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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第11話 『お前達を止められるのは/PART2』


突如の乱入者も、なぎ君の前では戦闘員同然。

ただ、問題は…………。


「空やリニアレールの方はどうや? 他には」

「観測できません! ただ……あぁ……ライトニング03……エリオが!」


アルトが回してきた映像……AMFを展開され、タコ殴りにされるエリオ。

そしてボール型はワイヤーアームでエリオの身体を縛り上げ……。


『エリオ!』

「なぎ君!」

『この距離じゃ無理だ!』

『あ、あぁあぁぁ……あぁあぁあぁあ……』


キャロもフリーズしてる。人一倍力やその行使に怯えていた子だから、キーを握ったまま停止して……。

だから、現実は止められない。エリオは頭から血を流し、抵抗もできないなまま……列車の外に放り投げられた。


意識もなく、ただ無力に……深い、深い谷底に……………………。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


エリオ君が、飛んでいく……落ちていく。

私がなにもしないから……なにも、しようとすらしなかったから。


――キャロよ……アルザスの竜召喚士よ――

――わずか六歳にして、白銀の飛竜を従えし、力ある若き巫女よ。そなたはそれにとどまらず、黒き火竜の加護も受けた――


強い力は怖いもの。


――お前はまこと、素晴らしき竜召喚師よ――

――しかし、強すぎる力は災いと争いしか産まぬ――


人を傷付け、平穏を壊すもの。


――こいつは駄目ですよ。何度やらせても失敗ばっかりで、飛竜一つまともに扱いきれない。迷惑極まりないお荷物召喚師です――


だから振るわないように、振るわないように……私の……龍召喚の力は、そういうものだから。


――使いきりの爆弾と同じ。竜召喚だって、こいつを守ろうとする竜が暴れるだけでほとんどけだもの――


何度も何度も、そう言われてきた。だからそうして………………でも、本当にそうなの?


――全く、召喚なんてレアスキルを持ってるから引っ張ってきたら……どうしようもないゴミでがっかりですよ――


今エリオ君を放置したのは……なにもしなかったのは、私。

そんな言葉を理由に……優しく強い支援魔法があるからと、言い訳した私。

それが使えないからと、言い訳して止まった私。

力を振るうことを……誰かを傷付けることを怯えて、虚勢を張ることしかできない私。


………………本当はそんなの、馬鹿らしいとすら思っていたのに。

そうだよ、今エリオ君を危険に晒したのは……あの人達じゃない! ガジェットでもない!

誰でもない私なんだ! 私が見殺しにした! 私がそれでよしとした! 私が……私だけが守られるために!


それで謝って……泣いて謝って! なのはさんやフェイトさん達に優しくしてもらって! それで終わって……また引きこもって!


(そんなの違う……)


だから、自然と立ち上がり……キーのスイッチを押していた。


(そんなの間違ってる)

≪シャーマン!≫


それに呼応して、バックルのベルトから光が漏れる。それはモザイクのように現れて、一瞬で……斜めに装着された銃になっていた。


(私が、今やりたいことは……!)


そのまま駆けだし、キーは銃≪ライオットフォースショットライザー≫に装填。


≪オープンライズ!≫


ライオットフォース……長いのでライオットライザーに決定!


「エリオ君!」


とにかくキーが銃の中でしっかり開いたので……エリオ君目がけてジャンプ!

後のことは、動き出せばどうとにでもなる……! ううん、どうにかする!


それが、今の私がやりたいことだから!




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――――ライトニング04、飛び降り!?」

「ちょ、あんな高高度でのリカバリーなんて!」


いや、浮遊魔法を使えば、着地自体は大丈夫! 意識を喪失したエリオのバックアップもできるけど……でも、それじゃあ車両に残ったスバル達が!


「なぎ君!」

『今視認した!』


おぉ、行動が……やっぱり何だかんだで、スバル達が可愛いみたい。

なぎ君、フェイトさん張りの速度で移動しているもの。相当頑張ってくれている証拠だよ。


それなら、エリオ達はそのままで、なぎ君がアレを潰すことも。


『でも……僕の出る幕、ないと思うよ?』

「はぁ!?」

「そうやなぁ……。発生源から離れれば、AMFも弱くなるし」

「あ……!」

『キーに頼らなくても、フルパフォーマンスの魔法が使える。リカバリーも十分可能だ』


そっか……キャロはそれも込みで! だったら、キャロが使うのは……。


「……こちらシャーリー!」


フェイトさんの補佐官として、キャロとも……もちろんエリオとも距離は近かった。

だからすぐ、キャロがやろうとしていることが分かって……なのでお姉さんとしてアドバイス!


「キャロ、こっちでもフリードの状態観測はしっかりやる! だから……遠慮なくやって!」

『はい!』


キャロは右手でグリップを掴み、ライオットライザーのトリガーを引く。

怯えていた自分を……それを言い訳にしていた自分を悪しき者として、撃ち抜くために。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


≪Standby Ready――Standby Ready――Standby Ready――Standby Ready――Standby Ready――≫


ライオットライザーから警告音が鳴り響く。

準備はいいか……覚悟はあるのか……今まで逃げていた私が、力を振るう覚悟はあるのかと問いかけてくる。


『――』


そして私の突撃を止めようと、ボール型がベルトアームを伸ばしてきて……。


――しかし、強すぎる力は災いと争いしか産まぬ――

――こいつは駄目ですよ。何度やらせても失敗ばっかりで、飛竜一つまともに扱いきれない。迷惑極まりないお荷物召喚師です――


誰も彼も……過去も引っくるめ、無理だと、今更だと、手遅れだとノイズをまき散らす。


「――――しん――――」


だから……あの、テレビの中のヒーローを思い出し、こう叫ぶ。

――――そんな”事実”を……怠慢を打ち払うために。


「――――変身!」


そうしてトリガーを引いた瞬間、弾丸が放たれた。


≪ショットライズ!≫


銀色の……魔を撃ち抜く色のそれは、私の魔力を纏い、縦横無尽に周囲を駆け巡る。

迫っていたベルトアームを撃ち抜き弾き跳ばしながら、私の眼前に迫る……だから、右ストレートで殴りつける!


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


拳と弾丸が触れた瞬間、弾丸が破裂。粒子となった破片が一気に装甲へと展開。

それは私の両手を……ケリュケイオンを包むように装着され、更に融合。

ケリュケイオンは肘までを包むぶ厚いガントレットとなり、私の左胸には心臓を守るようなプロテクターも装着。


更に手の両側から桃色の魔力刃も生えて…………これで、変身完了……なのかな。


≪アスタロトシャーマン!≫

――Call it, the ultimate one――
(特別意訳:呼び出せ、究極なる一を)


そのまま自由落下でエリオ君に近づき……抱き留めながら浮遊魔法全開発動……!

落下速度と衝撃を緩和しながら、更に召喚魔法のテンプレートを展開し、その上に着地!


それに伴い滾る魔力……うん、大丈夫。ケリュケイオンはより強くなったけど、それは破壊のためじゃない。

私がどんな状況でも、どんな相手でも全力を出せるように……支えて、守ってくれている。


「くきゅ!」


フリードも来てくれたので、微笑みながら頷く。


「フリード、今まで不自由な思いをさせてごめん。
……でも私、もう逃げないから……地獄の果てまで付き合って!」

「くきゅ!」


左手をかざし、術式加速――。


「蒼穹を走る白き翼! 我が翼となり、天を駆けよ!
こい、我が龍フリードリヒ――龍魂召喚!」


――――魔力が走り、フリードは翼を畳みながらその中に包まれる。

そうして脈動し、一気に破裂。その身体は十メートル近い巨体となった。

更にアスタロトシャーマンの上部……肘の棘みたいなパーツが射出。


フリードの急所や足を守るように甲冑が装着され、更に手綱とシートまで丁寧に設置される。


「――――――!」


フリードが雄々しく叫ぶ中、私は浮遊魔法でそのシートに座り……これで、エリオ君のリカバリーは完了っと!


「ぁ……ぅ…………」


すると、腕の中でエリオ君が目を開いて……驚きながら身を引く。


「あ、あれ……キャロ!? というかなに、このドラゴン!」

「エリオ君、良かったぁ……! えっと、簡単に説明すると」

『それがフリードの本当の姿。龍召喚によるフルパフォーマンスだよ』

「「……って、なのはさん!」」


あ、そっか。通信は繋がったままだったから……ずっと心配、してくれていたんだよね。


『シャーリー』

『フリードの意識レベル、ブルー!
……キャロ、やったよ! 完全制御してる!』

「はい! ありがとうございます!」

「――!」

『なら早速で悪いけど、すぐ列車に戻って! このままだと最後尾のリイン曹長が危ない!』

「「――――はい!」」


エリオ君には後ろのシートに座ってもらい、私が手綱を振るう。


「――!」


フリードはそれに合わせて飛翔……一気に加速して、列車へ……!


『でも変身かー。やっぱり憧れちゃうよねー』

「なのはさん!?」

「変身……」

『キャロが決めた認証コードだよ』

「え、えっと……勢いだったんですけど……いいんですか?」

『いいよいいよ。変わるってことだもの』


……そうだ。

私は……変わりたかったんだ。

無力≪嘘≫に甘えて、逃げて、言い訳にして、なにもしない自分から変身したかったんだ。


だから、ついエリオ君とも照れくさく笑っちゃって……。


「――!」

「うん、分かってる!」


待ち受けていたボール型の熱線をかいくぐりながら、走り続ける巨体に併走していく。

ボール型はまたフィールドエフェクトを展開するけど、問題ない……こちらにも浸透したエフェクトは、全てはじき返せる!


『キャロ、改めて聞いて! ライズキーとライザーも、ケリュケイオン達と同じようにリミッターをかけてある!
出せるのは今のキャロに……そしてエリオ達に使いこなせる範囲の力だ!』

「あくまでも生命維持とAMF内での魔法使用サポートが主眼!
だから、教えてもらったことをそのまま振るう……ですよね、シャーリーさん!」

『正解!』


だったら問題ないと、両手をかざし……術式発動。

フリードへのブースト、更に火炎変換のサポート……その魔力を、投げつけるように研ぎ澄まして!


「フリード、ブラストフレア!」


フリードは口を開き、魔力を炎に変えながら集束――。


「ファイア!」


翼を羽ばたかせ、車両前方に回り込みながら砲撃。

放たれた強大なブレスに対し、ベルトアームやワイヤーアームが伸びる……でもそれを全て焼き払い、ボール型に直撃――!


でも……突き抜けた炎の中で、ボール型は健在だった。

炎により装甲表面が融解し、あの腕達も焼き払えた。だけどそれでも……まだ三つ目のうち一つを輝かせていて……!


「硬い……というか、もっと集束しないと」

「いや、十分だ」


でもそこで、エリオ君が立ち上がった。そうしてフリードの巨体を上手く伝って、私の前に……。


「AMFでも防げない効果(火炎放射)のおかげで、その装甲も脆くなっている。今なら……!」

「エリオ君」

「いくよ、ストラーダ」

≪了解≫


エリオ君もキーを取りだし、スイッチオン。


「僕達も変わる――」

≪スティング!≫

「変わってみせる!」


そのままバックルが変化したライオットライザーに装填。

そこで認証が通り、キーブレードたる表面が展開。


≪オープンライズ! ――Standby Ready≫

「変身!」


エリオ君までー!?


≪ショットライズ!≫


――エリオ君がトリガーを引くと、ライザーから弾丸が放たれる。

エリオ君はストラーダの切っ先を天に突き出し……そこ目がけて弾丸が着弾……分裂。


ストラーダのブースターに差し込むように……その刃を包むように、接続される追加パーツ。

ブースターに差し込まれたのは、それをより鋭利に……苛烈にする追加ブースター。

刃を包むのはより大きな刃。もはや槍ではなく斬馬刀の類いになった。


更にエリオ君の背中に、羽のような無線接続バインダーが……それも、ブースターがマシマシの超突撃仕様……!


≪スティングサブナック!≫

――The unknown lightning can't bind anything――
(特別意訳:未知なる雷光は何物にも縛られない)

「なのはさんの言う通りだ……!」


エリオ君も変身を終えて、ストラーダを逆袈裟に振るって……腰だめに構える。


「特別な機能なんてない。ただ僕達を守ってくれる……キャロ」

「やろう、エリオ君!」


それは模倣……追想し、焦がれたものをただ真似ただけ。

でもそこに、私達なりの思いを込めて……ガジェットを指差す。


エリオ君と一緒に……仲間と一緒に……!


「「お前(あなた)達を止められるのは、ただ一つ――」」


悲しいことを……間違った力の使い方で、誰かが泣くことを――。

それを止めたいと……止められるようになりたいと、自分に突きつける――。


…………今の私達はそのための場所にいて。

そのために集まった仲間と一緒にいて。

だから絶対に諦めない……絶対に譲らないと、全力で叫ぶ!


「「僕(私)達≪機動六課≫だ!」」

『――!』

『にゃにゃ!?』


画面の中で戦っていたヒーローみたいに! みんなの夢と笑顔を取り戻す……そんな戦い方ができるように!


『だったら……ここは必殺技しかないでしょ』


すると、恭文さんの声が……。


『二人とも、ライザーに挿入したライズキーのスイッチを押して』

「えっと……」

「これか!」


そうだ、最初のときも押したしね! とにかくスイッチオン!


≪スティング!≫

≪シャーマン!≫

『そしてトリガーを引く! それで瞬間フルドライブだ!』

「「はい!」」

『ちょ、教導官の許可もなくー!』


トリガーを引くと……一気に魔力が滾り始める。


≪――ライトニングスティング!≫

≪――ライトニングフルブースト!≫

(確かに、これは瞬間的なフルドライブ……うん、今の私でもやっぱり使える!)


だから立ち上がり、両手を広げ……増大した魔力をしっかり制御。


「我が甲は聖銀の剣! 若き槍騎士の刃に祝福の光を――」


左手にはブースト出力増加付与――。


「猛きその身に祝福の光を――」



右手には斬撃付与――。


「スラッシュアンドストライク――ツインフルブースト!」


こちらも投げつけるようにブースト……駆けだし、飛び出していったエリオ君とストラーダに直撃させる!


「ストラーダ!」

≪二重強化付与――了承!≫


二人は強大になったブーストで火柱を上げながら加速――――そして、閃光そのものとなる。


≪――――ツインライトニングスティンガー!≫


再展開されたベルトアームも、ワイヤーアームも、全て切り開く雷刃。それが光すら超える速度で突撃し……全ては一瞬で終わっていた。


『――――――!?』

「………………一閃」


――――エリオ君とストラーダが、雷撃を迸らせながら天板に着地。


「必中――――――!」


その背後には……真っ二つに両断され、そのまま機能停止したガジェットが……自ら開けた穴に落ちて、爆炎に包まれる。

正しく雷光……稲光に等しい一撃で、一瞬のうちに断ち切られた。


「……これが……」


やっぱり重たく……そして貴い責任だと思いながら、ケリュケイオンとアスタロトシャーマンを見やる。


「変身……」

『そして、今の二人に出せる全力全開だよ』


そこでなのはさんが、優しく……でもどこか厳しく伝えてくる。


『確かに重たいね。だからちょっとずつ……無理をせず、向き合っていこうか』


だから電車の上で……汗を払いながら振り返ったエリオ君と……笑って、でも決意を込めて頷く。


「「――――はい!」」


そうだ、もう定めた。私達はそれをやり続けると……こんなことと向き合って、止めていくんだと。

だから迷いなんてない。もう……嘘に引き込むのは懲り懲りだもの。


『……あ、恭文君もありがとー』

「「え!?」」

「おかげで急ぎ損になったけどねぇ……」


…………あ、恭文さんが! 前の車両に……いつの間に!? 私達が盛り上がっているところで!?

しかも凄い汗だくで……きっと、本当に急いで来てくれたんだ……!


『そうでもないよ。…………万が一のときはフォローもできる位置にいてくれて、本当に安心できた』

「恭文さん……!」

「やっぱり、僕達のために……」

「だから、違うし! おのれらは猟犬! 僕は狩人! 利用し合う関係なんだよ!」


やっぱりツンとする恭文さんには、笑って……エリオ君と笑って、こうお返しするしかなかった。


「「はい! 分かってます! それが恭文さんの照れ隠しだって!」」

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『そうだよー。恭文君はねー、やっぱりみんなのことが可愛くて仕方ないんだよー?』

『肉体強化全開でしたからねぇ。飛ぶより速いとはいえ、普通そこまでしませんよ』

「魔王と眼鏡は黙れぇ! 僕は、僕はもっとハードボイルドに……ビジネスライクにやりたかったのにぃ!」

≪いいですねぇ、愉悦です。今日もワインが美味しいですよ≫

≪なのなの……さ、ぱぱっと被害確認したら、レリックを確保していくの≫


あ、そうだね。幸い車両への影響は最小限だけど……そこはちゃんとしないと。

じゃあ頭を抱える恭文さんはともかくとして、私もまたリニアレールに降りて……。


≪――――少々お待ちを≫


でもそこで、ケリュケイオンが……手の甲に設置されたクリスタルが点滅。


「ケリュケイオン?」

≪ボール型の残骸から、妙な魔力反応を感知≫

「魔力反応……爆発とか!?」

≪それは大丈夫ですが……ロングアーチ、念のため解析を≫

『該当データがないかどうかも調べるから、ちょっと待ってて! それまではみんな、別車両に移って退避を!』

「「了解!」」

「りょ、りょうかい……」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ライトニングのちびっ子達がごたついた分、私達の方でレリックのある車両は制圧したんだけど…………。


「いや……あれ、毎回やるの?」


レリックやら他の貨物やらを前に、頬を引きつらせるしかなかった……。

だって、止められるのはって……変身ってぇ! 嫌よ嫌よ! そんなの私のキャラじゃない!


「えー! 私は好きだけどなー! ハッタリも聞いてて!」

「特撮ヒーローのパクリじゃない! ちょっと、リイン曹長!」

『リインからはなんとも……』

「キッカケは作ったじゃないですか!」

『恭文さんとアルトアイゼンはともかく、エリオ達がやるのは予想外なのですよ! キャンプ効果に戦々恐々としています!』

「マジですか!」


いや、確かに……あれでかなり仲良くなったけど! 遊び効果絶大だったけど! でも遊び心も絶大すぎて怖いでしょ!

というかやっぱり嫌よ! もう一度言うわよ!? 私のキャラじゃない……キャラじゃないのよぉ!


「でも恭文、本当にすっごい汗だらけ……」

「ほんと、面倒臭い奴よねぇ……仲間になるつもりはないって言ってたのに」

『そうして理想と現実の間にもがいているのが、恭文さんを見ていて楽しいところなのですよー』

「「あ、ちょっと分かるかも」」

『ですー♪』

『…………おのれら……』


…………するとそこで、疲れた様子のアイツから……って、聞かれてた!?


「あ、ごめん! でもおちょくっているとかじゃなくて」

『ちょっとこれを見て』

「恭文?」

『それとレリックは』

「それらしいケースは幾つか……ただ他の密輸品もあるらしくて、デバイス達でも見分けが付かないのよ」

『停車させてからか……。じゃあ、そこで……絶対に魔力暴走とかしないように注意しておいて』

「……なにかあったの?」


どうやらそうらしく、アイツは通信画面の中でカメラを移動……それは、ボール型の残骸?

その中心……基板らしきものに、きらりと光るものがあった。

青い菱形の宝石で、妙に奇麗というか……さっき爆発したってのに、その基板はきっちり守られていたみたいで。


『新型ガジェットの中にあった』

『基板ごと厳重な封印状態だったので、誘爆はしなかったんですけど……危なかった……!』

『これ、ロストロギアらしいんです』

『「「はぁ!?」」』

『それも≪ジュエルシード≫だ』


……って、なんでアイツが名前を知っているのよ!


『レリックと同じように、ナンバリングされた宝石群……願いを叶える願望実現器だけど、その力故に次元震も起こしかねない危険物』


名前どころか詳細を知っていた!? それに驚いていると、ロングアーチ……シャーリーさんも割り込みで顔を出す。


『該当データにもあったよ! 十年前……無限書庫司書長≪ユーノ・スクライア≫氏が発掘し、輸送中散逸して……局が捜索・回収したロストロギア!』

『ちょっと待ってください! ジュエルシードって……なのはさん、フェイトさん!』

『こっちもデータを見てるよ! うん、間違いない……フェイトちゃん!』

『私となのはが、十年前……探し集めていたロストロギア……!』

「フェイトさん達が!?」

『でも、ヤスフミはどうして……』

『その発見者≪ユーノ先生≫とは、発掘現場の護衛とかで何度かお世話になってね。
最近ジュエルシードが地方の研究機関へ貸し出される際も、付き添ったんだよ』


あぁ、それで説明なりを受けたと……でも、それでフェイトさん達が関わっていたってどういうことよ!

しかもそれを仕込んでいたってことは……!


『恭文君、話が前後するけど……最近っていつ!?』

『二月の頭くらいかな。
記録も残っているから、調べればすぐ分かるよ』

『……グリフィス君!』

『こちらでスクライア司書長と本局に問い合わせます!
君達はそのときのデータ……あ、もう送ってくれているか! 助かる!』

『いえいえ。……あと……こっちも見てくれますか』


するとアイツは基盤の一部をズーム。

なんだろう……金色のプレートに、ミッド語で名前らしき物が……。


『ネームプレート?』

『ジェイル・スカリエッティ……』

『「――!」』


その名前に怖気が立った。

フェイトさんも執務官として知っているのか、小さく悲鳴のような声を上げて……。


「ちょ、それって……!」

「ティア、知っているの?」

「アンタ、一応局員なんだから指名手配リストくらい覚えておきなさいよ!
……数々の違法研究や技術供与で広域指名手配されている、重犯罪者よ!」

『人造魔導師や”戦闘機人”なんかの基礎技術を確立したのも、コイツと言われているくらいのお尋ね者だね』

「え……!」


それでアイツも、スバルに分かりやすく告げる。

もしかしたらコイツが、母親の敵かもしれないと……だからスバルも、一気に顔面蒼白となって。


『アルト、どうやら僕達は当たりを引いたようだよ』

『ですね。
……グリフィスさん、ライトニングと私達は、ジュエルシードとこのプレートを確保します。問題ないでしょうか』

『ロングアーチ、問題ありません! ――では前線メンバーはそのまま任務続行!』

『まずは車両停止を優先させるです! みんな、よろしくですよー!』


――第11話


『『「「了解!」」』』


『お前達を止められるのは/PART2』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ジュエルシード、ジェイル・スカリエッティ……もう一気にいろんな情報が出て、呆気に取られている暇はなかった。

というかロングアーチスタッフがそんなことしていたら、全線メンバーの動きに支障が出るもの。ここはしっかりするしかない。

でもそのおかげと言うべきか、さほど経たずに……車両メーカーと連携したおかげで、車両は……無事に速度を落とし始めて。


リニアレールは完全停止。リイン曹長の尽力により、 制御も無事に取り戻せた。

空に出ていたエイ型(II型と仮称)も殲滅し、現地の観測隊の協力もあり、現場保全と検証、貨物チェックも万全に進んだ。

ジュエルシードもなぎ君が厳重に封印したので、見つけたレリックや他の密輸物ともども中央本部のラボへ輸送。


こうして六課前線メンバーも撤退し、初出動は……無事に終わったんだけど……。


「……で、どうするのよ」


その日の夜……隊長陣が揃っての会議。

というか部隊長室に集まっての話で、輪から離れたなぎ君が問いかける。


≪ですね……ジュエルシードは私達も付き添った研究機関貸し出しの直後、そこから十二個全てが盗み出された。
向こうの手持ちは残り十一個……あれ、魔力の塊で次元震やら、願望実現やらできるんですよね≫

「しかも十年前……ジュエルシードが起こした事件に、深く関わっている横馬とハラオウン執務官がいる。後見人のクロノさん達もだけどさぁ」

「そやなぁ。六課に対しての挑発と見てえぇやろ」

「それだけだと思ってんの? スバルのことはどうするのよ」

「…………」


あぁ、そっか……なぎ君も知っているんだよね。スバルとギンガの出自……というか、身体のことは。


「しかもジェイル・スカリエッティは、ハラオウン執務官とも因縁深い相手だ」

「まぁ、数年前から追ってたんだよな……お前」

「うん。だから挑発……またはミスリード狙いだと思う」

「……本当に”それだけ”だと思っているようだから、はっきり言ってやろうか。
もう一人の母親ともども、プロジェクトFに関わっていただろうが」

「な――!」


それどころか、フェイトさんの母親……プレシア・テスタロッサのことまで知ってる!?

私もジュエルシードの……それにまつわる事件の概要を見て、初めて知ったくらいなのに!


「ヤスフミ待って! どこでそれを!」

「テスタロッサ。……調べたのか」

「本局で小耳に挟みました」


へぇ、それはまた…………なんだって……!?


「リーゼさん達からも聞いていたけど、もうビビりましたよ……」

「どういうことだ……!」

「リーゼ……アリアさんとロッテさん!? ヤスフミ、どうして!」

「魔導師としての師匠だもの。ヘイハチ先生より先のね」

「えぇ!?」

「……実はそうらしいんだよ」


なのはさんもその辺りはばっちりらしく、苦笑しながら念押しで頷いてきた。


「ほら、恭文君が巻き込まれて、戦ったミュージアムの一件、あるよね?
あの件でヘイハチさんが強引に引っ張って、最初期の……基礎的なところを教えたそうなんだよ」

「で、それがなのは……おのれが魔導師になったり、闇の書事件やらなんやらの前だったからさ。必然的にリーゼさん達経由でいろいろ聞いていたのよ」

「……闇の書事件……うちが主やって下りを、リーゼさん達とグレアムおじさんが隠しとったからやな」

「そうそう。その絡みで局を辞めたーって聞いて、ビックリしてさぁ」

「隠していた……?」

「闇の書事件の被害者やその遺族・関係者は、むしろ局員の方が多いってのが定説でなぁ。
グレアムおじさん……当時の提督達は、赤ん坊やったうちがそんな人達に狙われることを危惧して、匿ってくれていたんよ」

「同時にいずれはやてが闇の書の主として覚醒するのを見越し、その対策も準備していたんだよ。それが事件解決の切り札になったわけだ」

「……グレアムおじさんとリーゼさん達自身、その被害者遺族で……報復する理由があったのになぁ」


いや、それは八神部隊長には……って、そうじゃないかぁ。転生先の主を巻き添えにしてでもってくらいには、恨みが深いって話だよ。

ただ、その辺りについては八神部隊長も、副隊長達も飲み込んでいる様子。感謝も見受けられるし、私はそういうものなのかと聞く程度に留めておく。


「でもそれならどうして」

「それでもいろいろな義務を放り投げたからね。
はやてやシグナムさん達に変な手出しがされないように、自分達の首で手打ちにしたんだよ」

「……申し訳ないことをしたわ」

「おのれはおのれで、また別にそういう首のかけどころがあるってだけでしょ。そこは割り切るしかない」

「ん……」

「いやいや……またばっさりすぎるだろ」

「僕もTOKYO WARのとき、特車二課第二小隊の人達にそう諭された」

「…………」


うん、その辺りも留めておく。

問題はそんなリーゼさん達とも縁が深い関係から、事情をザッとでも聞いていたなぎ君が……どう小耳に挟んだかだよ……!


