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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2019年6月・雛見沢その5 『あの日見たMは/竜宮レナはなぜ走るのか』




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s 奉祀(たてまつ)り編

西暦2019年6月・雛見沢その5 『あの日見たMは/竜宮レナはなぜ走るのか』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


世界はいつだって楽しいことばっかり……とはいかなくて。

突然の来訪者とやり合って、夕飯を食べて、気分を直す。……のも無理で。


「レナさん」


沙都子ちゃんが声をかけてくれるまで、自室の中でぼーっとしてしまった。なので慌てて、いつもの笑みを取り繕う。


「沙都子ちゃん、何かな……は、はうー」

「無理、なさらなくていいんですよ」


……無意味だったので苦笑しながら、明るい自分を一旦放棄。もやもやをつい吐き出す。


「駄目だよね、レナ……梨花ちゃんだけじゃない。圭一くんもね、本当に心配してくれてるんだって分かるの。村に来たばかりなのに」

「えぇ」

「なのに、荒らさないで……レナの居場所を、平和を荒らさないでって、思っちゃって。……みんな、レナと同じなのに。
沙都子ちゃんにこういうこと言うと、きっとすっごく怒るだろうけど……レナも結局、何も」

「そんなことはございませんわ」


沙都子ちゃんはレナの手を取って、そんなことはない……大丈夫だと首を振ってくれる。

一年前なら絶対に見られなかった気丈さには、励まされると同時に驚くこともあって。


「わたくしはレナさんや魅音さん、梨花達が作ってくれた部活≪居場所≫に、とても助けられていたんです。
もちろんにーにーだって……にーにー、言ってましたの。魅音達には感謝しなきゃって」

「悟史くんが?」

「例え足りないものがあったにせよ、それだけは間違いありません。何より、無力だったのは……わたくしも同じです。
……わたくしがもっと大人で、叔母様達からも逃げず、戦う強さがあれば……にーにーは」


でも驚く必要はなかった。

沙都子ちゃんにも罪があった。幼さゆえに赦(ゆる)される罪だとしても、沙都子ちゃん自身がそれを罪だと断じていた。


……レナや魅ぃちゃん、梨花ちゃん達と同じように


「みんな、気持ちは同じなんだね」

「えぇ」

「でも」

「でも?」

「あの忍者さんは、好きになれそうもない……」

「あー」


沙都子ちゃんは苦笑気味に納得してくれるので、ちょっと救われた。……無茶苦茶(むちゃくちゃ)だものね、あの人!


「確かに無茶苦茶ですわね。スマートな都会流……いえ、それも違います」

「ん……でも、それだけじゃないの」

「え」

「あの人、何にも恐れていなかった」

「恐れていなかった?」

「全部分かってる。自分が無茶苦茶なのも、押しつけなのも……でも恐れないの。
それで自分がどれだけ傷ついても、嫌われてもかまわない。ただ一点、通すべき筋を通せれば」


狂気というのは言い過ぎなのかな。恐れない、迷わない、躊躇わない……その力強さを思い出し、目を細める。


「それだけ考えて、前のめりで、向こう見ずで……それが分からないの。
何で今日来たばかりの村で、知り合ったばかりの相手を守るために、そこまでできるのかなって」

「通すべき筋……察するに、この件でレナさんとわたくし達が話し合えるよう段取りを整えること」

「うん……それで、嘘もついてた」

「嘘?」

「多分リナさんは被害者なんかじゃない。本当は……」


分かってる。それはきっと……でも、レナは嫌な子だったよ? 話も聞こうとしなかったし、帰れとも言った。

そりゃあ向こうが滅茶苦茶なのは事実だけど、最初からそのつもりがなかった。そう言われたら否定できないし。

なのに迷わなかった。それがどうしてか分からない。どうしてそこまでできるのか、本当に理解できない。


圭一くん達に頼まれたから? ううん、その圭一くん達も困惑していた。事前に流れは聞かされていたはずなのに。

本当にどうしてなんだろう。やっぱりあの子、おかしいよ。


「……それはきっと、間宮リナさんの一件がどう動くかで変わりますわ」

「……うん」

「そのためにも明日、魅音さんにも相談いたしましょうか。園崎家のことでもありますし」

「うん……」


そうだね、まずは明日……そう思いながら窓の外を見やると。


「……あれ」

「レナさん?」

「何だろう、あの白いの」


なぜか窓の向こう……近くの茂みから、白煙が生まれていて。というか赤い……火!?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回のあらすじ――圭一を家まで送ったら、ご両親にとても驚かれました。ただ夜も深い時間になりかけていたので、話は後日ということで挨拶だけに済ませた。

そして……今日、僕はキャンプです。テントを立てて−、たき火をして……でも地面で直火はちょっと怖いから、焚き火台の上で火を起こして−。これぞゆるキャンだよー。


で、そんなぱちぱちと火が起こる中で、PSAの劉さんに経過報告。今回のこと、PSAの管轄でもあるからね。


『――まぁ、一応暫定的な報告書は見たが……完全にエルメロイ二世辺りの領域だな。時間のループだとか……』

「まぁ神様くらいならなんとかって感じではありそうですよ。
……ただ、今のところそのオカルト方面は気にしなくていいと思います」

「だな……梨花の奴にも念入りに確認したが、間違いない。その件と古手梨花殺害という未来……入江機関の一件は、完全に無関係だ」

『ようするに、ただの子どもがそんな巨大な陰謀に挑むため、死に戻りを繰り返していただけ。オカルトは彼女の手段であって、決して我々が解決すべき問題でも、決着点でもない』

「そういう話だ。……なぁ恭文……そろそろいいんじゃないか?」

「まだ……まだだよ……! こんがり焼くんだから!」

『……そしてお前達も楽しそうで何よりだ』


そう、ループについては一応話した。もしかするとウェイバー達の力を借りるかもしれないし、念のためにってね。約束通り赤坂さんには話していない……今のところはね。


『そうそう……そんな楽しそうなお前達にも一つ報告がある。垣内市は分かるな』

「茨城方面の地方都市ですよね」

『そこの管内で、女の子が一人錯乱状態に陥り、警官に怪我をさせた』


錯乱状態? つまり……その意味を悟り、僕も、ショウタロス達も一機に表情が険しくなる。


『しかもその女の子の名前は、公由夏美』

「公由だとぉ!? おい、そりゃ……」

『こちらでも確認は取れている。雛見沢地区の御三家……その一角である公由家の親類だ。
幸い心神喪失状態で逮捕などは免れているが、死人が出ていた可能性もある』

「つまり……悪魔の薬が絡んでいる」

『彼女はしばらく前に転校してきたそうだが、それで友人関係などに悩み、精神科を受診していたらしい。そして凶行前にも薬を飲んでいた。
……現在御剣を現地に派遣し、垣内署の捜査人員……まぁ、彼女とも顔見知りであった襲われた警察官だが、その人物と調査を進めてもらっている。念のため鳴海探偵事務所の面々にも出張を頼む予定だ』

「先日の一件でもドーパントが出てきていますしね……。
そういえば劉さん、垣内市って空港もありましたよね」

『ローウェル社のような外資系企業……海外の企業が、何らかの事件物を運び込むのも楽な環境だ。
それで改めて調べてみたところ、ここ最近公由夏美のように精神科に通っていた患者が、突如凶行を起こすという事件が多発している。中には“喉をかきむしって自殺した人間”もいるらしい』


……いよいよキーが揃ってきたね。


「……美咲涼子達のように……やはり存在するようですね、悪魔の薬は」

『お前達と鷹山さん達が押収した薬も、現在成分分析の最中だが……ドクトル曰く、現段階でも相当やばい代物らしい。
……そうそう……その分析や現物の保管について、全部こちらで預かると警視庁やらなんやらから声もかかっているよ。頼んでもいないのにな』

「そっちは大丈夫そうですか?」

『沙羅さんと上手くやっている。で、そちらの方は』

「赤坂さんが来てくれないと、地道に信頼関係を結んでーって話になりそうです。とにかく梨花ちゃんが怯え腰で、今までの予言で成功した通りにって手しか打とうとしなくて」

『そちらも時間がかかりそうだな……』

「ただ、ループって下りを……戒めも破って引き出せたのは大成功でした。我ながらファインプレー」


悪魔の薬……その実在証明の一つは、この雛見沢……梨花ちゃんのループにも絡んでいるところだもの。


『どういうことだ』

「富竹ジロウ……鷹野三四ともども殺されるというカメラマンですけど、そいつは五年目の綿流しで、必ず、“喉をかきむしって”自死するそうです」

『…………なるほど……その薬の出所は、やはり雛見沢と』

「もしかするとですけど、雛見沢にはそういう症状……精神に異常をもたらすような“なにか”があるんじゃないでしょうか。
たとえば何らかの植物、生物……雛見沢にしか存在しない特殊個体があって、それを研究するのが入江機関なら」

『それを元に作られたのが、悪魔の薬……筋道としては通っているな』

「どうする、劉。なんなら強引にという手もあるが」

『いや、今は避けたいな。敵の背後関係も分からない……っと、ちょっと待て』


劉さんがかたかたとパソコンを打っている。いや、音が響いているのよ。それで何だろうと思っていたら……。


『例の垣内市内で長期入院していた、男子学生『澤村公平』が転落死したんだが』

「えぇ」

『それには人為的圧力が見られてな。担当看護師が指名手配され、空港で逮捕劇が行われた。
その途中、看護師は自らの喉をかきむしって死亡。死因は溢れた血液による呼吸困難』

「……役満事件じゃないですか」

『ただ、雛見沢や興宮界わいでの勤務履歴はない。……問題は澤村公平の方にある。
彼はとある事件の被害者でな。同級生の女子生徒が突然、金属バットを持って暴れだしたんだ。
彼はPTSDを疑われ、療養生活へ入った』


うわぁ、それはまた……そこで看護師に圧力を受け、自殺に見せかけ殺された? 恐ろしいわ。

……あれ、PTSD? ちょっと……そこでゾッとするものが走った。


『男子学生には妄想・錯乱の症状があり、精神科によるカウンセリングも同時進行で行われていた』

「その薬を服用していて……でもバレそうになったから、内通者≪看護師≫もろとも口封じ?」

『かもしれん。でだ、問題は二つ……カウンセリングの中で彼は、”オヤシロ様”という存在への恐怖を訴えている』

≪ちょっと、それは≫


オヤシロ様……雛見沢の土地神様を恐れていた? さすがに信じられないでいると。


『念のために断っておくが、澤村公平は雛見沢出身者ではない。だが犯人は違う……少女の名前は竜宮礼奈』

「竜宮礼奈!?」


更なるボールが投げられ、思わず大声を出してしまう。


『知っているのか』

「さっき知り合ったばかりですよ」

『そうか……データによれば、彼女は事件後、カウンセリングを受けて雛見沢に戻ったとある。
精神科の通院中に起きたことでもあり、そもそも事件を起こした最中も正気ではなかった……そう判断されてな』

「……劉さん、その事件を洗い直すことってできますか」

『そのつもりだ。……なのでお前達は、ひとまず村内での信頼を掴んでいけ。焦れったいかもしれないが、いざというときのことを考えると……それが一番の近道だと私は思う』

「分かりました」


……確かに……誰が敵で味方かも分からないし、疑わしいところがあっても背後関係はさっぱりときたもんだ。だったら多少時間をかけてでも、相応の信頼を掴んでいく方がいいかもしれない。

その上で、入江診療所の方も注意を払って……うん、それでいこう。急がば回れってね。


『では、またなにかあったら連絡するが……お前も気をつけろよ。天原さん達も心配しているからな』

「はい」

『そうそう、“心配している“で一つあった。星見プロの三枝社長から連絡が来ていたぞ』

「三枝さん……あぁそっか。いつもの携帯だと連絡が取れないから」


星見プロというのは、僕が住む池袋からほど近い星見市にある芸能プロダクション。池袋とは目と鼻の先の聖夜市とはお隣同士で、星見市はまだ埼玉……川越よりかな?

実は今年の春頃、ちょっと縁があって、そこの人達とお話する機会があって……というか、かなり長期的な案件を抱えることになってしまって……!


「なにかあったんですか?」

『いや……お前がスカウトした二人、早速いい刺激を与えているそうだ。お礼を言われたよ』

「それは何よりです」

『あとはまぁ、アイドル達も心配しているから、定期的に連絡は欲しいと言っていた』

「まだ出発して一日も経ってないっていうのに……まぁ、了解です」


そこで電話は終了――――なぜ、僕がそんな事務所に関わることになってしまったのか……それについてはまぁ、ほんといろんな大変なことがあって……今年の三月、星見市でのお話をご覧ください。

それより、まず引っかかるのは……やっぱり。


「さてお兄様、何が気になりますか」

「一つ。入江機関は、データ横流しを知っていたかどうか」


僕達が見つけたあれは、そのためのものって可能性もあるからね。知っていた場合は相当ヤバい。


「知っていたら機関所属者は全員敵になっちまうしなぁ……」

「二つ。入江機関の存在を梨花ちゃんが知っている……これは確定だけど、一体どういう関係なのか」

「考えたくはないけど、梨花から俺達の存在や目的が伝わってって可能性もあるしな。……だが、それでツツいてよかったのかよ」

「だから僕、言ったでしょ。テロリストは殺して止めるし遺書も書くって」

「だからそれ、悪いクセだって言ったよな……!」

「三つ、僕達の予測通りであれば、それと雛見沢怪死事件はどう絡むのか」


梨花ちゃんは、オヤシロ様云々は絡まないと言っていた。それを信じるのであれば……でも人災ってことは、機関がなにかしたってこと?

……なんにしても、梨花ちゃんはその答えを知っているってことだろうね。一応要注意人物ってことで……いや、でも……うん……。


「あとさ、おのれら……“感じた”よね」


一つ、どうしても気になることがあるので、ショウタロス達に確認すると……揃ってこくりと、渋い顔で頷く。


「お前が天眼を開いたとき、嫌というほどにな」

「……梨花の感情……いや、その魂の色……気配っつーのか? あれは“人間のものじゃなかった”。しかも俺達には覚えがある色だ」

「……神霊や妖精……人ならざる高位存在に近い色でしたね。あれもループの影響でしょうか」

「でも梨花ちゃんの肉体については至って普通。魂だけがそれって……」


そう……僕達はこれまでいろいろ巻き込まれた経験で、神様由来の英雄とか、妖精圏から飛び出た奴とかと戦ったことがある。だから分かったのよ。天眼を開いて、梨花ちゃんの内面に触れて……ようやく分かったのよ。

肉体という一つの世界であり結界は、普通の人間だ。むしろ僕の方が異常ってくらいだよ。でもその魂は……梨花ちゃん自身は気づいていないのかな。

いや、気づく要因がないか。それに……ああもう、これもちょっとずつでいこう。なにせ来て一日目だし、フィールドワークに手を抜いちゃあいけません。


(情報は足で稼ぐ……だったよね、翔太郎)


……なので、今分かる事件から考えてみよう。


「うし、この件は後回しだ。……まず確定したことは一つあるもの」

「だな……。竜宮レナやシオンもそうだったが、キーワードは妄想・錯乱……その根っこたる疑心暗鬼だ」

≪……梨花さんの“予言”で暴走する部活メンバー。それらは困難な状況と忌ま忌ましい敵を前にしていました。
そしてレナさんの場合、両親の離婚原因が原因です。もしかするとみんなをキレさせるというのは、少し語弊があるんじゃ≫

「だね。みんなはその状況で受けた『ストレス』に対し、疑心暗鬼を強め、妄想・錯乱状態に陥ってるんだ」


……チーズもいい感じで溶け始めている中、気持ちは高ぶることもなくて。それはそうだよ、殺人事件の話をしているんだから。


「ならオレ達がやることは、この村でそんなことが起きないよう、また風を吹かせるってわけだ」

「どこへ行こうと、私達≪ダブル≫の使命……やりたいことは変わらないわけですね」

「まぁそこもまた明日でいいだろう。それより恭文……そろそろだと思うんだが!」

「あ、そうだね! よーし、それじゃあ」

「……何、してるのかな」


後ろから声が響いた。僕はそれに振り返ることもできず、停止してしまう。

呼吸が止まるかと思った。その声はとても無機質で、人のそれとは思えないほど冷たかった。


「え……あの、ちょっと」


振り向けば死が待っている。

躊躇っても死が待っている。

それは今の季節に似つかわしくない、絶対零度の冷たさを発揮する。


僕の後ろにいるのはもはや人間じゃない。飢えた肉食獣そのものと言っていいだろう。

刃と爪を研ぎ澄まし、僕という獲物を睨み、食らいつこうとしている。猛獣の本能を御するには、距離も、そのスペックも足りていなかった。

しかしそれでも、ここで死ぬわけにはいかない。殺さなければ、殺される――!


「……って」


静かに、懐から乞食清光を取り出し、抜刀の構え。


「やめてよ! 何言ってるのかな! まるでレナが殺人鬼か何かみたいだよね!」

「考えが読まれた、だと……まさかこれは、サイコメトリー」

「違うよ! さっきからずーっと声が出てたよ!? 今みたいに!」

「ちょっと何言ってるか分からないわ」

「むぅ……!」

「レナさん、落ち着いてくださいまし! というかあなた達……本当に何をしてますの!?」


というわけで後ろに振り返ると、なぜか涙目な竜宮レナがいた。更に沙都子ちゃんもパチクリしながら、僕達が前にしていたものを見る。

しっかり組まれた土台……その中には煌々と燃える炎。更に鉄の鉄板がほどよく熱されていた。

これを見て分からないとは、なんと残念な。ではシティ派な僕達から教えてあげよう。


≪「「「「……キャンプ?」」」」≫

「こんなところでですか! あ……まさかわたくし達を監視!?」

「これがサイコメトリーの力か……!」

「馬鹿じゃないの!? こんな家の近くでたき火をしてたら、嫌でも気づくよ! ちょっとしたぼや騒ぎみたいになってるし!」

≪……おじいちゃん! まだかな! もう焼けたかな!≫

「おぉそうだね、ハイジ。もうそろそろだねぇ」

「ハイジって何ぃ!? え……待って、それは」


そう、この鉄板はちょーっと特別で……側面の引き出し部分を開けると、とろとろのラクレットチーズが登場。

なお上部では野菜やパンをトースト中。これが今日の夕飯です。


「まさか、ハイジのアレ……!」

「しかもパンがまた上等な!」

「これを……パンに載せて、挟んで……」


トレーに入ったチーズを、トーストしたパンにかけて……!


≪わぁ、美味しそうー! おじいちゃん、早く食べようよー!≫

「お兄様、私にも早く……!」

「オレもだ! もうさすがに待ちきれねぇ!」

「ねぇ、君達ってレナの見る限り常識枠の子達だよね! ツッコまないの!? それより食欲なの!? そうなのかな! かな!」


熱々のところ、火傷しないよう注意しながら……みんなでそれぞれのパンをかじる。そのまま引っ張ると。


「「「「むにぃぃぃぃっぃぃぃぃぃぃぃい――」」」」


とろとろチーズが糸を引き、ハイジのアレを再現!


「な、なんて美味しそうですの……ハイジの、ハイジのアレがわたくし達の前に!」

「う……でも羨ましくなんてないもん! だって雛見沢だもん! アルプスじゃないもん! それなら偽物だよ!? 看板に偽りありだよ!?」

「「「「むにー」」」」


そんなことを言う二人は気にせず、見せつけるようにもぐもぐ……もぐもぐー。あ、次のチーズを入れて、溶かして……っと。


≪おじいちゃん、アルプスの妖精達―、レーターとサーターが羨ましそうに見ているよー≫

「アルプスじゃないって言ったよね、レナ!」

「というか、ベーターの亜種を作らないでください! いや、その……羨ましい、ですけど」

「沙都子ちゃん!?」

「駄目だよハイジ。アルプスの掟は厳しいんだ……働かざる者食うべからず」


次のパンには炙りベーコンを敷き詰め、その上からチーズをとろーり。

その上からまた別のパンをセットして、ベーコンチーズサンド完成! それをかじって……見せつけるようにむにー!


「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

「対価もなしに欲しがるなんて、そんな甘えはレーター達のためにならないだろう?」

「そうだぞ、ハイジ。妖精だって働いているんだ。こうしてたくさん食べることで、私達は恭文の癒やしとなっているんだからな」

「……ヒカリ、おのれについてはキャベツ一枚でいいよね」

「なんでだぁ!」

「癒やしというか痛みなんだよ1 おのれ、自分のせいでどれだけエンゲル係数が上がったか分からないの!? 説明してきたはずだよね!」


そうだよそうだよ……初手からいっぱい食べるから、お小遣いが……! だから忍者のお仕事を頑張ってきたくらいだし! だし!


≪うぅ、ごめんねレーター、サーター……これは私達のものなの。好きな相手をメインヒロインに取られた幼なじみの如く、歯ぎしりしながら見ていてね?
まぁその間相手はメインヒロインと組んずほぐれつ、純愛ルートと言いながら頑張ってるだろうけど……二人で! あなたと違って二人で!≫

「そうそう…………あの、ハイジ? それは苺花ちゃんとふーちゃん、歌織に悪いのでちょっと表現変更を……」

≪でもおじいちゃん、舞宙さんとフィアッセさん相手に先取りしちゃって……≫

「そうだったぁ!」

「ここまで意味不明でありながら、人の神経を逆なでする言葉が存在したでしょうか……! というか、あなたの女性関係をさらっとバラさないでいただけますか!? 受け止め方が分かりませんもの!」

「い、いや……いいもーん! 別にレナ、お腹は空いてないし!?」

「さ、さて、ミルクもそろそろ温まったかなぁ」


更に脇ではミルクも温めていました。それに蜂蜜をたーっぷりかけて、軽く口休めとする。


「……おー、あつあつあつ!」

「でも甘くて美味しいです。お兄様、今日はぐっすり休めますね」

「だねー。それに温まるー」

≪美味しそうだね、おじいちゃんー。……それが勝ち組≪メインヒロイン≫の味だよ? よく覚えておこうね?
おじいちゃんがヘタれた瞬間、みんな一緒がいいって願いが、一緒に地獄へ行こうぜーに変換されるから≫

「あ、はい……」

「今日の夕飯は沙都子ちゃんがくるから、美味しいお料理が一杯だもん!
牛肉とごぼうのしぐれ煮!」

≪わぁー! 次はパイナップルにチーズだー!≫


そう、ラクレットチーズはパンだけじゃない。ちょっと独特だけど、パイナップルとも相性抜群なのよ。


「里芋の煮っ転がし!
ホウレンソウのおひたし!
ワカメとお豆腐のおみそ汁だったもん!」

≪チーズとパイナップルって、これが合うんだよ。
それにナス。
タマネギ。
ジャガイモ≫


しっかり焼かれた野菜は、甘みも十分。特にジャガイモなんて、もう……ほくほくとチーズは最高の取り合わせだ。


「スイスのチーズ職人さん、ありがとうー」

≪メインヒロインのサービスCG大盤振る舞いだね! おじいちゃん!≫

「ハイジの物まねでラブコメ&ギャルゲー要素を持ち出すのはやめてください! 妙に腹が立ちますの! でも、対価……対価……」

「それでお代わりもして、いーっぱい食べたし! あなたみたいに、一人寂しく……じゃないけど! しゅごキャラちゃん達もいるけど! でもキャンプ飯よりしっかりしているし!」


またまたパンと、チーズで……むにー。あぁ、最後はこれに落ち着くよね。それほどの安定感がこの味にはあった。


「「「「むにー」」」」

「聞いてない!?」

≪おじいちゃんー、負け組が何か言ってるよー≫

「ハイジ、駄目だよ」


ホットミルクをフーフー言いながら一口のみ、優しいハイジアルトは諭しておく。


「あれはルーズドッグとしてフェードアウトする覚悟もない、怨霊のような存在だからね。
結局ちゃんと告白もせず、幼なじみという立場に甘んじていた自分が悪いのに……耳を貸したら腹パンされるよ」

「誰が怨霊!? というか誰の話かな!」

「結局てめぇも“幼なじみが負け組理論”に乗っているじゃねぇか!
…………むにー」

「その辺り、絹盾さんにもお話してはどうでしょう。立ち位置が完全にそれですし……むにー」

「いちごもいちごで頑張っていると思うが……まぁ来年辺りには急展開するだろ。大人になるまではとか言っていたしな。……むにー」

「…………それならいいもん! レナだって気にしないし! だから平気だよ……そんな、エセアルプスなんかに、負けない!」


そこで響く、鈍い慟哭――竜宮レナのお腹(なか)から、グルグルと音が響いた。


「……レナさん」

「う……あの、違う。今のは嘘……」

≪おじいちゃんー、負け組がフラグを踏んでるよー≫

「そうだねぇ、ハイジ。まるで(ぴー)には負けないと言いながら(ぴー)ヒロインみたいだ」

「はう!?」

「なんて例え方をしていますの、あなたぁ!」

≪あ、ホントだねー。現実にいたんだね、そんな人ー。ちょっと可哀相かもー≫

「「「「……むにー」」」」


そうして再び鳴り響く腹の音。当然竜宮レナは顔が真っ赤になって。


「……嘘だ」

「レ、レナさん!」

「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


この場から脱兎……しかけたので、首根っこを掴んで制止。


「あ、ちょっと待った」

「むぎぃ!」


なぜか派手に尻餅をついたけど、まぁその程度じゃ死なないだろう。


「レーター、一つ聞きたいことが」

「あくまでもアルプスで押し通すつもりですの!?」

「茨城では大変だったね」


逃げられてもアレなので、即行で話題を出す。


「それと澤村公平、知ってるね。……亡くなったそうだよ」

「――!」


すると竜宮レナは表情がこわ張り、顔面そう白でこちらを見る。


「んぐ……おいおいヤスフミ! いいのかよ!」

「いいよ。時間は有効活用しないと」

「あなた、どうして」

「一応断っておく。僕はその件をほじくり返すつもりはないし、おのれが本気でやり直しているなら何も言わない。
……ただその件と、梨花ちゃんの命が狙われている件、どうも繋がっているっぽいんだ」

「「……!」」

「というわけで情報提供してくれるなら」


笑って……もう一度パンをかじり、むにー! みよ……このチーズの伸びを!


「むにぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

≪等価交換は基本だよね、おじいちゃん!≫

「その前振りでしたのぉ!?」

「最悪だよ、この忍者さん!」

「「「むにー!」」」

「だからしゅごキャラちゃん達はツッコんでぇ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――とりあえず火は消した上で、どういうことか説明を開始。

竜宮レナは足がガタガタ震える中、沙都子ちゃんに支えられて家に戻る。

僕も警護ということで上がらせてもらい、改めてレナの部屋に。女の子らしい、清潔感と可愛らしさが同居する内装……じゃなかった。


外のジャンクとはお仲間っぽい雑貨があっちこっちに……それでも雑ではないんだけど。でも奇麗な部屋と言われたら、さすがに疑問を抱く程度には……カオスだった。


まぁそんな部屋のことはさて置き……とりあえず澤村公平の件から説明をした上で、梨花ちゃんの予言について話す。

やっぱり二人とも驚いた様子で……まぁ、だからこそ味方として引き込みやすいんだけど。


……なお、沙都子ちゃんは暴行事件について知らない様子だったので、あくまでも『長期入院していた茨城時代の学友』という話にした。


「レナさんのお友達が、そんな怪しい薬の被害者に!? で、ではあの……ガイアメモリというのは」

「その怪しい薬だけじゃなくて、ガイアメモリの方にも手を出しているんだよ。だから対処できる僕が出向いたの」

「レナさん……!」

「……レナ、茨城のお友達とは、連絡……してなくて。じゃ、じゃあ……渚ちゃんは!?」

「渚?」

「あの、尾崎渚ちゃん! 澤村公平くんとお付き合いしていて、レナとも小学校から仲良しだったの! 渚ちゃんはどうしたのかな!」


沙都子ちゃんもその剣幕に怪訝な顔をする。まるで『縁を切られた』かのような言いぐさだから。

それほどの距離感を、幼なじみと言うべき相手に作られるだろうか。


……ただ沙都子ちゃんは空気が読める子なのか、この場でツッコむようなことはしなかった。


≪……その名前なら、PSAから先ほど送られたレポートにありましたよ≫

「アルト、そうなの?」

≪例の公由夏美さんに襲われた警察官……南井巴さんは、澤村公平の事件で彼女と知り合っていたそうなんです。
元々澤村公平と付き合っていた彼女が“彼氏は自殺などするはずがない。調べ直してほしい”と訴えて、それを聞いて……真相が発覚したそうで≫


そこでアルトがスマホにデータを送ってくれる。それを取りだし、レポートをチェック……ふむふむ、なるほど。そういうことで……って、これは。


「……澤村公平が自殺に見せかけられて殺されたのは、その尾崎渚が面会に来る直前……あぁ、そういうところからか」

「確かに、おかしくは感じますわね。面会に来て、喧嘩してそれに絶望して……とかならともかく……仲も悪くはなかったのでございますわよね」

「レポートにはそう書いているね。ただ……ねぇ竜宮さん、連絡は取っていないんだよね」

「う、うん……」

「ネットなどで調べてもいない」

「それは、ないけど……って、ちょっと待って。公平くんは分かるけど、渚ちゃんまでどうして」

「去年、事故死している」


そう告げると、竜宮レナの顔が……一気に土気色となった。いや、それを通り越し、感情が感じられないほど冷たいものになって……。


「………………え……………………」

「垣内市内……友人との待ち合わせ場所に行く途中で、トラックに轢かれたそうだよ」

「嘘……渚ちゃんが……なんで……!」

「動揺しているところ悪いけど、重ね重ね質問。……おのれは、尾崎渚と待ち合わせとかした? 去年の十月とか十一月……秋口ごろ」

「した……したよ。あの、去年……渚ちゃんとどうしても、お話したくて……それで、約束して……。でも、渚ちゃん、こなくて……!」

「その道すがらだったそうだよ。ご両親にはお話して、納得してもらっていたみたい」

「……………………!」

「レナさん……」


………………ほんとに大事な友達だったんだね。だから涙がこぼれて……溢れて……声も出ないくらいに泣いて……。


「おい、ヤスフミ……いいのかよ……!」


そこでショウタロスが見かねた様子だったので、軽くしゅごキャラテレパシー。


“話しておいた方がいい。……尾崎渚、実際には殺されているからね”

“は……!?”

“トラックが轢いたってところは本当。ただ、道路に飛び出したとかじゃない。……これを見て”


ショウタロス達にレポートを見せると……ほんと、劉さん達には感謝だよ。そうじゃなかったらいろいろ気を回した結果、逆効果って可能性もあった。

……実際ショウタロス達が……冷静なシオンでさえ怒りで顔をしかめる程度には、ひどい内容だった。


“……あり得ないような……道路のど真ん中で意識昏倒して、倒れていて……通りすがったトラックが、そのまま頭を踏みつぶした……!?”

“検死の結果では、薬物を使われた痕跡もあるとありますね。
だから……彼女は竜宮さんと会う途中で何者かに拐かされた。車かなにかで連れ去られる途中に目を覚まし、なんとか道路から脱出した”

“体の各所に軽い裂傷があるというのも、そのときについたもの。でも完全に意識が取り戻せたわけじゃなかったから、なんとか歩道まで戻ろうと這いずって……そのまま……!”

“人通りも少ない夜道で、倒れ込んだ位置も悪かった。曲がり角で運転手も気づけなかったような場所だったとあるな。しかし……むごいことを”

“攫った奴は、明らかに尾崎渚の命を度外視している。だから見捨てたんだ。
で、ただの中学生がこんな真似をされる理由となると……最も足るものは一つしかない”

“悪魔の薬……例の澤村公平も実験台に使われた。だがそれが掘り返されたから、彼女もなにか知っているのではと思い……口封じを測ってくれたわけか”


そう、それが大まかな流れだ。恐らく当たっているという感覚もある。

となると……その尾崎渚達と友人だった竜宮礼奈はどうなるかってことだよ。


「……その一件は、垣内書も捜査している。事件・事故の両面からね」

「事件ですの? でも、お話を聞く限りは」

「現場は人通りが少なくて、細かい目撃情報が未だに取れていないそうなんだよ。
で……今の様子から垣内の事件についてはさっぱりなのは分かったけど、梨花ちゃんの方は

「初耳ですわ! ……レナさんも……」

「そんなの本当に知らないよ……! というかその話……圭一くんは」

「相談されていたところ、僕が古手神社に来たんだよ。だからね、間宮リナの一件も予言の一幕なんだよ」

「え……!」

「古手さんはこう言っていました。間宮リナの行動により、暴走したあなたが……彼女と、それに与する者を殺したと」

「それを圭一達や沙都子ちゃんに見つかったから、間宮リナ達の死体は隠し、犯罪そのものをなかったことにした。
……でもそこで五年目の怪死事件が起きて、おのれが再度暴走……もっとヒドいことをするってね」


竜宮レナは仰天するものの、アルトの言葉に嘘がないと知って、混乱しながら視線を泳がせる。


「そ、そんな……では、今までの事件も」

「ただそこは責めないでほしい。……竜宮レナ」

「レナで……いいよ。フルネーム呼び、面倒だし」

「じゃあレーター」

「この状況でアルプスは引きずらないでほしいかな! ……じゃあ分かったよ!
レナもあなたのこと、恭文くんって名前で呼ぶよ! それでおあいこ! いいよね!」

「おのれ、今日の話を『予言で見たので聞いてください』って言われたら……受け入れた?」

「無視しないでー! というか、そんなの……決まって……!」


そう、決まっている。さすがに受け入れない……信じられないと言うべきだろう。

それは今までの事件でも適応されると知って、レナと沙都子ちゃんが顔を見合わせる。


「た、確かにそうですわ。去年……にーにーが失踪するなんて聞かされたとしても、わたくしには受け入れる余裕が」

「レナ達も、それは変わらない。そうだね、確かに責めるのは違う……梨花ちゃん、ずっと一人で抱えてたんだ」

「というかね……まぁ梨花ちゃんと圭一にも説明したんだけど、予言っていうのは種類もあるし、リスクもあるんだよ」

「リスク? え、というか……恭文くんはそういうお話を」

「言わなかった? 僕、忍者としての専門は異能・オカルト事件なんだよ」


――というわけで、ここからはかくかくしかじか……梨花ちゃんにも話した結び目の話や、予測と観測の違いについて説明。

すると二人とも、単純な予言とはまた違う……どこかシステマティック的なものに魅入られたのか、目を大きく見開いて。


「――僕自身HGS患者として、観測系の能力が使えるからさ。この辺りもやっぱり専門なの」

「あなたのもですの!? しかもHGS……」

「だから赤坂さんも、僕を頼ってくれたんだよ」

「じゃあ、梨花ちゃんの予言って……」

「どちらかというと予測――梨花ちゃんも自覚できないレベルで、周囲の情報を獲得・演算しているって感じかな。それを夢のような形で見せられている。
……たとえばレナ、おのれは当然ながら、間宮リナさんが上納金強奪の話をしているところなんて、見てもいないよね。聞いてもいない……あ、これは疑っているとかじゃないから」

「それは、本当に寝耳に水だけど……えっと」

「幾らそういう超能力があるとしても、個人が認識できる世界……視野の広さってのは限られているんだよ。
だからそんな未来が本当にあり得たとしても、おのれや間宮リナさん達が知覚していない“誰か”の行動で、たやすく覆されることもある。今日みたいに」

「それも、結び目……フラグが成立しなければってことなんだね。なんだか、今のレナには複雑な話だよ」


まぁそうか。それなら親友が死んだのもフラグが成立したからって話になるし……やっぱり時間や未来なんてものは、人間の手で管理するには余りあるものなんだろうね。


「なら恭文さん、梨花はその辺りについては」

≪知りませんでしたねぇ。だから唖然として打ち震えていましたよ≫

「それも当たり前のことだよ。周囲に専門家もいないし、話を聞いてくれる人もいないならね。
……僕だって幽霊や霊力の類いが見えるって言っても、小さい頃は嘘吐き呼ばわりされていたし」

「それもひどい話ですわね……。霊障は存在すると、法律的にも認知されているでしょうに」

「人間は見たいものしか見えないってことだ」


だから梨花ちゃんの能力詳細については、早めに解き明かしたかったんだけど……あんなの想定外だよ!

死に戻りなんて……リゼロみたいな能力だとはさぁ! いや、むしろリゼロの前身!? 元々昭和五八年の世界観だったらしいし!


「……とにかくあなたはこの雛見沢に、明確な疑いを持ってやってきたのですね。そこは圭一さん達も御存じで」

「協力をお願いしたからね。ガイアメモリの一件もあるし、目は多い方がいい……っと、澤村公平達のことは言ってないよ? 今日別れた後に教えてもらったから」

「でも、入江診療所……入江機関……監督が、そんな」


監督……あぁそうか。沙都子ちゃんも入江先生をそういう風に言う人なのか。相当親しまれているんだなぁ。


「ね、僕はまだ監督……入江先生とはお会いしていないんだけど、どういう人なのかな」

「……とてもいい人だよ。レナ達だけじゃなくて、村の人達からも信頼されていて。
魅ぃちゃん……園崎魅音ちゃんのおばあちゃんも、体調管理とか任せているし。基本……よそ者嫌いなんだよ?」

「親のいないわたくしとにーにー、もちろん梨花にも、本当によくしてくれました。だから、そんな……あり得ませんわ。
監督が他の人を苦しませるような、そんな薬を作っているなんて」

「それについてはまだ断定できないよ。それに薬というのは、使い方次第で毒になる。
……仮に入江機関が善意から研究を進めていたとしても、それを悪用された可能性だってあるんだ」

≪入江所長が悪人とは言い切れませんよ。そこは安心してください≫

「えぇ、そうですわね。ありがとうございます」


しかし、完全なシロだとも言えない。どうにかして取っかかりと掴(つか)んで、追及するべきだとは思うけど。


「お兄様はもう……まぁ、ショウタロスよりましですか」

「うるせぇ……!」

「でもそれをわたくし達に話したということは」


そこで沙都子ちゃんが、レナが察する。僕がここで話した理由……そう、”味方になれ”ってことだよ。

取っかかりを掴む以上、協力者は必要だ。梨花ちゃんとは別口で何とかしないと……とはいえ。


「何もしなくていいよ。入江所長やらとは、改めて直接挨拶するし」

「え、それで……いいのかな!? 疑ってるんだよね!」

「こういうときは先入観なく、まっさらな状態で見るべきなんだよ。
……本当は梨花ちゃんの信頼を掴んでって言いたいところだけど、状況によってはそこまで悠長にできないかもだし」

「……そこもやっぱり、ガイアメモリ?」

「そこまで行かなくても、HGS患者……超能力戦闘員とかいるかもだしね。
実際奴らは海外の方でその育成施設も作っていたし、NEVERなんて技術にも出資していた」

≪ネクロオーバー技術……死体に特殊な活性酵素を打ち込むことで、通常の人間より高い身体能力を発揮する“不死の怪物”。
……風都でそいつらが新型メモリを狙い襲来して、いろいろ大変だったんですよ。特にリーダー格……大道克己という男には、私達と仲間も一度負けましたし≫

「ゾンビ兵士ってこと!? なにそれ……せ、世界の常識が壊れていく……!」

「わたくしもですわよ! いつからこの世界は世紀末になりましたの!?」


残念ながら世紀末から新世紀になる頃だけど……でもそうだよね。マリアさんも逮捕されて久しいけど、それを言えばガイアメモリだって……本当に注意して行動していかないと。


「なので僕達は僕達で、好き勝手に動くことにしたの」

「……梨花と圭一さんはもしかしたら、とんでもない悪魔と契約したのかもしれませんね」

「うん……まぁ、分かったよ。でも……本当に、何もしなくていいの?」

「今はそれでいい。ただ梨花ちゃんから話をされる可能性もあるから、そのときは……あんまり怒らないであげて」

「あなた、もしかしてそのために……いえ、分かりましたわ。同居人として気づけなかったわたくしにも、落ち度がありますし」

「それは大丈夫だよ。感情論として『相談してほしかった』というのはあるけど……うん、しょせん感情論だしね」

「ありがと。……あと、澤村公平の件も含めて、悪魔の薬についてはきちんと調査が進んでいる」


レナには相応の負荷もかけているので、一応フォロー。


「友人として思うところはあるだろうけど、それが解決するまでは一人で動かないで」

「恭文くん……」

「いいね」

「……分かった」


暗に『危険だから首を突っ込むな』と忠告しているのは、理解してくれた様子。

戸惑いながらも……でもしっかりと、レナは頷いてくれた。


「……あ、このことは梨花ちゃん達に言ってもいいよ」

「はぁ!?」

「その方が圧力になるもの」

≪えぇ。それにこっちも正式に依頼を受けましたし、止まる理由がありませんから……いつまで持つと思います?≫

「イライラして三回くらい警告してくるけど、僕達がガン無視でマジギレ……そこを徹底的に叩けば、落とせるね」

「本当にとんでもないですわね、あなた方!」

「それが悪魔の思考だよ! というか……いつも!? これでいつも通りっておかしくないかなぁ!」


おかしくないので問題なし……そこで一つ思い出し、拍手を打つ。


「そうだ、聞きたいことがもう一つあった。事件とは関係ないんだけど」

「もう一つ? なんでございますの」

「しかも事件とは関係ないって……」

「実は圭一と梨花ちゃんから、明日学校に来てほしいって誘われてるんだ。一緒に部活をやろうって」


すると、二人の表情が変化する。それも……とても悪い方向で。


「でも様子がおかしいんだよ。なんの部活かもちゃんと説明してくれないし、まるで”自分達が”楽しめるって顔で……あれ?」

≪どうしました、あなた方。そのときの圭一さん達と全く同じ顔を≫

「……レナさん」

「うん」

「お兄様、これで確定です。この人達の部活はマトモではありません」


二人が素早くスクラムを組み、僕から身を引く。仕方ないので……忍者イヤーで空間盗聴ー!


「つい面食らってしまいましたけど、あの方の思考パターンは」

「私達の部活で求められる、勝利に全力を尽くす姿勢そのもの……!」

「もしや圭一さん達もそう考えたから、わざわざ誘ったのでは」

「なのかな! なのかな! となると」


そして二人は振り返り、今までからは想像できない……満面の笑みを向けてきた。

それが恐ろしい。とても、恐ろしい……! 今僕は、魔窟へ飛び込もうとしている!


「うん、レナ達も歓迎するよ! よろしくね、恭文くん!」

「おーほほほほほほ! そんなに気になるのでしたら、百聞は一見にしかず! 我が部活を体感するといいですわ!
……あ、わたくしのことは呼び捨てで構いませんことよ。もはやわたくし達は一蓮托生……義兄妹ですわ!」

「そうそう! それは血よりも濃い繋がりだよ、恭文くん!」

「莉央みたいなことを言い出しやがったぞ、コイツら」

「……お前ら、なにが狙いだ。吐け……私は嫌な予感しかしないぞ! というか怖いんだよ、揃いも揃って!」

「ねぇ、本当に何の部活なの? しかもレナに至っては、いきなり名前呼び」

「呼ぶって言ったし、呼んでいたよね? だって……お父さんのことで尽力してくれたんだもん。やっぱりちゃんと」


そこでゾッとした。レナの見開かれた目はつや消しで……殺意すら感じさせるほど、大きく開かれていた。


「お礼はしなきゃいけないかなーって……だから学校、きてね。恭文くん?」


呼吸が止まるかと思った。その声はとても無機質で、人のそれとは思えないほど冷たかった。


「え……あの、ちょっと」


振り向けば死が待っている。

躊躇っても死が待っている。

それは今の季節に似つかわしくない、絶対零度の冷たさを発揮する。


僕の前にいるのはもはや人間じゃない。飢えた肉食獣そのものと言っていいだろう。

刃と爪を研ぎ澄まし、僕という獲物を睨み、食らいつこうとしている。猛獣の本能を御するには、距離も、そのスペックも足りていなかった。

しかしそれでも、ここで死ぬわけにはいかない。殺さなければ、殺される――!


「……って」


静かに懐から乞食清光を取り出し、抜刀の構え。


「やめてくれないかなぁ! レナのお部屋で刃傷沙汰なんて駄目ー!」

「また心が読まれた、だと」

「お兄様、口からダダ漏れでした」

「……明日は風邪を引くかもしれない」

「それは仮病かもしれない」

「仮病ではないかもしれない」

「やっぱり仮病だね、うん……大丈夫だよー」


レナは笑顔で身をフリフリ。


「客間には暖かいお布団を用意してるし、明日の朝ご飯はほかほか中華粥だもんー。
ショウガもたっぷり効かせるから、真冬でも風邪は引かないよー」

「なんと美味しそうな! それは山盛りでいいのか!」

「いいよー! ヒカリちゃんもいっぱい食べる子みたいだけど……レナの山盛りの方が勝っちゃうんだからー!」

「最高だな、竜宮家!」

「……沙都子、覚悟しておくといいよ。竜宮家は崩壊する……エンゲル係数の急上昇によってね」

「でしたら止めていただけませんか?」

「なんの部活か教えてくれたらね……!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして雛見沢村での初日は、長い初日は終わり……レナの朝ご飯は確かに美味しかった。

どうもお父さんは主夫業をやっているそうで、お仕事もなく留守番……学校へ行くレナ達を、また別行動の僕を笑顔で見送ってくれた。


「――じゃあ恭文くん、放課後だよー!」

「逃げたら地獄の果てまで追いかけますわよー!」

「その言葉、そっくりそのまま返してあげよう」

「あははは、りょうかーい!」


僕の十八番が流された……だと! つまりお互い逃げる道はなく、部活とやらで戦うしかないのか。

そんな状況に絶望しながらも、明るい村を散策。尾行がある以上、明るい昼間のうちにあれこれ見て回るしかない。

二十一世紀とは思えないのどかな農村風景に心を癒やされつつ、たどり着いたのは≪鬼ヶ淵沼≫。


底なし沼と呼ばれているここから、鬼がわき出たそうだけど……そういうスポットとは思えないほど、日常の風景に溶け込んでるなぁ。


≪そう言えば底なし沼って、実際に底はあるそうですね。ただつもりに積もった泥やゴミやらの層が深いだけで≫

「それも夢のない話だけどねぇ」


沼を見た後は公由村長のお宅へ。ただ村長さんはお留守のようで、後日に回すこととしました。

なので続いては診療所――でも、こちらもお留守でした。どうも訪問診察の最中らしい。

なので留守を預かっていたスタッフさんに、僕の身分と入江先生への用向きを伝え、また明日訪ねますと出直した。


――いろいろ考えながらも、そろそろ時間なので雛見沢分校に向かう。

あ、竜宮家の近辺は警察が見張っているから一応安心……なんだけど。


”アルト、診療所のサーチ結果は”

”ビンゴですよ。あの診療所、地下区画があります。それもかなりの広さで、機材関係もかなり運び込まれている。
……しかもですね、入り口が荷物で封鎖されてたんですよ。奥まったところにダンボールが”

”普通には分からないように、かぁ。でも人はいたんよね”

”病室らしきものや、そこで寝ている病人らしき人もチェックしました。十五歳前後の少年でしょうか”

”慎重に裏付けが必要だね”


下手に飛び込むと、火中の栗を拾うどころか大やけどしかねない。ここはやっぱり融和政策かな。


「……つーかヤスフミ、共感覚でのサーチもしたんだよな。そっちは」

「…………おかしいんだよ」

「おかしい?」

「地下区画で寝ていた子……憎悪や恐怖、怯え、怒り……そういう感情で満たされまくっているの。そういう色しか見えなくて」

「寝ているのにか……」

「そこも時期が来たら、古手さんに確認しましょう。場合によっては救助の必要があるかもしれませんし」

「うん」


そんな話をしている間に、分校へと到着……。


雛見沢の中にあるその学校は木造三階建て。どう見ても二十一世紀の面持ちじゃない。

ただ気になるのはそれくらいで、グラウンドや遊具などの設備はしっかり整っているみたい。

しかし……校門が閉じられてていないとは。東京だと考えられないよ、これ。


まぁしょうがないのかな。梨花ちゃんいわく、ここは営林署の建物らしいし。そこを間借りして教室にしてるだけなんだよ。

なのでそれらしい機械も見えて、そういうところがまたタイムスリップしたような感覚を与えてくれる。


「恭文くんー!」


そこで窓からレナが手を振ってきた。どうやら教室はあそこらしく、一応一安心。


「アルト」

≪ほら、美少女が手を振ってますよ。挨拶しないと≫

「やっぱり嫌な予感がする……! それもひしひしと!」

≪だとすると余計に疑問ですけど。本当に何の部活ですか≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その謎を解くためにも、招かれるままに教室へ。……うわぁ、やっぱり木造だー。

梨花ちゃん、レナ、圭一、沙都子……更にもう一人がお出迎え。

その一人は緑髪ポニテで、詩音そっくり。その様子を見て拍手。


「おぉそうか。おのれがえっと、園崎詩音のお姉さん」

「そうそう。初めまして、園崎魅音だよ」

「初めまして。蒼凪恭文だ」

≪どうも、私です≫

「シオンです」

「ヒカリだ。で、こっちがショウタロス先輩」

「ショウタロウっつってるだろ!」


そっかそっか、双子って言ってたものね。本当にそっくり……でも詩音とはまた違う雰囲気でもある。それがまた不思議かも。


「いやぁ……でもほんとシオンとそっくりなんだね! 詩音や圭ちゃん達から聞いていたけど、びっくりだよ!」

「だよねだよね! 実はレナも昨日、いろいろ触れたかったんだけど……というかほら、恭文くんについては声も同じだし!」

「四つ子いっちゃう!? いけちゃうよねー! ……っと、そうだ。
昨日は現委員長と梨花ちゃん、それにレナが世話になったね。元委員長として礼を言わせてもらうよ」

「ううん、こっちも趣味みたいなもんだし」

「あのね、魅ぃちゃん……レナはお世話されたというより、徹底的に振り回されたんだよ? その趣味に」

「レナ、それは何語?」

「日本語だよ! 今まで私達がずっと会話していた言語だよ! ……ほら、これなんだよ!?
レナに意地悪なの! 明らかに、レナに対してだけ意地悪なの! レナ、優しくない子は好きじゃないかな! かなぁ!」


ちょっと何言ってるかよく分からないので首を傾げると、レナは拳を握ってきた。やだー、怖いよー。


「あはははは! おじさん以外の部員ともすっかり仲良しって感じだねー! ……あ、そうだ。
上納金の件、間宮リナと関係者を詰問予定だよ。やっちゃんも悪いけど、こっそりと裏から見ていてよ」

「分かった」

「おぉそうか! よかったな、梨花ちゃん!」

「ありがとうなのです、魅ぃ。……詩ぃと葛西にも、後でお礼を言わないと」

「いいっていいってー。あ、でも詩音へのお礼は忘れちゃ駄目だよ? 結構根に持つタイプだから」

「……竜宮さん」


そこですっと入ってきたのは、ノースリーブワンピースを羽織った青髪女性。

肩までの髪に、どことなくスパイシーな香りが……臭いって意味じゃないよ? 本当にスパイスの香りがするの。


そんな女性が僕を見やるので、礼儀正しくお辞儀。


「あなたは……あぁ、前原さん達から伺っています。初めまして、雛見沢分校で教師を務めている、知恵留美子です」

「お邪魔しています。蒼凪恭文です」

「しゅごキャラのみなさんも初めまして」

「「「初めましてー」」」

「……って、ショウタロス達も見えているんですか!」

「これでも教師ですから」


自慢げに胸を張る知恵先生……なんと素敵なオパーイなんだ! しかも魂が輝いている……これではしゅごキャラが見えるのも致し方ない!


「ただその、頑張って……くださいね」

「え」


いや、知恵先生? なんでいきなり慰めてくるんですか。


「大丈夫です。旅の恥はかき捨てとも言いますし、いい思い出になるはずです」

「あの、なぜいきなり慰めるんですか。まるでこれから地獄が待っているかのように」

「……!」


嗚咽を漏らすなぁ! 顔を背けて打ち震えるなぁ! 先生、こっちを見て……あぁ、やっぱりか! ただの部活じゃないんだ! 何か、敗者必滅的な要素が存在しているんだ!


「そ、それはともかく……竜宮さん、あなたにお電話よ」

「レナに?」

「園崎運輸・興宮配達所の斉藤さんから。荷物を届けにきたんだけど、留守で困っているそうなの」

「えぇ! で、でも携帯……あ」

「切ったままだったんでしょ、電源」


軽くツツくと、レナがギョッとしてこちらを見る。


「どうして分かるの!?」

「ここは学校だもの。授業中は切っておくのがマナーでしょ。更に言えば、配達員は竜宮家にとっても馴染みのある人だ。
少なくともレナが学生で、ここに通っていると知っていて、場合によっては連絡も許している」

「あ、うん。斉藤さん、Amazonのお荷物とかよく持ってきてくれて」

「やっぱり」

「へぇ……なるほどなるほど。これはレナも手を焼くわけだ」

「昨日はもっとエグかったですわよ。レナさんにボディブロー連発ですもの」


おかしい、沙都子ちゃんがヒドいことを……いや、それ以前に怖いんですけど、コイツら。

なんでその、僕がえさ場に飛び込んだ蝶みたいに見られてるの? そこまでどう猛に笑えるの?


「みぃ……レナは恭文に丸裸なのですぅ」

「はう!?」

「そんなことしないよ! 僕はただ……レナの素敵なオパーイが……魂が泣くところを、見たくなかっただけなんだ」

「はうぅぅぅぅぅぅぅ!?」

「……恭文、その胸で魂の質が分かるという理論、多分セクハラの言い訳なので信じない方がいいのです」

「そんなことないよ! 僕は実際に分かるもの! 現に魅音も、詩音も、知恵先生だって素敵に輝いていて」


その瞬間、なぜか光が顔面へ直撃。僕はあお向けにバシッと倒れてしまう。


「な、何言ってるのかな、梨花ちゃん! というか恭文くん、ちょっとデリカシーがないと思うなぁ!」

「今の、なに……見きれなかったんだけど……というか、梨花ちゃんは無傷」

「レナはレナパンという≪光の拳≫を持っているのですよ」

≪……あの、本当に光速だったんですけど。私のセンサーでも捉えられませんでした≫

「車田作品の人間じゃないのさ――!」

「レナ、よかったですね。これでレナの拳が世界最強だと認められたも同然なのです」

「はうー! レナがチャンピオンー! ……って、いけない!」


そう、お電話がある。なのでお話はこれで切り上げ、レナは知恵先生と一緒に教室から出ていく。


「ごめんね……魅ぃちゃん、みんな! すぐ戻るから!」

「分かったー」

「ではみんな、ほどほど……にしなくて大丈夫ですね。なにせ同類なんですから。仲良く元気よく暴れてください」

『はーい』


知恵先生がなんかひどい! 同類ってなに!? なにか一気に見定められた気がする! 僕は悪いことなんてなにもしていないのにぃ!


「……やすっち、アンタの能力は見せてもらったよ。アンタがここに来るべくして来た存在というのもよく分かった。なにせマトモじゃないしね」

「いや、どういう評価の仕方だよ!」

「……では魅音さん、二つほど質問を。
まず現委員長と元委員長というのは」

「最近世代交代があったんだよ。わたしが今年度までの委員長であり、初代部活部長。
で、圭ちゃんがそれを引き継いで、新年度の部長兼二代目部活部長になったの」

「なお二代目就任と同時に、クラス全員が部活メンバーとなったのですが……」

「今日は村外からの挑戦者を出迎えるからねぇ。その実力を元祖部活メンバーであるわたしらで見極めようって話さ!」


なぜ僕がチャレンジャーになっているのだろう。いや、チャレンジャーなのは確かなんだけど、その……なんて言うのかな。

僕は軽いハイキング気分だったのに、なぜかエベレストに挑まされているというか。……そうだ、この空気を表すとしたらコレだ。


「じゃ、じゃあ部活って一体……」

「それは一旦置いといて……間宮リナ達の件だけど」

「答えてくれませんかー!」


魅音は両手で問題を脇に置いて、新しい問題を提示する。それも実に不愉快そうな顔で。


「アンタ、レナには『間宮リナが利用されている』って言ったんだよね」

「うん」

「それについては……本当にごめん。アンタと大石には多分、相当泥を被せる」


それだけで僕も、圭一達も察する。間宮リナ達のやり口が相当にあくどく、処断できるものならしたいレベルだと。


「間宮リナはこっちで止めるよ。店は転勤して、レナ達の前から姿を消す……圭ちゃんや梨花ちゃん達が望んだ方向でね」

「「……」」


暗に『北条鉄平との仲が切れることはしない』と伝えられたので、圭一と梨花ちゃんも安堵する。


「だが、それでレナには何も知らせず……なんだな」

「うん」

「魅音、なにがあった。いや、間宮リナは”なにをした”」

「それは」

「圭一。
……ここだとレナに聞かれそうだしさ。部活が終わって、また集まろうよ」

「じゃあエンジェルモートでも行くか? あそこなら詩音もいるしさ」

「うん、それなら話しやすいし……おじさんも問題は」


そこで教室前方のドアががらりと開く。大きな音が響くのでそちらを見ると、レナが顔面そう白で立っていた。


「レナ、お帰りなのです。……レナ?」

「嘘……だよ……」

「レナ、どうした」

「家に、業者さんが来て」

「あぁ、さっき言ってたな」

「持ってきたの、家具だったの。それもたくさん……でもお父さんがいなくて、受け取りできないって」

「家具?」


レナはそれ以上なにも言わず、自分の席に駆けだし……鞄を持ってダッシュで飛び出す。


「おい、レナ!」


家具、たくさん……みんながぼう然とする中、そのワードと昨日の話が奇麗に繋がる。


「あ…………!」


そうか……魅音の対処は、これが原因か!


「……おい、恭文!」

「分かってる! 魅音、ごめん! 部活参加は延期で!」

「皆まで言うな! レナを追いかけるよ!」

「了解いたしましたわ!」


結局魅音と沙都子、梨花ちゃんも一緒に教室を飛びだした。レナの足はチーターの如き速度で、もう見えなくなっている。

でもマズい……今、レナを一人にするのだけはマズい。そこから魅音が隠したかったものを、見つけてしまったら。


レナは、間宮リナを殺しかねない――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


古手神社の祭具殿――そこは出入り禁止の聖域であり、入れるのは古手家の人間のみ。

それ以外の人間が入れるとしたら、正式に許可を取った上でなくてはいけない。とはいえ特別なものじゃない。

ある女は『雛見沢の黒歴史が詰まっている』とか抜かしたけど、ようは古いものを詰め込んだ物置……こんなことを言ったら、御先祖様に怒られるかしら。


とにかくそんな祭具殿だけど、完全密室というわけじゃない。基本木造だし、換気穴もあるし。

それでも人を寄せ付けぬ空気の中、飛び込んでくる猫がいた。

子猫と言って差し支えないその子は、金色の瞳を緩ませ、体に似合わない俊敏さで飛び込む。


そうしておどろおどろしい仏像や祭具に目もくれず、再奥で輝く宝玉を見上げる。

ビー玉サイズの輝きを……”私”を見上げ、甘い声でひと鳴き。


「みぃ……」


そう……やってくれたのね。助かったわ。


「みぃー♪ ……みぃ?」


そうね、ぱっと見は大したことがないわ。……家具の届け日は明日の予定だった。

でもそれをあなたに協力してもらい、今日に変更しただけ。でもね、今自宅にお父さんはいないでしょう?

恐らくは”間宮リナ”と連絡を取ろうとしているから。恋人を心配するが故に……疑うゆえに。


そして、レナの被害を隠そうと焦るが故に。でもそれは無理……レナはこれから、その絶望を目の当たりにするのだから。

でも男って馬鹿ねぇ。昨日、あれだけ大石と”梨花”、圭一達が言っていたのに……勝手な真似はするなと。


「みぃ……みぃー」


……そうそう……例のダブルだっけ? あの五人にはバレていないわよね。


「みぃー」


そう。ならそのまま……気づかれないよう、様子を見ていて。


「みぃ?」


あの子は怯えているようだけど、私は逆。ちょっと楽しんでいるのよ……この世界の有様を。

確かに不確定要素は多い。最初は戸惑いもした。でもあなたという協力者も起きてくれたし、改めて見てみたいの。


……この雛見沢で何が起きているのか。

私達が一体、何と戦うことになるのか。

そして……私達が何を間違え、何を正すべきなのか。


盤外から、俯瞰視点で……そのためにももう少しだけ、力を貸してくれるかしら……ランゲツ。


「みぃー♪」


ありがとう。……協力してくれる分、あなたにも約束しなきゃいけないわね。

私達の勝利を。そして、何者にも折れない不屈の意志を。そのためにも欠片を紡ごう。

”今までの世界”を振り返り、これからの世界を見つめ、勝利に必要な鍵を揃える。


この雛見沢の未来を、私達自身の未来を戒める≪三つの掟≫を開くために――。


(その6へ続く)








あとがき

恭文「基本は澪尽し編と変わらずだけど、尾崎渚の件はここでばーっと……それでまた追い詰めちゃってまぁ」

いちご「君がやったことのはずなんだけどなー」


(神刀ヒロイン、ほっぺたむにー)


いちご「で、この辺りはアイプラ編の第七話から続いている感じで……」

恭文「詳しくは別項目にある2019年編をご覧ください。で、今日は十月五日――」

いちご(一月五日生まれ)「私の誕生日記念日だよ? うん、だからいつもより特別に、彼氏彼女の日なんだから」

フェイト(とまと設定で五月五日生まれ)「待って−! 私の誕生日記念日なのー! 伊織ちゃんもー!」

伊織(アイマス)(五月五日生まれ)「というか、彼氏彼女の日だったらやっぱりお付き合いしているも同然じゃない……! ……って、そういえば琴葉は」

琴葉「私も今日(十月五日)が誕生日ですけど、唯世君にいっぱいお祝いしてもらったので……もちろん伊織さんや恭文さん、恵美、エレナ達にもですけど」

恭文「そうだった……おのれら、また仲良しさんになって」

琴葉「やっぱりいろいろ気が合うみたいです。……それより恭文さんは……本当に、いちごさんのことをなんとかしないと」

恭文「あ、はい」


(神刀ヒロイン、まだまだ恋愛初心者のようです)


いちご「それでね、恭文くんと一緒に行きたいお店があるんだ」

恭文「えぇ、それはいいですけど……どんなお店ですか?」

いちご「……洋食は飲み物」

フェイト「ふぇ!? え、違いますよ! 洋食は食べ物で、飲み物じゃ……というか飲むものじゃなくて」

恭文「あぁ、あそこですか! え、いちごさんはまだ行ったことが」

いちご「なかったんだー。とんかつは飲み物や、カレーは飲み物なら行ったことはあるんだけど、最近まで知らなくて」

フェイト「ふぇ!?」

いちご「せっかくだし、一緒に食べたいなーって。……どうかな」

恭文「はい、行きましょう! いやぁ、楽しみだなー」

いちご「あとあと、星乃珈琲のオムライスも大盛りで食べようね。デミグラスじゃなくて、昔ながらなシンプルなの」

恭文「……オムライス、食べ比べですか?」

いちご「そう!」

伊織(アイマス)「……アンタ達、なんの話をしているの……!?」

琴葉「そういう名前のお店なんですよ。系列でいろいろ出しているらしくて」


(というわけで、洋食は飲み物というお話でした。
本日のお話:雨宮天『レイニー ブルー』)


恭文「え、レイニー ブルーは徳永英明さんの曲だって? ……実は明日(2021/10/06)、雨宮天さん初のカバーアルバム≪COVERS -Sora Amamiya favorite songs-≫が発売されるのよ! それも全曲歌謡曲カバーだよ!」

大下「懐かしい曲ばっかだなぁ、おい……! あ、RUNNING SHOTのカバー、お待ちしています」

鷹山「なに言ってんだよ……まずは冷たい太陽だろうが」

伊織(アイマス)「さらっと自分の持ち歌を推すんじゃないわよ……!」

恭文「一応歌謡曲の定義には入るから、なくはないんだよね。……映画のたびに新しいバージョンが出ているから、忘れがちだけど」

伊織(アイマス)「そういえば……でもほんと名曲が多いわね。私でも知っているようなのばかり……異邦人とかもあるし」

恭文「異邦人はね、ゆかなさんがカバーした曲でもあるから嬉しいよー。……あ、視聴動画はこちらになります」


(雨宮天「COVERS -Sora Amamiya favorite songs-」全曲試聴動画。
URL『https://www.youtube.com/watch?v=AIuXRYcxWrM』)


いちご「よし、洋食は飲み物へ行ったあとは、カラオケに行こう! いろいろうたおうね−! もちろんパセラだよ!」

恭文「パセラでも食べるんですね、分かります」

いちご「もちろん♪」


(おしまい)






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あきゅろす。
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