小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作) 第17.5話 『出張中の宴』 魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020 第17.5話 『出張中の宴』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 鉄板焼き……バーベキュー用の鉄板で八神部隊長が作った料理は、本当にギガウマだった。 ただまぁ、メインの品はまだらしく……まずは腹ごなしというか、オードブルから……なんだけど……! 「………………この海鮮炒め…………滅茶苦茶、美味しい……! ソース焼きそばも!」 「「はい!」」 「だろ?」 「私も最高です! でもなんだろう、この味付け! 八神部隊長、これが日本の侘びさびというものでしょうかぁ!」 「お、スバルはえぇ舌しとるなー。……実はな、少々抹茶を入れるのがコツなんよ」 「「「「抹茶!?」」」」 「以前も仰られていましたね。臭み消し……一種のスパイスだと」 「明太子スパゲッティからヒントを得てなぁ。あれもお茶漬けヒントで、抹茶とかを入れるのが源流なんよ」 いやもう、ホント……鉄板で焼いた海老やアサリ、野菜の風味がマッチして……しかも塩ってのがもう! で、それに負けてないのが……つけ合わせのスープで。こっちはアイツとフィアッセさんが作ったオニオンスープ。 「アンタも料理、上手なのね……! これ凄い甘くて美味しい……」 「はやてが鉄板を温めてくれていたおかげだよ。じゃなかったらここまで徹底して火を通せなかった」 「鉄板で飴色になるまで炒めて、そこからコンソメスープでシンプルに……でも気に入ってくれてよかったー」 「なのは的にはフィアッセさんの手料理も久々で、感激ですー!」 「なのはや恭也達と一緒だったのも、もう大分前だしねー。懐かしいなー」 ……そして、そんなスープを人一倍美味しそうに飲んでいるのが……鷹山さん達で。 「…………どうしよう、タカ。やっちゃんがマジで女だったら……惚れてたかも」 「年齢差は考えろよ……」 「でもさ、みそ汁の美味い嫁は素敵なわけだろ? ということは、オニオンスープもあり……しかもフィアッセさんお手製だよ!」 「君、そっちに比重が向いているよね?」 「だったら駄目です。惚れる……というか恭文に惚れ直すのは私なので」 「琴乃!?」 「というかこれ、さくら達にも作ってあげたいから……あとでレシピ、教えてもらっても」 「う、うん。メッセで纏めておく」 そんなわけで、オードブルとスープをいただき、メインを受け入れるお腹の準備は万全……なんだけど。 「……えー、ではみなさん……メインのお肉に取りかかる……というところなんですが、その前に」 その前に、八神部隊長から軽くお話があるようで……。 「任務中なんに、休暇みたいになってますが……ちょうどサーチャーの反応と広域探査の結果待ち中。 なので六課メンバーはお食事で英気を養いつつ、現地協力者のみなさんは適当にのんびりしてもらうということで」 『はい!』 『はーい』 「で、初顔合わせの人もいるので……現地協力者とフォワード四名は軽く自己紹介でもしてもらおうかなーと」 げ……それは、学校とかでよくやるやつ! 割りと苦手項目だったから、つい身構えて…………あれ、四名? 「あの八神部隊長……コイツは」 そう言いながら指差すのは、エプロン姿になっていたアイツで……。 「いや、僕はフォワードじゃないし」 「あぁ、それは問題ないよ。……自己紹介しても、自分が世界最高の存在とか言うつもりやし」 「なんか納得です……!」 「は? 言うわけないでしょ」 え、そうなの? いやよかった……コイツもやっぱりまともなところが。 「僕は全世界どころか……全宇宙、そして全次元において唯一無二の選ばれし者だよ? そんなスケールが小さくてどうするの」 ≪さすが主様なのぉ!≫ その言葉に思わず突っ伏してしまった。というか………………何を考えたら当然って顔で言い切れるのよぉ! 「………………はい、こんな奴です。紹介終了ー」 「もっと有意義なことに時間を使おうね、君達」 「「「「お二人とも!?」」」」 「うん、馬鹿だってことはよく分かるし問題ないよ」 「誰が馬鹿だよ……」 「恭文だよ……!」 それで鷹山さんと大下さんも適当! いや、放り出す気持ちは分かる! つーか悪化してどうするのよ! 琴乃が呆れるのも当然よ! というか感謝しなさい! それでもツッコんでくれるところに愛があるから! 「…………そうだね。今ので十分……さっきの面倒臭いツンデレムーブだけでも、どういう子かよく分かるもの」 「アタシも……うん、胃もたれするくらいに……」 「ほらほら……引かれてるじゃないのよ!」 「だって当然のことだし」 ≪いや、違うでしょ≫ ほらー! パートナーのアルトアイゼンも引いてるでしょ! つーかもうちょっとまともに。 ≪それは真・主人公たる私のことでしょ。なにパクってるんですか≫ 「違うわ! 僕が主人公だ!」 かと思ったら斜め上の物言いだったぁ! なんなのよ、コイツら! どうしたらここまで頭がおかしくなれるのよぉ! というかまさか……まさか……まさかとは思うんだけど! 「つーかアンタ達、まさか自分のことを世界で一番偉いとか……本気で思ってないわよね! 前にも聞いたかもしれないけど!」 ≪え……そんなの当たり前でしょ≫ 「天の道を往き、総てを司る人のおばあちゃんはこう言っていた……そう考えると楽しいってね」 「今すぐ忘れなさい! その迷言語録は!」 「そうだよ恭文君! 天道総司さんは仮面ライダーだからいいんだよ!? 現実でやったらただの変人だよ!」 「仮面ライダーがこんなこと言うんですか!?」 「そういう俺様キャラだったんだよ! なお主人公!」 あぁ、納得した! 確かに変人の類いだ! なのにコイツ、当然って……つーかそこを真似るなぁ! もっと見習うべき奴とかいないの!? 「というわけでアリサちゃん、なんとかしてー!」 「無茶振りが過ぎるでしょ!」 「そこはほら、まともな自己紹介をするとかでー!」 「あー、はいはい。だから泣くんじゃないわよ。 ――えー、アリサ・バニングスです。今は大学生で……なのはとアリサとは十三年前? フェイトとはやては十年前から幼なじみ。 一応このコテージも、うちの管理しているもので……もし気に入ったらまた使ってくれると嬉しいです。定期的にやらないと、家が傷むのよー」 アリサさんは軽いジョークも交えて……それでようやく、この馬鹿のまき散らした俺様ムーブが吹き飛んで……。 「はい、じゃあ次はすずか」 「――月村すずかです。アリサちゃんと同じく大学生で、一応工業関係の勉強をしています。 だから、みんなのデバイスとかもすっごく興味があるんだ! 機会があれば見せてください!」 「おお、キャラに似合わぬ大胆アピールきたなぁ!」 そ、そうですね。私達もこれは意外……というか、目が凄いキラキラしてて……あぁ、眩しい! この純粋さは心に痛い! 「あとは……なのはちゃんとは親戚というか、義理の姉妹関係なのは知ってる?」 「「「「えぇぇぇぇぇ!」」」」 「あのね、うちのお兄ちゃんと、すずかちゃんのお姉さん……忍さんって言うんだけど、二人が結婚したんだ。 で、同い年だけど妹な私達も姉妹になったの」 「あ、そういう……」 だからドイツがどうとかって話もしていたんだ。でもそうすると家族関係、結構大柄というか複雑そう……。 「つまり……私はなぎ君にとっても妹であり、禁断の兄妹プレイが楽しめるってわけなんだよ!」 かと思ったら、すずかさんがガッツポーズを取って、とんでもない発言を……! 「なぎ君もさっき言っていたけど、攻め方はいろいろ試した方がいいよね! うん、頑張ろうっと!」 「……………………すずかちゃん、後で話をしようか。割りと……真面目に」 「いや、私は全然構わないけど。恭文がハーレムしなかったら、もはや刃傷沙汰なのは承知しているし」 「お姉ちゃんはちょっと黙ってて! お願いだから……ほんとお願いだから! というか、恭文君!?」 「んん………………むにゃむにゃ。 僕はぁ……そうだぁ……。やっぱり生まれ変わったら、セブンイレブンの豚汁になりたい……」 「嘘寝はやめてくれるかなぁ! 寝られるはずがないよね! いきなりそこまで素っ頓狂に寝られるはずがないよね!」 ……現実から逃げているアイツはなのはさんに任せて、次の人に移る。 「――フェイトの使い魔の、アルフだ」 「…………蒼凪、使い魔って……ほら、豚汁を恋しがってないで」 「………………魔導師の魔力や生命エネルギーを分け合い契約する、魔法生物です。リーゼさん達と同じ」 「だったな!」 「元々狼の群れにいたんだけど、はぐれて……死にかけたところを、小さい頃のフェイトに助けてもらってさ。 ただアタシは期間限定じゃなくて、ずっと……フェイトの側にいるって契約を結んだから、正しく一蓮托生?」 「確か、一生もんの契約が今では当たり前だったな。責任があるとかなんとか」 「そうそう。え、でもアンタ達、リーゼ達とも」 「蒼凪経由でな」 「魔法ってすげーって感心させられまくりだったよ」 鷹山さん達が妙に感心して……それを気恥ずかしく感じたのか、アルフさんが軽く頬をかく。 「ならアルフちゃんもなんか、凄腕」 「いやいや、リーゼ達が規格外だから……アタシは結構サポートよりでさ。 それでフェイトと一緒に魔導師のお仕事とか、手伝ってたんだけど……いろんな事件を通して、少し考えが変わってね。 今はフェイトやハラオウン家のみんなが帰る場所を、家事手伝いなんかで守っていくのが戦いだと思って、五年前に現役を引退したんだ」 「それで家のお仕事や……エリオとキャロのお世話も、一杯してくれたんだよね」 「たくさん遊んでくれました。…………まぁ、フェイトさんの教習所時代を黙っていた件については……いろいろ言いたいことがありますけど」 「ふぇ……!?」 「アルフ、話そうね。たくさん、たくさん……遊んだことと同じくらい、たくさん……!」 「お、おう……それは、覚悟してる……!」 あああああ……ちびっ子達から怒気が! それには仕方ないと、アルフさんも平謝りするしかなくて……! 「まぁハラオウン家のお使いとかで、もしかしたら六課に顔を出すかもしれないし……そのときはよろしくな」 「――で、立場的には一番複雑かなぁ……エイミィ・ハラオウンです。 元々はアースラって次元航行艦で……ハラオウン家の長男≪クロノ・ハラオウン≫君と動機で働いていたんだ。 で、そのアースラが……ジュエルシード事件については、みんな聞いているよね」 『はい!』 「……ごめん、俺達……さっぱり」 「あとでこっそり……教えて?」 そこでまた挙手する鷹山さん達。そんな様子がおかしくて、ついみんなで笑っちゃう。 「とにかくその事件でなのはちゃんやユーノ・スクライア君、フェイトちゃん達とも知り合って……もちろんなのはちゃんの家族である美由希ちゃん達とも。 元々はミッドの生まれだったんだけど、こっちの暮らしが気に入ってね。それで結婚する少し前からは、ずーっと地球暮らし」 「エイミィはクロノとの間に双子の赤ちゃんが出来てね。今は育児休暇中なんだ」 「そうそう。ただまぁ……義妹でもあるフェイトちゃんが結構やらかしているから、お姉ちゃん的にかなり心配なんだけど」 「エイミィ!?」 「エイミィさん、それは適切な表現じゃありません。 ハラオウン執務官の頭には脳みそではなく、焼けただれたタイヤの切れ端が詰まっています」 「ヤスフミー!?」 「それ、人間として完全に壊れているよね! 心配の度合いが一気にアウトゾーンなんだけど!」 だからコイツはどうしてそうフルスロットルなのよ! 焼けただれたタイヤの切れ端って……いや、否定しきれないけどね! ただ、そこに突っ込めないまま……次に移るわけで。 「えっと、長瀬琴乃です。星見プロで、月のテンペストというアイドルユニットのセンターでもあります」 それでおずおずと琴乃が……あぁそっか。ちょっと人見知りする方とか言っていたけど、こういうのは苦手なのか。ついアイドルなのにとか言いがちだけど、それも含めてそれぞれなのね。 「元々恭文とは、うちの社長……三枝さんが依頼をかけたのが理由で知り合ったんです。 それでまぁ、いろいろ助けてもらっているうちに……忍者補佐官の資格を取って、今度は私がサポートしたいなと思うようになって。その流れで今日もこちらにお邪魔を」 「それで相棒なんよなー」 「はい、それはもう」 「だから相棒って言うな!」 「……でもアイドル事務所が忍者に依頼って、なにがあったんだよ」 「まぁ、それは……いろいろと。 とにかくそこからの縁で、恭文がVチューバー≪ジンウェン≫として星見プロに所属することにもなったりで……更に縁が深くなって。 ……なのでまぁ……相当に手が焼ける上面倒だとは思うんですけど、みなさんも見捨てず可愛がってもらえると」 「琴乃ぉ!?」 まぁまぁ! 琴乃もいい補佐官じゃないの! アンタのためにってここまでするんだから! 大丈夫! その気持ちは伝わっているから! 「――突然押しかけてすまなかったな。鷹山敏樹……横浜・港署の刑事だ」 そう紳士的に語りかけるのは、厳しさの中に優しい表情も見える鷹山さん。 「蒼凪とは三年前……韓国で潜入捜査中に知り合ってな」 『潜入捜査!?』 「七年ほど、国際捜査組織に属していた。その仕事で、核爆弾の密輸取り引きが韓国の港で行われると情報が入って……それでな」 す、凄い……そんな話に絡めるなんて! やっぱりこの人、刑事としては凄腕…………え、待って。 その話、確か知ってる。アイツにヘリの中で……それに、核爆弾って……! 「そのときに魔法やらなんやらも教えてもらったんだよ」 「……恭文君ー!」 「バラしたのは僕じゃない! アルトからだよ!」 ≪だって、一緒に楽しむんですから……それなりに札は晒さないと≫ 「まぁ、それはね……」 「いやいや、楽しむって……!」 ようは事件でドンパチして……よね。一体どんだけ物騒な考えを……あぁ、だからあぶない忍者かぁ! 「魔法使いなんて初めて会うが、それとの縁が三年も続いて……みんな、正直に聞くぞ? あ、スバルちゃんとティアナちゃんは分かっているから、それ以外にね」 「はい……なんでしょう」 「コイツは大変だろ……!」 「鷹山さん!?」 『はい……』 「おのれらもなに素直に答えてんだぁ!」 アンタは黙って! というか……鷹山さん、やっぱり分かる分かるって顔で頷いてるし! 「だろうなぁ! 俺とユージもまぁ、可愛いティーンエイジャーと思ったら正反対! 平然と無茶苦茶するわ、人の嘘を見抜くのは大好きだわ……危ない忍者だったわけで! その上核爆弾を紛失して、しばらく三人一緒で行動することになって……おじさん、泣きそうだったよ!」 「……泣きそうだったのは僕ですよ。紛失の責任を取る意味で、二人のお目付役にされたんですから。 その上二人揃って、僕を女と勘違いしてナンパしていたじゃないですか」 ≪F1張りの運転もひどかったですよねぇ≫ 『えぇ…………』 「余計なことは言わない。 …………だがまぁ、蒼凪は俺やユージについてくる……なかなかに骨のある”デカ”でな」 そうして鷹山さんは、アイツの頭を撫でる。 まるで子どもみたいに……大事な仲間と言わんばかりに、優しく……丁寧に。 「面倒なのはもうご存じの通りだが、一度暴くと決めた真実からは逃げないし……絶対に諦めない。 学べるところもそれなりにあるだろうから、可愛がってやってくれ」 「ちょ、鷹山さん!? というかそれ、鷹山さんの紹介じゃなくて僕の紹介ー!」 「君がちゃんとしないから、フォローしてあげたの。感謝しろ」 「だねぇ。……じゃ、満を持して……えー、大下勇次……セクシー大下と覚えて帰ってね、みんな!」 どこの芸人ですか!? というか、はしゃぎすぎだし! あとフィアッセさんに笑顔を振りまきすぎです! 「まぁやっちゃんと知り合った経緯は、タカと同じ? 俺もタカと組んで、そのままお仕事してたからさ。 そうしたらまぁ、次元世界とか、魔法とか……知らない世界も見せてくれて……しかも次元世界には美人も多いというし! いろいろ感謝もしているわけだよ!」 「あら!」 「……シャマル、お前は褒められてねぇからな……世界全体だ、全体」 「あー、でもそのシャマルさんとも……やっちゃんと、タカと……横浜を走り回ったとで世話になって。それで改めていろいろ教えてもらったんだよ」 「シャマル先生、そうだったんですか?」 「えぇ。ほら……足下で核爆弾が……どがん、だったでしょ? それで恭文くんに呼び出されて治療を……」 『うわぁ……!』 それでなんだ……! というか、よく考えたら本当に……なんで後遺症とか残ってないんだろう! この人達、やっぱり超人じゃ! 「タカは自分のこととか語るの下手……というか長くなりがちだからアレだったけど」 「うっさいよ」 「俺も似たようなものだから。……俺にとってやっちゃんは、まぁ結構弟というか、シンパシーを感じるとこもあってさぁ。 オレも若い頃はワルで、警察のご厄介になったことが何度もあってさ……やっちゃんも荒れていた時期があるし」 「荒れていた……?」 「…………あれ、話してない感じ?」 「……エリオ、ミュージアム絡みのことだから。その下りで暴れていたってところ」 「あ、そうそう! それ!」 「納得しました!」 あ、そっちね! そういえば家族も障害絡みでドタバタして大変だったとか聞いているわ! ざっくりとだけどね! 「………………ようするにだね! デンジャラス蒼凪をどうぞよろしくということなんだよ!」 「……これ以上地雷を踏みつけないうちに逃げましたね」 「逃げていないよ!? もう課長への愛がたっぷりだから!」 「ユージ、お前もう黙れ……!」 「…………大下さんの馬鹿ぁ!」 だから面倒そうに頭をかいて、テーブルに突っ伏す。 「僕はコイツらと仲良しこよしするつもりはないのにー!」 「いや、ごめん……ほんと、ごめん……! あ、やっちゃん……スープ食べる? ほら、器に残り香が……」 「ユージ君? それは食べるって言わない」 「……だったら、セクシー大下お得意の腹踊りをぉ!」 「「絶対やめろぉ!」」 ≪いいじゃないですか。阿鼻叫喚の渦ですよ≫ 「食事が台なしでしょうが!」 えぇえぇ、それは本当にやめて! さすがに見たくないし! 「美由希さん、スタンドアップスタンドアップ!」 「あ、はーい。えっと……高町なのは………………一等空佐?」 『――――』 思わず全員で吹き出してしまった……だって、空佐だとー! 「お姉ちゃん、左官だともはや重役! 空尉! もう六ランクくらい下ー!」 「あ、一等空尉の姉で……高町美由希です。 基本は喫茶店の店長。時折……実戦剣術の専門家として、フリーのボディーガードをしています」 「フリーのボディーガード……?」 「美由希さん……というか、なのはさんのお父さんとお兄さん、小太刀二刀の古流剣術を修得しているんだって! えっと、御神流!」 「そうそう。恭文ともその訓練絡みで知り合ったんだ。実はライバルなの」 「……なにがライバルですか。剣術のみなら……僕、美由希さん達に勝ったことがありませんよ」 『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』 ちょ、それは…………あぁそうか! ついみんなと驚いてしまったけど、翠屋で言っていた通りだしね! つーか縮地(未完成)の三倍って……よく考えたら恐ろしくない!? 正しく術よ! 魔法使いよ! なのはさん自身は、そっちの素養がないらしいけど……でも、これが血筋……戦闘民族の血筋か……! 「……それは恭文が『私達を殺すつもりもないから』でしょ? 謙遜がすぎるって」 「え……!?」 「あ、ごめんね。恭文も古流剣術使いだけど、結構苛烈な流派だから……加減すると必殺技封印っていう縛り状態で戦うことになるんだよ」 「その縛り状態で、経験も上な相手によく食い下がっているというわけだ。むしろ称賛に値する」 「ちょ、シグナムさんまでー!」 あ、そういうね……! 実戦剣術だから、文字通り必殺……それは身内での練習ではアウトだからと。 私達が非殺傷設定を使うのに近いのよ。いや、こっちの方が加減は少なめだろうけど、それでもっていう部分があるのは……ちょっと分かる。 「まぁ、その辺り……というか、武術というか、人を守るために技を鍛える? そういう心というか覚悟みたいなのは、私達三人は持っていてね。 だからちょっとしたきっかけでなのはが出会った魔法も、それを生み出した文化も……なのはなりの向き合い方を聞いたら、後はすんなり納得した感じです。 ……でもそうしていざお仕事を始めたら、一等……空尉……」 「そうそう!」 「そんな立派な役職にも就けて、その上魔法の先生として戦い方とか、デバイスの研究とかもする……凄い仕事もしていて。実は驚いている一人です。 ただ……さっきの大下さん達とも被るけど、それを応援したいと思うと同時に、心配もしています。 私自身命の危険がある現場は何度もあったし、はっきり言えば殺し合いをしたこともある。 だから……幾ら魔法が非殺傷設定を便利に使えたって、命を賭けて、奪い合う現場がどれだけ厳しいかも、よく知っているから」 ……その言葉も、アイツのものと同じくらいに重たかった。 でも、そうよね。私達は非殺傷設定って機能に、わりと助けられている。 力をぶつけても殺さない……殺さずに済む。軽くて、鎮圧だけなんだって。 でもそれができない場合、本当に……技術のみで相手を制する。とても難しいことだと思う。 その難しさと、至らなさとの葛藤……そういうものを、美由希さんの言葉からは強く感じられた。 ……それに実際、なのはさん……凄い大けがもしていたんだし。家族なら心配して当然よ。 「ただ、なのはが自分の中にある魔法を大事に思っていることも、そのために自分や大切な人を泣かせないって決めていることも、よく知っているから。 だから……遠い世界で頑張っている妹を、私はとても……誇りに思っています」 「お姉ちゃん……」 「というわけで、なのはの生徒さん達」 「「「「は、はい!」」」」 「なのは、厳しいようで妙に甘くて、ちょーっとビジネスライクが苦手な先生だから……やりづらいこともあると思うの。 だけど、お姉ちゃんからのお願い。……できればそういうところも含めて、面倒見てもらえるかな」 それは家族としての……大切なお願い。 そして私達は、家族の絆を……その大切さと脆さをよく知っている。 だから、笑顔で……本当に、自然と笑顔で応えられた。 「「「「はい!」」」」 「ありがと。あとは恭文のことも……見ての通りだけど、基本はファッション外道だから。 とにかく真正面からぶつかっていけば、応えてくれると思うよ」 「「「「ありがとうございます!」」」」 「お、お姉ちゃん? なのはにも一応……立場上の威厳というものが、あったはずでしてぇ」 「僕だって同じだよ! ……大下さん!」 「いや、最初に触れたのはタカだから! 俺は煽られただけ…………あの、蒼凪課長……目が怖いですよ? あ、肩を揉みますよ! 韓国マッサージ式……気持ちいいですよー!」 アイツの視線に負けて、平服した大下さん……その仲のいい様子を笑って……笑って……また笑い飛ばす。 「――じゃ、次は私……フィアッセ・クリステラです。 元々私はイギリスという国の生まれで、今は歌手と……クリステラ・ソング・スクールという音楽学校の校長も務めています」 「「「「校長!?」」」」 「といっても、スクールを作ったのはママだから……私は引き継いだだけなんだよ?」 「何を言っているんですか……! CCSは世界的歌手の登竜門! フィアッセさんを筆頭に凄い人達がそこからデビューしているんですよ!?」 「世界的歌手!? じゃあ、恭文さん……この方も……!」 「世界レベルの歌い手だよ。ホールとか埋め尽くせるレベル」 「同時に、アイドルや声優……そういうジャンルに囚われず、全ての『うたうたい』の憧れだよ! 当然私も目標の一つ!」 ホールレベル……!? というか、そんな世界的歌手が気さくすぎる! ウェイトレスとかしていたんだけど! というか琴乃がめちゃくちゃ熱弁している! そんな凄い人なのだと! 凄くない理由がないと! うたうたいとやら的に見過ごせないと! 「元々なのはのお父さんである士郎と、私の父は友人同士でね。士郎が父のガードを担当したことから仲良くなったの。 それで、子どもである私となのは、美由希……ここにはいないけど、兄の恭也も家族ぐるみでお友達になったの」 「フィアッセさんは、一時期うちにも同居していたんだー。静養のためでもあったんだけど……」 「あとは、士郎の怪我……リハビリのお手伝いもね。 あ……士郎、うちのお父さんや私を守るために、かなりヒドい怪我をしたことがあるの」 あぁ、それで……家族ぐるみなのがより親しくなったと。でもそれなら、なのはさんの家庭もいろいろあったってことかぁ。 「それで歌手として学校も引き継いで……ある程度慣れてきた頃、学校アテに脅迫状が届いてね。 それを知った恭也と美由希……たまたま近くを通りがかって、事件に巻き込まれた恭文くんが助けてくれたんだ。 で、恭文くんともそのときからの付き合い。