≪……あなたの”母親”であったプレシア・テスタロッサは十年前、もう一人の娘であるアリシアを蘇生させるため、ジュエルシードを求めた。
それを使い魔ともども手伝い、地球を中心とした広域次元震の危機を招いた重犯罪者が……よくもまぁ上手く提督一家に取り入ったものと噂ですよ≫

「取り入った……!?」

「アルトアイゼン……というかなぎ君も、それを小耳に挟んだの!? 明らかに誹謗中傷なんだけど!」

「だから僕も……というかレティさんも挟んでビビったのよ」

「レティ提督も知っているの!?」

「そのレティさんから聞いて、裏付けも取ったしね。
……どうも去年やらかしてから、そういうヘイトをばら撒く流れが出ているみたいだよ? でもおのれらは仲間はずれだ」

「そらそうやろ!」

「アタシら、その提督一家と懇意だからなぁ……! むしろ堂々と言ってきたら褒めてやりてぇよ」


そう、陰口だ。だから私達の耳には届いていないけど……いないからこそぞっとする。

そんなのが広まりながら、それでなおハラオウン一家の一派とされる人間の耳には届いていない。

……それは明かな阻害で排除。もっと言えば、私達に対しての情報統制が取られている状況とも言える。


大げさと思う人がいるかもしれない。でもそんなことは全くない。

それだけの多数が……フェイトさんや提督達への誹謗中傷を見過ごしている……当然としている。

それも法の番人たり得る管理局員……その組織内部でだよ……! 明らかに異常事態だ!


「ん……というか、あんまこういうこと言いたくないし、言える立場でもないけどさ?」

「なんよ」

「おのれらはなにをやらかしたのよ……!」


なぎ君がそう強めに言ってきたことで、察する。

その噂、単なるやっかみの類いに取られない程度には、根が深いのだと……。


「そもそも管理局って、社会奉仕的な……局の仕事を手伝う恩赦は、割と普通だよね。シグナムさんとヴィータ達だって」

「まぁ、それはな?」

「おいおいおい……つーことはその普通のことだからーで納得できない程度には、ヘイトが高まっているってことかよ!」

「これ、レティさんとも話して……ざっとした推測なんだけどね?
恐らく話自体は”正当性のある問題提起”として広がっているんだと思う。だからおのれらへのリークもないんだよ」

「その誹謗中傷になんの正当性が………………おい、まさか……!」

「……そうして提督一家に取り入った……取り込まれたハラオウン執務官が、リンディ提督の指示で、GBOの分署を攻撃してくれたでしょ」


そうしてなぎ君は上を指差す。天井を……いや、違う。


「でもそれとか、真実を隠そうとしたことへの処罰は一切行われなかった」

「そこからリンディ提督が……アタシらが黒いって疑いが広まってんのかよ……!」

「そ、そんな……あの、母さんは、そんな人じゃないよ! アレだって、悪意なんてなくて……私達のためにって!」

「だからぁ……”私達のために”が通るなら、他人の手柄を奪ってもいいし、分署攻撃に対しての処罰も、デメリットもあってはいけない……そういう姿勢をみんな怖がっているんだよ。それを甘受し、擁護し続けているおのれも含めてね」

「だって、本当のことなの! だからヤスフミにも」

「そうしてプレシア・テスタロッサも擁護し続け、危うく海鳴に被害をもたらすような……無茶なロストロギア回収もやらかしたんでしょうが。
……おのれも本質的には”そういう人間”なんだと疑われている」

「………………!」

「……テスタロッサ」


これは水掛け論だと、シグナムさんがフェイトさんを止める。……なぎ君ではなく、フェイトさんをだ。


「蒼凪……いや、この場合はレティ提督もか。それなら筋が通るんだな」

「納得はできます。……でも動機としては軽い」

「確かにな……」

「おいシグナム」

「それなら去年の件であらかたの情報が出ているだろ。我々に隠すことなく、どうなのかと声を上げてもいいはずだ」

「……まだ他になんかあるってのかよ……!」

「……まぁ僕は裏の裏まで状況を知っているから、自然と納得しちゃっていたんだけどさ」


そこでなぎ君は面倒そうに頭をかいて……。


「リンディ提督より上……それこそ将官クラスの繋がりや後ろ盾を疑われているんじゃないのかな」

「どういうことだよ」

「そもそもその処罰なしーって下りとか、手柄を奪ってやろうぜーって話、かなり性急だったんだよね。
はやてもそうだし、シグナムさんに……ヴィータ、おのれも相当しつこく抗議してくれたって聞いている」

「あ、あぁ……さすがに、納得がいかなかったしよ。リインの手前もあるし……」

「でもリンディ提督は聞いてくれなかった」

「お前が告発するまで、さっぱりだったな」

「こっちも同じだよ。取り下げろとか言ってきたから、『だったら今すぐ娘ともどもヴェートルに来て、僕の性欲処理用雌奴隷としての初仕事をやれ』と宣っても、被害者面しっぱなしだったもの」

「てめぇそんなこと言ったのかよ!」

「当たり前でしょ。そういう”弱み”を握られるのに、どうして利用されないと思うのよ」


なぎ君、お手上げポーズで答え……ても仕方ないかぁ! それは間違いなく弱み……汚点であり、事情を知っている他者から脅す要因たり得るもの!

なぎ君も多分本気じゃなかった。そういう覚悟はあるのかと……お前が止めてもやる奴は絶対出るぞという警告。でもそれにすら納得していないということは……。


「だが……あぁいや、納得した。それも提督がつるんでいる上役の意向で、いろいろ手を回していたと」

≪それならビビり散らかすのも分かりますよ≫

「だ、だから……それも誤解なの! 母さんはそんな人じゃない!」

≪で、そういう話になったら……あなた達が善人かどうかなんてどうだっていい≫

「はぁ!?」

「おのれら以外の……局内の派閥がやらかす可能性もあるしねぇ。
おのれらは改善策の模索にちょうどいいから、ダシに使われているだけなんだよ」

「だからそれ自体は正当……八神部隊長……!」

「………………」


八神部隊長は顔を真っ青にしていた。

それも覚えがある……もしや、もしかしたらという疑いの色が、その顔から窺えるもので……!


