小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第116話 『Begins NIght/始まりを超え、その上で手を伸ばすべき未来の形』 ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』 ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー♪ さてさて、光編もいよいよ最終決戦まで秒読みスタートー!!」 ミキ「明かされる真実、来たるべき時に向かって動き続ける星の動き、それでも長い戦いの終わりを目前にしたガーディアンとイースター」 スゥ「始まりと間違いと、嘘と後悔を超えて・・・・・・みんなが今目指す未来の形を見据えて、まず一歩踏み出しますぅ」 (立ち上がる画面に映るのは、穏やかなヴァイオリンの音色。夜空にかかる道に・・・・・・光り輝く石達) ラン「さー、イースターをぶっ飛ばすぞー!!」 ミキ「そのためにはまず、ビギンズナイトの最後のピースをはめこみつつ・・・・・・今日もいつものように」 ラン・ミキ・ジャンプ『じゃんぷっ!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『・・・・・・正直今までの僕は、毒を飲む覚悟が出来ませんでした。いや飲んじゃいけないと思っていた』 「・・・・・・うん」 カーディガンを羽織って、うちの2階のベランダに出て満点の星空を見ながら音声オンリーの電話を受ける。 唯世君は今日何があったかを簡単に話してくれて、その上で夏休みに出した宿題の答えをうちに届けに来てくれた。 『それがどうしてか、ずっと分からなかったんです。前にあむちゃん達に『一緒に戦って』と言った時もそれは変わらなくて。 でも・・・・・・今日やっと分かりました。自分の世界の王様にもなれない人間が毒を飲んでも、結局は意味がない』 「なんでそう思うん? 人の上に立つんは、それなりの立場が必要や。 その立場を得られた時点で、それなりの努力をして・・・・・・自分を変えた証明にはなっとる」 『でも、僕はその・・・・・・小学校の生徒会の会長ですけど、今までもその立場に居ました。 だけど何も変えられなかった。何を変えたいのかも見つめようとしていない王様に、毒なんていらない』 夜の風はどこか冷たくて、だけど優しくもあって・・・・・・それが火照った身体にとても心地良い。 そのせいか、唯世君の言葉がめちゃくちゃ耳障りよく聴こえたりもしてる。 「なら、みんなの事はどうするん。アンタの事を王様として信じてくれとるのに」 『・・・・・・一緒に戦って欲しいと言います。その上でみんなの命と願いを預かる。 それで僕はみんなの盾になる。僕に力は、僕とキセキのプラチナロワイヤルは、そのためにある』 それが唯世君のキャラなり・・・・・・あぁ、そういやこの子の能力は防御超特化型のフロントアタッカーやったっけ。 『僕は蒼凪君のように鋭い剣なんてない。高町さんやフェイトさんのように巨大な砲撃が撃てたり、速く動けるわけじゃない。 でも前に出て盾になる事なら、守る事なら・・・・・・どんな人にも簡単には負けない。それが、僕の毒の飲み方です』 「身を晒して、家臣を守る盾となるか。チェスとかやったら愚策やな。 キング取られたらそれまでやのに。それ以前に預かって砕けたらみんなそれまでや」 『そうかも知れません。でも、これが僕だから。今の僕に出来るせいっぱいの事をしなきゃ、毒を飲む事にならない』 風がまた優しく吹いて、うちの髪をなびかせる。受話器を耳に当てながら、つい嬉しくなって笑ってしまった。 「唯世君」 『はい』 「アンタ、ちょっと会わん間にえぇ男になったなぁ。いや、マジ今すぐ押し倒してものにしたいくらいや」 『はいっ!? や、八神さん、さすがにその・・・・・・ご結婚されてるのにそれはっ!!』 「大丈夫大丈夫、旦那には内緒にしとくから。大人になりたかったらいつでも来てくれてえぇよー? お姉さんがABCの全てを徹底的に教えてあげるから。これでもうちかなり大人やし」 軽く声を出してからかうように笑いながら、ベランダから見える夜の海を見る。 「まぁアレよ」 口から出てきた声は、さっきまでとは全く違う少し低めのトーンのもの。そやから唯世君のツッコミも止まった。 「自分の世界の王様になるんはかなり難しいで? でも、しっかりな。その気持ちは絶対に忘れたらアカン」 『・・・・・・はい』 「それであとうちからお願いする事はこれだけや。・・・・・・恭文とリインの事、お願いな。 二人はアンタも知っての通り相当アクが強いからアレやけど、頼りにはなるはずやから」 『分かりました。二人だけじゃなくみんなとも・・・・・・また明日、話していこうと思っています。 あの八神さん、本当に遅い時間にすみませんでした』 「ううん、大丈夫よ。うちもアンタと話せてマジよかった。ありがとな」 それから『おやすみ』を言った上で、うちらは世界を超えた電話を終えた。 携帯を握り締めつつその場で軽く伸びをしてから、寝室にそそくさと戻る。 するとそこにはなんでかニコニコ顔でうちの事を見ているいとしの旦那様が居た。 「はやて、さすがに浮気宣言は認められないんだけど? しかも彼、まだ12歳なのに」 「なんや、聞いてたんか。趣味悪いなぁ」 「聴こえたんだよ。君、意外と大きな声で堂々と話してたよ?」 「あ、そうなん? そりゃ失敗やわ」 なんて言いながら、うちはベッドで座っている旦那の懐に背中を向けて入り込む。 それでロッサは・・・・・・いつもみたいに、優しく後ろから抱き締めてくれた。 「唯世君な」 「うん?」 「ちゃーんと王様になったわ。人の世界の前に、まず自分の・・・・・・ってな」 「そう。だからそんなに嬉しそうなんだね」 ロッサの言う通りなので、抱き締められつつ頷く。 「うちはアンタの知っての通り、それすらも失敗しとるしな。自分の前に、人の世界をどうこうしてなんとかしようとした。 というか、みんなの世界の王様気取ってたのかも知れんなぁ。それでダメやから逆切れして、勝手にヘコんで」 「それであの夜も僕に思いっきり愚痴って・・・・・・だしね」 「そやなぁ。まぁそこは後悔してないんよ。アンタのおかげで奇数日はジェットコースターやし」 「あの、それだと夫婦の営みだけが僕と居る魅力に感じるんだけど」 「それだけ誉められてるのは喜んで欲しいわ。結婚式で失踪とかしたんやし」 いや、マジで凄いんよ。ロッサがそれなりに経験あるからなんやけど、もううちは・・・・・・でもフェイトちゃんには勝てん。 だってフェイトちゃん、凄いで? 恭文が無駄に努力家な上にドSなとこあるから、そのせいでな。 「はやての感触としては、大丈夫そう?」 「多分な。少なくとも今までよりはずっと安心出来る。月詠幾斗君絡みの事も決着つけてるっぽいし。ただ」 「ただ?」 「無理して逆に視野が狭くなったり色々溜めこむようにならんかどうかは、心配やな。 自分の弱さを、無力さを変えよう思うとる時は・・・・・・やっぱ必死になってまうし」 そこの辺りは恭文とリインに相談しておこうと思いつつ、うちはロッサに全部の体重を預ける。 アレから約3ヶ月・・・・・・どこかで引っかかってた小骨が取れたようで、うちは実にすっきりさん。 もしかしたらまだ子どもなあの子に、めっちゃ重荷を背負わせたんやないかってビビってた。 でも恭文、アンタがあの子を自分の王様やって言う理由がよーく分かったわ。 うちも、また頑張ってみようかな。人の前にまず、自分の・・・・・・うち自身の王様になってくんよ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 夜、家でさぁ寝ようという時に突然メルビナ長官に呼び出された。しかも日付が変わるような時間だ。 やたらと上機嫌なので何があったのかと思いつつも俺は、市街地まで出て待ち合わせ場所の居酒屋に入る。 そこで長官と酒を飲みつつ料理を味わい、なぜ長官が機嫌が良いのかがよーく分かった。 その原因は辺里唯世。今現在蒼凪とリインと共に世界の危機に立ち向かっている小学校の生徒会の会長だった。 そして同時に長官と蒼凪にハラオウン執務官が中々の逸材と見込んだ少年。今日の夜、彼から連絡が来たらしい。 「・・・・・・しゅごキャラというのは、宿主が強く『変わりたい』と思う事で生まれるものらしい」 「えぇ、そう聞いています」 「私はその話を聞いて、彼を見て思っていたんだ」 長官はそう言って、コップに注がれている日本酒を一口飲む。俺もそれに合わせてまた一口。 「その『変わりたい』という気持ちは、自身の王になる第一歩ではないかとな」 自分の王・・・・・・自分という存在を変える程の意志力というか、力を持つ事。 その第一歩としてそういう感情が来るのは、俺にも分かる。ミドウ総大将などを見ているとな。 「だから彼なら、長官の先程の話にあった問題を解けると思ったんですか」 「その通りだ」 長官の予想通りに、その彼は答えを見つけたわけだ。で、それが嬉しくて長官は酒盛りと。・・・・・・納得した。 「なにより蒼凪が師匠じみた事をしているのがまた嬉しくてな。つい世話を焼いてしまった。 想像出来るか? アイツが人に物を教える立場になってるんだ」 「出来ませんね。むしろそういうのを嫌う方だと思っていたんですが」 蒼凪は基本的に自分の手札や培った技術を外に出すのを極端に嫌う。 まぁ戦闘者としての性ゆえだな。だから話を聞いた時、俺もそうだがカミシロ達も信じられなかった。 「別に方針が変わったわけでもない。甘くなったわけでもない。 ただそこを曲げてでも、彼の力になろうとしていただけだろう」 「納得です。それで長官、向こうの方は」 「あの調子なら問題はないだろう。ただ、やはり気にかかるのは例の予言の事だ。 ナナの話では実現する可能性そのものが低いらしい。ただそれでも」 「可能性は確実に存在している。決して0ではない」 そのまま二人で黙って、また酒を一口。それからイカの塩辛をつまんで咀嚼。 「とは言え、しゅごキャラの存在が見えない私などが向こうに行っても意味はない。通常任務を疎かにも出来ん」 「もし予想通りの事態が起こるなら、この世界も大荒れするのが目に見えますしね」 どちらにしても向こうの事はそのガーディアンもそうだが、シルビィとナナに任せるしかない。俺達は起こり得る混乱に備えるべきと。 ・・・・・・しかし、こんな形でまた3年前のように世界の危機に立ち向かうとは思っていなかったぞ。さすがに驚きだ。 「ですが、そんな日を今日にも迎えようとしているのに酒盛り・・・・・・俺達はのんきですね」 「まぁそう言うな。これも祝いの席だ。さすがに今日は早めに切り上げるがな。では」 メルビナ長官は少し赤く染まった顔で微笑みながら右手でコップを上げて、俺に差し出してくる。 「改めて・・・・・・遠い世界に居る小さな勇者達と我々の盟友達の健闘を祈って」 「・・・・・・乾杯」 俺は自分のコップを同じように上げて、メルビナ長官のコップに軽くぶつける。 しかし、しゅごキャラか。・・・・・・ヒマを見つけて一度蒼凪とリインを訪ねてみるか? 警備組織に携わる者として、やはりそういうのは興味があるんだ。 もちろんここは戦力関係どうこうではない。そうだな、俺達が働く意味のようなものから興味があるんだ。 事件には悲しい事が付き物だが、それでもその被害者のたまごも守れるようになっていきたいと・・・・・・そう思ってな。 たまごの中には可能性が詰まっていると聞いている。だったらそれを守る事も俺達の仕事のはずだ。 未だ旅の途中の日々の中で得られた答えが嬉しくて、俺は結局朝まで長官と酒を酌み交わす事になった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 朝、フェイトといつも通りにおはようのキスと行ってきますのキスと行ってらっしゃいのキスを交わして学校に向かう。 フェイトとリース以外のうちのメンバーも全員学校に来てくれて、昨日の事も含めた上で朝一で緊急会議です。 あ、シャーリーとキアラは本局の方に泊まり込んでる。ユニゾウルブレード、もうちょっと時間かかるっぽいから。 でもそこももうすぐ完成。というか、実は向こうも向こうで手勢が増えた。 話を聞いたヒロさんとサリさん、マリエルさんが『面白そうだから巻き込め』って手伝ってくれてるらしい。 三人には改めてお礼のメールを送ったりもして・・・・・・僕達はイースターと猫男の事に集中。 なお、あむが色んな意味でフルボッコにされたのは許してあげてください。だってほら、もう・・・・・・ねぇ? とにかく恭太郎に咲耶の来訪に全員が驚きつつも再会を喜ぶヒマもなく、大事な話です。 「それで唯世、月詠幾斗の事だけど・・・・・・本当にいいの?」 「うん、いいんだ。もう覚悟は決めた。それに、みんなには話しておいた方が良いと思うし」 苦笑気味な顔になるのは、どこかで『今まで色々迷惑かけたし』と思っているからなのはすぐに分かった。 でも・・・・・・唯世ちょっと変わったね。なんか昨日学校で会った時より大人っぽくなってるもの。これも覚悟ゆえか。 「まず、みんなも気づいている通り僕と月詠幾斗・・・・・・イクト兄さんはとても親しかった。それも幼なじみって言うレベルで。 というか、家ぐるみの付き合いだったんだ。うちのお父様とイクト兄さんと歌唄ちゃんのご両親は、学生時代からの親友」 「なら唯世さん、本当に小さな頃から月詠幾斗さんと歌唄さんとはお付き合いがあったんですね」 「えぇ。昨日、イクト兄さんが現れた遊園地にも・・・・・・そんな頃から行っていた場所なんです」 唯世はそこから、紅茶を飲みつつゆっくりと話を続けた。まず、自分達三人が本当に仲良しだった事。 小さな頃の自分が月詠幾斗と歌唄の事が大好きだった事。あと・・・・・・月詠或斗の事。 その失踪に伴って、母親である月詠奏子さんが体調を崩して長期入院を余儀なくされた事。 唯世がそれを知る前、唯世のお父さんから例のダンプティ・キーを手渡された事。 それでそのお父さんはその現状を放置出来ずに、状態が落ち着くまで月詠兄妹を家で預かると決めた事。 そこからしばらくの間、大好きだった『おにーたん』と歌唄と一緒に暮らしていた事。 「ねね、唯世ちょっと待って。それじゃあ最初から歌唄ちゃんとも」 「・・・・・・うん、あむちゃんと蒼凪君にはブラックダイヤモンド事件の時に話してたんだけど、親しかった。 さっきも言ったように幼なじみ? だから内心、彼女があんな事をしてるなんて信じられなかった」 「小さい頃の唯世は月詠幾斗のヴァイオリンもそうだが、彼女の歌も本当に好きでな。 だからまぁ、実を言うと恭文が歌唄と親しくなったのも内心喜んでいたんだ」 「蒼凪君はどこかイクト兄さんに似てるところもあるしね」 ・・・・・・アレ、そのフレーズはなんだかすっごく聞き覚えがあるような。具体的には昨日? それでなぜザフィーラさんとシルビィとティアナとディードは力強く頷くのさ。おかしいでしょ。 「イクト兄さんがあれこれあっても、蒼凪君が居るなら歌唄ちゃんの寂しさも紛れるかなって。 僕はその・・・・・・今から話すけど、その後また色々あって距離が離れちゃったから」 「なるほど、つまり・・・・・・おのれは僕が歌唄の攻勢で困っていたのを喜んでいたと」 「そ、そういう事じゃないよっ! いや、確かにそういう側面もなくはないけどっ!!」 「うんうん、よーく分かったわ。唯世、あとでげんこつ一発ね? それで許してあげるわ。 ・・・・・・で、その時の唯世は二人の事が大好きだったんでしょ? それがどうしてこうなったのよ」 「・・・・・・うん、ここからが重要なんだ。その時実は、月詠或斗さん関連でちょっと嫌な噂が流れてた」 ・・・・・・その噂は僕とフェイトも調べてく中で知った『不幸を運ぶヴァイオリン』の噂。 ぶっちゃけ単なるゴシップに過ぎないんだけど、その影響を唯世のお母さんがやたらと強く受けていたらしい。 というか、唯世のお母さんは親友三人の枠から外れていた事でヤキモチを焼いていたとか。 ちなみに唯世のお母さんとお父さんはお見合い結婚。つまり・・・・・・そういう事ですよ。 それは今も変わらずらしく、そのために妙な疎外感を感じていたお母さんは月詠兄妹に辛く当たった。 特にヴァイオリンが弾けて、月詠或斗と面影が重なっている猫男に辛辣だったらしい。 それでも小さな頃の唯世は月詠幾斗を信じたいと思った。でもそんな時、月詠幾斗が突然に消えた。 失踪からしばらくして月詠奏子さんは例の星名(旧名:一之宮)専務と事実上の政略結婚。 それによって歌唄もそうだし、消えた月詠幾斗も実家に戻った。当然残された唯世はワケが分からない。 その時置いてけぼりにされた事が本当に疑問で、信頼の気持ちは疑念に変わっていった。 でもここはまだいい。疑念があるという事は、相手の事を知りたい・・・・・・理解したいと思っているんだから。 問題はそれから数年後、ある出来事を通してその感情が疑念ではなく完全な『敵意』になった事。 「・・・・・・ちょうどあむちゃんが聖夜小に転校してきてからかな。僕はもうその頃にはガーディアンのKチェアだった。 そこには藤咲さんと結木さん、相馬君が居て・・・・・・ちょうどみんなが知ってるガーディアンの体勢が出来た頃」 「今から2年前の話だ。その時、唯世と辺里家には三つ不幸が襲って来ていた。一つは唯世のおばあ様が倒れた事。 一つは辺里の家の飼い犬のベティが亡くなった事。そしてもう一つは、ダンプティ・キーを奪われた事」 ・・・・・・なるほど、このタイミングで猫男の手にダンプティ・キーが来るわけか。 ここは納得した。でも、他二つは・・・・・・アレ、なんか嫌な予感がする。 「ちょっと待ちなさいよ。キセキ、いきなりなんでそんな話になるの?」 ナナがそう言うのも無理はない。そこは僕も他のみんなも疑問だもの。だって話が飛び過ぎだし。 ただ唯世とキセキの表情を見ると、そこがこの話と繋がっているところではあるらしい。だからさっき感じた予感が強くなる。 「うん、ナインハルテンさんにみんなが疑問に思うのもしょうがない。 ただ、ここは関係があるんだ。・・・・・・あむちゃん」 「なに、かな」 「今から話す事は、あむちゃんにとってはとても不愉快なものになる。かなり傷つけるかも知れない。 僕視点での一方的な部分もあるし、それが嫌なら・・・・・・何も言わずに耳を塞いで欲しい」 あむは少し考えるように視線を落とすけど、それでも首を振った。それから改めて唯世の目を見る。 「ううん、聞く。・・・・・・それはきっと、ちゃんと知らなくちゃいけない事だから」 「分かった」 そう言ってから唯世は軽く目を閉じて、呼吸を数度入れ替えてから目を開く。 「それらの不幸には、全部イクト兄さんが関わっていた」 「・・・・・・え?」 「あの日、おばあ様が倒れた時、イクト兄さんはそこに居た。ベティが死んだ時、イクト兄さんは傍らに立っていた。 それであの日・・・・・・・・・・・・僕がお父様から預っていたダンプティ・キーを、イクト兄さんに奪われたんだ」 こうして明かされるのは、唯世にとっては疑念を敵意に変える程に悲しみに満ち溢れた時間。 それと同時に、唯世が王であるなら乗り越えなきゃいけない過去。唯世は今、自分の『罪』と向き合っていく。 All kids have an egg in my soul Heart Egg・・・・・・The invisible I want my 『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説 とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!! 第116話 『Begins NIght/始まりを超え、その上で手を伸ばすべき未来の形』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・アレは学校から家に戻って来た直後。僕は『ただいま』と言いながら玄関に入った。 でもお母様やおばあ様を呼んでも返事がない。なお、お父様はお仕事中だから当然除外。 それに軽く首を傾げながらも靴を脱いで廊下に上がると、微かに音楽が聴こえて来た。それに僕の身体は固まる。 数年ぶりに聴いた音だけど、すぐに分かった。これは・・・・・・イクト兄さんのヴァイオリンの音だ。 僕はその流れる音を追いかけるように早足で廊下を歩く。それですぐに家の庭の方に出た。 それと同時に音楽が止まった。でも同時に、僕の思考と動きも完全に止まってしまった。その原因は目の前の光景。 目の前にはあの頃よりずっと大きくなったイクト兄さんと、地面に倒れて口を開けたまま動かないベティが居た。 「・・・・・・ベティっ!!」 僕は靴下なのにも構わず庭に駈け出して、ベティの側に駆け寄る。それでベティの身体を触った。 でも、反応がない。息もしていないし、体温も・・・・・・徐々に無くなっていく。 「死ん、でる?」 僕はわなわなと震えながら、無表情に僕達を見下ろすイクト兄さんを見上げる。 イクト兄さんは何も言わない。あの時と同じように、今までと同じように何も言ってくれない。 「どう、してですか。見て・・・・・・見てたんですよね。何が、あったんですか。ベティに、何をしたんですか」 それでもイクト兄さんは何も答えなかった。それに苛立ちを感じ始めた時、次の『不幸』が襲ってきた。 イクト兄さんの手元に輝く鍵が見えた。その鍵の存在に驚きつつも声をかける前に、最後の『不幸』が襲ってくる。 「・・・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 その声は僕達の後ろの方から。見ると縁側の方にお母様が居た。 そしてお母様はしゃがみ込んで、その場で倒れているおばあ様を必死に揺さぶっていた。 「お義母様っ! お義母様っ!! しっかりなさってくださいっ!!」 「おばあ様っ!?」 「・・・・・・やっぱりあなたのせいね」 そう言ってお母様は敵意・・・・・・ううん、憎悪を剥き出した目でイクト兄さんを睨みつけた。 それに強く身体が震える。今までの中で一番お母様に、そして人に恐怖を覚えてしまった。 「全部あなたのせいよっ! あなたが居たからこうなったのよっ! あなたは我が家に不幸を運ぶ不吉な黒猫よっ!! 許さない・・・・・・あなたもあなたのヴァイオリンも、絶対に許さないっ! あなたなんて、あなたなんて死んでしまえっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・イクト兄さんは、何も言わずにその場から消えた。おばあ様はその後すぐに救急車で病院に搬送。 一命は取り留めたけど、それまでみたいに元気に動く事は出来なくなった。それで僕は、イクト兄さんを憎むようになった」 「それが唯世の」 ≪ビギンズナイト・・・・・・ですか≫ ≪その結果あなたは一時期のSirと同じ道を進んだ。 憎むべき敵が不幸をまき散らした事への償いを、断罪を望んだ≫ 「・・・・・・うん」 それが唯世くんとイクトを隔ててしまった過去。唯世くんは話を終えて、少し苦笑気味の表情になる。 「まぁ蒼凪君とリインさんに比べればずっと軽いけどね。でも、確かに・・・・・・うん、あれが僕のビギンズナイトだ。 ただしそれは変革と前に進むための破壊ではなく、単なる間違いの始まり。僕はあの時、間違いを始めた」 ≪そうです。私は・・・・・・Sirがあなたと同じ間違いをしていたからよく分かります。その選択は余りに愚かだ。 目を伏せていては、何が間違いかも正しいかも分からない。それであなたは、分からないからこそそうしてしまった≫ 「その時いったい何があったのか。なんで唯世さんの持ってたキーを奪ったのか。 なにより・・・・・・そのワンちゃんがどうして死んだのか分からないから、嫌ったですか」 唯世くんは表情をそのままに、静かに頷いた。その視線は手元の紅茶のカップの中身に向けられる。 「・・・・・・もし僕やお母様がとんでもない誤解をしているなら、話して欲しかった。 なのにそれも無くて・・・・・・それがイライラして、だから余計に許せなくて」 「そう。・・・・・・でも僕は月詠幾斗の気持ちも少し分かるんだ。まぁ昨日のあれこれを見てるとね? 多分月詠幾斗は、とても臆病なんだよ。本当の事を話して誰かを傷つける事が怖い」 なぎひこはそう言って、両肘をテーブルにつきながら少し視線を落とす。というか、組んだ両手の上に顎を乗せる。 「怖いから何も言わない。全部一人で抱え込んで、不吉な黒猫を装ってしまう」 「うん、それも分かる。それも・・・・・・相馬君と色々話したおかげでね」 「でも今回はそれやられるとマジで困るんだがな。その上アイツ、洗脳解けかけたのにそれだろ? アイツがそんな逃げ根性出しまくってるせいで、じいちゃん達も俺達もてんやわんやだ」 ≪ここの辺り、やはり・・・・・・その突然の失踪してから親の再婚までに何かあったからでしょうか≫ あたし達は自然と視線を動かして恭文の隣に座る恭太郎と、その手元のビルトビルガーの方を見た。 「ねぇビルトビルガー、それってどういう事かな。やや達にも分かるようにー」 ≪簡単な推測ですよ。まず月詠兄妹が互いを餌にイースターから脅迫を受けて、その活動に従事していたのは事実。 それもおじい様が歌唄さんから聞いている話を鑑みると、数年単位でです。それなりの汚れ仕事もしている≫ 「つまり唯世の家に来た時には既にイースターの手先だった? だから何も言えなかったのかしら。 何かを唯世に言うという事は、イースターとのあれこれに深く巻き込む事にも繋がりかねないから」 「・・・・・・その通りにゃ」 あたしの目の前でテーブルに座っているヨルが、俯きながらビルトビルガーとりまの言葉を肯定した。 「イクト、かなり威圧的に言う事聞かされてたんだにゃ。オレにもそこは絶対言わないようにって口止めしてきてたにゃ。 ・・・・・・あのムカつくジジイ、歌唄の事だけじゃなくて唯世やイクトの母ちゃんの事まで持ち出してくる事もあったにゃ」 「僕もっ!? というか奏子さんもって・・・・・・じゃあもしかして二人の結婚は」 「イクトの母ちゃんを人質にするためにゃ」 ≪単純な政略結婚じゃなかったんですね。こうなると・・・・・・恭太郎、おじい様≫ あの、あたしでも分かる。てゆうか考えるまでもない。 ・・・・・・怒りがこみ上げて来て、一気に全員の表情が険しくなる。 「あぁ。多分だが月詠奏子も同じような脅迫されてるぞ。 言う事聞かなきゃ、息子と娘がどうなっても知らないってな」 「つまりお互いがお互いのために身動きが取れない状況を作り上げたわけだよ。 ・・・・・・とことんゲスな奴だね。マジで罪を数えさせなきゃ気が済まない」 ≪というか、ケジメつけてやるの。ジガンもさすがにムカムカなの≫ 「ホントよホントっ! 女の子の夢である結婚をなんだと思ってるのかしらっ!! なによりエンブリオのためにたくさんの人達を傷つけて・・・・・・絶対許せないわっ!!」 だからイクトのお母さんは好きでもなくて、思いっきり年の離れてる相手と結婚した。イクトと歌唄を守るために。 それでもしかしたら、あたしが知識だけしか知らないような事をいっぱいされてる可能性だってある。 そんなお母さんや歌唄を守るために、イクトは不吉な黒猫で通し続けていた。ずっと・・・・・・ずっとだよ。 そんなイクトを守るために歌唄は必死でうたって、自分の夢を見失いかけた。その結果がブラックダイヤモンド事件。 悲しい。イクトの周りには、痛みと悲しみと・・・・・・どうしようもない袋小路ばかりだ。それがとても悲しい。 「シルビィさん、こうなるとこの件は単純にイースターの計画潰しただけじゃ足りないですね」 「ティアナちゃん、その通りよ。まずは星名専務はしっかりと叩いて計画は止める。 その上で月詠一家の現状もなんとか回復させないと。・・・・・・ヤスフミもそのつもりよね」 「もちろん」 話を聞きながら、あたしは少し固まってしまっていた。というか、悲しい気持ちで胸がいっぱいになってる。 昨日の事とか、今までのイクトとの事が一気にリピートして・・・・・・ようやく全てが納得出来た。 「そうじゃなきゃ歌唄と一緒に月詠家にお付き合いの挨拶も出来ない」 「そうね、あなたは頑張らないといけないわよね。だって月詠幾斗は義理の兄になるわけだし」 「・・・・・・うん、知ってる。でもりま、お願いだからそこには触れないで? 僕は絶対アイツをお兄さんとか呼びたくないの。それであむ」 恭文があたしに心配そうな視線を向けてくる。でも、その意味がよく分からない。 「なぜおのれはボロボロに泣いてるのよ」 でもすぐに分かった。あたし、泣いてる。本当にボロボロに・・・・・・昨日よりたくさん泣いてる。 涙を右手で拭っても拭っても止まらなくて、あたしはただ泣き続けている。 「・・・・・・イクトね」 「うん?」 「前にあたしの外キャラの話をした時、遠い目をしながら言ってたんだ。 『そんな風にキャラを作れたら、俺ももっと楽なのかな』・・・・・・って」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「強いな、お前」 「・・・・・・へ?」 イクトは右手でカップの縁に器用に頬杖をつく。そしてあたしから視線を逸らして、遊園地の風景を見渡す。 「そんな風にキャラを作れたら、俺ももっと楽なのかな。・・・・・・この遊園地、昔『みんな』でよく遊びに来てた」 あたしも自然とイクトの視線の先を見る。そこには、夜の闇の中で輝く遊園地の姿があった。 「でも、そう遠くない内に無くなる。終わるんだよな、好きな乗り物を選んで迷ってる時間は・・・・・・終わる」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「あたし、分かった。誰かに嘘をついたりつかれたり、傷つけたり傷つけられたりするのって辛いんだって。 どっちも痛くて苦しくて・・・・・・なら、なら不吉な黒猫がもしわざと人を傷つけて嫌われようとしていたら」 ううん、もう『もし』じゃない。昨日のイクトの中にその姿があった。だから涙が、止まらない。 「イクトの心は・・・・・・どれだけボロボロなんだろう」 「・・・・・・知らないね、そんなの」 それでも恭文はそう言って、ゆっくりと立ち上がる。その表情はとても険しかった。 「そんなのアイツの自業自得だ。状況がどうあれ、それを選んだのはアイツ自身だ。現に昨日は選んだ。 だから僕は同情もしない。それでアイツが死んだとしても心を痛める必要もない。あぁそうだ、あんな奴どうでもいいね」 「恭・・・・・・文」 「でも、それでも助けると決めた。・・・・・・アイツが傷つくと、僕の三人目の嫁が泣く。 夜一緒に寝てる時にアイツの名前呟かれると、さすがにムカつくのよ」 その表情が険しくなるのは、きっと恭文が歌唄の事を思い出してるから。歌唄の笑顔を・・・・・・守りたいから。 「それでぶん殴る。それで突きつける。自分の臆病の中に逃げてるだけじゃ、誰も・・・・・・自分すらも守れないってさ」 「というか、恭文は絶対助けなきゃいけないよね。だって恭文にとっては」 「もうその話はやめてー! マジで辛いんだからっ!!」 次は頭を抱える恭文を見て笑っていたややが立ち上がった。 ややは素早くあたしの方に近づいて来て、抵抗する間もなく両肩を掴まれる。 「あむちー、ややあむちーが嘘ついた事・・・・・・すっごくすっごく怒ってる。もうふざけんなーって言うくらい怒ってる。 ややはこんな事でイクスちゃんの大好きな空が、1000年後の綺麗な世界が消えるなんて絶対嫌だもん」 「・・・・・・うん」 「でもでも、もっと怒ってる事があるんだ。・・・・・・・・・・・・いつまでもうじうじめそめそするなっ!!」 今まで一度も聞いた事が・・・・・・ううん、マリアージュにケンカ売った時と同じくらい鋭いややの叫びが、あたしの耳をついた。 「そもそもそういうのは赤ちゃんキャラのややの役目じゃんっ! そういうの奪わないでよっ!! あむちん本当に情けないよっ! あむちーはめちゃめちゃ主人公キャラじゃんっ!!」 その言葉に驚いて、ジッとややを見返す。ややは軽く鼻息を荒くしながら頷いた。 「しゅごたま四つも持っててキャラなりいっぱい出来て・・・・・・主人公はどっちかっていうと、そういうめそめそオーラを吹き飛ばすのっ!! ややの好きな漫画もアニメもみーんなそうっ! なのにどうしていつまでもめそめそしちゃうのっ!? おかしいよっ!!」 その言葉で、息が止まった。というか、以前司さんが教えてくれた『物語作りの秘密』を思い出した。 「悪いヤツラはバシッとぶっ飛ばして、捕まってる子はズバッと助けて仲直りっ!! それで問答無用に解決っ! それが主人公の生きる道だよっ!! だから・・・・・・もう泣くなっ!!」 そのままややはあたしの肩を乱暴に掴んで、無理矢理に立たせる。 その煽りを受けてあたしが座ってた椅子が音を立てて倒れた。 「やや達はもう泣いてるヒマも、迷ってるヒマもないのっ!! このままクライマックス突っ走るしかないんだからっ!!」 そこまで言って、ややは息を整えながら・・・・・・思いっきり笑った。 それまでの真剣な顔を一旦収めて、いつものややの笑顔を届けてくれた。それで覚悟が決まった。 「・・・・・・・・・・・・そう、だね」 あたしには迷ってるヒマなんてない。泣いているヒマもない。そんなヒマは全部あたしの身勝手で使い果たした。 なにより・・・・・・なによりイクトの『物語』が、みんなが主人公の『物語』がこのまま消えるのなんて、嫌だ。 「みんな、今更だけど手伝って。てゆうか、問答無用で巻き込む。 あたしは・・・・・・あたしはイクトを助けたいっ!!」 顔を上げて、あたしはややを見習って思いっきり笑ってやる。それから決意を言葉にして、思いっきり吐き出してやる。 「イクトを助けて、イースターをぶっ飛ばして、全員揃ってハッピーになるっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・全く。遅いんだよ、アホが。それじゃあ・・・・・・どうする? シルビィ」 「そうよね。こっちの体勢を整えるために、向こうの足取りを追えなかったから。ね、ザフィーラさん」 「すまん。我の鼻でももう臭いは追えん。一応夜が明けてから一度捜索はしたんだが」 「そんなの決まってるじゃん。ここはイースター本社に」 そこまで言ってあむが固まった。というか、汗が一筋頬に流れる。・・・・・・さすがにそれはヤバいと思ったらしい。 「却下よ却下。なによりそこに月詠幾斗が居るかどうか分からないのよ? アンタ、やっぱりお子ちゃまね。嘘の事と言い、行動と思考が短絡的よ」 「うぅ、否定出来ません」 「ならここは、月詠幾斗の行方を掴む事を考えた方がいいんじゃねぇのか? てーか今回の作戦の軸はあの傍迷惑なカッコつけだ。そこさえ押さえられれば」 ≪でも恭太郎、肝心要のあの子の居場所が分からないの。・・・・・・あ、そうなのー。ねーねー、ヨル君≫ ジガンが声をかけると、机の上のヨルが浮かび上がって僕の方に来た。 「なんだにゃ? 謎の声」 ≪むー、ジガンは謎の声じゃないのー。とにかくヨル君はあの子の居場所が分からないの? ほらほら、なんとなくレーダーなの≫ 「あ、それがあったか。というか、最悪その奇妙なヴァイオリンの居場所が分かれば・・・・・・ヨル」 「うぅ、ごめんにゃ」 ヨルは僕達の視線を受けて、一気に肩を落としてしまった。 「オレも全く同じ事考えて、実は昨日遊園地の中で試したにゃ。でも」 「分からないの?」 「そうにゃ。あの音叉の・・・・・・いや、イクトとキャラなりしたあのたまごのせいかもにゃ。 イクトの事がよく分からなくなって、いつもと違ってイクトがどこに居るかもさっぱりにゃ」 「そうなるとランちゃん達のなんとなくレーダーとやらもダメかも知れないわね。・・・・・・ナナちゃん」 「ダメよ。そもそも今までだって反応がサッパリだったのよ? それでどうやって探せってのよ。 やっぱりその黒いたまごのせいよ。それで月詠幾斗自体も妙な事になってる」 つまり今回、僕達のサーチどころかしゅごキャラのみんなのサーチも使えない。 その上で月詠幾斗を捜索するか、イースターの次の行動を調べ上げて・・・・・・か。ヤバい、絶望的だ。 「恭文君、どうする? ほら、さっき教えてくれたエンブリオの出現条件もあるし」 「もしそこにイースターが気づいてしまっていたら、かなり大がかりな作戦を打ってくるかも知れないわね。 出来ればその前に確保したいけど・・・・・・こうなったら覚悟を決めて、私達でイースター本社を制圧するしか」 「りま、落ち着いて。てーかそれやるにしてもまず本社にあのバカなり専務が居なきゃ意味がないよ」 例えば計画の主導者ないしその鍵を確保するという意味なら、イースター社に攻め込むのもまぁまぁ悪くない。 でもそれが確認出来ないのに不用意に手出ししたら、状況を悪化させる。これは本当に最後の最後の手だ。 ≪それでその可能性は限りなく低いでしょうね。向こうだってこっちがそういう手に出る事は予測してるはずです≫ ≪おじい様達、以前ブラックダイヤモンドのライブを襲撃してますから。 こちらが本気であればそういう手に出る輩なのは、既に知られている≫ 「どちらにしてものままじゃ厳しいと・・・・・・よし」 「唯世、何かいいアイディアが?」 「まぁ蒼凪君やフェイトさん達に頼りっ放しもマズいしね。 ここは僕のツテを使おうかなーと。みんな、ちょっと付き合って?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 10数人の集団が学校の中を移動していると、さすがに目立つ。ただそれでも、僕達は唯世の案内である場所に来た。 そこは理事長室。この学校の理事長である司さんの仕事場。どうやら唯世のツテは司さんの事らしい。 「・・・・・・唯世、居ないね」 「うん」 理事長室には、悲しい事に誰も居なかった。でもさっきまで人が居た気配はする。暖房もつけっぱだしさ。 「あ、いけない。私履歴書まだ書いてなかった」 「それでそっちはマジでこの学校の職員になるつもりだったんかいっ!!」 なお、シルビィがなんでそんな事を考えるようになったかを知りたい方は、サイト300万Hit記念小説を御覧ください。 「・・・・・・恭文君、シルビィさんっていったい」 「アレ、マジだったんだ。さすがにあたし冗談だと思ってたのに」 「なぎひこ、あむ、残念ながらシルビィはこういう生き物なのよ。 いつもいつでも本気で生きてるのよ。ポケモンと同じなの。で、どうする?」 「うん、大丈夫。こういう時は」 そう言って唯世は壁際にある本棚にごくごく自然に近づく。 「大体向こうでサボってるんだよね」 それでその本棚に入れてある一冊の本を取り出そうとした。 でも、その本は大体80度くらいに傾くとそのまま動きを止めた。 すると鈍い音を立てながらその本が入っていた本棚が動く。 まず奥に自動的に引っ込んでそれから横開きに動いて、隠れていた通路が現れる。 ・・・・・・なんか頭痛くなりつつも僕はその通路に近づき中を見て、つい頬を引きつらせて笑ってしまう。 「うわ、やっぱりこういう事かぁ」 「うん。・・・・・・え、蒼凪君知ってたの?」 「ほら、学校内サーチする事が多かったでしょ? その関係で」 「あ、そっか」 なんでこんなのが普通の学校にあるのかなーとはずっと疑問だったけど・・・・・・その理由が分かった気がする。 具体的に言うと唯世がこの事を知っていて、その一つが理事長室に繋がってる時点でもうバッチリ。 「まぁその、こういう事なんだよ」 「もしかして、司さんの趣味?」 「半分正解。正確には司さんの家の趣味」 「いやいや、アンタ達何の話してんのよ。てゆうかこれは」 ナナが僕と唯世の間に割り込むように通路を見て、固まった。通路の中には、星空があった。 デフォルメされた星に太陽に雲、たくさんの扉が描かれた不思議な世界がそこにはあった。 その世界の真ん中を走っているのは白い階段。まるで空の上に階段がかかっているようにも見える。 扉も空の上に浮いているように見えて、それが不思議さに拍車をかけている。 「・・・・・・・・・・・・なんなのよコレはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「見ての通りの隠し通路で階段。はい、納得したね」 「納得出来るわけないでしょっ! このバカっ!! なんで学校にこんなのあるのよっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・まぁそんな事を言っていてもしょうがないので、唯世を先頭に階段を進んでいく。 しかし、実際にあるのは知ってたけど中がこんなにファンシーだとは思わなかった。 なお、星や太陽に扉は絵。しかも扉に関してはドアノブだけが本物という念の入りよう。 ただししゅごキャラ用の扉なんていうのもあって、それだけは普通に開いた。・・・・・・でも誰も入りたがらなかった。 「で、でも唯世くん。これなに? ナナちゃんじゃないけど学校内にコレは意味分かんないって」 「えー、でもでも楽しいよー? ややはワクワクだしー」 「ですよねー。リインもワクワクなのですよ。探検してるみたいで楽しいのですー」 「二人とも、そういう話してるんじゃないからっ! この非常識な現実に疑問を持たないっ!?」 「まずこの学園って、司さんの実家の天河家が代々運営してるんだ。 ただその・・・・・・司さんを見てれば分かると思うけど、不思議というかおかしい人が多くて」 唯世は後ろに居る僕達を見ないでどこか疲れたようにそんな事を言った。 まぁその、色々苦労しているんだと思って何も言わない事にした。というか、大体分かったわ。 ≪つまりその代々この学園を預かるそのおかしい方々が、これを作ったと≫ 「・・・・・・そういう事。なお、理由は『面白いから』だね。うん、聞かなくても分かるよ。 司さんもご多分に漏れず自由な人でさ。よくお父様とかに叱られてたのにあの調子なんだよ」 唯世、それはしょうがない。というか背中で泣かないで? あの人はのれんに腕押しに決まってるじゃないのさ。 「・・・・・・唯世、なんつうか俺は咲耶とかに振り回されてるから分かるわ。 それは覚悟決めておいた方がいいぞ? 多分一生治らないだろうからな」 「そうね。その手の人間に出来る事はいつだってたった一つよ。覚悟を決めて、付き合うしかないの」 「えぇ、そうしています。本当に・・・・・・本当にそこは数年前から」 なんか妙な連帯感が三人の間に生まれつつも、階段を上がったり曲がったりまた降りたりしていく。 なんというか聖夜学園、まだまだ謎がありそうで楽しいなぁ。あ、フェイトに土産話が出来たかも。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「恭太郎と唯世君にティアナちゃん、なんだかシンパシー感じてるわね」 「まぁ同じような苦労があるんでしょ。そこだけはよーく分かったわ。むしろ私も感じてるわよ。・・・・・・でもやや」 階段を身長に歩きながら白いワンピース姿のナナちゃんが、隣のややちゃんの方を見る。 「え、なになにー?」 「アンタ、ただの甘えん坊だと思ってたのに中々やるじゃない。さっきの見てスカっとしたわ」 「うぅ、そうかなー。ややのキャラじゃないかなーとも思ったんだけど」 「ううん、そんな事ないよ」 どこか困ったような顔のややちゃんを見つつ、僕はついつい後ろからそう言ってしまう。 すると二人とシルビィさんが少し驚いたように僕の方を見た。 「さっきの、ちょっと感動しちゃったくらいだしさ。うん、凄く良かった。 案外世の中を良い感じに回しているのって、ややちゃんみたいな子かも知れないし」 「あはは・・・・・・そう言われちゃうとちょっと照れちゃうかもー」 ホントに照れたように両手を頭の後ろに当てて楽しそうに笑うややちゃんを見て、改めて思った。 僕に足りなかったのって・・・・・・こういうはっちゃけた勢いなのかなぁと。特にリズムとかと見てるとさ。 「僕も、なんだかずっと分からなかった答えが見つかりそうだよ」 「え、なになにそれー」 「ふふ、内緒だよ」 しゅごキャラが生まれるのには、二つのパターンがある。ここは何度か話しているところだね。 一つはある程度完成された自分の延長線上に『なりたい自分』がある場合。 それでもう一つは未完成な自分を補填する形・・・・・・今の自分に足りない要素が『なりたい自分』として生まれる場合。 前者はややちゃんに相馬君とりまちゃん、それと歌唄ちゃんに転校しちゃった三条君。 後者があむちゃんに辺里君に恭文君。それで・・・・・・僕。つまりリズムもてまりも、僕の足りない部分を補う形になる。 それは抑圧された部分と言っても良いのかも知れない。例えばリズムは男の子として『とぶ』事。 でも、『とぶ』事だけがリズムじゃない。その中には男の子として色々な事をチャレンジしていきたい感情があった。 だから夏休みの時にキャラチェン大暴走したりしてたさ。あれからしばらく経って、なのはさんとも話したりしてやっと分かった。 ならてまりは? そもそもてまりはどうして生まれたんだろう。どうしててまりはたまごに戻ったんだろう。 今までそこが今ひとつ分からなかったんだけど、つまりその・・・・・・僕にははっちゃけ具合が足りない? そういう意味では僕はややちゃんもそうだし、恭文君やヒロリスさん達を見習った方が良いかも知れないね。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ しばらく階段を進んで、僕達は白いドアを見つけた。そこを開けると・・・・・・漂って来たのは紅茶の香り。 僕達がぞろぞろそこに入ると、白い大きめなテーブルに10数個の紅茶が入ったカップが一番に目に入った。 それでその隣には、唯世曰く『自由というかおかしい一族』の現在の代表。その人は僕達を見て微笑んだ。 「やぁ、来たね。ちょうど紅茶が入ったところだよ」 「司さん、お久しぶりですっ! あの、今日はまたまた学校見学に・・・・・・というか、あなたに会いにっ!!」 「いいからおのれは黙ってろっ!!」 右手でどこからともなくハリセンを取り出しつつ、あのバカの顔面を引っ叩いて黙らせた。 「・・・・・・シルビィさん、すげーっすね。俺逆に尊敬するっす」 「アンタ、絶対コイツの事は見習っちゃだめだから。このバカ見習うと人生踏み外すわよ? もう常にこの調子だし」 とにかく全員着席した上で、紅茶を頂きつつもうお馴染みのかくかくしかじかで司さんに事情説明。 ・・・・・・あ、ここがどこか説明忘れてたね。ここ、特別資料棟のプラネタリウムの上の階なのよ。 それでどこをどうしたらここに到達するのか、サーチからアルトがオートマッピングした地図を見てもさっぱりだった。 やっぱり聖夜学園面白いかも。てゆうか僕達が来るのが分かってた事も凄い。出された紅茶は人数ぴったりだったし。 「・・・・・・そっか。そんな事になってたんだね。それでニムロッドさん達が救援に」 「そこは蒼凪君のツテというか縁で」 「そう。やっぱり君はそういう星巡りなんだね」 そう言って司さんは、僕の方をいつものように微笑みながら見る。 「君の星の巡りは本当に面白い。君という一つの星を中心に、それに惹かれたように色んな輝きが集まってくる。 本当なら関わりようのない星達が集まり、みんなでより強い輝きを放って時の流れすら変えてしまう」 「・・・・・・そんな大層なもんじゃありませんよ。ただ僕の周りにはお人好しが多いってだけの話で」 「そうかも知れないね。でも、そんなお人好しなニムロッドさん達が助けたいと思うだけのものが、君にはあるんだよ」 な、なんか恥ずかしいので僕は少し視線を逸らして紅茶を飲む。 それでシルビィがこっち見てなんか誇らしそうに笑って・・・・・・それがまた恥ずかしい。 「それで司さん」 「唯世君、良い顔になったね。うん、君の輝きもまた強くなった」 「あ、ありがとうございます。でも今はそういう話じゃなくて・・・・・・とりあえず過去の事はもう良いんです。 僕だって悪いところがあった。とにかく今はイクト兄さんをなんとかして助け出さないと」 「彼を助けられなければ、イースターの計画も止められない。 ・・・・・・うーん、それならやっぱり悪い事しちゃったなぁ」 司さんはやっぱり微笑みを崩す事なく、紅茶を一口飲む。それを見て唯世が軽く首を傾げる。 「イクト君と唯世君の衝突というか、誤解の原因は僕のせいだね。いや、我ながら考えが足りなかったなぁ」 「あの、司さん。それってどういう事ですか。イクト兄さんと僕の誤解の原因って」 「うん・・・・・・実はイクト君が失踪したの、僕が黙って彼を海外に連れ回してたのが原因なんだよ」 『・・・・・・・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』 当然のようにそこの辺りをついさっき聞いた全員が驚愕の余り叫ぶ。その瞬間、特別資料棟が揺れた。 「ちょっとアンタ、それどういう事よっ! 私達もさっき話聞いたけど、唯世の家族はみんなその事知らなかったっぽいのよっ!?」 「そうですよっ! 突然居なくなって大騒ぎで、歌唄も知らなくて泣きじゃくってたって・・・・・・司さん、アンタマジでなにやったっ!!」 「あははは、そうだよねー。僕もさすがにアレはやり過ぎたかなーって思ってさぁ」 だから今はその微笑みを絶やせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! とりあえず今だけは絶やしていいからっ!! 「いや、実はあの頃イクト君は色々と難しい立場にあってね。一時的にイースターの目を眩ます必要があったんだよ。 本当に急でみんなには説明をする時間も無くてねぇ。いきなり連れ去っちゃう形になっちゃったんだけど」 「ちょっとちょっと、それ完全に誘拐じゃないのよっ! ぶっちぎりで犯罪だからそれっ!!」 「ランスターさんよく分かったね。いやぁ、だから僕も今まで話せなくてねぇ。あははははははは」 笑い事じゃないわボケっ! てーか難しい立場って・・・・・・難しい立場? 確か月詠或斗が失踪して親戚中から総スカンだったよね。いや、ちょっと待って。よく考えろ。 「司さん、本当に笑い事じゃないですからっ! そもそもそれならどうして」 「あー、唯世。ちょっと待って。・・・・・・司さん」 「なんだい? 蒼凪君」 「その『難しい立場』って・・・・・・もしかしてイースターの後継者問題ですか? 月詠或斗が失踪した事で、イースターの後継者の枠が完全に空いちゃったから」 「・・・・・・うん、そうなるね」 僕と司さんだけじゃなく、シルビィとナナと恭太郎、ティアナ達も一気に表情を真剣なものに変えた。 ・・・・・・それはこの問題の大きさのせい。それで僕達がもっと早くに考えるべきだった事実だよ。 さてさて、ここでおさらい。まずあのバカと歌唄の父親の月詠或斗の失踪が問題だったのはどうして? ここは家族を取り残したからとか、そういう事は抜き。その場合出てくる答えはここしかない。 それはイースター創設者だった星名の家の娘である、現在の月詠奏子さんの夫だったせいだよ。 月詠或斗は結婚当時、ある時期がきたらヴァイオリンをやめる事になっていた。 やめた上でイースターの後継者になるための勉強をする約束で、二人は結婚した。 なお、当時のイースター会長であった星名の家のおじいちゃんが亡くなった時がそのタイミング。 その人が亡くなるまでの間に、月詠或斗は天才ヴァイオリニストとして名を上げた。 もちろん月詠幾斗と歌唄も生まれて、月詠家は唯世の家とも交流して幸せに暮らしていた。 ただそれでもやっぱり約束は約束。もし失踪しなければ月詠或斗はどうなっていた? おそらく有無を言わさずにヴァイオリニストをやめさせられて、イースターの後継者になっていた。 今までのイースターのやり口を見ると、そこは簡単に想像出来る。・・・・・・本当に抜けてた。 確かに親戚中から総スカン状態だったけど、それはイースターの後を引き継ぐ人間が誰も居ないゆえの総スカン。 具体的には・・・・・・今現在『御前』と呼ばれてる奴に座る人間が居なかったのがあの当時の状況。 「おい恭文、どういう事だよ。なんでそこで後継者どうこうの話が絡むんだ」 「簡単だよ。その色々あった当時、血縁者の中でイースターの後継者が出来る人間が居なかった。 少なくとも例の政略結婚があるまではね。そうじゃなかったら問題になるはずがない」 イースターという世界的な企業を受け継ぐ皿が無くなってしまったからこそ、月詠或斗の失踪が問題視された。 だからそんな男を選んで子どもまで生んだ月詠奏子さんとその子どもの月詠幾斗と歌唄が総スカンを食らった。 「だから星名専務がイースター仕切ってるんでしょ? そこは問題にならないじゃん」 「あむちゃん、残念ながらそこはかなりの大問題なのよ。 ・・・・・・それなら、その星名専務に指示を出している『御前』って誰なのかしら」 「アンタ達よく考えなさいよ。その当時イースターには、後継者候補は誰一人として居なかったのよね? だったらいったいどこの誰が、そのムカつく専務従えて今のイースターのトップに座ってるのよ」 シルビィとナナは僕がこの質問をした時点で気づいてたから、こんな風に言える。 それを聞いてガーディアンメンバーは、全員ハッとした表情になった。 「そ・・・・・・そう言えばそうだよねっ! そういう星名専務の上が居るって、やや達聞いてたしっ!!」 「というか、それならその御前の位置に星名専務が居てもおかしくないわよ? なのになんでその上が居るのよ。つまりその、今の星名専務はその御前の補佐でしょ?」 それでその御前がエンブリオを欲しがってる。そのために専務がエンブリオを探している。なら、その御前は誰? まずその時のイースターに跡継ぎが居なかったのは事実のはず。なら・・・・・・誰がその枠に収まってるのよ。 「そんな現状こそおかしい話だね。イースターにはその時、後継者に相当する人間が居なかったはずなのに。 他に親戚縁者や候補者・・・・・・いや、そういうのじゃだめなんだろうね。多分月詠兄妹のお母さんがその鍵になってるはずだし」 ≪それならやっぱり、婿養子に入った星名専務が御前の立ち位置で良いんですよ。でもそうじゃない。 今までの話通りなら、確実に御前という存在が・・・・・・でも誰も会った事がないんでしたね≫ 「ならイクト兄さんや歌唄ちゃん、ゆかりさんに二階堂先生が嘘を? いや、騙されてた? でも何のためにそんな事を。やるメリットが」 「はい、そこまで」 司さんは右手を上げて人差し指を立てて、やっぱり微笑みながら混乱し始めたみんなを止めた。 「聞きたい事が溢れているようだね」 それからゆっくりと紅茶のカップと受け皿を両手で持って立ち上がって、窓の外を見上げる。 「でも物語の鍵は自分で開けなきゃ。ホロスコープでは測れない思いもよらない運命も、時には訪れる。 幸運だろうと不運だろうと関係なくね。そんな流れ星がたまにあるから、人生は面白いのさ」 外の空の青さを目の中に刻む込むように外を見ていた視線を動かして、もう一度僕達の方へと向ける。 「君達は今、大きな隕石を受け止めてその流れを変えようとしている」 その言葉で全員胸が締めつけられるというか、軽くドキッとしてしまう。・・・・・・これ、もしかしなくても予言の事? 「どうなるかは分からない。でも・・・・・・自分達の力で何かを成し遂げたいという気持ちはとても大切だ。 というわけで、校門の前に強力な助っ人を用意しておいたから、力になってもらうといいよ。あ、それともう一つ」 司さんはそれから近くのテーブルに移動。カップを受け皿ごとそこに置いた上で、その引き出しを開けた。 そこから取り出した白く薄い本を右手に持った上で、あむに近づいて差し出す。あむは戸惑いながらもそれを受け取る。 「こころの、たまご。これ、司さんの描いた途中で破けた絵本」 「今月のてんびん座のラッキーアイテムは『絵本』。 君は確かてんびん座だったよね? これでカンペキ。さ、行っておいで」 「・・・・・・はいっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 僕達は司さんにお礼を言った上で、そこを通常の出入口から出て校門を目指す。 ラッキーアイテムとかなりのヒントの上に助っ人まで用意してもらったおかげで、その足取りは軽かった。 ただ・・・・・・その前に僕はやる事がある。僕は携帯を取り出して中庭の森を歩きつつフェイトに通信。 サウンドオンリーで顔が見えないのがちょっと寂しいけど、そこは置いておこう。フェイトはすぐに出てくれた。 『はい、もしもし。というかヤスフミ、どうしたの?』 「フェイト、突然で悪いけど星名専務の家族構成を確認したいの。教えて」 『え? あの、今の奥さんは歌唄と月詠幾斗君のお母さんで』 「違う。結婚する前だよ。もし分からないようならすぐに調査して欲しいんだ」 あむ達が歩きながら何事かとこっちを見ているけど、気にしてる余裕はない。 多分・・・・・・多分だけど、僕は真実に触れている。てーかマジでもっと早く気づいてて良かったのに。 『ヤスフミ、ちょっと落ち着いて? それ・・・・・・かなり大事な事かな。 結婚前の家族の構成までは聞いてないから、一度アリサに連絡を取らないと』 「かなりね。えっと、さっき司さんから色々話を聞いてね」 ここで慌ててもフェイトの胎教に悪いので、少し落ち着いてゆっくり話す事にした。 「月詠或斗が失踪した当時、イースターの後継者候補が他に居なかったという事実に気づいたのよ。今さらね。 もし星名専務が本当に今のイースターのトップに居るなら、『御前』という存在そのものが居ない事になる。それに」 『それに?』 「その失踪事件当時、月詠幾斗もイースターの目から逃れるために同じように失踪してたの。 というか・・・・・・後継者候補のあの馬鹿を助けるために、司さんが海外に連れ出してた」 『えぇっ!!』 フェイトが驚きの声を上げる事で、とても心が痛む。うぅ、胎教に悪いよね。 『でもどうして・・・・・・そうか。あぁもう、そうだよね。血筋的にあの子はイースターの後継者になれるんだ』 「何気に御曹司だしね。イースターの創始者の血筋の娘の息子なわけだし」 『それに他に候補者が居るなら、その人に入ってもらって円満解決になるはず。 失踪自体もイースターの中だけでは問題になったりはしないはず』 「でもそういうのは居ないっぽい。仮に星名専務がその御前とするでしょ? つまり御前の存在は嘘。 そんな存在をでっち上げる理由そのものが全く分からない。やるにしても直接的なメリットが少ない」 少し深めの呼吸しながら冷静に考えていく。まず御前という存在は本当に居るとする。ではそれはいったい誰か。 正体不明のその枠にいったい誰が入り込んだ? もしくは誰がその枠に『人を押し込める』? 答えは一つしかない。どちらにしても鍵は星名専務。イースターの現在の表向きの実質的トップも星名専務。 ならこの御前関係の問題にも、確実に星名専務が絡んでると見ていい。つまり星名専務が、『御前』を作った。 「だから星名専務の家族構成が聞きたいの。最悪親しい人間? 例えば仕事上の部下とか、親友とかさ。多分だけど・・・・・・本当に多分だけど」 『御前は星名専務の親しい間柄の人間だと思うんだね』 「うん。あのクソジジイは、自分と深い関係の人間をその後継者に仕立てた」 『なら失踪事件の際、星名専務は体外的な意味合いだけじゃなくて本当の意味でイースター社を根こそぎ乗っ取っている』 「多分ね。というか、他に候補者が居るならここまで好き勝手にさせないよ。 僕がイースターの関係者なら、確実に星名専務を更迭するよ」 多分その『御前』もイースター乗っ取りのグルみたいになってるんだよ。 その上で・・・・・・血筋そのものも乗っ取ってるのかな。ほら、息子とかならそれも可能だし。 それで現在の星名の家にはイースターの事や星名専務を止める力がないのよ。 実質経営から手を引かされてるし、どう足掻いても星名の家の関係者や親しい人間にはイースターを止められない。 こりゃ、今まで思ってたよりこの件は根が深いかも知れないね。話はイースターの今の在り方にまで及ぶ。 そもそも御前がエンブリオを欲しがる理由もさっぱりだし、ここの辺りの事実次第ではとんでもない事になるよ。 ヘタをしたら、イースターそのものがひっくり返りかねない。・・・・・・大量失業者出るかなぁ。 「だからフェイト」 『分かった。すぐに調べてもらう。というか、アリサなら連絡が取れればすぐ分かるかも』 「お願い。じゃ、僕達はこれからあのバカ捜索に行ってくるから。・・・・・・大好きだよ、フェイト」 『ん、私も大好きだよ。それじゃあ気をつけてね』 それでフェイトが切るのを待ってから、通話ボタンを押して通信を終了。 すると隣で空海が心配そうにこっちを見てた。 「なんかすげー話してたな。てーか一気にラスボスの正体に迫ってなくね?」 「まぁね。・・・・・・唯世はザフィーラさんとあむ共々月詠幾斗の事で手一杯だしね。こういうのは僕の仕事でしょ」 「まぁそうだな。でもあの黒猫もアイドルも、マジでゴタゴタしてたんだな」 「けどそれも今日で終わらせる。・・・・・・僕も、一応天下無敵の主人公キャラなんでね」 「あはは、そうだな。でもそれは俺だって同じだぜ? みんな自分が主人公なんだしな。んじゃ、一緒にぶっ飛ばしてくか」 空海は笑いながら左拳を上げる。僕はそれを見て笑い返しつつ、右拳を掲げた。 「了解」 空海と拳をぶつけ合い、決意を新たに真実を探していくために目を見開いていく。 だってそれも『勇気』だから。僕はやっぱり・・・・・・欲張りの知りたがりらしい。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ゆっくりとここからでは見えない校門の方を見ながら、ゆっくりと紅茶を・・・・・・あ、二回言っちゃった。 しかしこのまま見送るのもダメかな。一応僕にも関係のある話ではあるし。ほら、僕唯世君の親戚だしさ。 それであの絵本・・・・・・失われたページには、一つの真実が描かれている。でもそれは拒否された。 それ自体をどうこう言うつもりはないけど、君はその真実を覚えているだろうか。 それとも・・・・・・あの時と同じように、記憶の中から破り捨ててしまっているんだろうか。 「こんな事は絵空事だっ! 何の価値もない・・・・・・!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「御前、失礼します。少々お話が・・・・・・御前?」 そう言いながら軽くノックをした上で、私はその部屋に入る。そこには四角い机と黒い革張りの椅子。 そして壁一面に張られている色とりどりの鉱石や宝石をいれた額縁と、直に石を置いている棚がある。 「やれやれ、また留守か。ここになら居ると思ったんだが」 イースターを引っ張っていくにふさわしい有能な御前だが、困ったところが一つある。 それは・・・・・・失踪癖。時折御前は無断で抜け出して外に出かける。 そんな時、どこからともなく金額的な価値もない石を見つけてくる。だから私はいつもこう言う。 そんなものは無価値だと。石が欲しいならばイースターの力を使って手に入れればいいと。 そんな時、私は必ず窘められる。『ではこの石が、店で売っているのか?』と言って見つけてきた石を突き出される。 そんな石達は確かに店では売っていない・・・・・・いや、売られるようなレベルの石ではなかった。 だがそんな石でもその中には輝きがある。そんな石だからこそ得られる輝きがある。 御前はそう言ってこの部屋に見つけてきた石達も飾る。どんな石でも、気に入ったなら飾り続ける。 ただ金銭的なもので手に入れられる石ばかりでは足りないらしい。正直私にはよく分からない。 だが御前にとって大事というなら、きっとそれは価値があるのだろうと納得している。 そんな石達に目を向けながらも部屋の奥を見るが、そこには誰も居なかった。 「最近御前は無断での抜け出しが多くて困る。側近達にも厳しく言いつけんと。 ・・・・・・やっと、やっとエンブリオを手に入れる手がかりが見つかったというのに」 私は机の上に無造作に置いてあった鉱石を手に取る。なお、手のひらサイズのダイヤモンドの原石だ。 「ひかる・・・・・・もうすぐだ。お前の望むものは全て手に入れてやるからな」 (第117話へ続く) あとがき 恭文「というわけで、最終決戦まで秒読み段階。お話もどんどん進んで行っているわけです。 唯世のビギンズナイト、猫男の幼少期の失踪の原因、そして御前の正体に繋がる仮説」 フェイト「ほ、ホントに色んな話が出てきてるよね。今まで以上にスピーディーだし」 恭文「まさしくジェットコースターだね。でもでも、どんどん加速していったりします。というわけで本日のお相手は蒼凪恭文と」 フェイト「フェイト・T・蒼凪です。・・・・・・じゃあヤスフミ、あのなぞたま編ラストのモノローグとか前回のエンブリオが出てきた時のアレとか」 恭文「まぁそこは次回? ただ僕達視点だと今ひとつ不明瞭なところが多いけど、読者視点だともう確定だよ」 フェイト「星名専務が名前を呟いたりしてたしね。つまり世界的企業であるイースターのトップは・・・・・・うーん、まだまだ分からないね」 (本当ならこの話で正体が分かるところだったんですけど、分量的に次回に回しました。ごめんねー) フェイト「でもまだどうして星名専務が『御前』の下についているのかがサッパリなんだよね。 あとはどうして今まで誰にもバレずに御前の位置にその後継者Xを据えられたのかとかも」 恭文「ここは月詠奏子との結婚が大きいんじゃないの? 月詠或斗との結婚が反対されたのも、それだと跡継ぎ関係が問題になるからだし」 フェイト「やっぱりそういう方向か。つまり結婚当時からイースターの後を継ぐのは月詠奏子さんと結婚した人だけ」 (ここの辺り、一昔前の世襲制を取ったせいですね。最初からその他もろもろな方々は候補外だったわけです) 恭文「ここは劇中で言ってたけど、他に候補者が居るなら失踪が問題になるわけがないんだよね。 そもそも月詠或斗がダメならその他の候補者に任せちゃえばいいだけの話だもの。いや、むしろ」 フェイト「最初から任せるわけがない」 恭文「そうなるだろうね」 フェイト「つまり失踪当時イースターのトップは本当にがらんどう状態で・・・・・・そこに今の星名専務が入り込んだ。 政略結婚によってイースターのトップの椅子の鍵になる奏子さんを手中に収めて、後は・・・・・・幾斗君だね」 恭文「うん、ここ大事なとこだね。・・・・・・月詠或斗がダメなら、当然その息子の猫男に視線が集まるわけよ」 フェイト「ここが司さんの言っていた『難しい』立場。幾斗君はイースターの後継ぎ候補になる資格がある。 というか・・・・・・普通なら凄いって言うとこなんだけど、環境があんまりだしなぁ。羨ましくもないかも」 恭文「・・・・・・でも分からないとこがあるんだよね。なんでわざわざ自分じゃなくて他の人間を御前に? だって裏切るかも知れないし、クビにされる危険性もあるし、そのままイースターソイツに乗っ取られる危険もあるし」 (むむ、そこに気づくとは・・・・・・やはり天才か) フェイト「親族や親友の類なら・・・・・・分からないね。だって今までが今までだし」 恭文「あっさり自分が今までそうしてきたように、切り捨てられる可能性はあるしね。てゆうか、テンプレでしょコレ」 フェイト「でもほら、星名専務自体も普通なら孫が居るような年齢だし、先の問題もあるし」 恭文「だから先がある相手に引き継ごうと・・・・・・どっちにしてもはた迷惑な」 フェイト「とにかく次回、状況が慌ただしく動きつつもヤスフミ達は幾斗君の捜索に出ます。というか、出てます」 恭文「懐かしいあんなキャラも登場しつつ、ついに最終決戦。予言・・・・・・ううん、そんなの基本ついでだ」 フェイト「ヤスフミ?」 恭文「ガーディアンの仕事は、聖夜小のみんなが楽しく学校生活を送れるようにする事。 それだけじゃなくてこころのたまごを助けていく事。僕達は、その仕事を全力で通していくだけ」 フェイト「そっか。でも今回の仕事は・・・・・・それだと相当大きな仕事になるね。 だって世界中みんなのたまごを助けていかなきゃいけないんだから」 恭文「それでもいつも通りにハードボイルド貫いて・・・・・・エピローグまでクライマックスでいくだけ。 というわけで、本日はここまで。次回からきっとStS・Remixの最終決戦張りに大変になりそうだと思う蒼凪恭文と」 フェイト「フェイト・T・蒼凪でお送りしました。みんな、頑張れー!!」 (というわけで、次回からついに最終決戦。とまと本編史上最大の総力戦になる・・・・・・はず。ちなみにJS事件は軽く超えます。 本日のED:claris『コネクト』) 恭文「・・・・・・A's・Remixの僕の初めての相手を選ぶ投票で『ヘイハチ』って入れたミルフィーユハヤテ。 それに『この後で八神恭文にバージンをもらわれる女の子投票』とかいうのを提案した人、後で職員室にくるように」 フェイト「なにそれっ!? というか、さすがにヘイハチさんはないよっ!!」 恭文「ちなみに後者はアレだよ。A's・Remixの僕に初めてを上げる女の子をピックアップだよ。 ・・・・・・さすがにやらないよっ!? いや、かなりマジでっ! そこいくとまずそうだしっ!!」 フェイト「そ、そうなるよね。でも・・・・・・ヤスフミ、現時点であの投票凄い事になってるような」 恭文「なってるね。それも史上最大レベルだよ。前二回の普通の人気投票よりずっとカオスって。 しかも金髪ズやリリカルなのはヒロインズとかデジモンヒロインズとの複数プレイとか選択肢に入ってるし」 フェイト「ねぇ、さすがにそれどうなのっ!? お互いある程度積み重ねがあるとかならともかく、ヤスフミはこの時点で初めてだよねっ!!」 恭文「そうなるね。・・・・・・本編な僕には関係ない話でよかった。いや、マジで」 フェイト「うん、そこは私もそう思う。だから泣くのやめよ? あの、あっちはあっちなんだから」(なでなで) (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |