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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第4.5話 『古き鉄はなぜ機動六課入りを決めたのか』


魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020

第4.5話 『古き鉄はなぜ機動六課入りを決めたのか』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七五年三月中旬――十九時半
ミッド首都クラナガン≪カラオケボックス パクチー≫個室。



あれからなのははあれよあれよとあの子を説得して、どうやってか空戦”AA+”ランクの試験を受けさせて……合格、させちゃったの!

それも極々普通に、及第点以上を取って! どうやったの!? どうやったの!? どうすればそんなことができるの!?


「合格おめでとうー! ささ、なのはの奢りだよ! なんでも食べていいよー!」


それでここはカラオケボックスなんだけど、ご飯が美味しいらしくて……パスタや唐揚げ、サラダ、ピザが大量に……なのは、本当に嬉しそうに。

やっぱり教導官から見ると、いろいろ違うのかな。というか……いきなり四.五ランクアップしたし……!


「まぁ、その……ありがとう………………でも、詐欺だからね!?
Aランクって言っていたのに、いつの間にか上がっているし!」

「だから連絡したよね! 電話したのに、当日まで出なかったよね!」

「だって、電話に出るのって緊張するし」

「今更人見知りキャラは通用しないよ!? ……まぁそれで問題はなかったけどさぁ。
噂に聞く兄弟子・姉弟子さんの訓練よりは緩かったんだよね」

「……接待されているかと思うくらいには」

「そっかー」

「ぶ!?」


危うくドリンクを吹き出しかけながら、テラスのテーブルに一旦コップを置いて……呼吸を整える。

え、待って……待って……接待!? AA+ランクを対象とした訓練が!? しかも強がりとかじゃないし!


「げほ、げほ、げほ……!」

「フェイトちゃん、大丈夫?」

「いや、だって……君……!」

「まぁそれを聞いてなのはは納得したよ。……こうなるよねぇって」


なのは、それは期待や希望があったってニュアンスじゃないよね!

やっぱりなんだ! やっぱり先日のアレを見て、どういう修行をしていたのか気になったんだ! それで納得したんだ!


「あとはやっぱり、ジープ! ジープに生身で追いかけられて立ち向かい、恐怖を克服する!
更に鉄のブーメランを四方八方から投げつけられたのをキャッチして、目隠しで一六〇キロ以上あるストレートボールをキャッチ! そして生身で滝を切る!」

≪ヘイハチ一門伝統の訓練ですね。これをせずして強くはなれません≫

「…………ウルトラマンレオかな?」

「先生はレオ本人から教わったって言っていた!
凄いね、先生! M78星雲の人達と知り合いなんだ!」

「…………そっかぁ。ヘイハチさん、なのはから見ても凄い人だったからなぁ……」


なのは、それでいいの!? いや、その……この子の瞳、すっごいキラキラして希望に満ちあふれているけど!

でも、それは明らかに嘘だよね! 私でも分かるよ!? ウルトラマンは創作物だって!

というか、創作物の訓練が伝統って…………その時点でまともじゃないよぉ!


「ちなみに、どうやってクリアを……」

「ジープは窓目がけて石を投げたけど」

≪二人が涙目で引きつりましたよね。なにせ開始数秒で窓が突き破られた上、この人も軽く外して舌打ちしましたから≫

「……………………そこは、タイヤじゃ駄目だったのかなー」

「運転手を潰すのが一番かと思って」

「………………うん……そう、なんだけどね……」


なのは、押し負けないで! というか怖いよこの子! 殺意が全開だよ! 躊躇いがなさすぎるよ!


「はやてちゃん……お願い、二週間くらいなのはに休みを頂戴」

「いやいや、もう部隊始動してまうからな? というかまだ処理が残っとるやろ」

「覚悟を、決めたいの……お兄ちゃん達にも相談して……」

「まぁそれはそうと……はい」


なのはも涙目で凍り付く寸前のところで、あの子は白い箱を渡してくる。

それをなのはが開けると、赤いものが詰まった瓶二つ……緩衝剤を敷き詰められた上で入っていた。


「これって……」

「≪ゆふいちごの恋ビネガー≫。大分県の湯布院で作っている、オリジナル新品種いちご≪ベリーツ≫を使ったビネガーだよ。
お酒や牛乳、ソーダで割ったり、ドレッシングやお酢代わりにも使える」

「え、由布院……確か旅行は山形って」

「その後顔なじみの付き添いで、別府と由布院にも行ったの。
……まぁ、試験には受かったし……受かった後なら、賄賂にもならないし」

「…………恭文君ー!」


なのはは箱を閉じて、丁寧にテーブルへ置いて……感動し切りであの子の頭を撫でてあげる。


「ありがと! 大事に食べさせてもらうね!」

「撫でるな! 子ども扱いするなー!」

「えー、だってなのはの方がお姉さんだしー!」

「僕の方が精神的に大人だぁ!」

「どうだろうねー」


……なのははすっかり、あの子と打ち解けたみたい。

でも…………数々の気になった経歴は、そのままで……いいのかなぁ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


はやてや……その、私にもお土産を渡してくれた上で…………私、お饅頭だったけど。

とにかく私達もご飯を食べつつ、改めて説明する。……機動六課という部隊について。


「設立のキッカケは、四年前……ミッド地上で起こり、アンタも巻き込まれた空港火災よ」

「よく覚えているよ。舞宙さんと春休みにぶらっと旅行をしたら、空港の中でいきなりドガンだ」

「アンタ、爆心地の近くやったそうやなぁ……。よく生きていたもんよ」

「人間はロストロギアが間近で爆発したくらいじゃ死なないって」

「…………アンタ基準でものを考えたらあかんって」


いやいや……というか、不謹慎だからね!? ロストロギアの被害で亡くなっている人もいるから。


「足下で核爆弾が爆発しても、被爆なしやったそうやし……いや、核分裂なしやったけど」

「「え!?」」

「ほら……三年くらい前に地球で起きた核爆発未遂事件、あったやろ」

「あぁ……なのは達がこっちで暮らすようになって、わりとすぐ起きた事件だよね」

「私もよく覚えてる。……確か、横浜で政府の……内閣情報調査室の過激派が核爆弾を持ち込んで…………って……!」


そこで、なのはともどもゾッとしてしまう。


「あの、まさか……」


そう言えばこの子、向こうでは第二種忍者としても活動しているって……!


「そうや。あの事件を横浜・港署の刑事さんと協力して解決したんが、恭文とアルトアイゼンよ」

「「えぇ!」」

「あれは振り返れば楽し………………おげぇ」

「思い出すな思い出すな!
分かっとる! 怖かったんよな! 核爆弾解体する羽目になったし!」

「「解体!?」」

≪えぇ、する羽目になったんですよ。二分で≫

「「二分で!?」」


え、その結果足下で爆発!? でも核爆発はなかった…………核分裂しないようにしたの!? いや、それでも二分って!

無理無理無理無理! 専門家でも十分以上ないと無理だよぉ!


「ち、ちなみになんだけど……核爆弾解体の実習とか」

「どこで受けられるんだよ、それ……! 爆弾解体すら専門家じゃなかったよ!」

「それでどうやって解体したの!?」

「ドライバーと木槌で、こう……とんとんって。とりあえず核分裂だけはしないように」

≪私のアドバイスですよ≫

「そんな馬鹿なぁ!」

「それでもやり通したんだよ! プリティー町田と二人でさぁ!
セクシー大下とダンディー鷹山は負傷して応援しかしてくれないしぃ!」


プリティー!? セクシーとダンディーってなにぃ!


「た、大変だったんだねぇ……」


なのはが思考放棄した!? 考えたくないって顔だ! 無理だって顔だぁ!


「それに六年前のTOKYO WARでも……特車二課第二小隊と関わって、柘植行人の逮捕にも協力した」

「TOKYO WARでも!?」

「それも、凄く大騒ぎになった事件だよね!」


まず……核爆発未遂事件は、地球の警備局と内閣情報調査室が共謀して、違法密輸されていた小型核爆弾を奪ったことから始まる。

韓国のブラックマーケットへ秘密裏に潜入して、爆弾をダッシュ……それを、横浜の大型スタジアムで爆発させようとした。

そうして唯一核爆弾が落とされた国≪日本≫に第三の核被害を刻み、平安法というテロや戦時対策の法律を通そうとしたの。


核爆発すら伴うテロ……その脅威に対抗する力が必要だと、民衆に知らしめるために。

もちろん許されないことじゃないし、地元警察の尽力で”テロリスト一味”は壊滅したって聞いていたんだけど……それを、この子が……!?


それにTOKYO WARも、東京全体が乗っ取られたに等しい都市型テロだよ!

