小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第126話 『Where you guys come from, and where to go?/出会いと再会と衝撃のワルツ』 ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』 ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー♪ 今回から新章突入だよー」 ミキ「イースターとの戦いも終えて、色んな変化の種も含みつつ進んでいく日常。そんな中……あれ、あの子は?」 (立ち上がる画面に映るのは、赤毛で小さな女の子。そして手の中から溢れる水) スゥ「新キャラさん登場でしょうかぁ。あれあれ、あの子もぉ」 (次に映るのは、顔を真っ赤にしたツインテールの女の子。そして決意に燃えるあの人) ラン「えー! どうして聖夜市に居るのっ!? だってだって、あの子は」 ミキ「その理由もこの後すぐ明かされたり。それじゃあいくよー。せーの」 (そしてやっぱりあのポーズ) ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 聖夜市――地球にある地方都市の一つ。ヴィヴィオちゃんのママであるなのはさんや恭文さんの出身世界。 空は青く、風は優しくなびく。ここはヴィヴィオちゃん曰く、とても星が綺麗に見える街らしい。 ミッドと違って昼間だと月があまり良く見えない世界に驚きつつも、私はゆっくりとインターホンを押した。 中から優しい声が響いて、緑色の金属製のドアが開く。それで栗色の髪のメガネをかけた女性が驚いた様子で私を見た。 「あの、こちら蒼凪恭文さんとフェイト・T・蒼凪さんのご自宅でしょうか」 「あ、はい。あのあなたは」 「私、コロナ・ティミルと言います。えっと、ヴィヴィオちゃんとは同級生で」 私がこの街に来たのは、どうしても……どうしてもあの人に会いたかったから。 あのオレンジ髪の人に会いたくて、私生まれて初めての一人旅に来ちゃいました。 All kids have an egg in my soul Heart Egg……The invisible I want my 『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説 とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!! 第126話 『Where you guys come from, and where to go?/出会いと再会と衝撃のワルツ』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ イースターとの決戦も終わり、月詠家のお話し合いを終えた翌日、唯世がうちに来た。 なんでも辺里家でも昨日お話し合いがあったらしい。てーかあの猫男が来たためにそうなった。 それでずっと謎だったあの日の事やロックとキーが何かようやく分かったと話してくれた。 それをフェイトとシャーリー達も交えて話を聞いているところに、突然にお客さんが来た。 それで当然ながら……僕達は仰天だよ。でもそれも許して欲しいんだなぁ。 クリーム色の髪をツインテールにして、オレンジの長袖ワンピースを纏うその子は僕とフェイトと唯世の知ってる子なんだから。 その子の名前はコロナ・ティミル。ヴィヴィオの同級生で友達な女の子。 「でもコロナ、いきなりどうしたのかな。ほら、学校は……あ、ここは大丈夫か。今日は休日だしね」 フェイトがリビングのテーブルに座るコロナに優しく話しかけていた。 僕はお茶を入れていたので、まずはコロナにカップごと渡す。 「あ、実はその……ちょっとお休みしようかとも思ってまして」 「お休み?」 「別に病気とかじゃないんですけど、まぁその……少し」 一応唯世とフェイトとリインにも改めてお茶を渡す。みんなはどうしたものか考えつつゆっくりと飲み始めた。 あ、ティアナ達はコロナとはちょっと面識なかったし、大事な話かも知れないからという事で遠慮してるの。 僕も着席して、困ったように笑うだけのコロナを見て色々考えてしまう。なので、早急に手を打った。 ”アルト” ”ヴィヴィオさんにはもうメールを送ってます。そう遠くないうちに返事が来るでしょ” ”ありがと” でもマジで何しに来たんだろ。来た事自体は迷惑じゃないけど、いきなり過ぎ……あ、一つ確認。 「コロナ、一人で来たのですか?」 「はい。転送許可を取って、そのままこっちに直で。 場所とかはヴィヴィオちゃんが前に話してくれてたので。ちょっと探すの大変でしたけど」 「そうなんだ。それで単刀直入に聞くけど、来た理由は?」 コロナは僕の言葉に口ごもってしまった。僕は軽く息を吐きつつ、両腕を組む。 「コロナ、何か事情があるなら力になるよ? 僕もフェイトもコロナにはヴィヴィオのアホに付き合ってくれて感謝もしてるしさ」 「そこは僕もだよ。ティミルさんには夏休みに会った時に話したと思うけど、僕達生徒会の関係で話を聞くのは慣れてもいるし」 「あの、ありがとうございます。じゃあその、私も単刀直入に言います」 コロナはそう言ってから顔を真赤にして、かすかに震えながら……声を絞り出すように叫んだ。 「私、空海さんに会いに来たんですっ!」 『…………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「じゃああの、ちょっと待ってコロナ。それだとあなた空海君の事」 「……はい」 改めてコロナから話を聞いて、びっくりした。コロナが空海君の事をその、好きだったなんて。 それでわざわざ会いに来ちゃったそうなの。……これが普通の女の子なんだなぁ。 私は幼少期はともかくどうして一直線に進んじゃったんだろう。うぅ、小さい頃からヤスフミとラブラブしたかった。 というかヴィヴィオはどうなんだろ。ヴィヴィオももしかしたらそういう相手居るのかな? まぁヤスフミという事はないと思うけど、居るなら嬉しいかも。それで私は自分を省みてヘコむの。 でも微笑ましいな。身体を震わせて、顔を真っ赤にしながら俯いてるのが可愛い。 もちろん本人的には相当必死だから、茶化したりしたら悪いんだろうけど。 「あの、一緒にストライクアーツをやって……それからしばらくして、空海さんの事とかたくさん考えるようになって」 「うん」 「もう一度会いたいなーと思ったりもして。それでその、ママにそういうの相談したら、それは『恋』だって言われて」 「それで空海さんが好きだって自覚しちゃったわけですか」 顔を真っ赤にしながらコロナは頷く。でも、初恋ってこれくらいからなんだなぁ。 私の初恋……やっぱりクロノなのかな。うん、多分クロノだと思う。 クロノはほら、私の昔のあれこれで凄く力を貸してくれたし、最初は兄妹じゃなかったしね。 あの時の事を思い返すと恋っていうよりはこう、初めて接する親しい異性だからなのかな。 私より大人でカッコ良くて憧れていた感じなのかも。恋と呼ぶにはあんまりにも淡くて幼い感情が、確かにそこにあった。 まぁその感情はその後私がハラオウン家入りする事で綺麗サッパリなくなっちゃうんだけどね。 そういう話をしてヤスフミにちょっとヤキモチ焼かせたりもするんだ。たまにはそういう意地悪もしないと。 ここは今までは自覚なかったんだけど、あむがうちで暮らしてた時にお風呂で初恋の話とかしたの。 そうしたらあむに『自分の時と同じ』って指摘されたんだ。初恋って、本当に淡くて無自覚に生まれるものみたい。 だから気づくのが遅れて、実る事も無くて……私は今年で一応22歳。それでお母さん。 そんな段階まで自分で気づく事もなかった青春送ってるんだなと、物凄く反省したっけ。 あ、今はもちろんそんな事ないよ? クロノはあくまでもお兄ちゃん。仮に向こうが迫ってきてもノーって言える。 だって今の私の一番は、私が愛してるのはヤスフミなんだから。うん、胸を張って言える。 淡い初恋はクロノだけど、無自覚でも男の子に本気で恋したのは……ヤスフミが初めてなんだ。なんだろ、少し照れてきちゃうかも。 「あの、蒼凪君。フェイトさんの顔が」 「真っ赤なのですよ。それで恭文さん見てニコニコなのです」 「二人とも、気にしなくていいよ。あとでたっぷり問い詰めておくから。それでラブラブしとく」 「「それは何かおかしいと思うんですけどっ!」」 三人が不思議な会話をしてるのを見て首を傾げるけど、とりあえず意識を話に戻す。 私の事はそれとして、今はコロナの事だよ。……やっぱり初恋って、自分ではそうだって分からないものなんだね。 「でもティミルさん、それならほら、メールや電話とかは? 会うのは難しくても、そういうところから交流するという手もあるし」 「知らないんです。あの、そもそも私あの場でみなさんのアドレス聞いたりしてませんし」 「……あ、そう言えば」 「確かに僕から見てもそんな気配なかったな」 「ヤスフミ、唯世君、そうなの?」 