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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
その26.4 『断章2017/望んだ空 手にしたい』




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

その26.4 『断章2017/望んだ空 手にしたい』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


状況は少しずつだが、終わりに向かいつつあった。

進む者、置いて行かれる者、留まる者……それぞれだが、それは人ならざる存在でもある蒼姫も、それを抱えた蒼凪も同じで。


『……私という意識は、最初……とても空虚なものだったんだ。しかもどうしてそれが生まれたかも分からない。
でもそんな空虚な私に、ある日突然強い感情が流れ込んだ。誰かが門を叩いて、そして開いたの』

「それが、美澄苺花だったわけか」

『でも苺花ちゃんは、その鍵を……希望を、報復のために使おうとしていた。魔法は奇跡……希望を起こす力なのに、それで絶望を当然としていた。
……わけが分からなかったよ。だから内側から世界を見た。そうしたら……この世界は余りに歪み、壊れかけていて……そうしている間に、次に扉を開いた子がいた。
しかもその子は苺花ちゃんと違って、私の声が届く。私の意識に触れられる。フィリップや若菜さんと同じく、この子も地球の記憶とコンタクトを取れる素養のある子だった」

「で、蒼姫ちゃんは助けを求めたわけだね。その結果対価として……やっちゃんの記憶を」

『そこからだよ。私の存在がはっきりしたのは。……とんでもないことをしたと思った。
例の、抑止の契約とは違っていたけど、それでも私のしたことは、門番の領域を超えていた。
なにより、私自身を構築するものが……どれだけ大事で、大切にしていたものか……嫌でも分かったから……』

≪それでも受け入れちゃったんですよねぇ、この人。ほんと馬鹿です≫


……そんな蒼姫が望んだのは、自分を創り上げること。そのためにこの世界を変えると……抗うことだった。



『馬鹿というか、とんだモンスターと契約してしまったと……滅茶苦茶頭抱えたけどね。最初は』

「蒼姫、誰がモンスターだよ」

『君しかいないよね!』

「そうそう! 私達、性格が悪いって言ったはずだよ! というかどん引き!
しかも鳴海さん、裁判であれこれ言いまくるって構えだったんでしょ!?」

「先輩……それが狙いだから問題ないんですって」

「……まぁ、都合の悪いときにだけすり寄って、信じてもらおうなーんて……あり得ないよね。
それも犯人だろうと殺してオールオッケーにするとかさぁ」

「しかもそれは、鳴海氏の中だけで凝り固まった答えです。
蒼凪くんは彼やミュージアムの被害者であり、命を賭してこの状況に風穴を開けた民間協力者ですよ。
それにより状況が解決した後で、そんなことを宣えば一体どうなることか……一目瞭然だと言うのに」

「………………ぁ…………!」


そして田所も、ユージと田所の補足で気づいた。司法がどう思うかなど、本当に一目瞭然だからな。


「それに僕も、奴と決定的に決裂しているって証明がないと、僕とお父さん達も同類扱い……というか、お父さん達が一番ヤバいんですよ。
僕を助けてもらったって嘘の恩義に騙されて、鳴海荘吉の悪辣さを全く理解していなかったので」

「幾ら劉さん達がフォローしても、外でそんな態度を見せるだけで……お父さん達の評価は駄々下がりですから。
そういう意味でも鳴海さんを徹底的に、犯罪者として公的に裁くことは必要あった……とは、あたし達も聞いていて」

「じゃあ、あの……まいさん、最初からこう、鳴海さんと仲直りして、それでお任せするって方向は」

「絶対になかったんだよ……!」

「…………」

「もちろん、もちさんやみんなが、いろいろ思うところがあるのは分かるよ。でもそれが答えなんだ」

「鳴海荘吉は、街を守ってきたダークヒーロー≪骸骨男≫などではない。
……今なお風都にフォロワーを量産し続ける、非合法私刑人……猟奇殺人鬼≪スカルドーパント≫だ。それ以上でもそれ以下でもない」


警察官として、照井も舞宙に続いて念押しする。それが現実……それが答え。鳴海荘吉は何一つ、街を守るための行動を取っていないと。

しかもフォロワー……あぁいや、メモリ犯罪の根源に絡んだことだな。実際ナイトドーパントとかもいたわけだし。


「その評価は街の人間も同じだ。でなければ仮面ライダーの存在など受け入れるはずがない」

「ドーパントの力で、ドーパントを倒して止めるーって経過と結果は同じですしね……。恭文君とショウタロス君達っていう魔法使いも同じくだし」

「例の尾藤勇が暴れかけたのも、その点があるからな。
だったら鳴海荘吉もまた仮面ライダーとして認められないのは、余りにおかしいと……」

「それでも最悪だよ……! 鳴海さん、行動を誘導されてそのまま自爆ってことでしょ!?」

「先輩……?」

「首を傾げるなぁ!」

『もっと言ってやって! ほんと根に持つとおぞましいまでに報復するからさぁ! これでよく忍者になれたものだと思うよ!』


まぁ蒼凪はいつもの調子だけどな!


「でもやっちゃん……ビルドファイターだっけ? ガンプラを作って戦うプレイヤーは」

「えぇ。ぐびぐびぐびぐび……♪」

「ま、まぁ……テロリストだ暗殺者だってのは才能の話なんだよ。性格が悪いのも……でも根っこはそこだ」

「……伊佐山さんのときもそうだったんですよね。
天さんや私達のことを知って、その状況に合わせた上で……蒼凪くんが想像する『奇跡の魔法』を作って、助けてくれた」

「その根底にあるのが、集束魔法でしたね。空気中にある魔力……自然エネルギーを一点に集める高難易度魔法」

「やすっちにとって“一番適性がある魔法”だよ」

「でもほんと、拘っているというか……最強魔法も、オリジナル魔法も、それ以外も“何かを創る魔法”がほとんどって……!」


山崎はそう言いながら、蒼凪の手を見る。何かを形作る……そのための力を、誰かのために振るう手を。

……まぁ今は愉悦酒握っているんだけどな!


「ただスターライトはお話した通り、欠点も多いからね。
だから恭文君、その辺りを対人特化させたバージョン違い≪星花一閃≫を組み立てたんだよ。それがみんなの見た魔法だ」

「……重破斬(ギガ・スレイブ)と神滅斬(ラグナ・ブレード)みたい」

「そうそうまさにそれ! だから恭文君、一応それぞれに詠唱も考えたんだよ」

「詠唱……あぁあぁあぁ! だから神滅斬(ラグナ・ブレード)っぽいこと言っていたんだ!」

「え、じゃあ本気のやつもあるんだよね! 聞きたいかも!」

「そ、そこは苺花ちゃん戦で改めて出すので!」


山崎と雨宮の食いつきが凄い! というかそのらぐななんちゃらってなんか凄いのか! アニメなのか! おじさんにはさっぱりなんだが!

だが……。


「ガンプラバトルも楽しそうなんだよな……」

「タカ?」

「いや、ビルドファイターって辺りから、ちょっと思ってな」


そうなんだよ。ガンプラバトルも作って戦うわけだろ? 同じことなんだよ。

蒼凪も随分楽しそうだし、舞宙達も巻き込んでいるからなぁ。だったらとうずうずするものはあって。


「……だが塗装とか、結構手間だよな」

「そうだそうだ……俺達のころは全身真っ白が普通で」

「しなくていいんですよ」

「なんだと!?」


だがそれでも、ハードルは高いのかなと思っていたら……蒼凪がぶった切ったよ!


「まず最新のキットはガンプラに限らず、組み立てるだけで色分け含めてほぼ完成―って商品も多くなっています。それも接着せずに」

「ガンプラに限らないのか!?」

「なので素組みでニコニコしながら飾っていく人も……。
自分が想像するカッコいい一機を目指して改造・塗装する人も……。
あるワンシーンを再現するため、試行錯誤する人も……。
好きなガンプラで戦って勝ちたいと、破損覚悟で飛び込むビルドファイターも……全てにおいて平等です」

「「――!」」


そこで俺達に、電流走る――。


「そこと俺達、並んでいいの!?」

「さ、さすがにやっちゃんが見せてくれたあれらと並ぶの、恐れ多かったんだけど! 胸を張っていいの!?」

「公的秩序を守り、また自分のこだわりを人に押しつけないのであれば、問題ありません」

「でもほら、なんか……大会とかコンテスト的なのあるでしょ! あれは」

「対外的評価やそれに合わせた調整が必要になるのも事実です。
……でも、それとて模型製作という趣味の一環であり、全てではありません」

「全部じゃないから、やっぱり同列!?」

「まずは肩を組んで歩きましょう。
歩いた先でまたやりたいことを見つけて、やりたいようにやればいいんです」

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」


そこで拍手をぱちぱちしまくる俺達。まるで猿のようだが、許してほしい。なんか新しい可能性、開けた感じだしさ!

しかもそういうコンテストで凄いのを出すーってのが、一番じゃないってのが……滅茶苦茶新鮮だったんだよ!


……って、そういえば。


「お前、例の……小岩井についても、同じ感じで勧めたのか」

「ですです。お話を聞くと、小岩井さんって小さい頃から興味自体はあったらしくて……。
でも女の子な自分が飛び込んでいいのかなーと、いろいろ迷いがあったと」

「そこからあたし達の様子とか、デビュー曲のPVを見ていろいろ考えていたんですよ。
……だからこの間恭文くんを引っ張ったの、実はこっこさんともお話ししてもらいたいのもあって」

「もう一歩きっかけがあればいけるかなーと思ったんだよねー。わたし達もそうだったし」


なるほど。そこは舞宙もいろいろ気を遣っていたわけか。それで話も纏まったのなら、目的は達して……あ、だったら俺達も今後それで話できるだろ! だったらいいな、ガンプラ!


「というかですね、物作り関係はお勧めなんですよ。一生続けられますから」

「「一生!?」」

「それ、あたし達のときも言っていたよねー。年齢の関係ない趣味だからって」

「「確かに!」」

「現に俳優の石坂浩二さんも、自身が主催で模型サークルを作るほどのめり込んでいますし」

「「元水戸黄門が!?」」

「この一件の時期だったら、プラモつくろうっていう番組のMCもしていたんですよ」

「「知らなかった!」」


あの石坂浩二もやっていたのか! 全く知らなかったぞ! しかも主催でサークル!? 勢力的だろ!


「あとはあれですよ。ガンプラが刺さらなくても、他のジャンルも試してほしいなーとは思います」

「……他のジャンル……いや、そうだよな。戦闘機とか、船とか、戦車とかもあるし」

「車もあったよね。
え、でもやっちゃん……そこはガンプラが刺さらなくてもいいの?」

「いいんです。二人が一番楽しめるかどうか……それが大事ですから」

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」


蒼凪課長の心が広い! というかちょっと感動しちゃったよ! だったら俺達……これからじゃないの!?


「まぁでも、そうだよね。
それで恭文君も、料理や編み物だけじゃなくて、レザークラフトとかもやっているし」

「料理と編み物は聞いたが……レザークラフトだとぉ! 舞宙、そうなのか!」

「手縫いで仕上げられるキットとかもあって、入りやすいそうなんです。それでお財布とか、ポーチとか作って」

「え、やっちゃんの財布って……あの黒革のかっこいいやつ!? あれだけで万札いきそうなやつ!」

「それです。でもあれ……合皮だったよね」

「手始めに作ったお財布第一号ですから」

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」


ヤバいよ、物作り趣味……それだけでも沼だよ! そこまで心広いとは思わなかったよ! またユージと二人猿みたいに拍手しまくっちゃったよ!

しかも蒼凪の財布、実は俺も気になっていたんだよ! なかなか高そうだなと! 合皮なのは見て取れたが、それでもいい財布使っているなと!


そうしたら……あれも手作りとか! どんだけ拘ってんだ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


物作り、馬鹿にできなかったよ。一生続けられる心の広さとか……凄いよ。なんかやる気が出てくるよ。


「そっかぁ。だったら……私もやってみようかなぁ。あの、プラモの方」

「もちが!?」


そして、それに触発して笑う奴がもう一人いた。そう……麻倉だよ!


「もきゅもきゅ……♪」


今はあんかけチャーハンに夢中だけどな! 幸せそうな顔をして最後の一口を味わっているよ!


