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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2008年・風都その15.5 『断章2017/掛け違えた世界で』




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

西暦2008年・風都その15.5 『断章2017/掛け違えた世界で』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


盛り上がっているところ悪いが、俺達……現代の俺達には疑問が出てきた。

……途中、猿と会話している奴がいなかったかぁ!?


「――黄なる光のソードアイズ……キザクラ・ククリは言ったそうだよ。
世界を変える準備はできているのか……と。
それは過去、彼女がソードアイズという宿命を背負わされ、突きつけられたものに近い。だから蒼凪恭文にも興味を持ったんだろうね」

「いやいやいやいや……その前にウホウホってなに!? なんか猿がいたんだけど!」

「雨宮さん、猿じゃありません。暗黒戦士ボンバー……ギャラクシーさんに並ぶ天空賢者の一人であり、キザクラさんとは縁深いレジェンドです」

「ギャラクシーさんと並んでいるの!? そのボンバーさん!」

「天さん、ほんとだよ! ほら! ネットで調べたら出てきたし!」


そうしたら神様の使いだったのかよ! バトスピを人に広めたって言う伝説の! マジか! 調べた夏川も驚愕だよ!


「え、それじゃあ蒼凪くん、そのキザクラさんともバトルしたの!?」

「あらかたのことが落ち着いて、僕も体調が回復してから……なおソードアイズ神話については、後にゆるいー感じでアニメも作られていまして。声は堀江由衣さんです」

「わたし達の大先輩−!
でも、ソードアイズが宿命……」

「まぁ夏川さんにもお話ししたような背景だったので、延々引き継がれて、派閥で戦わされるというろくでもない宿命だったんですよ。
……そんな中でキザクラさんは、僕に近い人でした」


彼女……キザクラ・ククリは、強いが心の狭い大人から搾取される生活が続いていたそうだ。

そんな中、似たような境遇の仲間達と出会い、スイーツメイツというお菓子会社を設立……古代文明の、話だよな……!

と、とにかくそういう自身の経験から、人々の偏見や差別……そういうものがどれだけむごい暴力か、よく知っている少女だった。


それで経緯や状況は違えど、蒼凪と話をしたがっていたそうなんだが……。


「じゃあ、バトルも……対話しながら」

「差別や偏見はなくなるのか。それに対してどう抗うべきか……そんな話をしながら」

「……蒼凪くんは、どう応えたの?」

「なくなるわけがないと宣ったところ、ズッコけられました」

「えぇ……!」

「え、待って。その希望がない返答は、ちょっと辛い」


山崎、それは俺もだよ。今ぐさりってきたよ。当事者の蒼凪が言うと……なぁ……!


「そもそも偏見って、根幹としては経験則の類いですから。
危険を回避するために必要な能力でもあるから、完全に切り離すのは無理です。
……ただそれが、無知やその自覚がないことや、悪意で偏見や差別に発展するだけなんです」

「あ、そういうね……。でも、確かに……簡単じゃあないよなぁ。
だってさ、古代文明が滅びて、世界が一回切り替わっているのに、でしょ?」

「そこに風穴を開けたのが、闇の白……ヤイバって王様だっけ」

「そしてその弟のツルギです。……いろいろ違いはあれど、みんなからすると僕は『世界を変える刃』を手にしたってことみたいです」

「「………………」」


夏川と伊藤が、神妙な顔で唇を噛みしめる。

だから世界を変える……その準備はいいかってことか。

蒼凪自身がどう選んだかとかは関係なく、既にそれは手にしているものだからと。またキツい話だな。


「でもそれなら……ガンダムSEEDの劇場版が作れるように、世界を変えることもできる……できちゃうんです……!」

「それは待とう!?」

「あ、そうですよね。劇場版だから時間がかかっているだけで、待てばいいだけなんですから。もう十年以上待っているけど、まだいける」

「待った上でこれかぁ!」

「ナンちゃん、ヤバいよ! 目が本気だよ!」

「あの、舞宙……!」

「……ガンダムSEED、劇場版発表もされていたんです。でも発表されただけで、十年以上音沙汰がなくて」


おいおいおいおい……そんなものを待ち続けているのかよ! ちょっとしたモンスターだろ!


