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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第5話 『抑えられない叫び』


フェイトちゃんの完全敗北……その衝撃は、スバル達にとっても大きくて。

ただ戦々恐々としながら、倒れたフェイトちゃんを見ていた。


「ルシエ三士、もしかして蒼凪さんは……」

「多分、怒ったのとか全部演技……フェイトさんを単純突撃させて、トラップに引っかけるための。
ゴーレムでふざけた感じだったのも、それを隠すフェイク……本当の狙いは、爆発で……フェイトさんが得意なフィールドをあえて作ること」

「そうして行動を、より単純にさせた……!?」

「本当に……詰めチェス……! フェイトさんがザンバーと肉体の強化に魔力を使うのも見越して、あのセッティング≪AMFとストラグルバインド≫だろうし」


特に絶妙だったのが、強化魔法の下りだ。あれを自分に欠けている時点で、フェイトちゃんは自然と頭から外していた。

AMFもそうだけど、ストラグルバインドみたいに、それを打ち消すような魔法はこないと。アンチシナジーってやつだからよけいにだよ。


でも、そう誘導することが目的だったのなら……。


「その上不確定要素であるカートリッジも、全て使わせてより駄目押し……!」

「じゃあ、最終奥義とか! さっきの繚乱がそうじゃないの!?」

『全部大うそだ』


その言葉には、また全員ずっこけるしかなかった…………。


『情けないことに、今の僕は一応の奥義も使えるほど強くなくてねぇ。今のはただ抜刀から連撃に繋げただけだよ』

「蒼凪さん!?」

「それはさすがにヒドくないかなぁ! というか、それもトラップ……トラップなの!?」

「このやろぉ……!」


あぁ、ヴィータちゃんもイライラしないで……今からそんな調子じゃ、一年持たないもの。なのは達は覚悟を決めるべきなんだよ。


『そうそう、罰ゲームはね……スリングショットで隊舎を一周させよう。彼氏募集中って看板をかけてさぁ』

「やめてくれぇ! アタシは……見ての通りなんだよ! フェイトがやっても大問題だけどよぉ!」

「そうよこの馬鹿! ちびっ子達へ配慮しなさい! もっと配慮しなさい!」

『大丈夫、問題ない……僕はスク水姿で二キロほど歩き、宿泊ホテルにもそのまま入る羽目になったことがある。それよりマシだ』

「……それが異常なことだと、まず気づいてくれないかしら……!」


この……悪魔同然なやり口すら厭わない、馬鹿を装った天才と……しっかり向き合う覚悟をね。




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「というわけで、模擬戦お疲れ様」


フェイトちゃんも復活したので、早速感想戦なんだけど……なんだけどー!


「と言いたいんだけど……恭文君!」

「なによ……オーダー通り純魔法戦で完全勝利したでしょ」

「ルールの穴を突いて、グレーゾーンのことを積み重ねた上でね!
なのは達が想定していた純魔法戦とは大分違うんだけどなぁ、あれ!」

「見解の相違だね」


うわぁ……平然と言い切ったよ! すがすがしい様子で言い切ってくれたよ!


≪そうですね。人が分かり合うのは難しいことです≫

「そう言う台詞は分かり合う戦いをした上で言ってくれないかなぁ!」

「それはハラオウン執務官に言ってやりなよ。あんな薄っぺらいので説得しようとか……人間の気持ちが分からないと言われても仕方ないよ?」


……………………すっごく、疑問そうに首を傾げてきたよ……! というか悪意も、疑いもなく!


「ぅぅ…………」


フェイトちゃん、全く相手にされていなかったことに、ショックを受けた様子で俯き、涙ぐむ。

自分の言葉が、ただ隙を作るため材料として利用された……ううん、それだけじゃない。

そもそも”人間の気持ちを理解していない無意味なもの”と断言されたことで、心を深く抉られて……。


「……てめぇは、戦いでそういう気持ちにならないっていうのかよ」

「いやいや……僕は六歳のとき、幼なじみと殺し合ったときから全力全開だし。
ちゃんと相手の遺書も書いて、家族に送ったからさ」

『えぇ……!?』

「話し合うことすらできねぇからちょっとその下り止まれ! な!?」


本当だよ! 恭文君、その殺す覚悟とかちょっとしまおうか! クレイジー過ぎてなのは達は笑えないんだよ! むしろサイコパスなんだよ!


「と、というかだ……言葉で伝えられることだってあるかもしれねぇし」

「だから”命を賭けて、武力を持ちだしてでもやろうとしていることを、抵抗もせずに諦めて、折れた負け犬として投降しろ”って言うの?」

「曲解がすぎねぇか!?」

「アンタ、お願い。それ初日でも言っていたけど、今は納得して。ヴィータ副隊長が可哀想だから」

「実際アイアンサイズ……ダンケルクとキュベレイも、柘植行人も、内調の過激派達もそうだった」

「納得しろって言ったわよね!」

「…………相手の覚悟が調っていなかったら、どうすんだよ。それでもって……無理矢理従わされていたら」

「事情があるのは僕も同じだ」


それでも……それでもと。


「そもそも、無理矢理だろうが刃を手にしている時点で……配慮されようと思うなよ」

≪えぇ。”あなた達”はそれで押し通して、自分を守ると定めたんでしょ?
だったらそのために、振りかざした相手からなぶり殺しにされる覚悟も決めましょうよ≫

「お前がその立場でも……あぁもう言うな! 言えるんだな! 言えるから遺書を書いたんだな! 六歳にして!」

「えへへへ……♪」

「照れるなぁ! 褒めてはいねぇんだよ!」

「なんでよ。僕が殺される立場だったら……そんな奇麗事を吐き出すなんて、絶対許さないよ。
……後悔しながら、嫌な顔をしながら、結局力を振るって我を通していながら……ふざけるなって話だ」

「だとしても笑うのはやめてくれ! 恐怖なんだよ!」


もっと……もっと大事なことがあると言いたげだったヴィータちゃんの肩を、軽く叩いて制しておく。


”ヴィータちゃん”

”…………すまねぇ”

”いや、いいんだよ! 気持ちは分かる! 気持ちは同じ!
……シグナムさん、やっぱり恭文君って”

”テスタロッサへの心証どうこうは抜いて…………元々こういう奴だ。
『刀を抜いたなら必ず斬れ。斬れないなら死ぬ覚悟を定めろ。抜いた時点で相手の可能性を全否定している』と教わったそうだからな”

“ヘイハチさんが”

“そのご友人である、最初の師匠にだ。
……蒼凪の障害特性も理解して、その重さも……かなり論理的に、向き合って教えていたらしい”


……恭文君が患っているASDだと、相手への共感力が低いとか、機微を読み取ることが難しいというコミュニケーション上での障害が目立つ。

しかもこれは、そういうものを尊ぶ職場や学業などで、大きく差し障りがでるの。ようはチームワークを乱す不要な存在として扱われやすい。もちろんプライベートの友人関係や恋愛沙汰などにも影響する。

恭文君が割とこの辺り淡々としているのも、多分そのせいだよ。コミュニケーションって表情……言外のものを読み取るのが八割って言うくらいだから。


そりゃあ残り二割りであくせくしている人に、八割のものが分かって当然だと言う顔で話したら行き違うに決まっている。

……だからその先生も、論理的に教えたんだね。ただ殺すってだけじゃない。殺して消えるもの……奪うもの……恭文君が分かりにくい“目に見えないもの”も含めて、しっかりと、向き合って。


“テスタロッサにとっては、いろいろキツい相手だな”

“……えぇ”


ただ、そこを修正とかは……とんでもなく押しつけなんだろうなぁとも思うんだ。


……アイアンサイズのことを話していたときを思い出すとね。

彼らに対して、全く思わないところがなかったわけじゃないのは、よく分かるんだ。

もちろん柘植行人……TOKYO WARの主犯や、核爆発未遂事件を起こした内調過激派の人達にもだよ。


恭文君は多分、みんなを認めている。そうまでして貫きたかったものを否定はしない。

でも自分にも守りたいものはあるから、自分の道理で……自分の勝手で貫いて、倒すという……割と独特なスタンス。


そう言う意味ではマイノリティーだけど、でもなのは達もマイノリティーだし、間違っているんだとも考えちゃうの。

戦うこと……力を振るって押し通すことで、本来テーブル上で伝えるべきものを押しつけ、相手の願いやらなんやらをへし折っているんだから。

……言葉だけで……そう思っても、それだけで終わらせるための材料を揃えられず、結局…………ううん、やめよう。


これはきっと、どっちが正しい間違いって話じゃない。

それだけで語っちゃ、駄目なことなんだ。


「あの、待って! さすがにそういうのは」

「スバル」


それはティアナも同意見で、さっとスバルを制する。……言っても無駄だと……首を振りながら。


「それとヴィータへの罰ゲームは……よし、キャデリーヌでも奢ってよ」


すると恭文君が突然商品名らしいなにかを言い出す。


「……!」


それを聞いて、ヴィータちゃんに電流が走った。

そうして二人は見つめ合い……え、なに……この緊張感……!