どっちも地球の事件だけど、管理局内でも類を見ないから、データだけは取っていて……それじゃあ、この子は……。


「更に言えば六歳のとき、ガイアメモリ製造密売組織≪ミュージアム≫の壊滅にも尽力しとる」

「ガイア……あれ、それって確か」

「なのはも聞いているよ! 地球に刻まれた記憶……無限のデータベースから抽出したそれを、人体に封入することで生まれる怪人! 管理局内にも被害者がいたって!」


そうだそうだ。ロストロギアの類いが使われているかもって、局が長期的に調査して……母さんにも協力要請が届いたそうなの。まぁ当時はアースラの艦長で外回りだったから、それでなにかあるならってね。

ただ結局ミュージアムについては、現地組織や警察の手で壊滅して、それらしいこともなかったと……その辺りはレティ提督が管理局代表的に取りまとめたそうなんだけど……え、それが六歳当時って。


「でもどうして……六歳なら忍者じゃ」

「……僕、そのミュージアムの実験に攫われたんだよ。
で、当時組織が開発していた新型メモリの実験台にされて、それと適合した」


そこであの子が取り出すのは、魔法帽のエンブレムが描かれた蒼いUSBメモリ。


≪Wizard≫

「Wizard……魔法使い」

「その実験自体は、メモリに適合し、変身した僕が大暴れして、幹部クラスや手下も殲滅した上で潰したんだけど」

「え……!」

「恭文、六歳当時から古流武術の練習を積んでいたからなぁ。殺人前提の戦いへの心構えなら、うちらなんかよりしっかりしとったそうや」


つまり、六歳で……そんな……!


「まぁそこんところは話すと長くなるから九割方すっ飛ばすけど……実はそのときなんだ。ヘイハチさんと知り合ったのは」

「恭文に最初、武術の基礎を教えてくれた先生と知り合いやったんよな。
で、そこからレティさんやリーゼさん達とも繋がって、ガイアメモリの事件対処にいろいろ助けてもろうて」

「嘱託魔導師も、そのとき取り急ぎで取ったんだよ。
……最悪メモリ絡みで地球にいるのが危険でも、次元世界の方ならまだ安全だってさ」

「あぁ……でも結局はその辺りも問題なくて、忍者さんにもなってと」

「PSAの会長さん達にいろいろ助けられまくったからね」


いや、なのは……それで、流していいのかな。だって、六歳でそんな……!


「まずそこが、機動六課にとって欲しい理由の一つなんよ。
……実はガイアメモリの件、結構ヤバい要素が二つあったんよ」

「TOKYO WARとかの話に絡むところ、だよね」

「ミュージアムには武器商人を中心としたコミュニティ……財団Xって連中が絡んでおってな? まぁスポンサーなんやけど……そいつらの目玉商品として目を付けられとったんよ」

「それも戦場で超人兵士を生み出すって話じゃない。都市部で、一般人相手に、それを売るって話だ。
そもそも地球では、そういう兵器の売買による戦争経済ってのは破綻気味だしね」

「……需要はある……そう見込んでの話だよね」

「ミュージアムが本拠を置いていた地方都市≪風都≫では、十年以上にわたってガイアメモリ犯罪が横行している。
メモリを使えば警察はもちろん、様々なしがらみも払いのけられる……治外法権を手に入れるも同然だからね」

「そういう話かぁ……!」


あの、なのは、進めていいの? だってその前にあの、引っかかるところが。


「それでもう一つは……僕と一緒に攫われた人達は、みんな発達障害や境界知能、鬱……何らかの精神障害・疾患を患って、僕と同じ病院に通っている人達だった」


……でも、そんな疑問すら吹き飛ばす……とんでもない話が出てきた。


「ふぇ……!?」

「ガイアメモリはね、使用者によってその相性が変わるんだよ。同時にその相性がよければよいほど、カタログスペックにはない能力が発現する場合もある。更に鬱屈とした負の感情があると、力に飲まれて暴走もしやすかった。
……ミュージアムはそういう想定外なデータを欲しがっていたんだ。だから社会的弱者として追いやられやすく、またメモリの力を欲しやすい”顧客”の開拓も進めていた」

「それが……そういう、障害を持った人達……!? でもあの、それで力を引き出すって」

「前例もある。……市販用ガイアメモリのユーザー第一号だった男は、スパイダーメモリに適合した。
そいつはある女性に横恋慕していたんだけど、それが叶わないゆえの”暗い感情”をたぎらせた結果、クモ型爆弾を生み出し、相手に埋め込む能力を手に入れたのよ」

「ふぇ」

「埋め込まれた相手が”一番愛する人”に触れると、爆弾がキャリアからその人に移り、即座に爆発するの」

「ふぇ!?」

「糸を出して相手を縛るとか、超人的な能力で蜘蛛の記憶を体現していたけど……これはそれとは違う側面で現している。
……埋め込まれたが最後、二度と愛する人と触れ合えない。会うことすら躊躇われる。そういう”束縛”を噛ましているわけだ」


……言葉が出なかった。

恐怖で発狂もそうだけど、そんな危険なものが、あの世界に広まっていたなんて……それを広めようとしていた人達がいたなんて……!


「……そういう負の感情で新しい力が生まれるなら、社会的弱者に押しつけるという選択肢も……分からなくはないんだけどなぁ……!」

「だからミュージアムを潰した後、PSAは多種的精神障害支援部を設立したのよ。
その前から”目に見えにくい精神障害”への問題意識は強かったけど、これはいよいよ放置できないぞってことでね」

「その前からだったんだ」

「法律的な裁きや更正支援においても、裁く側や支える側が理解していなかったら、再犯に繋がりかねないもの」

「なら納得だ。というか、追加で納得?」

「う、うん……はやて、もしかして」

「うちというか……クロノ君達後見人や、本局上層部も予測しとるんよ。
AMFを単独で発動可能な機械兵器が、何らかのテロを仕掛けるかもってな。
……もしかすると、それをパフォーマンスとして売り出すーってコースも」


だからガイアメモリの話も少し掘り下げたんだ。この子自身もそういう事件の被害者でもあるから……いや、でも有り得るよ。

うん、それは十分有り得る。AMFへの危惧は数年前からあったけど、ガジェットはそのブレイクスルーみたいなものだし。欲しがる犯罪者は多いと思う。


「で、そういう前代未聞なテロについては、初期対応をミスるといろいろマズい」

「去年のヴェートル事件もそうだったしね……。
結局事態解決をGPOやEMPD(地元警察)に押しつける形にしちゃったし」

「後は、地球の地下鉄サリン事件……もっと言うとオウム真理教の事件も」


オウム真理教…………あ、これは歴史の授業で倣ったかも。


「えっと、昔いたカルト宗教が起こしたテロ事件……だったよね」

「そや。今から二十六年ほど前、長野県松本市にサリンがばら撒かれたものよ。
地下鉄サリン事件と坂本弁護士一家殺害事件と並ぶ、オウム三大事件の一つや」

「でも地球の……管理外世界の事件だよね。もしかしてTOKYO WARみたいに……」

「特殊な事例として記録されとる。……っと、こっちは第二種忍者さんの領域やったな」

「まぁね。……地下鉄サリン事件もそうだけど、戦争状態じゃない国で、化学兵器クラスの毒物を一般市民に使用された。
それは後の地下鉄サリン事件ともども世界的にも類を見ない事例で、同時にえん罪未遂と報道被害が発生した事件でもある」

「えん罪……あ、学校で勉強したよ。無関係だった人が犯人扱いされて、公的に貶められたって」

「マスコミと報道の馴れ合いなんかもあって……原理的に、どうやってもサリンなんて作れるはずがない一般市民を犯人扱いした。
もちろんそんな前例のないテロによる混乱もあっただろうけど……そういうのが”地下鉄サリン事件の事後調査”で分かったーってのは、大失態だよ」


なんか、すらすらと……! この子、本当に忍者で魔導師なんだ! 当然って様子だし!

でも、それは怖いかも……。事後の事件が起きなかったら……まぁ実際には起きたんだけど、それまで……社会全体がその誤報を前提に動いていて。


……事件に携わる人間としては、身が引き締まる思いだった。


「はやて、察するにアレでしょ? その場合の報道対応も今のうちからシミュレートしていて」

「本局広報部と連携してな」

「どこも同じかぁ」

「……松本サリン事件みたいなえん罪・誤報を出さないようにってことかな。
今のところガジェットは……制作ラインなんかも一切不明だし」

「そういう感じやな。……ただなぁ……この話はミッド中央にも通しているんやけど、さしたる対策を立てないようなんよ」


はやてが困り気味に頬杖……それで軽くため息を吐いてきたので、ついなのはと顔を見合わせる。


「……レジアス・ゲイズ中将だね」

「あの人、本局嫌いで有名だしね……母さんも困っていたし」

「武力面での対策については、例の防衛兵器≪アインヘリアル≫が竣工間近やから、まぁ分かるんよ。
ただ広報関係の対策もなしやと、万が一のときどうするのかーって辺りで……バチバチとな?」

「でもさすがに、ガジェットは物が物だし……一般市民を犯人扱いはないと思いたいけど」


そう言いかけたけど、さっきの話を鑑みると…………あ、でも待って。


「あの、それなら……」

「そや。六課のお仕事はもう一つ……ガジェット事件の推移を見守り、本局広報部の正しい情報精査の材料を作ること。
万が一地上本部が誤報を出しても修正できるように……まぁその逆もあるかもしれんけど、お互い気をつけていれば事故も少ない。
……特に今は、Sealing……質量兵器撲滅関係の調印式が間近やから、本局は相当ぴりぴりしとる」

「その直前に問題が起きれば、調印も上手く行かないかもって感じ?」

「今回の調印は、件のヴェートルなんかも参加予定やからな。
……恭文に来てほしいのも、都市型テロ専門家として、その辺りの事情も詳しいせいよ」

「専門家になった覚えもないんだけどねぇ。ただ僕の周りで馬鹿な奴らが馬鹿なことをしてくれているだけで」

「いや、その経験だけでも貴重だよ! テロという観点からの対策構築には、やっぱり実際を知っている人の声が大きいし!」


な、なのはが凄い勢いで……! というか、鼻息が荒い?