「そうして十周年になって、無印も、続編のDestinyも、HDリマスターを迎えて……恭文君はそれでも、待ち続けているんです。
シリーズ構成の脚本家さんも、最近亡くなっているんですけど……」

≪生まれたときから触れていたガンダムですからねぇ。人生と共に歩んでいるわけですから、そりゃあ面構えが違いますよ≫

「それ、あの……潰れたとかじゃないのか?」

「だ、だよなぁ。というか、出しますーってタイミングがあってだよね。それはさすがに」

「ちょ、二人とも駄目ぇ!」

「やるんですよ、劇場版は」

「「ひ!?」」

「鷹山さんと大下さんは馬鹿だなぁ。死ぬのかなぁ。
……やらない理由がなにもないじゃないですか。どこにも……一切……一欠片も……」


……あの、蒼凪……俺達を見ないでくれ。その、人を殺しそうな眼光は怖いんだよ……! お前天眼開いているだろ!


(駄目ですよ! 恭文君、この話題については滅茶苦茶過激派なんですから!
続編がちょっとこう、荒れちゃったのもあって!)

(荒れたのかよ!)

(話のテーマが結構難しい感じだった上、一年やるアニメを一年で準備しろっていう無茶ぶりもあって……あ、これ準備期間としては滅茶苦茶足りませんから)

(アタシとアリアも見ているけど……うん、結構、いろいろ……大変だったなってところは……総集編たくさんあったし)


あぁあぁ……そういう時間的制約も絡んで、いろいろ大変だったと。それがいろいろ表現に出ているから荒れたと。

……って、そこから映画を十年以上待っているのかよ! ちょっとした怨念だろ!


(でもね、やすっちにとってはそれだって≪あばたにえくぼ≫なんだよ! ゆえにアタシ達でさえ、馬鹿にしたら殺されるかもって恐怖する程度にはヤバいんだよ!)

(トドメに恭文君、聞いてもらった通りレスバには当時から滅茶苦茶強い上、容赦がないですしね! 恐怖が実にリアル!)

(だからいいね……劇場版はやるんだよ! それが十年後か二十年後か、三十年後かの違いだけなんだよ!)

(そこまで待たせるのは逆に残酷だろ!)

(そ、そうだって! いや……言いたいことは分かるけどさぁ! 俺達、これまでの関係性ガン無視で殺されそうだけどさぁ!)

(当人がその構えなんだから仕方ないでしょ!? というかこれ、やすっち自身が言っていたし!)

((それでかぁ!))


と、とにかく分かった。舞宙とリーゼロッテが必死に止めてくるからよく分かった。

俺達は、この件には触れない……劇場版もいつかやるんだから……いいよな、それで!


「なにより、この間やったガンダム関係のライブで、主題歌を歌っている西川貴教さんが、ステージ上で断言しましたから。劇場版SEEDはやるのだと」

「「「「え!?」」」」


かと思ったら進展していたのか! おぉ、それは何より!


「……あの、蒼凪くん……それさ、あたしもネット記事? ちらっと見たんだよ。一応世代だし、名前も知っているしさ。
でも……ステージ上で勝手に言っちゃったから! あとで偉い人に怒られたってオチがついていたなかった!?」

「まだ発表しちゃいけなかったんじゃ」

「あ、うん……!」


駄目だったかぁ! というか、そのリップサービスにすらすがりつくのか! 雨宮も泣きそうな顔し始めたぞ!


≪普通なら暖かく見守るところなんですけどねぇ。でもこけの一念岩をも通すってほんとですよ≫

「「え?」」

≪Twitterを見てください≫


すると蒼凪がスマホを取り出し、ぽちぽちと……雨宮も軽く覗き込む。


「……あ、いけないんだー♪ 大人な絵師さんやセクシー女優さんをフォローしてー」

「こ、これは絵柄が奇麗だからぁ! 魂が輝いているからぁ!」

「いや、別にいけないとは言っていないよ?でも……柏木れんさんかぁ。蒼凪くんはこういう人がタイプなんだねー。
黒髪ロングで、可愛らしくて、すっごくおっきくて……そっかぁー。いや、いけないとは言っていないよ?」

「ちくちくしているんですけど! その割にはねちっこいんですけど! というか……」

「天ちゃん、あたしの推しになにか言いたいことがあるなら……聞くよ?」

「まいさんの推しかよ!」

「僕も教えてもらったんです……」


いや、お前達はなんの話をしているんだよ! あと舞宙、お前は蒼凪とそういう女優さんについて会話しているのか! その中身もチェックが必要だな!