私もリインもヤスフミや唯世君、もちろん空海君とも別行動だった。 なのでそこは当然知らない。だから聞いてみたんだけど、二人はこちらを見ながら頷いた。 「僕もティミルさんとアドレス交換などをした覚えは。 まぁ蒼凪君とあの場に居なかったリインさんは除外するとしても」 「ヤスフミは元々私と同じくコロナと知り合ってるしね。……コロナ、それでこっちに来ちゃったの?」 「はい。あの、もう一度……もう一度会いたいなと思って。それでアドレスとか交換出来るなら嬉しいなって」 か、可愛い。恥ずかしがりながらもじもじしてるコロナは、女の子の私から見ても可愛らしく見える。 というかコロナは元々内向的な子だったのに。相当必死だったんだね。だから今も声が震えてる。 「ヤスフミ、なんとか力になれないかな。まぁいきなりお付き合いとかそういうのはないとしても」 「お、お付き合いっ!? それはさすがにその……きゅう」 「コロナ、しっかりしてー! というか顔赤くなってるけどなに想像したのかなっ!」 「フェイト、それフェイトが言う権利ないわ」 どうやら最近の子は色々と進んでいるらしい。なんかこう……あのね、よく分かった。 とにかくお茶を飲みつつ落ち着きを取り戻していくコロナに安心しつつ、またヤスフミを見る。 「うーん、どうしようかなぁ」 「ダメ、でしょうか」 「いや、力になるのは別にいいのよ。メールアドレスとか連絡先交換するくらいならさ。 というか僕なり唯世が空海の方に許可をもらってコロナに教えてもOKだし」 多分空海君もヴィヴィオの友達という事ならOKを出すとは思う。だけどコロナの表情はちょっと微妙。 まぁそうなるよね。せっかくここまで来たのに……それはヤスフミも予想してたからやっぱりという顔をしている。 「そうなると空海をなんとか引っ張り出してコロナに会わせる必要があるんだよね。でもほら、空海もうガーディアンじゃないし」 「そう言えばそうだよね。普通に聖夜小に来ただけだと相馬君と会わせる理由が作れない」 「え、どうしてかな? 直接空海君に……ダメだね」 「うん、ダメだね」 それだとやっぱり『どうして自分にコロナが会いに来たのか』って話になるんだよね。ほら、別世界でもあるし。 そうなると必然的にここで告白なんて話にもなりかねないし、それがダメならやっぱり理由作りをしなくちゃいけない。 「相馬君をなんとか引っ張る理由を作らないとだめになっちゃうね。だったら……うーん」 「あの、難しいなら大丈夫なんです。メールアドレスも教えていただくだけで」 それでもヤスフミと唯世君は同じように難しい顔をして腕を組みながら唸っている。 それが兄弟みたいに似ていて、リインと顔を見合わせてからつい苦笑してしまう。 「……いや、方法あるかも。ねぇコロナ、アレって練習してる?」 「アレ?」 「そうアレ。ほら、前にヴィヴィオと僕達に見せてくれたじゃない」 ヤスフミがそう言うのを見て、私はすぐになんの事か思い出した。それで言いたい事が分かってついニコニコしてしまう。 「はい。ヴィヴィオちゃんや恭文さん達に誉めてもらえたの、嬉しかったですし。でもそれがなにか」 「まぁコロナさえよければなんだけど……明日学校に来て、アレをガーディアンのみんなに見せて欲しいんだ。 あとは……あー、そうだ。マリアージュ事件のせいで延期になっちゃったIMCSの事も空海に話してあげてよ。そうすれば」 「えぇっ!?」 「蒼凪君、アレって? というか、IMCSって」 「そこも詳しく説明する。まぁコロナにはちょっとピエロになってもらう必要があるけど、空海を呼ぶ事は出来るよ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ さてさて、イースターとの戦いが終わってからマジで世界は平和そのもの。まぁ色々余波はあるけどさ。 それはあたし達ガーディアンも同じく。時折出てくる×たまを浄化しつつのんびり日々を過ごしていた。 ……うん、×たま出るんだ。あれだけの事があっても夢や『なりたい自分』を諦めちゃう人達は居るんだ。 でも、そうだな。そういう人達の力になれたらいいなーとは、最近考えるようになってる。 前に言った『あたしなりの現実との関わり方』ってやつかな。例えキャラなり出来なくても、それが出来る自分で居たいなと。 でもさ、やっぱりあやふやなんだ。あやふやであいまいで、だから平和な日々の中で考えてるの。 恭文やフェイトさんにティアナさん達も色々考えてるっぽいし。まぁ負けないようにね。 でもそんな中、恭文がある子を連れて登校してきた。てゆうか、今現在一緒に学校に向かって歩いてる。 「――コロナちゃん、そうだったんだ。いや、なんか楽しそうだなーとは思ってたんだけど」 「ちょっとした出会いで、恋の花咲く事もあるんですねぇ」 「か、からかわないでください。うぅ、恥ずかしい」 恭文の隣を歩くコロナちゃんは照れくさそうに俯く。というか、ちょっと可愛いかも。 そう言えばあたしも修兄ちゃんに初恋してた時は……こんな感じだったなぁ。ついしみじみしちゃうよ。 「というかあむさん、そっちのツインテールの子は」 「あ、そう言えばコロナは会った事ないっけ。この子はダイヤ。この子もラン達と同じであたしのしゅごキャラなんだ」 ダイヤはすぐにコロナちゃんの近くまで飛んで、そのまま優しく笑いかける。 「初めまして、ダイヤよ。よろしくね、コロナちゃん」 「うん、よろしくダイヤ。でも……四人もしゅごキャラが居るんですね。 恭文さん、これって普通なんですか? ほら、恭文さんも三人に増えてますし」 「いや、基本的には一人につきたまご一つのはずなんだけど……うーん、自分でも謎かも」 「あはは、あたしも同じくなんだよね」 コロナちゃんに軽く笑いながらも、あたしは自然と視線を右に送っていた。 そこはラン達が生まれる前に通ったあの学校への近道。いや、なんか懐かしくなって。 コロナちゃんにたまごの事聞かれたから、見たその道に一つの影を見つけて、あたしは足を止めた。 「あむ、どったの?」 「いや、アレ」 あたしが指を指したところは、道の途中の電柱。その近くにうちの制服を着た女の子が居る。 髪型は赤毛のショートで毛先が外側にカールしてて、髪の一部に小さなお団子二つ。その子はなにやら電柱に話しかけていた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 学校に向かう途中、電柱の根本に咲いてるお花を見つけた。そのお花、ちょっとしおれてたんだ。 だからどうにか出来ないものかと考えて、水筒に入れてた水を利用する事にした。あー、お茶の類じゃなくて良かった。 でもそのままかけちゃうとかえってお花を傷つけちゃうから、一旦コップ(水筒の蓋)にお水を入れる。 それを手の平ですくって、優しく……優しくかけていく。それで目の前のお花はキラキラと輝き始めた。 「おいしい?」 それが嬉しくてついニコニコしちゃう。まぁお水少なくなっちゃうけど……いいよね。 「優しいんだね」 後ろから突然声をかけられて、あたしは驚いて振り向く。するとそこには……あ、同じ制服のお姉さんだ。 あたしより年上っぽいけど、大体6年生くらいかな。それで隣にあたしくらいの女の子も居て、小さな妖精……妖精? 「お花にお水、あげてたんだ」 「いや、その……あはははは」 あたしはそのまま振り向きながら立ち上がろうとした。でも、その時に足がもつれて……後ろのめりに倒れた。 「うわ……わわっ!」 「危ないっ!」 視界が一気に上に向く。というか、このままだとお花踏み潰しちゃうと思った時、視界の動きが止まった。 てゆうか背中に手が当てられてるのが分かる。それもぽかぽかしてすっごく温かい手。 「……ギリギリセーフ」 「さすが恭文さん、ナイスです」 「まぁこれくらいは朝飯前だしね」 それで左の方を見ると、あのお姉さんと同じくらいの年の男の子が居た。 栗色の髪に黒い瞳の……女の子みたいな顔立ちだった。 「あ、ありがとうございます」 「どういたしまして。自分で立てる?」 「なんとか」 その人はあたしの背中を押すようにして支えてくれて、あたしはなんとかまた立つ事が出来た。 それで安心して息を吐きながら、改めてあの人を……あ、なんか妖精が居る。 「それであの」 「何?」 「その子達、なんですかっ!? すっごくちっちゃくて可愛いー!」 「「……またこのパターンかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」 「え、どうしたんですか?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 結論から言おう。このしゅごキャラが見える子、転校生だったのよ。 もちろん通う学校は聖夜小。一昨日くらいにこの街に来て、早速登校らしい。 「柊りっかちゃん……2年生なんだ」 「はい」 名前と学年は今あむが言った通り。それでまぁ、自己紹介なんかもしつつ四人で学校にそのまま向かう事にした。 「でもしゅごキャラかぁ。あの、そっちの子も見えてるんですよね?」 「あ、コロナです。コロナ・ティミル。年は柊さんと同じです」 「コロナちゃんかぁ。外国の人かな? コロナちゃんも転校生とか」 「えっと、違うんですけどその、所用で恭文さんのところに来てて」 コロナが歩きながら俯いてもじもじする。りっかは意味が分からなくて首を傾げるけど、まぁ……察して? 好きな人に電話番号とアドレス聞きに来たわけだし、そりゃあ初対面のりっかには言えない。 「えっと、とにかく私もしゅごキャラは見えるんだ。しゅごキャラは『なりたい自分』。 自分の夢や未来への可能性が形になったもう一人の自分、でしたよね?」 「うん、そうだよ。でもそれが見えるって事は、りっかにもあたし達と同じようにこころのたまごがあるのかもね」 「でもあたし、そんなの聞いた事ないんですけど」 「これから生まれるかも知れないよ? こころのたまごは、誰にだってあるんだから」 その後、なんでか先輩風吹かせて嬉しそうなあむは気にせずに学校に到着。 りっかに教室の場所とかそういうのも改めて教えた上でその場で別れた。 それで僕達は……これからまたまた仕事があるわけですよ。だから自然とあむを顔を見合わせる。 「あむ、分かってるね?」 「もちろん。てーかメールくれたじゃん。出来る限りコロナちゃんがやりやすいようにしてくから。てゆうか、手伝わせてください」 そう言いながらあむは何故か涙目になってしまう。その意味が分からなくて僕は首を傾げる。 「自分の事で散々世話をかけたのでこういう所で罪滅ぼしを」 あー、光編のあれこれを気にしてるのか。そう言えばそこの辺りの始末あやふやになってたしなぁ。 ただまぁ、僕達的にはあのバカ取り戻すのに頑張ったからそれで帳消しと思ってたんだけど……いじめようか。 「あむ、償える罪なんて、罪滅ぼしなんて誰にも出来ないのよ?」 「そんな最もらしい事言って追い詰めないでくれるっ!? てゆうか、アンタマジ悪党の顔してるしっ!」 「あむちゃんなんて、嫌いだ。……今のは今日の分。明日も言い続けるから。それで今まで君に会ってない分まで」 「その妙に似てる声真似やめてー! てゆうかアンタ達、なぜコイツにバラしたっ!? こうなる事は予測出来たじゃんっ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ というわけで、先に学校に向かって準備してたリインと合流。そこでガーディアンフルメンバーを呼び出した。 なお、不自然に思われないようにティアナにも協力してもらった上で本日のどっきりターゲットも呼び出した。 「なぁ恭文、てーかティアナさんも俺は授業があるんだが」 「そうだぜー」 「空海、大丈夫だよ。学校の授業で教わる事なんて、将来は使わない事が大半なんだから」 「あぁそうだ……待て待てっ! お前、前に俺がそう言って宿題放り出しかけた時は派手にツッコまなかったかっ!? てーかお前が言うとマジっぽいからやめてくれー! 学生生活の楽しみがなくなりそうなんだっ!」 忘れがちですが、僕は大人です。なのでみんな揃ってうんうんって頷くのよ。 「てーかいきなりコロナもどうしたんだよ。あー、オーッス」 「ダイチ、お久しぶり。というかあの……空海さんもお久しぶりです」 「おう、久しぶりだなコロナ。あー、夏休みはありがとな。いや、実はうちでコロナに教わった事とか続けててなぁ」 「何気に今までやってない身体の動かし方だから、ウォーミングアップに最適っぽいんだよ。コロナ、ありがとなー」 「いえ、その……大丈夫です。というかその、少しでもお役に立ててるなら嬉しいです」 コロナがマジでもじもじ状態なので、空海とダイチ以外の全員がコロナを微笑ましく見ている。 「あぁ、なんかいいよねー。こういうの凄くいいよねー」 「ですですー。リインはドキドキなのですよー」 それでややはテンション高過ぎてリインに抱きついて揺れまくっている。……そんなに恋話が好きか。 「とにかく空海、今こそ空海の力が必要なんだよ。新しい敵に対抗するためには絶対に」 「新しい敵っ!? なんだよそれっ!」 「ドキたま/じゃんぷも新章突入だしね。ここはテコ入れで新しい敵が来るのが常設。 例えば……『ネオ・イースター』とか『しゅごたまシンジケート』とか」 空海もやっぱりそういう話は分かるらしく、真剣な目でうんうんと頷いていた。 「なるほど。実際にそれが来る前から対策を整えておこうって事だな」 「そうだよ。やっぱりこの場合イースターよりも強大な敵になるのは明白だしね。今の内から」 「このバカっ!」 「パトラッシュっ!?」 僕の左頬を全力で殴って来たのは、当然あの暴力的なツインテール。 今はロングヘアーだけど、僕にはツインテールの幻視が見えるの。 「ティアナ何すんのっ!? てゆうか、そんな事してるからIKIOKUREるのよっ!」 「アンタがバカな事言うからでしょうがっ! てゆうか、そんなのどこにも居ないでしょっ!? あぁもう、アンタじゃ話進まないから黙ってなさいっ! あと、私はIKIOKUREじゃないからっ!」 ティアナは荒く息を吐きながらも空海の方を見て、少し表情を緩めた。 「空海、まぁそう言わないでちょっとコロナの練習に付き合ってよ。てゆうか、アレよ?」 「なんっすか」 「アンタ、一応でも魔法の事とか勉強したいんでしょ? だったら後学のために見ておいた方がいいわよ」 意味が分からないと言いたげな空海にティアナは不敵に笑いつつ、僕の方を見る。それで僕はコロナの方に視線を移した。 「じゃあコロナ、ここのみんななら大丈夫だし……練習始めちゃおうか」 「はい」 コロナはどこからともなく白い20センチ程度のウサギのぬいぐるみを取り出す。 「蒼凪君、練習と言うと何をするのかな」 「そう言えばそうだね。僕達そこを聞かされてないし」 おー、さすがは唯世となぎひこ。実に自然な質問の仕方で僕は嬉しいよ。 「簡単に言えば魔法の練習。コロナ、ちょっと特殊な魔法が使えるんだ」 「特殊な魔法?」 「は、はい。でもその……まだ練習中で自信もなくて。それで恭文さんに見て欲しいなと。 あ、もちろん何かが壊れたりするような魔法じゃないので、そこは安心してください」 コロナはさすがに緊張しているらしく、声を軽く震わせながら僕を見上げてきた。 「みなさんご存知の通り恭文さんは魔導師としては一流ですし、そういう特殊な術式にも理解が深いですから」 「でもでも、せっかくなのでみんなの前で実演していく事にしたのですよ。 コロナ、ちょっと恥ずかしがり屋であがり症なところもあるですから」 「それの克服も兼ねて、私達が観客になるわけね」 「うんうん、納得だよー。それでコロナちゃん、どんな魔法使うのかなー」 やや、その棒読みやめて。空海にバレるからマジでやめて。それで空海……あ、興味があるのかコロナを見てるな。 ……うし、これで第一段階は終了。とりあえずコロナがこっちに来て空海を引っ張る理由は出来たから良し。 「えっと……これです」 コロナは手に持っていたウサギの人形の額に、そっとキス。その人形をそのまま僕達の前のテーブルの上に置く。 優しく寝かされた人形はさほど経たずに身体を震わせて、ゆっくりと上半身だけ起き上がった。 それを見てあむ達の驚いたように声をあげる。ウサギは両手をテーブルについて、足を動かしてしっかりと立った。 そこからゆっくりと時計回りに一回転。そして右手を腹部辺りに当て、左手を大きく後ろに逸らしつつ丁寧なお辞儀を僕達に見せた。 「……わわ、凄い凄いっ! え、これも魔法なのっ!? なんか可愛いー!」 「なぁコロナ、これ召喚獣とかそういうのじゃないんだよなっ!?」 あ、空海の方を見て人形が頷いた。あー、そっか。まだ術式操作で手一杯で喋れないのか。 「あー、みんなごめんね。コロナはまだまだ修行中で、術式発動してる間は喋れないのよ」 「なんだそうなのか。じゃあちょっと悪い事したな。コロナ、無理に答えようとしなくていいからな」 それでウサギが首をふるふると振った。コロナは顔を真っ赤にして必死な顔してる。 そう言えばこの術式家の人以外にはほとんど見せた事ないって言ってたし、しょうがないか。 「でも蒼凪君、これはいったい……普通の魔法とは違うよね?」 テーブルの上でとことこと踊り出したウサギを見て、唯世が心底驚いたように聞いてきた。 「唯世くん、そういうの分かるの? だって唯世くん魔導師じゃ」 「唯世と僕は恭文との訓練で、魔法の事は知識的な面だけだが勉強しているからな」 「ホーリークラウンの応用のために、色々教わってたんだ。それで分かるんだけど」 唯世はあむから視線をまたウサギに移す。ウサギは……これ、ワルツかな? 「次元世界の魔法は直接的な行動に沿った魔法が大半なんだ。砲撃を撃ったり、魔力で物を斬ったり。 それは回復魔法とかも同じかも。自分の行動範囲というか、手の伸ばせる範囲を伸ばすものが多い」 「逆に自分以外の別の何かを操作していく魔法を使う人間は余り居ない。 だからややのアヒルやノロウサアルトのような召喚とそれを操る術もレアスキルだと言うしな」 「えっと……分かるような分からないような」 「とりあえずこの魔法が次元世界の魔法の中では珍しい部類に入るって考えれば正解だよ。 フェイトさんやなのはさんも、こういう人形を操作なんて魔法は使わないし。そうでしょ?」 ミキが喋れないコロナの代わりと言わんばかりに僕を見るので、頷いた。 「これは簡単に言えば物質操作の一種だね。しかもかなりの上級魔法」 「あの人形には、予めそのための触媒――受信機みたいなものを埋め込んでいるのですよ。 それを作動させて、コロナが術式を発動して操っているのです」 「高度なラジコンって考えればいいのかな。コロナちゃんが今、そのラジコンのコントローラーを持っている」 「そうだよ」 感心したように踊っているウサギを見ていたなぎひこの言葉に頷く。 「じゃあじゃあ、ややのアルトちゃんとかとは違うのかな」 「あー、そこはあるでちね。ややちゃんみたいに呼び出したりはしてないでちから」 「そうだよ。コロナの術式はそこに居ない存在を呼び出す術式じゃないから。 でもコロナ、動き相当機敏になってるね。前に見せてもらった時よりスムーズだ」 あ、ウサギが一旦動きを止めて頷いた。てゆうか会釈した。うーん、まだまだ改善点はあるけど成長はしてるんだね。 やっぱりこういう気持ちは僕も見習っていかなきゃいけないなぁ。人生は一生勉強だもの。僕ももっと伸びるだろうしさ。 「でも恭文」 「なにかな」 「いや、この術式って人形とか動かすだけなのか?」 「うん」 まぁ空海が何を言いたいかは分かる。『これでどうすんだ?』って話をしたいのよ。 ただそこを言われるとコロナがヘコむ事請け合いなので、先んじて説明していく事にする。 「今はコロナの技量自体が勉強中だからこれが精一杯だけど、将来的には凄い事になると思うな。 例えば僕がブレイクハウトで石の巨人を作ったとする。それをコロナが操作したらどうなる?」 空海はそこまで言うと両腕を組んで考え出した。そして数秒後、拍手を打って納得したように僕を見た。 「それ強くないかっ!? だってお前なら無茶苦茶硬い巨人とか作れるだろっ!」 「そういう事。だからコロナ、将来的にはそういうのを自分一人で出来るようになるつもりなんだって」 「一人で? じゃあコイツもお前みたいな」 「なんかそうらしい」 実を言うと、コロナも僕と同じ瞬間詠唱・処理能力持ちなのよ。だからこういう複雑な術式操作が可能になる。 「あ、それが理由でアンタのところに来たとか? アンタが自分と同じ能力持ちだから」 「うん。だからコロナの技量が上がれば、僕と同じようにブレイクハウトも問題なくコントロール出来るようになる。 とにかく自分でそういう巨人なりややで言うところのノロウサアルトみたいな子を作れるようになって」 「ソイツを戦わせて……と」 感心した表情で空海はまたウサギを見る。ややとリインが踊りに合わせて手拍子を打つ。 というか、しゅごキャラーズもウサギと一緒に踊り始めた。ウサギもしゅごキャラーズと手を繋いだりして合わせていく。 「な、なんかすげー術式なんだな」 「うん、応用力はかなり高いよ?」 「でもそれならお前みたいにバシバシ戦うのも手じゃ」 あー、そこの辺りの説明が抜けてたか。僕は空海を見ながら言い方も考えつつ説明する事にした。 「コロナ、今のところ修行中だもの。いきなり僕みたいにはなれないよ。まだ自分の能力についても試行錯誤中だし」 「そうなのか……って、当然だよな。だってまだ小2くらいなわけだし」 「そうだよ。それでこの術式は操作出来るのも人型だけってわけじゃないし、その状況に応じた形でパートナーを作れるし。 ……術式はね、ようするに使いようだもの。別の術式や何かしらのアイテムとの組み合わせて効果を発揮する場合もある」 それがコロナのこの術式だね。それ単体では言っちゃあ悪いけど役立たずだよ。 この術式は、操作する人形というアイテムがあって初めて効果を発揮するタイプのもの。 でもその人形をどうやって用意するかという問題がある。ここの解決も必要。 その答えの一つが、僕みたいに物質操作関係に特化した魔導師になる事。 ただ僕のブレイクハウトをそのまま教えるのはちょっと躊躇われるんだよね。それだけでレアスキルな魔法だしさ。 とにかく物質操作で周囲のものを使って人形を作るのよ。もちろんこれはあくまでも答えの一つ。 例えば携帯出来るサイズに縮む人形を複数持っていて、必要な時にそれを取り出す? これなら物質操作で人形を作る魔力は必要ないから、省エネにもなる。まぁ解決方法は色々あるって事で。 「空海、魔法勉強するなら覚えておくんだね。魔導師に求められるのはパワーじゃなくて、インテリジェンス――知性だよ」 「あぁ、そうするわ。でもよ、それならなのはさん」 「アレはどう足掻いても知性派にはなれないから除外していいよ」 「納得だわ。現に×たま浄化に砲撃使おうともしてたし」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「納得じゃないよっ! みんな揃ってひどくないかなっ!?」 「高町、お前いきなりどうしたっ! てーかオフィスで叫ぶなっ!」 「あ、いえ……なにか電波を感じて」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ とにかくウサギとしゅごキャラーズの踊りは無事に終了。コロナは一息ついて椅子に座ってる。 というか、ちょっと照れ気味に顔を赤くして……あぁ、可愛いなぁ。ヴィヴィオにはこういう初々しさが足りないと思うんだ。 「コロナちゃん凄いねー。あのねあのね、ややとっても感動しちゃったよー」 「えっと、その……ありがとうございます。あ、それと実は」 コロナは思い出したかのように、肩からかけていたポーチの中から一枚のディスクを取り出した。 「IMCSの試合映像のディスクのコピー、持ってきたんです。良ければみなさんで見てください」 「IMCS? コロナちゃん、それって何かな」 「みんなで夏休みに観に行こうと思ってた魔法格闘大会だよ」 疑問顔ななぎひこに補足を加えつつ、右手の人差し指をビッと立てる。 「正式名称は『インターミドル・チャンピオンシップ』。あー、ミッドにはDSAAっていうスポーツ団体があってね?」 「あむさん達が体験したストライクアーツの急速な普及も、この団体の力添えがあるためです。 そこの主催で3年前から毎年夏に、全世界を対象とした格闘大会を開いてるのですよ」 「そうだな、みんなにも分かりやすく言うと……若い魔導師を対象とした天下一武道会だね」 そして僕の予想通りに空海の目がキラキラと輝き出した。あー、それで一応この大会について説明しておく。 この大会は全世界の10〜20歳の魔導師が出場出来る格闘大会。と言っても、戦闘スタイルは格闘じゃなくてもいい。 ようするに武器や魔法の使用も、デバイスによるしっかりとしたダメコンが出来ればOKになってるんだ。 ここは魔法文化推奨なゆえでもあるし、選手の安全を確保する意味もあったりする。 ただフェイトやなのはみたいな局員――プロの魔導師は出場してはいけない事になってる。 僕みたいな嘱託はまだ大丈夫だったんだけど、さすがにプロの魔導師だしなぁ。 この大会は若い民間の中に居る魔導師の技術向上や目標になればという趣旨で開かれてるもの。 あくまでこの大会で行われる魔法戦は、スポーツとしての位置づけでもあるから。 そこで局で第一線張ってる戦闘魔導師が入って来たら、その趣旨そのものが壊れる。あー、あとアレもあった。 あのね、DSAAでの上位入賞者にはプロ格闘家への道が開ける場合もあるんだ。 何気に年々選手のレベルも高くなってるから、アマチュアだけでやる武闘会と侮るなかれ。 だからこそ局の大会への介入はDSAAからの要請もあって硬く禁じられている。 ただここはトラブルが起こっても入ってくるなという事じゃないんだ。問題はそこ以外。 上位入賞者なり大会で見所のある魔導師が居ても、絶対にスカウトしたりしないようにってお触れを出してるの。 出場者にもそういう事をされたらDSAAの方に連絡して欲しいってかなりお願いしてるっぽい。まぁ当然だよね。 さっきも言ったようにこれはあくまでスポーツなので、僕達が普段やってるものとはまた色合いが違う。 少しこそばいい言い方だけど、みんなで健全に汗を流していきましょうって趣旨なんだもの。 特に局の慢性的な戦力不足は有名だからね。そこでスカウトという横槍が入ったら競技の発展にも差し支える。 局も大会が若い民間の魔導師達の若いパッションというか、情熱のぶつけどころになるのならとここは認めている。 現にこの大会が始まってからミッドで若年層によるストリートファイトやそれに伴うトラブルによる事件は減少傾向にある。 局としても、この大会がどんどん発展してくれた方が良いみたい。経済効果も何気に大きいって聞くのよ。 ちなみに自業自得でぶっ壊れた某バカ提督はJS事件後、そういう趣旨をぶっ飛ばしてくれた事がある。 その年のIMCSの上位入賞者達に、スカウトかけちゃったのよ。当然だけどそこは大問題になった。 その上あの人あんな感じだから、話は平行線。クロノさんの話だと平然と『何が悪いの?』とのたまわったらしい。 そういうのもあの人の評判が悪くなった要因の一つなのは、もはや言うまでもないと思う。 ……よく考えたらそこまでやってどうして今までクビになってなかったんだろ。やっぱ今までの功績なのかな。 「――そんな大会が……アレ? ちょっと待って。夏ごろだよね。でもあたし達が居た時そんな話は」 「マリアージュ事件だよ。あれのせいで開催が延期されてたんだ」 ≪ちょうど時期が悪かったの。少し開催がズレ込んだために予選開催直前にマリアージュがどっがーんなの≫ 「だから試合日程を調整しつつ、少し変則的に最近までミッドの方で行われていたんです」 「あぁ、だからなんだ。確かにあの事件、傍から見たら無差別テロだしなぁ。 ……というか、恭文は出てないの? ほら、アンタなら出場資格あるじゃん」 あむは決して悪気があったわけじゃない。ただそれでも僕は……自然と落ち込んでしまった。 「蒼凪君、どうしたの? なんか急に空気が暗くなったけど」 「僕は……出てない。出たかったんだけど、もう僕……大人になっちゃった。 てゆうか毎年出ようとは思うのに、JS事件とか仕事とか色々あって出れなくて」 例えば最初の年。DSAAより前にヴェートルの事とかが気になったりフェイトの仕事の手伝いがあった。 例えばその次の年。もう言うまでもないけどあのマダマ共のせいで何気に調整してたのがパーになった。 例えば3年目。ゴールデンウィークの鬼退治のおかげで身体が小さくなってて、それどころじゃなかった。 例えば今年……もう知っているとは思うけど、出れる余裕なんてありませんでした。とりあえずまぁ、アレだね。 やっぱあのマダマ一回殴っておくわ。JS事件が起きた年ならそれ以外は平穏に生活出来てたのにさ。 それにそれに、毎年の試合を見るとホント楽しそうなんだよ? 年々規模も大きくなって選手のレベルも高くなってるしさ。 「あ、そうだ。僕今小学生なんだから、年齢を詐称して」 「いやいや、それマジやめないっ!? というか、それやっちゃホントマズいじゃんっ!」 「そうだよっ! それに蒼凪君はこっちでは小学生でも次元世界では違うよねっ! 絶対バレちゃうからっ!」 「それでも出たかったのー! 武闘大会とかって面白そうだから出たかったのにー!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……リインちゃん、恭文君何気に今まで出れなかったのショックだったの?」 「ですです。まぁ最初と次は良かったんですよ。でもその後が……いつもの調子ですから」 ≪納得はしていたんですけど、それでもなんですよね。というか、大会途中に21歳になる人って大丈夫なんでしょうか≫ 「もしかしたら恭文、来年予選が始まる時は20歳でも大会に出られないの? わわわ、かわいそー」 だからちょっと半なき状態でコロナに慰められてんのか。あー、でも俺も分かるわ。だってよ、今すげーワクワクしてんだ。 そんな大会あるなんて今まで知らなかったしよ。それにほら、魔導師でデバイスがあれば出れるだろ? だったらーってよ。 「あー、そうだ。空海」 「な、なんだ?」 半泣き状態で俺の方を見るなよ。てーか鼻水を拭け。お前もうすぐお父さんだろうが。 「おのれ、来年のIMCSに出る気ない?」 『……はぁっ!?』 あんまりに突然そう言った恭文は俺達の驚きの声を無視して、まず卓上のティッシュで鼻をかむ。それから手で涙を拭った。 「恭文ちょっと待ってっ! なんで空海がっ!?」 「そうよ。一体どういう事かしら」 「まず空海は……ほら、最終決戦の後に相談してくれたじゃないのさ。 さっきもティアナが言ってたけど、もうちょっと戦えるようになりたいーって」 「あぁ」 まぁその、アレなんだよ。最終決戦の時、手伝うって言いながら戦闘能力高い組におんぶに抱っこだったろ? だからそういうのがなんか悔しくてよ。それで恭文やフェイトさんにちょっと相談してたんだよ。 もう俺はガーディアンじゃねぇけど、おんぶに抱っこで守られてるだけなんて絶対に嫌だーってさ。 なお、当然の事だがそこの辺りはうちの家族との相談の上で話を進める事にしている。特に兄ちゃんズだな。 だからどうやって話そうかって考えてたんだよ。あんまりに話飛び過ぎてもいるしよ。 「僕やフェイトが空海に魔法の事とか教えるのは別にいいんだよ。でも目標がないとダレるでしょ。なので」 「その目標を俺のIMCS出場にするって事か」 「そうだよ。IMCSは毎年の事だし、スポーツ戦技としての魔導から入るのもアリかなって。 空海が本気で魔法勉強したいなら、そういうところからじゃないと親御さん達は納得しないよ」 あ、なるほど。魔法が使える上に局なんてとこがあるから、そういうとこに勤めるんじゃないかって警戒されるって事だよな。 ここは二人に相談した時にも言われた事なんだよ。でもあくまでもスポーツとしてなら……ありなのか。 「まぁ僕もコロナがディスク持って来てくれたのを見て、今思いついたんだけどね」 恭文は苦笑気味な顔をして、テーブルの上に置いてあったコロナが持ってきていたディスクを右手で持つ。 「どうするかはコロナから詳しく説明聞いてからにしてよ。試合映像も見た上でさ。 コロナ、それでいい? 僕達ちょっと学校の仕事もあるから、そろそろ出ないと」 「あ、はい。空海さんさえ良ければ」 コロナが俺の方を見るので、少し考える。だけど胸のワクワクを抑えられずに、即行で頷いた。 「あぁ。コロナ、頼めるか? てーかよ……すっげーワクワクしてんだっ! もう我慢なんて絶対出来ねぇしっ!」 両手でそのワクワクを握り締めるようにしてガッツポーズを取る。そうしながら俺は思いっきり笑う。 「恭文、俺来年のIMCSに出るっ! それで……優勝だっ!」 「おし、俺も手伝うぜ。頑張ろうな、空海」 「おうっ! ありがとな、ダイチっ!」 そんな俺達をなんでかみんなが俺を微笑ましく見る。てーか……なんでだ? 「あー、でもそうなると早めにうちのみんなには説明しないとマズイよな。あ、てーかデバイス……俺金ねぇぞっ!?」 「そこはじっくり時間をかけて相談だよ。僕も言いっぱなしじゃなくて出来る限り力にはなるしさ。じゃあ早速」 「……あのっ!」 話が纏まりかけた時、ロイヤルガーデンの入り口に人の気配が生まれた。 そちらを見ると、低学年くらいの子が息を切らせながらこちらに入って来ていた。 「ねね、君どうしたのかなー」 「て、転校生が……高い木に登ってっ!」 「「「転校生……はぁっ!?」」」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 話はIMCSの事も絡めてうまく回せたと思った。これで大体の仕込みは終了。 今回この話にあむとりまを除外したのは、空海とコロナが二人っきりになる時間を作るためだもの。 あとはコロナが空海からアドレスを聞き出せれば問題は見事に解決する。 そこはフェイトとティアナにうちのみんな共々相談に乗ってるから問題はない。 理由付けとしては、IMCSやスポーツとしての魔法戦技について色々教えられるしーとか? 仮にダメな場合、空海にさり気無く話を回して聞き出す事も考えてるから抜かりはない。 これで今回は楽に終わるかなーって思ったら……あの赤毛、早速やってくれたし。 とにかく空海とコロナを残した上でなんでかティアナも連れて、校内を走る。 そうして下駄箱近くの歩道の木の一つに登ったあの子を見つけた。あの子は……マズい。 明らかにあの子の体重を支えきれないような細い枝に乗っかっちゃってるし。 「ほーらほーら……怖がらなくていいんだよー? おいでおいでー」 あの子は枝に寝そべるようにしながらも、自分と同じように木の上に居る三毛の子猫に手を伸ばす。 寝そべるようにしてるのは、子猫を不安にさせないためだと思う。というか、アレで状況が分かった。 「りっか……来て早々いきなりなにやってんのっ!」 「え、あの子アンタの知り合いっ!?」 「さっき登校する時に知り合ったのっ! 聖夜小の転校生っ!」 「……あぁ、だからコロナも驚いてたわけか。納得したわ」 ティアナが納得している間に、りっかがこちらに気づいた。それで……元気に手を振るなバカっ! 「りっか、アンタ何してんのっ!? そこ危ないから降りてきてー!」 「ダメですー」 「なんでっ!」 「この子、木から降りられなくなっちゃったみたいでー」 りっかは子猫に視線を戻して、右手を伸ばしながらもじわじわと近づく。 でも、僕は木がみしみしと音を立ててしなり出してるのに気づいた。 「……恭文、サポートお願い。あたしがあの子受け止めるから」 「え? あ……うん、分かった」 あむも何気に気づいていたのにびっくりしていると、りっかの右手に子猫が近づいた。 りっかの指先を一舐めしてから、すぐにその手に乗った。その瞬間、りっかの表情が嬉しそうにほころんだ。 