「蒼凪君も知っているよね! 地球もそうだし、次元世界でもテロ……都市や民間施設での陸戦全般が重要視されつつあるって!」

「その手の講習、何度か受けているしね」

「……なのは、そうなの?」

「フェイトちゃん……」

「いや、ミッドの方は分かっているの! ロストロギアの密輸とかもあるし、地上部隊の動きも……ヴェートルで起きた事件もそうだって!」


いや、確かに専門外のところはあるよ!? 私は本局勤務で、ロストロギアや違法研究摘発が専門だし!

でも、ね!? それでもテロの問題は認知するべきで……だから、呆れた顔はやめてー!


「だけど、地球の方もそうっていうのは……あの、そうじゃないか。
地球の事件を、本局がそこまでレアケース扱いしているというのは、知らなくて……」

「あー、そういうことか。……小学校で習ったよね。二〇世紀末から二一世紀初期は、テロ事件が多かったって」

「それは、覚えているよ。松本サリン事件もそうだし」

「地球のテロは、次元世界的にも注目する要素が多いんだよ。
恭文君が関わったTOKYO WARや核爆発未遂事件もそうだけど……」


私も中学までは地球の学校で、なのは達と一緒だったから。だから地球の大まかな歴史についても……うん、それは認知している。

でもそれだけじゃないと、なのはは軽く指を折って数えていく。


「横浜で起きた、ミサイルによる原爆爆破未遂事件とか……。
その二年後に、国際的テロ組織による巨大タンカー来週事件とか……」

「ちなみに……その事件を解決した二人の刑事が、恭文の言っとったダンディー鷹山とセクシー大下や」

「「えぇ!?」」

「本当だよ。あぶない刑事って昔のドラマ、あるでしょ? そのモデルにもなった二人なんだ」

「あのドラマの!? うわぁ……うわぁ……!」

「それ、私も再放送で見たけど……えぇ……」


かなりハチャメチャだよ? すぐ発砲するし、ジョークも多いし…………ああいうノリなの!? 実際も!? 警察官じゃないよそれぇ!


「それに特車二課第二小隊が巻き起こした、数々の伝説……」

「あ、そっか。えっと……HOSっていう新型OSによるレイバー暴走事件とか」

「シャフト・エンタープライズによる軍事産業……人身売買組織にも踏み込んだ、グリフォン事件とかもあるよね。
特にグリフォン事件だと、最終局面で隊舎へ襲撃がかけられたし」

「うん……あの戦闘映像、凄かった」

「おのれらも覚悟しておくんだね。TOKYO WARでも襲撃がかけられているから」

「「縁起でもない!」」


というかやめて!? まだ部隊は動いてすらいないのに……え、でも当然なの!? それは当然のコースなのかな!

だ、だけど大丈夫……そういうのにも備えて、ちゃんと防衛設備も備えているもの。


その辺りは私も頑張ろうと、ガッツポーズして納得するけど……。


「でも、そう考えると……確かに特殊な事例が……」

「そやからわりと貴重なんよ? そんなテロに対しての知識もあって、対抗もできるフリーランスって」


確かにそういう観点からなら、この子の経験は……管理局の中だけで云々だと、どうしても魔法絡みに終始するし。

でもそうじゃなくて、非魔法戦も絡んだものは……民間の人には、こういう頼り方もあるんだね。


「でもさぁ……レリックをただ爆弾に使うっていうのは、テロとしては杜撰というか……ガジェットを作る奴のやることと思えないよ」

≪むしろガジェットだけでOKでしょ。レリックなんて不要ですよ≫

「そこなんよなー! しかも……こう、レリックの存在意義というか、なんのために使うかもよう分からんのよ!
大体三百年前の代物やけど、エネルギー体というだけで……使い方も幅が広いしなぁ!」

「願いを叶えるとか、そういう固有能力もないんだよね」

「それも、本局の腰が重たかった原因や。
アンタ達が言う流れやし、そこまでの驚異かーってな」

「データ収集も兼ねていて、入念に準備中……そういう考え方もあるけど、それだと余計に”どうしてそれでレリックを”って疑問が消えないしね」

≪とはいえ放置も違うでしょうに……実際凄かったでしょ、あの火災は≫


それであの子のデバイス……アルトアイゼンが、ぬいぐるみの右手を挙げる。

あの子がマルゲリータをかじる中、次々と……あのときの報道情報を出してきて。


≪まぁ、だからこそ謎を紐解くための部隊設立ですよね≫

「そこにうちの夢が上手く組み合わさって、一年限定の独立愚連隊ができることになったんよ。
――後見人はクロノ・ハラオウン提督、リンディ・ハラオウン提督。それと聖王教会騎士のカリム・グラシア。
カリムについては、アンタも知り合いやったよな」

「姉弟子の妹分としてって感じだけどね」

「それにクロノ君も」

「ヴェートル事件後、シグナムさんと挨拶したからね」

「そうなの!?」

「気が重たかったよ。今と同じ」


は、はっきり言ってくれるし……でも、教会騎士のカリム・グラシアって人も協力してくれているんだよね。

聖王教会は古代ベルカの戦乱時代を終息させた、伝説の英雄≪聖王オリヴィエ≫……というか、その家を信仰している宗教組織。

独自の戦力≪教会騎士団≫を保有して、管理局と協力して聖王所以のロストロギアの捜索・保守管理が大きな仕事なの。


うん……古代ベルカの戦乱時代を勝ち抜いた家柄だから、その遺産もかなり危ないのが多いみたい。

ただ、安全性がキチンと確認されたものは、聖王教会の方で管理するって話になっているから……そこまで悪い関係じゃないかな。

基本的には普通の宗教組織で、同時に古代ベルカの戦乱時代にも通じている有識者って感じ。


実際聖王家に関わらず、古代ベルカ絡みの事件や異常が見受けられた場合、聖王教会にも相談するのが通説みたい。

だからはやてや八神家のみんなも、そこの人達とは出自ゆえに親しくて……でも、待って……!


「はやて」

「今言った通りの関係から、護衛の依頼を受けたそうよ。
確か、そのときやったか? 会議でアインへリアルやらの導入が決定したんは」

「ついでに派手なドンパチもあったね。……そうそう……そのときにもリンディ・ハラオウンがやらかしてくれたらしいよ」

「リンディさんが?」

「レジアス中将もいたんだけど、例の……ほら、本局・地上間の局員移籍に伴う賠償問題。
それを全て突っぱねて、レジアス中将はもちろん地上本部の関係者やスポンサーを激怒させたんだって」

「うわぁ……!」


え、待って……なにそれ! というか、局員移籍に賠償!? ちょっと待って……待ってほしくて挙手!


「あの、それはなにかな! というか、移籍で賠償っておかしいよ!」

「「………………フェイトちゃん…………!」」


え、どうしてなのはとはやては頭を抱えるの!? 恥ずかしそうに打ち震えるの!?


≪……可哀相に。ちょっと残念な人なんですね≫

「そこは後で教えるから、ちょお待ってな」

「う、うん………………」


………………でもそこで、電流が走る。

あれ、そう言えば……研修でその話を…………そうだ! 思い……だした!


「あの、思い出した! ようは予算がないと、行政サービスが滞るって話だよね!」

「「「…………」」」

「いや、知っていたよ!? ただ繋がらなかっただけ……なのはとはやても疑わないでー!」


……人一人くらいと思うだろうけど、違うんだよね。


局員一人育てるのに百万以上……高くて二千万近いコストがかかっているとされている。

単純な金額だけじゃなくて、現場になれるまでの時間も含めた……膨大なコストだ。

なお、人手不足は本局だって……特に優秀な魔導師は、各管理世界の治安維持や観測もあるという反論を、本局はしている。


でもその管理世界の認定・観測ペースも過剰過ぎるって批判があるんだ。

しかも判で押したような対応しかしないから、ヴェートルみたいな問題も発生している。

同じ時期に認定されたパーペチュアルは、その辺りを鑑みて……現地魔法や現地組織との宥和政策に入ったから。


……あれ、単に融和ってだけじゃないらしいんだ。シャーリーが教えてくれたけど。

ようは現地のことを知っており、現状に対応しうるスタッフを多く確保する”コストダウン方式”。

それくらい……現地の組織との共同活動も考えないと、地上本部はやっていけないみたいなんだ。


「このままだと本局も、ナポリスみたいになるかもねぇ」

「ナポリス?」

「あ、なのは知ってる。渋谷発信のワンコインピザ……あれ美味しかったなー」

「ピザ!? でも、ピザってほら……一枚二千円とか!」

「宅配ピザのことを言っているなら……あれは宅配に使うバイクの維持費やガソリン代も含んだ価格だから。
ナポリスは宅配なしのお店で、アルバイトでも楽々焼きたてピザを作れるマニュアルや特性窯を作ってね? 大流行したのよ」

「焼きたてのマルゲリータ、美味しかったよー。……でも、なにかあったの?」

「少し前に潰れた」


なのはが小首を傾げると、鋭い返答が……それで、なのはが……とても涙目になって……。


「え……!?」

「原因は他店舗展開のペースが早すぎたこと。
新しいお店を建てても、その運営ノウハウをそこの社員やスタッフが習熟する前に動かすから……接客・調理ともにボロボロ」

「え、待って待って……普通そういうチェーン店って、教育するよね!
コンビニとかでも、スーパーバイザーが監査して! クオリティを保てるように!」

「なのは、そうなの?」

「そうなの! ようは……お店をやりたい人に、運営するノウハウとかを大本が教えてあげるの。
で、そのお礼という形で、お店をやっている人達からロイヤリティーをもらう。これがフランチャイズの原則的な仕組みだよ。
もちろんただ教えるだけじゃなくて、上手くいくように大本もしっかりサポートする」

「ケンタッキーフライドチキンでカーネルさんが始めた方式だよ。
あれの場合はフライドチキンのレシピだ」

「し、知らなかった……」


……あれ、でも待って。

それで……ちゃんとサポートせず放り出しっぱなしって……怖くない!?


「ナポリスの親会社である遠藤商事は、教育研修もすっ飛ばし、会社から人を出して出店していたのよ。
で、三か月くらいでその人が新しい店に移って、後に残ったお店はボロボロになると」

「実地で慣れろとぉ!? それは無茶だよぉ! というか、どうしてそんなことに!」

「そ、そうだよ! ちゃんと上手くいくようにサポートするんだよね! それで……ロイヤリティーなんだよね!」

「社長が百店舗出店を目指して、ノーブレーキで突っ走ったんだよ」


え、それはさっきの……本局の話と合わせると……。


「その結果金融機関も手を引き始め、新規に決まったオーナーには窯の発注にかこつけて現金振り込み催促」

「それ、潰れる会社の黄金パターンやなぁ……」

「そ、そうなの……はやて」

「手持ち資金すら乏しい、いわゆる自転車操業の状態や。
で、そこから事態が悪くなると……給料未払い発生。これはもうアウトやな」

「お給料が払われないと、潰れたのと同じって聞こえるんだけど……」

「同じだよ。取引先への支払いは信用低下覚悟で待ってもらうって手もあるけど、そっちは法律違反だから。
同時に従業員のモチベーションも一気に低下して、人も離れる……つまり、店も運営できなくなる」


本当にアウトだったぁ! というか、というか、というか、というか……!


「その結果、遠藤商事は突き抜けたのよ……アクセルの向こう側へ」

「…………なのは、好きだったのに……今度戻ったら、食べたかったのに……」

「一応別会社が権利を買い取って、改めて手堅く運営し始めているよ」

「あ、それならまだ…………でも、本局と地上本部の流れにその話を当てはめると……本局は相当な悪者に」

「まず本局の人手不足となる原因……そこを正した上やないと、どうにもならんからなぁ」

「そ、そう言われると、激怒するのも仕方がないような……!」


もう、認めるしかなかった。だって、人を育てるのって相当時間がかかって……その人がまた別の人を育てるのも大変で。

それすらできず自転車操業とか、どうやって治安を守ればいいの!? 無理だよ! 私には思いつかないよぉ!

というか母さん……本当にやらかしたの!? そうなの!? そうなの!? さすがにどうなの!?


あ、でも、私も疑問に思わなかったし…………頭が…………痛がっている場合じゃない!


「はやて、それだと……あの……」

「分かっとるよ。ただ今回の件で、そこまで力を貸してくれる提督もそう多くなくてなぁ。
リンディさんもその件は猛省して、できる限り表に出んようにって決めとるから」

「そっか……」


よ、よかった……猛省しているんだ。そうだよね、母さんだもの。


「それにまぁ、リンディさんの失言はカリムにも責任があってなぁ」

「騎士カリムに?」

「あー、それは今なら分かるわ。……カリムさんは独立性の高い……GPOみたいな半民間のサポート組織を設立してはどうかって提案したのよ」


……そこで思い出したのは、ファーン先生が行っていたPMCの話だった。


「……それで、局の手が届かないところを補う? 地球でもPMCっていうのがあるんだよね」

「それよ。カリムはまず聖王教会にそういう部署を作り、何とかしてみては……って提案してくれた。
ただ、それは当時計画段階やった機動六課の想定するものとどんがぶりでなぁ。
計画そのものがレジアス中将のお気に召すものとは思えんし、撤回させたかったそうや」

「……事前に打ち合わせ、しておこうよぉ……」

「そうだよ! 誰も得していないよ!?」

「いやいや、レジアス中将は得をしているでしょ。おかげでアインヘリアルも堂々建設だ」


ごめん、ちょっと黙っていて!? それは分かるんだけど、君はアッサリしすぎなの! ちょっとイラってするの!


「でもそのアインへリアルが仕上がる前後で……おのれらは首輪の鈴という生けにえにされたわけかぁ」

「生けにえ!?」

「だって高町教導官やハラオウン執務官も出向扱いで、他も新人が中心……悪く言えば政治的事情に絡まないような人ばっかりなんでしょ?
で、そこにレアスキル持ちと言えど、実績もない小娘が部隊長に据え置かれて、一年限定の実験部隊ときたもんだ。
これはもう……万が一ミスろうものなら、全部新人達の至らなさってことにして、切り捨てますーって叫んでいるようなものでしょ」

≪レジアス中将のお目こぼしも、それでなんとかいただこうて感じですよね。あけすけすぎて逆に笑えます≫

「は、はやて……!」

「そういう意図もないって言ったら嘘になるやろうな。
ただまぁ、それはお互い様よ」


はやてはジェノベーゼをひょいっと奪い、一口でほおばる。


「ん…………それを利用して、うちも強引に夢への最短ルートを突っ走ったし?」

「僕のジェノベーゼがー!」

「それに……生けにえやろうと、鈴を付ける必要もあったんよ。
アンタも知っている通り、中心世界であるミッドチルダはロストロギアのみならず、様々な物流の中継地としても機能しとる。
そんなミッドの地上部隊と連携を取りつつ、対策を整える下地作りが必要や」

「ガジェット対策の必要性……ガジェットがテロ手段として使われた場合の危険を訴える”広報部隊”でもあると。
……レジアス中将としては面白くないだろうね」

≪とはいえ、受け入れないのも愚策。ミッド地上の法を司る番人としては、未進展の広域事件に理解を示す必要もあるでしょう。
それが本局だけで叫んでいるのならともかく、各地上部隊も同じ危惧を持っていたなら……≫

「捜査活動を通じて草の根運動とは、また大変だ」


…………話がまた戻ったけど……なんというか、感心させられてばかりだった。


ただ戦うだけじゃない……社会情勢や、政治的なやり取りについても理解がある。

あの荒っぽい戦い方が、本当に……ただの手抜きに思えるほど、この子はしっかり洞察していて。


「その草の根運動部隊長にうちが収まって、なのはちゃんとフェイトちゃんが分隊長。シグナム達は副隊長や医務官としてフォロー。
主戦力はフォワードの陸戦魔導師四人や。みんな資質はあるけど、命がけの実戦経験はほとんどない。
それをなのはちゃんの直接教導で鍛えつつ対応予定や」

≪ちょっと待ってください。それだけのメンバーが入ったら、部隊の保有戦力制限に……ミッド地上は特に厳しいでしょ≫

「そやから能力リミッターがかけられる。二つ三つってところかな」

≪だからそのリミッターに関係しない新人や、魔法戦・非魔法戦も経験豊富な……使い勝手のいいフリーランスが欲しかったと≫

「アンタ達にはその子達の直接的なお守り……というか、できるだけ一緒に行動して、エースやオーバーS級が出たら率先して相手してほしいんよ。
……でもそのお守り役の魔導師ランクが当人達より下とか、話にならんやろ」

「それを僕に黙ったまま、試験を受けさせようとしたことがまず気に食わないねぇ」


あの子はジェノベーゼを食べて、次にナポリタンをさくっと食べきり……。


「というか、おのれも知っているでしょ。………………ずずずずずずずずずずー」


……アイスティーを啜りながら睨むの、やめない? あの……音で雰囲気が、台なしです……!


「僕はガンプラバトル選手権にも出たいのよ。
そんな一年限定の部隊に常駐していたら、僕の夢と約束はどうなるのよ」

「え……蒼凪君、ガンプラバトル……やるよね! ジンウェンだもん!」

「元々アニメも好きだから」

「なのはもやるの! ヴァーチェとかSガンダム、バスターで砲撃!
え、蒼凪君は……ほら、ジンウェンとしてーじゃなくて、素の状態で!」

「僕は……エクシアやアストレイ、レギンレイズで接近戦とか。射撃戦も好きだけど」

「わぁ、ポジションも噛み合いそう! いいないいなー! なのはも地球暮らしに戻りたいかもー!」


えっと……よし、ここは勇気を出そう。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥って言うしね。

なので、挙手して……。


「あの、ガンプラバトルって何かな」

≪「「「は……!?」」」≫

「え、あの……知っていなきゃ、おかしいこと?」

「……フェイトちゃん、後で説明するから……お薬飲もうな」

「はやて!?」

≪やっぱりそういう人なんですね。可哀相に……≫


お薬って何!? 精神的なニュアンスだよね、それ!


