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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2014年8月・軽井沢その5 『アメイジング・ビギンズ/応えろヴレイブ』


魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

西暦2014年8月・軽井沢その5 『アメイジング・ビギンズ/応えろヴレイブ』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回のあらすじ――僕なりにレッドウォーリアを作りました。いや、色は蒼なんだけどさ。


「レッドウォーリア……名前通りに赤いね。それにすっごくシンプル」

「それまでは初代ガンダムの延長線上でパワーアップって感じだったんですけど、これはそこから一新。
それまでガンダムに使われていない赤色ベースや、機動性重視でシンプルな改造に留めているんです」

「えっと、こっちのパーフェクトガンダムから……こっち」

「その間に一つ、このフルアーマーガンダムっていうのも入っています」

「単純に武装たくさんで、ぶ厚そうな方が強そうに思うんだけど、この間のお話もあるからなぁ」

「というか、僕が触れた辺りって、劇中でパーフェクトやフルアーマーがやられたところなんですよ」


うん、パーフェクトガンダム……狂四郎出典の改造ガンプラも、そういう話から出てきた。そういう盛る方向の改造もお決まりなものだ。

ただ、メリットのないデメリットはあって……そこも劇中ではきっちり描写されていた。


「初期のパーフェクトは装甲脱着もできないから、小回りが利かず負けてしまったとか……。
それを改善したフルアーマーも、アニメさながらの動きができるように徹底改造したシンプルなグフに負けるとか……」

「それで三つ目はシンプルに進んだわけかー」

「こっちはきちんとキット化されていなくて、いつか作りたいなと思っていたんですけど」

「…………え、キットがないの!? じゃあこの、パーフェクトとかフルアーマーは!」

「そっちは元々MSV……ガンダムの公式企画で出たデザインと共用しているので、連載当時にキットが出ているんです。
今やっている1/100シリーズ≪MG≫でリメイクもされていますから」

≪一部では伝説のガンプラとも言われていますよねぇ。キットにされる流れが来ない意味合いで≫

「嫌過ぎるね、それ!」


舞宙さん、言いたいことは凄く分かります! でも触れないでください!

それを言えば……アレとかコレとかソレとか……あるから! 伝説級なのがあるから!

HGでは出ているけどMGはないとか、その逆とか……そういうのもあるから!


「……え、もしかしてそれ、ザンスパインも」

「ザンスパインは、もっと苦境に立たされています」

「もっと!?」

「レッドウォーリアは出典も古い関係で、ナイトガンダムや武者ガンダムシリーズでもモチーフキャラがちょいちょい出ているんです。
ただゲームが初出で、そういう展開もちょっと落ち着いた時期に出たザンスパインは……うん……知る人ぞ知る的な」

「世知辛すぎる……!」

≪フィギュア関係でも出ていませんからねぇ。それで一個でも出れば、ぐいっと続きそうなんですけど≫


うん、まだレッドウォーリアはいい方なんだよ! SDガンダムとかでモチーフにされることも多いし! 麗騎士もかっこいいしね!


「でも、元は赤だったなら、青色でいいのかな」


そんな世知辛い話は胸に刻みながら、舞宙さんは軽くしゃがみ込む。そうしてじっと……蒼いこの子を見つめてくれて。

な、なんか……心からひねり出したって流れだから、気恥ずかしいなぁ。


「まぁそのままじゃなくても、モチーフなら」

「青、僕も好きですし……それに……あの」


こういうこと言うと、気持ち悪いと思われるかもしれないけど、でも……舞宙さんの目を見やる。

奇麗な長い黒髪……それを揺らし、専門外であるはずの話を、僕の言葉を受け止めてくれる、優しい人を。


「舞宙さんがいなかったら、作ろうとすら思わなかった子だから……やっぱり、青がいいなって」

「そっか……」


それで目一杯ぎゅっとされて……それに少し甘えてしまう。

優しい甘い匂い。香水かなにかかな。やっぱり、大人の人だから…………な、なんかドキドキしすぎて、これは……!


「あの、舞宙さん……」

「分かる? 私の気持ち……今、ドキドキしているのが」

「は、はい……!」

「君もドキドキしているね。鼓動……すっごく伝わっているよ」

「なんか、ドキドキしすぎて、おかしくなりそうなくらいです……」

「それも嬉しいかな。……素を見せて、ガッカリさせたと思っていたし」

「それは、ないです。それくらい近くで舞宙さんといられて、嬉しかったから」

「ん……」


だ、駄目……このままはさすがに……いろいろ糸が切れちゃいそうだから、一旦……身体を、離して……!

でも払えない。だって…………凄く幸せで。受け入れてくれるのが、嬉しくて。

だから僕も……お返ししなきゃって、舞宙さんを同じくらい、強く、優しく抱き締める。


…………やっぱり僕、舞宙さんのこと……好き、みたいだし…………あ、そうだ!

好きで思い出した! これもちゃんと言わないと!


「あ、でもガチモデルなガンプラも、あれからまた纏めたんです……」

「……ガチモデル…………あぁ、最初に描いたあれ?」

「はい」


そうだ、そうだ、あれも暇つぶしに描いて……ちょっと見てもらおうーっと。

これこそ今の僕では作れない、夢の機体になっちゃうんだけど。とにかく舞宙さんにはちょっと離れてもらって……。


「こんな感じで!」


しっかりとしたデッサンを……描いたスケッチブックを取りだし見せる。

すると怪訝そうにしていた舞宙さんが、驚きでカッと目を見開いて。


「こ、これは……!」

「ガチデザインじゃないか!」

「ガチだよ! 本当にガチだよ!」


そう……今回できたガンプラのパーツからまた逆算して、更にデザインを煮詰めてみたの。

舞宙さんの奇麗な黒髪も、動きやすいようにポニテにして、蒼いボディスーツも纏って……実は自信作!


「いやぁ、とても描きやすかったし楽しかったです。
舞宙さん、スタイルがいいから何をしても栄えてー。
体型と機体ギミック、デザインがぶつかるところもなかったしー」

「……ね、これ……ちょっとぶつかるところがなさすぎない? 私、もうちょっと胸があるよ? こう、Eカップくらい」

「天原さん、それは盛りすぎです」

「…………」


いや、僕なら……違うって言えるの。さっきもぎゅってされたし。どちらかというとお母さん的な感じだし。

ただ舞宙さんも女性だし、あまり……うん、駄目だよね。お風呂とかもないんだしさ。


なので修正……ちょっとページを変えて、素体のラフに戻って……胸の部分をペンで弄ってー!


「じゃあ…………素体だと、これくらい」

「いや、もうちょっと! もう二回りくらい大きいよ!」

「こう、ですか!」

「そうそう! こう、谷間がくっきりと……ね!?」


これ、EというかHくらいあるけど。フィアッセさんくらいあるけど…………まぁいいか! これはガンプラなんだし!


「……お前、自分であんまり柔らかくないとか言ってなかったか?」

「つーか変なこと吹き込むなよ! コイツ、マジでやるから信じるんだよ!」

「いいよ! 信じていいよ! 隠していたものが解放される日は必ずくるから!」

「やめろやめろ! その内情を漏らす感じをやめろ! 夢が潰れるだろうが!」


よし、大体これくらいで修正として……。


「あ、そうそう! 私の隠しているの、そういう感じ! それなら天ちゃんにも勝てる! 余裕で勝てて、うがーってさせられる!」

「だから内情をバラすなぁ!」


あとは名前だね! うん、実はこれも決めたんだ!

将来的に作れたらなーとも思うから……ひとまずはね! それもサラサラとサイン!


「よし、なら名前は≪さでぃすとまひろ≫で決定して」

「絶対やめて!?」

「ヤスフミィ……とりあえず版権とかもあるし、もうちょっといい名前にしとこうぜ?」

「そうそう! こう……≪びゅーてぃーまひろ≫とか、≪ごっですまひろ≫とか」

「……知り合った頃なら、そう言えたんですけどね」

「……それは、お互い様だと思うよ?」


あれ、また舞宙さんがあの悪魔の笑みを……というかほっぺたを摘まんで、むにーって! むにーってー!


「はひほー!」

「私も知り合った頃なら、小さくても強くてかっこいい忍者さんだって言えたんだけどなー。
でも今はそれだけじゃなくて……負けず嫌いの発露を間違えている、小生意気なお友達って感じなんだ」

「はへほっへはをー! ほうほうはんはいー!」

「……でもほんとすべすべだよね。子どもだからというのを抜きにしても」


あれ、かと思ったらほっぺたを解放して、滅茶苦茶撫で撫でし始めて……。


「恭文君、こう……このままでいよう?
あのね、合法ショタもアリだと思うの。むしろ私がこの上目遣いを一生堪能できるのが」

「……嫌ですよ! 大きくなるんですから! ヤナさんより大きくなるんですから!」

「えぇー」

「残念そうにしないでください! そ、それに……舞宙さんだって、やっぱりそれくらいの方が」

「でもそれだと、やっぱり余りに変化しすぎて……もはやモンスターじゃ」

「モンスター!?」

「まぁまぁ……それよりお兄様、この子の名前は」


そうだった……まだ言ってなかったなと、拍手を打つ。

まぁシオンも確認の意味が大きい。なにせ肩にデカールが張ってあるしね。


……せっかくだから、Ez8に準えて型式番号っぽくした名前がね。


「……Gundam-Extra Zero Blue Wizard。
略してG-EZBW(ガンダム-イージージェット)」

「ジェット?」

「旅客機で、同じ型式番号の機種があるんですよ。それにもかかっています」

「旅客機……空かー」

「はい、空です」


それに僕、魔導師だもの。アルトと一緒の古き鉄で……だからこれでいい。

僕が目指すガンプラバトルは、その有り様は、魔法使いに近いものだとも思うから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


まいさんはお泊まり……外泊……合宿中だけど外泊です。うん、普通はあり得ないよね。

ただPVの自主練習とか、例の宝探しも込みだから、一応納得して送り出したけど。


「……大丈夫かなぁ」


ベッドの上で枕を抱え、ついゴロゴロ……ゴロゴロー。


「まぁ大丈夫だよ。やっくんも真面目な子だし……というか子どもなんだし」

「ん、そっちは心配していないよ」

「…………そうだったね。もう彼氏だものね。初めて胸に触れた子だもんね…………初めて、初めて、初めて…………いちさんの初めて…………」

「いきなり情緒不安定にならないでくれる!?」


サイちゃんはもう……実際に触らせたわけじゃないのに。まぁ話題的にもアウトだけど、本気だったからなぁ。

これに魂が現れるって……大きい感じはしているけど、現れているのかなぁ。だったら魂、むき出しすぎと思うんだけど。


…………あれ、待って。ということは私…………。


「いや、でも待って…………そうだ! わたしはいちさんと二人っきり! いちさん、一緒に寝よう!」

「私も恭文くんとお泊まり楽しもうかなー」

「なんで逃げるのー!」

「今のサイちゃんより遥かに安心だからだよ……」


だってさ、こう……時折太股とか胸への目が、がちなときあるんだもの。同じ女の子じゃなかったら即どん引きってレベルだよ。

……というかというか……実は私、サイちゃんってそっちの方向があるんじゃないかって、疑っているところがあって。


「というかサイちゃん、麻倉ももちゃん……もちさんにもほら、そんな感じで」

「だって可愛くて、わちゃわちゃしてて、スタイルもよくて……もう最高だよー!
あの純真さが、田舎から出て右も左もまだまだーって感じがこれから汚れていくとか考えたら……駄目だ、そんなことは許せない!
守護らなくては……全力を持って守護らなくては! 天さんやナンスだけに任せられない!」

「……その天さんにもこう、噛みついていたよね。喧嘩とかじゃなくて興味的に」

「あのモデル体型、芸術的だよ……!? うちのまいさんも負けていないけど……あぁ、駄目だ。筆が走る……!」

「……やっぱりさ、これからは部屋は別々にしようよ」

「どうしてー!?」

「そのよだれを見て言ってほしいなー」


というか恐怖だよ。目の前で、私にその話をしていいと思っていることが恐怖だよ。

言っておくけど私、そこまで深いオタクじゃないからね? そういうので興奮できる資質はないからね?


「というか、やっくんも走らせていたよ!?」


…………かと思ったら、絶望が更に上塗りされる。


「え…………」

「ほら、絵が滅茶苦茶上手いでしょ!? だからライブとかの様子を、ファンアート的に書き出していてさ!」

「あぁ……まぁそういうのならまだ」

「それでユニットの百合妄想は走るよねーって話したら、確かにそうですねーって頷いてくれたし!」

「…………恭文くんの優しさに甘えちゃ駄目」

「違うよ! あれは同志の相互理解だよ! 同情じゃないよ!
そうだ、だから大丈夫……わたしはやっくんを信じている! やっくんは百合に入り込むようなことはしない!」

「あぁ、はいはい。落ち着いてねー。というか、まいさんが誰と百合をしているのかなー」

「天さんだよ!」


…………言い切ってくれたよ! しかも仮にも別会社の同期を! 友達だけど基本別ユニットの人を!


「どっちも責め気質だから、するならどうかーって話で小一時間盛り上がったし!」

「恭文くんは、どう話していたの? そうですねーって言っていた?」

「いや、それがね……凄く参考になったの! 忍者さんだから、房中術……エッチで快楽落ちさせる講習とか、受けるんだって!」

「ちょ、それは」

「あ、やっくんは子どもだから、あくまで座学……そういう受けたときの備えを中心にしているんだって」

「……あぁ、そういう……」


でも房中術……それも必須なの? あの子が大人の事情とか話に理解が示されるのは、やっぱり勉強しているがゆえかぁ。

…………一瞬、それなら私の方が子どもじゃないかという疑問が出たけど、気にしないことにする。


「私はあくまでもカップリングとしてだけど、やっくんはそういう技術としてならーって話になるから……いやほんと、ためになった」

「女の子同士だよ?」

「同性が一番危ないんだって! 距離感近くなるし、無理矢理された場合もダメージが大きいから!」

「小学生に教えていい知識じゃないなー。
というか……恭文くんには、明日ちゃんと謝らなきゃ駄目だからね?」

「なんでー!? というか、やっくん言ってたんだよ!? フィアッセさんのガードをしていたとき、トイレで襲撃もあったって!」

「え」

「トイレとか更衣室って、身を隠す場所も多いから意外と危ないんだって……。
そのときは同性のガードが付いていて、隠れていたのも察知したから背中からぎゃーってことはなかったらしいけど」

「怖……!」


恭文くんェ……! アニメや同人関係も詳しいと思っていたけど、そっちまで踏み込むんだ! のっちゃうんだ! プロの視点もそうして交えるって!

というか百合妄想ってどこまでだろ! 手を繋いだり、こう……ぎゅっとする程度のプラトニックならいいけど、最後までいっちゃうのかな! 房中術だし!

あの、私が……よく分からないあの、最後の最後までがーって……それは、駄目だよね……!


胸=魂理論の打破もそうだけど、そこはまた確認しようっと。じゃないとね? 怖いから。


『〜〜〜〜♪』


……噂をすればというか、そこで私のスマホに着信。

軽く頭を抱えながらチェックすると……あ。


――蒼凪恭文くん――

「恭文くんからメッセージだ。というか、サイちゃんにも見てほしいって」

「え、なになに!」


サイちゃんが私の右側へ、飛び込むように座って、スマホの画面に注目。


『――お泊まりする舞宙さんのことは、僕が責任を持ってお預かりします。
差し当たっては明日のスケジュールを、秘匿事項に差し障らない程度でいいので教えてもらえるでしょうか』

「あー、スケジュールチェックして、ちゃんとまいさんを送っていこうと」

「恭文くんの方が大人なんだよなぁ、こういうの」


しかも忍者としてプロだし……フィアッセさんみたいな世界レベルの人もガードして、ちゃんと守った子だもの。その信頼度の分厚さには、二人揃って苦笑する。


『それと、一つ確認があるのですが』


ただ…………次に送られてきたメッセージが、どうも不思議で。


『舞宙さんモチーフのガンプラという話になって、こちらを描いたのですが……肖像権など大丈夫でしょうか』

「まいさんモチーフ……あぁ、MS少女的に作っていたやつかー」

「MS少女?」

「ガンプラの装甲とかパーツを、パワードスーツ的に女の子が装着している……そういうイラストがあるの。割りと初期からね?
ほら、フレームアームズガールとか、ダンボール戦機少女みたいな」

「あぁあぁ……ああいうのかー」

「やっくん、まいさんでそれをデザインして、そこから逆算で新しいガンプラを作っていたから……そっかぁ。見せたんだねー。
気持ち悪がられたらどうしようーとか言っていたけど」


サイちゃん、その辺りで大丈夫だと背中を押したみたい。だから嬉しそうに笑っていた。

多分あの子の画力とか……それ以上に情熱とか、まいさんへの気持ちとかを見て、応援する形になったんだね。

だったら私も、まずそこから見て……そう思い、送られてきた画像を見て…………。


「「………………!?」」


二人揃って、凍り付くことになった。

いや、一枚目はいい。確かにまいさんのスタイルで、とてもカッコよく描かれているから。

これならもう、気持ち悪いなんて思わないよ。純粋に凄いと思うし。まいさんへの気持ち、目一杯感じ取れるしさ。


ただ問題は、まいさん自らリテイクを出した二枚目……そのラフ。

あきらかに、一部分が……まいさんが少しコンプレックスに思っている部分が、ぼーんと盛り上がっていて。谷間ができていて。

フィアッセさんやヤナさんレベルのどたぷ〜んで、私なんかより大きくて…………!


「…………いちさん」

「……うん」


やめて……サイちゃん、その目はやめて。あの、心に突き刺さるの。


「……多分これ、いちさんのせいだよ?」

「……ちょっと、そうかなって思ってる」


……恭文くんには……というかまいさんには、謝ろうと思います。

そのままのまいさんが、素敵だし、魂も輝いていると。こう、わりと全力で。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


肖像権もあるし、イラストについては修正前と修正後で、才華さんといちごさんにメッセージを送った。

特に才華さんは……背中、押してくれたから。うん、いっぱいお礼の言葉も向けて。実行動でもお礼しようと、きちんとメモして。


それから夜も遅いけど、トオルと……付いてきた舞宙さんと一緒に、抜き足差し足。

こっそりタツヤとヤナさんが寝泊まりしている部屋へ。


「……でもメイドさんと一緒なんだ」

≪タツヤさんもまだ七歳ですからねぇ。それに今は初恋に夢中とくれば≫

「その純真さ、恭文君にも持ち続けてほしいなぁ」

「いや、ある意味純真だと思うぞ? アンタのために、ミルクアイスキャンディーに塩味をまぶしながら食べていたからな」

「……それは絶対違うよ……!? というか軽く引いたからね、私」

「それは初耳なんですけど……!」

「だからお仕置きに驚かせたし、頭もかき乱したの」


そんな引くような有様だったのか……明日ふーちゃん達にも確認しよう。


「そうだそうだ……後、私と天ちゃんの百合を妄想していたそうだね! さすがに引くよ!?」

「あ、才華さんと話していたら盛り上がって……これが房中術の講習で教えてもらったことも含めたら、深い世界で」

「掘り下げてきたし!」

「すげぇなおい……忍者ってそこまでするのか!」

「実は必須……と言っても、僕は座学までだけどね」

「「実行動もあり!?」」

≪アリなんですよ、実は……≫


そう、アリなんだよ。僕もまさかって思っていたら、先輩の忍者さんが……いづみさんのお兄さんが、親切丁寧に教えてくれてね?


「一つ、自分がそういうハニトラを受ける可能性があること。その対策としてどうしても必要なんです。
二つ、自分や相手がどうこうじゃなくても、捜査する事件でそういう情事が絡んでいる場合、それを紐解く必要があること」

「防御のためと、捜査に役立てるためと……でも、それで実行動……!?」

「人によってはって場合もあるので、座学との選択式……僕は年齢的に座学へエスコートでしたけど。
ただデート講習とか、会話講習とかもあるんですよ」

「あぁあぁ……ハニトラの導入だから!」

「そういう空気も読み取って、気をつけないと駄目なわけか……」

「あとね、そういうことするときに、麻薬を使われる可能性もあるんだよ」

「麻薬!?」

「過去にあったんだって。性器に麻薬を塗りたくって、粘膜接触で快楽と一緒に取り込ませて……そのまま傀儡化」


状況を想像して、トオルも、舞宙さんも頬を引きつらせる。というか、舞宙さんについては大人だから……そんな状況を想像して身震い。


「ヤクザとかちょいちょいやるそうだよ。薬漬けにするのはいい手らしくてね。
それに……異能・オカルト関係で言うと、セックスっていろいろ特別な意味を持つ『儀式』にもなるんだ」

「儀式?」

「異能力者同士がすると、高い共感状態を生み出して……能力のバイパスが結ばれたりとか、エネルギーの供給行動に繋がるんだ。
霊障の類いなら、いわゆるサキュバス・インキュバスの類いもいるから」

「それはマジで気をつけないと駄目だぞ! お前、押されると弱いんだしさ!」

「いきなり心配しないで!? というか、そのために勉強も頑張っているから!
……だから、舞宙さんもいざというときは頼ってくれていいんですよ?」

「え」

「マネージャーの田上さんからも、ちょっと相談されたんです。
まだまだTOKYO WARの影響もあるから、専門家とのパイプは維持しておくべきかって」


この辺り、どうも業界の注目度が上がっているためらしい。九十年代から加速した声優さんのアイドル・マルチタレント化が原因でね。

これまではまだアニメ業界の中だけで済む話だったけど、アニメ関係の楽曲や映像作品が一般作品と肩を並べ、追い越す中でまた変わったそうで。

声優さんが普通のテレビ番組とかに出て、作品について話す機会も増えたし、マスコミ関係がスキャンダルを芸能人のように暴く場面も出てきた。


あまり表舞台に出るのが好きじゃないけど、番組のPRになればと頑張っている人も結構いるのにだ。

ならそういう人達を、会社はどう守っていくか……沙羅さんが企業案件に強いこともあって、いろいろ相談していたらしい。


「こういうの、企業案件専門な沙羅さん辺りがやる仕事なんですけど……会長秘書としての仕事もあります。
それでまぁ、舞宙さんや田上さん達とも縁があって、声優・アニメ関係にも詳しい僕がちょいちょいお世話になりそうで……」

「恭文がガードとかする感じなのか!?」

「僕も学業とかがあるから、若手で持ち回りつつ、経験を積ませるって狙いはあるみたい。
ほら、サウンドラインってソニーミュージックの傘下企業だから、そっち方面とのパイプもできるしさ」

「あぁ……そうだったそうだった。同期のTrySailさん……だっけか? そこの事務所とも兄妹企業でさ」

「そういう大手のところが先んじてってなると、他の事務所さんもって可能性は高い。だから今のうちに、PSAでもノウハウを作るわけ。……普通の芸能界や要人警護とは、また違うものもあるだろうからってね」

「……なかなかに大人の話だなぁ。というかそれ、恭文君に聞かせてOKなの?」

「…………というかですね……」


まぁ、その……実は舞宙さん達には話していなかったんだけど……つい居心地が悪くなり、足を止め、軽く頬を背ける。


「警戒しようって話になったの、TOKYO WARの影響って言ったじゃないですか」

「うん」

「もっと言えば、舞宙さんと田上さんも原因なんですよ」

「あたし達!?」


舞宙さんは自分を指差し、大仰に驚く。でもすぐに察する……思い至る。


「…………あ」

「……そうです、天原さん」


だからシオンも、ハッとする舞宙さんを見上げ、右手で髪をかき上げる。


「あなたが被災時、全く連絡が取れず……危うく犯罪の餌食になりかけたこと。
更にマネージャーの田上さんもホテルにいたとはいえ、少しの間安否確認すらできなかったこと。
もっと言えばそれが結果的に、お兄様や第二小隊の北沢さん……専門家の手とアドバイスで、大事に至らなかったことが大きいんです」

「田上の奴、言っていたからなぁ……。実際そのせいで大本のソニーミュージックはもちろん、兄妹企業のミュージックレインも大混乱。
特にミュージックレインの方だと、TrySailの……麻倉ももだったか。彼女が行方不明扱いで大騒ぎしたってよ」

「あぁ、うん……やってたね。トラハモでもちょっと言っていたし」

「行方不明!? え、なにがあったんだよ!」

「田上さん曰く、麻倉さんは当時、福岡の実家に一度帰省する必要があったそうでさ」


――まぁ本来なら無理だったんだけど、TOKYO WARの影響でスケジュールに穴が空いてね?

それならTrySailメンバーは全員、実家で一時待機って話になったんだよ。それは上にも通した、きちんとした扱いだった。


が……柘植の決起と都内周辺への通信封鎖によって、当人達はもちろん、話を聞いていたスタッフ達が尽く分断された。

当然柘植達が投降して、都内の安全が確保されたと通達された後、主要スタッフはなんとか所属タレントと連絡を取ろうとした……したんだけど、ねぇ。


まず夏川椎菜さんは千葉県出身だけど、才華さんと同じく高校生のため、ご家族と実家暮らし。

雨宮天さんは一人暮らしだけど、東京都出身だから、実家と今暮らしている家もさほど離れていなかった。その絡みから実家へ出戻りも手間はゼロ。

なのでこの二人については一時避難も、連絡の取り次ぎ自体も問題なかった。では麻倉ももさんはどうか。


実は通信網が一定レベルに回復するまで、都内からは実家にも、本人の携帯にも連絡が取れなかった。これはユニットメンバーである二人も同じ。

しかも間が悪いことに、麻倉さんの実家付近でもその当時、大規模な停電が発生。これは事件性もない、本当にただの偶然だったけどね。

結果帰省を知っているメンバーがなんとか合流し、安否確認をしても、麻倉さんだけはそれもできず、数日右往左往するハメになったとか……。


「…………やばいな、それ……!」

「出発予定日もわりとギリギリだったらしくてね? もしかしたらって雨宮さん達もハラハラ……って話は、レギュラーラジオでしていたんだ」

「というか、もちょ当人もだよ。それでも大丈夫だろうさーって出発したらあの有様。
携帯やネット関係も、都内で動いているものは一切アウト。だからみんなとも連絡は取れない。
お父さん達も今のままじゃ戻せないと言うし、身動きも取れなかったんだから……」

「まぁ納得はしたよ。それで結果オーライで済ませるんじゃなくて、こういうことがあったときのために、会社的にも備えようと……」

「上京組で言えばいちごさんも大分の別府からだし、所属タレントにそういうメンバーはいる。
まだまだ復興途中でもあるから、今のうちにって気持ちは……うん、いいことだと思うよ」

≪というか、改めて納得しましたよ。ぽっと出なあなたや私、沙羅さんみたいな門外漢を、スタッフさん達も含めて受け入れてくれた理由が……≫

「ん……みんな、まだまだ不安なんだよ」


……でもまぁ、だからっていきなり僕を妖精扱いで……撮影現場への出入りも前提で引き込むとか、相当だけどね!


「そういう空気はね、いろんな現場で漂っている。
……実際実家に戻ってこないかーって、親御さんから結構しつこく話をされる子も何人かいるしね」


もしかしたらそれは、難を逃れても心を痛めていた麻倉さんかもしれないし、今頑張っているいちごさんかもしれないし……もっといろんな人達かもしれないし。

ただ、それを深く聞くのもきっと違うと、下世話な疑問はぐっと飲み込んだ。


「でもそっか。だったら……やっぱりもっと付き合いは長くなるね」

「そ、そうですね……」

「なんで躊躇うのかなー。二人で答えを出すって決めたじゃんー」

≪あなた、まだファンとして躊躇いがあるんですか? TrySailさんも応援しているから……≫

「……うん」

「そこが理由かー!」


いや、だって……やっぱり距離感とかー! それにほら、舞宙さん達は友達だけど、それで利用して近づく感じなのも、違うと思うしさ!

今後なにかやるにしても、きちんと手順を踏まえないと駄目だなーとか……いろいろ、思うところはあるんだよ! プロとしてはね!?


「でも誰誰……誰かな! 誰がお気に入りなのかな!」

「舞宙、すげー食いつくのな……! つーか笑顔! 笑顔が怖い! 明らかに弄る気満々だろ!」

「当たり前じゃん!」

「言い切りやがったし!」

「あの……雨宮、天さん……」

「天ちゃんか! え、どういうところが?」

「……歌声が奇麗で……こんなふうにうたえたらいいなぁって……」

「そっかそっかー! 天ちゃんも歌凄いしねー! 私も負けていられないなーって思う気持ち満々だし!」


両手を頬に当てて、沸き上がる熱をなんとか…………抑えきれないよ! だって舞宙さん、友達なんだよ!? 同業者なんだよ!?

それなのに……ああぁあぁああぁああぁ! 恥ずかしいよー! 滅茶苦茶恥ずかしいよー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


こんなふうにうたえたら……かぁ。そこで恭文君が患っている、発達障害の概要を思い出した。

ASDについては機微や目に見えにくい……言外の表現やコミュニケーションが苦手。恭文君も見ていると、結構真顔なことが多いし。

そこも考えると、そううたえたら……そういうあこがれを持つ気持ちは、とても重たいものだって察することができて。


それは恭文君自身、そういう表現や感情の発露に、いろいろ思うところがあるから。でも表現することは好き……好きだよね、きっと。

だって絵を描いているときとか、ガンプラを作るのだって表現だもの。そういうときの恭文君は凄く楽しそうで。

その辺りもまた、落ち着いて話したいなぁって思った。ただ今は……うん、明るくおどけよう。


そういう気持ちもありなんだよーって、受け止めながらね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「え、じゃあ私との百合妄想を掘り下げちゃったのは……もしかして、そういうことなの? 私と、天ちゃんと……三人が、いいのかなー♪
私達の間に挟まれて、いっぱいぎゅってされて……そういうこと考えちゃったのかなー♪」

「だからその笑顔だよ……! つーかなんで自分から掘り下げるかなぁ、このお姉さん!」

「トオル、もっと言ってやれ! コイツやっぱりサディストだからな! ゴッデスとか一番似合わない奴だからな!」

「だと思うよ! 悪魔だ! 魔女の類いだ!」

「うっさいし! そんな二人目の彼氏みたいなことは言わないでよ! それよりほら……ほらほらー♪」

「そ、それはないです! さすがにー!」


うぅ、からかわれて……でも駄目! それでもこれは乗っかれない! 無理だと必死に首振り!


「あの、やっぱりファンとして距離感をー!」

「私が紹介するかもよ?」

「それも駄目です! ……舞宙さんのこと、利用したくない」


そうだよ、駄目だよ。だって……僕が舞宙さんと一緒にいたいって思ったのは、別にそんな紹介ができる人だからじゃない。

歌声が……笑顔が、夢や空を見上げる瞳が奇麗で、飾らない生き方も凄く魅力的で。それで、形はどうあれ繋がっていけたら凄く嬉しくて。

だから、それは違うと……それだけは嫌だと見上げながら首振りすると、舞宙さんはなぜか顔を真っ赤にして。


「そ…………そっか。うん、そうだよね。それは……ん、駄目だよ。
私も、そういうことされたら、傷つくよ? 私はこんなに、好きでドキドキしているのになーって」

「……僕だって、滅茶苦茶ドキドキしています。舞宙さんのこと、どんどん……好きになっています」

「そう、だよね。うん……うん…………その、ありがと――!」

「照れるならなんで上からぐいって言ったんだよ……!」

「ほんとよく分かるわ……姐さんが後先考えないタイプだっていうのが」

「う、うっさいし! あたしだって、いろいろ……あるの! あるの!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


や、ヤバい。反撃された。ちょっと調子に乗りすぎたかもだけど……うぅ……滅茶苦茶ドキドキしちゃっている……!

十歳近く年下の男の子なのに、意識しちゃっているんだ。あたしのこと、そういう利用はしない……そんなの駄目だって思うくらい大事で、好きって言われて、嬉しがっちゃっている。

ううん、もう決定だ。だって、あの日のこと……いろいろあったけど、あたしは全然忘れられなかったし。


だから、今日だって……だったらもうちょっとだけ勇気……出しちゃおうかな。

お姉さんだし、誘惑して……うん、健全に。健全に、コミュニケーションするなら……アリ、だよね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――顔が真っ赤な舞宙さんに手を握られ、引かれ……また僕達は歩き出す。

そうしてある一室に……こっそりと近づき、中を覗くと。


「よし……ちゃんと塗れている。あと少しで完成だ」


やや疲れながらも、嬉しそうな声が響く。それでトオルが綻んだ。


「全力ですよぉ……お坊ちゃまぁ」


寝ぼけ気味な声……ヤナさんは寝ちゃってるのか。それに苦笑しつつ、トオルが静かにドアを開ける。


「いいな、お前」

「トオル……恭文さん」


部屋の奥にある勉強机へ座っていたタツヤは、こちらへ振り向き即座に左を指差し。

その先にあるソファーには、シーツに包まって寝転がるヤナさんがいた。


「まさか、これじゃ」

「はははははは!」

「いや、僕は羨ましいよ? メイドさんは夢だし、あこがれだし」

「……恭文さん、風花さんとフィアッセさんが膨れるので、どうか……自重を……!」

「どうして!?」

「自覚しましょうよ、本当に! というかほら、後ろ!」


タツヤ、どうしたのよ。後ろでは…………あ。


「…………」


舞宙さん、なんでそんな満面の笑みを……いや、やめて! 怖い! さすがに怖い!


