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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第9話 『ファーストアラート/PART3』

――――安全運転でハイウェイを走る……この一メートル進むごとに、みんなの信頼が高まっていく。

うん、そうだ。だってあれは、あれは……免許を取る前で、まだ運転になれていなかったから……!


だから頑張ろうと、片手でガッツポーズ……それはそれとして。


『――部隊長は六番ポートから聖王教会の方でしたね』

「……もう着いている頃だと思うよ。私はこの後港湾部に寄って、捜査状況を確認してから戻ろうと思うんだけど……そっちは、急ぎの用事とかあるかな」

『いえ、こちらは大丈夫です』


運転中……手ぶら通話で隊舎のグリフィスから連絡が来た。

それで今の所在地や、部隊長の送り迎えはどうだったとか……確認を受けたんだけど……っと、進路変更っと。


ウィンカーを出して、安全確認して……ゆっくり右車線に。そろそろ分岐点だしね。


『副隊長お二人は交代部隊と出動されていますが、なのはさんと恭文が隊舎にいらっしゃいますので』

「そっか。…………グリフィスもヤスフミのこと、頼りにしてるんだね」

『それはもう』


なのはと同列に扱っていたから、少し気になってツツいたら……平然と返されちゃったよ。


『まぁ……フェイト隊長もご存じの通り、手段と経緯、資格や権力に頓着しない上、必要だと判断したら命令無視で暴れてくれる問題児ではあるのですが……』

「……うん」


そうだよね、その認識はブレないんだよね。というかここだけの話じゃなくて、どこでもそうなんだよね……!

改めて経歴とかを見て、納得したよ。本当に……どこでもあの大暴れなの! おかしくないかな!


『……ですがその分、結果を出してくれますので』


グリフィスもその辺りは頭が痛そうにしながらも、それでもと……それでも結果は出ていると、認める口ぶりだった。


「……そうじゃなくて、私達や……管理局に信頼を預ける形は、無理なのかな」


だからその様子を見て、つい呟いていて……。


「しっかり資格を取って、相応の立場について、人を動かす権限も持って……そうやってこの組織の中で頑張っていけばいいと思うんだ。
母さん……リンディ提督だって、それができると見込んで誘ったわけだし」

『前々から彼は、地球を拠点とした活動と生活を考えています。特に本局の仕事となれば、ガンプラバトル選手権の出場も難しい』

「だからそれも……私達が友達を探すのも手伝って……結局は玩具の大会なんだよね。
だったら、まずはちゃんとお仕事を固めるべきだよ。管理局なら、ヤスフミの能力も十全に振るえるし」

『……失礼ながら、地球では中卒無職で不審人物同然なフェイト隊長に仰られても……首を傾げるしかないかと』

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


ま、また言われた……さり気なく気にしていることを! アリサやすずかにもツツかれて、結構痛かったことを!

もし管理局のお仕事ができなくなったら、どうやって暮らすのかって……それでも頑張っているのにー!



魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


どうにかヤスフミに、局を……私達のことを信じてほしい。母さんの言葉を受け入れてほしい。

そういう気持ちはどんどん強くなっていくのに……グリフィスも、それは違うと……やんわりと止めてきて。


『――そもそも仕事で言えば、彼は既に忍者資格があります。学歴で言っても、彼は卒業見込みも高い高校生ですよ?
つまりこの時点で、フェイト隊長の仰ることは大前提から勘違い……勝手な思い込みとその押しつけということに』

「そこまで言うの!?」

『言いますよ。実際地球でも彼の評価は高いんですよ?
対都市型テロというだけではなく、異能・オカルト絡みの専門家でもありますし』

「それってあの、例の……魔術協会とか」

『そっち方面の勉強もしているそうですね』


あの、地球の方には……魔法とは違う≪魔術≫って異能力があるそうなの。

なんでも根源……一種の真理に到達するのが目的で、世襲制で異能力を受け継ぎ、研究しているそうなの。

ただ一般的な社会生活を壊すことは望むところじゃないし、そういう存在の公表は研究の邪魔……なんだっけ?


だから魔術協会という自治組織を作り、真理への研究を進めつつ、悪い魔術師を止めたりもしているそうなの。

……管理局は魔術を一種のレアスキルと捉え、向こうもこちらの存在を研究の邪魔だと考え、一昔前にひと悶着あったそうなの。

ちょうど管理局が一番混乱していた……三提督が活躍していた時期だね。ただ……今はお互い認知しつつも不可侵条約を結んでいる。


だから表向きにはできないんだけど、そういう……魔法と魔術、両方使える魔導師もたまにいるんだ。

えっと、魔術は魔術回路……だっけ。リンカーコアとは違う、魔力発生機構があって、その回路の本数が多いほど凄い感じ。

そっちは通常の魔法とは使用の流れ……というか魔力の根源そのものも違うから、AMFでも止めきれないみたい。


……はやてがヤスフミを誘ったのは、ここも大きな要因らしいんだ。私は専門外なんだけど。

でもそれなら余計に、レアスキルとして認定すれば……とは思うんだけど、それも違うらしいし……うぅ、やっぱりよく分からない。


『……フェイト隊長、未だにサッパリなんですね』


あ、グリフィスが呆れた顔を! 説明は受けた……受けたのにってー!

あぁ……でも、そこは別にいいか! とにかくそれだけ凄い子なんだから、やっぱり局で能力を発揮してほしいって話なんだよ!


「とにかくね、母さんが言うみたいに、あの子の才能を生かせる場を……仲間と頑張れる場を作れたらって思うんだ。
……機動六課は、きっとそういう場になっていくよ。はやてもGPOをモデルにしたって言っていたし」

『それでは疑いを強めるだけですよ。
個人の趣味趣向まで、提督やフェイト隊長のために曲げるんですから』

「あの、そうじゃないよ。ちゃんと行動を通して、信頼を掴み取って」

『何より突きつけられたでしょう。あなたは偽者にすらなれないガラクタだと』


…………その言葉が、鋭く突き刺さった。


『なので彼をそれなりに知る人間として言えることは……諦めろ、ですね』

「グリフィス……」

『人を動かす立場や権力、組織の人間として正しい戦い方……そんなことは、彼は十二分に分かっているんですよ。
前に気になって議論したら、それはもう侃々諤々で有意義な話ができましたから』

「そうなの!?」

『地球の方でも縁があって、いろいろ教えてくれる人達がいたそうですよ。……あれは、へし折れませんでした』


そう、なのかな……でもそれは、やっぱり違うと思うんだ。

私達がちゃんと、局員として信頼できるってところを見せていないから……だから駄目なだけなんだよ。

だから絶対になんとかしたい。母さんも傷ついているし、少しでもって……私、どうしてこうなんだろう。


プレシア母さんのときもそうだった。母さんのことばかり考えて、それ以外のことを捨て置いて……。

みんながみんな、リンディ母さんを好きになって、信じて……なんて異常なのに。でも、どこかでそれを望んでもいて。

母さんが悪い人なんかじゃないって……とても優しい人だって知っているから。


母さんがヤスフミを局に誘ったのも、決して嘘や詐欺なんかじゃない。本当に……思いやりからだった。

それを理解してほしいって……それだけが望みなのに、私は…………どうすればいいんだろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


…………フェイトさんにも困ったものだという様子で、グリフィスさんが司令席に座り、こめかみをいじいじ。

フェイトさん、想像以上に頑固というか、やんわりしながらもしつこいというか……これはなかなか難物だぁ。


「……ねぇルキノ」


一つ気になって、同僚のルキノに軽く聞いてみる。

ルキノは艦船アースラに長年勤めていて、アースラ艦長を母子揃って務めていたハラオウン親子……もっと言えばハラオウン一派とも親しいから。

実際フェイトさんも少し前までは、無期限の長期点検に入ったアースラに乗って、お仕事をしていたし……。


「フェイトさん、やんわりしつつも頑固だよ。というかすっごく負けず嫌い」


するとルキノは紫ショートの髪を軽く抑え、通信で聞こえないようコッソリ教えてくれる。……うーん、ツーカーは実に嬉しい。


「実はなぎ君とはクロノ提督経由で、何度かお話する機会があったんだけど……」

「フェイト隊長とは絡まず?」

「絡まず。……お兄さんであるクロノ提督とは、馬が合ってたんだけどなぁ。
男同士というか、魔法資質的にも近いものがあるというか……会うたび模擬戦してね」

「だったらフェイト隊長も……………………やった結果がこれかぁ……!」

「偽者以下のガラクタって断定は、キツいと思うなぁ……!」


ただフェイトさんんの気持ちも……家族を思って、上手くいかない気持ちなら、私は分からなくはないんだ。

実際私もヴァイス陸曹と妹さん……ラグナのことは、いろいろ思うこともあったし。

シグナム副隊長や他のみんなともども、時間が必要と分かっていながらも焦れったくしている一人だから。


だから少しくらいは思いやっても……とは思えないんだよなぁ……! だってゴール地点がただ認めるだけじゃなくて、局入りだよ!?