「……もう帰りたい」


というかというか……ああああ! 蒼凪君がまた私から遠ざかろうとする!

椅子ごと押しのけて……その椅子は固定式なのに! 壁に備え付けなのに! それでも逃げようとしてぇ!


「でも約束って……」

「黎明期に知り合って……ちょっと連絡の取れない友達がいてね。
大きな大会があったらバトルしようって約束しているだけだよ」

「……そっかぁ」

「それも分かっとる。アンタ、常々言うてたもんな。
将来的には地球で腰を落ち着けるって……忍者資格もそのためのもんやし」

「分かってくれているならいいよ。じゃあそういうことで」

「でもな、ごめん……一年だけ、うちらのわがままに付き合ってくれんかな」


それでもはやては……引き留めるように、真剣に声を上げる。


「一応今回の事件、分からないなりに戦局予報ってのも立てていてな? 下手をすれば去年と同レベル……それ以上の混乱も予想されるんよ。
現にミッドにも、ガジェットの目撃情報が出始めとる」

「……出現頻度も上がって、出てくる地域も限定されつつある?」

「そうやな。ミッドでの目撃情報が立て続けになって以来、他の世界でのそういう気配はぱたりと途絶えた。
もしかするとレリックについても、こっちに集中しているのかも。
……誰が何の目的で、何をやろうとしているかはさっぱり分からん。でも、うちらはそれを止めんといけんのよ」

「ただそれ以上に問題なのが……去年君が戦ったアイアンサイズみたいな、魔導殺しが出てくる場合。
はやてちゃんがさっきエース級とかに触れたけど、それより危惧しているんだよ。
その場合純魔法戦に特化した私達だと、どうしても対応が遅れる。咄嗟に出されたら特にね」

≪そりゃあ私達かGPOメンバーくらいしか対応できませんよねぇ。件のニューフェイス達なんかは特に無理でしょ≫


そう……それも問題だった。

現にアイアンサイズは現地の地上部隊やオーバーS級も対応できなかったし、ガジェットの性質が性質だもの。

相手が魔法を……魔導師殺しをぶつけてくる可能性も考えられる。アインへリアルだって、そのための制圧武装らしいし。


≪でも魔法アンチの装備もあるでしょ。ストライクカノンとか、パイルスマッシャーとか……あなた達が入局したての頃から携わっていた装備が≫

「それがなぁ……AMC(Anti Magic Counter)やフォーミュラ装備の使用許諾は、今のところ難しそうなんよ。その理由、アンタらなら察せるやろ」

「……Sealingの件もあるしね」

≪実験部隊としての権限では無理なんですか。持つだけ持って、いざというときというのは≫

「機動六課の立ち位置はあなた達も察している通りだけど、それゆえにレジアス中将や地上部隊への配慮には細心の注意が必要……そう判断されてね」

「市街地戦に向けた小型タイプがあればいいんだけど……まだまだ研究中だからなぁ。
威力調整も含めて、教導隊でも難航しているところなの」


……実は、ガジェット自体はそこまで驚異的な存在じゃない。

いわゆる大型車両や船舶を対象とした、鎮圧兵器というのもあってね? 出力次第で対人にも仕える装備なんだ。

特にガジェットは機械兵器だし、そういう装備での鎮圧も十分視野に入る。


でも、今言ったような背景で……レジアス中将は本局としても扱いの難しい人物だから、配慮しないわけにはいかなかったんだ。

それに、管理局が原則としている魔法による治安維持……周辺被害への配慮の点をツツかれると、どうしてもね。


「だから私のレイジングハートとフェイトちゃんのバルディッシュも、AMCシステムは一時取り外すのが条件みたいになっているんだ」

「フォーミュラは。あっちなら威力関係もなんとかなるでしょ」

「身体能力との兼ね合いが取れれば問題ないけど、ナノマシンが必要だよね。
……蒼凪君なら知っているだろうけど、中央本部は大分前に……戦闘機人や人造魔導師の戦力登用を検討していたことがあった」

「人権問題に引っかかりまくりで、結局大ブーイングのまま却下されたアレだね。
で、それを本局も否定した手前、改造人間みたいなノリのことはできないと」

≪でも待ってください。レジアス中将は最高評議会の覚えもめでたく、後輩に重要ポジションが多いのも分かります。
それゆえに扱いが難しいのも……だけど、そこまで配慮するほどなんですか?≫

「そこまでなんだ。アインヘリアルや局員の移籍金問題……それで各世界の中央本部からも指示を受けているから。
ここ二年で……ヴェートル事件で動けなかった人達の不平不満も受け止めたことで、ミッド地上の勢力や権限は相当に肥大化しているの」


なのはの言葉には、私とはやても首肯。あの子達もそこまでと思っていなかったようで、顔を見合わせる。


……それはクロノ達にも重々注意するようにって言われたこと。

もはや”扱いが難しい”なんてレベルじゃないんだ。触れればいつ暴発するかも分からない爆弾……それも本局を侵略するような勢い。

それくらい、今のレジアス中将は……本局にとって要注意人物になっている。現場レベルでの政治対応も必要なほどに。


……同じ組織同士、分かり合えたらと思うのに……やっぱり、難しいことの方が多いみたい。


「……とはいえ、一介の嘱託魔導師には関係のない話やけど」

「……ということは、はやて」

「アルトアイゼンも積んでいるよ、AMC装備は。AMF内やろうと魔力は使える。
……そやから、どうしてもアンタの力が借りたい。
魔導師としてのスキルアップにもなるし、今後に役立つ濃い経験は積めると思う」

「だから嫌だって…………ずずずずずずずずずずー」

「……アイスティー、お代わりいるか? 奢るけど」

「………………」


はやて、駄目だよ! それで了承って流れだよね!

そこも分かっていると言わんばかりに、また身を引いてきたよ! 椅子ごと……ずりずりってぇ!


「さっきも言ったでしょ。しばらくの間は、お父さんとお母さんに親孝行したいのよ。
最近二人揃って、この大馬鹿者ーってのが口癖になったのよ? トオル課長じゃあるまいしさぁ」

「もちろんご両親にも、うちから謝り倒す。特にお母さんにはきっちりと」

「学校もあるんだって……先生から泣きつかれたもの。無事に卒業できるよう粉骨砕身の決意で支援するって」


いや、それ先生が言うことじゃないと思うなぁ! 奉仕の心だよ!? そういう側の人が言うことだよ!?



「それも、単位が取れるよう調整しておくから。海外留学って体ならアリやろ」

「星見プロのお仕事だってあるし。もうすぐうたう方のオリジナル曲にも取りかかれそうなのに、僕が年単位で出張は困る」

「配信についても、やることは止めんから! そこはリモート設備もめっちゃ整えるから!」

「ふーちゃんと歌織にも去年立て続けに長期旅行した関係で、心配かけまくっているし」

「二人にもうちから謝り倒すよ……そ、そう言えば成長著しいオパーイは」


……そこで、気になる様子が出てきたので……軽くせき払い。


「……八神部隊長?」

「なんで釘指してくるんよぉ! ガンプラバトルも知らん情弱がぁ!」

「情弱!?」


ちょ、私が悪いの!? 今の完全にまた……揉み魔を頑張るって勢いだったのに! 止めた私が悪いのかなぁ!


「……ふーちゃん?」

「恭文の幼なじみよ。歌織ちゃんもTOKYO WARのとき、お世話になった自衛官の娘さんでなぁ。
これがもう揃って美人でスタイルもよくて、その上恭文大好きで」

「……そんな子達から、恭文君を引きはがそうとしている諸悪の根源なんだね。はやてちゃんは」

「く、やぶ蛇やったか……!」

「というかね、僕はアイドルプロデューサーにならないかって誘われているのよ。最近売り出し中の765プロって事務所で」


へぇ、アイドルプロデューサー………………プロデューサー!? え、この子が!? 魔導師なのに!?


「あらま、そうなん?」

≪ヴェートル事件が終わって静養中に、一時的に雇われましてねぇ。随分と気に入られたんですよ。
そこの事務所も小規模で人が足りないから……ノンビリしつつ、非常勤で手伝おうかと思っていたんです≫

「ハーレム拡大して事務所が潰れるだけやから、それはやめてえぇな」

「横暴を当然にするなぁ!」

≪否定はできないでしょ。現にあずささんと響さん、雪歩さん、千早さんとは……風花さんもプレッシャーを感じて≫

「駄目駄目! アイドルは恋愛禁止でしょ! みんなだってようやく夢が軌道に乗りだしたんだから!」

≪琴乃さん、芽衣さん、遙子さん、渚さん、瑠依さん、優さん≫

「渚を数に入れるな!」

「…………」


あれ、なのはがスマホを取り出してポチポチ……どうしたんだろうと思っていると。


「…………私より、大きい」


小さく吐息が漏れた。なんだろう、大きいって……何を調べたんだろう。というか、横顔がちょっと怖い……!


≪あぁ、風花さんはもっと大きいですよ。歌織さんも負けていません≫

「………………へぇ………………………………」

「な、なのは……あの、どうしたのかなぁ」

「ナンデモナイヨ」

「ひぃ!?」

「…………こっちに常駐なんて、ガンプラバトルもできないでしょ」


ちょ、話を進めないでぇ! なのはが怖い! すっごく怖い! 十年付き合いがあって、初めて……殺意を向けられたよぉ!


「つーか休日に呼び出しが入るかもしれないから、隊舎から余り離れるなとか言うんでしょ」

「そやな……地球にほいほい帰られるのは困るわ」

「今年の六月終盤には、去年できた友達と遊ぶ約束があるんだよ。
みんなの地元でお祭りだよ。そのお祭りの運営も手伝うんだよ。
765プロのアイドルも呼んで、それはもうどんちゃん騒ぎだよ」

「それも、状況次第になるわ。多分それくらいやと、フォワードの戦力もまだまだ調ってないやろうし」

「じゃあ週休三日・四時間勤務。事前契約金は一億。依頼達成の場合はもう一億プッシュ」

「「一億ぅ!?」」


ちょ、待って。事前契約も含めて…………二億ぅ!? 嘱託に払う額じゃないよぉ!


「あ、月々の給料は五百万円でお願いね。もちろん有休あり」

「パートかぁ! つーかそんな半分ニートな条件で!」

「そ、そうだよ! そんなの無茶苦茶だよ!」

「アイドルプロデューサーって、それくらいもらえるらしいんだよねー」


…………そこで、不満そうだったはやてに……私達に電流が走る。


「え…………マジか……!?」

「成果があればこそ、だけどさぁ。
というかほら、どっちにしろ僕、発達障害の絡みで連日フルタイム勤務は厳しいし」

「障害者雇用に入るんやったぁ!」


え、発達障害……そうだったね! あの、うん、見たよ! ASDとADHDの合併症だって! そのせいで忍者活動にも制限がかかっているって!

でもだからって一億要求はどうなんだろう! いや、お金は大事かもだけど……法外が過ぎて!


「ねぇはやて? おのれは、僕をテロの専門家として……希少な知識や経験保有者と認めた上で、雇うんだよね」

「それは……うん」

「だったら、それに見合う報酬を出すべきじゃないかなぁ。この……空戦AA+魔導師である僕達にさぁ」

「早速取ったばかりの資格を盾にしてきおって……! しかも推薦したなのはちゃんの前で!」

「いや、なんか……うん、やるんじゃないかなーとは思ってた」

「何より……分署襲撃犯や圧力で邪魔してくれた馬鹿提督とかを、上役として崇めろと? そりゃあ無理ってもんでしょ」


…………洗脳されていたから……そんな言い訳は許さないと、あの子は私に嫌みをぶつける。

ううん、それは当然のことだ。私がやったことは、本来なら絶対許されないことで……局員を辞めて当然のことで。

でも、洗脳の事実があるから……それが余りに凶悪なやり方だったからと、今回はお咎めなしになって。


だったら……だったらと言いかけてはよどみ、どうするべきか迷っていると。


「それでも、一年……うちらに預けてほしい。
報酬も……さすがにその額は払えんけど、相場相応には支払う。
キツい場面も多くなるし、パート勤務も無理やけど、その分濃い経験も積めるし、今後の役に立つ……それは保障するから」

「払え」

「あの、待って。こういうのは、やっぱりお金の問題じゃないと思うんだ。
君も管理局の中から組織を見て……見直せる部分も多いだろうし、後見人ということならまた母さんと話して、和解することだって」

「払え」


聞くつもり、なし……!?


「契約書もしたためてもらうよ? もちろんね……はい、どうぞ」


……って、正式な書式で何か作ってきてるぅ! ま、マズい……これで書いたら、どうしようもない!


「恭文、お願いや。ここは……」

「あのねぇ、はやて……おのれはうちの両親やふーちゃんから相当嫌われているんだよ?
そのおのれの依頼をまた受けることで、みんなの心証も損ねるの」

「それも、うちがちゃんと説明する……! 学校の卒業もできるよう、レティ提督とも相談して調整する! そやから」

「無駄だと思うよ? 今回の研修におのれやその友達(高町なのは)が絡んでいると知って、激怒していたんだから。
……長期療養で単位もギリギリな高校生相手に、貴重な出席日数を奪った極悪人ってさぁ」

「でも、アンタの力が必要なんよ!」

「だったら相応の報酬が払えるはずだけどなぁ!」


か、完全に恫喝……というか、こちらの弱みにつけ込んで金を吐き出させようとしている!

というか待って。はやてが……嫌われている? それってどうして。


「話にならないね。僕はもう帰るよ」

「ちょお待ってよ!」

「デカく儲けるために、デカく使う……将来的な得すら見極められない部隊長なら、身を預けられないわ」

「そやから、その分経験は得られる! 今後の嘱託活動にも、絶対弾みが付く! 約束する!」

「二億……週休三日で四時間勤務。月給五百万〜♪」

「あの、だから駄目だよ。そこは私も約束する……ここは」

「ジンウェンの活動だけでもそれだけ稼げるし」


でもその瞬間、私は凍り付いた……。


「え……?」

「いや、だから……配信業で利益も出ているの。さすがに五百万はふっかけすぎたけど」

「そうなの!?」

「……百万単位の再生動画があるからだよね。あの、地獄シリーズ」

「それ」

「なのはー!」

「フェイトちゃん」


なのはが私を制して、軽く首振り……無駄って、ことなの? なにが地獄で五百万なのかを知りたいだけなのに。


「そもそもさぁ、その経験だって……ガジェットのバックが一年間収集をお休みしたら、無意味だよねぇ」

「――!」

「一年限定の部隊……それが実戦で、主目的であるレリック事件で成果を出せなければとんだ無駄金だ。
捜査関係で詰められる可能性も、今のところはない。だって現状ほとんど進んでいないんだから」

「それやったら、アンタを入れても無意味やろ……!」

「うん、だから交渉決裂だよ?」

「ぐ……!」

「どうしたのよ……もしかして、なにかあるのかな? 事件が必ず進展するという確証が」


はやては痛いところを突かれたと言わんばかりに呻り、反論できずにただ厳しい視線を送るばかりだった。

その緊張感に耐えられず、オロオロしていると……。


「恭文……そんな予算は、さすがに出せんのよ。
でもアンタが言う通り、捜査関係で幾つかの点は見えてる。
それを追いかけるためにも、アンタの力が絶対必要なんや。
そやから、ここは……譲ってほしい。お願いや」

「そもそもおのれは僕に貸しがたっぷりあったはずだよね。それも返さないうちからっていうのはおかしくない?」

「…………その話は、また後で」

「その素敵なオパーイを触らせると約束した直後、シベリア同然な雪山に置き去りとか……してくれたよね」

≪されましたねぇ。私のログにもありますよ≫

「後でと言うたんにー!」

「「オパーイ!?」」


かと思っていたら、凄い話が出てきたよ! え、待って待って!

どういう状況でそんなことを約束……雪山だったよね! でもシベリア同然って、どこの世界!?


「その貸しも含めて、触らせるどころか直接堪能させてくれると言って、クーデター寸前の王宮に忍び込ませて……結果置き去りにしてくれたよね」

「「直接堪能!?」」

「更に更に……なんだっけ。えっと……もうエッチしていいって話だったのに、それでもまた」

「「エッチィ!?」」


…………ちょっとー! それは、友達として……女の子として聞き逃せないあれこれがぁ!

思わずなのはと厳しい視線を向けるけど……あ、顔を背けた! というか逃げる姿勢だ! 頭がフラフラしているもの!


「はやてちゃん、どういうこと!? 年頃の女性として……いや、局員としてもアウトだよ!」

「いや、なんか……ピンチで……シティハンターで見たシチュそっくりやなーって思うて。
それやったらこういうのアリかなぁって、ノリで……でも事態が解決したら、なんか違うなーって思って……さよならーって……」

「最低じゃないかなぁ!
……ほらほら、見てよ! いたいけな男心を弄ばれて、完全にお怒りだよ!
今度はどこに置き去りにされるのかって怯えてすらいるよ!」

「そうだよ。お前のオパーイが泣いているよ」

「あなたもそんな決めぜりふみたいに言わなくていいから! というか、というかね……それは、セクハラ!」

「なんで?」


………………首を、全力で傾げてきた……!?


「先生が言っていた。素敵なオパーイには、健全な魂の輝きが現れていると……」

「「伝説のマスターからの受け売りぃ!?」」

≪あの人、無類の女好きですからねぇ。多少影響を受けているんですよ≫

「だからお前とリンディ・ハラオウンのオパーイも泣いているよ。
それだけフワフワで大きくて奇麗なのに……オパーイに恥ずかしくないのか!」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「セクハラしながら、当然のように説教してきたよ……!」

「いや、でもヘイハチ先生は正しい! うちもそう思うで!」

「はやてちゃんもオパーイを泣かせている側だからね!? 同意しても説得力皆無だからね!?」


セクハラされた……というか、ちょっとは気にしているのに! この大きい胸……人目も引くし、肩も凝るしぃ!

いや、奇麗って言ってくれたのは嬉しいんだけど、でも違う……何か、私が求めているものと違う!


「……でもそうか……僕は間違っていたのかもしれない。
否定する前に、まずオパーイの涙に目を向けさせるべきだったんだ。
ハラオウン執務官、ごめんなさい。リンディ・ハラオウンとも上手くやれるよう話します」

「だ、だから違うよぉ! そういうのじゃなくて、もっとこう……普通に仲良くなっていく感じで」

「……は?」

「疑問を持たないでぇ! …………なのはぁ!」

「よしよし……フェイトちゃんは悪くないよー。全て時代が悪いんだよー」

「受け止め方が雑すぎるよぉ!」


それでもなのはは私を抱き締め、よしよしと……でも雑! 全てが雑! 十年の付き合いだからよく分かるよ!


「大体……フェイトちゃん、なのはより二回りも大きいしね……はやてちゃんもトランジスタグラマーだし」

「ふぇ!?」

「三浦あずささんとか、我那覇響ちゃんとか、四条貴音ちゃんとか凄かった……どたぷ〜んで……どたぷ〜んで」


な、なのは、殺気が……あの、怖い……すっごく怖い……。


「………………しかも、それより凄い幼なじみ……!?
それにも負けていないもう一人の幼なじみ……!?
しかもそれが揃ってこの子を大好き!?
更に琴乃って……星見プロのアイドルさんもフラグ成立!?
ハーレムってこと!? ねぇ、巨乳艦隊ハーレムってことなのかなぁ!」

≪よく分かりましたね≫


なのは、どうしたの!? 怖い怖い! というか力が入りすぎて……骨が軋むー!


「ふふふふふ……そりゃあ、ねぇ……大きい方が、ねぇ……! なのはなんてもう、駆逐艦だし」

「いや、高町教導官のオパーイも素敵です」

「いいよ、慰めなんて……」

「本心です!」

「…………ほんとに?」

「はい! というか、オパーイのよさは大きさじゃない……決して! 大きさではない!
高町教導官の輝きが、溢れるように出ています!」


………………その言葉になのはの身体が震え、私を突如として放り出す。


「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「フェイトちゃんー!?」


床に転がっている間に、なのはは感動の瞳で……あの子と手を取り合う。


「ありがとう! なら、これからよろしくね!」

「はい! ……………………あれ?」

≪言質は取りました。よかったですね、マスター≫

「うん!」

「え…………え………………え………………!?」


…………………………いつの間にか、部隊に入ることが決定してるー! どういうこと!? どういうことなのぉ!?


「いやぁ、よかったなぁ……これで万々歳や」

「そうそう……はやてちゃんについては、いつ如何なる状況でもオパーイを触るなり、それ以上のことをしてもいいよ?
なのはの全権限で通達しておくから。八神はやて部隊長は、君専用のエロ狸さんだってね」

「ちょ、なのはちゃん!?」

「連続置き去りとかあり得ないからね……!? というか、本当にシティハンターだよね、それ!」

「……野上冴子さんみたいに、なりたいなって。
あ、でも……王宮ハーレムのときはちゃんとフォローしたで!
今でもみんな、恭文に仕えるメイドさん志望って感じやし! しかも全員美人揃い!」

「……今から襲っちゃっていいよ? 大丈夫、合意だと全力で弁護するから」

「いけずー!」


そんなはやてや、倒れたままの私はともかく……なのはは軽くせき払い。


「え、待って……僕の、輝かしい親孝行ロードは……」

「まぁ、いろいろ不自由もかけるけど……でももう少しだけ、魔導師としての自分を突きつめてみるのは」

「よくない! ガンプラバトルもできないよね! 選手権にも出られないよね!」

「…………駄目?」

「駄目! つーか管理局のお遊びには付き合ってられないんだよ! 僕の夢はどうなるのさ!」

「そこをなんとか! なのはも、君に来てほしいって思っちゃったから! はやてちゃんもエロ狸として御奉仕するし!」

「そんなのはどうだっていいんだよ……!」


――――――こうして、本当に……本当の意味で、全てが決定した。


「だってまた、置き去りにされるんでしょ?」

「それはなのはの身命に賭けて、全力で阻止する……!」


この子の態度にはいろいろ不安もあるけど、差し当たっては…………やっぱり、ね……やっぱり、ね……! はやてには説教だよ!

というか、シグナム達は知っていたのかな! ちょっと確認しておこう!

それにあの、駄目だよ! そんな……だって、そうするってことは……結婚するって、ことだよね!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


最悪だ……最悪だ……最悪だ……。

流れで引き受けてしまった。お父さん達にどう説明しよう。


いや、もうそのままを説明するしかないんだけど……とにかく東京・池袋の実家へ戻り、お母さんの得意料理≪青椒肉絲≫をもぐもぐしながら説明すると……。


「あなた、また……!」

「どうしてそうなった……!」


お父さん達は頭を抱え、打ち震えていた……。

お母さんも薄い胸を何度も撫でて、おろおろしっぱなし……ある意味うちでは恒例の光景だった。


「お父さん、お母さん、そんな顔をしないでよ。僕はふーちゃんと歌織、琴乃達、牧野さん……もちろん舞宙さんといちごさん、才華さんにもどう説明するか、今から頭が痛い……あ、ご飯のお代わりもらうね」

「頭が痛い人間の食べっぷりじゃないのよ! もう三杯目じゃない!」

「だってお母さんの青椒肉絲、いつもすっごく美味しいし」

「それはどうもありがとう!
でもね、今は現実を直視して、少しは思い悩んでほしいのよ!」


気持ちは分かる……僕も不安はあるから、頷きながらご飯を大盛りでよそってーっと。


「しかも、八神はやてちゃんってあの子よね! 散々振り回してきた悪狸の!」

「大丈夫……その部隊の分隊長さんが許可をくれた。いつ如何なるときに約束を履行してもらってもいいって。
それに僕は、忍者講習で房中術の訓練も受けている」

「それを息子から言われてどう安心しろと!? オフィスラブ当然って、まともな職場じゃないでしょ!」

「この世にまともな職場なんて一つもないよ。特車二課・第二小隊もそうだった」

「そういうことじゃないのよ!
しかもあなた、フィアッセ・クリステラさんとか、仁村知佳さんとか……いろんな人のフラグを立てて、既にハーレム状態なのに!
……あのね、母親的にも結構心臓に悪いの! リインちゃんもあの年で相当重いし、刃傷沙汰を心配するレベルなの!
しかも姑嫁戦争になったら、お母さんが一方的に負けるくらい……みんな、なんか戦闘力が高いし!」

≪まぁまぁご母堂様……ここで一人に絞る方が、もっと刃傷沙汰ですよ?≫

「それはそうなんだけどね!?」


…………そうだ、その辺りも……僕ももう一八歳だし……ちゃんと約束しなくては!


「あの、だからそれも……ちゃんと、みんなとお話して、改めて」

「……恭文、石油を掘り当てなさい」

「お母さん!?」

「今ならメタンハイドレートかしら。こう、魔法で……バレないようにこっそりと……そうすれば、王宮ハーレムもOKよ!」

「まぁまぁ、お母さん……動画配信も頑張っているわけだし」

「それだけじゃ足りないでしょ! 王宮建てなきゃいけないのに!」

「落ち着いて! あれは違う! 内乱のドタバタで……新当主に引き受けてもらえるよういろいろ頑張っただけぇ! フラグを立てたわけじゃないからぁ!」

「とにかく落ち着こうか!
……だが恭文……正直危ないことはしてほしくないが」


お父さんは上座に座りながら、大きくため息……。


「言っても無駄かぁ……」

「ごめん。やっぱり僕達、この遊びにハマっちゃっているみたい」

≪楽しいんですよ。権力に歯向かうのは≫

「……今回はその趣味から外れるだろうに」

「何より……」


そう言いながら、脇に置いてある”アタッシュケース”を指差し、更に書類も見せる。


「きっちり契約は取ったからね」

「本当に一億か……!?」

「ううん、六千万」

「値切られたのか!?」

「というより、本命の条件より三倍くらい跳ね上げた」


クスクス笑いながら答えると、お父さんがあんぐり……。


「仮面ライダーOOOで鴻上会長がアンクにも使っていたけど……≪ドア・イン・ザ・フェイス≫って心理テクニックがあってね?
始めに大きな要求をして断らせた上で、それより小さい要求をするのよ」

「それで、六千万が……!?」

「こっちが譲歩した……納得したって思わせるためにね。
これで家のリフォームもバッチリだ。雨漏りとか気にしてたよね」

「いや、リフォームというか立て直しだぞ!?」

「じゃあ、労働条件も……」

「さすがに月給五百万は難しかったけど……週休三日で四時間勤務の月給百万。
もちろん危険・休日手当や残業代も出るし、有休もバッチリ。かなりいい条件でぼったくれたよ」

≪これならリモート中心にはなりますけど、配信業も変わらず頑張れそうですね≫

「「我が息子ながら恐ろしい!」」

「いやいや……恐ろしいのははやての方だって」


……とはいえこの好条件で纏められたのは……かなり危ない橋ってことにもなるので、あんまり喜べない。

だからお母さん達にも、そう答えるしかなくて……。


「僕はそこそこできる方だけど、結局はただの嘱託で個人だよ?
部隊運用が必要な大規模事件を、全て自分で解決する力はない」

「……なのに……それだけの条件を呑んだってことは……ちょっと、恭文……!」

「僕よりお父さん達の方が心配だよ。
念のためPSAの人達とレティさんに頼んで、お父さん達の周囲に護衛を付けてもらう。舞宙さん達も、ふーちゃんと歌織達もね」

「ちょっと待て……そんなに危険なのか?」

「今のところこっちに飛び火することはないと思う。ただ……」


どうにも、嫌な予感はしているんだ。はやての誘い方も強引だったし、もしかしたらって予感は……。

まずはそれを確かめる。そこからスタートしてもいいかもしれない。


それに…………。


(高町なのは、かぁ)


僕の魔法資質に言及するとき、目をキラキラさせていた。

もっと凄くなる……もっと高く跳べると、自分のことみたいにさ。

……あの目に……その輝きに絆されてしまったなんて、二人には言えなかった。


「テロ相手だし、一応ね」

「……そうよね。特にあなた、夏が鬼門だもの……誘拐されたときも夏だったわ」


いろいろ思い悩んでいると、お母さんが凄いことに触れてきた……!


「それも言わないで……!」

≪いや、否定できないでしょ。ヴェートルのときも夏でしたし≫

「そうだぞ……! とにかく、注意して……時期が近づいたら、無駄でもいいからお祓いして」

「やっぱりね、六月になったら大きく休みを取りなさい? ほら、雛見沢の梨花ちゃん……羽入ちゃん? お祓いしてもらって」

「無駄なのにやるのはどうなのかなぁ!」


――とにもかくにも、こうして僕は……なんの因果か、因縁溢れる奴らの部隊へ飛び込むことになった。

それもこれも、”これだけ”稼ぐため。将来の備えってのもあるけど……僕にできることをやるために。


だけどそれは、遠回りでもあって……。


「……ごめんね」


ご飯を食べた後、後片付けも手伝って……部屋に戻り、仕上げていた大会用の新作達を撫でる。

銀色の騎士甲冑を思わせる装甲。左腕部のマルチプルウェポンに、各所に装備された近接装備。

ヴァルキュリアフレームを改造して作った、僕のオリジナル機体≪ジルバインアリア≫にはもう、謝り倒すしかない。


……イギリスにね……PPSE社が抱える二代目メイジンと同じくらい強い、ジョン・エアーズ・マッケンジー卿って人がいるんだ。


僕、その人のバトルが好きでさぁ。しかも御年七十前後とかで、ガンプラもバトルも大好きって人なんだ。

その人が白いクロスボーンガンダムX2を使っていて……まぁ、いろいろインスパイアしたって感じ?

この子とももう三年の付き合いで、セッティングを煮詰めに煮詰めてなんとかなった……んだけどなぁ。


「出番はもうちょい先になりそう。でもその分、きっちり調整していくから」

≪ちょいちょい地球に戻らないと駄目ですねぇ。じゃないと調整もできないでしょ≫

「うん……全部、引っくるめて進むよ」


悪いけど、そこは絶対に譲れない。

そんな決意を込めながら……蒼いコアを取り出す。


中心にクリスタルが埋め込まれた、蒼い≪ヴァリアントコア≫を……。


「……戦い方も考えた方がよさそうだね」


……ガジェット……魔導殺し。


「これを効果的に使うには、見せ札も必要だ。
いつもより手札も多めに晒しつつ、油断させて……スパイがいてもいいように……」

≪手慣れてきちゃいましたねぇ、私達≫

「嫌な職業病だ」


引き受けた理由は、絆されただけじゃない。

もし……僕とアルトの危惧しているものが現実になるなら。


≪だけどいつも通りに……私達らしく≫

「どれもこれも、大事な夢だもの」


…………それは、僕達が……アイツらの命を、生き様を見せつけられた僕達が、止めるべきものだ。

できれば、そうならないでほしい…………そう考えていると、スマホに着信。


ヴァリアントコアを仕舞い、ポチポチと操作……すると、紫色の髪を一つ結びにした女性が出てきて。

その人は……僕にとっては、とても大恩ある人で。


「レティさん」

『恭文君、聞いたわよ……相当無茶な条件を吹っかけて、はやてやクロノ達を泣かせたって』

「おかげでうちのリフォームと今後の生活が両立できそうですよ」

『お父さん達にも親孝行できると。……でね、その涙ながらのはやてちゃんから、学校関係のフォローを頼まれたのよ。
さすがに高校三年で丸々留学話ってのは難しいから、ある程度出席できるよう調整するつもりだけど』

「お願いします」

『了解。じゃあ、明日……うちに泊まりにいらっしゃい。
いろいろお話もしたいし、また……ね? 練習相手になりたいなって』


その微笑みに……少し気恥ずかしくなりながらも……期待するような色も嬉しくて、自然と頷いていた。


「……はい。でも、いいんでしょうか」

『リンディのことなら気にしなくていいわよ。私も楽しいし……というか、もうこんなおばさんじゃあ練習相手にならないかしら』

「そ、そんなことないです。レティさん、ずっと素敵で……すっごく安心しますし」

『ありがとう。じゃあ、また……いっぱい練習しましょうね』

「はい」


――僕は春休みを迎える。

高校生活最後の春休みは、とても慌ただしくて……だけど、それでも確実に過ぎていく。


(本編に続く――)






あとがき


恭文「というわけで、今回は入隊前のあれこれ……六課の裏事情にも軽く触れつつ、原作よりは予言の話にも食い込んでいく感じになりました」

古鉄≪それと、こんな感想をいただきまして……≫


(Twitter上では結構感想を送らせてもらってますが、今更ながらに疑問点があったので、他の方の意見も求めたくこちらに感想として送ります

作中でも触れた、オウム真理教の連中が起こしたテロ行為、市街地でサリンをぶっ放した事・初期捜査をミスって冤罪という大失態を犯したことを述べるのならば、松本サリン事件についてもさらりと説明を入れておくべきかなと思います

もしもの日常3.5話の「死者負傷者はもちろん、神経ガスによる後遺症で苦しむ人達も大量に出した。
その上初動捜査と対応にミスって、危うくえん罪も出しかけた……未だに反省点が多数残る事件だよ」
の文中や前後にでも
恭文「しかも連中、地下鉄の事件を起こす前に市街地のど真ん中でサリンを撒いた事が『事後の捜査』でわかったんだ。だけど当時、現地の警察組織は前例もマニュアルもなく、どう頑張ってもサリンを作れはしない一般市民を犯人扱いして、あまつさえ公表してしまった」

って感じで加えた方が良いような気がします。

他の方やコルタタ先生がどう思うかが知りたいのもあって今回こんな不躾をしました。無視して戴いても構いません


咲が楽しみなもしもの日常ver2020、その進む先を楽しみにしています by 鋼の後継)


恭文「感想、ありがとうございます。ひとまず隙間話ですが、また本編でも触れられたらと思います」

古鉄≪六課の広報活動……その辺りも描写したいですしね。
というか、それならそれで広報担当部署も欲しいところで≫

恭文「新キャラか……というわけで、お相手は蒼凪恭文と」

古鉄≪どうも、私です≫


(『感情を処理できん人類は、ゴミだと教えたはずだ』)


恭文「いきなりなに……。
いや、その台詞がまさか漫画で跳ね返ってくるとは、誰も予想していなかったあの頃だけどさぁ」

古鉄≪しかも原作者の富野監督がガッツリ関わっていますから、二次創作とも言えない悲しさですよ。
……それでとにかく今回の話、今後進める上で大事な要素でもあるので、まずはちゃんとやりたかった≫

恭文「政治的や内情話はいいよねぇ……ダグラム的でさぁ」


(まぁ小説的には二万文字近く会話劇になるので、我ながら本編では削る形にしたい)


恭文「それを見せるのが腕だぞー」

古鉄≪で……こっちだとレティさんと……そうですか≫

恭文「まだ分からないし! 料理かもしれないし! 裁縫とかかもしれないし!」


(その辺り、拍手でもリクエストが多かったので……でも、こう……緩い感じに。どうとでも受け止められる感じに。
本日のED:『ピザが焼ける音』)


あむ「…………飯テロじゃん! チーズやトマトソースがぐつぐつ言う音だけを聞かされるとか、拷問じゃん!」

恭文「そうだよ、拷問だよ。ドミノピザでピザが焼けるまでの映像を見せるのがあってさぁ。それがもう楽しみで地獄で……」

あむ「注文したら!?」

恭文「みんなにも、その幸せを提供したくて」

あむ「地獄って言ったじゃん! その口で!」


(おしまい)








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