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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第36話 『ペイン・トゥ・ペイン』



リイン「前回のあらすじ。ティアが愛の告白したです」

サリエル「なんというか、大胆だよな。後々、バレないことを祈るばかりだよ」

リイン「ですね。というわけで、今回はエリオとキャロのお話なのです」

サリエル「・・・・・・ここ、カットでもよくないか? ほら、俺ももっと登場したいし、ヒロの奴がまたループしたってうるさいしよ」

リイン「何やる気なくしてるですかっ!? それはダメですよっ!!」

シオン「だって、ヒロの奴がどんどん殺気立ってんだぞっ!? いい加減怖いんだよっ!!」

リイン「大丈夫です。きっとこの後大活躍ですから。というわけで、StS・Remix・・・・・・始まるですよー」

タツロット「テンション、フォルテッシモ〜♪ みなさん「竜」は大体ご存知ですよね?
そもそも「竜」とは、中国を象徴する聖獣とされ、西洋にも伝わっていますが、そちらは恐竜の類だという意見が多いのです」

リイン・サリエル「「え?」」

タツロット「神の眷属であるとされ、水の神として強力な魔力を誇っていたのです」





(突然に出てきたのは、金色の小型の龍)





タツロット「夏王朝時代においては竜を制御する技術あったそうですが、皇帝の徳が下がるとともに、その技術も絶えてしまったそうです。
だから竜を使役するキャロちゃんは中々凄いんですよ♪ というわけで、ウェイクアップ フィィィバァァァァァァァ〜♪」

キバットバットV世「ちょっとっ! タッちゃん! いつ来たのっ!?」

サリエル「それはこっちの台詞だっ! お前らなぜに出てきたっ!?」

タツロット「当然じゃないですか。拍手で私が読むべき事項が来たので」

キバットバットV世「俺は・・・・・・いや、なんか居心地良くて」

サリエル「そんな理由っ!? 頼むからお前ら帰れよっ! やっさんが何気にお前らのパートナーに菓子折り持って謝りに行ったりしてるんだしよっ!!」

キバットバットV世・タツロット「「えー!?」」

サリエル「『えー!?』じゃないよっ! 俺らがその台詞言うべきなんだからなっ!?」

リイン「とにもかくにも、改めて・・・・・StrikerS・Remix、始まるですよー」

キバットバットV世・タツロット「「ウェイクアップッ! フィーバァァァァァァァァァァァァっ!!」」

サリエル「だからお前ら帰れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・失敗した。真面目に僕達はそれを痛感してる。