「それよりえっと……え……!」

「サンライズ……というか、シリーズ公式Twitter、だよね。え、それが……劇場版特報!?」

『えぇ!?』

「ピ、PVも出ている! 出ているよ! マジで!」

「ガセじゃない……でも見てみて……」


蒼凪は震える手で、画面に触れて……そして一分後。


「……あぁあああぁああああぁああぁあああぁあぁあ! 本当にきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


テーブルに突っ伏し、号泣……今までの下りでも一切泣かなかったのに、ここでだけ泣きやがったよ。


「……二〇一九年、十月上映予定……これはガチだ……!」

「二年後って、また遠いなぁ!」

「いや、今の大作扱いならこれくらいアリですよ! ……蒼凪くん、よかったね」

「はい、はい……やっぱり、やっぱり未来はあったんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「よしよし……」

「劇場版用機体の装備も、絶対作るぅ!」

「それも考えたらファンメイドだしね! 頑張ろうか!」

「はいー!」


こうしていると、普通の……年頃の子どもなんだがなぁ。だが二年後……二年後か……!

でも十年待っているなら……うん、まだ待てるのか? 二年ならすぐだって……それも凄い愛だなぁ……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


蒼凪がひとしきり泣いて、落ち着いて……だがこう、俺達全員思い知ったよ。

さっきも言ったが、蒼凪はぶっ飛んだ部分もあるだけで、年頃の一面も同じようにあるんだよ。それらが地続きになっているのも事実だった。

そういう一面が見られたというだけでも、こういう集まりをやったのはよかったかもしれない。


「………………」


雨宮もこう、どことなく優しい顔をしているからな。


「あぁ……でも、そっか。情報の取り扱いは……大事だよなぁ……」

「あ、そうだね。やっぱりあのフライングは」

「いや、SEEDのことじゃなくて、めーさま達です」

「……あたし達?」

「やっぱり年単位でスケジュールが組まれるんですよね」

「あ、そうだね。ライブとかだと会場の都合もあるし」

「ガードするとそういう情報も自然と触れるし、漏洩した場合のリスクや防護策なんかも、整えないとまずいかなぁって」


すると、なぜだろう。

自然と俺に……なぜか俺にあの眼を向けてくるんだが……!


「ITとかSNSに疎い鷹山さんもいますし」

≪そこのところも現場単位で習知する……していたって事実がないと、ガード自体ご破算になりかねませんからねぇ。私もそれは賛成です≫

「あたしもそれは助かるけど……え、蒼凪くんってそんなことまでするのかな」

「また後で詳しく説明しますが、蒼凪君は各所と現場……つまりみなさんとを繋ぐ調整者≪コーディネーター≫としての仕事を任されそうなんですよ」


そこで赤坂さんが、苦笑気味に補足……その辺りは深町本部長から軽く聞いているな。

いろんな意味で顔が広く、フリーランスな蒼凪が一番適任だと……。


「かなり異例なことではあるんですが、私などもアニメや声優さんの業界には明るくないので」

「あたし達もそこは協力を頼まれたんだ。今までのガード実績もあるけど、改めてってね」

「ほへぇ……! え、でも怪我しているのに」

「それでも準備だけは始めている感じなの」

「あの、俺……その筆頭ってこと? 違うよね? 俺はあの、ほら……」

「タカ」


ユージ、諫めるなよ! おじいちゃんを宥めるように優しくするなよ! くそぉ……スマホか! やっぱりスマホが上手く使えないことでこうなるのか! いつそんな社会になったんだ!


「まぁそっちはまたなんとかするので、話を戻しますけど……だから世界を変える力で、劇場版を呼び寄せる必要はない……でもここで、今の答えをきちんと出す必要は出てきました。
もちろん鳴海荘吉も殺す。翔太郎も殺す。苺花ちゃんも殺す。ミュージアムも殺す。邪魔なものは全て殺す。
そう、僕がガンダムSEED劇場版を楽しく鑑賞する……その未来を作るために」

「蒼凪くんー!」

「僕の中の深町本部長がそう叫んでいた」

「それは静められなかったかぁ!」


おい、コイツやっぱヤバいぞ! その私欲で左もろとも全て潰す構えだったのかよ! しかも眼に一切迷いがない! 対して雨宮は泣かされっぱなしなのにさぁ!