「…………確かに相当にレアものだな。
足で探せというなら完全に罰ゲームだ」

「なければ”パリパリバー”でもいいよ」

「ソロか? 箱か?」

「箱しかないでしょ、あれは」


…………なにか、玄人的な話が始まったと思ったら……。


「「ふ……」」


ヴィータちゃんは分かり合えたように笑い、恭文君と握手……!?

え、解消されたの!? さっきまでの遺恨っぽい流れとかガン無視ですか!


「やるな、お前……気に入ったぞ」

「そっちこそ。キャデリーヌを一発で分かるなんて……リインから聞いていた通りだ」

「え、えっと……二人とも? 今のはどういう」

「おぉぉぉぉぉぉ……ティア、凄いよ! 今二人がしたやり取りは、アイス好きにとっては相当に高度な戦いだよ!」

「アンタはいきなり素に戻って、何を納得…………って、アイス!?」

「「そう!」」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


ちょ、なんでいきなりアイスの話に!? というか意気投合しているんだけど! 身長が近いせいか、肩も組んでいるんだけど!


「じゃ、じゃあスバル……解説できる? なのはもちょっと」

「えっとですね、まずキャデリーヌっていうのは……SSSクラスのレア箱アイスです」

「SSSクラス!?」

「あ、ここは”店頭で見つけようと思ったら”という条件が付きますけど……今なら通販もありますし。
とにかく地球生まれの古参アイスなんですけど、すっごく見つかりにくいんです!」

「スバルの言う通りだよ。……八十年代にでたキャデリーヌは、バニラアイスの真ん中にトロっとしたチョコが入っていてね」

「なのは達が生まれる前のアイス!?」

「小規模ながら、数年前から再版しているの。これがかなり見つかりにくいのよ……」

「「うんうん……」」


それに何度も頷く、アイス好きらしい二人……というか、なぜいきなりメシバナに……!


「そもそもコンビニやスーパーで売っているようなアイスは、品物の入れ替えも激しい上、地方や期間限定商品も多いからなぁ……。
だからよ、基本その手のアイスは一期一会なんだよ。次見かけたときにはありませんでしたーってのも多い」

「そこまで、なのか?」

「そこまでですよ、シグナムさん。……ほら、シグナムさんに差し入れして、気に入ってくれたブラックモンブラン、ありますよね」

「あぁ……あのチョコのざくざく感は、らしくもなく楽しかったな。味もよかった」


シグナムさん、基本食にはあまり拘らない人なのに……どうやらあれはお気に入りらしく、何度か頷き表情を緩めた。

でもブラックモンブランならなのはも好きだけど…………あ、そっか!


「そっか! アレ、九州限定だったよね!」

「佐賀県の竹下製菓っていう地方メーカーで作っている商品だからね」

「あれがか……!」

「まぁ最近だと通販での購入もできますし、関東圏のお店でもちょいちょい見かけるようになりましたけど……メインの地域はやっぱり九州です」

「では、パリパリバーというのは……」

「こういうのなんですよ」


あ、画像を出してくれるのは有り難い。なのはもそれは知らないし……展開した画面を見ると、バニラアイスにチョコが……螺旋状に入れられているようで。


「このチョコが層状に折り重なっていて、食べていて食感が楽しいんですよ。
……で、ヴィータが聞いたソロか箱かっていうのは、一種の引っかけです。
現在パリパリバーは、箱でしか売っていませんから」

「それで、スバルは感激しきりだったと……これもやはり、通販が確実なのか」

「アイスについては、マジで店によってラインナップも変わるんだよ。
そもそも冷凍食品ゾーンの大きさにも左右されるからよぉ」

「でも、パリパリバーはまだ入手しやすいですよね。大きめのスーパーなら七割か六割くらいの確率で置いているかなーって感じですし」

「それでも百パーセントじゃないって……! というか、あの短い間に内容が濃すぎるんだけど!」

「「「…………全然濃くないけど」」」

『い!?』


ちょ、待って! 三人とも……目が怖い! というかうつろに笑わないで! どうしてそうなるの!


「てめぇら、アイスの沼がこんなもんだと思っているのか……?」

「沼!?」

「そうだよティア! もっと深くいくなら、箱アイス限定とか、単品限定の商品とか……。
ラクトアイスやアイスクリーム、氷菓の違いはなにかとか……。
PALMとその類似商品の、革命的貢献についてとか…………いろいろ語るところがあるんだから!
私的には、コンビニで見た単品版のパリパリバーは、一体なんだったのかーとかさ!」

「「なんだとぉ!」」


ちょ、待って! 話を広げないで! そして食いつかないで! あとテンションが凄くて引くから!


「おいスバル、それはマジか! 箱のをバラして置いていたとかじゃないのか!」

「普通にバーコードもついていました! あ、こちらが画像です!」

「…………マジかよ……!」

「商品の公式HPでも、単品版がでているなんて告知はない……どういうことだ……!」

「キャデリーヌみたいな少数ロットで、試験販売とかかなーとか考えているんだけど……でも、見たのが二週間前の一度きりなんだよねー!」

「……こうしちゃいられねぇ! おいお前ら、こい! 徹底調査するぞ!
まずはスバルが見かけたコンビニ! 次はその近隣を虱潰しに探索! そこからローラー作戦だ!」

「「了解!」」

『待て待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


さすがに見過ごせなくて、ヴィータちゃんや恭文君の肩を掴んで制止! スバルはティアナにお任せです!


「ヴィータちゃん、落ち着いて! 仕事! 仕事中だからぁ!」

「馬鹿野郎! 局員として事件捜査は基本だろうが!」

「ヴィータちゃんは教官だからぁ! 担当が違うからぁ!」

「そして事件はね、会議室で起きているんじゃない……現場で起きているんだ!」

「恭文君、踊る大捜査線は結構昔でね……今やられても誰にも通じないネタなんだよ! いや、名作だけどね!?」


ちょ、三人とも勢い強い……ズルズル引きずられてるー!


「なのはさん、行かせてください! 謎が……私達を待っているんです!」

「駄目だってばぁ!」

「というか……分かった! 私が悪かったから落ち着いて! それより感想戦……感想戦に戻りましょう!?」

「そ、そうだね! とりあえずそのパリパリバー、なのはも食べたいからまた買いにいくよ! 罰ゲームと関係なしにね!」


とりあえず三人をそれで落ち着かせて……。


「……でも、地球のアイスがミッドでも食べられるって……輸入とはいえ、凄いであります」

「賞味期限とか、大丈夫なんでしょうか」

「くきゅー」


げ、エリオとキャロが純朴そうに疑問提起を……それはやめてぇ!


「「「アイスに賞味期限はないから大丈夫!」」」

「「はいー!?」」


やっぱりアイスモンスターが…………え、ちょっと待って!


「アイス……賞味期限がないの!?」

「あぁ! 基礎知識だぞ!」

「待て……食べ物、だよな。食中毒などは」

「あのですね、シグナムさん……冷凍食品全体での規約に、保存されるべき温度の基準があるんです。
それがマイナス一八度以下で、それくらい低温だと食中毒の原因になりそうな微生物が存在できないんです。
……なので正確に言うなら”きちんと冷凍保存されている限り”という前置きがつきます」

「そういうことか……」

「そう言えば、私……アイスで賞味期限の表記とか、見た覚えがないかも……」


そう…………賢明なみなさんならお気づきだろうけど、賞味期限の話に乗っかってしまったのが、マズかった。


「では、やはり常温などでは危ないと」

「冷凍庫の開け閉めは特に注意が必要です! 恭文が言うみたいに、他の冷凍食品ともども悪くなっちゃいますから!
もちろん家で冷凍保存しているお肉とかお野菜、お出汁も……それでギン姉に叱られたことが、一度……!」

「その手の自家製保存食は、特に繊細だしねぇ……」

『知らなかった…………』

「だから店舗でキャデリーヌを見ると、ギョッとしますよ? 数十年もののデッドストックかと」

「ワインか……!」


ここから広がるアイス&冷凍食品話に、私達は三十分ほど費やしてしまった。

そうしてまたも、全員で始末書を書くことが決定してしまったわけです。


…………なのはの馬鹿ぁ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


戦闘者としての姿勢が割りとぶっ飛んだ恭文君だけど、メシバナとか……ふだんの流れであれば、そこまで苛烈でもなく。

それが分かったのは実に好都合。ああいうお話も戦闘から離れたところでやろうと決意しつつ……始末書を書く覚悟も決めつつ……!


「さて……全員揃って冷凍食品の凄さに感服したわけだけど」

『はい!』

「楓さんがいれば、その辺りもっと楽しいんだけどなぁ」

「楓さん?」

「二月頃、旅先で知り合った奇麗な人。冷凍食品とか大好きなのよ」

「そっかー。じゃあその辺りはまたフリーな時間に聞かせてもらうとして」

≪楓さん、言っていましたね。そのうち触れるだけで解凍される冷凍食品が生まれ、この世は理想郷に変貌すると≫

「言っていたねぇ」

「………………え?」


ま、待って。その……かなり危ない思想犯? 思想犯候補? いろいろ問い詰めたいけど…………よし、考えるのはやめた!


「……今は…………その流れで感想戦だね!」

「そ、そうだな! 今は仕事だしな!」

「ヴィータちゃんは分かっているなー!
……で、それに対して分かっていなかったフェイトちゃん」


スリングショットが決定しているフェイトちゃんに、改めて向き直ります。


「思う所があったのも分かるけど、さすがにあれは駄目だよ」

「…………ごめん…………え、でも……そうなの? アイスって賞味期限ないんだ」

「そこは振り返らないで!? またメシバナ続くから! ループして」

「「「……!」」」

「…………ほらー! アイスの強者達がまたウズウズしてるしぃ!」

「……お前達、本当に…………仕事外で語ってくれ。
特にスバルとヴィータは同じ分隊同士、コミュニケーションも必要だからな」

「「「了解!」」」


わーお、三人揃って息がピッタリだよ! これならコミュニケーションは問題なさそうだなぁ!

……で、なのはとしては……やっぱり問題があるフェイトちゃんを何とかしたいわけで……!


「でね、フェイトちゃん……」

「う、うん……」

「なのはやはやてちゃんの恋愛経験までバラしてくれたのは…………あとでお説教するから」

「え、でもなのは、ユーノとも全く進展とかないし、クロノやエイミィも匙を投げているくらいで」


……笑顔でフェイトちゃんの頬を取り、むにーっと引っ張り……お仕置き……!


「反省を、してくれないかなぁ――――!」

「ふぇぇぇぇぇ! ご、ごめんー!」

「……だから言っただろうが。誰もお前達に期待してねぇってよぉ」

「そのワードは初耳かなぁ!」


というか何! クロノ君とエイミィさんも!? なのはとユーノ君はどれだけ期待されていたのかなぁ!

なんというか、こう……なのは達は家族というか、兄弟的というか! そう言う感じでもないのにさぁ!


……となれば、もうフェイトちゃんに容赦する理由もないわけで……!


「恭文君、さっき言っていた罰ゲーム、本当にやっていいよー。
ただ不埒なことになってもアレだし、脇についていてくれると嬉しいなー」

「OKー。リードを付けていこう」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


その後で、恭文君にも罰ゲーム……いや、やめておこう。

宣言したら逃げられるし、きっちりと……こう、不意打ちでばしーんと……そうして乙女の怒りを思い知るといいさー。


「まぁテスタロッサはなのは隊長に任せるとして……蒼凪も最後のトラップコンボはよかった。
AMFを使うというのも、今後のことを考えればいい課題になるだろう」

「ありがとうございます」

「…………そこに至るまでの経緯には、いろいろ言いたいこともあるが」

「え、何か問題が」

「部活でどういう戦いがあったのかを……詳しく知りたいと思う程度にはな……!」


シグナムさん、そこに触れちゃ駄目です! きっとなのは達は救われない……決して救われない!


「それはもう楽しいですよー。……たとえば水鉄砲で撃ち合いをやったときとか」

「お前に対抗できるのか」

「もちろん。……発起人たる元祖部長と、それから仕事を引き継いだ新部長は近所のおもちゃ屋で連射可能な大型銃を用意して無双」

「は……!?」

「トラップマスターは適当な水鉄砲に砂を入れ、撃てないようにした上で相手に取らせる。なおかつ自分は水の入った銃を大量に取って、潜伏戦術。
かと思ったら水鉄砲を投げられて撃沈されたり」

「待て。なぜ銃を投げる……」

「砂が詰まって撃てなかったので、事前に決めた定義通りに攻撃したんですよ。
水鉄砲から出た水がかかったら、負けーって感じに」

「……………………そう、か……」


………………シグナムさん、だから言ったのに……結局理解を放棄しましたよね!

というかどれもこれも斜め上過ぎるよ! 部長自ら優位性を自腹で確保とかも、ありがちだけど現実でやることじゃないー!


「冬の部活も楽しかったですよー。豪雪地帯なのを生かして……スキーとか、雪合戦とか。
特に雪合戦は冬季迷彩を身に纏い、フィールドにトラップを次々設置しての地獄絵図! これがまぁ最高なんですよ!」

「…………それは……そうだな……うん……」

「やっぱGPOかみんなくらい面白い奴らじゃないと、世界のどこにいても退屈過ぎますよ」

≪えぇ。水を得た魚のように暴れられますから≫


はははは……はっきり言ってくれるよ! 暗にフェイトちゃんやリンディさん達は……管理局は退屈で、面白くないって言っているよ!

…………でも。


(実際、その子達は凄いんだろうなぁ……と思っていたり)


単純な戦闘力はともかく、戦いについてドライでシビアな恭文君が、そこまで認めるんだ。

もちろんGPOの人達だって……それを、あんな形で唾を吐きかけられたら、それは簡単に許せないよ。


それに実際問題、そういう人達から影響を受け、学んできたことはとっても大きくて……そのせいもあるのかな。


(…………もはやいち前線メンバーで済まされる視点じゃないね、これ)


戦術……ううん、戦略的視点で戦場を見渡している。

心理や行動の動きや流れも利用して、敵を嵌めるトリックスターかぁ。


(予想はしていたけど、この子は……この子の可能性は……)


同時に、この子の上に立って、指示を飛ばそうと思ったら……それは相応の水準を求められるわけで。


「…………っと、そうだ!」


いろいろ思い悩んでいると、スバルがハッとする。


「豆柴?」

「あだ名ならもうちょっと可愛いのにしてー! 私、これでも女の子だからね!?」

「分かってるって。で、なによ」

「だから……精神攻撃とか駄目だよ! 縮地とかができるなら、それで一撃必倒すれば!」

「仕方ないでしょうが。おのれらの勉強になるようにって、スローペースで進めろって指示があったんだし」

「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」」

「あ、それは……うん。解説する余裕くらいは……ね」


最悪だよ! ここで裏事情をバラして、なのは達のせいになったよ! なのは達のせいでアレってことになったよ!

でもね、なのは達も完全に被害者なんだよ! 意図していたとしても、あんなのは予想外すぎるんだよぉ!


模擬戦って言うのはもっとこう……お互い伸ばし合う感じでね!? そういうのを理想としていたんだよ!


「それに縮地縮地って言っても、魔法じゃないんだ。キチンと正解を導き出さなきゃ」

「いや、魔法だよ! 私から見たら本物の魔法だよ!」


…………その言葉に何やら唸っていた恭文君は、どこからともなくボールを取りだし。


「じゃあ魔法じゃないと証明しよう」

「へ?」

「よっと」


ひょいっと放り投げられたボール。

それは十メートルほどコロコロと転がっていって……。


「……ハラオウン執務官、取ってきて」

「え?」

「技能説明にどうしても必要なことだから協力して。もちろん後で解説する」

「あ、うん……」

「あの、マジか? 犬扱いとかじゃなくて」

”なくて。……みんな、よく見ていて”


恭文君は私達全員に……恐らくフェイトちゃんを除く形で念話を飛ばす。


”まずハラオウン執務官は、右足から立ち上がる”

「じゃあ……よっと」


……フェイトちゃんは、恭文君が言った通りの動きで、立ち上がり……!


”ピッタリ十七歩……少し早歩きで歩いて、左足を最後に出して停止。
そのまましゃがんで、右手でボールを取るから”

「ボールボール……」


自然とフェイトちゃんの歩数を数えて……一、二、三、四…………十七歩目、左足。

フェイトちゃんはしゃがんで、本当に右手でボールを取って……!


「あ……ティ、ティア!」

「しー!」

”ボールを手に取って振り向く……逆時計回りで……今!”

