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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2019年12月・星見市その19 『Rは止まらない/天動瑠依は話したい』




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

西暦2019年12月・星見市その19 『Rは止まらない/天動瑠依は話したい』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


天動さんにはお茶を飲んで落ち着いてもらい……なおてんどーさんというナマモノについては。


「るいるいるい……」

「くぅん……♪」

「るい……」


恐る恐るだが、久遠とコミュニケーションを取っている様子だった。久遠の毛並みを撫でて、ちょっとずつな。

それは微笑ましいんだが……。


「るいるいるい……るい……!」

「くぅん……おさけは、だめ……」

「るいー!」

「久遠、本当に言っているの? お酒をくださいって」

「うん……」

「えぇ……!」


……微笑ましいんだ! ヤバい情報が出た気もするが、俺は干渉しない! そっちは夫である恭文君に任せよう!

それよりも、スマホをチェックしている渚なんだが……実は渚、その星占いに見覚えがあったらしくてな。その結果もホームページに記載されているとのことで、見てもらったんだが。


「……あ、これです。朝番組の星占い」

「なになに……」

――蠍座:運勢最高。新たなチャンスを掴めば、飛躍のとき――

「……どんぴしゃだったんだなぁ……!」

「それで、ですね……牧野さん、本当に……本当に参考程度の話なんですけど」

「あぁ」

「獅子座も、天動さんが見た通りでした」

――獅子座:運勢最悪。なんかこう、わけの分からないことに巻き込まれて、ぽかーんとします。なんなら最悪死にます――


それを見て、思わずズッコける俺……。


「……そもそもこんなものを出すなよ!」

「あの星占いコーナー、そういうので話題を攫っていくところがあるので……」

「でもたびたび炎上しているのよねー」

「適当すぎて、抗議殺到がお家芸」

「遙子さんと雫も知っていたのか……!」


嫌だ。こんなの見たくない。こんなのを全国区の朝番組でやったとか嘘だろ。最悪死にますで本当に死んだらどうするんだよ。デスブログならぬデス占いだろうが。

というか全国の獅子座が巻き添え過ぎて怖すぎる……渚もその一人だしな!


「というか、天動さん……煽られて引き受けたってことは、結構その……」

「単細胞ってやつなのかなー」

「恭文さんとキス……どころかそれ以上のことも視野にいれて準備して、事務所に乗り込んだ段階で役満です」


芽衣! 沙季も言葉を選ぶんだよ! というか天動さんが脇に……今更だとは思うんだがなぁ! 恭文君の妻を名乗り始めた流れからもアウトだしな!


「……あの、本当に……若手トップの人気アイドルさんなんですよね? そのグループのセンターなんですよね?」

「怜ちゃん、それは疑いようのない事実……!」

「だったら、アレは」

「恋は盲目、だけじゃない?」

「そうだな……」


雫はやっぱり分析がしっかりしている。というか、ドルオタとして憧れでもあるから、そこは揺らがないらしい。


「ある種狂気的とも言える一直線さ……熱意から生まれる圧倒的努力が、天動さんの強さだと思う」

「ん、分かる。恭文さんもそうだから」

「そういえば恭文さんも、異能力者……戦闘者としては平凡素養でしたっけ? 信じられないですけど」

「尖ったところはあるけどって感じらしいな」

「素養的に一番向いているのは直接戦闘じゃなくて、後方支援や綿密な計画を打ち立てての、“暗殺行為”」

「暗殺……!?」

「でも、納得。恭文さんは、筋道さえきちんと立てれば、かなり難しいこともこなせるから」


ASDの障害特性もあって、そういうのが得意らしい。表現についてもその筋道を正すところから始めると、これがなかなかだ。

それもまた暗殺……目的を達するため、ありとあらゆる手段を模索し、正解を引き出すテクニックというわけだ。

まぁそんな恭文君のことも見ているので、天動さんが努力の人というのも分かるんだよ。


「それに……牧野さん、雛見沢で鉢合わせした流れで、トリエルの様子も聞いていたって」

「まぁ、相当綿密だっていうのはな」


そう、恭文君とはそのとき一緒にレッスンやトレーニングもしていたんだが……その際天動さんは、おろしたてのシューズを一週間ではき潰したそうだ。

というか、舞宙さん達ポプメロと一緒だからとかじゃなくて、日常的にらしい。

俺ならオーバーワークで止める。というか、少なくともどうしてそこまでするかは、きちんと確認するレベルだ。


……麻奈が生きていた頃、過労で倒れたことがあるんだ。

お医者さんにも十代で過労はあり得ないと、こっぴどく叱られてさ。その直後に大きな仕事の依頼が来たから、断ったら……大げんかだよ。

とはいえ俺も悪かった。麻奈がそこまでやるのに止めなかった……というより、どうしてそうするのかを聞こうともしなかったから。そこで初めて、深く意見をぶつけ合った。


俺は、俺だけが迷惑をかけられるなら別にいいと思っていた。でも現場のスタッフさん達……たくさんの人達に迷惑をかけるようなことは認められない。

そのために必要なスキルであり、義務が体調管理だ。数ある仕事をこなすために、その一つに縛られペースを崩さないために、きちんとブレーキを踏み、休むことが大事なんだ。

麻奈がその義務を放棄しているレベルで突っ走っていると思ったし、そんなのはあり得ないとも断言した。


麻奈は……それでもやらなきゃいけないと言った。……ファンレターの中に、重たい病気を抱えて、ステージに来られない子がいたってさ。

今は無理だけど、いつかステージを見に行きたい……張ってでも行きたいという想いを綴っていたそうだ。

でもその子だけじゃない……発達障害もだけど、いろんな体調の絡みで、ステージの音や光が辛くて、ステージを見られないけど、麻奈のことを応援している子達もいたんだ。


それを見て、麻奈は思ったそうだ。


――それでも……それでもって思ってくれているのが、私の歌で、ライブなの! 牧野くんが言う“数ある仕事の一つ”なんだよ!
なのに全力を尽くさないの!? その人には、その瞬間しかないかもしれないのに!――

――麻奈……――

――私は、そんなの嫌だ! だったらどんなライブでも全力でうたうし、どんな場所でも……最初の駅前でもうたい続ける! そうして誰かの“いつか“に応えたい!――


……ってさ。


それでまぁ、俺は結局折れて……仕事の後は休養することと、“それでも”休むことも大事にするのを条件に、引き受けてしまった。なお結果は大成功だ。

ただ、結果的にそこでやり合ったのはよかったと思う。お互いに汲み取れるものが多くなったし……俺自身仕事への向き合い方も大分変わったからさ。


「とはいえ、少し心配ではあるわね……。麻奈ちゃんもね、以前頑張り過ぎて過労で倒れちゃったことがあるのよ」


あぁ、やっぱり遙子さんも思い出すのか。いや、当然だな。あのときはお騒がせしたからなぁ……!


「そのときももうバチバチで大変だったのよー。
しかも瑠依ちゃんは麻奈ちゃんと違って、トリエルというユニットでの活動だから」

「……そのバチバチやった当人の感覚で言えば、トリエルについては大丈夫だと思います。
鈴村さんや奥山さんとも、しっかりコミュニケーションを取った上でのハイペースみたいですし。そこは恭文君も感心していました」

「やっぱり高いレベルで練習するなら、そういうところから……うぅ……!」


いや、どうして怜が反省を……聞くまでもなかったな! ビシってやりがちで、怖がられるのを気にしていたしな!

