

「了解。こういうときはやけ酒だやけ酒ー!」


そのまま去っていくアイツを……鷹山さん達を見ながら、胸が痛くなるのを感じて……。


「……なぁアンタ達、アレでいいのかよ」

「現場から情報を拾い集めるなら、蒼凪の能力はうってつけだからな。
それに琴乃のことも、やはり放置はできないだろう」

「さすがにアイドルさんで、それも女の子を一人で今から東京ってのはないからなぁー」

「そりゃそうだけど……難しいなぁ。
というか、そういう敵とどうこうすら六歳でクリア済みとか、どんだけヤバい経験しているんだよ……!」

「うちらがそれを言うたらブーメランですよ。悉く普通の子どもらしい境遇ではなかったわけで」

「そりゃあそうなんだよなぁ! とういかヤバい、そのブーメラン早速直撃……!」

「直撃して痛みを感じられるだけ成長よ」


アリサさんが追撃……というか、アルフさんを宥めて、頭を撫でてあげる。それでまぁ、場はひとまず落ち着いたんだけど……。


「それにまぁ、そういう壁の乗り越え方は……人それぞれだと思うのよ。その距離もね」

「アリサちゃんの言う通りだね。……たとえばジュエルシード事件で言えば、アルフさんとフェイトちゃんは、私達の大親友を暖かいに巻き込んだ悪魔扱いにもなり得た」

「でも、二人も、みんなも凄くよくしてくれた……いや、細かい事情は聞いていなかったから……!?」

「それだけじゃないよ? 私達はなのはちゃんがそういうのも含めて、受け止めているならーって……信頼もあったから」

「でもそれだって、そのなのはと親友で、間柄を知っていればこそ。それとは違う距離なら、結果が同じでも違う道筋になるのは当然じゃないかしら」

「……アタシ達は、その違う道筋でもそうなれるよう、ナビゲートできていないわけかぁ。それこそ、スカリエッティ相手だろうとさ」

「相手の気持ちをへし折る部分がある分、余計に難しいことだよ。
なぎ君だってきっと完璧にできたことなんてなくて、だから…………って、あれ?」


というか、すずかさんも気づいたみたい。私と一緒に、辺りをきょろきょろして……。


「ティア、どうしたの」

「リイン曹長、どこ……?」

「そう言えば……」

「いない、よね。さっきから私も……声聞いていないし。アリサちゃんも」

「覚えがないわね……」


そう言えばリイン曹長の気配が、さっきから消えていた……フィアッセさんとの話にも絡んでいなかった。

というか、姿がどこにもない…………どこにもよ!


「リイン!?」

「アイツ、どこ行ったんだ!」

「――――恭文さん、リインとも結婚の話はするですよー♪ 式場は押さえておくですから!」


かと思ったら、なんかアイツの脇に……スタスタと走り去って!


「こ、心の結婚でどうか……」

「そんな口約束には騙されないのですよ! というか、フィアッセさんはあんな詳細に……リインも負けたくないのです!」

「それは私も同じ。というわけで恭文、婚約指輪を作るところからだから」

「琴乃!?」

「……蒼凪、黙っていれば分からないだろ」

「そうそう。リインちゃんもそうだし、琴乃ちゃんを引き離すの、無理だって思うよ……俺達は」

「ラピュタでパルスしていたらなぁ……」

「警察官として止めてくれませんか!? または大人としてー!」


リイン曹長、完全に重たい女だ……! あれこそ振り払ったら刃傷沙汰じゃない。


「……主はやて、私は揃って連れ戻すべきでは……いや、このままだとリインがなにかやらかしそうで」

「気持ちは分かるけど落ち着こうな……!」

「なのは、こっちは私とフィアッセ……すずかちゃん達に任せてくれていいよ」

「気晴らしくらいは付き合えるだろうしね。というか、アレは……本当に止められないよ?」

「全力で押し通す覚悟だしねー」

「……うん、お願い」


そうして結局、アイツのことは置いて帰ることになった。


「………………!」


……と思っていたら、今度はフェイトさんが走り出した。


「フェイトちゃん!?」

「ごめん、帰ってて! やっぱり……私も行ってくる!」

「いや、アンタは」

「それでも、六課の捜査主任だから!」


……追記。フェイトさんも置いて帰ることに…………だから。


”……なのはさん、やっぱりお話……改めてお願いできますか?”

”ティアナ?”


なのはさんには……教導官には、ちゃんとお話する。そういう勇気は……出していかなきゃ。


”今日の私、やっぱりパッとしてないというか、成長しているのかなぁって……なんか考えちゃって”

”じゃあちゃんとお話して、一緒に考えよう”

”………………楽しさも忘れずに?”

”もちろん!”


当然と……それが絶対に必要だと応えてくれたなのはさんには、もはや完敗だった。


”……はい”


……兄さん、少しずつだけど……私なりの理由は、できているのかもしれません。

少なくとも今、笑顔でいるこの人の下なら……そういう気持ちは……ちょっとだけ、あるんです。


だから、アイツにもって思っちゃうのは…………傲慢なんでしょうか。


(第20話へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、長かった出張編はこれにて終了……ごめん、エピローグとホテル・アグスタはまた次回以降だ」

古鉄≪いろいろ書くことができましたからねぇ。
それはそうと……もう令和二年の一月も終わりなんですけど≫

恭文「……………………」


(蒼い古き鉄、目を閉じ反すう……)


古鉄≪……お願いですから、またリリカルライブの思い出に浸るのはやめてくれませんか?≫

フェイト「ヤスフミ、もう十日だよ……!? 声優さん達もそれぞれ日常に戻っている感じなのに」

恭文「だってライブDVD、まだ出ないし」

古鉄≪十日で出たら驚異でしょ≫

恭文「ゆかなさん、素敵だった……二日目も見たかった……志保が邪魔さえしなければ」

フェイト「志保ちゃんにとんだとばっちりだよ!」

恭文「確かに奴の誕生日といろいろ被っていた! でも僕が何をしたと言うんだ!」

フェイト「……舞-HiMEとか見せたりとか?」

恭文「だってあのプロガー、自分は大人だからって言うからー。多少大人向けもいいかなーと思って」

フェイト「それでも駄目! うん、これは……奥さんとしてもお仕置きしないとだよね。頑張らないと」


(閃光の女神、ガッツポーズ…………)


蒼凪荘全員『………………』

フェイト「……って、なんでみんなどん引きするのー!?」


(なお、『今度の獲物も、しまつする』と『性格:過激 弱点:美人』はまたまたあぶない刑事のキャッチフレーズです。
本日のED:もっともあぶない刑事のBGM『Must Be』)


恭文「……………………」

志保「またリリカルライブの思い出を反すうしているし……!」

静香「でも、あれを見ていると身が引き締まるわね」

志保「あれが!?」

静香「だって私達のライブを見てくれた人達も、ああやってずっと楽しみに思ってくれるかもしれないでしょう?」

志保「それは……えぇ、確かに」

恭文「えへへへ……ゆかさん……ゆかなさーん……」

静香「ただまぁ、ゆかなさんに対して重たすぎるけど……!」

志保「……きっとおばあさんになってもずっと好きでいると思うわ。なんだか想像できる」



(おしまい)





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あきゅろす。
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