「このボール、どうしたの?」


フェイトちゃんはまたも、恭文君が言うように振り向いた。

よくあるカラーボールを持っていることが、疑問そうに……。


「ただのボールじゃないよ。追跡用の特殊塗料が入っているの。
魔法でぶつけるって手もあるし、ハッタリにもなるから常備しているのよ」

「そうなんだ……」

”一旦僕達に背を向けて、ボールをまじまじと見ながら……今度は時計回りで振り返り、左足から踏み出し、今度は早足十八歩で停止”


フェイトちゃんは確かに背を向けて、立ち上がり……ボールをマジマジ見ながら、時計回りに振り返る。

左足を踏み出して、少し早足で…………ピッタリ、十八歩で……恭文君の前に!


”両手でボールを渡してくれる”

「はい」

「ありがとう」


……本当に両手で渡したよぉ!


”最後に小首を左に傾げながら、僕に訓練主旨を改めて聞いてくる”

「でも、これが……技能説明にどう役立つのかな」


小首を……本当に……左に……傾げて……!


『ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!?』

「ふぇ!? ど、どうしたのみんな!」

「あの、今念話で……フェイトさんのアクション、全部蒼凪さんが事前に解説していて!」

「え」

「何歩歩くのとか……ボールを取る動きとか……今、両手で返したのとか! 小首を傾げたのとか、全部!」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


軽いホラーだよ! 縮地の概要から考えればまだ分からなくはないけど……実際に見せられるとホラーだよ!

未来予測!? そういうレアスキルがあるの!? いやもう……さすがに、全て見せられると、ねぇ!


「お、おい……なにやったんだ、お前!」

「大したことはしていないよ。ヴィータだって戦う相手の動きやクセ、戦術を参考に、先の予測くらいするでしょ?」

「いや、だとしても…………それを突きつめればってことか」

「確かに、ここまで分かっていたら……フェイトさんの隙くらい、楽々突けそうであります……!」

「くきゅ……!」

「でも、どうして!? どうして……全部なんだよね! しゃがむのとかも! なんでかなぁ!」

「まず一つ、重要な要素は体型だ」


恭文君が鋭く……フェイトちゃんの胸辺りを指差す。

……すっごく大きい……トップ九十に迫りそうな……あの育ちすぎバストを……!


「……蒼凪、指差ししているところがセクハラだが」

「そ、そうだよ! あの、男の子だから興味があるのも分かるけど……」

「この大きなふわふわ素敵バストも、今の行動予測には大事なファクターなんですよ」

「はう!?」

「どういうことだ」

「シグナムさん、真下見えます? ただ頭を下げるだけで」

「………………」


……そう言いながら、シグナムさんが頭だけを下げて真下確認。

でも、見えないよね……シグナムさんも立派なものをお持ちで、阻害してくれるから!


「……あぁ、そういうことか。私やテスタロッサの体型では、下が確認しにくい」

「まずしゃがむところ……というか、そこまでの歩数はそこから予測できることなの。
ハラオウン執務官が通常得られる視界の広さは、やっぱり体型……身長もそうだし、胸も絡むしね。
その広さでボールを捉えつつ、自分が手を伸ばして届く位置に停止する。そういう予測が立てられるでしょ」

「あとはテスタロッサの足の長さから、その予測をより綿密にしたわけか。
では歩く速さは」

「心理的なものが大きいです。一応でも訓練中で、模擬戦後の予定も決まっている。
それで意味がよく分からないことをしていますし、だったら手早くと考えるでしょう」

「いや、それはお前が振ったことが原因…………って、また動きが誘導されているじゃねぇか!」

「そうだよね! 私……確かに、そう考えたけど!」

「どっちの手を伸ばすとか、足を踏み出すとか、どう振り向くとか……それも基本は観察した上での統計的予測だよ。
なので僕が今予測したの、実は結構ギャンブルが入っているんだよね」


あぁ、知り合ってからさほど経っていないから……いや、それでも大分予測できているのは凄いけど!


≪模擬戦まで時間があってよかったですね。おかげで観察や情報収集の余裕も取れましたから≫

「どう? これくらい分かれば、さっきみたいなトラップを仕掛けるのも不可能ではないでしょ。
それにやっていることも一種の統計学だから、魔法や超能力というのとも違う」

「た、確かに……!」

「でよ、縮地には一応弱点もあるのよ」

「弱点?」

「相手への洞察が甘いと、クロスレンジの戦闘中にミスをする……ようは手痛いカウンターを食らう」

≪あくまでも予測で山勘半分ってところを踏まえないと、痛い目を見るわけですよ≫

「……!」


スバルが小さく息を飲む。それは、ヴィータちゃんも指摘した部分だからね。


「で、第三者からすると若干効果が薄い。現におのれらは僕の動きもしっかり見て取れたよね」

「そう言えば……うん、ちゃんと見えたよ」

「洞察による生体の隙……それはあくまでも対個人という括りで、乱戦などでは効果が薄いでありますか」

「まぁそれも立ち位置次第だけどね。たとえばおのれやスバル相手なら、まだいいのよ。おのれらがそれぞれ戦っている隙を縫えばいいから。
……でも、そんな僕の動きを後ろから……第三者的に見られるティアナやキャロには、その辺りが通用しにくい。
もちろんデバイスとの連携もあると効果的。更に言えば……慣れるのよ」

「慣れる?」

「戦っている相手が、こっちのテクニックにね。つまり時間経過でどんどん効果が薄くなる」


あぁ、それは……確かに考えていなかったかも。でも人間は学習する生き物だし、自然に……生理的に慣れていくのは分かるかも。


「なるほどね……」


だからティアナも腕組みして、納得した様子で何度か頷く。


「というか、乱戦での隙は縮地抜きに、気をつけるべきところか」

「はい。特にガジェット戦とか……まだ訓練なのに、ワタワタしていますし」


恭文君、やっぱりスバル達が可愛いのかなぁ。割りと手札や技能もオープンに教えてくれるし……。

いや、一朝一夕に真似できるものではないんだけど。でも対人・対兵器戦闘の経験が真っさらなスバル達には、分かりやすい目標でもあって。


だから……それゆえというか、ティアナは疑問があるようで。


「でもアンタ、なんでそんなことを……いや、割りと最初からだったけど、言っていたわりに手札オープンすぎない?」

「本当は嫌なんだけど……テロ対策には必要なスキルなのよ、これ」

「相手の行動……次の犯罪を予測して、未然に止めるならってことかぁ」

「それに……あえて札を見せることもまた、ゲームを有利に進めるためのトリックなのよ。
そこを警戒させて、また違う使い方を見せるという手もあるでしょ」

「性格悪!」

「いやいや……手品のトリックにあるのよ? ミスディレクションって言ってね」

「目立つアクションで相手の視線や意識を誘導して……その死角で本命のネタを仕込み、発動させるって言うのだよね」


恭文君は私に頷きながら。


「いいティアナ、僕の手元……ボールをよく見ていて」

「え、えぇ……」


そう言った直後、恭文君は右手を軽くスナップ。

……そこでティアナ達の意識が……視線が動いたところで、左手のボールが放り投げられた。

ティアナはそれを受け取れず……軽く胸に、ぽよんと当てて跳ね返してしまって……。


完全に見ていなかった。不意打ちだったと動揺しながら……。


「あ……!」

「ほら……」


恭文君はそのボールを、難なくキャッチ。問題なしと手の中で回し始めた。


「こうすれば縮地で突ける隙を、自分で導き出すのも可能でしょ」

≪それは心理戦などでも同じなんですよ。ようは縮地の本質に近づくための修行です≫

「……そのためにあえて自分を追い込んでいると……さっき言っていた慣れの問題もあるから」

「でもそこまで特別なことじゃない。
ティアナもIMCSみたいな格闘大会は知っているでしょ」

「スバルが好きだもの」

「あれに限らず、スポーツでのトーナメント大会とかには、幾つかのテクニックが必要なんだよ。
なにせ”相手に能力を分析され、丸裸になりながらも連勝し続ける”ってのが優勝条件だからね」

「メタを張られてなお、それを打ち破れてこその栄誉かぁ……。
そう考えると、アンタ達の戦い方も確かに特別なことではないわね」


ティアナは恭文君とアルトアイゼンの有り様を認めた上で……軽く表情を顰めた。


「………………精神攻撃以外」

「でもおのれらだって仕掛けられる可能性がある。
なにせ倒すべき悪も努力しているんだから」

「そういう意味でも実戦流儀って、ズルくない!?」

「戦いなんてのは、殺した奴の勝ちだよ」


……そこもフェイトちゃんにとっては、厳しい評価の一つだよね。


恭文君は多少無茶苦茶だけど、リンディさん……家族などが絡むと、冷静な判断ができないという悪癖が露呈したんだもの。

無論それは、スバル達にも言ったように優しいから……フェイトちゃんの長所ゆえのことだよ。

だけど、戦いはそれだけで片付くほど甘くない。その実例も見せられたから、スバル達も納得するしかなくて。


「というわけでほら、トラウマがあるなら今のうちに暴露して、スッキリしておこうか」

「だから、その発想が斜め上なのよ……!
……でもアンタ、そんなのをどうやって……縮地を突きつめる中で?」

「あとは……去年の今ごろ、雛見沢で北条沙都子って女の子と知り合ってね」

『雛見沢……!』


ちょっと……それ、それ……またそのワードが!? やっぱり地獄の一丁目なんだ、雛見沢!


