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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース15 『ティアナ・ランスターとの場合 その9』



・・・・・・前回のラストで、中等部がそんな大変な事になったその日の放課後。





いつものようにロイヤルガーデンで会議です。いや、小学生生活もだいぶ慣れたね。・・・・・・色々複雑ではあるけど。










「なんだか、学校中大騒ぎだな」

「てーかよ、騒ぎ過ぎじゃないか? なんでここまでなんだよ」



なんかニヤニヤ顔で僕を見るのは、ガーディアン・J(ジャックス)チェアの相馬空海とそのしゅごキャラのダイチ。



「やや達のクラスでももう女子達がすごいよー? 恭文、なんだかんだで人気あるから」

「それに、ティアナさんの人気もでちね。転校してきたミステリアスな美少女が実は彼氏持ちとかだと、やっぱりこうなるでちよ」



そして、同じような顔をしているのはA(エース)チェアの結木ややと、しゅごキャラのぺぺ。

なお、空海は一学年上の6年生。もうすぐ卒業な方。そして、ややが4年でリインと同じクラス。



「つまり、二人の人気の相乗効果でこうなってるということだね。・・・・・・蒼凪君、僕は応援してるよ。がんばってね」

「そうだな、家臣の幸せを願うのも王の務め。色々大変ではあると思うが、頑張れ」

「・・・・・・唯世、キセキ、とりあえずあれだ。黙ろうか。応援の前に、みんなの視線をなんとかしたいんだけど」



で、そんな天然な応援を全力全開でやっているのは、二代目フェイトと巷で噂なK(キングスチェア)の辺里唯世。そして、しゅごキャラのキセキ。

唯世は、僕がガーディアンという組織に長居したいと思う理由の一つ。この小さな王様の頑張りと采配を見るのが、最近の楽しみだったりする。ちなみに、僕と同じ身長で同級生。



「それは無理だと思うよ。というより、諦めた方がいいかもしれないね」

「そうだね、恭文じゃ無理だよ」

「ランにミキっ! それはどういう意味っ!?」

「まぁまぁ、恭文さん落ち着いてくださいですぅ。間違いではありませんからぁ」

「スゥもかいっ! つーか、何気に毒を吐くなっ!!」



などと傍観者な姿勢を崩さないのは、キャンディーズラン・ミキ・スゥという三人のしゅごキャラ。なお、スゥとは最近すっごく仲良しになった。



「てゆうかさ、別にそこはいいのよ。もう広まっちゃったもんをどうこうしようってのは無駄だって分かってるし」

「恭文、そうなの?」

「そうだよ。そこは大人しく75日待つ事にする」



僕に話しかけてきたのは、ジョーカーという特殊職に付いている日奈森あむ。

ランとミキとスゥの宿主で、からかうと面白い子なので、僕は好き。



「僕はともかくティアの方が心配なんだよ。うー、何もなければいいんだけど」

≪・・・・・・あぁ、そういうことですか。ティアさんの学生生活がこれがキッカケでトラブル三昧とかになるかどうか考えてたんですね≫

「そうだよ」





まぁ、典型的な例として・・・・・・いじめとか、ストーカーとか、そういうのがある。ティアは強いし、しっかりはしてるけど、それでも心配。

・・・・・・その、付き合い始めた当初は色々あって、助けてもらったし、今も多分負担や心配をかけてるところが無いとは言えないし、気にはなる。

くそ、普通に視線は悪意も無い感じだからって放置していたのはミスだった。大失敗もいいところだよ。



とりあえず、紅茶を一口。そして、今日僕が焼いてきたクッキーを食べる。・・・・・・美味しさが半減してるように感じるのは、なんでだろ。





「でも恭文さん、トラブルじゃなくて『To LOVEる』なら問題ないんじゃ」



同じく、紅茶とお菓子を堪能していたリインの言葉に、僕は机に突っ伏す。



≪そうですよ。もう少年誌じゃなくて青年誌な関係なんですし、大丈夫ですって≫

「そんな駄洒落かまされて僕にどう言えとっ!? そして、それはそれで問題でしょうがっ! つーか、こんなとこで僕達の関係性をさりげなくバラすなっ!!
・・・・・・とにかく、学級新聞作った連中は後でシメないと」



八つ当たりとは言うこと無かれ。人のプライベートを暴露するような連中には地獄を見てもらわなければいけないのだ。それは世界の摂理なのだ。



「でもよ、恭文。ティアナさんが認めちまってる以上、どうしようもないだろ」



・・・・・・う。

空海の言葉に、クッキーをかじりながら固まってしまった。そして、頭が冷めていく。だって、正論だもん。



「空海の言うとおりだよ。ここで恭文がバタバタしちゃったら、ティアナさんかえって傷つくんじゃないかな」



・・・・・・・・・・・・う。



「自分とのこと、認めてくれていないーってさ。女心は繊細なもの。普通に考えて男がじたばたするのはダメだよ」



そんなミキの言葉が、僕にとってはとどめになった。



「・・・・・・つまり、僕も認めろと?」

「そうだよ。第一、付き合ってるのは間違いじゃないでしょ? あんなにラブラブなんだし」

「それはまぁ・・・・・・。ただ、ラブラブはしてない。普通の距離感だ」



うん、いたって普通の距離感だよ。特にそんな『あまあま』とかじゃないしさ。



「いや、ラブラブだよ。ボクから見てるとラブラブだよ。第一、ラブラブじゃなかったら同じようなデバイスのモード使ったりしないじゃない」





・・・・・・うーん、そこを言われると、何か・・・・・・あぁもういい。

有ったら有ったで、ちゃんと守ればいいだけだ。しばらく、ティアの周辺には気を使っておこうっと。

ティア、もうすぐ執務官試験だし、勉強しまくってるし、それの妨げにならないようにしないと。



・・・・・・そっか、もうすぐなんだよね。





「恭文?」



少し考え込んでしまった。隣に座るあむが、不思議そうな顔で僕を見る。

それに、首を横に振り、ニッコリと笑って答えた。安心させるように、優しく。



「ううん、なんでもない。・・・・・・んじゃ、認めていくことにしますか。ジタバタせずに、どっしりとさ」

「うん。きっとティアナさん、喜ぶと思うな」

「そういうもの?」

「そういうものだよ」










あむ曰く、そういうものらしい。表情がなんか楽しそうだから。





でも・・・・・・どうして?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ね、ティア」

「なに?」





夜、ティアの部屋で勉強の手伝い。それをしながら、僕は言葉を続ける。なお、僕が法務関係の問題を出して、ティアが答えるというもの。

こういう質疑応答形式なのには、理由がある。フェイト曰く、試験でも完璧な正解と言うのがないので、こういう形式だそうだ(実際にはテキストに書き込む形式)。

法律は、制度こそきっちり決まっているものの、捉え方によって意味や解釈、そして裁判官などの印象も180度変わる事がある。



つまり、その辺りの応用力を見る問題ということになる。なので、場合によってはここからすっごいディスカッションに発展する事もある。

一回、ティアと一緒にフェイトにこれでいいのかと聞いた事がある。あんまりにもディスカッションし過ぎて勉強が進まなくなった時があったから。

ただ、フェイト曰くこれでいいらしい。実際に人とあれこれ討議すると頭ではなく肌で学習して行くのは、一番いい勉強法とか。やり過ぎるのはダメだけど、適度になら問題はない。



これを聞いて、内心安心した。ティアの勉強の手伝いじゃなくて、邪魔をしていたのかとちょっとびくびくしてたから。





「学校、大丈夫?」

「なんとかね。まぁ、陽子や淳からはずいぶん冷やかされたけど。・・・・・・でも、事実なんだから」

「そうだね。というか、二人とは相変わらず仲良し?」

「うん。・・・・・・あ、それと聞いたわよ」



なんだろう、ティアがすっごいニヤニヤした顔になる。部屋の真ん中の丸いテーブルの上に肘をつきながら僕を見る。



「陽子の弟、助けたんだって?」

「・・・・・・あぁ、うん。この間の帰り道に性質の悪いのに絡まれてたからさ」

「陽子がね、感謝してた。というか、アンタの事べた褒めだった。なんというか、妬けちゃうくらいに」

「あら、そうなの」



とりあえず、参考書を捲る。・・・・・・大丈夫、かな。

学校の事もそうだし、ヤキモチも。



「大丈夫よ。てか、アンタの方こそどうなのよ」

「僕はまぁ・・・・・・ほら、ガーディアン見習いですから」



若干敵意の篭った視線を受けただけで。なお、視線には同じような視線で返して潰した。



「そっか」



とにかく、そこから数時間。質疑応答しつつ、勉強は進む。進んで・・・・・・しばらく経つ。

ふと、ティアが呟いた。



「あのさ」

「うん?」

「アンタは・・・・・・やっぱ、イースターやらエンブリオの事が解決するまでは、ここに居るつもりよね」

「そう、だね」





地球の大企業・イースター社が、エンブリオと呼ばれる願いを叶える魔法のたまごを狙っている。どこにあるかも、どんな形をしているかも正体不明な魔法のたまごを、ガーディアンも探していて、そのためにイースター社と対決することになった。

