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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2008年・風都その14.5 『断章2017/いくら花を吹き飛ばされても』






魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

西暦2008年・風都その14.5 『断章2017/いくら花を吹き飛ばされても』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


蒼凪がヤバかった。完全にぶち切れていた。

だが……あぁそうだ。その前に、まず一つ、聞いておきたいことがあったんだ。


「あ…………蒼凪? ところでさ、あの……途中で出てきたメカニカルなのって、一体」

「――ずっとー二人―♪ この手―繋げずにー♪ 生まれてきたー意味をー探してたー♪」

「思い出してわくわくしているところ悪いが教えてくれよ! というかなにうたってんだぁ!?」

「たどりーつく♪ 場所さーえも分からーないー♪
届くと信じてー♪ 今ー♪ 想いを走らーせるよー♪」

「続けるのかよ!」

「……という歌なんですよ、雨宮さん。
玉置成実さんの曲です。ガンダムSEED四クール目のOPです」

「あぁあぁあぁあぁあぁ……聞き覚えある! あった! ありがと!」

「雨宮―!」


え、流れたのがなんの曲かって話をしていたのか!? 今していたのか! だったら後にしてくれよ! おじさんには分からないからさぁ!


「で、しかもそのときにもなんか……信じられるー理由にー気がついたー……って流れたと!」

「おかげでテンションマックスですよ……」

「え、ちょっと待って。
そうして多数のGを……だよね。でもGって……えぇ……!?」


そして麻倉は顔面蒼白だよ! そりゃそうだよ! そんな怪人大量出現とか、悪夢以外の何者でもない!


「麻倉……正確にはコックローチ……Cだ。いや、大した差異がないのは分かるんだが」

「そんなのが、たくさん……え、怪人として?」

「実はガイアメモリの中では量産が効きやすく、適合条件も低く、価格帯の割に性能も高いということで“そんなのが”かなりの売れ筋商品でな。
組織が壊滅した今もなお大量に出回っている有様だ」

「…………人として大事なものを放り投げているんだよなぁ……!
というか、天さんは大丈夫なの? 虫嫌いなのに」

「そうだ……気分などは大丈夫か? 横浜のときもアントライオンで腰を抜かしていただろうに」

「あー、さすがにぎょっとしたけど……それも悉くビームで撃ち落としたんでしょ!? だったら問題なし!」

「結果数十人単位でお亡くなりだぞ……!?」


……というかそれ、もうガイアメモリ密売組織じゃないんだよなぁ。ただの害虫量産組織だよ。それだけでも人類の敵だ。


「というか、私的に気になるのは……え、そんなに強いんですか? G……じゃなくてCが」

「時速二百キロレベルの高速移動ができて……。
飛行機能も有していて……。
大抵の環境にも適応して活動可能で……。
なおかつ呼吸器官なども潰せる悪臭漂う粘液を連射可能……。
それで高性能じゃない理由があるなら、またじっくり話を聞きたいくらいだ」

「……怖すぎるんですけど……」

「否定はしない」

「しかも食事時に話すことじゃないんだよなー!」

「とはいえ必要なことではある。……量産性が過ぎるゆえに、恐らくこれから奴らを追う中でも必ず戦うことになる」

「嫌過ぎませんか!?」

「山崎ちゃんの言う通りだよ! え、というかそれは俺達もってこと!? 俺達、その害虫駆除に頑張らなきゃいけないの!?」


しかもコックローチの話は避けられないっていうのが絶望だな! いや過ぎるぞ、そんなのに襲われるとか……俺だったら全力で逃げる! 間違いない!


「……リアルテラフォーマーズってことですか……?」

「え……?」

≪鷹山さん、夏川さんが言ったのは、アニメ化もされた人気まんがです。
火星のテラフォーミングに特殊倍湯したGを大量投与したら、それが人型の超絶スペック異星人として襲いかかるというもので≫

「嫌な実写化だな、おい!」

≪誰もかれも見たことを後悔するできばえだったらしいですねぇ。映画は≫

「既に実写化されているのかよ! しかも爆死か!」

「あ、そうだ。新しい装備のアイディアが……うんうん、思いついたぞー! イラストに起こしておかないと!」


そして蒼凪がまたアホなことを! さらっとタブレットを取り出すな! ペンでさらさらと書き物をするな! 筆を走らせるな!