「……白いジグソーパズルを組み立てながら、考えていたことだよね。
蒼凪くんがどう世界を救うか……どんな形にしたいか」

「ナンちゃん、このままでいいの!?」

「もうどうにもならないでしょ! と、とにかくそういう意味でも、バトルはしたかった?」

「なぜか恭也さん達はドッタンバッタン大騒ぎでしたけど」

「それはそうなるって! しかも……蒼凪くんに助けを求めたのは、記憶そのものって!」

「それもあったな……! メモリの意識云々だけでもあり得ないだろと思っていたんだが」

「ところがどっこい、それも有り得るケースなんだよ。今は」


戸惑う俺や雨宮……ユージ達に、フィリップは苦笑気味にそう告げる。というか、左も困り気味に頷きを返した。


「まぁ恭文はほんと、とんでもオカルトの領域になっちまうが……そこまでいかない事例なら、大道克己と……ハングリーメモリか」

「ハングリー……いっぱい食べるメモリ?」

「正確には“飢え”だ」


ハングリー・ドーパントの周囲にいるだけで、空腹が加速されるそうだ。なおただ腹が減るだけじゃなくて、栄養的なものもきっちり奪われる。

……もしもドーパントの目を見たら、一瞬で餓死するレベルでな。蒼凪のザラキエルに近い特性の能力だった。

で、厄介なことに……その目を全身の至る所に発生させることもできて、左も危うく餓死させられるところだったし、その場を切り抜けても数日はまともに動けなくなったそうだ。


もちろんそれを見ないように戦っても、無差別範囲吸収能力で長期戦も不利。

しかも当時だと照井も入院中で、蒼凪も裏風都対策で東京に戻っていた時期。左達はかなりの苦戦を強いられたとか。


「エクストリームも翔太郎がダウンした時点で使用不能になっていたからね。……まぁかなりの力技で解決したんだが」

「とにかくだ。あのときメモリを使用していた犯人は、風都にあるイブクロ横町で飲食店を営んでいた店主さんだったんだよ。
……だが、その人は何らかの遺恨や私刑目的で、ハングリーメモリを使ってはいなかった。
数年前に商店街の客足が落ちたとき、ハングリーに変身して……商店街に人を呼び込んだんだよ。軽い飢餓状態を作ってな」

「あ……それで売り上げを戻したと! でもそれって」

「もちろんそれも全くよくはない。ただその人は一度変身して、ハングリーの恐ろしさに気づいて、メモリを封印したんだ。
が……それが数年経って、俺がきっかけでメモリのことを意識しちまってな。そこでユーザーであるその人を乗っ取る形で、メモリが暴走を始めた」


きっかけはある一件で落ち込んだ左を励まそうと、鳴海亜樹子や風都の仲間達が食事会を開いたことだったそうだ。そのとき会場に選んだのが、イブクロ横町。

実は左、その客足が落ちた下りで、横町存続の危機だといろいろ手伝っていたらしい。そういう下りも食事会の中で話したところで、問題の店主がメモリのことを思い出した。

その結果、メモリの意識は適合したユーザーの意識を奪い、勝手に変身し、刻まれているワード……起源に乗っ取る形で、人々を襲い始めたそうだ。


「一応言っておくと、本当にレアケースだよ。“飢え”という記憶……現象そのものが強烈過ぎたゆえだね。
だから満たされたいという意識が、邪念に変化したんだ」

「だからメモリに意識があることも、それが蒼凪君に対話を仕掛けていることも、決して不思議ではない……」

「今回の場合は大本……地球からの呼びかけになるけどね。
彼にもあったんだよ。この星と対話できる素養が。父さんが目を付けるだけの水準でね」

「蒼凪君がキャラなりでエクストリームに到達できることも、フィリップさんの空間(地球の本棚)にアクセスできたことも、その素養があればこそなんですね。
では、蒼凪君も地球の本棚を閲覧は」

「僕のようには無理だよ。キャラなりによる可能性の具現化(エクストリーム)でこなせるというだけでね」


そこまで言ってフィリップは、ウーロン茶を口にして……いきなりあどけなく笑う。


「そう、僕のようには無理なんだ。
だから彼は彼なりの手段で、この星と対話する必要があった」

「そのためにバトスピ……古代の決闘を持ち出して、ですか」

「同時に今人々を熱狂させる遊びであり、繋げていくコミュニケーションでもある」


その結果蒼凪を待ち受けるのは、エクストリーム・ゾーンでのバトル。

戦い、自らの魂を……その器の力を示す。そうして初めて望むべき対話に挑める。
---

……まぁ滅茶苦茶だけどな!


「でも鳴海氏はあれだけ叩きのめされても、まだそんなことを言い続けていたとは……いや、今更か。
そうでなければ、十年にもわたって行ってきた私刑を当然とは言わない」

「まぁそんなのはどうでもいいですよ。この時点でどう潰すかは決定していましたし……それよりもバトルですよ! このときはほんとわくわくして!」

「そ、そっかぁ……」


それでこの戦うのが大好きな馬鹿は、そこにも笑顔で飛び込んでってさぁ……!


≪これもグレアムさんやレティさん達が、立場を賭けて動いてくれたおかげですよ≫


が、それもグレアム提督達の尽力もなければ難しかったと、アルトアイゼンは告げる。


≪この時間稼ぎはそもそもそこまで長期的にはできません。この人もろとも苺花さんをというコースがなくても、ジーンメモリによる遺伝子治療がありますから≫

「阻止するためには、やっぱり僕を参照とした変身状態を解除するしかないんだよね。そうすれば本格的に打つ手がなくなる」

「それも園咲琉兵衛がフリーの状態では難しい。だからと……蒼凪、それはまだなんとかなったんだな?」

「あのときのリンクで、大体のことは読み取れたので」

「やっぱりかぁ……やっぱりこの子、本気でクレイジー枠だったんだ……!」

「先輩、どうしたんですか。また笑顔で」


蒼凪、本気か! その問いかけはあり得ないと思うぞ!?


「お前がまき散らした恐怖のせいだよ! テラーの能力使ってんじゃないの!?」

「使っていたら横浜のときみたいにぐっすりですって……」

「だったよねぇ!」

「そもそも“こんなもの”で済みませんよ?」

「だったよねぇ!」

「というか、このときならふーちゃんの方が怖かったですよ……」

「だったよねぇ!」


……田所も可哀想に。救いがないよ。一般人枠として慣れていくしかないって。


「あぁ、そこはもういいや! とにかく……ハイドープの能力をそのときほいほい使えたのも、ちゃんと理由があったんだね。それがリンク状態の恩恵」

「魔導師の記憶に揃って認められていたおかげですよ。
同時に変身する際は、適合率が高いこの人の数値を参照にしていた……思えばそれも当然のことでした」

「二人変身者がいて、それぞれ適合率は違う……。なら高い方で変身するのは当たり前」

「結果ミュージアムがモルモットにした一人は、とんでもモンスターだったわけかぁ……」

「麻倉さんの言う通りです。苺花ちゃんの悪魔は、鳴海荘吉と翔太郎によって覚醒してしまった……」

「君のことなんだよ……!?」

「まぁまぁ麻倉さん……そう押しつけるにはちょうどいいダニどもですから」

「少しは悪びれて!?」


蒼凪、本気で諭そうとするな! お前のやっていることは完全に悪党だって言ってきたよな! 自覚もあったはずだよな! モンスターはお前の方なんだよ!


「……まぁ確かに……そんな麻倉さんに……雨宮さん達に嫌われても仕方ないことはしています」

「蒼凪くん……」

「内心、まさかとは思っていたんです。
僕が全力全開でなんとかしようとすると、外道な悪役っぽくなっているのではと」

『え……!?』

「“ぽく”じゃないんだよ? 悪役そのものだよ?」


蒼凪、自覚がなかったのか! それは俺達衝撃だよ! 揃って打ち震えたよ! 見ろよ見ろよ……みんなざわついているよ!


「というかさ、どうしてそこまでするの?」

「相手の行動に先んじてメタを張って、できるだけ強い布陣を組んで、効果や行動を逐一封じ、ワンサイドゲームを展開し、二度と抵抗できないよう徹底的に潰す……先攻盤面制圧は基本戦術では」

「うん、問題点を理解しているのはいいことなんだけどさぁ」

「なにより、無法者にはこちらも無法で返すのが礼儀というものです」

「誰からそんなとんでも論理を教わったの!?」

「劉さんと沙羅さんに」

「法を守るためには法をも犯す法の守護者……香港警防隊という組織がその理念で動いていますが、PSAも同じくということですよ」

「その辺りの話は、俺とユージも聞いたことがある。PSAはNGOではあるが、その中では相当に過激派だとな」

「えぇ……!?」


麻倉がどん引きしている! いや、分かる! 分かるぞ! 怖いよな! 警察関係と思っていたら……法をも犯す構えの危険集団となればな!

……それもきっと、鳴海荘吉と左は分かっていなかったんだろうが。だから最終警告をたびたび突っぱねて、自分達は無法者ですと叫んだんだ。

そんな真似をすれば、対応する側も無法で蹂躙してくるのは当然なのになぁ。


「でもやすっち……基本発想が海賊のそれなんだよなぁ」

「少数精鋭のゲリラ戦で本領を発揮するんだよねぇ。このときもすっごい生き生きしていたし」

「しかも才能の類い……!?」


麻倉がまた可哀想に……眉間に皺を寄せちゃって。若いのにこんな苦労をするってあり得ないだろ。


「でも……だとしても、先輩には受け止めてほしいです」

「「え!?」」

「狂ってんのか貴様はぁ! というか……だったらはにかみも、悪役チックなバトルスタイル修正も、ちょっとずつ頑張って」

「あ、それは駄目。やすっち、言った通り暗殺とゲリラな海賊戦が独壇場だから」

「そこを修正しちゃうと、強みを殺すも同然なんだよねぇ……」

「もっと別の強みを作るとかはないんですか!?」

「悲しいかな、奴らや柘植一派、内調過激派みたいなテロリストやら巨悪相手には必要な才能だ」

「やすっちがこういう奴だからこそ、連中も手玉に取って潰せたわけだしね」

「でもこれは絶対問題だと思うんですけど!」


田所も可哀想だなぁ! 重たい愛を向けられているよ! もしかしたらコイツの方が女神なのでは!


「じゃあ……鳴海さん、もういい感じで焼けましたから……まずは太ももからですよ? ふふふふ……!」

「え」


そうして風花は、注文していたシュラスコに手をかける。じっくり焼けたシュラスコを、笑顔で……ナイフで削ぎ削ぎして……。


「翔太郎さんを殺されたくないんでしょ? だったら我慢しないと……ほーら、そげたー♪」

『…………』

「お前は変われない変われない変われない変わる権利がない……でも大丈夫。そんなお前でも世の中の役に立つことはできる。
さぁ、もっともっと苦しめてあげますね……♪ お肉はぜーんぶ麻倉さんといちごさんが食べてくれますから」

「ちょっと!?」

「風花ちゃんが、本気だ……!」


いや、もう……ああするしかなかったんだよ。“殺してやりたい”とか呟いていてさぁ……翔太郎を見ながらだよ?

それで手元が何かを握る手だったから、怖くて怖くて……麻倉といちごも大変だろうが頑張ってほしい。


「そういえばさ、蒼凪くん……」

「なんですか、先輩」

「風都にいたときも、特上寿司とピザを奢りまくったんだっけ? 経費で」

「奢りましたねぇ。そうしてお腹いっぱいにして、できるだけ寝かせて、行動不能に追い込んだんです」

「でもそれ……八岐大蛇とか殺すやり方」

「違いますよ。生けにえ提出によるただの延命措置です。ふーちゃんは殺せませんから」

「この子もモンスターなんだよなぁ……!」


先輩の言う通りだよ。もはや豊川八岐大蛇神だよ。本部長から神話級のモンスターに大進化だよ。

その後で首を刈り取れないことを除けば、本当にモンスターだよ。というか怖すぎる……!


「でも恭文くん、どうしましょうか。このまま肉を削ぎきったらまた」

「二本目……翔太郎を頼んでおくよ。翔太郎もそれを食べて仲直り」

「まさしくハッピーエンドね」

「おい待ててめぇら! て、照井……フィリップ!」

「「…………」」

「揃って顔を背けるなよ!」

「……左さん、そっちはお任せします」

「ちょ、アンタまで!」


左、落ち着け! 先輩だからってそこまではフォローできないよ! 限界値はあって然るべきなんだよ! 照井とフィリップも同じだよ!

それにほら、シュラスコだもの! 太ももじゃないもの! 美味しそうだよ……きっと美味しいよ! 大丈夫だよ! おじさん、応援しているから!


(――本編へ続く)






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