ただ、恭文君が最初に釘を刺したのもあって、そこは分かっていたはずなのに……慣れてきたからこそか? これはまた相談に乗ろう。


とにかくトリエルのことなんだが……。


(その話を聞いたとき、相当無茶かとも思ったが……同時に納得もしてしまったな)


そもそもトリエルは二年前、リズノワが活動休止した前後にデビューし、一年足らずで若手トップと称されるほどに飛躍したユニットだ。

それは百年に一人の天才とも称される天動さんのスター性……もっと言えば才能によるものだと評価されがちだが、それは全くの勘違いだ。

その素養に依存せず、より上を目指して積みかさね続ける圧倒的練習量……華やかさとは裏腹な、あまりに地道な鍛錬。そのストイックさこそが、トリエルが羽ばたく力になっている。


「そ、それについていっているのが、奥山さんや優さんで……その人達と今度、一緒に……ライブバトル……!」


千紗も生唾を飲み込み、ただ圧倒されている。……だがそれだけじゃない。

怯えるだけじゃなくて、それでもというなにかでその目は燃えていた。


「先輩の前で、無様なことはできない……!」

「千紗ぁ……!」

「怜ちゃん、これは仕方ないよ……。
しかも今日、チケットを恭文君経由で渡すわけだし」

「まさしく恋は盲目。しかも最近千紗ちゃん、百合作品にも興味を持ち始めて」

「し、雫ちゃん! それは駄目! 計画がー!」

「「千紗(ちゃん)!?」」

「……それ、法に触れないわよね? そこだけお姉さんに教えてほしいなー」


……今のは、聞かなかったことにしよう……! 俺には触れていいかも分からない領域だ。


「ま、まぁなんだ。
あの素っ頓狂さも一意専心的な意志の強さが裏返ったと考えれば……やっぱり油断できない相手だよ」

「そ、そうですね!」

「……つまり、妻として……私と同じ……!」

「千紗はちょっと落ち着きましょうか……!」

「そうそう! きっと千紗とは似ているようで違う道なんだよ!」


い、今更だが……千紗のことはさて置き今更なんだが! 浅倉社長が俺の返しに対して『現実を知ってもらう』とか言ってきたのは、実に正しいと思う。

普通なら勝ち目なんてない相手だ。経験値や努力の密度……そこで勝負しても絶対に勝てない。

ならユニット……アイドルごとの独自色や表現の強さと言いたいところだが、それだって研究に余念はないだろう。


(改めて、トリエルの実態調査はした方がよさそうだな)


さくら達はトレーナーさんの目もあるし、きちんと仕上げてくる。リズノワについても……一度揉めたのもあるから、そこは余念がないつもりだ。

だがこっちはまだ手つかずのようにも思える。その上で改めて、さくら達をサポートしていければと思う。


とはいえ……。


(なんでそこまでするんだろうな)


やっぱり気になるのは根源……ハウダニット(動機)だ。

それは天動さんだけじゃない。鈴村さんや奥山さんも突き動かして、繋いでいるものだ。

でなければ、天動さんが持つその強さは、ユニットという輪の中ではただのデメリットにすぎなくなる。


(その理由も共有していることは、きちんと見て取れる。というか、できていなかったのがあのときの俺と麻奈だからなぁ……!)


動機や意志が強いのはいいことだけじゃない。怜がいろいろと悩んでいるのも、そういう部分を強く感じているからだ。みんなは自分じゃないし、自分もみんなにはなれないーってさ。

だからユニットでの結束が相当に強いのは分かる。実際そういう部分に魅力を感じ、応援している人達も多いようだ。


多い……ようなんだが……。


(…………)

「……恭文さん……私、この曲好きです」


一つ引っかかりを覚えていると……やっぱり素の天動さんは、ちょっとぶっ飛んでいたと突きつけられる。

いや、だって……あの特級呪物を褒めたんだよ!


「恭文さんのこだわりと魂への敬意がすっごく表れています」

「ありがと、瑠依!」

「それに、そんな……私の胸も、こんなふうに思ってもらえていたなんて……嬉しいです」


しかも感動しているよ! 特級呪物を聴いて、感動しているんだよ! というかそれ、口説いているって言わないか!?

なにより魂への敬意ってなんだ! こだわりってなんだ! その辺り俺にも解説してほしい! 残念ながら一つも汲み取れなかったんだよ!


『うりゅ……』

≪サーベラス、あなたも修行が足りませんね≫

『うりゅ!?』


アルトアイゼンも無茶ぶりすぎだろ! そのデバイスがどん引きしているのも当然だ! 俺達が特級呪物認定したのをもう忘れたのか!


「……恭文、とりあえず試作は成功ってことで……次に進んでみるのはどうかな」

「次……そうか、いちごさんの」

「オパーイから離れて! ほら、夢とか愛とか!」

「ん……?」

「ピンとこないんだね! うん、知ってた! 言っていたもんね! 思いつきもしないって!」


おい待て! 他の題材だとピンとこないのか! すっごい小首傾げたぞ! しゅごキャラいたよな! いてくれたはずだよな! そのおかげでエンゲル係数が偉いことになっていたよな!


「……あれなのよー。私と琴乃ちゃんが協力したのは」


すると遙子さんが困り気味に、脇から補足してきて……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


かなり狂った流れでできた特級呪物……しかし相応の理由はあったようで。


「恭文君、自分もいろいろ難しい事情を抱えているのもあって、そういう応援ソングとか……受け取るのはともかく、送る側としては考え過ぎちゃうみたいで」

「あぁ、そういう……!」

「でも恭文さん、私達や琴乃ちゃんには……遙子さんのときも」

「だからよ。相手のことがちゃんと見えないのに、中途半端なことはできない……そうブレーキをかける」

「……それ自体は、いいことなのに……」


思い込みや無知などで、相手の事情や感情を無視しない……できない。致し方ないとしても、それは悪だと刻み込み、忘れない。

命を奪い合う戦いに飛び込み続けて、その上で戦う意味を定め続けたからこその考えなんだが……それは恭文君の美徳だ。

そういうところに琴乃や遙子さんも心を惹かれたそうだからな。千紗もそこは同じくらしく、少し悲しげな顔をした。


……悲しげなのも当然だ。それが表現を膨らませる妨げにもなっているんだからな。


「でも、そういう歌も今まで動画で出しているのに……」

「うたってみた動画だもの。その歌の世界観や情景が指針になっているのよ。だからそれを大事にする形ならなんとかできる」

「……だったら、やっぱり自分で作るってハードルが高いんじゃ……!」

「そ、そうですよね。用意されたものなら、そこに沿って表現できるわけだし……」

「とはいえ、やってみることは無駄じゃないさ。マネージメントの参考にもなるからな」


そう、参考にはなるんだよ。だからここまでやったことが全部駄目で無駄だなんて、それこそ思い上がりだ。

もう一度言うが、恭文君はきちんと指針があれば、表現できるだけの度量と技術はある。そこは絶対に飛ばしちゃいけないことだ。


「というか、琴乃と遙子さんが協力したのも……」

「そういう理由からよ」

「……アイドルとして身を張っていませんか? というかそれだと次々特級呪物が生まれていくことに……」

「でも嬉しいわよ? お姉さんのこと、そんなに好きなんだなーって」

「遙子さん!?」

「だったら芽衣もやる! 琴乃ちゃんと遙子さんだけずるい−! というか芽衣、いろいろ置いてけぼりがち!」

「芽衣も落ち着いて! もっとこう、ね!? それは天動さんと同じだから! 天動病だから!」


怜がついに天動さんのアレを病気と断定し始めたぞ! さすがは医者の娘! 容赦がない!


「……牧野さん、覚悟を、決めるべき」

「恭文さんも、気持ちがあるかどうか考えて、お話していく人ですし……そこは、信じて……!」

「ありがとう……!」


雫と千紗には気遣ってくれてありがとうと苦笑しつつ、改めて覚悟を定めていく。


「もちろん、私もお話していきます……!」

「あ、うん……」

「……牧野さん、そっちの覚悟も、決めるべき。千紗ちゃんは……ガチ」

「犯罪にならない程度で頑張ってほしい……!」

「それは重々言い聞かせている」


雫には心から感謝するしかない。というか、そっちの覚悟はどう定めれば……。


「というか、アレでしょ? 夢とかってアレでしょ?
翼を広げてとか、飛び立つとか、どんなに苦しくてもとか入れておけばそれっぽくなるやつだよね」

「極論だからね!」

「というかそれ、トリエルがどんぴしゃなんですけど……」

「ほら! 天動さんにも失礼だから! 妻なんでしょ!? 傷つけちゃ駄目!」

「おのれが妻って認めるなぁ! というか、僕は決して間違っていないよ!? 姫野霧子に煽られて飛び立った結果が現状だもの!」

「それは言わないであげて!」

「……大丈夫です。煽られたことも無駄じゃありません。気持ちの再確認はできましたから。
私は、やっぱりあなたが好きなんです。だから……私が責任を取ります!」

「「なんの!?」


恭文君と天動さんがまた極論に走っているけど、その前に覚悟だ! そこは琴乃がツッコんでくれているしな!


「……牧野くん……ちょっと」


そこで遙子さんが、険しい表情で俺を引っ張ってくる。

恭文君には極めて申し訳ない気持ちになりつつも、後を琴乃ともども任せて、応接室に遙子さんと入る。


「……昨日ドタバタしたときもそうだったらしいけど、姫野さんって……大丈夫な人なの?」

「……リズノワの一件もありますしね」

「まぁ、瑠依ちゃんとかが来るのは……私達も気にしないからいいんだ。
でも……」

「さくらの一件と結びつけてしまう、ですか」

「邪推、だけどね」


それを諫めることは、俺にはできなかった。というか、みんなも下駄を専門家に預けると覚悟を決めているだけで、察していると思う。

バンプロダクション……その中で姫野霧子という人が、さくらの心臓からみでゴシップを仕掛けたんじゃないかってさ。


「もちろんバンプロは大きな会社だし、姫野さんが悪目立ちしているだけで……実は別の人って可能性もあるわ。これは本当に邪推だと思う」

「俺も同感です。でも……時期が時期ですしね」

「それがなくても、瑠依ちゃんを利用しているわ。明確に」


そうだ、それが一番の問題だ。確かに天動瑠依のキスシーン……その挑戦も、話題性も大きいと思う。だがそうして得られた評価は、完全に彼女のものじゃない。

立役者となった姫野さんのものにもなっているはずだ。そういう説得も含めての評価でもあるしな。


「しかも瑠依ちゃん、つい最近ジンウェン……恭文君との熱愛が報じられたばかりだし」

「あれを熱愛と言っていいんでしょうか……!」

「この場合は中身じゃなくて、恋愛絡みの話で具体的な名前が出たってところが大事よ。
それでプレタポルテの俳優さんとキスシーンでしょ? アイドルとしてのイメージもいろいろ変わるわよ」

「……そこを脱皮や成長などと捉えられるよう広めて、更にいろんな仕事を振ると」

「もっと過激に、ね」


遙子さんも面食らった人間だが、怒り……義憤に駆られていた。

三枝さんは、遙子さんにも、麻奈にも、そんなことはしたことがなかった。だから余計に許せないと、眉をつり上げていて。

……それで売れて、本当に脱皮するならまだいい。問題はそうして“使い捨てる構え”かもしれないことだと。


悲しいかな、そういう話はいろいろと聞いてしまう。過激な方向に走って、結果AVなどの出演に押し出したり……とかな。

それも断りにくいよう、下地を作った上でだ。事務所がタレントに投資やら自宅購入……エステなどなどの消費行動を進め、借金をさせるんだよ。そうしたら高額の報酬が得られやすい芸能活動から抜け出せないってわけだ。

とはいえ、そんなのは本当にタチの悪い……タレントを道具のように思っている事務所がやることなんだが……。


あぁ、そうだ。

はっきり言うと今回俺達は、姫野さんからそういう気配を感じている。

現にリズノワ……神崎さんには、配慮が行き届いているとは言えないような、上役への接待を任せているしな。


あれも恭文君に後で確認したら、きちんと裏付けが取れたそうだが……ただ、問題はまだある。


「あとは……それが姫野さんだけかどうかってところですね」

「他にもいると?」

「さっきの……天動さんの努力絡みから続いてしまう話です。
……トリエルの結束が強いのも読み取れてますけど、その分周囲とはどうなのかと」

「……この件、瑠依ちゃんは他の誰にも相談していない様子だしね」

「麻奈も、俺には大げんかするまで話してくれませんでしたし」

「根に持っているなー」

「愚者なりに過去から学んでいると言ってください」


そこがさっき引っかかったところだ。トリエルがそうして纏まっているのであれば、その周囲とは上手くやっているか……連携しているのかという話だよ。

現に今日だって、その件に不満などなどがあるなら、他のスタッフさんに相談したっていい。でも天動さんは思い込んだ結果とはいえ、ここに直進した。

しかも恭文君に直進したのは、別にこの件を止めろどうこうという話じゃない。つまり“直接的な解決やその相談のためには一切動いていない”。


……バンプロが大きな会社というのもあるんだろうが、あまりスタッフと密に連携が取れていない……取れる状況じゃないのかもしれない。

だったらそれは怖いことだ。たった一人……そういう悪意を持った人間がいても、それがアイドルを利用しようとしても、誰も止められない……止めにくいということになる。


なので……もしかしてなんだが……。


(朝倉社長もその問題を理解していて、だから恭文君と天動さん達を引き合わせた……? 恭文君が察していた通りに)


それなら、朝倉社長から話を通し、ライバル会社での仕事掛け持ちが両立できたのも……NGを出せたはずの三枝さんもなぜかOKしたのも、全て納得ができる。

実はあれ、俺もビックリしたんだよ。恭文君は経歴的に信頼できると言っても、うちとバンプロはいろいろ複雑な関係だしさ。グランプリの開催も噂される中だったし、余計にだ。


(だとしたら、三枝さん任せでのんきにもしていられないな)


現場対応は俺が中心だし、思惑があるならある程度知っていかないと。


「バンプロには、一度お話した方がいいとは思うけど……難しいかな」

「……俺達が何も言わなくても、三枝さんも……恭文君だってそのつもりですよ。とはいえ、念は押しておきましょう」

「そうだね。
あとは……本当に、なにもなければいいんだけど」

「……」

「こんなことで一番傷つくのは、リズノワやトリエル……バンプロで真剣に頑張っているアイドルのみんなだもの」

「……えぇ」


――ただ、俺達はそれでも……希望的観測を持ち続けていた。

そんなことにはならない。なってほしくない。姫野さんだってスタンスが違うだけで、アイドルを大事に思っている一人なのだと……そうであってほしいと。

だが……いやだからこそというべきか。そんな俺達の甘さをあざ笑うように、嵐は、本当に……間近にまで迫っていた。


このときの俺達はまだ、それすらあり得ない未来だと……せせら笑っていたんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本当に恭文はなぁ!


「とぅばさーをひろげとぅぇー♪ とぅびーたとぅんだー♪ とぅめをとぅめでー終わらせないとぅめにー♪」

「いきなりなに!?」

「……あ、これならいけるな」

「歌い方の問題じゃないのよ! というか、しゅごキャラがいたのになんでそういうこと言っちゃうのかなぁ!」

「でもギャグマンガ日和でやっていたし」

「明確なパクリじゃない!」

「そこまでいくと病気……あ、いえ。ギャグなんですよね。だったらアリかも」


天動さん、真面目に聞かないでください! 恭文、この話題に飽き始めていますから! このままだとオパーイを追い求めていきますから!


「分かったよ。じゃあ今度の歌ってみた動画で出すから。『夢(とぅめ)を夢(とぅめ)で終わらせないため(とぅめ)に』を」


え、出せるの!? 出せるだけの材料があるの!? というか……やっぱりとぅめに取り憑かれているじゃない!


「あとしけたクラッカーを用意して……クラッカーいくぞーってパフォーマンスも入れないと」

「いや、いらないでしょ! 鳴らないじゃない!」

「鳴らなくていいんだよ! 原作再現だから! いいところでカウントして、鳴らないーっていうのがオチ!」

「それ歌ってみた動画の枠を超えているけど大丈夫!?」

「……どうしよう。それちょっと見てみたいかも。というか原作って……今から追えるんでしょうか」

「あ、それは大丈夫。ギャグマンガ日和は全話オムニバス形式だから。あとで掲載巻教えるね」

「ありがとうございます」


天動さん、ツッコまなくていいんですか! いや、この人にツッコミ技能を求める方が間違いなのかも! だってクソ真面目電波馬鹿だし!


「でも……」

「うん?」

「恭文さんなりの伝え方や背中の押し方があるってだけなんですし、宿題にしていろいろ考えるのはいいと思います」

「そう、かな……」

「はい」

「ん……なら、そうする」


……でも、天動さんが本気でそう思ってくれているのは、ちゃんと伝わって。だから恭文も、少し気恥ずかしげに頷く。

なんだかんだで、天動さんのこと……引かれているんだろうなぁ。


「あ、でもそれならあるかも!」

「本当ですか!」

「うん! 薬丸自顕流の教えがあった! あれを広める形で」

「どうでしょう、恭文さん……一緒にとぅめへ取り憑かれませんか?」

「うん、その方がいいと思う」

「おのれらなに言ってんの!?」

「当たり前だよ! 斬れなきゃ死ぬ覚悟とか言うんでしょ!? 黄泉路への先陣は誉れとか言うんでしょ!? 物騒すぎるよ!」


まぁ引かれていても、やっぱり武術家マインドでクレイジーなんだよなぁ! さすがに物騒過ぎるよ!


「えー、でもさ? 激しめのロックバンドがよくやるじゃん。命燃え尽きてもとか、死んでも構わないとか、狂った世界とかさ」

「言いたいことは分かるけどね……!」

「あ、それならせっかく……こうして来たわけですし、よかったら一緒に、お出かけしませんか?
それで材料探しとか」

「あ、ごめん。五時から配信があって。そろそろ準備しないと」

「そうだったんですか……ならその後は」

「文化放送にデリバリー。帰りは夜十時頃かなぁ」

「そう、なんですか」


あれ、天動さんがしゅんとして……って、そうか! だからつんつんと恭文を膝でツツいて、小声でアドバイス。


(恭文、そこは日を改めてデートってことにして!)

(え!?)

(いいから。……天動さんの気持ちも、大事にしてあげてほしい)

(いや、でも)

(女の子としてお願い。私は……恭文が受け止めてくれて、嬉しかったから)

(う……うん……)


その意味は恭文も分かるから、すぐに向き直って……。


「だから、さ。あの……日を改めてまた……じゃ、駄目かな……」

「駄目じゃ、ありません! あの、えっと……なら、またガンダムベース……行きましょうね」

「ん……」


天動さんが嬉しそうに笑うので、それで私もホッとする。


(……まぁ、いいよね。ハーレムだし)


なにより、天動さんが本気なのは伝わるもの。

たとえ思い込みで突っ走ったとしても、恭文のために……喜んでほしいって、必死になった結果だから。


それをスルーされたら、傷ついちゃうよ。だから……もう一つ提案。


「恭文、だったら文化放送へ行くときは、天動さんも連れていったらどうかな」

「琴乃!?」

「そのついでに送ってあげるって感じで」

「でも、バイクだけど。ライブもあるし危ないんじゃ」

「あ、大丈夫です。ウィザードボイルダーなら雛見沢で慣れていますし……お願い、できますか?」

「……うん。じゃあ……万が一コケても、絶対怪我しないように、防護策も整えて……!」

「はい、お願いします」


それで天動さんが嬉しそうに笑って……私にこっそりお辞儀。大丈夫だと手を振っておく。


「……って、配信もあるんですか? そんな時間からなにを」

「……サアヤ先輩……Vチューバーの青梅サアヤさんとお話配信……」


そこで恭文が取り繕うように、そう告げて……無駄なのに……!

天動さんは恭文の……というかジンウェン、青梅さんの予定をチェックしていなかったみたいだけど、調べたら分かるよ!? もうツイートもしているんだから!


「青梅サアヤ…………」


でもそれ以前の問題だった。天動さんの視線が、急に厳しくなって。


「恭文さん、その配信私も出してください」

「「はぁ!?」」


なんだかとんでもないことをまた言い出したんだけど!


「大丈夫です。何をやるとしても対応してみせます」

「無理だよ! おのれ別事務所でしょうが!」

「許可も取ってみせます。安心してください」

「……琴乃−!」

「……バンプロの人に、期待しようか……」


とりあえず恭文を受け止め、よしよしと慰める。


(しかも配信内容で断るのは不可能……だしなぁ……!)


普通にさ、二人でゲームするとかなら無理なんだよ。設備やソフトの準備もあるし。

でもそうじゃない。今回については雑談配信で……しかも、議題が……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


わけの分からない状況も大分落ち着いてきたので、一旦社長室に引っ込み、朝倉に連絡を取る。

さすがに真っ昼間だし、すぐ繋がるかどうかは微妙と思っていたんだが……奴はわりとすぐに出てくれて。


そうしてまぁ、おたくの娘さんがとっても情熱的で、これから修羅場だという話をしたところ。


『………………!』


歯ぎしりしながら呻いてしまった。というか、それが数分続き……気持ちは分かる。凄く分かる。

なんというか彼女は、なかなか攻めているからな。ただタイトすぎてこっちの心臓が持たないかもしれない。


『……済まない……取り乱した……!』

「いや、大丈夫だ」


おぉよかった。なんとか現実と向き合ってくれたらしい。このままだとどうしようと思っていたんだが。


『……姫野については、大なたを振るうしかないようだ』

「それも大丈夫か?」

『念のためいくつか手を打っておく。
三枝、済まないが……巻き込むぞ』

「……こちらは以前言った通りだ。好きにしてくれ」

『それならば話がしやすい。
で……確認の案件だが、配信出演は問題ない。私の方で処理しよう』

「いいのか? 絶対大騒ぎになるぞ」

『ここで変に沈黙して、いらぬ想像をかき立てるよりマシ……と考えよう』


なるほど。毒を以て毒を制する構えか。それならまぁ、天動さんは若手俳優とのキスシーンで、大胆脱皮は難しくなるなぁ。少なくとも今は。


『それにまぁ、あれを恋愛で妻と言う様に、少なからずファンも動揺しているようだしな……』

「だろうな。現に蒼凪君も動揺している。というか、いの一番にツッコんでいる」

『知っているさ。……思えば彼も、天動にあれこれ言えるわけではなかったか』

「どうしても重くなりがちだからなぁ。仕方ないさ」


普通は同じ年頃で、あれだけ器量もいい美人にそう言われたら、下心も出る。なにせ恋愛になると、人はチンパンジー以下の知能になるそうだからなぁ。

だが蒼凪がそうなれないのは……やはり難しい障害などを抱えている影響だ。そういうものである程度現実を見せられているんだよ。厳しいことにな。

まぁそれゆえの良識さや懐の深さが、あの子のいいところではあるが……同時にいろいろなものが重たくなる要因でもある。


正直見ていると、たとえ報われなくてもただ一人を一生涯―ってやらかしそうなんだよなぁ。そういう意味ではハーレム状態なのも、少し安心もしているが。


『だから、改めて、彼がどれだけ良識溢れる人間かも……世界中に見てもらおうじゃないか』


……いや、前言撤回だ。その分妙な因縁も引き連れている気がする。少なくとも今の朝倉とかな。


「悪い奴だねぇ……お前も。娘婿へのいびりか?」

『あえて否定はしないでおこう』

「はいはい……まぁ、そういうことなら分かった。
蒼凪は絶望するだろうが、こっちで上手く伝えておく」

『頼む』


そして数分後――。


「――――なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


蒼凪は絶望の絶叫をあげるが、それは許してほしい。

ほら、夏頃ウナギ、奢っただろ? 美味しかっただろ? その美味しさの分、頑張るときが来ただけだ。そういうことにしておいてくれ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして……午後五時がやってきた。

この配信が終わったら、すぐ文化放送の方に移動。先輩と麻倉さん、山崎さんがレギュラーでやっているビリオンラジオの現場にお邪魔する。

千紗から預かったチケット、お届けするだけなんだけどね。舞宙さんも今日はゲストに来るから、そのときついでにって感じだよ。


なのに、僕は……あぁああぁ……あぁああぁあぁあ……!


――ジンウェンくんとの出会い、ある日の昼過ぎ。運命でした。
不器用だけど、一生懸命。作ることが大好きな、そのキャラクターに一目惚れ♪――


え、なにこれ。いきなり配信から妙なラップが流れてきたんだけど。


――乙女心くすぐられ、コラボのおねがいしたところ、滅茶苦茶恐縮しながら許諾。
早速お話してみたら、想像以上に可愛くて♪ コラボでいっぱいセクハラしちゃったあの日の私、発情期!――


サアヤ先輩−!? いや、覚えがあるけど! 童貞なのかとか聞かれたけど! でもちょっと落ち着いて!?


――でもでもリアルのお仕事大変。時折地獄に巻き込まれ大変。それでも楽しくうたう彼、大変頑張り屋さんなんです。
登録者数ちょっとずつ成長。サアヤのドキドキどんどん膨張。
寝ても覚めてもジンウェンくん。サアヤのガチ恋届いてほしい。いいーや絶対届かせる。だったらまずはオフコラボ−!――


あぁ、うん……十把一絡げのつもりだったのに、成長したよね。ビックリだよね。千人超えたときは嘘でしょって思ったし。その後もだけどさぁ。


――リアルであったジンウェンくんは、想像飛び越え男の娘! え、嘘……こんな子に付いているなんてー!
でもでもそれならサアヤがね? いっぱい手ほどきしてあげる♪ エッチな子だって嫌わないで。こんなの君だけ愛してる♪
まずは明るくお食事散策。映画も見ちゃって夜になり、そっとその手を繋いだら、一緒に飛び込むホテルのベッド!――


だからなんなのこのラップ−! というか、誰が作ったのこれ! どうして怒られなかったの!? というか、牧野さん……牧野さんー! これ許可取っているのかなぁ! 僕はなにも知らないんだけど!


――でもでもそんなジンウェンくん、実はとってもモテちゃうの。ライバルいっぱい誘惑いっぱい。
だったらいっそハーレムしちゃう? こんなのジンウェンくんだけだから。サアヤはそれだけ君一筋だよ?――


そしてここでハーレムって言わないで−! というか待って! こんなベストタイミングで用意できるの! ぶいじげんすげー!


『――緊急特別企画! 第一回ジンウェン地獄対談−!』


……そんなとんでもラップが終わって……会見場のイラストを前に、サアヤ先輩と登場……あぁああぁああぁ! 後でツッコむしかない!


『えー、みなさんこんばんはー。ぶいじげん所属、煌めくアイドルVチューバーの青梅サアヤでーす♪
いつもよりちょっと早い時間だけど、深夜テンションでいくよー』

「こ、こんばんはー。星見プロ所属、サブカル大好きVチューバーのジンウェンでーす」

『はい……というわけで、今日はね……先日飛び出た、ジンウェンくんの熱愛報道と浮気疑惑について、深く掘り下げようと思います! だから夕方のワイドショーみたいな時間に開始だよ!』

「掘り下げようがないよ!? そもそも熱愛じゃないし! あれ恋愛じゃないし! 配信でも言ったでしょ! あと浮気ってどういうこと!? それに冒頭のラップはなに!」

『サアヤが浮気されたってことだよ! ジンウェンくんはさ!? サアヤといっぱいオフぱこしているのに!』

「息するように嘘を吐くなぁ! なんならLINEの履歴公開しようか!?」

『やめてー! プライバシー侵害−!』

「どの口で抜かしてんじゃあ!」


初手からなにぶちかましているの、この人! 嘘はやめてよ! 本当のことなら言われても仕方ないけど、嘘なんだよ!


「というかね、オフぱこの時点で完全に遊ばれているよ! そんなのは相手にしちゃ駄目!」

『……じゃあ、サアヤとエッチするなら……本気って考えていいの?』

「それは、前に言った通りだから。
……ジンウェンとして活動するのに、先輩には助けてもらってばかりだし。やっぱり、それを悪用するのは嫌だし」

『ん……』

「なにより……そんなサアヤ先輩を弄ぶようなこと、本当にしたくない」

『えへへ……そっかぁ。じゃあね、サアヤも……他の子を弄ばず、みんなと本気で向き合おうとするなら、ハーレムは許すよ?
サアヤはそういうジンウェンくんだから好きになったし、ここまで言うんだから……ね』

「弄ぶつもりはないけど、瑠依とはそういう感じじゃないー!」


そう……先日瑠依が噛ましてくれた発現によって、サアヤ先輩が激怒。


――ジンウェンくん、どういうことか聞かせて。いや、マジでさ――

――やましいことは一切ありません。
話は僕がジンウェンだとバレる前に起きたことです。
奴は恋愛感情そのものを理解していない可能性があります。
というか、サアヤ先輩がいろいろ気遣ってくれてこそのジンウェンなのに、それを利用してどうこうは絶対嫌です――

――会話をしてくれる!?――

――そうとしか言えないのよ!――

――もうちょっとキャッチボールがしたいの!――

――キャッチボールのやりようがないんだよ!――

――ないの!?――


だから状況を改めて説明したんだよ! 全部話通りだと! 妻じゃないと! 恋愛じゃないと! なんだったら奴は妻を名乗る不審者なのだと!

その結果がご覧の有様だよ! それで弄られまくるんだろうなーって思っていたら……思っていたらぁ!


「……ちょっと、どういうことですか! 私の気持ちは伝えた通りです!」

「早い! おのれはまだ早い! ちょっと口を閉ざしておいて!」

「それにオフぱこって……あの、勉強しました。ネットで知り合った人が、リアルで約束して遊んで……それで、エッチするってことですよね。
だからさっきのラップだって……あの、だったらちゃんと青梅さんともお話です。妻として、夫であるあなたが他の女性を弄ぶなんて許せませんし、そうでないなら挨拶が必要ですから」

「だからそんなことはしていないし、おのれは妻じゃないんだよ!」

「妻です! もう……ちゃんと言い切れます。
私、天動瑠依は……あなたに恋をしていると」

「瑠依ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! なんかアイドルが凄いぶちまけ方しちゃっているぅ!

ヤバい、コメント欄を見られない! 大混乱に決まっているもの! いつ炎上しても……もう炎上していておかしくない!


『……はい! じゃあ早速ですが、サプライズゲストをお呼びします! みんな驚けよー! というか驚いているかなー!
なんと……TRINITYAiLEの天動瑠依ちゃんが来てくれましたー! 夫なジンウェンくんとのなれそめについても、深く聞いちゃいたいと思います!』

「だから夫じゃないー!」

「……あ、みなさん……初めましての方は初めまして。ご紹介にあずかりました、TRINITYAiLEの天動瑠依です」


そう……見ての通り、瑠依まで参加することになったよぉ!

バンプロの奴らは頑張ってくれなかった! むしろ手を振って応援してきたよ!

でも断れなかったよ! 三枝さんにはウナギの借りがあるから! 一生付いていくって言っちゃったからぁ!


「……以前も配信にはお邪魔していましたけど、今日は改めて……ジンウェンさんの妻としてやってきました」

「うがあぁああぁああぁああぁあぁああぁ!」

『はいはい……言い訳は後でたっぷり聞きますよー』


なんで、なんでこんなことにぃ……あぁあぁあ……胃が痛い……!


『瑠依ちゃん、初めまして−。今日はよろしくねー』

「初めまして。よろしくお願いします」

『それでどうかな、サアヤの配信とかって』

「ジンウェンさん絡みで、ここ半年ほどのものはチェックしています」

『ありがとー! サアヤも瑠依ちゃん達の曲や番組、チェックしまくりだよー♪ もう元からめちゃファン!』

「ありがとうございます。それでまぁ……青梅さんも、ジンウェンさんが好きなのだと……」

『ん……ジンウェンくんとはね、オフで何度か会ってて……もうガチ恋』

「ガチ恋……あ、本気ということですね。はい、分かります」


胃を押さえていると、瑠依が納得しながらガッツポーズ。……描写が見えるのも当然だよ! 僕の右隣にいるし!

普通に寮までくるとは思わなかったよ! だからヤバい……逃げられない! 逃げたいのに逃げられない!


『ジンウェンくんね、優しいんだー。サアヤがそういうこと慣れているかとか関係なく、サアヤのこと大事にしてくれるし……さっきだってそうだったし』

「分かります。ジンウェンさん、私にもアイドルだからで話したこと、一度もないんです。
もちろんお仕事は大事にしてくれるんですけど、その色眼鏡で何かお願いしたり、利用するようなこともなくて」

『サアヤも全く同じ。表に出ていると、やっぱいろいろあるから……それでさ? 変わっちゃうこともやっぱりあるんだよ。人気が出ちゃうと……それでこう、異性からモテモテーって分かっちゃうとね』

「えぇ」

『でもさ、ジンウェンくんってリアルのお仕事柄とか、難しい障害抱えているせいもあるんだけど、そういうところはいい意味でそのままでさ。
サアヤ的にはそこがすっごく奇麗に見えちゃうし……そんないい男なら、ハーレムも仕方ないかなーって』

「あ、あの……」

『「ちょっと黙ってて(ください)」』

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ちょっと、待って! この配信はヤバい! 誤解が広まる! ヤバいことになる雰囲気しかない!

だって……僕の地獄対談とか言っておいて、僕の発言がこの馬鹿どもによって封殺されたもの! なにが飛び出してくるか分かったもんじゃない!


『ちょっとー! お姉さんを差し置いてお話は困るんだけどー!』


え、ちょっと待って。この声は……突如入ってきたこの声は……あの、まさか……!


『しかもさっきのラップはなに!? ジンウェンくん、ヒドいわ……お姉さんにフラグを立てておいて!』

『はい! 第二のサプライズゲスト登場です! 自己紹介どうぞー!』

『えー、みなさんこんにちはー。星見プロ・サニーピース所属の、佐伯遙子……十七歳です♪』

「遙子さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」


ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! どういうことだぁ! なんで遙子さんまでぇ!


『……本当に、話をしようか。ね……ね……?
あと瑠依ちゃんとはそういう感じじゃないって言っていたのに……進展しちゃったのかなぁ……!』


でもそこで更にぞくりとさせられる。だって、この声は……この声はぁ!


『そして第三のサプライズゲストです! お名前おねがいします−!』

『サウンドライン所属……声優の、絹盾いちごです。
ジンウェンくん…………ねぇ、黙ってないで答えてよ。ほら』

「あ、あの……いちごさん……ちょっとお話が」

『この……大馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

「聞いてほしいなら黙らせにかかるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今日は早めに仕事が終わって……ジンウェンくんが配信するみたいだから、家に帰って、スマホを付けて、ベッドにごろごろしながらチェック。

うん、ジンウェンくん呼びにしたの。もうすぐうたうたいさんになるかもだし、そこはね?

でも地獄対談……青梅サアヤちゃんと、なんだよね。なんかめっちゃガチ恋で迫っている子。一体何が起こるのかと思っていたら。


『妻です! もう……ちゃんと言い切れます。
私、天動瑠依は……あなたが誰よりも好きだと。あなたに恋をしていると』

『瑠依ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』

「は……!?」


え、なにそれ。

天動瑠依ちゃんとなんか仲良くなったのは、知っていたけど……どう見ても恋愛とは思えないエピソードだったのに。


『えー、みなさんこんにちはー。星見プロ・サニーピース所属の、佐伯遙子……十七歳です♪』

『この……大馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

「聞いてほしいなら黙らせにかかるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


しかもいちさんが出てきちゃったんだけど! 佐伯遙子さんも出てきちゃったんだけど!


『うん、そこは……ちゃんと話をしないとだね』

『え!?』

『はい! サプライズゲスト第四弾ですー! 自己紹介どうぞ!』

『みなさん、こんにちは。
星見プロ・月のテンペスト所属、長瀬琴乃です』

『琴乃ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

『待って待って! 私はほら、この配信を止められなかった責任があるから! ジンウェンの弁護人として参加だから!』

『僕が罪人みたいな言い方をしないでよ!』

「え……え……」


思わず中腰になって、呆けてしまっていた。


『じゃあえっと……まずは絹盾いちごさんから! いちごさんも、ジンウェンくんにフラグを立てられたと!』

『実はね、ジンウェンくんのお仕事絡みで、ガードを頼んだことがあって……そのときに助けてもらったんだー。
そうしたら……オフぱこって……へぇぇええぇえ……! しかも誘惑って!』

『あ、そうよ! サアヤちゃん、それはどういうこと!?』

『ん……サアヤの元彼って、こう……ケダモノばっかりだったから。やっぱりそういうこと、したくなっちゃうのかなーって思ってたんです。
でもジンウェンくん、そんなサアヤのこと、大事にしてくれて……Vチューバー活動しているのも、女神様がいたからだし、それで不埒なことしたくないって……それでもう……えへへ……♪』

『あぁ……それは、そうよね。恭文くん、そういうこと凄く特別にしているから』

『でも聞いていない! 私、そんなことがあったなんて聞いていないよ! どういうこと!?』

『特別なことはなかったんです! ちゃんとそういう……遊びな感じは駄目って言ったんです! それで終わってたんですよー!』


そ、そんなことが……あ、でも女神様って……そっかぁ。あたしのことも気にして、そういうお誘いもビシッと対応したんだ。

それは嬉しいし、なんか……変わってないなぁーって安心するんだけど。


『……たしか青梅さん、Hカップと仰っていましたよね。つまり……ねぇジンウェン、やっぱり大きい方がいいの?』

『ちょっと! 弁護人が仕事しないんですけど! 僕を問い詰めにかかっているんですけど!』

『それも含めて、ちゃんとお話してほしいってことですよ。
……もちろん私だって同じです。私は……あなたの妻なんですから』

『だからおのれは妻じゃない……というか! このときはおのれと知り合う前なんだよ! どのタイミングで話せっていうの!』

『どのタイミングでも、私は全て受け入れます……!』

『話すタイミングそのものがないぃぃぃぃぃぃぃぃ!』

『……ジンウェンくん、それもほら……共有して受け止めたいってことなのよ』

『気持ち先行しすぎでしょうが!』


今をときめくとアイドルが、ジンウェンくんの妻……あ、これはあれか。


「いつものパターンかぁ……!」


こういう仕事をしていると、やっぱりいろいろある。まぁ、サアヤちゃんが言った通りね?

ただ、ジンウェンくんは……やっぱりこれも言われた通りなんだよなぁ! あの年にしていろいろ見過ぎているせいで、達観しているんだよ! おじいちゃん思考って言っていいし!

それもあって、まいさんとかのことを隠しているとは思えない。なのにこうなるってことは、答えは一つ。


瑠依ちゃん……まいさん達から聞いていた以上に、重たい子なんだよ! リインちゃんや風花ちゃんと同じタイプ!

いや、そうだよね! だって経緯が経緯だもの! 極端が過ぎているって!


「これ、大丈夫かな! 別の意味で不安になってきた……というかいちさん、いいの!? 大丈夫なの!?」


あの、ちょっと……連絡しよう! その権利はあるよね!? あたし、ある意味プロデューサーだし! 発起人だし!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それはもう、史上希に見るヒドい放送で……寮のリビングで、ノートパソコンに注視する俺達も手に汗握る展開だった。

しかも遙子さんと琴乃まで登場って、どういうことだよ! 俺はなにも聞いていないぞ! また……三枝さんめぇ!


『――えー、00.1ミリと0.02ミリってそんな違うかなー』

『私も分からないので、それは実地で試すべきかなと。
それに妻ですから、ジンウェンさんとはそういうお話もできないのは……駄目です』

『生の方が気持ちいいけど……必要って言えば必要かぁ』

『……やっぱり、そうですよね』

『男ってほんと、エロゲーや漫画の影響でそのままがデフォって思っている奴多いしー』


そこで、うちのアイドル達が揃って俺をガン見する。


「……牧野さん……!?」

「絶対極論だと思うぞ!」


怜、なんで俺を見るんだ! その批判と疑問が入り交じった視線をぶつけないでくれ!

というか、年代は近めだから分かるだろ! 性教育とか授業でやったはずなんだよ! あり得ないんだよ!


『え、というか待ってください。まず……それを、実地で語れる人は……この中で何人いるんですか……!?』

『琴乃、そこをツッコむんじゃないよ! セクハラすれすれだよ!?』

『だから、私は無理で……遙子さんは』

『わ、私も無理よー! 十七歳だもの!』

『私も……十七歳だから』


絹盾さんは嘘でしょ! ちゃんとプロフィールにも生年月日が載っていますよ!? いえ、遙子さんもですけど!


『ど、どうしよう。
実は私、本当に……声優だからとかじゃなくて、そういう経験がなくて……え、ジンウェンくん、そういうものなの?』

『いちごさん!?』

『そこはね? ちゃんと、話し合いたいな。
私はさ、瑠依ちゃんと違って妻だーってまだ言い切れないけど……そこも、積みかさねだと思うし』

『あ、あのですね……そういうのも、ちゃんと考えて……作られていましてー。
確かに違いはあるけど、それでも気持ちいいのは変わらずーっていうパターンが、多いんですー!』


恭文君も答えるなよ! というか今って夕飯どきだぞ! こんな話をしていいと思っているのか!


「牧野……いえ、なんでもありませんわ」

「そうですね。牧野さんに聞くのはどうかと」


おい、待て! すず、沙季、それはどういう意味だ! 今なにか凄い格差をぶつけられた気がするぞ!


「……いや……牧野くんならきっと答えられるよ。なにせ学生時代、チョコ二十個もらっていたし」

「えぇ! そ、そうなんですか、牧野さん!」

「牧野さんモテモテだー!」

「モテモテだったんだよー。つまり最低でも、二十回は経験があるってことなんだよ」


渚と芽衣が、滅茶苦茶に俺を見てくる! というか……麻奈もテーブルの上でぐったりしながら、なにとんでもないこと言ってんだよ! それは全て義理だって知っているだろ!

いや、そんなレベルじゃない! あれはお前がアイドルになったことで! マネージャーとしてバイトしていた俺もフューチャーされて! 結果目立って! もらってしまっていただけなんだよ!

俺はあのもらったチョコを、自分自身の人気や人徳だと思ったことは一度もないからな!? その話もしたはずだよな! なのになんでちょっと不機嫌にバラしてくれているんだよ!


『だ、だからあの……というか、やっぱり赤ちゃんもできることだし……そんな気軽に、そのままでなんて……言いたくないなって……』

『じゃあ、もしそのままするとしたら……赤ちゃんできてもいいって覚悟で?』

『もちろんちゃんと、相手の子と話し合った上で……!』

『サアヤ、そこまで考える子、ジンウェンくんが初めてだから……よく分かったんです。
この子はサアヤが遊んでいるとか、慣れているとか関係なく……そういうものも、目の前にいるサアヤも、大事にしてくれるんだって』

『そう、だったんだ。……じゃあさ、サアヤちゃんはほんとに』

『大好きです。
だからサアヤも、ジンウェンくんが大事にしているもの……大事にしたいなーって』

『サアヤ先輩、それだとやっぱりエッチしていることになるよ! というか、こんなところで告白めいたこと言わないで−!』

『告白めいたというか、告白だよ? なのでこれくらい大丈夫だってー』


いや、青梅さん、相当駄目ですからね!? うちの佐伯と長瀬も巻き込まれているんですが! というか揃って正気ですか! 意中の人がいる発言って!

……それを言えば最初から正気の沙汰じゃない企画だったかぁ! これよくサウンドラインも許可したな! さすがに絹盾さんの登場はビビったぞ!


『ね、みなさん』

『それはもう! というか、やっぱりなかなかお話しにくいことだから……聞けるのは助かるわー』

『うん……それは、否定できない』

『私も、青梅さんのお話……とても参考になります』

「サアヤでいいよー。こんな話しているんだし」

『なら……えっと、サアヤさん』

『ん……♪』


そして女性陣は強く繋がり始めているな! というか青梅さんのトークが上手いせいか、天動さんがすっかり心を許して……だが内容がヤバすぎる!

明るい家族計画で0.01と0.02ミリがどう違うのかって話を! 未成年アイドルがしているのは前代未聞だろ! 炎上したらどうするんだ!


『こ、琴乃ぉ……!』

『……ジンウェンもこれだけ言われているなら、清く正しくお友達からーでもいいと思うんだけどなぁ。私にもちゃんと言ってくれたよね?』

『弁護人としての仕事をしてよぉ!』

『じゃあ一欠片も意識しない? 瑠依さんも、遙子さんも、いちごさんも……』

『そ、それは……あの、どきどきは、するけど……』

『うん』

『でも、みんながアイドルとして……声優としてキラキラしているのも、間近で見ちゃっているから。
それが素敵だなって思っているのに、その邪魔になるようなことをしちゃうのは……嫌だ』

『そっかぁ。
……でも、そういうお話もちゃんとしていった方がいいと思うんだ』

『そ、そうです! あの、もしそうなら……それは、凄く嬉しいことなんです!
だから……一人で決めないで、ほしいです。少なくとも私達は……友達では、あるんですから』


その上でなんでいちゃつけるんだよ! 本当に俺達は一体なにを聞かされているんだ!?


『ジンウェンくん、それは私も……いちごさんだって同じよ?』

『うんうん。君、そういうところぐって飲み込んじゃうしさぁ。悪いクセだよ』

『でも……』

『……私は、言ってほしいなぁ。
一緒にいたいっていう我がままも、応援したいっていう励ましも……二つ一緒に。
その上でね? 私の気持ちもぶつけて、一緒に……どうしたらいいか、いっぱい考えたい』


絹盾さん、それは彼女がいう台詞です! 本当にそれでお付き合いはしていないんですか! どういうことですか!


「……牧野、これ……本当に合法ですの?」

「朝倉社長からやってしまえと許可が出たんだよ……。信じられないことだが」

「では、絹盾さんと遙子、琴乃は」

「そっちは全く聞いていないよ! また三枝さんの悪いクセだ!」

「炎上待ったなしですわよ!?」

「すずちゃん、とりあえずコメントは、平和そのもの」


で、恐ろしいのが……この会話をしながら炎上の気配が一切ないことなんだよ!


――ジンウェンはやっぱりヘタレ全受けが至高――

――滅茶苦茶恋愛に真剣なのに、真剣さゆえに主導権を握れない男――

――自分のことよりサアヤ先輩や瑠依ちゃん達を心配する器量よ――

――ジンウェンが青き民だったことの衝撃よ――

――しかも小さい頃に、一目惚れしたお姉さんとよく似ていてって……それだけでいいエピソード!――

――切ないなぁ。初恋の人もちゃんと覚えていられなくて、ただ歌声だけが残っているって――


そう……雨宮さんやお姉さんとの下りもバラされた。さすがに横浜の事件をきっかけに、いろいろと話が続いたことは伏せていたが。

そのせいもあって、恭文君がジンウェンとしての名声を利用して、どうこうーという疑いは消えているんだが……。


――瑠依ちゃん×ジンウェン、アリかも!――

――サアヤ先輩と遙子さん、いちごさん、琴乃ちゃん、かざねちゃんも交えたハーレム本はまだですか!――

「コメントは、ご覧の通り。Twitterのタイムラインも、似たようなもの」

「どうなっていますの!?」

「俺も疑問だよ! しかも真知哉さんまで巻き添えになっている!」


それでもなんだこれ! 元からのファンはともかく、トリエルサイドからは火の手が上がってもおかしくないのに!

アイドルってやっぱり恋愛御法度だぞ!? 疑似恋愛的に見上げる人も多いから、どうしてもなぁ! 声優さんもそうらしいし!


なのに……。


――推しの熱愛報道かと思ったら、コントを見せられている件――

――なんだろう。逆にやってしまえーって応援したくなる……瑠依ちゃんガチ恋だったのに!――

――アイドルとしての瑠依ちゃんも、琴乃ちゃん達も好きでいてくれるなら、悪い子じゃない!――

――でもリアルで女の子に間違われる外見って……それで付いているってマジ?――

――むしろアリだ!――


揃って平和的に受け入れすぎているんだよ! 逆に怖いんだよ! 火の手すら上がらないってさぁ!


「あ……鈴村さんが、公式アカウントで実況、している」

「なんだって!?」

――ジンウェンくんは、こういう純朴すぎるところが魅力なんよー。なんやかんやで、瑠依ちゃんの妻ですーも真剣に受け止めてくれるしなぁ――

「なるほど……援護射撃のおかげもあったんですね。さすがは鈴村さんと言うべきでしょうか」


沙季、感心している場合か!? そんな援護射撃も炎上の的たり得るのに……あぁ、しかし……しかし……!


「……アイドル社会の常識が、崩れていく……」

「牧野さん、しっかりしてください!」

「で、でも、これなら……安心、です……。私も……きっと……!」

「千紗……!?」


千紗ももなにか予定が……いや、やめよう。やっぱり俺は、触れない。

ここで取らぬ狸の皮算用とか言うのは、間違いなくKYだ。それだけはよく分かった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうして、凄く大変な配信は無事に終了……。


『……じゃあ恭文くん、また改めてお話……だよ? 彼氏彼女の日は継続なんだし』

「あ、はい……」

『あと優ちゃんには注意して。私の目が黒いうちは、不埒なことなんて許さないから』

「どんだけ優に警戒しているんですか!」

『あの子は宿敵だ……!』

「えぇ……」


いちごさんはなぜか優にライバル心を燃やしつつ、通話を終了。

遙子さんも、琴乃も離れ、瑠依も部屋を出たから……。


「つ、疲れ……たぁあぁあ…………」


生きた心地のしない一時間半だったと、テーブルに突っ伏し震える。


『ジンウェンくん、改めておつかれさまー』

「お、オツカレサマ……でしたぁ……」

≪サアヤ先輩、今回はお手間を取らせてしまってすみません≫

『いいよいいよー。というか、サアヤがやらかした炎上に比べれば、もう可愛いもんだし。
……今瑠依ちゃんと遙子さん、琴乃ちゃんって』

「下に、行って、出る準備中……遙子さんと琴乃は……夕飯の当番として、腕を振るっているはず……」

『そっかぁ。まぁでも……安心したよ。ほんと弄ぶような感じじゃなくて。
……実はね、ショウタロス君達が帰って、いろいろ寂しいのかなとか……ちょっと考えちゃったから』

「さすがに、それでヘタれるのは嫌だ……」

『ん、分かっているよ。でも……だからこそちょっとお叱り』


ディスコードごしに聞こえてくる、少し強めの声に……ぐったりとしていた体を起こす。


『あの子、経験がないからさっぱりなだけで……君のこと本気だよ? 一から十まで首ったけ』

「え……!」

『そこ驚かないの! ……だから、弄ぶのはもちろんだけど、無視したり、見ない振りも絶対に駄目。
受け入れるにしても、無理だってするにしても、ちゃんと向き合ってあげて。じゃないと……きっと一生引きずるよ』

「…………」

『妻っていうのも、あの子なりの『好きかどうか教えて』なんだからね? それは忘れちゃ駄目』

「ん……サアヤ先輩、ありがとう」

『ううん。その調子で、サアヤのことも大事にしてくれると嬉しいなー』

「あ、はい……!」


うん、分かっている。だって瑠依、本気で言ってくれたもの。一緒に決めたいって。サアヤ先輩だって同じく。

瑠依は今日だっていっぱいおしゃれしてくれたし、サアヤ先輩もあのときは……ああぁあぁあ……でも、いろいろ躊躇いがぁあぁあぁああ……!

やっぱり僕、恋愛ごとは苦手かも! いや、ハーレムしておいて今更なんだけど! 優にも似たような釘刺しを受けたのに、また頭を抱えるなんて!


『それで……もしうがーってときは、誰かを頼っていいんだからね?』


また頭を抱えたくなっていると、サアヤ先輩が優しくそう言ってくれる。


『サアヤ、遊んでいる分ジンウェンくんよりは、恋愛ごととか女の子の気持ち、分かるし。
もちろん天原さん達とか、他の彼女さん達でもいいし』

「……いい、のかな」

『いいよー。そこはもうちょっと自分でーってときは、ちゃんと言うし。
……ショウタロス君達にしていた感じで……ってのは難しいかもだけど、ね? 抱え込みすぎないでほしいなぁ』

「じゃあ困ったら、お話したい」

『ん……♪
あ、それと道中気をつけてね。それで瑠依ちゃんのことも送り狼……いや、しちゃえしちゃえー♪』

「しないよ! 健全に送り届けるよ!」

『なら帰宅メッセ待っているから。その後寝落ち通話ね?』

「メンヘラ発露しないで!? いや、それは」


………………そう言いかけて、とまり……ちょっとだけ、先輩に甘えてみる。


「……送り狼以外、するけど」

『ありがと♪』


そうして明るくサアヤ先輩に送り出され、早速文化放送に移動開始。夕飯は向こうで……肉そばでも食べようかなぁ。浜松町は美味しいところが多いから大変だー。

とにかく牧野さん達にもなぜか励まされながら、寮の外に出て……。


「瑠依、大丈夫?」

「え、えぇ。しっかり……この、オートバリアのジャケットも着させてもらっていますし。それにアーマーも」

≪うりゅ……≫

≪アイドルさんを運ぶわけですしね。そりゃあ念入りになりますよ≫

「るーい」


そしててんどーさんは……天を指差し、なぜか不可思議空間に入り込む。なぜそれができるのだろう。ショウタロス達かな?


「恭文、気をつけてね」


そう声をかけてきたのは、エプロンを着けたままの琴乃だった。調理が終わったのか、見送りにきてくれたみたい。


「ん、ありがと。……あ、でもごめんね。せっかくの当番なのに、ご飯食べられなくて」

「大丈夫。……恭文の分は冷凍パックに詰めて保存しておくから。次きたときに食べて」

「あ、はい」

「長瀬さん、あの……いろいろ、ありがとう」

「いえ。でも、こういう手助けは恋愛だけですから。ステージの上では全力勝負です」

「もちろんよ」


笑顔を向け合う琴乃達には苦笑しつつ、エンジンの調子も見て……よし、大丈夫っと。


「じゃあ安全運転でゆっくりいくから」

「はい、お願いします」


そうして瑠依に後ろからぎゅっとされながら、タンデム…………。


「……瑠依、そこは座席のグリップでいいんだけど」

「え、でもこういうとき、胸を押しつけてどきときが基本じゃ」

「体重移動も絡むから、軽くで、OK……!」

「えぇ、私もそうだったので……!」

「そう、なんですか。……ちょっと残念です」


あとで優には説教しよう。絶対奴が教えたに違いないもの。

そう決意しつつ、改めてタンデム……文化放送への道を安全かつ確実に進んでいく。


(その20へ続く)






あとがき


所恵美「……滅茶苦茶だよ!」

恭文「滅茶苦茶だねぇ! でもね、驚くべきは朝倉社長だよ! 許可出すとか正気じゃないし!」

恵美「だよねぇ! ほんとどういうこと!?」


(思惑はあるようです)


恭文「まぁそっちはまた次回以降として……恵美、なぜおのれがここに」

星梨花「は、はい! 今日はわたしとともみさんのマンスリーバースデーなのに!」

恵美「たまにはこういうサプライズもねー。でも、なんでみんなエプロン?」

ともみ「そぼろの三食弁当を作ろうって話になって」

恭文「そういえば星梨花と料理したこともあんまりなかったなーと思って」

恵美「そぼろの三食……おぉ、美味しいやつだー! アタシも手伝う! で、なにするの!」

恭文「鶏挽肉を酒・醤油・みりん・砂糖の神器で炒めてそぼろにする。
たまごをといたらみりん・砂糖・出汁醤油で味付けして、炒めてそぼろにする。これで八割完成だ」

恵美「簡単!」

星梨花「なのでもうできちゃいました……」

恵美「できちゃったの!?」


(簡単でした)


恭文「そぼろ達は冷蔵庫で保存すれば、数日持つしね。
あとはお弁当箱にご飯を詰めて、冷ました上で配置すればOKよ」

恵美「ほんと簡単! ……でも、今の時期って傷まないのかなぁ」

ともみ「そのために汁気をできる限り切って、砂糖を多めに入れるのがコツかな?」

星梨花「砂糖が水分を飛ばすというか、くっつけてなくしてくれる……でしたよね」

ともみ「その分味付け濃いめだけど、そこが傷まないお弁当作りのコツかな。なにより濃いめだとご飯も進むし」

恵美「凄く分かる……! なんでそぼろってシンプルだけど、あんな幸せになるんだろ!」

恭文「お弁当にはもってこいのメニューだよ。あとは保冷剤も準備すればもう完璧」

恵美「うんうん……でも、副菜とかなし? サラダはあれとしても、なにか添え物とか」

恭文・ともみ・星梨花「「「……実はそこで迷っていて」」」

恵美「迷っていたの!?」


(まよっていた三人、首を傾げまくる)


恭文「いやね、緑のものがいいんだよ。色合い奇麗だし」

恵美「うんうん、三食弁当って感じだね!」

恭文「でもなにを入れようかなぁっと……サヤエンドウとか?」

ともみ「シンプルにネギもいいと思うんだ。ぱらぱらーって」

星梨花「ブロッコリーもありましたよね」

恵美「うーん……じゃあアタシ、一票! うちね、それでコンソメ醤油的に絡めたやつを置くの!」

恭文・ともみ「「コンソメ醤油…………それだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

星梨花「ただ茹でただけじゃないんですか! それは美味しそうです!」

恵美「よし、じゃあそれはアタシが作るよ! そこはお母さんに教わっているから!」


(というわけで、お料理の時間は更に進みます。
ザ・マッドサタン『夢を夢で終わらせないために』)


恵美「レンジで塩ひとつまみ入れて、暖めて……あとはコンソメ顆粒と醤油をかけて、絡めて、ごま油で……はい完成!」

星梨花「すぐできちゃいました……!」

恭文「うんうん……これはパンチあるなぁ。でもほどよいパンチだ」

ともみ「青くささとかもないし、そぼろ弁当にも合いそう。恵美ちゃん、これ採用で」

恵美「ありがとー♪ じゃあさ、お弁当持ってお出かけ……アタシも一緒でいいかなぁ」

星梨花「もちろんです!」

ともみ「うん、じゃあ今からずっと一緒だね。ご主人様と離れないようにしないと」

恭文「あの、ともみ? それはさすがに」

恵美「アタシは、大丈夫だから! 覚悟決めるし!」

恭文「恵美−!?」


(おしまい)





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あきゅろす。
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