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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2017年6月・神奈川県横浜市その7 『まだまだあぶないD/旋風』




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

西暦2017年6月・神奈川県横浜市その7 『まだまだあぶないD/旋風』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――今日、パパとママに連れられて、横浜の……わ、わ、わ……サッカーの試合会場にやってきましたー!

何でもJリーグの凄(すご)い選手の人達と、韓国(かんこく)の人達が試合をするらしいです! サッカー、生で見るのは初めてで……ドキドキしています!


「卯月、パパとママの手を離さないようにね」

「一人でどこかに行ったら駄目だぞ? 迷子になったら、試合も見られなくなるしな」

「うん! ……って、ママー! パパも酷(ひど)いー! わたし、もう十歳なのに!」

「そう言わないでくれるかな。ほら、学校や何時もの駅とかと違って、旅行先だしね」


わたしは島村卯月――えっと、十歳です! だから手を繋がれるような……幼稚園の子どもとは違うのに!

……ただ、パパの言うことは分かる。横浜なんて初めて来たし、人もたくさん。

それで客席はとーっても大きくて、試合をするフィールドも、学校の運動場と全然違う!


「わぁ……大きい! ひろーい!」

「サッカー観戦なんて久しぶりだから、ドキドキしちゃうわねー」

「あぁ。……チケットをくれた取引先には、またお礼をしなければ」

「あなたも応援モード全開だしね」

「そ、そんなことはないぞ!? いや、まぁ……横浜マリノスの選手、多く出ているがな!」


それで、パパもとっても楽しみにしていたみたいです。ママと二人笑いながら、お夕飯の買い出しに出ます。

日産スタジアムの中には、美味(おい)しいお店もいーっぱいあるらしくて……楽しみに歩きながら角を曲がる……その直前で停止!


左側から影が差したのに気づいて、パパとママも両手でガード! すると……とても奇麗な、黒髪のお姉さんが角から出てきた。

白いロングスカートに、薄桃色のカーディガン。黒髪ロングで、瞳はすっと切れ長……お胸は、ママよりずーっと大きい。

その人は抱えるように一杯のご飯を持っていたけど、私達に気づいてぶつからないように停止。会釈しつつ道を譲ってくれた。


それにお辞儀しながら、その人と交差――そのとき、お姉さんの携帯が鳴り響く。


「はい、ゆかなです。はい……お疲れ様です」


お姉さんはたくさんのご飯を持ったまま、器用にお電話していた。その様子を振り返りながら見つつ……というか、見とれてしまった。


「卯月、どうした」

「……きれー」

「そうね。スタイルもすっごくいいし……あなたも見ほれていたし」

「見ほれてないからな!? おい、やめろ……その笑顔は怖い!」


さらさらーって髪が流れて、とっても大人っぽくて……ゆかな?


「ゆかな!?」

「卯月?」

「あのあの、声優さんの……恭文さんが大好きな!」

「あぁ……まぁでも、お仕事中でも、そうじゃなくても、声かけは駄目よ? ご迷惑だから」

「は、はいー!」


あの、そうだよ! あの人だよ! 学校同士で知り合った……年上のお兄さんが大好きな声優さん! 画像のまんまだった! 凄くきれーだった!

それで恭文さん、ゆかなさんを見ているとすっごく嬉しそうにしていて……うぅ……!


「…………」


自分の髪を触ってみる。黒髪ではないけど、長さは……ママと同じだから、肩くらい? それでお胸は……子どもだから、やっぱりペッタン。

服装……スカートだけど、ちょっと子どもっぽいかも。いや、子どもだから仕方ないけど。


つまりつまり、私としては、その……うん!


「あんなお姉さんに、なりたいなぁ……」

「……卯月……そういえば、例の恭文君とは随分仲良しに」

「初恋みたいよー? ガンプラバトルの趣味も合うから、そこも嬉しいみたい」

「頑張る……私、頑張ります!」

「ほらー」

「できればもっと、穏やかに育ってほしかった……!」


まずは髪……伸ばして、みようかなぁ。服も……お洒落(しゃれ)、ちょっとずつ勉強してみるの。

そうしたら、あのお姉さんみたいになれるかなぁ。キラキラした、奇麗なものに――。


そんなことを考えながら、パパ達と一緒にご飯を買って……座席に戻る。


クリームがいっぱい載った、カップ入りのフレンチトースト。

豆大福……美味(おい)しそうだけど、デザートだから後回し。


今日のお夕飯、まずは黄色いライスに取りさんが一杯載った≪オーバーチキンライス≫です。

黄色いライスはどことなくいい香りがして、取りさんも照り焼きマヨネーズでとっても濃厚……!


「美味(おい)しいー」

「えぇ。そう言えばニューヨークではポピュラーなのよね」

「いわゆる屋台飯だな。出張中に食べて、感動したことがあるよ。卯月、こっちの横濱ドッグも美味(おい)しいよ」

「うん!」


えっと、これはソーセージをパン生地で巻いたもの……って言ってた。これもかみ締めると、ソーセージがぷりぷりジューシーで、嬉(うれ)しくてニコニコしちゃう。


「パパの言う通りだね! これも美味(おい)しい! でも」

「何かな」

「何だかお祭りみたいー」

「ふふ、そうね。たくさんの人がいて、みんな一緒に同じ試合を見て盛り上がるんだもの。お祭りよね」

「でも、だからこそマナー良く過ごさないと駄目だぞ。お祭りは後片付けも含めてお祭りだ」

「はーい」


楽しみだなぁ。サッカー、あんまり詳しくないけど……簡単に予習はしてきたし。

またチキンライスを頬張りながら、パパと、ママと、笑顔で試合前のフィールドを見つめ続けていた。


あ、それと…………恭文さんにもメッセージ、送っておこうっと。ゆかなさん、本当に奇麗で……私も頑張りますって♪


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


十八時三十分――いろんなものをチェックした上で、横浜ファンタジアパークへ到着。

途中買ってきた、Hotto Mottoのチキン南蛮弁当をかっ込みつつ、人気のない遊園地でノンビリしていた。


――警察官として、自衛官として俺達が守ろうとしているものってのはなんなんだろうな――


それはTOKYO WARに関わったとき、ある男が言っていた言葉だった。

主犯のシンパであるその男は、僕と……現在失踪中な『正義の味方』にこう切り出した。

自嘲気味の言葉だった。でも同時に、この人はその真実を受け入れている。そうも感じ取れる、とても軽快でありながら重い声。


そのとき、僕は奴に……柘植に追いつくという選択肢をとった。まずはそれからだと。

でもそれ以外『何もできなかった』とも取れる。今はどうだろう。僕は今、何ができる。


そうして試されている。

現実を知らない、夢を見続ける世界――。

それを守ることは、『本当に正しかったのか』と。


きっとこれからも、試され続けるけど……いちごさんからも、再確認とエールをもらったんだ。まずはこの件から乗り切ってやる。


「……我地に平和を与えんために来たと思うなかれ」


……チキン南蛮、最後の一切れをご飯と一緒に味わい……ごちそう様。

ささっと後片付けして、ゴミは……今回は持ち帰り。ここのゴミ箱に入れても、無意味だしなぁ。

でも汁とか漏れないよう、ちょっと厳重に包装しよう。


「我汝(なんじ)等に告ぐ、然らず、むしろ争いなり」


そうしながら呟(つぶや)くのは、福音書の一節。また降りかかりつつある『幻の戦争』を思いながら、子ども用カートから降りる。


「今から後一家に五人あらば三人はニ人に、ニ人は三人に分かれて争わん。父は子に、子は父に、母は娘に、娘は母に」

「ルカによる福音書……らしくもなくセンチか、恭文」

「そりゃあね。一体何の因果だろうとは思う」

≪まぁ強いて言うなら……私達が余りにカッコ良すぎるから、ですかねぇ≫

「だねぇ……」

「いや、それだけは絶対ねぇよ……!」

「いえ、あり得ます。私にとってお兄様はそういう人なのです」

「そりゃあお前はな!」


ショウタロスは呆れ気味にため息を吐き……ソフト帽を目深にかぶった。


「つーかそれについてはもう決め続けていることだろ。……オレ達は街の……可能性の涙を見過ごせない」

「それが私達≪ダブル≫だ。というわけで恭文、私達も暇だから暴れさせろ」

「いや、それは」

「いちごを泣かせた手前もある」


それを言われると弱い……さっきはなにも言ってくれなかったけど、それでもって感じか。

ショウタロスも、シオンも、それは変わらない。だから……結局僕はまた、みんなに押し切られるしかなくて。


「今、一緒に戦わないのなんてあり得ない……か」

「苺花もライブには来るそうだからな。それでなにもしないわけにもいくまい」

「お兄様がウィザードメモリと出会ったあの日から……いえ、それよりも前から願い、生み出す風……それを止めたくはありません」

「僕達のダブルは、ただの戦闘兵器じゃいけない。それは翔太郎達と同じだし」

「おやっさんやシュラウド達との約束でもあるしな。
……だから、半分力貸せよ……相棒」

「……だね」


なので……袖から小刀を取りだし、七時方向に投擲……七時方向に向ける。刃はコンクリの地面をたやすく突き刺さり、近づいてきた人影を静止させる。


「うお、あぶね!」


すると暗闇の中、走る火花でその姿見が一瞬映し出される。それについホッとしてしまった。


「動くなベイビー……弾が外れるから」

「待て待て! 私だ私!」


……更に両側から迫る気配。すぐさまシオンへとキャラチェンジ……身体を、命を、感覚を全て預けると、僕の姿はシスター服を纏ったシオンそのものに。

シオンは打ち込まれた打撃を左手で受け止め、すぐさま左後ろ蹴り。意識を奪うに足る肘打ちを制止……そのまま襲撃者を吹き飛ばす。

こちらも最初に襲ってきた男を投げ飛ばそうとするけど、その人は素早く身を翻し受け身。シオンも無理せず後ろに下がる。


「お姉様」

「あぁ」


更に素早くシオンがヒカリとキャラチェンジ。距離を取った二人に素早く両手をかざし、白色のバインドを展開。

受け身を取った直後ということもあり一瞬で揃って動きが戒められ、即時発動タイプのバインドは成功。そこから更に地面にも魔法陣を展開し、二人を更に縛り上げる。


「ちょ、お二人ともぉ!?」

「お前もついでだ」


更に黒ノースリーブシャツ・ミニスカ・ハイソックス姿となったヒカリは、トオル課長もバインドで拘束……はい、これで悪い大人は終了っと。


「ちょ、恭文……というかヒカリ! シオンもこれは駄目だよ!」

「なにを言うか。平然と意識を刈り取ろうとしたのはどこの誰だ」

「……一度止まって、捜査関係は信頼できる人達に預けられないか。
当然俺と美由希も、フィアッセ達についている弓華さんも協力する」

「もちろん鷹山さんと大下さんって刑事さんもだよ。そこも絶対なんとかする……全力は尽くすから」

「それじゃあ遅い。なにせ核爆弾は今日……すぐにでも爆破される可能性があるからな」

「いや、だからそれも含めてだよ! 舞宙ちゃん達だっているんだよ!?」

「それならご心配なく。既に絹盾さん達には問題なしと宣言しましたので」


ヒカリが左手をスナップさせ、シオンが右手で髪をさっとかき上げると、その襲撃者……美由希さんと恭也さんは、渋い顔で顔を見合わせて。


「私達という風は、止まることなど決してしない」

「まぁ、悪いが……割を食ってくれ。つーかオレ達はともかく、鷹山達はマジで言っても無駄だぞ?」

「そりゃあまぁ、分かるんだけどさ……! というかこれはなに!? なんで女装!? というか、声から違うんだけど!」

「……恭文のキャラチェンジです。シオンちゃん達とすると、身体がそのまま乗っ取られて」

「はい!? え、じゃあ……」

「今は私のターンというやつだな。……さて……こうやって襲ってきたということは、お前達はそっち側と見ていいんだな?」

「いやいや、ちょっと待った! 僕達はただ、一旦止まって……それに今、とんでもないことになっていて!」

「キャロットのクローズドカジノだろう? また派手にやらかしてくれているようだな」


ヒカリが拳を鳴らしながら告げると、トオル課長が半笑い。そりゃそうだ……全部分かった上でってのは普通あり得ないもの。

でもねぇ、そうなる要因は分かっているでしょ? 松村署長といちごさんから聞いたもの。武器を持ってくるのに一悶着あったってさぁ。


「美由希さん……恭也さんも残念です。妹さんが泣きますよ?」

「いや、一切の弁明や容赦もなしなの!?」

「あれ、言いませんでしたっけ? 私達は自分を好きな人だけ好きなんです」

「「「最低か!」」」

「そりゃ否定できないがよぉ……! でも違うならより最悪だろ! つーか身内でつぶし合いってなんだよ!」

「いや、それも君達を一旦保護して、その上できちんと手順を踏んで捜査をだね!」

「核爆弾を韓国で盗んで持ち込んだのも、爆破させようとしているのも内調と警備局の連中だぞ! そんな暇はねぇよ!」


だからショウタロスが……普通の人間には見えない、しゅごキャラ状態のショウタロスがそう告げると、揃って三人の表情が凍り付く。

その様子に、同じくしゅごキャラ状態なシオンも大きくため息。


「あなた方は、今回置いてけぼり状態という自覚もなかったんですね……。仕方ないですし、責めるのは理不尽ですけど」

「は……!?」

「おい、どういうことだ……」

「……絶対に今、変な返しはするなよ?
連中、尾藤とファンの脱獄前に、横浜刑務所にいやがったんだよ。ブラックマーケットの騒動前には、韓国にもな」

「更に言えば、佐分利一真という政治家が斡旋したアメリカと中国の武器密輸……裏ビジネスの横行をダシに、その現場を核爆破。平安法の強制的施行と反対派の一掃を目論んでいます。
その現場は横浜スタジアム。つまりキャロットのカジノで行われている非合法ギャンブルも目くらまし……恐らく核爆弾はスタジアムの方にあります」

「じゃあ、先輩達は……」

「そちらに向かっています。水橋参事官達内調の人間も控えているでしょうから」


シオンとショウタロス……更にヒカリの力まで持ち出している状況に、僕達の言葉が嘘ではないと察し、三人はまた顔を見合わせて。

……ほんと、一緒に行動していなくてよかったよ。絶対今目立っているこっちに戦力を向けてくると思ったしさ。罠を張りたい水橋達だけじゃなくて、トオル課長達もさぁ。


そこは鷹山さん達も予測していたから、心配してくれてはいたんだよ。ただ……ねぇ。


――はっきり言います。恭也さんと美由希さんの実力は、二人より上です。もちろん僕よりも――

――異能力者でもあるお前よりも?――

――……奴ら、平然と銃弾を予測して避けるわ、切り払うわで人間を超えていますから。それに神速もある――

――簡単に言うと、かくかくしかじか――という御神流の奥義です。これを使っている間は、早回し状態も同じですから。
多分キャラなりでも使わない限りは、そのまま鎮圧されます――

――よし、やっちゃんに任せた!――

――俺達、楽しくサッカー観戦してくる!――

――即決かい! ちくしょー!――


……こんな様子だった。それもいい笑顔で……思い出したらムカつくし!

ああもういいや! 今回については、その前に……この空気が読み切れていなかった馬鹿三人のことだよ。理不尽とは言うことなかれ……さっきの、本当にやばかったんだからね!?


「な、ならやっぱり保護を受けてよ!」

「だから、そんな時間は……!」

「大丈夫! 今、本部長もこう言っていたから! 逮捕など考えなくていい……殺せ! 邪魔する奴も、嘘をつく奴らも、全員殺せぇ!
私の街で好き勝手をする無法者など――見境なく全員ぶっ殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! ……って」

「横浜の警察はどうなってやがるんだよ!」

「……本部長、とても穏やかで優しい方に見えたんですけど……」

「それもいわゆる外キャラなんだよ! あの人、切れたら先輩達や君達よりやばいんだから!」


え、そうなの!? 貫禄だけでどうこうはしていなかったと……いや、でもそれなら……。


【…………なんて素晴らしい人だったんだ】

「「「ちょっと!?」」」

【心、洗われました】

「「「洗われるなぁ!」」」

「よかったな、恭文……理想の上司に会えて」

「いや、会わせちゃいけなかったっと思うぞ? オレは」


……そこで突如、九時半方向に光が宿る。


既に営業終了して久しい、この無人の遊園地に……それは五百メートルほど先にある、メリーゴーランド。

他のアトラクションが稼働していないせいで、ファンシーなBGMのみが鳴り響く。

でも、それで心は沸き立たない。不気味さすら感じさせる、異様な光景だった。


……更に大下さんから預かった、携帯電話に着信。画面に映る着信ボタンをクリックすると、通話が繋(つな)がる。


「もしもし」

『メリーゴーランドを見てみろ……美咲涼子を返す』


それだけ言って、すぐ切れる男の声。ヒカリの声で……別人なのとかすっ飛ばした上でだ。


「どうする、恭文」

【手はず通りだ。みんなのバインドも解除】

「分かった」


仕方ないのでみんなのバインドも解除させて、全員で移動開始。さすがにこの状況で、僕を抑えようとする奴はいなかった。

途中にある、ガリバートンネルを模した道を抜け――ようとしたところで、トオル課長の首をヒカリが掴んで静止!