≪沙都子さんはプロでも舌を巻くレベルのトラップマスター。
そしてトラップに必要なのは、こういった洞察とそれに基づく予測と断言していました。
あくまでトラップとは、その予測の上に仕掛ける”ほんのひと匙”なのだと≫

「それ、さっき言っていたのだ!」

「……一応聞くけど……そのサトコってのは、何もんだよ。軍の回し者か」

「ううん、村育ちの小学……って、もう中学に上がったか。
友達の園崎魅音っていうのから、基礎を教わって……あとは自分で鍛えてマスター化だよ」

「そんな子どもがトラップマスターってあり得ないだろ!」

「ヴィータ、それは勉強不足だよ?」


恭文君はそれこそ非常識だと……教官職のヴィータちゃんに説教してきたよ!


「地理を知り尽くした地元の子どもは、鍛え抜かれた一個師団の空挺部隊に勝る。
なぜならゲリラ……局地戦に特化すれば、地理を知り尽くしていることは何よりの武器になるからだ。
昔地球で起きたベトナム戦争で、アメリカ軍がそれをやんなるくらいに叩き込まれたんだから」

「……単純にトラップが得意ってだけじゃないってことか」

「それもまた、蒼凪の持論である情報アドの一つか」

「まぁ、納得はいかねぇが……だが、まさかそのトラップマスターも部活に」

「古参メンバーの一人だよ。……僕も沙都子のトラップには散々やられた」

『………………』


……………………やっぱり、鬼の部活だったかぁ。その情報はもう絶望しかないよ。


「でもその、魅音って人はなんで……」

「その辺り、特殊な事情が絡んでいてね……」

「やっぱり特殊部隊の人とか!」

「ううん。……雛見沢はね、ダムになりかけたんだよ」


――恭文君の話をかいつまむと、こういうことらしい。


国の行政で、雛見沢村をダムにする計画が持ち上がった。

土地に愛着を持つ村民達は当然大激怒。国から提示された保証金とか、引っ越し先の斡旋なども蹴り飛ばし、反対運動を始めた。


その中心となったのが、村を仕切る豪族で御三家の一角と言われた園崎家。魅音ちゃんもそこの跡取りらしい。

いわゆる機関紙などを刷り、村人や関係各所に購入させ、資金を調達――。

その上で始まった工事の妨害やら、国への陳情やらで反対運動を続けていったらしい。


それが相当苛烈で……武力衝突も起こるような有様だったとか。

ここは園崎が、園崎組という極道……街の裏サイドを取り仕切る戦力を持っていたせいもあるとか。

で、そんな園崎組の有志と、魅音ちゃんは海外に出向き……軍事研修を受けたそうで。


……とはいえ、その研修は銃を持ってドンパチするのが主旨じゃない……むしろ真逆。

武力衝突とは言うけど、デモ活動で血気盛んになって、村人達を制御できずに暴走させた……そう言う方が正しいらしい。

だから園崎家は集団の制御……指揮能力の向上と、そうして怪我をした村民達の手当や救護技能を中心に教わったんだよ。


その中でトラップ技能も、必要なものとして教わり…………やっぱり、努力が斜め上な気がするけど、一旦置いておこう……!


と、とにかく、国への陳情やらなんやらもなんとか上手くいって、計画は凍結。雛見沢村は救われたってお話だった。


「――雛見沢村は目立った産業などもない、いわゆる衰退しつつある寒村でね。それは周辺の街≪興宮≫なども同じ。
そんな中で生きていくために、地域の人達の団結力が凄まじい地域でもあったんだ」

「それで、国の計画を撤回させたでありますか……!」

「凄い……ドラマみたい……!」

「まぁ万事奇麗に終わったわけじゃないけどね。
……村の団結を高めるため、土地神であるオヤシロ様……その祟りを持ちだしたから、みんなそれを怖がって園崎家に逆らえなくなったとか。
沙都子の親である北条夫妻が計画賛成派だったせいで、夫妻が亡くなった後も沙都子は村八分を受けたとか」

「いや、それはアウトでしょ!」

「ただそれも、かなり時間はかかったけど……少しずつ解消できてね。
今の雛見沢はそういうこともない、平和でのどかな村だよ。沙都子も元気だし」

「そっか。……でも、その結果がトラップマスター……!」


ティアナ、そこに回帰……するのは仕方ないんだけどさぁ! だってスタートがそこだもの!

……とはいえ、恭文君がゲリラ戦のこととかに触れたのも、いろいろ分かる気がする。


「しかし山に囲まれた寒村か……」

「あぁ。ゲリラ……局地戦で一番キツいとこだな。特にお前達陸戦屋は、トラップ関係にも注意しねぇと」

『はい!』

「とすると……あぁ、そうだよね。
恭文君、やっぱりテロ対策って、トラップ関係への注意も」

「絶対に必要だよ」

「だよねぇ……」


スバル達にも話したけど……テロってやっぱり、市街地や屋内での戦闘が多くなりがちなんだ。

公共施設へ立てこもるとか、銃乱射などが仕掛けられて……その犯人と戦闘とか。またはテロリストの潜伏施設へ突入とか。

そういうとき怖いのが、やっぱりトラップなの。だって向こうにとっては防衛戦で、多少なりとも地の利があるわけでしょ?


……だから、恭文君という”類を見ない都市型テロ経験者であり専門家”を呼ぶ必要があったわけで。


「現に沙都子はその絡みで、自衛隊の非正規部隊にスカウトされたし」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

「あくまでもトラップ講師として、だけどね?
ちょっとあって沙都子のトラップを検証したら、自衛隊の人達が諸手を挙げて歓迎してさぁ」

「すげぇな、おい!」

「うんうん! ……どうして自衛隊と関わったのかーっていうのは、一旦置いておくとして!」


話が纏まりかけたところにまたして投げ込まれた、沙都子ちゃんの凄さ……ついヴィータちゃんともども、何度も頷いちゃいます。


「トラップで手に職付けたっていうのもそうだけど……テロに限らず、現代での戦闘はやっぱり市街地や屋内重視だもの!
沙都子ちゃん、自衛隊どころか他のところからも引く手あまただよ!?」

「うちでも呼びてぇな、それ……! トラップの本質が洞察……心理的なものなら、魔法かどうかってのも余り関係ねぇし」

「心構えだけでも十分だよ! 魔法戦の比重が高い部分は、なのは達でフォローできるし!」

「た、隊長達が燃え上がっている……」

「言ってやるな。教官職もテロ問題には頭を悩ませていたようでな」

「納得しました……」

「くきゅー」

「うん、本当に凄いよね……なぎ君は」


…………そこで、この場にはいないはずの……早見沙織さんボイスが響く。


「そんな子が知り合いにいるなら、是非108でも講習してほしいくらいだもの」


あれれ、おかしいなぁ……うちの部隊には私こと田村ゆかりさんボイスや、水樹奈々さんボイス、植田佳奈さんボイスはいるけど……これは初耳だぞー。


「だけど、その前にお説教かな……」

「あ、え……えぇ!?」

「私のときも……ギンガさん二号を作ったときも、言ったんだけどなぁ。
ああいうのは駄目だって……通じていなかったんだね」

「…………恭文くん……もうちょっと、戦い方……考えようよぉ」

「まぁ、あれが持ち味だとは思うんだけどね……。楓さんも、半笑いで怖かったし」


しかも全く知らない声も二つ……というか、恭文君の背後に影が四つ。


「恭文さん……話があります。
……妻として! 話があります!」


それは、それは、それは、それは……!