……約束したよねー♪ 大人になったら結婚しようーって」 『………………結婚!?』 「えぇ、そうらしいのですよ……! リインと知り合う前に……リインがいるのに浮気してぇ!」 「リイン曹長、さすがにそれは理不尽です……!」 「ティアナちゃん、やめとけ。リインちゃんは止まらない……」 「……私も新しい浮気相手ってことになっているんだよね。本気しか許していないのに」 鷹山さんと琴乃がやんわりと制止を!? いいや、分かるけど! だってまた髪をメドゥーサみたいに揺らめかせて……ほんと怖いし! 「魔法のことも、実はなのはからじゃなくて……恭文くんの方から教えてもらったんだ。最初は忍術だって言い張って、大変だったけどー」 「本当にやってたんだ、アンタ……! つーかそれでも教えるんじゃないわよ!」 「仕方なかったのよ! 犯人の中に超能力者もいたんだから! 言い訳ができなかったのよ!」 「それも含めて運が悪すぎる…………超能力!?」 「……ティア、それってあれじゃない? えっと、えいちじー……えす」 「それそれ」 「あ、ぞっか……」 そう言えば現地資料であったわ。注意事項の一つって感じでね。 地球では先天的な遺伝子病を抱えている人がいるの。で、その中で特に重度な人がHGS。 ただこの遺伝子病で一番重いところは……遺伝性の変容が原因で、超能力保有者になること。 いわゆるテレポートや念動力、サイコメトリー……そういう患者の遺伝子を培養・クローン化した兵器計画もあったって書いてたわね。 ……スバルのことでも思い知ったけど、人と違う力や身体、生まれって……やっぱり重たいことなのよ。 それで場合によっては、その力を犯罪に生かして……そういうふうにしか生きられない人もいてさ。きっとコイツが戦ったのも、そんな人で。 というか……コイツもその一人じゃないのよ! 「いや、だったらアンタも自前の超能力……というかそうだって言い張るのは」 「だからそっちは”実は”という感じで使う。隙を生じぬ二段構えだ」 「アンタは誰と戦っているのよ!」 「ほんとだよねー。 でも……そうしていっぱい戦って、いっぱい守ってくれたんだ」 少し思うところが出てきていると、フィアッセさんはそれでもと……天使の笑顔を浮かべて、アイツを見やる。 「年はやっぱり離れているけど、恭文くんは私にとって運命の男の子で……ずーっと一緒にいたい子で。 だから今回のお仕事が決まったときも、ちょっと不満だったんだよ? 結婚式の準備もあるし」 「じゅ、準備ですか……!」 「うん。ウェディングドレスの選択とか……指輪の準備とか……お父さん達への挨拶とか」 「……1」 追い詰められている……アイツが、果てしなく追い詰められている。美由希さんのとき以上に追い詰められている……! というか風花さん達、これに勝てるの!? 笑顔だけで天使みたいに煌めいているんだけど! 「だから、ちゃんと無事に帰ってきてね? 私も……鷹山さん達だって、待ってるんだから」 「……はい」 「うんうん、恭文はやっぱこっちがホームグラウンドやなぁ。水を得た魚やし」 「……マジかよ。じゃあ今までのはあっぷあっぷだったとでも……!?」 「どうやろうなぁ。ほな、次はフォワード陣で」 「「「「はい!」」」」 つーか、つーか…………なんか、ほんと馬鹿らしい…………。 幸せそうな家族とか、仲間とか見て……羨ましがってる自分が、小さく思えて。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ その後はスバル達が自己紹介――それから、なんとも言えない居心地の悪さを感じながらも。 「――ジュエルシードというのは、向こうの考古学研究や遺跡探索で生計を立てていたスクライア部族……そこのユーノという人が見つけたロストロギアです」 「ロストロギアってのは……ようするに古代遺産なんだっけ? 昔の……滅びた文明とかの遺産」 「それが危険を及ぼさないよう、管理するのも時空管理局の仕事だったな」 「そうです」 鷹山さん達に、ジュエルシード事件について説明することに……関係者がやることなのにさぁ! どういうことよ! 「全二十一個あったそれは、正式な手続きを持って運搬中……事故により散逸。 それは幸か不幸か、地球の海鳴……つまりここに全て落下しました。 事態を知った発見者……当時はまだ九歳のユーノ先生は、その責任から捜索を敢行」 「だが、一応管理外世界ってやつなんだよな、ここは」 「だから局にも目的を明かし、きちんと渡航申請を出した上でです。 ただ、ジュエルシードには願望を叶える性質がありまして……その一部を海鳴の動物やらが拾い、凶暴化していたんです」 「ユーノ君は最初、一人でなんとか……って感じだったんですけど、それじゃあ無理で。 それで、SOSを魔法の力で送って……受け取ったのが私だったんです。レイジングハートもそのときから」 ≪えぇ≫ ……レイジングハートも、そう言えばいろいろと出自が不明だったんだっけ。横馬も詳しいことは知らないとか……まぁそこはいいや。 「で、なのはちゃんは魔法少女になったと……」 「そ、それはあの……少し気恥ずかしい表現と言いますかー」 「……事情を知ったおのれは、ユーノ先生を放っておくこともできず、協力を決めた。流れだけなら確かに魔法少女だ。 でも……そこで問題がまず一つ。ジュエルシードが海鳴に落ちてからすぐ、それを探索するもう一人の魔導師が現れたこと。 それがフェイト・テスタロッサ……ジュエルシードの安全な確保を妨害し、悪しき目的のために使おうとしたプレシア・テスタロッサの娘だ。 もちろんそこにいるアルフさんも、地球の迷惑など考えもせずに暴れてくれた元犯罪者」 「「んぐ!?」」 忌憚なき意見をぶつけると、二人揃って息を飲み……こらこら、そんなことしてたらご飯が喉に詰まるよ? 「あらま。じゃあフェイトちゃんはライバル役というか、悪役の立ち位置」 「それですね。……しかも問題はまだありました。 ジュエルシードは次元震……世界の地盤自体を揺らし、壊しうる爆弾としても使えること」 「爆弾……いや、そういえばあのときの話でも言っていたな。 願望実現器はそれ自体がエネルギーの塊。ゆえに悪用もたやすいと」 「だから願いも叶えられる……というか、結果という願いに、なんの努力もせずショートカットで飛び込める」 「そうです。琴乃で言うなら……レッスンもせず、オーディションを受けるなどもせず、いきなり思い描いたトップアイドルになるようなものですよ」 「それは、アイドル的にも頷きがたいけど……」 「だからこそ、『結果が満たされるだけじゃ叶えられない願いもある』」 すると大下さんが……あぁそうだ。それも二人には話したなぁ。 「いやね、やっちゃんがその話をしてくれたとき……一緒に聞いていた雨宮ちゃん達も、今の琴乃ちゃんと同じ顔していたんだよ。で、やっちゃんはこう返したの。 だったら今不満に感じたもの……必要だと感じる経過も含めての願いだから、それを伴った形で叶えられなきゃ意味がないってさ」 「あぁ……それなら、まだ分かります。つまり、願いを叶えるというのは二種類あるんですか」 「ショートカットして結果を引き寄せるものと、ある程度過程を踏まえた上で、成就させる……だったな、蒼凪」 「だからジュエルシードは、海鳴に相応の危険をもたらしたんですよ。 いきなりそんなものを手にした人が、ちょっと何かしたいなーって思っただけで、暴走してそれを叶えようとするから」 ≪そしてそのエネルギーの発露自体が、姉弟な強大たり得る。 だからこそ時空管理局が保守・管理するロストロギアの中でも……願望実現器≪願いを叶えるアイテム≫は注意を払っているんです。 願いを叶えても、それがまともな手段で成されないか。はたまた看板に偽りありで、そもそもどうやっても願いを叶えられないか……いずれにせよ疫病神扱いですね≫ 「そんな古代遺物が何百年も残って、今も対処が必要……それが次元世界に存在している、潜在的危機だったな」 「仰る通りです。そやからその辺りの保守管理を行う尖兵が、うちら機動課……引いては本局って考えてもらえると」 はやてが補足すると、鷹山さん達だけじゃなくてフィアッセさんやアリサ、美由希さん達もやや真剣な顔になる。 まぁ横馬達がそういう事件に多く関わってもいるしね。思うところはあるんでしょ。 なにより……その問題は管理局創設前から散々言われていることでもあって。 「もちろんジュエルシード事件でのプレシア・テスタロッサみたいに、それを私利私欲で悪用しようとする輩もいます。 密輸などで利益を得ようとする輩も……万が一暴発したときの被害も、それで泣く人達の痛みも構わず」 「どこの世界でも悪党は同じか……」 「俺とタカもそういう奴ら、散々見てきたよ。 ……で、続きは……」 「なのはちゃんとフェイトちゃん達のヤンチャも、結構ヤバい状況やったんですよ。 取り合う中でジュエルシードに魔力を注ぎ込んだせいで、中規模次元震が発生して……」 「その影響を掴んで、私や夫……クロノ君やお母さんが乗っていた、アースラという船のスタッフが急行したんです。 それでまずなのはちゃんとユーノ君から事情を聞いて、協力してジュエルシードを集めることに……。 ただフェイトちゃんとアルフについては、こちらの聴取から逃げ続ける形になって……結果重要参考人として追跡することに」 「それは本当に悪役ムーブだよね……」 「は、はい……」 おぉおぉ、ハラオウン執務官が心苦しそうに……まさか過去についてここまでほじくられるとは思っていなかったんでしょ。 「母さんの……プレシア母さんの目的もよく分からず、とにかく母さんのためにって……集めていたので」 「それについてはアタシも同じだ。変な感じはしていたのに、家族だからと……フェイトにはアタシがいるからと言い訳にして…………でも、そうだな。 そういうのを人の気持ちが分からない……分かろうとしないって言われたら、アタシは否定できない」 「アルフ……」 「実際クロノにも事件が片付いた後、言われたんだよ。 そういう盲目は、信頼や家族愛とは違う……それが事件を深刻化させたって」 「…………そうだったの!?」 「なのはと話し合う機会とか、アタシが庇って……何度も潰したから。だけど……」 するとアルフさんが、とても不思議そうな顔でこちらを見て……。 「でもお前、なんでそこまで知っているんだ……!?」 「あ、そうだよ! 一応秘匿事項とかかかってる部分もあるんだよ!? フェイトちゃん達もただプレシア・テスタロッサに利用されただけだから、一定期間保護観察されただけで済んだし!」 「……………………まぁ地雷執務官はともかく、アルフさんやエイミィさんは本当に……何も知らないようだから、経緯を教えてあげますよ」 「いや、そんな哀れまれても…………!」 「哀れみますよ。……誰かがバラしているんですから」 ………………アルフさん、そんなに呆けないで? 本当のことだから。 「え、バラしてって……恭文くん……!」 「いや、だから……”六課関係者の後ろ暗い過去”をそれとなくバラして、足を引っ張ろうってしている奴らがいるんですよ」 『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』 「恭文、ちょお待て! それはうちら…………あ、そっちは聞いてたな。ごめんごめん」 「八神部隊長、そうなんですか!?」 「うん……それも正当な問題提起としてな。 ……去年リンディさんがやらかした関係で、『また同じことが起こったらどうする』って話になっているんよ」 「あのときは我々もそうだし、テスタロッサも止められなかったからな……。 それでなお処罰もなく……言い方は悪いがのうのうとしていることに、本局内部では危機感を強く持たれているそうだ」 「ようは派閥争いってわけだ」 醜いもんだと、つい腕を組みため息……すると鷹山さんと大下さんが察したように何度か頷く。 「なるほど。ようはリンディ提督の反対勢力がやらかしていると」 「脛の傷を調べて揚げ足を取ってーなんて、権力争いの常套手段だしね。やっちゃんもそうして漏れた話で知った」 「それです」 「だが提起自体は正当なんだな」 「ようはストッパーがないって話ですから。 というか、ハラオウン家以外の誰かがやらかしたときもどうするんだーって話にもなっている」 「だったら止めようがないなぁ……」 「……正直……長年の部下で、義娘にもなっている私としても信じたくはないけど……それだとなぁ……!」 エイミィさんはその辺りの覚えがあるのか、困り気味にこめかみを弄る。……美人なのに苦しげな表情で台なしだ。 「ただまぁ、アウトコース名可能性も考えて、ロッサ……査察部のヴェロッサ・アコース査察官に動いてもらっとるんよ」 「じゃあ、お母さんは大丈夫な感じ?」 「……全く駄目です」 「…………」 「ふぇ……!?」 「まず……誰がどうバラしたかが、査察部の調査でもよう分からん。 しかもフェイトちゃん達が察することができない程度の……緩い噂話程度に留まっている。 もちろんリンディさんに対する……その後がまを狙うような派閥は幾つかあったんやけど、今は処罰できる段階とちゃう」 「小ずるいけど、どっかの執務官みたいに『信じてー』とか言い続けるよりはずっと理解できるやり方だよねぇ」 …………あれ? なんかみんながギョッとして僕を見てきたな。これはどういうことだろう。 「ナギ、アンタ……!」 「ゲームだってまともに殴り合いできない敵は、まずデバフをかけまくって潰すでしょ。同じことだよ」 「同じじゃないよ! 私達はそんなことされる理由なんて」 「ある」 「――!?」 ……あれれー、どうしてみんな静まり返るんだろう。僕は実に正しいことを言っているのにー。 「風が吹けば、誰かにとっては追い風でも……誰かにとっては向かい風かもしれない……うん、実に当たり前のことだ」 ≪ですね。あなた達が順風満帆にやっているだけでも、目障りに思う人達は出てきてもおかしくないでしょ≫ 「ついに目障り呼ばわりしちゃったし!」 「ちょっと待てよ! それでも……真面目に頑張ってきたんだぞ! お母さんも、フェイトも! なのになんで嫌われなきゃいけないんだよ!」 「アルフ、これはナギが正しい」 おぉ……さすがはバニングス社の令嬢。教育がしっかりしているのか、アルフさんを止めてきたし。 「アリサ!?」 「うちのお父さんやお姉ちゃん達も、結構苦労しているしね……」 「すずかまで!」 「えっと……」 「あのねぇ、豆柴……日本でもそういう……組織内にデカい派閥ができて、そのせいで会社が傾いたって例が結構あるのよ。 二人ともバニングス社と月村重工っていう大きな会社さんの娘だから、その辺りも勉強しているの」 「あ、そうなんだ……。じゃあ恭文も」 「忍者は元々”敵の領地を偵察し、情報を収集する”のがお仕事よ? それで組織や経済の動きもさっぱりなら、報告とかができないでしょ」 「確かに……!」 それも当然と胸を張ると、なぜか豆柴が羨望の眼差しを……まぁ気にしないでおこうっと。 「なぎ君、一番問題なのはやっぱり……おば様達がこのまま出世したらってところだよね。今の段階でストッパーがないから」 「そこだね」 「それ、どういうことだよ。出世はいいことじゃないか」 「そうして本局のトップとかに立たれたら、実質乗っ取りになるってことですよ」 「乗っ取り……!?」 「局員への教育方面はなのはが――。 捜査方面はハラオウン執務官やクロノさんが――。 凶悪事件などの現場指揮などははやてが――。 そのまま他のシンパが順当に収まっていけば、あら不思議。本局のトップ層でハラオウン家が大活躍ですよ」 「それで問題は、もしおば様やなのはちゃん達が、”間違った判断”をしたとき。 ……会社経営でもね、上層部が創設者びいきの放蕩経営をして、潰れた実例がたくさんあるの」 そう、トップが一つの派閥……シンパで構築されているっていうのは、実はかなり危険な状況だ。 安宅産業とかもそれで、国家的危機を招いたしねぇ。もちろん今回は企業じゃないんだけど……。 「だったら問題……あるよなぁ! それ、お母さん達がやらかしたらーって話にもなっているんだよな!」 「まぁそれを言い訳にしているとも捉えられますけど、その証拠もないし……現に”去年は止められなかった”という実例も出ちゃいましたから」 「……というか、そこんところにストップかけたのが、古き鉄……民間協力者の恭文ってところが更に問題よ。 いちいちそんなことをやられとったら、管理局が幾ら馬鹿デカい組織言うたかて……たやすく揺らぐよ」 「あとはフリーランスとしていろんなところを回っても思ったけど……ある種のカリスマで一極化した派閥は、厄介に思う人も多いんだよ。 今言ったみたいに、間違った方向に進んだ場合のブレーキがないというのが一つ。 危惧を唱えても、ハラオウン執務官みたいに聞く耳を持たない……風通しが悪いというのが一つ」 「ふぇ!?」 「……どうすりゃいいんだぁ……!」 「アルフ……ひとまずおばさまに付いては休養しかないわよ。今の状態で対処させたら、それこそ袋小路よ」 アリサ、頭を抱えないでよ。現に強情なんだよ? この地雷執務官は……。 「ん……じゃあ、その辺りってどうすれば解決するのかな。恭文の勉強した感じだと」 「……即刻ハラオウン一派は局員退職、しかないかなぁ……!」 「琴乃ちゃん!?」 「……スバル、琴乃の言う通りなのよ」 「アリサさん!?」 「会社経営の話になるけど、親から子へ、子から孫へって感じで……経営者一族がその運営を引き継いでいくのを、同族経営って言うのよ。 日本の会社……うちやすずかの家も基本はこれなんだけど、実は結構デメリットが……というか、今話した感じのことが起こりやすいのよ」 「あとは、どれだけ頑張っても結局社長とかになれるのは、その子どもって決まっていることだよね」 すずかさんが心苦しく言うと、スバルやエリオ達が小首を傾げる。 「あの、それはどうしてでしょうか。前提の話通りなら……問題ないような」 「じゃあエリオ、アンタはもし次の社長が……フェイトみたいな天然だったらどうする?」 「アリサ!?」 「そうじゃなくても、全く仕事ができないとか……一度大きなミスをして、迷惑をかけられたとか。 そういうのがただ社長の子どもってだけで、自分を差し置いてぽーんとトップになるのよ」 「そ、それは……!」 「そう……すずかが言ったのはね、『社長の資質があるかどうかも無視される』ってことなのよ。 これはある種の不公平感を生み出し、社員……引いては会社の動きやモチベーションを著しく低下されるわ」 「だから日本だと最近は、あえて同族経営から脱却し、より大きな発展を狙うところも多いのよ。 そもそも自分の親族は会社に入れないとか、入れても重役の椅子はないぞーって予め通達するところもあるくらいだ」 故に、とっとと辞めて後を誰かに託すか……そういう選択肢しかないわけで。 スバルも、エリオ達もそれで納得してくれる。僕が……アリサ達がここまで端的になる理由を。 「そっか、それで琴乃ちゃんも……」 「一応、補佐官としてそういう基礎知識は教わったから」 「でも、最初から重役にはなれませんーって通達も結構キツいよ!?」 「というか、私も意外かも……。 管理局って、自分の家族や子どもを……部下とか側近にする場合も多いんです」 「ちょうどうちにとってのリインとか……レジアス中将のオーリス三佐がそれやな」 「それですね」 「……蒼凪」 「ミッドチルダの中央本部……県警本部みたいなところのトップですよ。 オーリス三佐は実の娘さんで、才覚も認められた上で秘書を務めているんです」 一応鷹山さんには、モニターを展開して見せてあげる。眼鏡のクールビューティーな秘書を……。 「へぇ、美人じゃないの。タカの好みドンピシャ」 「悪いね、秘書には三年前の一件で懲り懲りなんだ」 「引きずるねぇ、相変わらず」 「根に持つタイプですからね、鷹山さんは」 「お前に言われたくないんだよ! お前こそ江戸の仇を長崎での精神で、ネチネチ攻撃するだろ!」 「さっきもやっていたしねー。というか恭文くん、相変わらず勝利に目がけて一直線」 フィアッセさん、頭を撫でられても……いや、幸せだけど。こう、ほわーっとするけど……でも今は気を張りたいー。 「……でも、なのは的に退職は困ると言いますかー」 「うちも、やりたいことのために入ったからなぁ……!」 「アタシだって教官職、結構気に入ってんだぞ……!?」 あぁ、横馬と狸、ヴィータが揃って困り果てている。まぁ大事な仕事ではあるし、仕方ないか。 「じゃあ仕方ないなぁ……一人生けにえを決めて、ソイツだけ辞めさせようよ。派閥の中で一番偉い奴が適任なんだけど」 「あ、なるほど。そりゃあ納得……じゃねぇよ! 結局リンディさんのことだろうがぁ!」 「……恭文、そうじゃなくてもっとこう……平行線でもみんな一緒に頑張るぞー的なハッピーエンドはないかな。 エイミィの親友としても、リンディさんにそういうのを強いるのは……ちょっと」 「美由希さん、いつぞや敵に突撃しながら、三つ編みをばっさり切られたことがありましたよね。 あのときの気持ちを思いだしてください。髪はまた伸びるんです」 「リンディさんを私の三つ編みとして処理するのはやめてくれない!? ほら、そこは……勝利を目指して、ありとあらゆる努力をする精神で!」 「……去年の大ポカがなければ、それもありましたよ」 「あったの!?」 あったので美由希さんに頷きながら、大きくため息……そして頬杖。 「僕もこやつらの体たらくにはムカついた上、本気で呆れ果てているんですよ。ただ同情もしていまして」 「同情?」 「……局の上が温情処置なんて与えず、ハラオウン執務官も、提督も、揃って降格処分か左遷にでもすればよかったんですよ」 「はぁ!?」 「……そこなのよね。問題をややこしくしている一番の原因は」 そこでアリサさんが大きくため息……そうして見やるのは、やっぱりハラオウン執務官とアルフさん、エイミィさんだった。 「さっきエリオにした同族経営の問題点……出世絡みの不満はね、えこひいきとも言い換えられるの」 「えこひいき?」 「経営者の家族だから……そのシンパだからって、起こしたミスの責任を逃れるとかもあり。 だからアンタ達、管理局のすっごく偉い人達から目をかけられて……そういう”ズル”をしているって思われているのよ」 「あの、待って……アリサ……!」 「だから、恭文くんも処罰をって……」 「そんなの理不尽だろ! お母さん達は普通じゃなかったんだぞ!」 「だから普通は”表向き”って形で処分だけはするんですよ。組織内の規範を守り、不平不満を出さないために。 少しばかり地方の方に左遷してもらって、ほとぼりが冷めたら戻るってのがパターンですね」 しかしアルフさんは……いや、家事手伝いにそんな能力を求める方がおかしいか。それでも迂闊すぎるとは思うけどさ。 「ほら、それならアルフさんが『処罰なしはおかしいぞちくしょー』って派閥でも、溜飲が下がるでしょ?」 「た、確かに……そう言われると……!」 「最悪でも当人が言い出すんです。大々的に。少なくとも腹を切る覚悟はあるんだぞーと……あとはしばらく活動自粛とか」 「……アイドルや芸能人が不祥事をやったとき、よくやるあれだね」 「それなら納得かも……! というかそのアイドルのやつ!? 見たことあるよ!」 ただ、アルフさんは凄く素直で。琴乃も苦笑気味に補足してくれたので、すぐ納得してくれた。 「でもえこひいいきに思われるって、そんなヤバいのか……!」 「それどころか“組織運営で一番やっちゃいけないこと”とされています」 「一番!?」 「とにかく社員のモチベーションが凄まじく下がるんですよ……。 僕も忍者の研修で“組織崩壊させるなら、一番ツツきやすいところ”と教わったくらいです」 「あの、私も……補佐官研修で」 「嫌な研修ね、それ……!」 「というか琴乃ちゃんはそれ、大丈夫なのかなぁ」 「まぁ、ユニットセンターとして、運営の心構えとか……そういうのを鍛えられているとも思うので、大丈夫です」 琴乃は心配する横馬には、苦笑を送る。でも……その言葉はやめてほしい。僕にも突き刺さる。 それで人間関係を冷めて見てしまう自分が、どこかでできてしまうから。琴乃もきっと同じだろう。 「だから、それも……私達が一生懸命お仕事を頑張った上で、信頼を取り返していけばいいと思うんだ」 それでハラオウン執務官……おのれはまたかい……! 「時間はかかるかもしれないけど、少しずつ……みんなで頑張っていけば」 「そのみんなに、アンタ……ちゃんと確認を取ったの? ”自分と母親の尻ぬぐいをしてくれ”って」 「………………!」 でもそんなアリサの言葉に、ハラオウン執務官は何も答えられない。うん、答えられるはずがない。 「なお僕はされていないよ」 「じゃあ駄目じゃない……」 「…………私……母さんも、なのは達を……ただ、利用しているってこと……!?」 「フェイト、おば様の状態もあるからはっきり言っておく。 ……それが現実よ」 「アリサちゃん……」 アリサは正しい。友達として、会社社長を親に持つ身として、できる限りの誠意をぶつけている。 でも、それでも厳しいことは確かなので……すずかさんに軽く宥められて、矛を引く。 