「……鷹山さん、そうなったらやっくん、止まらないです」

「止められないのか!?」

「フィリップくんの検索癖と同じ……!」

「記憶力が独特なせいもあって、メモとか記録は絶対欠かさないんだよね。
後で思いだすとか絶対無理だから……でも恭文くん、翼じゃなくなっているけど」

「多機能型バインダーにして、ストフリのややとっちらかった部分を整理して……あとは胸部からもエネルギーフィールド発生装置を応用して、砲撃機構を盛り込んで……できる、できる、できる……」

「楽しそうだなぁ、本当に!」

「……夕飯までには帰ってきてね?」

「はーい」

「まいさんも応援しないの!」


舞宙、ツッコめ! 流すな! というか……こいつ六歳当時から何一つ成長していない!


「……まぁ、恭文くんは本当に止まらないので、私が引き継ぎます」

「ん……それで風花ちゃん、疾風古鉄って」

「当時はまだ発表前だったIS……インフィニット・ストラトスですよ。
それが本当に軍事利用されちゃった世界の恭文くんから、力を借りたらしくて」

≪ガンダムSEEDのストライクフリーダムモチーフでいろいろ作ったみたいですね。
しかも魔導師でありSEED直撃世代でもあったから、システム処理に瞬間詠唱・処理能力も併用した……だからサポートさえきっちりしていれば、滅茶苦茶使いやすい装備だったんですよ≫


ただ、そこでアルトアイゼンは呆れた様子でため息を吐く。


≪しかもそれは、言った通り苦手項目なんですよ。もう感心するやら呆れるやらで……≫

「特にビット兵器は、やすっちの空間認識能力を徹底活用できるものだしね……!
アタシでもあれをかいくぐってどうこうは、手傷覚悟じゃないと難しい」

「それもう魔法少女でもなければ、コスプレでもないよね……!」

「その辺りはルビーの能力が馬鹿みたいに高かった関係だな。あとはコイツの適性も……むしゃむしゃ……んぐ」


ヒカリ、美味しそうにレタスごと肉をほおばっている場合じゃないだろ! むしろミュージアムが可哀想だぞ!


「あと文句なら鳴海荘吉とミュージアムに言え。奴らがメモリの力にうぬぼれて、風都外への影響や組織的ヘイトを煽りに煽ったせいだからな」

「まぁ、それはな……?」


それを言われると弱い。そもそもそのルビーが貸し出されたのだって、魔術師界隈に喧嘩を売るような状況になったせいだしなぁ。

そこんところはPSAや管理局もそうだが……あ、蒼凪の奴が事件に巻き込まれたのもそれに入るか。


……そう考えるとこの分からん殺しも当然にされるっていうんだから、もうなぁ。


「ただ、アタシとロッテ、やすっち的には、方針をいろいろ固めるいいきっかけではあった」

「だね……。苦手な中長距離戦闘も、魔法能力だけに頼らない方式でサポートすれば、十分できるって分かったし。
恭文君もそれで、実際に自分でこういう装備が欲しいーって、デバイスマイスターの資格を取ったくらいだし」

「それがあのクアンターっていうのなんですね……」

「そこから舞宙ちゃんと再会した頃には、自分なりにこのとき使ったストフリ装備も再現したんだ。ヴァリアントシステムも応用してね」

「やっちゃん、そこからガチ再現したのかよ……!」

「そっちについては大下さん達も見ているはずですよ? フリーダムパック、使ったんですよね」

「あれか!」

「あぁあぁ……確かに羽根を広げて、一斉掃射とかしていたな……!」

「まぁ羽根のビットは再現しきれなかったから、初代フリーダムの大砲を持ち出したそうなんですけど」


それで羽根から大砲が出て、砲撃がドガンとなったわけか……。コイツ、どんだけ好きなんだよ。

つーかISがベースなら、そりゃあ伊佐山には手出しもできないだろ。絶対防御もあるんだぞ、あれ。


「あれはですねー、自信作なんですよー。特にハイマットフルバーストの再現が難しくて……砲身根元の稼働と射角のバランス取り、更にエネルギーラインの確保で三か月かかりました」

「はい……!?」


そして蒼凪が戻ってきた! そこだけは主張したいと言わんばかりに戻ってきた! しかも凄くいい笑顔だよ! 麻倉も戸惑っているのに!


≪翼広げてドガーンですよ。あれ、元々の設定にはなかった描写なので≫

「え、でも」

「フリーダムは翼を広げた高機動のハイマットモードと、武装を展開して一斉発射するフルバーストモードの二種類を使い分ける機体だったんです。
でもアニメで初登場したとき、バースとかの絡みでその二つが合わさったような描写に見えちゃって」

「それは聞いたことがあるなぁ。そこから設定を弄って、実はそういうモードもあったんですーって話にしたんだよね」

「ですです」


山崎もよく知っているな! やっぱSEEDって有名なのか! だがどう違うのかが……。


「とはいえ未見の人達には、なにがどう大変なのか分からないでしょうから……プラモのフリーダムを見てください。レビューサイトなんですけど」


だがプラモのレビューをしているサイト……その画像を見せてもらって、ようやく理解した。

……大砲根っこから折れているからな! こんな動き必要なのかと思うような場所で折れ曲がっているんだよ! そりゃあビビるよな!


「……蒼凪くん、これを再現するために……三か月かけたの? この折れ曲がるのをなんとかするために」

「どうしてもやりたかったので!」

「うん……私はさ、素人だからあれこれ言うの、駄目かもしれないけど……ビットでよくない?」


そして麻倉がぶった切ったぁ! そりゃあビットなら折れ曲がる必要ないからな! 三か月かけて作るのならなんとかなりそうだが!


「いや、技術力云々で駄目だったのは分かるけどさ。でも、折れ曲がる必要はあるのかなぁ。三か月かけるならそっちとか」

「ハイマットフルバーストはかっこいいんです! それが全てなんです!」

「そっかぁ……」

「あと、ビット系ならバージョンアップで一部導入していますから! シールドブーメランとして!」

「あれブーメランじゃないよね!」

「SEEDではビームブーメランって種類の武器がちょいちょい出ているんですよ。
で、それが簡易的な形で、誰でも使えるビット兵器に発展しているんです」

「えぇ……!」


蒼凪、その事実は知りたくなかったよ! いや、劇中設定に乗っかっているとしても……あんな飛ぶ盾がブーメランって! でかすぎるだろ! 戻ってくるけどさぁ!


「……ねねね、蒼凪くん……なんで盾をその、ブーメランにしようと思ったの?」

「ガンダム00って作品に出てくるケルディムガンダムというのから思いついたんです。
それが射撃もできるシールドビットを多数搭載し、自分や味方を守りつつ戦うんですよ」

「あぁあぁ……それはめっちゃ便利かも!」

「そうなんですよー。……あのときも出しておけばよかったなぁ。そうすればショウタロスに自爆なんざさせなかったのに」

「すまん……!」

「ちくちく突き刺すのはやめてあげようか……!」

≪それでビット運用も練習しつつ、次のバージョンでは実体剣型のビットを搭載したんですよ。タダでは転びません≫


いや、壊れてもすぐリサイクルされて襲ってくるのか!? 便利だが相手からしたら怖すぎる!


「で、それが形になったのが……舞宙ちゃんと再会する少し前。あのときは六年越しの悲願に大騒ぎだったよ。
……ちょうどリインちゃんが軽井沢に転移して、やすっちも追いかけてきた次元犯罪者とドンパチすることにもなったし!」

「そこでタツヤ君達も含めて、あたし達に魔法とかいろいろバレちゃった感じなんだよねぇ……」

「やっぱり夏かぁ!」


田所が頭を抱えたよ! 先輩として打ち震えているよ! いや、もうそうとしか思えない苦しみ方だ!


「うん、そこはもう納得しますけど……でもやっぱり、魔法少女じゃない……!」

≪それはそうでしょ。魔法少女なんてルビーが勝手に言っているだけで、実際は超絶ロストテクノロジーの塊でマウントを取っているだけですし。
『別次元のレベルMAXな自分にコスプレして、凶悪犯罪組織に俺TUEEEEでざまぁしてみた』ってタイトルのWEB小説みたいなものですよ≫

「……もうどっちが悪か分からないよ、それ」

≪当然勝った方が正義です≫

「えぇ……?」


可哀想に! 麻倉もツッコんだことを後悔したよ! 可愛い表情が歪みきってさぁ! あとその解説同然なタイトルがあっていいわけないだろ! そんな小説どこにあるんだよ!


「じゃあさ、ほかにないの!? フリーダムっていうのだけ!?」

「デスティニーパックもあります」

「運命!?」

≪折りたたみ式の対艦刀と高エネルギーライフル、ビームブーメランを装備しつつ、光の翼で超加速する決闘仕様ですよ≫


そう言ってアルトアイゼンが見せてくるのは……おい、なんだこれ! デカイ刀っぽい武器を持ったかと思うと、そのハモとにビームが走って……翼のパーツが広がり、ヒカリがぶぁーって!

そうして空中を飛びながら分身……分身しているぞ! どうなってんだ!


「なんか分身しているんだけど!」

「翼に幻影魔法の補助システムを搭載していまして。発露する粒子を散布し、残像を刻みつけているんです。同時に通常時を大きく超える超加速も可能としています」

「ならやっちゃん、あの刀っぽいのはなんだよ! なんで刃がビームなんだよ!」

「SEEDの対艦刀はこれが基本方式です。
ビーム刃で溶断しつつ、実体部分の質量を叩きつけ、真っ二つにするんです」

「殺意高すぎない!? というかこんなの誰に」

『きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえい!』


そうして刃を打ち込まれた……銀髪猫耳猫尻尾の女は、ジャケットや腕を切り裂かれ、はじけ飛ばしながらふらりと揺らぎ……それでも踏ん張って反撃を試みる。


「……って、ちょっと待てぇ! アルト!?」


そして蒼凪は即座に手を伸ばし、女の胸を掴んで……手の平から連続射撃。そうして女を押し倒す……って、なんだこれはぁ!


「……蒼凪くん、あの……なにこれ?」

「……パルマフィオキーナです。デスティニーには、手の平に高出力のビーム砲が付いているので……その再現も」

「そうじゃなくて! この猫耳の美人さんは誰! 胸触ってんだけど! というか……なんか周囲にも獣耳な方々ぁ!」

≪この人が少し前、フロニャルドという異世界に召喚されたときの戦闘です。そこの国営放送さんからもらった映像ですよ≫

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』


異世界!? フロニャルド!? なんだそれ! そんな映像……しかも国営放送!?


「なお相手は、ガレットという国を治めるレオンミシェリ閣下……ガレット騎士団の団長であり、国随一の強者ですよ。
……お兄様は勝利のためとはいえ、全国放送もされるような戦で……それはもう不埒なことをしまして」

「あのときはガチに処刑されるんじゃないかってビクビクだったぜ……!」

「いやいや……待って! 戦が全国放送ってなに!? 殺し合い公開放送ってこと!?」

「えっと、雨宮さん……それがちょっと違うんです。
……フロニャルドの戦は、死者やけが人などが基本でない『戦興業』という平和的国営イベントなんですよ」

「平和的国際イベント!?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


蒼凪曰く……フロニャルドには大地の加護力≪フロニャ力≫という自然エネルギーが各所に溢れているそうだ。

その加護が強いエリアであれば、けが人は映像にも出ていた丸っこい短足動物……けものだまという状態に変化するだけで、怪我や死亡事故などはないらしい。

各都市部もそんな加護の強い場所を中心に立てられており、そこでクラス住人達は……なんの因果か、蒼凪と同じく獣耳と尻尾を持つ存在達。


その特性を生かし、戦をイベント化し、参加費用などで収益を上げ、国同士の交流や決めごとに活用しているのが『戦興業』。

しかもその戦闘内用は本格的なドンパチよりも、国民が健康的に運動や勝負事を楽しめるアスレチック競技に近いものらしい。


「鷹山さん達世代なら、あれですよ。風雲たけし城のノリです」

「あれなのか?!」

「まぁいわゆる大将格……エースが大暴れするところはありますけど、それも相手のエースが迎え撃つんです。
というより……そういう一騎打ちもイベントの一つで、一般兵を蹂躙するようなやり口はむしろ避ける傾向があります」

「正々堂々の一騎打ちで盛り上げつつ、国民が一致団結し、みんなで楽しく勝負に挑むと……」

「おいおい……だったらわりと緩い感じだよなぁ。健康的な運動イベントって言っていたし」

「だから僕達も最初見たとき、唖然としましたよ……。なにせ国営放送での実況とかも入るんですよ。お互いの国から代表者を解説役として置いたりもして」

「どこまでも平和だなぁ! で、それでなんで勇者が必要になったわけ?」

ある事情からガレットの侵攻を受け続け、興業に負け続けていたんですよ。ビスコッティは」


そうして思い悩んだ領主のミルヒオーレは、ある少年を勇者として呼び出すことにした。当然ながら、それが……蒼凪だったわけだよ!


「そのとき渡された……というか借りたのが、神剣パラディオン。
ビスコッティに伝わる宝剣の一つです」


そう言って蒼凪が出してくるのは、赤い宝玉を宿した指輪。中指に付けているそれは、実は気になっていたんだが……。


「え……それ、あたしにあのとき貸してくれたやつ! 剣なの!?」

「デバイスみたいに、所有者の意志に応じて変形するんです。
フロニャルド以外だと難しいみたいなんですけど……それでも所有者を加護してくれているんです」

≪同時にこの人とフロニャルドを繋ぐ楔にもなっています。だからわざわざも預けてくれたんですよ≫

「そんなのをあたしに貸してくれたの!? お守りって!」

「他の目的もありましたよ? 紛失に備えてパラディオンには、術式でマーキングも施していましたから。
……もし雨宮さんがこっちの意図を飛び越え暴走した場合、即座に追跡・確保できる目印でもあるんです」

「納得した……!」


なるほど。だからわざわざあんな真似を……雨宮を信用していないというより、それくらいにどうようしていたから……だな。


「でもさ、世界を救えとかそういうのじゃないの!? 本当に、そのイベントに勝つためだけに!?」

「だけでした。ミルヒも“ひとまず今日だけでも”って……終わったらすぐ返すのでってことで、参加した結果がコレです」

「ノリが軽すぎるよ……」


麻倉がどん引きしてやがる……。そりゃあそうだよ。そんなの勇者じゃないだろ。ちょっとした助っ人だろ。展開が壮大すぎるが。


「で、問題はこの後ですよ。……ミルヒ……召喚した勇者はいつでも帰せるって勘違いしていまして」

「え、それじゃあ」

「召喚された勇者を元に戻す手段はない……それが常識だったんです……!」

「でも、蒼凪くん戻れたんだよね。だったらそこまで問題じゃなかったとか」

「……ビスコッティには、リコッタっていう超絶天才な学者さんがいまして。
その子のツテをフル活用した調査で、一定条件の上でなら戻れるって分かっただけなんです。それも十日後とかでした」

「え……じゃあ、もしそのリコッタさんがいなかったら」

「どうしようもなかったんです。
そもそも戻れるのも期限付き……召喚されて十六日以内にーとかでしたから」

「なにそのクーリングオフ制度……」


またまただが、麻倉がどん引きしてやがる……。それはそうだよ、そんなクーリングオフの上で勇者召喚とか……さぁ。

しかもガチ天才でもそれだけかかって……下手したら期限切れで戻れなかったと!? 怖すぎるだろ!

なんか、召喚されたときも向こうの使いから、会話もなしで引きずり込まれたとか言っていたしさ! ただの誘拐だろ!


「それまでも大変だったんだよ……。ガレットというか、レオンミシェリは相当無茶な感じで戦興業を仕掛けていてよぉ。
それが予知で見た、ミルヒや……召喚されたヤスフミの確定死を避けるためだったとか……」

「その原因となっていた魔物の驚異を退けるとか……なんだかんだでガチ勇者くらいの働きはしましたね。私達」

「えぇ……平和な感じだと思っていたら、結局命がけの戦いなの……!?」

「えー、でもその世界、なんか楽しそうだな−。それならあたしもこう、スターライトーとかできそうだし」

「天さん……そんな気軽に言っちゃ駄目だって。召喚されたら戻れないかもしれないのに」

「あ、もう違いますよ? リコ……リコッタ達がこのドタバタをきっかけに、改良型の召喚術を開発しまして。
そっちを活用すれば、ちょっとした休みに田舎へ遊びに行くーくらいの気分で行けるみたいで」

「かと思ったら一気にハードルが下がった!? え、そんな改良型ができちゃうの!?」

「リコを中心に、各国の英知と言える人達が頭脳をフル回転させたそうなので……」

「国家間の大型プロジェクトですかぁ!」


そして驚愕だよ! 夏川も打ち震えているけど、どんだけ本気を出したんだよ! 戻れないのが常識だったのに、それを覆したと!? 英知すごいなぁ!


「それで向こうとは手紙とかのやり取りもできるようになって……」

「文通できるんだ!」

「それで驚いていたら、今度はスマホでビデオ通話できるようになって……」

「一気に時代が進んだぁ! え、なんで!?」

「僕もよく分かりません。最初に帰れないって分かったとき、舞宙さん達に連絡したいって言ったら……現地の通信装置を使って、電波を繋がるようにした子ですし」

「ガチ天才なの!? 天才だからできちゃうの!? インフレってレベルじゃないよ!」


夏川の言う通りだよ! そこまでくると軽いホラーだよ! そのうちヴァリアントとかも再現するんじゃないだろうな!


≪だからガチ天才なんですって。なにせ五歳の時点で、世界規模の通信インフラ……その基礎を作ったんですから≫

「僕が召喚された場所……この世界と繋がりが残っていた場所の波長を利用したとはいえ、大した改造もなしでやっていたからね。
もうリコが作った通信インフラが、元々超高性能だったからとしか言いようが……スタッグフォンも分解して、参考にしたとか言っていたけど」

「分解!?」

「どうもリコッタ・エルマールという少女は、気になる機械を分解するクセがあるようなんだよ。まぁ構造が分かったらすぐ修復するそうだが」

「それでヴァリアントコアやらに興味を持たれて、結局スタッグフォンを渡したんだろ? そうしたら構造把握して量産型作りまくったって」

「写真も送ってきたからね」

「別世界の文明に慣れ親しみすぎだろ! 俺だってそこまで軽快に使いこなしていねぇぞ!」


左が畏れおののいているぞ! だが仕方ないよ! 俺だって怖いよ! 写メってやつだろ!? それ送ってくる異世界人ってなんだよ! というかハードルが低くなりすぎだろ!


「いいか……メモリは渡すなよ! ドライバーは渡すなよ! ヤバいことになりそうだからよぉ!」

「さすがにリコもそこは自重してくれているって……。ただ」

「ただ、なんだよ!」

「いやね、あのときちょうどお店で買った、聖戦士ダンバインのBlu-rayをさ、一緒に見たんだよ。異世界転移者だったから。
そうしたらオーラバトラーに興味全開で。いずれ作りたいって……僕も共同開発しようってお誘いを」

「絶対やめろよ! ロボまで持ち出したらもうどうなるか分からねぇぞ!」

「やっちゃん、聖戦士ダンバインって……なに!」

「富野監督が作った、ファンタジー世界に転移してーっていうお話の走りですよ。
そこでは現地生物の甲殻や筋肉、脳神経などを生かして組み立てる、オーラバトラーというロボットが作られ、それに乗って戦うんです」

「それは駄目だなぁ!」


ユージの言う通りだよ! ガンダムのノリで、異世界のロボが戦うってことだよな! 察したよ! そこまでするともはや侵略と同じだろ!


「あ、でも夏の後半に、二週間ほどお泊まりすると約束したからなぁ。またお土産用意しないと」

「それでまた行くのかよ!」

「夏の戦興業に参加する予定なんですよ。リハビリも兼ねて……いい温泉もあるそうなんですよねー」

「……それ、もう勇者じゃないよね? 田舎へ遊びに行っているだけなんだから」


そして麻倉の表現が的確だ! というか、苦しげだよ! 異世界渡航がそんな気軽でいいのかと!


「というか、そこでヴァリアントとか使っていいの?」

「それもリコが監修してくれたんですよ。
初っぱなで、十五分程度でシステムを全部理解して、フロニャ力も取り込んで動けるように」

「なにその無駄に積み重なる天才描写……。
というかさ、それならもっとこう、魔法少女っぽい装備とかないのかな」

≪それならありますよ?≫

「あったの!?」

「あぁ、うん……もうちょい魔法よりの機動兵装ウィングも、作っていたんだよ。マイティーディバイダーっていうの」

「あれは天才の発想だったよねぇ。アタシらもビックリしたよ。特許申請したくらいだもの」

「特許ですか!」


また凄いものが……だがなんだろうな。リーゼ達、表情が滅茶苦茶重たいんだが。


「周囲の魔力素をナノサイズの粒子として制御・操作して、それを触媒に防御や広域雷撃に繋げるんだから。
さすがに魔力も足りないからって、小型動力とかも搭載してさぁ」

「え、それなんか凄そう! 伊佐山さんのときはなんで使わなかったのかな!」

「……雨宮ちゃんも黒焦げにしたくなかったからだと思うよ?」

「い!?」


そこで風花がスマホをぽちぽち……。


「これですしね……」


これもまたテスト映像……みたいだな。


『焼き尽くせ!』


その中で蒼凪がこう、数えるのも馬鹿らしい数の的に囲まれ、それを雷撃で悉く打ち払う姿が……! それも動きもせずにだよ!

しかも相手の砲撃や矢弾が飛んできても、金色のバリアで全て弾くんだよ! なんだよこれ!


「だから……なんでラスボスっぽくなるの!? 魔法少女なんだから、メカ要素を省いて!」

「そもそも魔法少女をコンセプトにしていないので……」

「それもそっかぁ!」

「あ、うん……納得した……! あたし、これ食らったら多分死ぬ。というか、アリーナが滅茶苦茶になる」

「あのときはライブ会場の保護もあったから、やっちゃんなりに加減していたのね……!」

「水橋達のときも……使えないよなぁ。被害がでかすぎるぞ」


だがこれ、魔法なのか……!? なんか特許も取ったとか……だったらコイツ、特許料で金持ちなのでは! そうなのか、おい!


「いや、今思ったんですけど……使えばよかったです。アイツらを廃工場に追い込んだ上で、外側から内部を焼き尽くせば」

「あれは乗りこんで大暴れでよかったと思うぞ……!?」

「効率を重視した方がいいかなって。この間もギリギリでしたし」

「やっちゃん、効率ばかり追い求めても駄目だって! 趣きは大事だって!」

「だよなぁ! お前はこう、そこに走るとやり過ぎる! むしろ無駄なくらいがいいぞ!」

「今度から地殻貫通形の爆撃とかやろうっと」

「「趣きあるドンパチでいこう!」」

「いや、趣あるドンパチってなんですか……?」


山崎、そこは疑問を持つなよ! さすがにさ、それは台なしだと思うんだよ! 蒼凪課長にはもっとこう、やり取りを大事にしてほしいと思うんだよ! それが趣きなんだよ!


「たとえ死ななくても、芸能活動に差し障りが出るかもしれないしねぇ。
恭文君的にも、雨宮ちゃんは好きな子だからそんなことできないよ」

「アリアさん!」

「えー、そっかー♪ だったら、改めて君の口から聞きたいかなー? 意地悪とかで気を引かないでさー」

「にゃああぁあああぁああぁ!」

「あ、でもその前に先輩かな? 先輩にはいっぱい意地悪しているし」

「そうだね。ほんとそこは教えてよ」

「先輩!?」

「……なぁ、ほんと……蒼凪はなんで、これでルビーとうまくやれたんだよ。一見すると水と油だろ」

「あれについてはもう、性根が似ているとしか言えないよ……。愉快犯というか、テロリストっていうかさぁ」


俺が絶望に襲われている中、同じ気持ち……気持ちではあるんだと渋い顔をしながら、リーゼロッテが頭をかく。


「とにかくカードゲームもそうだけど、強みや弱みがはっきりした……曖昧じゃないシステマティックなものなら、複数同時に使いこなすことそのものはできるんだ。
で、そこに使いこなしのお手本があるならより盤石。今回の場合は別世界の自分と、ガンダムSEED劇中の戦闘シーン全部が教本だよ」

「そうすればASDの特性であるロジック偏重を生かし、論理立てた運用ができるんですね。
ですが、障害特性でマルチタスクは苦手だとも……」

「もちろん練習必須なことだけど……多元転身や憑依経験は、その辺りもインスタント補填可能だから」


あぁ……そうだったな。コンビニの下りはマルチタスクすぎて、それぞれの習熟にも時間がかかりすぎるってのが問題だった。

だが別世界の自分から経験値ごと力を借りる形であれば、そこも解決できて……相性が良すぎるだろ!


「そのやすっちが無限の魔法少女力でそんなコスプレツールを使ったら、そりゃあガチ魔王でもないと止められないって」

「つまりやっくんは、最高最善の魔王を目指すしかないんだよ……じゃなかったら最低最悪の魔王だもの」

「サイちゃんも乗らないの! というかね……私の魔法少女への夢とかを打ち砕かないで!? わりとその下り衝撃的だったんだからぁ!」

「いちごさん、魔法少女ものに出演されたいとも仰っていましたしね」

「「え!?」」

「鷹山、大下……なぜそこで驚くの?」


あ、やめて。課長……俺達を見ないで? その、課長が声優さんとしてどんな活動をしているかとか、よく知らなかった……それだけなので……!


「……………………」


だから、そんなじっと見ないで……!? お前、ほんとそういうとき怖いんだからな!? 近藤課長を思い出すんだよ!


「でもさ、蒼凪くん……そこまでなんか凄くなるのに、今は変身しないの? 本当に自分で強くなること中心」

「中心ですね。
それでルビーともお話して、コンビは事件解決と同時に発展的解消。遠坂家の方にも帰しに行ったんです」

「それで本当に作れるようになって……かぁ。やっぱ根っこはストイックというか、生真面目というか……」

「ん……やすっち、アスリート的に訓練するのは性に合っているみたい。だから教え甲斐はあるよー」

「だけど、誰かと一緒に……切磋琢磨する感じは、躊躇いとか辛さがある……」

「……自分がストイックすぎるってところも自覚があるしね。これでもさ」


するとリーゼロッテは少々困り気味に、田所とそんな話をし始めた。

その辺り、蒼凪がちょっと触れた“願いを叶えるアイテムだけじゃあ叶えられない願いもある”って下りにも通ずるからな。田所も……他の若い奴らも、相応に思うところはあるようだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「でも蒼凪くん、迷ったりは」