「え、どうしたのかな! バトスピもそうだけど」

「誰かさんが『今度恭文くんと遊ぶんだー』とかいっつも楽しそうにしていたから……実は気になっていて」

「あ、だったねー♪
そのレザークラフトもさ? コインケースとか、トラベルポーチとか作って、プレゼントしてもらったーって自慢してくるし」

「も、もちさん! 天さんもそれは駄目! 内緒って言ったよねー!」

「いちごさん……!」


おぉおぉ、蒼凪が嬉しそうに尻尾を立てているよ。興味を持ってもらえて嬉しかったのか。

しかしいちごも……いや、俺は何も言わないよ。野暮天ってやつだからな。


「なんか、思っていたよりもハードル低そうだし……でも私、あんまりガンダムって触れてなくてさぁ。見たことなくても大丈夫かなぁ」

「そこはフォルムとかだけで大丈夫ですよ。というか……どのシリーズもですけど、本編五十話もあるあれこれを見てからプラモやれーっていうのは、もはや拷問の類いですし」

「確かにそれはキツいかも!」

「おいおい蒼凪……それでいいのかよ」

「そうそう。それこそやっちゃんが好きなガンダムSEEDから勧めてさぁ」

「SEEDは気軽に勧め辛いんですよ……。無印と続編合わせて百話以上ですよ? しかも鬱展開多数だし」

「あ、それは大変かも」

「なので一話見て、気が向いたら次―って感じでも十分嬉しいんです」


あぁなるほど。話数が大量だし、時間を取られるから……途中で脱落するかもと。そこは蒼凪なりに配慮していたんだな。だから麻倉や俺達も納得はするが……。


「それでも通しでというのなら、劇場版やOVA系列がお勧めです。
SEEDも総集編≪スペシャルエディション≫が無印・DESTINY両方にありますし……あとはさっき見せた、公式のダイジェスト映像とか」

「一気にハードルが下がった感じ!」

「あと個人的に見やすくて本当にお勧めなのは、『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』です」

「……ポケット?」


蒼凪曰く……初代ガンダムと同じ時期……中立だったコロニー内で、新型のガンダムが開発されている。それを探るためにジオンの特殊部隊が潜入。

そこから始まるドタバタを、コロニーに住む民間人の少年アルを主人公として描写していくそうだ。なおこの少年はガチに民間人だから、ガンダムには乗らない。

乗るのはそのお隣さんで、素敵な憧れのお姉さん……クリス・マッケンジーという軍人。


しかもそのガンダムは、劇中当時にはもはや知らぬ物のいない木馬……ホワイトベースに届けられる予定のもの。そう、あのアムロ・レイ用の新型機だ。

当然そんなものが届けらればどうなるか分からない。必死にガンダムを探す特殊部隊や、そのクリスの視点を交えながら進む群像劇……なんか面白そうだな、おい!


「これで話数は一話三十分で全六話とか控えめで、話も奇麗に纏まっているんですよ」

「六話! あ、それならちょっとした映画気分で見られそう!」

「映像は今見ると古めかしいかもしれませんけど、とにかく奇麗に纏まっているんです。
中立暮らしゆえに、戦争をどこか楽しいイベントのように捉えていたアルが、実際の戦争に触れることで成長するお話ですから……すっごくお勧めです」


な、なんて巧みなプロモーションだよ。百話よりハードルは低いし、人間ドラマってことならメカに興味がなくても見られるだろ?

しかもそれで子ども視点でガンダムだ。どうなるかって興味が引かれる。麻倉もだが、俺達もだよ。


コイツ……手慣れてやがる!


「一番いいのはクリスマス時期に見ることなんですけど……まぁそこは自由ってことで」

「クリスマスに?」

「お話しの時期がちょうどクリスマスなんですよ。初代ガンダムの戦争も終盤―ってムードも相まって、ラストが切ないんです」

「恭文くん……いや、嘘は言っていない……言っていないんだけどさぁ……!」

『あの、クリスマス時期に見るのだけはやめよう?
言っていることに嘘はないんだけど、毎年慟哭することになるから。風花ちゃんみたいに』

「私も慟哭するよ! 恭文くん、それでいたずらするんだ!」

「なにがあるの……!?」


だが気になるのは、風花と蒼姫なんだよ! 一体なんのトラップがあるんだよ! 嘘は言っていないのに慟哭って、より恐ろしいだろ!


「……ちょっと待ってよ! もちにいたずらは駄目ぇ! それはあたしだけの特権!」

「……蒼凪くん、いっぱいいたずらしていいよ? 笑えるレベルなら許す」

「もち、なんでぇ!」

「え、じゃあ……こっそり麻倉さんのポケットとかに、美味しいお菓子をプレゼントとか……あんまり近づくとあれなので、転送魔法でひょいーっと!」

「ん……気遣ってくれてありがと」

「だからなんでぇ!」


雨宮は黙れ! というか、理由は聞かなくていいだろ! お前にその特権がないからだよ!


「あと、本編を見た後でDVDとBlu-rayの十五秒CMを見てほしいです」

「蒼凪くん、風花ちゃんと蒼姫ちゃんがビクビクしているんだけど。それを放置してなんでBlu-rayとか?」

「アルって、実は声変わりする前の……子役時代の浪川大輔さんがやっているんです」

「浪川さんが!?」

「えっと、麻倉……」

「大先輩の男性声優です! 今も主役とか多くやっている人ですよ!」

「その浪川さんが、成長後のアルって体でそれぞれのCMナレーションをしているんです。
だからDVDからBlu-rayで、成長して、メッセージ内容もまた違うんですよ」

「えぇ……それはもう絶対見なきゃいけないやつだよね! 分かった! まずポケットの中から見てみる!」

「ありがとうございます!」


そして麻倉が陥落したよ! いや、だが俺達もそのCMは気になるな。ファンの心をくすぐるやつなわけだろ? ……見てみたいなぁ、そのポケット。


「なら、プラモもさ? 蒼凪くんのお勧め通り、フォルムから入るとして……なにがいいかなぁ」

「一応導線の一つは、ハロプラとエントリーグレードです。
初代ガンダムとストライクともども、カウンターでも売っています」

「ここで買えるの!?」

「確認しています! なお製作時間はそれぞれ三十分から一時間以内です!」

「本当にさくっとだぁ!」

.
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あははは……恭文くんが盛り上がっている! もう遠慮なしだよ!


「へぇ……関節とかも、こうやって楔にぱちぱちはめるだけなんだ。
しかも目も、くぼみを作って影にしてって……アイシャドウ? ライナー? なんか凄い」

「ユージ、どうしよう! 俺達の知っているガンプラじゃない! こんな完璧に色とか奇麗じゃなかったよ!
しかもほら……膝立ちとかすっとできるんだぞ!」

「分かっているって! 凄いよな! しかもこれ、あれだろ!? なんか三十分で組めるとかなんとか!」

「ある程度慣れている人なら、本当にそれも可能なレベルです。
というかですね、実は別ブランドの30MINUTE MISSIONからのフィードバックされまくり商品なんです」

「フィードバック?」

「KPSを組み合わせた間接の形とか、シールや塗装に頼らずに色分け完璧とか……それでも稼働もしっかりしているとか。
だからそっちのパーツや武器を合わせて、オリジナル機体を作る人も多いです」

「そういう下地の上でできているわけか……」


というか、持ってきていたEGの初代ガンダムやストライク片手に、鷹山さん達も興味津々だよ!

いや、分かるけどね! 私も最初商品を手に取ったときは、あまりの衝撃で震えたし!


「あとストライクについては、エントリーグレード準拠のオプションパーツシリーズが出始めましたから」

「……オプション?」

「ストライクは背中にストライカーパックを装備して、いろんな状況に対応するのが特徴なんです。
テレビで使ったのは機動性重視のエール。
近接戦重視のソード。
砲撃戦重視のランチャー。
エールと各種武器のセットと、ソードとランチャーが合わさったセットという形で……それもカウンターにありました」


そうしてエールとソード&ランチャーの二セットを取り出す恭文くん……って、いつ確保したの!?


「これも一緒に買うのがお勧めです。
パーツ交換でストライクだけじゃなくて、普通のガンダムにも付けられますし」

「え、その大砲とか付けられるの!?」

「接続軸が二種類入っていて、一種類がガンダム……というか、最近多い共通サイズの二軸なんです。
……えっと……こういう感じですね」

「うん……うん……あ、なんだろ! これはあたしでも直感的に分かる! え、すご! 読みやすい!」

「ただランチャーとソードの肩パーツはストライク専用なので、装備するならまた別途改造しなきゃです」

「え、それは難しそう……!」

「最悪EGの肩もう一個持ってきて、なんとか見栄えよくバックパックに付けるーとかでもいいです」

「それなら接着剤でなんとかなりそう!」


更に説明書も取り出して、雨宮さんに見せてあげる。使用例もあるから凄く分かりやすいんだよね、これ。


「でもあの、これ……あれだよね。この枠なのがランナーってやつでさ。
そこで、ここを切れば作れますよーって……え、想像していたのと全然違う。なんでこんな滅茶苦茶分かりやすいの?」

「分かりやすいと、なんか作れそうな気がするじゃないですか」

「確かに……あたしはこれ、滅茶苦茶ぐいって引かれた!
特にこの剣!? でっかいのぶん回すって楽しそう−!」

「天さんは好きそうだよねー。そういう豪快なの」

「でもどうせなら大砲と一緒に使いたいなー! そうしたらでかいの二つで強そうだし!」

「無茶言わないのー。それなら改造とかしなきゃだし、初心者には」

「あぁ、それなら」

「改造なしでできますよ?」


あ、つい恭文くんの台詞を奪って……まぁいいかー。本当に出来ちゃうんだし。


「「え!?」」

「ふーちゃんの言う通りです。無印がHDリマスターされたとき、一部戦闘シーンが差し替えられてですね……パーフェクトストライクというのが追加設定で登場したんです。
エール・ソード・ランチャーの三種盛り仕様……ほら、これです」

「えっと……あぁなるほど。それぞれに合体用パーツが付いていて、それを組み合わせればと」

「え、でもこれ、強そう! 蒼凪くん、ちょっとこれ作ってみてよ! 三十分以内にできるんだよね!」

「そうですね。ちょうどストライクもあるし、それなら」

「天さん、それなら天さんも手伝わないとー」

「え、あたしは……いや、そうだよね! あの、なんかやることあるなら頑張る!」

「あ、はい。ありがとうございます」


夏川さんの言葉で、雨宮さんも奮起。その様子が微笑ましくて、私達もつい頬が緩んで……。


「……だがやっちゃん、なんでこれ作っているの?」

「いちごさんとのお泊まりデートで、一緒に作ったんですよ。素組みのところまでは」

「二人でやっぱり凄いねーってビックリしたよねー。だから私も、EGはお勧めなんだけど」

「うん……ならさ、これって結局幾らなの? 私でも分かるくらい技術詰め込まれまくりだし、結構するんじゃ」

「「税抜き七百円。オプションパーツはそれぞれ千円」」

「「「……ちょっとカウンターで全部買ってくる!」」」


……それで鷹山さん達、飛び出しちゃったよ! 三人そろって勢い任せにさぁ!


「……蒼凪、いちごもだが……俺の聞き間違いか? 本体よりオプションの方が高かったような」

「内容てんこ盛りですから。
ソード&ランチャーは文字通り。
エールの方も劇中で一回しか使っていないバズーカやショットガン、一回も使っていない設定だけの大剣とかもあるんです」

「それも大型のものが多いから、どうしてもこれくらいの価格はって感じだよね……」

「なぜ一回も使っていない大剣が付いてくるんだ……!」


照井さんが震えている……! まぁガンプラ関係はあまり触れていないっぽいし、仕方ないのかなぁ。普通に考えたら本体の方がーって思うのは分かっちゃうし。


「フィリップ……俺はよく分かったよ。なんで鷹山さん達が、恭文と意気投合しまくったのか」

「奇跡的だよね。あの勢いは」

「あと恭文は……あれで大丈夫なのか……!?」

「もうお姉さんのこととは関係なしになったからね。
……余計な気を遣っちゃったかなぁ」

「フィリップさんや風花ちゃんがバラしたのって、やっぱりそういうことだったんですね」

「すまなかったね」

「そうだ……あの、本当にごめんなさい! 見ていられなかったとはいえ……ご心配をおかけしまして……!」

「そこは大丈夫。私達みんな納得したし……蒼凪くんが、まいさん達にも黙っていた理由も含めて」

「はい……」


伊藤さんがそう言ってくれて……みなさんも頷いてくれて、本当に一安心。そこは恭文くんの気持ちも無視しちゃったし。


「というかね、その前に……私とのニセコイをここまで拒絶している件について」

「ちょっと!?」

「……だって、僕と伊藤さんが並んでも、彼氏彼女に見えない」

「え……!?」

「仕事を果たせない……」

「恭文くん、世知辛い話はそこまでで……!」

「いちごさんのときにも痛感しまくった。僕は彼氏になれない」

「その反省、私にも突き刺さるからやめて!?
大丈夫だよ! 恭文くんは……私の、大事な彼氏……だよ? だから、彼氏彼女の日なんだから」


かと思ったら伊藤さんがまだ引きずっていたよ! あといちごさん、そのフォローをするならちゃんと付き合ってください! 彼氏彼女の日とかじゃなくて!


「ただまぁ、恭文くんがいろいろ考えちゃうのは分かるよ。
……それならガードは女性中心の方がーとかだよね」

「えぇ」

「え、待って待って。みっくるの彼氏役を辞退するだけじゃなくて、なんで女性?」

「単純に生理的な部分にも合わせられるから、ガードの範囲が広がるんです。
実際フィアッセさんについていた美由希さんは、トイレで襲撃を受けたときも即座に対応しましたし」

「トイレ…………さっき言っていたやつかぁ! え、そんな多いの!?」

「個室に隠れていれば背後を狙いやすいし、逆に入っているときはどこにも逃げ場がない。
もちろんそのまま押し込まれれば、強姦被害だって有り得ます」

「そう、言えば……!」


そう……まぁ私達女の子からすれば滅茶苦茶怖いことなんだけど、外の共用トイレって決して安全な場所ではないの。

人の目が行き届いているとか、行き届いていてもすぐ助けを呼べるかとか……いろいろ考えちゃうところがある。それがトイレという場所で。


「しかもそのとき入っていた奴ら、薬物中毒で見境なしな上痛みじゃ止まらなかったんですよ。
美由希さんもいなかったらどうなっていたか……」

「……それであたし達にも、きちんとしなきゃって思ってくれていたんだね。
でも薬物中毒は分かるけど……痛みじゃ止まらないってなんで?」

「中毒症状で麻痺しているんですよ。だから的確に急所を抉るか、四肢を潰すか、首を落とすしかない」

「えぇ……!?」

「つまり鳴海荘吉ですよ」

「蒼凪くん!?」

「頼むからそことおやっさんを並べないでくれぇ!」

「ま、まぁでも……蒼凪くん、やっぱプロなんだよね。いや、今更だけどさ」


すると夏川さんが、恭文くんの顔を見ながら、すっごく真剣な顔で納得してくれて……。


「そういうのって、やっぱ研修みたいなのがあるのかな」

「はい。警防……香港警防隊とか、マクガーレンセキュリティ会社っていうところで」

「警防隊は言わずもがな。マクガーレンセキュリティはクリステラさんやスクールのガードでも成果を出している、世界的に優秀な警護会社ですよ。
蒼凪君はフィアッセさんがザ・ファンに狙われたとき、彼らにも教えを受けて、事件に対応したそうで」

「そっち関係では師匠ですよ……」

「そっかぁ……。だったらわたし達も、ニセコイだなんだってふざけないでちゃんとしないとだね」

「え、待って! 私はふざけていないよ! 大まじめだから!
というか、それだけヤバいなら、改めてお願いしたいし! 怪我が治ってから!」

「「……話聞いてたぁ!?」」


夏川さん、恭文くんとハモって……いや、仕方ないよね! だから女性の忍者さんがいいんじゃーって言っているのに、これだもの!


「蒼凪くん、これは……許してあげて。
というかナンちゃんも知っているよね。みっくるも人見知り」

「いや、でもこれはさすがに駄目だよ! おトイレも、お着替えも、蒼凪くんと一緒だよ!?」

「そうですよ! 人見知りだからってレベルを超えていますよ! というかガチ恋人でもしませんよ!」

「あたしも恭文君ともう全部曝し合う中だけど、それはないなぁ……」

「分かっている! あたしも話す! 全力で話すから! でもあの……おトイレの護衛って、一緒に個室入ったりするの?」

「……入る前の安全確認はしますけど、基本は一人でお花を摘んでもらいます。終わるまで部屋の前で、何事もありませんようにーって右往左往しますから」

「だったら蒼凪くん、ついてきても平気……じゃないかぁ! 他の人に配慮しなきゃだよね!」

「えぇ、そうなんです。最近女装してどうこうって事例も……いわゆるトランス問題も悪用するアホも出てきているので、その辺り繊細なんですよ」


トランス……つまり精神的な性別が、体と食い違っているという話だよね。

でもそれを悪用? とんだ不埒者がいるものだと思っていると、恭文くん当人も同じくらしく、頭を軽くかいた。


「これもローウェル事件とかと同じです。
本当に大迷惑するのは、それで実際に苦労している人達ですから」

「だったら余計、配慮しなきゃ駄目だよね……」

「えぇ」

「つまり、もちとのニセコイもないってことだよね! よっし!」


雨宮さん、そこですか! まずそこですか! どれだけ好きなんですか!


「えっと、いちごさんや伊藤さんが駄目だから……確かに麻倉さんでも駄目だ」

「私達が駄目って言わないで!? それも淡々と!
あとみっくのなにが不満なの! こんなに可愛くて、スタイルもよくて、気立てもいいのに!」

「そうだよ! しかも蒼凪くんと同じく特撮とか好きなんだよ!? 話も合うよ! あ、ガンプラも一緒に作ろうか!?」

「……その自薦他薦をどれだけ受けても、僕達が並んでぱっと見で『あ、彼氏だな』とは思わないんですって。最低でも彼女同士か姉妹ですよ」


恭文くんもそこ冷淡に……なるしかないかぁ! だってこの自薦他薦はおかしいもの!

というか、いちごさんは伊藤さんのファンなんですか! めちゃくちゃ推してくるし! 理由は分かっていたはずなのに!


「大丈夫! 私達ならほら、身長近いから! 現地妻なあすかさんにも適応されるんだし!」

「だから僕、あすかさんといるとき、姉妹に間違えられまくっているんですけど……」

「そのせいかぁ!」

「あすかレベルでべったりでも駄目って……どうすればいいのぉ!」

「というかですね、そこまで言うなら……緊急事態のときには飛び込んで、いろいろ見ちゃうのを許してください。それだけでも大分救われます」

「「そういうことじゃないの!」」

「なんですと!?」


伊藤さんと雨宮さんが、絶望して頭を抱えている……!

でもごめんなさい。実は私や歌織ちゃんでも駄目なんです。どうしても女の子の友達同士に見られちゃって。


「いや、でもありがたいよ……。私もさすがにさ? 蒼凪くんとトイレや更衣室の中はためらうし」

「「先輩!?」」

「だから先輩って言うなぁ! あとこれは至極当然だからな! なのでいちさんも落ち着いてよ!
理由は分かっているのに、なんでそっちいっちゃうの!」

「ま、まぁそこは……あれだよ。
鷹山さん達だけじゃなくて、うちからもときめや亜樹子を出せるようなら、出して手伝うからよ。納得してくれ」

「……って、所長さんや左さんの彼女を!?」

「俺の彼女どうこうって前に、ときめは鳴海探偵事務所の助手だからな。その辺りは実績もある」

「僕もときめさんなら安心できるなぁ。最悪の場合は変身もできるし」

「できるの!?」

「ときめは裏風都が誇っていた、元最強最悪の殺し屋……同時に、ジョーカーメモリのハイドープだからね」

『えぇ!?』


そう……実はときめさん、記憶喪失になる前は裏風都の一員だったの。万灯雪侍とも深い関係だった。

ただ、いろいろあって裏風都からは決裂し、記憶を無くし……そこで私達とも知り合ったの。


「一応言っておくと、ときめも恩赦……罪の償いを続けている一人だ。今の彼女はボク達の頼れる仲間だよ」

「え、でもジョーカーメモリってことは、左さんやショウタロス君と同じ」

「いや、ときめはオレ達と“桁が違う”。比べるのもおこがましいレベルだ」

「私達がたとえエクストリームを使っても、勝てるかどうかという感じですね……」

「そんなに強いの……!?」

「まぁとりあえず素人じゃないし、話し相手にもなるってことだけ覚えてくれりゃあいい。
また近いうち……今度はときめ本人も引っ張って挨拶するからさ。そのときはまぁ、気軽に話してやってくれ」

「はい。あの、助かります。
……ただ左さんはあの、大丈夫なんですか?」

「へ?」


すると山崎さんが疑問そうに、翔太郎さんに問いかける。


「いや、彼女だなんだはあるが、仕事となればそこは」

「そうじゃなくて、鳴海さんの弟子になろうとしたのとか……というか、蒼凪くんとよく仲間になれたなぁと……!」

「……そう言ってくれるだけで、随分救われるよ……! というかコイツ怖いんだよ!
本当にノーサイドで全て水に流して、明るく楽しく青春を謳歌しようーとか言ってくるんだよ! 裁判が終わった途端に、笑顔で!」

「精神的拷問がすぎるんだよなぁ!」

「山崎さん……そうルールを定めたのはおじさんであり翔太郎ですよ? その上で専守防衛に徹しただけです」

「そんな性格の悪い専守防衛は聞いたことがないんだよ!」

「その言葉でもまた救われるよ!
あとはまぁ……恭文も伊藤さんに言っていただろ? おやっさんみたいにできるわけないって」

「あ……その節も、とんだ失礼を……!」


伊藤さん、平服しないでください! 重たいです! 即座に納得したことなら……仕方ないじゃないですか! 翔太郎さんですし!


「いや、その通りだったんだよ!
俺は……骸骨男を否定していたんだ。初っぱなから」

「え」

「――それが、翔太郎と鳴海荘吉の始まり……ビギンズナイトだからね」

「あぁ、そうだ」


そう、仕方なかった。

その根源は鳴海荘吉と左翔太郎……歪に出会い、別れた師匠と弟子の始まり。


「あの夜からおやっさんは……怪物へと変化していったんだ」


それは呪いの始まりでもあった。その夜があったからこそ鳴海荘吉は……骸骨男という呪いに囚われ、歪んでしまった。

その歪みが……歪みを生み出した存在が、十年のときを経て、恭文くんや苺花ちゃんを傷つけることになった。


そういう意味では、私達にとってもその夜は……始まりだったのかもしれない。……生まれてすらいなかったのにね!


(――本編へ続く)





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あきゅろす。
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