でも同時に、りっかと子猫の乗っていた枝は音を立ててへし折れる。なお、その高さは5メートル以上。 りっかは咄嗟に子猫を抱きかかえるけど、着地体勢を取れずに頭から地面に落ちていく。 「あわわわわわわわわわー!」 「キャラチェンジッ!」 ランの声が響くとあむの前髪をひとまとめにしている×印の髪飾りはハート型に変わって、両手両足にピンク色の翼を生やす。 そのままあむは突撃し、若干飛び上がりながらも子猫ごとりっかを受け止めた。 続けて僕も飛び込み、重量の関係でりっか達よりも落下速度が遅かった枝にしっかりと狙いを定める。 「ビート」 枝はあむとりっかの頭上目がけて落ちてきているので、それを防ぐために左足を打ち込む。 「スラップッ!!」 空中での回し蹴りにより、枝は木の方に飛ばされて甲高い音を立てる。その間にあむは地面に安全に着地。 僕も回転しながらあむと背中合わせになるように着地。それから二人揃ってゆっくりと身体を起こす。 それでまぁ、振り向いて少し笑顔になりながらも右拳と左拳を軽くコツンと叩きつける。 『…………うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 凄い凄い凄いー!』 『さすがはガーディアンだねっ! もうあの……先輩達素敵ー!』 なんでか響く歓声がこそばゆくなりつつも、僕はあむの腕の中のりっかを見る。 りっかは少し呆けた顔で子猫を優しく抱えながら、あむの事をまじまじと見ていた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ その後、子猫は近くに居た母猫と思われる猫のところへ呆気無く戻っていった。りっかの方も特に怪我はなし。 とは言え……さすがに危ないので僕とリインを筆頭にちょっとお説教をするためにロイヤルガーデン入り口まで連れて来た。 「――なので、あんな危ない事しちゃだめですよ?」 「でもでも、あの子怪我するかも知れなかったし」 でもりっかは若干不満そう。まぁしょうがないのかなと思いつつ、僕はしゃがんでりっかに目線を合わせる。 「だからってりっかまで危なくなってどうするの? 別にさ、僕達は助けるなとは言わないよ。 ただ、助けるんだったら相手も自分も両方助けないとだめって言ってるだけ」 「自分も?」 「そうだよ。あの子、りっかの事信じて手に乗ってくれたよね」 りっかはさっきの様子を思い出しているかのように黙って、少しして嬉しそうに頷いた。 「でもそのりっかが自分の事守れなかったら、どうするのさ。 もしかしたらりっかじゃなくてあの子が下敷きになる形で落ちて、潰れて死んじゃってたかも」 「……あ」 あの子猫、本当に両手の中に収まるか収まらないという大きさだった。 だから当然そういう可能性もあるんだよ。りっかもそこは分かるらしく、少し表情を引きつらせた。 「だから自分も助けるですよ? それがだめなら、誰かの力を借りてみんな助かるようにしちゃえばいいのです」 「ガーディアンもそうだし、先生や周りのみんな……とにかく危なくない形にしてさ。 もちろん一人でどうにかなるなら問題ないけど、そうじゃないならそこは絶対。いい?」 「はい。というかあの、ごめんなさい」 「ん、いいよ」 僕は素早く立ち上がって、後ろの方で僕とリインに任せっきりにしてた唯世達を見る。 視線で『これでいい?』と聞くと、みんなはなんでか笑顔で頷いた。なお、ティアナはニヤニヤしてる。 「あ、そう言えば」 「なに?」 「ガーディアンってなんですか。あの、さっきみんなも凄い騒いでたけど」 りっかは疑問の表情で僕達を見る。でも、その次の瞬間に目を大きく開いてキラキラさせながら唯世の方に飛び込んだ。 「わー! このケープカッコ良いー! これあたしも欲しい欲しいー!」 「ちょ、あの……柊さん待ってっ! ケープを引っ張らないでー!」 「……なるほど。柊さんは転校初日ですから知らないのですね」 「初々しいな。ヤスフミ、お前も見習えよ」 やかましい。この話の第1話を見れば分かるだろうけど、僕だって充分初々しかったちゅうの。 「あー、りっかちゃんは転校してきたばかりだから分からないんだねー」 そう言いながらややは両腕を組んで胸を張る。 「説明しましょう、ガーディアンとは……生徒による生徒のためのちょっと特別な生徒会っ! ここ、ロイヤルガーデンで聖夜小のみんなの学校生活を守る守護者っ!」 「でちっ!」 「それでそれで、お茶会とかもやってお菓子食べ放題なんだー! 遅刻も早退も欠席もガーディアンの仕事絡みなら自由だし、もうさいこー!」 「「違うからっ! てゆうかそれアンタの私欲でしょうがっ!」」 あむとティアナの鋭いツッコミがシンクロして、歪んだ事実をりっかに吹きこもうとしていたややは脇に押しのけられた。 「わー! あむちーもティアナさんもヒドいー!」 ティアナはそんな言葉をいつもの非道で華麗に無視して、両腕を組みつつりっかに視線を向ける。 「とにかく、ガーディアンに入るとアンタが気に入ってるようなケープを着れるのよ。 コイツやあむ、リインさんはまた特別職だから着てないんだけど」 「わー、この子面白いー! 王冠にマント着けてるしー! ねね、コスプレかなー!?」 でもりっかは興味をケープから唯世の隣に居たキセキに移して、瞳をキラキラさせながらキセキのマントをつまんでいた。 「こら離せー! あとこれはコスプレではないっ! 僕は立派な王だー!」 「……説明してんだから話聞きなさいよアンタはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「――とにかく、ガーディアンってのは生徒会なのよ。それに入るためにはしゅごキャラの宿主である事が条件。分かった?」 「はーい。……なにもげんこつしなくてもいいのに」 「何か言ったかしら。おかしいわねぇ。私は先輩として色々教えてあげてるだけなのに感謝の念が」 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 聞いてます聞いてますっ! というか感謝してますっ!」 とりあえず、ティアナを敵に回すのはやめようと思った。あのね、躊躇い無くりっかにげんこつ打ち込んだから。 本当にあむと同じように暴力的になっているなと思って悲しくなってしまう。 あぁ、純粋な二人はどこに消えたんだろう。ツンデレなのにボコデレになってるし。 「……あ、この気配っ!」 「お前達も感じたかっ!」 時の流れの寂しさを痛感していると、ランとキセキがいきなり真剣な顔で周囲を見渡し始めた。 ……それだけで何があったか分かってしまうのは、これまでの積み重ねのためだと思う。 「×たま?」 「正解です、お兄様。この気配は……教室の中?」 「うし、なら僕とあむとで行く。あむ」 「分かった」 りっかの事は教育係なティアナ・ランスターに任せて、僕達はラン達の案内で×たまの出現ポイントへ向かう。 ……あんな事があっても、やっぱり自分の可能性を諦めちゃう人は後を絶たない。 しょうがない事とは言っても、寂しいものはある。だけど、だからって放っておくのも絶対に違うんだ。 てゆうか、放っておけるわけがない。だってそれが悲しい事なんだって、僕はもう知っちゃったんだから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ みんなの案内で入った場所は、なんと美術室。その中は色とりどりの絵の具らしきもので落書きされまくっていた。 それに驚きつつも僕達は部屋の中央に浮かぶ×たまに視線を向ける。数は一つ。 『ムリームリムリムリー!』 ×たまは声をあげながら自分の近くに絵筆を出して、それを右薙に古いながらも僕達に向かって叩きつけてくる。 僕は咄嗟に近くにあったキャンバスを盾にしてその攻撃……ううん、その一筆をかわした。 あむも慌ててしゃがんだのかなんとか回避している。ただしその背後の教壇にはしっかりと絵の具の色が刻まれた。 とにもかくにも素早く対処。しばらく大量の×たま相手にしたりしてたけど、油断せずに……しっかりとだ。 「あたしのこころ、アン」 『解錠』 「ロックッ!」 あむは両手を胸元で構えて、素早く指を動かしてこころの鍵を開ける。 そうしてあむの身体が青色の光に包まれた。僕も続くように声をあげる。 「……変身っ!」 ≪Riese FormU≫ 僕の方も蒼色の光に包まれて、その中でリーゼフォームに変身。ただしそれまでのリーゼフォームとは差異がある。 まず両足が金属製ではなく黒い皮のブーツになっている事。そして上半身の蒼のジャケットに黒いラインが入った事。 変化と言えばこれくらいだけど、それでも一応はバージョンアップ状態の変身を終えて、光が弾ける。 それは隣に居るあむも同様で、そんな僕達を見て×たまは驚いたかのように後ずさりした。 【「キャラなりっ! アミュレットスペードッ!」】 あむは名乗りをあげながらも、素早く両手で虹色の絵の具付きの巨大絵筆を取り出す。 「最初に言っておくっ!」 左手で×たまを指差し、マントをなびかせながらも声をあげる。 「僕はかーなーり……強いっ!」 ≪何気に初登場のパワーアップ形態です≫ ≪というか、リーゼフォーム自体がおひさなのー≫ さて、なぞたま編最終話でリーゼフォームのバージョンアップの話をしたと思う。みんな覚えてるよね? 光編ではずっとリインとユニゾンしてたりキャラなりしたりで出番がなかったけど、これ自体は完成してたの。 今までと違って今僕が身につけているものは全て物理的な装甲――衣服になってる。 ただしこれはヘイから借りたブーツやコートを物質変換でコピーして作ったもの。その特性も変わっていない。 そのためにバリアジャケットと言いながらも、魔力消費は今までよりずっと下となっている。 単純に魔力で衣服を作る分消費が下がったと思ってもらえればいいかも。魔力効果はフィールド制御でも得られるしね。 そのために今までと性能が変わる事なく決定的な物理防御能力を手に入れたのがこのリーゼフォームU。 さて、早速だけどとっとと浄化……いや、その前に×たまが教室の中の椅子三席や石膏像を浮かべる。 なぜそうだと分かるかは簡単。浮いた椅子や石膏像が見慣れた風と同じ色の光で包まれちゃってるからだよ。 『ムリムリムリー!』 ×たまは椅子と石膏像を僕達に向かって射出する。それを見てあむは筆を右に大きく振りかぶった。 「カラフル」 そのまま一歩踏み出しつつ、筆を左薙に振るった。 「キャンパスッ!」 その軌跡から放たれた虹色の絵の具が僕達の前面に広がり、こちらに迫っていた椅子達をせき止める。 絵の具の波に飲み込まれて動きを止めた椅子達を包んでいた光が消えて、それらは次々と床に落ちていく。 その波は×たまをも飲み込み、×たまは苦しげな声をあげながら教室の奥の方まで飛ばされた。 「ねぇ、なんでこんな事するのっ!? みんなが使う教室をめちゃくちゃにしちゃダメじゃんっ!」 『ムリー! ムリムリムリー!』 とりあえず怒ってる様子っぽいのは分かった。なのでそこもツツく事にする。 「何をそんなに怒って……美術関係に恨み辛みがあるとか」 『ムリー!』 「どうやら正解っぽいですね。あの怒り具合を見るに」 「……その子、みんなから絵がヘタだって言われるって言ってます」 その声に僕達は驚きながら左側――教室の前の方の入口を見る。そこには悲しげな顔をしたりっかが居た。 「りっかっ! あの……これはその」 「おのれ何やってんのっ!? てゆうかティアナ達どうしたっ!」 『ムリムリムリー!』 「絵が好きだけど描いてもそう言われて、もう絵なんて描かない。美術なんて嫌いだーって」 それで僕達無視か……いや、ちょっと待ってっ! この子、×たまの言葉が分かってるっ!? 僕達だってあの、宿主のそういう心の声みたいなのが出ないとさっぱりなのに……なんでっ! ≪だから、美術室をめちゃくちゃにしたの?≫ 改めて美術室を見渡すと、絵の具による決して上手いとは言えない大きな落書きの類もある。 これがこの子の絵……あぁ、そうだよ。×たまでもたまごはたまご。ちゃんと宿主の特性が現れてるんだ。 ≪そうですか。なら……あなた、ハッキリ言い切ってください≫ 「うん。……お前、バカでしょ。そんな八つ当たりされてもこっちはいい迷惑なんだよ」 「ムリっ!」 その子はあむが持っているのと同サイズの絵筆を自分の右隣に召喚。それを僕に向かって突き出してくる。 僕はそれに向かって踏み込みつつ、魔力なしでアルトを抜き打ちで逆風に打ち込む。 魔剣Xによる蒼色の鋭い閃光は筆に付着した青い絵の具も、絵筆自体も真っ二つに斬り裂いた。 絵筆だったものは僕の両サイドを通り過ぎ、鈍い音を立てて黒板の下の壁に突き刺さる。 『ムリっ!?』 刃を下ろしつつ、×たまを改めて見る。 「お前は一体、どんな絵が描きたいのよっ! 人から上手いって言われる絵が描きたいわけっ!?」 『ムリっ!?』 「世界の巨匠を――ゴッホなんかを見てみろっ! 独創的過ぎて生きてる間には評価されなかったくらいだっ! いいじゃないのさっ! これがお前の描きたい絵なら、人が何言ったって気にしなきゃいいっ! でももし気にするなら」 左手を上げ、鋭く×たまを指差した。 「それはお前が……お前が一番自分の絵をヘタだと思ってるからだろっ! そのくせに人の言葉を理由にしてんじゃねぇよっ! そんな権利お前にはないっ!」 『ムリっ!』 動揺するようにまた震え出した×たまを見て僕は表情を緩めて、腕を下げる。 「……どうしても今の自分の絵が嫌なら、ちょっとずつ上手くなってけばいいよ」 優しく声をかけると、俯くように×のある面を下に下げていた×たまがまたこちらを見る。 「人よりスピードが遅くたっていいじゃないのさ。絵が好きなら、何かを描いて作る事が好きなら、続ければいい。 どんな絵だって……ここに描かれてる絵だって、全部にお前の今が詰まってる。本当にダメなものなんて、一つだってない」 『……ムリ』 僕は優しく微笑みながら、アルトに魔力を込める。そうして全てを斬り裂く鉄輝を打ち上げた。 ただ壊すためじゃない。その中にある優しいキラキラを守るためにマントをなびかせながら踏み込む。 「鉄輝」 両手でアルトの柄を持ち、×たまに向かって鋭く袈裟にアルトを叩き込んだ。 「一閃っ!」 蒼い鉄輝は×たまを斬り裂き、両断する。そうして×たまが黒い粒子になって分裂した。 僕は×たまと交差しながらも改めて教室の床に着地。素早く背後へ振り返る。 黒かった粒子は一気に色を白に変えて集まり、×たまが居た場所には白いこころのたまごが現れていた。 そうしてこころのたまごはその場で踊るように飛び回り、窓に向かって直進。空いていた窓から空へと飛び去っていった。 その様子に安心しつつ、アルトを逆袈裟に振ってからゆっくりと鞘に納める。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 美術室の惨状はあむのリメイクハニーで戻した上で、僕達はりっかを教室まで送る事にした。 てゆうかティアナに連絡取ったらまたキレてたなぁ。話聞かないで飛び出したーって言ってさ。 とは言えもう説明しないわけにはいかないので、僕とあむでさっきのアレについて解説。 ×たまっていうのがあるという事と、ガーディアンの裏の仕事はキャラなりの能力を使って×たまを助ける事だってね。 「――だから、もしりっかが×たまを見かけたらあたし達に教えて欲しいの。 さっきみたいに暴れて人に迷惑をかけちゃう事もあるから。お願い出来るかな」 「分かりました」 納得してくれた様子に一安心。でも……あむって何気に年下に対しての面倒見がいいんだよなぁ。 妹が居るからだと思うけど、りっかの扱いも余裕っぽいし普段とは違う優しい顔してる。 「でもあむ先輩」 「何かな」 「×たまって、さっきの子って……ちゃんと宿主のところに戻るんですか?」 どこか真剣な色を含んだ声に、僕とあむは自然と足を止めていた。 「というか、戻らなかったらその宿主の子って」 「……夢をそのままずっと諦めちゃうか、新しくリメイクされたたまごが生まれるかのどっちかだね」 あむが僕の方を困った顔で見たので、頷いた。 「じゃあじゃあ、さっきの子の宿主に新しいたまごが生まれたら、あの子いらない子になっちゃうんじゃ」 「それはないんじゃないかな」 不思議と言い切れた僕の方を見て、不安げだったりっかが驚いた顔をした。僕は苦笑しつつ、ショウタロスの方を見る。 「僕ね、うんと小さな頃の記憶が最近までなかったんだ」 「え?」 「その時、忘れちゃってた時間の中でショウタロスが生まれてたんだ。 けど僕がその時の事忘れちゃってたから、最近まで居なかった」 そこまで言って、何かが引っかかった。だからついマジマジとショウタロスを見てしまう。 「恭文先輩、どうしたんですか」 「あ、ごめん」 まぁここはいい。あとでフェイトに相談しようっと。 「とにかくね、僕もその無くなってた記憶の事思い出したら……その時描いた『なりたい自分』を思い出したら、ショウタロスと会えた。 でもショウタロスはちゃんとここに居る。いらない子じゃないし、僕の『なりたい自分』は三つに増えた。そういう事じゃないかな」 「『なりたい自分』って、一つじゃなくていいって事ですか?」 「そういう事だと思う。てゆうか、一つじゃなきゃいけないなら僕やあむはありえないでしょ」 少しおどけてそう言うと、りっかはおかしそうに笑い出した。 「そうですよね。なら……大丈夫ですよね」 「うん、きっと大丈夫だよ。そういう可能性を自分で否定しない限りは、絶対に」 この後ロイヤルガーデンに戻ると、ロイヤルガーデン内はIMCSの試合映像で盛り上がっていた。 コイツら……僕とあむが頑張ってる間にこれかい。図太いというか信頼されているというか。 それでコロナに関しては、まぁまぁ頑張った方だとだけ言っておこう。年齢の問題もあるからこれからじっくりだよ。 でもコロナ、やっぱり可愛いよねー。僕だけじゃなくてあのティアナでさえ微笑ましく見てたしさ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 転校初日は本当にワクワクドキドキ……あー、でもあむ先輩と恭文先輩カッコ良かったなぁ。 