「ないない」


そんな便利アイテムのルビーだが、その返却には一切迷いなかったらしい。

まぁさっきの様子から察してはいたが、念押しするようにリーゼロッテが田所に手を振る。


「というかほら……そもそも遠坂家からの借り物だから」

「……でしたよねぇ!」

「でも、さっきのお話しだと押しつけられたし、帰すときも遠坂家で大騒ぎだったって……」

「遠坂家というより、娘の凜ちゃんだね。……やすっちの一件が起こる少し前、ルビーに歌が上手い自分になりたいと相談して……それまでの友人関係が悉くリセットされるハメになったんだって」

「「い!?」」

「……凛ちゃん、相談した瞬間から記憶がなかったとか言っていましたから……そこからルビーが洗脳状態にして、ほぼほぼ強制でかなり痛いことをしたんじゃないかと。
だからもう、返すときも泣き叫んで大変だったんです。なんでもするからって喚き散らして、泣き崩れて……!」

「挙げ句やすっちの妻になって財産全部差し出すとか言い出していたしね……。そうすれば問題は一つもないと」

「……地獄かよ」


いや、蒼凪は実に正しいことをしている。力に飲まれずそういう選択ができるというのはいいことだ。尊敬できる部分もある。

だが、その結果そこまでのトラウマを刻んだ相手に、その元凶(しかも反省なし)を突き返すんだよなぁ。むしろそのまま借りパクしていた方が正義なのではないかと、ちょっと思ってしまう。


「というか、そんな呪いアイテム相手に、どうしてやっちゃんはほぼほぼノーダメージなんだよ……!」

「ほんとあたしもそこは疑問! 愉快犯同士仲良くってやべーし!」

「いたずらっ子な天さんが言っても駄目だよ……。
蒼凪くんが気を遣っているって分かっていても、さっきみたいにからかっちゃうし」

「もちぃ!」

「……だが表現は的確だ。蒼凪とルビーの場合、完全に“毒を以て毒を制する”理論で上手く……うがぁああぁ……!」

「「照井さん!?」」

「照井、どうしたんだよ……おい、会ったのか! その広域精神破壊兵器に!」


照井もトラウマを刻まれたのか! だから胃を押さえて打ち震えるのか! なんて不憫な! 雨宮とユージ、麻倉も戦々恐々としているよ!


「というか蒼凪恭文の場合、そもそも女装やあざとい行為には躊躇いがないしね……。
オパーイの魂がないって点がすさまじく引っかかるだけだし、ダメージが少ないんだよ」

「それもヒドい話だなぁ! え、というかそんなに女装OKなのか、蒼凪は!」

「絹盾いちごに着物の良さを教えられてからは特にだね」

「確かにな。デザイン的に男女の区分けがびっしりしているわけじゃないから、よくかわいい系のものも著るようになっていた」

「それでか……」

「私達もそれ、いちさんから聞いています。そっちよりの服も凄い着こなすから、ペアルックが楽しいって」


確かに、柄とか帯とか、着ている場面とかでなんとなく受け入れているが、着物そのものはそこまでびっしり……それこそスカートとかやらインナーみたいに、びっしり男女で別れている感じはない。

袴も、普通の着物……着流しみたいなのも、浴衣も、それぞれ基本デザインは同じだった。


「うんうん……だから恭文くん、桜色の袴とかもあるんだよ。
憑依経験で見た沖田総司も着ていたからって、お気に入りのやつが」

「え、それどうして着てこなかった……あ、バーベキューで汚れてもいいようにかぁ。
なら今度さ、ライブのガードとかお願いするし、そのときにでも見せてよ」

「……蒼凪くん、天さんのことは気にしなくていいの。
からかって気を引くって意味ではほんと子どもだから。同じラインで接して?」

「あの、わたしもお願いしていいかな! もう可愛いやつに割り振ろうよ! 髪色も……校則とか大丈夫!? 大丈夫ならちょっと変えよう!」

「夏川まで……」


だがその前に雨宮と夏川だった。

おい、お前ら……気づけ! 麻倉が凄い目をしているぞ! 顔を背けるんじゃないよ! 現実を見ろ!


「……アタシも手伝うよ、それ!」

「ロッテ……? 舞宙ちゃんともども説教が控えているのに、まだ追加を増やすのかなぁ」

「「え!?」」

「まぁ、そっちはうちのやべー奴らも含めてお願いします」

「「ちょっと!?」」

「心得た」

「「「「心得ないでぇ!」」」」


お前達、本当に楽しそうだなぁ! おじさんちょっと羨ましくなってきたよ!


「えっと、ここはこうして……こうしてー」


そして蒼凪は戻ってこい! いや、戻ってきてもぶち切れ状態なのは怖いが……それでも話が進まないからな!?


(――本編へ続く)




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