「だったら、会社くらい立ち上げられるようにならないとなー!」


トオルがもっともなことを言いながら、立ち上がったタツヤの脇へ。

……ただしヤナさんを起こさないよう、やっぱり抜き足差し足。


「お前のガンプラ、できそうか」

「急げば朝までに間に合いそうだ。
……もう君や恭文さん達ばっかりにやらせることもない」

「ごめんね、先越しちゃって」

「いえ……というか、恭文さんも例のものは」

「ついさっき仕上がったよー。また明日お披露目ってことで」

「楽しみにしています」

「オレもな! ……しかしこれ、カッコいいねー」


机の上に置かれているガンプラは、逆シャアに出てくるνガンダム。

ただしそのカラーはMSVに出てくる、Hi-νガンダムカラーだった。


「また青だぁ……!」

「……あ、あの……恭文さん……!」

「……舞宙さん、青が好きなんだよ。ユニットとは関係なく、元々」

「それでですか……」

「やっぱいいよね、青……あ、でもこれは紫混じり……うんうん、これもまた切なくていい色だぁ」


舞宙さんが言うように、パープルも混じったカラー。とても涼しげでスマートなイメージだった。

でもG-3ガンダムのような、グレーベースのものではない。だから涼しげな印象がより強くなるんだけど。


「Hi-νカラーの通常νガンダム……新しいな!」

「そう、νガンダムヴレイブ! これはνガンダムの完成形を目指し作られたんだ!
でも結局、νガンダムの構築を維持したままでは、予定した能力を発揮できず、封印された幻の機体」

「…………」


……トオル、内心ホッとしているだろうね。

いきなり誘ったし、それでつまらないって放り投げたらって……割とハラハラしながら見ていたもの。

でもタツヤは……自分でここまでやり遂げて。ヴレイブは最初の小さな一歩だけど、それを刻んでさ。


その喜びは、きっとタツヤを、トオルを……僕達を繋げるもので。


「……という設定」


タツヤは一旦言葉を止め、苦笑しながら左手で頭をかく。


「長かったかなぁ」

「それからHi-νに続くわけなら……面白いと思うな」

「自分のオリジナル設定を作るのも、それに基づいてガンプラを作っていくのも、楽しさの一つさ。
……それがバトルの強さに繋がるとオレは考えている! ようは想像力だ!」

「設定が強さ……想像力、かぁ」


僕もその通りと頷くと、タツヤは安心した様子でνガンダムヴレイブを手にする。

舞宙さんも、脇から目を輝かせて、まだ目覚めたばかりのヴレイブに笑いかける。


「正直ガンプラがこんなに楽しいとは思わなかったよ、ありがとう」

「……礼を言うのはこっちの方さ。
まぁ恭文や風花達にもだけどさ」


トオルは少し、寂しげに笑う。


「ほんと、親父にも感謝しないとなぁ。舞宙さん達も来てくれて、予想以上に楽しかったし」

「毎日騒いじゃっているけど」

「それが楽しいの。……実は一人でやるのも大分飽きてたところなんだ。
前は近くの子を誘ったりしてたんだけど、親父が『貧乏人』は近づけるなと」

「だったらこう言ってあげるといいよ。人は生まれた時は誰しも資産ゼロ、貧乏人だってね」

「あ、なるほど。そりゃ確かに……親が金持ちでも、生まれてすぐ使えるわけじゃないしなー」

「いやいや、それ喧嘩売ってるだけじゃ! ていうか恭文さん、楽しそうだなぁ!」

「…………アリかな、それ」

「天原さん!?」


笑う僕達はそれとして、タツヤはなぜか慌てた様子。

本来ならほほ笑ましい光景なんだけど、僕は……嫌な予感もしていて。


(……でもそれすら危ぶまれる状況っていうのは……やっぱり……)


……また沙羅さんと相談した方がいいね。やっぱりトオルは気づいているし……なんらかのフォローも必要かも。


「――――バトルが上手い奴もいたんだけどな。親父が近づけないようにしているのか、最近顔を出さないよ」

「……トオル君、大丈夫?」

「あぁ。親父も親父なりに考えがあるんだろうし、そこは……まぁ少し様子見しているだけだから」

「そっか……」

「それなら余計に、僕は君が満足できる相手にならないといけないな」

「というか、僕もだね」


僕達の言葉にトオルは、少し呆けた顔をする。それでもタツヤは前に出て、そんなトオルに手を伸ばした。


「明日の朝、バトルを申し込む。受けてくれるかい」


返事は既に決まっている。


「あぁ――!」


だからトオルは言葉とともに、タツヤとしっかり握手――。

僕達はそれを邪魔しないように、二人の思い出が煌めくように、優しく見守る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二〇一四年八月十一日 朝六時八分

サツキ家別荘地下 バトルルーム



朝一番で勝負は行われる。僕は見届け人として、二人のバトルをしっかり楽しませてもらう。もう朝からテンションはクライマックスだよ。

まぁふーちゃんとフィアッセさん、ヤナさんはまだ寝ているけど、二人も待っていられないって様子だしね。ここは仕方ない。


…………スケジュール的に当然と言えるんだけど。


「……天原さん、すっかりここに居着いて」

「いやー、ここのスタジオ使いやすくて。でもなんで置いてあるんだろうね。
楽器もキーボードやギターとか一式揃っていたし、マイクだってかなりいいもので……」

「なんでもトオルの親父さんが、趣味でやっているらしいぞ」

「それでかー!」


そう、舞宙さんだ。本当にお泊まりしたんだよ……! しかも僕の部屋に!

だ、だからあの……うぅ、駄目……ドキドキしすぎるの、禁止……!


「ん……どうしたのかなー?」


あれ、舞宙さんが僕を見下ろして……またあの目を! サディストの目を!


「また始まったよ……!」

「あ、もしかして……私と一緒にお泊まりして、どきどきしちゃったのかなー♪
だから顔を真っ赤にして、耳も真っ赤にして! 目を合わせてくれないのかなー!
そうだよねー! こう、ギューッてしてくれたもんねー! ドキドキしないはずがないよねー!
両手も私の胸、ずーっと離してくれなかったし! 私のこと、そんなに大好きなのかなーって思ったもの! もうすっごい可愛かったしー!」

「あぁああぁああぁあああぁあ! なにか……なにかがさつネタはぁ! 今週のブログは! 放送分はぁ!」

「残念でしたー! 合宿中だから家のことなんてなにも話せないんだよねー! あーははははははははは♪」

「畜生めぇ!」


うがぁぁぁぁぁぁ! しかもむしろ……こういうところも含めて、うん……素敵だなって思うのが……一番悔しいけど。

G-EZBWだって、舞宙さんの飾らないところを見て、もっと自分に正直にーって作った機体だし……。


「……それ、合宿から帰った後に大変なことになるフラグだろ」


――でもその瞬間……ヒカリの冷たいツッコミにより、場の空気がフリーズする。


「というかお前、火事場泥棒にやられかけたのを忘れたのか?」

「確かに……ジンクス、ついていますよね。
現に厳戒態勢での生放送出演後も、帰り際にバールを踏んでパンクですし」

「そんなことはないから! ガスの元栓とかちゃんと閉めたし! 鍵も三回確認したし!」

「……ならよ、舞宙……食べ物も大丈夫なんだよな」


そして今度は、ショウタロスが舞宙さんを凍り付かせる。


「え」

「ほら、ナマモノとかだよ。野菜とか、肉とか……」

「確かに……夏場は危ないじゃないですか! 常温でそのまま置きっぱとかなら……!」

「一日で腐り、虫が集り……偉いことになりますよ。
当然部屋は悪臭で、青どころか別のものに染まって住めたものじゃありません」

「大丈夫大丈夫! さすがに考えているって! ちゃんと腐りそうなものは、事前にお好み焼きとかで片付けたから!」

「ならいいんですけど……」


――――ところが、全然よくはなかった。

夏の合宿も終わり、いろんな切なさを噛み締め東京に戻った直後……それは判明する。


まぁそのときのことは……またそのときで。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そう……結局あたしは、恭文君と一緒に寝た。遠慮していたけど、大丈夫だよーって……一人締めして。

でも、すっごく……可愛かったなぁ。


――ほら……やっぱりあんま、柔らかくないでしょ?――

――ありがとうございます、舞宙さん――

――え――

――すっごく近くにいさせてくれて……嬉しいです――


恭文君にね、添い寝するからって……触ってもらったとき、そう言ってくれたんだ。

体に触れられるどうこうじゃなくて……それくらい心を許して、受け入れてくれることが嬉しいって。


――……ずるいよ、そんなの――


だからあたしも、めいっぱい恭文君をぎゅーってした。


――あたしこそ……ありがと。受け入れてくれて、すっごく嬉しい――


それで、あたしの……この控えめな感じなのを、優しくさわさわし続けてくれて。すっごく心地よくて……大人だったらきっと、いっぱいエッチ……楽しんじゃっていたんだろうなぁとか、考えちゃって。

もうこれ、確定だ。あたしは本気だ。もう手遅れなくらい……この小さな子に心引かれている。


あのときからずっと……ずーっと、恭文君のことが刻まれている。それでどんどん……好きに、なっちゃっている。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


≪それよりほら、始まりますよ≫

≪バトルフィールドをセットします。
フィールド:タクラマカン砂漠≫


黄色い風が……砂混じりの風が舞い散る中、遮蔽物などはなし。丘陵もさほど大きくない。


≪ガチなタイマンですか……≫

「ん……」

「タツヤ君、厳しい感じ?」

「いや、これならイーブンかもしれません」


シチュエーションとしては確かに、逃げ場も、隠れ場もない場所だ。真正面から経験者に打ち勝つのは難しいとも言える。

ただそれも、考えようによるわけで……。


「タツヤも初心者で、戦術考案や状況利用ができるわけじゃありません。だから密林や都市部などだと、最悪姿も視認できず倒されかねない。
しかも宇宙空間みたいな三次元移動が必要な場所だと、地上とはまた違う空間認識も必要になる。その点では地上戦なのは有り難いです」

「初めてバトルを……ぶつかり合うのを楽しむなら、最適ってことかぁ」

「その分純粋なスペックや技量差は突きつけられるでしょうけど、それはタツヤだって覚悟しているはずだ」

「……というか、ユウキさんはνガンダムでしたね」


僕と一緒に早起きなシオンは、興味深そうにフィールドを見やる。

なお、その横でヒカリとショウタロスは目を眠そうにこすって……。


「νガンダム、砂漠でも動けたか?」

「動けるよ。劇中の主戦場は宇宙だったけど、基本はベーシックな汎用機だし」

「デカいだけではないということか。ところで朝ご飯は」

「さっき食べたでしょ、おばあちゃん」

「そうなのか!?」

「いや、食べてねぇだろ!」


……そもそもνガンダムというのは、アムロが設計に携わったニュータイプ専用ガンダム。

ただシャアの決起まで時間がなかったこともあり、一度発生した場合戦争が長期化する可能性も存在していた。

そのため実はこの機体、新型モビルスーツとしてはたった三か月でロールアウトにこぎ着けている。


Hi-νガンダムは元々小説版のνガンダムとして出たけど、設定変換で『テストを十分に重ね作られた、νガンダムの後継機』として成立。

そのカラーが、原型機とは違う青と白を基調としたエース仕様なんだよ。タツヤもその点からヴレイブの設定を考えたんだと思う。


では劇中に出たνガンダムは急ごしらえで、未完成で、兵器としては問題があったのか……そう言われたら、NOと言うしかない。


まずはロンド・ベル艦隊司令のブライトと、ラサで指揮を執っていたバウアーが、建造準備を進めるよう働きかけていた……ようは組織的根回しがあったこと。

νガンダムは変形機構などの複雑なシステムを積んでいないため、頑強でシンプルな設計で収まっていたこと。

建造を担当していたアナハイムのフォン・ブラウン工場……引いてはそこのスタッフや使用機材が、これまでの建造経験から練度も高く優秀だったこと。

というか……使用しているムーバブルフレームや駆動系パーツは新規設計しておらず、規格品の最高レベルをベースに使用したこと。


そういう諸事情の理由から、異例の短期間であっても高性能かつ信頼性の高い機体に仕上がった。特に二つ目や四つ目の事情は大きい。

規格品を使うということは、兵器としての整備性・拡張性を両立できるということ。修理用パーツに事欠く不安は大幅に減少されるからね。

実際急なサイコフレーム導入と、それによる調整・性能アップは、元々機体が戦争の長期化を視野に入れて、ある程度余裕を持たせたからできたことだ。


ガンダムの機体としては大型の二十二メートルという全長も、そういう余裕が……カスタマイズの自由度があればこそ。

ここはそれまでのZやZZ、Sガンダムなどの最新技術を詰め込んだエポックメイキングとは決定的に違う部分だ。

操縦感覚についても、それらとは違いピーキーでもなく、機体やフレームに負担をかける要因もない。だから初心者のタツヤにも扱い易いはずだ。


ガンプラは実機とは当然違うけど、それでも機体の癖みたいなものは似通ってくるしね。不思議なことにさ。

それでトオルのストライクも、ストライカーシステムを除けばベーシックな機体だ。その分積み重ねの差は出るだろうけど……さて。


『――――サツキ・トオル、出るぞ!』

『ユウキ・タツヤ……行きます!』


――――二人のガンプラはカタパルトを走り飛ぶ。

砂漠もちょうど日の出を迎え、朝日に照らされるガンプラはまた美しい。

特にタツヤのνガンダムヴレイブは、カラーリングが爽やかだから……ん?


「…………アルト」

≪えぇ、ありませんね≫


本体に変なところはない。シールドもあるし、バックパックにサーベルもくっついている。

でも……かなり大切なのが、複数足りないよー!?


『本当に仕上げてくるとはな、さすがだ!』

『一刻も早く、コイツでバトルしてみたくてね! 自分でも不思議だよ!』


トオルは気づいて……いないのか! まだ出たばかりだから!


≪さて、トオルさんは≫


――――そのとき、月から光条が走る。


「あれは……」


それにより輝く六枚の翼。夜明けの地平線より眩いその輝きが、全長を超えるほどの長大な砲塔に集束される。

そして、それが放射――その一閃は、砂漠を両断する。


『な……!』


目を見開くしかないその圧倒的暴力に、νガンダムヴレイブも……タツヤも停止。

その放射が回避行動すらいらないほどに、νガンダムヴレイブから外れていたから……それで問題なかった。

ライトブルーに輝くそれは、大地を両断し、νガンダムヴレイブの左翼を突き抜け、フィールド際に着弾。


そこから更にキロ単位の爆発を起こし、その色で粒子の世界を染め上げる。


「…………恭文君、あれ……あれってぇ!」

「……月は出ているか」

「だよね!」


いや、問いかけるまでもなかった。まだ夜明けしたばかり。月は……青空に溶け込みながらも、そこにあって。

だからすぐに、今放射された≪マイクロウェーブ≫……その行く先を見やる。


そこにいたのは、見覚えがありすぎるストライクだった。問題はそのストライカーだけど。


「ストライク……だが、なんだありゃ!」

「……ガンダムダブルエックスのリフレクターと、ツインサテライトキャノンですね」


ストライクのストライカーとして、それらを装備……中心は、エールストライカー?


「トオルお得意のクロスオーバーミキシングか……」

『――そう、これはサテライトストライクガンダム!
フリーダムのプラズマ収束砲をストライカーで再現!』


トオルはテンション高めにジグザグ飛行しつつ、着地したνガンダムヴレイブに迫っていく。


≪……まだ気づきませんね≫

『軍用衛星型デュートリオンビーム送電システムを採用している……という設定だ!
技術的・作品世界が違う二機を夢のミキシング! その他細部にまで手を入れたオレの自信作だ!』

「あの威力は、バラエーナ≪プラズマ収束ビーム砲≫を超えているでしょうが!」


つーかよく見ると、胴体中央にクリアパーツがはっ付けてある! あれでマイクロウェーブを受信しているのか!


……っと、補足しておこう。

サテライトキャノンは、月からのマイクロウェーブ……エネルギー光線を受けて、それを放射する武装。

だからガンプラバトルだと、月が見えない屋内とか、昼間とかだと、それ自体撃てない欠点があるけど……今回月は出ている!


「でも豪快な……やっぱいいなぁ……!」

「……舞宙、お前やっぱ淑女じゃねぇわ」

「はぁ!?」

「淑女はな……そんな『これを反撃も許さず乱射して、圧倒するの楽しそうー』って顔で笑わねぇんだよ」

「戦争を終わらせるための戦略級兵器だしね……。その思考は世界を滅ぼす恐怖の大王だよ」

「恭文君ー!?」

「とはいえ、それはトオルも変わらない」


舞宙さん、そんなに詰め寄らないでください。ショウタロスが言う通り、あの顔はヤバいです……人間性をそれなりに疑える顔でしたから。

それよりもトオルだよ。今の一射、さすがにアンフェアと思っての行動だろうけど……。


「トオルの作り込みとアイディア次第では、マジであれが連射されるよ」

「初心者に本気出しすぎだろ! 舞宙じゃあるまいしよぉ!」

「あたしをマジで恐怖の大王扱いしないでくれる!? ないない! あたしはそこまで大人げなくないから!」

「嘘吐け馬鹿が!」

「容赦なく罵られた!?」

「……ユウキさんとバトルできるのが、滅茶苦茶楽しみだったんでしょうねぇ」


シオンには首肯。あんな装備を持ちだすんだから、それはもうって感じだよ。

ただ……問題が、あるとすればですねー。


≪……だったら、余計に言いにくくなりましたねぇ≫

『パワー無制限の超超火力で、Hi-νもどきのファンネルなんか全部たたき落とし……っておいー!?』


……あ、やっと気づいたか。言いにくいことを言う必要もなかったよ。


『待て待て待て待て……』


サテライトストライクは下降し、νガンダムヴレイブの三百メートルほど前方に着地。

その上でνガンダムヴレイブを……タツヤを鋭く指差す。


『フィン・ファンネルはどうしたぁ!』

『う!?』

『てーかビームライフルとバズーカも!』

『うぅ!?』

「おい、あの反応だと……」

「タツヤも分かっていなかったみたいだね……!」


そう、現在νガンダムヴレイブは、シールド以外の装備を持っていない。

使える武器は背部のサーベルと、左腕に埋め込まれている予備サーベル。頭部バルカン、シールド内側のビームキャノンくらいだ。

シールドにはミサイルもあるけど、あれは四つくらい一緒にくっついた一体成形パーツだからなぁ。また別途バラして改造しないと発射できないんだよ。


「……え、タツヤ君……武器ほとんどないの!?」

「デフォのものは全く。……でもよくやる」

≪あなたもありましたね。本体を作るのに夢中で、いわゆるオプションをすっ飛ばすこととか≫

「変形用の差し替えパーツとかは……面倒だーって後回しにしてさ」

「あぁああぁ……なんだろう! 私にも凄い覚えがある! ガンプラじゃないけど、その目を書いていないから失敗ってノリ、すっごく分かる!」

「……天原さん、外見詐欺と呼ばれたことはありませんか?」

「しょっちゅうだよ!」

「だと思いました」


……舞宙さんの生活がどんどん心配になってくるけど、それは後にしよう。


(どうするのよ、タツヤ……)


せっかく待ち望んだバトルなのに……というか、タツヤが言いだした勝負だからなぁ。

助け船も無粋かとも思うし、トオルともどもひやひやしていると。


『ア……!』

『「ア?」』


タツヤが小さく、口を開く。


『アナハイムで――――』

『「アナハイムで……?」』

『――テスト中だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


…………ほぼ逆ギレに等しい叫びが、バトルスペース内に響き渡る。

僕達はあ然とするものの、すぐに吹き出してしまう。


「なるほど……そういう設定なのか。やるなぁ……!」

「……お兄様、アリなのですか?」

「模型としてはアリ。足し算じゃなくて、引き算の想像力……今日のヴレイブはあれが完成形なんだよ」

「……それはまた」

「いや、だがトオルはそれで」

『……じゃあ仕方ねぇ!』


ストライクはビームライフルを捨て、ストライカーに搭載されているビームサーベルを右手で抜く。その上でストライカーをパージ。

サテライトキャノンも含めると、ストライカーはかなりの大型パーツ。それらが地面へ落ち、鈍い音を立てた。


『これで互角!』

「納得したかぁ!」

「おぉ……ガチな殴り合い!? いいないいな、二人とも男らしいよー!」

「なんで舞宙はノリノリなんだよ!」

「心は少年なんだよ」


――普通の戦いなら愚行だ。勝てるチャンスを自ら棄てるんだから。

でも違う。これはガンプラバトル――ただの遊びだ。

だから二人にとって、これが最適解……一番楽しく遊べる方法。


『……!』


それを噛み締めるように、二機はブーストを最大出力でかけ、砂を散らしながら肉薄。

νガンダムヴレイブは背部のサーベルを抜き、ストライクと袈裟の斬撃をぶつけ合った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そう、これで互角……ストライクもサーベルとシールド、イーゲルシュテルンだけ。


(なのに、なんだこの圧力は……!)


やると見るのとでは大違い。これがバトルの……ファイターの視点と迫力。

変わり映えのない日々を……失い、傷つくものもない平穏を、淡々とした未来を望んでいたはずだった。

なのに違う。それは違うんだと、”これ”は訴えかけてくる。


本当に僕が望んでいたのは……。


『いいガンプラだ……! まずは合格!』

「光栄!」


とはいえ、素直に受け止められない。

ストライクの加速は止まらない……止められない! 一回り大きいはずなのにのけぞりかける!


それでも踏ん張りながら押し込まれ、両サイドモニターに映る景色が、無数の線に変わる。


『だがオレに勝てると思うなよ!』


そこでサブモニター展開。

νガンダムヴレイブのフレーム図が表示され、右肘部分が赤く点滅。


(は……!?)


だが攻撃らしい攻撃は受けていない。

あくまでも押し込まれているだけで……そこではっとし、右足を挙げてストライクにミドルキック。


強引にストライクを引きはがし、三十メートルほど距離を取る。



「褒めてもらうには、まだ早いようだ」


組み方が甘かったらしい。もう右腕では受けられない。恐らくは関節部が分解しかかっている。

……そうなれば機動力勝負。アームレイカーを動かし、空を見上げながら上昇。


再度飛び込んでくるストライクから思いっきり距離を取り、青へと溶け込もうとする。


『……機動力で勝負か!』


右腕が使えないとなれば……左腕にもサーベルはあるが、そんな状態でトオルの攻めを受けきれるとは思えない。

ならば不意を突く必要がある。


あるけど…………。


(……どうやって……!?)


このだだっ広い砂漠のど真ん中で、隠れる方法もない。それでどうやって、トオルに勝つんだ。


『オレのストライクは、本体のバーニアも作り込んでるからなぁ!』


考えている余裕はなかった。左へ振り返るとトオルがこちらへ突撃。

頭部バルカンでけん制するも、シールドで防がれつつ一気に右を取られる。


(やっぱりスペックではあちらが……!)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


νガンダムヴレイブは慌ててトオルへ振り返り、シールド防御。

するとサーベルが左薙に振るわれ、それがシールド表面を叩き粉砕。


「あぁ!」

「大丈夫……」


衝撃でνガンダムヴレイブは吹き飛び、一気に落下。

各部スラスターでバランスを立て直し、なんとか着地。それでは衝撃を殺せず、膝立ち状態で砂地を滑る。


「直撃じゃない。ただ……」


ストライクは十メートルほど前に着地し、静止。

νガンダムヴレイブを値踏みするように、黄色いツインアイを向けてくる。


「恭文君が予測した通り……!」

「だよな……!」

「恭文くんとのバトルでも思ったけど、細かい作り込みもきっちりこなしているんだよね」


すると脇にすっと……トオル達の邪魔をしないように、フィアッセさんとふーちゃんが静かに近づいてくる。

フィアッセさんが微笑みながら『しー』のポーズを取るので、僕達もそれに倣い頷いた。


「それがストライクの下地になって、支えている」

「……トオル君、言っていました。オリジナルの設定とかを考えて、形にしていく……想像力がバトルの強さだって」


舞宙さんはすぐにフィールドに視線を戻す。

その中で注目するのは、やっぱりトオルのストライクだった。


「突飛な武装だけじゃない。あのガンプラの細かいところまで、こうなっているんじゃないか……こう作ればかっこいいんじゃないか。
そういう想像力が……トオル君が求めるものが、形になって動いている」

「想像したものを表現する。そういう意味では私達の歌に近いものがあるよね」

「はい――!」


……もちろん技術力云々はある。僕だってトオルやタツヤにあれこれ言えるほど、高い技術力があるわけじゃない。

でも一番大事なのは、そういう表現を楽しむ心。心の中で生まれた形を、取り出す手間暇を好きな気持ち。

トオルは単純に上手いってだけじゃない。好きなことを、好きなように……僕が舞宙さんとのお話から見いだしたものを、とっくに掴んでいて。


「でもこれだとタツヤくん……というか」


……ふーちゃんも気づいたか。右腕が……肘から軽く抜けかけていることに。


『どうした? 動きが止まったぞ。右腕、さっきの攻撃で抜けそうなんだろ』

『……!』

「実機を動かすバトル故だなぁ。こういうセッティングの甘さが、勝敗に直結する」

「これでハンデとかも、さすがに駄目だよね……」

「うん、駄目だよ」


それは侮辱というものだ。なにより……。


「タツヤはまだ、諦めていない」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


焦り……負けへの恐れ? せっかく作ったνガンダムヴレイブが壊されそうだから、怖いのか。

……違う。

それもあるかもしれないけど、全く違う。


今僕が恐れているのは。


『オレも経験あるからな、分かるぜ。その心配事、解決してやるよ』



そこでストライクがスラスターを最大出力で噴射。


『……右腕を』


迷いなく、こちらの間合いへ入ってくる。


『吹きとばせいいんだよ!』


振るわれるサーベル。

上手く動かない右腕。

走る閃光――その全てが恐怖を加速させる。


だけど、だから答えが見えた。

僕が欲しかったもの……今僕が怖がっているもの。


それは…………。


「――――!」


気づくとアームレイカーを動かしていた。前に踏み出していた。

サーベルは手放し、νガンダムヴレイブの右手を開く。ただ前へと突き出す。

作戦と言えるものじゃない。必殺技と言える行動でもない。だけどただ……。


こんな楽しい世界に誘ってくれた友達に、なにも報いることもできず……。

そんな友達に、『楽しい』と思ってもらえることもできないなんて、嫌だったから。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


望む時間を、瞬間を掴むように、袈裟に打ち込まれた刃へアイアンクロー。


『シャイニングフィンガーだと!』


残念ながら、あんな必殺技は積んでいない。

だからサーベルによってハンドパーツが溶け、ヒビ割れていく。


……そのほんの一瞬……。

……トオルが驚いているほんの一瞬……。

それが、それだけが、初心者未満な僕に賭けられるチャンス。


それに幸運も手伝った。トオルは僕よりもガンダムに詳しい。だから答えを導き出そうと考えた。

この行動はどの作品の、どんな技だと……今声に上げるまでの停止時間。そのコンマ何秒の思考時間をも利用する。


「――!」


左腕から予備サーベルをパージ。

回転し、排除されるそれを左手で掴み、身を逸らしながらストライクの胴体へ刺突。

右腕は手が溶けきる前に、肘から抜けて吹き飛ぶ。


更にストライクのサーベルもそんな勢いに煽られたのか、基部ごと手からスッポ抜ける。

ピンクの刃がこちらの右肩アーマーを掠める中、予備サーベルの切っ先がストライクを捉えた。


……でもそう思った瞬間、トオルのストライクが後退しながら側転。そのまま大きく後ろへ飛んでいく。

どうやらスッポ抜けたわけじゃないらしい。サーベルを手放し、回避行動に移っただけ。

現にトオルはストライクの体勢をすぐ立て直し、右サイドアーマーを開く。


そこから射出されたアーマーシュナイダーを右手でキャッチし、逆手で持った。


……だが無傷じゃない。

ストライクの胴体、更に脇腹には斬られたような後。僕の攻撃は、僅かだがトオルを捉えていた。

右腕は犠牲にしたが、得物のリーチでは勝てるようになった。突き出したままな予備サーベルを引き、静かに構え直す。


ストライクも腰を落としたところで砂漠に風が吹く……。


(さぁ、どうくる。やっぱり突進攻撃だろうか)


風が僕達の間を吹き抜けるたび、それで砂煙が舞い上がるたび、空気がどんどん重くなっていく。

怖い……でも、怖いのはやっぱり負けることじゃない。ガンプラが傷つくことじゃない。


僕は踏み出さなかった……止まって、ただ見ているだけで終わろうとした。人生全て、それで済ませようとしていた。

怖いのは、そんな自分に戻ること。傷つくことを、壊れることを恐れて、踏み込めないこと。

それでやっぱり……大事な友達に、楽しいと思えるなにかを伝えられないこと。


僕はトオルに教えてもらってばかりで、なにもできていないと考えいてた。でもそうじゃなかった。

僕もトオルになにかができていた。全力でバトルし、踏み込む事がトオルへの礼になっていた。

だから逃げたくない、迷いたくない。もっとだ……もっとバトルを楽しみたい。


……こんなのは初めてだ。

胸の中がチリついてしょうがない。

いや、燃えているのかもしれない。


熱が胸を中心に広がって……僕は笑っていた。


『――あははははははははははははは!』


そこでトオルの笑い声。ストライクの構えも解除されるので、熱はそれとして面食らってしまう。

それに呆気を取られたせいか、何度か息を吐く。


……いつの間にか、呼吸する事すら忘れてしまっていたらしい。


『なんて凄い奴だよ、お前は! 腕一本をこっちのビームサーベルと引き換えにするなんて!』

「だが失敗した」

『勝ち負け以上に、楽しいバトルだったぜ』


その言葉が嬉しくて、頬が緩む。


『お前……合格だぜ』


僕がトオルに近づくための、同じものを見るためのテスト――試練。僕がいつも受けている試験ではなく、試練。

今感じている熱がそうだと示してくれている。


あぁ、そうか。

これが……友達というものなのか。


(その6へ続く)






あとがき

恭文「というわけで、G-EZBWが登場ー。きっとダブルオースカイメビウス的な感じで暴れてくれることでしょう」

舞宙「他人事過ぎる! というか、機体ベースが違うよね!」

恭文「実はそうなんですよねー。……そしてこれも、大事な約束の機体に」


(Ver2020世界線は、フェニーチェコースだろうか)


恭文「とにかくもう十二月…………舞宙さん、いよいよダブルオースカイメビウスが発売ですよ!」

舞宙「だね! ひと月伸びたけど……しかも内容が凄いよ!」

恭文「ガンプラコンシェルジュの動画、盛り上がりましたしねー!」



(※HGBD:R ガンダムダブルオースカイメビウスの中身。

・アームドウイングバインダーはソードとビームキャノン、更に一斉射撃のハイマットバーストモードに移行可能。なおグリップは差し替え。

・アームドウイングバインダーはメビウス用ビームライフルと合体可能。

・ライフル二丁は腰への懸架用ジョイントを利用して、ツインバスターライフルみたいに合体させることもできる。

・劇中ではやっていないけど、ラッシュポジジョンも搭載。

・ハイヤーザンスカイフェイズに付いていた、トランザムインフィニティー用の翼エフェクト付属。(クリアグリーンラメ入り)

・その絡みで、ブレイサー&レガース用のビームシールドエフェクトも付属。

・ダブルオースカイ(無印)のパーツと武器は一通り揃っている。なのでメビウスカラーのダブルオースカイ(無印)も組める。

・上の点を利用して、HWSの武器セットも装備できる。

・バスターソードのビームエフェクトはないけど、それもダブルオースカイ(無印)のキットなら二つついているので、一つ流用しても問題なし)


恭文「……そりゃこの価格になるわ。実質ダブルオースカイにバージョンアップ版の装備セットやらが付属したわけだし」

フェイト「だよねだよね! もう凄いてんこ盛りで……!」

舞宙「……私、これ作る。絶対作る」

フェイト「舞宙さんが蕩けた目で凄いことを……!」

舞宙「だって青だよ!? 翼だよ!? ありじゃん!」

恭文「僕も……ツインバスターライフルするんだ」

あむ「舞宙さんはともかく、アンタは駄目」

恭文「なんで!?」

あむ「アンタがコレ使ったら、絶対ろくなことにならない気がする! というか、フラウロスチェインとかでも相当好き勝手していたじゃん!」


(ただ資質的にできないだけで、蒼い古き鉄もトリガーハッピーだと……そう認識している現・魔法少女だった。
本日のED:LUNA SEA『BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)』)


フェイト「でもヤスフミ、舞宙さんが凄く不吉なフラグを…………」

恭文「……それについては、思い出させないで」

古鉄≪元祖本編軸でもありましたからねぇ。それでもう…………ねぇ≫

舞宙「ないから! フラグとかへし折るから! というか……あたしへの扱いがヒドいー!」

春香「いや、閣下とか言われないだけマシでは」

舞宙「淑女扱いされないんだけど!?」

春香「自業自得でしょ、そこは!」


(おしまい)






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