「恭文……」 「……こういうことなんですよ、美由希さん」 「キツいね、それは……」 「だから自分で首を切れって言ったでしょ、僕は……」 「言うとらんからな、それ」 「遺書は書くので」 『書かないで!?』 その様子が溜まらなくて、軽く頭をかく。 「……というかアンタも、それならそれで出世とかできるでしょ。組織の道理がそこまで分かってるなら」 「あー、無理無理。やっちゃん、俺達と同じでただ楽しみたいだけだし」 「楽しみたい?」 「そりゃあもう、悪党を追いかけ、追い詰め……始末する」 「じゃなかったら続けられるもんじゃないよな。デカなんて仕事」 「僕は忍者ですけどね。でも……楽しい遊びだ」 大下さんと鷹山さんが軽く銃を撃つ仕草。それに僕も乗っかると、ティアナが不思議そうな顔をする……。 「というかね、ティアナ……さっきも言ったでしょ。忍者だからこそ詳しくなっておかなきゃ駄目なのよ。六課崩しとかできないでしょ」 「そのヤバい研修の実験台に、うちを選ばないでくれる!?」 「ティア、忍者さんってやっぱり凄いよ!」 「アンタもツッコんでよ! 憧れの舞台が台なしにされかけているんだから!」 まぁそんな感じで、食事を交えながらの談笑も進み…………しかし、えこひいきか。 ”………………アルト” ”やっぱり引っかかりますね” ”そもそもの話、僕達の手柄を奪って替え玉に……って時点でえこひいきだった” ”もちろん私達をリンディ提督のスカウトで局員とし、その派閥に……あの提督が望んだ方向に進ませるのも” そう、あのスカウトも臭い。だってさ、あれだけのポカをやらかした後なんだよ? 普通推薦を受けたって、マイナス要因にしかならないでしょ。 にもかかわらず、今まで通りにできると……問題はないと誇ってすらいた。その時点で頭がおかしいというのは、はやてに言った通り。 でももう一つ、踏み込んで問いただすべき問題があったよ。 ”あの判断は…………偽者の英雄をハラオウン一派に被せるというのは、本当に一体誰の判断なのよ” もっと早くに考えるべきだった。まず対AMC装備を持ちだしたとか言えば、ハラオウン執務官達を英雄に仕立てることは可能だ。 その証拠も、言い訳はいくらでも立つ。僕達が本物の戦闘映像とかを出さない限りはね。だからハラオウン提督も舐めた真似をしてくれたわけだ。 恐らくはそれで、洗脳された事実も上手くもみ消して……ってのが当初の流れだったんだろうね。 だけど、そもそもハラオウン一派を選ぶ理由がどこにあるのよ。 Ha7破棄の件、GPOへの分署襲撃の件……幾らはやてとシグナムさん達は独自行動で事件を追っていたからって、これだけで相当やらかしている。 普通はさっき言ったみたいに、一応の処分を出しつつ、ほとぼりが冷めるまではーって感じにしておくのよ。 で、それで手柄をぶんどるにしても、他の……適当な部隊や人員を選ぶはずだ。 事件とは関わっていないけど、エース・オブ・エース≪高町なのは≫がいるから? いや、それは違う。 その絵面を描いた奴らは、誰を中心と見ていたか。ここが重要だ。 ”ハラオウン執務官や提督を……ハラオウン一派を意のままに操り、手駒にしようとしたのは……” そうだ、鍵はハラオウン執務官と提督だ。ここでネックなのは、二人が卑怯な方法で無罪を勝ち取った状態ってことなんだから。 スカリエッティがなにか仕掛けた……却下。そんな局の人事を弄る旨味がない。捕まえるなりしたいなら、普通に襲えばいいだけだ。 とすれば、やっぱりスカリエッティのスポンサー? それとはまた別に……くそ、これ以上は情報が足りないな。 ”ミゼットさん達という可能性もありますよ。なにせ影の六課後見人らしいですから” ”運営をより順当にするための箔付けとしても、悪くはないね。でもそれは……” ”本当に、意のままに操られています。正しく猟犬ですよ” まぁなんにしてもだ……。 機動六課の設立をよしとして、それを都合よく扱おうとする奴がいる。それは間違いない。 それも相当に高いランク……あれだけの情報統制を当然とする力の持ち主だ。 「どうした、蒼凪」 「……見えてきたみたいですよ、今回の獲物が」 「それは何よりだ」 「食らいついたら離すなよー。暴れれば暴れるほど美味くなるんだからな」 「もちろん」 「……私に必要なのは、これに付き合う覚悟なんだろうなぁ」 「そうそう。琴乃ちゃんも楽しめばいいって」 「刃向かうのも悪くないものさ」 「はい」 遠慮なく背中を押してくれる二人には、心から感謝する。 ……これに目を伏せたら、後悔しそうだしね。それくらい……大きな予感がしているんだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ アイツがなんだか神妙な顔をしているのが気になった。でも食事は続き、飲めやうたえの大騒ぎ……という感じでもないけどね。 だけど、和やかに楽しく……家族で、友人同士で、はたまた初対面同士での楽しい時間は続いて。 「……っと、そろそろドリンク切れそうやな」 「まだまだ冷やしてあるわよ? 湖で冷やしているの」 「あ、じゃあ私達が!」 そこでスバルが立ち上がるので、私も続いて……。 「エリオ、キャロ」 「「はい!」」 「おおきになー」 「ありがと」 「「「「いえ!」」」」 というか、エリオ達も続いて……なおアイツは。 「うーん……」 「もうちょっとシンプルな方がいいんじゃないか?」 「そうそう。まずは足がかりからってね。考えすぎるのはやっちゃんの悪いくせ」 「そうですね。見落としがないように、枠組みはさっくりで……」 駄目だ、鷹山さん達とメモ帳片手に盛り上がってる。なんか絵でも描いているのかと思いながら、四人で湖まで。 木々の合間を抜け、軽く舗装された道を歩く。するとひんやりとした風が抜けてきて、頬を撫でた。 「あぁ……なんだか賑やかだったね。 リイン曹長やヴィータ副隊長も、普通にアリサさん達に可愛がられてるし」 「ですね」 「というかエリオもー。なんか大下さんに話しかけられて、楽しそうだったしー!」 「あ、はい」 あー、そういや大下さん、なんかちびっ子達とも騒がしくしていたわね。それも結構手慣れた感じで。 「なんでも大下さん、少年課のお仕事を手伝うことがあるらしくて……」 「少年課?」 「刑事課とオフィスが壁なしの隣り合いで、応援的に。 ふだんのお仕事でも、捕まえた人の更生も手伝うことがあるらしくて……面倒見がいい方なんです」 「あ、それで二人とも気に入られちゃったんだ!」 「私はともかく、エリオ君は」 「お仕事というか、横浜の話……たくさん聞かせてもらいました。 横浜の奇麗な風景……ちょっと危ないところとか、そういうのも含めて素敵な町だって」 エリオ、ほんとキラキラした目で言い切るなぁ……。いや、でも仕方ないのかも。 なにせ相手は教科書にも載るような事件を、ただの刑事という身分で解決した……正しく伝説級の人なわけだし。 お調子者に見えるけど、それ以外のカッコいい部分もあるってことか。完全に憧れているーって様子だもの。 「でもほんと、ああいう……温かい家族や友達なら、全身全霊で守りたいって思いますよね」 「うん」 「……まぁ大下さんと鷹山さんは、守るっていうか……一緒に暴れたい感じなんでしょうけどね」 「ですね」 家族……友達かぁ。また吹き抜ける風に髪や頬を撫でられ、少しだけ……心が冷えるような音がした。 「私、最近思うんです」 でもそれとは真逆に、キャロは風に髪を押さえながら、ほほ笑んでいて。 「機動六課も、なんだか家族みたいだなって」 「……そう?」 「私が前にいた自然保護隊も、隊員同士は仲良しでしたけど……六課はまた、それともちょっと違っていて」 「うーん……隊長達が仲もいいし、シャーリーさんやリイン曹長も気さくな感じだしね。恭文も面倒臭いツンデレなだけだし」 スバル、それは多大な問題…………まぁいいけどさ。 「アルトさんとかルキノさん……メンテスタッフのみなさんも優しいです」 「もちろん、スバルさんとティアさんも」 「えへへへ……♪」 「ん、ありがと」 ちょっと居心地が悪くなりながらも、適当に返し、湖の畔に。 すると桟橋の近くに網がかけてあり、中にはぷかぷか浮かぶペットボトルが……というか、三つくらいあるんだけど! 「ありました……けど、たくさん!」 「一つ十キロくらいありそうだねー」 「……」 するとキャロが少ししゃがんで、水に手を当てる。 「水、冷た……」 「ちょっとアンタ達、落ちたりしないでよ!?」 「大丈夫です。……よっと」 次に網を右手で掴み、ひょいっと………………ひょいっと、平然と持ち上げた。 「保護隊ではこういう力仕事もあったので」 「キャロ、凄い……!」 「じゃあこっちも……」 いや、平然と左手を伸ばさないで!? もう一つ持とうとしないで!? ところどころぶっ飛んでて怖いから! いや、落ち着け。これで落ちても駄目なので、やんわりと制止して……。 「……こっちは私とスバルが持っていくから、それは二人で安全確実に。OK?」 「分かりました。じゃあ……エリオ君」 キャロはすっとジュースを網ごと右肩に担ぎ、すたすたと歩いていく。 「後ろから見ていてね、落ちないように」 「りょ、了解…………!」 「き、気をつけてね……」 「はーい」 堂々と歩いていくキャロ。それをオロオロしながら追いかけるエリオ。既にかかあ天下ができていて、スバルと二人身震いしてしまう。 「ティア……」 「…………キャロと殴り合いとかするの、絶対やめておくわ」 「そうだね。恭文も、キャロのフィジカルは凄いーって褒めてたくらいだからなぁ……!」 「そうなの?」 「体幹とか、バランス感覚とか……不整地での仕事が多いから、鍛えられてるんだって。自分より上だって断言していた」 「……なら、私達って一体」 訓練も積んでいるのに、それでもキャロより下ってこと? あははは……やっぱりカントリーが恐ろしい! ……そんな感想を抱きながらも、網を引き上げて、ジュースを……いや、これマジで十キロ以上あるんだけど! あの子、それを平然と……男らしく担いでいったの!? どんだけパワフルなのよ! 「……ねぇ、ティア……」 そのままジュースを持って歩き出す。スバルが何を言い出すか、ちょっとだけ……怖く感じながら。 「ティアー」 「………………なによ」 でもまぁ、すぐに……いつも通り根負けしちゃうんだけどね、私は。 「機動六課にきて、よかったね」 「……まだ分かんないわよ。きな臭いことも多いし、訓練もずっと基礎と基本の繰り返しで、強くなっている実感もなかったし」 「それは、なのはさんともお話して解決していくんでしょ? 最初の気持ちも思い出しつつ」 「……まぁね」 「でも大丈夫だよ、きっと。 ティアの射撃、威力や精度……発射速度だって、断然速くなってる! 三年間見てきた私が保障する!」 「それはクロスミラージュが優秀だからでしょ」 ≪……Sir、それは違います≫ すると、懐からクロスミラージュの声が……でもごめん、両手が塞がってて取り出せない……! ≪このままで問題ありませんので≫ 「……心を読むな。つーか、なにが違うのよ」 ≪能力リミッターからも分かるように、高性能なデバイスは扱う者にも相応の水準を求めます。 私を優秀と褒めてくださるのは有り難いですが……それならば、あなたもその私に見合う魔導師です≫ 「ぐ……!」 「あははははは! そうそう、その通りだよ! じゃなきゃ、クロスミラージュに失礼だよー!?」 「うっさい! 笑うな! つーかアンタも……ああもう! 今のは私が悪かった! ごめん!」 ああもう、まさかデバイスにやり返されるとは思ってなかったし! しかも正論だから反論もできない! ほんとくやしい! 「……ねぇ、ティア」 「だから、なによ」 「エリオとキャロも、ティアのこと好きになってくれているし……ティアは、一人じゃないから」 「……あっそ」 「ティアとコンビでいる間もそうだし、いつか離れても……私はティアのこと、大好きだからね」 その言葉に……妙な怖気を感じ、スバルから二十メートルほど離れる。 「…………って、なんで声もなく逃げるの!?」 「スバル、もしかして……言ってなかったかしら。私はノーマルなの」 「違うよ、そういう意味じゃないし! ライク! LIKEー!」 「あ、そう。……でも……」 分かってる。スバルは本気で言ってくれているし、なのはさんも……本気で向き合おうとしてくれている。 クロスミラージュだって、私のことを知って……その上で言ってくれている。 「平気よ。一人の寂しさも……誰かの家族や友達を見て羨む気持ちも、もう慣れっこだし」 「ん……」 「それに、自分に足りないものだらけなのも、承知している」 私はただ、過去のことで意地を張っているだけ。寂しい気持ちに蓋をして、また捻くれているだけ……だけど。 「恭文?」 一つ、どうしても引っかかりがあるのも事実で……。 「…………アイツのスティンガー、見たでしょ? たとえば初出動前の模擬戦……私より遠く、私より遅く撃ったのに、こっちがリロードしている間に、アンタに届かせた」 「そうだね、あれは凄かったー」 「銃器を使っての射撃だってそう。アイツ、近接型なのよ? 剣術が基本戦術なのよ? それなのに……」 早撃ちも、命中精度も、アイツの方が上だった。なのはさんとも真正面で、乱射戦を挑んで押し負けないし。 その上狙撃もOKなのよ。忍者講習で教わったんですって。ほんとなんのよ、忍者が万能過ぎて怖い。 「戦略だって、アイツの方が筋も通っている」 「無茶苦茶だけどねー」 「でも型破りなだけで、形なしじゃない」 「ん……」 「捜査報告とか、そういう折衝もきちんとできる」 「特記戦力の取りまとめだけーって言っていたけど、そうは思えないくらいだよね」 「えぇ」 そうだ、アイツは鍛えている。馬鹿みたいに、真っ直ぐに……死ぬほど鍛えて……だから、だから……! 「ううん、それ以外の技能だって……だから、だから、だから……ほんと腹立つのよ……!」 「ん……」 「あれだけできるのに、ちゃんとした役職がいらないって様子もそうだし……なんで、あれだけ強くなれるのかって……。 しかも今のアイツは……リミッターをかけて、私達と同じランクなのよ……!? 一体どういうことよ」 「だったら聞いてみればいいんじゃないかな」 するとスバルはひょこっと顔を出して、こちらを見てきて……。 「八神部隊長の真似になるけど」 「……分かってるわよ。結局、聞くチャンスもすっ飛ばしているって……一人でいじいじしているって」 「まぁ気になるのは分かるよ。ティアは魔導師ランクも、出世もバシバシして、空戦魔導師にもなって……執務官だしね。恭文は正反対だ」 「それよ! いや、サツキ・トオルのことがあるのは分かるけど……だからって、そのために……」 「でも、言ってたよね。恭文は”正義の味方”になりたいって」 それは、ヘリの中でなのはさん達が言っていたこと。 それを噛み締めるようにスバルは、空を……眩く輝く星を見上げる。 「あの意味、鷹山さん達を見ていて……少し分かった気がするんだ」 「スバル?」 「きっと恭文がやりたいことには、魔導師ランクも、人より高い権限も必要ないんだよ。 それこそ本当に……心一つで、いつでも叶えられることで」 「なによそれ……意味分かんない」 「だから、聞いてみるの! 一撃必倒! 手加減なしで!」 「ん……」 背中を押してくれる相棒には一応感謝しながら、私も空を見上げる。 こうしていると、空の広さに、星の輝きに……また吹き抜けた風に、勇気をもらえる気がして。 (――本編へ続く) あとがき 恭文「というわけで、結局ふだんの一話分となりました隙間話。 食事中に似つかわしくないシリアス話…………そして……スバルのせいかぁ!」 フェイト「あの、大丈夫。私も頑張るから……奥さんとして」 恭文「おのれはまだ奥さんじゃないからね!? このときは!」 フェイト「そうなの!?」 (閃光の女神、ついに時系列すら吹き飛んだ模様) 恭文「じゃあ次の話で出張編も終わるし、そうしたら格付けチェックに集中しよう……」 フェイト「サウンドステージからの書き下ろし部分が多いから、集中したかったんだね……」 (一気にやらないとテンションが……) 恭文「とにかく僕はこの場での話を糧に、また真実に近づいたのだった」 フェイト「私達が実質無罪だったのって、やっぱり……!」 恭文「そう、機動六課は悪によって作られた英雄だった」 (『エボルトォォォォォォォォォ!』 本日のED:仮面ライダーGIRLS『Build Up』) フェイト「……いや、エボルトじゃないよ!?」 恭文「最高評議会は死亡後、エボルトとして転生。 世界を支配しにかかるんだね、分かります」 フェイト「だからエボルトってワードは駄目ー! 普通にほら、記憶を転写した素体とか……ね!? そっちだよ!」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |