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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第6.7話 『五日目の殺人と一週間目の日常/PART1』



魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020

第6.7話 『五日目の殺人と一週間目の日常/PART1』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ようやく完成だ。それなりに時間はかかったが、完璧だ。あとは……計画通りにやる。

さぁ、慎重にいけ。


仕掛けを施した人形は丁寧に包装。チケットは予定通りに届いた。


「失礼しまーす。トドロキさんに宅配便が届いています」

「あぁ、その辺置いといてください」


頼んでいた荷物も、警備員がオフィスへ届けてくれた。後は僕の演技次第。

内心ほくそ笑みながら、左手でレバーを押しこむ。人より低い視線が実に心地いい。

いつもは忌々しかったのに、なぜだろう。初めての感情に驚きながら、車いすは走る。


……この生活になって長い。再生手術で治療すると、年収の三倍はかかると言われた。

再生手術は最先端治療な分、まだまだ高額。安く受けられるのは、局の連中くらいだろう。

それに嫌気がさして、車いすの生活を送っている。この生活になって、いろんなものを失った。


ただ視点が低くなっただけで、いろんなものが変わった。でも今の気分は、まるで立って歩いていたときのようだ。


「トマス君」


後輩の金髪男を廊下で呼び止め、チケットを右手のチケットを軽く見せた。


「はい」

「君、キャッツファンだったよね」

「はい」

「はい、今夜やるドームのチケット」


チケットを渡すとこの単純な男は、天にも昇る心地で喜び始める。


「い、いいんですか!」

「予定入っちゃってさ。二枚あるから誰か誘っていけば?」

「ありがとうございます!」

「あ、でも障害者用の特別シートだから、車いす乗っていってね」


もう用は済んだ。落ち込む落ち込まないは彼の問題であって、僕には関係ない。また電動車いすを走らせる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


食堂へ向かい、食事中な黒髪男に近づく。ここにいる奴のほとんどは白衣だけど、コイツは見間違えたりしない。


「……おう」


コイツも同じだ。ひょうきんな顔つきで笑いながら、近づく僕に声をかけてきた。


「例のアクリル酸誘導体の資料、宅配便で送っておいたよ」

「悪いな。さっき届いてたよ、オフィスに」

「早いなー」

「……場所、移そうか」


一声かけ、男はほいほいと僕についてくる。廊下を少し進み、吹き抜けとなっている円形通路へ。

男は手すりに手をかけ、その眺めを堪能する。僕からはもう見えないが。


「それで、向こうの両親には」

「先週挨拶したよ」

「愛想なくてびっくりしただろ。まぁでも、話せば分かる人だから」

「糖尿病だってさ」

「……甘いもの好きだからなぁ」


もう他人……それなのにしみじみ言ってしまう自分がいる。そんな演出をコイツに見せた。


「言ってるわりに、元気そうだったよ」

「着々と進んでるんだな」

「……まぁな」

「安心した」


車いすの右にかけていた、濃い緑色の手提げ袋を取り出す。それを差し出すと、男は慌てて受け取った。


「なんだよ」

「とりあえず……気持ちだよ、今の」


男は不思議そうな顔をして、近くの椅子へ。ビリビリ破けばいいのに、丁寧に包装を外していく。


「結婚祝いは結婚祝いでちゃんとやるから心配するなよ。式の方は」

「まだ具体的には決めてない。かみさんともっと話さなきゃいけないしさ」


声をかけている間に、包装は外された。それはロダンの考える人……を模した像。

台座に座っていて、棚とかに飾れるようにしてある。それをコイツは、懐かしそうな顔で見た。


「覚えてるか?」

「当たり前だろ! 大学二年の、学園祭の時だっけ! ……コイツまだ、喋るのか?」


台座後方にあるスイッチが入れられ、男がいきなり神妙な顔をする。


「……僕は一体、どうしたらいいんだ」


一声かけてから、左手で頭を撫でる。


『――自分で考えろ!』

「ははははは! 我ながらよくできてるよなー!」

「そこに、僕とお前のサインが」


台座の底――右足の下を指さすと、日付と僕達二人のサインが入っていた。今はもう、なんの意味もないが。


「これを、僕に?」

「友情の証だ。なにがあっても――僕達の関係は変わらない」

「……ありがとう」

「メグミには言うなよ? 照れくさいから」

「あぁ」


本当に嬉しそうに笑う。でもそれになんの意味があるんだろうか。僕にはよく分からない。

というか、興味もない。僕はただ、計画が進んでいる事――それが嬉しい。


「みんなにはいつまで黙ってる?」

「もう少し……諸々の事が、いい方向で決着したら」

「その方がいいと思うよ」

「ありがとう。俺はお前に祝福してもらえるのが、一番嬉しいよ」


白々しい言葉だ。意味のない言葉には意味のない言葉で返す。


「お幸せに」


早々にその場を立ち去り、次はあの女。あの女は会社の複写室で調べ物をしていた。

その後をこっそりつけると、女は複写室の鍵を指定されたところへ戻す。

大事なものも置いてある場所だからね。鍵などはしっかり管理されるんだ。女が立ち去ってから、こっそり鍵を奪い去る。


それからすぐに後を追いかけると、ちょうどエレベーター前で鉢合わせ。


「お父さん、糖尿病なんだって?」


気軽に話しかけると、女は僕を見て困惑した表情となる。やはり変わってしまった、昔は笑顔だったのに。

まぁこんなくだらない顔とももうすぐおさらばだ。最後の愛想を振りまいておこう。


「トドロキから聞いたよ。あれだけ甘いもの食えば、そりゃ糖尿にもなるよ」

「乗る?」

「食事とかちゃんと考えてやってんのか」


さっさと乗り込んで、車いすを操作し振り返る。


「糖尿を馬鹿にしちゃ駄目だぞ、心臓にくるんだから」


――そのまま僕達はエレベーターを使い、オフィスへ。女はなんとも言えない顔をしていたが、気にする必要はない。

僕を憐れむか、うっとうしく思っているだけ。そうして表面だけは取り繕っているんだ。

女がオフィスのドアを開けるので、なにも言わずに中へ。もう定時という事もあり、全員帰宅の準備をしている。


「そいじゃあおつかれー」

『お疲れ様でしたー』


アイツは早々に家へ戻る。かなり嬉しい事があったようだ。……おめでとう。


「カタギリさん、よかったら今夜、ドームの試合一緒にいきませんか」

「今夜、ですか」


予想通りにあの後輩、彼女に声をかけた。やはり僕の計算は完璧だ。お前が彼女に色目を使っていたのは、バレバレだ。


「確か、キャッツファンでしたよね」

「ごめんなさい」

「……予定、入ってる?」

「残業なんです、ごめんなさい」


……全ては上手くいっている。計算通りに、全てが僕の思い通りにいっている。

どうでもいい会話を聞き流し、そればかり考えていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――機動六課始動から五日後。

風花&歌織&楓がギンガに連れられ、隊舎を訪れたその日の夜。



ここまでのあらすじ――模擬戦をしたら、檻に一日入れられて、メシバナしました。

セーフハウスという名の自宅に戻ってから……まぁ暴れすぎたかなぁとも思うわけで。


でもそんな反省も、夜景を見ればスッキリするもので。


「……スッキリしないで!? 反省して!? というか……暴れすぎだよぉ!」

「まぁまぁふーちゃん、これも本命を隠すためだから」

「それでも…………本命!?」

「うん」


――――そう、ここは僕の自宅。

ヒロリスさんの実家であるクロスフォード財団……その不動産部門で取り扱っている高層マンション。

まぁ十階建てだから高層というにはちょーっと低いかもしれないけど、その七階の2LDK。


ベランダ……というかバルコニーもあって、今日は備え付けのテーブルに就いて、首都クラナガンの夜景を見ながら夕飯。

ちょうど作って食べようと思っていて、ピザの材料を揃えておいてよかったよ。

ジャーマンやテリヤキチキン……ふーちゃんと歌織、楓さんも大喜びしてくれたし。


なお、瑠依については未成年だし仕事もあるということで、ギンガさんが責任を持って、てんどーさんともども中央本部に送ってくれた。


――また、落ち着いたら来ますから。今度は一緒に……ミッドの町並み、見られたら嬉しいです――

――るいるいー!――


直接でも、さっき届いた帰宅メッセージでもそう言ってくれて、嬉しかった。うん……嬉しいんだよ。

やっぱり僕、瑠依のことは嫌いじゃないみたい。いろいろ性急すぎて、落ち着いてーってなっているだけでさ。


で、そんな食事の後片付けをして……みんなで夜景を見ながら、のんびりお茶を楽しんでいるわけだけど……。


「なにせどこでどう動くか分かったもんじゃないからね。敵対することも視野に入れておかないと」

「ちょっと、待って。敵対って……あの子達と……!?」

「……恭文くんが気になること、相当……大きいのね」

「そこも話した感じだよ。なにせ無茶苦茶な金銭条件でも、僕を引っ張った上……あの箸にも棒にもかからない新人どもとチームをやれって話だ」

≪はやてさんとしては、それで自分の点数稼ぎもしつつ、私達の活動から新しい形での魔導殺し対策も実例作りがしたいんでしょ。
そこで私やこの人が勝手に捜査やらソロバトルをやらかすと、連携面で問題ありとされて台なし……そんな感じですね≫

「それが分かってて部隊にいるの!? というか、それだと敵対って……」


そう、犯罪者として……重要参考人として……ただまぁ、それについてはお手上げポーズを取るしかなくて。


「もう慣れっこだよ」

≪えぇ。こういう遊びにハマっちゃってますしね、私達≫

「私達は慣れてないよ!? それに……実際スバルちゃん達は、悪い子じゃないのに」

「ふーちゃん、自分の発言を振り返ろう?」

「分かってる! 分かってるからこそ反省したの! 恭文くんも相変わらず手段を選んでいないし!?」


ふーちゃん、そんな慌てなくていいから……。


「……というか、というかね……」

「うん?」

「……今日は……そういうのも含めて、いっぱい……コミュニケーション、だよ?」


でもそこで、ふーちゃんが顔を赤らめて……その必死なサインで、胸の奥がとくんと高鳴る。


「それは私もよ。というか、楓さんとも……」

「えぇ、そうね。追いかけてきてくれなかった分、寝かさないから」

「「「それはさすがに無茶振り!」」」

「あら?」

≪いいですねぇ。六課の中もこの調子でいきましょうよ≫

「黙れ……!」


でも、コミュニケーションって……いや、もうふーちゃんと歌織とは……いっぱい、仲良くする仲だし。

それに楓さんとも……いっぱいいっぱい、アバンチュールして……本気で受け止めたくなったし。

でもみんな一緒にって……いろいろ戸惑っていると、みんなは……それでも大丈夫と、僕の手を取ってくれる。


そうして優しく引いて……それで……僕は……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一人研究室に残り、残業中。適度に研究も進め……そろそろ動くか。

時刻は夜の七時。携帯を取り出し、音声オンリーで通信。


『……はい』

「僕です。いや、なんの用ってわけじゃないんだけど……おめでとうって言ってなかったなぁと」

『もう、改まって……そんなの別にいいのに』

「……参考までに聞いておきたいんだけど、僕を振ってアイツに乗り換えたのは、やっぱり彼の肉体に引かれたからかな」



予定通りの質問をすると、電話の向こうで彼女は唸る。

少しだけ、期待もあった。ここで気持ちを取り戻してくれるならという期待。


『……ねぇ、どうしてそういうことを言うの。私はそういうあなたが』

「ねぇ、そう考えていいの? だってそう考えないとさ、僕も納得がいかないんだよ。
わざわざ妻子持ちの男と、その家庭をぶち壊してまでさ。……あ、壊してないんだっけ。
奥さんとの三人体制、認められつつあるんだっけ? そうして愛を貫いたわけだし、よっぽど彼の」

そこで電話が切られる。……しょうがないのでかけ直した。だが彼女は電源から切って、僕を拒絶する。

いつものように……今までのようにだ。そう、分かった。君がそのつもりならいい。

お仕置きが必要だね。まずは警備室へ連絡し、白々しくお願いをさせてもらう。


――警備室へのお願いは簡単だ。複写室に忘れ物をしたので、鍵を使って入ろうとした。でも鍵はなかった。

なので誰が借りたか、ちょっと調べてほしいという……そんな簡単なお願いだ。当然最後に使ったのは彼女。

そして警備室は彼女に連絡も入れたはず。馬鹿なことに彼女は、電源を切っていて繋がらない。


続いてはピザの注文だ。彼女とアイツは自宅にいる。なのでその隣の部屋へ届くよう調整。

ピザが届く頃合いを見計らって、通信をかける。ボイスチェンジャーを使い、音声オンリー。さて、どうなるかな。


『――はい。トドロキですが』

「あー、こちら地下レールウェイ・落としもの預かり所ですが、今日レールウェイご利用されましたか」

『えぇ、毎日乗ってますが』

「そちら様のお荷物が、こちらに届いているんですが」


朝トドロキのカバンから抜き出しておいた、書類の束を取り出す。

……実につまらない、意味のない論文だ。アイツには才能がないな。


「新製品ケミカルビットの基本構造と、その将来性について」

『……間違いない、僕のです』


それから受け取りの手はずを整え、使いというか親しい人間が取りにいくことになった。

そう、トドロキはこれ絡みで自宅から離れられない。拍子抜けだよ、トドロキ。

予想通り過ぎてつまらないくらいだ。あの女が外に出ると、ちょうど僕が呼んだピザ屋と鉢合わせする。


これで目撃されて、あの女はトドロキとの関係を疑われる。さて、じゃあ最後の仕込みだ。

トドロキは今自宅にいる。そういう話を僕はしたんだからな。それじゃあ……通信をもう一度かけてっと。


『はい、トドロキですが』

「僕だ。今、大丈夫か?」

『なに、どうした』


よし、非通知で音声オンリーなのは疑われていない。というか、余裕がないんだよな。

お前はもっと大事なことがある。それに気を捕らわれて、注意力が散漫。お前らしいイージーミスだよ。


『少しなら……今、例のコンクールが発表日なんだ』

「メグミは? いるの」

『今、ちょっと出てる』

「……言い忘れたんだけどさ、今日贈った考える人……どうしてる?」

『ちゃんと飾ってるよ』

「あれさ、実は中に手紙が入ってるんだよ。まぁ、口では言いにくいことをさ。今読んでみてくれるかな」


そのままトドロキは立ち上がり、部屋へ向かう。馬鹿なくせに、律儀な奴だからなぁ。すぐに気になるんだよ。

別にその光景が見えているわけじゃない。僕の計算通りに進んでるんだよ、全部。


『……これのどこに手紙が入ってるんだ』

「台座の裏、見てみ。そこにフタがついてるだろ」

『あぁ、これか』

「それを取ると、中から出てくるんだ」

『これを……ん、取りにくいな』

「爪で、引っかけるように」


……受話器越しから、ゴリゴリという音がする。それが数度続いて、次に聴こえたのは。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「………………!」


そこで猛烈に嫌な予感が走る。

それもとても覚えのある……何度も何度も経験してきた感覚。


瞬間的に三人を抱き寄せ、パルコニー端へと抱えながら倒れ込み、更に全方位にプロテクションを展開……!

”爆風”や破砕物の飛来、炎熱ダメージ……そう、とにかく爆発防御に特化する形でなら、僕の出力でも!


「え……」

「恭文」


その瞬間、上階から轟音が響く。


「ふぅん!?」

「今の……」


想像していたような破砕や、破片のまき散らしはなかった。

ただ……明らかに、あの音は……!


「みんな、大丈夫?」

「う、うん……」

「恭文くん……」

「とりあえずフィールド魔法をかけておくから、ここにいて……動かないで」

「分かったわ。気をつけてね」


楓さんが年長者として、すぐ二人を宥めながら頷いてくれる。

それに感謝しつつ、改めてフィールド系の魔法をかけて……部屋に戻る。

すると……あれれ? おかしい……想像していたような破砕はやっぱりないな……。


「アルト」

≪耐震構造の関係もありますからねぇ。ですがこれは……部屋、見ますか?≫

「うん。……爆発なのは間違いないよね」

≪えぇ≫


上の階なら、ちょうど知り合いでもあるしね。

まぁ二〜三度挨拶した程度だけど……とにかく部屋を出て、階段を上がり……何事かと出てきた住人をかき分ける。


「すみません、通してください! 嘱託魔導師です! どなたたか通報は……」

「あの、私が!」


そこで手を挙げたのは……常駐していた管理人さんだった。これは有り難い、避難誘導も任せちゃおう。


「じゃあ一旦外に批難を! 二次被害も予測されますので……女性と子どもから先に、非常階段で……慌てず迅速にお願いします!」

「は、はい! でも……蒼凪君、君は」

「現場保全と、他の危険がないか確認しますので。僕のことはお気になさらず」

「分かった。気をつけてね。
……ではみなさん、こちらに! 慌てずに! すぐですので!」


本当は僕が連れて行くべきなんだけど……とにかく、爆発なのは間違いないから、僕は現場対処だ。

とりあえず管理人さんからはマスターキーだけを預かり、問題の部屋へ……そう、鍵を使って入る。

入り口のドアも壊れていなかったのよ。その辺りで疑問を感じながらも、失礼しますと中に……。


するとまぁ……開いた先は地獄絵図だった。


吹き飛んだドアらしき破片。

まき散らされた血と肉、骨の一部……具体的に言えば人体のパーツだったもの。

そういうものが混じりに混じり合い、ちょうど……トイレの位置で汚い花を咲かせていた。


そう、トイレだけなんだよ。奥から見える部屋は……トイレの前以外は、とても奇麗なもので。


「………………なにこれ」

≪改めてサーチしましたけど、破砕はトイレの室内だけですよ。他の危険物などもありません≫

「事前察知は……って、難しいよね」

≪えぇ。バッチリ対策されていましたよ。怖いものです≫

「さて、これは……」


ふーちゃん達も一旦避難させて問題はなさそうなんだけど……ん?

なんだろう、足下に……黒いものが。それを拾い上げて、マジマジと見つめてみる。


「黒い……指……?」


人形の……足の指、かなぁ。それが根元から折れたような破片。それを見て、つい首を傾げてしまう。

――――――こうして、ふーちゃん達ともども隊舎にUターンとかも込みで、とても長い夜と……長い一日が始まったのだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

午後十時――慌てた様子で局の人間がやってきた。予定通りの行動だが、いちいち驚いてみせよう。

研究室の明かりが灯る中、青髪の女性が真剣な様子で分かりきっている結果を話す。


「――いつの事ですか!」

「今夜の、八時すぎです」

「あの馬鹿……!」

「お察しします」

「アイツは」


右手でこめかみをマッサージ。信じられない様子というのを演技する。


「苦しまずに逝けたんでしょうか」

「……即死だったようです。救急隊員がきた時は、もう手の施しようが」


そこで右側から、ピーピーと音が鳴る。金髪ロングの女性がなにやら弄っているので、ちょっと叱りつける。


「ちょっと、弄らないでもらえますか!? 設定がおかしくなるんで!」

「ふぇ! ご、ごめんなさい!」

「……ハラオウン執務官、もう消えようか。この世から」

「死刑宣告しないでl!? というか……立場を分かってる!?
自宅の真上が爆破されて、ホームレス状態なんだよ!?
だから執務官でもある私が付き添い! ギンガも同じくだからぁ!」


部屋の奥で空を見ている、黒コートの少年へ気になる事を言い出していた。というか彼女が執務……思い出した。

局の広報誌に載っていた、ピエロっぽい女だ。理想論が大好きそうな、僕の嫌いなタイプ。


でも有能執務官には見えないなぁ。オロオロしっぱなしだし、なんなんだコイツ。


「……家族の方には」

「奥様にはすぐ連絡を取って、きていただきました。別居、されていたみたいです」

「いろいろあったから」


そう、いろいろね。今となってはどうでもいい事だけどさ。青髪局員も、そんな苦しげにしなくていいのに。


「あの、こちらでは爆発物のようなものは」

「もちろん扱っています。僕らは化学専門――いわゆる『ばけがく』の方です」

「あの、ここではなにをされてるんですか。普通爆発物なんて」

「新製品の開発です」

「じゃあ、家にその……研究材料とか、薬品を持ち込んだりは」

「ないとは言い切れないな。研究熱心な研究員は、家に専用の部屋を作ったりしてますし。
確かトドロキも、それ用に部屋を改造していたはずです。行った事はありませんけど。
……あ、そういえばトドロキは前にも一度、事故を起こした事が。学生時代に、研究室を木っ端みじんに」


そこでまた音が鳴り始めた。さっきと同じ方向を見ると、また金髪がオロオロしていた。

でも声かけする前に、黒コートの少年がハリセンを後頭部へ打ちこむ。


「ふぇ!?」

「おのれはなにやってんの! いじっちゃ駄目だって言ってるでしょうが!」

「い、弄ってないよ! ちょっと触っただけで」

「やかましいわ!」


もう一発攻撃してから、彼は僕へと向き直った。


「ハラオウン執務官、ブラっとしてきて」

「で、でもー!」

「いや、彼の言う通り……ブラっとしてきてもらえますか? お願いします」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「はい、分かったら……ゴーゴー! ゴー!」

「付き添いなのに……私、付き添いなのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


彼女はそのまま部屋から出ていった。……なんなんだ、あの変なのは。


「なんというか、すみません……」

「いえいえ、お気持ちは分かりますので」

「なぎ君……!」

「ギンガさんだって、僕に自分の大事なナックルやブーツを弄ばれたら嫌でしょ」

「そういう気づかいができるのなら、ギンガさん二号なんて芸術もやめてほしいなぁ!」

「仲がよさそうでなによりだ。しかし…………彼女は、一体」


いや、胸の中で毒づいておいてなんだが、もうちょっと有能という扱いだったような……だがあれは。


「空気だと思ってください。慣れてないと、認識するだけで疲れますから」


かと思っていたら、その毒を遠慮なくぶち込む悪魔が目の前にいた。思わず吹き出して笑ってしまったが……。


「なぎ君ー!?」

「……えっと、ホリー先生」

「あ、はい」

「嘱託魔導師の蒼凪と申します。何分専門的なとこには疎いもので、素人みたいな事を聞きますがすみません」

「いえ、それは……なにかな」

「まずこちらで扱っている爆発物ですが、主にどういったものを使っているんでしょうか」


予想していた問題だ。少年から視線を外し、やや俯き気味に考えこむ。


「なんでもあるよ」

「なんでも……ではその中で特に危険で、威力があるのは」

「危険……そういう意味だったら、リシウムとグリセリンが混ざった時かな」


どうやら彼はこの手の知識があるらしい。納得した様子で頷いていた。


「あ、えっと……なんですか。そのなにせりんって」

「ギンガさん、勉強不足。ダイナマイトの原型だよ。ビルの一個くらいは吹き飛ぶ」

「ダイナ……!」

「ちなみにグリセリンは、狭心症の治療薬としても使われてる」

「……あ、なるほど」

≪まぁ、専門家の前で言う事じゃありませんけどね≫


胸元のデバイスが窘めるようにそう言って、彼は肩を竦める。


「会社の人間に連絡しても」

「どうぞどうぞ」


彼に勧められ、場所を移動。部屋の奥にある通信機前へ。


「そういえば被害者とかって言ってたけど」

「なぎ君が住んでいるの、トドロキさん宅の真下なんです」


……これはさすがに計算外。そんなのがしゃしゃり出てくるとは。なるほど、それは確かに被害者だ。


「だからホームレス……それは、お気の毒に」

「お気の毒なのはトドロキさんですよ。……いい人だったのに」

「面識もあるんだ」

「廊下で会った時、軽く話す程度でしたけどね。おすそ分けしてもらった牡蠣(かき)のお礼に、犯人を捕まえようと思いまして」


冗談っぽく言ってたが、彼は本気だった。目が全く笑っていない。まぁ、君の不幸については謝罪しておこう。

でも残念ながら、それは無理だ。だって僕の犯罪は完璧なんだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……………………ホリー先生には軽く話しつつ……ギンガさんに念話開始。


”ギンガさん”

”何かな。というか、いきなりどうしたの? 『被害の詳細な説明をするな』……なんて”

”犯人、この人だよ”

「はぁ!?」


ギンガさん、そこで動揺するな……! 仕方ない、フォローしておくか。


「どうしたの?」

「あ、いえ……」

「……ギンガさん、おのれの家に泊めてってお願いしたのがそんなに駄目なの?」

「ちょ、なぎ君!」

「お父さんもいるでしょうが」

「え、何……そういう関係なんだ、君達」

「いえその、家族ぐるみというか……家族になってしまえーって感じなんです! はい!」


ギンガさんも大慌てで乗ってきたので、ホリー先生は一応納得してくれた様子。

それに安堵しながら、ギンガさんが窘めるようにこっちを見てくる。


”なぎ君……さすがに、今ので犯人って言い切るのは”

”規模、聞いていなかったでしょうが”

”え? ……いや、それならなぎ君が……それにほら、苦しまずに逝けたのかって”

”そうそう、それも引っかかってた。……なんで死ぬこと確定なのよ”


ギンガさんが軽く小首を傾げる。なぜか冷や汗を流しながら……。


”爆発だよ? しかも僕、真下で巻き込まれたんだよ?
普通聞くでしょ。よく無事だったとか、怪我もしていないのかとか……なのにトドロキさんだけどうしてとかとか……”

”ぁ……………………!”

”でもこの人、一度も聞いてませんよね。……だから知っていたんですよ。
『爆発してもトドロキさんだけしか吹き飛ばないし、トドロキさんは確実に死ぬ』と”

”なぎ君……!”

”すぐこの人とトドロキさんの交友関係とか、身辺を洗おう。なんにしてもそんな繊細な爆発調整、専門家じゃなきゃ無理だ”

”だね……!”


さて、たっぷり例はさせてもらおうか。見込み捜査は駄目だから、まだ……可能性の段階って話にはしておくけどね。

それでも、じっくり構えて、真実を定められたら……それはもう、一生忘れられないくらいに赤っ恥をかかせてやる――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――機動六課開始から一週間。


蒼凪の奴が……なんというか、不運だ。事件は無事に解決したのだが、ただただ不運だ。

幸い風花達に影響はなく、二人は無事に向こうへ帰れたからいいが……不運なことはまだあって。


「……納得いかねぇ」


休憩時間ということで、シャマルがいる医務室にヴィータを引っ張り、軽く話をしたのだが……全然だな、コイツは。


「お前もしつこいな」

「チーム戦に特化させるなら、これが一番だろうがよ」

「それでは奴の持ち味が殺されるだろう」

「生かすためにフルバック型ガードウィング特化っつってんだろうがよ!
それで近接戦闘はあくまでも保険で、前はスバル達に任せてよぉ!」

「他が殺されると言っている。何より……お前が蒼凪に殺されるぞ」

「はぁ!?」

「アイツはヘイハチ殿を……前に走る武術家を追いかけ続けているからな」


……それは、プログラムとして……ある種の限界値や適性を定められた私からすれば、眩い輝きだった。

いや、それはテスタロッサやなのは達からも同じものを感じるんだが……蒼凪からは、特に強く感じることがあってな。


「そして維新組所属のシンヤ・ソウマ氏のように、切磋琢磨する相手もいる」

「武術をやめろとは言ってねぇだろ。ただ適性に合わないから、魔導師として戦うときはフルバック中心にしろって言っているだけでさ。
あそこまで見事なトラップ……つーか戦略眼もあるなら、そっちの方がやりやすいだろ」

「私も、そこは賛成よ」

「ほらな、医務官のシャマルもそう言ってる」

「まぁ言っても無駄だとは思うんだけど……」

「おいこら!」

「ヤキモチ焼いて、会おうともしなかったヴィータちゃんよりは付き合い深いのよ? ……なにせ運命の出会いだもの! 現地妻一号として負けられない!」


…………おい、私はもっと違う観点から言って…………というか、現地妻はやめろ! 主はやてにも泣かれただろうが!


「もちろん医師として心配はあるわ。……あの子の身体、あなたも見たことがあるでしょ?
あんなに小さくて、肉体の限界値も低いのに……あっちこっち傷だらけで」

「まぁな」


蒼凪は男として考えるとかなり小柄だが、それは近接戦では不利な要素も多いものだ。

肉体が小さいということは、保有できる筋肉にも限界がある。それは矛であり、命を守る盾たり得るのにだ。

もちろん蒼凪はそれを技術で埋めているし、小柄な体型を生かした故の戦法も数多く持っている。欠点ばかりではないが……。


「相当無茶な訓練もしているみたいだし、なのはちゃんのこともあったから……いろいろ、言いたい気持ちはあった」

「だったら言えばいいだろ。わざわざ資質に向かないもんを伸ばすより、もっと適切な戦い方をだな」

「そうして憧れた夢を捨てろって言えるの? ヴィータちゃんは」

「だが、死ぬよりマシだろ! なのはのときのこと忘れたのかよ!」

「そのなのはちゃんの件が起きた最大の原因、あなたこそ忘れたの?
……資質に合わせて、夢や生き方まで取捨選択していったせいじゃない」

「……それは……そう、だけどよ……」


あの件を持ちだされると、ヴィータも反論ができなくなる。というか、私もだな。

だから私もまぁ、少々尖っているスタンスという形で……柔らかく受け止めるよう、努力はしているわけだが。


「だからまぁ、シグナムが認める気持ちは分かるの。
その辺りのことがあったのと、剣術家としての付き合いもあるから」

「身体が壊れないよう、よく休みよく遊んでもいるからな。
その辺りは幼なじみの二人≪豊崎風香と桜守歌織≫が……というか、そちらはお前の領分だろう」

「まぁね。お父さん達にも、お医者さんとしてお話しているから」

「だがそれより何より……ヴィータ、お前の方針は魔法戦に限っただけの話だろう?」

「…………そうだよ。だから、アタシはこれで通す。なのはやはやてにもきっちり納得させた上で」

「その後はどうする。蒼凪は第二種忍者だぞ」


まぁ小ずるいやり方ではあるが……ヴィータは貌を顰め、反論を止めてしまう。


「だから……チームのために……今だけでもよぉ……!」

「お前は蒼凪の教官として、後々しっかり飛んでいけるように責任を持つのだろう?
ならばその辺りの技能や心構えについても、教える義務というものが発生するな」

「汚ぇな、おい!」

「そういう責任を背負ったのはお前だ。恨むなら自分を恨め」

「でもシグナム、支援系魔法の修得自体はあなたも賛成なのよね」

「おぉそうだ! 結局賛成ってことだろ! それで違うって意味分からねぇよ!」

「まず蒼凪が持つ最大の武器は、表面上の適性ではない。
嘱託でありながら戦略レベルの視点を持っていること……その頭脳だ」


そう、戦略だ。捜査経験やアニメやゲーム、小説から得た知識……ガンプラバトルの経験からもそうだが、指揮官適性もある。

まぁアイツ自身が前に出たがりだから、前線指揮官と言った方が正しいが……ちょうど主はやてとは真逆の魔法適性でもあるからな。


「実際地球やミッドでも、戦闘を伴わない事件捜査も得意だ。アイツが解決した難事件も多数存在している。
更にアイツは……お前達も聞いている、ガンプラバトルで知り合った友人がいてな」

「連絡が取れないって言っていた子だよな」

「その子から複合武装のパーツをもらい、使い続けていてな。
それゆえに多数の武装……スキルをリアルタイムで使い分ける思考もできている」


まぁ遊びの中で学んだことだが、それがアイツの戦略眼などにも繋がったわけだ。

……そういう意味では、本当に運命の出会い……無駄なものなどなにもないという、一つの希望だった。


だからこそサリエル殿達も、将来を見越した訓練を数多く積ませている。


「今年もそうして調整したガンプラで、大会に出るつもりだったからな。相当に悪いことをしている」

「で、なのはちゃんとあなたとしては、その分実りある一年にしたいと」

「奴の経験を生かし、全ポジションの役割を使いこなせるようにしたいんだ」

「おいおい、それは……!」

「更に言えば、それがアリアさんとロッテさんの方針でもあるの」

「え……!」

「あの子の、魔導師としての最初の師匠はヘイハチさんじゃないわ。リーゼ姉妹よ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――僕は何をやっているのだろう。


「貴重な高校三年生の時間を、去年ションベン引っかけてくれた組織への滅私奉公で潰す……最悪の選択肢だなぁ」

≪あなたが高町教導官やはやてさんに押し切られたせいでしょ≫

「これでハンマーチャンスが来なかったら、マジでぶん殴ってやる……!」


機動六課がスタートしてから一週間……隊員オフィスの一角を借りて、割り当てられた処理を進めていた。

とはいえ部隊開始直後で対策専門ということもあり、基本は協力各所からもらった捜査情報の精査。

でも、全く……有用そうなのがない! ちょいちょいガジェットが目撃されるってだけで、お目当てのものはない!


しかもそれでドンパチが必要とかいうならともかく、目撃されてそのまま消えたって……シャボン玉か!

昨日は無事に事件解決して、ホリー先生にも赤っ恥をかいてもらってスッキリしたのに……これじゃあ台なしだし!


「クソ、読みが外れた。初日から派手にドンパチがくると思っていたのに」

≪去年はそんな感じでしたよねぇ。その前からアイアンサイズは暴れていましたけど≫

「アルト、とっとと終わらせて地球へ行くよ」

≪ですね。ガンプラバトルもしたいですし≫

「…………アンタねぇ……独り言が多いわよ」


右横から話しかけてきたのは、ティアナ・ランスター……機動六課のツンデレである。なお中原麻衣さんボイス。


「というかさすがにあり得ないでしょ。四年近く停滞していた事件が、ここで一気に進展って」

「それじゃあ困るんだよ。ガジェット数体潰す程度じゃあ、協力費≪賞金≫もそこまでじゃないし」

「……十分でしょ! アンタの月給をもう一度言ってみなさいよ! 契約金も!」

「そことは別に、これだけ稼ぎたいからね」


そう言いながら指を三本立てると、このツンデレは失礼にもため息。


「一応さぁ、ヴェートルの英雄なんだから……もうちょい社会平和に貢献とか」

「管理世界の平和が嘘っぱちだと、去年管理局とハラオウン一派がご丁寧に突きつけてくれたからねぇ。お断りだわ」

「それは分かるけどね……。でも、フェイトさんについては許してあげなさいよ」

「なんでよ」

「今、考える人になっているからよ……!」


そうそう……製薬会社で働くホリー先生……その身辺を探っていた関係で、ハラオウン執務官はやらかした。


「え、えっと……こっちがこうで……こうで……」

≪……Sir、もう音声入力に切り替えては≫

「大丈夫……うん、頑張るから」


開発中の接着剤を勝手に弄り、右手の甲と顎辺りがくっついた。しかも剥離剤も開発中だったため剥がれない。無理にやればスプラッタとなる。

そのためずーっと頬杖をついた状態で仕事をするという、職務を僕以上に舐めきった状態で専用デスクに座っていた。

なお剥離剤の開発は急ピッチで進められているけど、いつになるか分からない。下手をすれば六課が終わるまでずっとあの調子かもしれない。


「いいじゃないの。考える頭がないのを哀れんだ神様から、思し召しをもらったのよ」

「いや過ぎるわよ、その神様……!
……まぁアンタが嫌みったらしくなる気持ちも、分からなくはないけどね」


しかしこのツンデレ…………まぁいいや。僕の分はもうすぐ終わりそうだから、とっとと打ち込んで……っと。


「よし、これで今日の分は全て終わり。お仕事終了っと」

≪これで帰れますね≫

「はぁ!? まだ始まって一時間も………………あ、本当に終わってる!」


ティアナが画面を覗き込んで確認……それでギョッとして、僕と画面を見比べて。


「ちょっとちょっと……同じ量を振られたでしょ! 愚痴りながらどうして半日仕事が終わるのよ!」

「フィールドワークが専門だしね。書類仕事なんかで本領発揮できないとか馬鹿らしいからって、鍛えてもらったのよ」

「その分鍛える時間も……うーん、そういうのもさすがに見習わないわけには」

『――隊員呼び出しです』


でもそこで、案内放送が……って、これはリインの声?


『スターズ分隊:スバル・ナカジマ二等陸士、同ティアナ・ランスター二等陸士。
ライトニング分隊:エリオ・モンディアル三等陸士、同キャロ・ル・ルシエ三等陸士。
――同:蒼凪恭文及びアルトアイゼン……十分後にロビーへ集合してください』

「…………嘘でしょー!」


その余りに無慈悲な通達に、思わずデスクに突っ伏す……。


「しかも、どういうことだよ…………なんで僕がライトニング分隊に入っているんだよ! 今初めて聞いたんだけど!」

≪やっぱりはやてさん、私達を上手く抑えて、点数稼ぎがしたいようですね≫

「そこにハラオウン執務官の都合が合わさって、最強に見えるって? 馬鹿馬鹿しい……」

≪だから出世するんですよ≫

「……堂々と組織批判しつつ、好き勝手する意気込みを見せないでよ」

「それが僕達のいいところだ」


そう言いながらさっと立ち上がるけど、ティアナは少し辛そうに身体を起こした。


「あ、そうだ……ヤスフミ、私が分隊長だから、これからは」

「人への挨拶で頬杖する人は黙っててよ……」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「アンタ……!」


つーか呼び出されてもいないのに……くそ、はやてにはしっかり抗議してやる! そもそも僕が何をしたっていうのよ!


「……呼び出しなんて初めてだね。なんだろうねー」

「「はい!」」

「ティア、恭文、行こう…………って、ティア?」

「あー、今行く……」


黒の無地ジャケットとロングパンツを翻し歩く僕。しかしティアナは、やっぱり苦しげについてきて……。


「……筋肉痛、辛い?」

「まぁ、少しね」

「なのはさんの訓練、結構ハードだもんねぇ」

「今までも結構鍛えてきたつもりだったけど、あの訓練を受けているとまだまだ甘かったって思うわ……」

「そりゃ仕方ないよ」


まぁ気持ちも分かるので、空いているデスクのヘリに軽く腰掛け苦笑……。


「今までは基礎や災害救助ばかりで……明確に戦闘兵器や人間ぶっ壊すための訓練は初めてなんでしょ? 慣れるまでは無駄に力も入るって」

「ぶっ壊すって……いやまぁ、テロ対策で今の実力だと、まずそこかぁ」

「……私としてはやっぱり頷き辛いけど、今だと活殺自在もままならない……それは、恭文が言った通りだしね」

「厳しいです」


この一週間で、みんなは実力不足を突きつけられた。

自分達は人を助けるどころか、まず身を守れない……テロに対して、命がけで抗い、犯人を壊し殺すことしかできないと。

そのため理念を通すのであれば、エリオが言うような形で強くなるしかない。なかなか重たい道だ。


そこが出発点ではあるんだけど……これは、まだまだ通そうかなぁ。


”ギンガさんからの預かり物、先んじて高町教導官達には見せておきます?”


それはアルトも同感らしく、軽く念話が届いた。


”そうだね……ギンガさんに確認してからで”

”じゃあメールしておきます”

”ありがと”

「……ならランスター二等陸士」


サッと方針を纏めている間に、キャロが軽く挙手。


「まだ時間もありますし……よろしければ簡単な治癒をしますが」

「あー、簡単なヒーリングもできるんだっけ。お願いしちゃおうかな」

「はい」


――キャロは軽く詠唱し、ティアナの背中や腕に生まれた光を優しく当てる。

どうやらかなり心地よいらしく、ティアナの表情が一気に緩んだ。


「あ、あ、ああ、ああああ、ああ、あ、あ、あ、あ〜」

≪……オフィスで出しちゃいけない声、出ていますけど≫

「あははははは……あ、エリオは平気かな。恭文も」

「はい、なんとか……」

「あの程度なら、何日続こうと息切れ一つしないよ。ヘイハチ一門の特訓より緩いし」

「…………ジープと比べるのはなしだよ。なのはさん、泣いてたし」


なぜだろう。ヘイハチ一門伝統の特訓について触れると、スバルやみんなが泣きそうになる……というか、頭を撫でてくるなぁ! 哀れむなぁ!


「まぁ恭文は経験値が半端ないからよしとしても、エリオもちっちゃいけど騎士なんだねー。
……あ、今度三人で組み手、やろうか!」

「……仕方ないなぁ。ギンガさんからもおのれの仕上がりを見てほしいって言われているし」

≪それにシャーリーさんからも、ストラーダの経験値を増やすためにも相手してほしいって頼まれたんですよ。乗りましょうか≫

「よし、決まり!」

「それなら自分もお願いしたいです! ナカジマ二士、蒼凪さん、ありがとうございます!」

「…………う、うん…………」


あれ、スバルが微妙な表情…………あぁそっか。もう一週間なのにって感じているんだね。


「……あー、楽になったぁ。ありがとね、キャロ」

「恐縮であります! ランスター二士!」

「ン…………」


というか、基本斜に構えているティアナもか。妙な固さに小首を傾げていて。


「あのさ……二人とも」

「「はい」」

「なんつうか、こう……」

「分隊は別と言えど、基本はチームメイトなんだし、もうちょっと柔らかくていいよ。階級付きで呼ばなくても……」

「あ、はい……」

「まぁ分かるけどねぇ。……現に分隊長が考える人と化したし」

「ふぇ!?」


それで余計にね、しっかり……しっかりやろうとする意識があるんでしょ。

実際二人も苦笑気味に、その通りと頷いてくるし。


「私、もう……話を聞いて恥ずかしくて……」

「恥ずかしい!?」

「フェイトさん、ドジなのはプライベートだけだと思っていたのに……僕が浅はかだったであります」

「浅はか!? エリオ、キャロ……待ってて! 待ってて! すぐ考える人から脱却するからぁ! 元に戻るからぁ!」


いや、もう手遅れだよ。現に二人とも、顔を押さえて……仕方ないので頭を撫でて上げる。


「おー、よしよし。おのれらは何も悪くないからねー。悪いのは保護者気取りで考える人になった執務官だからねー」

「ヤスフミー!」

「アンタ、もうやめてあげなさい……! こう、家族断絶とかの図式が見えて辛いから」

「あははは……でも二人の礼儀正しさは、それだけじゃないと思うなぁ。やっぱり局員研修で厳しくされた?
お辞儀の角度とか、声の出し方とか」

「「はい」」


あぁ、やっぱりか……ついスバル達と腕組みしながら、分かる分かると何度も頷いてしまう。


「……って、なんでアンタが分かるのよ!」

「恭文、局員研修受けたことがあるの!?」

「理由は二つ。
一つ……地球の警察や軍隊、自衛隊なんかも似たような感じなのよ。
組織として動くために、個性を真っさらにする意味も含めてね」

「どこでも同じってことなのね……」

「それで二つ、局員研修は受けたことがある」

「ほんとに!? じゃあ元局員だったんだ!」

「違う違う……」


軽く手を振って、誤解はしっかり解いておく。つーかスバルの距離が近いので、顔を掴んで軽く遠ざける。


「あう!?」

「おのれも通っていた学校……ファーン先生に頼まれて、潜入捜査をしたことがあるのよ。
いわゆるいじめとか教師の不正が疑われていたんだけど、それを調べてほしいってさ」

≪アレも二週間くらいかかりましたよねぇ。しかもストレスが溜まりまくって大変でしたよ≫

「目立っちゃいけないし、一般講師も知らないから、僕よりクソ弱い教官にもへーこらしなきゃいけなかったしねぇ……」

「…………それ、アンタ達に頼んじゃ駄目なやつでしょうに……」

「でも仕事はきっちりしたよ? それで終わった後は、まるで牢獄から飛び出たような解放感だ」

「その牢獄に一年近くいたんだけどなぁ……私達」


まぁ少し話はそれたけど、そういう教育はどこでも同じ。

だからそれから抜けた直後のこやつらが、実際の部隊や人付き合いについて分からないのも致し方なくて……。


「まぁ少し話はそれたけど……上役というか、チームメンバーの二人も距離を縮めたがっているんだ。
研修で教わったような杓子定規じゃなくて、もうちょい踏み込んでもいいでしょ」

「そうそう! なので……スバルと、ティア! それに恭文!」

「僕を巻き込むな……!」

「いいんで、しょうか」

「いいんじゃないの?」

「ではスバルさんと、ティアさん、恭文さんで」

「うん! じゃあ、ロビーに行こうー!」

「「はい!」」


――――さてさて、ハラオウン執務官を置き去りにしつつ、ここで機動六課の全体図について説明しておこう。


まずはこのオフィスやデバイスなどのメンテルーム、更に食堂も置かれている、お仕事場としての本隊舎。

その隣には、隊員やその周りの補助を行う食堂・清掃などの事務スタッフも暮らす隊員寮。

なお、こちらには自宅も遠く、出向という形で参加しているメンバーが多く住んでいる。


スバルやティアナ達フォワード、なのは達隊長陣も基本はここの寮暮らしとなっている。寮長は民間のハウスキーパーが本業のアイナさん。

一応僕の部屋も用意はされていたんだけど、四六時中コイツらと一緒にいるつもりもないので、近くに用意したセーフハウスから通っていた。


そう…………いい場所、だったんだよ…………あそこはね!


では閑話休題……あとはヘリや車両などの保管・整備を行う駐機場。その屋上にはヘリポートもある。

あとは休憩所も兼ねた中庭とか、ふだん使う海上訓練場とか、駐車場とかだね。

首都までは車なら三〇分前後。僕のマンションからでも徒歩三〇分程度。


訓練場も備える関係から、市街地からは一定距離も取っているけど……それでも、海が近く広々とした環境は、確かに心地いい場所でもあった。


「……そう言えばアンタ、これからどうするのよ」


すると、ティアナがとても困った様子で……哀れむように僕を見始める。


「例の事件で、部屋は使えないし……おかげで管轄外のギンガさんも出張る羽目になったし」

「フェイトさんももう、隊長とかそういう威厳やイメージ……吹き飛んだしね……」

「でも、動機もヒドいですよね。恭文さんの上に住んでいた人が、友人から恋人を取って、その怨恨から……」

「でもホリーさんはねぇ、面白い人だったんだよ? 友達になれそうだった」

≪あなたが好きそうなタイプですよねぇ。理性的で、論理的で……シニカルで≫

「ただまぁ……それでも恨み辛みはあるけどねぇ!」


つい両手をわなわなさせて、怒りに打ち震えてしまう……。


「なのはやはやて達は泣き出すし、部隊員は僕を同情の目で見てくるし!
事ある毎に言ってくれるんだよ!? 『力になるから』ってさぁ! いい加減心が痛いよ!
だって、家はあるもの! 地球に実家があるもの! ホームレスにはなってないもの!」

「だ、だよね! それにほら、隊舎の寮もあるし! だから今日は、テントじゃなくて」

「でも隊舎だとガンプラは作っちゃ駄目って言うんだよ!?
ラッカー塗装も駄目ってさぁ! だったら監獄だよ!」

「ちょっと、それやめて……私も缶詰なの、ちょっと気になるから」

「だったら今すぐ地球にゴーだよ、ティアナ」


ロビーに入りながらずいっと詰め寄ると、ティアナがなぜか怯えた顔を……おのれはヒロインか。


「落ち着きなさいよ! というか、そんなに楽しいの!?」

「楽しいよー。今年こそは、いろいろ落ち着いたし頑張ろうと思っていたら…………そうか、機動六課も爆発すればいいんだ」

「カタストロフを望むんじゃないわよ!」

「そうだよー! というか、縁起でもないよ!?」

「リア充爆発しろって言うでしょ。僕の上階でもやっていたし、ミッドの流行りなんだよね」

「「全然違う!」」

「そうなのですよ、恭文さん」


そこでリインがすーっと……あ、もうロビーに入ったか。


「みんな、お疲れ様なのですよー」

「「「「お疲れです!」」」」


ただ、入ってきたのはもう一人……オッドアイの瞳で僕を見ながら、軽く手を振ってきて。


「みんな、お疲れ様」

「「「「楓さん、お疲れ様です!」」」」


そう……ふーちゃん達は戻ったのに、なぜかまだ泊まり込んでいる楓さんだった。


「……楓さん、お仕事は大丈夫なんですか?」

「そっちは問題ないの。もう明後日か明明後日には戻るし……リインちゃんからも頼まれごとをされたから」

「頼まれごと……アンタ、楓さんって」

「魔法能力者じゃないよ。デバイス関係も素人のはずだし……」

「そういうのじゃなくて……これはまだ内緒でいいわよね」

「はいです♪」


…………本当に何があったんだ。ただ二人の微笑みを見ると、嫌な予感はないので……一応はそれで受け止めることにしたけど。


「あと恭文さん、ガンプラ作りなら寮の部屋でもできるですよ」

「え、そうなの?」

「はいー。……どうもアイナさん、エアブラシとかそっちを使うって勘違いしていたみたいで。
リインから恭文さんの制作スキルを説明したら、OKが出たです」

「よっしゃー! これで毎日ホームランだー!」

≪ガンプラが作れると分かったら、ご機嫌ですねぇ≫

「それも当然なのですよ。……大会出場経験を、一度見逃すことになったですし」


そうそう、そこなのよ! 僕はね…………夢を遠回りしているのよ。

まさか留学中のタツヤみたく完全封印とかは、絶対に嫌だし。好きなことも全部抱えて進みたいのよ。


「あのリイン曹長、その大きな……世界大会って、そんなに大変なんですか?
恭文、戦略とか得意だし、わりとさくーって勝てそうなんですけど」

「まぁそこも説明するので、まずは早速見学スタートなのですよ」

「見学、ですか」

「ほら、みんなは初日からずーっと訓練付けでしたから、施設案内などのオリエンテーションは受けていませんよね」

「あ、それで……」

「でもおかげで最低限のことが終わって、今日から本訓練スタートだとか」


そのとき、僕とティアナに電流走る……。


「「ぇ……」」


ちょ、待って。それだとあの、僕の……僕の楽しい余課は……!


「…………今、凄いことを聞いたような……」

「地獄はここからだったんだね、ティア」

「スバル、しっかりして! 瞳孔……瞳孔が開いているから!」

「あの、リイン? 僕……今日の分の仕事は全部終わったから、地球の方でバトルを……というか、はやてには譲歩させたよね!」

「……リインもそんな感じだと聞いていたですけど……ごめんなさい。
なのはさんが、どうしても……どうしてもそれじゃあ駄目だと。それじゃあ恭文さんがチームの一員として仕上がらないと」


………………あぁ、今すぐ屋上に行きたくなってきた。


「なのでしばらくはスバル達と同じく、二四時間勤務で頑張ってほしいそうなのです。
今のところは暫定で、改めて恭文さんとお話して決定するそうですけど」

「………………よし、なのはを潰そう」

≪早速下克上で部隊乗っ取りですか? いいですね、やりましょう≫

「「「「「まぁまぁ!」」」」」

「止めないでよ。ちょっと……人として再起不能にするからさぁ。
ライトニング分隊入りも全く聞いてないし……!」

≪そうですよ、面白そうなんですから≫

「「「「「まぁまぁ!」」」」」


具体的には高町なのはと屋上に行きたくなってきた。久々に……プッツンしちまったよ。


(第6.8話へ続く)






あとがき


恭文「冒頭のアレは、頭でっかちの殺人……同人版≪とある魔導師と機動六課のもしもの日常≫最終巻(第6巻)でやった古畑ネタです。
なおさすがに一度やった話なので、サンプル的に冒頭部分だけ……解決はどうぞ同人版の方で」


(とまと同人版はメロンブックスDLSさんのサイトで、今までと変わらずご購入できます。
なんでも新規登録すると、統合した電子書籍サイトの購入になるそうです。今までの分は変化なしです)


恭文「このために問い合わせもしたからねぇ……よく分からなくて。
で、そんな同人版の改めての宣伝も絡めて……六話から七話の合間に起きた事件と日常。
ステエキの仲が深まるのとかは、漫画版StS第二巻でやったお話です」

古鉄≪しかし見込まれていますねぇ。……普通に飛び出すのに≫

恭文「僕達を縛れる法律はないってことだ」

大和亜季「しかし今回不運なのはフェイト殿では。サンプルの余波で考える人に」

恭文「あれはドジでしょ」

亜季「でありますね!」


(『ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……これ、いつ外れるのかなぁ……着替えもできないし……バリアジャケットで誤魔化すしかないし……』
『フェイトちゃんェ……』)


恭文「で、亜季……実はこんな拍手が昨日届いたんだよ」

亜季「なんでありますか?」


(※大和亜紀って忍者だけど、房中術使えるんだろうか
シンデレラガールズの中で一番脳筋と言うか、色ごとに縁が無さそうなイメージがあるんだけど

他にも鈍そうな子は要るけどそういう子でも照れ顔なら思い浮かぶんですが亜紀はメンタルが鋼過ぎて難しいです)


恭文「拍手、ありがとうございます。……確かにおのれは房中術で顔を真っ赤にして」

亜季「……それは昔の話であります! 弱点克服のため、狸の方からいろいろ勉強したので!」

恭文「ソイツは一番アテにならない奴だ!」


(『というか、名前を言うてよ!』)


亜季「信じられないというのであれば……教官、今日は実地研修ということで」

恭文「うん……………………待て」

亜季「自分は……よいであります! そもそもそうでなければ……テントで寝食など……」

恭文「おかしいなぁ! さすがに僕は自分のテントを組み立てたのに!」


(『うりゅりゅー!』
『おとーさん、ラルトスも……一緒に、寝袋……いい?』
本日のED:『古畑任三郎のテーマ』)


亜季「大丈夫であります! ちゃんと、同人誌というものでも勉強を」

恭文「うん、それもアウトだな! つーかはやて!」

フェイト「あの、それなら私もリードするから……うん、奥さんとして対決しつつ」

恭文「それもアウトォ! その前にはやてに説教だよ!」


(おしまい)









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