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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第3話 『鉄と雷光と』


フォワード二人は一つの成果を示した。

なら、次はバックス……最初に動いたのはキャロだった。


『フリード、ブラストフレア!』


フリードが吐き出した火炎弾で、ガジェット四体の行く手を阻む。

当然ガジェット達は浮遊して回避しようとするけど。


『……アルケミックチェーン!』


その炎に魔法陣が浮かび、そこから無数の鎖が飛び出してくる。二体はそれをなんとか回避し、炎も越える。

でももう二体は…………最重要ターゲットの一体を含んだ二体は!


「なのはさん!」

「キャロ、よくやったよ! 後は残ったガジェットの破砕! それでミッション完了だ!」

『了解であります!』


鎖に捉えられ、がんじがらめにされながら炎へと引きずり込まれた。

そしてフリードが連続放火。レリックを刺激しないよう注意しつつ、機能停止を狙って……エグい。


「召喚って、あんな事もできるんですね」

「無機物操作と組み合わせているんだね、なかなか器用だ。でも」

『――はぁぁぁぁぁぁ!』


…………ガジェット持ちじゃない方、引きずり込む勢いが強すぎない!?

地面に叩きつける勢いだったよ! ああぁぁあぁぁ……ガジェットのボディが歪んで、爆発し始めてぇ!


「……エグい」

「ですねー」

『え、あれくらい当然じゃ』

『そうですよ。拘束して必殺技は基本でしょ』

「「局員の基本じゃない!」」


だぁあぁぁぁあぁぁぁぁ! まず恭文君は、この戦闘思考を…………でも、これが持ち味だしなぁ! すっごく悩むところだよぉ!


『……キャロー、そこはもうちょい力を入れていいよー。
チェーンを熱しつつ締め上げて、ざくっとだよー、ざくっとー』

『あと、人間のときは首だけじゃなくて、目ごと頭もやりましょ。視界が防がれて、更に痛みのせいで鈍くなりますから』

「「アドバイスしないでぇ!」」

『了解であります!』

「「そして受け入れないでぇ!」」


キャロまでぇ! さっきので分かっていたけど…………そうだ、キャロについては分かっていたんだ。

だって以前の職場は召喚師としての必須スキル≪動物との対話≫を生かして、自然保護隊だったから。

フェイトちゃん、前にキャロが牛をナタ一本で捌いたって言って、かなり驚いてたことがあるよ。


同時に……龍召喚師として強い力を持つゆえに、苦しい思いをした子で。

だからよく知っている。命が生きるために、安寧を守るために、どれだけ残酷になれるかを。

しかもそれが必要悪という点も理解していて……でも、それでもなんだよね。


キャロはまだ、フリードのフルスペックを発揮していないから。それに……”ヴォルテール”も……。


『……』


それでティアナはアンカーガンを構え、逃げた二体に狙いを定める。

ん、これはもしかして。


「なのはさん、ティアナが射撃って……AMFがあるならさすがに」

≪いえ、一つ方法があります≫

「ティアナはやっぱり努力家なんだね。うん、それも一つの手だよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


キャロのやり口はエグかった。捕縛して火あぶりって。この子は怒らせない方がいいかもしれない。

でも残り二体……時間も僅か。それならと、もう一度アンカーガンを構えてカートリッジを二発ロード。


「こっちとら生粋の射撃型――通用しないから『はいそうですか』ってやってたんじゃ、生き残れないのよ!」

”スバル、上から仕留めるから、そのまま追っていて!”

”うん!”


ロードした分の魔力――それが弾丸となり、砲口の先で形成される。想像以上の圧力で息が止まりかけてしまう。

大丈夫、大丈夫……これならなんとかなる。攻撃用の弾帯を、無効化フィールドで消される膜上バリアで包む。

フィールドを突き抜ける間だけ弾丸が持てば、本命の弾丸は、本体に届く。


(固まれ……固まれ、固まれ、固まれ……!)


何度も何度も念じながら、膜上バリアを少しずつ展開。元の弾丸を包む、同じ色の輝きに目を凝らす。

ただそれだけの事で苦しんでいるのは、私の力が未熟だから。でもそれじゃあこの先、やっていけない。


目の前にいるのは贋物(がんぶつ)。

戦う相手にあと僅か届いていない、ただの贋物(がんぶつ)。

それすら超えられないなら、私の今まではなに。


変わるんだ、強くなるんだ。

贋物(がんぶつ)にすら劣る力なら、より研さんして高める。


だからこれだって……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ティアナ、相当辛いみたい。

でも大丈夫……無茶ってレベルじゃない。ティアナの技量ならできる、そこは確信している。


「なのはさん、あれ」

『本命の弾丸を届けるため、膜上のフィールドで包む多重弾殻射撃(ヴァリアブルシュート)か』


あ、さすがに恭文君は詳しい。

……だから……苦笑気味だった。ティアナのランクも知っているから、できるのかってよけいに。



『……AAランク魔導師のスキルだけど』

「AA!?」

『同時に射撃型最初の奥義だ』

『射撃型にとって大きな壁である防御魔法四層……それへの対抗策ですから』


驚くシャーリーには、一応『大丈夫だ』と笑ってあげる。

……そう、あれは奥義なんだよ。

ただ平均レベルの射撃型だと、なかなかこのランクまでは到達できないんだけど。


(大丈夫、そのままでいいよ、ティアナ)


ゆっくり、イメージを持つの。最初はそれでいい、まずできる事……その経験を持つ事が重要だから。

どんな高等技術も、どんな華々しいお仕事も、最初は非日常……焦がれるだけでは妄想に近い。

だから努力し、日常に……一つの実用スキルとして、自分の中に染み込ませていく。


それはとても大変な作業で、熱意も必要だけど……でも、諦めなければ時間がかかっても……!


≪The song today is ”REAL×EYEZ”≫


…………あれれー? また音楽が流れてきたぞー。 というか、今度はどうしてか西川兄貴の曲が…………ってぇ!


「恭文君!?」

『バリスタ飽きた』

「なんて端的かつ絶望的な返しぃ! 待って待って……ティアナ達のところは駄目! 絶対駄目ぇ!」

『分かってるってー』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「僕は空気を読めるので評判の男だ」

『絶対嘘だ……!』


コートの裾を翻しながら一回転――その上で右足で地面を踏み締め。


「鋼の軛!」


また出てきた増援五体に対し、地面からの軛で次々貫く。

AMFもあるから効果としては拘束程度に収まるけど、それでも問題ナッシング!


『鋼の軛……ザフィーラさんとシャマルさんの魔法まで!』

「アルト!」

≪Full Drive――Ignition!≫


デバイスのリミッターが解除され、魔力が瞬間的に吹き荒れる。

ただ、僕の能力上フルドライブの相性はよろしくないので……必殺技を使うときのみの、瞬間解放が基本となる。


……その方がカッコいいしね!


「リインからの練習リクエストだ」

≪Beat Slap≫

「さくっと片付けるよ――!」


一気に走り出し、集束した魔力を両足に込め……ガジェット五体に飛びかかり、次々蹴り上げ攻撃!

最初は右ハイキック! 二撃目は回転しながらの左回し蹴り! 三撃目はかかと落とし……に見せかけ、そのまま後ろから回転して蹴り!

四撃目は足に挟んで、回転しながらの放り投げ! 五撃目は左ハイキック!


「必殺」


五体全てを上空二十メートル以上に跳ね上げ、こちらも跳躍――そうして、奴らが一塊に――一直線上になったところで。


「僕達の必殺技! パートII!」


そのまま飛び込み……奴らのボディを蹴りで捉え、そのままぶち抜いてやる!!


「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」





ス ラ ッ プ !


≪Beat Slap!≫


密集状態のAMFすらボディごとぶち抜いて、奴らの破片と爆炎を突き抜けながら、地面に着地……数十メートル滑り、見事に停止する。


「……ふ、決まったね」

≪えぇ≫

『だから、ちょっと待って……今文字が出たんだけど! ゼロワン的なのが! というか電王も混ざってたぁ!』

≪「カッコいいでしょ」≫

『無駄なエフェクトォ! あとそれをリアルで言うのはダサいー!』

≪「カッコいいでしょ! そして実験大成功!」≫

『聞くつもりなし!?』


とりあえず、これでリインからの実験項目は大まかに超えられたけど……でも、なんに使うんだろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


念じながら力いっぱいを込め、より強い輝きで私の弾丸を包み込む。これで……よし。嬉しくなって笑いながら。


「ヴァリアブル……!」


トリガーを引き、ガジェット達へ弾丸を飛ばす。


「シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥット!」


生まれた一発の弾丸――誘導制御もプログラムしているけど、今は真っすぐに、すい星のごとく飛ぶ。

それは追い立ててくれていたスバルの少し上を通過し、一気に軌道変更。

一体目に合わせてフォーク角度を取りつつ、そのまま背後からフィールドに衝突。


でもさっきみたいにかき消される事もなく、一瞬のきっ抗を経た上で突き抜け、一体目を貫いた。


まだ膜は持っている。なので軌道はスライダーを描き、二体目へ迫る。二体目は迎撃のため振り返りつつ、フィールドを展開。

でももう遅い。撃墜される前にまたも不可視の抗魔を突き抜け、弾丸は最後のガジェットを撃ち抜いた。

そうして立て続けに爆散する敵達……それを見届けてから、荒く息を吐き、両膝もつく。


『……やったぁ! ティア、凄いよー!』

「う……っさい」


そのまま疲れ果て、あお向けに屋上へ倒れ込む。


「これくらい、当然よ……!」


できた、AAランクの……奥義の一撃が。それが嬉しくてまた笑っちゃうけど、同時に寒気も走る。


(あれ…………)


どうしよう、考えたくないけど……でもこれ……!


(これって訓練一発目、よね……!)


それでまだまだお日様は……見上げた太陽は朝の位置。

どうやら寝ている暇はないらしい。すぐに起き上がり、これから先訪れる『地獄』を想像。つい、絶望してしまった。


『みんな、初訓練お疲れ様。じゃあお手つきコンビも交えて、改めてお仕事について説明するから……一旦集合で』

『『『「――――はい!」』』』


でも……それでも……。

何か一つ、前に進んだ……そんな手ごたえは感じていて。


だからなのはさんの声にも、全員で明るく答えられて、身体もすぐに動けた。




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


訓練は終わった。もう移動しないと行けないけど、衝撃が……凄くて……。

だってあの子、魔力を一切使わずにあの動きで……ビルまで駆け上がってぇ!

その上質量兵器を物質操作で作って、増援ガジェットも殲滅!? さすがに乱暴すぎないかなぁ!


その攻撃もゾッとするほど的確だったし……どうなっているの、あの子!

しかも、最後……最後は……ライダーキックだよね、あれ! しかもなんか、技名がー!


「は、はやて……!」

「あ、フェイトちゃんは知らんかったか。ビートスラップっていうのは、アイツとリインが付けた蹴り技の名前で」

「そういうことじゃなくてー!」

「文字もきっちり出たですし、これで準備も完了です♪」

「なんの準備!?」


わ、私の知らない間に、なんか凄い計画が立てられているような……というかこれ、部隊の私物化じゃ……ないの!? ないの!?


「というか、フェイトちゃんは察するべきやろ。
美由希さんや恭也さん達とも打ち合ってたし」

「で、でもあの子、あんな小さくて……」

「……恭文さんのこと、子ども扱いして低く見てたですか。さすがはカボチャ女なのです」


あああああ! リインが不愉快そうにー! そっか、すっごく思い入れがあったんだ! というか待って! 待って!


「あの、低くなんて見ていないよ! ただ、それならフルバック専門に転向した方がずっといいって思っていただけで」

「…………カボチャが今更何を言っても……」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「ふむ……フェイトちゃん、納得いかんなら、純魔法戦で恭文とやり合ってみるか」

「はやてちゃん、それいいですか!?」

「恭文の実力を測って示す意味でもな。
うちもサリエルさん達のことは知っとったんやけど、どの程度腕を上げたか気になっているし」

「それなら期待しているといいのですよー♪ もうすっごく強くなってるですから!」

「……分かった。うん……私、頑張るよ」


それなら、きっと伝わるよね。

まずは私の力を……私の意志を。なのはとぶつかったときみたいに……一杯頑張ろうと思いながら、ガッツポーズを取る。


「……あ、こりゃ駄目やな」

「ですね……」

「どうしたんですかい、部隊長……リイン曹長も」

「フェイトさんがガッツポーズをすると、大体力んで凡ミスするですよ」

「ハロウィンの仮装をやったときも、なんでか熱暴走したスマホの着ぐるみ着て……秋口なのに熱中症をやりかけたからなぁ」

「そりゃまた…………」

「……って、大丈夫だから! ヴァイス陸曹も残念そうに見ないでください!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その後――なんやかんやで会議には間に合い、無事に終了。

夜八時に隊舎へと戻ってきて、なのはと私の部屋へ。するとなのはは。


「あ、おかえりフェイトちゃんー」


とても楽しげな表情で出迎えてくれて。疲れも一気に吹き飛ぶ。

ベッドに座りながら、何やら見ていたので……私も隣に腰掛けつつ確認。


「ただいま、なのは。えっと、これって」

「今日の訓練データ、まとめてたんだ。会議は大丈夫だった?」

「うん。ガジェットとレリックの危険性もちゃんと説明したから、各部隊との連携はなんとかなりそう。
……まぁ母さんやクロノ、聖王教会の騎士カリムもいるから、後ろ盾も影響してるんだけど」

「そっか」

「あとなのは、その訓練データなんだけど」

「そっちは大丈夫。みんなも”実験≪モルモット≫部隊”としての種子は理解してくれたから」

「うん……ごめん」


やっぱり……そこは避けられなかった。

対ガジェット戦の装備や、訓練のデータ……それを地上部隊に公開すること。

それが捜査協力の条件だった。というより、本気のお願いだった。


いや、六課はもともとそういう方針で動く部隊だし、AMC装備の多用もできない以上、仕方ないんだけど。


「私やクロノ達がもっと頑張っていたら……そういう重荷も外せたのに」

「いや、そっちはなのはも被せてしまったというか……」

「ふぇ?」

「とにかく、もう教導隊とも相談しているから言いっこなしだよ。
……みんなのレアスキルや個人情報に絡む点はアウトだけど、それ以外の基本的なものだったら大丈夫」

「本当に?」

「うん。なので次の会議は、なのはも参加するよ。教導隊も短期教導のスケジュールを空けているし、納得してくれると思う」

「ん、お願い。それでエリオ達は……訓練、ついていけたかな」

「あー、うん」


え、どうしてなのはは苦笑い? ま、まさか何か問題が……! 私がカボチャって言ったからー!


「とりあえずついさっきまで、休憩もいれつつがっつりやったんだ。
それでまぁ……落ち着いて、聞いてね?」

「な、何かあったのか! カボチャ!? カボチャのせいかな!」

「そうじゃなくて…………始末書を十枚ほど、書く羽目になりました」

「始末書!?」

「全員で」

「全員!?」


――――――それで、何があったか教えてもらった。

あの後……テロの概要や、テロリストへの処遇に絡む話とかもして……蒼凪君を呼んだ理由とかにも触れて。


でも、始末書……全員で始末書って…………初日から大波乱すぎるよぉ!


「まぁそれを抜くと……あの子を呼んだのは、六課にとっていい結果を残しそうだよ」

「そ、そうかな……魔導師としては異端だし、下がらせた方がいいよ。
あの、局の魔導師として安全かつルールを守って戦えるように、スキル構築から見直して」

「あの子一人で、スバル達十セットくらいの働きができるから……」

「十セット……!?」

「それにテロのアドバイスは、なのは達にはできないしねー」

「確かに……私達の専門からは外れるけど」


私はロストロギアや違法研究摘発が専門だし、なのはも教導隊。

敷いて言うならはやてだけど、そっちもロストロギアを追うことが多いし……確かに、何度も事件に関わった専門家となると……!


「フェイトちゃん、あの子はなのは達が思っていたより、ずっといい子だよ」


なのははくすりと……尻尾を振り回し、ガジェットをばっさばっさと抉り斬るあの子に笑いかける。


「それに仲間になるつもりはないなんて言っているけど、それだってフェイトちゃん達を気づかってのことだよ。
……洗脳された手段がね、相当違法なものらしくて……フェイトちゃん達自身に説明するのもNGにされてるんだって」

「え……!」


そう言えば私達、そこについては一切教えられていなかった。母さんも聞いたそうだけど……もしかして禁呪カテゴリーかレアスキル?

そうだ、考えて然るべきだった。GPOの方々もそうだし、あの子も最前線にいたなら……それを知っていてもおかしくなくて。


「今日だってこうして、慣れていないみんなにお手本を示してくれていた。
そういう不器用な優しさ、みんなにも伝わっているみたい」

「なのは……でも、この戦い方は」

「なにより”これ”を望んで、あの子を部隊に招き入れた。
魔法とフィジカル戦闘のハイブリッド……それを突きつめたエキスパートとして。
そして二つの世界で幾度もテロ事件に関わり、解決に導いてきた専門家として」


…………それは、分かっている。

だけど……危なっかしく見える戦い方が、どうにも引っかかって。

だから、六課に来るなら……私もできるだけ力になって、普通の……純魔法戦に移行するべきだって、思っていたんだ。


今ならカートリッジシステムで魔力を補う手だってあるし……だけど、なのはは違う意見みたいで。


「その持ち味を殺したら、スバル達のフォローだって難しいよ」

「…………うん」

「なのであんまりガーってしないでほしいってのが、正直なところかな」


……それは希望だったのかもしれない。


「魔法社会と距離を置きたがっていたのも、そういうのに面倒さを感じたせいだと思うし」

「それも、私達が信頼を取り戻すことで、なんとかできないのかな」

「それじゃあ叶えられない夢があるもの」


もしかしたら……この子とも、仲良く……本当の仲間になれるかもしれないという希望。


……こうして、機動六課の初日は終わっていく。

なおエリオ達は……蒼凪君を除いた四人は完全にグロッキーで、翌日休憩所で発見されて大騒ぎになる。


でもまぁ、それは気にしない方向で。


「と言うわけで明日、模擬戦ね」

「うん………………明日!?」

「鉄は熱いうちに打ったの」

「明日!?」

「そう、明日」


いや、待って……気にするべきかもしれない。


――第3話


だって、だって、だって……さすがに展開が速すぎるよぉ!


『鉄と雷光と』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして翌日……とはいきませんでした。フェイトちゃんの外回りも絡むので、四日ほど必要でした。


とにもかくにも、部隊始動から五日後――。

訓練場は、試験的に森林部を再現。

まだまだ安定しないから、本訓練ではちょっと使えないんだけど……でも二人なら問題ないので実戦テストです。


スバル達もしっかり元気に立ってくれているので、なのはもそれに合わせて……笑顔……笑顔!


「というわけで……今回はある種のエキシビションマッチ。
恭文君には、フェイト隊長と全力全開で戦ってもらいます」

「分隊長のスキル確認という意味でも大事な試合だよ。目を離さず見ていようねー」

『はい!』


そのためにもシグナムさん達にも来てもらっている……いるんだけど…………。


「…………ねぇおのれら、その前にツッコんでくれないかなぁ」

≪そうですよ。あなた達、目が付いているんですか?≫


……その言葉で私達は揃って震え……異質なものを見やる。


それは……移動式の檻に入れられている恭文君とアルトアイゼンで。

なおアルトアイゼンは床にごろっとしていて、恭文君に至っては頬杖突きながら、せんべいを食べています。


≪あなた、好きですねぇ……雪の宿≫

「いいよね、この甘塩っぱいの」

≪Connect≫


檻に入れられているはずなのに……普通に魔法で……ウィザードのコネクトみたいなので、お茶も取り出してさぁ!

サラッと凄いことしている! サラッと遠距離の空間接続も使えるって示してきたよ!


それで取り出したお茶(ペットボトル)をぐいっと飲んで、またせんべいをばりぼりと……。


「ん……ほんとどういうことだよ。時間より早く呼ばれたかと思ったら、シャーリーとなのはの二人がかりでここまで……だしさぁ」

「にしては、随分満喫しているじゃねぇか……! つーかどっから持ってきてんだよ!」

「八神家の部屋から。こういうこともあろうかと冷蔵庫に遠距離接続のマーキングをしておいた」

「どういう状況を想定してやがんだ! つーかいつやったぁ!」

「え、はやての許可はもらったけど。仕事で手が離せないときにも便利だからって…………もしかして聞いてないの?」

「はやてのアホがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ヴィータちゃん、落ち着いて! どぉどぉ……どぉどぉ!」


というか、はやてちゃんもやっているの!? でも完全にアウトだよ! 隊舎でホイホイそんな魔法を使うってぇ!

説教が必要だ……それについては、後で恭文君も含めて説教が必要だ!


「……主はやてには、私からも説教をするとしよう……蒼凪、お前もだ」

「えー」

「不満を持つな馬鹿者!」

「でも部隊長命令だって」

「それを免罪符に逃げるつもりだっただろ!」

「当たり前でしょ」

「お前は、悪意を隠す努力もしろ……!」


ほらー、シグナムさんもさすがにないってお怒りだよー!?

……まぁそんな死刑宣告もした上で、きっちり説明を追加しよう。

どうも、本当に……どうしてこんな状況になっているか、理解していないようだし。


「あとね……その状況は自業自得。フライングでの不意打ちを止めるためだよ?」

「そんな分かりやすいフライングはしないって」

「分かりにくければいいと思っている時点で、完全にアウトなんだよ!?」

「は?」

「疑問を持つの、そこ!」

「部活第一条――目指すは勝利のみ。
そして第二条……勝利のためならばありとあらゆる努力が許される。基本でしょ」


なんの部活ぅ!? それ間違いなく修羅の国だよね! 間違いなくしごきが横行している部活だよね!


「え、ヤスフミ……部活に入っているの? 野球部とかかな」

「……なんでハラオウン執務官は名前呼びしてくるの?」

「だって、なのはやシャーリーもしているし……私も距離を」

「まぁいいや。部活は部活でも……≪雛見沢栄光の部活≫だよ」

「栄光……なんだろう。すっごく強いのかな」

≪分かりやすく言うと……雛見沢という遠方の地域に住んでいる友達達がやっている部活ですよ。
みんなでインドア・アウトドアを問わず、楽しくゲームをして遊ぶんです≫

「え……!?」


いや、普通に聞けばほほ笑ましいんだよ。でも、猛烈に嫌な予感もしていて。


「雛見沢っていう村の分校が、学年混同で一クラスしかなくてね。
だから一番上から下までのクラス全体で、毎日楽しくやっているのよ」

「あ、そうなんだ。そういうのなら……でも、ヤスフミもそれに参加して」

「アルトともども、非常勤の部員でねぇ」


フェイトちゃん、やっぱり天然さんなのかな! ここまでの状況を見て、普通に進むのはおかしいよ!

なのはにはそのゲーム部、明らかに地獄の匂いが感じられたもの! 勝利のためなら何をしてもいいって気構えが見えたもの!

しかもそれが……学年混合でクラスによる部活ぅ!? その村の子ども達、みんな鬼ってことにならないかなぁ!


どうしよう……ツッコみたいけど、ツッコんでも誰も救われないような気がする!


「じゃあ、私も全力でやるね。リミッターはあるけど……それで、私やヴィータの言うことも、少しは考えてほしいな」

「ご馳走様でした……っと」

≪Connect≫


フェイトちゃんが話を続ける中、恭文君はせんべいを空間接続で元の場所に戻し、更にゴミを集めて、自前の携帯ごみ袋に入れて……あ、凄い丁寧。

でも、感心した次の瞬間……恭文君は檻の格子を掴んで、ぐいーっと広げ始めて……。


「魔導師を続けていくなら、適性のある資質を伸ばしていくべきだよ。
特にあそこまで動けるフルバックの魔導師は、とても貴重だし」

「いーち、にー、さーん、しー」

「あ、あの……ヤスフミ?」


いや、あの……そう言いながら、檻の格子で筋トレっぽいことするの、やめてもらえるかなぁ!

というかね、ねじ曲げてそれを正してーって……どうなっているの、筋力!


「それ……筋トレ!? 筋トレなの!? でもそんな筋トレなのはは認めないよ!」

「仕方ないなぁ……」


やっぱり筋トレだったんだぁ! 普通にねじ曲げたところから出てきたし!

でもやめてよ! 猛獣の脱走より恐ろしい光景を、まざまざと見せつけないでよ! なのははそこまで心臓強くないの!


「おのれもやる?」

「やらないよ!」


それでどうして、フェイトちゃんがやりたいって思えるのぉ!? あの困惑した表情から全てを察することはできるよね!

というかね……流してる! フェイトちゃんの話を丸々流しているからぁ!


「つーか……シャーリー、この檻の強度はどうなっているのよ。魔法なしでも曲げられるってさぁ」

「いや……一応、特殊金属製なんだけどね、それ」

「牢屋に使うつもりなら、強度を見直した方がいいね」

「その牢屋に使われているのと同じ素材だよ……! そ、それよりフェイトさんの話は」

「どうでもいい」


早速喧嘩を売ってきたよ、この子……!


「だって……ランクと経歴も上で有利にも拘わらず、選択権なしで模擬戦をやらせて、その勝敗で戦闘スタイルを変更のギャンブルって……パワハラでしょ」

「ふぇ!?」

「なぎ君……!」

「なので、罰ゲームを決めよう」

「罰ゲーム?」

「その部活はね、ドベとかの場合、必ず罰ゲームをするのよ」

「つまり、私が負けた場合は……うん、そうだよね。そうじゃなきゃ公平じゃないし、分かったよ」


フェイトちゃんはやっぱり天然さんなのかな!? 今の言葉には相当恐ろしい色があったよ!

それって逆を言えば、罰ゲーム回避のために……一体何をやるの! 罰ゲームって何をぉ!


「……ちなみにだが……蒼凪、その罰ゲームは」

「そうですねぇ……顔に落書きとか、相手の言うことを聞くとか」

「まぁ子どものゲームなら、それくらいか」

「スクール水着やらハイレグ、メイド服を着させられる。なお男女問わず……生殖器とか出しても気にせず――。
カレー大好きな先生の前で、カレーの悪口を言う――。
先生レベルで強い校長先生に、ハゲと罵る――。
なお服装が変更となった場合、家に帰り着くまでそのまま――」

「………………おい……」

「まぁよくあることですね」

「あるか馬鹿者ぉ!」


やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃ! 苛烈なんだ! 罰ゲームがもう何でもありなんだ!

ということはゲーム内容も予想した通りに…………いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「だから大丈夫ですって。今回は”負けた方が相手の言うことを聞く”って流れになっているんですから」

「そうですよ、シグナム。私とヴィータも無茶は言っていますし……はい、大丈夫です」

「おい待て! アタシを巻き込むな! 勝負するのはフェイトだろ!」

「でも、ヴィータも言っていたよね。資質的にフルバック型センターガードが一番いいって」

「フェイトォォォォォォォォォ!」


…………なのはは巻き込まれないよう、さらっと……自然と距離を取ります。

そうして、スバルの後ろに……忍び足で……二人から離れてぇ……!


「逃げるなタコォ!」


げ、ヴィータちゃんに気づかれた! でも挙手……それならば挙手して異議申し立て!


「逃げてなにが悪いの!? なのはは巻き込まれただけだから! 問題ないから!」

「開き直りやがったし!」

「それもそうだな。なら私も……お前達だけでなんとかしろ」

「シグナム、てめぇ!」

「「「「頑張ってください! お二人とも!」」」」

「スバル、ティアナ……エリオとキャロまでー!
あの、大丈夫! 私、勝つよ!? これでも結構強いんだから!」

「つーか負けたら、アタシからも罰ゲームだけどな……!」

「ふぇ!?」


フェイトちゃん、これは仕方ない……ヴィータちゃんもまさかそこまでとは思っていなかったみたいだし。


「まぁまぁヴィータ」

「副隊長を付けろよ!」

「さすがにこの状況で、そこまで苛烈なことは要求しないよ。笑える程度に済ませるから」

「…………そうなのか?」


…………すると恭文君は、とても……とても明るい表情で笑って。


「約束するよ。『猫皿に入れたミルクを食器を使わず飲み干す』とか――。
『目でピーナッツを噛む』とか――。
『箸でハエを捕まえる』とか――。
『好きな人にラブレターをしたためる』とか――。
『下着にエプロン』とか――。
『好きな人とデート(レポート付き)』とか――。
そんな地獄絵図は、さすがに避けたいしね」

「ふぇ!?」

「おい、その雛見沢ってのは地獄の一丁目にあるのか! だからそんな悪夢ばっかなのか!」

「いや、このときは少々特殊でね? くじ引きで内容を決める形だったのよ。みんな、自分で書いたのを入れてさぁ」

「自分で? …………おい、まさか……」

「普通はある程度加減するんだよ。自分が受ける場合も考えてさ」


どうもさしもの恭文君でも、あれは嫌だったようで……呆れ気味にため息を吐いた。


「ただ……このときはクラスみんなで部活をするようになって日が浅くてね。加減を知らずに地獄絵図が」

≪この人も最後のデートレポート、やらされましたし≫

「だとしても小学生とかで発想しちゃヤバいもんばっかだろ! 発想する時点で地獄だろ! ……ちなみにお前はなんて書いたんだよ」

「全部」

「…………」

「中に入っている罰ゲーム、全部……背水の陣的な意味合いで」

≪私はこの人に、ハーレム生活のよさを教授すると書きました≫

「…………部隊開始から五日目だし……加減は、忘れないでくれ」

≪「了解」≫


ヴィータちゃんが諦めた! ツッコミを放棄したよ! ツッコんでも無駄だと投げ捨てたよ!

さ、最悪だ……やっぱり日本に地獄は具現化していたんだ! 雛見沢、絶対近づかないようにしようっと!


「あ、それともう一つ……シャマルさんとリインに頼んで、僕にもリミッターをかけてもらった」

『え!?』

「だってほら、今だと僕の方がランクも高いでしょ? パワハラにならないでしょ?」


ちょっとちょっと…………凄いことを、言ってきたんですけどぉ! 弱者マウンティングを匂わせてきたんですけどぉ!


「あ、訓練が終わったら解除するから」

「ちょ、待って! じゃあ今は……」

「Bランク相当だよ。あんま実感がないけど」

≪あなた、元々魔力や出力頼みで戦うタイプじゃありませんしね。大して変わりませんよ≫


間違っていた……なのはは間違っていたよ。

喧嘩を売るどころか…………タダで配ってきたよ! こんな派手なこと、想定外にも程があるよ!


というか待って! 挙手! さすがに納得いかないで挙手!


「ちょっと待ってぇ! 教導官への報告は!?」

「言ってないに決まっているでしょ。おのれはどうせ止めてくるんだから」

「悪びれもなく悪意を肯定するの、ほんと悪いくせだと思うよ!?」

「てめぇ……いい加減に」

「でもヴィータ、考えてみて? ……これで僕が負けたら、罰ゲームも受けて……すっごく愉悦じゃないかな」

「それで納得させられると思ってんのかぁ!? いや、それ以前に……納得したらアタシ、どう考えても最低だろ!」

「ヴィータ、落ち着け。
……どうする、テスタロッサ……完全にお前は舐められているぞ」


シグナムさんは飛び出しかけたヴィータちゃんを制して、フェイトちゃんに伺いを立てる。


「問題ありません。加減もちゃんとしますし」


……フェイトちゃんは……これでいいと……険しい表情でセットアップ。

マントを翻しながら、バリアジャケットを装備する。


「そういうことだ。蒼凪、バリアジャケットは」

「使いませんよ。知っているでしょ?」

「だったな……」

「シグナム」

「蒼凪はジャケットに守られている感覚で、周囲の異変察知が遅れるのを嫌っている。
まぁ逐一環境保護のフィールドは調整しているから、このままやるといい」

「分かりました」


あはははは……喧嘩だよ、これ。模擬戦だって……手本だって言ったはずなのになぁ!


「……なのは、とっとと始めようぜ」

「ヴィータちゃん」

「すぐ終わるだろうしよ」

「それは、甘く見過ぎだと思うよ……!?」


リミッターありでも、恭文君が負ける……そういうニュアンスだろうけど、全然勘違いだよ。


「じゃあお互いやる気満々だし……さっそく模擬戦、始め…………」


……そこでゾッとする。

だって恭文君、檻に手を当てて軽くくつろいでいるし。


「…………まだスタートじゃないよ!?
なのは達が離れた上で、ごーだからね!? ちゃんとアラームもかけるから、動かないように!」

「だから、そんな分かりやすいフライングはしないって……」

「分かりにくくてもアウトなんだよ!? それと檻!
檻から手を離して! 電磁レールでぶつけるとかもなし!」

「善処する」

「それを善処っておかしいからね!?」

「でもほら、ヴィータもすぐ終わるって……リクエストには応えないと」

「やめろぉ! アタシを巻き込むな! すぐ終わらせるために最善の努力をしていくんじゃねぇ!」


ほらー! ヴィータちゃんもすっごい慌てているし! まさかそこまで利用されるとは思っていなかったから、顔面蒼白だよ! その気持ちを分かってあげるべきだって思うな!


「これが権力か……気に食わないね」

「とんだ誤解があったものだよ!」


それでも離れてくれたし、安心……できない! もっと念押ししないと!


「……物質操作で散弾にしてぶつけるのもなしだよ?
突然巨大な斬馬刀にして叩きつけるのもなしだよ?」

「善処する」

「善処の時点でアウトー! ……シャーリー!」

「はいはーい。檻は撤去しますねー」


そうしてシャーリーは檻をがらがらと引いて……安全圏に退場させてくれます。


「檻……僕の檻がー!」


やっぱり道具として利用するつもりだったね! ほんと油断も隙もあったもんじゃないし!


「はいはい、そこまで友情は育まれていないからねー」

「馬鹿野郎! 僕とオリタロスの間には、もはや切っても切れない絆がある!」

「名前を付けなくていいから! あとダサい! モモタロスじゃないからね!?」

「はぁ!? カッコいいでしょうが!」

『え……!』

「…………蒼凪は、センスが少々……独特でな……」


あぁ……そっちも狂っていたのか。できれば修正したいけど、教導官なので無理です。

とにかく檻は撤去したし、あとは……あとは……。


「なら、あと、あと……禁止しておくべき事項は……!」

「……もう手かせ足枷付けて戦わせろよ! なんだったら魔力も封印してよぉ!」

「それただのいじめだよ!? そんなに罰ゲームが嫌かな!」

「つーかどんだけアイツをヤバいもんだと思ってんだよ!」

「あの罰ゲームの羅列を当然のように語り! 平然と”全部”とか書いた紙を入れるんだよ!? その時点でこの子がまともじゃないのは明白だよね!」

「分かってるよ! アタシが悪かったよ! だから涙目になるなよ!
……おい、お前……ほんと真面目にやれよ!? なのはが可哀相なんだよ!
見ていて哀れになるくらい憔悴してんだよ! それには気づかってやれ!」

「了解」


あ、よかった! 善処じゃなかった! だけど……嫌な予感が拭えないのはどうしてだろうか。

…………なら、一つ意地悪しちゃうよー。なのはもお返しするよー。


「だったら…………恭文君にはもう一つ条件」

「なによ」

「鉄輝は試合開始から三分以上経たないと、使用禁止」

「…………なんて残酷な」

「そうならないよう加減していくのも大事な示しってこと。
で、勝手に出力を落としたペナルティーだよ」

「問題ないんだけどなぁ」

「……フェイトちゃんはそこまで甘い相手じゃないよ?」

「いや、だからこそ問題ないんだって」


…………あれれー、なんだか……なのはの耳がおかしいのかなぁ。


「つまり、ハラオウン執務官は、三分間僕になぶり殺しの刑を受けるってことでしょ?」

「ふぇ……?」

「これが残酷じゃなくてなんなのよ」

『えぇ……!?』


それだとまるで、出力を落とした方が強い……ううん、勝負に勝てると言うような言いぐさで。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――――それに嫌な予感がしながらも、しっかり安全距離を取り、サーチャーも配置して……中心で向かい合う二人に、号令を送ります。


「――それじゃあフェイトちゃん対恭文君の模擬戦……時間無制限の一本勝負! 始め!」

『――プラズマランサー、セット!』


フェイトちゃんは早速プラズマランサーを生成…………が、既に恭文君はスタート地点から消失している。


『……!』


ランサーを射出する前に、フェイトちゃんはバルディッシュで防御体勢。

袈裟に打ち込まれたアルトアイゼンを防御しつつ、とても驚いた顔をしていて……。


なお、アルトアイゼンは……逆刃刀状態だった。るろうに剣心が使うアレだよ。

形状変換は基本使わないって言っていたけど、ああいうのは搭載していたみたい。でも気持ちは分かるなー。


「おい……!」


しかも恭文君はフェイトちゃんの左脇を抜けながら、スライディング。左手でフェイトちゃんの足首近くを握り……蒼い炎を一瞬だけ発する!


『っ!』


フェイトちゃんが顔をしかめたところで、すぐ起き上がりその背後を取る。同時に刃には魔力を纏わせる。

あれは……鉄機じゃない。ベルカ式によくある強化魔法。きちんと非殺傷設定も守っているね。

しかも一瞬炎が揺らいだ。炎熱系……電撃変換だけじゃなくて、あれも使えるんだ! 魔力消費の関係で相性もよくないだろうに!


そしてフェイトちゃんが反応するよりも速く、その頭部目がけて袈裟一閃――後頭部を容赦なく、逆刃刀で撃ち抜いた。

更に左脇腹・右太股・左肩が強打されたところで……柄尻での刺突。


『Defenser』


でもそれは、バルディッシュが展開したオートバリアで防御される。


『Sonic Move』


その間にフェイトちゃんは振り返り、退避……というところで刃が翻った。

フェイトちゃんは左膝を横から叩かれ、バランスを崩しながら近くの木々に激突する。


『ぁ…………ぅ…………』

「フェイトさん!」

「どうして……今、バリアが!」

「柄尻での一撃は囮だね。あえて防御させて、退避先を潰す二の撃に繋いだ」


一度展開したバリアの範囲を広げるのは、また違う技術が必要。フェイトちゃんなら問題ないけど、それより速く打ち込んでいる。

まずは必殺で一気に仕留めず、様子見がてら軽く叩いていく感じかな。……それにしてはエグいけど。


「しかも小ずるい……さっき足を掴んだとき、指でフェイトちゃんの肉と骨を潰しにかかってる」

「おい、そりゃ反則だろ!」

「それがねぇ……アイアンクローに留めている上、手の平の魔力を炎熱変換させて、追加ダメージを与えているだけなんだよ」

「汚ねぇ……! しかもその左足を狙ってやがった! フェイトの機動力を潰すために、そこまでするかよ!」

「あれはむしろ上手と褒めるべきだ。
蒼凪が……古き鉄が戦場で生き残るために身につけたテクニックだ」

「その点で言えば、隙だらけだったフェイトちゃんが甘いとも言えますよね。……というか、また悪いクセがぁ」

「……あぁ、アレか」


ヴィータちゃんもその辺りの話は知っているから、不満そうではあるけど一応納得の姿勢を示してくれる。


「あのなのはさん、フェイトさんの悪いクセって……」

「エリオ達はよく知っているだろうけど、フェイトちゃんって優しいし温厚でしょ?
だから手加減というか、攻撃精度が甘くなるときがあるの。
エリオ達みたいに、自分達より経験がない子とか……実戦でも、諸事情で致し方なく犯罪に走っている子とか」

「その優しさがテスタロッサの長所ではあるが、いざ戦闘となると”安定感に欠ける”という欠点にもなり得る。
ある程度相手に打たれる……追い込まれなければ、本気で”鬼の一撃”を打ち込めないからな」

「スロースターターってことですか? でも、それじゃあ……」

「無論テスタロッサは研鑽と経験で、ある程度その欠点を補える。
が……それ故に”最初から本気にならなくても”という甘さが見えることはある」


……シグナムさんの評価は、実は結構厳しい。でもそれも仕方ないことなんだよ。

闇の書事件では一人の敵として。その後は大親友であり、身近で意識し合うライバルとして、切磋琢磨していったから。

それにシグナムさんにとっては、その成長を見守り、期待している一人でもあるからね。それ故の遠慮のなさだった。


「なら、恭文は……」

「テスタロッサとは真逆……第二種忍者として魔法なしでの戦闘も経験しているし、資質も恵まれなかったのも大きいのだろう。
必要だと判断すれば……相手がどんな事情を抱えていようと、容赦なく鬼の一撃で叩き伏せる。
……少なくとも私は、その点で迷った奴を見たことは一度もない」

「厳しいようだけど、殺らなきゃ殺られる世界でもあるんだよな……。
そういうところが同じ若手エース級でありながら、なのはに一歩譲っている部分でもある」

「譲る…………あ、エース・オブ・エース!」

「はやては純戦略砲撃タイプだけど、この二人はどうしてもな」


ま、まぁ……なんというか気恥ずかしいけど、スバル達には曖昧な笑いで返しておく。

……実際、クロノ君や教導隊の人にも、そういう評価はされたんだ。

戦闘者として考えると、フェイトちゃんは優しすぎる……余りに相手の意志を、話を汲み取ろうとしすぎるって。


じゃあフェイトちゃんの甘さ……優しさは不要かと言われると、これが難しいところでねぇ……そうでもないんだよ。


「ただ、フェイトちゃんの優しさは、複雑な事情が絡むロストロギア・違法研究関連の事件だと、とっても大事な資質でもあるの。
虐げられている人のメッセージとか、思いとか……そういうのを感じ取る感受性でもあるから。
もちろん事件後、執務官としてその辺りのフォローをする場合にも……実際フェイトちゃんの説得で、更生した人達も結構いるんだ」

「それ、よく分かります。……僕もその優しいフェイトさんに助けられたから」

「私もです」


そう……フェイトちゃんのお仕事は、ただ相手を倒せばいいってものじゃない。

事件を終わらせて、関わった人達の心も救って……ちゃんと未来に繋げて。


そういうとき、その優しさは……相手を知って、支えようとする勇気は、とても大きな力になるんだ。

その点は、クロノ君も脱帽しているの。自分にはそこまでできなかったってね。


「だけど……それも状況次第で弱点たり得る」

「そうだね。今だって実戦なら、恭文君はフェイトちゃんの足を触れた時点で破壊していた。
逆刃刀も使っていないし、あの一撃も腹や腕を落とす方向にしていたよ」

「「……!」」

「そう身構えることはないぞ。……今のように”実戦だったら”と反省し、次に生かすのが模擬戦をやる理由の一つだ。
テスタロッサ自身も反省するし、お前達もこれで相手に触れられるリスクを知ることができた。一つ成長できたというわけだ」

「「あ……!」」

「更に言えば、そこを上手くフォローするのも、同じ分隊である我々の仕事だ。
特にお前達はフォワードの中では、一番テスタロッサと付き合いが長いのだからな。期待しているぞ」

「「――――はい!」」


シグナムさんは上手く纏めた。だから、ライトニング分隊にとって、この模擬戦は結構大きい意味があると思う。

優しさという長所と欠点ゆえに、安定性に欠ける分隊長。それが揺らいだとき、分隊員としてどう支えるか……その課題が示されるから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いきなり、頭と肩、足をそれぞれ潰しにきた……! しかも足には、炎熱変換による延焼ダメージまで……。

でも、なんなの……方向転換の切り替えが、反応が速すぎる。魔力を使っている感じじゃなかった。

まさか本当に、ただ……フィジカルな能力とスキルだけで……でも、負けられない。


私だって……十年間鍛えて、強くなってきた。だから立ち上がって……。


「――プラズマランサー……ファイア!」


生成したままのランサーをあの子に射出。


≪Haken Foam≫


ガートリッジ一発をロードして、バルディッシュを鎌≪ハーケンフォルム≫に変換。

あの子に防御能力はない……音楽も今はかかっていない。機動力で回避するだろうから、その進行方向を狙って……今度は真正面からのクロスレンジ攻撃で。


「――」


するとあの子は、右手に持っていたアルトアイゼンを……真上に、放り投げて……!?


「――覇王流」


両手を掌底にして、腰だめに構え…………その手に魔力を纏わせる。

そうして、自分に向かって飛んで来たランサーに対し、円を描くように動かして……そのとき、ランサーのコントロールが全て途切れる。


「旋衝破もどき!」


そうして私のランサーは、蒼い魔力の火花を迸らせながら……こちらに、倍の速度で飛んで来て……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


にゃにゃあああああああああ!? なにあれ! なにあれ! なにあれぇぇぇぇぇぇぇぇ!

ランサーが跳ね返って、フェイトちゃんを襲って……咄嗟に飛び上がって全て回避するけど……戦慄している様子だった。


……でもそこで、恭文君にバインドがかけられる。


『……今のは凄かったけど、さすがに隙だらけ……これで私の』


でも、そのバインドは容易く消失する。恭文君は身じろぎ一つしていないのに……!


『な……!』

『この程度のバインド、僕には通用しないよ』


そうして動きが止まっている間に、アルトアイゼンが落ちてきて……恭文君はそれをキャッチ。


『お帰り』

『ただいま戻りました。で、電撃ダメージは』

『あるわけないでしょ……』


出た……! フェイトちゃんの先天変換≪電気変換資質≫の対策も、やっぱり整えていたか!

しかも今のバインド破壊……聞いていた通りなんだね。さすがに目の前で見るまでは信じられなかったけど。


「な、なに今の……ティアー!」

「普通にフィールドをパージして……ううん、演算でブレイクしたの? でもあの速度で」

「その速度が出せるんだよ。≪瞬間詠唱・処理能力≫……ありとあらゆる術式・プログラムの演算を超高速処理で瞬間的に終えて、発動できる準レアスキルだ」

「はぁ!?」

「しかも付随能力として、能力者には先天的に高い魔力制御能力がもたらされる。
……ただ、恭文君は魔力量と攻防出力がそこまで高くないから、能力を十全に扱えないんだけど」

「あぁ……時間がかかる大出力・長距離砲撃連発とか、そういうことができない」

「そんなところ」


魔力消費もそこまでじゃないと、どうしても単体対象の魔法が中心になるしね。そういう意味でも歪な魔力資質だった。

でも……それは使いようということでもあって。


「だけど、バインドやバリアブレイクのように、早急なプログラム処理が必要な状況ではとても役に立つ。
戦闘から離れても、ハッキング……電子戦も得意なんだよ、恭文君って」

「通常では処理に時間がかかる魔法も、固有能力の一つとして幾つか作っているしな。
対個人に特化しているが、それなりに使いこなしているというわけだ」

「それ、厄介じゃないですか……! バインドで詰めないなら」

「ティアナ、執務官を目指すなら、その短慮は控えた方がいいぞ」

「短慮!?」

「確かに今のは通用しなかった。……だが、その意味合いに目を向けるべきだろう」

「恭文君は発動そのものを阻害できるわけじゃない。かけられて、すぐ破壊されるけど、少しだけでも動きは止まる。
そういう情報を得られた……それを必殺攻撃チャージ中とかではなく、今入手できた。それはフェイトちゃんにとってアドバンテージだよ」


シグナムさんに補足すると、ティアナも少し考え……ハッとした表情を浮かべる。


「そうか……アイツが言っていた強さの変動! そのための情報戦!」

「なんだ、蒼凪もそこは話していたのか」

「恭文君、早速ティアナ達が可愛くなってきたみたいで」

「なのに失念して、申し訳ありません!」

「謝ることはない。……ただ観客となるのではなく、常に”自分だったら”と問いかけ続けるといい」

「はい!」

「……恭文はアドをフェイトさんに一つ譲った……そこを利用して、フェイトさんが違うトラップを仕掛けることもできる、かぁ……!
でも恭文がそのリスクを分かっていないはずがないし、あえてって可能性もある?
じゃあ私は……いや、でもあの切り返しと速度は厄介だ! 上手く殴り合いしつつ押し込んで……!」


あ、スバルは早速考えているね。なら……なのは達もどんどん解説していこう。

……二人ともそこは意識して、ペースを抑え気味にしてくれているようだしね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……趣味じゃない。すっごく趣味じゃない。

こう、一気に潰しに行くのが流儀なんだけど……がぁぁあぁぁぁぁ! 部隊って面倒臭い!


”えっと、戦闘中に度々ごめん。なのは達も解説してくれているから、もう少しゆっくり目に……”

”なんでだ……なんで模擬戦の基本から解説しているのよ、奴らは! 訓練校で教わらないの!?”

”基礎からだし、君も知っている通り……ね? 初めてのことも多いから”

”知っているよ! テロの脅威について説明したときも、ポカーンとされまくりだったし!”


そう……ある種のエキシビションであり見本だから、双方ある程度加減している。

でも八百長だ。こんなの仕込みだ。


”違う違う違う違う……僕が求めているのは、もっと面白い戦いなんだー! つまんないつまんないつまんないー!”

”あの、落ち着いて……さっきのも本当に凄かったし。
……どうやってあんな剣術を”

”……幸い、師匠と教本には恵まれていてねぇ。つーか逆におのれは甘い”

”…………そうだね。油断していた。それは否定しない……でも、ここからは違う”

”だといいんだけどねぇ”


そうじゃなかったら、僕が楽しめないもの。

ついでに言えば、去年の反省点も覆せない……まだまだ壁は厚いのにさぁ。


…………さて。


”……あなた、油断はしていませんよね”


そこで即座に届くアルトからの念話……ハラオウン執務官には当然聞こえていない。


”もちろん。……しっかり観察はさせてもらっている”

”確かに資質は高いし、反応もいい。高速型魔導師のエース級としては上位でしょう”

”経験もあるしねぇ。油断していたらさすがに落とされる”


そうだ、決して温い相手ではない。こっちの出力も落としている分、ふだんより繊細な立ち回りが求められるもの。

バインドの即時破壊も、通じるのはさっきだけと見ていい。次捕まったら、速度を生かして瞬間ノックアウトだ。

まぁそこでトラップを仕掛けるって手もなくはないけど、問題が二つほどある。


一つ、捕まった時点でなのはが試合終了を宣言するかもしれない。

二つ、高速型が最も警戒すべき弱点≪カウンター≫を警戒しないほど馬鹿とも思えない。つまり簡単じゃあないってことだ。


詠唱速度も決して遅くないし、設置しつつミドルレンジで戦って、僕を誘い込んでってのが定石かな?


…………だったら、もうちょい煽る必要がありそうだね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「それとエリオ、今のはよく覚えておくといい」


二人もこちらの調子や流れを見てくれているので、シグナムさんも安心して……エリオに大切なことを教える。

……実はエリオ、フェイトちゃんとは資質的に近いから。この模擬戦では一番勉強しなきゃいけない立場なんだよ。


「私もそうだが、先天変換資質持ちは術式変換に比べ、ロスもなく、高い出力での魔力変換が可能だ。
……だが、同時に他の変換が使いにくく、使用術式もそれを生かす形で構築することが多いため、徹底した防御メタを張られると攻撃力が半減する」

「自分もフェイトさんと同じ電気変換資質持ちですから……やはり、情報が使われると危ないんですね」

「しかも今の蒼凪は、お前やスバル、ティアナ達より魔力も、出力もない。
それでなおフェイト分隊長を攻略できれば……大きな参考になるはずだ」

「…………まさか恭文さんが、ランクを落としたのは……」


……あぁ、そういう側面もあるわけだ。これは、エリオ達にとってもお手本だから。


「僕達に合わせて……それを、見せるため……!?」

「私達でも、やり方次第でエースに迫れるって……あの馬鹿! 無茶しすぎでしょ!」

「どうだろうな。なんにせよやるからには、勝算を組み立てているはずだ」

「出力や魔力に頼らず……情報戦で打ち勝って……それを覆して……」

「もちろん限界値はある。だが……それを限界以上に跳ね上げるのもまた、知恵と勇気の使いどころというやつだ」


そう……知恵を駆使しても、ある程度の限界はある。

それを覆すだけの下地がちゃんとあるから、知恵は知恵として、小手先の一発屋に留まらず活用されるんだ。


「凄い……!」

「はい……!」


だからスバルも、キャロも……感嘆と声を漏らして。


「恭文ってやっぱり凄い! 私はこんな戦い方、思いつきもしなかった!」

「くきゅー♪」

『だったら後でコツを教えてあげるよ』

「いいの!?」

『いいのよ。とっても簡単なひと匙だけだから』

「ありがと、恭文!」


あらら……やっぱり一番楽しんじゃうタイプなんだ。それにスバル達のことも可愛いみたい。

いろいろいい関係になりそうで、なのは的にも安心する一幕だった。


『でも君……さっきのは駄目だよ』

『は?』

『デバイスは相棒なのに、気軽に放り投げるなんて』


――そこで地面が破裂する。

恭文君の足下が砕けて、その姿が消えて……フェイトちゃんは慌ててガード体勢を取った。


その瞬間に打ち込まれた逆袈裟切り抜け。フェイトちゃんは衝撃から再び地面に足を突き……振り返って、直ぐさまバルディッシュで右薙一閃。

突撃してきた恭文君はその斬撃によって頭を撃ち抜かれ…………ない。フェイトちゃんが捉えたのは残像のみ。

そうして空振りで隙だらけなところに袈裟・逆袈裟・右薙の切り抜け。


瞬く間に打ち込まれた三連撃……フェイトちゃんは左手のガントレットにシールドを展開して防ぐけど……それすら、ガントレットごと切り砕かれて……!


『早々にバインドを砕かれた負け犬が、ぎゃーぎゃー五月蠅いですねぇ』


あの子は地面を滑りながら反転。

フェイトちゃんが単発のランサーを射出するけど、それもまた恭文君の手に触れた途端、急激に反転して……!

フェイトちゃんはバルディッシュでそれを払い、爆散させる。


恭文君はそのまま動かず、フェイトちゃんの背後……三十メートル程度のところで、アルトアイゼンを肩に担ぎながら幾度も跳躍。


『やっぱり、射撃が通じない――!』

『私がちょっと遊んでいる間にやられる程度のマスターなら、こっちから願い下げですよ』


フェイトちゃんは更に戦慄する。

それくらいに信頼が……自分のちゃちな言葉など通用しないくらいに、ぶ厚い何かで結ばれていると。

ただ、私達的に衝撃なのは、やっぱり……あの投げ返すやつだよ!


「しかし蒼凪の奴、よく実戦レベルに持って行けたものだ……」

「あの跳ね返るのですよね」

「いや、あれは投げ返したんだ」

「はぁ!?」

「覇王流……覇王イングヴェルドが使ったとされる、古代ベルカ時代の格闘術式。その一つ」


覇王流……あぁ、なのはも聞いたことがある。

確か聖王教会の信仰対象≪聖王オリヴィエ≫とは親友って説があって……並び立つくらい優秀な格闘魔導師でもあったとか。


「文献で見たことがある。
覇王流には射砲撃が通じず、命を賭して懐へ入り込むしかないと……。
蒼凪もそれを知って、応用できないかと随分実験していたんだが」

「魔力スフィアにバリアブレイクの要領で干渉≪ハッキング≫、そこから自分のスフィアとしてぶん投げたわけか。
……真正古代ベルカの技としてはありそうなもんだが……でも、あんなの一朝一夕にできねぇだろ……!」

「それって、ヴィータ副隊長達もですか? 同じ古代ベルカなら……それにさっき言っていた準レアスキルでどーんとか」

「武器越しならともかく、素手なら練習が必要だ。何千何万……呆れるくらいによ」

「実際蒼凪も苦戦していたよ。何度か手の平が焼け焦げたこともある」


……それでも”もどき”と付ける……そんな技に”本家には及ばない”と突きつける恭文君に、ヴィータちゃんは恐怖すら覚えている様子だった。

しかも今の技を出したのは、単なるハッタリじゃない……フェイトちゃん、動きが止まったもの。


「フェイトさんが動かない……」

「当然だよ。バインドによる拘束や砲撃魔法は、使い方を工夫しないと無効化。
射撃は投げ返される。
そうなると近接戦闘しかないけど……」

「テスタロッサも、最初のやり取りで痛感している。
……蒼凪の機動力と小回りは、自分以上だと」


……単純な圧倒に見えるかもしれない。

でも恭文君の中では、ちゃんと勝利の道筋が見えている。

魔力量や出力差を圧倒するための道筋が……そのための準備を一つ一つ、フェイトちゃんの心理も利用して積み重ねている最中。


しかもフェイトちゃん、あそこまで挑発されて……冷静じゃないしなー! これはマズいかも!


「物質操作に長けている蒼凪相手なら、空中戦の方が有効だろう。普通であれば射砲撃なりで追い立て誘い出すが……」

「それもアウトですね。というか、その前にあの子がフェイトちゃんを釘付けにします。
……上手く立ち回る必要があるから、それを考えている最中ってところですか」

「だから、その機動がどうなってんだよ……!」

「………………縮地」


疑問そうだったヴィータちゃんには、そう呟いていた。


「まさかと思うけど、これ……!」

「縮地だとぉ! おいそりゃ……!」

「神速を超える超神速の歩法術……と思われがちだけど、実際は違うみたい」

『驚きだねぇ……魔法戦専門のおのれが、それを知っているんだ』


すると恭文君が楽しげに笑って……地面を踏み締め、ステップを停止する。


『主義じゃあないけど説明してあげるよ。
縮地っていうのは、仙人が使う”地面を縮める術”なんだ』

「仙人!? それってあの、昔話に出てくるような!」

『そう……ただ、武術家的には”それくらい速く動く特殊な歩法”って括りだけどね。
超人的な足の筋力と身のこなしを用いて、初めて実現されるとされている』

「……ブリッツラッシュのようなものを、身体能力のみで発現させているんでしょうか」

「だとしたら、凄い技術……」

「……ううん」


キャロとエリオの言葉には、首を振っていた。

……お兄ちゃんとお姉ちゃん、お父さんに美沙斗さんという先駆者がいるので、なのはには分かる。


「それはあくまでも概要。漫画や小説とかの創作物で刻まれたイメージ。
それじゃあ門の手前から二〇歩くらい離れたところにしか行けない」

「「え……!?」」


恭文君が今、本当に……凄いものをスバル達に見せてくれているんだって……!


(第4話へ続く)






あとがき


白ぱんにゃ「うりゅー♪」

どらぐぶらっかー「くぅくぅくぅー♪」

カルノリュータス「カル♪」

カスモシールドン「カスー♪」


(蒼凪荘の動物さん達、秋の穏やかな気候に誘われ、ちょっとだけ冒険(ご近所のお散歩)に出ています)



白ぱんにゃ「うりゅりゅ、りゅりゅりゅりゅ」

カルノリュータス「カル?」

カスモシールドン「カスカス! カス!」

白ぱんにゃ「うりゅ!」

どらぐぶらっかー「くぅ〜。……くぅ?」


(どらぐぶらっかー、河原で泳ぐお魚や飛び交う蜻蛉を見つけ、ほっこり)


どらぐぶらっかー「くぅー」

白ぱんにゃ「うりゅりゅ!」

カルノリュータス・カスモシールドン「「カルカスー♪」」


(川に落ちないように……ぴょんぴょんぴょーん! ぱたぱたぱたー!)


カルノリュータス「カルカルー♪」

どらぐぶらっかー「くぅー♪」

白ぱんにゃ「うりゅ!」


(ふわふわお姉さん、カルノ、カスモ、どらぐぶらっかーを載せて更にぴょんぴょんぴょん!)


白ぱんにゃ・カルノリュータス・カスモシールドン・どらぐぶらっかー「「「「カルカスうりゅくぅカルカスうりゅくぅー♪」」」」


(一杯遊んだ後は、暗くなる前に帰って……みんなでご飯を食べましたとさ。
本日のED:J×Takanori Nishikawa『REAL×EYEZ』)


恭文「そっかぁ……いっぱい遊んできたんだ」

カルノリュータス「カルカルー!」

カスモシールドン「カス!」

古鉄≪あなた達も随分大きくなりましたしねぇ。そりゃあ独り立ちもするでしょ≫

恭文「ただまぁ、危ないところもあるから気をつけるのは継続だよ? みんなも心配するし」

どらぐぶらっかー「くぅくぅー♪」(「気をつけるよー」のポーズ)

カルノリュータス・カスモシールドン「「カルカス!」」

白ぱんにゃ「うりゅ! ……うりゅりゅりゅ、りゅりゅ」


(ふわふわお姉さん……そう言いながら見るんは、リビングの一角)


フェイト「ふぇ……ふぇー!」

恭文「あぁ……フェイトは恭介のシューティングウルフプログライズキーを、不破さんの真似で壊したからね」

白ぱんにゃ「うりゅ!?」

カルノリュータス「カルカルー」

カスモシールドン「カスカス、カス!」

どらぐぶらっかー「くぅー」

茶ぱんにゃ「うりゅりゅりゅりゅー」(閃光の女神の頭にのっかり、ぺしぺし……慰めたらしい)


(おしまい)






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あきゅろす。
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