「…………って、ギン姉!?」

「ギンガさん!」

「ギンガ……ナカジマ二士のお姉さんでありますか!」

「そうだよ! え、どうしたの! それにその二人は!」

「私から紹介……っていうのも変だし、ひとまずはこっち向いてほしいなぁ。なぎ君」


そう、陸士制服を着ている青髪ロングの女の子……ギンガ・ナカジマがそこにいた。

更にその脇には、ボブ・ソバージュの子と、リース的に髪を編み込んだ女の子。しかもこちらも、ギンガに負けず劣らずスタイルがいい!

三人並ぶとグラビアアイドルの集合写真みたい……やっぱりなのはは負けているし!


更に、銀髪ロングで、カチューシャを欠けた赤い瞳の子……すらっとした立ち姿はまさしくモデル!

ただ、そんな四人の迫力と笑顔に対して、恭文君は…………。


「あ、ギンガさん……というかふーちゃんと歌織も!? どうしたのよ!」

「「「……!?」」」

「というか瑠依……おのれはまず妻じゃない! 妻を名乗る不審者だから!」

「いいえ、妻です! 妻なんです!」


――第5話


『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』


『抑えられない叫び』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ただただ平然と振り返り、ぺかーっという擬音が似合いそうな笑顔で応対し始めた……!?

それは狂気……そして恐怖! 私達、揃って大混乱です!


「なんで平然と応対できてんだ! てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「ヤバい……ヤバいヤバいヤバい! コイツ、絶対頭がおかしい! あり得ないでしょうがぁ!」

「ティアナ、ヴィータちゃんも落ち着いて! え、まさか……あの、恭文君」

「なによ」

「まさかとは思うんだけど……」


それでも、それでも……分隊長として、六課に誘った一人として……みんなを落ち着かせながら、一つ聞いてみます。


「先ほどの行動で、ギンガやこの子達に恥じたり、申し訳なく思うような要素とか……ほら、気になることも聞こえたし」

「あるはずないでしょ」

≪私にもありませんよ?≫

「嘘でしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「な、なのは……というかシグナム! シグナムゥ!」

「………………」

「シグナム!?」


顔を背けたぁ! 何も答えず、シグナムさんが背を向けてきたぁ! どうしようもないんだ! もう諦めるしかないだ、この狂気!


「じゃあ、妻ってなに!?」

「だから妻じゃないの!」

「初めまして。妻の天動瑠依です」

「妻じゃない!」

「妻です!」


やめてぇ! 不毛な喧嘩祭りをしないでぇ! なのはのために争わないで−!


「なぎ君…………せめて感じるものは持って!? あれを見て、私がどう思うとか! 実際震えたもの! ギンガさん二号を思い出して!」

「そうだよ! というか、私の絵を描いたときも……!」

「あなたもアレ、やられたんですか!?」

「幼なじみですから!」

『うわぁ………………』

「……っと、みなさん初めまして!
私、恭文くんの幼なじみで、豊川風花と言います!」


すると青髪ソバージュの子が慌てて頭を下げてきて…………って、例の幼なじみさんだったの!?


「風花ちゃん……あ、なのはは聞いているよ! ということは、そちらの子も……」

「私は風花ちゃんより付き合いが短いんですけど……一応幼なじみの、桜守歌織です」

「やっぱりー! 初めましてー!」

「シグナムさんもお久しぶりです」

「二人とも元気そうで何よりだ。だが、今日はなぜ……それに妻を名乗る彼女も」


振り向いたシグナムさんは軽く聞きかけたけど、すぐに察して苦い顔をする。


「……聞くまでもないか。主や我々も強引に引っ張ったからな」

「……それです。シグナムさんはご存じでしょうけど、恭文くんのお父さん達も激怒していますし」

「激怒……!? え、でも……お仕事で! 恭文はテロの専門家で、六課に必要だって!」

「私達、高校三年生……えっと、ハイスクールの最終学年って言えばいいのかな。
大学受験とかもある大事な年なのに、それで一年……引っ張ろうとするのがあり得ないから」

「それはアウトかもぉ! ティアー!」

「私に言うんじゃないわよ! 結局引き受けたの、コイツなんだし!」


……あ、こっちを見ないで! なのはもその辺りは知っているけど……知っているんだけどさぁ!


「えっと、そこは……割と高額な報酬契約と、学校の単位関係も確保しつつって感じで纏めたよね……」

「あと週三・午前中だけの四時間勤務って条件だよ」


…………そのとき、フォワード陣に電流走る。というか、私も電流が走る。


「恭文君……まさか、その条件を……そりゃあそうかぁ! 障害者雇用枠だったよね!」

「じゃなきゃお父さん達が許可しないし」

「じゃあ……本当にあのまま?! 月給百万で、有休・危険・残業・休日手当もバッチリ!」

『月給百万!?』

「契約金……事前に払うのが六千万で、契約完了にもう六千万!」

『一億二千万ー!?』

「ざっつおーらーいと」


嘘でしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 多少割り増しする程度で纏まったかと思ったら……凄い予算食っているしぃ!

というか、事前契約金だけでも完全アウトだよ! 普通の嘱託がもらえる金額じゃないー!


「あ、それと月給は二百万、契約金は合計二億に上がったから」

「はいー!?」

「はやても事前契約金を渡した後、うちにきて本契約に挑んでねぇ……なんとか値切ろうとしていたよ……。
僕のキャリアにもなるし、今後の仕事にも繋がるから……それを押し通してさぁ」

「……らしいな。でも、あれだろ? てめぇの親がゴミ虫の如く罵倒しまくって、泣く泣く条件が上がって……」

「そもそもこっち幾らキャリアを積み重ねても、地球じゃあ役に立たないもの。
現になのはやはやて、ガラクタ執務官は、中卒の無職なわけで」

「「「「無職!?」」」」

「あ、うん……地球は管理外世界だしね」


その通りでまぁ、苦笑するしかなかった……。


「で、ハイスクールの卒業を迎える年に、異世界のテロ部隊に強引に引っ張ろうって言うんだから……半分迷惑料だよ、これ」

≪泣きながら契約書を作り、サインしていましたよねぇ≫

「うちでも泣いていたぞ、はやての奴……」

「自業自得だね」

≪だからここまでの訓練とかも、全部残業代や休日手当が発生しています。給与明細が楽しみですねぇ≫


その処理が大変そうな契約は置いてもらいたかったんだけどぉ!

あぁ、でも親御さんの方針だっけ! はやてちゃん、苦肉の策だったんだろうなぁ!


だけど……いや、この無茶な条件を出したときにも、恭文君が触れていたんだけど……。


(はやてちゃん……というかクロノ君達も、どうしてそこまでして……!?)


確かに経験的なことを言っても、恭文君は希少な存在だよ。”魔術協会”との繋がりもあるし、魔術使いでもあるし。

だけど特殊過ぎると言えば特殊過ぎるし、スバル達との連携も経験故に難しいところもある。

それなら、もっと実力も近くて……悪く言えば扱い易いフリーランスを選んでもいいはずなんだよ。


なのに、どうしてそこまでして恭文君を?

はやてちゃんは”話せないこともある”と言っていた……事件の予測に関する情報もあると。


それに絡んでってことなら…………スバル達の教導も、もうちょっと密度を濃くした方が良さそうだ。


「……あと、もうはやてさん達の依頼は絶対に受けないことが条件だったよね」

「それ」

「そこまでだったの……!?」

「そこまでです!」


風花ちゃんが怒りの声を上げて、つい……胸が震える。


「というか、あなたも地球の出身なら分かりますよね! 余りに非常識です!」

「風花ちゃん、落ち着いて……高町さんも事情がサッパリだったみたいだし」


…………凄い申し訳なさで一杯になった。

というか、風花ちゃん……本気で怒って、泣きそうになっているの。

それだけでよく分かる。恭文君のこと、すっごく大事で……心配しているって。


「というか、恭文くんもどうして……!」

「その前に、なぜ瑠依がいるのかをツッコみたいんだけど」

「当然です。というか……どうしてこっちにいるって教えてくれなかったんですか!
星見プロで牧野さん達から聞いて、本当にビックリして!」

「……後のコースは、分かるよね? そこからこう……ね? 私達も止められなかった」

「あ、うん」


なのはも察したよ! 押し切られたんだ! この勢いなら分かるかも! でもどういうこ……聞くまでもなかった!

そうだよ、すっ飛ばしていたよ! だって恭文君、ジンウェンなんだよ!? つまりそれは……!