あの召喚師の子の攻撃を止めようとして、フリードで飛び立った。

だけど、それがダメだった。スバルさんもそうだし、ティアさんともはぐれた。





もしかして、攻撃をしたけど当てるつもりが無かったとか? ・・・・・・ううん、そうだ。

だから、ガジェットU型をどこかのサーフボードみたいにしながら、あの子は僕達から逃げる。

どんどん、最初の降下ポイントから離れる。向こうの手の平の上で、僕達は踊っていた。





・・・・・・巨大化したフリードの背中に乗りながら、僕達は廃棄都市部をひたすらに飛ぶ。

途中、あの子が振り向いて誘導弾を掃射してくる。それを、キャロが撃ち落とす。

キャロ、なのはさん達から迎撃用にってことでそういう魔法教えてもらったから。





なので、現在僕は・・・・・・あははは、普通に乗ってるだけなんだ。

下手に飛び出したら、撃ち落とされるだけだろうし。だから、警戒している。

まだ、あの子の札は全部じゃない。別に召喚術の事じゃない。





あの時・・・・・・ホテル・アグスタの時と、地下水路で恭文さんと二度戦った、アイツが居ない。










「・・・・・・エリオ君、私達失敗しちゃったかな」

「失敗かどうかはともかく、僕達が相手の手に乗っちゃったのは、事実だよね」



・・・・・・そうキャロに言った瞬間、僅かに何かが破裂するような音が聴こえた。

角度は70度弱。方角は7時方向。そこから、何かが迫ってくる。



「キャロ、一旦離れるね」

「え?」



僕は、咄嗟に上に跳んだ。跳んで、すぐにストラーダでブーストをかける。

ストラーダのメインブースターに火が付いて、僕の身体はその方向へと突撃する。



「エリオ君っ!?」



キャロの声は気にせずに、ストラーダを袈裟に叩き込んだ。そうして、捉えた。

黒い・・・・・・黒い人型の虫を。紫色のマフラーを靡かせながら、ソイツはそこに居た。



「確か、ガリューって言ったよね」



僕の打ち込みは、右手の爪で止められていた。・・・・・・硬い。

恭文さんは、これや腕を魔力無しで斬ったり出来たっていうのに・・・・・・やっぱり、僕は弱いな。



「悪いけど・・・・・・止まってくれないかな」





ガリューはあの子の召喚獣。さっきから姿が見えてなかったから、警戒はしていた。

互いに突撃の勢いを殺されて、僕達はちょっとずつ落下していく。

それで気づいた。恭文さんに斬られた左腕が、元に戻っているのに。



・・・・・・いや、違う。ここだけ金属になってる。ガリューは、その銀色の左手を握りしめた。





「くっ!!」





僕は、ストラーダを握りながら身を縮める。

そうして一気に腕を伸ばして、その力だけで無理矢理に後ろに飛ぶ。

僕、基本的に空は飛べないから。こういうアクションでも使わないと、無理。



訂正。僕が飛ぶ前に、ガリューは左の拳を叩きつけてきた。

その拳を、ストラーダでガード。僕は、衝撃と共に上に飛ばされた。

ガリューは、当然のように僕に突っ込んできて、追撃をかけてくる。



・・・・・・ストラーダのサイドのサブブースターを、展開。





「ストラーダ、フォルムツヴァイッ!!」

≪了解≫





というか、形状変換だね。その間にも、ガリューは突っ込んでくる。

それに、身体の奥から恐怖が溢れてくる。・・・・・・うん、怖いよ。

でも、何もしない言い訳も、それから逃げる言い訳も出来ないから、全部抱える。



僕はもう、人形になんてなりたくない。そんな自分は、消し去りたい。

・・・・・・これは、ちょっと違うな。それを自分で選んでた時間も、僕自身だから。

きっと、これは罪。僕が数えて、向き合う必要のある・・・・・・罪。



そう思い、ストラーダを握り締める力を強める。ガリューは、もう目の前にまで来ていた。

僕はまだブースターを点火しない。まだ、まだ・・・・・・もうちょっと。

また、少しずつ落下しながら見えるのは、ガリューが右手が僅かにブレる光景。



その瞬間を狙って、僕はストラーダのサブブースターを点火。身体を時計回りに回転させる。

回転しながら、一回転するまでにブースターの勢いを強める。それにより、僕の機動は左に逸れた。

ガリューの突撃は、僕の真横を通り過ぎて外れる。そのまま、背中を狙って・・・・・・ストラーダを叩き込んだ。



刃が打ち込まれる直前に、カートリッジを2発ロード。ストラーダの白い刃に、金色の雷撃が纏われる。





「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





背中にマトモに僕の攻撃を喰らい、ガリューは地面に激突する。・・・・・・よし、上手くいった。

恭文さんが前に、フェイトさんとヴィータ副隊長の突撃に対して行なったカウンター技。

シグナム副隊長とアースラで模擬戦闘してる時に思い出して、機会を見つけて練習してた。



・・・・・・前だったら、絶対使わなかったよね。僕、あの人に対してひどいヤキモチを焼いてたんだから。

そして、当然の如くこれで終わらない。ガリューは立ち上がり、再び空中に居る僕に突っ込んでくる。

僕は、ストラーダのメインブースターを点火。最初と同じように、真っ直ぐにガリューに突っ込む。



ストラーダの切っ先を突き出しながら、ただ前・・・・・・ひたすらに、前に。



自分の中の怯えも、迷いも、後悔も、全部を抱えて、僕は閃光を目指す。





「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」





僕とガリューは、一瞬だけ交差。切っ先と爪は本当に一瞬だけぶつかり、摩擦し、行き違う。

互いに手傷は無し。僕はそのまま、地面に着地。大きく跳びながら前転する。

ガリューが、振り返りながら弾丸を撃ち放っていたから。弾丸は、僕がそれまで居た箇所を撃ち貫く。



立ち上がり、数度後ろに大きく跳びながら、続けてくる弾丸を回避。ストラーダを構えて、切っ先を向ける事も忘れない。

数度目の着地の瞬間を狙って、ガリューが突っ込んで来た。右手の爪を、僕に向かって上から突き立てる。

同じように跳んで避けると、ガリューの爪が地面を・・・・・・砕かない。ガリューは、右手を地面に当てていた。



腕が捻られて、ガリューの身体が鋭く回転する。左方向から、右足で蹴りが跳んできた。

空中に居たため、ストラーダを前に出して防御するしかなかった。そのまま、僕は吹き飛ばされる。

後ろのビルの壁に、身体を回転させながら着地。・・・・・・ガリューは、もう前から突っ込んできてる。



跳ねるようにして、ガリューの上を飛び越した。ガリューの爪が、ビルの壁を粉々に砕く。

地面に着地して、再びメインブースターを点火。前に突っ込みながら、ストラーダを突き出す。

ガリューは左手をかざす。手の平を開いて・・・・・・それで、僕の攻撃を防ごうとしているように見えた。



でも、そうじゃなかった。手の平の中央が、音を立てて開く。見えたのは砲口。



その砲口から、紫色の奔流が放たれた。僕は、咄嗟に魔法を発動。





≪Sonic Move≫










右に大きく跳んで、距離を取る。そうして、その砲撃を避けた。

砲撃は、向かい側のビルに大きな穴を開けた。・・・・・・驚くしかなかった。

というより、アレはなに? 明らかにあの部分だけ異質じゃなかったら、あのまま終わってた。





スピードは、今のところは互角。攻撃力・・・・・・向こうの方が上かも。

遠距離攻撃が出来るという点だけでも、アドバンテージになってる。

なにより、あの砲撃だよ。タイムラグも無しで、いきなり撃ち込んで来た。





下手に真っ直ぐは突っ込めない。いや、零距離で動きを止めるのもアウトだ。

そうなると、空中戦は極力避けた方が良い。向こうは飛べるけど、僕は飛べない。

総合すると・・・・・・向こうの方が有利で、僕は不利。





キャロと合流するの、相当時間がかかるかも知れない。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS Remix


とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常


第36話 『ペイン・トゥ・ペイン』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・あの子は、唐突にあるビルの屋上に降り立った。

だから私も、同じように降りる。フリード・・・・・・一旦ミニモードにした。

今にも崩落しそうなビルだから、フリードが乗ったら壊れちゃうかも。





そして、あの子は私を見る。無機質で・・・・・・冷たい瞳で。

エリオ君の状態が気になるけど、念話はティアさんの話では向こうに傍受されてる。

下手に連絡を取っちゃうと、却ってエリオ君に迷惑をかける。だから、ここは私だけ。





きっと、これが私達の払うべきツケなんだ。一度現実から逃げて、ここまで勝てなかった、対価。










「・・・・・・ルーテシア・アルピーノさんだよね」



その子は、無機質な目のまま右手をかざす。

かざして、左手の中に光が生まれた。それが私に向かって、放たれる。



≪Protection≫



右手をかざして、防御魔法を展開。桃色の障壁が、あの子の放った衝撃波を放った。

・・・・・・遠慮なし、かぁ。これは、本当に慎重に話さないと、ダメみたい。



「私は、機動六課ライトニング分隊所属の、キャロ・ル・ルシエ。あなたと同じ、召喚師なんだ」

「・・・・・・知ってる」

「え?」

「ホテル・アグスタの時、地下水路の時、海上でガジェットを倒した時」



その子は唐突に喋り出した。というか、最後の・・・・・・あ、エリオ君が恭文さんと戦った日の昼間だ。



「私の邪魔をした子。そして、ガリューを傷つけた人の仲間」



・・・・・・恭文さんの事だ。まずい、相当に怒ってる。

瞳が殺気立ってるし、私の事、完全に敵視してる。



「だから、倒す」

「待ってっ! お願い、話を聞いてっ!? ・・・・・・どうして、こんなことするのかな。
お願い、教えて。そうじゃないと、私達もワケが分からないの」

「あなたには、関係ない」



また砲撃が放たれる。私は当然、前方に魔法を展開。



≪Protection≫



・・・・・・恭文さんやフェイトさんとかなら、速攻で叩き潰す手札、あるよね。

でも、私はフルバックだもの。攻撃手段なんて、召喚獣ありき。だから・・・・・・一気には無理。



「もしかしたら、関係があるかも知れないでしょ? まずは、話して欲しいの。・・・・・・お願い」

「・・・・・・母さんを、助ける」



その子は、少しうんざりしたような声で、そう言った。

とても小さくて、細い声だけど・・・・・・ちゃんと聴こえた。



「え?」



お母さん・・・・・・スバルさんのお母さんのお友達の、メガーヌ・アルピーノさん?

でも、ちょっと待って。メガーヌさんは、生死不明で・・・・・・ま、まさか。



「ルーテシアちゃん、もしかしてそのためにレリックを?」



ゼスト・グランガイツという人や、この子もレリックの力で能力を上げられてるって会議で言ってた。

それだけじゃなくて、ゼスト・グランガイツに至っては蘇生させられてるらしい。



「・・・・・・なんで分かるの?」

「ここに来る前に、色々とね」



つまり、この子のお母さんはレリックによって蘇生が可能な状態で、どこかに安置されてるんだ。

それを餌に、スカリエッティはこの子を利用して・・・・・・許せない。



「そっか、ルーちゃんはお母さんを助けたいんだね。
だから、レリックを探してるし、あの人達に・・・・・・手伝ってもらってるのかな」

「そうだよ」





許せないけど、冷静にならなくちゃ。・・・・・・この子を、下手に刺激したくない。否定もしたくない。

この子のやってる事はともかく、お母さんを助けたい』思う気持ちに、嘘は無いはずなんだから。

だから、この子は迷いなく私達に攻撃出来る。恭文さんにあれだけ言われても、ここに居る。



そして、そんな感情を・・・・・・あの人達は、利用し尽くしてる。やっぱり、許せないよ。





「レリックだったら、なんでもいいのかな」

「違う。レリックの11番があれば、助けられる。そうすれば、私は心が生まれる。
私は空っぽだから・・・・・・母さんを助ければ、心が生まれるって、ドクターが教えてくれた」



・・・・・・矛盾を感じた。でも、それは今はいい。大事なのは、この子に伝える事。

私が敵じゃないって、伝える事。分かってもらう事。全部、それから。



「そうなんだ」



だけど、感じてる怒りと苛立ちは拭えない。私は、少し笑いながらも右拳を強く握り締める。



「じゃあ、本当に一生懸命探してるんだよね。お母さんの事を、助けてあげたいから」

「そうだよ。・・・・・・あなた、どうしてそんな風に私の話を聞けるの?」



でも・・・・・・11番、確かそれって、もう局の方で確認されてたはずじゃ。

そうだ。確か最初に発見されて、確保されたレリックの刻印ナンバーが、それだったはず。



「家族も、仲間も・・・・・・心もあるのに。なにより、あの部隊の人なのに」

「そんなの、関係ないよ。・・・・・・私が、あなたのお話を聞きたいんだ。
戦いたいんじゃない。傷つけたいんじゃない。ただ、お話したいだけなの」



私は、両手を伸ばす。ゆっくりと・・・・・・優しく。それにあの子が、若干警戒の視線をぶつけてくる。

だけど私は、そこから動かない。魔法の発動もしないし、フリードにも下がらせてる。だから、あの子は警戒を緩める。



「あなたが、どうしてそんな風に頑張るのか、知りたいだけなの。理由も知らずに、傷つけ合いたくなんてない。
私達、よく考えたらそこを互いにお話した事、無いでしょ? それはあなただけじゃない。他の人達の事も」

「・・・・・・みんなも?」

「そうだよ。まぁ、その・・・・・・局員だから、他の人達はこう、どうしてもって部分はある。
でも、私はそれはやめた。だって、あなた達の頑張る理由を知りたいから」



本当は、もう分かってる。分かってるけど、私は笑う。腹立たしいのを隠して、笑う。

戦う事じゃ、ただこの子を一人にするだけだから。だから、笑って手を差し出す。



「もっとお話、してくれないかな。事情が分かれば、私からみんなを止める事も、出来るかも知れない。
ううん、もしかしたら一緒に11番のレリックを探して、見つける事が出来るかも知れない」

「そんなこと、無理だよ。だって、私達は敵同士なのに」

「あなたと管理局は敵でも、私とあなたは違うよ。
私は局員だけど、管理局になった覚えはないよ」



自分を内心嘘つきだなって思いながら、私は笑いかける。

・・・・・・和平の使者は、槍を持たないものだって、ヴィータ副隊長が教えてくれたから。



「・・・・・・力に、なりたいんだ」



だから私は、この子に対して槍を持たない。力をもう向けない。今、決めた。

だって私は、この子に止まって欲しいだけだから。



「もしも本当に、あなたのお母さんを助けるのに、あなたの心を生み出すのに必要なら、そうしたい。
もちろん、必ず助けられるとか、そういう保証はその・・・・・・ちょっと出来そうにないんだけど」

