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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2017年6月・神奈川県横浜市その5 『Wの約束/この輝きで』:あとがき




あとがき


恭文「というわけで、いろんな難しい判断や課題も残しつつ……横浜でのお話は一段落。
実はカットシーンが一万字くらいありまして、そちらもまたいずれ掲載予定」

シオン「こちらはある意味事後処理……そしてお兄様のビギンズナイトにも触れる内容となっていますが……しかし次世代兵器研究会……ABCプロジェクトはどうしたものか」

恭文「ここから二年は追い続ける構えだしねー。まぁじっくりいくしかない」

シオン「それはそうとお兄様……そろそろ武蔵さんにツッコむべきでは」


(聖なる破壊が見やるのは、我らが剣豪ヒロイン)


武蔵(FGO)「……いちごちゃんや舞宙ちゃんって、静香ちゃんと同じく黒髪ストレートロングなのよねー。しかもいちごちゃんについては、静香ちゃんとはまた違うトランジスタグラマー! ハイトーンボイス!
いいないいなぁ……見ていて飽きない−! でも私って悪い女なのかしら! 恭文くんだけじゃなくて、静香ちゃんやいちごちゃんも諦め切れないし……きゃー♪」

シオン「…………最上さんにはいろいろ警戒されているのに、まだ諦めていないんですか」

武蔵(FGO)「そこは考えているわ! 今日は十四日……静香ちゃんの誕生日記念日!
つまり静香ちゃんにプレゼントを渡しつつ、恭文くんともどもお姉さんが受け止めちゃうの!」

静香「そうですか、では気持ちだけ受け取っておきますね」

武蔵(FGO)「愛も受け取って−!」

いちご「……静香ちゃん、そういうときははっきり気持ち悪いって言っていいんだよ?」

武蔵(FGO)「がふぁ!」

静香「それでいちごさんはボールが強烈すぎます!」

恭文「いつものことなんだよ……」


(というわけで、本日は最上静香の誕生日記念日。またまたお泊まりに来ていました。
本日のED:サイキックラバー『デカレンジャーアクション』)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


伊佐山さんや猪熊さんを凶行に走らせたもの……悪魔の薬。

それを作って、何か企んでいるかもしれない次世代兵器研究会。

ガイアメモリのことと合わせて、暗雲はまだまだ晴れていないのに……あの子達は胸を張って、笑い続けていて。


それも立ち向かって、払ってみせる。そういう覚悟と決意が、みんなをキラキラさせていた。


「……蒼凪くんも伊佐山さんの仕事……作ってくれた衣装とか、好きだったんだね」


その様子をサイちゃんと見守りながらも近づくと、天ちゃんが嬉しそうにぽつりと呟く。


「それで最初から……可能性に気づいた段階で、いろいろ手を打ってくれて」

「みたいだね」

「それだけじゃないよ、天さん」

「もち?」

「蒼凪くん、天さんの……ううん、私達のために、本気で怒っていたんだよ?
碇専務達にも、その専務達に乗っかって我が物顔だった人達にも」


そこでもちさんが見やるのは、その辺りの経緯を印したネット記事の数々。

いろんな会社の偉い人やら、有名女優、モデル、人気アイドルが事情聴取に引っ張られて大騒ぎって内容でね。

うん、フライリースケールを中継点に、そんなとんでも話も出ていたんだよ。あたし達もその歯車に組み込まれるところだったから。


「そのあたりもまいさん達から聞いていた通りだった」

「本気じゃなきゃ……劇薬じゃなきゃ誰にも伝わらない。やっくんが最初の一件で、ある人に教えてもらったことだしね」

「……だったらもうほんと、なんて言えばいいんだろうね」

「あげないよ? 恭文君はあたしのなんだから」

「……まいさん?」


なので……彼女として軽く釘刺しすると、なぜかサイちゃんに肩を叩かれる。


「ヤキモチを焼く前に、まだ説教が残っているでしょ?」

「だからなんでー!」

「あとそれこそ複数形! 風花ちゃん達もいるでしょ!」

「あ、はい……!」

「……っと、そうだ」


頭を抱えていると、天ちゃんはまた静かに……ひっそりと恭文君の脇に近づき。


「…………ね、恩ってなんのことかな」

「ふなやああぁああ!?」


耳元でささやき攻撃……! すると恭文君は猫耳と尻尾を出して、慌てふためいてきょろきょろ……く、しまった!

