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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2019年6月・雛見沢その3 『逃れられないD/滅ぼせない罪を購う道はどこか』




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s 奉祀(たてまつ)り編

西暦2019年6月・雛見沢その3 『逃れられないD/滅ぼせない罪を購う道はどこか』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回までのあらすじ――令和という妙な時代に飛び込んだけど、赤坂に私の声は届いた。だから、なんとかして惨劇に抗う準備を整えていく。

だけど……いえ、今はいい。とにかく詩音との話し合いからよ。


――あれから私達は早速詩音へ連絡。待ち合わせ場所の、興宮の喫茶店に向かう。

そのお店なら私も知っていた。わりと汚い店だけど、チョコサンデーだけは無駄に美味しい。


その筋の人も密談などに使っている場所だ。そんな店まであと少し。


「ねぇ梨花ちゃん、予言を変えるために抗ったことはある」


やや暮れかかった空の下、足を止めずに恭文がそう聞いてくる。蒼色と黒の二色に別れたオンロードバイクを、あの小さな体で器用に押しながらよ。


……そこでつい、苦い顔をしてしまった。

思い出すのは、未来は変えられると思っていた自分。だけど変えられないこともあるんだと突きつけられる前の自分。

フラグっていうのかしら。時の中では、『どうしてこうなった』にもちゃんと理由がある。


両親が死ぬのも、悟史が『転校』してしまうのも、どうしようもなかった。私は余りに無力だった。

今の状態を言うなら、私の死にフラグが立っている感じ。そのフラグをへし折ろうとしたけど、やっぱり駄目で……やめよう。

ヘコむのは後だ。ただ恭文は私の様子から大体のことを察してくれたらしい。


「今回は圭一に譲るけど、僕の力を示すよ。どういう形であれね」

「そっか……これは俺が梨花ちゃんに、それを示す場でもあるか。なら気合いを入れないとな」

「……はい。ただ、詩音には気をつけてください」

「分かっている。詩音、飄々としているけど思い込みが激しいしな」


圭一はさすがに分かっている。……ただ恭文はサッパリだろうから、ちょっと補足しておこう。


「詩音……園崎詩音は、沙都子のことをとても可愛がってくれています」

「そうだ、そこも聞きたかった。……言い方は悪くなるけど、北条家を村八分にしたのは園崎なんだよね。その家の娘がどうしてまた」

「……詩音は元々、遠くの全寮制学校に通っていたのです。ただ、去年戻ってきたとき、兄の悟史と偶然知り合い、親しくなったのですよ。
それで悟史もそういう家の格差はあれど、詩音を相応に信頼していたようで……失踪直前、沙都子のことをくれぐれもと頼まれていたのです」

「まぁその詩音自身、悟史の失踪に相当ショックを受けて……面倒を見出したのはわりと最近だそうなんだけどな。ようやくその余裕ができたというか」

「そう……じゃあお姉ちゃんなのかな」

「そうなのです。ただまぁ、恭文とは気が合うと思うのですよ」


そう、それだけは確信を持って言える。性格的なこともそうだし、なにより……。


「……詩音は、あなたの“シオン“とそっくりですから」

「名前だけじゃなくて!?」

「あぁ! 声や外見、立ち居振る舞いも近いぞ! ……そういや、声だけなら恭文も同じだな」

「必然的に魅ぃ……姉の園崎魅音ともそっくりなのですよ」

「あらあら、それは……まぁ世界を照らす太陽である私と似ているとなれば、相応の人物なのは確かでしょう。会うのが楽しみになりました」

「自信過剰だな、おい……!」


どうしよう、一瞬この二人を会わせてはいけないのではと思ってしまった。なにかとんでもない化学反応を起こしそうで……いや、もう遅いんだけど。

というか、世界を照らす太陽って本気? 髪をかき上げて、迷いなく言い切ったんだけど、詩音もそこまでじゃなかったような。


「まぁでも理解はできました。……園崎妹さんは、そもそも“外側の人間”であるがために、園崎家……引いては雛見沢の風習などには囚われない。
だから北条兄とも親しくなったし、妹さんも可愛がる。……しかし、それは『いい意味でも、悪い意味でも』というジョーカー的な二面性も持ち合わせると」

「そうなのです。しかも鉄平夫妻の粗暴は雛見沢でも有名だったので、これが沙都子の危険に繋がると知ったら……」

「では古手さん、園崎妹さんは、園崎組の権力を」

「使えます」

「年号も変わったってのに、ここだけ昭和の極道ものなやり取りってどうなのよ……」


恭文も呆れ気味に頭をかきながらも、納得した。

……その場合、詩音がとても分かりやすく、短絡的な手段を取りかねないと。


「だったら余計に、僕が睨みを利かせた方がいいね」

「あぁ、頼む。というか……恭文の逸話をいろいろ利用することになるが」

「構わないよ。それで地方のチンピラどもに舐められないなら安い安い」

「チンピラって……いや、経歴通りなら園崎組なんて目じゃない奴らとばっか戦っているけどさぁ!」


本当にそんな凄い奴なのだろうか。いろいろ不安に思いながらも、約束していたお店に到着。

私達は乗ってきた自転車を、恭文はウィザードボイルダー……だっけ? 妙にかっこつけた名前のバイクを留めて、中へ入ると――。


「あ、梨花ちゃまー♪ 圭ちゃんも、こっちですこっちです」


緑髪ロングで、ノースリーブシャツにスカートという出で立ちの女性が、元気よく手を振ってくる。


……あのボンキュッボンなスタイルの女が、園崎詩音。詩音はカウンターに座り、その隣にはひげ面・グラサンな男がいる。

あちらは葛西で、詩音の……付き人みたいなもの。園崎組の組員としては重鎮で、園崎茜の懐刀でもある。


どう見てもまともな取り合わせじゃない。まぁ客層も同じ感じだけど。

とにかく私達はお辞儀した上で、二人の隣へ座る。


「詩音、紹介するのです。こちらはボクを訪ねてきてくれた、蒼凪恭文――第二種忍者さんなのですよ」

「へ!?」


早速答えを突きつけると、詩音が面食らう。葛西も警戒しているのか、目の奥で瞳を輝かせた。


「どうも。第二種忍者のデンジャラス蒼凪です」

≪どうも、私です≫

「……どうも。園崎詩音です。というか……あれ……!? しゅごキャラ! それも三人も!」

「……これは珍しいですね。大体一人に一つなのですが」


あれ、詩音と葛西もしゅごキャラが見えるんだ。詩音はともかく、葛西は……ちょっと意外かも。


「しかもそちらの方は……詩音さんと」

「ほんとですねー! あなた、お名前は?」

「初めまして。園崎妹さん。……私はシオン」


そうしてしゅごキャラのシオンは天を指差し……ちょっと、なによこれ。なんかいきなり後光が差してくるんだけど。そこの天井には照明とかないのに。


「世界に希望を照らす聖なる太陽。
そして可能性を縛る鎖に、破壊を突きつける焔――それが私です」

「あはははははは! この子面白いですねー! というか名前と声までそっくりって!」

「ボク達もびっくりしたのですよ……。宿主の恭文もさっきまで驚き玉手箱だったのです」

「気持ちはよく分かります……っと、自己紹介が遅れました。
私、園崎の方で仕事をさせてもらっている、葛西と申します」

「初めまして。……ひとまず僕がいる事情も説明しますので……ただ、葛西さんもそういう立場なら、いろいろ協力していただきたいなとは」

「それは、公務ということでしょうか」

「そうなるかもしれません」


とにかく私達もカウンターへ座り、早速お話開始――。


「で……どういう状況なんですか。しかも葛西までって」


そこで詩音の視線がやや鋭くなる。温和な笑顔は変わらないけど、問い詰める気満々。

葛西もグラサン越しから、変わらずに眼光を送っていた。


「あー、ここはそれなりの話もできる場所ですから」

「だろうねぇ。何人か睨みつけてくるもの」


恭文は無言でされた水を飲みながら、平然と言ってくる。そこで詩音が大きくため息。


「葛西ー」

「すみません、話の内容が分からなかったので……それで梨花さん」

「……詩音、葛西。間宮リナという女性に聞き覚えはありませんか。紫髪ショートで、やや派手めな」

「私はない、ですね。葛西」

「……園崎系列の店で働いているホステスですね」

「そのホステスが取り巻き達と、園崎の上納金を奪おうと計画しているのです」


…………あぁ、私も気づいた。二人だけじゃなくて、周りの人間も視線が厳しくなる。それが肌にちりちりと突き刺さってきた。


「その相談を図書館でしていたらしい。梨花ちゃんは読書感想文の題材を探しているとき、たまたまそれを聞いた」

「その直後、たまたま出くわした圭一に相談したのです」

「じゃあ、そちらのデンジャラスさんは」

「五年くらい前、梨花ちゃんと仲良くなった刑事さん……から頼まれて、届け物をしにきたんだ。
そうしたら、たまたま物騒な話をしていてさ。二人も相当困り果てていたから、見過ごせなくて」

「なるほど……それで私達に声をかけたわけですね。
あれですか、やっちゃんは事件が起きてからじゃないと動けないとか」

「少し違う。……ここで北条鉄平と沙都子が絡むんだ」


圭一の言葉で、詩音の視線が鋭くなる。理不尽ではあるが、不快感と怒りを交えたものになった。


「どういうことですか」

「その男、間宮リナのヒモらしい」

「はぁ!?」


詩音は目を丸くし、葛西へ振り返る。葛西はやや苦い顔をしながら頷いた。その事実は知っていたみたい。


「そんな間宮リナが園崎組の上納金に手を付ける。そうした結果、間宮リナと協力者達は当然……問題はその後だ。
ヒモな北条鉄平は行き場をなくす。そうして雛見沢にある実家へ戻り、生活のため沙都子を引っ張る」

「は……!?」

「北条鉄平、死んだ叔母共々家庭内暴力を振るっていたんだよな。それで村の人達も助けられなかった。
ダム戦争からの遺恨があるから……それでも、奴らが親族だから。梨花ちゃんはそれを危惧してる」


圭一が混乱している状況に乗じて、まくし立てるように状況説明。その上で、イエスかノーで結論を求める。


「詩音、俺は北条鉄平が……殺された叔母がどういう人間かは知らない。
だから教えてくれ。梨花ちゃんの予想は、あり得るのか」

「それは……あ、あり得ます。アイツらは沙都子達にひどいことばかりしていて」

「……俺達はそれを止めたい。そのためには、どうしても詩音と葛西さんの協力が必要なんだ」

「……前原さん、それは……上納金に手を出すのを、見過ごせということですか?」


さすがにあり得ないと言わんばかりに、葛西の声に覇気がこもる。しかし圭一は怯まずに首を振る。


「さすがにそれは言えません。ただまぁ、制裁したら制裁したで、こちらの第二種忍者が潰しにかかりますが」

「御冗談を……幾ら忍者と言えど、園崎組を敵に回すなど」

「……恭文はTOKYO WARや核爆発未遂事件を解決した、超腕利きエージェント。そう言ってもですか」

「「…………!」」


……あぁ、やっぱり有名な事件なのね。二人の表情が一気に変わったもの。


「ちょっと、TOKYO WARって……!」

「これは、驚きました。あの事件を……なるほど、ただ者でないのも当然か」

「みぃ……やっぱりその事件、有名なのですか?」

「有名ですよ! 梨花ちゃま、どうしてそれを……あ、そっかー」


詩音は私の”嘘”に思い当たったのか、右手でおでこをパチンと叩く。


「圭ちゃん、その辺りってまだ」

「治っていないらしい。まぁこんな話も聞かされたし、致し方ないが」

「……圭一、園崎さん」

「しゅごキャラちゃんと区別するのも大変ですけど、私も詩音で大丈夫ですよ? 可愛い忍者さん」


恭文がちょっと遠慮しているのを感じたのか、詩音は明るく笑う……が、すぐに私を……とても、可哀想な感じで見始めて。


「……梨花ちゃま、悪い夢を見ていたそうで……今が昭和五十八年だと勘違いしていて。
スマホやネット関係もさっぱり分からないし、知識も少し前から逆行していて」

「……病院は」

「早退して行ったのです。その後、図書館まで出向いて……今は、二〇十九年」

「えぇ」


そうらしいの。一体どうしたら、三十六年も時代が進むのか……! しかもスマホやパソコン、ネットやら以外は、生活環境も変わりなしって。


「魅音が楽しみにしていたファミコンは、もう出ている」

「出ているどころか何世代も切り替わって、今はプレイステーション4とNintendo Switchの時代ですよ?」

「じゃあ、中森明菜さんは」

「現在も活躍されていますが、アイドルではなく本格的な歌手としてです。……彼女もいろいろありましたが、すばらしいことです」

「東京ディズニーランドは、開演直後」

「直後どころか、開演して三十年以上経(た)ってます! 二〇〇一年にはディズニーシーっていう兄弟施設もできたんですから!」


……状況が余りに特異的過ぎて、頭を抱え震えてしまう。

そんな私の隣で、恭文は静かにメモ……それで納得して、相づちを打ち始めた。


「これは、確かに……初代ファミリーコンピュータの発売は、昭和五十八年・七月。
中森明菜さんはその頃デビューしていたし、ディズニーランドは四月に開演していた」

「見事に時事ネタを振ってやがるな……!」

「みぃ……これは、徐々に思い出していくのです。それで話を戻すですけど」

「おぉそうだ。……僕としては”事件が起きなければ”何も言いません。
起きたのに隠したら暴きますし、隠した奴は全員地獄行きにしますけど」


嘘は許さないと宣言すると、葛西も困った様子。


……恭文相手に権力や半端な圧力は通用しない。

圭一は今並べ立てた事件を、その証明とも言っていた。ヤクザどころか国家権力相手でも怯まず戦ったと。

だけど本当に、そんな凄い奴なの……!? いや、何度も疑問に思うのは失礼だけど……許してよ! 本当にそこは許して!


だって、令和なのよ!? 昭和どころかその次の年号すら通り越しているんだから! それでどうして……全てをそのまま受け入れるとか無理よ!

そもそもスマホってなんなの!? 電話っていつ持ち運びできるようになったの!? もう怖い! 祟り云々じゃなくて、世界の変わりようそのものが怖すぎる!


「ただそちらが間宮リナを突きだしても、やっぱり北条鉄平の帰還は止められない」

「まぁ、そうなりますな」

「ほんと、忌ま忌ましいにも程がありますね。あれだけ沙都子を苦しめておきながら……」

「いっそ中島みゆきさんの『世情』でも流しながら、市中引き回しにする? そうすれば感動シーンに変わって、更生するかも」

「するかぁ! というかお前もか! お前も梨花ちゃんに続いて昭和ネタ全開かぁ!」

「……蒼凪さん、自分が言うのもあれですが……今時、金八先生第二シリーズのネタは通用しないかと」


この中で一番年上な葛西ですらビックリな、恭文のボケ。

ほら……詩音にいたっては、何が起きたのかって目をパチクリさせて。


「でも詩音や園崎組が、北条鉄平を始末するよりはマシでしょ」

「……!」

「……まぁ、確かにな」


でも……そのの目には怒りの炎が宿っていた。


……詩音はとても強い。

だけどその強さには危うさがある。思い込んだら一直線というけど、詩音はそのまま狂気に身を委ねかねない。

そういう、『予言』もあったの。家族や友達を殺しに殺して、結局その動機そのものが勘違いだったと気づく。


そうして絶望し、最後は本当に狂って死ぬの。そんな詩音の狂気がかいま見えて、嫌な予感が走る。

もしかしたら詩音は八つ当たりでも、たとえ無茶でも、完全に沙都子を守りぬくため北条鉄平達を……恐怖に震え始めていると。


「そっちは……ひとまず僕が雛見沢にいる間だけになるけど、僕を頼ってくれていいよ」

「え」


恭文が一つ、見かねたように提案してきた。


「葛西さん、北条鉄平というのは……叩けば埃の出る人間ですか?」

「……そうですね。極道である自分がいうのもあれですが、園崎組も時勢を鑑みて、新たな方針を模索しているところです。
ですが……北条鉄平については、そんな園崎組でも御法度なことをやらかしている形跡も見られます」

「具体的には」

「薬物などでしょうか」

「だったら話は簡単。そんな問題人物に……上納金を奪い取るような阿呆のヒモに、育ち盛りの子どもを預けることはできませんよ。改心の最中だって言うならともかく」


あぁ、なるほど……そうかそうか。そこも気づくべきだった。

詩音が外から来た風で、良悪を問わず雛見沢の因習に……ルールに囚われないのであれば、恭文もまた同じなんだ。

それに筋は通っている。恭文自身の身柄もしっかりしているのなら、変なところに預けるよりは……。


「なので詩音、初対面であれだけど……本当に、短絡的な行動は控えてよ。僕も素敵なオパーイの女性に手錠をかけるのは忍びない」

「……あの、やっちゃん? さすがに公僕でいきなりセクハラはどうかと」

「女性は魂の輝きが、オパーイに現れる。ならば……素敵なオパーイを持つ詩音は、魂がダイヤモンドのように輝いている! それが曇るなんて許せない!」

「なんですかそれ!」

「蒼凪さん……あの、大丈夫ですか。もしや熱中症では……目が本気なのですが……!」


…………かと思ったら……なんかおかしいことを言い出したんだけど、コイツ! 魂ってなに!? この脂肪の塊にそんな能力があったの!? それが令和なの!?


「おい、アルトアイゼン……お前ら……!」

≪私の元マスター……剣術の師匠が、六歳のこの人に悪いことを教えちゃったんですよ。
あと異能力者として持っているセンスも相まって、本当にそういうものを感じ取れちゃうので……≫

「そこと結びついてでき上がったわけか! オパーイ=魂理論という狂った解釈が!」

「……どうして、やっちゃんはそう思うんですか。いえ、オパーイの話じゃなくて……仮に……仮にですよ?
それで警察にもバレず、北条鉄平達を排除して、沙都子も安全になる……万々歳じゃないですか」

「人を殺して排除することは、損だよ。そいつが悪党かどうか……自分が正義かどうかを問わずにね」


すると恭文は、損得の話をし出した。感情論などではなく、損得の……計算の話を……。


「クロスボーンガンダムDUSTって……ガンダム関係の漫画作品でも言っていたんだよ。
たとえば、ここの名物ってなにかな」

「……いちごサンデーですね。葛西やうちの組員……私もよく食べに来ます。ほんと絶品なんですよ」

「そのいちごサンデーが、一日に……百食売れたとする。単純計算で一年なら三万食以上。それが三十年続けば百万食近い人達が、いちごサンデーを食べて、幸せになる。
辛いことがあったけど、明日も頑張ろうって思う人もいるかもしれない……。
単純に食べるのが楽しみな人もいるかもしれない……。
もしかしたらここのいちごサンデーがキッカケで、お菓子作りに興味が出て、職人さんなり喫茶店を開いて……将来、誰かに幸せを届ける人だっているかもしれない……。
でも……ここの店主さんに何かあれば、その百万食近い“可能性”が一瞬にして、全部消え去る」


恭文がした話は、完全に仮定の話……もしもの話。でも、もしかしたらあり得るかもしれない可能性。


「人が死ぬ……その人がやってきた仕事が消えるっていうのはね、それだけ重大な“損失”を生み出すんだよ」

「でも、北条鉄平は」

「それでも殺して止めることが正しいなんて言い切りたくない。……それは罪だ。
北条鉄平も……間宮リナも……僕が今まで戦って、殺してきた悪い奴らだって、もしかしたらそんな可能性をどこかで作っていけたかもしれない。命はそういうものだって忘れたくない」

「…………」


それは、覚悟の問題でもあった。

恭文は殺して止めることは否定していない。自分も戦いの中でそうしてきたから、それが正しいときもあると知っているから。

……だけど、決して最善手ではない。その可能性を踏みにじることは、損だと……罪なのだと、自らに言い聞かせていた。


正義という強さに甘えてはいけない。自分は神様ではないから、そんな判断はできない……そう戒めるように。


「なにより、本当に北条鉄平が“そうするしかない奴だった”としても、おのれらが損をする」

「どうしてですか。それは、私達にとっても得です」

「……葛西さん、たった今言ったよね。時勢を鑑みて、新しいやり方を模索しているって。
でもその力をこんなことに……アイツらを殺すことに使えば、その道は当然遠ざかる。今園崎組を変えたいと思っている人達にとっては大損だ」

「蒼凪さん……」

「もちろんおのれも損だ。理由はどうあれ、お前は沙都子ちゃんの肉親を殺す。
そいつがどんなに最低で、どうしようもないくそったれでも、沙都子ちゃんは“また”肉親を失う」

「――!」

「圭一達から聞いた。おのれは失踪した北条悟史に、沙都子ちゃんを頼まれたんだよね。
……その結果が“それ”なの? それは、北条鉄平や間宮リナがやっていることと……なにが違うのよ」

「………………」


それで恭文は問いかけている。

悟史が託したものは……詩音がそれを達成するために選んだ手段は、本当にそんな“損”ばかりのことでいいのかと。

それが損だと……悪だと戒めもしない暴力を振るうことは、鉄平達がやってきたこととなにも変わらないと。


……その考えは……正直私にはなかった。頷きがたいほどに衝撃だった。

だって私は……アイツを……鷹野を……古手梨花を殺そうとする害悪に対し……結局……。


「……詩音さん」

「えぇ……分かっています! 負けですよ、負け! なんの反論もできません!」


だから詩音も、葛西に窘められながらも……やっていられないと頭をかきむしり、頼んでいたアイスコーヒーを一気に飲み干す。


「……でも……それで沙都子が救えなかったら」

「だから僕を……圭一達を頼れって言っているのよ。少なくとも僕は、沙都子ちゃんの保護については全力を尽くすと約束したよ?」

≪ある人が言っていましたよ。自分の血の色……本質というものは、努力だけでは変えられない。でも、そんな自分とは違う色を重ねられれば、未来を塗り替えることはできるかもしれないと。
……あなたや園崎組が孤軍奮闘することで“その程度”の答えしか出せないなら、違う色も巻き込めばいいんですよ。そうすれば少なくとも選択肢は増える≫

「それは、本当に……信じても……」

≪「あぶまど、嘘吐かない」≫

「なんですかそれはー! 本当にもう……おかしいんだか楽しいんだか、分からない人ですね!」


詩音は楽しげに笑い、すっかり気に入った様子で恭文達を見やる。その目からは……もう思い詰めたような狂気は消え去っていて。


「なら、私達とは違う色であるあなたにおたずねします。それは最悪の手段として……実際に上納金の方は、どうするんですか」

「もちろん、また別の色を重ねる。……圭一がアイディアを思いついてくれたからね」

「いいか、詩音……本当に簡単な話なんだ。俺達は、葛西さんにこう提案すればいい」

「……えぇ」

「葛西さん、前提を置きます。梨花ちゃんが聞いた話によると、奴らは鍵束のコピーを作っている最中。
それは夜の七時頃に完成して、即刻決行です。つまり、対策するなら今日中にしないといけない」

「ではお聞きします……具体案は」

「今すぐ間宮リナ達を詰問するのはどうでしょう。……全部知っているんだぞと」


……その余りにアッサリとした答えに、私と詩音はあ然とし。


「「……はぁ!?」」

「……梨花ちゃん、もしかして本当に気づいてなかったの?」

≪だから言ったでしょ。早急すぎるって≫


うわ、この忍者達は気づいていたんだ! それで哀れむような目を……腹が立つわね!

というかなんで!? それ、ただの告げ口よね! それでどうして解決……そこまで考えて、ようやく納得できた。


「ぁ……!」


自分が早計だったのも理解した。そうだ、解決する。私は前提から間違っていた……恭文も言ってたじゃないの!

目的は、事件を未然に防ぐことだって!


「それは詩音もだな。梨花ちゃんは北条鉄平のことはあれど、間宮リナ達の計画を教えてくれたんだぞ。
これが事件後に伝わったならともかく、今は起こる前。当然裏付けを取って、事前対処するのが基本だろ」

「そして事件さえ起こらなければ、園崎組が『ケジメ』を付ける必要はない。ですよね、葛西さん」

「えぇ……まぁ」

「しかも奴らは、図書館なら大丈夫ってタカを括っていた。そこで『全部知っているんだぞ』って告げられたら……どうなる」

「そりゃあ、ビビりますけど!」

「ならそれでいいんじゃ……そういう話だ」


圭一がまたアッサリと意図を説明し、私達は納得するしかなかった。


「幸い奴らは手口をあらかたバラし、梨花ちゃんはそれを聞いている。もし話した通りに動いているなら、裏付けも楽なはずだ」

「……それも元として、間宮リナ達を我々で追及すると。それなら、確かに」

「事件は未然に止められるし、さすがにそんな、落とし前―なんて話には……なりませんよね、葛西」

「相応のペナルティーは出しますが、それだけかと……いえ、そうですね。確かに我々も早計でした。こうして教えていただいたことそのものが解決策だというのに」


葛西も表情を緩め、圭一と私達にお辞儀……。


「みなさん、ありがとうございます。……私の方で美味く……穏便な形での処置をしておきたいと思います。
警察に迷惑もかけず、園崎組を変えたいという仲間達に損をさせない……堂々としたやり方で」

「葛西さん、ありがとうございます」

「よろしくお願いします。……どうだ梨花ちゃん、やってみるものだろ」

「……葛西の懐があればこそなのですよ」


素直に認められずそっぽを向くと、圭一はそれでもいいと言わんばかりに、私の頭を撫でてくる。


「いや、実際助かっています。……実は間宮リナと仲間数人が図書館に集まったという話は、私の耳にも届いていまして」

「みぃ……そうなのですか?」

「ただ『なぜか』は調査中でした。金銭絡みと思っていたのですが、まさか上納金までとは」

「葛西、そう言うってことは……間宮リナは」

「フラワーロードの『従業員』ですが、同僚と金銭トラブルを起こし、最近は出勤も滞っているそうで」


一応補足――フラワーロードというのは、興宮の歓楽街。そこの従業員となると、『お姉さんがいるお店』になる。


「更にあちらこちらに借金も相当あるらしく、リナの名前を聞いていい顔をする人間はいません。
……そんなリナが北条鉄平と組んで、結婚詐欺をやっているというのは聞いたことが」

「……葛西?」


葛西は北条鉄平との関係を知っていた。その事実がサラッと漏れて、詩音の冷たい視線が向けられる。


「すみません。北条悟史くんのこともあるので、詩音さんの耳には」

「いえいえ、分かってます。……暴力も結局は罪で悪」

「あぁ、そうだ。だからお前自身も守るんだぞ? お前ももう……沙都子の幸せなんだ」

「どうでしょうね。野菜嫌い克服のため、相当いじめてますし」

「それでも何だかんだで受け入れてるじゃないか。ただまぁ……あれだ、海外の吉野家みたいな温野菜丼は……やめてやれ」

「うわぁ……!」


あ、恭文も知っているのね、海外の吉野家……牛丼屋で出している『野菜丼』。私も圭一から聞いて戦慄したんだけど。


「温野菜丼? 前原さん、それは」

「丼ご飯の上に、ブロッコリーとカリフラワー、ニンジン、キャベツなどの茹で野菜が載っています。肉などは……なしで」

「それは……できれば、別々で食べたいですね」

「それを……今日のお昼に持ってきやがったんですよ! 詩音のアホは!」

「……詩音さん」

「アホってなんですかぁ! 葛西もその、哀れむような目はやめてください!」


そう、葛西は哀れんでいた。サングラスの奥で瞳が揺れ、沙都子に合掌までし始める。


「なお、味の感想としては【別々に食べたかった】――その一点に尽きる」

「みぃ……さすがのボクも、沙都子が可哀相だったのです。
レナも同じくだったので、きっと今日のお泊まりでは美味しいものが一杯出てくるのですよ」

「梨花ちゃままでー! 私はただ、沙都子の健康を願っているのに……ちゃんとドレッシングも用意して」

「下がご飯だぞ!? というか、そもそも丼としての調和はどうしたぁ!」

「ちなみに吉野家ではつい最近、ヤングコーン・オクラ・ブロッコリー・サツマイモ・赤パプリカ。
黄パプリカ・インゲン・ニンジン・キャベツ・ニラ・玉ネギ――合計十一種類の温野菜が載っている【ベジ丼】を出しました」


そこで恭文がさっと補足。……いや、それもまた凄いんだけど。


「でもそれは食べやすいように、ごま油ベースのうま塩だれに絡めています。牛丼やカレーとの相掛けもOKです」

「カレー……それなら野菜多めの一食として楽しめそうですね。
……詩音さん、やはりそういう小技を効かせた部分から攻めてはどうでしょう」

「私の、やっぱり駄目ですかぁ?」

「駄目というか、逆効果になるかもよ? 発達障害などがあると、偏食は感覚過敏も絡むし……克服を強いられた記憶がトラウマになって、見たり思い出すだけで吐き気を催す場合もあるし」


あぁ、そういうのはあるわね。無理強いのせいで余計に嫌いに…………待って、発達障害ってなに?


「僕もそのままのコーンやミックスベジタブル、生のトマトは同じ理由で駄目だしさ」

「え、待ってください。じゃあやっちゃんはその……」

「ASDとADHDの合併症。手帳も取得しているんだ」


そこで恭文が出したのは、青い……障害者手帳……!? え、障害者って……ちょっとそれ、どういう……というか発達障害がなにか分からないから、本当によく分からない! 完全に置いてけぼりなんだけど!


「そうだったんですか……。いや、なんかすみません。変な話しちゃって」

「いいよ。それよりは詩音の野菜丼だって。……あっちの野菜丼も、相応の研究がされた上でのレギュラーメニューなんだよ?
素人が半端に真似したら……ただの飯まずだよ」

「飯まず!?」

「否定はできませんね……。実際ベジ丼の技は、聞くだけでもかなりのものと予測されます」

「葛西まで……で、でもそれは嫌です! 沙都子に料理ができない女とは思われたくありません!」

「沙都子ちゃんはおのれの彼氏か!」


――そうして詩音は飯まず温野菜丼を改善すべく、また良くないハッスルをする……そんな流れの中、私はやっぱり置いてけぼりだった。

昭和の……私の知識にはない言葉。つまりあの、令和っていうのになる段階でなにか分かった感じなのよね。


……入江に聞けば分かるかしら。状況的に顔を合わせたくないけど、鷹野もなんか、詳しそうだけど。


「……でも梨花ちゃまも災難でしたねー」


いろいろ混乱していると、詩音はお冷やを一気に飲み干し、私に笑いかけてくる。


「まだ記憶の混乱が続いているのに」

「……入江もお手上げな、不治の病なのです。それに詩ぃの飯まずも」

「私は飯まずじゃありませんー! 見ていてください……沙都子や梨花ちゃまが目を丸くするような、最高の温野菜丼を作ってみせますから!」

「……既にみなさん、目を丸くしていると思われますが」

「全くだ……!」

「そういうときは、甘いものでも食べてリフレッシュしようか」


恭文は笑ってメニューを取り、でかでかと載っているいちごサンデーへくぎ付けになる。


「よし、それじゃあここは私がおごりますよ! 好きなもの、じゃんじゃん注文してください!」

「じゃあいちごサンデー」

「だな! さっき注文していた奴のを見たが、オーラが違うぞ! ここのは絶対美味い!」

≪……ヒカリさん、あなたはまた……≫

「俺もだ!」

「ボクも頼むのですー」

「私も」

「ちょ、葛西は違いますよ!」

「い、いえ。私はついでですので、お気になさらず」


ごつい顔なのに葛西は甘いものが好きらしい。それがおかしくて、みんなで笑いながらお茶の時間。

なおこのお店のいちごサンデーはほっぺが落ちる勢いだった。外見だけで中身は判断できないらしい。


――その後私達はお店を出て、その軒先でお互いにお辞儀。


「「「詩音、ごちそうさまでした」」」

「いえいえ。そういえばやっちゃん、宿泊先はどうするんですか」

「興宮のホテルを取ってあるけど」

「あららー。それで素敵な女性を連れ込んで、アバンチュール……もう、やっちゃんったらー。駄目ですよ、私には心に決めた人が」

「しないしない……。というか、婚約者もいるし」

≪いいじゃないですか。ハーレムなんですから≫

「し!」

「なんだとぉ! 貴様、それはどういうことだ! あとで詳しく聞かせ…………いや、ちょっと待て。みんな、落ち着け!
俺自身がハーレムをするどうこうではない! ただ、男として知らなければならないと思っただけだ! それだけなんだ!」


なぜ、圭一がいきなり周囲の……通りすがった人達の視線すら気にして怯えだしたか。それについては多分今は触れない方がいい。悲しくなるだけだから。


「というか、ハーレムってまたどうして」

「その、もう幸運というか光栄というか……僕をシェアするって勢いで飛び込んでくる人達がいて。それで僕も……みんなと一緒だと、いいなって……ちゃんとお金のこととかも含めて、話し合っている感じで」

「あらま、ちゃんとしているんですねー。みんな纏めて愛してやるーって感じかと思っていたら」

「さすがにそれは無理−! ……障害のことだってあるし、うん……きちんとしないと」

「あぁ、なるほど……」

「人生を変えるかもしれない選択なわけですし、相応に向き合う姿勢は立派かと」

「……ありがとうございます」


……でも恭文と詩音はノリも似ているのか、すっかり仲良くなった。その様子がほほ笑ましいのか、葛西の表情が緩む。

でもその障害って、やっぱりこう……メジャーなの? 私は本当に置いてけぼりなんだけど。


いや、その前に……そんな葛西へ向き直り、ぺこりとお辞儀。


「葛西、お話を聞いてくれて、ありがとうなのです」

「こちらこそありがとうございました。……間宮リナの件は、上手く処理しますので」

「よろしくです」

「よろしくお願いします、葛西さん。じゃあ詩音、またな……温野菜丼は、もうやめるように」

「そっちはしっかり試作し直します! 例のベジ丼……カレーとの合わせ技なども参考になりそうですし! というか、カボチャとかカレーに合うやつじゃないですか!」

「お前……!」

≪……まぁ、カボチャをカレーに入れるくらいならいいんじゃ≫


あぁ、明日も沙都子が地獄に……ただ私達も止めるのが大変だと分かっているので、葛西にただただ平服。


「「――葛西さん、よろしくお願いします!」」

「よろしくなのですよ、にぱー☆」

「……それは、自分が止めろということでしょうか」

「葛西、考え方を変えるのです。……間宮リナを生かすよりも楽だと」

「はぁ……いや、しかし詩音さんですから、逆に難しいとも」


そうして話を纏めた上で、興宮を出て。


「あぁ……ちょっと待ってください」


温野菜丼について考察していた詩音が、突如真剣な表情で呼び止めてきた。


「なんだ……まさか、俺達に試作を手伝えと? 絶対にお断りだ」

「詩ぃ、まず自覚をしてください。あの温野菜丼を出し続ける限り、あなたは飯まずです」

「揃ってひどくありませんか!? というか、梨花ちゃまは一緒に持ってきたカボチャの煮付け、美味しいって言ってくれましたよね!」

「あれを百点満点とするなら、温野菜丼はその後四百年の評価を帳消しにするひどさなのですよ。にぱー」

「世紀をまたぐんですか、私のこん身作」

「……!」

「……こら葛西! こっそり笑うなぁ!」


さすがにそれは嫌なので、本気で下がろうとすると……詩音は手を振って詰め寄ってくる。


「とにかく、そっちじゃないんです。実は店を出る前、マスターからちょっと言われまして」

「あ、もしかして騒ぎすぎて、僕達が迷惑を」

「そっちでもないんです。……例の間宮リナと北条鉄平が、数日前――あの店に来ていたそうで」


詩音は厳しい表情を浮かべながらも、右人差し指をピンと立てた。


「そのとき二人は、新しいターゲットの話をしていて」

「ターゲット……結婚詐欺か!」

「店に来た客をたらし込んだとか。しかもソイツ、相当羽振りがいいようで……もっと搾り取れるって楽しそうに」

「どうしようもない奴らだな、おい……!」


そこでつい身構えてしまう。そうして思い出されるのは、危惧していた彼女のこと。

オレンジショート髪を揺らし、いつも笑顔を絶やさない……だけど本当はとても冷静な子。

彼女もまた、『予言』の中で過ちを犯した。そのときのことが思い出され、血の気が引き始める。


「問題は、そのターゲットの名前が」

「あぁ」

「……”竜宮”、なんですよ」


そこで圭一が息を飲む。強く……驚いたように。


「おい、それは……!」


あぁ、やっぱりだ。


「圭一、詩音」

「そっか……やっちゃんはまだ会っていないんですね?
……竜宮レナさんという人が、雛見沢分校にいるんです。圭ちゃんやお姉、沙都子達の部活仲間ですよ」

「あぁ、そういう……」


北条鉄平の帰還が止められたと思ったら、どうして……。


「ここでアレがくるなんて……やっぱり、神様は意地悪なのです」


ここは、本当に最後の世界なのに。令和だなんだと訳が分からない状況でも、なんとかしなきゃいけないのに。なのに……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


深い深い闇……いいえ、そう言うには明るく居心地のいい、日だまりが差し込む場所。そんなところに私はいた。

そこにいても、欠片を通して世界が……雛見沢という盤面が見える。それがうれしかったり、ありがたかったり。


でも北条鉄平の帰還……それはうまく阻止できたようね。でもあのイレギュラー、なかなかやるじゃない。


「……みぃ……」


あなた、なんだか誇らしげね。……って、そうか。一度会ったことがあるのね。あの魔法使い達に。


「みぃー」


えぇ、そうね。あなたの言う通り……繋げる輝きを持っている。

まさか、人を殺すことを損得勘定で、あそこまできっちり悪だと言い切るとは思わなかったけど。というか、漫画の台詞だっけ? 令和の漫画なら一度見てみたいわ。

……まぁ、それもこれも……今手元にある欠片を一つ一つ見直すことが終わってから……になるけど。


「みぃ……?」


え、あの子に事情を説明しなくていいのか……ですって? そうね、最初は驚いたわ。なにせこんなこと一度もなかったもの。その上令和なんて時代にもなっている。

だけど、それにも意味があるって……今は思えるの。だからまずここで、今までの私達を振り返っていくことが……私の戦い。

あの子には悪いけど、しばらくは頑張ってもらいましょう。それで危ないときは……あなたもヒントを出してあげてね。


「みぃー♪」


ありがとう。じゃあ……まずは鬼隠しの欠片から。これが本当に基本……最初の欠片だもの。

……きっと、今のままじゃ敵には勝てない。だけどもし本当に、違う色を重ねて……未来を塗り替えられるとしたら。


まず私は、私自身の色を改めて知る必要がある。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――彼女は必死だった。ただ必死だっただけ。

幸せになりたくて、家族を守りたくて……と、梨花ちゃんは告げる。

でもその気持ちが、それだけの気持ちが苛烈に燃え上がったとき、とんでもない呪詛となり、自分すらも食い殺す。


……なぜ詩音が結婚詐欺の話をしたか。そしてなぜ梨花ちゃんが動揺しているのか。

その答えも二人と別れてから、圭一と梨花ちゃんに確認したところ……人気のない公園は、ひぐらしの声すら静まりかえるほどに重たい空気へと包まれて……。


「――詩音が圭一と……診療所の鷹野さんと、その恋人の富竹さんの四人で、神社の祭具殿に忍び込んだ。その結果富竹さんと鷹野さんが殺されて、詩音は次に自分が殺されるかもと恐れ、家族を殺す」

≪園崎家が裏で糸を引いている……いえ、実質的に祟りの代行人となっていることが原因でしたね≫

「はい……」

「――それや北条鉄平の帰還とは別に……間宮リナの美人局に引っかかっていたのが、その竜宮レナのお父さん。
竜宮さんはお父さんを守るため、二人を殺し……かぁ」


竜宮レナ……圭一達の友達。その子がそんな凶行に及ぶ予言も、梨花ちゃんは見ていたらしい。

だから世駅に、北条鉄平や間宮リナへの言葉や対応がキツいと納得できた。そりゃあ……友達の人生をめちゃめちゃにするならねぇ。


「でも、入江診療所……」

「知っているのですか」

「赤坂さん、雛見沢滞在時に怪我をしたんだよね。その治療でよくしてもらったって聞いていたから」

≪実はあなた以外にも、当時の先生がいるなら改めてお礼を伝えたいと言っていまして。後日伺う予定だったんです≫

「そうだったのですか。それなら大丈夫なのです……所長の入江もそうですが、スタッフのほとんどは診療所設立当時から在住していますです」

「その鷹野さんも?」

「はいです」


それはつまり、入江機関設立当初から……とも取れるわけで。なら鷹野三四も入江機関のスタッフと見ていいかな。


「じゃあ富竹さんというのは。その人も鷹野さんともども、どんな“予言”でも殺されるんだよね」

「その鷹野と親しいカメラマンなのです。年に数回雛見沢へやってきて、写真を撮っていくのですよ。
雛見沢周辺の自然とか……あと、綿流しのお祭りも」

「俺も転校してきてから面食らったが、題材としてはありなんだよな。どこもかしこも、二十一世紀とは思えないしよ」

「ちなみに、親しいって言うのは。そんな人達だったら祭具殿侵入が禁忌ってことも、当然……単なる顔見知りじゃないよね」

「みぃ……男女の秘め事に首を突っ込むのは、野暮というものなのです」

「あぁ……そういうことね」


なら、その富竹って人も入江機関のスタッフ? 年数回ってことは、出張してくる感じなのかな。

それなら入江診療所も調べたいなぁ。忍び込んで、データにアクセス……いや、やめておこう。

少なくとも僕が直接的に侵入するのは禁止だ。当然防犯システムも張っているだろうし、人がいなくても危険過ぎる。


やるなら外部回線を通じて……とはいえ、アクセスがバレたら無駄に警戒させる。そこが一番の問題だ。

もし入江機関やプロジェクトが、梨花ちゃん殺害に絡んでいた場合……火に油を注ぐことにもなる。

何より梨花ちゃんは現時点でも、多くのことを隠している。確証を掴まないうちに、不用意な行動は避けるべきだ。


「動機は」

「鷹野は村でも有名なオカルトマニアなのです。雛見沢の伝承――鬼ヶ淵村と呼ばれたころの風習や、オヤシロ様信仰について調べ、考察しているのです。
まぁその辺りについては、実は戦争や事件・事故などで資料も散逸していて、末裔であるボクでも正しくは把握していないのですが……」

「だからこそってわけかぁ。しかし……あぁ、あの有様ならなぁ」


あれ、圭一が辟易とした様子で……前にその辺りについて聞いているのは分かるけど、この表情は一体。


「前原さん、どうされたんですか」

「いやな、残っている資料の内容がとっちらかっているそうなんだよ。
オヤシロ様がガチな神様扱いで、地獄から鬼が出てきて雛見沢のご先祖様達と交わったもの……。
実際には鬼なんてものはいなくて、そのときどきで欲望に駆られ、暴力や暗躍などを積み重ねていた人間を指していたもの……。
はたまたハイリューンなんちゃらって異次元人がオヤシロ様で、梨花ちゃんのご先祖様とロマンスしたとか……」

「異次元人!? ロマンス!?」

「更にそのロマンスは二人の子ども……古手桜花という子が生まれた後、紆余曲折あってその子どもとオヤシロ様が戦うという伝記になっていたのですよ」

≪それはまた……なるほど。古手系列の誰かが大げさに話を書いて、もう真偽不能な状態になっていると≫

「もしかしたら全部、それぞれ違う時代に起こっていたという可能性もあるので……末裔としては大迷惑なのです。
ただ、どの文献でも共通していることが一つ。オヤシロ様や雛見沢の住民……そのどちらにも、度を過ぎた怒りや仲間への疑い……疑心暗鬼に駆られれば、鬼を呼び込むと警告されているのです。
雛見沢が鬼ヶ淵と呼ばれていた頃からのルールであり、それを破れば祟り……鬼隠しが起こる」

「鬼隠し……」

「簡単に言えば神隠しなのです」


それもオカルトサイトで書いていたな。園崎はその儀式を現代で起こし、オヤシロ様信仰を復活させようとしているーとかね。


「だから雛見沢連続怪死事件で失踪した人達……北条悟史も含めて、鬼隠しに遭ったというのが通説なのですよ」

「あ……あぁあぁあぁああぁあ…………!」


あ、やばい! ヒカリが震えている! ガチオカルトでスプラッターだからビクビクしている! ここまで大丈夫だったのに! やせ我慢も限界だったか!


「……ヒカリはどうしたのですか?」

「気にしないで……。こやつ、いわゆる怖い系全般が全く駄目なのよ」

「おいおいおいおい……!」

「でも恭文、確かオカルトや異能事件が専門って」

「だから事件対処中、気絶して困り果てることが日常茶飯事……」

「普通の殺人現場でもビビり散らして、モザイクを吐き出しますからねぇ。実はそういう事件のとき、お姉様は大抵役立たずです」

「や、役立たずって言うなぁ! お前達の心臓が強すぎるだけだぁ! 私は一般的だぁ! というかお前ら……核爆弾が足下で爆破したとき、私に助けられたのを忘れたかぁ!」

「落ち着けぇ! つーかガタガタ震えてたら説得力皆無なんだよ!」


ほんとだよ! その件については感謝して……。


「「…………」」


あぁあぁあぁあ! 梨花ちゃんが……圭一がとても憐れむような顔を! この顔は覚えがある! 雨宮さんや田所先輩達にされた顔だ! でもやめて! 僕の心に突き刺さる!


≪まぁヒカリさんは本当にいつものことなので気にしなくていいですよ。
それよりは竜宮さんの方……梨花さん≫

「レナは父子家庭なんです。そうして新しい母親として、間宮リナが父親へ近づく。でもレナはそれが嫌だった。
それでも父親のために全てを受け入れようとした。だけどリナが美人局だと気づいて、問い詰めた結果……レナは彼女を」

「なぁ梨花、それは祟りとしてか?」

「いえ、綿流しの前なのです。しかも」

「まだ何か」

「北条鉄平も美人局の協力者として、レナに殺されるんです。ボク達は偶然それを知り、レナの犯罪を隠匿した。
……だけど五年目の事件がきっかけで、レナのストレスが爆発。
ボク達や全てのものを疑ってかかり、もっとひどい暴走を……そういう、夢もありました」

「「……」」


余りの詳しさにショウタロスともども驚くものの、一旦深呼吸。


「……だとするとマズいなぁ。一応間宮リナの近辺は園崎家が調べてくれるけど」

「美人局の件が浮上しても、意味がないよな」

「間宮リナは追い込まれる……下手をすれば一気に搾り取ろうと、竜宮家へ距離を詰めるかも」

≪そうなったら、振りほどくのは難しいですよ。お父さんは籠絡されて当てにできませんし。
……ただ私、一つ気になることが≫

「竜宮家の経済状態だな」

≪……≫


……圭一は本当に頭が回るねぇ。アルトは先を行かれて、ちょっと感心した様子で瞬き始めた。


≪えぇ、その通りです。詩音さんの話通りなら”大きなカモ”ですけど……そんなに裕福なんですか?≫

「……レナの家は外見こそ普通です。祖母から受け継いだ遺産の一つですから」

「あぁ……そうらしいな。確か小学校から上がる前、一度茨城に引っ越して……そこから一年前、雛見沢に戻ってきたって」

「その茨城で両親が離婚しました。原因は『母親の浮気』――しかも、別れる前に相手の男と子どもまで作って」

「……その慰謝料が結構な額だったのか」

「そもそも茨城に引っ越したのは、デザイナーだった母親がより大きな会社に移ったためです。
そこで母親は成功し、よりレベルの高い仕事と職場にヘットハンティングされました。イースター社って分かりますか?」

「おい……それは、この不景気でも大成功を収めている世界的大企業じゃないか!」


……そこで思い出すのは、軽井沢での出来事。トオルの家を乗っ取ったのも、イースター社だったから……どうしてもね。


「……僕達もよく知っているよ。そのイースター社の本社がある街……聖夜市って、僕達が住んでいる豊島区の近くだからさ。
でもそれだと……なるほど、向こうとしてはいろいろスキャンダルになっても大変だから、出せるだけのお金を出して“穏便解決”と」

≪余計にマズいですよ。傷心状態の父親を慰め、助けてくれた女性ですから。レナさんの心情としては当然無碍にはできない≫

「批難するだけでもアウト。それは父親の”幸せ”を壊すことにも繋がる」

≪またまた難問ですねぇ。さて、この謎はどう解きます?≫

「お兄様にとってはいろいろ他人事ではありませんしねぇ。天原さんも世界に羽ばたくような立場になりましたし」

「ん……」


もちろん手出しをしないのもアウトだ。もし本当に、夢みたいな状況になったら。


「みぃ……ボクのことも信じてくれるのですか?」

「まぁ予言自体というより、その可能性をな。だとするなら、いち早くレナに話すべきだとは思う。
……刺激しないよう、慎重にだぞ?」

「僕も同じくだ。それに……梨花ちゃん、確か今の綿流しは罪を払う≪禊ぎ≫なんだよね」

「あ、はい……って、どうして恭文はそれを」

「インターネット……パソコンで見られるページに、綿流しを宣伝するものもあるんだ。それで予習程度はね」


梨花ちゃんは昭和五十八年病を患っている最中だし、ざっくりと説明……なんでもね、古くなった布団などを割いて、その綿を川に流すそうなの。

ぽんぽんって体に付けて、穢れを……罪を払い、神様にその浄化を託す。なおオカルトサイトなどでは、これは元々人間の“腸“を割いて、引きちぎりやっていた生けにえの儀式とか。

まぁその辺りの真偽は異次元人説なんて出ている時点で不透明だろうし、置いておくとして……そういうお祭りの主旨が、今の話を聞いていろいろ引っかかったんだ。


「それで思ったんだけど……その“予言のとき”、竜宮レナは禊ぎをちゃんとできなかった。罪を隠し、逃げて、滅ぼそうとして……その負荷で更におかしくなってしまった。
……僕が扱った事件でも、そういう人はいたよ。捕まえない限り、突きつけない限り、自分の行いが罪だと受け止められない人は」


それは逃げの場合もあり、そうじゃない場合もある。だからこそ思う――。


「人を裁けるのは人じゃない。事実のみが人を裁く――だから僕達はただ、全力で事実を明かす」

「でもレナはそのとき、事実を隠したことで裁かれなかった……罪に区切りをつけられなかった、か」

「罪は滅ぼしちゃいけないんだよ。数えて、向き合って……そこから忘れずに何かを学び取る」

「なら”俺達”がレナを庇ったのは、間違いだったってことか。
……だったら、同じ間違いは繰り返さないようにしないとな」

「だね。とすると、問題は話の持っていき方だけど」

「……レナが自分から相談するまで、待っているのも手だと思います」


でも梨花ちゃんはまた消極的手段に出る。さっきの内容から考えると……あぁ、そういう。


「なら梨花ちゃん、三つほど確認」

「なんでしょう」

「一つ、竜宮レナの経済状態……どこで知った?」


それは答えにくい話らしい。梨花ちゃんが分かりやすく反応……口をつぐみ、視線を泳がせ始めた。

これと圭一の反応だけで分かる。仲間内に明かされている話じゃない。もちろん梨花ちゃんが竜宮レナの信頼を得て、聞いた話でもない。


まぁ、この場合の答え方は決まっているけど。恐らく……梨花ちゃんは。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……本当に、いちいち痛い腹を探ってくれる男だ。いや、この探求力があるからこそ、赤坂も信頼して送ってくれたのだろうけど。


レナについては、以前……入江診療所で盗み見た、あるレポートが情報元だから。

そもそもレナの両親が離婚した経緯は、相当に汚いものだった。それも……罪滅しの世界でレナ本人から聞いている。

浮気をした母親は、こっそり浮気相手とレナを引き合わせ、離婚時に引き込む準備をしていたらしい。でもそれはレナ当人によってひどく拒絶された。


当然のことだろう。父親を裏切っておいて……しかもレナ当人もそれを止められなかったという罪過まで植え付けておいて、家族として纏まろうなんてあり得ない。

しかもその拒絶でも、母親は心を痛めることも、反省をすることもなかった。レナと父親に送られたのは、弁護士から送られた事務的な書類と、それに基づく莫大な慰謝料。

相応の金は払う。だから離婚に同意しろ。顔を合わせることもない。それで全部終わり……それはレナ当人にも、父親にも深い傷を刻み込んだ。


父親もデザイナーだったけど、才能では母親に劣っていた。その分外の世界に飛び出していく彼女を支えようと、家のことなどを頑張っていたから余計に。

それでレナも……そんな父親を、家族をマモレナカッタ苦しみから精神的に不安定になった。その結果通っていた学校で暴力事件を起こし、精神病院で治療を受けたこともある。


同時に……いや、今はいいか。とにかく恭文はまだ、どこまで信頼できるか分からない。

突如現れたジョーカーだし、赤坂も騙されている可能性だってある。”羽入”もいない以上、慎重にいかないと。


「予言の中で……レナが、間宮リナ達を殺したときです。教えてくれました」

「そう」


……なんて腹が立つ。こっちが必死に頭を振り絞って返答したのに、あっさり受け止めてくるなんて。

同時に肩すかしでもあった。もっと、何か突っ込んでくるかと。


「二つ。その件に梨花ちゃんの死は絡むのかな」


……でもそこで、胸が締め付けられる。そう言えば質問は、三つって言ってたわよね。


「……そこまで、深くは絡みません。少なくともレナがボクを直接的には」

「じゃあ三つ目。みんなが暴走するのには、また別の原因があるのかな」


二つ目もそのまま受け止めた……と思ったら、最大級の衝撃を送ってくる。


「どういう、意味なのですか」

「レナの場合は家族を守るため。
詩音の場合は園崎家を疑っていたから。
沙都子を守るための鉄平殺しも、沙都子を守るためだ。
……これらの動機には共通点がある。みんなそれぞれに守りたいものがあり」


恭文は楽しげに笑いながら、右人差し指を立てた。


「強い危機感と、それを煽る”敵”がいたことだ。……梨花ちゃんが言っていた“村の掟”……疑心暗鬼に囚われないという部分を破った結果だよ」

≪つまり別の要因とは、それを加速させる”何か”……ですか≫

「人の言葉や行動か、又は全く別の要因か……正体は分からないけどね」


えぇ、それも分かる。だからこそ私に聞いているのですね、あなたは――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そこには覚えがある。伊佐山さんが飲まされていたであろう悪魔の薬……もし、そういう原因がkの村にあるとしたら。


“おいおいヤスフミ……!”

“入江機関から精神薬が送られていたこともあるし、いろいろ気をつけておいた方がいい”

“ですね。でも、それならそういう猟奇的事件……雛見沢連続怪死事件も、その観点から説明できる可能性が”

“そこを探るためにも、梨花や圭一達とは上手く呉越同舟か。楽なゲームじゃねぇなぁ”

“僕達に楽なゲームなんて、一度もないでしょ”

“そりゃそうだ”


なにより……僕の推測は的中らしく、梨花ちゃんの表情が一気にこわ張った。


「だが恭文の言うことも分かるぞ」

「圭一……」

「梨花ちゃんも言っていたよな。夢の中では……綿流しの晩に人を殺しても、祟りにされるって。
それって逆を言えば、何かしらのルールとも言えるんじゃないか?」

「……あぁ、そういう意味か。僕の場合は『みんながキレる法則性』だけど」

≪圭一さんの場合は『全てオヤシロ様の祟りとされる法則性』。しかもそれらは決して同じではなく、また無関係ではありません。
更に言えば、北条家に対する村八分もその影響から。園崎家を敵に回すのと、祟りの対象となることは同意義になっている≫

「でもさ、それなら似たような時間が、もっと前からあってもいい。綿流しに限らずさ」


これは重要な手掛かりかも……そう思いながら、素早くメモを取る。

雛見沢――梨花ちゃんの予言に冠する法則性っと。


「もちろん村にそんな法則性があっても、村人がみんな温厚なら実施される心配もない」

≪えぇ≫

「これらの法則性は五年前――連続怪死事件が起き始めてから築かれたものだ。しかも法則性にはまだ続きがある」

「何かな」

「梨花ちゃんの死だ。梨花ちゃんが見た予言に種類があるなら、どんな状況でも必ず梨花ちゃんは死ぬってことだろ?
つまり村や俺達がどういう状態であろうと、犯人は梨花ちゃんを必ず殺す――そういう、明確な意志が存在しているんだ」

≪だとしたら、余計に通り魔的犯行は考えられない。これは立派な計画殺人ということになります≫

「整理しようか。僕が疑問なのは≪村人を凶行に走らせる法則性≫。しかもそのトリガーはこれまでの話から判断するに」


少し思案する……来て一日目だし、情報もほとんど集まっていない。梨花ちゃんの話だけで判断するのは危険。

なので『暫定的かつ確認の必要あり』と銘打った上で、手帳にそのワードを書き込む。


「強い敵意と疑心暗鬼。予言の中で北条鉄平が殺されるのも、詩音や竜宮レナが暴走するのも、全てに≪危機的状況の打破≫が絡んでいる。
その結果相手を疑い、周囲を疑い、世紀末行動に出ているわけだ」

「俺が気づいたのは≪祟りを常識化する風潮≫。それと園崎家が同一視されているなら、確かに最有力容疑者だ」

≪そして……梨花さんの死に絡んだ絶対意志。梨花さん、何か知っているなら教えてくれませんか?≫


だから、改めて聞いてみるけど……視線でも問い詰めてみるけど。


「……梨花ちゃん」

「……みぃ……」


教えてくれないかー!


「梨花ちゃん、僕は拷問の訓練も受けている。意味は分かるね?」

「早速拷問を示唆するな!」

「みぃ……僕は鞭で叩かれるのですか?」

「そんなことしないってー。……まずどれだけ切り刻んでも死なないよう、異能で心臓を強化する。その上で体を各所から」

「おう゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「おいやめとけぇ! お前の夢が吐いているぞ! モザイク吐き出しているぞ!」

「大丈夫だよ、圭一。テロリストには譲歩しない……これは国際条約で決まっていることだ。梨花ちゃんの遺書は僕が書いて、関係各所へ送っておく」

「そんなサイコパス行動が許されるわけないだろうがぁ! というか……正気か! 正気なのか! だからお前は梨花ちゃんをテロリスト扱いで強引に吐かせる構えなのか!」


圭一がなにを言っているかよく分からず、つい小首を傾げてしまう。


「小首を傾げやがった……!」

「……ボクは、赤坂に聞かなければいけなくなりました。“もっと他にいたはずだろう”と」

「梨花ちゃん、申し訳ないけど奴らと運命を共にしてほしい」

「奴らって誰だぁ!」

「知らないよ。おのれらが教えてくれないから……でも、そんな僕でも関係者への手紙を書くことはできるから」

「きっといたはずなのにと、赤坂の馬鹿を叱ってやらなくてはいけないのです……!」

「……とはいえ、梨花……本当にギリギリになって全部の情報開示も困るぞ。
Nobody’s Perfect――人は一人では生きていけない。支え合うのが人生という名のゲームだからな」

「みぃ……」


……駄目だね。これは通じているかどうか微妙なところだ。とはいえいきなりやってきた想定外のカードに警戒するのも当然だし……ここは、力を示すところからか。


「仕方ないねぇ。だったらこの件、僕が何とかしよう」

「……拷問は困るのですけど」

「心配しなくても、雛見沢の風習には乗っからないってー」

「さっきのは郷に入ってはって理論だったのですか!? あなた、それでよく国家資格なんて取れましたね! というか……」

「何かな」

「レナはその、基本人当たりの柔らかい人です。そしてとてもそう明で、家族をとても大切にしています。
だけど一度怒ると烈火のごとく感情が爆発して、全く止まらないのです」

「思い込みが強い奴の次は、キレたら怖い子って……この村、ほんと多いなぁ」


だとすると……やっぱり真正面からは駄目か。でも突発的に暴走しないよう釘を刺す必要はある。

放置は絶対になしだ。実際僕達は奴らの結婚詐欺がどこまで進んでいるか、さっぱり分からないんだもの。もしかすると今止めなきゃ手遅れって可能性だってある。

だったら……うん、大丈夫だ。いくつか手がある。これで梨花ちゃんに力を示せると思う。


そうだ、なにも問題はない。僕にいい考えがあるってねー。


(その4へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、ひぐらし編Ver2019第3話……いろいろカットしたのに、加筆部分で話の進みは同じくらいという……でもそれはいい! 大した問題じゃない!」


(そう、今日に至っては大丈夫)


恭文「今日は……トップページでも言った通り! 雨宮天さんのお誕生日! おめでとうございますー!」

鷹山・大下・ヒロリス・サリエル「「いえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」」


(蒼い古き鉄、あぶない刑事、兄弟子姉弟子コンビ、テンションマックス)


ヒロリス「アニサマも絶対ディスク買う……!」

鷹山「明日は彼女の単独出番でもあるしな! 財布のひもも緩むってもんだ!」

恭文「動画、はじめましたという配信番組の方では、田所さんがカバー曲を歌っているし……ほんと今日はいい日」

サリエル「そうだった……彼女、元々犬夜叉が好きだったんだよな。それでオリジナル続編でメインキャラにも抜擢されて」

恭文「凄いですよねー! というか、うたっているときの田所さんはほんと笑顔が素敵で……」

大下「やっちゃん、ほんと幸せそうにしちゃってまぁ……あ、下にアドレスを載せておくから、興味がある奴は見てみてくれ」


(【田所あずさが「犬夜叉」OP曲を初カバー!】Do As Infinity「君がいない未来」を熱唱【アニソン神曲カバーでしょdeショー!!】
YouTubeアドレス『https://www.youtube.com/watch?v=bUSDswLKdI0』)


サリエル「……というかやっさん、性癖とかじゃないが……青属性で、髪が長くて、歌が上手い人が好きだよな。それこそアイマスだと千早ちゃんとか、静香ちゃんとか……流れで中の人も好きだし」

ヒロリス「凛ちゃんもなんだかんだ言いながら仲良くしているしねぇ」

恭文「まぁ、否定はしません。田所さんは今髪短めですけど」


(つまり青はいいぞということ)


恭文「あ、そうだ! それなら最近SideMに改めてハマって! アニメ凄くよかったので! ドラスタ最高−! SEMも最高−!」

ヒロリス「あぁぁ……アイマス給湯室で二話ずつ配信していたしね」

鷹山「え、SideMって……男だけが出ているやつだっけ」

サリエル「えぇ。315プロですよ。冬馬君達も961プロから出向所属している事務所で、今勢いがありますから」


(とまとでは黒井社長とも縁切りしていないので、そういう設定になる予定。……その辺りもいつか書きたい)


サリエル「これがねぇ、いいんですよ……765プロや346プロのお話だと、女の子でみんなまだまだ子どもって感じで、それゆえの衝突もあったじゃないですか。
SideMはそれとはまた違う雰囲気なんですけど、それがいい意味で清涼感というか、安心感を与えてくれるというか」

ヒロリス「所属している年齢層も高めだから、みんないい意味で大人だよねぇ。……そういや、やっさんってそこの事務所からスカウトされてていたっけ」

恭文「社長からされていますね……アイドルはさすがにって言っているのに」

大下「やっちゃん、もう結婚しているし三十路だよね……?」

恭文「結婚はともかく、三十路なアイドルさんもいるんですよ」

大下「まじかよ!」

鷹山「やばい、ちょっと触れていなかったんだけど……今からでも間に合うかな」

恭文「えぇえぇ。まだ全話配信していますから。バンダイチャンネルでも見放題ですし」


(というわけであぶない刑事達、今度はSideMにハマるようです。
本日のED:Do As Infinity『君がいない未来』)


恭文「そして日付が変わり、八月二十九日……菊地真の誕生日! おめでとうー! アニサマ出演もおめでとうー!」

真「ありがとうございます、プロデューサー! ……ところで、ぼくが本編でヒロイン的に扱われるお話はどこに」

恭文「あ、じゃあ今度紹介するよ。あのね、星見プロに牧野さんっていう人がいて、ちょうど前向きなお別れをしたばかりだから」

真「それ紹介しちゃ駄目な人ですよね! アニメ見ましたよ!?」

恭文「じゃあ遊佐さん」(とまとでの向井拓海P)

真「あ、それならまだ」

雪歩「真ちゃん、そこは納得なの……!?」

律子「というか、アイドルに男を紹介しないでよ! スキャンダルになるじゃない!」


(おしまい)






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あきゅろす。
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