「んぐ!?」

「馬鹿正直に近づく奴がいるか」


ヒカリは左手をかざし、パチンと指を鳴らす。その瞬間黒い光がいくつも生まれ、それらは一瞬で僕達の影を吸い取り……その姿見すら映し出した。

吸い取られた影はすぐ復活するけど、それすら誰も気づかないほどに、精巧なコピーができて……これもヒカリの能力だ。

ヒカリはショウタロスやシオン、僕みたいに、前に出て戦う力は弱い。その代わり二人にはない自由飛行能力や、さっき見せたようなバインド、僕にはできない多弾精製や砲撃などでのミドル・ロングレンジ戦を得意とする。


異能を絡める形なら防御能力もあるし……だからこその“守りたいものを守る魔法使い”。ダブルの左を担う光の守護者だ。


「え、これって……!」

「私の得意技だ。それより静かに……」

「つまり、あれって……」

「間違いなく罠だ」


影達は慎重かつ素早く、メリーゴーランドへと近づく。

回転するメリーゴーランドの一角に、青いビニールシートをチェック。

揺らめく馬達と馬車をすり抜け。


煌(きら)びやかな装飾とライトの輝きを浴びながら、ビニールシートに手をかけ……慎重に剥がす。


……それは馬車の一つだった。

お姫様が乗るようなそれには、当然シンデレラなどは乗っていない。

かと言って、それを夢見る女の子もいなかった。あるのは、もっとおぞましいものが二つ。


一つは予想通りに、起爆寸前の爆弾。


もう一つは……尾藤の頭部だった。


首から下がなく、その傷口は切断というには荒すぎた。

まるで引きちぎったような痕に全てを察したけど、もう遅かった。

爆弾目がけて、タイミング良く砲弾が撃ち込まれ――。


『僕達』とメリーゴーランドは炎に包まれる。


「……見えたな、恭文」

【うん。尾藤の頭だけだった。美咲涼子なんて影も形もない】

「やっぱりトラップ……! なら、もしかして」

【周囲に連中はいますよ。……でもご心配なく】

「恭也、美由希、下世話をやらかした分くらいは働いてもらうぞ」


ヒカリはゆっくりと両手を挙げ……。


「私と恭文のこころ、アン」


『解錠(アンロック)』


「ロック!」


両手の指を素早く動かし、解錠――黒い光が繭のように身体を包む中、それらはヒカリの身体に新しい衣服≪ジャケット≫として装備される。


上着は黒のハーフジャケット。

ハイソックスは片方だけロングというアシンメトリー。

両手には新しいグローブがバッテン模様付きで装備。


更に背中からは同じ色の翼六枚が展開。ヒカリは赤い瞳を輝かせ、左手で光の残滓を振り払う。


【「キャラなり――ライトガードナー!」】


そう、これこそが光の守護者……ヒカリと僕で織りなす≪ダブル≫の一角!


「……ねぇ……みんな、今更だけど、キャラなりを持ち出すってアリ?」

「仕事には使わない主義だったんじゃないのか」

「それも状況次第だ」


ヒカリは右手で黒いスフィアを放出……。


「いちごを泣かせた責任くらいは、取らないとだしな」


先ほどよりも力強い輝きにトオル課長も目を輝かせる中。


「恭文」

【うん】


キャラなりは……ヒカリ達とのキャラなりは、ただ僕の可能性を百二十パーセント引き出すだけじゃない。

みんなに身体を、命を預ける分、僕もみんなと呼吸を合わせなくちゃ本領そのものを発揮できない。それがエクストリームやライナーならなおさらだ。

だからこそ、声を合わせる……息を、鼓動を、全然違う僕達自身をシンクロさせる。そのための儀式≪トリガー≫を引く。


【「――ガードナー」】


ヒカリはそれを握りつぶす。

僕と一緒に、意識を集中して……容赦なくだ。


【「シャインフィールド!」】


黒い光は一瞬でつぶて隣り、はじけ飛びながら消失する。いや……見えない形でこの遊園地全体へはじけ飛んだ。

そうして見える……見通せる。隠れて笑っている悪意が、どこかでトイレをぶち壊した馬鹿どもの鼓動も……その全てが!


「え、あの……」

【裏技ですよ。今この遊園地全体にいる敵の配置、動き……その全てが僕達には伝わる】

「数は三十。対物ライフル持ちもいるし、身なりもきちんとしている……見覚えはないから、恐らくは水橋の部下かなにかだろう。これなら私達もサポートできる」

「なんか凄いことしているなぁ! というか……異能事件のエキスパートって、こういうところから!?」

「そんなところだ」

「…………恭ちゃん」

「あぁ。俺達もしっかり掴んだ」


恭也さん達は小太刀を取りだし、僕も乞食清光を改めて装備する。トオル課長はきょろきょろしているけど問題ない。


「だが向こうの装備や姿見……ここから鎮圧するまでどう動くかまでは読めない。そこは任せるぞ、ヒカリ」

「あぁ」

「じゃあ僕も……!」


というかトオル課長もコルトパイソンを取りだし、相談を確認。驚きはそれとして、聞き返しはなしで臨戦態勢へ突入する。


「だが制圧したらすぐに口をふさげ。昼間に襲ってきた奴らは、生かして捉えても舌を噛み切った」

「……箝口令がしかれたのは、その辺りが原因かぁ……!」

「なら気をつけていくよ。トオル課長もヒカリと援護をお願いします」

「はい! でも、みんな気をつけて……さくっと片付けましょう!」

「「「了解!」」」


というわけで、ヒカリは左手を振りかぶり……自分の周囲に半物質化した異能の短剣を三十本射出。


「ライトダガー、セット……打ち込んだら自動追尾で連中のところへ飛んでいく。その隙に飛び込め」

【対物ライフル持ちもいますから、まずはそれから……じゃないといくら恭也さん達でも危ない】

「それも了解だ」

「――行くぞ!」


ヒカリは開いた左手を突き出し、ダガー達を一斉射出。それにあわせて恭也さん達も飛び出していった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


移動中の車内――携帯から、部下の連絡を受ける。既に試合は始まっているが、まぁいい。

既に必要な人員は配置している。この国を目覚めさせるため、命を賭けてくれる英雄達。

ジョン・マードック、恩金包はSP達と試合を楽しんでいる最中。


だが奴らのVIPルームは、既にこちらの制御下。商談を成立させてもらった上で、あの女の好きにさせるとしよう。


「そうか。鷹山と大下は」

『トイレに入っていましたので、そのまま狙撃を。こちらも成功しました……トイレごとこっぱ微塵(みじん)ですよ』

「念のため調べておけ。奴らはこれまで、死んだと思っても生きているような奴らだからな」

『はい。それと美咲涼子ですが、本当にそちらで』

「構わん。キャロットについては、我々で有効活用すればいい。
お前達は確認作業が終了後、すぐに撤収しろ。こちらの人員は足りている」

『は……では、失礼します』


そうして報告は終了。……もうすぐだ……この国は変わる。私が変えてみせる。

これまで何度、この国でテロが起きてきた。そのたびに被害を出しながら進んできた、世紀末の世をなぜ省みない。

新世紀になり、戦争はその在り方を大きく変えている。それに伴い、武装や装備も変化している。


なのに……徴兵制だと。違憲だと……何も知らない家畜どもが。


私はこの街が嫌いだ……この国が嫌いだ。どれだけ守ろうとしても、奴らは好き勝手なことばかり言う。

権利のみを主張し、義務を果たさない。義務を果たさないものに、権利など存在しないのに。

私は……私達は駆逐する。そんな小うるさい声など、気にする必要がないと、家畜を惨殺する。


三発目の核――たったそれだけで、日本(にほん)史上ではTOKYO WARに並ぶほどの惨事となるだろう。


「さぁ、仕上げだ……邪魔な刑事と忍者は消えた。……全員気合いを入れろ! これで日本(にほん)は変わる! 革命のときはもうすぐだ!」

『はい! 水橋参事官……いいえ、司令官殿!』


我々は国防の最前線に立つ者。ゆえに裁く権利がある……義務を果たし続ける我々は、権利を行使するに足る存在。

この国に蔓延(まんえん)する夢想を断じよう。そうして真の現実を知らしめよう。


そのときこそ、日本(にほん)はより強くなる。国も、国民も淘汰(とうた)され……世界一の大国となるだろう。


「……ん?」


そこで運転席の部下が、顔をしかめた。


「どうした」

「いや、後ろの車……さっきから付けているような」


……そこで猛烈に嫌な予感が走る。慌てて振り返り車をチェック。

銀の外車……くそ、誰が乗っているかは、暗くてよく分からないな。

まだ市街地で決起直前だ。下手なことはしたくないが。


「致し方在るまい。少し遠回りして、様子を見ろ。もしスタジアム近くにきても離れないようなら」

「民間人かもしれませんが」

「テロの前に偶然巻き込まれた、不幸な犠牲者だ」

「は!」


そういう犠牲の上で、これからの国は成り立っていく。むしろ感謝してもらおうか。

今日我々に殺されたことで、数百人……いいや、数万人という人民の未来を形作るのだから。

我々が蛮行によって生み出す犠牲は、そういうものでなくてはならない。……それが、決めた道を行くということだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……襲撃……奇襲の基本はなにか。それは相手に状況判断の隙を与えず、ある種の混乱を呼び起こしている間に目的を達成すること……とは蒼凪君とヒカリちゃんの談。

では混乱とはなにか。それは情報処理の滞り……情報の飽和による処理順序の組み直しや、優先順位というレッテル貼りをし直すことだ。

この辺り、発達障害を患っている蒼凪君にはとても身近なことらしい。自分の予定やルーティンと違うことを入れ込まれると、いろいろ辛いってのは僕も本で読んだことがあるから分かる。


つまるところ、控えていた連中はこの混乱状態に置かれた。それはそうだ……僕達を爆死させられたと思ったら、突然変な短剣が飛んでくるんだから。

しかもそれを避けても、鬼みたいに強い兄妹が飛び込み切り伏せてくる。短剣も逃げても逃げても追いかけてきて、必ず命中させられる。

ここで情報処理の滞りという点が頭をもたげる。実のところ蒼凪君とヒカリちゃんは、キャラなりできて凄いって感じのことは一切していない。


むしろその行動の本質はただひたすらに効率的……おぞましいほどの冷酷さすら窺える。

確かに内調の連中は、そういう情報戦や政治的なやりとりとかではエキスパート。その専門性では蒼凪君達も、僕も勝てない。

でも、銃器も絡めた戦闘ではそうもいかない。現場に出張る分、こっちの方が強いしね? それが異能も絡めた戦闘ならなおさらだよ。それこそ蒼凪君達みたいに、専門的にやって覚えることだもの。


……だから冷酷なんだよ。キャラなりを持ち出すことで、揃って“相手の弱点をさらけ出して、潰しやすくした”わけだしさ。

当然わけの分からないことに対しての状況把握が優先されちゃうから、腕利きである恭也さん達への対処も後回し。文字通りキャラなりを出すだけで……それだけで場のイニシアチブを握ったんだよ。

それが蒼凪君だけじゃなくて、ヒカリちゃん……しゅごキャラのみんなも揃ってなんだから、ほんと恐ろしいというかなんというか。覚悟決まりすぎじゃない?


とはいえ、そのおかげで六倍近い戦力差も覆せて……犯人達は全員陥落。一カ所に集め、縛り上げ……自殺もしないように処置した上で、蒼凪君もキャラなりを解除。


「さてさてさてさて……」


それで奴らの携帯や、ちょうど持っていたノートパソコンなどもかたかたと弄っていて……。


「きさ、まら……この、国辱者どもが……」

「恭文、どう」


立ち上がろうとしていた雑魚の一人を踏みつぶし、美由希さんが彼へ近づく。


「ぐはあぁえ!?」


……今の、背骨をへし折らなかった? 体が陥没しているんだけど……凄(すご)い人に惚(ほ)れられているなぁと、僕も続く。


「バッチリですよー。水橋参事官達の位置も、GPSでチェック。IP通信も随時記録できるよう調整しました」

「お、それはよかった。じゃあそっちは署にいる水嶋達に」

「それもリンク済みです。いやほんと……トオル課長、いい部下を持ったと思うよ? これなら電子戦は水橋さん達にお任せできるし」

「うん、課長としてすっごく感謝しておく!」

≪しかもログに残っているだけでも、相当やらかしています。
韓国への潜入任務、尾藤とファンの脱獄支援。そして私達への攻撃――≫

「それらも全て、港署に伝わっているんだね! いや、よくやった! さすがは第二種忍者……まさかハッキングとかもOKとか!」

「そっちの方面では、恭文は【魔導師】ですから」


それくらいレベルが高いってことかぁ! でもできれば、先輩達と同じノリで暴れるのは……無理か! 知ってた!


「でもよくできたね。ジャミングみたいなものは」

「キャロットの各サーバーに手を回して、バレないようにはしていました。
しかも管理者権限がないと、アクセスできない領域を使っているので」

「つまりコイツら全員、キャロットの【管理者扱い】だったわけか……あぐあぐ」

「……お姉様、そのポン・デ・リングは美味しそうなので後でください」

「要求してんじゃねぇよ……! だがそれ、アクセスできないってことは……あれか? 生体認証的な」

「しかも端末のSIMも利用した認証だからね。外部からでは僕でも無理だ」

「し……えっと」


あ、高町さんはさっぱりな人なんだ。小首を傾げまくっている。


「……ようは端末ごとに設定されたIDも、パスワードの一つなんです。それと本人の指紋とかがないと、どうやってもアクセスできない」

「あ、そういうことね」

「でもそれ、キュロットとの因果関係は確定だよね」

「水嶋さん達も同じ意見です」


それくらい秘匿性の高い領域で、やり取りしていたと……いや、よく考えているわ。

海外のサーバーを経由して、ハッキングってのはお決まりだけどさ。この場合利用サーバー自体が買収されているも同然で。

仮に捜査でサーバー情報を閲覧しても、意味がないかもだし。なるほど……だからキャロットを抱き込んだわけか。


でもその結果、自ら国辱ものの汚点を残そうとしているとか……ほんと頭がおかしいんじゃないの!?


「トオル課長、スタジアムに増援って送れますか。もちろん試合を止めない形にはなっちゃいますけど」

「美咲涼子の確保だね。松村署長とも相談して、すぐ整えるよ」

「お願いします。……僕は水橋達が暴動を起こさないよう、しっかり舵取りしなきゃいけないんで」


蒼凪君は、アイツらが使っていたインカムを装着。

回線から切り替えているから、アイツらに察知される心配はないそうだよ。……つまり、情報戦でも圧倒して……すりつぶす構えなんだよね! そういうところだよ、冷酷って表現したのは!

でもこれが若い風……その強さにビクビクしていると。


≪〜♪≫


僕のスマホに通話。それを取ると……あれ、深町本部長だ。


(……殺してないよなぁ、警備局長……)


ビクビクしながらも電話に出ると。


「はい、町田です」

『深町だ』


あぁ、冷静な声だ。よかったぁ……キレっぱなしだったら、どうしようかと。


『吐いたぞ。核を持ち込んだのは、警備局と内閣情報調査室の過激派一味。
鷹山達も、尾藤とファンも、その隠れみのとして利用されたようだ』

「横浜で『三発目』の核を爆破させ、平安法を通すため……ですね」

『なんだ、もう分かっていたのか。……なら証拠も』

「バッチリです。一味が使っていた、キャロットのサーバーも蒼凪君達で掌握を。
……核の強奪、尾藤達の脱獄支援……現段階でアウトな証拠ばっかりです」

『そうか……』

「あと例の美咲涼子、どうも海外の過激派と繋がっている可能性があります。
彼女も確保しないと、今回の件が大々的に暴露……いや、何らかの政治的取引に使われて、大損害になる恐れも」

『では改めて許可を出す……殺せ』


ホッとした様子の本部長から、とんでもないワードが飛び出た。


『弾薬も、銃器も、ありったけ使え。市民に被害を出さなければ、どこでぶっ放してもいい。責任は全て私が取ろう』

「ほ、本部長!? さすがにそれは」

『もう一度言うぞ。私の街で好き勝手をする無法者など……誰一人逃がさず! ぶっ殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


そうしてキレる電話――とんでもない声で叫んだから、蒼凪君や高町兄妹も目を丸くするばかりで。


「あぁ、本当にOKなんだ。いやぁ……いいねいいねー!」

≪深町本部長、いい上司じゃないですか。私達をどう動かせばいいか、よく分かっている≫

「きょ、恭ちゃん……!」

「……よりにもよって、ガソリンをぶっかけるとは」

「ほんとすんません!」


そして蒼凪君が拳を鳴らしつつ、どこかへ歩き出す。


「ちょ、蒼凪君……どこ行くの!? まさか、今から先輩達に追いつくつもりじゃ!」

「手品がありますので」

「そうくるかー! あぁ……」


駄目だ、止めても聞かない! それに水橋参事官達にも、仕返しする気満々だし!

始まる……始まるぞ! 恐れていたことが! 最大級のパーティーが!


「分かった! 先輩達だけも危ないし、あくまでも支援……こっちが追いつくまでの支援だから! いいね!? あんまり派手に暴れちゃ駄目だよ!?」

「分かっていますって」


分かってないだろうな、きっと! だってさ、そう言いながら奴らの対物ライフル、一本丸抱えするんだから!


「恭文ぃ……!」

「……恭也さん、美由希さん……いろいろ、覚悟をしておくべきですよ」


だからつい、ぽつりと呟いてしまっていた。その背中を……楽しげに、先輩達と戦うことすら面白いことだと笑って進むあの子達を見ながら、ついね。


「まぁそれは、舞宙ちゃん達もですけど」

「……それは、どういう意味のものでしょうか」

「いえね、先輩達を見ていたからよーく分かるんですよ。あの子は……あの子達はきっと、一生このままです。こういう遊びの楽しさにハマっちゃっているから。
……でも、それだけじゃ足りないんですよ」


それは先輩達がいなかった七年の間に……僕も課長になったりして、痛感したことだった。


「だからせめて……僕みたいな、お人よしで優しい後輩。
深町本部長、それと近藤課長みたいな、厳しくも懐ある上司。
そういう仲間や居場所を……そう思える人達と出会えた喜びへの感謝を、伝えていかなきゃいけないなって」

「町田課長……」

「幾ら突っ走っても、帰れる場所がある……それってさ、なかなか手に入りませんしね」

「……えぇ。それは……俺達にもよく分かります」

「うちも妹があんな感じなので、それはもう手を焼かされていて……だからほんと、突き刺さります」

「あはははは……それならよかった」


だから蒼凪君……先輩達も、僕はもう止めないよ。まぁ課長として、後輩として、いろいろ思う所はできちゃったけどね?

もちろん七年前みたいに、先輩達が死んで、そのまま……そんな日常を過ごす毎日に戻るのが嫌だったってのもある。


だけど……それでもさ、僕ができることはあって。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


松村課長といちごちゃん……警棒の弓華さんが俺達に用意してくれたのは、車や銃器だけじゃなかった。

わざわざ予備のスマホやらまで持ってきてくれたんだよ。つーかいちごちゃんについては、自分のスマホを貸してくれた。なので俺のはやっちゃんに預けられたんだが。


そんなスマホの一つに連絡がきたので、助手席のタカに出てもらう。


「そうか……証拠は揃っているんだな」

『えぇ。僕達の逮捕命令も解除されています』

「いいねいいね……水嶋と鹿沼には、俺達からもボーナスを出さないと! ならやっちゃん、核爆弾の爆破時刻は!」

『計画書では、試合終了と同時にドガンです。会場の電光掲示板とリンクさせて、表示が出たら』

「またしゃれてんなぁ。そっちから解除は」

『さすがに無理です。向こうの通信でも、それらしい会話はまだ』


つまり、このまま参事官達をスタジアムへ近づければ、それだけでアウトかもと。

何せ目的が目的だからなぁ、自爆テロくらいはやらかしそうだ。……となれば。


「なら蒼凪、まずは神奈川県庁――そこから赤レンガ倉庫へ向かえ」

『赤レンガ倉庫? いや、あっちはもう観光地で』

「アイツらが勝手に向かうだろ。だからなんとかして港に追い込むぞ」

『なるほど……それなら手がないわけじゃありませんから、ちょっと時間をください』

「急げよ」

『なので鷹山さん、スマホはイヤホンを付けた上で持っておいてください。大下さんもですよ?』


……そこで、タカが冷や汗を垂らす。運転中だけど見逃さなかったよ、俺はさ。


「……なんで、そことスマホを紐付けした?」

『奴らのIP通信網は既に掌握しています。
その端末もIP電話が使えますから、ラインを繋ぐんです』

「え……」


タカ、そんな……助手席から俺を見るなよ。そんな、迷子の子イヌみたいな顔をされてもさぁ。

ただ見捨てられないのは、二十年の付き合いがあるゆえ。運転はキッチリしつつ、タカに顔を寄せてアドバイス。


「盗聴したのが、そのまま聞こえるってこと」

「あ、そういう……分かった! お父さん、頑張るよ!」

『頑張ってください。あとできなきゃ、お父さんだけ家族通話に置いてけぼりですから』

「置いてけぼり!?
……おい、蒼凪……聞こえているか!? おい! おい! 蒼凪君−!?」


そこで電話は終了……タカは打ち震えながら、電話と俺を交互に見比べて……。


「アイツ……お父さんに圧だけかけて切りやがったんだけど!」

「反抗期反抗期―。それよりタカ、ダッシュボード」

「あぁ……!」


タカは震えながらダッシュボードを開く。一緒に渡されたイヤホンマイクを接続し、スマホはそのままポケットへ……いや、そこで着信。

画面に表示された、『認証してください』の表示に怯(おび)えるおじいちゃん。


「お、押せばいいの?」

「指タッチでOK」

「港署に向かって、そのまま戻って爆発とか……しないよね」

「しないしない」


なおタカが言っているのは、ブレーメンとやり合ったときだよ。

ミサイルを発射されたものの、管制装置は俺でも手出しできなくてさぁ。

そうしたらタカが適当に弄ろうとして、あの大惨事だよ。それゆえにタカは……そうなんだ。


あれ以来、『指タッチ恐怖症』に陥って……! おかげでスマホどころか、美女の誘惑にもタッチできない。


「お父さん、指タッチ恐怖症克服のお時間ですよ」

「が、頑張る。…………えい」


タカは恐る恐るスイッチを押し、認証開始。更に俺の分も準備・装着してくれる。


『どうした』

『いや、後ろの車……さっきから付けているような』


おぉおぉ、聞こえてきたよ。わざわざ全体通信で、他の車達にも指示だししていると。仲間思いだねぇ。


「ユ、ユージ!」

「これがスマホだ!」

「凄いね、指タッチした先の世界!」

『致し方在るまい。少し遠回りして、様子を見ろ。もしスタジアム近くにきても離れないようなら』

『民間人かもしれませんが』

『テロの前に偶然巻き込まれた、不幸な犠牲者だ』

『は!』


わーお、平然と言ってくれるぜ。まぁ、そういうことなら問題ないか。


「……なら参事官殿とそのシンパから、不幸な犠牲者になってもらおうか」

「やっちゃんの話通りなら、核爆弾爆発まで」


車に設置された、デジタル時計をチェック。現在、時刻は七時二十分。


「あと一時間四十分」

「俺達なら余裕だ」


そう言いつつタカは、取り付け式の赤いパトランプを取り出す。


「教えてやるか。奴らが忘れている、大事なことを」

「犯罪は割に合わないってな。……ボリューム最大でかましたれ!」


なのでこっちでスイッチオン――その瞬間、『車内で』パトランプが発動。けたたましい音にハンドルを手放してしまう。


「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「おま、またかよ! スイッチ切れ! スイッチィ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――テロの前に偶然巻き込まれた、不幸な犠牲者だ」

「は!」


そういう犠牲の上で、これからの国は成り立っていく。むしろ感謝してもらおうか。

今日我々に殺されたことで、数百人……いいや、数万人という人民の未来を形作るのだから。

我々が蛮行によって生み出す犠牲は、そういうものでなくてはならない。……それが、決めた道を行くということだ。


……だがその車から突然、サイレンの音が響きだした。


慌ててもう一度車をチェック。

なぜか車内で発動したパトランプ。

それで右往左往しながらも、車体上部にセットした奴らは……!


「鷹山と……大下ぁ!?」

「馬鹿な、なぜ!」


慌てて端末を取り出し、先ほど報告してきた部下に再度連絡。


「おい、どういうことだ! 鷹山と大下はこちらにいるぞ!」

『なんですって! そんな馬鹿な……確認を急ぎます!』

「もういい!」


通信を叩(たた)き切り、焦りながらもベレッタを取り出す。


「各員、戦闘準備!」

「市街地ですが、よろしいのですか」

「構わん! 相手はたかが所轄の刑事二人――我らに分が」


……そこで発砲音が響く。防弾ガラス――私の後頭部目がけて、銃弾が放たれ、弾かれた。

防弾ガラスはその箇所からひび割れ、更に五発の弾丸を受ける。それでも砕けることはないが、突然の攻撃に動揺してしまった。


『し、司令官! 奴ら……発砲してきました!』

「……撃ち返せぇ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


転送魔法を駆使し、バレないように夜の横浜を駆け抜ける。

赤レンガ倉庫かぁ……確か、ドラマのあぶない刑事、EDもあそこなんだよね。

まぁ普通なら倉庫街だから安心って話なんだけど、実は今は全く違う。


一九八九年、保税倉庫としての役割は終えているんだけど、そこから再開発が始まってね。歴史ある建造物の良さはそのままにリノベーションして、観光地となっているんだ。

その辺りの流れは鷹山さん達が横浜にいた頃からスタートしているし……確かにこのコースだと、奴らはそこへ逃げ込みかねない。そうなって籠城されたら、さすがに無血開城は難しいよ。

奴らが一般市民を巻き添えにしないという良識を持ち得ないのは、核爆弾を日産スタジアムに仕掛けた時点でお察しだもの。


「だがどうする、恭文! 結界を使うか!」

「いや、まずはもっと単純な手でいいよ」


そこは問題ないと、差し込んだままのイヤホンマイクを右指でとんとん……。


「情報戦を制するとどういうことになるか、内調崩れには教えてやらないとね」

「……なるほどな」

「そもそもそちらで好き勝手をしてきた相手です。むしろ意趣返しとしては……ただお兄様、ギリギリまでネタばらしはなしですよ?」

「だな。なにが飛び出してくるか分かったもんじゃねぇぞ」

「もちろん」


三人を連れて、僕は夜の街を走る……車に気をつけて、路上へと飛び出て車の流れへ溶け込むように……走る走る走る……!

この街はほんと、やけどしそうなくらいに奇麗だけど……楽しいねぇ。この街の刑事ってのもやっぱり楽しそうだ。


「約束したもの」


だから……守るよ。約束したし、みんなのライブだってちゃんと守る。スタジアムで試合を楽しんでいる人達だって助ける。こんなこと、やっぱり大損だもの。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本町三丁目から、神奈川県庁へ向かう……決して長くはない道。

市民様の車には当てないよう、威嚇も兼ねた発砲。

前方でたむろしているティアナ(車)に向かい、タカのガバメントが火を噴く。


そうして反応し、すぐさま離れていく市民のみなさん。


『御通行中のみなさん、お騒がせしております』


なのでみなさんには、備え付けのマイク&スピーカーで謝罪しておこう。


『こちら港署……横浜の平和を守る港署でございます!
前方でたむろしているティアナ数台には、危険な武装集団が乗っております!』


そして反応するのは奴らも同じ。後部座席の窓を開け、スーツ姿の男達がベレッタを取り出し、発砲してくる。

それをスラロームで回避――更にタカも一旦引っ込むので、マイクを口元に差し出してあげる。


『現在追跡中だ。危ないから近づくなよ……ベイビー』

『というわけでそこの車! 今すぐ止まれ! 止まらないと撃つ!』


反対車線はがら空(あ)き……なので中央線を突破し、アクセルを踏みながら横に付ける。


『ぶつかれ! タイヤを狙え!』


奴らは……最右翼のティアナは車体を寄せて体当たり。

更に後部座席にいた奴も、身を乗り出してくる。狙いは……タイヤか。


「おっと!」


なので逆にこちらから飛び込み、体当たり。タイヤを狙ったタイトな射撃は、狙いがそれてカウルに弾(はじ)かれる。

更に身を乗り出していたお兄さんは、こちらの後部ドアに頭を突っ込み、そのまま後部ドアへとうな垂れる。


『くそ……邪魔だぁ!』


それは即座に他の仲間によって蹴り出され、派手にアスファルトを転がった。

なお最右翼のティアナも弾(はじ)かれ、他六台の盾となってくれる。


「もういっちょいったれ!」

「リクエストにお答えしましょう!」


ふらついたところを狙い、更にアタック。

二台の車体は火花を走らせながら、衝突・反発。

こちらもタダでは済まず、後輪が滑り出す。


なのでその勢いは殺さず、そのまま百八十度回答。

最右翼のティアナは他二台へと突っ込み速度ダウン――そのまま神奈川県庁の外壁へと突っ込み停止。

フロント部はひしゃげ、エアバッグにより全員が圧迫。戦闘不能となる。


しかし他の奴らは体勢を立て直し、赤レンガ倉庫方面へと逃げる。


「蒼凪、予測通り奴らは赤レンガ方面へ逃げた! 準備はもういいか!」

『えぇ、ばっちりですよー。もう現場についています』

『く……おい、赤レンガ倉庫へ突っ込め! そこにいる奴らを人質にする!』

『はい!』

「……こんなことも言い出しているけど、本当に大丈夫だよね、君! お父さん、そこで反抗期は許さないよ!?」

『問題ありません。風向きもばっちりだし、水橋達の車もチェックしました』

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」


そっかそっかー! さすがはやっちゃん! 忍者で魔術師で魔導師で……てんこ盛りだけど凄いよ! でもどうするんだろうな、ほんと!

……そこはかとなく、嫌な予感がするんだけど……というか、風向き?


「それでやっちゃん、どうするんだよ!」

『大下さん、速度をもう気持ち落として、七百メートルくらい距離を取ってください』

「いや、それじゃあ」

『爆散したら巻き込みます』

「「…………え?」」

『一緒に殺しちゃいます』

「「………………えぇ…………!?」」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


赤レンガ倉庫の一角……その屋上に飛び込み、素早く回収した対物ライフルを取りだし、更に物質変換――屋上の一部を理解・分解・再構築し、発射台を構築。その上にライフルをセット。

僕の手のひらで握り込めるかどうかという大きさの砲弾を装填し、安全装置解除。


「アルト、観測手は任せた」

≪南南東の……あぁ、少々風が強めですね。気圧は問題ありませんけど、誤差は二.三度ほど修正を。
奴らが暴走しているせいで他の車や歩行者は寄りついていませんけど、余波も考えると射撃チャンスは一度……確実に当ててくださいよ≫

「了解」


――――意識を集中する。スコープ越しに走るティアナ……その左翼に狙いを定める。

全身を脱力しながらも、襲ってくるノックバックを受け止められる気構えは維持しつつ、トリガーを引き絞る…………前にー!


――参事官、駄目です! 罠です! 赤レンガ倉庫には県警の部隊が待ち受けています!


そう叫んだ上でトリガーを引く!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


逃走しながら、横田警備局長や深町本部長と連絡を取ろうとする。

だがどちらも無理……なので県警に直接かけ、私の命令で兵を動かす。

幸い県警本部もすぐ近く。これなら問題はないとほくそ笑んでいると、ファンタジアパークの部下から連絡。


『参事官駄目です! ――参事官、駄目です! 罠です! 赤レンガ倉庫には県警の部隊が待ち受けています!』

「な」


その瞬間……通信からなぜか砲声が響いた瞬間、右翼を守っていた車が……その前方の電柱が突如はじけ飛ぶ。

中程から軋む音を響かせながら、電柱が回転し……そのまま反対車線に叩きつけられて沈黙する。


もし一歩でも間違っていれば……そんな衝撃に心底ぞっとさせられている間に、間抜けな声だけが漏れる。


「んだと……!」

『横田警備局長は更迭されました! 深町本部長が尋問した結果、計画を暴露したそうです……司法取り引きが成立しています!』


それは、私の頭をコークスの如(ごと)く熱くするには、十分な情報だった。


『それだけではありません! 美咲涼子はスパイでした!』

「…………」

『奴はピースメーカーと繋がっています! 我々の作戦行動を外部に漏らし、この国そのものを破滅させるつもりです!』

「美咲涼子は、どこにいる……」

『不明です! 先ほどから連絡が取れず……!』


そして部下達を勇者から、ただの怯(おび)えた犯罪者へ貶(おとし)めるにも……ほどがある……!


(どういう、ことだ)


我々は同志だったはずだ。あんな日和見主義な本部長に尋問されただけで、簡単に吐くと?

恋人を失ったことへの復讐を手伝ってやった。その恩義を忘れて……簡単に裏切るだと?


そんなわけがあるか……そんなわけがあるかぁ!


「それは、事実なのだな」

『はい! 既に計画は露呈し、鷹山・大下・蒼凪への逮捕・射殺命令も解除されています!
美咲涼子の捜索も県警に正式な命令として出されています!』

「だから、奴らはここに……!」

『我々ははめられたんです! こちらにも港署の刑事達が…………ぐぁあ!』


そして部下が悲鳴を上げ、通信が途絶。……しかも今、銃声が響いたような。


「おい、どうした……おい! 状況を報告しろ!」


そう言っても、返事はもうこない通信そのものが断ち切られていた。


駄目だ、迷うな……私が動揺などできない。部下達はこの国のため、私の掲げた正義を信じ、ここまでついてきてくれた。

私は悪かもしれない。だがその悪があることで正義は成される。柘植行人ほどの男でも成し遂げられなかった、大日本帝国復活の兆しは生み出すことができる。

皆はその姿勢に、その先に描かれた平和に、理想を見いだし、付き従ってくれた。


なのになぜ折れる……もう止まらない。先ほど自ら定めた通りだろうが……!


「さ、参事官」

「うろたえるな! 新港埠頭だ……予定を繰り上げ、船舶にて撤退! その上で美咲涼子をスタジアムの同志達と協力し、拘束する!
……そのためにもまずは……あの刑事どもを血祭に上げる! 相手はたかだか所轄の刑事……一気に蹴散らすぞ!」


一斉に声が返ってきたので、それには安堵(あんど)する。そうだ……私は折れない。

真なる正義を成すまでは……核爆弾爆破まであと、一時間半……必ず凌いでみせる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


声帯模写による圧と、実際に赤レンガ方面から撃ち込まれた対物ライフルの一撃。当然奴らは近づくのはごめん被ると、赤レンガ倉庫をスルーして、そのまま道なりに進む。

途中差し掛かる【サークルウォーク】を右へ曲がり、新港埠頭への道を進んで……いって……。


『ははははははは……馬鹿な奴らめ!』

『核爆弾は既にスタジアム。更に逃走用に船まで用意ですか。すばらしいですねぇ』


やっちゃん、楽しそうだなぁ。でもね……俺達、すっげー複雑な心境。

雨あられの牽制(けんせい)射撃を避けつつ、タカは迎撃もしないで頭を抱え……。


「……蒼凪、お前……詐欺師になれるわ」


開口一句、こう言い放った。

ヒドいとは言うことなかれ……平然と騙(だま)してきたしね、コイツ!


『鷹山、せめて声優とか言ってやれ。実はゆかなさんとお仕事をするため』


そこで車体上部にぼこんという音が。跳弾音とは違う感触に、俺達も目を見張る。あれ、誰か上に乗っているような。


『「目指そうかと思っていた時期があってな」』


しかも声がハウリング。慌ててタカと天板を見上げると……なぜか羽根をはやしたヒカリがそこにいた。それも人型サイズで……なんか強そう!


「「なにそれ!」」

「私達のキャラなりはこれがデフォだ。説明しただろ」

【そういうことです! いやぁ、追いついてよかったぁ!】

「「どんな追いつき方ぁ!?」」


え、デフォってことは……ヒカリに身体を乗っ取られるとか言っていたの、マジだったの!? それで飛んで追いつくとか言っていたのも!? さすがにジョークだと思っていたのに!

つーかキャラなりをそんなことに……ああ、使っていいんだよな。それはヒカリの目を見ればよく分かるよ。


やっちゃんの夢ってのもあるんだろうが、それぞれ腹が決まっているんだよ。しかもそれに身体を……命を預けるとか、なぁ……そりゃああぶなくもなるってもんだ。


≪あなた……それはさすがに舞宙さん達にも悪いからって自重していたのに≫

【でもでも、舞宙さん達も楽しそうだしさ】


やっちゃんは……ヒカリは天板から跳躍し、俺達と兵装。弾が飛び交う中、左手をかざして……黒い光を放出する。

それは三角形の魔法陣みたいになって、弾丸を次々弾いて……おいおいおいおい、なんか凄いことしているぞ!


「ライトダガー!」


更に黒い短剣も弾みたいに次々射出。それで目の前の車を次々穴だらけに……しかし市民には被害を出さないよう、適度に追い込んでいた。


【それにほら、あくまでもお仕事として始めて、それで知り合って、お友達として仲良くなるだけなら……えへへ……♪】

「安心しろ、戦闘中にそんな話をするお前とは即刻共演NGだ! しかもお前……ユージにスマホで見せてもらったら、かなりの美人じゃないか! 例のビリオンブレイクに出ている子達もだったけどさぁ!」


ゆかなさんも美人だったねぇ。黒髪ロングで清らかなイメージ。しかしスタイルは抜群。

しかもお料理が得意で、普通車・大型二輪免許も持ってるとか? しかも愛車がアルファロメオだよ。

ハッキリ言う……俺も、タカも、写真を一目見ただけでファンになりました。


とりあえずえっと、ふたりはプリキュア? 代表作らしいので、そこからチェックしたいと思います。


「そうだぞやっちゃん、声優さんは演技してるだろ? 舞宙ちゃん達だって、今度のライブでは役として出るところもあるんだろ?
だがやっちゃんは騙しているんだ……それは間違えちゃいけない」

【迫真の演技だったからこそでしょ!?】

「馬鹿野郎! 迫真の詐欺だったろうが!」


というかやっちゃんは……駄目だ駄目だ! あの調子で……舞宙ちゃん達みたいにフラグを立てても駄目だ! 大人として絶対止めなくては!


「てーか駄目だ駄目だ! 渡さないからな……俺の第三女神!」

「そうだぞ! 渡さないからな、俺の女神!」

「タカの女神じゃなくて、俺の女神だから!」

【おのれらの女神じゃないわボケ! 僕の女神だよ、僕の!】

「……えぇい、やかましい! 戦闘に集中しろ! というかお前達の女神じゃないんだよ! お前達も知らない男の女神に決まっているだろ!」

【「「黙れ小娘!」」】

≪というか、なんであなた達までファンになってるんですか≫


……とか言っている間に、奴らのうち二台が速度を落とす。


『司令官、ここは我々が!』

『時間を稼ぎますので、乗船を!』

『……すまん!』

「慕われてるねぇ」

「トオルも見習わないとな」


更にドリフトをかまし、埠頭までの道を通せんぼ。

その上で中の奴らがゾロゾロ出てきて、車から降りて迎撃態勢。


即席バリケードに隠れて、こちらにM16やベレッタを向けてくる。


「……タカ!」

「蒼凪……いや、ヒカリか!? 合わせろ!」

「当然!」


タカは用意していたロケットランチャーごと、身を乗り出して構える。

奴らもスティンガーやらを取り出してくるが、そこでヒカリが左手にエネルギーを収束――更にあの短剣も三十本ほど連続精製。


「ライドダガーセット……バイディングファイア!」


まずはあの短剣を射出……黒い光が夜の軌道を描いたところで。


「レディアントスマッシャー!」


左手を突き出すように、そのエネルギーを放射する。

それらが奴らのバリケード……その一角に突き刺さり、爆発を起こす。

車体の一つが吹き飛び、それに巻き込まれて半数の奴らがミンチよりひどいことに……いや、その前にダガーが次々と飛び込んでいく。


ダガーはその軌道で光の縄を描きながら、男達を縛り上げ、そのまま強引に安全圏へと引っ張り出した。

それを遠目で見て驚いていると、タカもロケットランチャーのトリガーを引く。


暗闇でも分かる白煙――。

それに後押しされるように砲弾は飛び、残る即席バリケードに衝突。

二台のティアナはフロント部に直撃を食らい、爆発・炎上。


そのまま隠れていた奴らを炎と衝撃、車体質量で薙ぎ払う。ただ、その直前でやはりダガーが……なるほどねぇ。また甘いことだけどさ。


「……お前、あんなことまでできるのか」

「事件について吐いてもらう必要もあるからな」


いや、訂正……むしろ激辛だった。恨むことも、嘆くことも許さず全部喋れと……それはこういう連中にとって地獄だろうにさぁ。


「俺達はそこまで器用じゃないがな」

「構わん。私達の好き勝手だ」

「えぇ。お兄様の身体を預かってのことですし、極力人殺しは避けたい……まぁ、そんな好き勝手です」

「それも怖いけどねぇ……」


極力ってだけで、必要があれば躊躇わない……そういう覚悟も決まっているとかさぁ。しかもやっちゃんもそこはなにも言わないんだから、ほんとさぁ。

まぁ、だからこそ心強くもあるけど? これなら向こうにHGS患者とかがいても対応できそうだ……!


『……突破されました! 奴ら、ロケット弾を所持しています!』

『馬鹿な、ただの刑事と忍者だぞ!』

「残念だったな。俺達はただの刑事じゃないし……」

【こっちもただの魔導師じゃない!】

「私達は≪ダブル≫だからな!」

『……えぇい、交戦する! 第二倉庫へ飛び込め!』


そうして開いた道を突っ切り……ヒカリが縛り上げ、退避させた連中は気絶していたので置き去りにしつつ追撃継続。

客船ターミナルの手前を右へ曲がり――やつらが飛び込んだ倉庫内へと、こちらも突撃。

途端に迎撃射撃が襲うが、それもヒカリが展開したいくつものエネルギーシールドでたやすく防がれる。


「HGS……くそ、こんなのは経歴になかったぞ!」

「ひるむな! 撃て! 撃て撃て撃てぇ!」


跳んでくる銃弾には構わず、車体を高速回転――タカは既に装填していた二発目を発射。

それはバリケード代わりのティアナ二台を、またも吹き飛ばし粉砕。周囲にいた五人ほども爆発に巻き込まれる寸前で逃げて……ごろごろと地面を転がった。


「くそ……ならば、参事官! あれの使用許可を!」

「…………すまない……全員、メモリを装填しろ!」

『はい!』

俺はIMIミニウージーを、タカはレミントンM870を持って、即座に降り立つと……アイツらは気になることを言い出した。

全員揃って立ち上がったかと思うと、化石みたいなものをスイッチオンして……。


≪Masquerade≫


それを次々と首に差し込んで……というか体内に吸収させると、顔と首だけが骨の仮面を身につけた怪物になる。

……こりゃ、もしかして……。


【ガイアメモリ……しかもマスカレイド……!】

「だが、遊園地の奴らは持ってなかっただろ! ヒカリが助けた奴らも!」

「それは間違いない。つまるところエリート用の装備だろうが……どういうことなんだ。
ミュージアムも潰れて久しいというのに、あれだけの数を……最底辺の量産型とはいえ、コネクタ手術も含めると」

≪その辺りは後ですね。……まぁ、バックが相当分厚かったのは分かりますけど≫


あぁ、やっぱりやっちゃんの専門だったのね! 資料で見たこともあるから、すぐ分かったよ!


「蒼凪、あれは」

【仮面舞踏会の記憶……普通の銃器でも倒せますけど、倒した途端自爆もするし、身体能力も飛躍的に強化されています。殴り合いは厳禁で】

「だから最底辺か。まぁこっちは助かるが……」

「奴らも奴らで、覚悟決まりすぎじゃない?」

「かといってそれに構ってもいられん」


ヒカリもふわりと着地してくる中、軽くため息を吐く。甘いことが言えないなら……そこで見やるのは、ショウタロスだった。


「メモリ相手ならショウタロス先輩が慣れている。ここからは任せるぞ」

「あぁ」

≪ハードボイルドでお願いしますよ? ……残り一時間二十五分≫


兵隊達は、メモリで超人になったからってじわじわ近づいてくる……その様子を見ながら、こてっちゃんが改めて警告。それでまた身が引きしまるが。


≪移動時間もありますし、手早くしないとアウトですよ?≫

「まぁデートには十分間に合う時間さ。心配はない」


それも大丈夫だと笑って、左手を挙げ――タカが嫌そうな顔をする中。


「ユ、ユージ君……それは、いらないんじゃないかな」

【ショウタロス、やるよ!】

「え、君達はもう十分暴れていなかった?」


まだまだ足りないってことらしい。やっちゃんはヒカリとのキャラなりを解除し、元の姿に戻ってから……。


「僕達のこころ――アン」


『解錠(アンロック)』


「ロック!」


両手の指を鋭く動かし、生まれる旋風を……たまごに戻ったショウタロスを胸元に受け入れる。

更に腰に生まれた変身アイテムみたいなドライバーに、黒と緑のUSBメモリをセット……ショウタロスの姿見になりながら、鋭く展開する。


それがなんだか楽しくなって、俺も鋭く手刀!


≪Cyclone……Joker!≫


やっちゃんを中心に吹き荒れる風が、倉庫内を駆け巡る。そしてその風の中、メモリ二つの色を待とうように、やっちゃんが……ショウタロスが姿を更に変える。

ソフト帽に、メモリに会わせたアシンメトリーのコートを羽織る。そうして風を纏うように、二人は……もう一つのダブルってのが姿を現す。


【「キャラなり――ダブル・ジョーカー!」】

≪The song today is “Over Again”≫


ショウタロスは素早く左手をスナップ。


【「さぁ――」】

「It’s――」


流れた曲に会わせ、ショウタロスがその手で……風が未だ止まぬ中、奴らを指差す。

かく言う俺とタカも、それぞれの武器を持って駆け出す構え……!


【「お前達の罪を、数えろ!」】

「Show Time!」

「…………お仕置きの時間だ……ベイビー?」


タカも半分やけくそでのっかった上で、一緒に走り出す。

――それじゃあまぁ、ハマに手を出してくれたツケ……延滞料金も含めてきっちり払ってもらおうか!


(その8へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、いよいよ最終決戦……元祖本編と違い、大抵のことはOKと言わんばかりにキャラなりも解禁。まぁその辺りもいろいろ事情がからんで……」


(実は元祖本編軸より、その辺りの縛りがかなり緩いというか、一緒に暴れることが多くなる経緯になっています。
どうして翔太郎達もいる世界線でみんなが≪ダブル≫を名のるかも含めて、いずれ……出せたらいいなぁ)


恭文「きっと水橋も、凄いメモリとか使ってくるんだろうなー。愛国心とかさー」


(さすがにそれはない……!)


鷹山「そうそう。俺達が対処できなくなる……それも情けない言い方だけどさぁ!」

大下「その前にタカはご機嫌取りしとけって……三国創傑伝の続編(ヒーローズ)でTrySailさんが関わるって聞いてから一気にハマったこと、やっちゃんは根に持っているしさぁ」

恭文「大下さんも報復対象ですけどね」

大下「そこまで大事にしてんのかよ!」

鷹山「いや、それは悪かったって……というかあの、プラモ? 作りやすくて楽しいよな。話もおもしろいし……早々スピンオフのあの漫画も、凄い胸が焚きつけられた」


(そう、実はあぶ刑事コンビ、最近SDガンダムの三国創傑伝にハマっています。もっと言えばヒーローズの予習的に……OPがTrySailさんだというその一点で)


鷹山「でもさ、俺にはその前に……ね? 七つの大罪を履修する使命があったの。ところでメリオダスって射殺していい?」

恭文「むしろ撃ち殺せるものならやってみろと言いたいですよ」

大下「向こうは少年漫画の世界だしね……。というか、そういうことを言い出したらほら、最近までやっていたバキとかさぁ」

鷹山「…………あがぁああぁああぁああぁああぁあ!」

恭文「鷹山さん、落ち着いてください! アニメのアレもあんな感じでしたから! というかそれも含めて受け入れてのファンです!」

大下「ほんと切りがないしな! というかもうそれ、娘だろ! 娘に対しての対応だろ!」


(……そんな荒ぶるダンディーはさて置き、今日はちょっと特別な日です)


恭文「そう、今日(3/15)は高町なのはの誕生日! まぁこの情勢下だし、お祝いとプレゼントを贈るだけって感じになったんだけど……おめでとうー!」

大下「まぁそれもちょっとずつだよな。ワクチンの接種とかも優先順位はあるけど始まったようだし……」

鷹山「八月二十九日のライブもいけるよね、僕達! なにせうちの娘がでるんだよ!」

大下「ついに娘って認めやがったよ……!」

恭文「いや、その場合その娘との結婚を望んでいたことになるんですけど」

鷹山「でもほら、パパと結婚したいとかってよくあるだろ? だからそういうのをこう、夢見て……ほら、それなら矛盾しない」

恭文「……いちごさん、一言どうぞ」

いちご「気持ち悪い」(迷いなく両断)

鷹山「がはぁ!」

大下「……ほんと躊躇いがないなぁ……! さすがは蒼凪課長の彼女」

恭文「だから違いますよ!?」

いちご「……ちなみにね、私の誕生日は一月五日なんだ。だから五日が誕生日記念だったんだ」

恭文「静香の影響を受けているんですか!?」

いちご「でも、十五日もいちごに合わせて記念日になるんだ。ファンのみんながそうだねーって言ってくれたの。だから……いいよね?」

恭文「なにが!?」

鷹山・大下「「おぉぉぉぉぉ……!」」

恭文「拍手をするなぁ!」


(というわけで、次回で事件は決着。そしてエピローグという感じになります。とりあえず今回言えることは……マスカレイドメモリ、便利すぎる。メリオダス様より強くないし。
本日のED:上木彩矢 x TAKUYA『Over Again』)


いちご「……私もYouTubeでゲーム実況とかやってみたい!」

恭文「いきなりですね!」

いちご「ほら、Pyxisで伊藤未来ちゃんとか豊田萌絵ちゃんもやっているし、……ナンス(夏川椎菜さん)やすーじー(末柄里恵さん)もファミ通チャンネルでやっていたし」

恭文「末柄さんはアレですね、高森奈津実さんの番組ゲストで……ご自身でもやっていますけど」

いちご「というかそのファミ通チャンネルだと今井麻美さんもやっているし。
男性だと中村悠一さんとマフィア梶田さんもすっごく楽しそうだからさ。なにかやりたいなーって」

才華「確かに……まいさん、旅館家業ってのもあるけど家でお料理とかお作法とかいろいろ教わっていたのもあって、そっちは出しているけど、ゲーム実況ってなかったよね」

いちご「なかったんだよねー。だからなにがいいかなーって……まいさんもヒカリちゃん達と拍手でほら、桃鉄やって楽しそうだったし。
でもストーリーのネタバレとかするのも嫌だし、なにがいいかなと」

恭文「それならいろいろありますよ。RPGの類いじゃなければそこまでストーリーも……大丈夫ですよね」

才華「レトロゲーとかならね。魔界村とかも基本ライン変わらないし。
あとはFPSやTPS……鬼ごっこゲーみたいなネット対戦もの? それなら単純にバトルを楽しむだけだし」

恭文「最近はやっている人狼系ゲームが受けているのも、その辺りの縛りが緩いからですしね」

いちご「アクション、できるかなぁ。下手だと見ていていらいらするってのがあるそうだけど」

才華「そっちが苦手なら、シムシティみたいな街作り系もあるよー。CITIES SKYLINESはずーじーもやっていたけど……よし、じゃあいろいろ試してみよう! 百聞は一見にしかずだよ!
なので私のうちにお泊まりして、いろいろ試しプレイして……もちろん夜は一緒にお風呂して! 添い寝もしてー!」

いちご「あ、それは恭文くんとやるから大丈夫。ありがとう、サイちゃん」

才華「させないよ!?」

恭文「さすがに堂々と発言はどうなんだろうな! 舞宙さんのことはなにも言えませんよ!?」

古鉄≪一方その頃、そんな舞宙さんは……≫

舞宙「…………え、デレステの放置編成でイベント攻略動画は駄目? 公式が許してくれない? そこをなんとか……え、駄目?」

古鉄≪他の声優さんの番組出演に向けて、イベント攻略用の編成をテスト撮影して見せたところ……却下されていました≫

舞宙「音ゲー苦手だから頑張ったのにー! ぽちぽちするから! 頑張って撮影のときは自分でもぽちぽちするからー!」

古鉄≪見る人が見れば分かるから駄目ですって……≫


(おしまい)





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