あたしが再会したときの下りで、そういうのが弱いのを教えちゃっていたから……やられた! あたしもまたしたかったのに!


「いや、ごめんねー。
でも気になっちゃって……あの、ほんと……いつ会ったのかとか、覚えてなくて……!」

「あ、そうだったね」


ただ、悔しがっている場合じゃなかった。その辺りは私も聞かれたけど、全く知らなくて……いちさんも、サイちゃんもだよ。

だから改めてどういうことかって確認したかったんだけど。


「あ、それなら大嘘です」


恭文君はとてもいい笑顔で、即答で返してくれて……それで空気が、凍り付く。

数秒……数十秒……もしかしたら数分? 痛いくらいの沈黙が、あたし達に突き刺さる。


「いや、ああ言えば伊佐山さんも煽れて、なんかいい感じになるかなーって」

「ですね。いや、リインも確認してびっくりしたですよ」

「実際伊佐山さんも攻撃や対応が甘くなっていたし、作戦としては大成功だった。……今後も使えるな、あの手は」

「リインも積極的に使っていくですよー♪」


わぁ、なんて楽しそうに……しかもあっさり、この痛さを打ち破ってくれたよ。

だから、だから、だから、だから…………ねぇ!


「……恭文くん、嘘吐いちゃ駄目だよ?」

「だね」


そりゃあちょっと叱るしかないと思っていたら……風花ちゃんがため息交じりで窘めてくる。というか、フィリップさんも頷いてきて……。


「彼女は、君が美澄苺花を救えた……そのきっかけを作ってくれた一人だもの」

「ちょ、フィリップ!」

「まぁ、お話しにくいことだから、気にしないようにって気持ちは分かるけど」

「ふーちゃんも駄目! それは、あの……えっと……!」

「みすみ……まいか?」

「……恭文君の、もう一人の幼なじみさんだよ。今は風都で暮らしている子なんだけど……恭文君、どういうことかな」

「えっと……」


ライブ前だから重たい話はこれ以上……そういう気持ちなのは分かる。……というか、最初から分かっていたよ。

ほんと悪い癖だ。おどけてさ、私達のことを気遣ってくれて……でも、そういうのは駄目だと……両頬に手を添えて、ちょっと目をのぞき込んでみる。


「……例の……お姉さん、です」


すると恭文君がぽつりと……え、待って。確かそれって……!


「天ちゃんがそうなの!?」

「あの、雰囲気! 雰囲気とか……歌の感じが似ているってだけで! あとは、舞宙さん達にもお話しした通りで……」

「あ、それで……」

「え、待って。恭文くん……それは……」

「………………」


それが恭文君にとってどれだけ大事なワードかは、あたし達みんな知っている。

だったら……うん、ここはちゃんとしないとだね。


「状況は飲み込めたけど……嘘で隠すのは絶対駄目」

「でも」

「天ちゃんの友達としてお願い。あたし達も手伝うから……ね?」

「あの、まいさん……」

「恭文くんがね、最初に戦った……メモリを作っていた、ミュージアムって組織を潰したときのことにも、絡んだ話なんだ」

「え」

「それで、あまり楽しい話でもないから」


それは恭文君の傷にも触れるし、必然的に……恭文君が、ただのヒーローじゃないってところにも触れる話。

だから、天ちゃんに見せたくないし、どうにもならないからって考えるのは、分かるけど……。


「分かった。じゃあ、教えてよ」

「あの、それは」

「お願い」

「蒼凪くん、それは……わたし達からもお願い、できないかな」

「夏川さん……」


その視線を受けて、恭文君は……戸惑い気味に頷く。


「…………分かりました」

「じゃあ……はい」


恭文君の背中をぽんと押して、向き合わせてあげる。……大事な子を助けた……いつの間にかそのキッカケを作ってくれた彼女と。


「あの、ごめんなさい。かなり長い話になっちゃうので、ライブ後でもいいですか」

「……ん、いいよ。
というかさ、なんなら焼き肉でも食べながら話す? というかバーベキュー!」

「バーベキュー!?」

「都内でも楽しくできるところ、いくつか知っているんだよねー! それでぱーっと打ち上げだ!」

「いいねー! 油と糖質たっぷり取るぞー!」

「その前に、まいさんも説教……OK?」

「だからそれは許して−!」


――――こうして悲しくも希望を残した事件は、終わりを告げた。

恭文君に支払った依頼料は、見事に全額……私達へと還元されることが決まった上で。今提案された焼き肉やらバーベキューの代金、全部恭文君が持ったんだよ。


それで恭文君は……ちょっと遠慮していた一歩を、いろんな勇気を含んだ上で踏み出すことにして。


「あの、私もそれ賛成!」


その結果はもう、豪勢に……マナーよく食い散らかしイヤーが開催されたわけで。


「その後は約束していたケーキバイキング!
恭文くん、前に言っていたお勧めのお店に行こうよ! 私もしばらく絞らなくていいし!」

「あぁ……ティラミスが最高に美味しいっていうあれ!?」

「ハーブティーも美味しいんだって!」

「そこ私も行きたかった! バーベキューの後にケーキ……最高すぎるよ! 幸せだよ! それに長い話ならはしごしてもちょうどいいし!」

『さすがにそれはない!』

「「あれ?」」

≪……いちごさんだけならまだしも、麻倉さんまで……え、まさか同じくらい食べるんですか?≫

「……実はね」

「嘘でしょ……!」


あたしも、サイちゃんも、みんなも……恭文君の奢りで美味しいお肉を、美味しいお酒をたっぷり楽しんでさぁ。

そう、恭文君は奢った。あたし達には大丈夫だと大盤振る舞いだった。多分最初から、依頼料についてはどういう形であれ還元していくつもりだったんだ。

うん、分かっている……それも分かっていた。恭文君はただ、みんなの気持ちを一つにできたら……そう思っていただけだから。


「いや、麻倉さんが食べるの大好きな人なのは……ラジオで聞いている程度には知っていましたよ! でもいちごさんと同レベル!?」

「でも風花ちゃん、揃ってもぐもぐしているところを見るのは、まさしく楽園だよ!
今回はやっくんの話が終わるまで、その楽園を見られ続ける! これは本当に素晴らしいことだよ!」

「だよね! もちさんのエンジェルスマイルも見られるんだから! というか、わたしが奢る! その楽園への投資を!」

「「揃って気持ち悪い」」

「「ご褒美きたー!」」


ただその中でもっとも食べたのが、スリートップな暴食魔人というのは……うん、言う必要がないよね。


「…………舞宙さん」

「お願い、歌織ちゃん……なにも言わないで」

「みなさんのユニット、大丈夫ですか?」

「なにも言わないでって言ったのにー!」

「そうか……今課金すれば、楽園を創世できるのか。それはつまるところ神ということでは」

「伊佐山さんみたいなことを言わないで!?
恭文君、落ち着こう!? 課金で作る楽園とか台無し過ぎる……ねぇ、聞いて! 聞いてってばー!」

「恭文くん、サイちゃんやまいさんみたいになっちゃ駄目。それだけ約束してほしいな」

「「絹盾ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」


そして恭文君は、いちさん達にご飯を奢るという悪い課金を……楽しみ方を覚えてしまったけど……それも言う必要がないよね! あたしだってときどきやるし!?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一つの事件が終わり、新たな約束が結ばれ――ライブ二日目。長かったツアー最終日に、また一つの事件が起こった。

ある意味では最高に手遅れ。僕こと蒼凪恭文の手を持ってしても、何一つ解決できなかった痛みと言えるだろう。


『――仙台・福岡・名古屋・大阪……そしてこの横浜で、四十人全員がこのステージに立ちました』


ライブはアンコールへ入り、そして最後の曲……舞宙さん達もずらっと並び立つ中、スポットライトを浴びるのは本公演でリーダーを務めていた田所さんと山崎さん。

田所さんの黒髪がしなやかに揺れる中、舞台袖からその様子を見ながらしんみり……結局僕も、ふーちゃんも、フィリップ達も、舞台スタッフとしていろいろお手伝いしてしまいました。


『特にこの横浜では……つい先日、悲しい事件が起こったばかりで、開催をどうするか……延期するべきではないかという討議も、出演者・スタッフ全員で話し合いました。
……正直私達自身、みなさんにこの選択を受け入れてもらえるのか……凄く迷いがあります』

『だけど、そんなステージの可能性を……私達が積み重ねたものが誰かを救えるものだということを、教えてくれた子がいます。
どうするにしても、私達は受け取ってきたバトンを繋ぐ……それは絶対に諦めちゃいけない。それだけは、私達みんなで決めました』


あれ、山崎さん……それはあの、えっと……もしかしなくても……!


(……恭文くんのことだね)


フィアッセさんがそっとささやいてきたので、つい顔が赤くなる。いや、だってそれは……あの……あのー! 僕の我がままも多分に含まれていてー!


『そのバトンとして繋いできたこの曲を……今日来てくださったプロデューサーさん達に、来られなかったけど、応援してくれるたくさんの人達に届けてたいと思います。
――だから、聞いてください! ビリオンスターズ全員の……私達の声を!』


顔に強烈な熱が刻まれていると、山崎さんと田所さんが顔を見合わせて……。


『『せーの!』』


そう、ビリオンブレイクのテーマソングと言える、全体曲……その名は。


『ありがとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

『Thank you!』


…………その瞬間、歴史が変わった。


≪あらまぁ……≫

『えぇぇぇぇぇぇぇ!?』

『………………!』


サンキューと……曲名≪Thank you≫をぶちまけてしまった田所さんは、一瞬で全てを悟り、おでこを押さえて愕然。

舞宙さん達後ろのメンバーも笑いながら崩れ落ちて、観客もどよめき……それでも無情にイントロが流れる。


『〜♪』

「「「「やらかしやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」」」」


そうして最初は半笑いでの歌声が重なって、重なって、重なって………………!


「ど、どうしよこれ! あの、フィアッセさん!」

「もう押し通すしかないよぉ……」

「ですよね……! もう曲も流れちゃったし! これでもう一回とか無理だし!」

「…………済まない……あの……胃が……胃薬を、もらえないだろうか……」

「照井さん!?」

「だがいいね……ゾクゾクするよ!」


フィリップ、はしゃいでいる所悪いけど、その前に照井さんだよ! ほら、こんな……生まれたての子鹿みたいになって! きっと死ねない呪いが消えちゃったんだよ! だから不憫なくらいに打ち震えてさぁ!


『み、みんな……一緒にうたってー!』

『いぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!』


あー、でもこれ……いや、大丈夫かな。みんな笑っているし、星の様にペンライトが振られ続けているし……明るく楽しい締めになったんだ。

そうだ、これはいい思い出になる。それにどういう形であれ、ライブに関わらせてもらってよかった。


僕は今……伝説の生き証人になったんだから!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――そうしてアンコールも終わり、お客さんも無事に全員退館。あとは撤収準備やらいろいろあるけど、ひとまずキャスト・スタッフのお仕事は一段落。

本来であれば過去最大のライブツアーをやり遂げた達成感で、控え室に戻ったみんなの顔には笑顔があったはずだった。涙だって流してよかった。

いや、笑顔はある。やり遂げたという達成感での涙もある。でも約一名……頭を抱えて打ち震えている人がいて。


「……………………伊佐山さんの気持ちが、ちょっと分かった」

「ころあず、さすがにそれは不謹慎……それにほら、なんだかんだでやり遂げたでしょ? ね、恭文君」

「いやぁ、素敵なライブでした! ありがサンキュー!」

「「「「「「ありがサンキュー!」」」」」」

「やめてよぉ!」

「誰が揃って傷を抉れと言ったぁ!? それもこんな早々に!」

「お前達……正気か……!」


まぁまぁ舞宙さん……照井さんも落ち着いて。確かにあの流れだといろいろ心配になるけど……大丈夫……大丈夫だと拍手!

ヒカリとシオン……フィアッセさんと、ふーちゃんと、歌織と一緒に拍手……拍手!


「そうだぞお前ら! そこはハードボイルドに触れない方向で」

「ありがサンキュー! あの、私感動しました! あれは笑いの天才です!」

「ですです♪ リインなんてもう大笑いして……あー! 最高だったのですー!」

「ぐばぁ!」

「歌織とリインも傷を抉ってんじゃねぇ! インジャリーメモリでも隠し持ってやがるのか、てめぇらぁ!」

「まぁこれでお葬式状態だったら、さすがに僕達もいじれなかったけど……田所さん、見てください」


実はね、退館が終わってからここへ来るまでの間に……舞宙さん達が田所さんを……そう、田所さんを励ましている間に、ネットをチェックしたら偉いことになっていた。

なのでスマホの画面を見せると、机に突っ伏していた田所さんが……恐る恐る目線を向けてくれて。


「現在Twitterではビリオンブレイクと同時に、“ありがサンキュー”がトレンド入りしています。
田所さんのモーション的にも流れが分かって、どんちゃん騒ぎですよ」

「えぇ……!?」

「結果“今ライブをするのはどうなのか議論”は、一気にすっ飛ばされました」

「嘘でしょ……!」

「現実です」

「マジかよ!」

「えっと……」


そこで舞宙さんが、荷物から取り出していた自分のスマホを再起動。すぐさまTwitterをチェック……それは他のみんなも同じだった。そうしたらまぁ、揃って滅茶苦茶驚いていて。


――ありがとうを超える感謝の言葉が見つかった――

――これぞアイラバ!――

――ころあずは一生推す!――

――ありがサンキュー!――

「うわぁ……凄い凄い凄い! ライブの感想がありがサンキューで染め上げられちゃっているよ!」

「あと、当然ながら田所さんもトレンド入り。公式Twitterでの『ライブ頑張るぞー』って決意ツイートへのコメントも……うわぁ、ちょっと見ない間に九百とかだよ。しかも全部……好意コメントだ」

≪引用リツイートも凄い数ですね。いい感じでキャンプファイヤーしているじゃないですか≫

「それ炎上ってことだよね! ……おかしい! こんなのおかしい! 私、こんなの想定していない!」


まぁそうでしょうね。……実際はあの曲紹介、感謝の気持ちと曲名をかけて、二人で『Thank you』って言うところだったんだよ。リハーサルではサンキューだったんだけどね?

田所さんはそれに引っ張られてやらかし、更にそういう反応もしちゃったから一気に広まった感じだね。


だからまぁ、僕はこう告げるしかないわけだよ。もう伝説が生まれた瞬間だと……。


「これ、声優を続ける限り永遠に弄られ続けると思います」

「永遠に!?」

「僕も田所さん、一生推す構えですし」

「ちょ、蒼凪くんー!」

「というか好きです」

「告白しないで!? え、LOVEでは……ないよね! LIKEだよね! そうだよね!」


LOVE……LOVE……愛…………。


「…………」

「そこで黙らないで!?」

「あ……問いかけていました! その結果、それとは違うなと思いました!」

「そ、そっか! 真面目に考えてくれていただけか! ならいいけど……」

「だって……やらかしたときの反応も、その後曲が流れるタイミングも、笑い気味に歌い出してからの流れも……全てが完璧だったんです!」

「ん……!?」


そう、完璧だった。

田所さんがやらかしたーって反応も……。

それですぐに曲を流し、照明を手順通りに動かしたバックヤードさん達も……。

もちろん衝撃からすぐに復帰して、パフォーマンスに徹した舞宙さん達も……。


その全てが観客を沸かせる奇跡の連続。これがその証明……まさしく、伝説は塗り替えるもの! 今ここに横浜アリーナに、新たな記憶が刻まれた!


「もう笑いの天才ですよ!」

「笑いのって言うなー! ライブ! これアイドルのライブ!
というか、君は知っているでしょ!? 突然ぴょんさんが……この人が変更してきてぇ!
それまではサンキューだったの! 普通に私が正しかったの!」

「えー、だからちゃんと練習したのにー」

「足りないよ! もうね、いっつもこうなの! コイツらの無茶ぶりに振り回されて! 私ばっかり貧乏くじを引いて!」

「……その気持ちもよく分かります」


そう言われたら否定できず、田所さんにはつい優しい声をかけてしまう……。


「僕も今回、水橋達とショウタロスのせいで、長期療養コースになりましたから」

「あ、はい……すんませんでしたぁ……!」

「でも、田所さんが伝説なのは確かです。僕みたいにガチ貧乏くじじゃありません」

「本当にすみませんでしたぁ!」

「やめてあげてよ! ショウタロス君、また平服しちゃっているし! しゅごキャラに対して容赦なさ過ぎだから!」

「これ、今度ここで戦うことがあったときに『TADOKORO』とか『ありがサンキュー』とかで魔法が使えそうだなぁ……」

『……確かに!』

「確かにじゃないんだよ! おまえらも同意するなぁ!」


まぁまぁ田所さん。もう刻まれてしまった記憶ですから。これから奇跡を起こし続けますよ。


「ね、嘘でしょ!? 私のやらかし一つであんな超絶現象が起きるの!? 怖すぎるよ!」

「ところで田所さんに課金するのは、どうすればいいですか。
CD買いまくる方がいいですよね……やっぱりお友達でもなんでもないですし、距離感を踏まえて」

「本気で推す構えを取らないで!?」

「……私、まいさん達みたいになっちゃ駄目って……約束したのになぁ」

「いちさん、そこはまた後で話をしようか。うん……うんと長くね……!」


こうしてはいられない! 本気で推すならば徹底的に追いかけなくては! なのでスマホでインターネットに繋いで……田所さんの公式HPを開いてーっと。


「あと弁えてくれるのは嬉しいけど、お友達じゃないとか軽々しく言わない……ねぇ、聞いている!? 聞こえている!? スマホ片手になに打ち込んでいるの!?」


――――こうして、メモリも、変な政治結社も絡まない……誰もが笑顔になる一つの事件は終わりを告げた。

そう、大切な……繋いで、託され、託していく記憶の一つ。きっと今日が昨日に変わって、遠く思い返す過去になっても……決して色あせない大事な時間。


「よし……田所さんのライブ、予約できた。ここは予定を入れないようにして、帰りにCDとライブディスクも買って……」

「勢いが怖いよ!」

「……駄目だよ。やっくん、完全に集中しちゃっている……ころあずを一生推す構えだよ! ファンとして!」

「恭文くん、こうなると……凄く集中するので、止まらないと思います」

「風花ちゃんでも!?」

「私でもなんですー! 発達障害の絡みで、没頭するともう……ほんと凄くて!」

「そっちもあるのかぁ! いや、でも……止まって! 一旦止まって! まずお財布の心配とか……ねぇ、聞いて!? 話を聞いて!?」


だからその後……田所さんは本当に、事あるごとに弄られ続けた。


レギュラーとして出ているビリオンブレイクのラジオでも、ライブでも、イベントでも……演じる愛宕かずらの、ゲーム内会話イベントでも……。

ビリオンブレイクの発展系……というか音ゲー版として出た≪シアターグローリー≫で加わった後輩キャラにも……その担当の新人さん二人にも……。

あげくビリオンブレイクとは全く関係ない、自身のアーティスト活動絡みで出た番組でも、名場面の一つとして取り上げられて……。


そして僕は、適度な感じで推していく構えを取り続ける。……田所さんのライブも、できるだけ行こうーっと♪


(おしまい)






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