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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第3.5話 『戦うべき敵』



魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020

第3.5話 『戦うべき敵』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんとか最初のガジェットを殲滅して……改めてなのはさんからお話。

ガジェットという敵の実体を感じた上で、考えるべきことがあるようで……。


「――じゃあ、簡単におさらいするね。
機動六課のお仕事は、このガジェットドローンの対策が基本。
みんなが実感した通り、これはかなり……戦いにくい相手なの」

「確かに……殴っても手ごたえが軽いしー」

「AMFの範囲次第では、中近距離戦は完全アウトになりますよね……」

「今後、別のタイプ……例えば砲撃タイプとか、飛行特化タイプみたいなバリエーションの登場も予測されている。
現に今みんなが戦ったタイプも、今出ているのは初期より性能も高くなっているしね」

「敵も強くなっていくのでありますか……」

「くきゅー」

「でね、その対策っていうのが結構難しいんだよ……」


なのはさんもその辺りはデスクワークの段階から苦慮しているようで、こめかみをグリグリ……。


「みんなには入隊前に説明したよね。
一般的なランクの局員が、AMF対策を取れるようになるまでの経過……その成長過程が欲しいって」

「六課で行う訓練と実務の成果。それをテストケースとして、戦技教導や部隊内での訓練、設備見直しの足がかりにする……でしたよね。
それは失礼ながら、既にエース級のなのはさん達では得られないものだから」

「帯に短したすきに長し……って言ったらちょっと違うのかな?
とにかく管理局の数十年という歴史でも、前例がないことなんだ」


だから”実験”が必要になった。

六課で出した成果がありなら、ここで行われた訓練やその方針は、実際の教導やら部隊訓練などで活用される。

もちろん装備やその運用もよ。一年限定なのは、それくらいのスパンで様子を見ましょうって話なの。


で……それをどうして、普通の部隊でやらないかって話だけど。


「でも、どうして……それなら訓練校で、AMF対策とかしちゃえばいいのに。
というか、私とかティアの部隊でもそういう練習をすれば」


その辺り、全く分かっていない馬鹿が一名、いるんだけどね……! それも部隊長の父親と陸曹の姉を持つコイツ(スバル)が!


「実はそれを三年くらい前……スバルとティアナ達が通っていた訓練校にね、フェイト隊長が相談したことがあるんだ」

「「えぇ!?」」

「あ……僕、覚えています!」


ぎょっとしていると、エリオが鋭く挙手……もしかして、一緒に!?


「そのとき、シャーリーさんと一緒に学校を見学させてもらって!」

「そうなの!? ……じゃあ、どこかで会っていたかもしれないんだ!」

「はい!」

「でも、なんでよ。訓練校なら他にもたくさん……」

「学長さん……ファーン・コラード先生が、なのはさんとフェイトさんの恩師で、元教導隊のマスター級だからと聞いております」

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」


いや、知ってる……マスター級なのは知っている! それで滅茶苦茶強いから、学内での模擬戦では誰もが注目するし!

それにファーン学長については、先日まで所属していた災害救助隊への推薦とかで、お世話にもなったから!


でもそれが…………なのはさんとフェイトさんの、恩師!?


「三か月の短期コースで、お世話になってねー」

「え、じゃあ……なのはさんなら、ファーン学長に勝てるんじゃ!」

「無理無理! 未だに手も足も出ないんだから!」

「……ファーン先生も凄まじく強いからねぇ。ぶっちゃけあの人にAMC装備持たせて前線に出すだけで、今回の事件は片づくよ」

「……って、なんでアンタも知っているのよ!」

「僕の師匠≪トウゴウ・ヘイハチ≫とは同期で、親友なのよ。それで僕も負け続けている一人」

≪更に言えば元カノですよ≫

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」


そっか……同じマスター級なら、縁故があってもおかしくないのか! 年代も同じくらいだもの!

でもなによそれぇ! 元カノってどういうことよそれぇ!


「そうなの!?」

「当人達にとっては封印したい過去らしいよ」


なのはさんも知らなかったんだ! というか、その黒歴史をバラすってどうなのよ!


「……じゃあなのは、その元恋人なコンビに負け続けているんだ……!」

「僕もだよ……!」

「なのはさん、ヘイハチって人にも負けてるんですか!?
でも、あの……なのはさんはエース・オブ・エースだし、やっぱりなのはさんの方が強いですよ!」

「SLBを木刀でぶった切られたときから、エース・オブ・エースなんて称号は飾りだと自覚しているよ……」

『木刀!?』

「……おのれはまだいいよ。僕のときは孫の手だった」

『孫の手!?』


なによそれぇ! 強いどうこうの前にただの理不尽じゃない! ただの不条理じゃない!

そうして若い芽を摘んで、なにが楽しいのよ! 時代は老人のものじゃないって気づいてよぉ!


「でも教導隊……あ、だからAMFの対策も相談を……」

「くきゅー」


一人蚊帳の外にしてしまったキャロだけど、それゆえに冷静に状況を分析して……私達もそれでハッとさせられる。


「なのはさん……」

「ただね、あんまりいい感触はなかったんだ。
まずみんなも体感しているとおり、訓練校はあくまでも基礎固めの場所。
AMFへの対応は応用の範疇だし、訓練生レベルでいきなりは難しい」

「確かに……訓練校時代にいきなり多重弾殻射撃とか求められても、私は匙を投げると思います」

「そ、そう言われると……私も……!」


それなら訓練校でと言ったスバル当人でさえ、振り返って絶望する。

……この子も私と一緒に卒業は主席だったけど、当初は頑丈な身体や馬鹿力の使い方ができなくてねぇ。

とにかく全力全開、安全確認やコンビネーションとかお構いなし……そんな感じだったから、コンビを組まされてから大変だったわよ。


なので、そこにAMF対策まで混じっていたら、さすがに匙を投げると思う。


「でもそれならさっき言ったみたいに、部隊で普通にやっても!」

「……そもそもAMFに限らず、新しい訓練メニューの導入にはいろいろ前準備が必要なんだよ。
まず現状の世界情勢に適して、必要な技能か――。
そのために予算を割く意義があるか――。
導入するとして、今までの訓練との兼ね合いはどうするか――。
そもそも導入したとして、生徒達が卒業……要するに必要な基準に達する期待値はどれだけあるか――」

「お金の心配までするんですか!?」

「このお馬鹿……当たり前じゃないのよ!
まさか今まで私達が、ただで訓練させてもらっていたとでも!?
しかも単純に変えても、組織の決まりを……現場判断ってだけじゃなくて、根っこから変えるってことなんだから!」

「だけど、それじゃあなんだか、挑戦から逃げてるみたいだし……そこは、失敗を恐れず一撃必倒で!」

「個人の試行錯誤じゃないのよ! 組織全体でそんな失敗を重ねていたら、他の仕事に回す予算や時間までなくなるでしょ!」

「ティアナの言う通りだよ。それは組織が大きい分簡単じゃないし、正しく権力を……出世して積み重ねた力を運用することも必要になる」


そう……だから、既存の部隊ではなく、一年限定の新規部隊立ち上げとなった。

それなら失敗しても被害は最小限……というか、新しいシステム導入を検討するための実験なんだから、ある意味未来の投資よ。

駄目なら駄目でそういう参考にすればいいし、その辺りの修正もいずれ潰す部隊なんだから必要なし。


これが既存の部隊だと難しいもの。本当に他の仕事に回すリソースがなくなる。


「だから八神部隊長も管理局の足が遅いことを気にして……その改革の足がかりになればと、機動六課設立に繋げましたしね」

「なのはさん……シャーリーさんまで……」

「――偉そうなことをほざくな、青二才が。
力も、後ろ盾もない貴様が、気安く正義を語れるほどこの世界は甘くはない――」


するとアイツが、いきなり乱暴な言いぐさを…………でもそれは、私達の誰にも言っている言葉ではなくて。


「そんなことを……前にね、山沖さんっていう警察署長さんから言われたのよ。
権力がないってことは、組織の間違いを正せないだけじゃない……努力していく悪にも対抗できず、正義の意味を通せないってさ」

「正義の、意味?」

「勝つことだ。”正義は勝つ”なんて言うけど、それは正義だから勝つって意味じゃあない。
……正義は負けることを許されない。正義を預かる管理局なんかが負ければ、その安寧の上で暮らしていた人達みんなが蹂躙されるもの」

「負けることを…………自分達の、背中にいる人達が……」

「なのでおのれらも局員を続けるなら、八神部隊長やらをお手本にしていくんだね」


……するとアイツは、とても不思議な……ある意味矛盾したことを言いだした。


「権力を積み重ね、自分達の利に……正義に共感してくれる味方を増やし、少しずつでも組織をよい方向に変える。
もちろんそういった基盤を正しく受け継ぎ、扱い、成長させていく後継の育成も怠らない。
……僕は好き勝手する方を選んだけど、本来ならこっちが本道だ」

「蒼凪さん……」

「それにおのれらは、管理局の理念に共感してここにいるんでしょ?」


そう、矛盾だ。嘱託なら…………でも、それも勘違いなのかもしれない。

組織の力……正義を預かる意味。それを本道と認めた上で、アイツは違う道を選んでいる……今その口で言ったことだ。


……だったらこれも、不器用なエールなのだろう。

局員として……一番分かりやすいお手本が、すぐ近くにいる。自分を見上げる必要はないんだという、とても不器用な……。


声を漏らしたエリオも、そんな意味を感じて……少しだけ複雑そうな顔をしながらも、首肯を返す。


「とはいえ、その八神部隊長やなのは達の力でもまだまだどうにも……なんだ。まだまだ若輩者だし」

「ファーン先生にも断言されました。それなら戦技教導隊の方で、適性のある子を育てる……そういうテストケース作りから始めるしかないって」

「でも、AMC装備はありますよね。ストライクカノンのような……」

「そうであります! それなら、ガジェットも問題なく粉砕できるかと!」

「それについては……恭文君から説明してもらった方がいいかな」

「「「「「は……!?」」」」」


え、なんでよ! 教導隊とかでもない、ただのフリーランスなのに!

というか、私達と一緒に当人も驚いているんだけど! え、聞いていないの!?


「恭文君と私達の出身世界である地球の状況にも絡む、大事なお話だから。
それで恭文君から見て、今のスバル達がアリかナシかも触れてくれると嬉しいなー」

「ですね。なのでなぎ君、第二種忍者資格持ちとして説明よろしくー」

「忍者……忍者なの、恭文!」

「だから名前呼び……あぁ、もういいや。
だったら全員ついてきて、屋内の方が話しやすい」


アイツに引っ張られるように、近くのビルに……まぁ廃棄都市部みたいな廃ビルなんだけど、その一階フロアにて説明が始まる。


「まず、忍者資格について簡単に説明しておく。
正確には≪総合諜報・戦技資格≫ってなっていてね。僕が持っているのは国家認定第二種」

「ちなみになぎ君は十一歳で第二種資格を獲得したから……その界わいでは結構有名なんだよー」

「それって、どういうものなのよ」

「フリーランスの戦闘捜査官って考えればいいよ。
状況によっては一般的な捜査官への指揮権限もあるけど、基本はソロ活動が多いね。
更に暗器や刀剣、銃器などの所有と緊急時の使用も認可される」

「こっちの嘱託と同じ感じか……」

「まぁ学業や業務と兼業している人も実は結構多いし、それでいいと思う」


でも忍者って……あの、分身とか変わり身の術とか使うのよね。……ヤバい、ちょっと凄いのと会っているかも!


「ちなみに……分身の術とかは使えないそうだから」

『え……』

「忍術っていわゆる魔法じゃなくて、フィジカルな技術も応用した戦術やトリックを指すことが多いんだ。
だから地球の忍者も、基本的には異能力なしでドンパチかな」

「でも、恭文は魔法能力者だし……」

「馬鹿。地球は管理外世界だから、魔法を大っぴらに使うのは御法度でしょ」

「だからこそ恭文君は、むしろそっちが本領。
……非魔法戦の領域で魔導師や異能力者と対等に渡り合い、屠れる≪ワンスキルホルダー≫なんだよ」


単一特化技能保有者――それは、魔導師の有り様としては結構特殊なもので。


「わんすきる……」

「あの、それは」

「……ティア、なんだっけ」


ちびっ子はともかく、ボケたスバルにはゲンコツでお仕置きー!


「あたぁ!?」

「……魔力量や資質の問題で、通常の魔導師戦が難しい魔導師も中にはいるのよ。
でもそんな限られたスキルを限界以上に鍛え、運用し、戦局を支配する――。
そういう人達をワンスキルホルダー……単一特化技能保有者と言うのよ」

「たった一つのスキルだけで、ありますか!?」

「恭文君は魔力量も平均的な上、攻防出力もみんなよりずっと下……スバルの十分の一くらいだしね」

「へ……!?」

「それをフィジカル技能や、さっき見たような戦い方で補っているんだよ」

「嘘でしょ……!」


いや、でも……なのはさんみたいな砲撃魔導師とかじゃなければ、まだなんとかなるんじゃ。


そうして生まれたのが、魔法社会で非魔法戦を得意とするイレギュラー。

単純な魔法資質ではなく、それに特化した異能力者殺しってことか……。


…………だから、ガジェットのAMFでも怯まないってわけね。むしろ魔法を使わない方が当たり前だから。


「じゃあ……なぜAMC装備が使えないかだけど、お願いできるかな」

「OK。…………結論から言うと、あれは市街地戦で使いにくいのよ。
AMFによる結界破壊も想定されるから、対大型戦闘車両などを活用した装備は、威力・取り回しの両面から持てあます」

「こんなところでパイルスマッシャーなんてぶっ放したら、大事故になりそうだけど……でも地球とどう関係があるのよ」

「そうだよ! それに近接用の電磁剣とかもあるし、そう言うのなら大丈夫だよ!」

「それ、壁抜いちゃうよね」

「え?」

「というか、近接型で剣術使いしか使えないよね」

「そ、それはそうだけど……」

「そこで重要な要素である二つ目。……もし地球みたいな管理外世界で、ガジェットとドンパチすることになったらどうするの」


いや、それは当然…………そう、当然よ! 考えて然るべきだったと、スバルともども顔を真っ青にする。


「ティ、ティア……!」

「そりゃあ、普通に戦うのは無理だわ……! というか武装とかを使うのも」

「だからAMC装備の六課搬入も、かなり慎重になっているんだよ。
隊長達のデバイスもそれに対応した改造がされていたのに、全て元に戻された」

「デチューンしているってこと!?」

「そうなんだよー。この辺りは……地上勤務も長いティアナやスバルは、分かるかもしれないけど……レジアス・ゲイズ中将がね」

「あぁ……あの人は、確かに」


私としては恩義もある人だけど、海と陸の関係が難しい部分があるのも理解している。

本局的にも扱いが難しいし、なのはさんが困り気味になるのも……うん、致し方ない。


……同時に、よく理解できたわ……。


「ティア……」

「だから、アンタはもっと世俗に興味を持ちなさいよ!
……レジアス・ゲイズ中将は本局はもちろん、聖王教会に対しても批判的な人だもの。
その本局が地上で好き勝手できる部隊≪機動六課≫を設立したら、どう思う?」

「……あんまり、嬉しくない?」

「あんまりどころか滅茶苦茶嬉しくないのよ。
下手をすれば内政干渉とかに取られて、更に関係が険悪になる。
しかも、その対策装備として持ち込んだAMCシステムが問題を起こしたら……」

「………………なのはさんの……八神部隊長や六課の不手際!?」

「それでもちゃんと、被害を出さずに対処できるならともかく……その目処も経たないなら」


そういうことなのかと、なのはさんに伺いを立てると……すぐ首肯が返ってきた。


「しかも扱うのが対人・対兵器戦闘に慣れていないおのれらだもの。余計に不安なんだよ」

「でも、なのはさん達なら…………管理外世界だと難しいかぁ!」

「さすがにね……。あとね、テロについてここまで警戒するのも理由があるんだ。……恭文君、お願い」

「まず地球の歴史から振り返るよ?
地球では二十世紀末から二十一世紀初頭にかけて、数々のテロが起きているんだ」


――――――アイツが展開したモニターには、その……テロの様子が次々と映し出されて。

電車から苦しみながら出てくる人や、砕け落ちる二つの高層ビル。巨大な橋がミサイルで撃墜……あとは、町が壊されて……。


「それまでもテロと呼べる事件はあったけど……でも、一つの転換期を迎えた事件はある。
オウム真理教っていうカルト宗教組織が起こした……神経ガスを地下鉄にばら撒いた事件」

「神経ガスを……!?」

「死者負傷者はもちろん、神経ガスによる後遺症で苦しむ人達も大量に出した。
その上初動捜査と対応にミスって、危うくえん罪も出しかけた……未だに反省点が多数残る事件だよ」

「初動捜査と対応をミスって、それは駄目でしょ! テロならちゃんと対策マニュアルもあるのに!」

「なかった」

「は……!?」

「正確に言えば……戦争状態でもなんでもない国で、一般市民に無差別で化学兵器を使われた事例は、世界的にも類がない」


世界的にも……その言葉が信じられず、ついザワザワしてしまう。


「あの……だから、そんな混乱が起きたで……ありますか?」

「しかも神経ガス……サリンは戦争中に使われた、相当に危険代物でねぇ。
それをカルト宗教組織が……軍事関係者でもなんでもない奴らが製造し、使用したっていうのも前代未聞だったのよ」

「平和で……クーデターもない国なら、それも分からなくはないかも……」

≪……そのほかにもいろいろありますよ。横浜で立て続けに起こった、カルト宗教によるミサイル攻撃とか、テロ組織のタンカー攻撃とか……。
シャフト・エンタープライズが起こした、違法レイバーによる無差別攻撃とか……方舟と新型OSによるレイバー暴走事件とか……。
ちょっと世代が外れますけど、TOKYO WARや核爆発未遂事件も≫

「TOKYO WAR……それは、聞いたことがあるわね」


地球で起こった前代未聞の都市型テロ……東京そのものが疑似的な戦時状態に陥って、一切の通信・経済活動が停止したそうよ。

次元世界でも類を見ない一大事で、管理外世界のことなのに教科書で話が出てくるくらいだから。


それを解決したのが、レイバーっていうロボットに載って、そのロボットによる犯罪を止める小隊で……確か名前が。


「なお、恭文君はそのTOKYO WARで、特車二課第二小隊の人達と戦って、事件を止めた一人だよ」

「…………はぁ!?」

「それに横浜のミサイル攻撃やテロ攻撃を止めたのは、核爆発未遂事件でなぎ君と一緒に戦った刑事さん二人なんだよね」

『えぇぇぇぇぇぇぇ!?』


こ、コイツが……そんな大事件を!? というかどれもこれも恐ろしいテロ……テロの専門家じゃない、既に。


「まぁこれはなのはも授業で教わったことだけど……二十世紀末から今にかけて、テロの脅威というのが世界的にも認識されたんだ」

「その大前提として、地球ではもはや大国同士の武力衝突は非現実的なものなんだよ。
戦争はもっとミニマムに……特定の地域や場所を舞台にしている。
民族闘争や、非合法なテロ組織による無差別攻撃、侵略……そう言ったものに対応するのが現代の戦争だ。
だから装備関係もそれに対応するため、都市部……特に屋内戦での制圧力を重視して、小型かつ火力もそこそこなものが作られている」


だからコイツもビルの中に…………って、平然とマシンガンっぽいものを取り出してきたんだけど!


「あ、P90だね! そっか……それも壁とかは抜かないように、威力調整しつつの兵器だったね」

「あの、なのはさん……壁を抜かないって、さっきも言ってましたけど……どうしてですか!?
だって、私ならこう……どがーんって壊して、最短最速で要救助者を確保って!」

「スバル、その壁の向こうに要救助者がいたらどうする?」

「それは、ちゃんとサーチして突撃します! 災害救助の基本ですから!」

「サーチとかが効かなかったら。その状況で、戦闘を強いられたら」

「それは………………あの、もしかして……!」

「恭文君、ちょっと構えてみて」

「OK」


あの子が銃口をあらぬ方向に向けながら、抱えるように銃を担ぐ。

でも小さいというか、あんまり大きさが変わっていないというか……あれ……?


「ティアナ、気づいた?」

「……銃口とか、飛び出していませんね」

「屋内での取り回しを重視しているからだよ」


そう言いながら階段を上がる……アイツはその中で四方八方を警戒し、振り返る。

でもあの銃が、旋回の邪魔になるようなことは一度もない。廊下に上がってからも同じ……そうして二階のフロアに入る。


ここもまぁ、廃ビルだから基本ワンフロア……じゃないか。幾つかのオフィスに仕切られていた。


「よく見ていて」


アイツは弾倉を取り出すと、銃の上部にセット。

十二分に私達から離れて、壁に向かって……トリガーを引く。

思ったよりも鋭く、乾いた音が耳をつんざく。


そうして放たれた弾は……どれもこれも、壁に埋まってこそすれど、貫通や砕くようなことはなくて。

しかも廃ビル設定で、決して強くはない壁を……。


「本当だ……壁、壊れていない」

「ただ、弾の威力がないってわけじゃあない。防弾チョッキのアーマーを抜くくらいの貫通力はあるのよ」

「でも壁は抜かず、向こうに人がいても傷付けず……部屋の中で敵を倒すことに特化している……。
あとはミッドでそれが適応されるかどうかだけど、疑問はナンセンスなのかなぁ」

「過去にも屋内を舞台とした占拠事件は起きていますしね」


シャーリーさんの言う通りだった。実際兄さんが亡くなった事件も……とにかく、そういう状況こそ私達陸戦屋の出番。

または狙撃や諜報、隠密などに特化した”単一特化技能保有者”の独壇場でもある。


「テロはただの犯罪じゃない」


アイツは安全に……銃から弾倉を抜いて、それをパッと仕舞う。


「もはや『私服を着た悪意ある軍人が起こす武力行為』……本当に戦争の一つとして捉えられているんだ。
そしてここから本題」


アイツはここまでの話を前提とした上で、右人差し指をピンと立てる。


「犯人達はレリック、ガジェット……またはそれに続く何かで、テロを仕掛ける可能性も考えられている」

「……確かに、AMFなんて出されるだけでもアウトよね」

「それだけじゃなくて、レリックの使い道もよく分かっていないんだよ」

「よく分かって……え、なんでよ。確保したのは解析しているのよね」

「しているけどって感じだね」


そこで補足を加えてきたのは、困り顔のシャーリーさんだった。


「単純な動力炉としては必要のない機構も多いし、願いを叶えるとか、特定の方向に力を発揮するタイプでもない。
ただレリックには刻印ナンバーがあってね? 数を揃えることにより、その機構が本領を発揮するのでは……という予測は立てているけど」

「それも、今確保されたレリックだけでは分からないと……」

「だからこそ、みんなにはレリックの確保も頑張ってもらいたいんだ。厳しい仕事になるのは確かだけどね……」

「AMC装備を使える状況も限られる以上、まずはガジェット……対AMF戦闘と、想定されるテロのパターンに対応する訓練が必要になる。
でもそれは壁を抜いて最短最速で要救助者確保なんて、単純なヒーローごっこじゃない」

「な……!」

「まず暴力を振るえ。お前達が手を伸ばすのは要救助者じゃない……そんなものを作り出した犯人だ。
それを暴力で粉砕し、世界に示す。暴力で思想を……悪意を振りかざしても、それ以上の暴力で叩き潰される。
ソイツらの痛みと、死と、絶望を持って、世界がテロを、テロリストをその生存権利から認めないことを突きつけろ――!」


………………それは、身につまされる話だった。


「ちょっと、待ってよ……犯人を殺してもいいってこと!? 助けるべき人をほっぽって!」

「おのれ、ウィングロードが潰されたよね。あのとき要救助者が目の前にいたらどうしていたのよ」


アイツが銃を下ろして振り返り…………放ってきた言葉に、ゾッとしたものを感じさせられた。

それで、スバルも察する。


「ぁ……!」

「勘違いされても困るから、はっきり言っておく。僕は管理局の理念には共感するところも多い。おのれらが極力遵守したいと思うのも分かる」

「そ、そうだよ! だから」

「でもね、今のお前達では……あんな雑魚に十分もかかるような体たらくでは、”とりあえずぶち殺すことを優先にしろ”としか言えないのよ」


今の私達には、本当に……それで手一杯なのだと。


「でも、だったら……」

「あとね、それを覆すというのなら一つ覚えておいて。
今言ったのは単純な評価だけじゃなくて……テロリストへの世界的総意なのよ」

「はい!?」

「恭文君の言う通りだよ。……例えば去年、地球のある国≪ニュージーランド≫の礼拝堂で襲撃事件が発生して、五十名が死亡した。
それに対してアーダン首相は『私は今後、犯人の名前を口にしない』と演説したの」

「どうしてですか!? だって、それじゃあ……事件がヒドかったとか、そういう話ができないんじゃ!」

「テロ行為で手に入れようとしたもの……そのうちの一つは悪名」


それは当然だ。自分達の政治的・人種的思想を、暴力と恐怖で浸透させ、世界を変えようというのがテロリスト。

ゆえにテロリストは自分の死を恐れていない。被害を出せれば、その痛みが自分達の思想を通す杭になるから。

そう考えると、その首相が言ったことの意味は理解できて……。


「だからそんな奴の名前はなく、事件で亡くなった人達の名前を語ってほしいと国民に訴えたんですか?」

「そう……暴力と恐怖により、思想を通そうとした犯罪者であり過激派。
犯人について語ることはそれだけで十分で、そうすれば無名のまま終わるから」

「無名のまま……犯罪者として……」

≪恐怖を一つの信仰心として捉えるなら、絶大なカウンターですよ。
テロリスト達の後継を出さず、また恐怖による政治変換を防げるわけですし≫

「似たようなことは、他の国の人達も言及しているんだ。たとえばテロリストには裁判をかける必要がないとか……難しい問題だけどね。
実際国連人権って組織は、それを例に取って”各国の条約違反の正当化”についてコメントしたし」


テロが戦争であるなら、私達は確かに……そのために収集された兵隊で。

しかもコイツが言うと、こう……逆らえないほどの迫力があって。


だから、自分の行いをヒーローごっこと糾弾されたスバルも、何も言えず……ただ俯くしかなくて。


「その辺りも鑑みて言うなら、おのれらはナシだ。
自分達が人を助けられる……それくらいの強さはあると自惚れている時点でね」

「自惚れで、ありますか…………なら、あなたは」

「僕も似たようなもんだ。現に去年は……取りこぼした人達の方が多い」

「……アイアンサイズが仕掛けたテロ……ストリートファイター達の生体改造による、浸食テロだね」

「浸食、テロ……生体改造? それはさっきも言っていたでありますが……シャーリーさん」

「キャロ、知らないの!? ニュースにもなった大惨事よ!」

「この子は自然保護隊にいて、中央の状況はよく分からないから……」


シャーリーさんの補足に納得している間に、またモニターが開いて……そうそう、これよ。

紫色の異星人みたいなのが進軍して、EMPの人工大地を侵食してさぁ……!


「これは……!」

「EMPにいた民間人……ストリートファイター達を集めて、生体改造を施したんだ。
人工浮遊都市であるEMPへ浸食し、機能不全を発生……海にたたき落とそうとした」

「ただ、ヴェートル中央本部は二の足を踏んでね。助けられないかとか、そもそも改造された相手を攻撃できないとか……。
そうこうしている間に落下の危険が高まったので、GPOが浸食箇所のパージを断行してね」


……そして、集束砲撃が放たれる。

蒼い魔力が迸り、人工大地の楔を……緊急時のパージシステムを発動して、大地を……残っていた侵略者ともどもたたき落として。


「そんな……!」

「くきゅ……!」


でも蒼い魔力…………そうか……あれは、コイツが……!


「それで大事なことがもう一つ。……アイアンサイズで言えば、奴らも人間から生体兵器に改造された。
クーデター派のために……信じる主君と正義のために。既に命は、それらに捧げて……死に殉じることさえ恐れていなかった」

「どういう、意味かな……」

「そんな奴らに管理局の理念を突きつけたところで、反省しない……する理由そのものがないってことだよ」

「そんなこと、ない! 最初は駄目でも……ちゃんとお話しすれば……言葉を伝えれば!」

「自分の力を持てあまして、それから目を背けるためにルールや安全にしがみついているお前が? 笑わせるなよ」

「――――!」


…………スバルが縋るようにこちらを見るけど、首を振るしかなかった。

だって、事実だもの。なによりこいつ、知っているんだ……知っていて、遠慮なくスバルの脛を叩いてきた……!


「どうしてで、ありますか。自分も……スバルさんが言うように……」

「たとえばの……かなり極端な話だ。
レリックを追い求めている誰かが、大切な人を生き返らせたいって考えていて、そのために集めているとしたらどうする」

「それは」

「そんな人間に、“こんなことをしちゃ駄目だ”と言って通じると思うの?
それは願いを……大事な人を取り戻すって気持ちをへし折る言葉なのに」

「…………」

「もしそれでもというのなら、代替案が必要だ。でもそれだっておのれらが知っていて、実行が許される手段に限られる。
それが無理な場合、おのれらも、僕も、“黙れ”と言うしかない。それでも他者を傷つけるのは駄目なことだと……大多数の正義と平穏を理由に、少数の弱者たり得るそいつを暴力で黙らせる」

「………………!」

「現に奴らには、誰の言葉も伝わらなかった……僕も無力だった」


エリオの悲痛な声も、スバルの沈痛な面持ちも気にせず、アイツは首を振りながら吐き捨てる。


「テロリストと……ううん、悪意でもなんでも“誰かの真剣な想い”と向き合って戦うってのは、そういうことだ」

「「……」」


そうして、改めて気づく……そうよ、改めてよ。


「……アンタは、なんでそこまで言えるのよ……」

「地球だと発達障害絡みは、差別や偏見も多いからね。こっちほど気楽じゃない」

「なのはさん、そう……なんですか……?」

「……悲しいことにね。目に見えにくい障害だから、甘えているとか、もっと大変な人がいるとか、努力が足りないとか……簡単に言っちゃう人は多い。それも『そういう障害を背負わなかった幸運に恵まれた人達が』だよ」

「なぎ君は忍者としての活動で……というか、PSAっていう嘱託組織もそこを問題視して、多種的精神障害支援部……だっけ?
そういう部署を設立して、それで困っている人達の支援も行っているんだよね」

「そうだよ。そのおかげで僕も……制限はあるけど、忍者活動が続けてこられた」

「だから蒼凪さんも、そういう意味では……少数の、弱者……」


コイツはヴェートルの英雄なんて二つ名もついているのに、調子に乗っているわけじゃない。

むしろ自戒して、覚悟を決めてまた手を伸ばして…………その姿は、とても見覚えがあった。


私を救ってくれたあの人に、よく似ていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


テロリストを……その思想を止めることの非情さと空しさ。管理局の理念と相反する現実。

その重さで誰も……私達どころか、アイツですら何かを噛み締めるように押し黙っていると。


「恭文君の言葉は確かに厳しい。
管理局員として早々頷けるものじゃない」

「なのは、さん……」

「……でも事実なんだ。この世界に存在している、一つの現実なんだ。
平穏は当たり前じゃない。普通であることは当然じゃない。いろんな幸運に助けられて、初めて保てる『薄氷』そのもの」


なのはさんが厳しい表情で、静かにそう告げてきた。


「だからそれを壊すテロに対しての厳罰加速は、管理局もそう変わらない。どんな事情があろうとという感じだよ」

「なのはさん、上の……本局の方、そこまでごたついているんですか?」

「そもそもAMC装備で非殺傷っていうのも、使用者の技量に依存するからね。それも魔法技量だよ。
その上アイアンサイズ事件で管理局は動きが鈍くて、こういう……フットワークが求められるテロ事件への対応が難しいって露呈したから」

「生かして捉えるのも難しく、その手はずも整えられず、対応もできない……だったら殺害も視野に入れて、その現場判断も認める方向と」

「まぁそのための機動六課ではあるんだけど、私達が出した実験結果のフィードバックにも時間がかかる。
他の部隊には、ひとまずそういう方針で動いてもらって……上が責任を取るってスタンスみたい」

「その私達もまだ、海のものとも山のものともつきませんしね。妥当だと思います」


なのはさんは私の言葉に首肯。震え続けるスバルの顔を覗き込み……それでも、厳しく告げる。


「だから……私達に求められるのは、まずは勝つこと……勝ち続けること。
それをできなきゃ、他の部隊だって参考にできない。
……こういう形で管理局の理念を貫く……そんな正義もあるって、誰も認めてくれないんだよ」


それは、本当に……とても重大な責任だった。

今更肩にのしかかる重圧に、つい生唾を飲み込んでいると。


「それでね、恭文君を……わざわざ八神部隊長が呼んだのは、時間稼ぎでもあるんだ」

「時間、稼ぎでありますか?」

「この子は地球もそうだし、管理世界でも前例がない大型テロに幾度も関わり、捜査に尽力した経験者であり専門家。
その点から、みんなとは違う側面のデータ作成にも協力してもらうけど……それ以上に切り札なんだよ。
万が一私達の予想より事件の進展が早く、アイアンサイズのようなエース級の魔導殺しが出た場合……恭文君をぶつける」

「あの、待ってください! それならなのはさん達が……」

「そこで懸念事項が四つ。
一つ、私達は……まぁその、自慢するようであれだけど顔が売れているしねぇ」

「なのはさん達、局の広報活動にも協力していますしね……。
その分対策が取られやすいと」


単純にAMFってだけじゃない。魔導師としての特性……苦手なことや得意なことを鑑みて、弱点を突く形で迫ってくるかもしれない。

または、私達と分断して、レリックとかを持って強行突破? さっきみたいにね。


「二つ、純魔法戦なら早々後れを取るつもりはないけど、それに依存しない……魔導殺しのような相手が出てくると、さすがに分が悪い」

「でもなのはさん、言っていたじゃないですか! ルールと安全を守れない魔導師が、人を守れるわけがないって……だったら、絶対大丈夫です!」

「なのでスバル、ちょっと表に出てよ。僕と模擬戦だ」

「そうだよ! だから恭文もそんなこと言わないで………………へ!?」

「今度は実地で教えるから。あ、バリアジャケットはちゃんと装備して? 危ないから」

「あの、えっと……どうして!? なんでー!?」

「大丈夫……三秒で終わるから」


そんな馬鹿な……そう思っていた時期が、私にもありました。

とにかく流れで表に出て……なのはさんが諦め気味に号令をかけた三秒……いや、それよりずっと速くだ。


――――五十メートルほどの距離を埋めて、アイツが……スバルの眼前に、地を這うように現れた。


「ぁ………………………………」


次の瞬間、スバルは股下から顔面までを……展開したシールドごと斬り裂かれ、空高く吹き飛び……派手に地面へと叩きつけられる。


「――鉄輝一閃」


アイツはさっきの模擬戦で一度も抜かなかった刃を……伝説のマスターから受け継いだ相棒を抜刀していた。

その刃は蒼く……夜のように深い蒼で煌めいていて。しかも、コンクリを……鋭く、深く抉って……!


「ほい、終了っと」

「「ナカジマ二士!」」

「スバル!」


慌てて駆け寄りスバルを起こすと……。


「え……嘘……だって、私……何も……」


鼻から血を流して……ぼう然と、して……。

……非殺傷設定はきっちり守っている。それでスバルの意識を……あの子のバリアを潰しながら、奪って。

だからスバル、起こすまで完全に意識……飛んでたもの……!


スバルもそのせいで、ただ打ち震えるしかなかった。だって……何度やっても同じだもの、これ。


≪ちょっとちょっと……三秒ピッタリどころか、二秒切っているじゃないですか。瞬殺すぎるでしょ≫

「いやいや、逆に念押しされたって」


アイツは……刃を逆袈裟に振るい、笑いながら右肩に担ぐ。


「スバル、魔導殺しっていうのはね……AMFや、アイアンサイズみたいな特殊能力を指すだけじゃないのよ」

「え……」

「非魔法戦闘に限っても、使いようによってはそうなり得る技術もあるってこと。
……たとえば僕に組み付かれて、サミング(目つぶし)されたら? それは魔法で防げる?」

「……密着状態でとかだと……無理」

「関節技をシールド魔法で防げる?」

「シールドを展開して、無理矢理弾き跳ばすとかなら……でも、技そのものをどうこうは…………って、そういうことなの!?」

「純魔法戦の知識と技量という意味では、おのれが言うように教導官ななのはや、ハラオウン執務官に分があると思う。
でもね、その逆も然りなんだよ。実は今のもそれを応用してぶった切った」


そう言いながらアイツは納刀して、斬り裂いた地面を指差す。


「股下から頭までを斬り裂く抜刀術は、薬丸自顕流っていう地球の剣術では”抜き”と呼ばれている」

「抜き……」

「ほら、甲冑や鎧を着ていても、股までがっちりっていうのは少ないよね。バリアジャケットでも……もちろん対応もしにくい」

「避けたり防げなければ、あとは急所ごと斬られるだけ……!?」

「なんつう剣術が……!」

「そりゃそうだよ。甲冑や鎧が闊歩するような……戦場で使う実戦剣術なんだから」

「納得したわ!」


そりゃそうかー! というか、鎧って意味ではバリアジャケットでも有効!? 私とか短パンだし……股下も、気をつけないといけないのか。


「でも、それがどうして……ナカジマ二士のバリアは、相当に強度があるように見えて」

「実際、相当高いであります。それが……バターみたいに……!」

「くきゅ……!」

「鉄輝一閃……恭文君が考案した斬撃魔法だよ」


すると、なのはさんが苦い顔でこっちにやってきて……。


「ベルカ式の強化魔法とは根本的に違う……武器を軸に、魔力を徹底的に打ち上げて”何でも斬れる刃”として構築する」

「何でも斬れる、刃……!?」

「まぁ武器そのものの威力増強にはリソースをほとんど回していないし、使い手の技量に大きく左右されるから……”それに近い”って注釈は付くけどね。
……そしてヘイハチさんも使っていた薬丸自顕流や示現流は、一撃必殺を常とする剛刀。
その技は卓越した剣士が使えば……その能力を最大現受け止められる刀があれば、あれくらいのことはできちゃうの」

「でも、私……それも分からなくて……分からないから、余計対応できなくて……」

「なのはも同じくだよ。特に武術関係は、精神修行の観点も入っているから奥も深いしー」

「でよ、強さってのは一定じゃないのよ」


するとアイツはモニターを展開し、グラフを表示する。

それは……あれ、アイツとスバルのSDキャラが、線の上にいて……右往左往している。


「今言った知識関係でのメタもそうだし、体調や戦うシチュ、能力とスキル的な相性で変化する。
で、それが上手ーく作用すると……」


基本はアイツだけど、一瞬……ほんの一瞬だけ、スバルがアイツの強さを上回って。


「あ……!」

「ただまぁ、おのれについては百パーセント不可能だけどね」

「はいー!?」

「おのれの姉≪ギンガさん≫にも負けたことがないのよ、僕」

「そうなの!?」

「……そりゃスバルじゃ勝てないわ」


……スバルの姉であるギンガ・ナカジマさんも同じ戦闘スタイルな上、スバルよりランクが上≪陸戦魔導師ランクA≫。

しかも捜査官として実戦経験……対人戦も豊富。はっきり言えばスバルはギンガさんの下位互換……そりゃあ勝つに決まっているでしょ!


「そういう情報も対人戦でのメタに繋がるのよ」


するとアイツは、こちらの思考を呼んだように返してきて……。


「そこを知った上で、自分の戦闘スタイル……利点欠点を把握し、僕のやり口や思考を加味し、つつきそうなところを狙ってカウンターとかさ」

「そ、それは凄く難易度が高そうな……」

「でもそれが対人戦の基本だ。特に異能力戦闘では、情報戦を制することが勝利に繋がると言っても過言じゃない」

「だから、なのはさんもさっき……」

「それゆえにおのれらが気張る必要もある。
情報が出回ったエース・オブ・エースと、正体不明の魔導殺しを操るテロリスト……情報アドでどちらが負けているかは明白でしょ」

「初見殺しをされたら、なのはさん達でも危ない……!」

「だからこそ”今は名もなき一般局員”や好き勝手できる嘱託魔導師が、この部隊の主戦力なんだよ」


……そこで、衝撃を受ける。


「…………そっか」


私達を鍛えるっていうのは、もっと……深い意味があったのだと。


「私……あれじゃあ駄目なんだよね。だって、みんなを守るために頑張るんじゃなくて、なのはさんに守られようとして。
なのはさんやみんなが危ないとき、できること……何も探していなかった」

「じゃあアンタ、それを教えるために……」

「さぁね」


とぼけながらアイツはお手上げポーズ。


「……!」


でも……その仕草の奥に隠れたものを感じて、スバルもどんどん表情が明るくなって。


「……そこで三つ目。
恭文君は見ての通り、対人戦……異能力が絡む戦闘のエキスパート。
忍者の活動も、実は異能やオカルト事件が専門なんだよ」

「異能……オカルト? でも、魔法は向こうだと周知されていませんよね」

「そっちじゃなくて、霊障……悪霊とかの現象だよ。
その手のものに対処するスキルも幾つか覚えてるんだよね」

「……シグナムさんとはやてのお喋りが……」

「まぁまぁ」


霊現象……そう言えばミッドにもそれなりにあったんだっけ。今は落ち着いているけど。

でもコイツが……というか地球って、一体どんな世界だったんだろう。


「……だから、魔法や武器の一つが使えないくらいじゃあビビらないと」

「そこで四つ目……一番引っかかるのが、出力リミッターだよ。
ほら、部隊内で保有できる戦力って、制限があるでしょ?
隊長達とそのデバイスは、制限に収まるよう魔力や出力にリミッターがかけられているの」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! ティ、ティアー!」

「落ち着きなさい……!」


というか、さっきもそうだったけど、なのはさんを神様かなにかみたいに見ているの!? さすがにアイアンサイズ相手はキツいでしょうに!


「私とフェイト隊長の場合だと二.五ランクダウンでAA……副隊長達も同じで、八神部隊長は四ランクダウンのAランクだよ」

「そんなに、下がるんですか……!?」

「だからなぎ君が……というか、八神部隊長も勧誘のときに説明したんだっけ。みんなが主戦力だって」

「あ、はい! ……なのはさん達も本領を出せないから、余計にってことだったんですね……」

「ちなみに、リミッターの解除は……部隊が終わるまでずっとそのままですか?」

「ううん。八神部隊長が各分隊長の限定解除権限を二回ずつ。
更に後見人であるクロノ提督と騎士カリムは、それぞれ一回ずつの全限定解除権限を持っているよ。
後者は八神部隊長も含めてのものだけど、基本運営中の権限取り直しはできないものと思って」

「地上本部、その辺りの査定も厳しいですしね……」


つまり、私達のヘマやピンチで権限解除が必要になれば……特に後見人のみなさんが使う限定解除は、切り札中の切り札。

それを無駄に消費して、その後に決戦とかになったら……うわぁ、無駄遣いの誘発とかもあり得そうだし、気をつけておかないと。


「でも恭文君は違う。あくまでも嘱託……民間魔導師として協力してもらっているから、AA+ランクに制限をかける必要もない」

「…………って、アンタの方が上なの!?」

「おかげ様でねぇ……! 受けるランクについては、研修初日で知ったけど」

「だって……電話に出てくれなかったし……かけ直してくれなかったし……」


そりゃアンタが悪いわよ! 連絡したのに折り返さず、当日知ったって……そりゃ自己責任でしょ!


「だって知らない番号だったし」

「プライベートアドレスは渡したよね!
……え、登録してくれていないの!? それはヒドくないかなぁ!」

「だって同じクラスの子に噂されたら恥ずかしいし」

「クラスどこぉ!? というか、恭文君が言わなきゃ誰も噂しないよ!」

「さわやか三組だよ、言わせんな恥ずかしい」

≪そのさわやか三組には、私がバラしますよ? またハーレム拡大したと……風花さんや歌織さんが涙目になるんですよねぇ≫

「やめてあげてよぉ! というか、え……ハーレム!? ハーレムなの!?」


……あ、顔を背けた! 覚えがあるんだ! 女をたくさん囲っている自覚があるんだ! なんか打ち震えているし!


≪現在私主導で、ラッキーセブン計画というのを進めているんですよ。
まずは七人のお嫁さんを娶ってもらい、そこから少しずつ器を拡大します≫

「七人以上いるの!? フラグを立てた人!」

≪その後セブンイレブン計画に移行。
七人のお嫁さんに加え、十一人のメイドさんという形でハーレムを拡大します≫

「七人で十分でしょ! というか、そこは一人に絞りなさいよ! メイドさんでそれって、ほぼほぼ愛人じゃない!」

≪そんなことしたら刃傷沙汰……というか、女の子達もそれが分かっているから、この人をみんなでシェアする方向に纏まっていますし≫

「おかしいでしょそれ! ちょっとアンタ、どういうことよ! そんなによりどりみどりがいいの!?」

「…………ちょっと、待って」


するとアイツは、こっちを見て……なぜか戦々恐々としながら挙手してきた。


「僕、その……ラッキーセブン計画? 聞いたこと…………ないんだけど………………」

「え……………………?」


いやいや、そんな馬鹿な………………馬鹿じゃ、ない?

だってコイツ、目がマジで……マジで……戸惑っているしぃ! なんかガタガタ震えているしぃ!


『うわぁ………………!』

≪それはそうでしょ。フィアッセさんと協力して、内密に進めて……あ、忘れてくださいね≫

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


――こうして、私達は戦争に飛び込んでいく。

戦争を止めるための戦争……ある意味矛盾だけど、それでも……その先の夢を掴むために。

ただその前に……アイツのハーレムと、知らないところで拡大される計画を……なんとか、ね!?


さすがに見過ごせないわよ! さすがに無視できないわよ! それが人だと思うの! それが正義だと思うの、私!


「でも七人……素敵なオパーイが七人分…………なんて羨ましい!」


スバル、アンタも乗っかるな! というか叩きのめされたばかりなのに、立ち上がってガッツポーズをするなぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――祭りの準備は調いつつある。

まだ時間は相応に必要だが、それでも着実に……そして残酷に進む。


ラボで調べ物を……というより、ある少年とデバイスのデータをチェックしながら、つい笑っていた。


「ドクター、ご機嫌ですね」

「あぁ……彼を見ていると、ついね。……ありがとう」


お茶を持ってきてくれたウーノには礼を言いつつ、それを受け取って……うん、ダージリンのよい香りだ。

それを一口味わいつつ、改めて……我々の宿敵たり得るかもしれない少年に目を向ける。


「例の部隊はもう始動していたね」

「ちょうど今日……結局彼らはそれについて、なんら対策を立てていません」

「それも当然さ。彼らは驕っている……自分達が勝利者であることは揺らがないとね。
……去年、GPOと古き鉄、EMPDに痛い目を散々見せられたのにだ」

「しかし、私は未だに信じられません。
いくら古流武術の専門家と言っても、マイナーな管理外世界のもの。
魔力資質にも恵まれていない彼が、そこまでの働きをするとは」

「マイナーな管理外世界だからこそ、かもしれないよ」


紅茶をもう一口……香りを胸一杯に吸い込みながら、問題ないと笑う。


「魔法という便利な力に頼らず、事件に立ち向かってきたんだ。局の魔導師とはまた違う色を持っているのは当然だよ」

「……その色はこの世界にとっては異端で、彼らは消し去りたいようですが。
もちろんサンプルH-0、H-2やH-3ともども」

「だが無理だ。現にヴェートルでは何もできなかった。……クアットロのお遊びも含めてね」

「アレについては相当悔しがっています。私と同じく、未だに勝てた理由が分からないようでして」

「それが偶然かどうかだけは、もうすぐ解き明かされるよ。
……サンプルH-1……≪蒼凪恭文≫とそのデバイス≪アルトアイゼン≫」


彼らとは、とても近いものを感じる。故に期待してしまう部分もあるんだ。

……とはいえ、それについて問えるのは全てが終わった後だろう。


「彼らが我々の敵たり得るかどうか……本当に、もうすぐだ」


もう賽は投げられた。それが一つの結果を出すまでは……誰も、何物も止まることはできない。

…………たとえ世界が壊れたとしても。


(――本編へ続く)




あとがき

恭文「というわけで、今回は本編に含めると長くなるTips的なお話です。いわゆるカットシーンの流用とも言う」

恵美「ぶっちゃけ過ぎだし!」


(こういうお話も、ちょいちょい出せたらいいなー)


恵美「あ、所恵美だよー。……でも恭文……その、ほんと大きい胸……好きなんだよね」

恭文「いきなりなによ」

恵美「だって、アタシの限定SSR引こうとして……結局駄目で」

恭文「だって……奇麗だったし……」

恵美「あ、ありがと……って、なんか恥ずかしいし!」


(そんなわけで、本日はシアターからお送りしております)


恵美「でも、テロって……相当ヤバいんだよね。いや、ざっくりとは分かってたんだけど」

恭文「ネットインフラが発達した関係もあって、この手の活動による影響も甚大だからねぇ」

恵美「バイトテロとかと一緒に考えていたアタシ、駄目だ……!」

恭文「テロリズムの本来意味するものとも離れるしね、あれは……」


(でも気をつけよう……本当に気をつけよう……)


恵美「でも恭文、そういうテロの専門家なんだよね! なんか凄いし!」

恭文「目指していたわけじゃないけどなぁ……なんでか流れでそうなって」


(メタ的に言っても、全く目指していたわけではなく……やっぱりこれまで関わってきた事件がテロも多い形になったためだったり)


恭文「時勢もあって、創作物でもテロを扱う話が多いからなぁ。それとクロスしていれば……」

恵美「でも、しゅごキャラとかはそうじゃないよね」

恭文「……あれも普通の人に見えない以上、不意打ちでやられたら立派なテロだよ」

恵美「…………どうして、そんなに関わってるの……!?」

恭文「それが新しい戦争の形ってことだよ」


(こうして戦いは変化していくのです。
本日のED:田村ゆかり『Beautiful Amulet』)


恵美「というわけで……SSRが引けなかったし、アタシが例の衣装を着て踊ってあげるねー♪」

恭文「わぁ……!」(瞳キラキラー!)

恵美「ま、また滅茶苦茶嬉しそうに! 恥ずかしいけど……嬉しいけど、でも恥ずかしいけどー!」

志保「…………恵美さんに手間をかけさせるのもあれですし、私がウェディングドレスを着てあげます。それでいいですよね」

恭文「…………志保、結婚前にそれやると、今期が遅れるっていうよ?」

志保「だったらもう手遅れじゃないですか! 風花さん達とか!」


(おしまい)





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