人生の方針とか生活範囲とか定めて、それで自分達の派閥に入れってことだよ!? さすがに条件がおかしいと思うんだよなぁ!


「でも、生活面や仕事面で話をしても、勝ち目ないよね……!」

「ゼロだよ……!」

「模擬戦百回くらいやったら」

「なぎ君には勝てない」

「あの子、なんでそんなに強いの……!?」


確か三月までDランクとかだったんだよね! 地球中心の生活だったから、そっちに手が回らなかったとしても……さすがに実力がおかしいよ!

しかも模擬戦で勝ったのだって、リミッターを……フェイト隊長達と同じだけかけた上でだよ!? ツッコミどころがなさすぎて吐きそう!


だから、答えをルキノに求めると……。


「……まず、戦闘経験かな」

「え、でも経歴ならフェイトさんが」

「魔導師になってから、オーバーS級と百回近く遭遇してやり合っている」

「え……!?」

「地球も入れたらもっとだよ。魔法なしでそれくらい強い相手ともたくさん戦っているし……というか、ドーパントとかほぼ専門だし」

「なんで……!?」

「あの子、運が相当悪いから……だから去年も……」


そうだった! 去年もGPOから依頼を受けたとはいえ、アイアンサイズがあそこまでやらかす前だったそうだから……つまり密度が違うの!?


「だからクロノ提督も断言してた。
実力としては準マスター級。なんでもありなら現行のオーバーSは相手にならないって」

「位(くらい)が一つ違うわけかぁ……。というか、それが分隊員って逆にやりにくそう」

「私なら胃に穴が開くよ……!」


これはフェイトさんに、諦めの心を教える方が早いかもしれない……そう考えていると、ロングアーチオフィスにアラームが鳴り響く。


「……ルキノ!」

「うん!」


二人揃ってひそひそ話モードを振り切り、慌ててコンソールを叩く。

アラームの発生源……というか、要請元は…………聖王教会!?


「…………ちょっと待ってください! ルキノ、アルト!」

「聖王教会……六課後見人:カリム・グラシアからの出動要請が届いています! 八神部隊長も現地にて承認済みです!」

「部隊長との通信、繋ぎます!」

「頼む! それとデバイスルームのなのはさんとフォワード達にも!」

「「了解!」」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


とりあえず一通りの説明は受けたので、そもそもライズキーとは……ゼロワンとはなんぞやということで、本編を見てみることになった。

なんでも地球の動画サイト(YouTube)では、制作会社のチャンネルが一話とか二話とかだけ無料公開しているそうなのよ。

あとはその制作会社……東映だっけ? 特撮作品を全部網羅している配信サイトもあるらしい。


で、アイツはその配信サイトに登録しているから、そっちに繋いで……とりあえず三話だけ見てみたんだけど。


「…………うぅ……うぅ……」

「そんな……止められるのはって……そういう……!」


…………ごめん、らしくもなく胸に来た。というかちびっ子やエリオ達は軽く涙ぐんでいるし。

最近の特撮とかアニメって、こんなストーリーがこっているの……!? というか、被害者のヒューマギアが暴走したら、もう倒すしかないって!


「……ねぇアンタ、これって何話まであるの?」

「もう三十話くらいまでやっているよ? 大体一年やるから、あと二十話くらいかなぁ」


あぁ、確かに……サイトのページもそれだけの話数が……これ全部チェックするのも相当時間がかかりそう。

でも休みとかの間……三十分だしね。ちょいちょいならすぐ追いつけそうだわ。


「でもまぁ……面白いわよね。主人公が戦う動機も笑顔を守るためって……ヒーローらしいし」

「そういう笑いの取り方もあるってね」


そう、そう言っていたわよね。大会社の社長なんて勝ち組コースをアッサリ蹴れるのもそうだけど……それを、誰かの笑いを守るために受け入れられるってさ。

それに一話目の山場もよかった。夢が云々って……うん、ああいうのがヒーローなのよね。


きっと……兄さんも仕事の中で目指して、守りたかったものは………………ただ気になる奴がいる。


「ただ……あの不破ってのは、なんなの!? 力尽くでキーをこじ開けてOKなの!?」


そう、ライザーを使う仮面ライダーバルカンよ! カッコいいけど、力ずくって……。


「普通ああいうのって、上司に認められる行動を取って、認証解除じゃないの!?」

「僕も、他の視聴者もそう思っていたよ……。そうしたらリアルタイム実況していた全員が吹いた」

「あれは、やっぱり王道展開じゃないんですね……」

「く、くきゅ……」


あぁよかった。あれには私達全員唖然としたもの! あれが特撮では普通とか言われたら、さすがに泣いていたところよ!

でもコイツも認めたわよね! クレイジーだって! 異例だって! 本当によかった……これで、私達は救われる。


「でもゆえにゴリラと親しまれているんだよ。ティアナと同じだね」


かと思ったらとんだ流れ弾が出てきたんだけど!


「誰がゴリラよ! そっちはポジション的にスバルでしょ!」

「おぉっと!? なんか理不尽な流れ弾がぁ! というかやらないやらない! 私がやったら逆に壊すよ!」

「でもほら、おのれもガンナーだし……きっといつかやるよ。うぉりゃーって」

「やらないわよ! むしろバルキリーみたいに、華麗に変身してやるわよ!」

「……ティアさん、そちらは立場的になのはさんやフェイトさんになりますけど……」


エリオもしー! それでもゴリラは嫌なのよ! これでも女だし!? ゴリラとか……モテそうにないし!


『――!』


いろいろ動揺していると、突如鳴り響くアラート。

デバイスルームのモニターにも『ALERT』と赤い表示が出て、赤い緊急ライトが点滅する。


「アラート?」

「むむ……第一級警戒態勢なのですよ!」

「シャーリー!」

「はい……あ、ロングアーチから通信接続が! 画面出します!」

『――――ロングアーチ00から、機動六課各部隊員へ!』


状況を確認……というところで、デバイスルームのモニターが一つ点灯。

洋風のリビングか執務室っぽいところを背景に、八神部隊長の顔が出てきた。


『こちら聖王教会本部の八神はやて……聖王教会から出動要請や!』

『こちらライトニング01……状況は』

『教会調査部で追っていた、レリックらしき密輸品が見つかった! 場所はエイリム山岳丘陵地区! 対象は山岳リニアレールで移動中!』

「移動中!?」

『まさか……!』

『そのまさか……内部に侵入したガジェットが、車両の制御を奪取。リニアレール内部のガジェットは、最低でも三十体。
大型や飛行型の未確認……新型のガジェットが出ているという情報もある! 両分隊長、及びフォワードのみんな、いけるか!』


そう、暇なんてなかった。それならリニアレールは暴走状態も同じ。だから私達は揃って敬礼し。


『はい!』

『いいお返事や!』


通信越しのフェイトさんと同じく、部隊長へ了解と敬礼する。


「……犯人はいるか」

『今のところ確認できんけど、安全優先で頼むな?
あとはフォワードの一人って自覚を持つように』

『そうだよ。なのはから聞いているよ? スバル達と余り連携しないって……でも、そういうのはなしだよ。
ヤスフミはもう六課の仲間なんだし、これからは私達と一緒に』

「ソイツの首を今すぐ落として、二週間待たせてくれたお礼にサッカーしてやりたいのよ。いなきゃお前らの首をよこせ」

『…………って、また発想が怖すぎるよぉ!』


こらこら、殺気を出すな!

というかそんなのサッカーじゃないわよ! ただの残虐非道な暗君の悪ふざけでしょ! ヴラド三世とかがやりそうなことでしょ!


≪というかはやてさん……あなたにそういうことを言われたくありませんよ。
私達を砂漠のど真ん中に置き去りとかした分際で≫

「だからおのれ、うちのお父さん達からも出入り禁止を通達されるんだよ。
人の気持ちが分からない、出世欲の塊で腐り果てた狸女と」

『やめてぇ! 今は……今は緊急事態やからぁ! その件はエロ狸御奉仕で滅私奉公するからぁ!』

「そう言って二週間……おのれは何もしなかっただろうがぁ!」

『そうでしたぁ!』


コイツはもう……というか模擬戦を引き受けたの、こういうときに好き勝手するためか!

いや、八神部隊長もそれなりにやらかしているっぽいけどね!? となると……私達も思考を切り替えるべき。


コイツは第三勢力……そう考えた方が気楽だわ!


