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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2017年12月・東京都代々木その2 『Oは誰だ/飼い主を追え』




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

西暦2017年12月・東京都代々木その2 『Oは誰だ/飼い主を追え』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――その後はもう、てんやわんやの大騒ぎだった。台風でドタバタしている中、いきなり死体発見だもの。怪物登場だもの。

その後……休校知らせがギリギリだったのもあって、何名かのクラスメイトが現場に押しかけるし、それで身分を明かして現場に近づけないようにしたし……大雨の中でさぁ!


で、一番の問題はなにかというと。


「……本当に大事なのですよ。もう夏じゃないのに」

「いや、なに主人公顔でやれやれって感じを見せているの!? それは僕! 僕の台詞!」


空色の傘とレインコートを濡らしながら、とたとたとやってきたリインで……!


「というかなんでここに!」

「恭文さんがとち狂ったからなのですよ……! さすがにゆかなさんをお嫁さんにするため声優さんはあり得ないのです!」

「さすがにその思考そのものがあり得ないわぁ! よし……あとで話そう! きっとあれだよね、はやてなりシグナムさん達が伏せていたんだよね! それで今知ったんだよね!」

「そうなのですよ! というか、リインというものがありながらぁ!」

「だからそれも含めて後で!」


そして代々木署の捜査官や鑑識も到着し、現場検証も始まった中……慌ててやってきた養成所スタッフの井上さん(男性)も交えて、三階の……別のレッスンスタジオに移動。

さすがに雨の中、往来で待機も無理だし、そこで来ていた老刑事と若手に事情聴取をみんな受けて……というか真知哉さんが中心んに受けて……。


「真知哉さん、署までご同行をお願いします」


老刑事はほぼ迷いなく、真知哉さんに同行を求めた。


「なお任意ではありませんので」

「はぁ!? いや、意味分からないんですけど!」

「ドアノブには、あなたと冬騎馬さんの指紋しか付いていなかったんです。事情を聞かせてください」

「だから、それはさっきも言ったように!」

「はいはいそこまで」


さすがに見過ごせなくて、改めて資格証を提示しながら間に入る。つーかこの白髪のおじいちゃん……嫌な感じがする。

明らかに真知哉さんが犯人だって決めつけている流れだ。事務所の人もいる中で、これは相当にやばい。


「さすがに証拠もなしで強制同行とか、見過ごせないよ?」

「おい、NGOの素人が邪魔をするな!」

「……言ったはずだよ? 怪物が……ドーパントという存在が大暴れしてくれたと」


若手の背が高い……黒髪短髪お兄ちゃんに睨みを利かせると、奴は呻いて一歩下がる。


「異能・オカルト絡みの事件では、専門職への協力体制が義務づけられているよね。それをすっ飛ばすつもり?」

≪現に冬騎馬先生を殺したドーパントは、真知哉さんじゃありませんよ。少なくとも実行犯ではありません≫

「蒼凪さん、そこは管轄のやり方というものがありますので……下がっていただけませんかねぇ。お友達をかばいたい気持ちも分かりますが」

「は? そもそも僕と真知哉さんは友達じゃないよ。名前で呼び合ってもいないしさぁ」

「ちょっとぉ!?」

「……恭文さん、なのはさんとフェイトさんは特殊例なので、抑えておくです」


リインがなにを言っているか分からない。それよりは事件のことだよ。


「大体、起きている事件は二件だ」

「……二件?」

「横浜港署の鷹山さんと大下さんっていうのとは、いろいろ付き合いがあってね。ドーパントが絡んだ事件でも世話になったことがある。
……その二人から連絡が来た。ある薬物取引に関わり……冬騎馬先生の名前をリストに出していたバイヤーが、ドーパントらしき奴に殺された」

『――!』


ここで手札を晒すのは得策じゃない。でも……争い合うのはもっと得策じゃないので、使える札は惜しまない。いずれ話をしなきゃいけないことでもあるしね。


「ただ、先生はそもそも仕事やらの絡みもあってここ半年、横浜に立ち寄った形跡もなかった。そいつと横浜の外で会ったこともなかったそうだよ。
だから、誰かが先生の名前を利用していたと港署では踏んでいたのよ。先生を……その“近しい人達”を薬物取引に巻き込む可能性があるからってね」

「じゃあ……もしかして、蒼凪くん……」

「黙っていてごめんなさい。……ダイバーエージェンシーさんからも頼まれて、クラス内の内偵及び……みなさんの周辺警護を目的として潜入していたんです」

「で、でもそれならほら! スカウトされたっていうのは!」

「サウンドラインさんとホリプロさんも、善意から“箔付け”に協力してくれただけです」

「恭文さん、ちょっと待つのです! 今回のことは、ゆかなさんエンドを目指しての凶行じゃ」

「最初からそんなつもりはなかったんだよ! 百パーセントお仕事なんだよ!」


リインのアホがぁ……さすがにないよ! いいや、ゆかなさんは大好きだよ!? 理想の女性と言われたらゆかなさんって即答するよ!? それやって舞宙さんといちごさんにぐりぐりされたことがあるけどさぁ!

でも、さすがにないよ! さすがにそのために声優さんとか……そんな軽いお仕事じゃないから! というか怖すぎるから!



「馬鹿馬鹿しい……そんな怪物がいるわけないだろ!」

「アンタこそ馬鹿じゃないの!?」

「なんだと!」

「だったらこれはなんなの!」


真知哉さんが取り出したのは、スマホで撮影したらしい怪物の……ビーストドーパントの姿。

なお、同じようなものがTwitterで寄せられていた。どうも通りすがった車や近隣住民達が、慌てて撮影したものらしい。大半ブレブレだけどね。


「というか、怪物が出るって……ある意味常識だよなぁ」

「そうよね。風都には出ていて……それを倒す仮面ライダーや魔法使いもいるそうだし」

「そうそう! 魔法使いもいるよね! なんか緑髪のシスターとか、銀髪黒服な天使とかが…………あれ?」


あ、真知哉さんがこっちを……というかシオン達を見て、小首を……ひとまず話を進めよう! 今バレると面倒だし!


「……とどめにバイヤーの富沢は、首から上を奇麗さっぱり吹き飛ばされていた。
そんな殺され方が普通の人間に、たやすくできると?」

「そちらも含めて、全部我々で調べますので。
大体……怪物とやらがその場にいただけで、誰かが重たい鈍器で殴ったという可能性も」

「真知哉さんに……腱鞘炎の人間にそんなことはできない」


あの損壊具合でそんなことを言い出すから、嫌な予感が更に強まる。でも……そこはひとまず、一枚大きい札をぶつけておく。


「え、待って……なんで知っているの!?」

「通院履歴とかもあるよね? お薬も……お薬手帳は」

「手帳ならここに」

「おい、嘘を吐くな! そんなのあり得るわけが」

「だから今見せるって言っているよね!」


奴らは気にせず、真知哉さんから……右手でお薬手帳を受け取り、ぱらぱらと確認。


「バイト中に重たい荷物を持ち運びしたとき、痛めちゃって……それからしばらくクセみたいになっていたんだ」

「うん……やっぱりだ。腱鞘炎用のお薬としては標準的なものだね」

「そこも分かるの!?」

「前に腱鞘炎を患っていた被害者がいてね。勉強したの。……はい」


その上で刑事二人に差し出す。二人はいぶかしげにそれを受け取り、驚きながら手帳を見て……。


「ほ、本当だ……! 阿智さん、ここ……腱鞘炎用の薬って!」

「………………」

「……蒼凪さん、あの……私も疑問なんですが、どうしてあなたは」


オールバックの井上さんが驚いた様子で……って、そうか。さすがに説明が足りないよね。


「いや、僕……初日の授業で、真知哉さんに投げ飛ばされたんですよ。男なのに間違って女性更衣室に入りかけたので。
ただそのとき使った手は左手。真知哉さんは見ていると、利き腕は右腕なのにです」

「そういえば、今も彼女は右手で手帳を……」

「メモを取るときや、お箸を持つ手も右手でした。最初は両利きかとも思ったんですよ。だけど他にもちょいちょい……アフレコレッスンで台本を持つときも左手。
重たいものや重量バランスが難しいものを持つときも、必ず両手……右手をかばっていた。
ただ僕が来てから三か月くらい経つし、普通の怪我なら治ってもいいところだ。それなら、重ための腱鞘炎かなぁと」

≪そして、腱鞘炎を患っている女性が……どうやって重たい鈍器で人を殺すのかという話ですよ≫

「だ、だったらその怪物になってやったんだろう! それなら問題がない!」

≪あなた、その口で“怪物なんて”と言ったじゃないですか。舌の根が引きちぎれますよ?≫

『…………』


――アルトの結論で、井上さんも……黙って同席してきた同じクラスのみなさんも、疑いの目を真知哉さんから刑事達に移す。


「たとえその件がなかったとしても……状況が滅茶苦茶でしょうが。
そもそもの進入口は玄関ではなく、派手に破砕された窓側ですよね?
というか、真知哉さんなり他の人間が……冬騎馬さん以外の人間が、中に立ち入った形跡はあったんですか?
真知哉さんも生徒の一人である以上、鍵すら持ち出せませんよね。
持ちだすとしたら事務所内に侵入するしかありませんけど、当然バレますよ? 防犯カメラもあるんですから。
更に言えば、僕は真知哉さんが開いてないと困っている姿も見ています。
そのとき彼女の傘も、服も、靴も濡れ続けていて、中で一度梅雨を払ったような形跡はなかった」

「だから……そのために話を聞くって言っているじゃないか!」

「そういうお話でしたら、事務所としても彼女の強制同行は認められません。事情聴取についてもこちらが弁護士を用意しますので、その方と同席・記録の上でお願いします」

「おい、警察の捜査を邪魔するつもりか! 公務執行妨害だぞ!」

「真知哉かざねさんは、現時点で我が事務所の準所属が確定しています。
所属タレントの名誉が大きく毀損される……それも筋が通らない形での捜査が原因というのなら、相応の対処を執るのは当然ですが」


そうそう、準所属が確定………………確定!? え、そうなの!? さすがに驚いて真知哉さんを見やると、少々戸惑いながらも頷きが返ってきた。


「しかも公務執行妨害とは聞き捨てなりませんね。
蒼凪さんの説明は理論的なのに、あなた方は一切それに対して答えていないではありませんか」

「だから、それも事情聴取で調べるところなんだよ!」

「でしたらその事情聴取に、こちらの弁護士が同席するのも問題ありませんよね? 当然の権利を行使するだけですから」

「まぁまぁ……井上さんと仰いましたか」


阿智刑事は立ち上がり、よれよれのスーツを直して……人を馬鹿にしたような笑みを更に続ける。


「余り事を荒立てないでもらえますか? キャリアな忍者さんにお手を煩わせることもない……そういう話をしているだけですので」

「なぜ弁護士同席の上で、順序立てた取り調べをお願いしただけで“荒立てている”ことになるのでしょうか」

「警察には警察のやり方というものがあります。市民であるあなた方には、それに協力する義務がある……それだけのことなんですよ」

「話になりませんね。……蒼凪さん、この場合プロとしてのご意見は」

「お話を聞きつつってことは、現時点で、証拠は一切ないってことですからね。
なのに任意ならまだしも、強制同行は……完全に見込み捜査。人権侵害ですよ」


若いのがまたうるさいので睨み付けると……だから、これでだんまりするなら騒ぐなっつーの。


「この件、警視庁の観察部に連絡させてもらいます。相応の処罰検討は覚悟しておいてください」

「なんだと!」

「……それでミスがあった場合、どう責任を取るんですか。
現時点で真知哉さんは、仲間から講師を殺した殺人犯という視線を受けるんですよ? というか現に受けていた。
それを、あなた達は……謝りもせず、放り投げるわけですか。
それにより真知哉さんの、声優という夢だって壊れかねないのに。それすら他人事のように見て見ぬ振りして」

「阿智さん……!」

「それでも引っ張るというのなら……今すぐ提示してください。相応の証拠と、礼状を」

「蒼凪さん、繰り返しますが……管轄の人間に任せてください。怪物のこともこちらで調べて対処しますので」


……さすがにおかしい。というかやっぱり……コイツと話していると嫌な予感がどんどん強まる。

いろいろ迷いはしたけど、今回については戒めを解除した方がいいと判断。


「ですのでここは」

「だったら疑問点に今すぐ答えろ、この腑抜けが」

「は……!?」


そう告げると、阿智の奴がびくりと震える。そりゃそうだ。いきなり僕の眼の色が……文字通り変わったんだから。

そう……天眼を開いた。そうしてこのおじいちゃんを見やると。


――なんだ、この若造が……! こっちはそこの女を捕まえれば話が纏まるんだよ。それを邪魔してくれやがって――


おうおうおう……また吠えてくれちゃって。エセはぐれ刑事純情派か。いや、それだけじゃない。

コイツからはもう一つ……いや、二つ感じ取れるものがある。


――今メモリが使えれば……まぁいいや。目立つようなら影からぶち殺してやる――

“ちょっと、あなた……この男”

“恭文さん! あの、今サーチしたら!”

“メモリを持っているよね。堂々と僕を影から殺すって認めてくれたよ”

“ならこの人が……!?”

“いや……この記憶の感じは”


そうだ、コイツはガイアメモリを持っている。でもこの感じ、ビーストじゃない。もっと弱々しいものだよ。

それでもう一つは……。


“アルト、リイン、コイツの首……なにか見えない? または感知”

“リインは、なにも……”

“……あなたの目ではなにか捉えられるんですか”

“なにか……白いものがくくりつけられている。まるで首輪みたいな……でもこんなの見たことが”


ひとまずはその根源めがけて術式発動……転送魔法を発動し、僕の裾にメモリを入れておく。


「あ、蒼凪くん……その目って……!」

「あぁ……気にしないでください。遺伝子変異の関係で、時折蒼くなるんです」

「いや、無理だよ!? というかそれ大丈夫なの!?」

「えぇ。まだまだ“この子”に頼るほどではないですし」

「あははは……」


差したままの乞食清光を左手で軽く撫でると、真知哉さんはなぜか苦笑い。


「それよりは真知哉さん自身のことですって……。
現に井上さんという依頼主の一人も、現状には難色を示しているし?」

「えぇ。見込み……証拠もなしで名誉を貶められるのは、たとえ彼女が所属タレントでなかったとしても見過ごせません。
もちろんうちの生徒や職員に同じことをしようとした場合、お二人には法的措置も考えさせていただきます」


はい、四面楚歌完成−。みんなあり得ないって、敵意を向けてくるから……若い奴らもたじろいじゃってまぁ。

しかもこっちは譲歩もしているんだよ? 事情聴取はいい。でもきちんとした証拠がある上でのことだし、記録と弁護士立ち会いという権利を行使するってさぁ。それすら受け入れられないなら、もうねぇ。


「みなさん、落ち着いてください……。ここは警察の判断を信じてください。我々はプロなので」

「そうだ! 阿智さんはこの道三十年のベテラン警部補だぞ!
いいか……この場では一番の先輩だ! そこの忍者もそれに従え! クソ生意気なガキでもそれくらいはできるだろ!」

「あ、その話しちゃう? だったら僕もこの道九年……“警視”クラスの権限があるんだけど」

「と……年上を敬う礼儀もないのか、お前は!」

「お前こそ、その三十年の先輩を紋所代わりにして恥ずかしくないの?」


笑顔でそう告げると、若手の……美咲刑事の頬が引きつる。


「お前自身は何年目で……階級はどこだよ」

「これだからキャリア組は……結局偉ければなんでも正しいのか!」

「……だったらなんで経歴と階級を持ち出した――!」

「…………!?」

「……蒼凪さん、そこまでです」


すると井上さんが肩を掴んで……しっかりと諫めてきて。


「蒼凪さんも講師である冬騎馬先生を亡くし、その遺体を……惨殺されたものを直接見たんです。その上で真知哉さんや同じようにやってきたクラスメイトを、スタジオ近辺の方々を守り、保護も率先して頑張ってくれました。
……この台風の中……まだ十五歳の青年が、相応に思う所があっただろうにです。
なのにあなた方はそんな蒼凪さんや、同じ立場の真知哉さん達に対して、余りに無礼だったのではありませんか?」

