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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2019年6月・雛見沢その9 『勝つためのL/なぜその敗北は生まれたのか』




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s 奉祀(たてまつ)り編

西暦2019年6月・雛見沢その9 『勝つためのL/なぜその敗北は生まれたのか』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――ルールXとYについては説明したわね。ちゃんと覚えている?

そう……ルールXは雛見沢症候群による暴走と惨劇。

ルールYは古手梨花殺害にまつわる絶対的意志。この村で渦巻く陰謀の矛先とも言えるわ。


ならルールZは何か。ふふ、気になっているようね。そういう積極的な姿勢は好ましいわ。

では、このかけらを見て。


……怖い? そうね、ここにいる詩音は鬼そのものだから。

これは≪綿流し≫のかけら。詩音が祭具殿侵入や富竹達の死をきっかけに、雛見沢症候群を発症。

お魎を、公由を、沙都子を、古手梨花を殺害し、最終的に双子である魅音も殺してしまうかけら。


それも詩音が園崎家の陰謀だと疑い、疑心暗鬼を滾らせたゆえよ。でもそれは勘違いだった。

このゲーム盤の上では何が起ころうとも、全てが≪祟り≫やら≪園崎家の暗躍≫やらで片付けられると思い知らされるかけら。


……それこそがルールZなのよ。


もっと言えば祟りを恐れる風潮が蔓延している……圭一達もよく気づいたと思うわ。

え、ルールXではないのかって? あなたもよく気づいたわね、いい子よ。

このかけらだけを見ると気づきにくいことだけど、全てのルールが内包されているのよ。


いい? ルールX≪疑心暗鬼による雛見沢症候群の発症と、惨劇フラグの成立≫に捕らわれた詩音が――。

ルールY(自分を殺そうとする絶対的な意志)に勘違いして翻弄されながら――。

ルールZ(祟りを容認する異常常識)の存在に気づいていく、少しややこしいかけら。

でもルールの全てが内包されているということは、ゲーム盤の法則を全て教えてくれるかけらでもあるわ。


……そう言えば詩音という駒も、ゲーム盤の見地からは≪外からきた駒≫扱いになるのかしら。

初めは悟史失踪の原因として、沙都子を毛嫌いしていた詩音。

しかしこのかけらともう一つのかけらを経て、大切な何かを学び取り、ルールXに抗い、ルールZと戦う力をもたらす。


このかけらがとにかく滑稽なのは……それがとても狡猾に隠されていて、ぱっと見だけではそう見えないことだけど。

では、そんなルールZが前面に押し出されるとどうなるのか……次はこれを見て。


沙都子を助けるため、圭一が鉄平を殺す世界≪祟殺し≫のかけらよ。

このかけらでは沙都子を取り巻くルールZの存在と、ゲーム盤における最も強敵な法則であるルールYがその姿を現す。

そもそも沙都子が村八分にされている主な原因は、これまで起こった連続怪死事件よ。


一年目はまだよかったわ、現場監督は悪い人ではないけど、同じ作業員ともいざこざが絶えない人だったし。

でもね、二年目の北条夫妻……つまり沙都子の両親が転落死したことは、余りにも象徴的すぎた。

それでみんな、『これは祟りじゃないか』と疑うようになったの。一種の法則性を偽装してしまったわけ。


ならその遺児である沙都子と悟史は? 北条夫妻が祟りに遭ったとしたら、その原因はダム戦争時代の衝突しかない。

だからこそ村人達は沙都子達から目を背ける……いえ、恐れているの。自分が祟りに遭ったらって、ずっとね。


どう? 鬼隠し、綿流し、そして祟殺し――それぞれの視点、それぞれの惨劇から、雛見沢を縛る錠前の姿は浮き彫りにされたかしら。

このかけらから学ぶことは多いわ。私達が戦う敵とその結末……それらが全て揃い、明かされる欠片だもの。

この時点ではルールYに到達できない。戦えるとしたらルールZの打破……つまり、沙都子の救出だけよ。


だけど圭一は……私達は戦い方を間違えた。沙都子が鉄平に連れ去られたとき、何もできなかった。

子どもである私達も、大人である入江達も……ここは以前、嘘の虐待通報をした件も絡むわ。

役所に訴えたとしても、”また嘘では”と疑われてしまうの。というか、実際疑われて先生達も動けなかった。


だから圭一は袋小路の中、極論に走ってしまった。それを察した魅音やレナがフォローするも、それは新たな疑いを呼び起こすだけ。

具体的には綿流しのアリバイを偽装する。鉄平の死体を別所に移す……などね。

でも圭一に意図を隠してやらかしたものだから……この欠片から学ぶことの一つよ。


誤った方法で手に入れた結果は、誤ったものでしかない――。


まず圭一は鉄平を殺し、完全犯罪寸前まで進んだ。でも罪の意識から孤立し、結局幸せを逃す。


魅音は頭首代行として、園崎家の一人としてルールZと戦うこともできたのに、それから逃げた。

いえ、手を汚した圭一から……かしら。園崎の力で影ながらフォローしたけど、ただそれだけ。

その力を、その意志を、沙都子を救うため正しい声として出すことは絶対にしなかった。


レナも魅音と同じ。自らの資産を明かさず、結局他人事として済ませた。……無論、その蓄えに対して思うところがあるのも分かるけど。

でも結局声を上げなかった。誰かの家に預けることが無理ならと、戦い方を考えなかった。


それはもちろん、私も同じ。私はそもそも諦めていた。運が悪かったと逃げて、解決する道を考えようともしなかった。

いえ、最初は考えた。でも結局諦めてしまったの。何もできない、どうせ無駄だと……羽入が言うように。


……それをみんなが学び取ったからこそ、一つ前の世界でまた奇跡を起こせたのだろう。

そして私達も学び取ることができた。信じることはできるし、それだけで一つの駒たり得ると。

たとえその姿が、誰に見えなくとも。たとえその声が、誰に届かなくとも――。


惨劇に打ち勝つ力は、惨劇じゃない。

暴力に打ち勝つ力も、暴力じゃない。

それを学び取ることが必要だった。


でも鷹野達は余りにも強大。最後に立ちふさがる壁を打ち崩すには、まだ……あ、そうそう。

亜種でレナと詩音が加わり、結果的に部活メンバー総倒れとなる≪憑落し≫もあるけど、見たい? 結構スプラッタよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


園崎家へのお話も終えて、僕と瑠依達はまたゆっくり歩き出す。ただ……その前に、一旦通り道でもあったコテージに戻って。

というか、瑠依が相当憔悴しているので、ひとまず麦茶で一息。なんだかんだで六月……初夏の気候だしねぇ。


「瑠依ちゃん、大丈夫?」

「えぇ。その……やっぱり密度が濃いお話だったから」

「悪かったね。いろいろダシにして」

「それは大丈夫です。あそこで派手に揉めても大変でしたし……でも恭文さん、一つ疑問が」

「なにかな」

「例の山狗……でしたよね。鷹野三四に協力している非正規部隊。
……いくら何でもおかしくありませんか?」

「まぁねぇ」


瑠依が麦茶をもう一杯と注いでいる間に、僕はテーブルの上でつい頬杖を突く。


「山狗は鷹野三四が勝手に集めた私兵じゃない。症候群研究と末期患者の危険性を考慮した上で、自衛隊が作った部隊だ。
鷹野三四は実質的機関のトップらしいけど、それでもここまでのことを起こすかってのはねぇ」

「……えぇ。研究中断もあり得る状況だったとはいえ、そんな……古手夫妻を謀殺するとか……!」

≪その上今度は、その研究対象……女王感染者という重要な位置づけである梨花さん自身も、ですからねぇ。
さすがに一個大体クラスの人間が、悉くとち狂ったとは考えたくありませんけど……あなた、どう読みます?≫

「……とち狂ったんじゃないなら、そりゃあ……何らかの利益が絡んでのことだろうね」

「利益?」

「金で買収されたとか」


そう……ようするに金で鞍替えしたのよ。それなら非正規と言えど、部隊単位の人間が揃って寝返る形なのも分かる。監査役やら梨花ちゃんやらを殺しにかかるのも分かる。

ただ、そうなると余計に動機……鷹野三四の周囲が滅茶苦茶気になるわけだけどねぇ。


「ただ、非正規と言えど自衛隊の一部だしね。それを寝返らせるだけの“タネ”を鷹野三四が持っているっていうのは……いろんな意味でやばい」

「そやなぁ……。それやと、朝触れていたみたいに、動機の問題にも引っかかってまうし」

「優ちゃん……」

「で、そうするとそのお金はどこから出たか。梨花ちゃんが命賭けとるーってレベルの研究を捨てるほどのメリットを……誰から示されたか」

「……鷹野さんって人も、誰かに買収されたってこと!? だから、そのお金もそこから出ていて!」

「つまるところ、その出した人が……梨花ちゃんを殺したがっとる人。でもうちらはそれがどうしてかも分からんから、いろんな人の調査待ちって感じなんよ」

「もしそうだったら、鷹野はトカゲの尻尾。奴と山狗を止めて済む話じゃないしねぇ」

「それって、やっぱり例の」

「いや、悪魔の薬関連じゃないと思う」


うん、そこは……そこだけは、なんとか断定できる感じなんだよね。だからすみれにも、ちょいと違うと右人差し指をピンと立てられる。


「症候群の研究データが流用されて、例の薬が作られているなら……それをやっている奴らは、研究継続派だ。梨花ちゃんを殺す理由がない」

「あぁ、そうですよね。それで研究が頓挫したら……」

「……………………ぁ…………」


そこで瑠依が、小さく呟く。つぎ直した麦茶をコップごと小さく震わせながら……顔も青ざめて。


「瑠依?」

「いえ、あの……ちょっとした、思いつきなんですけど」

「うん」

「確か、小泉さんでしたよね。その人が亡くなってから、『東京』では政変が起きて……」

「元々高齢だったのもあって、跡目争いが激化しているそうだね」

「その方針転換で、症候群の研究もおしまいになる……」

「三年後って話だったね」


その時点で雛見沢症候群は撲滅する。そういうゴールを定めた。恐らくそうして、症候群のことも表に出さず、全部終わらせるつもりなんでしょ。

まぁこんなとんでも寄生虫がいるとか公表しちゃったら、雛見沢もそうだし、日本中が大混乱だしなぁ。おいそれとはお話できないのも分かるけど。


「これは、鷹野さんがどうしてそこまで研究に……命を賭けるレベルなのかってところが判明しないと、断定できないんですけど……」

「うん」

「ゴールを定められているという点で、熱意や気力を失ったということは、考えられないでしょうか」

「……瑠依ちゃん、どういうことや?」

「三年後、三か月後、三日後……いずれにせよ、症候群の研究には区切りが付く。終わりがくる。
それって……古手さんが“五年後に必ず死ぬ”って……何度も何度も予言という夢を見せられているのと、同じじゃ……!」

『……!』


分かるけど……分かるからこそ……瑠依の震えた声に、雷が落ちたかのような衝撃を受けた。


「それなら私も、分かるかも……! あの、子役だったとき……にっちもさっちも行かなくなってから、いろいろ溜まっていたし」

「アイドルとしてのうちらで考えても、そこんとこ定められたら……辛いなぁ。
それまでにトップアイドルになればえぇーって話でも片付かんし」

「片付くわけないよ! だって、それと……アイドルを続けたいって気持ちは別なんだし!」

「……お兄様」

「……その視点は抜けていたなぁ」


動機だなんだと言っておきながら、つい大局的に……ロジック的に考えていた。こういうところ、いちごさんにも悪いクセだーって何度も言われていたのに……ほんと反省。

実際梨花ちゃんはそうだった。ゴールが定められているから、消極的で、怯えて、安全策ばかり打って……鷹野三四も同じ状態というのなら。


「瑠依、ありがと」

「アリでしょうか」

「とってもアリだよ。それなら悪魔の薬絡みも結びつけられる」

「あ、そうですよね! だって、そこまで一生懸命やってきたことが、そんな話に繋がったら……ううん、それだけでも十分……!」

「とはいえまだ埋まっていない穴があるなぁ。それで梨花ちゃんを殺してどないするつもりか……なにが満たされるのか。はよきっちりさせんと」

「だね。そこんとこも含めて、いろんな方向性で考えてみるよ」

「うちらで一緒によ?」


そう言って優がぐいっと詰め寄って……え、どうしたの? なんでそんな、また真っ直ぐに目を……!


「もううちら、運命共同体なんやし」

「そうですよ、恭文さん! お話を聞いて、考えるくらいはできます! 頼ってください!」

「ん……ありがと」


一人で抱え込むなってことかぁ。本当なら……ううん、これもしっかり責任を持っていこう。


「でも、もし本当にそうだとしたら……皮肉すぎるわ」

≪そうですね。ゴールを定められた鷹野三四が、理由はどうあれ同じ痛みを梨花さんに……雛見沢に伝染させているんですから≫

「だったら、なんとかして……止めないと……!」


みんなはアイドルとして、もっともっと進んでいくんだもの。こんなところでバッドエンドなんて似合わない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いろいろ考えながらも、改めて出立…………いよいよ入江診療所へ。

昨日アポイントメントは取っていたので、訪ねたところ素直に受け入れてくれて……。


「あぁ……あなたが蒼凪恭文君ね? 話は聞いているわ」


金髪ボブロングの看護師さん……二十代後半くらいの鷹野さんが、僕を出迎えてくれる。

なお名前はネームプレートでバッチリです。


「………………!」

「瑠依ちゃん」


瑠依、妙に緊張するなっつーの。ここは敵地と同時に攻略対象なんだから。警戒してばかりじゃ仕事ができない。


「あら、そちらの子達は……見かけない子達だけど」

「僕が東京でお世話になっている、TRINITYAiLEというアイドルの子達です。
実は新楽曲の打ち合わせやらも兼ねて、長期合宿でこっちにきていて……」

「それでまぁ、もしかしたら診療所にもお世話になるかもしれんし、顔だけは出しておこうと恭文くんに付いてきてもうたんです。……初めまして、鈴村優です」

「奥村すみれです!」

「て、天動瑠依です……!」

「初めまして、ここで看護師をしている鷹野三四です」


そこで鷹野さんがクスリと笑う。それには……やっぱり妙な感触があって。


「でもアイドル……そうだったわね。どっかの事務所が別荘地を購入したって、ちょっと騒ぎになっていたから」

「そのお騒がせの元凶ですねー。えっと、入江京介先生……でしたっけ。その人は」

「いらっしゃるわ。ちょうど手すきの時間だから……どうぞ」

「「「お邪魔します」」」

「お邪魔します……!」


だから瑠依は……うん、いつも通りってことにしておこうか。


とにかく鷹野さんは笑顔で僕を案内。茶髪を二つ分けにした、白衣の男性と会わせてくれる。

なお茶髪と言っても決して派手ではなく、むしろ清潔さすら感じられる整え方。眼鏡の奥で輝く瞳も、優しげにほほ笑んでいた。


「初めまして。私が入江診療所所長の入江京介です」

「初めまして、蒼凪恭文です。
こちらは東京でアイドルをしている、TRINITYAiLE――天動瑠依さん、鈴村優さん、奥山すみれさん。
いろいろ縁があって、雛見沢での合宿中も僕が直衛に付くことになりまして。それでまぁ、診療所にもお世話になるかと思って」

「アイドル……えぇえぇ、魅音さんからうかがっていますよ。
いやぁ、まさかあのトリエルとこうしてお会いできるとは……って、すみません。こういうのはよろしくありませんね」

「いえ、大丈夫です。それでえっと……監督さん」

「そちらも魅音さん達からですね」

「恭文さん、昨日お話はしていたと思うんですけど……赤坂さんという人に覚えは」


すみれがそう問いかけると……覚えがあるらしい、懐かしそうに表情が緩んだから。


「五年前、怪我をされてこちらに運び込まれた刑事さんですよね。……係の者から伺って、思い出しましたよ」

「まずはその赤坂さんから……こちらがお届けものです」


赤坂さんから預かっていたお手紙を取り出し、入江先生に手渡す。


「赤坂さん、その当時に奥さんが妊娠していまして。
五体満足で戻り、子どもと会えたのも先生のおかげだと感謝しているんです」

「そうでしたか……」

「それと今年の綿流し観覧も兼ねて、家族での旅行も計画しているそうです。
奥さん共々直接お礼を言いたいそうなので、今更かもしれませんが……予定をつけることは可能でしょうか」

「事前に連絡を頂けるのでしたら。
……この手紙も大切に読ませていただきます。蒼凪さん、遠いところ本当にありがとうございます」

「いえ」

「天動さん達も、もし体調が優れなかったりしたら、すぐ診療所に来てください。
季節の変わり目でもありますし、慣れない環境で不便でしょうから」

「「「ありがとうございます!」」」


――こうして軽い面通しは終了し、僕達は診療所から出た。診療所が開いている間だし……というか、村の老人達もぽつぽつと集まり始めていたしね。邪魔しないようにって感じで退散だよ。

それでまぁ、時間もいい感じになったので、分校がある方面へ歩き始めて……。


「……入江先生、普通にいい人でしたよね」

「だね」

「オレ達も嫌な感じは受けなかったな。例の鷹野はちょっと違っていたが」

「子ども……なにも知らない子どもだと見くびっている感覚はありました。まぁ素人さんならその程度でしょうが」

「井の中の蛙というのも可哀想な程度には、普通ってことだ」


ショウタロスとシオンにはそう答え、軽く肩を竦める。……となると、やっぱり注意すべきは山狗……プロの戦闘集団ではあるだろうしね。

背後関係の調査も含めると、極力殺さず確保はしたい。しかし数は多数……となれば。


「ヒカリ」

「超能力兵士やドーパントが出てきたら、私が中心だな。お前だと間違いなく死人が出る」

「≪シュヴァルツフリューゲル≫も今回は解禁だ。そっちが本命じゃない以上、速攻で片付けるよ」

「分かった」

「シュヴァルツフリューゲル? あの、恭文さん」

「ヒカリとのキャラなり≪ライトガードナー≫のパワーアップ形態」

「そんなのがあるんですか!?」

「しゅごキャラも、キャラなりも、僕の可能性を先取りしたものだもの。その僕が成長すれば、当然ヒカリ達の力だって底上げされるのよ」


すみれにはお手上げポーズでそう答えておく。


そう……ショウタロスにエクストリームやファングが……シオンにトライアルシャインがあるように、ヒカリにもパワーアップフォームがある。

それだけじゃなくて、みんな僕の成長に合わせて、その地力……基本フォームとなるそれぞれのキャラなりもパワーアップし続けている。


ヒカリのパワーアップフォームについては、実は割と初期から使えていた形態なんだけど……ちょっと問題もあって。


「ウィザードメモリに改造された関係もあって、キャラなりでもメモリブレイクはできるし……僕が苦手な方面での戦い方も、ヒカリ達ならできるしね。そこは状況に合わせてって感じだよ」

「いや、だが……アレを使うのかよ……!」

「……戦闘エリアが更地にならなければいいのですけど」

「更地になるの!?」

「ゆえに、不用意に使用できない形態の一つです」


はい、シオンが言う通りです。通常形態でも砲撃・多弾生成の射撃と派手に攻撃しがちなのに、そこがより強化されるから……密集した市街地戦などでは逆に使いにくいのよ。巻き添えも出しかねない。

とはいえ今回は問題なし。なにせ相手は相手だし……なにより園崎家との約束ともあるしね。


「まぁ大抵のことは台風のせいになるし、問題はあるまい」

「なんやかんやで、ヒカリちゃん達も悪党やなぁ……」

「…………あの……優とすみれも、なんの話を……というかヒカリって誰のこと?」


あ、そっか。ついつい話していたけど……瑠依にはしゅごキャラが見えないのか。最近見えない人と出会う方が少ないから、ついつい流しちゃっていたや。


「……思えば天動さんに私達が見えないというのも、どういうことなのか」

「まぁ、コイツもコイツでそれなりに迷いはあるということだろう。恭文とのあれこれを見れば分かることだ」

「そやなぁ。特にお父さんとのことは……」

「え、あの……どうしたの!? ずっと気になっていたんだけど、みんななにもないところを見て話しているわよね! そういえば前原さんや竜宮さん達も!」

「まぁおいおい説明するから。ほれ、分校に行くよー」

「今説明はしてくれませんか!?」


できないので、そのまま瑠依を引っ張って足を進める。


しかし入江京介……うん、梨花ちゃんや沙都子達から聞いていた通りだね。

僕のことも驚いてはいたけど、子どもとか関係なく真面目に接していた。あの対応が嘘だとは確かに思えない。


逆に底が読めないのは……ああもう、こういうときは決めつけとか禁止。まずは足を動かし、街に聞いていく……まずそこだよね、翔太郎。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで、ほぼ昨日と同じ流れ……コピペという形で雛見沢分校にお邪魔した。あぁ、いよいよ地獄の窯が開かれるのかぁ。

教室にいた奴らはもう、とてもすばらしい笑みで……逃げられるならすぐに逃げたい気分だった。


「さて……昨日はレナが大変だったけど、気を取り直して部活だぁ!」

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

「……おのれら、なんでそんなに気合い十分なのよ。何がおのれらをそこまで駆り立てるのよ」

「え、だってレナ、お礼をするって言ったよね」

「レナが漫画の敵キャラみたいになってる。ひゃっはー」

≪ほんと雛見沢は地獄だぜー≫

「誰が世紀末!? 無茶苦茶って意味なら恭文くんの方だと思うな!」

『待ってください!』


するとどこからともなく、二十人近いの子ども達が登場。一気にギャラリーとなって僕達を取り囲んだ。


「その勝負、僕達にも見届けさせてください!」

「そうです! 東京から来た新入部員……それもあのTRINITYAiLEも一緒となれば、見逃せるはずもありません!」

「えっと、この子達は……」

「あ、紹介するのです」


瑠依が小首を傾げると、梨花ちゃんと沙都子がすっとみんなの脇に立ち、軽く紹介してくれる。


「ボク達のクラスメートなのですよ」

「あぁ……前原さんが委員長になってから、部活入りしたっていう」

「富田、岡村、その他大勢! 揃ってあなたの挑戦を見届ける所存ですわ!」

『その通り! あ、初めまして!』

「「「「初めまして」」」」


そうかそうか、それならみんなは先輩か。ならばと瑠依達ともども丁重にお辞儀。


「しかしみなさんマナーがいいですね……。天動さん達を前にして、サイン一つせがまないなんて」

「圭一や魅音の教育が行き届いてんだろうなぁ。見ろよ、あの規律正しく並び立つ姿をよ……!」

「いいことだ。……ならさ、そろそろ聞かせてよ」

≪そうですねぇ。そもそも部活って≫

「ふ、よくぞ聞いてくれた!」

「……僕、何度も聞いているはずなんだけどなー」


魅音は中学生離れしたプロポーションを見せつけるように、三回転半捻りで僕を指差し。

更に圭一もテンション高く飛び込み、二人で拳を打ち合わせながら演舞開始――!


「我が部は!」

「複雑化社会に対応するため!

「活動ごとに提案される様々な条件下」

「ときには順境、逆境から如何にして勝利をもぎ取るか! 部活会則――第一条! 狙いは一位のみ!」

「部活会則第二条ぉ! 勝利のためならば、ありとあらゆる努力が求められるぅ!」


そうして二人は東方が赤く燃えるような感じで、拳をぶつけ合う。


「「見よ! これこそが――我らが雛見沢栄光の部活!」」

「ねぇ富田君、岡村君、ようするにどういう部活なのかな」

「そやなぁ、そこんとこお姉さん達に教えてくれると助かるわー」


仕方ないので優ともどもみんなへ歩み寄り、先ほど名前が出た後輩二人に聞いてみる。


「「……ちょっとぉ!?」」

「簡単に言うと、いろんなゲームで勝負です!」

「負けたら登校拒否も視野に入る、恐ろしい罰ゲームが待っていますが……!」

「ふむふむ、なるほどなぁ……ありがとうなー。それでようやく合点がいったわ」

「ありがとう。富田君、岡村君」


では……そんな簡潔なことを全く教えてくれなかった奴らに、笑顔で報復です。


「ねぇ元祖部活メンバー、恥ずかしくないの? 後輩二人の理路整然とした説明に負けるって」

≪ほんとですよ。面の皮が厚いってレベルじゃないでしょ≫

「やめろぉ! わたし達の恥じらいに直接訴えかけるなぁ! というか、圭ちゃんがぁ!」

「始めたのはお前だろうがぁ!」

「あ、あの……でも、大丈夫です! 動きのキレはよかったので! 見応えはあったので!」

「すみれ、多分それ……傷口を抉っているわ……」


あぁ、委員長同士がなんて醜い……とっくみあいを始めたよ。いいぞ、もっとやれー。


「しかもわたくし達までさらっと巻き込まれ事故でございましてよ!」

「……みんな、分かったですか? 二人の性格が……ボク達が一昨日から、どれだけ弄ばれたか」

「一番の被害者はレナだよ!? でもね……レナは弱いから、いじめないでほしいなぁ」

≪「絶対嘘だ……」≫

「嘘じゃないもん!」

「レナちゃん、それやったらその蒼くがーって燃える瞳はなんなん?」


優の言う通りだよ! いや、他の奴らもだけどさ……!

とはいえ……それほどの罰ゲームということは、真剣でやるのは当然であり礼儀。手を抜くのも失礼ということになる。


(恭文くん)

(本気でいこう)

(当然――!)


まぁ手を抜く必要なんてないけどね。

僕達は、挑まれた勝負に背を向けるほど老いていない……何せまだ十六とか十五だしね! だから優も滅茶苦茶燃えているし!


「でもそれなら早く言ってくれればいいのにー。……全力でやらせてもらおうか!」

≪そうですね、やりましょう≫

「うちらも頑張ろうなー。瑠依ちゃん、すみれちゃん」

「そうね。せっかくのお誘いだし……」

「頑張ろう!」

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


逃げずに、媚びずに、引かずに挑戦を受けて立ったからか、ギャラリーな富田君達も大盛り上がり。

なので再び三回転半捻りで魅音達を指差すと。


『おぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


また歓声が響く。気分は正しくヒーロー!


「で、ちなみに罰ゲームってなにをやるの? レナが幼なじみヒロインの敗北シーンを演じるとか」

「はう!?」

「なんでだぁ! というかやめてやれ! 似合いすぎて逆に心が痛くなる!」

「圭一くん、それはどういう意味かなぁ! かなぁ!」

「竜宮さんの、幼なじみヒロインの敗北シーン……ですとぉ!」

「それは切ない。でもアリだ……アリです! 蒼凪さん、それは素敵だと思います!」

「富田くん! 岡村くんー!」


何と……レナのヒロイン力を理解しているとは。幼いながらも二人の力強さに感心し、つい握手を交わしてしまう。

……これが、未来永劫に繋がっていく僕達三人による友情の始まりだった。あ、圭一も入るから四人か。


「ははははは! 早速それなら、おじさん達もやりがいがあるってもんだよ!
――では蒼凪恭文君、アルトアイゼン君! そして天動瑠依君、鈴村優君、奥山すみれくん! 君達には入部試験を受ける権利を与えよう! 見事その力の全てを使い尽くし、勝利を手にしてみせよ!」

「ね、ねぇ……敗北シーンのためじゃないよね! そんなの罰ゲームじゃないよね! ……違うって言ってよ、魅ぃちゃんー!」


それも罰ゲームに入るらしく、レナの言葉は一蹴された。

さぁ……ショータイムだ! 派手に暴れるぞー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ゲームをするので何かと思えば……ジジ抜きでした。

なお僕、優、沙都子、圭一を一卓。

瑠依、すみれ、魅音、レナ、梨花ちゃんを二卓としてゲーム開始です。さすがに九人を一度にやるのは多過ぎるしね。


「……あ、クイーン四枚捨てるね」

「はい!?」

「ちょ、やすっち……序盤だよ!? 初手からそれなの!?」

「どういうことなのですか……!」

「おのれらは別卓でしょうが……。自分の手に集中していなよ」

「その集中すらかき消す理不尽なのですよ。それは自覚してほしいのです」

「そうだよそうだよ! 恭文くん、いくらなんでもそれは怖いと思うな! 大富豪だったら革命だよ!? それくらいの確率だよ!?」


……そうそう……別卓の魅音と梨花ちゃん、レナが荒ぶっているけど、ここでジジ抜きについて簡単に説明しましょう。


「えっと……さっきランダムに抜き出した一枚があるから、一つだけ三枚の数字があるのよね」

「そうだよ、瑠依ちゃん。その“ジジ”を押しつけ合うの。ゲームを進めつつ、この数字かなーってのを判断しつつね」

「珍しいというか、結構ドキドキするかも。こういうのってばば抜きじゃ」

「我が部ではジジ抜きが基本なのですわ。魅音さんの趣味なのですけど」


説明の手間が省けたよー。まぁ瑠依達が話していたような感じなんだ。

十三ある数字の一グループだけが三枚となる……それも抜いたカードは伏せた上でランダムだから、ババ抜きと違い序盤からアウトカードが分からない。そこがまだ楽しいわけだよ。


「恭文…………貴様、やっぱりハーレムの星で生まれたハ王か!」

「違うよ! 僕はテッキイッセンの星で生まれたテッキイッセンマンだよ!」

「なんですのそれ!」

≪正体を隠して暴れなきゃいけないときに備え、この人が密かに考案した覆面ヒーローの設定です≫

「普通に覆面では駄目なのでございますか?」

「ねぇ、忍者ってどういう字を書くか知ってるよね。忍ぶ者だよ? 忍んでないよね、それ……なんでヒーローになっちゃうのかな」


胸を張って全力で自慢すると、沙都子やレナはあきれ顔……沙都子も別卓なのに。


「テッキイッセンマン……何それ、面白そう!」

「魅音さん!?」

「やすっち、わたしに設定制作とか協力させて! スーツデザインも一手に引き受けるから!」

「あ、それならうちの家がスポンサーするわ。装備開発するんやったらなんでも言うてよ」

「優さんもなに言っているのかな! かな!」


なんと……! 魅音と優は柔らかな魂を目一杯張って、自信満々にアピール。更に圭一も自分を右親指で指し自己主張。


「待て……魅音! 鈴村さん! それならばリアル少年足る俺の力も必要なはずだ!」

「おぉ、そうやな−。なにせ今の圭一くんはリアル中二病やし」

「出るか……痛みを伴った左腕が! 不思議な当て字の漢字群が!」

「いや、それはむしろお前の領域だろ」

「え、本当にいいの!? ありがとー!」

「優ちゃん……圭一さん達もだけど、そこは応援するところでいいのかなぁ」

「この忍者、どんどん間違った方向に進みそうですわね……」

「……みー」


そんなわけで順当にカードを捨てていくけど。


「テッキイッセンマン…………かっこいいかも」

『瑠依ちゃん(天動さん)!?』


まぁ瑠依もいいセンスをしていると分かったけど……何か、おかしい。


(恭文くん……)


それは優も同感らしく、隣に座りながら軽くサインを送ってくる。


(やっぱり、気づくよね)

(目の動きがな)


だよねぇ。具体的にはみんなの目が……あの、動きすぎ。

相手の手札を選ぶとき、『どのカードにするか』って動きはある……でもそれだけじゃないの。

何かをこう、鋭く観察しているような。だから、始める前から気になっていることをツツいてみる。


「そういえばやけに傷だらけだね。このカード」

「だよなー。俺も最初はそう思ったんだよ」


……その言葉で嫌な予感が走っている間に、おかしさはどんどん高まっていく。


「はい、上がりなのですよー」

「え……!」

「レナも上がりだよー♪」

「わたくしもですわ!」

「ふむ……」


奴らはおかしい。僕のカードを取るときは迷いがなく、今のようにすんなり上がってる。

やっぱり視線の動きもおかしい。手札を無駄に多方向から見てるのよ。駄目だ、普通にやっていたんじゃ追いつけない。


「これで瑠依とやすっちは連続ドベだねー。そろそろやばいんじゃないのー?」

「次でまだ三回目だよ? これからこれから」

「そ、そうよ。勝負は蓋を開けるまで……分からないんだし……!」

「お、自信あるねー。レナ、それくらいじゃないと燃えてこないから嬉しいよー」

「……レナさん、最初に言っていましたよね。弱いって……やっぱり」

「すみれちゃん、違うよ! 嘘じゃないよ! 弱いけど頑張るんだよ!? ……でも」


そこでなぜか全員が、恐怖していると言わんばかりに怯えた顔をする。


「恭文くんにQのカード、初手で最低二枚は来るって……凄いよね」

「それもありましたよね……!」

「そう? 僕は昔からこんな感じだけど……ハーレムじゃないよ!? というか、クイーンって女王様だよね! 結婚しているよね!」

「レナはなにも言ってないよ?」

「いや、目で語っていた。僕の幼なじみ達と全く同じ目だ……!」

≪そうですよ。この『ハ王が』って言ってましたよ≫

「反論しづらい方向でいじめてきたし! うぅ、それならレナも本気で行くんだからー!」


なんて言いながらも三回戦目スタート。……一つ試したいことができたので、手札の背を空いた手で隠してみる。


「あらあら……もう気づきましたの? これは楽しめそうですわねぇ」

「うんうん、その調子だよー。恭文くん、さすがー♪」


やっぱり……! 視線の動きで気づいたよ!


(あぁ、そういうことかぁ……)


優も察し、僕に倣う。それは当然……当然なんだよ!


「瑠依ちゃん、すみれちゃん……このゲームの本質、よう分かったわー」

「優?」

「みんな、カードの傷で手札の中身を読み合っているんよ」

「…………は………………!?」


瑠依、呆けないで。気持ちは分かる。僕もよく分かる。一瞬“コイツらマジか”って思ったけどさぁ。苺花ちゃんとドンパチしたことを思い出したけどさぁ。


「ようするにな? 傷で手札を読み合い、いかに早く上がれるかを競う“ガン牌ジジ抜き”なんよ」

「……はぁ……!?」

「ガン牌!? え、それってあの、麻雀で……相手の牌を見抜くっていうイカサマ!」

「今回の場合、そういうルールの上でやっているゲームだから……イカサマじゃないけどねぇ」

「おいおいおいおいおいおいおいおい……てめぇらマジかよぉ!」

「まぁ、お前らがビビるのは分かる。だが……うちの部活は一事が万事この調子だ!」

「胸を張りやがったし! この現部長!」


だろうね! だから入部試験なのも納得したよ! ようはそういうダーティーなのもアリで大暴れしろってことだからさぁ!

でも麻雀でガン牌はあっても、トランプでこれなんて……お兄さんは聞いたことがないかな!?


「いや、どうしてそうなったのよ! というか……え、本当にイカサマじゃないんですか!?」

「入部試験として、そこんとこを読み取り、対応できるかどうかを見ていくわけよ。愉快やなー」

「優、楽しげなところ悪いけど……それでどうすればいいの!? どう考えても前原さん達が絶対的に有利よね!」

「そこを覆すのが現代社会でうんちゃらって感じなんやろ?」

「そんなとこだねぇ。さて……一体どうするのかねー。くくくくく……!」


そうだね。瑠依の言った通り……使用トランプの傷を熟知しているコイツらの方が、絶対的に有利だ。手を考えてもいちいちこまねいている暇はない。このまま押し負けてひどい罰ゲームを受けるだけだ。

とはいえ、大丈夫……幾つかの傷は特徴的だからすぐ覚えられる。その上で反撃もできる。しかも今回、僕は一人でフルボッコされているわけじゃあない。


「……というかお兄様、これは……」

「なんだ。お前の得意分野……というか最初に乗り切ったドンパチの繰り返しじゃないか」

「だよねぇ。くくくく……!」

「……ふーん……恭文くんには秘策ありって感じなのかな? かな?」

「……コイツ、初手で怪物になった幼なじみ相手に、ドンパチするハメになったそうだからなぁ」

「え?」

「しかも精神リンクで、心や思考が読まれて……作戦や心理戦を立てて対応っていうのが、普通に難しかったらしい」

「なにそれ! 悪魔のいじめなのかな!?」


えぇい、レナはうるさい! というか圭一もさらっと人の古傷をさらけ出すなっつーの!


「……ボク達も話を聞いたとき、余りに運が悪すぎて泣いたのですよ。しかもそのとき六歳なのですよ?」

「あの、それ……私と瑠依ちゃん達もです。だってどう考えても詰みなのに、それで逆転するとか……」

「しかも逆転できたの!?」

「へぇ……それなら更に期待だねぇ! やすっち、この状況をなんとする!」

「圭一の敗因を教えてあげようか。それは人数が想定外に多くなったことで、卓を二つに分けたことだよ」

「ほうほう…………うん? え、今圭ちゃんって言わなかった?」


そう……この場合、逆転は僕一人では不可能。優と組んだとしても相応に難しい。共感力を発動するって手もあるけど……それもさすがにつまらない。

その前に試せることは徹底的に試したいしね。なので……沙都子に狙いを絞る。


更にそこである程度選択肢を想定。最悪の事態にも活路があることを確認した上で、この場に波紋を呼び起こす。


「沙都子」

「なんでございましょう」

「単刀直入に言う。……僕達を、勝たせろ」


……その唐突な申し込みに誰もがざわめく。ゲームも止まり、魅音とレナにいたっては嘲笑を浮かべていた。


「あら、命乞いでございますの? 幾ら何でも諦めが早いのでは……しかもそれを、魅音さん達の前で堂々と申し入れるなんて」

「沙都子、部活第一条……目指すは勝利のみ、だったよね」

「えぇ」

「そして第二条、ありとあらゆる努力が許される」

「その通りだよ、恭文くん。だからレナ達も本気……そんな交渉には誰も乗らないよ」

「ならば余計に聞くべきじゃないのかなぁ! それに見合うだけの対価を!」

『……!』


そのとき、この場に……空間そのものに電流が走る。

それはそうだ。部活を始めて数分の僕が、この場のイニシアチブを握る……そうしようとしたんだから。

でも問題はない! 大事なのはここで沙都子が……沙都子が! ほんのちょっとでも揺らいだことだ!


そうだ、コイツは一瞬期待した! そして興味を持った! そんな僕に一体なにがあるのかと! なにを出せるのかと!


「沙都子、聞くな! 敵の心理攻撃だぞ!」


圭一、今更必死になっても遅いよ。この状況で沙都子が敵に回れば、おのれは三対一……当然罰ゲームはおのれで決定!

しかもおのれも部長と言えど、部活歴はみんなと比べれば浅い! だから分かっているんでしょ! 技量的に負けてしまうのは確実だと! ……その反応が見たかったぁ!

そこさえ掴めれば七割方の条件はクリアできる! あえて言おう……おのれが! 僕達と同じ卓になった時点で! 敗者となる運命は定められていたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「そ、そうですわね! この北条沙都子、買収になど」

「沙都子、温野菜丼は美味しかったのかな」

「……!」


そのワードを出されることは屈辱に等しいらしく、沙都子の表情が一気に歪む。


「有事に備え、僕は沙都子の身元引受人となった。その手続きももう済ませている。となると、考えるべきは衣食住だ。
衣服と住むところは問題なさそうだけど、沙都子は偏食で緑黄色野菜が苦手とか……その改善を詩音が手伝っているんだよね」

「ど、どうしてそれを……梨花ぁ!」

「……すまん、それは俺も絡んでいる。お前の差し入れに温野菜丼はあり得ないと、詩音に申し入れたからな」

「え、なんやそれ。温野菜丼?」

「ブロッコリー、カリフラワー、人参……茹でたそれらをただご飯に載せただけのお昼だよ。なお吉野家の海外メニューでも存在している」

「なんよそのストイックな変態……」

「そう、ストイックだ。ゆえに僕は現状姉代わりな詩音とも上手くやっていくべきで。挨拶もしなきゃいけないわけで……協議の必要が出てくるわけだよ。
……食事内容を! もっと言えば、温野菜丼の素晴らしさについてさぁ!」

「ひ――!」


沙都子が悲鳴を上げ、僕が何を言いたいか察してくれる。そう……温野菜丼が今後も出てくる可能性だ!

圭一と梨花ちゃんですら飯まずと断言したお手製温野菜丼を! 毎日出されるかもしれない! それは耐え難い恐怖だろう!


そして僕はそれを後押しできる! 後押ししていい! そういう立場にいるんだよねぇ!


「脅しに走りやがったよ、この忍者!」

「人の弱みに付け入るのは駄目だと思うなぁ!」

「いや、それを前原さんや竜宮さん達が言うの!? こんなガン牌ジジ抜き……だったよね! それに巻き込んだ時点でアウトじゃない!」

「ほんとだよ。それにほら、僕は“何をしてもOK”って確認したでしょ? おのれら、問題なしってしたでしょ? なにが悪いのよ」

「だからってあなたもあなたで反撃が斜め上過ぎますよ! もっとマトモにやり合う方法はないんですか!?」

「ない!」

「言い切らないでください!」


まぁまぁ瑠依……あるにはあるけど、おのれは別卓だし、どうしようもないのよ。まぁそこは、ごめんね?