『はやて、それは本当によろしくないわよ……? 結局まだお預けなんて』


あれ、かと思ったら金髪ロングのお姉さんが…………って、これはマズいと慌てて敬礼。


「ティア、何してるの?」

”馬鹿! 六課後見人のカリム・グラシアさんよ! 聖王教会の魔導騎士で、三佐待遇の理事!”

「「「あ………………!」」」


スバル、エリオとキャロにも念話を送ったので、三人とも慌てて倣う。さ、さすがにあの……後見人の前だし、砕けたのはねぇ!


「あの、騎士カリム! 初めまして! 通信越しで失礼いたします! 高町なのは一等空尉であります!」

『は、初めまして! フェイト・T・ハラオウン執務官であります!』

『あぁ、いいのよ? 今は現場対応の方を優先してもらっても』

『「「「「「「恐縮であります!」」」」」」』

『それで恭文君、はやての代わり……と言ってはあれだけど、そういう相手は私が務めるので、ここは頑張ってくれないかしら』

『「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」」』


ちょ、アンタ……そっかー! なんか知り合いだって言っていたわよね! 護衛をしたことがあるって!

でも後見人が…………というかこんな美人が!?


『ちょ、カリム! それは』

『私にとってはやては妹みたいなものだから。妹の不始末は私が……』

「じゃ、じゃあ……ハグして、すりすりから……それで嫌じゃなければ……」

『えぇ、それでいいわよ』

『やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! うちが、うちがもっと怒られるぅ! 具体的にはクロノ君とシャッハ、リンディさんにぃ!』

『もうあなたには誰も期待していないということよ?』

『その死刑宣告もやめてぇ!』


…………かと思ったら、半分お仕置きの流れなのね。あぁよかった…………そうだと思わせて、お願いだから。


「またリインをさて置き、金髪巨乳なお姉さんと浮気を……!」


それに髪をユラユラさせて、メドゥーサみたいになっているリイン曹長も……さて置こう! 緊急事態だしね!


『それよりはやて、指示を』

『は、はいー! 
……シフトはA-3……管制はグリフィス君! リインは現場管制!』

『はい!』

「はいなのですよ!」

『両分隊長は現場指揮、お願いな!』

「分かった……あ、でもひとつ確認。
新型デバイスとライズキー、スバル達に渡したばっかりなんだけど……使っても大丈夫?」

『あ、そうなん!?』


そして私達は察する。テストもなしにいきなり実戦……状況の悪さが不安となり、それぞれの相棒を見やる。


「大丈夫です! だってマッハキャリバーはみなさんが作ってくれたデバイ」


そんな事を言うスバルにはげんこつ。ちょっと黙らせておく。


「痛いー! なにするのティアー!」

「馬鹿! 判断は隊長達! あと私達も極々自然に……あぁ、でもアンタは予備も作ってないから、結局マッハキャリバーと行くしかないか」

『予定やと、エリオ達も初期リミッターを解除しとるはずやから……ティアナはアンカーガン、大丈夫なんよな』

「アンカーガンは予備がありますので、隊長達の判断に従います」

「教導官としては、いきなりになるけど問題ないよ」

『扱いはこれまでの延長線上で大丈夫と。
よし、そんなら全員おニューな相棒と一緒にデビュー戦や!』

『はい!』


そうして飛び出す戦いの空――疑念はひとまず置いて、全力で生き抜く事を目指す。


『皆さん、挨拶もできずに送り出すことになって申し訳ありません。
……ですが気をつけて。バックヤードは教会騎士団がしっかり務めますので』

『ありがとうございます!』

「じゃあカリムさん、お土産には期待していてください」

≪木魚代わりになりそうな頭を持ってきますから≫

『『それは絶対やめて!?』』


胸の内で求める答えは、その先にあるはずだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


初めての部隊、初めての仲間――慌ただしくすぎる日々で思い出すのは、四年前の事。私は竜信仰を持つ、とある部族で生まれ育った。

ル・ルシエというのは部族の名前。私にとってみんな大事な家族で、大事な居場所で……でも、みんなにとっては違った。

家族よりも、居場所よりも、大事なものがあった。私にとっての一番は、みんなにとっての一番ではなくて。


――キャロよ……アルザスの竜召喚士よ――

――わずか六歳にして、白銀の飛竜を従えし、力ある若き巫女よ。そなたはそれにとどまらず、黒き火竜の加護も受けた――


あれは族長と巫女の先輩に呼ばれた日……私が、部族から追放を受けた日の事。

前日までとても優しかった、温かった。

でもあの人達の目は私に対し、恐怖を向けていた。私が強いから……私が、フリードやヴォルテールと仲良くなってしまったから。


――お前はまこと、素晴らしき竜召喚師よ――

――しかし、強すぎる力は災いと争いしか産まぬ――

――……!――

――しかもお主には、鬼も棲んでおる。戦いの……命の奪い合いの……生存競争の真理を知る鬼が――

――くきゅ!?――

――すまぬな、お前をこれ以上、この里へ置くわけにはいかぬ――


そして私は、生まれ育った場所を追われた。どんなに泣いても、どんなに叫んでも、私はあそこにいる事ができなかった。

私は居場所をなくした。だからさ迷って、さ迷って……まぁあんな人達、こっちから願い下げだっていうのが今の感想だけど!?

そうだよそうだよ! そんなこと言っているから、狭い地域で細々としか暮らせないんだし! むしろせいせいした…………そう、何度も強がったっけ。


そうして強がりながらもさ迷い続けた結果、管理局に保護された。

でも居場所がないのは相変わらず。

竜召喚は危険な力……でも、管理局という場所にとっては有用なレアスキル。私はその力を、組織のために役立てる道が示された。


だけど無理だった。フリードのフルスペックも使いこなせず、ただ暴走させて……傷つけるだけで。

どんな人達も、どんな場所も、私を受け入れてはくれなかった。私が役立たずだから……見ていたのは、結局私の力だけ。


――こいつは駄目ですよ。何度やらせても失敗ばっかりで、飛竜一つまともに扱いきれない。迷惑極まりないお荷物召喚師です――

――お荷物?――

――火力は凄いのに、制御できずすぐ暴走させちゃうんですよ。これじゃあ単独で敵陣に放り込んで、強引に暴れさせるしか……なぁ――

――使いきりの爆弾と同じ。竜召喚だって、こいつを守ろうとする竜が暴れるだけでほとんどけだもの。
全く、召喚なんてレアスキルを持ってるから引っ張ってきたら……どうしようもないゴミでがっかりですよ――


いつも通りの評価……いつも通りの言葉。しょうがない事だと聞き逃していたら、その中の一人が右手を振るう。

長い金髪をなびかせ、今喋った上官を遠慮なく殴り飛ばしていた。それにぎょっとしていると、その人は。


――な、なにをするんだ!――

――黙れ! こんな小さな子の前で、よくそんなひどい事を……もういい! この子は私が引き取る!
そしてこの事は本局執務官、フェイト・T・ハラオウンの名において上層部へ報告! あなた達には厳正なる処分を下してもらう!――