「ふざけるな……! 俺達がなにをしたっていうんだ! 邪魔をしてきたのはそっちだろうが! 公務執行妨害の現行犯でしょっ引かれたいのか!」

「もういいです。代々木署にはこちらからもしっかり抗議をさせていただきます。あなた方では話にならない」

「なんだと!」

「ですので蒼凪さんも……依頼をした一人として、養成所スタッフの一人として……お願いします。こんな方々は相手にしなくていい」

「……えぇ、分かっていますよ。コイツらは邪魔だ」


そうだ、僕の仕事は……こんな奴らの相手じゃない。やることはいつだって……決まっていた。


「そもそも人をかばったから友達だなんて……そんな浅い考えで止まる奴らはどうだっていい」

「えぇ……いや、ちょっと待ってください? それは」


そう、馬鹿らしい。だからこそ……決意は改めておく。


「本当に真知哉さんとは……友達でもなんでもないのにねぇ!」


断言するとなぜだろう……真知哉さんや井上さん達がずっこけた。


「蒼凪くんー!?」

「なんで繰り返しちゃうんですか、あなた……!」

「ある奴が言っていたそうだよ! 友達とは名前で呼び合うことでなれるってね! だったら僕達は友達じゃ……あ、だったらクラスのみんなは友達じゃないな」

「さすがにその結論ひどいからな!? あと極端だよ! 極端すぎるだろ!」

「藤沢さんの言う通りだよ! 仮にそうだとしても……それを堂々と言わないでくれるかなぁ!」

「そう……だから真知哉さんが犯人なら僕がきっちり引導を渡す。
まず指を一本ずつそぎ落とし、その上で動脈に管を突き刺し、少しずつ血が抜けていく様を見せつけながら死の恐怖を」

「「拷問を示唆するなぁ!」」

「ん……?」


あれ、おかしいなぁ。みんなが引き気味なんだけど。意味が分からず小首を傾げる。


「首を傾げないで!? 引導って逮捕とかじゃないの!? それ私刑じゃん!」

「あんな怪物を使うような奴だよ? 容赦とかいらないってー」

「そこ言われたら反論できないじゃん!」

「ガイアメモリで犯罪を起こすのなら、それはもう人間じゃない。メモリごと殺すのが一番いい方法だ」


乞食清光の柄を撫でながら、阿智に……容疑者というか共犯候補の一人に優しく笑いかける。その上で……ついさっきスリ取ったメモリを、手袋を装着した上で見せてあげますー♪


「まぁ……こいつの持ち主は運良く助かったけどね」

≪Masquerade≫

「……!」


スイッチオン−。そうすると……阿智の左手の甲に、コネクタが浮かび上がる。うっし、ばっちりチェックと。

やることが終わったのでそれを懐にしまってーっと。


“アルト”

“記録していますよ。これでメモリ使用者というのは判明した。……同時にコイツが、メモリについて素人なのも”

“コネクタの痕、隠してもいないしね”

「いやね、今朝方ちょーっと巻き込まれたトラブルで乱暴者を抑えたら、そいつがガイアメモリを持っていたんだよ。
実は今日授業が終わったら、これをPSA本部に届ける予定だったんだ」

「そんなお手軽に怪人がいるとか、怖すぎるだろ……! というかそれ、持っていても大丈夫なのか!?」

「大丈夫ですよ。ガイアメモリって、まず使うのであれば体にコネクタ……接続部を埋め込む施術が必要なんです。これ自体は携帯器具ですぐできるんですよ。
で……こうやってスイッチを押すと、メモリと連動してそのコネクタも浮かび上がるんです。黒いバーコードみたいなのが」

「――!」


阿智……今更左手を隠しても遅いよー。もう僕にはばっちり見えちゃっていたよ? いや……もしかしたら、他の誰かにも。


「でもあのハゲチャビンも可哀想に……マスカレードなんて、一番貧乏くじなのに」

「ですね……。そのメモリ、変身しても大して強くなれないどころか、銃弾数発で倒されちゃうのです。
しかも末端の使いっ走りに渡すようなメモリなので、倒されたらメモリの自爆装置が作動……メモリごと爆殺なのですよ」

「………………!?」

「き、君も詳しいんだね……!」

「リインも恭文さんほどではないですけど、ガイアメモリとはそこそこの付き合いなのです」

「……そういえばさ、僕……マスカレードメモリを変身していない状態で砕いたら、使用者がどうなるかって試したことがないんだ。これを今握りつぶしたら」

「や、やめろぉ!」


すると阿智刑事がなぜか……そう、なぜか悲鳴をあげる。うーん、一体どうしたんだろうなー。


「阿智刑事、どうされたんですか? そんなに脂汗をかいて……」

「い、いや……証拠品、でしょう。それは……よろしくないかと……」

「あ、そうですねー! いやー、僕としたことが……自分の階級や勤務年数も誇れないひよこがうるさかったので、気が立っていたのかなー! ごめんなさいねー!」

「貴様……!」

「美咲……!」

“……恭文さん、相変わらず蒼い悪魔で安心したのですよ”

“失礼な。それは舞宙さんの称号でしょ”


どこからか舞宙さんが『誰が悪魔だってぇ!? あたしは上目遣いで怯えた視線とか、人の悲鳴とかでゾクゾクするだけだよ!』ってツッコんできたけど気にしない。というか、それは十分悪魔だ。サディストという名の悪魔だ。


「まぁ大丈夫大丈夫……真知哉さんの遺族と関係者への手紙は僕が書くし?」

「なにが大丈夫!? というか書くなぁ! というか関係者がすぐそこ! すぐ近くぅ!」

「ねぇ、阿智警部補……僕はそこの若造やあなたから、仕事や手柄を一方的に取り上げるつもりはない」

『無視!?』


荒ぶる真知哉さんはさて置き、笑顔で融和政策を告げる。


「というか、代々木周辺について一番詳しいのは、やっぱり管轄署のみなさんだもの。ただ、異能犯罪相手では本当に……無駄に人員を危険にさらす場合もある。
もちろん異能による偽装やえん罪なんて普通にできるから、通常の操作手順ではえん罪だってたやすく生まれる。
なのでその辺りのリスクも含めて、対処マニュアルについても改めて、正式なルートから、きちんと説明して、連携する。それまでは不用意に“長年の勘”で動くのはやめてください」

「……分かりました」

「阿智さん……!」

「この場であれこれ言っても、どうも無駄のようですしね」

「というより、この場だけで説明しきれません。……だから相応に礼は払います」


そう、礼は払う。仮にも僕はキャリア……国家から忍者として認められたエージェント。だからこそ非常勤勤務とはいえ、大いなる責任がこの肩にのしかかっている。

……だから揺らがないよ。一歩たりとも……真知哉さんを逮捕する覚悟だって、本当にする。


「そう……ガイアメモリの力に飲まれて、犯罪を起こすようなら殺されても仕方ない。それが常識の世界だと教えましょう。
自分から吹っかけた喧嘩をだんまりで逃げる……そんな程度にしか部下を教育できない、無能なノンキャリアなあなたでも、分かるように……親切丁寧に」

「…………」

「……お前……阿智さんになんてことを!」

「美咲……!」

「でも、阿智さん!」

――この、クソガキ……殺してやる……必ずだ……! そうだ、嘘だ……俺は超人だ! そんなたやすく死ぬわけがない!――


うんうん、混乱しているねー。でも……刑事が殺意を向けるとかおかしいなー。どうしてだろうなー。疑問いっぱいだなー。


「そんなに違うというのなら、まず勘違いから正せ」

「間違いだと!」

「――僕と真知哉さんは友達じゃない」

「ヤスフミ……てめぇ……!」

「だからそこを念押ししないでよ! わりと傷つくから!」

「その程度のことも分からないボンクラどもが……刑事を名乗ってんじゃないよ! お前達に大いなる責任を背負う資格はない!」

「待ってぇ! それ余りに理不尽過ぎるからぁ! いくら向こうからやってきたとしても、百乗くらいにして返しているからぁ!」


あとはメモリの指紋も調べて、出所が突き止められれば……となると、ビーストドーパントへの対抗策か。

あれは厄介だから、すぐに仕留めないとまずいけど……さて……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――想定外……想定外にもほどがある。というより、話と全然違う。一体どうなっているのかと内心はらわたが煮えくりかえりそうだった。


「……本当になんなんですか、あのガキは!」


部下の美咲については、煮えくり返ってデスクを叩いているがな。……署に戻ってから俺達は、大した調査も……それらしい動きもできず、腐ったように待機。なにせ台風だからな。聞き込みも難しい。

あの声優だとかなんとかでちゃらちゃらしている若造達も、一時忍者のクソガキ預かりになり……適当に雨をやり過ごしてから買えるらしい。真知哉かざねと同じくだよ。


「PSAだってグレーゾーンすれすれの過激なNGOなんでしょ!? なんで警察がへーこらしなきゃいけないんですか!
そもそもあんなクソガキが警視扱い!? 国家資格を与える奴らは馬鹿じゃないんですか! しかも……あの養成所のスタッフも非協力的な上、こっちを無礼者扱いって!」

「……美咲」

「無礼はあのクソガキだろうが! 大体なにが声優だ! 歌って踊って金をもらえる道楽連中でしょ! そんな奴らが偉そうにするなっつーの!」

「……まぁそう騒ぐな」

「阿智さんは納得するんですか!?」

「するわけないだろ」


本当に腹立たしい。だが……あんなガキ程度ならどうとにでもなる。


「こっちには忍者のガキには……障害者のクソガキにはない、大人の含蓄ってやつがあるんだからな。
……上手く出し抜いて、あの真知哉かざねを引っ張るぞ」

「それで……なんとかなりますかね」

「一度捕まえちまえばこっちのもんだ。経歴を洗って、怪しいところがあったらそれを理由に……いいな、一気にだぞ」

「はい!」


……所轄を舐め腐ったキャリアのガキに、大人の怖さってやつを教えてやろうじゃないか。

なにせ俺達には……いいや、俺には、そんな怪物を恐れる理由がない。


「じゃあ美咲、事務処理はいつも通り任せたぞ」

「はい! 阿智さんはどちらに」

「鑑識だ。忍者のキャリア様に靡かないよう、釘挿ししておく」

「了解です!」


いっつもこっちの仕事を……修行と信じて、残業ありきで引き受けてくれる金魚の糞は笑いながら、立ち上がり……刑事課のオフィスを出る。

しかし台風で待機ってのも退屈だな。これじゃあ散歩もできないが……まぁいい、仮眠室で適当に昼寝だ。


「そうだ、恐れる理由がない」


そうして誰もいない廊下で……笑って、奇跡の小箱を取りだし……………………ん……?


「おい……」


スーツの内ポケットに入れていたはずのそれが、ない。いつの間にかどこかへと消えていた。

慌てて全身をまさぐるが、それらしい感触がない。どこにも……どこにもだ……。


「嘘だろ……!」


ガイアメモリ……超人になれるって触れ込みだった。だったら怪物程度たやすく蹴散らせる。

もちろんあの女王様気取りのくそったれも、金魚の糞みたいな奴も……俺を舐めてくれたクソ忍者も八つ裂きにできる。

いいことずくめだったんだ。あのメモリはそういうものだったんだ。なのに……どこだ、どこで落とした!


あれで俺は、美味しい思いがたくさんできるんだ! なのに……!


――まぁ……こいつの持ち主は運良く助かったけどね――

――Masquerade――


そこで……。

絶対に、あってはならない考えが頭に浮かぶ。


「…………ぁ………………!」


嘘、だろ。いや、いつ……あり得ないあり得ないあり得ないあり得ない。そんなことはあり得ない。大体取られたとして、いつだ。俺はアイツに触れてもいないんだぞ。

そうだ、違う。違うはずだ。だが……違うとしても……もし、このままメモリが壊れたら?


俺は…………一体どうなるんだ――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その後――現場検証は僕もさせてもらってから、この場は解散。ただ台風の関係で電車も止まっちゃって……僕達数人の生徒は代々木から移動できなくなった。

なので井上さんが乗ってきた事務所のワゴンでひとまず新宿まで送ってもらい、そこからは真知哉さんとみんなを預かる形で……。


「井上さん、すみません。無茶を言っちゃって」

「いえ……ですが、これで」

「ひとまず代々木署の管轄からは外れるので、向こうもやりにくくなります」

「では……蒼凪さん、申し訳ありませんがみなさんのことはよろしくお願いします」

「はい。それと井上さんも気をつけてください。犯人の狙いが分からない以上、所属タレントさんやスタッフさんにも警戒の呼びかけを……こちらでも護衛の手はずを整えますので」

「ありがとうございます。それと……蒼凪さんも休めるようなら休んでください」


すると井上さんが心配そうに僕を……運転席から見上げてきて。


「……じゃあ、みんなを保護しつつ気晴らしにいっぱい食べますので」

「えぇ、そうしてください」


ワゴンのドアを閉じて……激しい雨の中、井上さんの車を見送る。真知哉さん達も足を止めて、車が見えなくなるまではその場に立っていた。


「……しかし大変だよ。同僚が亡くなったってのに、この台風の中事務所で常勤ってよぉ」

「ん……」

「その上、恭文さんが先生のことで荒れ気味だったのも見抜いて、フォローするのですから……感謝するのですよ?」

「今絶賛しているところ」

「パサパサの完熟卵としては、らしくなかったしな」


ショウタロスは若干……気の毒にという様子でワゴンが去った方を見て。


「そういう大変な人達の生活や安全も預かっているってこと、忘れちゃいけないよね」

「ではお兄様、急ぎましょう」

「雨の中、立ち尽くすわけにもいかないだろ」

「だね。……じゃあみなさん、一旦雨風もしのげるところでお話ということで……付いてきてください。
リインも悪いけど」

「恭文さんと話し合うため、三週間ほどお泊まりの構えは取っているのです。このままサポートするのですよー」

「あ、はい」


というわけで、新宿駅……歌舞伎町近くのパセラにレッツゴー! 幸いというかなんというか……朝のクラスだったのも相まって、大部屋が空いていてさ。上手く滑り込めたんだ。

それで僕はPSAの連絡などもあるから、一旦部屋を出させてもらって……。


「しっかし……これじゃあお里が知れるってもんだよ」


パセラのトイレで、便座に座りながら大きくため息を吐く。というか劉さんに直通電話中。

……証拠保全用のパックに入れているガイアメモリを……阿智からすり取ったメモリを見ていると、それはもう……ねぇ……!


――Masquerade――

『……阿智信彦と美咲良二だったな。こっちにもデータが届いた。
阿智は代々木署勤務で来年定年……とはいえノンキャリア組で勤務実態も決していいものではなかった。
だがここ最近、逮捕・検挙の手柄が続いている。退職前に退職金の大幅増額と、お祝い的昇格も見込めるのではともっぱらの噂だ』

「その金魚の糞だった若手……美咲良二の方はどうでしょう」

『今年刑事課に配属されたばかりの新人……阿智が教育を任されたようで、バディを組んで修行中というところだ。
ただ……出身学校の資料も見ているが、生真面目が過ぎて応用の効かない部分があるという危惧がされているな。交番勤務時代もそれでたびたび同僚と揉めていたそうだ。
まぁその分職務はきちんとするし、その正義感というか上下関係をきっちりするところが上から気に入られて、引き上げられたようだが』

「ASDな僕には耳が痛い評価ですねぇ」

『蒼凪、お前の共感力やアルトアイゼンのサーチでも、そちらに怪しいところはなかった』

「えぇ。……あの場で捕まえた方がよかったでしょうか」

『いや、今は泳がせてくれていい。得られた情報を元に、周囲を探り……外堀を埋める』

「ですね……なにせ、ようやく捕まえた新鮮な魚だ」

『お前が煽るだけ煽ってくれたおかげで、危機感を持ってはしゃいでくれるだろう。それで友釣りを楽しむとしようじゃないか』


劉さんの言う通りだった。阿智は……奴は友釣りで使う囮鮎。近づいた瞬間、適当な仲間が連れるわけだよ。楽しいよねー、わくわくだよねー。

なにせアイツ、マスカレードメモリのデメリットを知って顔面蒼白だったもの! そこで自分のメモリがなくなったと知ったら……そりゃあ心中穏やかじゃないよ!

そりゃあ……当然共犯者なりと仲良くお話とかして、不安を紛らわせたくなるだろうねー。もちろんこれは実に正統だ。


……状況的に見て、奴が主犯とは思えないし。


『なによりそれで真知哉かざねに……声優志望の一般市民に罪を着せる理由がない。どういう形であれ接点がないとな』

「もちろん冬騎馬先生との接点も、ですよね」

『本来なら別の人員に引き継ぐのが妥当だが、ガイアメモリの特異性からこのまま任せるしかない。承知しているとは思うが冷静にな』

「なのでお目付役はお願いします。
あ、それとみんなのお迎えも……早めに雨が落ち着くといいんですけど」

『……そうだな。雨は私も苦手だ』


劉さんはそこで深くため息を吐く。


『お前がミュージアムにさらわれ、ウィザードドーパントに変身したときも雨だった』

「え」

『そこから倒れ、入院していた病院から脱走したときも雨だった。
暴力団事務所やカラーギャングのアジトを潰し回って……なんとか保護したときも雨だった』

「…………そう、でしたねー」

『最近だと、お前が核爆弾解体で大慌てになったときも雨……というかスコールだった』

「それも、いろいろとご迷惑をー」

『あと……お前が美澄苺花の自殺を食い止めたときも……その直前から雨が降り始めていただろう』

「……えぇ」


そうだ、それもよく覚えている。あの冷たさが……本当に、心に突き刺さって。ちょうど梅雨の前後だったのもあるしさ。


『まぁ、天気一つでいろいろと思い出せることもあるという話だ。
ウィザードドーパントへの変身で……お前と美澄苺花を助けてくれた“お姉さんの顔”が記憶から吹き飛んでいてもだ』

「…………」

『その話、彼女達にはしたのか?』

「七月のバーベキューで……元々ふーちゃん達には話していましたし」

『そうだったな』


うん……あのお姉さんが雨宮さんかどうかっていうのね、慌てていたってだけじゃないんだ。

初めてウィザードドーパントに変身して、戦って、倒れて……その間に、記憶がいくつか飛んでいたの。もっと小さかった頃の思い出とかも含めて。

幸い記憶喪失って言えるほどじゃなかったし、ふーちゃんやお父さん達とそれを埋めることはできたけど……お姉さんの顔だけは、無理だったんだ。


それは苺花ちゃんも知らない……僕と、お姉さんの時間だから。

だからその失ったピースに……自分でも驚くくらいしっくりくる人が、声優さんとしてデビューしたのには凄く驚いたっけ。

でもさすがに、こんな話はできなかったし、だから大嘘ってことで流そうとしたら……たどり付いた先がこれだよ! ほんと自分でもびっくり!


『実はまぁ、あれからその彼女とも話す機会があって……一つ頼まれている』

「え」

『大したことじゃない。お前がうたって踊れる忍者で魔導師、声優になりたいなら……応援してやってほしいという程度のことだ。
……なんだかんだでお前はまだ若い。いろんな形で世界を、可能性を探ることも大事だと考えているんだろう。それは私も同感だ』

「劉さん……」

『お前は本当に幸運だ。それだけは忘れるな』

「はい……ありがとうございます」


心配してくれていた劉さんとの電話はここで終了。とはいえ……先行きはそう明るくないなぁ。今の空模様と同じ。


「アルト……バイヤーが渡したのは“二本”なんだよね」

≪それも気になりますねぇ。マスカレード、ビーストで数は満たされている。
なのに……飼い主らしき奴はまた別のメモリを持っている。その辺り阿智刑事は本当になにも知らなかったと?≫

「思いっきり混乱していたよ。……どうもバイヤーというか、所属組織のシマをそのまま乗っ取ろうって腹だったみたい。
“S”として小間使いされていたけど、ガイアメモリで超人になれるなら従う必要はない。あとは自分が商売をって……小物根性だ」

≪ならその犯人については≫

「あの女ってとこだけ繰り返していた。……やっぱりクラス内……真知哉さんの周囲にいるんだよ」

≪でも私達はメモリが持ち込まれた形跡などを、一切関知できなかった。つまり変化と暴走はここ最近。
……まぁ何にせよ、捜査がここまで進展しなかった理由もよく分かりましたよ。冬騎馬先生がよく出入りしていた場所の一つ……スクールの管轄刑事がこれですしね≫


そうそう……“S”っていうのは警察などで使われる暗号だよ。意味は『反社会的組織の警察内諜報員』。金銭や脅迫などの協力強要で、暴力団、シンジケートなどに、警察官が内部情報を流すんだよ。

でも阿智は主犯って感じでもない。そもそもマスカレードメモリにそんな能力はないし、阿智がそこに過剰適合したとも思えない。うさんくさい感じがしていたけど、そこまでだ。

……あぁいや、駄目だ。今断定していくのは禁止。まずはきちんと証拠を集めていかないとね。


こういうときこそハードボイルドだよ。うんうん。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やっぱり身内が……身近な人が亡くなる事件は難しいなと思いつつ、大部屋に戻る。それで改めて真知哉さん達に事情説明して……。


「――本当にすみませんでした」


まずはきっちり頭を下げるところからだった。うん、そこからだよ。いろいろ騙してもいたし。


「蒼凪……それは水くさすぎるだろ。俺達のことも守ってくれていたわけだしさ」

「ん……そうだね。
あの、ありがと。さっきも……かばってくれたし」

「……いえ……」


みんな……真知哉さんも笑って、大丈夫だと言ってくれて。それが本当に嬉しくて……僕もせめて気持ちだけでもと、深く頭を下げた。ショウタロス達はそんな僕を見て、どこか嬉しそうに笑っていて。


「でもそう考えると……あの刑事達、腹立つんだけど! あたしを最初から犯人扱いって! 蒼凪くんにも滅茶苦茶嫌な感じだったし!」

「警察って元々縦社会で前例主義も根強い上、所轄だと縄張り意識が面倒なんですよ」


まぁ鷹山さん達はそうでもなかったけど、実は結構苦労させられることが多い……そんなことを真知哉さんに返しながら、軽くお茶をいただく。なおホットウーロン茶です。寒いし、雨にも当たったから落ち着くー。


「余り理解が及ばない異能・オカルト絡みの事件だと、珍しいことじゃないです。
……もちろん普通の事件とは違うので、そこを踏まえないと誤認逮捕の可能性も大きくなるし……困ったことなんですけど」

「最悪だなぁ! そんなことだから核爆破未遂とかされるんじゃないの!?」

≪否定はできません≫

「……そういえば、今更だけどそのぬいぐるみさんって……」

≪この人、発達障害だって話はしましたよね。そのサポートで作られたAI付きロボット……まぁそんな感じに思ってください≫


その通りなので、大丈夫だと頷いておく。実際その通りだしね。アルトが来てくれてから……助かっていること、たくさんあるしさ。

そう、ある……だからこそアルトと内密に、念話で相談。


“……アルト、リイン”

“怪物も出ていて、それでなお指紋絡みだけで引っ張ろうとしましたからね。密室ですらないのに”

“というか、普通の人間がアレをやったとして、一体どれだけの力と時間がかかるのか。絶対途中で誰かが疑問に……とは言えないですね”

“その捜査官の一人がガイアメモリを持っていたしね。ひとまず真知哉さん達が帰れるようになってから、PSAにメモリを預けておかないと”


ただまぁ、現場写真と状況は抑えているし、僕はまず……みなさんを安全に、家に返すところからだ。


「まぁ電車もまだ動かないみたいですし、今日は夜まで楽しく遊びましょうか」


幸い予報では、夜には台風も過ぎる。電車も復旧するけど、こういうことがあったばかりだし……。


「さっきPSAに連絡を取ったら、みなさんの家までは車で送ってくれるそうです。しばらくは周辺も警護しますので」

「そこまでしてくれるんだ……!」

「仮にも国家資格持ちのエージェントですしね。
……というわけでここの代金は僕が持ちますから、どんどんお食事も頼みましょう!」

「えぇ!? いや、さすがにそれは!」

「大丈夫ですよ」


女性陣の一人……美月こころさん(二十二歳)やみんながぎょっとするので、問題ないと胸を張る。

なお美月さんは黒髪が奇麗な美人さんだよ。オパーイも控えめながら輝いている! ……って、それはさておき。


「その分事情聴取もさせてもらいますし」

「あ……ギブアンドテイクと」

「なのであれです、取調室でカツ丼を食べるみたいなノリを体感できるんです。素晴らしいことですよ」

『それ調べる当人が言うことじゃない!』


――こうして、幕は上がった。

僕にとっては敵討ち……真知哉さん達にとっては、自分の夢と未来を賭けた戦い……その幕が上がった。


絶対に……誰にもこれ以上、未来の邪魔はさせない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


もう状況が大混乱。あんな怪物に生身で殴り合いできるプロだっていうのも驚きだし、あたしの腱鞘炎……まぁ治りかけているけど、それも見抜いていたとかさぁ。

ただ小さくて、愛らしくて、可愛いだけの子じゃなかった。


「…………本当に、忍者さんなんだね」

「……田舎にはお袋さんもいるでしょ。お袋さんが泣きますよ?」

「本当に取り調べみたいなノリをしないで!? というか会話をして!? というかアンタ……やっぱり猫かぶっていたでしょ!」

「むしろ隠していましたって。だから友達でもなんでもないし」

「蒼凪、口を慎むんだよ!」

「そうそう! というかそこ、そこまで抉る必要ないと思うよ!? 刑事さん達もアレだったけど、君の発言でどん引きしていたからね!?」


というかこの子、やばい! 本当にカツ丼を注文して、あたしに振る舞いながら尋問してくるし! いや……美味しいけどね!? こういうときでもお腹は……減っちゃうんだなって、ちょっとショックだけど。

それで現在あの子は、あたしのスマホを操作……LINE履歴をあのぬいぐるみさんやしゅごキャラのみんなとチェックしている。


「でも、なんでわざわざここでLINEの履歴とかも?」

「あの様子だと、警察に情報を渡しても提示されるかどうか微妙だから。今のうちに掴めるものは掴んでおきたくて」

「ほんと大変だ……」

「大変で当たり前だと思っています。人の人生を大きく変える仕事だもの」


その言葉は軽くなかった。ただ犯人を逮捕して、悪い人を倒すだけじゃない。そうすることで誰かの人生を変える……壊すことだってあるのだと刻みつけているようで。

それは、あたしを引っ張ろうとした刑事達とは違う……アイツらが持っていなかったものだった。


「で、早速だけど……冬騎馬省吾先生と付き合っていたんですか?」

「はぁ!?」


いきなり凄いボールが投げられたし! あ、でも……そうか……まさかとは思うけど……!


「え、人知れぬ恋なのですか? いいですね……わくわくするのです♪」


それでこっちの……リインちゃんもいい性格しているなぁ! 楽しんでいるよ! 足が動いているよ! うずうずと!


「いやね、目的が目的だったから、冬騎馬先生の出演作とかもチェックしていたんですよ。
そうしたら二年くらい前、真知哉さんと小劇団の演目で競演していたことがあったので」

「え、真知哉さんそうなの!?」

「違う違う! そんなんじゃないよ!」

「まぁこれを見る限りは……そうなりますよね」

「そう……え、あっさり信じてくれるの!?」

「まず文面を見る限り、恋愛関係らしいやり取りは一切なかった。演技のこととか、そういう相談が中心ですよね。
それになにより……“見られたくないやり取り”があるなら、これを見せるはずがない」


……それ、逆を言えば“見せないやり取りもあったのでは”って感じに……あぁいや、言わない方向でいこう。どうもお仕事となるとシビアになる子っぽいし。


「なら……もう正直に話すけど」

「えぇ、それでお願いします」


ほらー、隠し事をするなって圧もかけてくるしさ。でもちゃんとした忍者さんだし、そういう恣意的なのを嫌う子なのは分かるから……深呼吸と一緒に背筋も伸ばして、蒼凪くんと目を合わせる。


「……先生との付き合い自体は……今の研修クラスに入る前から。君が指摘した通り、もう二年くらいになる」

「マジかよ……!」

「みなさんは……まぁ知らなかったですよね」


うん、みんなには言ってなかった。だから藤沢さんを筆頭に、驚きながら頷くわけで。で……まぁ言ってもいいかー。やましいことはないし。


「初級クラスで勉強していたとき、一度小劇団の舞台に出たことがあるんだ。
そのときゲストで呼ばれたのが先生で……そこからいろいろ面倒を見てもらって、親しくなった」

「……よくあるコースだな。もぐもぐもぐもぐ……」


ヒカリちゃんが……ピザにかぶりついているヒカリちゃんが言う通りだ。よくありすぎてびっくりだよ。

まぁ演技についても、右も左も分からない新人を見ていられなくてって感じだけどさ。それでも本当に助けられたし、いろんなことを教えてもらって……うん、嬉しかったな。


「ただ、冬騎馬先生……省吾さんから口説かれるようなことは、一切なかったんだ。
なんか、詳しくは聞いていないんだけど、付き合っているというか、片思いしていた人がいたらしくて……もちろん共演者にそういう目を向けると仕事が滞るし、面倒だからっていうのもあるけど」

≪だからあなたにとってはいい先輩で留まっていた。
でもそのあなたが研修クラスに入ったら……先生が冬騎馬省吾だったと≫

「本当にビックリして……これはあの、事実なの。
省吾さん、アニメの仕事とかほとんどやっていなかったから、担当するとも思っていなくて」

「黙っていたのは……当然かぁ。恋愛関係じゃなくても、えこひいきって感じになるし」

「……実は、かなりやりにくかった」

「あぁ、でもだからか……。
四月頃の履歴で、距離を取りたいって下りがあるし。それも真知哉さんの方からだ」


そう……その別れ話にも取られかねないやり取りが、あたし達の結論だった。


「……うん。先生にも……省吾さんにも絶対迷惑をかけるし、駄目だなって。
あたし達がどう言っても、そういう誤解をする人は出てくるだろうから……というか、現に警察の人達もした感じだよね」

「どうなんだろうなぁ……」

「どうなんだろうって……この程度のことなら、先生の携帯を見れば」

「それがですね、その携帯が現場からなくなっているんですよ」

「……怪物が壊したとかは」

「僕も警察がくるまでに一通りチェックしましたけど、その様子もなかったんです。
あと、スタジオの鍵もなくなっているんです。井上さんも行方を知らないそうで……まぁ当然真知哉さんは」

「知らない知らない!」

「…………」


蒼凪くんはそこで難しい顔をする。なにか嫌なものを感じているようなそんな顔。

結構マイペースな感じだけど、こういうのは表情に出やすいようで……。


「まぁそこは後で考えます。それで……結局二人の結論としては」

「だから、ひとまずこの一年はそういう線引きもきっちりして、改めてよろしくという感じに……省吾さんも賛成してくれた」

「でも俺達、全然気づかなかった……!」

「それだけ二人がクラスのことを大事に思っていたからですよ。普通どうしても混じる部分はあるだろうに……」

「……蒼凪もそういう経験が?」

「こういう家業ですからね」

「というか、仕事関係で友達やら恋愛ごとを持ち出すと大体面倒になるのですよ。はやてちゃん……うちの家長も頭を痛めていたのです」

「どこも同じってことかぁ」


藤沢さんに頷きながら、蒼凪くんはあたしのスマホを丁寧にテーブルへ置いて、両手でウーロン茶をひと飲み……預かっているものだから、大事にしてくれているみたい。


「……って、そうだ。
真知哉さん自身、恋愛感情はなかったんですか」

「それは、見てもらった通り!」

「隠していたとかもなく」


そこで胸がちくんとする。でも蒼凪くんは、下世話な感情で聞いていない。


「意地悪で聞いているわけじゃないんです。警察もそういう方向で考えそうだから」

「……先生も浮いた話はさっきのくらいだけど、本当になにもなかった。
あたしも……やっぱり今は、夢が一番だし」

「そうですか」


……本当は違う。あたしは……恋愛が怖い。男の人とそうなることを意識するのが怖い。

中学の頃……ちょっと非行というか、ぐれかけたことがあったとき……その友達に……がばって……されたから……。

ただ、最後まではない。というかあたしが合気道をやっていた関係で、遠慮なく投げて……うん……むしろ怪我をさせた立場で。


でもそういう怖さって残るみたいで……きっと察しているよね。うん、なんとなく分かった。というか君については殺す勢いで……投げちゃったし……!


「……というか……うん、先生もそんな感じでさばさばしていた」

「冬騎馬先生が?」

「自分も似たようなものだって……だから上手く気づかってくれていて。舞台に出るときも、守るように動いてくれて。
……あたしにとっては、尊敬できる先輩で……そんなあたしを受け入れてくれて、応援してくれるお兄ちゃんみたいな、人だった」

≪えぇ。それは文面を見れば分かりますよ。……これと恋愛を結びつけて、こじれて殺したって突っ走るなら……とんだスイーツ脳ですよ≫

「まぁ世の中にはトンビですらかっさらうのを躊躇う、油揚げ恋愛をしている阿呆どももいるからなぁ。人それぞれで処理できる範疇かもしれんぞ」

「……ヒカリ、僕のことを見ながら言わないでよ。というかなに、いちごさんと僕のことか」


あー、うん……なんかハーレム状態らしいね。幼なじみさん三人もいるし、舞宙さんもいるし……もう一人に絞ると刃傷沙汰になるから、事実婚も含めて考えるしかないんだよね。ショウタロス達からも聞いたよ。

……だから潜入捜査のときも一部にしか事情を話せず、ご家族とか大混乱だったって……! でもハーレムの覚悟ってなに!? あたし、声優志望としては知りたいかも!


≪なら真知哉さん、その先生がなにか悩んでいたとか、誰かに恨まれていたなどは≫

「……全く覚えがないよ!」


ただアルトアイゼン……ぬいぐるみさんの言葉で、そんなどこか呆けた思考は吹き飛ぶ。つい拒絶気味に叫んでいた。


「というか、蒼凪くん達も知っているでしょ!? 先生、面倒見もいいし、人から恨まれるようなことなんて!」

「みなさんも覚えは……これまでの付き合いで引っかかったところなどは」

「俺達も……あぁ……ないなぁ……!」

「優しく真剣だけど、理不尽な人じゃないし……うん、そこは蒼凪くんも感じてくれている通りだと思う。
だから私達も、先生が恨まれていたとか言われると……ちょっと……」

「ですよねぇ。僕の付け焼き刃な演技にも、きちんと指導してくれたし……障害のことも面倒だったろうに、いろいろ気遣ってくれた」

「……そういう、いい先生だったんだよ」

「でも……女の子役しかやらせてくれなかったんだよなぁ」

『……それは逆恨み』


……さすがにあり得ないと揃ってツッコむと、蒼凪くんがズッコけてくれる。


「なんでだぁ! なんで全員ハモったぁ! なんで総意をぶつけてきたぁ!」

「蒼凪くん、落ち着いて! それはもう先生も言っていた通りだよ! ヒロインもできる男性声優を目指すのが君の道だったんだよ! むしろここで気づけたことに感謝しよう! もうオンリーワンだし!」

「そんなことないから! これから声変わりするから! これから身長も一八〇センチになるから! そうだ……声だってこう、大塚明夫さんくらい渋い感じに」

『それはもはや病気!』

「だからなんでだぁ!」

「……恭文さん……頑張ってはいると聞いていたですけど、それはニッチすぎるのです。どん引きなのです。というかいじめなのですか?」

「全部冬騎馬先生に言えぇ! 多分天国にいるから!」


いや、落ち着いて! いじめじゃない! だって……凄い堂に入っているんだもの! その才能は嫉妬するレベルだったんだよ! だから……ね!? ね!?


≪まぁこの人達はさて置き……なら、変わったことなどはなかったんですか? 小さなことでもいいんですけど≫

「変わったことって言っても……強いて言うならやっぱり、蒼凪くんが編入してきたことくらいで」


そうそう、それで先生もまたお仕事が増えて大変そうで…………あれ、待って。


「……あ、そう言えば……」

≪ありますか≫

「女の子は、痩せるサプリとか興味があるものなのかって、前に聞いてきたことが」

≪…………サプリ?≫

「真知哉さん、それ……いつの話なのですか」

「一か月くらい前……クラスが始まってから、連絡も控えめだったから……うん、驚いた」

「恭文さん」

「ちょっと待って」


蒼凪くんはあたしの携帯を手慣れた様子で操作……そのやり取りをすぐに見つけてくれる。


「あ、あった……」

「まぁ体型とか人それぞれに思うところがあるし、それを改善できるのなら興味津々だよーって返して……いるよね」

「いますね。
でもこういうのはやっぱり初めてで」

「うん。基本演技のことばっか話していたし」

「……サプリ……サプリかぁ……」

「蒼凪くん?」

「いや、実は最近……ドラッグを人に勧めるやり口で、そういうのも多いんですよ」


そこでぞっとさせられる。というか、冬騎馬先生が……省吾さんが殺された直後、された話を思い出す。


「やせる薬とか、疲労回復にいいとか……まず一度飲ませて、中毒状態に陥らせて……そこから顧客にする」

「ちょっと、蒼凪くん……!」

「でも冬騎馬先生が“そっち側”なら、会話をすぐに終えたのが気になるんです。一番引き込みやすいのは真知哉さんですから」

「だったらちょっとした気まぐれってことは」

「……とにかく普通と違う行動を取っているというのが、どうも気になって。
しかも真知哉さんに相談って辺りなんですよ。この一年はクラスのこと最優先で、個人的付き合いは控えようって……そう一緒に決めた、真知哉さんに」


そう、言われると……いや、そうだ。確かに突然だったし、おかしいところはあった。

というか、そもそも演技論とかを話していたLINEだったんだよ。そこから外れているのは違和感もある。

なにより省吾さんなら、相談できる人くらいいる。クラスの中でなにかあったなら、養成所の事務所に相談していいくらいだし。


それをあたしに……もしかしたら、あたしだけに話していたとしたら?


(それ、どう考えても異常じゃん……!)


でも、それって……それなら、もしかして……!


「真知哉さん、明日ちょっと付き合ってくれますか?」


何か、とんでもなく大きな物を見過ごした……そんな感覚で打ち震えていると、蒼凪くんが宥めるように提案してくれる。


「行き先は横浜港署。冬騎馬省吾さんのことで、同行を求めたいんです。
えぇ、それはもうお聞きしたいことが山のようにあるので、連日通ってもらう必要があるかも」

「おい、蒼凪……!」

「そういう体で引っ張りますけど、代々木署に真知哉さんの身柄を取られないためですから。もちろん事務所には内密に話を通します。
……僕が予測した通りだと、真知哉さんは……今相当危険な状況にあります。下手をすれば殺されかねない」

「……そこはまぁ、プロである君を信じるしかないわけか。真知哉、どうする」

「……大丈夫」


それでもう、迷うのもあり得ないってくらいに……笑って言い切っちゃった。


「あたしが犯人だったら八つ裂きにする構えなんだよ? それくらい割り切れる子なら……うん、きっと大丈夫だ」

「ありがとうございます」

「うん……ならさ、敬語とかなしでいこう! うん、そうしよう!」

「え、なにをいきなり……」


引かないで!? あたし、そんなことされる覚えがないんだけど! あたしを堂々と、拷問にかけるって言った君よりは常識的なはずだよ!

うん……だから、なんだよね。


「いや、ほら……内緒にしていなきゃいけない話をバラした上で、助けてくれたしさ。だったら、あたしもちゃんと君のこと信じなきゃなーって」

「真知哉さん……」

「なにより……あたし達、友達だからね……!」

「え、でも連絡先とかも交換していないですし」

「だったらそこも交換するよ! 君、友達の基準とかちょっと独特みたいだしさぁ!
だから……うん、かざね! あたしはかざね! それで……恭文で、いいよね」

「うん……それは、大丈夫。……かざね」

「ありがと」


あたしより四歳下の子は、少し困りながらもちゃんと応えてくれる。それが嬉しくて……でも、なんだろうな。


≪あら嫌だ……またいつものパターンで突っ走っちゃって≫

「……やっぱりフラグを立てていたですか! リインは……リインはこうなるんじゃないかと危惧していたのですよ!」

「……アルトアイゼンだったか。つまり、あの……というかリインちゃんも」

≪だから一人に絞ると、間違いなく刃傷沙汰になるくらい……惚れ込まれるんですよ。リインさんももう愛が重たいですし≫

「それで肉欲とかに流されず、きちんと向き合うなら……むしろ俺も見習おう……!」

「藤沢さん、え……まさか……」

「違う違う! あの、恋愛に対しての姿勢を……おいこら、引くな! 姿勢の問題だって言っているだろ!」


男の人は怖くて、投げ飛ばしたりもするし……だけどこの子は、今までとは違うなにかを運んでくれる。そんな感じがして。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


走っていた……雨の中、走り続けていた。

美咲に仕事を押しつけ、外回りだと……現場百遍だと嘘吐き、走っていた。


「メモリ……俺の、メモリ……!」


今日歩いた道を、乗っていた車を……車はもう探したから、とにかく道を……這うように探し回る。

風が、雨が、どれだけ頬と服を叩き続けても、気持ち悪いくらいにぐしょぐしょに濡れても、絶対に足を止めない。

何度も何度も……何十回も、何百回も……探して探して探し続ける。だがそれでも見つからない。俺のメモリは……俺の力は……!


「どこだ、どこにある……どこに落とした!」


そこでマンホールを踏んづけて……滑って転ける。マトモに体を打ち付けるが、それでも起き上がり、代々木の街を走り回る。

だがどこにもない。俺のメモリが……命そのものが、どこにもないんだよ……! なぁ、頼むよ……俺はただ、甘い汁を吸いたかっただけなんだよ。

そんなの誰にでもあることだろう? なのに、なんでこんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ。実際美味しい思いだってできるようになったんだ。


うだつの上がらなかった俺の人生が、あれのおかげで変わっていくはずだったんだ。だから……。


「どこなんだよぉ!」


頼む……見つかれ……見つかって……そう願ったときだった。また……左手にコネクタが浮かぶ。


「あ……!」


だが、ない……メモリがない。どこだ、どこなんだ。一体どこにあるんだ。

さっきからずっとそうだった。生存確認みたいに印が出て、消えて、出て、消えて……それを繰り返すばかり。

だから諦め切れない……どこかにあるのだと、足を動かすしかない。転けた拍子に飛んでいった傘にも構わず、走り続けるしかない。


「おい、やめろ。壊すな……なにもするなぁ! それは俺の……俺のメモリなんだぁ!」


誰かに命を弄ばれている……その感覚が怖くて怖くて仕方なくて……雨に混じって汚水も垂れ流しながら、それでも走る。

無様な浮浪者ですら引いてしまうほど、ドブネズミですら逃げ出すほど、俺は汚れに塗れ……走り続けるしかない。

こんな思いをするために、アイツと……メモリの力で、買収してきた組織ごと、そのシマを乗っ取ろうって……そう計画したわけじゃない。


俺は楽して、今まで駄目だった分、取りかえそうとした……ただそれだけのことなんだ! なのに……なんでだぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――台風はまたひどくなっているみたい。夜までに納まるかどうかも不安になっているけど、あたし達はもう大盛り上がり。

あのね、恭文の武勇伝がほんともう……なんだかんだで凄くて!


「――それでSMAPの犯罪を立証したの!? 紙吹雪でぼんっと!」

「あれは難事件だったよー。あ、でも生のみなさんはほんとかっこよかった」

「……私……ファンだった……」

「だったらファンレター、送ってあげてください。まだまだ懲役中ですから」

「軽く流されたぁ!」

「君、ほんといい性格しているよね!」

「よく言われるよ。性格がいいと」

「意味合いが全然違う!」


というかSMAPの事件も担当したとか……ほんと凄いんだけど! あの事件ならあたし達みんな知っているくらいだし!


「というか、他には」

「そうだなぁ……あ、最近だと幡随院先生のファックス殺人! あれはなかなかに人を舐めてくれた事件だった!」

「あれも恭文が解決したの!? 沖縄だったよね!」

「沖縄にたまたま行く用事があったの」

「……やっぱり、君……運が……」

「夏が一番やばいのですよ。だからリインも気をつけるようにって言ったのに……」

「シャラップ!」


もういろいろ暗いものを引きずっていたけど、みんな大盛り上がり。もちろんプライバシーの問題もあるので、話せないところはすっぱり削除している感じなんだけど……それでも本物の忍者さんから話を聞けるっていうのが、もうね!

わりと創作物でも忍者の役とか多いし! というか、異能・オカルト専門だって言うのに幅広いのがもうなぁ!


≪Masquerade≫


すると蒼凪くんが、また証拠袋に入ったメモリのスイッチを押す。


「……って、なにしているの?」

「いや、こうしたらメモリの持ち主が慌てふためくかなーって」

「怖すぎるんだけど!」

「実は前にあったんだよ。左翔太郎ってのがそれで犯人を追及して……捕まえるのに失敗したことが」

「じゃあ駄目じゃん!」


――本当に……優しいこの子には感謝しかない。

多分私達の気持ちとかも全部分かった上で、自分から明るくしてくれている。

それで伝えてもくれている。冬騎馬先生のことは、きちんとした形で解決するって。あたしのことも守るって。


その不器用で素直じゃない心遣いが嬉しくて……うん、だからあたし達は、笑えるんだ。


(その3へ続く)





あとがき

恭文「というわけで、第二話……まぁまぁ早速尻尾を出してくれたピエロな共犯者はさて置き、敵のメモリはなんじゃろなー」

あむ「ねぇ、まさか首輪って……」

恭文「さぁブドウジュースを用意しよう。阿智がどんな末路を迎えるか楽しみだ」

あむ「愉悦しないで!? というか台風の中アレは惨めすぎるじゃん!」


(『『……愉悦部の活動と聞いて』』)


あむ「金ぴかと外道神父も帰れぇ! あとアンタ、さすがに堂々と『友達じゃない』発言はおかしいからね!?」

恭文「え、でも高町なのはは」

あむ「なのはさんは例外!」


(『さすがにひどいよ! こんな引用は想定外だからね!?』)


妖精騎士ランスロット「ところでマスター、私の出番はないの?」


(ピックアップでなんとか召喚できた妖精騎士ランスロット……というか蒼凪荘のドラゴンランサー、堂々と登場)


恭文「どうやって出るの!?」

妖精騎士ランスロット「それはもう、聖杯大戦で召喚とか」

あむ「いや、アンタが出たら、ランサー枠どうするの? カルナが消えるじゃん」

妖精騎士ランスロット「あの人はセイバーでもあるじゃない」

あむ「クリスマスのサンタVerで出ろと!? トンチキがすぎるじゃん!」

恭文「さすがにそれで出て纏めるって無理だと思うなぁ!」

妖精騎士ランスロット「でも、マスターの恋人である私が出ないのは逆におかしい」

恭文・あむ「「は!?」」

旋風龍「お待ちなさい! それならまずこの私……ご主人様のメイドラゴンが出るべきでしょう! 同じドラゴンとして譲れません!」

妖精騎士ランスロット「私の方が早く飛べる」

旋風流「ふふふふ……それは分かりませんよー! 現役ドラゴンを舐めないことですね!」


(メイドラゴンとドラゴンランサー、火花をバチバチ……恒例行事です)


恭文「そ、それであむ、今日は七月二十二日……美奈子の誕生日記念日であり、僕の誕生日(八月一日)まであと十日ちょいだ!」

あむ「あ、うん……そうだね」


(ベストカップル、もうそこは流す構えのようです)


恭文「今年こそ平穏無事な誕生日を過ごすんだー。きっといいことあるぞー。宝くじが当たるとか!」

あむ「アンタ、また無茶ぶりを……!」

アブソル「大丈夫。お父さんのことは……私達みんなで守る」

ラルトス「ラルトスも、頑張るね」

白ぱんにゃ「うりゅりゅ!」

恭文「そういえばアブソル……アンタ、普通に山から下りてきたポケモンだっけ。擬人化して長いから忘れがちだけど」


(元々は蒼い古き鉄を守ってくれるポケモンでした。
本日のED:仮面ライダーWのBGM『ハードボイルド』)


いちご「でも、十二月になっても事件って……やっぱり年中夏なんだよ、恭文くんは」

恭文「そんなことないから!」

いちご「大丈夫。私……全部受け止める覚悟だし」

恭文「そういうことじゃないんです!」

フェイト「えっと、だったらまず奥さんの私からだよ? うん、いちごさんともお話し合いで勝負だし」(ガッツポーズ)

いちご「………………」(距離を取る)

フェイト「どうして無言のままに遠ざかるんですかぁ!」

アイリ「ママがガッツポーズしちゃったから……」

恭介「うん……」

フェイト「どうして!?」


(おしまい)






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