「とにかくその辺りは言ったでしょうが。とりあえずは半年……」


そう言いながら恭文君が、指三本を立てる。


「その間に、これだけ稼ぎたいからね」

「……三百万?」

「ティアナ、二桁違う……三億だよ」

「さ……!」

「だってこっちの生活や事情ガン無視で招聘だよ? だったら……見込まれたスキルを徹底的に高く売り込むのは当然でしょ。
そこに加えての給与だから、それだけでも十分と言えるけど……これだけ派手なことをしている犯人だ。
裏に隠れている奴らも、相当な高額賞金がかけられると見ていい」

≪これくらいなら……せめて一億くらいなら出してくれそうでしょ? アイアンサイズだってあれだったんですし≫

「まさかアンタ、そのために……!?」


ティアナの慟哭に、恭文君は笑う……当然だと、そのための六課入りだと。


「おのれらは仲間などではなく、僕の賞金獲得を阻む競争相手ってわけだ」


なんの問題もないと……右手を軽く振るい、付いた木の欠片を払う。その上で恭文君は、また笑って……。


「僕は僕で勝手に動く。”これだけ”稼ぎたいし、おのれらと仲良しこよしで賞金パーにされても困るのよ」

「だったら、私達はなんのためにいるのよ……! アンタにとって私達ってなに!?」

「ティアナ、それは彼女が言う台詞……」

「恋愛要素抜きで答えなさい!」

「分かった。犯人を追い立てるための猟犬。で、捕まえるのは狩人足る僕のお仕事……OK?」

「最悪ね、アンタ!」


恭文君ははっきり言い切った。

仲間じゃないと……仲間として見るつもりもないと。


ただ利用し合うだけという言葉が、みんなの心を深く抉るのも……知っているのに。


≪猟犬が使えないと困るから、私達もある程度は手札をさらし、参考にしろって言っているんですよ。納得できますよね≫

「できるわけないでしょ!」

「なぎ君……現場でそれは絶対危ないし、みんなと協力し合う感じじゃ駄目かな」

「断る!」

「即答しないで……!」

「というか……お前、なんで三億もほしいんだよ。借金じゃないんだよな」

「だって三億あれば、質素にネオニート生活できるでしょ」


そのアッサリとした返しに、私達は全員ズッコけて……。


「なぎ君!?」

「今暮らしている家のリフォームもできるし、お父さんとお母さんに親孝行もできる。
ガンプラバトル選手権出場にも集中できるし、ふーちゃんと歌織のこともしっかり受け止められるもの」

「それなら、ほら……アイアンサイズの賞金! 去年それくらい賞金、もらったんだよね!」

「あ、そっちは全部使っちゃったから」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「一億をぉ!? なにしたの! なにを買ったのぉ!」


つい叫んでしまうけど、恭文君はにこにこ笑うだけだった……。

風花ちゃん達を見るけど、知らないと言わんばかりに必死に首振り……どういうことぉ!?

いや、待って。しかも二人を受け止めるって…………ハーレムか! やっぱりハーレム覚悟なのかこの子はぁ!


セブンイレブンにゾッとしていても、まずは二人だけはと……そういう覚悟なんだぁ!


「恭文くん、将来を考えてくれているのは……嬉しいよ!? でもネオニートはやめようよ! おじ様達も泣くから!」

「そうそう! それなら星見プロや765プロの方で……ね!? 誘われているんだから!」

「え、だから”ネオ”なんだけど」

「「それ勘違い!」」

≪……そもそも主旨を理解していなかったんですか≫


よかったー! ネオニートの定義を勘違いしていただけ…………いや、よくない! そもそもの大前提がおかしかった!


「…………そうだ、罰ゲームは今まで抱えていた秘密を大々的に暴露するとかどうだろう」


かと思っていたら、急に方向転換してきたよ……!


「例えば”偽物の英雄”になろうとしていたけど、慰め物にすらなれないガラクタでしたーとか」

「――――!」


しかも、フェイトちゃんにとっては傷を抉る言葉を……!

本当はもっとちゃんと話したい。それでも私達は仲間になれる……なっていけるって。その可能性まで否定しないでほしいって。

だけど…………はやてちゃんが、なぁ……! というか手段を選ばなすぎて、ちょっと問い詰めたくなったし!


「なぎ君……それは言い過ぎだよ。フェイトさんに謝って」

「配慮しているの。スリングショットで闊歩よりマシだろうと」

「配慮の仕方が完全に間違っているからね!?」

「それより歌織……楓さんってどういうことよ」


楓さん? その人もお知り合い……だよね! さっき話していたし!

と、ということは・・・・・・!


「あの、実は……楓さんも来ているの」

「は……!?」

「まずここへ来たのは、ギンガさんに私達が……無理に頼んだの」

「私もまぁ、そこから更に無理を押し込んだんです。……元々次元世界にも興味がありましたし」

「るいるい……」


あれ、なんか……天動さんの足下に、妙なナマモノが……天動さんそっくりだけど、ビクビクしているような……この子は何!


「それでギンガさんがお父さん……部隊長さんと一緒に挨拶へ向かうって聞いて」


あー、それでなんだ。というか定期的に連絡を取っているんだね。だから距離感も近いんだ。


「そうしたらハラオウン執務官が極めて電波で、一部始終を見た上で乗り込んだと……」

「ふぇ!?」

「さらっとフェイトさんに全責任をかぶせないで……!」

「で、楓さんは……まさか、はぐれたの!?」

「あ、それは大丈夫。実は」

「恭文くんー」


そこで白衣姿のシャマルさんが…………明るいブラウンの髪を、跳ね気味のボブカットにした女性と一緒に……!

し、しかもすっごく奇麗! 緑と青のオッドアイで、モデルさんみたい!


「シャマル、どうしたんだよ」

「ちょっと別行動だったからついていたのよ。……彼女、結構自由気ままに動く方らしくて」

「……そばに付いてなきゃヤバい感じなのかよ」

「シャマルさん、ありがとうございました」

「いえ、どういたしまして」

「…………どうして、こうなった?」


…………恭文君が凄い疑問そうにしている! え、この人が来るのは予想外にもほどがあるんだ!


「もう、そんなに心配そうにしないで? 今回はお地蔵様には触っていないから」

「そうじゃなくて、どうしてここにー!」

「ミッドには、美味しいお酒がよりどりミッドりって聞いて」


その瞬間、全てが凍り付いた。

大人っぽい風貌なのに……それと上手くマッチした童顔の笑顔によって……そこから放たれたダジャレによって、氷河期が訪れた。


「ぷ……ぷぷぷぷぷぷぷ……!」

「くきゅ!?」

「ランスター二等陸士……!?」

「あ、ティアは……うん……ちょっと弱いんだ」


意外な弱点を晒したティアナはさて置き……どうしよう、この空気。

というか、恭文君が心配した理由が分かった気がする。


この人…………多分とんでもなく自由だ!


「それに……進学のお祝いをしようと思ったら、この状況でしょ? 妻としては気になるわよ」

『また妻ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?』

「……恭文さん、どういうことですか……!」

「してないしてない! 結婚はしていない……というかまだできないのはおのれも知っているでしょ!」

「実質は同じよ。一緒にタンデムで旅をして……美味しいお酒やお風呂を堪能して、夜は…………もう、何を言わせるの?」

「言ったのは楓さんー!」

「……蒼凪、紹介してくれ……いや、まずはそこから……」


おぉ、シグナムさんはなんて剛胆な! なのはは正直触れたくなかったのに!


「…………高垣楓さん……地球の芸能事務所≪346プロ≫でモデルをやっている人です」

「こっちはモデルさん!?」

「初めまして、高垣楓です」

『は、初めまして……』


恭しくお辞儀をする楓さん…………でも、さっきのギャグが余りに衝撃的すぎて、その大人っぽい仕草に感動できない。


「でも、なんで……」

「ごめんなさい。ちょっと心配で……」


楓さんは恭文君をそのままぎゅーって…………ぎゅーって!


「んぐ!?」

「でも、相変わらずみたいでちょっと安心したかも。
……でも、恭文くんのセンスは前衛的だから……私だけにしてね?」

『えぇ………………!』

「……そう言えば、765プロのスカウトは」

「そ、そっちは星見プロのこともありますから。あくまでもそっち中心でお付き合いって感じですよ」

「そう。……だったら今のうちに、346プロでも誘っちゃおうかしら」

「楓さん!?」


ほ、本当に346プロの関係者なんだ……! なのはでも知っている、芸能業界最大手かつ歴史ある事務所なのに!

そこのタレントってだけである種のステータスだよ!? 自社番組や映画、ブランドもあるんだから!


「駄目です! それなら……あぁ……いえ……恭文さんは星見プロのジンウェンですから! これから私は一緒なので!」

「おのれバンプロダクションでしょうが!」

「……それなら移籍しました」

「は?」

「つい先日、優とすみれともども契約解除を申し渡されて……まだ正式発表はされていないんですけど」

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」


ごめん! なのはもつい声を上げちゃったよ! 瑠依ちゃんが……トリエルが移籍ぃ!? どういうことですか、それはぁ!