「そうそう沙都子……一応警告しておくと、詩音は温野菜丼を出すことについては……全く、これっぽっちも、一かけらも悪びれていないし、諦めていない」

「え……マジかよ……!」

「私も、さすがにあれは可哀相だと思ったのに……」

「むしろ虐待レベルじゃ」

「児童相談所に通報した方がいいのでは」


……後輩諸君も怯え竦む様だったらしい、詩音の温野菜丼は。

他の料理は美味しいらしいのに……まぁ、それだけ難易度が高いということだろう。


「そ、そそそそそそそそそ……そんな、脅しには乗りませんわぁ! 幾ら詩音さんでも、愚かな真似を続けるはずがぁ!」

「圭一、梨花ちゃん、二人も聞いていたよね。新作温野菜丼への熱意を」

「みー、恭文の言う通りなのです」

「沙都子、奴はやる気だ。……それだけは…………間違いなかったぁ……!」

「いやああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


沙都子はゲームどころではなくなった。手札を落としかねないほどガタガタ揺れて、完全に閉じこもってしまう。


「沙都子、もう一度言う。……僕と優を、勝たせろ。
さすれば詩音を説得し、肉・魚も含めたバランス型こそ至高と説得しよう」

「で、でも……でもぉ! それはぁ!」

「えぇい! ならばおのれにはもう頼まん!
……より最悪な食生活に落ちるといいさ。野菜嫌いどころか、むしろ野菜を滅ぼす魔王になってしまえ」

「どういうことですの!? というか、あり得ませんわぁ! さすがの詩音さんでも、あれよりヒドくなることなんて」

「あり得るよ」

「…………………………………………え…………………………」

「あり得る。……沙都子、吉野家は知っているね。牛丼屋さんだ」


顔が真っ青な沙都子は、意味も分からずコクコクと頷く。


「その吉野家ではここ数年で……ベジ丼というものを出している」

「べじ……どん……?」

「ヤングコーン・オクラ・ブロッコリー・サツマイモ・赤パプリカ、黄パプリカ・インゲン・ニンジン・キャベツ・ニラ・玉ネギ――合計十一種類の温野菜が載っているのよ。
食べやすいよう、ごま油ベースのうま塩だれに絡めていてね。
……詩音はそれに対し、とても興味をそそられていた」

「そ、そんなおぞましい料理が存在していますの!? この現代社会にぃ!」

「そうは言うけど、味自体は悪くないんだよ? カレーや牛肉との相掛けで楽しむって手もあるし……あ、カレーは特にお勧めだよ」

「それならレナも分かるかも……。
それだけ入っているとそれぞれの食感だけでも食べ飽きないし、塩だれもご飯と合っているし……それにカレーならオクラやサツマイモも合うだろうし」

「十分野菜カレーでは通じるよね。……まぁ沙都子については関係ない形だけど」


魅音はよく分かったねぇ。まぁ沙都子、それでも具材の内容が恐ろしすぎてガタガタ震えて……なんかそこだけ震度八の直下型地震でも襲ってきているような勢いだけどさぁ。これを見ているとすぐ察せるけどさぁ。


「ちなみにこの商品、吉野家社長さんが鶴の一声で導入したものでね。その理由が……自分が食べたかったから」

「どういうことですのぉ!?」

「いわゆるヘルシー・健康路線へのアピールも兼ねた商品なのよ。だから売り上げは二の次だったんだけど、三十代以上の客層に受けているみたい」

「そういう趣旨の商品だったのかぁ。確かに葛西やうちの父さんとか、健康診断の数値を気にしていたからなぁ」

「詩音にも全く同じ話をしたんだけど、その食いつきは尋常じゃなかった。意味……分かるね」


沙都子は理解したくないと言わんばかりに首振りするので、もう一押し。


「ベジ丼も売り上げは二の次と言ったけど、相応の研究がされた上で出された企業製品だ。吉野家ほどの大手が、総力を挙げて、何度も何度も検証して出したものなんだうよ?
それを、料理を始めたての詩音がコピーして……一体どんな惨事になるか!」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇ!? り、梨花ー! レナさんー!」

「沙都子、それも詩ぃの愛なのです。逃げ道はないと思うのですよ?」

「沙都子ちゃん、大丈夫だよ! 少なくとも温野菜をそのままドガーンからは脱却するんだから! その……うん、塩だれなら大丈夫……かなぁ」


何という引きの早さ……! 即行で裏切り、沙都子から離れてきた! おのれらも嫌だったか、温野菜丼! ならばここで駄目押し!


「そうそう……今日のお昼、詩音はきた?」

「いえ。そう言えば昨日も……!」

「今なら、まだ間に合うよ」

「――――!」


……沙都子はそこで全てを察する。

息を飲み、わなわなと震えながら、二日も来ない意味を悟る。


ふ……ほぼ毎日こっちに来ていることは、既に魅音から聞き取り済みだ。

そんな詩音が来ない理由、それはもちろん……温野菜丼の改良しかない!

もうレナのこととかすっ飛ばす勢いで、ベジ丼も参考にして改良を重ねていると見ていい!


それを持ってこられたら、本当に逃げ場はない。現に沙都子はこれまでの野菜弁当でも、結局逃げずに完食を続けた。

しかし、ここには僕がいる! 僕に協力すれば……僕と優を勝たせれば――!


「沙都子、しっかりしろ! 説得なら俺もする! してやる! だから敵の甘言に惑わされるなぁ!」

「…………分かりました! 分かりましたわぁ! 恭文さんにご協力いたします! でも……今回だけですわよ!?」

「ありがとう、沙都子!」

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「いや、おのれ説得を早々に放り投げているでしょうが。証拠音源もアルトが持っているよ?」

≪そうですよ。嘘はいけません≫

「まぁ……圭一さんならその程度だと思いましたわ」

「沙都子、てめぇぇぇぇぇぇぇ!」


なんて薄い仲間意識だろう。人間関係ってちょっとしたことで壊れるから怖いよねー。


「で、でも……あの」

「バランスのいい食生活については、しっかり提案するから安心して」

「……!」

「ほな、うちも詩音ちゃん……やったな。魅音ちゃんの妹さん。
お肉とこってりも大事やーってお話はお手伝いするよ」

「ゆ、優さんもよろしいんですの!?」

「いろいろ説得をお任せしてもうたからなぁ。これくらいはやらせてよ」

「ありがとうございます!」


優と一緒に右手でサムズアップをすると、沙都子はようやくホッとした表情を浮かべる。

……まぁ、それでも野菜中心の献立にはなるだろうけど……黙っておくことにしよう。


「……やるね……やすっち、優。
早速情報戦からの部活メンバー懐柔に走るとは思わなかったよ」

「悪いねー、僕……”何でもあり”の方が強いのよ」

「……その勢いで、六歳でそんな地獄に追い込まれても超えちゃったのかな? かな?」

「超えたよー。精神リンクしていたから、初手でAVを見て……その興奮やらなんやらを伝達させて、混乱させて……その間に体勢を立て直し、キャラなりして真っ向から潰したから」

『えぇぇぇぇ……!?』

「想定外な反撃すぎるんだけど!? よし、そこんとこはまた後! 後で話そう! おじさんも興味あるし!」

「OK―」


……というわけで、状況は整った。改めて圭一に笑いかけてあげると、なぜか奴はびくりと震える。


「さて、圭一」


すると圭一は『まさか』という表情で身を引いた。……それこそが隙(すき)ぃ!


「な、なんだ! そうだ……お前ら三人ごときで俺を倒せると思うなよ! 俺には必勝の手札が」

「左のカード、クローバーの四だね」

「なにぃ!?」


そこを狙い、さり気なく……本当にさり気なく、重要な傷を隠している一枚に触れる。

圭一は予想外の攻撃に反応してしまい、その札を狙っていた奴は即座に目を付けた。そう、それはもちろん……沙都子だ!


「あら、それは見過ごしていましたわ。……ごめんあそばせー」


沙都子もしたたかなので、改めてカードをチェックした上で引く。結果残り一枚だった沙都子の手札と合わさり、アッサリと捨てられた。


「上がりですわ!」

「早速連携してきた、だと……!」

「やったね、沙都子!」

「今のはナイスアシストでしてよ!」


こうして沙都子と仲良くなりつつ、反撃開始……! ふふふふ、罰ゲームなど回避してみせる!


「わぁ……凄いよ恭文さん! 瑠依ちゃん! 私達も負けていられない!」

「え、えぇ……! でも、私達にはそういうお話……ないんだけど……」

「確かに……あの、恭文さん」

「頑張れ」


そうそう……一つ、大事なことを言い忘れていたかもしれない。二人に、直接、言い忘れていたかもしれない。

だからまぁ、ガッツポーズで二人に笑顔を送る。


「「え?」」

「頑張れ」

「「え…………!?」」

「うん……まぁその、別卓やしなぁ。さすがにそっちまで手回らんよ」

「「優(ちゃん)……!?」」

「そないな顔をせんといてよー。骨は拾っといてあげるから」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――勝利の女神はいつだって、僕に微笑むものだ。


「……屈辱だ……!」

≪撮影しておきますね。ほら、笑ってー≫

「圭一、猫の手でにゃんポーズだよー。ネットにアップしてあげるからねー」

「笑えるかぁ! というかやめろぉ!」

「まぁまぁ。うちも雛見沢で出会った珍獣って感じで」

「アイドルは特にやめろぉ! 公人として弁えろぉ!」


圭一は僕と優、沙都子によってフルボッコ……猫耳スク水姿となった。

股間の単装砲が見えないように配慮しながら、悔しさで打ち震える圭一は、きっと誰よりも特別な存在なのでしょう。


「……お兄様、鈴村さん、楽しそうなところ申し訳ありませんが……」

「わ、私……水着のお仕事なんて、したことないのに……!」

「あの、というか……どうしてロッカーにスク水やビキニまであるんですか!? あれは四次元ポケットですか!?」

「あぁ……似たようなものかなぁ。魅ぃちゃんがいろいろ詰め込んでいるし」


瑠依は牛柄ビキニを……すみれはおしゃまなメイドさんとなり、恥ずかしげに蹲っていた。

でも瑠依、ほんと肌が奇麗……! 魂も優や魅音よりも控えめと言っても、あのスタイルとしては十分すぎるボリュームだし……どうしよう、写真撮りたい。


「瑠依ちゃん、後でそっちは撮影するからなー。ちょお待っててなー」

「優!?」

「……恭文さん、今更ですが優さんは……こう、大丈夫ですの?」

「大丈夫だよ。なにせ瑠依と同じシャンプーを使ってライブに出ている間、瑠依と同じ匂いだーってテンションブチ上がりになる厄介だし」

「えぇ……!?」

「沙都子ちゃんもそないに引かんでもえぇやろ!? ほんまに最高やったんやから!」

「優、気付け。お前はただの厄介だ……もぐもぐ……」


ヒカリ、そのドラヤキ美味しそうだね。あとでちょうだい。どうせ複数持っているでしょ。お金は渡すからさぁ。


「まぁ沙都子、約束についてはちゃんと僕と優で守らせてもらうから」

「えぇ、よろしくお願いします……本当に、心から……!」

「沙都子、ベジ丼でかわいそかわいそなのです」

「やめてくださいましー!」

「はうはうー。スク水姿の圭一くんも、瑠依ちゃんも、すみれちゃんもかあいいよー! おっもちかえりー!」


するとレナは凄い勢いで踏み込み……というか腕がすさまじい速度で伸びて、三人を抱き寄せて……!


「「「あぐ!?」」」


なにあれ! 一気に捕縛したんだけど! 纏めてだよ! 見境ないよ!


「おいおい……なんだ今の速度はぁ!」

「レナはお持ち帰りモードに入ると、それくらいできるよ」

「やっぱり車田作品の人だった!」

「これで恭文くんもスク水だったよかったのにぃ……まぁでも、次の部活だね! うん!」

「恐ろしいことを考えるなぁ!」

「いや、でも……竜宮さんの言うこと、分かるかも」

「男の子なのに、委員長と違って線も細くて可愛らしい感じだから……う!」


おいこら待て! 今、ギャラリーとなっていた女子の数人が呻いたような!


「委員長が汚物とするなら、蒼凪さんは男の娘?」

「そうだ! 私達が見たかったのはこれよ!」

「汚物は消毒だー!」

「お前ら……次の部活は覚悟しとけよぉ」


やめて……そんな目で僕を見ないでー! あと圭一も謎のライバル意識をぶつけてくるな! 突き刺さる! 凄い突き刺さる!


「……それ、うちも見たいわ! 次も頑張らんと!」

「……鈴村さん、いずれあなたに似合う人を紹介してあげます。八神はやてと言うんですけど」

「だね。つーかそのときはおのれも、アイドルが続けられないようなあられもない格好にしてあげるよ……!」

「もう……そういうんは、二人っきりでコミュニケーションしとるときだけーって約束やろ?」

「そんな約束した覚えないんだけど!?」


こいつなにねつ造しているの!? ないないないない! さすがにこう、アイドルさんだし……というか僕、優にここまでフラグを立てた覚えがないんだけど! ちょっと怖いんだけど!


「でも恭文、やっぱりクイーンが集まりやすいのですね。結局毎回だったのですよ」

「そりゃあもう、うちという勝利の女神(生涯の伴侶)がついとるもん」

「今どういうルビを振ったぁ!?」

「漢字で漢字を読ませる中二病技術なのですね。でもそう言われると、このクイーンは優そっくり……」

「そんなわけあるかぁ! 一般的な絵柄でしょうが! 全世界で共通のアレでしょうが!」

「まぁそうだとしても、お前のそのクイーンが集まりやすいのは十分チート……のはずなんだがなぁ」


あれ、今度はみんなそろって哀れむ目で見始めた。とろけた顔のレナも急に真顔。


「でも同時に……まぁこれは最初からでしたけど、恭文さんがジジな数字を持っていることがほとんどでしたわね。
それを戦略で覆すのは、さすがと言えるのですけど……えぇ……」

「恭文くん、お祓とかしたらどうかな。かな」

「……した上でこれだよ! お守りも効果ないよ!」

「はう!?」

「マジかぁ! やすっち、アンタなんで……!」


ねぇ、泣かないでよ! 僕はそれでも頑張ってるんだから! 必死に抗ってるんだからそれで許してよ!

……ただまぁ、部活そのものはワクワクはした。そんな気持ちを思い出しながら、まとまったガン牌トランプを見る。


「……でもこれ、楽しいね。かなり本気でやるし」

「でしょ? 我が部活の目的はそこなんだよ。全力を尽くす意義に目覚め、これからの社会で生き抜く力を蓄える!
もちろんジジ抜きに留まらず、我が部活はそれ以外のどんなことにでも行える!」

「例えば早食いとか、お祭りの射的とか、勉強とか運動とか……そういう感じだねー。
綿流しのお祭りも、レナ達部活メンバーが暴れる舞台なんだー。勝負できるところいっぱいだしー」

「なるほど。こういうの、いいなぁ」


ついしみじみと言ってしまう。……全力でぶつかって……あらゆる手段を尽くしてかぁ。うん、わくわくで楽しかった。


「あ、それは……私も楽しかったです! ね、瑠依ちゃん!」

「それは、えぇ。ふだんとは違う努力というか、発想や柔軟性が求められる感じというか……それでかなり楽しめたのは、確かだと想うし」

「そうかそうか……負けてもそう思ってくれるのなら幸いだよ! では蒼凪恭文、アルトアイゼン……天動瑠依、鈴村優、奥村すみれ!
君達を我が部活メンバーの一員に加えたいと思う!」

「え……でも僕達、こっちに引っ越してくる予定は」

≪私もまるっとOKですか≫

「なら非常勤メンバー! みんな、異議はないかな!」

『異議なし!』


みんな笑顔で言い切ってくれる。あのレナまでもが……それが嬉しくて、みんなには深々とお辞儀。


「ありがとう、みんな」

≪ありがとうございます≫

「「「ありがとうございます!」」」

「もう、別にいいってー! そういう堅苦しいのはなしなし!」


――――そこで、がらりと教室の扉が開く。



「沙都子ー! おやつにかぼちゃプリンを持ってきまし…………あははははははははははははは!」

『いきなり大爆笑!?』


詩音が教室へ入ってきた。そうしてこの惨状を見て……そりゃあ笑うか。圭一だけでも十分アウトだ。

なお、それが止まったのは五分後……詩音は腹を抱え、空いていた机に座り、まだひーひーと濡れた目元を拭う。


「――あー、おかしかった! それであなた達……圭ちゃんもそんな格好なんですか!
というか圭ちゃん、部長さんなのに……新人さんと沙都子にフルボッコって!」

「……やかましい……! というか、ほとんどはお前のせいだからな!?」

「はい?」

「まぁまぁ詩音……ところでさ、温野菜丼の改良なんだけど」

「ふ……それなら進んでいますよ! 明日改良品『温野菜丼Ver2.0』を持ってくるのでお楽しみに!」

「いやぁあぁぁぁぁあぁあぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


うわぁ、やっぱりかぁ。……沙都子、分かってる! 約束だものね。


「いや、でもね……詩音、野菜ばっかりも体に悪いと思うんだよ。ベジタリアンの人だってあれだよ? ちゃんとタンパク質も確保してさ」

「そやなぁ。沙都子ちゃんは食べ盛りやし、バランスよくするのが一番やと思うよ?」

「えぇ! だから米を使わず、代わりにトウモロコシ粉を利用したクスクスに置き換えました! これで完璧です!」

「どこが!?」

「そもそも米ですらなくなっているって、どういうことですのぉ!」

「……これは予想外やなぁ」


優、頭を抱えないで! いや、確かにぶっ飛んでいるけど! もう菜食主義者に方向転換したのかってレベルだけど!


「でもほら……肉は大事よ? こってりジューシーは最高やんかー」

「……ねぇ瑠依さん、すみれちゃん……優さんってアイドルさんだよね。体重制限とかないのかな」

「その、優って京都出身で……京都ではそういうこってり系のラーメンが美味しいそうで」

「だから優ちゃん、基本そっち系統なんです。それで……食べても胸に行くとかなんとか言っていて……!」

「チートなのかな! かな!」

「それにほれ、この辺りって……鶏ちゃんやったっけ。鳥肉とか美味しいんやろ? そっちと絡めてもえぇと思うんよ」

「はぁ……というかあの、やっちゃん……鈴村さんも、まさか」


あ、あれー!? 詩音さんー! なぜ僕達に敵意を向けるんですかー! おかしいなー! おかしいなー!


「可愛い私の沙都子を丸め込んで、メイドにしようって腹ですか!? ハーレムに加えようと! ねーねーになろうと!」

「違うわボケ! つーか沙都子とは義兄妹の契りを交わしてるんだよ!」

「そうそう。で、うちはその恭文くんをシェアする彼女さんやし……あ、それなら義理のねーねーで問題ないなぁ」

「経歴詐称しないで!? 彼女じゃないからね、おのれ!」

「それはひどいやんかー!」

「だってそうなるようなイベント、なかったよね!」

「ほな、イベント起こす?」


いや、あの……鈴村さん!? そんな顔をぐいっと近づけないで! 目を真っ直ぐみないで! いろいろ、ドキドキするのでー!


「この私を差し置いて……なんですかそれ! しかもなんかイチャついているし!」

「おのれ、今すぐレーシックしてきなよ! かなり強めに!」

「やすっち、残念ながら詩音……視力はどこぞの民族レベルなんだよ……。レーシックしたら逆に悪くなる」

「沙都子、どういうことですか! 私の何が駄目なんですか! はっきり言ってください!」

「……温野菜丼Ver2.0なんて劇物を構築する点ですわね」

「意味が分かりません!」

「これ以上ないくらいはっきり言いましたわよ!?」


あ、これは聞いてないわ。また僕達に敵意を向けて……ちょ、やめて! 大丈夫大丈夫、お姉ちゃんの座は取らないから! そもそも僕は男だし!


「沙都子ちゃん、大変ね……」

「うん。というか、私達も大変…………あの、このまま帰るとかは」

「あ、もちろん元の服は大事にお持ち帰りしてもらうよ? さすがにそこまで奪わないってー」

「そんな最低限の話をされてもぉ! というか帰るんだ! 帰らされるんだぁ!」

「恭文さん、あの……いえ、負けた私達が駄目だったとは思うんです! でもどうか……どうか助けを!」

「……でも瑠依、すっごく素敵だよ?」

「そう言ってくれるのは嬉しいんです! でもこれでコテージまで歩くのは!」


ふうむ……まぁ確かに、アイドルがこの有様はよろしくない。なんだかんだで見殺しにもしているし、気分的にはよくない。

一応圭一をこの有様にしたことで、痛み分けにはできているけど……どうせなら完全勝利を狙いたくはある。


それに……瑠依には今朝……すっごく嬉しいこと、言ってもらったしさ。


「恭文、どうする?」

「うちも瑠依ちゃんがこれは……いや、やっぱりこのままの方が……あぁぁあぁ……!」

「優のアホは悩んでいるがな……!」

「コイツ、やっぱり白い厄介だ」


仕方ない。優が精神崩壊する前に……魅音へ指差しだ。


「――園崎魅音! 追加勝負を申し込む!」


そう……部活の恥辱は、部活で払うしかない! そうして掴むよ、完全勝利!


(その10へ続く)






あとがき


恭文「というわけで、瑠依達も加わったおかげで……本編と違って勝利! よし!」

レナ「……でも、次の部活では派手に負けて、スク水になるんだよねぇ」

恭文「し!」


(もう一勝負でと調子づいてやらかしたらしい)


レナ「というか、温野菜丼は今ならまだ分かる料理になったよね? ご飯そのままはちょーっと躊躇うだけで」

恭文「あぁ……糖質制限とかポピュラーになってきたしね」

レナ「そうそう。ご飯じゃなくてお豆腐で、ドレッシングをかけてボリュームサラダとか……そういう方向ならレナもアリだって思うな」

恭文「でも、いちごさんとか歌唄は……優もその手のことはあんまりしていないんだよね。それを見ているとそんな徹底しなくてもいいのではとは」

レナ「みんなは例外! いいね!?」

恭文「あ、はい」


(コロナの自粛期間で、いろいろ固まっている人も多いそうです)


レナ「それで今日(11月1日)は……デレマスの速水奏さんの誕生日記念日。あと、恭文くんの誕生日記念日だよね」

恭文「未央ときらり、沙理奈、愛海、茄子もそうだね。奏については欲しがっていたBEYONDGLOBALのガンダムをプレゼントしたんだけど……」

レナ「あれを? あぁ……今でも手に入りやすいやつかな」

恭文「本当は限定品のG-3がほしかったそうだけど、それも手に入らなかったーって言っていたしね。
だからこの間ガンダムベースで確保したドバイガンダムも一緒にプレゼント」

レナ「あれかー! あれ、ハンドパーツたくさんでレナも欲しかったんだよ−! でも……ううん、十二月! 十二月があるし!」

恭文「プレバンで注文したんだね、分かります。……というか、言ってくれればレナの分くらいなら確保したのに」

レナ「それは嬉しいけど、やっぱりほら……今は転売とか品薄とかでいろいろ大変でしょ? そこは地力でなんとかって思って」

奏(デンジャラスビースト着用)「私も仕事の絡みで買いに行けなかったから、本当に嬉しかったわ。……まずBEYONDGLOBALはG-3カラーで塗って……ふふふ……♪」

恭文・レナ「「…………って、なんて格好をしているの!?」」

りん(アイマス)(黒猫デンジャラスビースト着用)「あたしも負けないよー。なにせ恭文の誕生日記念日祝いだし! にゃあー♪」


(というわけで、今年もあと二か月。そしてガンダムヘリオスとリヴランスヘブン発売まで五日……楽しみですね。
本日のED:『翼はシュヴァルツ』)


ショウタロス「しかし、さらっとヒカリのパワーアップ形態まで話が出やがったし……!」

ヒカリ(しゅごキャラ)「なおショウタロス先輩との専用複合キャラなりもあるぞ。そちらは≪ミブロ・ブレイヴァー≫と言うがな」

ショウタロス「名前から滅茶苦茶不安要素しかねぇ! つーかいつ出すんだよ! 俺達の出番もうすぐ終わるぞ!」

シオン「ドキたま編で出戻りしましょう。改めて夢を描いたとかなんとかすればいけます」

ショウタロス「台なしすぎるだろ!」

ヒカリ(しゅごキャラ)「というかお前、そんなに嫁に」

シオン「なりたいに決まっているではありませんか――!」

ショウタロス・ヒカリ(しゅごキャラ)「「あ、はい」」

ジャックランタン「十一月になったけど、もうちょっとだけハロウィン気分。カボチャのランタンで夜はほっこりするホー」

ジャックフロスト「その間に、今年のソリも作るヒーホー。思えばソリ作りも毎年……でも楽しさはどんどん倍増しホー。新しい細工が思い浮かんで、手が止まらないホー♪」

恭介「うんしょ、うんしょ……」

アイリ「えっと、線を引いて、ここからここまでを切ってー」

ジャックフロスト「それにアイリと恭介も大きくなって、手伝ってくれるのが嬉しいホー♪」

ジャックランタン「子どもの成長は早いヒーホー」

カルノリュータス・カスモシールドン「「カルカスカルカスー♪」」(ぼく達も成長しているよーのポーズ)


(おしまい)









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あきゅろす。
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