小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作) 西暦2008年・風都その11 『Vの蒼穹/怪物』 魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s 西暦2008年・風都その11 『Vの蒼穹/怪物』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あらかたのことは終わったので、ホテルに戻り……もう午前様だよ。ほんとアイツはもう、頑固というか……まぁ、いいけどさ。 アイツがどこまでも凡百で、ボク達人でなしとは違う。そう割り切れただけでも収穫だった。 ……だからこそここからは、人でなしの世界で……その流儀で、改めて奴らを叩きつぶさなきゃならないが。それで負けたら恥さらしどころの騒ぎじゃない。 「――――というわけで、鳴海荘吉については……駄目なら駄目でもう決断するしかないな」 『そうですか……ベルベットさん、お手数を』 「よせよ。そこはお互い様って約束だろ」 『……そうでしたね』 それでPSAのサラに、携帯で連絡……。 ぽすんとベッドに腰掛けながら、つい倒れ込んじゃうのは……許してほしい。さすがに疲れたからなぁ。 『それで、言峰神父は』 「報告のために街を出た。テラーの能力を考えると、予備戦力はそういう扱いで……問題ないよな」 『えぇ』 「それで、接触禁止命令……大丈夫なんだろうな」 『それはもちろん。というか……豊川さんが鳴海荘吉自動殺戮マシンになっている時点で、もうお察しですよ』 「だよなー」 フウカ、ガチだしな。あの殺気はどこぞの英雄王を……さすがに比べるとヤバいかと、身を起こして軽く震える。……もう一回シャワー、浴びたくなってきたな。 「でもさ、サラ……アイツ、そこまでされるとは思っていなかった様子だよ。それだけで心がへし折れかけていた」 『……同じ父親として、美澄父にも同情し、彼への対応が間違いだったと認めさせる……そういう考えもあったのでしょう』 「だから気づいていなかったしな。アイツが見下げた“そんな奴ら”が、ヤスフミが助けたい誰かだっていうのも……そもそも最初の一件を勇気ある行動みたいに捉える自分が、悉く軽蔑されていたっていうのもさ」 『会長も仰っていました。過激なところもありますけど、殺人を……暴力を肯定しない。それは御影氏との約束でもあったのだろうと』 「……勝手したことは相当恨まれるだろう。そこは悪いと思っている」 『とはいえ、我々も大人として放置できません。 今の鳴海氏が風都にいるだけで、命の危険がある状況ですし』 それで甘いのはPSAも同じ……いや、違うか。サラの言葉には打算がある。というかそれが全部だ。 『そして彼には、今死なれては困る理由がたくさんあります』 「ドーパント事件に対処してきた実績だけは本物だもんな。 裁判で奴が持っている情報も引き出してもらって、今後に繋げる……」 『シュラウドさんの協力は得られていますけど、十年分の出遅れを取り戻すには……というところですしね。 となれば、さし当たっては現状です。ベルベットさん、あなたから見て……彼は本当に、引き金としてその役割を真っ当できますか?』 「現時点でもしているよ。あと……それがウィザードになれるかどうかで言えば、問題ないとは……思うんだが……」 …………実は、一つ……いや、二つ……引っかかりを覚えている。 いや、一つ目については個人的興味なんだが……。 『なにか気になることが?』 「……サラ、例の……ヨシタカ・イガサキだったか? ラストニンジャだなんだと描いていた自叙伝の解析って」 『そちらはリーゼさん達が終わらせてくれました。…………ガチでしたよ、あれ』 「マジかよ……!」 実は、ヤスフミが引き継いだミカゲって男の遺品には、乞食清光以外にもいろいろ面白いものがあった。 その一つがヨシタカ・イガサキって奴の自叙伝。忍者としての活躍やらを印したものなんだが……そんな忍者は歴史上存在していない まぁそこはいいんだ。問題は、そこに……“六歳児でもできる忍者一番刀&オトモ忍製作方法”みたいなことが描いてあったことだよ……! しかも割と詳細で、そのままやればそれだけでこう……なんか……凄く、変身できそうなのがあってなぁ……! ただ、ヤスフミはそれを持てあましていた。そりゃそうだ、ガチ六歳児だからな。 それで“これはホラなのか。ガチなのか”と相談されて、リーゼ達も内密に検証していたんだが……。 「でも、本当に作れそうだったのか……!」 『いろいろと特殊な感じですけど、形にできるだけの理論は詰め込まれていると。 ……まぁ、今回の戦いについてはなんの役にも立たないことは決定していますが……』 「作る時間、ないしな」 『忍者一番刀や忍シュリケンというアイテムはともかく、オトモ忍は……アニメに出てくるスーパーロボットですので』 「だよなぁ……」 そう……今回の一件では全く以て関係ない。それに武器らしきアイテムについても、作る時間はない。というか練習する時間もない。 ただでさえアイツは不器用なんだ。今は身近なものを鍛えて、それをより使いこなす方を優先するべきだろう。そこはアイツも納得しているが…………ガチだったのか…………! 「……だが……あんなものを持っているって、ミカゲは何者なんだよ」 『そちらはトウゴウさんに聞いた方がよろしいかと……』 「そうするよ」 あぁ、サラも困惑している。あんなのが存在していいのかと。一体どこから入手したのかと困惑している。 というかアイツ、いずれあれを作りたいとか言っていたからなぁ。そうしたらどうなることやら……いや、もうボクは知らない。責任を取れる話じゃない。 それよりかはだ……。 「ならもう一つの方だが……サラ、襲撃への備えはしているんだよな」 『万全の隅をつつく勢いで』 「今レポートを送るから、見てもらえるか?」 立ち上がり、パソコンを開き、問題のレポートを送る。 「推察も入り交じったものだが、ボクなりに疑問点を纏めてみた」 『……はい、届きました。 えっと、ウィザードメモリの…………え…………』 そこでサラが……ふだん冷静なサラが絶句する。声が唇ごと震えているのは、携帯越しによく伝わる。 ……その間に、送ったレポートは完全消去っと。部屋に入られた形跡はないが、まぁ……念のためにな。 ――ウィザードメモリが鍵である可能性について―― (できれば外れていてほしいけどな) ウィザードメモリは、もしかしたら鍵かもしれない。 それも滅茶苦茶に大きい鍵……だから、ミュージアムも……! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 夜の風都……通り雨に濡れる風都。そんな中、雨に濡れ、泥にまみれながら、穴を掘る。翔太郎はまだ起きない……相当しっかり眠らされていたらしい。 気を失っただけで、目立った外傷もなさそうだった。だがそれでも……爪がひび割れ、一枚二枚と剥がれても、俺は穴を掘り続ける。 それしかなかった。それしか……近くにはスコップらしきものは、どこにもなかった。 そうしてアイツらの言葉を、何度も反すうする。あの化け物のような男の力強さと、恐ろしさ……どこか空虚な瞳も思い出し……俺は逃げていたつもりなんてなかった。 俺一人この手を血で汚せばと……だがその覚悟は、結局一人で戦うという逃げだったのか。 マツやメリッサのようなことはごめんだったが、それも…………そうして一人で耐えて耐えて耐えて……だが、それでは打ち崩せない壁に道を塞がれたのが、今で。 「どうすればいい……」 何度も問いかける。答えを探すように呟く。 俺は俺が思っているより、我慢ができない人間だった。アイツらのようなマトモじゃない奴らにもなれなかった。 そんな普通の俺が……決断を迫られている。一体どうそれを通せばいいのかと、迷い続けている。 俺はやっぱり、ここぞというときの決断が甘い……それで何度も痛い思いをしているのに……それが限界だと、分かっているのに……。 「俺は……この街と、どうさよならすればいい」 雨は降り続ける。ただ一人、そんな街を彷徨う……こころの中で彷徨い続ける。 ……さよならを言うことは、少しの間死ぬことだ。だが俺の場合は……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 雨に濡れた風都……それから明けた朝も、状況は変わらない。 「街から出て行け−! この骸骨男がー!」 「風都を汚す怪物は消えろ−!」 「ガイアメモリに魂を売り渡した悪魔がぁ!」 「松井誠一郎はどこだぁ! どこにいるぅ! お前が匿っているんだろ! 出せぇ!」 「メリッサって奴も仲間なんだろ!」 「私達をずっと騙して……このクズどもがぁ!」 メリッサさんも関係ない。彼女とも会えない……会ってはいけない。 それもこの十年、おやっさんは耐えてきた。