――は……!? おい、ふざけんな! 俺達がなにを――

――やめろ! あのハラオウン家の方だぞ! ……待ってください。我々がなにをしたと言うんですか。
ただあなたが彼女について知りたいと言うから、正当なる評価を――

――人をまるで兵器のように、実験動物のように語った! それだけで十分だ!――


……後から聞いた話では、この人達は本当に懲戒免職を食らったらしい。それも公的に、社会的制裁を受けて。

そこにはこの人のお母さんである、リンディ・ハラオウンの力もあったらしい。でもこの時の私は知らなかった。

ただ優しい手に引かれ、居心地の悪かった施設を出て、雪の中歩き出す。


――あの、今度はどこへ行くんですか――

――それは、キャロがどこへ行きたいかによるかな。キャロはどこへ行って、なにをしたい?――

――……考えた事、ありません。私の前にはいつも……行っちゃいけない場所と、しちゃいけない事しかないから――

――そっか。ならそれが分かるまで、ゆっくり考えてみようよ。フリードも一緒にね――

――くきゅ?――


本当に考えた事なんてなかった。そんなものがあるなんて思わなかった。でも今は違う。


「……今なら、答えを出せるのかな」


ヘリに乗り込み、空を見上げて呟く。その手に悪魔のキーを握り締めながら……。


「この優しい場所なら、私の行きたい場所が……」


――第9話


「……例え、悪魔と契約したとしても」


『ファーストアラート/PART3』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


リイン達とヴァイスさんの操縦するヘリに乗り込み……飛び上がった機体の中で、軽く身体をほぐす。


「……さて、アルト……ドンパチだよドンパチ!」

≪待ちくたびれましたねぇ。……どうします? この流れはアウトですよ≫

「今回のガジェット次第だね」

「恭文君、何が気になるの?」

「新人達の下地がそれなりに仕上がり、新型デバイスが出た途端にガジェット……しかも新型が動いているかもって話なんでしょ?」

「……なにか企みというか、仕込みがあるように感じると」

「僕だったら六課が解散になるまで、なにもしないもの」


そう告げると、横馬も…………やっぱりかという顔で肩を竦める。同じことは考えていたみたい。


「え、なんで!? だってレリックが欲しいから、ガジェットを動かすんだよね!」

「……スバル、少しは考えなさいよ……」


ほう、ティアナはさすがに執務官志望だね。頭を抱えながらもしっかり気づくか。


「ようは六課が一年の期間限定部隊だから、その間だけ我慢ってこと。
ガジェット絡みでの運用実績がなかったら、再集結とかも難しいじゃない」

「あ、そっか……訓練データも、完璧とはいかないよね」

「そう。実戦でおのれらがドンパチした実績もゼロだからね。
早急にことを進める必要がなければ、のんびりバカンスしててもいいくらいだ」

「……一年くらいなら、犯罪もお休みしていいかもって気持ちになるかも。
ああいう機械兵器を出すなら、お金とかを工面するスポンサーもいる……でしたよね、なのはさん」

「そうだよ。フェイト隊長もそっち方面を調べるのがお仕事になるけど……なのはも今の状況ならバカンス一択かなぁ」

「そのスポンサーもリスクを払うことになりますしね。割りとまともな感じではない……」


なのに、バカンスもせずせっせと動いている。

ハラオウン執務官やはやて達が、地上部隊への協力を……それくらいの危機感を納得させられる程度には。


それでここにきて新型だから、引っかかる部分があるんだ。


「いろんな可能性は考えておいた方がいいかもね。
それでもレリックが欲しい……達成したい目的があるとか」

「うんうん! でも、そうじゃなかったら……今すぐなんとかーってする理由がなかったら、どうなるのかな」

「そこには前提を置くべきだろうね」

「前提?」

「奴らはレリックの情報をこちらより持っている……ようは集めた上での使い道を定めている。そう仮定した場合、気になるのは?」

「…………集めてやろうとしていること……分かった!
今レリックが何個集まっているか……その目的に、持っている数は足りるかどうか!」

「その天びん次第では、バカンス返上で働くのもアリかもね」


まぁそれだと怖いんだけどね。……実はね、レリックは総数すらも今のところ不明なんだよ。

そうなると奴らのところには大量に集まっているし、残りの必要数も一〜二個って可能性も出てくる。

四年……その間に管理局が見つけた以上というのは想定して然るべきだし、六課設立も相当に手遅れかもしれない。


でも問題は、そうして何をするかってところだ。はやてや横馬達とも話していたけど、さすがに爆弾扱いは無駄すぎるし……。


「もちろん相応の算段も付けている。
こっちの戦力くらいは潰せるってさ」

「だったらそれが勘違いだって…………いや、でも……新型もいるんだよね! 私達、あの俵おにぎりしか相手にしてないし!」

「で、それはガジェットの性能だけに限ったことじゃない」


甘いとは思うけど、一応……右人差し指を立てて、可能性は通達しておく。


「こっちの人員データとか、おのれらの戦い方が流れている可能性もある」

「……それだと怖いけどね。六課にスパイがいるってことじゃない」

「そうじゃなくてもだよ。六課は隠密部隊でもなければ、影に隠れて悪を討つスーパーヒーロー集団でもなんでもない。
おのれらも含め、部隊員達のデータは公的な資料として登録されているもの」

「やっぱり情報戦……そのアドでは後れを取るわけね」

「あとは実際のデータを取るため、今回ガジェットを出してきた……という可能性もある。新型も何かしらのテストかもしれないし」

「だから洗脳云々を抜いても……ですか。なら、実際新型が出てきたときは」

「そっちは私やフェイト隊長が相手だね。情報アドという点では、なのは達にデメリットはないし?」


それも一つの理由……もちろん経験知的に、相手がアンノウンでもある程度の対処ができるというのもある。

そういう意味でも僕は賛成なので、ティアナには首肯を返す。


「最悪みんなで戦うことになったら……ロングアーチと連携だよ。
その辺りのやり方は、恭文君が教えた通り」

『……異能力戦は情報戦! あらゆる情報が武器になる!』

「正解。まず考えること……洞察し、推測し、実践すること。
そういう気概の下地も、恭文君はしっかり見せていたと思うな。
……倒せなくても、時間稼ぎする方法とかね」

「…………三日前のアレですね!」

「そっか。あれも……なのはさんやフェイトさん達の救援ありきなら、立派な作戦!」

「ちょっと、待って?」


軽く手を挙げて制止しても、みんなは止まらない…………だから待って! おのれら、その感心したような顔はやめろ!


「大丈夫、みんなならできるよ」

「「「はい!」」」

「は、はい!」


横馬め……これじゃあ僕が六課の一員みたいだし! 嫌だ嫌だ! 僕はあくまでもこれだけ稼ぐためにいるのにぃ!

つい頭を抱えたくなってくると、当の横馬が肩をポンと叩き……うわぁ、なんて腹の経つ笑顔だ。


「悪魔め……!」

「悪魔でいいよ」

「じゃあ魔王」

「ぐ……今回は……うん、魔王でもいいよ!? これが魔王なのはのやり方だし!」

「開き直ったし! ……でも、それはやめた方がいいと思うよ」

「う、嘘だ……なのはさんは天使なんだ。だからトイレにも行かないし、砲撃で世界の淀みも浄化して」

「「スバルゥ!?」」


仕方ないので魔王なのははすっ飛ばすとして……無人のリニアレールかぁ。

まぁスバルが正気に戻る頃には着いているだろうけど……さて。


「でもでも、リイン的には恭文さんと久々の現場で、とっても嬉しいのですよー♪」

「ん……僕も」


リインがふわりと僕の肩に乗ってくれるので、優しく撫で撫で……妖精モードもやっぱり愛らしかった。

……でも、その……リインはときどき、愛が重たいけど。


≪それにかこつけて、一味の一角とか捕まえたいですね。超特急で≫

≪はわわわわ……お姉様と主様、リインちゃんも歴戦の勇士感がたっぷりなの! 全く緊張が感じられないの!≫

≪ギリギリまで楽しむ主義なんですよ、私達は。で、どうします?≫

「リニアレールの先頭車両を集中攻撃して脱線させる。
そうして車両ごとレリックを爆破すれば万事解決だ」

≪「それでいきましょう」≫

『却下ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


え、なによ……おのれらなんでそんなにいきり立てるの? ちょっと落ち着きなって……目が血走っているから。


「恭文君……リインも、任務内容は分かっている!?
レリックを確保するの! なに自然と被害を大きくする方向で考えているのかなぁ!」

「だって爆弾解体ってそういうものでしょ? 鷹山さん達もやっていたよ」

「違うよ! そんなの爆弾解体じゃないよ! 正義の名を傘にきた破壊活動だよ!」

「列車は乗り込んで数分経たずに、犯人に襲撃されて爆発するものでしょうが。
去年僕はアイアンサイズにやられた。それで一晩中地下通路をさ迷う羽目になってさぁ……」

「アンタの実体験を持ちださないで……! というか、爆発すること前提はやめて!?」

「そうですよ! それに中に人がいたらどうするんですか!? 万が一とか……あるかもしれないですし!」

「あのときは……EMPを浸食する生体兵器に改造されていたなぁ。ストリートファイター達」

『だから実体験はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


みんな、頭を抱えないでよ。僕は過去から学び、最善の手を打っているだけなんだよ。それは理解してほしい。


「とにかく……恭文君、今回は地下じゃない……爆発も、多分しない……OK?」

「そう思って雨が降ったんだよ……そうして核爆弾を二分で解体する羽目になったんだよ。あのときはね」

「……あぁ、そうでしたねぇ。恭文さんのトラウマだったのです」

「もう嫌だぁ! どうして世の中には絶望しかないのぉ!」

「な、なのはさん……しっかりしてください!
というか恭文、さすがに嘘だよね! 核爆弾を解体って!」

「核爆発未遂事件がどうして未遂になったか、話していなかったけ」

『………………え?』


そうか、知らないのか。では説明してやろう……そうしている間に現場にも到着するさ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文さんの話は、余りに絶望だった。

というか……三十分が二分って……スコールって……神様の嫌がらせ同然すぎるよ!