「はやて、おのれもレティさんから話を聞いた方がいいと思う。継続して調べてくれているから」

「そ、そうするわ……。でも、そんな針のむしろ状態で無茶やらかすと」

「出本がとんでもなくデカいダムなら、それの対応次第で地獄行き確定だね」

「放水するにしても慎重にかぁ……!」

「アウトな要素が積み重なっているしね」


なぎ君は頭が痛いと、軽く首振り……。


「なのでまぁ、現場の手に負えない面倒事は全部おのれに押しつけるから」

「え」

「おのれの手に負えないなら、更に上へ責任ごと押しつけてくれていい。
……部下からすれば上司なんていうのは、どうせその程度にしか利用価値がないんだからさぁ」

「恭文……」


……それは慰めで、励ましだった。

今引っかかった何かがなんであれ、それでいいのだと。自分達に部隊長は利用されるし、部隊長もそうして“その誰か”を利用していいのだと。

そんな乱暴で、あまりに無慈悲な励ましに……部隊長は笑って。


「ん……そうやったなぁ。特車二課第二小隊の隊長さんにも、そう教わったんやっけ?」

「そうそう。だから僕もそういう気構えでいつも仕事しているし」

「マジかよ、お前……! というか」

「だからよく無茶ぶりされるもの」

「利用される側も経験済みでそれかよ!」

「……ヴィータちゃん、こう見えて恭文君、PSAの忍者さんとしてはキャリア組だから……現場指揮の経験も多いんだよ」

「それでかぁ!」

「反論の暇すらないのは辛いなぁ……」


ただまぁ、そういう気構えが一番楽かもしれない。部隊長が全部背負う必要はない……それだけでもさ。


「ほんなら……シフト変更や配置換えがないよう、なんとかしてみたいところやけど」

「だとしても、一度“現場の方で状況は精査したんですー。それでもこうなってしまったんですー”って言い訳作りはしておいた方がいいよ」

「それもなしやと、余計外からツッコまれるかぁ。
うん……ほんなら、フェイトちゃんは一旦捜査活動ストップで」

「はやて、待って! あの、それは大丈夫だから……私がいないと仕事が」

「そのためのナカジマ三佐達よ。あっちとの連携準備にかこ付けて、いろいろ押しつけてみるわ。
あとシグナム、悪いんやけど交代部隊の中で、捜査関係に強い人員がいたら」

「ピックアップし、テスタロッサ隊長の仕事を振り分けですね。すぐに進めます」

「シグナム……!」

「フェイトさん、ここは無理しない方向でいきましょう」


とりあえずおろおろするフェイトさんは宥めて……ちょっと気になり、なぎ君を見やる。


「でもなぎ君、本当に押しつけられる側も経験済み……」

「そりゃそうよ。恭文、こういう“試験的部隊”の設立やら調整とか、何度か経験済みやし」

「そうなんですか!?」

「……一応言っておくと、六課みたいなレベルは全くないからね?
あくまでも状況に応じた特記戦力を取りまとめて、法律的にも動いて問題ないよう、PSAと相談の上で調整しただけ」

「それだけ聞くと、動きだけは執務官なんだけどなぁ……!」

「じゃあ僕、そろそろ出るから」


するとなぎ君が、左手のジガンスクードを軽くチェック……。


「……っと、そうやったな。地球の方に一旦戻って定期検診」

「ついでに牧野さん達や楓さんのところにも、顔を出してくるよ。
スバル達から土産も預かったから」

「土産……あぁあぁ! この間お話したからか!」

「というか、なのはも預けたんだ。異業種の人達とお話して、みんないろいろ刺激を受けたから……そのお礼にって」

「よく容易できたな、おい……」

「通販サイトを活用して、こっちにある珍しいものを集めて、あとは恭文君に集中って感じ?」


なのはさんはいたずらっぽく笑って、ヴィータ副隊長や私達に答える。

……それでみんな、この一週間くらいはちょっとそわそわしていたんだよね。まぁ……私もなんだけど!


「楓さんについては、今日の初運用も絶好調で、みんな気に入ってましたーって感じでお話するよ」

「あ、それはデバイスマイスター的に是非に!」

「おのれのお土産と一緒に伝えるよ」

「お願いね」

「あの、待って……だから、駄目だよ。私、ちゃんとするから……それでヤスフミも、私達や母さんのことを信じて」


…………そこでなぎ君は、いら立ちながら舌打ち。

私達に背を向け、スタスタと歩き出す。


「あの、ヤスフミ!」

「ジェイル・スカリエッティと言えば、賞金額三億の大将首だ。
横取りされないうちに、僕とアルトでとっ捕まえるのよ」

「いやいや……里帰りと定期検診やろ! その大暴れはさすがに許可できんからな!?」

「上司に押しつけるっつったでしょうが」

「ちょっとぉ!」

「いきなり悪用するなよ馬鹿!」


さすがに見かねたヴィータ副隊長も止めようとするけど、なぎ君はそそくさと出ていって……それで、みんなが力なく応接用ソファーに着席。


「……本当に、飛び出さんよな……!」

「さすがにやらねぇだろ……。お土産預かってんだろ?」

「ひとまずそれを渡すまでは、慎重に慎重を重ねるはずです。なんだかんだでスバル達にも甘いですから」

「そやなぁ……」

「でも……恭文さんがイラってするのも、よく分かるのですよ」


すると今まで黙っていたリイン曹長が、デスクで頬杖をつきながら大きくため息。


「そもそもフェイトさん、自分が手柄を奪う……それに対して、恭文さんやGPOの人達に一度でも謝ったですか?」

「リイン……」

「それはリンディさんもです」

「だから、それも……母さんにも立場があるの。局のために……私達のためにって、頑張って……ちょっと間違えただけで」

「……だから雌奴隷コースが待ち受けているのですよ」

「ふぇ!?」


無慈悲だなぁ……! それで全てが封殺されるって! だから私も助け船を出せないよ! 出しにくいよ!


「まぁでも、それはなのはやはやてちゃんにも言えることだよね……」

「なのはちゃん……」

「じゃないと、なのはも今回の出向はキャンセルするしかない」

「うちらには付けんと」

「そうだよ」


――――難しいものだなぁ。


「八神部隊長、筋を通してください。六課の……みんなのためにも」

「……面倒事は、押しつけつつ……かぁ」

「そう……部隊長は部隊長だけど、一人で全部背負わなくていいんです」

「………………」

「それが筋だと、スターズ分隊長は思います。
……お互い、責任も、面倒事も、手に負える範囲で背負いましょう」

「ん……ありがとな」


みんなを守る……絶対、絶対夢に近づける足がかりを作る。

部隊長はそういう場所としても、六課を設立して……守って、貫こうとしているのは分かる。

でも……それを守ろうとして、他のことを捨て置くようじゃあ……そうだね、捨て置いているんだ。


手に負える範囲っていうのは、私も胸に刻もう。そこを超えても意味がない。

だって今はみんながいる。仲間って言えるかどうかはまだ微妙かもだけど……そうやって、なにかを押しつけ合えるみんなが。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……どうしたものかなぁ。


「はやての奴……つーか、恭文となのはに株取られちまったなぁ」

「にゃははははは……」

「だが助かってはいる。
少しらしくもないご様子だったからな」

「……まぁな」


あの場は解散となって……ただちょっと、寝付く気分ではなくて。

だから気分転換がてら、ヴィータちゃんとシグナムさんともども散歩……まぁ隊舎内だけど。


ただ、月を見上げながら夜風に当たると、気分は少し……スッキリして。


「はやてちゃんにとって、この部隊は……みんなで叶える夢。
それは絶対変わらないんですよね。……もちろん私もですけど」

「我々もな。……だが、それに引きこもっていても愚策……例の問題提起は、いい気付けになるかもしれん」

「まぁそこんところを改善できなかった当事者として、どうするのかーって話になればなぁ。
しかし捜査関係はどうするか……」

「一応当初のプランでは、蒼凪とテスタロッサを組ませるというのもあったが……それも台なしだしな」

「じゃあよ、実際問題……恭文とフェイトを組ませて捜査って、上手くいくか?」


ヴィータちゃんが問いかけるのは、シグナムさんだった。ほら、シグナムさん……私達の中では一番距離感も、付き合いも深いから。

……そこにミッド剣友会っていう物騒な存在が絡むのは、さすがにビックリだけどね……!


「……上手くいくにしても、基本別行動だろうな」

「はい?」

「蒼凪はまぁ、捜査については足で稼ぐタイプでな。
現場百編ではないが、フィールドワークと事件関係者との折衝……それにともなう情報収集と推理≪シーズニング≫を得意としている。
対してテスタロッサは捜査の陣頭指揮を執り、集まった情報を整理……方針を決める執務官だ」

「タイプ相性的にはいいけど、フェイトを指揮官として信頼はできるかどうかってことかぁ……」

「無理だろうがな。テスタロッサの能力では、自分の推理……知性に追いつけないとすら思っている」

「しかもそれ、否定できないんですよね……! ポカも割りと多いし」


フェイトちゃん、凄まじい天然だからなぁ……! というか、平和に暮らしていく中でボケがヒドくなったというか。

そこがなければ、人情家なだけなんだよーって言えるんだけどなー! 今はもう……頭にウィッグの残骸が詰まっているとしか言えないよ!


「とはいえ、そんな奴だからこそ……上手く捜査活動に組み込みたいとも思うわけなんだが……。能力はあるからな」

「あぁ……そういや楓さんも言ってたよな。辺境の村に滞在中、えん罪をかけられて……それで助けてもらったって」

「うんうん、言ってたよね! たまたま村ぐるみの犯罪が起きて……その被害者と仲良くなったからって!」


そうだそうだ、あの話から察するべきだった! 恭文君、忍者……フリーの捜査官としても働けるから!

しかもこういうときマウントを取るためとはいえ、フェイトちゃんや私達の素性も調べているようだし……うーん、でもどうすれば……。


「というか、私としてはなのは……お前に聞きたいのだが」

「……出向キャンセルのことですか?」

「それだ」

「つーかアタシもだな。……やっぱ教導隊的にもアウトか」

「アウトだよ。というか、ライオ先輩にも警告されたもの」

「教導隊……灼熱の獅子とも証されるベテラン教導官か」

「本局の中でリンディさんやフェイトちゃん……もっと言えば≪ハラオウン一派≫の評価が微妙になっているから、身を正していけと」

「……じゃあ知っていたのかよ!」

「あそこまでとは思わなかった……! 多分、気を遣って濁してくれたんだと思う」


それに気づかなかったなのはも、いろいろ頓馬です……。

それで実際、向こうは……うん、そういう考え方もあるんだよね。


「……ヴィータちゃん、やっぱりあれはただの挑発じゃないよ」

「……だな。たった一枚のネームプレートで、メインメンバーのシフト変更……それどころか部隊の活動凍結まで見えてやがる。
しかもこれで代理メンバーを出せないっつーのも、組織としてはアウト……あぁそうだよ! アイツの言う通りなんだよ!
つーかアイツは……それでなんで、局入りとか考えねぇんだ!? 組織の道理が全く分からないわけでもないよな!」

「……むしろ分かるから……やりたいこととは違うっって感じなのかも」


ヴィータちゃんも分かっている。例の……サツキ・トオル君のことだってあるから、局員生活はないって。

でも、地球で……警察とかに入る手もあるでしょ? でも恭文君はそういう感じでもない。アルトアイゼンもそれを良しとしている。

旅生活のために余暇を多めに取りたいとしても、ちょっと不思議に思ってたんだろうね。実際ここまでも、ちょいちょい部隊を抜け出しているし。


「それについては……まぁ私も答えは知っているが」

「いいよ、言わなくて。アイツにとって大事なことってのは分かるしさ」

「悪いな」

「だからいいって。……それなら、直接自分で聞く」

「そうですよ、シグナムさん。少なくとも私達は……あの子と友達に……仲間になりたいんですから」


それも信頼関係を培った上で。うん、部隊運営とはまた離れた形で……そうすることもできるわけだし。


「……そうか」


それでもシグナムさんは少し申し訳なさげで。その表情が見ていて……少し辛かった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……押しつけろ……みんなを頼れ、かぁ。めっちゃ突き刺さったわ。

というかリンディさんやフェイトちゃんのことについては、やっぱり……リインの言う通りなんよなぁ。


というわけで、今回の事件報告も兼ねて……後見人のみなさんに通信を繋ぐ。

その上で……リンディさんには、恭文とリインが極めてお怒りなのを告げて……。


「……アイツは多分、自分のことより……シルビィさん達やリインに対しての仕打ちで、あれだけ怒ってるんやと思います」

『…………』

「リンディさん、残酷なようですけど……それが定着した評価なんです。
――洗脳による失態を取り返すため、自分のシンパや娘を英雄に仕立てようとして、失敗した最低な提督』

『はやて、待ってくれ。母さんもその件は』

「公言しないのがアウトなんよ。……うちかて……思うところがなかったわけやないし」


それでもうちらは、リンディさんに世話にもなっとるし、フェイトちゃんが言うみたいな事情もあったから……まだ飲み込めた。

でもそれを、恭文に……部外者に強いるんは、やっぱり違うんよ。ほんと……やんなるくらい思い知った。


「公的に……個人としても謝ってください。そして組織がその咎を裁かないのであれば、相応の幕引きを自分で選んでください。
それが成されんうちは、アイツは……うちらと足並みを揃えることもしません」

『……それは、私が……部隊運営の邪魔をしているということかしら』

「ハッキリ申し上げれば」

『……ごめんなさい』

「うちに謝られても困ります。とにかく」

『それはできないの』


そうしたら…………必死に……心を殺すように通達した言葉が、無碍に…………違う。

リンディさんは俯いて、悲しげに……今まで見たことがないくらい、涙をこぼしていて……。


『上からも、言われてしまっているの。
これ以上騒動を広げるなと……このまま、波が引くまでは動くなと……』

「でも、それは……」

『間違っているのは分かっている……! だけど、現に……管理局の威信が低下したことで、治安も低下している。
ヴェートルだって管理世界から独立の準備を進めて……正直……もう、どうしたらいいのか……分からないの……!』


………………そう、やったんか。

それなら……それならまずうちが……謝るしかないと、頭を下げた。


「……すみません……」

『いいの……全部、私が……自業自得だもの。
……あの子の言う通りよ……』

「リンディさん……」

『感謝するべきなのに、それもできない……。
私が中途半端だから……フェイトを、あなた達を、危うくそんな悪意に晒すところで……!』


……恭文……雌奴隷になれーって軽く言うてたけど、相当執拗にやったやろ!

リンディさんのビクつき具合を見れば察することができるわ! あとでエロ狸として聞かせてもらうからな!?


「ほな、クロノ君も……」

『僕も同じくだ。それに六課運営のこともあったからな……。ひとまず、一年はと思っていたんだが』

「……ごめん」

『それも謝らなくていい。とにかく恭文には……どうしたものか』

『……でもそれは、公的に……提督としての謝罪ができないというだけですよね』


クロノ君も頭を抱えていると、カリムがぽつりと……それで、リンディさんが涙を払って、顔も上げる。


『それを内緒にする形であれば……それをGPOやあの子に納得してもらう形であれば、謝ることは問題ないかと』

『騎士カリム……』

『少し、考えてみてください。あなたが本当は、どうしたいのかを』

『………………ありがとう……ございます……』

『いえ。若輩者として……過ぎたことを言ったと思います』


……そこでカリムが、画面越しにアイサイン。

とりあえずはリンディさんの気持ちに任せて……かぁ。そういうことなら問題ないと、クロノ君ともども頷いた。


『恭文君にも、私から上手く話して……落ち着いてもらうとして』

「それでなんとかなるかなぁ」

『突っ走るのは止められないと思うわ。……それについては、もう……ヒロリスとアメイジアのことで……ねぇ……』

「姉弟子さんとデバイスも同じタイプかー!」


あぁ、お察しって感じやな! カリム、可愛い顔なのに皺を寄せて……苦しげやもん!


『しかもあなたについては、エロ狸としての仕事すら放棄しているし……』

「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『はやて、君は……!』


そやからうちも平服! だってうちも同じやった……野上冴子さんのなり損ないやったぁ!


『まぁそこもプライベートで何とかしてもらうとして……正直シフト変更や配置換えは困るぞ』

「そ、それも重々承知しております……!」

『……なのはさんの教導による、対AMF戦の訓練……その実地データ収集。
更に独自装備開発や、対策の構築……その前例作りが、六課の根幹……だものね』


リンディさんは仕事の話に戻ったせいか、涙を払い……少し目を赤くしながらも、きちんと背筋を正す。


『もちろん組織としては、それに対応するのが正しいやり方だわ。
でもそういう”独立部隊”としての前例作り……その仕事を通せないのは……』

「とはいえ、108のナカジマ三佐にも釘を刺されとりますし……」

『中央本部が動いてもアウトだものね。……告げ口がなかったとしても、逐一目を付けられていると見るべきよ。
シャッハから揚げられた報告にも……あちらの査察部が動いているとあったし』

『もうこの段階からか……! はやて、ライズキーの使用には十分注意するよう通達してくれ』

「それはもう念入りにしとるよ。今回も結構ヤバかったからなぁ……!」


こちらの動きを予測して、ジュエルシードとかの封印を念入りにしとったからよかったけど……そうやなかったら大惨事やし。

……それくらいヤバい代物なんよ。ロストロギアは……もう再認識したわ。


『そう言った横やりがあった場合の”言い訳”も……いや、手はあるな』

「言葉だけで納得してくれるか?」

『実行動が必要だ。……よし、ここからはその辺りの相談からだ。リンディ提督、騎士カリムもそれで』

『問題ありません』

『同じくです』

「ありがとう。で……クロノ君が思いついた手は?」

『なに、簡単だ。…………六課は捜査活動から手を引けばいい』

『『「はぁ!?」』』


…………いや、そうや……やっぱりそういう方向になるよなぁ!

六課の根幹は、リンディさんが言うた通りやし! それは……立派な言い訳になるやんか!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


初出動の翌日――僕は朝からサボタージュ。というか地球に来ていた。

それで頼れる姉弟子・兄弟子を連れて、新宿に……というか新宿の世界堂に。二人にもお土産があったからね。牧野さん達より先にって感じだ。

というか牧野さんも、琴乃達も、さくら達も、別の仕事で昼からしかいないらしくてさぁ。それまでの時間つぶしにちょうどよかった。


……ここはね、文具や絵画関係の資材が一式揃っている、パラダイスみたいな場所なんだー。

イーゼルもそうだし、筆や絵の具……ときには絵画教室も行われている。

ショウタロスとヒカリ、シオンと一緒に、よく暇潰しに来ていた場所でもある。ここはいるだけですっごく落ち着くんだ。


で、そんな場所に向かいつつ、念話で会話を……。


”――現状はこんな感じですよ”

”……最悪だな!”

”主……忌憚がないですね”

”忌憚がなくもなるだろ。関係者なのに突っ込むって公言したんだぜ?”

”ただまぁ、はやてちゃん達は冷静でなによりじゃないのさ。……止めようはないけど“

”……ハッタリかもですしね”


それに言い訳についても……そこで引っかかるのは、あのステエキ。

……え、ステエキってなんだって? スバル・ティアナ・エリオ・キャロの頭文字を取ったあだ名だよ。美味しそうでしょ。


だけど……ああもう、どうしてこう甘くなるのか。僕は……もっとビシッと、好き勝手に暴れるんだ。


”最悪クライマックスまでそのままだよ?”

”……ほんと最悪……つまり土壇場で、豆柴やハラオウン執務官が慌てふためいて……”

”良くてこっちがフォロー。悪くて戦力外ですね。そういうのも分かった上で言っているんでしょうか”

”……ジガン、生まれたばかりなのに……わりとハードモードで泣きそうなの”

”いいさ、泣いていいさ。これが毎年二〜三回の勢いで訪れるからな”

”なのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?”


あぁ、サリさんの言葉でジガンが絶望して…………ちょっと待てぇ!


”待て待て待てぇ! その前に……僕を不幸の申し子みたいに言うなぁ!”

”馬鹿野郎! お前は立派に不幸の申し子だろ!”

”そうだよ! やっさん……アンタは不幸だ。それを認めて”

”死刑宣告するなぁ!”

”……だがやっさん、実際問題その状況を放置はやべぇぞ。
特に戦闘機人と人造魔導師は、地上本部での戦力登用も検討されていたからな”

”えぇ、聞いています。……逆を言えばクイントさんやメガーヌさん達は、局の汚職に絡むようなことを調査していた”

”ナカジマ三佐もそう睨んでいるよ。もちろん私もね”

”じゃなきゃ、あんな都合のいいタイミングで部隊全滅はねぇよ。しかもルーテシアの嬢ちゃんまでよぉ”


ヒロさんとアメイジアの言葉には、明確ないら立ちと疑念があった。

……下手をすれば六課も…………あぁ、そうだよね。よく考えれば、問い詰めるべき”ホワイダニット”だった。


”……だったら、なんで六課は無事なんでしょう”

”そうそう、私もそこが気になってた! 秘密部隊でも何でもないし、犯人側からしたら……どうとにでもできる相手だよ!?”

”ジェイル・スカリエッティと管理局に繋がりがあるなら、確かに臭いな……。しかも手を出してきたってのもあり得ない”

”では主、これはミスリードだと……”

”そうとも言えない。スポンサーに中指立てて、お尻ペンペンする以上の無礼を働きたい……そういう理由があるなら、まだ”

”だったら鍵はレリックだな。あれにそこまでの価値があるか? それともジュエルシードが……”

”……ホワイダニット……”


……世界堂に到着。

一階玄関へ入り、文具コーナーを尻目に……右手のエスカレーターに乗る。

絵の具や絵筆関係は三階だから……うぅ、やっぱり楽しみだよねー。こういう空間は大好きなんだー。


”どうして……どうしてネームプレートなのかなぁ”

”主様?”

”やっさんの知り合いにエルメロイ二世ってのがいるんだが、その男の持論だよ”


小首を傾げたジガンに、続いてくれたサリさんが補足……。


”異能力が絡む事件捜査では、フーダニットとハウダニットは重視されない”

”えっと、フーダニットは『誰がやったか』。ハウダニットは『どうやってやったか』……それが重視されないのはいいの!?”

”いいんだよ。今回のネームプレートみたいに、偽装しようと思えば好きなだけできるからな”

”でも、ホワイダニットは違う。どういう偽装をしようと、どうしてやったか……その動機だけは嘘を吐きようがないからね”

”じゃあ主様、そのホワイダニットをずーっと考えているの?”

”僕の基本だもの“


動機なんて関係なく、犯罪者だから捕まえる……そんな単純思考では駄目だ。この事件は解決できない。そういう感じがひしひししている。

あぁもう、落ち着け。せっかく夢の空間が前に…………広がったー!

早速油絵の具の豪華セットや、高級イーゼルが立ち並び……えへへへ、やっぱり幸せー♪


”……まず六課の動きを止める……これはない”

”そうだな。幾らなんでも手札が少なすぎるし、それなら一年待ちでもいい。
というか、設立する前に主要メンバーを攻撃すればいい”

”ならネームプレートじゃなくて……見るべきはジュエルシード”

”私も同感ですよ。ネームプレートは偽造できますけど、あれは本物ですよ?
……六課にPT事件の関係者があらかた絡んでいると知った上での仕込みです。
それも撃墜されても誘爆しないよう、念入りに封印した上でですから……”

”それで六課やハラオウン一派に被害を出すのは目的じゃない。
挑発、挑戦…………いや、警告?”


そうだ、警告……そういう意図はリニアレールの暴走から見えていた。


”……これからは警告じゃなくて、これも使ったゲームをするから……気をつけろ”


奴らはああいう、危ないゲームを楽しみたいわけだ。まず……そこだけは間違いない。


”今のところは、そういうメッセージだと俺は感じた。
……やっさん、今六課をでていくのは早計だと思うぞ”

”そのゲームの相手が六課なら、情報が一番揃う場所でもあるしねぇ。私もサリに賛成……つーか何か見つかったら教えてよ”

”面倒な……”

”例のフォワードに肩入れするから?”

”別に、肩入れなんてしていません”

””はいはい。面倒臭いツンデレはこれだから……””

”やかましい!”


くそぉ、言われた……サリさん達にも言われたぁ! 僕は面倒臭いツンデレなんかじゃないのに!


「で、なんでここなのよ。いや、サリとかも絵を描いているのは分かるけど……」


頭を抱えていると、念話から普通の会話に……そりゃ仕方ないかぁ。普通は“アレ”に行き着かない。


「まぁ映画館も近いしいいけどさぁ」

「プラモの塗装用に、新しい絵の具が欲しくて」

「いいの出たの?」

「最近U-35っていう新種が使いやすくてー」


そう……プラスチックってわりと扱いが難しい素材でもあるの。特に塗装関係が絡むとね。

しかも塗装は匂いが……ラッカー……ラッカー筆塗り、大好きなのに。

それで今は一応の寮住まいなので、気持ちを切り替え実験することにしたのよ。


えっと、アクリル絵の具の棚は……うんうん、レジからちょっと離れた脇の列だ!

来たよ……ターナー、リキテックス、その他諸々! あぁ、やっぱり六課の外はパラダイスだ!


というか機動六課ってなんだろ! 八墓村かな!?


≪……ちょっと、あなた……天国を満喫している場合じゃありませんよ≫

「アルト?」

≪スマホを見てください≫


そう言われて、一旦止まり、懐からスマホを取り出す。

アルトが遠隔通信で、あるニュースサイトに繋げてくれて………………。


「え」


それは大手検索サイトのニュース記事。というかヤフーニュース。

そこに出ていたのは……。


『バンプロ社長:朝倉恭一氏、横領の容疑で逮捕』

「朝倉さん……!?」

「どったの。やっさん、サリ」

「バンプロ……瑠依ちゃんがいた事務所だよな。それがなんで」

”朝倉さんは、瑠依の父親です!”


僕も去年いろいろお世話になった、バンプロ社長の朝倉さんが逮捕されたという一報。


「「は……!?」」


――瑠依が小さい頃、生き別れ同然に離れた父親。

瑠依がバンプロに入り、トップアイドルを目指した大きな原動力。


その朝倉さんが……逮捕されたという衝撃が、世間に流れていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


捜査本部設立のために動いていたら、いきなり大きな話が来たよ……!

それで緊張しながらも、ミッド・クラナガンの巨大ビルを訪れる。

そこはCW社の本社ビル。研究施設なども入っているビルの中程……応接室に通されて、応対するのはそこの開発主任……の一人で。


「――CW-ADXアーマーダイン≪ラプター≫」


少し気むずかしそうな、天パーの男性は私とカルタスさんに資料を見せてくれる。

……完成予想図に、細かい仕様……それにフレームというか、内部断面図まで。

辞書みたいな分厚さの資料にビックリしながらも、それを一枚一枚入念にチェックする。


「我が社が中央本部の依頼を受け、『自立作動型汎用端末デバイス』として開発予定だった人型戦闘端末……なのですが……」

「ランデル・ユア主任。あなたは中央本部との折衝役でもあり、開発主任としてこの計画の裏の裏まで知っている……そうですね」

「……これは取り調べですか?」

「えぇ」


断言すると、ユア主任は軽くため息。


「失礼……お話を伺う限りは当然のことでしたね。
社長からも我が社への疑いを晴らせるよう、全力の協力をと申し使っています。
なのでそちらの”取り調べ”にも、隠し立てなく協力いたしますので」

「ありがとうございます。……まずラプターの概要としては」

「個体の意志や人格を持たない機械端末で、プログラムに沿っての自律行動や遠隔操作が持ち味です。
筋力は常人の数十倍に達し、高温・極低温・有毒ガス下でも活動可能。
両手には機動六課に提供した≪ソードブレイカー≫を装備し、我が社のAMC武装全てに完全対応しています」


ソードブレイカー……あぁ、スバルが使っているライズキーの装備なんだ。

でもそれ、管理局……六課とガジェット犯の装備が、同じ会社のものってことに……ううん、それは一旦置いておこう。


「内燃バッテリーにより通常稼働なら四十時間、全機能開放状態の限定稼働で最大二十五分の連続稼動が可能。
採用されている組織内の全ラプターは記憶や知識が共有され、一機が得た情報はその他全てのラプターに共有されます」

「……では率直にお聞きしますが、本当に実現可能なんでしょうか。
お話通りであれば現在の技術では難しいため、計画が凍結されたと」

「……実はその辺りなんですが、表向きの理由なんですよ」

「表向き?」

「こちらも白状しますが、ラプターは実現可能な技術です。
ただ……今の時勢で、戦闘も視野に入れた人型デバイスの投入にNGがかかったんです」

「その原因は」

「アイアンサイズ事件ですよ」


ユア主任は一旦眼鏡を外し、クロスを取りだしフキフキ……。


「……とっとと解決してくれていたならともかく、深刻化しましたからね。
今ラプターを出せば、人型で魔法に依存しない兵器として……あれと結びつけ、市民からも反発される……とんだ誤算です」


それは、管理局員的には突き刺さる……。

いや、管轄としては本局の仕事だったけど、それでも向こうの中央本部……地上部隊も対応に動いていたでしょ?

だけどほとんど役立たずで、仕事をGPOや地元警察≪EMPD≫……維新組に押しつける形になったから。


だから、地上勤務の身としては、やっぱり突き刺さるし……学ぶべきところが多い事件だとも思うわけで。


「とはいえ、その辺りもやり方次第と言いますか……」

「どういうことですか」

「……すみませんが、これ以上のお話は中央本部のオーリス・ゲイズ三佐から聞いていただけますか?」

「「は……!?」」


突然……地上本部トップの秘書……その名前を出されて、私とカルタスさんは呆けてしまう。というか、辞書を落としそうにもなった。

でも、でも……それでも理性を取り戻したカルタスさんが、軽く挙手。


「つまり、こういうことですか? 発注元がその……ゲイズ三佐で、ここから先を話すのは三佐の許可が必要と」

「中央本部の重要な機密にも絡む事項ですので。
我々だけの判断では済まないんです」

「そうですか……」

「ただ、三佐にも現状は伝えており、捜査協力は惜しまないというお返事を受けております。お会いになるコネクションはすぐ取れるかと」

「それは助かります」


でもそれなら、最初に言ってくれていても。


(……それくらい面倒なのかな)


この……既存の戦力不足を覆すような、人型兵器≪デバイス≫は。


(ここに使われている技術や思想は……それくらいに、入り組んでいるということなの?)


……辞書並に重たい手ごたえに、人々の複雑な思わくを感じ取り、表情が苦くなってしまう。

それを紐解くのが捜査官である私の仕事なのにね。……やっぱり、”関係者”だからかもしれない……せいかな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


地上本部のオフィスで、秘書で娘なオーリスから報告を受けていた。

そうして見せられている映像は……今、街の平和を脅かす者達の姿。

ソファーに座り、いら立ちつつ頬づえ。その間もエイもどきが爆散し、リニアレールが走り続ける。


幾ら山岳地帯とはいえ、派手に……本局の部隊が……!


「なんだ、これは。何が起きた」

「はい……本局遺失捜査部、機動六課の戦闘映像……昨日の事です。
撃たれているのはかねてより報告のあった」

「AMF能力保有のアンノウン――ガジェットドローンだろ、知っている。撃っているのは」

「機動六課分隊長、高町なのは一等空尉とフェイト・T・ハラオウン執務官です。
部隊制限により、両名AAランクとしての出動ですが……」

「そして部隊長は八神はやて……忌々しい名前だ」


中規模次元侵食未遂事件を起こしておきながら、のうのうと局員入りしているのだからなぁ。


「ただ……やはりこの部隊、巧妙に作られています。
……よく言えば有望な新人……悪く言えば前歴もない”元犯罪者の小娘”を部隊長に据え、部隊の主要戦力もほとんど新人。
しかも一年限りの実験部隊……本局に及ぶような問題提起があれば、すぐに切り捨てる腹づもりでしょう」

「元犯罪者どもにはおあつらえ向きな役割……とばかりも嘲られんか。
本局の奴らめ……。このような狡い真似までして、こちらの邪魔をしてくるか」

「”例の予言”も絡んで、本局と聖王教会が独自策として設立したのでしょう。
実際後見人にはハラオウン提督親子とカリム・グラシア理事がいますし」

「ふん! 英雄から手柄を横取りする馬鹿どもも、ついにここまで落ちたか! いや、だからこそか!?」

「……問題発言ですよ? 公式の場では謹んでください」

「分かっている!」


オーリスは相変わらず……まぁ、だからこそ頼れる奴でもあるのだがな。

しかし……本当に忌ま忌ましい。とにかくコイツらについては査察を。


「それと……二つ気になる情報が」

「まだなにかあるのか!」

「一つ、その独自策のプランとして、古き鉄……蒼凪恭文とアルトアイゼンを雇い入れています」

「なんだと!」

「市街地への影響を考慮して、AMC装備導入も見送っていますので……ですが民間協力者なら問題ないという形かと」

「なんたることだ! 最悪の場合はその民間協力者に押しつけるつもりだろう! 本局の奴らはいつもそうだ!」


……ハラオウン一派のような俗物とは全く違う行動理念で動く、ヴェートルの英雄。

むしろその在り方は我々地上部隊に近いものだろう。

そう思っていたら……奴らに雇い入れられただと! なんたる愚かな!


自らが戦わず、盾にして、何かあったときだけ被害者面で批判をする! それが奴らのやり口だ!

……本当に嘆かわしい! 奴らが同じ局員を名乗るなど、吐き気かする!


…………が、その吐き気が次の瞬間に吹き飛ぶことになった。


「それでもう一つ……その古き鉄がこの一件でエンゲージした敵が……少々」

「敵?」


映像が切り替わる。

そこに移るのは、レドームを頭に装備し、ストライクカノンなどのAMC装備も持ちだした………………!


「おい…………!」

「ラプターの正式仕様……少なくとも外見は」

「どういうことだぁ!」

「そちらもCW社を通じ、機動六課……協力体制を取った108部隊に説明予定です。
ですが、”ラプターの出元”についてツツかれると、九月の公開意見陳述会に差し障りが出るかと」

「上手く対処しろ! 計画に支障が出ないように……何より、奴ら本局に止める理由はない!」


立ち上がり、憤慨……画面で英雄のように振る舞う偽善者どもを、鋭く指差す。


「忘れるな……先に手を払ったのは、貴様らだ!」

「……了解しました」

「それとこの部隊にも査察を入れろ! そうしてどのような小さなものでもにいい……叩ける材料を見つけろ!」

「そちらもすぐに準備を」


…………もうすぐだったんだぞ。

本局などという足手まといに頼らず、利用されず、力を……金を、合法的に得られるシステム。

……今更止まれるか。

この地上の平和を守るため、人々の安全を保障するため、私は必要なことをしている。

英雄になどなれない私だが、それでも……それだけは、変わらずやってきたつもりだ。


それが、救えなかった友にできる……唯一のことだったからだ。


(第12話へ続く)








あとがき


恭文「というわけで、6.8話の前にこちらとなりました。
エリオとキャロが初変身……そして一気に持ち上がる問題。時系列ガン無視で出てきたラプター。
更に今までとは違う様子のレジアス中将達。果たしてどうなるか……作者にも分からない!」

あむ「いや、それ駄目じゃん!」


(レジアス中将が深町本部長として覚醒すれば……)


あむ「それも駄目じゃん! ……でも恭文、もうすぐクリスマスだよ!」

恭文「そうだね。だからゼロワンでも…………」

あむ「それは、言わないで……!」


(『やっぱりクリスマスは死を呼び込む……』
『りっくん、しっかりしてー!』)


あむ「……恭文、責任を取ろう」

恭文「いきなりなに!? それよりシャケだ、シャケの用意だ」

あむ「それルパパトじゃん! というかゼロワンでもやってえたけど!」

恭文「いや、最近その流れがマジできていて……スーパーのチラシにもシャケが」

あむ「マジ!?」


(というわけで、蒼凪荘ではシャケ料理も頑張ってみるようです。シチューやムニエルとかかな?
本日のED:稲垣潤一『クリスマスキャロルの頃には』)


恭文「クリスマスというと思い出す……シンカリオンで、相当昔のCMネタをやったのを」

あむ「あぁ……アレだね。あたしとか唯世くん、全然分かんなかったんだけど……」

恭文「まぁ今年も僕とリインはいつも通りデートするし、CM再現をやろう」

リイン「じゃあ人様と駅に迷惑がかからないように、一部だけやるですよ。あの待ち伏せとか♪」

あむ「デートでやることじゃないじゃん!? つーかあれでデート始めるわけ!?」



(おしまい)





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