耐えてきたんだ。たった一つの頼みを希望として……なのに……。 『消・え・ろ! 消・え・ろ! 消・え・ろ! 消・え・ろ! 消・え・ろー!』 おやっさんの姿が見えない。それでも事務所にやってきた俺は……結局引きこもることしかできなくて。 おやっさんは、ただこの街を守りたかった。恭文が立ち直るために必要なことをした。そこに嘘はない。やり方が古くさかっただけで、愛はあったんだ。 だがそれすら信じてもらう手立てが、俺にはなくて……。 「……鳴海さんは姿を消したままか」 するといづみさんが、すたすたと……事務所の中に入ってきて。 「いづみさん……!」 「昨日、ウェイバーと仲間の人がボコボコにしたのが、相当堪えたらしいね」 「なんでだよ……おやっさんに、アイツを利用してでもとか、無理に決まっているじゃねぇかよ! なんで信じてくれないんだよ! それで全部終わっていたことじゃないか!」 「終わっていたらこんな状況にはならないんだよ……」 「頼む。おやっさんを信じてくれ。 おやっさんならきっと、苺花ちゃんの目も覚ます。助けてくれる。俺が保証する……この通りだ!」 それでも頭を下げる。俺にできるのなんざ……学がなくて、権力のない俺にできるのなんざ、こうやって誠意を示すことだ。 それで少しでも伝わる……伝わるものがあるんだと、そう信じて…………! 「鳴海荘吉に苺花ちゃんの目を覚ませるわけないでしょ」 「そんなことはない。おやっさんならきっと」 「あの子は、今こうして“鳴海荘吉を見習っている真っ最中”なのに」 ………………その言葉の意味が分からなくて、顔を上げる。 いづみさんは割れた窓から外を覗き込んで……。 「なんだよ、それ……」 「苺花ちゃんがお父さんにしたことは、非合法私刑……鳴海荘吉が街を守るため、ドーパントとなった人間を殺し続けてきたことと同じだ」 「違う! おやっさんがやってきたことは、正義だ! 街のために踏ん張って、戦ってきたんだ!」 「警察も頼れないし、自分しか戦う人間がいないから」 「そうだ!」 「苺花ちゃんも“誰にも頼れず、父親を破滅させなきゃ安寧なんてなかった”んだけどね……」 「………………」 「そして恭文君も……あ、こっちはちょっと違うか。 あの子はちゃんと私達や劉さん達に頼ろうとしてくれた。なのに、君達がそれを踏みつぶしにかかるんだから」 ……いづみさんはとても冷たい目をしていた。街の喧騒を……おやっさんへの誹謗中傷を、至極当然のことだと見つめていた。 「恭文君はこの流れを予測していたよ。あのアホが、『みんなを守るために我慢して、人殺しになったことを尊び、正義と誇れ』なんて宣った瞬間からね」 「ちょっと、待ってくれよ……」 「苺花ちゃんはその暴力に……決して最善手じゃなかったものに取り憑かれている。自分の甘さがそういう状況を作った。 だから鳴海荘吉は苺花ちゃんを説得なんてできない。なにせ鳴海荘吉もまた、“他に方法がないから”とその暴力を正当化しているんだから」 「なんで、そこまでおやっさんを否定するんだよ……! おやっさんはそんなつもりはなかった! 俺や街を助けてくれた! それでいいじゃねぇか!」 「……あのままじゃ死ぬよ? あの人」 「だから、なんだよそれ…………」 「利用する覚悟だなんだと言っても、昨日も今まで通りなかっこつけで通せると見くびった」 なんでだよ……。 「翔太郎君、あの人は君が思っているようなヒーローじゃない。そうはなれない人間だ」 堪らないんだよ。心が引き裂かれそうになるんだよ。 「恭文君があの人にドライバーとメモリを返したのはね、それに対して割り切りを自分からつけろってことだよ」 おやっさんは俺の恩人だ。あこがれの人だ。 「普通の人間なんだよ。そういういいところも、悪いところも……誰にでもあるものを、普通に持っているだけの人間。 そして悲しいかな、世の中にはそんな普通の人間がするやせ我慢なんて意にも介さない、圧倒的な暴力があるんだよ。そういうものに立ち向かうのが正義なんだ。 ……だからもうこれ以上、あの人だけに……街を守るなんて重荷を背負わせちゃいけない」 「……」 「あの人はメモリの力で、そこをごまかせる……克服していたと勘違いしている。今止めなきゃ、本当に破滅するよ?」 それが、こんなゴミみたいに罵られ続けて、最低な人間扱いされて……それが正しいなんて……どうして……! おやっさんは俺を掘り起こしてから、まるで……この世の全てを儚んだように、姿を消したんだぞ。あれを見ていたら……あれを知っていたら……! 「それでも俺は……信じたい」 「翔太郎君」 「おやっさんの心はアイツや苺花ちゃんに伝わるし、この街を救っていく」 「だったらやり方を間違えている。だからその前に、暴力で潰されるんだ」 「そんなことにはならないさ。……おやっさんには、この俺がいるからな」 「言ったはずだよ。後ろ盾も、こねも、権力もない奴には正義を宣う権利がない」 「だからもう手出ししないでくれ。アイツは、俺達の依頼人だ」 「違う。あの子が依頼したのは私達だ」 「だったら俺達に譲ってくれ」 もう一度頭を下げる。それしかできないが、覚悟を決めて下げる。 「俺達が駄目だったら、そのときは好きにしてくれていい。だから今だけは、おやっさんを……風都を信じてくれ」 「駄目だぁ! そんなんで怒りが通じるかぁ! 人の心を亡くした骸骨に痛みを覚えさせられるかぁ!」 …………だが…………そんな決意を吹き飛ばすような一喝が、外から飛ぶ。 「腹に力を入れて声出していけぇ! 憎しみをぉ! 怒りをぉ! この街を好き勝手にされた恨み辛みをぶつけてやれぇ!」 『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』 恐る恐る窓の外を覗くと……。 「えっと、なになに……『骸骨&ドーパント死すべし』? またデカイ旗を担いでいるなぁ、あの子」 「な…………」 「それじゃあ声を合わせてぇ! せぇぇぇぇぇぇぇのぉ!」 『きぃぃぃぃぃえぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉぉ! きぃぃぃぃえぇぇぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉぉ!』 「よぉぉぉぉぉぉぉぉし! 組み木打ち、始めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 更にはなぜか……どこからともなく木材が組み立てられ、そこに大きな木の棒を叩きつける。 何度も何度も……狂ったような叫びをあげながら……。 「きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい! きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」 『きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい! きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!』 しかもそれに後から後から続いて……周囲は耳をつんざくほど……いや、建物を揺らすほど、強い衝撃が響く。 それに唖然とする……それが、延々と…………続くんだ。いつまでも、いつまでも……! 「よぉぉぉぉぉし! 打ち込みが十巡したら、この調子で街も練り歩くぞぉ!」 『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』 『きぃぃぃぃぃえぇぇぇろぉぉぉぉぉぉ! きぃぃぃぃえぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉ! きぃぃぃぃぃえぇぇぇろぉぉぉぉぉぉ! きぃぃぃぃえぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉ! きぃぃぃぃぃえぇぇぇろぉぉぉぉぉぉ! きぃぃぃぃえぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉ!』 そしていづみさんは、この状況を平然と放置する。というか、いつの間にか出ていっていた。 坊主を外に出て止めるかと思ったが、その様子もない。外には出たが、それらしい音はなかった。 「………………なにを………………」 響く……響く……風都が、街が、俺達を否定する声が響く。 だがそれ以上に…………。 「アイツはなにやってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――例の出来損ないが風都入りしてから、五日目の朝。 鳴海荘吉という目の上のたんこぶは排除できた。これでもう園咲文音……裏切り者である私達の母親を守る盾はない。 そうは思っていたけど、思い通りにはいかなかった。 