しかも遠くに投げ飛ばそうとしたら、大下さんって人の五十肩で足下ころり!? それでどがん!?


よく被爆もなしで生きていられるよ! もはやその状況自体が不謹慎すぎるよ!


「――あれ以来僕も、肩をね……こう、鍛えるように頑張っているんだ」

「世の中って、どうしてこう怖いことばかりなの……!」

「いや……坊主やあぶない刑事の旦那達みたいなのは、さすがにねぇだろ……」

「そんなことないですよ、ヴァイスさん。僕や鷹山さん達は年二〜三回こういうのが」

「だから言ってんだよ! つーかそこは流してくれよ! 若人達の心がへし折れるからよぉ!」

「そうだよ! それが優しさだってなのはは思うな! それが人の心だとなのはは思いたいな!?」


それには私も……スバルさん達もうんうんと頷く。そうしたら恭文さんは、明るく笑って……。


「まぁ要するにだ、レリックが爆発しても人間は早々死なないってことだよ」

「だから! アンタ達と一緒にしないでよ!
私達はモブ! ただのモブなの! 特に私なんて射撃しか脳のない凡人なんだから!」

「何を言っているのよ。鷹山さん達は魔法能力なんてなしで”それ”なのよ? だったらおのれらはまだ何とかなるでしょ」

「ですです。あとは気合いなのですよ、ティアナ」

「いや、まぁ……それはそうなんですけど……」


…………そこで、一つ気づく。


「なにより僕は問題ない。そういう気配があったら逃げる……すぐ逃げる。自分の命最優先で逃げるから」

「せめて、ティアナ達は助けよう?」

「大丈夫。遺族と知人への手紙は僕が書く」

『こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「テロリストには譲歩しない……これが国際条約なんだ。残念だけど彼らと運命を共にしてほしい」

『彼らって誰ぇ!?』


恭文さんも……利用し合うなんて言っているけど、本当は凄く優しい。

こうして話して、ツッコんで……いつもの調子で騒いでいるだけで、緊張が……不安が解けるから。


……きっと私達が初出動で、不安なのも察して……わざとおどけているんだ。なのはさんも、ヴァイスさんも気づいている。だから止めないんだよね。


「まぁまぁ、そんないきり立たないで」

「誰のせいだと!?」

「おかげでちょうどいい時間になったでしょ」

「まぁな。――アルト、こっちは予定降下ポイントに、あと五分で到着する! 貨物車両の速度は変わらずか!」

『それが……速度が上がって、現在八十!』

「なにぃ!」


速度が……でも、この状況でそんな速度を出したら……本当に脱落する危険だって!


「……アルト」

≪えぇ≫

『依然進行中で、重要貨物室の突破はされていません!
なので速度とコースは修正! 予定より五百メートル先の降下ポイントとします!』

「了解!」


……進行中の電車に飛び乗るから、先回りするようなコースでヘリは進んでいる。

だから、このまま……後少しで降下……そう考えて胸が震えていると。


『あ……待ってください!』

「どうした!」

『映像回します!』


でもそこで、私達の前にモニターが展開……空に……平べったい形の、飛行物体が……たくさん……!


『空から……ガジェット反応!?』

『航空型、現地観測隊が補足! 聖王教会から情報提供のあったものと……同型と推測します!』

『――ロングアーチ、こちらライトニング01……今パーキングに到着した。現場に向かうから、飛行許可をお願い』

『ロングアーチ、個人飛行承認! なのは隊長もお願いします!』

「分かった! フェイト隊長と空を押さえるよ! ……ヴァイス君!」

「頼みますぜ、なのはさん!」


動揺している間に状況が進み、ハッチが開けられる……。

風が強く雪崩込んできて、髪を揺らす……それが、心も激しく揺さぶって。


「じゃ、ちょっと出てくるけどみんなも頑張って、ズバッとやっつけちゃおう!」

『はい!』

「じゃ、そういうことで」


……それでなのはさんもデッキから立ち上がって……というか、恭文さんも同じようにして、軽く伸び。


「……って、恭文君!?」

「少し気になってね。さくっと先頭車両を掌握してくる」

「分かったです!」

「駄目だよ! 一番ガジェットがいるのに……先頭車両ならスターズに任せて。
中央に少しずつ進軍する予定だから、恭文君は後方車両をエリオ達と一緒に」

『そうだよヤスフミ、私達は同じ分隊だし』

「それじゃあ間に合わないし対応できない」

『「え……?」』


間に合わない? レリックがってことかな。

……ううん、違う……恭文さんはそう言いながら、レールマップを確認する。


更にファルケも……バイザーも取り出して、装備して。


「アルトさん、速度が上がり続けているでしょ」

『う、うん! 徐々にだけど……今、八十五に上がった!』

「おいおい、そりゃあ……!」

「脱落する場合の予測ポイント、その場合の速度割り出し、早急にお願いします」

≪細かい説明はすみませんが後で。……行きますよ≫

「もちろん」

「だから」


恭文さんは止める間もなく走って……ヘリから飛び降りて……!


「いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

≪It's Show Time!≫

「話を聞いてってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


…………本当に、飛び降りちゃった……それも楽しげに……笑いながら……!

後に残された私達は唖然とし、ティアさんは頭を抱えて打ち震えていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


風を切りながら、つい苦笑……トイフェルドライバーを腰にセット。


「全く……」


ベルトが展開してから、フラウロスライズキーを取りだし、スイッチオン。


≪チェイン!≫


続けてドライバー右側のタッチパネルにスキャン。


≪オーソライズ!≫

「初っぱなからフラウロスとはねぇ」

≪こうして便利屋になっていくんですね、分かります≫

≪なのなの≫

「やかましい!」


飛行魔法で戦闘車両の進行方向を取りながら、ライズキーを手元で回転……折りたたまれていたブレード部分を開く。


「――――――変身!」


そのままドライバー右側のスロットに装填。閉じられていた左半分のカバーが開き、円形のクリアパーツも輝きを放つ。


≪プログライズ!≫


クリアパーツから……納められたライズキーから飛び出した数々の装備。

更にジャケットも黒コートを基調に、ジュエル式ジェネレーターが両肩や胸元に装着。

アルトとジガンもトイフェルライデゥングと一緒にセットアップされながら、腰や両手にしっかり装備。


うーん、この亀甲型の小手は頼もしい。……で、そんな右手にゲブリュルを装備。

フリューゲルにはサポートユニットになったキースが取り付けられ、両サイドには翼のように広がるシュッペ。

ストライクカノンを基調とした、対AMC装備……砲撃セッティングに似た姿を取りながら、空中で光を払い一回転。


≪燃えてドリーム! 叶えてライジング! ――フラウロスゥゥゥゥゥ! チェイン!≫
――Dream, burn up――
(特別意訳:夢よ、嘶き燃え上がれ)


うーん、初変身はやっぱ燃える…………ってぇ、これはぁ!


「…………楓さんの声!?」

≪またはギンガさんですか?≫

『楓さんで合っているのですよー。……先日お泊まりしていたとき、協力してもらったです』


…………楓さんがリインに頼んでいたってやつか! つーかシステム音声にするとは、なかなか面白いことを!


『……本当はリインがやる予定だったのにぃ! 仕事さえなければぁ!』

「気持ちはよく伝わっているよ。じゃ……」


改めて……シュッペの飛行補助も受けながら、リニアレールの進行方向へ……更に周囲に魔力弾を連続生成。


≪Stinger Phalanx≫


といってもスティンガーなんだけどね。貫通力と速度に制御のしやすさ……更にチャージもできるとなると、僕にとっては扱い易い魔法だった。

でも多弾生成はできない。ゆえにキースの補助を受け、多弾生成の術式を分割し、一発一発連続詠唱……そして生成。

あくまでも疑似だけど、使い方次第……ティアナのアドバイスでこういう形になったのが、いろいろ辛かったけど……今は振り切る!


「シュート!」


スティンガー八発を放ち、崖すれすれに飛行。

放たれたスティンガーを追いかけるように飛ぶと、スティンガーは放物線を描き、影から現れたリニアレールの戦闘車両へ突撃。

天井を……その周囲にいたガジェットを次々と撃ち抜き、爆散。

僕もその爆炎を払うように飛び込み、ゲブリュルを突き出しながら……。


≪Short Canon≫


威力を抑えめにした砲撃で、天板のみを破砕……その爆炎も斬り裂き、素早く戦闘車両内部へ降り立つ。

床を滑るように着地すると、あっちこっちの端末にワイヤーアームを伸ばし、弄っていたガジェット達が一斉に振り向く。

その数は一八。そうしてAMFを発生させるけど……無意味。


「歓迎しろ」


熱線が放たれる。

その起動を読み、回転しながら回避……キースのサポートでスティンガー八発をまたまた生成しつつ、ゲブリュルのトリガーを断続的に引く。


「パーティーの飛び込み客だ――!」


スティンガーとショートバスター……並行処理による術式発動。

それも機械でサポートしてもらうと、同時発動くらいは僕でもできる。

まぁあんまり機械に頼り切りも駄目ではあるけど……これも夢のためだった。


だから躊躇いなく放った全方位攻撃により、ガジェット一八体は全て撃ち抜かれ……次々と爆散する。


……その爆炎から飛び込んできたのは、運転席より後ろに待機していたガジェット五体。

その内二体をショートバスターで撃ち抜いてから、一発だけスティンガーを生成……発射。

また放物線を描いて飛ぶそれと同じ速度で飛び込み、ゲブリュルの刃……甲剣にもなっている砲身に、魔力を鋭く纏わせる。


「鉄輝」


AMFだろうと構わず、それごと斬り裂く気持ちで右切上一閃。

そのまま時計回りに回転しながら、斬り裂いた三体目とその爆発……四体目と五体目の熱線をやり過ごし、飛び込みながら刺突。


「繚乱!」


四体目の腹を抉ったところで、五体目の脳天が放っていたスティンガーにより貫かれる。

そのまま機関部を見事に抉られ……五体目も爆散。


「――ふむ」


一旦構えを解いて、生まれ変わったゲブリュルを撫で撫で……。


「やっぱこっちの方が使いやすいなぁ」

≪本来複合武装の方が難しいんですけどねぇ≫

「マーキュリーレヴより簡単だってー。変形もしないし……さて」


がたりとまた激しく揺れる車両……。


「あまり時間はないかな……」

≪目標タイムは二分で≫

「OK……!」


ひとまず先頭車両だけは確保と、急ぎ後部入り口へと走る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あの馬鹿……!」

「…………フェイトちゃん、グリフィス君、恭文君が単独出撃した」

『はぁ!?』

『え、待って……危ないよ! ガジェット、相当数いるのに!
ヤスフミ、聞こえる!? 戻ってきて! ここはスバル達と一緒に』

『――――――!』

『ふぇ!?』


な、なんか凄い轟音が通信と一緒に…………ううん、それだけじゃない!

サーチャーから届いているリアルタイム映像……そこに映っているリニアレールの様子……先頭車両の屋根、吹き飛んでいないかなぁ!


『――こちらライトニング05。先頭車両に到着……ガジェットは……ほい、掃討し終わったよ』


映像がアップになる。恭文さんは前後に弾丸を放ちつつ、飛びかかってきたガジェットに袈裟一閃。

甲剣にもなる新しい装備で、容易くガジェットを斬り裂き……刀じゃなくても、あれくらいできちゃうんだ……!

それにガジェットも……スティンガーで容易く撃ち抜いて。小さい分、ヴァリアブルシュートも楽ってことなのかなぁ……。


『タイムとしては一分一八秒……頑張ったじゃないですか』

『雑魚ばかりだったしねぇ』


恭文さんは映像の中で踵を返し、車両制御のためのシステムコンソールにあっさり取りついた。

それで、手慣れたようにコンソールを叩いて、いろいろ調べて…………。


『ち……』


らしくもなく、軽い舌打ちをする。


『電車の停止作業に入った。それと車内のカメラ映像とマップデータもロングアーチに送る。
リイン、グリフィスさん、管制指示はそれを参考に……後部車両の予備管制システムから回す』

「了解なのです!」

『りょ、了解……でも、できればこちらの指示で動いてほしかったんだが』

「で、何が引っかかったですか?」


リイン曹長がふわりと……開いたままの通信モニターに近づく。

そこには、恭文さんから送られた車内情報のデータが出ているんだけど……。


『この車両、止まらないよ』


……………………その恭文さんから、絶望の通達がされた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


嫌な予感がした。どうにも嫌な予感が……それで突っ走らせてもらったんだけど、こうくるとはなぁ……!

つーかレリックを奪う前に、車両が爆発したらどうするつもりだったのか。


……そういう点からも、犯人の行動には真剣さが感じられなかったけど……さて。


『ヤスフミ、話を聞いて。今は管理局の……私達の仲間として、協力して動くことが』

『フェイトさんはちょっと黙っているですよ! ……止まらないってどうしてですか』

「駆動プログラム……緊急停止カテゴリーの部分がごっそり抜けているのよ」

『……プログラム操作ができないですか!?』

「ざっつおーらいと」

『え……!』


揺れる車両の中、軽くおどけながらも操作……あぁ、やっぱり駄目だなぁ。

仕方ないのでコンソールを叩き、手動停止を…………うん、こっちも駄目か!


「速度が上がっているって聞いて、変だと思ったんだよ。
これだけカーブが続く中で八十とか……脱線の三歩手前くらいだし」

『ごめん、その速度修正! 今九十になった!』

『アクセル全開ってことかよ! 坊主、手動停止は』

「駄目です、そっちはぶっ壊されてる」

『念入りなこった……!』


……緊急停止用のコンソールは、派手に火花を上げていた。真っ先に壊されたらしいねぇ。


『それをガジェットがやったなら…………あぁ、ホントだ! これじゃあどう操作しても減速できません!』

『すぐ製造メーカーに問い合わせるんだ! だが君、よくそれだけで気づけたな……!』

「前歴があるんですよ。……新暦四十八年、ミッド中央のクラナガンターミナルを狙った列車テロだ。
航空魔導師による制圧が試みられ、犯人達は無事に確保した……でも、その後で制御系コンソールがぶっ壊されていることが分かりまして。
それで結界魔法により車両を隔離して、そのまま壊れるまで走らせたんですけど……」

『え、待って待って……まさか、勉強してたの!? ミッドで……これまで起きたそういうテロのこととか!』

「何を仰るウサギさん……犯罪対策は”グルグルレース”だよ…………っと」


車両が激しく揺れて、軽く蹈鞴を踏む。……どうやら躊躇っている余裕はないね。


『恭文!』

『速度九十五に上昇……これじゃあいつ落ちてもおかしくありません!』

≪そうですね。無駄な人に無駄な嫌みをぶつけている場合じゃありませんよ≫

≪なのなの! それじゃあ文字通りの暴走車両なの! えっと、えっと……!≫

「……即興でいいなら、方法は一つあるよ」

≪なの!?≫


そこもさっきの事件から学ぶことができる。ほんと……賢者は過去に学ぶって、よく行ったものだよ。


「まず先頭車両と二両目の連結部分を破壊する。
少なくとも二両目以降の速度は落ちるはずだ」

『でも、それじゃあ恭文さんが!』

「一両だけならどうとにでもなる……というか、まずコイツを他の車両から引き離したいのよ。AMFがあるんじゃ、結界隔離もできない」

『そうか……さっき言っていた事件!』

「……グリフィスさん、それで大丈夫ですか」

『今メーカーへ問い合わせているところだ。もうしばらく……待つ余裕はないか……!』


そう、これはギャンブルだ。だからグリフィスさんも、苦渋の表情で声を上げる。


『タイミングは君に任せる! 先頭車両と後部車両の切り離しを!
こちらはその後の速度変動に応じて、降下ポイントの再計算! 急いでくれ!』

『了解です!』


そうと決まれば一直線……ガンガン五月蠅い二両目のドアに手を当て……術式発動。

ドアや周囲の金属を対価に物質変換。鋭い杭を打ち出し、二両目先端にいたガジェット三体を撃ち抜き潰す。


『待って。こちらライトニング01……それは許可できないよ。
ロングアーチの方でなんとか速度を落とせないかな。時間さえ稼いでくれれば、私でフォローするし』

『その時間がありません! 君もすぐに頼む!』

「もう動いていますよ」


奴らが爆発したところで、衝撃を利用するように再度術式発動。

連結部分の金属を遠隔変換で粒子化……鉄の砂とした上で、連結を解除する。


……すると車両ががたんと揺れて……先頭車両は更に速度を増した。そうしてどんどん離れていく二両目…………よっし!


「グリフィスさん、車両切り離し無事に完了!
先頭車両にガジェットはいませんから、僕はこのまま離脱します!」

『こちらロングアーチ、了解した! 以後の対応はルキノと連携してくれ!』

『なぎ君、こちらルキノ! それで……どうしようか……!』

「祈りましょうか。……離れるまで脱線しないことを」

『それはどうなのかなぁ!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


もうなんていうか、なのはは舌を巻くしかありませんでした。


『――――こちらロングアーチ! やりました!
切り離し後、二両目以降の速度安定……七十キロ前後にまでダウン!』

「だが止まらないんだな!」

『…………今メーカーからの返答が来ました!
一両目の管制が何らかの形で中断した場合、安全対策も兼ねて最後部車両の管制システムが働くと!
ただシステム発動自体が異常を知らせるもののため、速度制限も発生するそうです!』

「……ほんととんでもねぇよ、お前。それも予測して、車内のデータは予備管制システムから持ってきたんだろ」

『それも新暦六十九年の……同じような列車テロでやった対処方なんですよ。
舌を巻くなら僕じゃなくて、当時の関係者にしてください』

「そうするわ」


テロの専門家……その対処が、ここまで的確かつ迅速だったとは。やっぱりこの子を呼んだのは正解だったみたいです。


「つーことはアルト、メーカーと連携すれば、車両の制御は可能なんだな!」

『はい! 車両ナンバーも特定されていますから……ただ安全を期すなら、制御プログラム全体のチェックが必須とのことです!』

「他にも抜けてたらヤバい……時間は!」

『二十分もいただければ!』

「微妙なとこだなぁ。……なのはさん、どうしやす!」

「ひとまずは予定通りに! それでガジェットがレリックに接触するのだけは、絶対に阻止!
あと……トイフェルライズキーの使用を、スターズ分隊長の権限において事前認証します!」

「「「「――!」」」」


あー、みんな衝撃が走っちゃっているね。そりゃそうだ……切り札中の切り札って話をしたばかりだもの。


「今回は山岳地帯で、高高度からのリカバリーも必要になるかもしれない状況です!
私も空を抑える関係から、突発的な認証取り付けは対応できないかもしれません!
なので……グリフィス君としてはどうかな。問題ある?」

『いえ、スターズ01の方針に同意します!
分隊員はライズキー使用の場合、報告だけは怠らないように!」

「「「「は、はい!」」」」

『ヴァイス陸曹もお願いします!』

「了解!」

『こちらライトニング01……あの、それはやっぱり……使わなきゃ駄目かな』


あー、フェイトちゃんが戸惑ってる。エリオ達にAMC装備を持たせるという点で、難色を示していたからなぁ。


「列車の滑落も当然としているし、手は抜かない方がいい」

『……分かった。でもみんな、極力……使わないようにね? やっぱり危ないし……』

「フェイトちゃんー」


…………その様子を見て、なのはは呆れながらも……ちょっと納得する。


(というか、やっぱりかぁ)


そうだ……納得もしていたんだ。

あの子は気になることがあると、自分の目で確かめたくなるというか……フィールドワーク大好きなんだよね。風花ちゃん達が言っていた通りだ。

それで何だかんだ言っても、定められたものを通す努力は惜しまなくて。


そういうフットワークの軽さが、いろんな事件を解決する足がかりにもなって……あぁ、でもでもやっぱり複雑かも!

とにかくだよ、そこに対テロの経験や実績があるから、なのは達も自分達の仕事がしやすい。

実際分隊長で前線指揮官と言いながら、列車の異常には……なのは自身気づくのが遅れたしね。勉強不足だと反省もしました。


まぁそこは一旦置いて……一応恭文君にも安否確認。


「恭文君もなんとかできるんだよね?」

『脱線させて問題ないところまで移動するわ』

「ちょっとー!?」

『仕方ないでしょ。重り(他の車両)がなくなって……あ、すごい……ジェットコースターみたいー』

『サラマンダーより、ずっとはやーい』

「楽しんでる!? 楽しんでいるのかなぁ! というか……本当に結界で大丈夫!?」

『それは…………ぁ』


え、ぁ……って、なに? なんでそんな、ふわっとした感じに……。


『一両目……脱線……』


すると、シャーリーから恐ろしい情報が飛んできた。


『飛んでいます……なんか、ロケットみたいに飛んでるぅ!』

『「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」」」』

「恭文さん! アルトアイゼン!」

『『あーいきゃーんふらーい!』』

「楽しんでる場合じゃないからぁ!」

『場合なのよ?』


回ってきた映像……確かにカーブで脱線した先頭車両が跳ね上がり、乱回転しながら飛んで……でもそこで蒼い魔力が走る。

車両全体を包んで、そのままふわりと遊覧飛行に移行した。


「これは……」

「そっか、浮遊魔法!」

『速度が上がったおかげで、AMFの範囲内からすぐ外れられた。それに……』


そこでがしゃがしゃと……これ、カートリッジのロード音?

…………そうか…………ジガンとゲブリュルのカートリッジ!


『早速役に立ってくれたよ。腹立たしいけどねぇ』

「じゃあ魔力も大丈夫なんだね!」

『遊覧飛行を楽しむ程度ならね。……ルキノさん、このままナビをお願いします』

『了解! 安全圏まで案内する!』

「凄い……」

「うん……大ピンチだったのに、アッサリ対処して……解決した……!」


スバルとエリオが……みんなが感嘆とするのも分かる。

事前勉強とフットワークの軽さ、経験からくる判断と対処の速さ……それであっという間に状況を覆した。


でも……楽しんでいるよね! 下手をすれば大事故間違いなしなのに!


「というかアンタ達、なんでそんな楽しそうなのよ!」

『鷹山さん達やシルビィ達と暴れていたときは、もっと楽しかったよー』

『私達、こういう遊びにハマっているんですよ』

「……やっぱりまともじゃないし!」

『失礼な。……魔王なのは、聞こえる?』

「あ、うん…………そうだった……なのはは、開き直ったんだった……!」

『そうそう』


やり返しにぐぬぬと呻りながらも、気を取り直して応対――でも後でやり返そうっと。


「現場復帰は難しそうかな」

『空の状況次第かな……まぁピザ屋の配達よりは早めで頑張るよ』

「スターズ01、了解!
だけど……本当に気をつけてね! 独断専行で怪我とか馬鹿らしいよ!?」

『善処する』

「だから、それが善処はおかしいの!」


くそぉ……言っている場合じゃないしぃ! とにかく今は二両目より後……それで予定通りだ!


「……じゃあ、私もちょっと出てくるけど……恭文君の無茶もあって、予定通りに修正はできた。
おっかなびっくりじゃなくて、みんなも頑張ってズバッとやっつけちゃおう!」

「「「はい!」」」

「は……はい!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……私は隊長なのに、なにもできなかった。全部あの子が解決して、あの子の独断専行も正しいことになって。

違うのに……部隊のみんなで協力して、解決していくことが大事なのに。でも……うん、そうだ。これはただの嫉妬だ。

私の専門はやっぱりロストロギアの違法使用や、違法研究の摘発で……テロというのはまた違う分野で。


あの子の……ヤスフミの能力は間違いなく本物だ。はやてがあそこまで誘いたがっていた理由もよく分かる。

それに母さんも……だけど、だけど、そんな子が……私達を……管理局や母さんを見限っている現状は、やっぱり悲しくもあって。

どうしたら信頼を取り戻せるのか考えても、手を伸ばしても、それ自体が否定される……ヤスフミの幼なじみである風花達が言っていたように。


だけどそれでも、やっぱり、悲しい……それを止めたいと思うことが……どうして、悪くなっちゃうんだろう。


(第9話へ続く)




あとがき


恭文「というわけで、やっと鳴ったアラート。次回はフォワード陣のターンです」

あむ「ようやくかー。でも列車暴走当然って……コイツら危なすぎるじゃん!」

恭文「…………だからこそ、茶番って可能性も出てくるけどね」

あむ「茶番?」


(その辺りもまた次回で)


恭文「というわけで、今回出てきた……そして次回以降出てくるライズキーやドライバーの設定です」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※トイフェルドライバー

飛電ゼロワンドライバーをベースに作った、トイフェルライデゥングの待機状態。
トイフェルライズキーをオーソライズし、展開……差し込むことでバリアジャケットと各種装備をセットアップ可能。
キーを差し込んだまま押し込むことで必殺技≪フルドライブ≫が発動できる他、この直前に別のキーをスキャン(最大五回)させることで、パワーを跳ね上げることができる。

なお、隠しモードとしてフォーミュラモードがあり、恭文が使うバルバトスとフラウロスは魔導とフォーミュラの同時運用を本領としている。

とまとではお馴染み、特撮元ネタの装備アイテムだが……今回は少し事情が変わっていて。


※ライオットフォースショットライザー(ライオットライザー)

対AMC装備の試作実験という名目で、機動六課デバイススタッフと隊長陣、リインが作り上げたフォワード専用装備。

ふだんはそれぞれのベルトバックルという形で待機状態となっているが、必要があればハンドガン≪ライオットライザー≫と専用ベルトという形でセットアップ。
使用するトイフェルライズキーをライオットライザーに装填し、オープンライズ……六課バックヤード及び隊長陣の承認によりキーが展開。
トリガーを引くことで、量子変換された装備が弾丸として射出。使用者に追加装備として装着≪ショットライズ≫される仕様となっている。