とにかくとにかく、楽しい事がいっぱいあって聖夜小の事が大好きになった。あたしはあれから授業が終わって家に帰った。 それでパパとママに夕飯の時にしゅごキャラの事とか内緒にした上で、ガーディアンの人達の事話したんだ。 パパとママは笑いながらお話聞いてくれて、嬉しかったなぁ。それでごちそうさまをしたらすぐにお風呂。 お風呂から上がったら、パジャマ姿でベッドにだーいぶ。それから仰向けに寝転がって天井を見上げる。 「ガーディアンかぁ。うー、やっぱり入りたいなぁ。それでそれで、先輩達みたいに……うー!」 『ムリー』 「もう、ムリじゃないよー。……あー、そう言えばあと一つあった」 上半身だけ身体を起こして、部屋の中で浮いてる30近く居るうちの子達を見上げてニコニコしちゃう。 「アンタ達、×たまって言うんだね」 『ムリー』 あたしはどういうわけかこの子達の言葉が分かる。それは珍しい……っぽい。 先輩達やしゅごキャラのみんなも、そういうのなんとなくしか分からないって言ってたんだ。 でもだからなのかな。前の街に居る頃からこの子達はあたしに懐いてるの。 それで今日の子みたいに暴れたりなんて絶対にないし、あたしの言う事聞いてくれる。 でもあたしはこころのたまごの事やこの子達に宿主が居る事もさっぱりだったから、謎の生物かと思ってたんだ。 パパやママには見えてないみたいだし、一人連れてきたら自然と今のような状態になった。 あむ先輩達は浄化しないとダメっぽい事言ってたし……でも、この子達悪い子じゃないよね? ……アレ、ちょっと待って。もしかしてだけど、この子達がうちに居る事がバレるとマズいんじゃ。 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! そうだよそうだよっ! それだとあたしガーディアンになれないんじゃっ!」 『ムリムリー』 『ムーリー』 「うー、ムリじゃないもんっ! アンタ達と仲良しだってガーディアンにはなれるんだからー!」 そうだそうだ、それで絶対あのケープを着て……あむ先輩達みたいになるんだからっ! よーし、頑張るぞー! まずは明日からガーディアンのみんなと仲良くなってチャンスをゲットだー! (第127話へ続く) あとがき 恭文「……さて、今回から半分実写で物議をかもち出したしゅごキャラパーティー編に突入です。 新キャラのりっかを軸に……って、アイツ何やってるっ!? ×たま家で飼うってなにっ!」 フェイト「ヤスフミ落ち着いてー! 私もワケが分からないからー! えっと、本日のお相手はフェイト・T・蒼凪と」 恭文「蒼凪恭文です。さてさて、何気に密度の濃いお話でしたけどみなさんどうだったでしょうか」 (色んな話が出たしねー) フェイト「りっかちゃんの言葉で、改めてこころのたまごの事を考えたりもしたしね。 それでそんなりっかちゃんも……×たまの言葉を明確に分かるキャラなんだよね」 恭文「何気に今まではそういうキャラ出てなかったんだよね。ほら、僕達がそういうの分かる時は必ず」 (もう、無理だ。夢なんて絶対叶わない。そんなの嘘だ。誰もそんな事望んでない) 恭文「……って感じで、宿主の心の声みたいなのが出たりする時だけだったから。とにかく『ムリ』だけだと言ってる事はさっぱり」 フェイト「そんな能力があるために、×たまを家に……これ、かなり問題じゃない?」 恭文「いや、それよりも驚きな事がある。×たまって、ちゃんと会話出来るとペットに出来るんだね。僕、衝撃かも」 フェイト「この子が居たら巨大×キャラの能力防げるんじゃないかな。アレはまた特殊だけど」 恭文「出来るかも知れないね。つまりとまと史上最大のチートは……りっかなんだよ」 (今明かされる衝撃の事実。こうしてとまとはインフレ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!) 恭文「あ、それとIMCSの出場のための年齢制限が一つ上がっているのは、誤字ではなくわざとだそうです」 フェイト「ここは来年ヤスフミが出場出来るようにかな」 恭文「うんうんそうだよねー。やっぱりそうでないと」 (いや、大会中に21歳になるとアウトだというオチにも持っていけるように。正確には『今年何歳』かという点で) 恭文「作者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! お前は鬼かっ!」 フェイト「ヤスフミ落ち着いてー! というかごめんねっ!? 私達がヤスフミの事振り回しちゃったから……ごめんねっ!」 (というわけで、ここからはVivid編に向けて向こうの設定なんかも組み込んだ話を作っていきます。ここは同人版も同じく。 ……え、後付け設定やめろ? あはははは、それは原作に言って欲しい。魔女とか出てきてびっくりだし。こうしないとVivid編話作れないし) 恭文「……そうなんだよね。ほら、やっぱり立場的に僕もフェイトの解説役とかに回る事が多くなると思うのよ」 フェイト「まぁ舞台はミッドだから私達よりノーヴェやなのはの出番の方が多いだろうけど、そこは同じ。 てゆうかこういうのちゃんと知ってないとその、色々勉強不足とかそういうの出ちゃうでしょ?」 恭文「逆に知らない方がバランスは取れるかも知れないけどね。局の仕事のアレコレだけ見てるせいーとかさ。 それでノーヴェ辺りが魔女とかDSAAのルールとかも詳しく解説するんだよ。専門家みたいな感じでさ」 (Vivid編では過去のあれこれを考えるとパワーバランスが崩壊し気味なので、そこの辺りの設定をかなり考える必要があったり) フェイト「え、崩壊し気味なの?」 恭文「うん。だってほら、ノーヴェ倒したアインハルトが地区本選出場も難しいとかって言われてたし」 フェイト「あ、そっか。それだとあの……世界大会に出てる上位出場者はどうなるのかって話になるよね」 (なので基本的にIMCSの上位入賞者は『スポーツとしての魔法戦技のエキスパート』という形にしてきたいと思っています。 競技で定められたルールの中だと、実力が普通の戦闘より上がるのが理想。 逆にそれに慣れてないなのは達は、ルールを活用して戦っていくメンバーには遅れを取るイメージです) 恭文「だからIMCSやDSAAの定めるスポーツとしての魔法戦技のルールもある程度作らないとだめなんだよ。 ……え、原作参考? あはははは、参考に出来る設定出てないじゃないですか。ただ攻撃を受けたりするとLPが減るってだけで」 フェイト「そこの辺りの基準がちょっと曖昧だから、漫画の描写を見つつルール構築って事なんだね。 それでLPの増減基準とか、そういうのもしっかり定めてスポーツしていく」 恭文「とりあえず僕やフェイトが仮にこの大会に出ても、あっさり無双出来るようなバランスにはしない……んだよね?」 (もちもち。これでスポーツ戦技と実際の戦闘を同じラインにしちゃうと、上位出場者は本当に化け物揃いになるから) 恭文「まぁそんな感じでVivid編のバランスも決まったところで、次回から第3クールです」 フェイト「新キャラなりっかちゃんを中心にのんびりとした日常……になるといいよね」 恭文「いいよねぇ。それでは本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」 フェイト「フェイト・T・蒼凪でした。それではみなさん、また次回に」 (同人版でもこの話やって、DSAAの公式戦ルールで模擬戦もありだよなぁ。ルールは改定されたとかでいくらでも変更可能だし。 本日のED:ガーディアンズ4『PARTY TIME』) りっか「いやー、ようやくあたしが登場だよー。本当にお待たせしましたー」 恭文「ちょこちょこ拍手では出てたんだけどね。あとはとまかのや崩壊ルートとかさ」 りっか「はいはーい。というわけで、次回からはあたしが主役でーす」 あむ「はぁっ!? いやいや、ちょっと待ってっ! これまだあたしと恭文が主役の話なんだけどっ!」 恭文「一応話の軸はりっか中心にはなるよ? 主役っていう程じゃあないけど」 あむ「そうなのっ!?」 恭文「そうなのよ。でもりっか、おのれに主役は渡さない。てゆうか、主役欲しかったらあむとヴィヴィオに許可をもらおうか」 りっか「あむ先輩とヴィヴィオちゃんにですか?」 恭文「そうだよ。僕はドキたま以降の時間軸は主役を二人に明け渡すつもりだし。 だから本気で主役取りたいなら二人がりっかにそうしてもいいって思えるくらいに成長しないと」 りっか「なるほどー。分かりましたっ! あたし頑張りますっ!」 あむ「ちょっとちょっと、アンタなに逃げてくれてるわけっ!? あたし達に押しつけられても困るんですけどっ!」 恭文「ならあむ、おのれは僕がどこぞの横馬みたいに出しゃばりまくった方がいいと?」 あむ「……納得しました。それはダメだね」 恭文「でしょ?」 (おしまい) [*前へ] [戻る] |