……って、駄目だ! 逐一ツッコんでいったら脱線ってレベルじゃない! 一つ一つ落ち着いて処理しなきゃ!


「……ねぇ恭文……その、765プロさん? そこでもなにか動画とか作るのかな」

「……最初はプロデューサーってことだったんだよ。
でも忍者のお仕事に動画配信者、学業とあるから無理だって断ったら……結果的にガンプラバトルの相手をしてほしいって頼まれて」

『ガンプラバトル?』

「それはなのはも聞いているよ。恭文君、結構優秀なんだよ?」


恭文君は楓さんのハグから抜け出しつつ、軽く手を振って訂正……。


「今から……六年前かな。プラスチックに反応して、浸透……それでプラモとかを動かせるプラフスキー粒子っていうのが発見されたんだ。
それを使って、ガンダムシリーズのプラモを動かし、アニメさながらのエフェクトで戦わせるホビースポーツが……ガンプラバトル」

「ガンダムって、あのロボットの!? 凄い……そんなことできるんだ!」

「地球ではガンプラバトルのお仕事……アイドルさんや芸能人がやるっていうの、少しずつ増えているの。
というかジンウェンもね、実はガンプラバトル絡みのお仕事……かなり長期的で大きいのを引き受けていて、去年も大きなイベントでバトルしたんだ」

「ガンプラ関ヶ原バトルですね。私達……えっと、私が所属するTRINITYAiLEっていうアイドルユニットも、ゲスト的にでたイベントなんですけど」

「いや、それでこっちに来ていいの!?」

「……よくはありません。長期的なスケジュールが組みづらくなっていますし、ジンウェンとしての活動も相応に差し障りがでています」


瑠依ちゃんもそこは見過ごせないと、厳しく告げると……ティアナが聞いたことを後悔するくらいに、強く口を閉ざしてしまって


「だがそれで、指導役……バトル関係のプロデューサーとして蒼凪を…………名誉なことだ」

「だよなぁ。お前の実力を認めていなきゃ、自社タレントの指導役なんか任せられねぇだろ」

「……それも、このまま管理局入りとかしたら台なしですけど」


歌織ちゃんが呟いたことは…………それは、本当に……当然のことだった。


「恭文くん、765プロの人達……あずささんや響ちゃん達も、すっごく心配してるの。
実際響ちゃんとか……今日は遠慮してもらったけど」

「飛び込みかねない感じ?」

「恭文くんがキッカケで、765プロ預かりになって……恩義もある社長さんとも一応和解できたのよね。気にしない方が無理よ」

「もちろん優とすみれもです。……というか、水くさいです。
私達も忙しかったとはいえ、なんの報告もなしだなんて……!」

「私達も同じです。去年だって……こっちの事件で、ヒドい怪我をしたばかりなのに……!
なのに高校最後の年に……一生に一度しかない大切な時間に、またテロ対策で引っ張るとか! 魔法が使えなくなる敵とドンパチとか!
あなた達は、本当にどうなっているんですか!?」

「風香ちゃん……」

「しかもそんな……まだ小学生くらいの小さな子達まで、フルタイムで訓練させているんですよね!」


怒りを爆発させた風花ちゃん。その矛先は……エリオ達に向けられて。


「いや、そこは……まぁいいけど……というか言う権利ないけど……!」


あれ、かと思いきや頭を抱えて打ち震え始めたんだけど! どうした!? 蹲っちゃったよ!?


「あの、自分達はちゃんと研修を受けて、望んでここにいるので……それにフェイト隊長も、リンディ提督も、蒼凪さんの能力を見込んで誘っているだけで」

「そうであります! 決して悪意などはありません! 自分達が保障するであります!」

「その年で、軍人みたいな言いぐさしかできないのは……なにも安心できないから!」

「「え……」」

「というかもしかして思い込みが激しいの!? それなら分かるかも! でももうちょっと融通効いてもいいと思う!」

「「どういうことでありますか!?」」


風花ちゃん、落ち着いて! さすがにそれは意味が分からない! エリオ達も混乱しているから!


「それに恭文くんだって……ここにいることで……あなた達に巻き込まれたせいで! 夢を遠回りしているの!」

「……夢……あぁいえ、それなら自分達にも……」

「いろいろ、お仕事のこともあるのに、こっちにいるから……ですよね。先ほどもそちらの天動さんが」

「なのに……戦い方を変えろだの、管理局に……自分達の派閥に加われだの、どうして言えるのよ!
あなたやあなたの母親が去年、傷ついた恭文くんや大事な仲間にどれだけヒドいことをしたのか……それすら自覚がないの!?」

「だから……待って。違うよ。
母さんのことは誤解もあって……私はそれを解きたいだけで」

「誤解なんてないじゃない! あなた達は人を人形程度にしか思っていないんでしょ!
だから恭文くんより弱いガラクタなのに……偽物にすらなれないのに、まだ偉そうな顔をして! 本当に最低――!」

「――!」


だって、それは当然の声だったから。恭文くんがどれだけ凄い魔導師で忍者さんでも、この子にとってはかけがえのない大切な幼なじみで。

実際、才能ある子どもを戦力登用するという部分は、問題もあるから。少年兵って側面もあるしね。


「風花ちゃん、だから駄目よ……恭文くんも相当条件を付けているわけだし」

「それでも、分かってないじゃない!」


だから…………うん、こっちの理屈を振り回しても意味がないよね。


「管理局の、魔法のお仕事が全部で、地球でやりたいことも……その生活も二の次にして構わない! そういう顔をし続けているじゃない、この人達は!」

「風花ちゃん……」


私にも覚えがある。お兄ちゃんとお姉ちゃん、お父さん達ともいっぱい話したから。

自分が生きていく世界を決めるのは……結局、自分だけなんだって。


「じゃあ僕はそういうことで」

『……ちょっと待って!?』


……って、なんで君はそこで逃げようとしているの!? 許されないよ!? この状況でそれは許されないよ!?


(第6話へ続く)




あとがき

恭文「というわけで、本編に組み込むと長いのでサクッと番外編にしたかった感想戦」

歌織「願望?」

恭文「ふーちゃんや歌織、楓さんがゲスト的に登場して……次回は重たい引きなどすっ飛ばす大暴れ!」

歌織「今回は明るくいく感じよね」

恭文「一応ね。…………で、今日僕達がどこにいるかというと……」


(…………東は西部で西東部ー)


恭文「池袋……洋食屋さんに、カキフライを食べに」

莉緒「というか、私のリクエストでね!」

歌織「時期だから、私も莉緒ちゃんに付き合って……でもお誕生日なのにいいの?」

莉緒「お祝いは夜からだし、その前にね。カキフライを食べないと、この時期は落ち着かなくてー」


(そう、今日は百瀬莉緒の誕生日です。おめでとうー!)


莉緒「ところで恭文くん、このお話……私はいつ登場するの?」

恭文「え、この段階だと知り合いでもなんでもないけど」

歌織「そうよね。この世界線だと……私と風花ちゃんのどちらかと、大人になっているのよね」

恭文「なんの話!?」

歌織「拍手であったじゃない。あ、拍手ありがとうございます」


(※>・恭文は高校に通いながら、魔導師兼忍者として活動。同級生で幼なじみの風花とも仲良くしている。

>・本編通り、やっぱりあっちこっちでフラグは立てている。

>・本編であった事件(フィアッセさんとの出会いやTOKYO WAR、まだまだあぶない刑事、ひぐらし、メルティランサー)は起きている感じ。

TOKYOWARってことは歌織とも会ってるのか
で、風香と歌織のどっちと初体験したの?)



恭文「そ、そういうのはあの……」

歌織「三人一緒、だったわよね。どっちからにするって……テントの中で」

恭文「それなんかの漫画ー!」

莉緒「ちょっと、なによそれー! 私の誕生日なのよ!? もっと私をフューチャーしてよー!」


(……作者は何も言えなかった。その辺りの設定、何も考えていないということを……。
本日のED:SING LIKE TALKING『Rise』)


歌織「……恭文くん、歌織を……幸せにしてください」

恭文「分かってる。カキフライが待ちきれないんだね」

歌織「うん……! カキフライってなんであんなに幸せなのかしら」

古鉄≪というわけで、次回は美城動乱編と言いながらこれなのには、理由があります。
……とまかのの準備があるので、ストックを出して時間を稼ぎたかったんです≫

莉緒「相変わらず凄いぶっちゃけね!」


(おしまい)





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あきゅろす。
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