ただし本来機動六課はレジアス中将絡みの政治情勢から、本当に緊急事態……隊員達に相応の危険が襲いかかった場合のみ、使用可能。
ロングアーチ及び隊長陣の承認が下りなかった場合、ライズキーのロックが降りず、変身できない決まりとなっている。
またその際何らかの責任問題が発生した場合は、六課隊長陣が一切の処罰を引き受ける。


※トイフェルライズキー
ゼロワンのプログライズキーをベースに作った新装備。ドライバーやライザーを通すことで、量子変換された追加装備を装着可能となっている。

現在の所有ライズキー

恭文:≪バルバトスブレイカー≫
(トイフェルドライバーでの変身音:≪ライズでフラッグ! アイアンブラッド!
――バルバトスブレイカー!≫)
――The throbbing heartbeat leads to the future≫
(特別意訳:高鳴る鼓動は未来斬り開く導)

≪フラウロスチェイン≫
(トイフェルドライバーでの変身音:≪燃えてドリーム! 叶えてライジング!
――フラウロスゥゥゥゥゥ! チェイン!≫)
――Dream, burn up――
(特別意訳:夢よ、嘶き燃え上がれ)


スバル:≪ナベリウスガードナー≫
(トイフェルドライバーでの変身音:≪一撃必倒! 最短絶壊! ――ナベリウスガードナー!≫)
――Take over the destruction and turn it into a guardian light――
(特別意訳:破壊を乗りこなし、守護の光に変える)


ティアナ:≪オセシューティング≫
(トイフェルドライバーでの変身音:≪ゲゲゲ・幻影! ダダダ・弾丸! ――オセシューティング!≫)
――What penetrates you now is not a phantom――
(特別意訳:今お前を貫くものは、幻ではない)


エリオ:≪スティングサブナック≫
(トイフェルドライバーでの変身音:≪アレはナンダー! ズバッとサンダー! ――スティングサブナック!≫)
――The unknown lightning can't bind anything――
(特別意訳:未知なる雷光は何物にも縛られない)


キャロ:≪アスタロトシャーマン≫
(トイフェルドライバーでの変身音:≪剛烈GOGO! 召喚GOGO! ――アスタロトシャーマン!≫)
――Call it, the ultimate one――
(特別意訳:呼び出せ、究極なる一を)


恭文のキーはあくまでも個人装備のため、六課隊長陣からの認証は不要。そちらはあくまでもフォワード四名のみの制約となる。
基本は同じ規格で作ったため、それぞれのキーを交換し、装備を扱うこともできる。(扱えるだけの訓練を積んでいないと無意味だが……)

なお、変身音声は高垣楓さん(CV:早見沙織さん)となっています。え、どうしてかって……? 第6.7話を見れば分かるかと。


※トイフェルライデゥング≪フラウロス(完成Ver)≫
恭文が資質的にも苦手とする中遠距離戦専門の換装形態。
本来は不向きな砲撃を、魔力放射ではなく精密制御による砲弾形成・発射という形に調整。それに適応した装備調整を行っている。
基本カスタムであるシュヴァンツ・ナーゲルからなる≪バルバトス≫と同様、AMFも含めた対魔導殺し戦闘を想定し、強度と単一機能特化を基本としている。


・無線接続式シールドバインダー≪シュッペ(ドイツ語で鱗)≫

エルトリア事変でなのは達も使用していた、無線接続式のシールド二基。
単純な防御装備だけではなく、ランチャーの反動軽減や飛行魔法時の機動力補正機能も保有している。

未完成Verから機能を限定し、より特化した分、強度と信頼性は折り紙付きとなった。


複合兵装型カノン≪ゲブリュル(ドイツ語で咆哮)≫

未完成Verから予定通りにバージョンアップ。ストライクカノンをより鋭角的にした非変形型のユニットとなっている。
装備する際は甲剣式で、取り回しや反動制御、精密砲撃に支障が汚いよう、前腕部にステーを添えて固定する方式。(ストライクカノンと同じ)

非変形型にしたことで、こちらの強度と信頼性も跳ね上がり、近接戦闘も得意とする恭文が扱えば全領域での戦闘も可能。

カートリッジシステムを搭載しており、八発のマガジン式(使用カートリッジは大容量八.六五ミリカートリッジで一般販売品)。
魔力出力が必要な場合は文字通りの『弾薬』として使用。魔力出力は相応に高いものの、恭文の制御能力によりフルロードだろうと難なく扱える。

砲撃特化装備としての運用システム・ハード面からのサポートで、魔力結合≪溶断≫のような複雑な処理も容易く行える。
(恭文は資質的に並行処理が苦手なため、溶断の発現には瞬間詠唱・処理能力に遭わせる形で、ハード面のサポートが必要になる)

非変形型となったことと発射方式(砲弾射出型)で射程は多少犠牲になっているものの、ファルケと恭文の経験を交えた予測砲撃により多少のカバーは可能。


・多弾生成補助ユニット≪キース(ドイツ語で礫)≫

フリューゲルの再度にセットする装甲一体型の端末。改修前と違い、完全に術式運用サポートを目的とした仕様となった。
恭文は資質的に多弾生成及び術式の並行処理が苦手であるもの、詠唱速度は瞬間詠唱・処理能力により圧倒的。
それを生かし、多弾的な術式を分割・連続処理&発動することで、疑似的な多弾生成・制御・運用を可能としている。
(正し疑似的な分、運用と射程距離、制御限界はなのはやフェイト、ヴィータ、ティアナ達より劣る。
なおティアナのアイディアが元となっているので、恭文は頭が上がらなくなりつつある)

現在可能な最大多弾生成数は八発。
通常の射撃戦よりも連続処理という活用を生かし、ヴァリアブルシュートのような応用や、トラップ的運用を得意としている……とはリインの談。
いずれにせよまだまだ運用には未知数のところがあり、真価の発揮は恭文の知恵と勇気、及び部活精神にかかっている。

量子変換によりいつでも取り出せる、中近距離戦用の連射武装。弾幕を展開し、敵の接近や不意打ちへの迎撃、誘導弾の撃墜などが想定した使い方。


・多目的広域サーチユニット≪ファルケ(ドイツ語で鷹)≫

GPOのフジタ補佐官が装甲甲冑≪玄武≫装備時に使っているバイザーを参考に、自作したセンサーバイザー。
自機のみでのサーチングも可能だが、本質はサーチャーやネットワークなどに接続しての多角的状況観察能力。
アルトアイゼンだけでは不足しがちな、電子的……データとしての状況把握を行うためのユニットである。

こちらは未完成Verから多少微調整された程度だが、なのははスーパーオールラウンダーとしての基本装備と定義し、できる限り使ってほしいとのこと。
(恭文は『機械に頼りすぎるのも駄目』と、極力頼らない方針らしいが)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あむ「フラウロスチェインは、劇場版のなのはさん装備みたいになったんだね」

恭文「それにティアナとの絡みが…………くそぉ」

あむ「……諦めなって」

恭文「とにかく僕は、この装備を持って空の世界で暴れるよ!」

あむ「うん、知ってた! ガチャピンと絡むしね!」

ぐだ子「ガチャピンと冒険……最高だー!」

あむ「あれ、立香さんもってことは…………」

スゥ「なんだか、嫌な予感がしますぅ」

ダイヤ「この光景、前に見たものね」

ラン「つまり今カルデアは……」

ミキ「……考えるのはやめない?」


(そう、グラブルではガチャピン&ムックコラボイベント開催中。その頃カルデアは……。
本日のED:『稲川淳二の怪談百連発』)


フェイト「……というわけで、第五章の攻略も私が頑張るね」(ガッツポーズ)

ゴルドルフ「…………今すぐ二人を呼び戻すぞぉ!」

ダヴィンチ「まぁまぁ新所長。なんだかんだで前回も上手くいったし」

ゴルドルフ「大前提破壊の流れはおかしいだろうがぁ! というかキリシュタリアだぞ、第五章は! テンプレ的にもなしだろ!」

フェイト「えっと、キリシュタリアさんはカレー好きかな。あ、今ならポトフやシチューの方が」

ゴルドルフ「敵を飯で手なづけるなぁ! いや、私もやろうとしたけどね!?」

ペペロンチーノ「でも美味しいわよ? フェイトちゃんのご飯……うーん、このポトフも煮込み具合抜群♪」(もぐもぐ)

アルジュナ・アルタ「…………」(もぐもぐ)


(おしまい)






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あきゅろす。
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