「・・・・・・あなた、やっぱり変だよ。私やドクター、ナンバーズのみんなとは違うのに、どうして?」

「そうかも知れないね。でも、違うから仲良くなれないは、もっと違うんじゃないかな」

『いいえ、違わないわぁ』



突然に私達の間を遮るように、通信画面が開く。開いた画面の中に映るのは、一人の女性。

メガネをかけて、栗色の髪を二つ結びにして・・・・・・そして、あのスーツを着ている。



『ルーテシアお嬢様、もうだーめですよぉ。こんなガキンチョの言葉に耳を傾けちゃ。
コイツらと私達とは、違う人間なんです。違うから、分かり合えない』



一目見て分かった。この人・・・・・・ナンバーズだ。



『ゴミと人は話せないでしょぉ? それと同じ。本当に、ルーテシアお嬢様は純粋なんですねぇ』

「・・・・・・でも」

『もうもう、純粋だから簡単に騙されちゃう。仕方ありませんねぇ。・・・・・・ポチっとな』



そう呟いた顔を見て、私は寒気を覚えた。とても冷たく・・・・・・怖い微笑みに見えたから。

それは、あの時見たあのフォン・レイメイの微笑みにも似てて、デジャブまで覚えてくる。



「うぅ・・・・・・うぁ」



その寒気に身を震わせる余裕もなく、ルーテシアちゃんに変化が起きる。

身体が震え、瞳から涙が零れて・・・・・・声を上げた。



「うぁぁぁぁぁぁぁっ! うぁぁぁぁぁぁんっ!! ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ルーテシアちゃんっ!!」



足元に、紫色の召喚式魔法陣が幾つも展開。展開して・・・・・・う、嘘。

召喚獣が、大量に出てきた。ガリューよりも大きくて、黒い巨大なカメムシみたいなのが。



「あなた、何をしたのっ!!」

『簡単よぉ。あなたを殺すのに、迷わないようにしてあげたの。ふふふ、バカねぇ。
あなた達と私達は、絶対に分かり合えないわ。下等生物は、結局下等生物なのだから』

「・・・・・・知ってる? それは人を見下す時に、1番よく使われる常套手段だよ」



両の拳を、痛くなるくらいに握り締める。怒りを・・・・・・悲しみを抑えこんで、私は口にする。



「下等生物は同じ下等生物のことを、そうやって見下すんだって。つまり」

『・・・・・・黙りなさい。この虫けらが』



・・・・・・恭文さんから借りたディスクに、こういう言い方をした挑発をするエピソードがあった。

というか、人としては最低だよね。でも、返し方としては大事か。



『ふん、まぁいいわ。そのまま、Fの遺産と一緒に死んでなさい』



そのまま、通信画面が消える。だから私は、目の前のルーちゃんを見る。

・・・・・・こうなったら、フリードにもう一回大きくなってもらって、迎撃するしかない。



「・・・・・・殺して、やる」



でも、あくまでも迎撃。ルーちゃんは傷つけない。だって、そうするって決めたから。

・・・・・・ううん、違う。そうしたいの。それが、私の戦いだと思うから。



「みんな、殺してやるっ! 私達の邪魔をするなら、みんなみんな・・・・・・殺してやるっ!!」



ルーちゃんの足元に、巨大な魔法陣が更に浮かんだ。・・・・・・何、この巨大な魔力反応。

ううん、私は知ってる。知ってるから、同じように術式展開。



「竜騎、召喚」

「全て、叩き壊して」



私達の後ろに現れるのは、巨大な黒き龍と白い・・・・・・虫? うん、虫だよね。

体長は15メートル程。私達それぞれの呼びかけに応じて、究極の1と1は対峙した。



「ヴォルテールッ!!」



私は、私の呼んだ竜の名を呼ぶ。あの子も、同じ。

ヴォルテールと同じ体長で、二本足で立って、力と存在をただ示し続けるあの子の名前を呼ぶ。



「白天王っ!!」










互いに両腕を組んで、にらみ合う。そして、腕を解く。ゆっくりと右手を振りかぶり、拳を握りしめた。





そのまま二体は互いの拳を叩きつける。その衝撃で、私達の居たビルは崩落した。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ヴォルテールッ!?」



ガリューと先程と同じ場所で数度交差して、斬り合っていた。

鍔迫り合いをしている時に、僕は気づいた。白と黒の巨大生物が、殴り合いを始めたのを。



≪・・・・・・離れた方がいいかと≫



うん、そうだね。だって、ヴォルテールが白い召喚獣の両肩を掴んで、ぶん投げたりしてるし。

というか・・・・・・あぁ、ビルが派手に壊れてる。スバルさん達と離れて、むしろ良かった?



≪回避してくださいっ!!≫



言われて、上に宙返りするように跳ぶ。放たれた砲撃を、それで避けた。

ストラーダのサブブースターを点火。回転しながら、その攻撃の直後を狙って斬りつける。



「ストラーダ」



当然のように、ガリューは右手の爪でそれを受け止める。

受け止められるのは、もう分かってる。だから、すぐに次の行動に出てる。



「フォルムドライッ!」



瞬間的にストラーダをモードチェンジ。魔法戦闘に特化した、ウンヴェッターフォルムに変化。

カートリッジを3発ロード。ガリューの次の行動が始まる前に、雷撃が爆発する。



「サンダーレイジッ!!」



雷撃はガリューを、周辺の地面や瓦礫を焼いて・・・・・・弾けた。

ガリューはその爆発に吹き飛ばされながらも、地面を滑るように着地。



「くっ!!」



僕は身を翻しながら着地して、再び対峙。・・・・・・てゆうか、キャロ何やってんのっ!!

いや、あの白い召喚獣に対抗するためというのは分かるけど・・・・・・それでも無茶だってっ!!



「ガリュー、待ってっ! このままじゃ僕達も」



どうやら、話を聞いてくれる気になったらしい。ガリューが追撃するかと思ったんだけど、動きが止まったから。

・・・・・・そして、自分の考えが甘いものだと気付かされる。ガリューの身体が、震え始めたから。



≪・・・・・・今、レディから連絡がありました≫

「キャロから?」

≪はい。召喚師ルーテシア・アルピーノは、敵側の戦闘機人の遠隔操作により暴走≫



ガリューの背中から、まるで身体の撃ちを食い破るように黒い触手が何本も生える。

まるで何かの太めのワイヤーのようにも見えるそれが、紫色の血でぬめりながらもうねる。



≪状況からして、元々殲滅戦用の使い捨ての駒としての運用方法も、考えられていたと思われる≫

「だからこその、暴走」

≪レディはそう見ています。確かに、ヴォルテールを除けばアレに対抗出来るのは、ここには存在しません。
蒼凪氏の師匠である伝説のマスター、ヘイハチ・トウゴウが突然に現れたりしない限りは、確実に私達の負けと判断します≫

「そう。でも、それはあり得ないから、ヴォルテール頼みだね」





・・・・・・キャロは、フェイトさんと会う前はフリードの制御も全く出来無かった。

だから、キャロ単独で戦場に放り込んで、そういう使い方をするしか無いって言われてたらしい。

つまり、あの子も向こうから見ると、そういう切り捨て方を元々考えられていた。



召喚獣の能力は、フリードやヴォルテールだけを見ても一介の魔導師のそれを大きく超えてるもの。



文字通り、桁が違う。もしあの白い二本足で歩く召喚獣がヴォルテールと同じ真龍クラスの場合、それも充分可能だ。





≪とにかく、現在出ている召喚獣はあの白いのも含めて、全て暴走しているとの事です≫



右手の爪が、より大きな形になる。そして左手の義手が、禍々しい爪になった。

ガリューの身体に不釣合いなくらいに大きく、僕の頭なんて軽く握り潰せそうな大きさ。



「・・・・・・だから、あれ?」



四つの瞳から、紫色の血・・・・・・ううん、涙が溢れ出す。

そのままガリューは、上を向いて大きく声を上げた。



≪でしょうね。・・・・・・どうしますか?≫

「止めるしか、ないよね。向こうはもうヴォルテールに任せるしかないけど、こっちは・・・・・・やれる」





ガリューの視線が、こちらに向く。向いた瞬間、触手がこちらに飛んで来る。

僕は、後ろに跳びながらストラーダを振るう。襲ってきた触手を全て斬り払っていく。

着地際を狙って、両側から来たのは後ろに一歩下がりつつ、左薙に一閃して仕留める。



後ろから来たのは、右に動いて同じように斬る。とにかく、足を止めない事を方針にした。

そうして、全ての触手が切り払われたのを見計らって、ガリューが突っ込んできた。

さっきまでと違う。荒々しく・・・・・・足を動かして、ただひたすらに直進してくる。



僕は、一瞬だけ同じように攻撃するか迷う。迷って、右に跳んだ。

ガリューは爪を下げて、地面を削りながら僕の腹に向かって腕を打ち上げていた。

地面に一筋の線が刻まれ、腕を上げた瞬間に爆発が起こり、破片が舞い散る。



避けた僕を狙って、ガリューが身を捻る。捻って突き出すのは、左手。

後ろにかなり大きく跳んでいたはずなのに、僕は一瞬で距離を詰められていた。

慌てて左に跳ぶ。ガリューの爪は、そのまま僕の居た空間を、貫いていた。



空気が震え、それだけで一つの衝撃が生まれる。僕はそれに吹き飛ばされて、地面を転がる。

いや、転がろうとして、伸ばされた触手に足を掴まれた。そのまま、僕は振り回される。

振り回されて、ビルの壁に叩きつけられようとした。ストラーダの切っ先を前に出して、直撃は避ける。



避けるけど・・・・・・ただ、壁が砕けただけ。僕はビルの中に突入した。すぐにまた、外に引っ張り出される。

前には、ガリューの姿。ガリューは、左手の爪を僕に突き出していた。

ストラーダを振るって、僕は触手を斬る。そうして、重力に任せて自然落下。



落ち始めた瞬間、頭上をガリューの砲撃が掠めた。

それは僕が開けた穴の向かい側の壁まで届き、吹き飛ばす。

その音が響く中、ガリューは僕に向かって突っ込んでいた。



右の爪を突き出して来るので、僕はストラーダのサイドブースターを点火。

柄尻のブースターで空中で一旦停止。そして、穂先の右側のブースターで回転。

回転速度を充分に上げてから・・・・・・メインブースターを点火。



勢いに任せて、僕はガリューに突っ込む。爪とストラーダの切っ先が正面衝突する。

次の瞬間、爆発が起きた。それに吹き飛ばされるようにして、僕は地面に落下。

痛みに顔をしかめる暇もなく、転がるようにして右に回避。



ガリューの両足での蹴りが、放たれていた。当然のように、僕の居た場所にクーレターが出来る。

その間に立ち上がりながら、数度後ろに跳んで、距離を取った。僕達は・・・・・・また対峙する。

荒く息を吐き、また恐怖が頭をもたげてくる。ストラーダを持つ手が、震える。



・・・・・・やっぱり、怖い。死ぬかも知れないと思うと、怖い。





「ガリュー、本当にそれでいいの?」





罪を数えて、自分のバカさ加減と向き合って、自業自得だけど戦えなくなった。

怖くて・・・・・・逃げたくて。それは今も変わらない。だから、本気で考えてる。

逃げてしまいたいと。例え誰が・・・・・・フェイトさん達がどうなろうと、逃げてしまえと。



こんなの勝てない。僕には無理だと、心の奥で何かが言い続ける。

だからなのかな。ストラーダを握り締める手が、より力強くなる。

自分のバカさ加減が分かって、まだまだ変わっていけてない自分を見て、力が出てくる。



おかしいかも知れないけど、嬉しくなる。・・・・・・僕は、ここに居るから。

怖いと思う感情も、フェイトさんさえ見捨てろと思う弱い部分も、全部僕だから。

僕は、今まで自分が思ったよりちゃんとした人間なんかじゃない。



局やフェイトさん、なのはさん達に依存して生きてた。生きようとしてた。

生まれを、境遇を理由に・・・・・・諦めようとしてた事がある。

それが何か、まだ見えない。まだ、僕にはよく分からない。



あるというのは分かるけど、ただそれだけ。それだけだから、知りたい。

僕の中から生まれてくる、色々な感情を・・・・・・可能性を、知りたい。

そうだ、これも僕なんだ。僕はここに居る。僕から続く可能性は、確かにある。



エリオ・モンディアルじゃなかったとしても、それは事実。



だから、受け入れられる。恐怖も、弱さも、みっともなさも・・・・・・全部だ。





「ガリューは、あの子を守る召喚獣だよね? だから、ここまで来た。
恭文さんと戦って、隊舎を襲撃して、僕と戦って」



ガリューは何も答えない。答えずに左手を振りかぶる。

身を伏せて、瞬間的に突っ込んで、僕を叩き潰そうとしてる。



「それが間違ってるなんて、僕は言うつもりはない。それなら、僕はもっと罪が重いから」



ストラーダを、しっかりと両手で構える。荒い呼吸を整えながら、僕は意識を集中させる。



「でも、それなら・・・・・・それなら、最後までそれを通せっ! 今、君があの子を守れてるとは、僕には思えないっ!!」



そう言って、僕は自分で笑ってしまう。僕にはこんな事言う権利、ないのに。

無いから、もう何も言わない。言葉の代わりに、僕達は前に踏み込んだ。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



ガリューは、左手を突き出す。突き出して、また手の平の砲口に力が宿る。宿って・・・・・・奔流が放たれた。

僕は逃げずに、ストラーダのカートリッジを3発ロード。飛び上がりながら、ストラーダのメインブースターに火を点ける。



「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」





ストラーダに、雷光がまた宿る。ブースターを全開にして、そのまま奔流に突っ込む。

紫色の砲撃を切り裂きながら、ストラーダと一緒に突っ込む。

その余波が、髪やジャケット、腕を斬り裂く。左の額から、血が流れ落ちたりもする。



それでも止まらない。向こうの砲撃とせめぎ合いながらも、僕は突き進む。

ブースターの出力を限界まで上げる。まるで火柱のようにストラーダのメインブースターが火を吹く。

奔流を斬り裂きながら僕は・・・・・・直進した。砲撃の勢いに、打ち勝った。



一瞬でガリューとの距離は縮まる。縮まって、僕はストラーダの切っ先を砲口に突き入れた。

砲撃のエネルギーは、ストラーダによって栓をされる形で左腕の中に逆流して溢れる。

金属製の左腕が膨張した。そうかと思うと、僕達の至近距離で爆発した。



生まれたのは、炎と煙と衝撃。それが僕とガリューを飲み込む。

その爆発をマトモに食らって、僕は吹き飛ばされてストラーダを手放す。

ストラーダは右へと飛んで地面をからからと転がる。僕は何とか着地。



着地して、目を見開いた。その爆発の中をガリューが突っ切って来たから。

身体中は血だらけで、裂傷が幾つもある。爆発の炎で、一部焼けてたりもする。

左腕は途中から当然のように吹き飛んでいて、それでもガリューは止まらなかった。



僕の腹に向かって、涙を流しながら右の爪をアッパーするように打ち込んだ。





「・・・・・・紫電」





右拳を強く握り締める。握り締めながら、僅かに身を左に捻る。

もっと動きたかったけど、身体が反応してくれなかった。ガリューの爪が脇腹を少しだけ抉る。

痛みを気にせずに、僕は上に跳ぶ。・・・・・・拳に雷撃が宿った。



ありったけの力で僕はガリューの顔面に向かって、拳を叩き込んだ。





「一閃っ!!」





叩き込んだのは、ベルカ式の基本とも言える魔力付与による武器の威力強化。

それを拳で行なった。ガリューは・・・・・・拳を振り抜くと吹き飛んだ。

地面を滑るように数メートル転がって、ようやく止まってくれた。



かく言う僕は、着地の体勢を取れなくてそのまま身体を地面に叩きつけられた。

ただ、そんな高高度からとかではない。なので、ちょっと痛いだけ。そのちょっとでさえ今は辛いけど。

もうガリューは立ち上がらない。身を震わせてはいるから、生きては・・・・・・いる、はず。



というか、僕が立ち上がれない。・・・・・・あはは、結構血、出てるな。





「スト、ラーダ」

≪はい≫



倒れながらも、僕は視線を向ける。僕と同じように、地面に落ちている相棒を。



「僕、仕事・・・・・・通せた、かな」

≪いえ、まだです。まだ、無事に帰還するという行程が残っています≫

「あははは、厳しいなぁ」



だから、右手を地面に当てて立ち上がようとする。・・・・・・ジャケットはもうボロボロ。

上から羽織ってるコートは完全に吹き飛んでるし、下のインナーも穴だらけ。



「でも、そうだね。ちゃんと、しなくちゃ」



それでも身体を動かす。・・・・・・予想以上に爆発のダメージが大きい。

魔力攻撃だったから、魔力も一緒に持ってかれちゃってる? あぁ、だからこんなに力が出ないんだ。



「帰って、フェイトさんに、キャロに、スバルさんにティアさんに・・・・・・なのはさんに副隊長達に・・・・・・それに、恭文さんとシオンに他のみんなに」



必死に右足の底を地面につける。そこから無理矢理に身体を起こす。

起こして、ようやく立てた。左手で脇腹を押さえながら、僕は・・・・・・一歩、踏み出す。



「ただいまって、言わなくちゃ・・・・・・いけない、よね」










踏み出したのは右足。その一歩は確かに踏みしめる事が出来た。





だけど、左足を動かそうとした瞬間、足がもつれて僕は前のめりに倒れる。





倒れてすぐに、僕は・・・・・・意識を、手放した。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・これで、よしっと」



ピンク髪に毎度お馴染みの処置をする。つまり、両手両足の筋を斬る。で、それが終わったところ。



「ヤスフミ、さすがにやり過ぎじゃ」

「いいのよ。てーかこれくらいしないと、なにしてくるか分かんないって」

≪そうですね。あのヘタレドクターが約束を守るとは、思えませんし≫

「・・・・・・心外だな。私は、こうして来たというのに」



僕達が元々目指していた方向の通路から、そう声がかかった。

そこには、白衣を着た青い髪と金色の瞳をした、ヘタレドクターが居た。



「・・・・・・ジェイル、スカリエッティ」

「約束通り、投降しに来」

«Sonic Move≫



瞬間、光が生まれた。それは、青い光。青い光が、あの男に迫る。



「「え?」」



何故か、フェイトとヘタレドクターの声がハモったのは、気のせいだ。

というわけで、いってみよう。そう、アレだ。



「飛天御剣流」





・・・・・・唐竹袈裟左薙左切上逆風右切上右薙逆袈裟刺突っ!!





「九頭龍閃もどきっ!!」





放たれるのは、回避・防御不可能な同時斬撃。

スカリエッティは、何故か怯えた表情で右手をかざす。

かざして、僕の周りに赤い糸が生まれて、縛り上げようとする。



でも、無意味。だって・・・・・・前から来る糸、全部斬ってるんだもの。





「・・・・・・はーい、抵抗したね? 公務執行妨害の現行犯逮捕だよ」

「その前に君の突然の攻撃があったと思うのは、気のせいかっ!?」

「気のせいだよ。というか、アレだよアレ。正当防衛だから」

「そんなわけがあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





あるのよ。おのれのせいで・・・・・・僕は、フェイトとイチャイチャ出来ないんだよ?

おのれのせいで、ちゅーも出来てないんだよ? バストタッチも怖いのよ?

電王のDVDも、こっちに持って来てたデンバードもお釈迦になってたのよ?



ほら、正当防衛成立だよ。何故にぶん殴らない理由があるのか。





「あいにく、管理局ってこういう人間ばかりなんだ。はい、疑問は解決したね?」

「するわけがあるかっ! ま、待て待てっ!! 普通に私は『投降する』と言っただろうっ!?」

「・・・・・・飛天御剣流」

「話を聞けっ!!」



そして、また赤い縄が出てきた。当然のように、僕を縛り上げようと・・・・・・邪魔っ!!



「うおりゃっ!!」



身体を回転させ、迫り来る縄を斬り払う。縄は、全て赤い粒子に戻り霧散した。

なお、魔力は一切使ってない。てーか、この程度使うまでもないでしょ。



「・・・・・・驚いた。私の縄を、魔力も無しで斬り裂くとは。二度続くということは、偶然ではあるまい。
・・・・・・って、待て待て私っ! そこは今はいいっ!! これではまた」

「これはあれかな? 傷害罪・・・・・・いや、殺人未遂だね。
うん、攻撃された本人が言うんだから、間違いないわ」

「あぁ、やっぱり罪状が成立したっ!? ま、待てっ!!」



どうやら、スカリエッティは知らないらしい。待てと言われて、待つ奴など居ないということを。



「・・・・・・飛天御剣流っ!!」





・・・・・・唐竹袈裟左薙左切上逆風右切上右薙逆袈裟刺突っ!!





「ひでぶっ!?」

≪九頭龍閃、もどきです≫





グダグダとくっちゃべっている間に、距離を詰めて、ぶち込んでやった。

なお、全部峰打ち。スカリエッティは、見事に宙を飛ぶ。

口から血なんておしゃれに吐き出しつつ、僕の後方の床に身体を叩きつけられた。



・・・・・・ふ、決まった。





「き、決まったじゃないと思うんだけどっ!? というか、普通に攻撃はダメだってっ!!」

「だって、なんか隠し玉出すかも知れなかったしさ」

「それは、まぁ・・・・・・あの、うん。一応、分かってたよ?」



あ、分かってたんだ。そこはちょっとビックリかも。



「でも、だめ。もしかしたら、本当に投降しようとしたかも知れないでしょ?」

「なるほど、そして縛られると」

「縛られないよっ! さっきのだって、私の方にも来たけどちゃんと避けたしっ!!」

「来てたんかいっ! くそ、やっぱり何気に公務執行妨害してるしっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけで、気絶してる間に逮捕されましたが、気分は?」

「君のことが嫌いになりそうだ」

「奇遇だね、僕もお前の事が大嫌いなのよ。おのれのせいで、色々と被害を蒙ってるからさぁ。
ほらほら、悪の天才科学者だったら、僕の壊れた電王のDVDとデンバードを早く修理してよ」

「ぐ、ぐるひい。やべど、やべどぅんだ」

「ヤスフミ、だめだよっ! 拘束した犯人を足蹴にしちゃっ!!」



とりあえず後ろ手に縛って足も縛って、筋も斬って動けないようにした。

その上から、僕とフェイトでバインドをかけまくっている。これで逃げたら、それは奇跡だ。



≪しかし、本当に投降しようとしてたとは・・・・・・これはまた、予想外ですね。
何か、余計な手出しをしてくると思ったのですが。さっきの縄とかで色々≫

「それでは意味が無い。言ったはずだ、私は答えを出したいだけだとな」



・・・・・・とりあえず、僕はガッシャーを両手でしっかり持つ。持って、振りかぶる。



「だから、攻撃行動はやめたまえっ! なぜそうなるのだっ!!」

「お前がとんでもな犯罪者だからだけど、何か反論あるっ!?
・・・・・・つーか、いちいち人様を頼りやがって。答えくらい、自分で見つけ出せ」

「・・・・・・それが出来ない人間も居るのさ。君達のように強い人間には、分からないかも知れないがな」



言いながら、自嘲気味な笑いを浮かべながら、世紀の天才科学者は普通に僕達の目を見てくる。



「そしてそれは私だけの話ではない。娘達も同じだ。これは娘達にとっても必要な儀式だ」



なお、武装は右手に装着していた趣味の悪いグローブ以外は特にしてなかった。

・・・・・・自爆する様子もないのは、非常に安心だ。



「娘達は・・・・・・私の最高傑作は、私の人形だ。だがそれでは私が触れた新しい可能性は生み出せない」

「だからこそ、今までの自分を否定される必要があった。あなたの人形としての自分を、誰かに壊して欲しかった。
今までが正しいと証明されては意味がない。それでは、あなたの言う『新しい可能性』にはたどり着けないから」

「正解だ、フェイト・テスタロッサ」

「・・・・・・だけどその儀式のためにミッドは今、とても混乱している。
たくさんの人達が泣いている。それでも、そう言えるというの?」



フェイトがそう聞くのも、無理はない。てーか、これは普通にDQNだって。迷惑もいいとこだって。

アダルトチルドレンって問題になってるらしいけど、それでもこれはありえないでしょ。



「言えるね」



その言葉にフェイトが表情を険しくする。だけどすぐに元のそれに戻った。

ちゃんと冷静になってる。スカリエッティが目の前だけど、いつものフェイトだ。うん、これでいい。



「先ほど言ったはずだ。それを自分で成せない人間も居ると。なにより・・・・・・あぁ、そうだ。
私自身が、徹底的に否定されたかったのかも知れない。今までの私が、実につまらない人間だと」

「・・・・・・なぜ?」

「そうすれば、『無限の欲望』という看板に泥を塗り続けていた自分を、何の未練もなく否定出来るからだ」



その言葉に、僕とフェイトは・・・・・・何も言えなかった。つーか、このぶっ飛んだ方に何を言えと?



「本気、みたいだね」

「あぁ。私はもう、『タマナシ』の自分にはなりたくない。だから、投降しようとした。
それが、私の『欲望』の求めるものだ。・・・・・・君のパートナーに、邪魔されたがな」



恨めしそうに僕を見るのは無限の欲望。でも、言われても困る。



「ねぇ、お前・・・・・・因果応報って知ってる? 自分だけいきなりそんな改心しようだなんて、無理に決まってんでしょ」



ため息を吐きながら、僕はスカリエッティを見下ろす。見下ろしながら、言葉を続ける。



「あぁ、そうだな。私はもう・・・・・・戻れないところに居るのかも知れんな」

「そうだね。たださ、それを決めるのは残念ながら、僕達じゃないのよ」

「・・・・・・なんだと?」



後ろのシオンとヒカリが、クスクスと笑っている。

というか、フェイトまで『素直じゃないんだから』という顔で、微笑んでる。・・・・・・ふん。



「お前が『変わりたい』って本気で思えば、現状からでも変われるんじゃないの?
こんなやり方じゃなければ、手を貸してくれる人間だって、きっと居る」

≪まぁ、ごく少数でしょうけどね≫

「だから、全部お前次第だ。僕達にも、お前の『人形』達にも決められない。お前が、全部決めるの」



残念ながら、僕はコイツを全部否定は・・・・・・出来ないわ。なんかさ、感じちゃったの。

僕やフェイト、みんなが持っている『変わりたい』って気持ちを、さっきの言葉からさ。



「・・・・・・先程全力で叩きのめした人間の台詞とは、思えんな」

「僕、過去は振り返らない主義なの。そう、見ているのは何時だって今と未来だけ」

「そうか。だが、それは厚顔無恥と言うんだぞ? 覚えておくといい。
・・・・・・私も、覚えておくことにしよう。私は、ここから変われるとな」

「・・・・・・そっか」





こうして、新暦75年の9月21日の月曜日。とても天気がよくて、ゆりかごなんて空に飛んでいる日。

第一級捜索指定の広域次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティは、捕縛された。

なお後日。僕は喜び勇んで、スカリエッティにかけられた懸賞金を受け取った。



なお、捕まえたのが正式な局員であるフェイトだった事を理由に、払い渋りがあったりした。

この辺りには、まだ理由がある。スカリエッティに賭けられた懸賞金は、普通に超高額。

なお、フォン・レイメイより上。だからこそ、これであったが、ここもなんとか解決した。



ようするに、ありったけで『誠意ある交渉』をした。そのおかげで、僕の通帳はとっても嬉しいことになった。



そして、それを理由に知り合い連中を全員巻き込んだ大宴会の費用を払わされることになるけど、それはまた別の話である。





「さて、これで僕は億万長者だね」

「ヤスフミ、いきなりどうしたのっ!?」

「だって、スカリエッティの賞金もらえるもの。今度は、普通に受け取っていいと思うし」

「・・・・・・あ、なるほど。じゃあ、ヤスフミは本当にお金持ちになっちゃうんだね。
でも、無駄遣いはだめだよ? 将来のために、しっかり貯金しておかないと」



なるほど、確かに貯金は大事だ。あの額なら色々と高い買い物も出来るけど、貯金だって立派な使い道の一つだよ。

貯金して、例えば・・・・・・結婚資金とか、奥さんの出産費用に当てるとか、色々あるもの。うん、そうしようっと。



「なら、とりあえずは貯金する。貯金して、将来のために取っておくよ」

「うん、そうした方がいいと私も思うな」



僕達の中で、非常に話は上手く纏まった。だけど、それに不満を表した奴が居る。



「待て待てっ! 君達は逮捕した本人を前にいきなり賞金の使い道の話をするのかっ!?」



それは、ジェイル・スカリエッティ。



「無限の欲望改め、僕の貯金の源である」

「誰が貯金の源だっ! あと、今の行動は色々と間違っているだろっ!!
特にフェイト・テスタロッサっ!! 君は執務官として、それでいいのかっ!?」

≪大丈夫ですよ、あなたの今までのあれこれに比べれば、遥かに良識的な行動でしょ≫

「・・・・・・ごめんなさい」



なんかすっごい素直に謝ったっ!? てーか、弱すぎでしょ広域次元犯罪者っ!!



「いや、なんか・・・・・・女性ボイスできつめに言われると、娘達の罵倒を思い出して、ついこうなってしまって」

「やっぱヘタレだ」

≪全く否定出来ませんね≫

「・・・・・・で、はた迷惑なヘタレドクター」



とりあえずこのドクター曰く、自分の前で賞金の使い道の話をするのはだめらしいのでやめた。

でもさ、なんで息をぜーぜーさせながら話すのだろうか。もしかして、年齢的な問題?



「あぁ、どうしてこうなんだっ!? どうして私の周りには外も内もこんなわけの分からないのしか居ないんだっ!!」

「おのれが言うなっ!!」

「あなたが言う権利ないよっ!!」



一番訳分かんないのはおのれだろうがっ! コイツ、マジでヘタレもいいとこだしっ!!



「普通にあっちこっちで暴れている、アンタの娘達が居るよね?」



それだけで、スカリエッティは普通に息を整えようとする。

僕が言いたい事、ちゃんと分かってくれたらしい。



「そっちにも投降勧告なりをしてもらえると、ありがたいんだけど。・・・・・・もう、負けは認めてるんでしょ?」

「あぁ。もちろんそのつもりだ。ゆりかごに関しても、君達に処分してもらうつもりで、浮上させた」


・・・・・・へ? いやいや、ちょっと待て。なんか話がおかしいぞ。

まぁここはいいか。まずは、ちゃんと話を聞きましょ。



「本局の次元航行艦隊が武装した状態で、こちらに向かっているのだろう?」

「・・・・・・本気でフルチャージ攻撃、打ち込んでやろうか? 零距離で、口に向かってさ。
てーか、普通にお前の行動はムカつく。局はともかく、僕とフェイトをパシリにしやがって」

「そ、それはやめてもらえると助かる。なにより、こうでもしなければ、ゆりかごはきっと処分されない」



スカリエッティが若干引き気味に言ってきて、僕とフェイトは顔を見合わせる。そして、気づいた。



≪ヘタレドクター、あなたがそう思う原因は、管理局の最高指導者である、最高評議会ですね?≫

「そうだ。そして、ヘタレドクターと言うのはやめてくれ。・・・・・・だが、君達はもう知っていたのか」

「うちの兄弟子が、派手に暴れてくれたおかげでね。お前の出自のこととかも、色々聞いた」



そして、スカリエッティが驚いたように僕を見る。僕の目をジッと見つめる。



「それで、さっきのアレなのか?」

「うん」

「なぜだ」

「なぜって・・・・・・だって、『変わりたい』って気持ちに生まれや育ちなんて、基本的には関係ないでしょ」



あっさり言い切ると、スカリエッティは『そうか』と納得したように呟いた。僕は、どうしてそうなるのかがよく分からない。



「・・・・・・でも、納得した。普通に無傷でゆりかごを明け渡しても、最高評議会と局が結局利用しちゃうと」



もしくは、それ以外の人間がだよ。・・・・・・強い力ってのは、いい意味でも悪い意味でも、人を引き付けるのよ。

で、大抵は悪い意味の方だね。普通にあのバカ性能を利用しようとする奴は、出てくるでしょ。火を見るより明らかだよ。



「そういうことだ。私の元スポンサーは、ゆりかごに秘められていた生命操作技術に、いたく関心があるのでな」

「じゃあスカリエッティ、あなたまさか」

「今回の事を起こした理由の一つは、ロストロギア・聖王のゆりかごの完全破壊だ」



フェイトが、驚いたように口を開く。そして、スカリエッティがまた笑う。また、自嘲するように、笑う。



「色々考えたが、こうでもしなければ完全な破壊は無理だと判断した。
なお、私達の戦力でも不可能だった。さすがに、アレは無茶過ぎる」



そして視線が下がる。自嘲した笑みのまま、ヘタレドクターは俯いた。



「だが、君達には絶対に勘違いして欲しくないことがある。決して世界や局のためではない。
私がこれを望んだのは、あくまでも私を利用し続けた最高評議会への復讐のためだ」



・・・・・・あぁ、僕なんか分かってきた。コイツのここに来ての行動の数々の理由。

もしかしてコイツ、一番の目的はここだったんじゃなかろうか。



「彼らの宝を、私の手で派手にぶち壊してやりたかった。
そのためにも、君達や局を、娘達を利用した。そして」

「局を潰そうとしたのも、『すばらしい世界』のためなんかじゃない」



僕が引き継いだようにそう口にすると、スカリエッティが驚いたように目を見開く。



「本当は、自分を戒めるうっとおしい鎖を壊したかったから。
最高評議会が心底大事にしている管理局を壊して、嫌がらせをしたかったから」

「全部は、復讐。そのために、あなたはここまでやった」

「・・・・・・そうだ。最も、私がそれに気づいたのは本当に最近のことだが」





だからこそ、ゆりかごを浮上させた。そうしなければ、派手にぶち壊せなかったから。

浮上させて派手にやれば、もう最高評議会だろうと隠しようがないし、潰すしか選択肢がなくなると。

ゆりかごを潰すのは、連中にとって最大の嫌がらせになるのは明白ってことか。



もしかしたら局は、潰せれば潰すという感じなのかも。





≪あなた、色々考えていたんですね。ヘタレで傲慢な三流ドクターなのに≫

「・・・・・・ご、ごめんなさい」



なんかすっごい素直に謝ったっ!? てーか、やっぱコイツはヘタレかいっ!!



「いや、その言われようは、娘達を思い出してしまって。特に次女のドゥーエなんだ。
ドゥーエはな、凄まじく怖いんだ。そして平然とした顔で、こう口にするんだ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『いい、あなた達。ドクターは夢を育ててるわ。でも、ただそれに従うだけではだめ。私達は、ドクターを育てるの。
これに創造主どうこうは関係ない。女は頼りない男を育てるのが仕事。だから徹底的に厳しく、叩いて育てなさい』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪・・・・・・それは一体どこのマイメロママですか。
というか、犯罪者の言うことじゃないでしょ。色々おかしいですって、あなた達≫

「つまり、おのれも現在居場所が分からない次女の方が上の妹を、そんな風にしっかりしつけた」

「それで上の妹がそれだから、下の妹達も見習って・・・・・・結果的に、揺ぎ無い上下関係が出来たと」

「基本的に私の指令などはちゃんとしてくれるんだが、ミッション以外だと・・・・・・そんな感じだ」



とりあえず僕はヘタレドクターの左肩に、ポンと手を当ててあげた。



「分かった、もうそれ以上言わなくていいから。もういいから」





そうだよね、分かる。分かるよ。てーか、それならこれは仕方ないって。

そんなリアルマイメロママみたいなことを言うのが居たら、自然と男の立場は弱くなるって。

でもさ、こんなんだからこんな話がややこしくなってるんじゃないの? 厳しさを間違えてるって。



もっと言うと、絶対育て方違うって。そしてリアルマイメロママは、何を意図してこれ?





「・・・・・・今の私が興味があるのは、ただ一つだ」





突然そう言ったスカリエッティの瞳に、力が戻る。

それに思わず、僕達は身体が震えた。

その瞳は・・・・・・生きる力に満ち溢れていたから。



青髪やピンク髪、2Pカラーや赤髪アップとはぜんぜん違う、強い力を持った瞳だ。





「どうすれば、私・・・・・いや、私達は『すばらしい世界』などという刷り込まれた幻想を壊せるか。
どうすれば、私達はそれを可能とする存在に変われるのか。それだけだ」

「・・・・・・そう」





それ以上、フェイトは何も言わなかった。というか、僕を見てかなり困った感じで、聞いてくる。

『これ、どうしようか』と。ある意味、最大級の開き直りではあるんだけど・・・・・・なんだかなぁ。

犯罪者どうこう、人を殺したどうこうで言うのも、違うしなぁ。それ言われれば、僕やフェイトなんてアウトだし。



とりあえず、お手上げポーズで返した。『いいんじゃないの?』と、軽めに。

・・・・・・一応、目的の『無限の欲望』は、お亡くなりになったも同然みたいだしさ。

ここに居るのは、ジェイル・スカリエッティ。凶悪犯罪者で・・・・・・だけど、人間。



少しだけ大人になった、ヘタレな40過ぎのおっちゃん。それで、きっといいのよ。



というか、これ以上なにも言いたくない。きっと、リアルマイメロママが全て言ってくれるだろう。





「とにかく、早速娘達へ」

『それはもう無意味よ。だってみんな、倒されちゃったんですもの』



その声は、今この空間に居る誰でもない声。その声に、思わず身構える。



『みっともなく横たわってる妹達、それにルーテシアお嬢様。今の話、聞いたぁ?
ドクターは私達を裏切っていたわ。そう、これは裏切りなのよ』



言ってる事や口調は、被害者ぶった感じ。でも、分かる。

コイツは本気でそんな風には思ってない。僕達の事、見下してる。



『私達の夢を、『すばらしい世界』を、私達に何の相談もなく勝手に捨てていた』





驚きを隠せないのは僕とフェイトだけじゃなくて、スカリエッティも。で、僕達は上を見た。

その瞬間、異変は立て続けに起きる。まず、周辺のAMF濃度が一気に上がった。

というか、また魔力の完全キャンセル化状態にされる。そのせいで、僕とフェイトのバインドも消滅。



それだけじゃない。スカリエッティが来た通路と、ガジェットV型によって塞がれた行きの道の両方に、障壁が生まれる。

緑の蛍光色の格子が展開されて、それを覆うように前面と後面に透明な同じ色のバリア。

それだけじゃなくて、地響きかなにかのようにアジト全体が揺れ出した。それに思わず、フェイト共々たたらを踏む。



そしてそれを知ってか知らずか、遥か上に展開された空間モニターに映る女は笑う。



本当に楽しげに笑って、僕達を見下す。





『・・・・・・ドクター、あなたには失望したわ。それはきっと虚しく散った他の姉妹達も同じ。
無限の欲望の名を冠しながら、こんな屑どもの世界に迎合しようとするなんて』










・・・・・・楽には終われないわけですか。あんまりにあっさり終わって、嫌な予感はしてた。

そして、それは的中した。どうやら、ここからが本番らしい。

ゆりかご、軌道ポイント到達まで・・・・・・あと、1時間と47分。





僕とフェイト、ヒカリとシオンの現状を言うと、揺れまくっているアジトの中に、ヘタレドクター共々閉じ込められてしまった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ええい、もうやってられるかっ! てーかこれ、どこの(キンキンキン♪)っ!? 何回ループすりゃあ気が済むんだよっ!!」

≪姉御、いきなり何の話してんだっ!? ちょっと落ち着けよっ!!≫

「これが落ち着いていられるかっつーのっ! 何話か前にも言ったけど、普通に私らだけRemixされてないんだよっ!? 納得出来るかー!!」



走りながら、私は叫ぶ。あ、どうも。ヒロリス・クロスフォードです。

あー、なんかアジトが揺れたりしてるけど、そこはいい。問題は、別にあるんだから。



「こうなったら、もう誰も頼らないっ! 私の手でRemixしてやるっ!!」



全速力で戦闘訓練用のスペースを目指しつつ、私はキレた。



「普通にRemixしまくって、リリカルなのはの全てを改変してやるっ! もっと言うと、『魔法少女リリカルヒロリスStrikerS』にしてやるっ!!」

≪出来ねぇよっ! 姉御、魔法少女って年齢じゃないだろっ!? 最近は17でもギリギリなんだよっ!!≫

「うっさいっ! 私に不可能なんてないんだよっ!! ダメだって思ったら、そこで試合終了なんだよっ! やっさんはフェイトちゃんと何か甘ったるかったんだよっ!!」

≪あー、そうだったなっ! 普通に甘ったるかったよなっ!! でも、そういうことじゃないだろっ!? 絶対話逸れてるしっ!!≫



そう、普段はとても温厚な私だけど、キレた。普通にキレた。というか、もう耐えられない。



「まずは・・・・・・コイツらぶっ潰して、ゆりかごに直行だっ! で、あの船私で墜として、ヒッロヒロにしてやんぞっ!!」

≪姐御がなんか果てない夢見てるっ!? あの、フォワード陣とかルーテシアはいいのかよっ!!
というか、その妙にパクリっぽい発言はやめてくれー!!≫

「もういいんだよっ! 大丈夫、一生プータローになったとしても、食えるくらいの蓄えはあるっ!!
さらば電王の前に、私の怒りがクライマックスなんだよっ! リアルなんてどうでもいいわっ! 私の現実はネットにあるっ!!」



なお、実家の金じゃない。全部、コツコツ働きながら貯めていた、私の金だって言うのは知っておいてね?



「つーわけで、全員協力しなっ! 主に、私のRemixのためにっ!!
てーか、協力しろっ! そうだ、私がとまとの主役になるために、馬車馬のように働けっ!!」

「クロスフォードさん、ムチャクチャ過ぎませんかっ!?」

「ギンガ陸曹の言う通りですっ! あなた、結局自分のことだけしか」

『分かった』



そう即答したのは、ドンブラ粉とボンテージ女。



『そっちの二人はオーケー!?』



当然でしょ。世界は何時だって、私を中心に回ってるのよ?



≪・・・・・・てゆうか、いいのかよ。普通にありえない発言しまくってるんだぞ?≫

「アンタ、失礼なこと言わないでくれる? 登場人物として、当然の要求でしょ」

≪普通に要求出来るのは、姉御だけだって。・・・・・・いや、マジでいいのか?≫



アメイジアの言葉に、二人は力強く頷いた。・・・・・・ほら、大丈夫じゃん。

やっぱりさ、ちゃんと中身の伴った想いって言うのは、通用するのよ。ね?



「もちろん、Remixや主役の話は抜きだけどね。てゆうか私、元々投降するところだったんだから、問題ないよ。・・・・・・どっかのシスターが邪魔しなければ」



一瞬、シャッハが視線を逸らして遠い所を見た。



「そうだ、活躍してやる。活躍してRemixしてやる。私だって、もっと目立ちたかったんだ。
普通にOPで戦闘シーンとかやりたかったんだっ! ここで・・・・・・絶対一花咲かせてやるっ!!」



シャッハとドンブラ粉の間に何が有ったかは、私には分からない。てーか、分かりたくない。



「セイン、アンタ良いこと言うじゃないの。ここはマジで敵味方無しってことでいいでしょ。
・・・・・・私だって、こんなとこで死ぬのはごめんよ。そうよ、マジで嫌なのよ」



そんなシャッハとドンブラ粉を尻目に、ボンテージ女も乗っかってきた。



「てーか、私の人生のRemixは、ここからなのよっ!? こうなったら、もう誰も当てにしないわっ!!
そうよ、私が・・・・・・私の手で、私の人生をRemixしてやろうじゃないのよっ!!」



なんかさり気に重い発言をするボンテージ女の瞳を見るけど、他意はないらしい。

なお、いつの間にか合言葉が『Remix』になっているのは、気のせいだ。



「うし、分かった。なら全員、マジで敵味方無しだよ?」



なお、自分にも言い聞かせてる。警戒は必要だけど、必要以上はアウト。

連携に支障が出るって言うのもあるし、なによりそういうのは嫌い。



「・・・・・・いい、私らは運命共同体だ。理由はどうあれ、この状況を変えたいと思ってる。
だから、手を取り合う事を躊躇うな。繋がり、同じものを見る事を恐れるな」



全力で走りながら、私は四人を見る。瞳は、同じ色。即ち・・・・・・反逆の色。

今という状況に抵抗する意志により、私達は一つになっていく。



「色々な事は、全部これを片付けてから。いいね?」



で、四人はまた頷く。・・・・・・良い感覚だね。この調子なら、行けるか?



「でさ、ボンテージ女」

「・・・・・・え、私っ!?」



そう、ボンテージ女。ちょっち気になったので、一応聞いておく。



「正直さ、ボンテージ女ってのも、呼びにくいのよ。名前、聞かせて」

「名前」

「そう、アンタの名前だよ」

「・・・・・・ない」



走りながら、出てきた返事に私は驚いた。というか、ギンガとシャッハもだね。

で、ドンブラ粉も見る。ドンブラ粉は、困ったような顔で頷いた。



「名前なんて、ないわよ。お父様は、ずっと私を人形として扱ってたから。
人形に、名前なんていらない。名前なんて・・・・・・不要」

「そう。だったら、私が付けてあげるよ」

「え?」

「言ったでしょ? ボンテージ女なんて、呼びにくいのよ」





全く、知らなきゃよかった。こういうの、めんどくさいのに。

まぁ、いいか。このままってのも、なんか嫌だしさ。

で、少し考えた。声に今までの言動に髪型。



で、特に声が似てるので・・・・・・うし、これだ。





「アンタの名前は、シャナだよ。私はそう呼ぶから。ま、今の間だけね」

「・・・・・・シャナ」

≪・・・・・・・・・・・・姐御、いくらなんでもそれはねぇって。もうちょっと考えてやれよ。
てーか、それはギリDQNネームだろうが。絶対後で泣かれるって≫



はい、お前うっさいっ! てーか、この状況でそんなゆっくり出来ないでしょっ!?

子どもが出来てから、生まれるまで十月十日かけて名前を考えるのとは、違うっつーのっ!!



「とにかく、全員行くよっ! あとちょっとで大暴れスペースだっ!!」

『おうっ!!』

≪いや、その前に名前を・・・・・・って、聞いてないし≫










さぁ、私らは私らでぶっ飛ばしてくよっ! 私らをRemix出来るのは、もう私らだけなんだっ!!





何が何でもハッピーエンドに突入して、私がこの話の主役になってやるっ!!




















(第37話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、ようやくヒロさんの地獄のループが終わったわけですよ」

あむ「ほんとようやくだよね。・・・・・・あ、本日のあとがきのお相手の日奈森あむと」

恭文「次回はついについにあの子があんな姿になっちゃうらしいと聞いて、ヘコみ気味の蒼凪恭文です」

あむ「なんでそこでヘコむっ!?」

恭文「だって、その・・・・・・ねぇ」





(蒼い古き鉄、今日はとってもダウナーである)





恭文「まぁ、ここはいいか。とにかく、今回の話だよ。・・・・・・エリオが、お亡くなりになったよ」

あむ「ごめん、全く否定出来ないよ。アレだけ見ると死ぬよね?」

恭文「というか、何気にキャロもヴォルテール召喚してから、状態が分かってなかったりする。
あぁ、それとエリオ本人は今回のシナリオ、凄く楽しんでいました。『影が濃くなる』から」

あむ「・・・・・・エリオ君、そこまで?」

恭文「なお、本人の要望としてはこのまま死亡でもオーケーらしい。もうRemixでは悔い無いって」

あむ「それはマジやめないっ!? フェイトさん泣くからっ!!」





(どうなるかは、次回以後をお楽しみに)





あむ「とりあえず、エリオ君の今後はもう気にしないことにしようか」

恭文「そうだね。してたら、僕達はまたフェイトとかと徹底協議しなきゃいけなくなるし」

あむ「あぁ、エリオ君の色んな意味で暴走してる頑張り方についてね」

恭文「もう本人は、死んでもオーケーみたいなノリだからなぁ。
・・・・・・で、やっと大ボスが出てきましたよ。色んな意味で遅過ぎだけど」

あむ「ただ、前回のあとがきとかでも話したけど、ゆりかごを何とか出来なきゃこっちの負けなんだよね」

恭文「で、上がる前にこっちの主力艦隊が到着とかならともかく、向こうの方が早い。
アレだよね、こんだけ大暴れして、未だに状況が不利ってのが凄いよね」

あむ「重要ポイントであるゆりかごに乗り込んでるの、主力だとなのはさんとヴィータさんだけだから、そういうのもあるんだよ」

恭文「スバル達もフェイトやシグナムさんにリインも、みんな地上だったしなぁ。
もちろん、地上の事も何とかしなきゃいけなかったから、仕方ないんだけど」

あむ「で、これからどうなるの?」

恭文「それはもちろん、次回からだよ。時間がようやく進んだしね」





(だからこそ、最強の姉弟子もとっても嬉しそう)





恭文「というわけで、状態不明なエリオとキャロはほっぽって、次回は僕が大暴れ・・・・・・の、はず」

あむ「なんでそんな自身なさげっ!? とにかく、今日はここまでっ!!
お相手は日奈森あむと」

恭文「結局、あむはいつミッドに降り立ってキラキラのラブマジックを使うのかと、かなり期待しまくっている蒼凪恭文でした」

あむ「だから、なんでまたあたしっ!? てゆうか、この段階だとラン達生まれてないからっ!!」

恭文「あむ、世の中にはデンライナーって言う便利なものがあってね?」

あむ「あたしはチケット無いんですけどっ!? てゆうか、普通に日常的にデンライナー乗れるみたいに言うなー!!」










(それでも、蒼い古き鉄は期待しまくっている。どうやら、キラキラのラブマジックがお気に入りらしい。
本日のED:ラン・ミキ・スゥ・ダイヤ(CV:阿澄佳奈、加藤奈々絵、豊崎愛生、伊藤かな恵)『たまご戦士しゅごボンバー』)










恭文「ボンジャー!!」

フェイト「ヤスフミ、お願いだから現実逃避しないでっ!? 確かに状況悪過ぎるけどっ!!
というか、アジトが揺れ出すし魔法は使えなくなるし閉じ込められるし、何これっ!?」

スカさん「一応言っておくが、私は何も知らない。というか、何もしようがないだろ」

フェイト「た、確かに。あなたの秘書であるウーノも、私達で確保してるもの」

スカさん「それよりもこの揺れはまずい。下手をすれば・・・・・・ここは崩落する」

恭文「ねぇスカリエッティ、人柱って知ってる? せっかくだからここで世界の役に立って」

スカさん「君はさりげにエグい事を言うなっ! そしてこの場合だと、君も一緒に人柱だぞっ!?」

恭文「うん、知ってるけど何かっ!? でもね、僕だって現実から逃げたい時だってあるんだよボケっ!!
・・・・・・フェイト、この場合僕達の動き方は一つしかないよね」

フェイト「当然崩落の阻止だよ。多分自爆プログラムか何かが動いてるんだと思うし」

シャーリー『失礼しますっ! フェイト隊長、すみませんがなぎ君と一緒にすぐにゆりかごに向かってくださいっ!!』

フェイト「シャーリー、どうしたの? というか、こっちは動けないよ。スカリエッティのアジトが崩落しかけてて」

シャーリー『なのは隊長とヴィータ副隊長が、りかご内部に突入して・・・・・・一切の連絡が取れないんですっ!!』

恭文・フェイト「「はぁっ!?」」

シャーリー『シグナム副隊長とリイン曹長、それに廃棄都市部のフォワードもまだ動けません。
この状況でフリーになって満足に動けるのは、フェイト隊長達だけなんですっ! お願いしますっ!!』

フェイト「でも私達は閉じ込められてて・・・・・・ううん、手ならある。
ヤスフミ、ヤスフミはシオン達と脱出して。それも最短ルートで、全速力で」

恭文「フェイトっ!?」

フェイト「私はここでシャーリーやアコース査察官と一緒に、アジトの崩落を止める。
というか、ヤスフミなら出来るよね? この状況で使える切り札がこころの中にある」

恭文「・・・・・・え、マジ? マジでやらなきゃだめ?」

フェイト「お願い。これは、ヤスフミにしか・・・・・・ううん、ヤスフミとアルトアイゼンとシオンとヒカリにしかお願い出来ないことなんだ」

ヒカリ「フェイトの言うように最短ルートで突き抜けるなら、それしかないだろうな。
この調子では普通に他のルートも潰れてると見ていい」

シオン「それを強行突破するのですから、いちいち魔法攻撃もNG。
それでは脱出前にエンプティは確実です。お兄様、迷ってる余裕はありません。ご決断を」

恭文「いや、でも・・・・・・あぁ、どうすりゃいいのこれっ!? いくらなんでもありえないと思うんですけどっ!!」










(おしまい)




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あきゅろす。
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