そして、エンブリオというアイテムを『願いを叶える』という特性上、下手をすれば秘匿級のロストロギアになりえる代物と判断したフェイトは上司であるクロノさんと相談の上で、ここでガーディアンのみんなと協力して、エンブリオ捜索に当たる事にした。

でも、それだけじゃない。イースターはエンブリオを探すために、子ども達のこころの中から、たまごを奪ってる。その結果、人のたまごに、勝手に×をつけて、エンブリオで無ければすぐさま壊せと命令してもいるらしい(先日色々あったけど、改めて担任になった二階堂談)。



・・・・・・ホントはそろそろまた旅に出ようかとも思ってた。また旅に出て、その中でなりたい自分を考えていこうかなとか考えてたんだけど、そうも行かなくなった。

イースターのやろうとしてること、放置ってのも違うしね。フェイトもクロノさんも、イースターにだけはエンブリオを渡すのは危険だと考えてる。僕もそれは同じ。

人の夢に、『なりたい自分』に勝手に×を付けて、用がないからとこれまた勝手にぶち壊すような連中に、そんなもんは渡せない。



いや・・・・・・違うか。人どうこうなんて関係無いや。連中は、誰でもない僕に喧嘩を売った。エンブリオどうこうは関係なく、僕のために、イースターは叩き潰す。

・・・・・・僕にもある。まだかえらないけど、大事な夢が、なりたい自分が詰まったたまごが二つ。

色々と巡り合わせってあるのかなと、少し考えてしまった。ちょうどたまごがそのままの状態で、色々考えてた時期だったから。





「じゃあ・・・・・・離れ離れになるかも知れないわね」

「そうだね」





ティアが試験に受かったら、晴れて執務官になったら、多分そうなる。



ここに居るってことは、フェイトの補佐官は継続って言うのと同じだから。





「あ、待てよ。捜査協力って形で配置してもらえれば大丈夫かな」

「・・・・・・許されればだけどね。ティアは局員だし、簡単にはいかないよ」





手元の参考書を捲りながら、考える。・・・・・・ティアが執務官になったら、どうしようかな。

離れるのは、やっぱり寂しい。だって、執務官って忙しいから、離れちゃったら二人の時間って取れないだろうし。

現に、フェイトはそれだった。失恋してから、それが更に加速した感じだったから・・・・・・辛かったな。



通信やメールのペースも以前より少なくなって、告白の後だったから距離を取られてるように感じて・・・・・・。まぁ、全然そんなことなかったんだけど。





「私はね」

「うん」

「事件どうこうは関係なく、アンタはしばらくここに居た方がいいなって、思うの。ううん、ここに居て欲しいな」



机の向こうから真っ直ぐに僕を見ながら、ティアがそう言ってきた。どこか寂しげで、だけど真剣な目を向けている。

・・・・・・どうして、そう思うのかな。あ、ま・・・・・・まさか、とうとう愛想尽かされたとか。



「あの、離れるのが寂しくないとか、そういうのじゃないの。愛想尽かしたわけでもなんでもない。ここに居たら、アンタのたまごが早くかえるんじゃないかって、思うんだ」

「そうかな」

「そうよ。現に、以前よりたまごがゴトゴト言うの、多くなってるでしょ?」



・・・・・・うん、多くなってる。以前より頻繁にゴトゴト言う様になってる。それは、嬉しいかな。



「ここには、その子達の仲間が沢山居る。だからきっと、その子達もラン達と早く会いたいとか考えてるんじゃないかな」



ティアはテーブルの上に、バスケットの中に入れているあの子達を見る。それを見てると、気持ちが少し上向きになる。というか、ティアの右手が僕の頭に乗る。



「大丈夫よ」



頭をそのまま撫でてくれる。その感触が、とても嬉しい。

ティアの手の温もり、好き。とても幸せで、温かい気持ちになる。



「諦めなくていいから。・・・・・・たまごが産まれて、初めて触れた時の気持ち、忘れたわけでもなんでもないわよね」

「・・・・・・うん」



忘れられるわけがない。あの温かさ、ゴトゴト動いた時の驚き、オーナーから話を聞いた時に感じた嬉しさ。忘れられるわけがない。

今でも胸の中にある気持ち。それがあるから、前を向いていられる。あの辛い時間の中でようやく見つけた大切なものの一つ。



「まぁ、あれよ。いい機会だし、小学生やりつつ考えましょうよ。『なりたい自分』についてさ。というか・・・・・・私も考えてる」

「ティアも?」

「うん。ずっと考えてる。恭文と付き合うようになってから、ずーっと。なんて言うか・・・・・・あれよ。
執務官になるというのももちろんあるけど、それ以外でもあるのよ? 私の・・・・・・私だけの夢」

「・・・・・・そっか」










とにもかくにも、勉強を続ける。ティアの先の目標の一つは、やりたいことの一つは決まってる。それに近づくお手伝いを、多少でもしていく。





・・・・・・どうしようかな。この一件が全部片付いて、それから。






まぁ、いいや。ちょっとずつ考えていこうっと。・・・・・・やっぱり私立探偵かな。『さぁ、お前の罪を数えろ』みたいなさ。










「ね、その夢ってなに?」

「・・・・・・内緒」




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先のこと


ケース15 『ティアナ・ランスターとの場合 その9』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・私のもう一つの夢は、目の前の男の子とずっと一緒に居る事。

生まれて初めて、本気で好きになったこの子とずっと一緒に居られたらと、最近よく考える。

フェイトさんもなんか最近アグレッシブになりかけてるし・・・・・・うん、なりかけてる。一応恋愛同盟みたいなの組んでるから、見てるだけで分かる。





多分、いつぞやの私と同じ。・・・・・・告白しようかどうか、真剣に考え始めてる。フェイトさんはもう、恭文の『お姉さん』じゃ居られなくなってる。

一応、結んだ同盟規約に『全ての選択権は蒼凪恭文にあるので、互いのアプローチの邪魔は絶対にしない』というのがあるから、私は何も言わない。

別に取られるのが嫌とかじゃない。というか、絶対嫌。だけど、だからって私に縛り付けるのもちょっと違うかなとか考えたりする。





・・・・・・うん、やっぱり色々と考える。そして思う。それは違うと。私は恭文を縛り付けたくなんてない。もし、もしもフェイトさんに惹かれる気持ちがどうしてもあるなら、それに嘘をついて欲しくない。そうなったら・・・・・・別れる。

辛くないわけがない。そんなの、絶対に嫌だ。でも私は、それに嘘をついてまで、側に居て欲しくなんてない。・・・・・・あ、でも待てよ。もしもそれで『アイツ×私+リインさん+フェイトさん』の図式がいいとか言い出したらどうしよう。

ようするに、アイツが私もリインさんもフェイトさんも好きとか言い出したら・・・・・・いや、それはちょっとなぁ。どうせならちゃんと答えは出して欲しい。大丈夫とは思うけど、四人体制もアリかも知れないけど、さすがにそれは・・・・・・。





とにかく、最近別れになるかもしれないと考えて、よく考える。さっき言った事と矛盾するようだけど、恭文を独り占めに出来たらいいなとか、かなり。

でも、今執務官になったら・・・・・・それは叶わなくなるのよね。コイツのことだから、局の判断がどうであれ、絶対に最後まで関わろうとするに決まってる。

どうしよう。そこを狙ってフェイトさんが告白して、やけぼっくいに火が点いたら・・・・・・。いや、むしろありえる。距離ってやっぱり大きいし。





よし、勉強も頑張らないといけないけど、コミュニケーションも頑張ろう。というか、勉強しつつ一緒の時間を過ごして、繋がりをもっと強くしよう。

・・・・・・やっぱり、好きだから。あのさ、私も・・・・・・変わってないよ。色々あったけど、自分の気持ちに気づいたあの日から、ずっと変わってない。

アンタとの時間が大事で、大切で、もっと互いに好きに・・・・・・違うな。愛し合っていけたら、すごくいいなって考えてる。





まぁ、口に出すのは・・・・・・本当にいい雰囲気の時だけかな。だって、その・・・・・・恥ずかしいのよ。それもかなり。










「というか・・・・・・雰囲気よくしようかな」

「ティア?」



私は立ち上がって、男の子の隣に座る。

感じるのは、もう心と身体ですっかり覚えてる温もり。やっぱり・・・・・・温かい。



「・・・・・・あの、勉強」

「今日はやめにする」

「はいっ!?」



というか、あの・・・・・・ここ最近色々あって、私はこう溜まってるのよ。

・・・・・・女にだって、性欲というのがあるって、大人になって思い知った。というわけで、右手をまた伸ばして、アイツの頭を優しく撫でる。



「・・・・・・試験、落ちるよ?」

「勉強は欠かしてないわよ。今日もマルチタスクでずっと復習してたし」



これでも魔導師。こういうのは得意。クロスミラージュも協力してくれて、イメージでの戦闘訓練も積んでる。

恭文の事を含めても、やっぱり執務官が私の夢であることは変わらないから。それを叶えるための努力を欠かしたくはない。



「なんだかんだで、もう勉強切り上げる時間よ?」



時刻は夜の0時半。さすがにこれ以上は明日に差し支える。

・・・・・・てゆうかさ、マルチタスクってやっぱ便利よね。普通にご飯食べてる時でも勉強出来るんだから。これで時間取れないなんて言い訳よ。



「これからは大人な時間に切り替えても、問題ないと思うんだけど」



この1年で、ずいぶん身長に差がついた。恭文は変わらないけど、私は結構伸びた。だから、今は座ってても立っていてもアイツを見下ろす感じ。

なんだか、恭文が可愛くなった感じがして、実は内心密かに喜んでる。・・・・・・恭文には絶対に言えないけど。



「んじゃ、あの・・・・・・」



恭文が私を見上げてる。頬を赤く染めて、瞳が潤んでる。これだけ見ると、男の子に見えない。

・・・・・・やばい、なんか嬉しい。私今、求められてる。それがすごく嬉しい。



「明日に差し支えない程度に、頑張る」

「うん。あとさ・・・・・・今日、大丈夫な日なんだけど、どうする? 私は、ちゃんとしなくてもいいんだけど」



私がそう言うと、頬の赤みが増す。少し考えるように瞳を泳がせた後、ポツリと返事を返してくれた。



「・・・・・・その、ちゃんとする」



少し困ったような顔でそう言うアイツを見て、嬉しさが増してくる。だけど、ちょっと申し訳なくも思う。・・・・・・1年近く、ずっとこうやって気遣ってくれてる。まぁ、ストレートに言うと・・・・・・器具を使って避妊してくれる。


私がそういうのをしなくてもいい日だからって言っても、ちゃんとしてくれる。試験前に万が一にも妊娠したりしたら大変だと言って・・・・・・なんか私、恵まれてるわよね。世の中にはそういうの考えない男も居るってのに。



「・・・・・・ありがと」





だから、そのまま両腕を使って、ギュッと抱きしめる。そうしながら、左の頬に優しく口付けをする。

ありがとうという気持ちと、我慢させてごめんねという気持ちを込めて。

やっぱり、男ってそのままでしたいらしいし。メガーヌさんに試しに聞いたら、つけるのとつけないのとでは、やっぱり色々と違うらしい。



恭文は、そのまま抱き返してくれる。私と同じように・・・・・・ううん、私よりもっと優しく。だけど、力強く。その感覚と温かさで、泣きたくなるくらいに嬉しくなる。





「ううん。・・・・・・というか、ごめん。もう我慢できない」

「・・・・・・うん、しなくていいよ」










そのまま押し倒されて・・・・・・あー、ごめん。これ以上は書けないわ。





とにかく、今は幸せ。とても充実してる。仕事もやり甲斐が有って、勉強や日々の生活も大変だけど中々に楽しい。

だけど、なんというかアレだな。やっぱり・・・・・・離れたくない。ずっと、私を見てて欲しい。今されてるみたいに、何度も優しく愛して欲しい。

離れるのは、嫌。私の『好き』の気持ちで恭文を縛り付けるのも嫌だけど、恭文が私とリインさん以外の女の子を見て、離れるのも、嫌。





今更ながら、痛感してる。あの時のフェイトさんやなのはさん、スバル達の『離れたくない』という感情を。離れるって、やっぱり悲しいし辛い。





趣旨は違うけど、私も・・・・・・同じだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そして、今日は休み。平和な時間は、あっという間に過ぎて行く。





なので、僕とティアは・・・・・・。










「・・・・・・デート、久しぶりだから楽しかったね」





そう、今日はティアと二人の時間。朝から家を出て、水族館へと向かう。あ、訂正。今は帰り。とっても楽しかった。

・・・・・・イースターも動きがないし、とっても静かな凪の時間。僕達は二人で手を繋ぎあい、ゆっくりと歩く。僕は黒のジャンパーに青のロングパンツ。

ティアは春先でまだ寒いので、白のロングスカートに上着を羽織ってる。髪型は、ポニーテール。



・・・・・・そう、結局ポニーテールになった。シグナムさんより結び目は下。頭の中ほどで髪を一つにして、リボンで結んでる。

僕はロングヘアーでもツインテールでも大丈夫と言ったんだけど、どうしても譲れないらしい。

やっぱり、負担をかけてる部分があるのかなと、少し申し訳なくなる。





「そうね。というか、ごめんね。勉強とかであんまりこういうの出来なくて」



『こういうの』とは、いわゆるデートとかの恋人らしい時間。・・・・・・ティアも、気にしてる部分がある。それがここ。

自分の進路の都合やなんかで、僕に負担をかけてると思っているらしい。だから今、歩きながら僕を見る表情が少し暗い。



「大丈夫。行き帰りは一緒にだし、その・・・・・・適度にコミュニケーションは頑張ってるし」



なお、エロな事だけの話ではない。一緒にご飯を食べたり、勉強の手伝いをしたり、そういう時間のこと。

そういう一緒の時間を過ごすだけでも、色々変わってくるのだ。



「でもさ、やっぱり足りないんじゃないかとか考えるのよ。アンタ、エッチだし」

「いきなりなに言い出してるっ!? てゆうか、エッチはティアじゃんっ!!」





ちょっとティアを睨む。とりあえず、僕はその・・・・・・人並みだよ。



でも、ティアは(うったわれるーものー♪)で(俺達うたわれるーものー♪)じゃないのさ。





「なに言ってんの、私は人並みよ。えぇ、人並みよ? メガーヌさんも普通だって言ってくれてるし」

「あの人の言う事間に受けちゃだめだからっ!!」



それで僕がどんだけひどい目に遭ったとっ!? うー、どうして僕はあのお姉さんに頭が上がらないんだろー!!



「てか、最近だとルーテシアにも頭上がらないわよね。アンタ、戦闘以外だとマジでヘタレよね」

「・・・・・・言わないで」

「まぁ、いいんだけどさ。・・・・・・というか、アンタにエッチとか言われたくない」



そうして、ティアが僕の首根っこをつかんだかのような顔で見る。

そのまま、言葉を続ける。ただし、普通の言葉ではなくて、念話に切り替えた上で。



”だって・・・・・・私、アンタに色々教え込まれたし”



その言葉が突き刺さる。というか、『グサ』って擬音が聞こえた。



”うん、この1年で色々教え込まれたなぁ。私がエッチだとしたら、間違いなくアンタのせいよ”



た、確かに・・・・・・そういう側面もないようなあるような。

だ、だけど違う。最初はティアの方が積極的だったんだから。僕だけの責任じゃないし。



”そう言えば・・・・・・最初の時、アンタ何回したっけ?”



う・・・・・・・。



”・・・・・・りょ、両手の指を使って数えていくと、もう片方の手に届くくらいには”

”そうね、もうすごい勢いだった。もちろん乱暴ではなかったけど、男の子ってみんなこんなに出来ちゃうのかなって、ちょっと怖くなったくらい。
翌朝も起きた直後に見たら、普通に戦闘体勢整えてたし。私、アレはマジでビックリしたんだけど”

”え、えっと・・・・・・その”



なんというか・・・・・・その、止まらなかった。

だ、だってあの時のティアすごく可愛くて、綺麗で、抑えられなかったから。



”で、毎回平均すると何回くらいすると思う?”

”え、えっと・・・・・・1回かなぁ”



いや、やっぱり体力の消耗もあるし、明日の事とかもあるからさすがにそこまでたくさんはしないよ。



”まぁそうね。仕事の都合もあるからマチマチだけど・・・・・・平均すると3回よ”



歩きながら、僕は石になる。ティアが若干呆れてるように感じるのは気のせいじゃない。



”てか、1回なわけないでしょ? 最低でも一度で2回はするんだから。で、2回戦目を求めてくるのは大抵アンタ”

”・・・・・・ごめんなさい”



道を歩きながら思う。もしかしなくても、僕は最低なんじゃなかろうか。

いや、最低だ。きっと最低だ。・・・・・・ごめんなさい。



”別に謝らなくていいわよ。その・・・・・・女の子として沢山求めてくれて、私で満足してくれるのはすごく嬉しい。そこは本当よ?”



念話でも、声が弾んでいる。それを聞いて、気持ちが少し浮き上がってきた。



”あと、別に終わった後にすぐ寝ちゃうとか、どっか行くとかでもないし。ちゃんと優しくしてくれるから、そこもすごく嬉しい”





・・・・・・そこはメガーヌさんに教わったから。僕はその・・・・・・ティアが初めてだし、ティア以外の女の子は知らないから、恥を忍んでメガーヌさんによく相談する。

メガーヌさんは、優しく僕の疑問に答えてくれる。なお、実地ではない。当然のように実地ではない。もう一度言うけど、決して実地ではない。

その・・・・・・コミュニケーションが終わった後は、頭を撫でるとか、優しくキスするとか、ギュって抱きしめるとか、『すごく気持ちよかった』と言うとか、そこから少し話すとか、そういうフォローが大事なのだと、最初の頃に教わった。



なんでも、それをおざなりにして、終わったからってすぐに一人で寝るとか女の子を置いてどこかへ行くとか、そういうことをすると女の子は冷めるらしい。

なので、そういうのはどれだけ体力を消耗していてもちゃんとするようにしてる。実際、ティアはなんだか嬉しそうにしてくれるし、僕もそういうのは好きらしいので、嬉しい。

・・・・・・あ、あれ? なんか今すっごい怖い答えが出てきたんですけど。あれ、なんで僕はこんなに体中を寒気に支配されてるんだろ。





”アンタ、どうしたの? 顔青いけど”

”い、いや・・・・・・気にしないで? うん、大丈夫。大丈夫だから”




















実は・・・・・・たまにティアがすっごい積極的になる時がある。『てくにしゃん』な時がある。もっと言うと、マジで『ティア×僕』な時がある。

そんな時、どうしたのかと聞くと、ティアはメガーヌさんに教わったと答える。なんか相談したとか言ってた。

・・・・・・え、待って待って。ちょっと待って? 僕もメガーヌさんにあれこれ相談してたんですけど。ティアに内緒で、マジで色々相談してたんですけど。





ということは、僕達の夜の秘め事の詳細は、全部メガーヌさんに筒抜けじゃんっ! なんで今まで気づかなかったのっ!? きゃー、怖過ぎるー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・うーん、恭文くんとティアナちゃんは変わらずラブラブだなぁ。というか、順調にステップアップしてるのが微笑ましいよ。





でも・・・・・・この間、ティアナちゃんから相談された『アレ』はどうアドバイスしよう。





話は分かるけど、やっぱり・・・・・・うーん。










「お母さん、どうしたの?」



キッチンで夕飯のシチューをかき混ぜながら考え込んでいると、声をかけられる。

それは、我が愛娘。隣で付け合せのサラダの仕込みをしている。



「あ、ごめんねルーテシア。ちょっと恭文くんとティアナちゃんの事で考え事」

「お父さんの?」





私は頷いて答える。





「うん、そうだよ」





・・・・・・この子のお父さん呼びは、修正出来なかった。まぁ、私のせいではあるから、あんまり言えなかったのもあるんだけど。



うぅ、恭文くんとティアナちゃんには感謝だよ。普通に許してくれたんだから。





「・・・・・・そう言えば、お父さん」

「うん?」

「よくね、ウィハンのチャットとか、通信とかでお父さんとお話するの。お父さん、元気になって、よかったね」



確かにそうね。一応、ヒロちゃんから話を聞いて心配してた。だから今の元気な恭文くんを見てると、本当に嬉しい。

うー、やっぱり恋の力って偉大だなー。



「お母さんもティアナさんみたいに頑張ればよかったんだよ。そうしたら、私達の本当のお父さんになってくれたのに」

「うーん、頑張りたかったんだけど、ティアナちゃんの邪魔しちゃ悪いかなーとか、ちょっと考えちゃって。ほら、私ってあんまりに魅力的過ぎるし」

「そうだね。お母さんが本気を出しちゃったら、お父さんはお母さんにメロメロになっちゃうよね」

「でしょ?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”・・・・・・とにかく、アンタの方がエッチなのよ。そして私は、アンタのせいでエッチになったの。わかった?”

”うん、そうだね・・・・・・って、それは分からないからー!!”





なんて話している間に、景色はうちの近所。歩きながら思い出すのは、水族館の様子。



休日ということもあり、家族連れも多く、カップルも多かった。というか、アレだよアレ。





「イルカショー楽しかったなー♪」

「また子どもみたいに・・・・・・」

「だって、水族館のショーは楽しいよ? 旅してる途中にも見たんだけど、それ以来すっかりハマっちゃってさー」



あとあと、ラッコとかアザラシとか見て、北極熊とか見て、それでそれで、珍しい生物も見て・・・・・・。

あー、楽しかった。また見に行きたいなー。



「というか、ティアは地球の水生生物って詳しくないでしょ?」



一緒に見ててそう感じた。すっごい興味深げに色んな物を見てたから。

それを見て、なんか微笑ましいというか、楽しいというか・・・・・・そんな気持ちになった。



「あぁ、確かにね。でも、ミッドと似通ったような感じではあったかな」

「うん。でも、ミッドとはまた違うのよ。特に深海魚」



ミッドの深海魚はこう・・・・・・RPGのモンスターみたいなのがどっさりだしなぁ。多脚魚とかあるし。

・・・・・・つーか、魚じゃないよ。多脚は魚じゃないよ。



「あ、そうなのよね。私、カニアンコウが居なくてびっくりしたもの。あれ、特に足が美味しいのに」





ちなみに、カニアンコウとはこっちのアンコウに蟹の足が付いたような深海魚。体長は約1メートル前後。ミッドでは『類まれなる美味・そして一箇所たりとも捨てるところなし』と言われるグルメな高級食材である。

そして実際その通りなのだ。皮・身・内臓・・・・・・いたる所を食べられる。後に残るのは、きっと骨くらいだ。あ、その骨もいけるな。それからダシが出るし、パリパリに揚げればおせんべいになるから。

僕も先生に連れられて行った居酒屋で一度食べたけど・・・・・・マジで美味しかった。ビックリするくらいに美味しかった。グロテスクな外見からは想像出来ない味に、心が震えた。



特に足だね。カニのそれとは違う、魚の身に近い質のお肉が詰まってるんだけど、それが油が乗ってて美味しいのだ。





「うんうん、分かる分かる。・・・・・・って、ティア食べた事あるの?」

「六課の年末の宴会で、八神部隊長が買って来てくれたのよ。で、それをフックで吊るして解体。あれもすごかったなー。あんな大きい魚が、次々と解体されて、パーツに変わっていくのよ」

「あー、はやては料理関係得意だしね。でもね、先生の方がもっとすごいよ? 刀で抜き打ちして、一瞬で解体するから」



先ほど話した居酒屋さんで『料金代わり』と称して、それをやったらすごい賞賛された。

いや、あれもすごかったなぁ。僕もいつか出来るようになりたい。



「・・・・・・アンタの先生、なにもんよ。なんか逸話を聞いてると確実に世界の法則無視してるし。てか、刀で魚解体っていいの?」

「そう言えば・・・・・・よかったのかな。一応斬る前に刀身はちゃんと清めてたけど」

「アンタねぇ・・・・・・」





まぁ、細かい事はいいじゃないのさ。すごいことには変わりないんだし。

・・・・・・執務官試験受かったら、カニアンコウ奢ってあげようかな。

うん、お祝いとしては十分過ぎるくらいだし、考えておこうっと。



なんて考えながら歩いてると・・・・・・なんかすっごい荷物を抱えたのが目の前の横断歩道を横切る。



で、歩道の段差に躓いてこけて、荷物がバラける。なので、ため息を吐きつつ、僕とティアはそれを拾って行く。





「あ、すみませ・・・・・・って、蒼凪君っ!? それにランスターさんもっ!!」

「やっほー、二階堂。なに、工作クラブの買出し?」

「まぁね。いやいや、これがまた大変でさぁ」





そう、荷物の持ち主は僕の担任の二階堂。聖夜小五年星組を受け持つ先生。なお、少々ドジキャラ・・・・・・を演じていた。

こう言う理由は簡単。・・・・・・先日まで、イースターのスパイで僕やティアナ、ガーディアンの面々とは敵対してた。

まぁ、クロス7・8話みたいな感じで決着は付いたし、二階堂はイースターをクビになって先生となったので、普通に接している。



というか、他の皆(特にスゥ)がこだわってる感じを見せないので、僕はもう何も言わない。

・・・・・・ティアのたまごが壊されかけた事とかで色々言いたくはあったけど、全部水に流す事にした。

てゆうか、ティアも『無事に解決して、改心したんならいいじゃないの』とか言い出す始末で、そうするしか選択肢がなかった。



とにかく、工作用ボンドとか木材とか紙材とか、小学生の図工でよく使われる資材を全て拾い上げ、袋に戻す。





「いやぁ、ごめんね〜。てゆうか、二人はデートの帰りなんだね」

「・・・・・・なぜいきなりその答えに到達するのか、私はちゃんとお聞きしたいんですけど」



ティア、奇遇だね。僕も同じくだ。

そして、残念ながらその理由なら分かる。二階堂が凄まじくニッコリ顔だからだ。



「だって、今や君達の事は学校中の噂だしさぁ」



あぁ、やっぱりか。うん、分かってた。だからティアもちょっと拳を握るんだ。

くそ、やっぱり放置してたのは問題だった。僕、腑抜けてるよ。



「あ、先生方の方は大丈夫だよ? 学生らしい付き合い方をして、他の生徒に迷惑をかけないのであれば問題はないということで話は纏めておいたから」

「纏めておいたって・・・・・・」

「いやぁ、色々と迷惑をかけたりもしたから、一応僕からのお返し? というか、荷物ありがとね」




なんて言いながら、もう一度両手一杯の荷物をよっこらせと持つ。



・・・・・・僕が二階堂に対して何も言えなくなったのには、もう一つ理由がある。





「てか、車は? ビートル乗ってるでしょ」

「車検で預けてあるんだよ」





二階堂は、僕やあむ達と同じようにしゅごたまの持ち主だった。かえるまえに壊れてしまったとか。

ただ、そのたまごの子と一度だけ会えて・・・・・・二階堂曰く『色々あって』、先生に復帰した。

多分、二階堂の心の中には新しいたまごがある。『素敵な先生になる』というたまごが。だから、今の状態でもしゅごキャラが見える。



そう考えたら、何も言う気がなくなってしまった。

ここで僕が変な口出しして、ハッピーエンドに水を差すのはつまらないと考えた。

・・・・・・ま、なんかやるようならぶっ飛ばせばいいだけだと、納得することにした。





「・・・・・・ティア」

「ま、少し寄り道もいいんじゃないの?」

「ありがと」



すぐに言いたい事が分かったらしい。微笑みながら頷いてくれたから。

この呼吸感が、とても心地いい。というか、なんか幸せ。そして、そんな幸せのまま、僕は二階堂に手を伸ばす。



「ほれ」

「え?」

「とりあえず、荷物半分持ってあげるよ」

「・・・・・・いいの?」



なので、僕は頷く。で、二階堂はティアを見る。ティアは、コクリと頷いた。



「いや、ごめんねー。じゃあ、遠慮なくお願いしちゃおうかな」

「仕方ないのでお願いされてあげよう」

「うんうん、頼むねー」










・・・・・・というわけで、そこからちょっと歩いた所にある二階堂の自宅まで荷物を運んだ。そして、お礼にお菓子までもらった。





まぁ、夜遅くなってもいけないということで、お礼を言いまくる二階堂に見送られつつ、僕とティアは再び帰路についた。時刻は、夜の5時を過ぎたところ。もう夜の闇が世界を支配し始めていた。










「・・・・・・あの人二階堂先生、なんかすっかりあのキャラになっちゃってるわね」



そんな街の中を歩きながら、ティアが少しおかしいと言うように笑う。僕もそれに釣られて、苦笑する。



「なんかアッチの方が楽なんだって。てゆうか、段々素になってきてるとか」

「そうなんだ。・・・・・・てか、仲良いの?」

「普通。良くもなければ悪くもない。というか、学校の中でベタベタなんてしてたら、互いにいい迷惑でしょ」



先生と生徒という間柄。まぁ、色々あったけどそれは変わらない。

にも関わらず、僕と無駄に仲良くなれば、色々と波紋を呼ぶのは間違いない。適度な距離は必要なのだ。



「それもそうか。まぁ、仲良く出来るようなら仲良くしなさいよ。私もあむやフェイトさんから話は聞いたけど、マジで悪人ってわけじゃないんだし」

「敵だったのに?」

「それでもよ。てか、そんなこと言ったらアンタの事慕ってるディードやルーテシアもそうだったじゃないのよ。あと、セッテとか」

「それもそうか」



空を見る。星が・・・・・・少しだけど見えてきた。

スモッグが多少かかってる街では、星の光は弱い。でも、それでも光があることは、存在していることは変わらない。それを見ながら、少し考えた。



「まぁ、適度にやる」

「そうね、それでいいわ」










・・・・・・時間は、本当に少しずつ、確実に過ぎて行く。





だから・・・・・・なのかも知れない。





家に帰ったら、とんでもない変化が待っていたのは。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・家に帰りついた。二人で玄関のドアを開けると、当然の顔をして出迎えてくれた子達が居た。





赤髪にジーンズの上下を着た男の子に、白いワンピースを着た桃髪の女の子。










「「おかえりなさいっ!!」」





で、当然のように僕達はビックリする。





「「・・・・・・エリオっ! キャロっ!!」」





そう、六課時代に知り合ったフェイトの保護児童で憎むべき敵、エリキャロがそこに居た。





「ちょっと恭文っ! いきなり敵扱いってひどくないっ!?」

「何を言いますか。・・・・・・あぁ、二人のせいでフェイトフラグが」

「その話を平然と笑顔で持ち出すのやめてよっ! てゆうか、普通にティアさんと仲良いんだからいいよねっ!?」

「いやだなぁ。それとこれとは話が別だよ。恨むなら末代まで祟れって、法律で決まってるでしょ?」

「別にしないでよっ! そして決まってないからっ!!」





まぁ、こんな会話が出来る感じの関係性にはなった。時間は普通にあった。そのせいだ。

なお・・・・・・別に僕が二人と進んで仲良くする義理立てはない。別にフェイトと付き合う予定もないし。

そこはこの1年で特には変えてない。僕からは二人に対しては、まったく連絡とかもしてない。



ただ、それを二人が勝手に追いかけてきただけである。それを止める権利も義理立てもないから、放置してるだけだ。





「あぁ、エリオ君も落ち着いて? ・・・・・・私ね、1年経ってわかったんだ。恭文さんってティアさんに負けないくらいのすごいツンデレなんだって。それにほら、ツンの中にもデレが確かにあるし」



笑顔で言い切るのは、一応友達な女の子。なんというか、この1年で色々変わった感じがする。

フェイト曰く『以前とは違う意味でとても強くなった』ということらしい。まぁ、あんま興味ないけど。



「ごめんキャロっ! 僕は何を言ってるのかさっぱりなんだけどっ!!」

「それ以前に、私はツンデレじゃないんだけどっ!!」

「え、でも・・・・・・以前入手した『ツンデレ大辞典』にティアさんを照らし合わせると、典型的なツンデレだって結果が出ますよ?」

「アンタなに買ってるのよっ!!」



なお、ティアの言う事は間違っている。キャロはそんな辞典を買ってなどいない。

病気で休職する前に、僕がプレゼントしたのだ。エリオを落とすなら、ツンデレを学ぶのは一つの手だと。



「てゆうか、キャロ・・・・・・違うよ。僕はツンデレオブツンデレじゃないんだし。まだまだ勉強が足りないね」

「あ、そうだね。恭文さんは変化形なんだし」

「一体なんの勉強よ。そしてキャロ、なんでそこで納得してんのよ。・・・・・・ちなみに、そのツンデレオブツンデレってのは、誰のこと?」



当然のように、僕はある人物を指差す。そして、こう言うのだった。



「ティア」



その瞬間、ティアの両手が伸びてきたので、それを受け止める。そこから、互いに押し合い。



「アンタねぇ・・・・・・! 私はツンデレじゃないって何度言ったら分かるのっ!? つーか、いつまでその認識持ってるつもりよっ!!」

「無論・・・・・・死ぬまでっ!!」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



ぬ、押し込みが・・・・・・あれ、なんか僕負けてるっ!? つーか、ティア普通に力強いしっ!!

く、くそ・・・・・・負けてなるものか。もっと必死に・・・・・・。



「・・・・・・よし、押し倒すくらいの気持ちで」

「二人の前でなにとんでもないこと抜かしてんのよっ! このバカっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・喧嘩は止まらない。だけど、二人とも楽しそう。





それを見て、少し安心する。フェイトさんから色々大変だったとは聞いてるから、ちょっと心配だった。










「・・・・・・キャロ、嬉しそうだね」

「うん、嬉しいよ」





恭文さんが元気なのは、嬉しい。だって・・・・・・その、友達だから。私が一方的に追いかける感じではあるんだけど。

相変わらず恭文さんからは本当に用事が無い限りはメールも通信も来ないのは変わらない。私やエリオ君の方を、振り向いてもくれない。

でも、手を伸ばして掴んだら、振り払わないでちゃんと握り返してくれる。そこは絶対変わらない。・・・・・・それだけで、いい。それが、とても嬉しい。



保護隊のミラさんにその事を話したら・・・・・・『それって恋してるんじゃないの?』って言ってたけど、それはちょっと違う。だって、本命はエリオ君だもの。



うーん、なんて言えばいいんだろ。・・・・・・上手く、言えないよ。





「そっか」

「・・・・・・うん」










・・・・・・そうだ。せっかくだから・・・・・・相談、しようかな。





エリオ君は話そうとしてくれないけど、私は気づいてる。余計なお世話かも知れないけど、それでも心配ではあるから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・それから、フェイトとシャーリー、ティアに僕とリイン、エリキャロと一緒に夕飯。なお、『あの人が居ない』みたいな感じになっているのには、目をつぶっていただきたい。





それで、フェイトが作ってくれていたご飯を食べながら話を聞いた。なんでも保護隊の方からお休みがもらえたので、来てみたらしい。お休みは一応明々後日まで。なので、明後日には帰るとか。





まぁ、この辺りは別に気にすることはないと思った。だって・・・・・・目当てはフェイトだろうし。そして、僕もティアもリインも明日からまた学校なんだから、それを休んでまでどうこうは出来ない。ガーディアンの仕事だってあるんだし。





・・・・・・と、思ってた。そう、ご飯を食べ終わる前までは。










「・・・・・・二人を学校に連れて行って欲しい?」

「というか、見学ですか」

「うん。二階堂先生には連絡して、許可はもらえることになったんだ。それでエリオとキャロの事をお願いしたくて」

「えっと、お世話になります」



ティアの部屋で、いつものように勉強の手伝いをしてると、フェイトとキャロが申し訳なさげに入ってきた。・・・・・・なぜだろう、無駄な気を使われてると思ったのは。

で、こんな話をされた。エリキャロに聖夜小を見せて欲しいと。もっと言うと、学校の生活というものに触れさせて欲しいと。



「でもフェイトさん、どうしてそんな話に? だって、二人はフェイトさんに会いに来たってのが大きいでしょうし」

「ティアの言う通りだよ。フェイトが二人を連れてどっか出かけるとかならともかく、なんで僕達が?」



なお、意地悪とかで言ってるわけでもなんでもない。普通に考えて、親子水入らずで過ごすのが道理だと思うから。

僕、友達や知り合いではあっても家族ではないもの。・・・・・・ただ、それでもフェイトとキャロの表情が重くなった。床に足を崩して座りながら、話し始めた。



「キャロがね、さっき教えてくれたの。・・・・・・キャロ」

「はい。・・・・・・あの、エリオ君・・・・・・悩んでるの」

「・・・・・・何について?」



なお、ティアが視線で『なにかやらかしたの?』とか言ってるけど、僕は何もしてない。だって、僕からは連絡とかは取ってないんだから。



「実はね、私もキャロから話を聞くまで知らなかったんだけど、エリオ・・・・・・犯罪者に負けたらしいの」

「どういうこと?」

「一ヶ月くらい前なんだ。相手は密猟者グループ。前に出ていたエリオ君は、AMFの完全キャンセル化内に誘い込まれて、それで・・・・・・」



負けたと。・・・・・・でも、エリオってサリさんとヒロさんが六課時代にそこを想定した訓練受けてるはずなのに。

てか、美由希さんが『筋がいい』って誉めたと聞いてる。



「相手、結構数が居たの?」



その手の完全キャンセル化状態に追い込んだ上での戦闘に関して犯罪者が取る手段は、銃器類を持った上での数を使った押し込み。

ようするに、囲んで王手ってわけだね。実際、最近そういう例が多く報告されてるって聞く。だから、僕だけじゃなくてティアやフェイトもそこを想定した訓練をしてるんだけど。



「・・・・・・ううん。たった一人。エリオ君が負けたのは、たった一人の相手なの」

「他にも複数居たらしいんだけど、それをあらかた片した後にその相手が出てきて、応戦したんだって。
だけど・・・・・・叩き伏せられた。相手も槍使いで、だけど技量は向こうの方がダントツに上で」

「それで、どうしたんですか?」

「かなり危なかったらしいの。でも、丁度サリさんがそこに来てくれてたんだ。ほら、恒例の二人への稽古」



サリさんは、六課が解散してから二人の様子をちょくちょく見に行っているらしい。そして、その中で二人に槍術と魔法の技術を教えてるとか。

フェイトはあっちこっちの世界に行く事が多いから、このサリさんの行動には感謝してる。まぁ、サリさん曰く『俺の錆落とし』らしいけど。



「それで、話を聞いて助けてくれて・・・・・・・グループも壊滅に追い込んだ」

「なら、問題はなかったんですよね。・・・・・・ねぇキャロ、それでどうしてエリオが悩むのよ。もうちょっと詳しく」

「自分の魔導師としてのこれからのあり方についてでしょ? もっと言えば、このまま保護隊に居ていいかどうかとかってレベルで考えてる」



僕がそう言うと、ティアがこちらを見る。それから、目の前の二人を見る。

フェイトとキャロも僕を見ながら・・・・・・頷いた。



「エリオ君は私や保護隊の人の前では口には出さないんだ。ただ・・・・・・なんだか、分かるの。仕事をしていても、ずっと悩んでるの。
もしサリエルさんが居なかったら、そのまま死んでいたかも知れなくて、魔法が無かったら、自分はダメとも思ってるかも」

「そのための訓練をしてたのに、実戦で負けたってのも余計に来てるんでしょ。で、もしかしたら焦ってるのかも」

「・・・・・・アンタ、よく分かるわね」

「分かりますさ。僕も全く同じことがあった。だから、フェイトだって僕に話してるんでしょ?」



視線をフェイトに向けながら、そう言う。

・・・・・・多分、イレインの事と今回のエリオの事を重ねたんだと思う。てか、僕も重ねてるし。



「うん、実を言うと」



すると、フェイトは申し訳なさげに頷いた。



「とにかく、話は分かった。その辺りの事に対する気晴らし・・・・・・いや、何かヒントが見つかるように、学校ってことだね」

「うん。ガーディアンのみんなや、同年代の子達に触れれば、何か変わるんじゃないかと思って。・・・・・・ヤスフミ、こういう場合ってやっぱり、私は手助け出来ないよね」

「手助けは出来るよ? ただ、それがどんな形でも、答えを出すのはエリオだよ。フェイトもそうだし、僕やキャロには出せない」

「そう・・・・・・だよね」





・・・・・・『魔導師が 魔法無ければ ただの人』というのは変わらない。誰がなんと言おうと変わらない。てゆうか、魔導師として強くなる事と、武芸者として強くなることは、ペクトルが違う部分があると僕は思う。

決して全てにおいてイコールになることはないのだ。魔導師として強くなりたかったら、その分野での訓練をしっかりしなきゃいけない。武芸者としての訓練だけでは、それは成せない。その逆もまた然り。

どっちかがすごく強いからって、そのために凄まじい努力を積み重ねたからって、もう片方も同じくらい強くなってるとは限らないのだ。てゆうか、それはありえない。両方強くなりたかったら、両方頑張らないといけない。



確かに、エリオは魔導師としてはストライカー級に位置すると思う。あの年齢でAAにまで上り詰めているんだもの。でも、武芸者としてはそこまでじゃなかった。だから、負けた。いつかの僕と同じように。

そして、エリオに勝った奴は、少なくともエリオよりは上だった。そして、サリさんよりは下だった。あ、だから余計にダメージ来てるのかな。

うーん、あのバカは無駄に真面目で頭固いしなぁ。・・・・・・やっぱ、答えはエリオ自身が出さないとだめか。誰でもない、エリオのための答えを。





「・・・・・・改めて思うけどさ」

「うん?」



ティアが、少し苦い顔で呟いた。僕も、キャロもフェイトも、それを見る。



「魔法って、絶対じゃないのよね」

「・・・・・・そうだよ、絶対じゃない。そして、大切なものを隠してる所がある。だから、こういう時にそれが露見するんだよ」










僕も魔導師だから、魔法を使ってるから、分かる。今、ある意味では局の魔導師にとって原則・・・・・・常識とも言える、非殺傷設定をかけた上での魔法の行使は、それに拍車をかけている。

力は壊すためのもの。それを行使するための武器は凶器で、行使するための術は殺人術。それが真理。非殺傷設定は、その真理を覆い隠して、魔法を間違った意味で『魔法』にしてしまっている。

だってさ、マジで便利なんだよ? 物にもよるけど、どんだけ全力で攻撃しても殺す事は無いってのはさ。ただ、それが同時にその使い手・・・・・・術者を明らかに弱くしてる。





人間、自分のしている事には意外と無頓着で分かってない部分がある。殴られた痛みが実際に殴られないと分からないように、殴った衝撃と感触も実際に殴らないと分からないのだ。

だけど、大半の局員はそこが分かってないと思う。つーか、分かってたら身内犯罪者問わず、魔法なしでの攻撃や殺傷設定での攻撃に対して嫌悪感むき出しにはしないって。どれもこれも全部同じ攻撃なのに。

でも、それだけじゃない。実は・・・・・・前に気になって、なのはや師匠に確認した事がある。訓練校などで、非殺傷設定というものをどういう形で教えているのかと。





曰く、そこは前提として、魔法を訓練校などで教える時にはしっかりと守らせるらしい。犯罪者は殺さず捕獲が基本。犯罪者の更生と反省のため、その選択を取るのを当然とも教えている。

もちろん、どんな形であれ凶器というのもしっかりと教える。ただ・・・・・・それをちゃんと認識している人間が何人いるか、教官職であるなのは達から見ても、疑問に思う事があるそうだ。

理由は簡単。その凶器を使って平然と身内や力のない人に対して暴力を振るう輩が居るから。どれだけ処罰しても、どれだけ教えても、そういう話はあっちこっちで後を絶たない。少し、悲しげに話していた。





人によっては、非殺傷設定でも分かる人は分かるという人も居るだろう。確かにそれも事実だ。だけど・・・・・・その数は圧倒的に少ない。

だって、さっきも言った通り非殺傷設定そのものが『魔法』なんじゃないかと言いたくなるくらいに便利なんだから。多分、大半の魔導師はその便利の上に胡坐をかいてる。

なお、僕は分からなかった。最初の時、実際に相手の命を叩き潰すまで・・・・・・殺すという行為は、どこかの映画の主役がやってるみたいに、けっこうアッサリしたものだと思ってた。けど、全然違った。





普段は非殺傷設定で魔法を行使するようになって、考える。そして比べる。だから、一つの実感として分かる。この設定は、戦いの真理を隠し、濁している部分が少なからずあると。

誰がどんな御託を抜かそうが、『対人・武術の達人マンセー』と誰が言おうが、ここは変わらない。いや、変えてはいけない。戦いというものの相対的な価値観を奇麗事に統一してはいけないから。

だから、僕は正直今のご時世・・・・・・魔法至上主義が正直嫌い。非殺傷設定の解除や、魔法無しの攻撃、質量兵器に対して過剰反応する局員連中の考えも嫌い。





そこに『戦い、守る人間としての覚悟』を見出す事が出来ないから。だから、デバイス武装なしで警備なんて言うアホな状況を、誰も彼も平然と受け入れて、地上本部が襲われて蹂躙されるわけである。

戦いは、相手を踏みつけ、壊し、否定する行為。それが真理。魔法とか、非殺傷設定とか、質量兵器どうこうは関係ないと思う。絶対に奇麗事じゃない。

・・・・・・まぁ、個人がどう思うかは自由だけど、常識として捉えるのは間違ってるってことかな? もちろん、僕が今言った事も含めて。










「とにかく、話は分かった。・・・・・・で、フェイトもついてくるように」

「うん・・・・・・え、私もっ!?」



驚いたように僕を見るので、頷いて答える。それも力いっぱい。

なお、ここにもちゃんと理由がある。



「当然だよ。フェイトが理由も無しに来なかったら、エリオが疑うよ? 無駄に勘いいんだしさ」

「あー、それもそうね」



ティアは、こういう時は話が早い。おかげで、僕はだいぶ楽が出来てたりする。



「てゆうか、フェイトさんが来るのは問題ないんじゃないですか? 普通に学校見学と考えれば、保護者が居ない方が逆にどうかと思いますし」

「・・・・・・確かにそうだね。なら、私も行くよ。というかキャロ」



フェイトが優しく、そして少し申し訳なさげにキャロを見る。



「話してくれて、ありがと。というか・・・・・・ごめんね。私、二人の保護者なのに気づいてあげられなくて」

「あ、いえ。大丈夫です」

「別にフェイトが気にすることないでしょうが。てか、サリさんもこの間来たのに話さなかったんだし」

「そう言えば・・・・・・あれ、なんでサリさんは話してくれなかったんだろ」



まぁ、理由は察しが付く。普通に話すのもどうかと思ったんでしょ。もしくは、エリオに口止めさせられてたとか。

フェイトに心配かけたくないとか、人にあんまり知られたくないとか、そういう形でさ。



「かも、知れない。というより、私にもこの事はフェイトさんに話さないで欲しいって頼まれたから」

「・・・・・・とりあえず、僕達が知ったのはサリさん経由ってことにしておかない? ほら、サリさんだったらエリオも強くは言えないだろうしさ。
これがキャロ経由だと、今度は普通にパートナー解消って話に発展する可能性も」

「あぁ、ありえるありえる。あの子、無駄に保護責任者フェイトさんに似てるしね」

「え、えっと・・・・・・あの、ごめんなさい。じゃあ、サリさんには泥を被ってもらうということで」

「うん、それでいこうか」










・・・・・・なでしこが留学して、春休みも直前。なのに、またまた騒動の種が舞い込んだ。





さて、どうなるかな。うーん、コレばかりはエリオが決めて行くことだから、僕にはどうしようもないな。





てか・・・・・・あれ? 自分からは干渉しないって決めてたはずなのに、なんか僕、巻き込まれてないかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・というわけで、僕達はサリさんからその話を聞いたということになりましたので』

「お前ら揃いも揃っていきなり理不尽過ぎねぇかっ!?」

『え、僕達の総意に何か問題でも?』

「大有りだろうがっ!!」



仕事終わり、自宅に帰って少し遅めにドゥーエの作ってくれた夕飯を美味しくいただこうとした時、やっさん達から通信がかかった。なので、少し離席して通信を繋ぐ。

で、話すと・・・・・・なんですかこれ。なんで少年の事がバレてんのさ。俺、少年にすっげー頼まれて黙ってたのに。



『サリさん、なら選択してください。ここでおとなしく泥を被るか。ゴネて『ちゃんと話しては欲しかったです・・・・・・』と、ちょっとお冠なエリオの保護責任者とじっくりお話するか』

「あぁもう、分かったよっ! つーか、黙ってて悪かったから、フェイトちゃんとじっくりお話はやめてくれないかっ!? なんかすっげーループな会話が繰り広げられそうで嫌なんだよっ!!」

『フェイトー、サリさんがなんかフェイトとじっくり話したいってー』

「やめてくれー! ドゥーエの作ってくれた夕飯が待ってるのに、じっくりなんて出来ねぇんだよっ!!」



くそぉ、理由はどうあれ黙ってたのは事実だし、何も反論出来ない。と、とにかく少年の事だ。

一応気にはしてたが、重症っぽい感じに発展・・・・・・するよなぁ。うん、分かってた。でもよ、俺だって自分の仕事あるんだぞ? 1月に一回がやっとだって。あのちびっ子どもの勤務地は遠いしさ。



『まぁ、泥を被ったのがバレないようにはしますけど、エリオには最悪そういう風に話しますから、一応覚えておいてくださいね? ・・・・・・で、サリさん』

「なんだ」

『エリオが負けたっての、相当ですか?』



俺は、さっきまでの適当な顔から真剣な表情に変わった通信画面の中のやっさんを見ながら、頷いた。・・・・・・相当だった。実を言うと、俺もかなり危なかった。

てか、加減出来ずに首を刎ねた。まぁ、この辺りは正当防衛ということで、問題ない感じではあるが。



「今のご時世であそこまで腕が立つ奴が居るってのは、ある意味では嬉しくはあったがな。
そうだな・・・・・・普通モード・・・・・いや、本気モードのお前とやりあって、ギリお前が負けるって感じか?」



なお、やっさんが奥の手の修羅モードになって、相手を倒すのではなく『殺す』戦いをするのであれば、分からなくなってくる。

残念ながら、魔法や武術どうこうに限らず、倒す攻撃より殺す攻撃の方が強い。これは事実だからだ。



『それは相当ですね。・・・・・・そっか、だから余計になんだ』

「だろうな、魔導師として強くなるのと、そういう武芸者・・・・・・もっと言えば、戦闘者として強くなるのは、必ずしも全てにおいてイコールにはならない。
元々は同じだったかも知れない。だが、今は違う。二つの似たようで違う路線になっている。少年が悩んでるなら、間違いなくそこだろ」





なお、コレは俺とヒロが現役時代に痛感したことだ。魔導師として強くなっても、戦闘者として強くなる事には100%は繋がらない

イコールになる部分は確かにある。非殺傷設定に頼ろうがなんだろうが、それも事実。だけど、さっき言ったような事も含めると、全てイコールにはならない。なるはずがない。

決めるのは、もっと別な部分だ。ただ、不殺ころさずの『魔法』が、その成長を妨げている部分がある。魔法は、守るための力というある意味では正しく、そして間違った認識を広めている。



てゆうか・・・・・・アレだよアレ。全てイコールになるのであれば、俺らより魔導師として優秀な奴が、平然と腕の立つ魔力資質の低い武芸者相手に、何人も死んだりはしない。





「まぁアレだ。俺も帰りに寄るようにメールはしとく。ちょっと気にはしてたからな」

『お願いします』

「あぁ。・・・・・・しかしやっさん」



やっさんが首をかしげる。なので、少しにやつきつつ俺はやっさんを見る。



「お前、置いてくんじゃなかったのか?」

『・・・・・・追いついて来た手を振り払うようなことをするとも、言ってませんから』

「そうか」

『はい』










どうやら、我が弟弟子が甘いのは変わらずらしい。なんだかんだで全部は振り切れない。





・・・・・・振り切れるわけがないか。だって、コイツバカだし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、翌日。





僕達は・・・・・・学校に来た。まぁ、まずはみんなに頼る事にした。朝っぱらからロイヤルガーデンに集合です。










「・・・・・・ようこそ、聖夜小学園へ。僕はここの生徒会・・・・・・ガーディアン・Kチェアの辺里唯世です。よろしく」





そう、ガーディアンのみんなである。というか二階堂から朝に連絡が来て、学校案内ならガーディアンを頼ってはどうかと言ったのだ。



・・・・・・二階堂が何気にちゃんと先生してるのがすごい。うーん、すごいよ。二階堂すごいよ。





「で、俺がJチェアの相馬空海。よろしくな」

「あ、はい。えっと・・・・・・エリオ・モンディアルです。初めまして」

「キャロ・ル・ルシエです。あの、初めまして。今日はよろしくお願いします」

「うんうん、よろしくー。Aチェアの結木ややだよー。えっと、エリオ君にキャロちゃんだよね。
リインちゃんやフェイトさんからお話は聞いてるよ。今日来たのは、学校見学だよね」



で、当然のように二人は頷く。フェイトも、それに続く。



「二人は、みんなと違って学校って行った事がないの。でも、いい機会だから少し見て欲しくて。悪いんだけど、お願い出来るかな」

「はい、任せてください。ちなみに、学校に行った事がないというのは・・・・・・」

「二人とも局の仕事があるから。エリオもキャロも、正式な局員で、魔導師なんだ」

「なるほど、納得しました」



で、唯世だけじゃなくて、空海とややも納得してくれた。

その代わり、キャロとエリオがすごく驚いた顔をする。



「フェイトさんっ!? あ、あの・・・・・・その、違うんですっ!!」

「わ、私達その・・・・・・英才教育というかなんというか」

「・・・・・・なんだ、聞いてないのか? 俺達は魔法の事も、管理局の事も知ってんだ。全部、恭文やフェイトさん達から教えてもらった」

「「えぇぇぇぇぇぇっ!?」」



二人が僕とフェイト、リインを見るので、三人揃って頷く。

なお、ティアは中等部に居ます。



「そういうわけだから、やや達に魔法の事とか、普段のお仕事の事とかは隠さなくていいよー? てゆうか、同い年くらいなんだし、仲良くやってこうよー」

「え、えっと・・・・・・あの、それじゃあ」

「今日一日、よろしくお願いします」

「うん、よろしくー」



というわけで、話はまとまった。・・・・・・さて、学校見学とは言ったけど、どうしたもんかなぁ。

てか、あむはどうした? さっきから姿見えないけど。



「あぁ、ここに来る直前に、保健の先生に呼び止められてたんだ。多分、もうこっちに向かってる頃じゃないかな」

「・・・・・・ごめーんっ! 遅くなったー!!」



どうやら、向かってる頃じゃなくて、到着する頃だったらしい。

ロイヤルガーデンの入り口。ガラス張りのドアが開いて、元気な声が中に響いた。そちらを見ると・・・・・・制服姿のあむが居た。



「日奈森、おせーぞー!!」

「そうだよー。あむちー遅刻厳禁ー」

「ごめんごめん。ちょっとあって」



そう言いながらも、ロイヤルガーデンの中心部・・・・・・僕達が居る場所に来る。

そして、あむは目を見開いてエリオとキャロを見る。



「・・・・・・あ、その子達がフェイトさんの保護児童って言う子?」

「そうだよ。エロ男・揉んでやるに二代目魔王」

「「ちょっとっ!?」」



えー、間違ってはないでしょ? 特に二代目魔王ってところ。

・・・・・・だけど、二人はすごく不満げに僕を見る。うーん、なぜだろう。真理なのに。



「てゆうか、やっぱりいじめるんだ」

「当然だよ」

「何が当然っ!? ・・・・・・えっと、初めまして。あたしは日奈森あむ。聖夜小で恭文と同じクラスで、ガーディアンのジョーカー。よろしく」

「「はい。よろしくお願いします」」



そうして、ペコリとハモって返事をした。当然のように、お辞儀。

・・・・・・普通に、あむがなんというか固まった。そして、困ったような顔をして僕を見る。



「・・・・・・えっと、なんか硬い? というか、礼儀正しい子達だね」

「あ、あむちんもそう思う? あのね、やや達にもずっと敬語なんだよ? うーん、距離感じるなぁ」



ちょっと不満げにややが頬を膨らませてそう言うと、二人が萎縮する。でも、助けない。



「残念ながら、デフォでそれなのよ。柔らかくなるようにみんなで浴びるように酢でも飲ませてあげて?」

「うん、分かった・・・・・・って、ちょっと恭文っ! それは絶対違うよねっ!!」

「そうなのっ!?」

「そこビックリするところじゃないよねっ!!」










とにもかくにも、ガーディアンの総力を結集した学校見学ツアーは始まるのであった。





さて、関わった以上、エリオの様子を気にはしておきますか。





てゆうか、なんかこう・・・・・・なんだろう、嫌な予感がする。





ここ1ヵ月ちょいの間にあむ達と楽しくやってたからかな。なんかこのままではいきそうにない気がする。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・早く、気づいてください。





もう、あなたの中に鍵はありますよ? この殻を、そしてあなた自身の心を開けるための鍵が。





・・・・・・は、まぁ・・・・・・少し特殊ですけど、私は、もうここに居ます。だから、気づいてください。





あとは、いつもの通りに行くだけですわ。





未知なる物を恐れず、それにときめき、迷い無く受け入れる。それは自身を、そして周囲を知らぬ間に閉じ込めてしまう、常識という名の檻すらも壊す心の力。





どんな時でも闇を照らし続ける、あなた自身が最初から持っていたもう一つの星の光。





・・・・・・が守りたいという願いなら、私は同じ道を行きながらその真逆。破壊・・・・・・それこそが、私を生み出したあなた自身の願いですわ。





あぁ、早く会いたいです。この中でも不都合はありませんけど、やっぱり外の世界を出歩きたいですもの。





だから、早く鍵を開けてください。もう、本当に・・・・・・あと少しなんですよ? お兄様。




















(その10へ続く)




















あとがき



古鉄≪・・・・・・鬼畜ー≫

やや「変態ー」

古鉄≪なにいきなりっ!?≫

恭文「なんでおのれがそれ言っちゃうっ!? 僕が言いたいんですけどそれはっ!!」

やや「さてさて、恭文がティアナさんにあーんなことやこーんなことをしていると判明したその9、みんなどうだったかな?
お相手は、IFヒロインルート開設のために修行中の結木ややと」

古鉄≪男なんてみんなけだもの。そしてこの人は真の二代目淫獣。きっとティアさんは普通に男性経験がなかったからその辺りを分かってないんだと思った古き鉄・アルトアイゼンです≫

恭文「えっと、蒼凪恭文です。・・・・・・てゆうか、なに話してるっ!? お願いだから落ち着けー! あと、もっとツッコむべきところがあるでしょうがっ!!」





(そう、ツッコむべきところは沢山ある。アレとかソレとかコレとか)





やや「だってー、恭文最低だもん。あれかな、女の子なら誰でもいいの?」

古鉄≪最低ですよね≫

やや「ねー」

恭文「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁっ! てーか、僕がまるで無理矢理迫ってるみたいに言うなっ!!
・・・・・・あ、あの・・・・・・普通に『いい?』って聞いてるよ? 無理矢理なんて、絶対してないし」

やや「でもでも、ティアナさんからすると『どうしよう、今日はそんな気分じゃないのよね。でも、断ったら・・・・・・嫌われちゃうかな。だったら、あの・・・・・・嫌ではないし、受け入れて』・・・・・・とか考えて」

恭文「その無駄に似た声真似しながら言うのはやめてー! ありえないって否定出来ないのが辛いからっ!!」





(まぁ、女の子は複雑だしねぇ)





古鉄≪というかややさん、どうしてそういうの知ってるんですか? 少しビックリなんですが≫

やや「あのね、ティーンズ向けの雑誌でそういうのあるんだよ」

古鉄≪・・・・・・日本の夜明けはもう近いのかも知れませんね≫

恭文「そうだね。ややが買って問題ないくらいの雑誌でしょ? それでこれだもの。・・・・・・てゆうか、やや」

やや「なに?」





(青い古き鉄、どうやらここで今まで気になって気になって仕方なかった事について聞きたいようだ)





恭文「あのさ、IFヒロインになりたいんだよね?」

やや「うん♪」

恭文「まぁ・・・・・・分かってるとは思うけど、IFヒロインになるってことは、ややの言う変態で最低な男と付き合うってことだよ?」

やや「・・・・・・え?」

恭文「だから、ややルートが万が一にも出来たら、ややは僕の彼女になるってことなんだよ?」

やや「・・・・・・・・・・・・え?」





(エース、なぜか固まる。そして・・・・・・叫んだ)





やや「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

恭文「・・・・・・待て待てっ! まさか分かってなかったんかいっ!!
もっと言うと、僕と将来的にはこういうことをする可能性もあるってことなんだよっ!?」

やや「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

恭文「そんな世界の終わりみたいに叫ぶなー! 何気に傷つくんですけどっ!!」

古鉄≪・・・・・・えー、なんだか大変そうな二人はともかく、今日はここで終わりたいと思います。お相手は古き鉄・アルトアイゼンでした。
それでは、また来週。・・・・・・シーユーアゲイン♪≫

恭文「なに僕達無視で普通に挨拶してさようならっ!? お願いだからややのパニックを止めてー!!」

やや「ど、ど・・・・・どうしよう。恭文と・・・・・・恭文と・・・・・・た、確かに嫌いじゃないけど、そうだよね。IFヒロインになるってことは、やや、恭文のこと好きになるんだよね。そこ限定だけど好きになるんだよね」

恭文「・・・・・・やや、別に僕に不満があるとかならいいよ? 人それぞれ好みはあるんだし」

やや「そ、そんなことないよっ!? ・・・・・・やっぱり歌唄ちゃんやあむちーにりまたんには負けたくないし、でも・・・・・・あぁぁぁぁぁっ! ややはどうしたらいいのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」










(とりあえず、終わっておこう。
本日のED:中原麻衣『We May Dream』)




















ティアナ「・・・・・・なお、私は別にややが言ったみたいなことは考えてないわよ?」

恭文「ほんとに?」

ティアナ「ホント。嫌だったら、嫌って断ることにしてるし。まぁ・・・・・・比率的に結構少なめだけどさ」

恭文「あ、あの・・・・・・ありがと」

ティアナ「いいわよ、お礼なんて。ただ・・・・・・」

恭文「ただ? ・・・・・・えっと、ティアはなんでそんなに怖い顔をするのかな。ほら、可愛い顔が台無しだよ?」

ティアナ「ラブプラスとメルティランサーとかは許さないから。てか、恋愛したいなら現実で私としなさい。いい?」

恭文「は・・・・・・はい」

古鉄≪・・・・・・デレですか?≫

ティアナ「そうだけどなにか?」

恭文「なんか認めたっ!?」










(おしまい)




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