「……裏切り者の行方は、未だに掴めないと?」 「はい……少なくとも、風都の中には」 「どういうこと?」 「それが、なんとも……全力で調査はしているのですが」 「どういうことと聞いているの」 ディガル・コーポレーションの社長室で、理由を部下に問いただす。でもエージェントの一人は、脂汗を滲ませるだけで答えに詰まる。 『簡単ですよ、社長』 するとそこで口を挟んできたのは、須藤霧彦……まぁスマートフォンによるテレビ電話参加だけど。 彼は若手ながら、ガイアメモリ販売では高いセールスを叩き出している男だった。 もうすぐ歴代の売り上げ記録を追い抜こうという凄腕だけど……私に対して距離が妙に近い。気でもあるのかしら。 まぁそんな彼だけど、実は現在風都にはいない。ミュージアムの業務拡大に備えて、風都市の外で調査活動に勤しんでいた。 だから……PSAと警察が仕掛けたこざかしい策略によって、風都から閉め出され、右往左往している一人になったわけで。 「……この場にはいないあなたに、なにか分かることでも?」 『部長と相談はしていますので。 とにかく例の……蒼凪恭文、ですか? 彼はなかなかに知恵が回るようだ』 「どういうこと?」 『恐らくはPSA……忍者嘱託組織が園咲文音をかばっている。こうなることを予測した上で』 「馬鹿な……あんなあるかどうかも分からない障害を抱えた出来損ないに、そんな知恵が」 『その知恵があるかどうかはともかく、PSAの協力を取り付けるだけの材料は作れる。その素養を甘く見てはいけないと思いますよ?』 「……私に指図するつもり?」 『とんでもない……心配しているんですよ。社長は先日、“反逆者”に危うく殺されかけたんでしょう?』 「き、霧彦!」 つい舌打ちしかける。……この男は優秀だけど妙に使いにくい。子どもを実験台にしたことも伏せている。だから反逆者という言い方にしているけど……。 「あなたなら……なんとかできると?」 『本来であればPSAなどという子どもを利用する輩は私が断罪する……というところですが、妙に風向きがおかしい。もう少し慎重に動きたいとは思います』 「また悠長な……」 「色男が言う通りだ。冴子、その少年を甘く見ない方がいい」 応接用ソファーに座り、爪を研いでいた男が……万雷が楽しげにそう告げる。 「街での評判も軽く仕入れたが、これがなかなか……この戦場が一私立探偵の独壇場ではなく、戦略のぶつけ合いだと言うことを理解している。 ……間違いなく一流……いや、超一流の戦略家と踏んで、最大の警戒を送った方がいい」 『これはこれは……柄の悪い客分かと思いきや、援護射撃してくれるとは……あなたを見直す必要があるようだ』 「そうしてくれると助かる。戦略視点での戦いとなれば、俺一人でドンパチして解決するわけもないのでな」 「……そこまでの警戒が必要と? たかだか六歳の子ども……しかも人として出来損ないの分際相手に」 「ではこう考えてはどうだ? ……大人として、格の違いを見せつけると」 「本当に口が上手ね、あなたは」 まぁ変にいら立たせつよりはいいけど……でも確かに、そういう考え方は悪くない。 ……悪くないから、参考までに……戦士としての意見も聞いてみようと思う。 「なら、あなたならどうするの?」 「PSAに探りを入れる。向こうも次世代型メモリやドライバー……ガジェットの情報は欲しいし、多く引き出したいはずだ。こちらへの対抗手段確保のためにもな」 「現にリアライズドライバーなんて新型まで用意していたものね……」 「恐らく鳴海荘吉はそれに反対し、更に今後の対応整備には邪魔だから……最悪例として見せしめに見捨てた。こちらの意図や計画を理解した上でだ」 『現に六才の子どもに……どれだけ非凡なものを秘めていようと、そんな子にボコボコにされたことで、彼の名誉はずたずただ。仲間への仕打ちじゃないしね』 「あぁそうだ。奴を攻撃したところで、園咲文音の居場所は出てこない。あの子どもと付き添いの連中も同じだ」 「根拠は?」 「俺ならそうする」 なんて力強い説得力だろう。確かに……考えていくと私でもそうする。特に六歳の子どもにその情報を渡すのはあり得なかった。 ……しかたない。今戦力を割くのは得策じゃないけど……いえ、むしろ好都合。 そこで自然と見上げたのは、あの小うるさい色男だった。 「……須藤霧彦、あなたに追加出張を命じるわ。なんとしてでも足取りを掴みなさい」 『了解しました』 よし、これで厄介払いは継続できる。私には万雷もいるし、新しいメモリも用意できた。 あんな出来損ない相手にまた遅れを取る心配は……いえ、それも違うとつい笑ってしまう。 アレはただの油断。私はあんな子ども相手に、その奇策に踊らされただけ。不意打ちで昏倒させられた被害者同然。 なら、今度はそんなことにはならない。当然よ。ここは私達のテリトリーだもの。 「……となると、戦略家の動きを抑えておく必要があるな」 すると万雷は立ち上がり、笑いながら外へ出ていく。 「万雷」 「まぁ任せろ」 そう告げて消えるその背中を見送る。それしかできないほどに、鮮烈な言葉だった。 「……もう私が手を出す必要もないみたいね」 あれは狩人の背中……抑えるどころか食い殺しにかかる覚悟だもの。 まぁ仕方ないわよね。お父様の意図には逆らうけど……部外者がやってしまったことだもの。 『あぁ、それと……もう一つ報告が……』 「あ、そうだ! あれもありました!」 「報告?」 「その、こちらです……」 ……須藤達から渡された資料を受け取り、目に通す。 それはここ数日の……ガイアメモリ売り上げデータなんだけど……なによ、これは。 「……どういうこと? どうして予約分も含めて悉くキャンセルされているの」 『例の蒼凪恭文少年……そして鳴海荘吉への村八分効果ですよ。 一気に市民の反ガイアメモリ感情が高まっている……そうですよね、部長』 「しかもその少年は、生身でドーパントを……例の鳴海荘吉のみならず、他にも中級クラスの連中を潰し回っています。 なので……率直に申し上げると! ガイアメモリの存在価値そのものが疑われてしまっているんです!」 「……ち……!」 『鳴海荘吉だけなら“必要経費”と笑い飛ばせたんですけどね……』 あの出来損ない……どこまで私達の邪魔をすれば気が済むの……! まさかこちらの商売にまでケチを付けてくるとか。 「……一応、あなた達の意見を聞いておきましょうか」 「営業部としては、今は余り……派手な動きを控えたいと考えています。 実際私や須藤も顔を知られている人間から、通報を受けていますし……まぁ、そこは風都署を掌握したことでなんとかなっていますが」 『その販売員もメモリで武装していますしね。滅多なことでは捕まらない。 でも……逆に言えば』 「その情報を元に、捕まえられそうな人間が派遣されかねない……」 『現に僕が見立てた支部の建設予定地……その売買も断られました。風都市との取引は、行政の許可が出るまで避けたいと』 「…………!」 そうだった……PSAと警察が、風都への経済制裁に近い行動も取っていた。これではミュージアム……ディガル・コーポレーションの業務拡大もままならない。 『なので社長、これは言い訳ではなく、我々の具申として受け止ってほしいんですが……早急に、彼らをなんとかする方が先です』 須藤はデスクに手を当て、前のめりになったのか……やたらと顔が近くなる。 まぁ画面越しではあるけど、その視線が気持ち悪い。心にでも入り込もうかというように、じっと合わせてくるもの。 『今のままならまだいい。売り上げ減少も、反発も一時的なものだ。経済制裁も長期的には続かないだろう』 「そうね。世間が許さないわ。お父様もいる以上絶対ではない」 『だが……』 「現場の一員としては、なにかまずいと思う要因があるのかしら」 『言ってみれば、彼らのやっていることは悪の組織じゃないですか。何をしてくるか分かったものじゃない』 「……確かにね。 まぁ安心しなさい。言われなくてもそのつもりだし、現に万雷は動いた……駄目でもお父様がなんとかする」 『ご頭首自らが?』 「問題ないわ」 えぇ、なにも問題はない。なにせ相手はただの子ども。しかもどれだけ手勢がいようと……つい笑ってしまう。 「あの出来損ないは、そもそも私達に逆らうことができないんだから」 まぁまぁ無茶だとは思うけど、子ども相手なら……お父様が出張るだけでも十分。 こちらには切り札がある。それに抗う術などない。そうして確保した上で……今度こそ、地獄に落としてあげる。 この私に……偉大なるミュージアムに逆らった罪は、死して償うしかないのだから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 風都にやってきて、五日目……午後三時頃。 風都港湾区近くの高層マンション街を歩く……歩く……練り歩く……。 「アルトアイゼン、僕は決めたよ。オトモ忍をこの手で作る! 忍者一番刀と忍シュリケンっていうのもだ!」 ≪道のりは遠いですねぇ……。というか、それならメカの知識がないと≫ 「デバイスマイスターだね! とすると……カートリッジシステムっていうのは欲しい」 ≪先進技術に属するものですよ? もうちょい手近な成功体験からいきましょう≫ 「だね」 「……おい、待てって!」 すると翔太郎がまだ追いかけてきて、周り込んで……。 「とにかくさ、キャンセルされた中で……ペット探しの依頼は手伝ってほしいんだよ。それは失踪事件だからな」 「そう……じゃあワニの餌になるの、頑張ってね」 「誰がなるかぁ!」 「僕、勉強したんだ。報酬のない仕事を当然のように押しつける奴は、社会のゴミだって」 「失踪事件っつったよな、俺! ……まぁやってみようぜ? そうすりゃ街を守る探偵も悪くないと」 「大体鳴海荘吉の関係者と一緒にいたら、お友達に噂されるし」 「お前の友達どこだよ!」 全く、この阿呆は……とりあえず伸びてくる腕などはすり抜け、すたすたと歩く。 「とにかくさ、おやっさんに頼ってくれよ。俺が保証する……おやっさんは悪い奴じゃない。この街を守ってきたヒーローだ」 ……コイツはなにを言っているんだろう。 「街を泣かせてきた悪党を、一人踏ん張って戦い、止めて」 「奴はただの連続殺人鬼だ」 ……翔太郎、なんでそんなに凍り付くの? 僕は間違ったことだけは言っていないつもりだよ。 「そしてお前は、それを正当化する共犯者だ」 「恭文……!」 「それ以上でもそれ以下でもない」 「………………」 翔太郎、なんで黙るのさ。 それは当然だ。当然にしなくちゃいけない。僕は、そのためにこの街へ来たんだから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ なんでだよ……。 なんで、こんな冷たい目ができるんだよ。 ただの子どもが……おやっさんを殺人鬼認定して、逮捕するって……なんでそこまで言い切れるんだよ。 しかも本気だ。コイツは……本気で……おやっさんを……! 「…………」 恭文は冷たい目のまま、俺を捨て置いて歩いていく。もう話す必要などないと言わんばかりに……。 ≪……あの人がご機嫌斜めになるのも当然ですよ≫ するとアルトアイゼンがぷかぷか浮いて、俺を……どこか冷めた様子で見始めて。 ≪あなたは“おやっさん”がそんな真似をしないで済むようにとは、考えてすらいないじゃないですか≫ 「…………」 ≪あなたは、なんのために鳴海探偵事務所にいるんですか≫ 「……………………」 ≪ただかっこいいハードボイルド探偵の追っ掛けがしたいなら、助手である必要なんてないのに≫ 答えられなかった。答えようがなかった。アイツの見切った目が……全部見通した眼が、とても突き刺さって。 (どうすりゃ、いいんだよ) ビビっちまっていた。おやっさんどうこうの前に、アイツにビビっちまっていた。 …………アイツ、本気なんだよ。おやっさんのこと、なんの情も交えずぶった切っていた。 最初からそうだった。おやっさんがなにを言っても、伝えようとしても、全部……全部…………。 (“連続殺人鬼の戯言”としてしか、受け止めていなかった…………!) こんなの、おやっさんに伝えたら……おやっさんは、アイツに何か伝えようと必死だったんだ。全力だったんだ。 自分が男の我慢を示せば、アイツはみんなを守るために戦ったときの強さを思い出して、障害になんて負けない……凄い男になるって、励ましていたんだ。 だが、それすら……その気持ちすら通じず、自分の行動が苺花ちゃんを説得できない一番の理由だって、知っちまったら……。 だからアイツは、最初からおやっさんのことなんか“その程度”だと見切っていたとしたら……。 (おやっさんは……どうなるんだよ…………!) 腕や足なんて斬られるのは、序の口だった。 ただ一方的に殴られ続けたのなんて、子どものお遊びだった。 おやっさんに待ち受けていた地獄は、そんな生やさしいものじゃなかった。 もっと早くに気づくべきだった。俺はやっぱり生ぬるい甘ちゃんな半人前だった。 この現状そのものが、おやっさんへの死刑宣告であり、“リスペクト”なのだと……ここでようやく気づいたんだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ……この人も温いですねぇ。まぁ素人さんだから仕方ないですけど。 しかもそれを今察して絶望していますよ。多分鳴海さんに言うことも、自分ではできないでしょうね。 (でもほんと、よくもまぁ……ここまで残酷な仕打ちを考えつきますよ。美澄苺花さん……) えぇ、この現状は鳴海荘吉へのリスペクトですよ。村八分だとかヘイト全開なんてとんだ勘違いです。 鳴海荘吉は街を守ってきた。法を遵守しない形で、メモリを使った犯罪者達に更生の道も示せず、それを殺し潰すことを正義としてきた。 例え自分の手が血で汚れたとしても……その覚悟は本物だったんでしょう。でも最善手ではなかった。 そして苺花さんもまた、父親に対して同じ私刑を行い、破滅させた。それもまた正しい手段ではなかった。 でも苺花さんは自分の安寧を……同じ障害を患うあの人を守るため、必死に抗った。自身の夢を踏みにじった敵に対して、全力の抵抗を行った。それは間違いありません。 ……しかもその結果も揃って同じだった。鳴海荘吉は十年戦い続けたことで、呪い同然な使命感に取り憑かれ……そして苺花さんも今、それを至上主義としてミュージアムに荷担している。 えぇ、分かりますよ。ここま鳴海荘吉の選択に乗っ取り、街を……地球を救うという使命を阻む悪党に対し、鉄槌を下しているんですから。 それはミュージアムの権力という“異能”を用いることで、より明確になっている。でも、それも当然のことなんでしょう。 根本のことを言えば、最善手を取れなかった父親……米沢氏もまた、苺花さんに対してしつけと称した私刑で、理想通りの頑張りと成果を出すように締め上げたわけですから。 (心が砕かれた子どもは、無垢ゆえに鋭い……米沢氏は間違いなく、自分の娘を怪物にした。 そして鳴海荘吉……あなたは無知ゆえにその呪いを深くした。だから彼女は、あなたの選択に対して最大現の尊敬を送っている。 ……たとえあなたがそれを非道だと宣っても、そんなことはしていないと逃げても、受け止めることしかできないように。 “わたしはあなたを尊敬している。だからあなたと同じように、この街をよくするために真似をしただけ”……そんな言葉で踏みつぶせるように) 本当に残酷ですよ。同じ手段を執っているがゆえに、苺花さんに何を言ったとしても届かない。十年もの間、この手段で街を守ってきたことそのものが足かせとなる。 それは、やせ我慢しかできない……ヒーローになろうとしたけどなり切れなかった男にとっては、心を砕くレベルですよ。だからいづみさん達も触れるのを躊躇った。 ……まぁ、それももう手遅れですけど。 (あの人は突きつける気満々ですしね……) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――――堂々と街を歩くか。 なかなかに図太いものだ。油断……いや、自信か? なんにせよ一切の甘さは脱ぎ捨てるべきだろう。 敵は肉体再生の能力さえ使う超能力者。あの茨の能力もドーパントと同列以上だ。油断していい相手じゃない。 となれば……。 『狙撃手、構え』 狙うは足……などとは言わん。明確に胴体を狙う。動きを止めるには一番だ。 そのまま……薄暗い中、静香に引き金を引く。 『撃て』 放たれるのは音速の弾丸。ただの子どもであるならば避けられるはずもない。 そう、ただの子どもなら……だが、そうでないとしたら? むしろ俺はそれを見たがっているのかもしれない。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――その瞬間走る悪寒。 耳がぴくりと震え、尻尾が逆立ち……両手に魔力をたぎらせながら振り返り。 「起動(イグニッション)――」 右手にザンバーを取りだし、右薙一閃。 それが的確に打ち込まれた一撃を斬り裂き、僕の両脇を通過する。 「…………って、なんだ今のは!」 「狙撃だ! 翔太郎、こっち!」 「え」 「早……ちぃ!」 えぇい、これじゃあ間に合わない! 翔太郎と一緒に物陰へ転送――その瞬間、僕達のいた場所を次々と別の弾丸が貫く。 それを、地面を転がりながら見て……。 (連射速度と角度から見ても、スナイパーは複数! 今の角度……完全に取り囲まれている!) アリアさんと教え子さんな武装隊のみなさんと一緒に、狙撃対策訓練しておいて正解だった! おかげですぐ状況が把握できたし! となると、まずは……身を隠す! まぁそれすら予測されているとは思うけどさぁ! 「翔太郎、こっち!」 「おいおい……なにがどうなって……」 「いいから!」 発射角度を考えると、ここも絶対じゃない。だから路地の奥へと走り……後ろから響く着弾音には構わず、前へ……すると呻きながら襲ってくる男達……というか、普通におばさんとかもいる。 それも右手に機関銃を持って……なので足を止めて、足を踏みしめ物質変換発動。 地面から生まれた二メートル台の拳が、連射される弾丸を弾き……そのまま密集していた馬鹿どもを殴り、なぎ倒していく。 そうして吹き飛んだ連中は、あっちこっち骨が折れながらも気絶。なんとか無力化することができて……。 「ほんとなんなんだよ、こりゃ!」 「敵の襲撃ってことでしょ」 拳を一旦解除し、倒れている奴らの荷物を手早く探る……すると、面白いことが分かった。 「……おいおいおいおい……この人は!」 「知り合い?」 「うちの依頼人だよ! キャンセルした一人だ! こっちはオウム探しを依頼してきた主夫!」 「……なるほど」 鳴海探偵事務所の依頼人が、こぞって……でもこっちの銃器が説明できない。どれもこれも本物だよ。 「ところで翔太郎、風都ってガンショップでもあるの?」 「あるわけねぇだろ! アメリカじゃないんだぞ!?」 ≪つまり、そんな一般市民が、銃を持って襲ってきた……とするとさっきの狙撃手も≫ 「……だとしたら解せないけど」 ……そこで一つ……黒い宝玉を見つける。 ひび割れたそれは、倒れた人達の首元に張り付いたままで……。 「………………」 そこでドタバタと足音が響く。……ち、これ以上は無理か! 「逃げるよ、翔太郎!」 「あ、あぁ!」 とにかく路地の裏へ……人気がない倉庫外へと移動する。 まぁ町中で戦闘になっても困るけど……多分これも、誘い込まれているだろうしなぁ。さっきの待ち伏せがいい証拠だ。 だとするなら……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ おいおいおいおい……まさか本当に対処してくるとは! 『は……! とんでもないな、この少年は!』 確かに撃った人間は素人だ。多少のブレはあるだろう。 だがそれでも、子どもに避けられるものではないというのに……油断はないと言ったが、見くびりはそれでも拭えなかったようだ。 『素晴らしい……ただ異能力が使えるだけじゃない。相当高度な訓練を受けている。戦う姿勢がすぐに取れたのも高得点だ。 だがそれで狙撃弾丸に対処できるか? いや、そうか……空間認識能力。それも飛び抜けたレベルだ。 恐らく周囲数十……下手をすれば数百メートルの空間に対して、その認知が行き届いている。だからスナイプにも対処できたんだ。 これは予測して然るべきだった。“あのとき”も危うくタッチダウンを決められるところだったからなぁ。 ……こういう奴を是非、俺のグラスチルドレンに加えたいものだが……』 となれば、ここは意地悪くいくしかないだろう。 『済まないな、少年。俺が少年漫画の悪役であれば、堂々と乗り込むところだが……これは戦いだ』 あれで少年もよく分かったことだろう。自分がこれからなにに狙われ、潰されていくのか。一体それがどれだけ恐ろしいか。 『君がスペシャルと分かりきっている以上、意地悪く、小汚く……人海戦術で、疲労しきったところを狙わせてもらう。 ……幸い連れもいるしな』 キツいだろう。無辜の市民を殴り付けるのは。疲れるだろう。そんな奴らに延々襲われるのは。 確かに外道の手段だ。だが戦場にルールブックはない。……そのまま現実に押しつぶされてくれると、嬉しいものだが。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あぁ、うん……そういうことね。納得したわ。だとすると、もたもたはしていられないけど……。 「AAAAAAAAAA!」 「殺すコロスコロス殺すコロスゥ!」 ≪Stinger Snipe≫ また出てきたおっちゃん達は、スティンガーで次々と抜き、そのままノックダウン……すかさず四時方向へ振り返り、狙撃弾丸を切り払い……ちぃ、また出てきた! 「おい恭文、駄目だ! みんな操られているだけなんだぞ!」 「スティンガー、魔力充填……ファイア!」 翔太郎に構わず、莫耶の切っ先を向けて……戻ってきたスティンガーを再射出。 小型で高速・貫通力重視のスティンガー……その誘導弾がまたもモブおっちゃん達を射貫き、さっきの奴らと同じように倒れてくれる。 「おい!」 「傷つけず鎮圧する力もない奴に発言権はなし。OK?」 「論破しにかかりやがったし!」 「うっし……じゃあちょっとこい! おっちゃん!」 一人の足を掴んで、がりがりと引きずり……。 「なにやってんだお前ぇ!」 そうしつつ、翔太郎ともども転送……素早く近くの倉庫内へと移動する。 …………さて。 ≪どうしますか? リーゼさん達を呼び出そうにも≫ 「ジャミングされているんでしょ? 分かっているって」 ≪また冷静ですねぇ……≫ 「最初に攫われたときもそうだった」 ≪……でしたね≫ なのでアルトアイゼンには、こめかみをトントンとサイン。アルトアイゼンはそれで輝き、すぐ念話に切り替えてくれる。 “それ以外も同じなんだよ” “それもありましたね。 ……逃走先にも的確に待ち構え、動きを把握されながら的確に詰めてくる。となれば“ “普通に走って逃げるのも駄目だ。あのときと同じく、控えのエースが待ち受けている” “それであなたはタッチダウンを逃しましたからねぇ。……つまり、今回の敵は” “あのときの現場指揮官だ。……実験の場にはいなかったわけだね” “例の園咲冴子じゃない?” “違うよ。あんなボンクラに、こんな真似ができるわけないもの” だから大体の図式は見えてきた。うん、見えた……だから……だからさぁ……。 ――――めちゃくちゃ楽しくなってきたよね。 “恐らく主要な脱出ポイントは押さえられています。それに敵の能力も不明とくれば……いえ、一つ手がありますね” “そういうこと” ここまでで敵の能力は洞察できた。 何らかの条件で、人を操る能力だ。でもその条件……詳細な洞察ができていない。 特にどれだけの数を、どういう形で指揮しているかが不明だ。そうだ、条件はちゃんとある。 一人二人じゃない。意志をなくす形で、銃器なども正確に扱わせている。しかも技量はともかく、攻撃ポイントは正確無比。だからこっちも逃げに回るしかなかった。 それに操る範囲も……そうだ、そこが一番引っかかる。統率をここまで取っている司令官がいる。でもどこから操っているかが不明だ。 そこんところを探らないと……それも早急に……となれば。 「……翔太郎、消えて」 「は……!?」 まずは、一番邪魔な半パンアホを排除するところからだった。 「……戦闘力五のゴミがいても……うん、邪魔」 「てめぇはサイヤ人か!」 「だって肉の盾にも使えないんだよ? 人間脆すぎでしょ」 「だからサイヤ人か! ……いいから遠慮するなって。男の意地ってのも捨てたもんじゃ」 仕方ないので術式発動……物質変換で、翔太郎をコンクリボールに閉じ込める。 『……って、おい!? なんだこれ! おい……おい!』 「翔太郎……まさか、身を張って敵を探しに行く!? そんな、危険だよ!」 ひとまずごろごろと……ボールを蹴って、転がしてー。 『なに勝手に会話進めてんだ、てめぇ!』 「翔太郎、待って……待ってぇ! 僕を一人に……がは!」 『誰になにやられたんだぁ! というかこれを外せぇ!』 「……あんまり騒ぐと、酸欠になるよ?」 『え』 というわけで、更に物質変換−。翔太郎ごとボールを、適当な壁にして……他の壁と一体化させてー。 『お、おい……これなんだよ! なんか狭い! 閉じ込められてる!』 「翔太郎……待って! 翔太郎ぉぉぉぉぉぉ!」 『おい、出せ! 戦闘力五のゴミだからってこれはないだろ! ……ちょっと、聞いているか! 聞いてるか蒼凪ぃぃぃぃぃぃ!』 なんか叫んでいるけど、気にせずに……引きずったおっちゃんの足を掴み、再び転送。 三個ほど倉庫を経由した上で、改めて静かな場所に……うーんマンデー。 『――――――――!』 あれ、どこからか爆発音が……グレネードでもぶちまけたのかなぁ。大変だなぁ。 “……あの人、死にませんよね” “憎まれっ子世にはばかるって言うし、大丈夫じゃない?” “それもそうですね” さて……それじゃあお仕事といきますか。おっちゃんの脇に跪き、ザラキエルのフィンアームを展開。 それをおっちゃんに絡ませ、その上で捜索魔術……その術式を足下に走らせる。 幸い、下は砂地だしね……。 (起動(イグニッション)――!) 共感するのはおっちゃん? いやいや、違うよ。首裏に付きっぱなしな黒い宝石だ。 ザラキエルが走る術式に合わせ揺らめく中……うん、大丈夫。今度は吐くようなこともない。 ただ記す。その図を、その意図を……さすがに毎回あれだと困るしかないから、図を記す。 もうこの状況では真正面からやり合うしかない……少なくとも市民を守ろうとする腹だけは見せなきゃいけない。 まぁまぁキツい勝負だけど、それくらい超えられなきゃミュージアムなんて潰せない。 方法ならある。 僕の予測通りなら……これで正解だ。 “…………来ましたよ” “うん” 捜し物がしたいなら、人に聞いてみればいい。お姉さんからも改めて教わったことだ。 ……触媒がないと見つけられないけど、幸いそれならここにある。 “まぁ、なんとかなるか” ある。 ちゃんとある。 あるはずなんだ。 “少なくとも白いジグソーパズルを組み立てるよりは楽だ” “まぁ、今はそうですね” 確かに僕は万能無敵なエースにはなれそうもない。 だけど……最初から僕が最強である必要なんて、どこにもなかった。 僕がまずやるべきは、最強の自分を……刃を想像すること。 そのための火種ならちゃんと、最初からあった――! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ……少年は追い回され、それに焦れて仲間割れ……戦場ではよくあることだ。特に足手まといがいるときはな。 残念ながら、現実には圧倒的大逆転などは存在しない。あるのは緻密な計算に基づく必然……いわゆる偶然、奇跡の類いも、そこで人智を尽くした結果と言っていい。 だからこうなるのは必然だった。しかし……奇妙な予感もあった。 あの冴子をあそこまでいたぶった少年が、この程度のことで潰れるのかと。 『……A地点からB地点……全要員に告ぐ。こちらコマンダー。ターゲットの発見報告はまだか』 『………………』 『どうした、返事をしろ』 そしてその予感が正しいと言わんばかりに、手にした通信機越しに雑音が響く。 『…………一杯食わされ』 瞬間的に、座っていたデスクから飛び退く……壁をぶち抜き、火花を走らせながら砲弾が突き抜け……俺が根城にしていた倉庫の中で爆発が起きる。 いや、それに等しい衝撃と言うべきか。変質した体を転がし、すぐ膝立ち状態となり……飛び込んできた少年に向かい、自動小銃を乱射。 だが少年は片刃のビームサーベルを振るい、悉く銃弾を切り落とし……これはこれは……! 「やっぱ奇襲は通用しないかぁ……」 『これはこれは……よくここが分かったな』 「翔太郎が命がけで走り回ってくれたおかげだよ」 『嘘だろう?』 「当然」 だろうなぁ。恐らくなんらかの絡め手を使った。そしてその手立てもこちらに明かすつもりはない……万が一自分がやられても、俺がやられても、冴子達に情報を渡さないためだ。 その眼は……俺への一撃を狙ったその行動は、紛れもなく戦士のそれだった。若い頃の俺を思い出す。 「あのときはよくもまぁ邪魔してくれたねぇ。ようやくお礼ができるよ」 そこまで見抜くとは……やはり俺の目に狂いはなかった。ならば、俺も正々堂々相対しよう。 『……ところで少年、裏には流儀がある』 「流儀?」 『せっかく殺し合うんだ。お互い決着を付けるべきときと思えば、相手にその名を刻まなくてはいけない。 ……では俺が例を示そう』 自動小銃を抱え……黒い軍服のようにも見える異形で、静かに名乗る。 『ミュージアムの客分、戦子万雷――。 わけあって今は、ウォーズドーパント……戦争の記憶を体現している』 「そういうのは全く以て主義じゃないけど、郷に入ってはと言うしねぇ。倣うとしようか。 ――魔導師、蒼凪恭文。お前をぶっ殺しにきた」 『メモリブレイクはしてくれないのか?』 「ミュージアムほどの組織が、客分に首輪一つも付けないわけないでしょ」 『……正解だ!』 まさかこんな……退屈なほど平和な国で、これほどの戦士に会えるとは思わなかった。 興奮のあまりライフルを構え、乱射……少年は……ははははは! なかなか器用に逃げてくれる! いや、突撃してくる! 射線を定められないほどに鋭い機動……そこから脇腹めがけての一撃を、左手で召喚したコンバットナイフで受け止め……同時に身を逸らす。 ナイフはバターのように断ち切れ、俺の脇腹は刃がかすめ、火花が走る。それにとてつもない恐怖と興奮を覚え、あの戦士にグレネードを放り投げる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ……ずっと疑問だった。 どこまでの範囲で人を操れるのか……。 何人操ることができるのか……。 そして“どの程度のペースで”人を掌握できるのか……。 そもそも素人な人間を制御下に置いたとして、それをどうやって統率するか……。 一番危惧すべき、無差別かつ能力が視覚できない……洗脳電波みたいな能力ではない。それなら僕と翔太郎に能力を行使し、掌握すれば済むことだ。 つまりこの時点で、洗脳には一定条件が存在する……そう読み取れる。それも直接的に、相手と接触する必要があるものだ。 それこそがあの黒い宝石。あれを埋め込むことが条件。それはウォーズメモリが……戦争……同時に軍隊……群体の性質も秘めているためだと思う。 あれは厳密に言えば、操り人形じゃない。その表現はやっぱり正しくない。 コイツの力……その本質は、司令官として“兵隊”に持たせた通信機を通じ、その動きを制御すること。それが洗脳装置としての側面を持っているだけ。 至極当然のことだった。考えてみれば当然……だから通信機が鍵になった。 捜索魔術で通信機……ドーパントの能力そのものに共感し、その根っこを探す。あとはそこを見つけて、能力の効果範囲等々も調べて対処すればアーラ不思議。 この場で、あいつの前に立つくらいのことはできるってわけだ……! ≪Stinger Ray≫ 放り投げられたグレネードをスティンガーで撃ち落とし、素早く後退。左手に魔力スフィアを集束……凍結変換も交えての砲撃魔法。これなら威力もでる! ≪Icicle Cannon≫ 「ファイア!」 左手で放った蒼の砲撃……それがグレネードの爆炎を突き抜け、奴に迫る。 奴は咄嗟に左へ身を逸らし回避……こちらに弾丸を放ってくるので、右に走って……そのままもう一度突撃! ……今度は奴から突撃してきたので、突き出される新しいナイフをすり抜け……更に打ち込んできた右ハイキックを、スネを踏みつけて強制停止。 すぐさま返るナイフを伏せて避け、そのまま右掌打……膝を打ち付け、そのナイフを胸元に突き立てる。 『ぐ……』 それでもと打ち込まれるハイキックをバク転で避けて……更に術式発動。 「グラキエスクレイモア――ファイア!」 凍結変換属性のクレイモアを、至近距離で発動。凍れるベアリング弾に撃ち抜かれ、奴の体が所々凍り付く。 あと、こっそりと砕いた壁は瞬間修復……これで倉庫内の温度は大分低下した。 (よし……やっぱり魔法戦には慣れていない。その不慣れな分、こっちが僅かに有利。……でも絶対的じゃない) あくまでも攻撃が当てられているだけで、直撃じゃない。もちろんこっちは一撃当たるだけで……でも分かったことがある。 あの武器の性能も比較的平凡。だからマジックザンバーでなんとか捌ける。見切ることもできる。 ただ、逆を言えば……やっぱり地力では勝てないってことかぁ! そりゃあ向こうはプロっぽいしなぁ! とにかく走りながら……続いて打ち込まれたバズーカを走って回避し、その爆風を置き去りに跳躍。 着地してからもラグなしで走り抜け、術式をいくつかセット。 『なかなかによく走る……だが』 奴が右手を挙げて……来た……一気に殺気が、周囲に八箇所! 続けざまに打ち込まれた弾丸達を、後ろに転がりながら回避……起き上がると、奴が冷静に、こちらに銃口を向けていて……三点バースト。 ザンバーの刃をかざして防ぎつつ、急いで近くのコンテナ裏に……待ち受けていたお兄さんの足下をすり抜け、頭を打ち付けながら気絶させる。 それですぐに転送………………その瞬間だった。 そのコンテナがすさまじい衝撃で破裂し、襲ってきたのは。 「…………!」 慌てて前に出ながら転がり、回避……すぐさま打ち込まれる周囲の掃射。 なんとか飛び上がりながら回避するも……あのおっちゃんの射撃が“はじけ飛ぶコンテナから跳ね返り”、左腕と右膝を貫き……痛みに呻きながら、地面に打ち付けられる。 「つぅ……!」 服にかけておいた強化魔術で、致命傷は避けられたけど……結構、痛いなぁ……! 『見事だ。このウォーズメモリが統率と徴兵に特化し、火力はそこまで高くないとしても……お前は十分に戦った。その年でそこまでできるのなら、誇っていい』 「跳弾……」 『今のもよく避けたものだ。頭を撃ち抜くつもりだったのだがなぁ』 でも嘘でしょ……弾け飛んで、乱回転するコンテナの……今落ちていくコンテナの表面を狙って、弾いた? 急所を外れたのは、向こうのミスや無茶でもなんでもない。確信している……確実に当ててきたのだと。やっぱり、技量では圧倒的……この勝負そのものが無謀だった。 しかも痛い痛い痛い……なのに……あぁ、そっかぁ。 ほんと、我ながらおかしくて……衝撃で壊れちゃった膝を抱えることもせず、その場でへたり込んで笑っちゃう。 「ま……仕方ないかぁ。おっちゃん、プロの傭兵かなにかなんでしょ?」 『あぁ。世界中をお前くらいの年から飛び回り、戦ってきた』 「そりゃあ勝てないってー。でも……このまま死ぬのは嫌だなぁ。おっちゃんみたいなもっと強い人、たくさんいるだろうし」 『あぁ、いるさ。……だがもう遅い。流儀に則り名乗ったからな』 「命乞いするつもりもないよ。そんなことするくらいなら最初から逃げている」 『そうか』 うん、おかしいよ。僕は……本当におかしいんだと思う。 『お前は、この国で生まれてくるべきじゃなかった。時代も間違えた』 その通りだ。 『お前は戦う人間……俺と同じ、ただの大馬鹿者だ。 平和になじめず、平和の大切さを解かれてもぴんとこず、闘争を求める』 「うん、だと思う。だって……最初のときも、おっちゃんが“遊び相手”になってくれてさ。すっごく楽しかったんだ」 『そうだな……俺もお前との相対は、心が躍った。だから分かったんだ』 「ん……今もそうだしね」 現に僕……膝を撃ち抜かれても、腕を撃ち抜かれても……死ぬかもしれないって思っていても、全部受け入れちゃっている。 死ぬ覚悟を定めているから……変なこだわりで勝つことができなかったから。だから……だからってさぁ……。 ――――術式詠唱……そして発動――――! 『随分と寂しかっただろう。この国では、お前の理解者などいない』 「そうだね、否定はしない」 否定できる要素がどこにもないからもう……あぁ、でもそっか。おっちゃんも同じだったんだね。 「でもさ、なじめないならなじめないなりに……やりたいことはたくさんあったんだ。 ゆかなさんっていう……すっごく美人で声も演技も、歌だって素敵な声優さんのライブ、イベント……行きたかったし」 『あぁ』 「仮面ライダー電王っていう特撮の最新映画だって、もうすぐ公開……ま、いいか。 悪かったね、愚痴を聞かせちゃって」 『とんでもない……それでも潔く、敗北を認められるその魂には敬意を表する。お前は立派な戦士だ』 ありがと、おっちゃん。僕も……おっちゃんのことは、なんだか嫌いになれそうもないわ。 だから…………ほんと、ごめんね。 『ゆえに、この胸に刻み込もう』 おっちゃんはもう、“檻”に閉じ込めた。 『俺は今、一人の男を殺すのだと』 だから、僕も最後の最後……手札を切る。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 殺してくれとも言わない。殺さないでくれとも言わない。六歳の子どもが……それは異常なことなのだろう。 だが違う。奴は誇り高いだけだ。俺が格上だと見上げ、敬意を表し、全力で立ち向かった。 その結果負けた……その選択に悔いはあれど、見苦しく命乞いをするようなことは……恥だと考えている。 素晴らしい戦士だ。俺のグラスチルドレンに加わればとも思ったが、それすらさらっと断ってきている。それでも自分は、“こちら側”を守るのだと。 そんな戦士にできることは、安らかな眠りを与えるだけ。だが念のため、周囲のスナイパー達にも同時に狙撃させる。 それでも即死だ。そうして安らかに眠れと、弾丸を放ち………………それは、全てが少年の体を貫くはずだった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 渦巻く冷たい風の中、電撃を走らせながら傷ついた箇所を物質変換……急速的に、絶大的な痛みを伴いながら治っておく体。 それに合わせてザラキエルとフィンアームを展開。 (ザラキエル――アーマーモード!) スタンドモードの応用で、僕自身を包む力場の鎧として、フィンアームを編み上げる。 これで向こうの弾丸が致命傷たり得ることはない。と言っても、避ける必要もないんだけど。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『な……』 だが、弾丸が全て……変質した少年の体をかすめ、あらぬ所に着弾する。 その射線上に、白い光が……盾のようなものがいくつも生まれて、反射して……いや、違う。 しかも、なんだあの姿は。メモリではない。だが明らかに変身して……! 『く……!』 そこで気づく。俺の足が……太ももまで分厚い氷に覆われていることに。間抜けなことに、超人となったことでその感覚すら鈍くなっていた。いや、俺がまだ超人ゆえの感じ方になれていなかったと言うべきか。 そして少年の足と腕も……なんらかの冷却攻撃を自分に発動し……体温を限りなく下げて……その上で俺を、氷に捕らえていた。 なら弾丸が逸れたのは……あ。 (極低温で起こるマイスナー効果か!) ――ここで決着した。 戦士はたとえ一瞬命を危険にさらすとしても、自らも低温で動きが封じられたとしても、会心の一撃を放つため、大きく息を吸い込んでいた。 俺が確実に仕留めるため、頭などではなく腹を狙う……それも読み取った上で、完全にその瞬間、俺の思考を上回った。 だが俺は違う。浅い呼吸……咄嗟の、苦し紛れの、自分が優位だと認識した上での一撃。厚みが違う。覚悟が違う。 だから……奴から放たれた閃光が、俺の胸元を貫く。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 立ち上がりながら発動したのは、一つの魔法。 ≪Beat Smash≫ ノーモーションで打ち込んだ光条が、確実に奴の胸元を捉え、動きを停止させる。 ……突然展開した、青い三角錐のスフィア……その切っ先に射貫かれただけで。 『――――――!』 右手をスナップ。そのまま右半身に構え、右腕を膝に載せ……一気にかけ出し、跳躍。 「――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 蒼い輝きを纏った右足……その力強さのままに飛び上がり、奴めがけて飛び蹴り! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「――――せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 俺の胸元を……その背中を、裂帛の拳が貫いた。 「ロッテ、下がって!」 だがそれだけではない。雨あられのように……いくつもの弾丸が降り注ぎ、俺の体を叩く。 身じろぎできず、その猛攻を食らい、手に持っていた武器を撃ち落とされ、新たに取り出すことすら封じられ……その焔の中を、戦士は突っ切る。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 奴はエネルギーの三角錐に飛び込む。それと同時に三角錐が高速回転し、俺の胸元へと突き刺さる。 『――!』 それだけで……ただそれだけで、全身の細胞一つ一つが焼かれていくような、そんな衝撃を受ける。 そしてその力が行き着く先は、俺の中にあるメモリだった。 奴が砲弾のように飛び込み、三角錐の中に消えた瞬間……蒼い焔が、俺の全身を焼き払う。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ビートスマッシュは、ファイズのクリムゾンスマッシュを参考に作った……僕のオリジナル魔法。 まず空間固定型のバインドも込めた、エネルギースフィアを敵に打ち込む。それに合わせ、こちらも足に魔力を込めながら、スフィアめがけて飛び蹴り。 僕の飛び込み……その質量と込めた魔力と相互反応を起こし、スフィアが高速回転。相手の肉体……その分子構造を断ち切るように、全身へ衝撃のダメージを与える。 もちろん非殺傷設定も可能なように調整してある。今回については、感知しているメモリめがけての一点攻撃……だからそのまま、スフィアを構築した魔力ごと奴へと突撃し、その場から一瞬消失。 そのまま奴の後ろに突き抜け、着地。奴は蒼い『鉄』のエンブレムを刻まれ、全身を衝撃で焼かれながら……その場で、がたりと崩れ落ちる。 ≪Stinger Snipe≫ 同時に、控えていたアリアさんが自動ホーミング型のスティンガーを発動。周囲にいた伏兵達を次々と撃ち抜き、倒してくれる。 そうしておっちゃんは変身を解除。体からWと銘打たれたメモリが吐き出され、粉砕される。 ≪――ウォーズメモリ、ブレイク確認≫ 「ん……あ、そうそう」 近くにあった小石を拾い……鋭く投擲。 「――!」 おっちゃんが起き上がり、咄嗟に取り出したオートマチック拳銃……それを小石で腕ごと撃ち抜き、はじき飛ばす。 その際暴発するけど、弾丸は誰にも当たらない……ただ、虚しく倉庫の壁に激突するだけ。 「さすがにそれはやらせない」 「……完敗だな……これは。 伏兵がいる……それを分かって、俺が確実に殺すだろうと践んで……その硬直化した思考を利用するとは」 おっちゃんは笑う……楽しげに笑う。 「味方を呼んできたんだな。何らかの方法で」 「戦闘のプロが統率した集団相手に、一人で勝てるなんて……そんなこと思えないもの」 ≪一度負けていますからねぇ≫ そう……転送魔法は大丈夫だった。ジャミングでもそこは問題なかった。それは確認したので、一旦ホテルに戻った。 距離は相応にあったけど、ホテルには長距離転送用のポートがあったし、それに接続する術式も教えてもらったから。それで、リーゼさん達と合流して、改めて乗り込んだ。 触媒があれば敵の配置は読み取れるし、リーゼさん達だって戦闘のプロ。不意打ちなら……全く思考の外からの攻撃なら………………だから……。 「だから、この勝負は僕の負けだよ」 そうだ、負けだ。勝った気が全然しない。 技量では完全に負けていた。リーゼさん達がいなかったら、詰め手を作れたかどうかも怪しい。 普通には勝てない……押し込めないからって、凍らせて、閉じ込めて……弾丸もマイスナー効果で避けようなんて、無謀が過ぎる。 ……もしおっちゃんの攻撃が、実弾中心じゃなかったら……グレネードなどで焼き払われていたら、あんなの意味がない。防護策だってどこまで通用したか分からない。 結局これは、寝首をかいたのと同じなんだ。 「……そうだね。恭文君は負けた……実力では完敗だった」 すると、アリアさんが脇から支えてくれて……。 「でも、それは飲み込むべき謙遜だよ」 「え」 「あぁ……彼女の、言う通りだ……。 ……自らの命を張り、俺を勝利という罠に誘い込んだ……その覚悟に俺は負けたんだ」 「おっちゃん……」 「……だから、頼む。 人生を締めるこの敗北を、そんな侮辱に染めないでほしい」 「……」 なんで、そんなことを言うの? だって僕は……でも、それは願いだった。本気の願いだった。 そこに嘘なんて、欺瞞なんてない。ただ純粋で、美しいほどに真っ直ぐな願いがあって。 「……やすっち」 ロッテさんに肩を叩かれて……息が止まっていたことに気づく。 でも、それじゃあ駄目……それじゃあ駄目なのだと、僕はもう一歩踏み出す。 「ん……ごめん。でも、ありがと」 ……その言葉が……殺し合ったはずなのに、その気持ちがなんだか嬉しくて……情けなくて……だから浮かんだ涙を払う。 それからしっかりとおっちゃんを見る。さっき、おっちゃんがそうしてくれていたように。 「もう言わない」 「あぁ……それで、いい……それで気に、するな。 やはり、俺は冴子には……そこまで愛されていなかったようだ……」 「それでも忘れない。僕は一人の男を殺すんだ」 「……誰の言葉か知っているか? 幼き戦士よ」 「チェ・ゲバラ」 「勉強家でなによりだ……」 おっちゃんは満足そうに笑う。でも、ちょっとその表情に寂しさがあって。 「お前のような戦士と世界を回るのは、きっと……楽しかっただろう……」 「ん……そう思う」 「それでもお前は、この退屈な国を守るのか……」 「その退屈な中にも、キラキラ光るものがあるって……そう教えてくれた人達がいるから」 ……それに……あぁそうか。そうだったんだ。 「僕はただの化け物かも……しれないけど……」 どうして忘れられないのか……どうしてまた会いたいって思ったのか、ようやく分かったかも。 「“それ”が壊れるのは大損だって、思ったから」 「…………そうか……」 僕はきっと、お姉さんに……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ……随分と汚れた道を歩いてきた。 誰かにこうして見取ってもらえるなど思っていなかった。 現に俺は一人だった。俺の思想を、俺の望んだ世界を、俺の戦いを誰も分かってくれなかった。 だが、皮肉だな。その戦いをともにできたらと思った者に殺され、それを見取られるなど……。 「俺は、壊さなければ……生きていけない世界に、いた……」 「……うん」 「平和な世界に……飛び込んでみたものの……なじめず……。 だったら、テロで……そんな自分の領域を……広げればと……そう思った愚か者だ……」 「……おじさんは、山歩きをするのに土木工事を始めちゃった人なんだね」 「なんだ、それは……」 「発達障害の先生が教えてくれた。 山歩きをするのに、サンダルで海パン一丁の人はいない。だからちゃんと歩ける靴を用意するみたいに……変えられない自分に合わせて、環境という装備を調えるんだって」 「環境……か……」 だったらテロでとも思うが、それも違うのだと笑ってしまう。 それでは山歩きのために山を切り崩し、そんな格好で歩こうとした馬鹿者だからだ。 世界に思うところがありながらも、それでも世界を壊さず、違うやり方を模索する……そんなやり方が俺には思いつかなかった。 ……戦士を名乗りながら、その“戦い”から逃げていたとしたら……俺はやはり救えない。 「ならお前は……その先生の言うことを、よく聞くといい……。 会ったことはないが、素晴らしい先生だ。死ぬ寸前の俺すら救ってくれたのだからな……」 「ん……約束する」 「楽しかった……あぁ、楽しかったよ……」 「僕も楽しかった。怖さの半分くらいは」 「感謝、する……」 決して褒められた生き方ではない。俺は地獄へ落ちるのだろう。 だが……それでも、俺は幸運に恵まれた。俺の全てを受け止めてくれる……天使のような少年に出会えた。 ……本当に、もっと早くに気づけば……いや、十分じゃないか。こんな俺に、こんな言葉をかけてくれた……その幸運だけで十分だ。 ――小さく……そして、偉大な……戦士……よ…………―― きっとこの子なら、大丈夫だ。俺のようには……あぁ、そうだな。最初から俺と違っていた。 でも……もし生まれ変わり……また、戦士となるなら……俺もまた……。 そんな、どうにもならない戦いに……身を焦がして、みたい……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 笑っていた……おっちゃんは、戦子万雷は笑って、満足そうに死んでいった。 僕が殺した。おっちゃんと笑い会う未来も、可能性も……全部踏みにじって。 ……やっぱり、人殺しは好きになれそうもないと……変身を解除しながら思った。 「……アルトアイゼン」 ≪はい≫ 「世界って、凄いね。 おっちゃんみたいな、わくわくする人もいるんだから」 ≪それを殺してでも進む……戦いとは非情ですよ≫ 「僕、殺しはやっぱり嫌いかも」 ≪それでいいんですよ。……あなたは今、未来を殺したんです≫ 「うん」 忘れない……忘れない……絶対に忘れない。 夕焼けが差し込む……零度の世界に置かれた倉庫。その中で刻まれた言葉と光景。絶対に忘れない。 これだけじゃ守れない未来だってある。それが欲しいなら、ただ武術家として強くなるだけじゃ足りない。 そのために……未来を変えるために、僕が取るべき道は――。 (その12へ続く) あとがき 恭文「というわけで、戦子万雷は改訂版前よりキャラを濃くして撃破……さすがに一人じゃ勝てなかったよ」 瑠依「でも、敵方と仲良くなる描写が多いって……そういえば左さんは」 恭文「……………………………………ぁ」 瑠依「忘れていたんですか!?」 (…………そういえば…………忘れていた…………) 恭文「まぁそれはさておきだよ」 瑠依「さておき!?」 恭文「マスターデュエルでドライトロンのパックを衝動的に引いて、特に組めるだけのパーツが集まらなかった話をしようか」 瑠依「課金してください……!」 恭文「ドライトロンはSEEDだから、トレーディング的に集める……パックの余剰分で閃刀姫もちょっと強化できたし……あとは練習……」 瑠依「どういうことですか!?」 (課金は大事だよ) 瑠依「でもドライトロンはいいですよ。星を舞う姿が奇麗です」 (不器用暴走アイドル、マスターデュエルではドライトロン使いです) 瑠依「一緒に先行制圧しましょう、恭文さん」 (そしてガッツポーズ) 恭文「……タッグデュエル?」 瑠依「そうそう、そんな感じです」 琴乃「絶対やめてくれますか!? ドライトロンダブルとか怖すぎる!」 (なお長瀬さんは月光使いだそうです。 本日のED:鈴木雅之『怪物』) 琴乃「まぁマスターデュエルもNRフェスで楽しいけど……意外といろいろできるのよね。NRで主要パーツ揃うデッキもあるし」 恭文「メガリス、凄い……ぐるぐる回る……」 琴乃「うん、思った。でもガンプラも忘れちゃいけないわ。……AGE-2アルティメス、かっこいい……」(レイザーとのセットを買ったらしい) 恭文「レイザーもいい感じだよー。しかもあまりのポリキャップがあれば、小改造でプラ関節部分を置き換えられるのが……」(レイザーの足首をくいくい) 琴乃「アルティメスもパーツの可動がちょっとってところがあったけど、そこも軽く削ったり、対応ポリキャップを嵌めるだけでOKだものね。凄く考えられていると思う」 瑠依「…………そう…………なの、ね…………」 琴乃「あれ、瑠依さん……」 瑠依「……私……二次だったから……届くの、もうちょっと後……」(orz) 琴乃「そ、それはもう、お楽しみにってことですから!」 恭文「当日、ちょうどライブだったしね……」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |